IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7637076非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
<>
  • -非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250219BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250219BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021573987
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002188
(87)【国際公開番号】W WO2021153440
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2020014761
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】長田 かおる
(72)【発明者】
【氏名】前川 正憲
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-17378(JP,A)
【文献】特開2019-212400(JP,A)
【文献】特開2019-139889(JP,A)
【文献】特開2017-134996(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142929(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集して形成された二次粒子を有するリチウム金属複合酸化物を含み、前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部にWが存在する、非水電解質二次電池用正極活物質であって、
一般式LiαNiCoAlβ(式中、0.9≦α≦1.2、0.8≦a≦0.96、0<b≦0.10、0<c≦0.10、0≦d≦0.1、0.0003≦e/(a+b+c+d+e)≦0.002、1.9≦β≦2.1、a+b+c+d=1、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、
前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面に存在するWの割合が、前記リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部に存在するWの総量に対して、25%~45%である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量の電池向けに、Ni含有量が多いNi-Co系の正極活物質が広く使用されている。特許文献1には、Ni-Co系の正極活物質の一次粒子表面に、Li及びWを含む化合物を付着させることで、充放電サイクルに伴う正極抵抗の上昇を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/018099号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、Wを添加すると正極活物質の表面の反応活性が上がって電解液との反応性が高くなり、特にNi含有量が多いNi-Co系の正極活物質を使用した電池では、安全性が低下する場合がある。特許文献1は、電池の安全性については考慮しておらず、未だ改良の余地がある。
【0005】
そこで、本開示の目的は、サイクル特性及び安全性の向上に寄与する非水電解質二次電池用正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を有するリチウム金属複合酸化物を含み、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部にWが存在する。一般式LiαNiCoAlβ(式中、0.9≦α≦1.2、0.8≦a≦0.96、0<b≦0.10、0<c≦0.10、0≦d≦0.1、0.0003≦e/(a+b+c+d+e)≦0.002、1.9≦β≦2.1、a+b+c+d=1、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面に存在するWの割合が、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部に存在するWの総量に対して、25%~45%であることを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、サイクル特性及び安全性が向上した非水電解質二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型であってもよい。また、電池ケースは円筒形に限定されず、例えば角形、コイン形等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。
【0011】
図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池10の軸方向断面図である。図1に示す二次電池10は、電極体14及び非水電解質(図示せず)が外装体15に収容されている。電極体14は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の構造を有する。なお、以下では、説明の便宜上、封口体16側を「上」、外装体15の底部側を「下」として説明する。
【0012】
外装体15の開口端部が封口体16で塞がれることで、二次電池10の内部は、密閉される。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って上方に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20は絶縁板18の貫通孔を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。二次電池10では、外装体15が負極端子となる。なお、負極リード20が終端部に設置されている場合は、負極リード20は絶縁板18の外側を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。
【0013】
外装体15は、例えば有底の円筒形状の金属製外装缶である。外装体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、二次電池10の内部の密閉性が確保されている。外装体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する溝入部21を有する。溝入部21は、外装体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面でガスケット27を介して封口体16を支持する。
【0014】
封口体16は、電極体14側から順に積層された、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25とは各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、例えば、下弁体23が破断し、これにより上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部26aからガスが排出される。
