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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/10 20060101AFI20250219BHJP
   G05B 19/409 20060101ALI20250219BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20250219BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
B23Q17/10
G05B19/409 C
B23Q17/09 H
B23Q17/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023178608
(22)【出願日】2023-10-17
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 維玖馬
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/095286(WO,A1)
【文献】特開平05-131339(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0092277(KR,A)
【文献】特開昭58-171229(JP,A)
【文献】特開平10-150789(JP,A)
【文献】特開平01-110076(JP,A)
【文献】国際公開第2019/053829(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/135958(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第114395895(CN,A)
【文献】国際公開第2009/104676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23Q 17/00-23/00
B23Q 3/00-3/154
B23Q 1/00-1/76
G05B 19/18-19/416
B23Q 15/00-15/28
H02P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転させて旋削加工を行う工作機械において、
ワークを取り付けるワーク取付部、及び該ワーク取付部を回転させる回転モータを有したワーク回転装置と、
ワークを取り付けた前記ワーク回転装置を回転させたときの前記回転モータのトルクの振幅に基づいて前記ワーク回転装置の許容回転速度を演算する制御装置と、
前記制御装置で演算した前記ワーク回転装置の許容回転速度を表示する表示装置と、
を具備することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、精密加工のための許容回転速度および荒加工のための許容回転速度を演算し、精密加工のための許容回転速度および荒加工のための許容回転速度が表示装置に表示する請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記ワーク取付部は、前記ワークを取り付けるワーク取付面を有した回転テーブルを具備しており、該回転テーブルは、前記ワーク取付面が水平となる水平位置と、鉛直となる鉛直位置との間の複数の姿勢で位置決め可能となっており、前記回転テーブルを傾斜位置または鉛直位置に位置決めして前記回転モータのトルクの振幅を測定するようにした請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記回転テーブルを前記水平位置と鉛直位置との間で実際に旋削加工するときの傾斜角度に位置決めして前記回転モータのトルクの振幅を測定するようにした請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
前記ワーク回転装置は、前記工作機械のベッドに取り付けられた第1のテーブル台と、該第1のテーブル台に取り付けられた第2のテーブル台とを備え、前記ワーク取付部は、前記ワークを取り付けるワーク取付面を有した回転テーブルを具備しており、該回転テーブルは前記第2のテーブル台に回転可能に取り付けられており、かつ、前記第2のテーブル台は、傾斜軸線を中心として回転可能に前記第1のテーブル台に支持されている請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを取り付けた回転装置を回転させたときの回転モータのトルクの変化量に基づいて回転装置の許容回転速度を演算する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを回転装置に取り付けて回転させバイトにより旋削加工する際に、回転装置に作用する偏荷重により振動を生じることがある。