【0015】
以下、二次電池10を構成する正極11、負極12、セパレータ13及び非水電解質について、特に正極11を構成する負極合材層に含まれる正極活物質について詳説する。
【0016】
[正極]
正極は、例えば、金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合材層とを有する。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極芯体上に塗布、乾燥して正極合材層を形成した後、この正極合材層を圧延することにより作製できる。
【0017】
正極合材層に含まれる導電材としては、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、黒鉛等のカーボン系粒子などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
正極合材層に含まれる結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
正極合材層に含まれる正極活物質は、一般式LiαNiCoAlβ(式中、0.9≦α≦1.2、0.8≦a≦0.96、0<b≦0.10、0<c≦0.10、0≦d≦0.1、0.0003≦e/(a+b+c+d+e)≦0.002、1.9≦β≦2.1、a+b+c+d=1、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される複合酸化物である。正極活物質中のLiを除く金属元素の総モル数に対するWのモル分率は、0.03モル%~0.2モル%であり、0.04モル%~0.1モル%が好ましい。ここで、正極活物質に含有される金属元素のモル分率は、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により測定される。
【0020】
正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子を有するリチウム金属複合酸化物を含み、当該リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部にWが存在する。ここで、Wが二次粒子の内部に存在するとは、Wが二次粒子を構成する一次粒子同士の間に存在することをいう。
【0021】
リチウム金属複合酸化物の二次粒子は、体積基準のメジアン径(D50)が、好ましくは3μm~30μm、より好ましくは5μm~25μm、特に好ましくは7μm~15μmの粒子である。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。リチウム金属複合酸化物の二次粒子の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0022】
二次粒子を構成する一次粒子の粒径は、例えば0.05μm~1μmである。一次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において外接円の直径として測定される。
【0023】
リチウム金属複合酸化物は、一般式LiαNiCoAlβ(式中、0.9≦α≦1.2、0.8≦a≦0.96、0<b≦0.10、0<c≦0.10、0≦d≦0.1、1.9≦β≦2.1、a+b+c+d=1、Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される複合酸化物とすることができる。Ni-Co-Al系のリチウム金属複合酸化物を用いることで、電池を高容量にしつつ、LiのサイトにNiが入り込むカチオンミキシングを抑制することができる。なお、正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、上記の一般式で表される以外のリチウム金属複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。リチウム金属複合酸化物に含有される金属元素のモル分率は、正極活物質と同様に、ICP-AESにより測定される。
【0024】
リチウム金属複合酸化物中のLiの割合を示すαは、0.9≦α≦1.2を満たすことが好ましく、0.95≦α≦1.05を満たすことがより好ましい。αが0.9未満の場合、αが上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。αが1.2超の場合、αが上記範囲を満たす場合と比較して、充放電サイクル特性の低下につながる場合がある。
【0025】
リチウム金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合を示すaは、0.8≦a≦0.96を満たすことが好ましく、0.88≦a≦0.92を満たすことがより好ましい。aを0.8以上とすることで、高容量の電池が得られる。また、aを0.96以下とすることで、Co、Al等の他の元素を含むことができるので、カチオンミキシングを抑制することができる。
【0026】
リチウム金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するCoの割合を示すbは、0<b≦0.10を満たすことが好ましく、0.04≦b≦0.06を満たすことがより好ましい。
【0027】
リチウム金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するAlの割合を示すcは、0<c≦0.10を満たすことが好ましく、0.04≦c≦0.06を満たすことがより好ましい。Alは、充放電中にも酸化数変化が生じないため、遷移金属層に含有されることで遷移金属層の構造が安定化すると考えられる。cが0.10超の場合、Al不純物が生成され電池容量が低下してしまう場合がある。
【0028】
M(Mは、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Zr、Mo及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)は、任意成分である。リチウム金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するMの割合を示すdは、0≦d≦0.1を満たすことが好ましい。
【0029】
リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面に存在するWの割合(以下、W表面存在率という)は、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び二次粒子の内部に存在するWの総量に対して、25%~45%である。W表面存在率をこの範囲にすることで、電解液との反応を抑えつつ、充放電の繰り返しによる電池の抵抗上昇を抑制して電池容量の低下を抑制することができる。
【0030】
W表面存在率は、二次粒子の表面及び内部に存在するWの総量に対する二次粒子表面に存在するWの量の百分率として算出される。Wの総量、及び二次粒子の表面に存在するWの量は、以下のようにして測定される。
(1)二次粒子の表面及び二次粒子の内部に存在するWの総量の測定
正極活物質の粉体0.2gに王水10mLを滴下した後、フッ化水素酸2.5mLを滴下し、加熱して当該粉体を完全に溶解して水溶液を作製する。当該水溶液をイオン交換水で100mLに定容し、ICP-AESでW濃度を測定した結果を、二次粒子の表面及び二次粒子の内部に存在するWの総量とする。
(2)二次粒子の表面に存在するWの量の測定