これを防止するために、特許文献1の発明では、ワークを回転させたときの駆動モータのトルク変化からアンバランスを求め、アンバランスを補正するためにバランステーブルに付加するカウンタウエイトの質量と位置または切削質量と切削位置を特定するようにしたワークにおけるトルクのアンバランス補正方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-061918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明では、トルクのアンバランス及び回転角度を検出し、アンバランスを修正することはできるが、実際に旋削加工する際、どのくらいの回転速度なら十分な加工精度で加工できるのかを知ることはできない。
【0005】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、偏荷重による振動により生じる加工誤差が許容範囲を逸脱しない最高指令回転速度または許容回転速度をオペレータに告知する工作機械を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ワークを回転させて旋削加工を行う工作機械において、ワークを取り付けるワーク取付部、及び該ワーク取付部を回転させる回転モータを有したワーク回転装置と、ワークを取り付けた前記ワーク回転装置を回転させたときの前記回転モータのトルクの振幅に基づいて前記ワーク回転装置の許容回転速度を演算する制御装置と、前記制御装置で演算した前記ワーク回転装置の許容回転速度を表示する表示装置とを具備する工作機械が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オペレータは、ワークをワーク回転装置に取り付けたときに、偏荷重による振動により生じる加工誤差を許容範囲に収めるワーク回転装置の許容回転速度を加工に先立って知ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明を適用する工作機械の一例を示す略示側面図であり、水平位置にある回転テーブルを示す図である。
図2】本発明を適用する工作機械の一例を示す略示側面図であり、鉛直位置にある回転テーブルを示す図である。
図3】回転テーブルの偏荷重を測定する方法を説明するための図である。
図4】表示装置に表示される偏荷重の測定結果および最高指令回転速度を表示する画面の一例を示す図である。
図5】表示装置に表示される偏荷重の測定結果および最高指令回転速度を表示する画面の一例を示す図である。
図6】表示装置に表示される偏荷重の測定結果および最高指令回転速度を表示する画面の一例を示す図である。
図7】表示装置に表示される偏荷重の測定結果および最高指令回転速度を表示する画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1、2は、本発明を適用する機械の一例としての工作機械の略示側面図である。図1は回転テーブルの水平位置を示し、図2は垂直位置にある回転テーブルを示している。図1、2において、工作機械100は、横形マシニングセンタを構成しており、工場の床面に固定された基台としてのベッド102を備えている。ベッド102の前方部分(図1では左側)の上面には、取り付けられたワークWを回転するワーク回転装置としてのテーブル106が前後方向またはZ軸方向(図1では左右方向)に移動可能に設けられている。
【0010】
ベッド102の後端側(図1では右側)でベッド102の上面には、コラム104がX軸方向(図1では紙面に垂直な方向)に移動可能に設けられている。コラム104の前面には、Y軸スライダ108が、上下方向またはY軸方向に移動可能に取り付けられている。Y軸スライダ108には、主軸頭110が取り付けられている。主軸頭110は、主軸112を水平な回転軸線Os周りに回転可能に支持する。主軸頭110は、主軸112を回転駆動する主軸サーボモータMsを有している。
【0011】
コラム104は、傾斜型直動案内130によって、X軸方向に案内される。傾斜型直動案内130は、全体的に、前向きかつ上向きであり、後部が前部より高い位置に配置されるように傾斜されている。具体的には、傾斜型直動案内130は、X軸案内レールとして前側レール134aおよび後側レール134bを備え、コラム104の下面には前側レール134aおよび後側レール134bに沿って摺動する前側ブロック132aおよび後側ブロック132bが固定されている。
【0012】
ベッド102には、コラム104をX軸案内レール134a、134bに沿って往復駆動するX軸送り装置として、X軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータMxが取り付けられており、コラム104には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。また、ベッド102には、コラム104のX軸方向の座標位置を検知するX軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0013】
コラム104の前面には、Y軸方向に延設された一対のY軸案内レール(図示せず)が固定されており、Y軸スライダ108は、Y軸案内レールに沿って摺動するブロックを有している。コラム104には、Y軸スライダ108をY軸案内レールに沿って往復駆動するY軸送り装置として、Y軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータMyが設けられており、Y軸スライダ108には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。また、コラム104には、Y軸スライダ108のY軸方向の座標位置を検知するY軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0014】
テーブル106は、ベッド102上でコラム104の前方に設けられている。テーブル106は、第1のテーブル台114と、第2のテーブル台116とを備えている。第1のテーブル台114は、ベッド102上に設けられ、ベッド102上をZ軸方向に移動する。より詳細には、ベッド102の上面には、Z軸方向に延びる左右一対のZ軸案内レール122(図1、2では右側のレールのみが図示されている)が固定されており、第1のテーブル台114には、Z軸案内レール122に沿って摺動するブロック(図示せず)が固定されている。
【0015】
ベッド102には、第1のテーブル台114をZ軸案内レール122に沿って往復駆動するZ軸送り装置として、Z軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたZ軸サーボモータMzが設けられており、第1のテーブル台114には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。ベッド102には、第1のテーブル台114のZ軸方向の座標位置を検知するZ軸スケール(図示せず)取り付けられている。
【0016】
なお、本実施形態に係る工作機械100における方向に関して、主軸112の回転軸線Osが水平方向に延びており、回転軸線Osに平行な方向をZ軸方向(前後方向とも称される)と定義する。Z軸方向に沿って主軸112が突出している方向(図1、2において左方)が前であり、その反対方向(図1、2において右方)が後である。Z軸方向に垂直な水平方向(図1、2の紙面に垂直な方向)をX軸方向(左右方向とも称される)、鉛直方向をY軸方向(上下方向とも称される)と定義する。
【0017】
第1のテーブル台114は、テーブル106の移動方向に対して傾斜した傾斜面114aを有している。具体的には、傾斜面114aは、後向きかつ上向きとなるように、水平面から角度θ=45°で傾斜している。
【0018】
第1のテーブル台114は、傾斜面114aに沿った傾斜型回転案内118を有している。傾斜型回転案内118は、後向きかつ上向きであり、前部が後部より高い位置に配置されている。傾斜型回転案内118は、第2のテーブル台116を、傾斜面114aに垂直な(すなわち、傾斜型回転案内118に垂直な)傾斜軸線Oc周りに回転させる。第2のテーブル台116の回転送り方向は、C軸方向と定義する。傾斜型回転案内118は、例えば、クロスローラベアリングを有することができる。
【0019】
第1のテーブル台114には、第2のテーブル台116を傾斜軸線Oc周りに回転駆動するC軸サーボモータMcが内蔵されている。第1のテーブル台114は、第2のテーブル台116のC軸方向の座標(回転位置)を検知するC軸検知装置を備えている。C軸検知装置は、例えばC軸サーボモータMcに取り付けたロータリエンコーダ124により形成することができる。
駆動装置として
【0020】
第2のテーブル台116は、傾斜型回転案内118上に設けられている。第2のテーブル台116は、旋回面116aを有している。旋回面116aは、傾斜面114aに対して45°の角度で傾斜している。旋回面116aは、第2のテーブル台116が回転するのに伴って、傾斜軸線Oc周りに旋回する。
【0021】
第2のテーブル台116は、旋回面116aに沿って回転可能に設けられた回転テーブル120を有している。回転テーブル120は、旋回面116aに垂直な可変軸線Ob周りに回転可能に第2のテーブル台116に支持されている。なお、図1、2を参照すると、可変軸線Obの向きは、C軸方向における第2のテーブル台116の位置に応じて変わることが理解されよう。可変軸線Ob周りの回転テーブル120の回転送り方向をB軸方向と定義する。