正極活物質の粉体4gを、40℃で濃度0.01モル/Lの水酸化ナトリウム溶液400mL中で5分間攪拌後、孔径0.45μmのシリンジフィルターで濾過して濾液を得る。当該濾液4mLに王水2.5mLを滴下した後、フッ化水素酸0.6mLを滴下し、加熱して濾液中に残った当該粉体を完全に溶解して水溶液を作製する。当該水溶液をイオン交換水で100mLに定容し、ICP-AESでW濃度を測定した結果を、二次粒子の表面に存在するWの総量とする。
【0031】
二次粒子の表面及び二次粒子の内部において、Wは、Wを含有するW化合物の状態で存在してもよい。W化合物は、Liを含有してもよい。W化合物としては、酸化タングステン(WO)、タングステン酸リチウム(LiWO、LiWO、Li)、タングステン酸アンモニウム等が例示できる。
【0032】
次に、正極活物質の製造方法の一例について説明する。
【0033】
正極活物質の製造方法は、少なくともNi、Co、Alを含有する複合酸化物とLi化合物を混合し、焼成してリチウム金属複合酸化物を得る工程と、リチウム金属複合酸化物を水洗し、脱水して所定の水分率を有するケーキ状組成物を得る工程と、ケーキ状組成物と、W原料とを混合し、熱処理する工程と、を含む。
【0034】
<リチウム金属複合酸化物合成工程>
まず、Ni、Co、Alを含有する複合酸化物と、水酸化リチウムや炭酸リチウム等のLi化合物とを準備する。複合酸化物は、例えば、共沈により得られたニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物等の複合水酸化物を熱処理して得ることができる。次に、複合酸化物と、Li化合物とを混合し、この混合物を焼成した後に粉砕することでリチウム金属複合酸化物の粒子を得ることができる。
【0035】
<ケーキ状組成物作製工程>
次に、リチウム金属複合酸化物を水洗し、脱水してケーキ状組成物を得る。リチウム金属複合酸化物は、上記の合成工程で得られた粒子状のものを使用することができる。水洗によって、リチウム金属複合酸化物の合成工程において加えられたLi化合物の未反応分や、Li化合物以外の不純物を除去することができる。水洗の際は、例えば、水1Lに対して300g~5000gのリチウム金属複合酸化物を投入することができる。水洗は複数回繰り返すこともできる。水洗後の脱水は、例えばフィルタープレスですることができる。脱水条件によって、洗浄後のケーキ状組成物の水分率を調整することができる。本発明者らの検討により、ケーキ状組成物の水分率を低くすることにより、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の内部のWの存在比率を高めることができることが判明した。洗浄後のケーキ状組成物の水分率を所定範囲に調整することで、W表面存在率を25%~45%にすることができる。ケーキ状組成物の水分率は、10gのケーキ状組成物を真空中に120℃で2時間静置して乾燥させ、乾燥前後のケーキ状組成物の質量変化を乾燥前のケーキ状組成物の質量で除して算出する。
【0036】
<W添加工程>
ケーキ状組成物に、W原料を添加してタングステン添加物を得る。洗浄後においてもLi化合物の一部はケーキ状組成物に残存しており、ケーキ状組成物に含まれるリチウム金属複合酸化物の表面において、残存Li化合物がケーキ状組成物に含まれている水に溶けてアルカリ水溶液が生成されている。ケーキ状組成物にW原料を添加すると、W原料は、アルカリ水溶液に溶けてリチウム金属複合酸化物の二次粒子の表面及び内部に広がる。W原料としては、酸化タングステン(WO)、タングステン酸リチウム(LiWO、LiWO、Li)等を例示することができる。
【0037】
さらに、タングステン添加物を熱処理して正極活物質を作製する。熱処理条件は、特に限定されないが、例えば、熱処理温度を150℃~400℃、熱処理時間を0.5時間~15時間としてもよい。熱処理条件によってもW表面存在率を調整することができる。例えば、熱処理温度をより高温にすることで、W表面存在率を下げることができる。この場合、リチウム金属複合酸化物の二次粒子表面の水分が減少して二次粒子表面の反応が起きにくくなり、二次粒子内部の反応が促進されることが推察される。
【0038】
[負極]
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質を含み、その他に、増粘材、結着材等を含むことが好適である。負極は、例えば、負極活物質と、増粘材と、結着材とを所定の重量比として、水に分散させた負極合材スラリーを負極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0039】
負極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用いることができ、黒鉛の他に、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等を用いることができる。さらに、非炭素系材料として、シリコン、スズ及びこれらを主とする合金や酸化物を用いることができる。
【0040】
結着材としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。増粘材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0041】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータ13の表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0042】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0043】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0044】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0045】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0046】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[正極活物質の作製]
<実施例1>
一般式Ni0.91Co0.04Al0.05で表される複合酸化物のNi、Co、及びAlの総量と、Liのモル比が1:1.02となるように水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)を混合し、焼成してリチウム金属複合酸化物を得た。次に、当該リチウム金属複合酸化物を水洗しフィルタープレスにより脱水して、所定の水分率を有するケーキ状組成物を得た。さらに、当該ケーキ状組成物にWOを添加してW添加ケーキ状組成物を得た。WOの添加量は、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.08モル%となるようにした。さらに、W添加ケーキ状組成物を酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり5L/min.の流量)、昇温速度2℃/min.で、室温から650℃まで熱処理した後、昇温速度1℃/min.で、650℃から800℃まで熱処理し、実施例1の正極活物質を得た。ICP-AESにより、実施例1の正極活物質の組成を分析した結果、LiNi0.91Co0.04Al0.050.0008であった。
【0049】
[正極の作製]