【0022】
第2のテーブル台116には、ワークWを取り付けるワーク取付部としての回転テーブル120を可変軸線Ob周りに回転駆動するB軸サーボモータMbが内蔵されている。第2のテーブル台116は、回転テーブル120のB軸方向の座標(回転位置)を検知するB軸検知装置を備えている。B軸検知装置は、例えばB軸サーボモータMbに取り付けたロータリエンコーダ126により形成することができる。
【0023】
回転テーブル120は、ワークWを取り付けるワーク取付面120aを有している。ワークWは、ワーク取付面120aにパレット(図示せず)を介して取り付けることができる。ワークWは、ワーク取付面120aに直接取り付けてもよい。ワーク取付面120aは、第2のテーブル台116のC軸方向可動範囲における位置に応じて、任意の姿勢に配置される。例えば、図1では、ワーク取付面120aは水平姿勢にあり、図2では、ワーク取付面120aは鉛直姿勢にある。
【0024】
工作機械100は、更に、加工に用いる複数の工具を収納した工具マガジン(図示せず)、工具マガジンと主軸112との間で工具を交換する自動工具交換装置(図示せず)、工作機械100の加工領域にクーラントを供給するクーラント供給装置(図示せず)とを備えたマシニングセンタとすることができ、これら周辺機器は、工作機械100とともにカバー(図示せず)内に収容されている。また、工作機械100は、オペレータがパレットにワークWを取り付ける段取りステーション(図示せず)、段取りステーションとテーブル106との間でパレットを交換するパレット交換装置(図示せず)等を含んでいてもよい。
【0025】
工作機械100は、更に、該工作機械100を制御する制御装置140を含んでいる。制御装置140は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイス、出入力ポート、および、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータおよび関連するソフトウェアから構成することができる。
【0026】
制御装置140は、主軸サーボモータMs、X軸サーボモータMx、Y軸サーボモータMy、Z軸サーボモータMz、B軸サーボモータMbおよびC軸サーボモータMcを制御するNC装置や、上述の工作機械の工具マガジン(図示せず)や、自動工具交換装置(図示せず)、パレット交換装置およびクーラント供給装置、更には、オイルエア供給装置(図示せず)や、圧縮空気供給装置(図示せず)のような工作機械の関連機器を制御する機械制御装置の一部としてソフトウェア的に構成することができる。
【0027】
工作機械100は、更に、表示装置142を備えている。一例として、表示装置142は、工作機械100を包囲する上述のカバーに取り付けられた操作盤(図示せず)に取り付けられたタッチパネル(図示せず)により形成することができる。表示装置142がタッチパネルにより形成される場合、表示装置142は、オペレータが制御装置140に数値を入力したり、操作モードを選択する入力装置をも形成する。
【0028】
制御装置140は、NC装置が読み取り解釈したNCプログラムに従い、サーボアンプ144に電流指令値を出力する。サーボアンプ144は、制御装置140からの電流指令値に従い、主軸サーボモータMs、X軸サーボモータMx、Y軸サーボモータMy、Z軸サーボモータMz、B軸サーボモータMbおよびC軸サーボモータMcの各々へ電流を供給する。こうして、工作機械100は、NCプログラムに従ってワークWを加工する。
【0029】
以下、本実施形態の作用を説明する。
工作機械100は、主軸112の先端に回転工具(図示せず)を装着し、主軸112を回転させつつ、テーブル106と主軸112とをX、Y、Zの直交3軸方向およびB軸およびC軸の回転方向に相対移動させて、回転テーブル120に取り付けられたワークWを、回転工具によってフライス加工することができる。工作機械100は、更に、主軸112の先端にバイト128を装着し、回転テーブル120が水平位置にあるとき、回転テーブル120を回転させつつ、テーブル106と主軸112とをX、Y、Zの直交3軸方向に移動させて旋削加工することができる。
【0030】
ワークWを旋削加工する際には、回転工具によりフライス加工する場合よりも、回転テーブル120を高速で回転しなければならない。旋削加工時の回転テーブル120の回転速度は、例えば100~800rpmとすることができる。回転テーブル120には比較的重いワークWが取り付けられることがあること、またワークWは、その形状も様々であり、特に非対称形状であることがある。そこで、回転テーブル120を第2のテーブル台116に回転支持する軸受には偏荷重が作用し、回転テーブル120を回転した際に回転テーブル120に振動を生じることがある。回転テーブル120が振動すると、旋削加工の加工精度が低下するのみならず、場合によっては工具や機械が破損し、加工ができなくなることもある。