上記正極活物質100質量部と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)1質量部と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)0.9質量部とを混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えることにより正極合材スラリーを調製した。次いで、当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0050】
[負極の作製]
黒鉛が94質量部、SiOが6質量部となるように混合し、これを負極活物質とした。当該負極活物質95質量部と、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)3質量部と、結着材としてのスチレン-ブタジエンゴム(SBR)2質量部とを混合し、更に水を適量加えることにより負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を得た。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0051】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、30:70の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度となるように添加して、非水電解質を調製した。
【0052】
[試験セルの作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、上記負極の露出部にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリエチレン製微多孔膜のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体を外装体内に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体の開口部を封止して試験セルを得た。
【0053】
[サイクル試験]
上記試験セルについて、サイクル試験を行なった。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、400サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(400サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
サイクル試験は、次のように行った。試験セルを、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを400サイクル繰り返した。
【0054】
[ARC試験]
上記試験セルを、25℃の環境下で、0.3Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流値が0.05Itになるまで充電を行って、充電状態にした。その後、断熱型暴走反応熱量計(ARC)に上記の充電状態の試験セルをセットし、試験セルに取り付けた熱電対によりセル温度を観察することで、断熱環境下での試験セルの自己発熱速度(℃/min.)を測定した。具体的には、5℃/min.で昇温しつつ試験セルの温度の測定を繰り返し、アレニウスプロットから自己発熱速度が1℃/min.に到達した時点で断熱制御に切り替えて発熱に至るまで制御を続け、試験セルの自己発熱速度が2℃/min.に到達した際の電池温度(℃)を熱暴走温度と定義した。
【0055】
<実施例2>
ケーキ状組成物水分率を高くしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0056】
<実施例3>
WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.1モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0057】
<実施例4>
WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.07モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0058】
<実施例5>
WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.05モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0059】
<実施例6>
WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.04モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0060】
<比較例1>
ケーキ状組成物水分率を高くして、さらに、WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.15モル%となるようにしたこと以外は、実施例2と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0061】
<比較例2>
WO添加量を、W添加ケーキ上組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.08モル%となるようにしたこと以外は、比較例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0062】
<比較例3>
WOの添加量を、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対してWが0.03モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして試験セルを作製し、評価を行った。
【0063】
実施例及び比較例の各試験セルの評価結果を表1に示す。表1において、実施例及び比較例の結果は、比較例1の試験セルの容量維持率(%)及び熱暴走温度(℃)を100としたときの相対値を示す。また、表1には、W添加ケーキ状組成物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するWのモル分率(W添加量)、及び、W表面存在率を併せて示す。
【0064】
【表1】
【0065】
比較例1及び比較例2よりもW表面存在率を小さくした実施例1~6では、容量維持率が増加し、熱暴走温度が上昇した。W表面存在率を小さくすることで、リチウム金属複合酸化物の二次粒子表面での反応を抑制できたため、サイクル特性及び安全性が向上したものと推察される。一方、W表面存在率が25%未満の比較例3の容量維持率及び熱暴走温度は、比較例1とほぼ同等であった。したがって、サイクル特性及び安全性の観点から、W表面存在率は25%~45%であることが好適である。
【符号の説明】
【0066】
10 二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 外装体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 溝入部、22 フィルタ、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、26a 開口部、27 ガスケット
図1