【0031】
そこで、本発明では以下に説明するように、加工前に回転テーブル120にワークWを取り付け、ワーク取付面120aを鉛直姿勢または傾斜姿勢に位置決めし、回転テーブル120を回転させたときのB軸サーボモータMbのトルクの変化量を求め、該トルクの変化量に基づいて回転テーブル120の許容回転速度を求めるようにしている。
【0032】
図3を参照すると、回転テーブル120を回転したときの、B軸サーボモータMbのトルクの変化が示されている。B軸サーボモータMbのトルクは、サーボアンプ144~B軸サーボモータMbへ出力される電流値を検知することによって検知することができる。また、回転テーブル120のB軸方向の回転位置またはB軸サーボモータMbの回転位置は、B軸サーボモータMbに設けたロータリエンコーダ124によって検知することができる。こうして、B軸サーボモータMbへ供給される電流値と、そのときのB軸サーボモータMbの回転位置とに基づいて、B軸サーボモータMbのトルクの変化を得ることができる。
【0033】
図3には、B軸サーボモータMbのトルクの変化の一例が示されている。B軸サーボモータMbのトルクは、正転させるとプラスの値となり、逆転させるとマイナスの値となる。ワーク取付面120aを鉛直姿勢または傾斜姿勢に位置決めして回転させると、偏荷重に起因して、B軸サーボモータMbのトルクが回転テーブル1回転に対して1周期で変化する。図3では、B軸サーボモータMbのトルクの変化を正弦波曲線で近似している。また、図3のグラフの縦軸はB軸サーボモータのトルク(kgm)であり、本実施形態ではB軸サーボモータを逆転させて測定しているのでマイナスの値になっている。
【0034】
図3において、曲線SC1は、ワークWが回転テーブル120に取り付けられていない場合のB軸サーボモータMbのトルクの変化の一例を表している。曲線SC2は、ワークWが回転テーブル120に取り付けられている場合のB軸サーボモータMbのトルクの変化の一例を表している。曲線SC1、SC2は、実測されたB軸サーボモータMbのトルク値をT、傾斜軸線Ob周りのB軸原点に対する角度位置をθとしたときに、最小二乗法のような曲線あてはめ方法を用いて、モデル関数T=αsin(θ-δ)+Taにあてはめて得られる。ここで、αはトルクの振幅、δはB軸原点に対する位相のずれ、TaはB軸サーボモータMbのトルクの変化の平均値である。図3の例では、ワークWを回転テーブル120に取り付けて回転させたとき、B軸の原点に対する角度位置がθ=120°の位置で、B軸サーボモータMbのトルクの変化を表す曲線SC2上においてTaからの偏差が最大となっている(Dmax)。
【0035】
偏荷重の測定は、制御装置140において偏荷重測定プログラムを実行することによって自動的に行われる。偏荷重測定プログラムが実行されると、図4に示すような測定画面200が表示装置142に表示される。測定画面200は、精密加工条件を表示する第1の加工条件表示領域202と、荒加工条件を表示する第2の加工条件表示領域204と、偏荷重(アンバランス)トルクの大きさ(kgm)と方向(deg)を表示するアンバランス表示領域206と、カウンタウエイトを取り付ける位置と質量とを表示するカウンタウエイト表示領域208と、偏荷重の位置とカウンタウエイトの取り付け位置とを視覚表示するグラフィック領域210と、スタートボタン212とを含む。
【0036】
回転テーブル120にワークWを取り付けられていることを確認した後、オペレータがスタートボタン212をタップすると、制御装置140は、第1のテーブル台114を所定のZ位置(測定位置)に移動すると共に、第2のテーブル台116を傾斜軸線Ocを中心としてC軸方向に回転する。制御装置140は、回転テーブル120が図2に示す鉛直位置に移動すると、回転テーブル120の回転動作を停止する。これにより、回転テーブル120に取り付けられているワークWは、重力により落下する方向にセットされる。
【0037】
回転テーブル120が、重力落下位置である鉛直位置に到達すると、制御装置140は、次いで、回転テーブル120を所定の測定回転速度、例えば10rpmで回転させつつ、B軸サーボモータMbのロータリエンコーダ126からの信号により、回転テーブル120のB軸方向の位置、つまり可変軸線Ob周りの回転テーブル120の回転位置を読み取ると共に、サーボアンプ144にアクセスして、サーボアンプ144からB軸サーボモータMbへ供給される電流値を読み取り、両者を対応付けて最大の偏荷重Dmaxを与える可変軸線Ob周りの角度位置θmaxを演算により求める。
【0038】
測定が終了すると、演算により求められた偏荷重の値αと角度位置θmaxが、アンバランス表示領域206に表示される(図5参照)。一例として示す図5では、アンバランス表示領域206には、偏荷重の値α=3.5kgm、角度位置θmax(アンバランスの方向)=235°が表示されている。
【0039】
また、制御装置140は、精密加工条件としての最高指令回転速度または許容回転速度と、荒加工条件としての最高指令回転速度または許容回転速度を演算する。制御装置140は、以下に示すように、精密加工条件として許容される振動振幅の実測値に基づく機械固有のしきい値A(i)を複数の回転速度に対応付けて予め記憶しており、上記の演算結果に基づきα×Aの値がA(i)を超えないように最高指令回転速度を判定するようになっている。ここで、αはB軸モータトルクの振幅であり、Aは機械剛性に基づいて求めた振動しやすさを表す機械固有の係数である。
800rpm:A(9)
700rpm:A(8)
600rpm:A(7)
500rpm:A(6)
400rpm:A(5)
300rpm:A(4)
200rpm:A(3)
100rpm:A(2)
0rpm:A(1)
【0040】
同様に、制御装置140は、荒加工条件として許容される振動振幅の実測値に基づく機械固有のしきい値B(i)を複数の回転速度に対応付けて予め記憶しており、上記の演算結果に基づきα×Aの値がB(i)を超えないように最高指令回転速度を判定するようになっている。
800rpm:B(9)
700rpm:B(8)
600rpm:B(7)
500rpm:B(6)
400rpm:B(5)
300rpm:B(4)
200rpm:B(3)
100rpm:B(2)
0rpm:B(1)
【0041】
上記の例では、制御装置140は、0rpm、100rpm、200rpm、300rpm、400rpm、500rpm、600rpm、700rpm、800rpmのときのA(i)およびB(i)が示されているが、上記複数の回転速度は、より多くの或いは少ない個数の回転速度を選定してもよい。或いは、上記複数の回転速度の間の回転速度、例えば図6に示すような、700rpmと800rpmの間の750rpmに対するA(i)またはB(i)の値を700rpmと800rpmに対するA(i)またはB(i)から内挿するようにしてもよい。一例として、図5では、精密加工条件としての最高指令回転速度500rpmが第1の加工条件表示領域202に表示され、荒加工条件としての最高指令回転速度750rpmが第2の加工条件表示領域204に表示されている。
【0042】
制御装置140は、同時に、カウンタウエイト表示領域208に、カウンタウエイトを取り付ける方向として55°を表示し、グラフィック領域210に、アンバランスの方向を示すアイコン214と、カウンタウエイトを取り付ける方向を示すアイコン216を表示する。カウンタウエイトを取り付ける方向は、最大の偏荷重Dmaxを与える角度位置θmaxの対角の方向φであり、φ=θmax+180°により算出される。
【0043】
回転テーブル120上にはワークWが取り付けられているため、カウンタウエイトを取り付ける位置を自由に決定することはできない。そのため、カウンタウエイト表示領域208およびグラフィック領域210には、カウンタウエイトを取り付ける方向が示される。オペレータは、偏荷重の測定結果に基づき、回転テーブル120のワーク取付面120a上で、φ方向に沿ってカウンタウエイトを取付可能な位置を適当に選定し、その位置の回転テーブル120の回転中心からの距離rをカウンタウエイト表示領域208内の入力ダイアログボックス218内に入力する(図6参照)。この入力作業は、例えば操作盤に配設されているキーボードから行うことができる。或いは、表示装置142を構成するタッチパネル上で、オペレータが入力ダイアログボックス218をタップしたときに、タッチパネル上にテンキー(図示せず)を表示し、オペレータがテンキーをタップして入力するようにしてもよい。
【0044】
一例として、図6には、オペレータが、入力ダイアログボックス218に200mmを入力したことが示されている。カウンタウエイトの質量をMとすると、M=α/rからカウンタウエイトの質量Mを求めることができる。図6では、オペレータが200mm(r=0.2m)を入力した結果、制御装置140は、M=α/rに基づき、回転テーブル120に取り付けるべきカウンタウエイトの質量Mとして17.5kgをカウンタウエイト表示領域208内に表示している。
【0045】
このとき、回転テーブル120の望ましい回転速度が、第1の加工条件表示領域202に表示されている最高指令回転速度または第2の加工条件表示領域204に表示されている最高指令回転速度より低い場合、望ましい回転速度を制御装置140に入力して、精密旋削加工または荒旋削加工を実行することができる。精密旋削加工または荒旋削加工は加工プログラムに従い実行される。回転テーブル120の望ましい回転速度が、最高指令回転速度よりも高い場合、オペレータは、回転テーブル120にカウンタウエイトを取り付けて、再度、偏荷重の測定プロセスおよび最高指令回転速度の演算プロセスを実行することができる。
【0046】
オペレータが、回転テーブル120のワーク取付面120a上で、φ=55°、r=0.2mの位置に、質量M=17.5kgのカウンタウエイトを取り付け、スタートボタン212をタップすると、制御装置140は、再び偏荷重測定プログラムに従い上記の偏荷重測定プロセスを実行する。図7を参照すると、カウンタウエイトを取り付けた状態での偏荷重測定結果が示されている。一例として示す図7では、アンバランス表示領域206には、偏荷重の値α=0.2kgm、角度位置θmax(アンバランスの方向)=235°が表示され、精密加工条件としての最高指令回転速度800rpmが第1の加工条件表示領域202に表示され、荒加工条件としての最高指令回転速度800rpmが第2の加工条件表示領域204に表示されている。
【0047】
オペレータは、回転テーブル120の望ましい回転速度が、第1の加工条件表示領域202に表示されている最高指令回転速度または第2の加工条件表示領域204に表示されている最高指令回転速度より低い場合、望ましい回転速度を制御装置140に入力して、精密旋削加工または荒旋削加工を実行する。精密旋削加工または荒旋削加工は加工プログラムに従い実行される。
【0048】
本実施形態によれば、オペレータは、ワークWを回転テーブル120に取り付けたときに、偏荷重を生じる方向と偏荷重トルクの大きさ、精密加工条件および荒加工条件としての最高指令回転速度およびカウンタウエイトを取り付けるべき方向および質量を知ることができ、更に、実際にカウンタウエイトを取り付けたときの偏荷重を生じる方向と偏荷重トルクの大きさ、精密加工条件および荒加工条件としての最高指令回転速度およびカウンタウエイトを取り付けるべき方向および質量を知ることができる。オペレータは、精密加工条件および荒加工条件としての最高指令回転速度を知ることで、そのまま加工を行うか、偏荷重の修正を行うかの判断を容易に行うことができる。
【0049】
上述の実施形態では、回転テーブル120を偏荷重の影響が最も大きく生じる鉛直位置に配置した状態で偏荷重の測定を行っているが、偏荷重測定時における回転テーブル120の位置はこれに限定されない。工作機械100は、回転テーブル120を水平位置と鉛直位置の間の任意の傾斜位置に配置して、回転テーブル120を回転して旋削加工を行うこともできる。従って、第2のテーブル台116を回転して、回転テーブル120を所望の傾斜位置に配置した状態で、上述の偏荷重測定プロセスおよび最高指令回転速度の演算を実行するようにしてもよい。つまり、偏荷重測定プロセスおよび最高指令回転速度の演算は、実際に旋削加工するときの傾斜角度に回転テーブル120を位置決めして行うことができる。
【0050】
また、オペレータが制御装置140に入力した回転テーブル120の回転速度が、最高指令回転速度よりも高い場合には、アラームを鳴動させたり、警告灯(図示せず)を点灯するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 工作機械
102 ベッド
104 コラム
106 テーブル
108 Y軸スライダ
110 主軸頭
112 主軸
114 第1のテーブル台
114a 傾斜面
116 第2のテーブル台
116a 旋回面
120 回転テーブル
120a ワーク取付面
122 Z軸案内レール
124 ロータリエンコーダ
126 ロータリエンコーダ
128 バイト
132a 前側ブロック
132b 後側ブロック
134a X軸案内レール
134b X軸案内レール
140 制御装置
142 表示装置
144 サーボアンプ
200 測定画面
202 第1の加工条件表示領域
204 第2の加工条件表示領域
206 アンバランス表示領域
208 カウンタウエイト表示領域
210 グラフィック領域
212 スタートボタン
214 アイコン
216 入力ダイアログボックス
Mb B軸サーボモータ
Mc C軸サーボモータ
Ms 主軸サーボモータ
Mx X軸サーボモータ
My Y軸サーボモータ
Mz Z軸サーボモータ
【要約】
【課題】偏荷重による振動により生じる加工誤差が許容範囲を逸脱しない最高指令回転速度または許容回転速度を加工に先立ってオペレータに告知する工作機械を提供すること。
【解決手段】ワークWを回転させて旋削加工を行う工作機械100において、ワークを取り付けるワーク取付部120、及び該ワーク取付部を回転させる回転モータMbを有したワークワーク回転装置106と、ワークを取り付けたワーク回転装置を回転させたときの回転モータのトルクの変化量に基づいてワーク回転装置の許容回転速度を演算する制御装置140と、制御装置で演算したワーク回転装置の許容回転速度を表示する表示装置142とを具備する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7