(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20250219BHJP
B60W 30/16 20200101ALI20250219BHJP
B60W 40/072 20120101ALI20250219BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250219BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250219BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/16
B60W40/072
B60W60/00
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2023546811
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2022027368
(87)【国際公開番号】W WO2023037758
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021146582
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】上野 健太郎
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-12192(JP,A)
【文献】特開2020-69954(JP,A)
【文献】特開2018-154218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記第1制御指令は、道路形状に沿った経路、車間距離、または、設定速度に基づく制御指令であり、
前記第2制御指令は、前記車両の左右方向の加速度、または、前記車両の左右方向の加加速度を条件として計画された軌道に基づく制御指令である、
車両制御装置。
【請求項2】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記車両の前方情報が所定の条件を満たさない場合、及び、所定の車両運動が要求された場合の少なくともいずれかの場合に、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第2制御指令から前記第1制御指令へ切り替えるとともに、
前記第1制御指令と前記第2制御指令のうちのいずれか一方の出力状態での軌道を記憶する記憶部の情報に基づき、経路の曲率の微分値が所定値以下または前記車両の左右方向の加加速度が所定以下で軌道がつながるように、前記一方の制御指令から他方の制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項3】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記車両の前方情報が所定の条件を満たさない場合、及び、所定の車両運動が要求された場合の少なくともいずれかの場合に、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第2制御指令から前記第1制御指令へ切り替えるとともに、
前記第1制御指令と前記第2制御指令のうちのいずれか一方の制御指令から予測される軌道である予測軌道を求め、前記予測軌道と他方の制御指令とに基づいて、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を前記一方の制御指令から前記他方の制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記予測軌道の少なくとも一部に前記他方の制御指令による軌道が重なるように、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を前記一方の制御指令から前記他方の制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項5】
請求項
3に記載の車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記予測軌道から前記他方の制御指令による軌道に徐々に乗り替わるように、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を前記一方の制御指令から前記他方の制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項6】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記車両の前方情報が所定の条件を満たさない場合、及び、所定の車両運動が要求された場合の少なくともいずれかの場合に、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第2制御指令から前記第1制御指令へ切り替えるとともに、
前記車両の運転者が操舵操作を行った場合は、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第2制御指令から前記第1制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項7】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記第1制御指令の出力状態での軌道を記憶する記憶部の情報に基づき、経路の曲率の微分値が所定値以下または前記車両の左右方向の加加速度が所定以下で軌道がつながるように、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項8】
車両の前方情報を取得する前方情報取得部と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得部と、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成部と、
前記前方情報取得部で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替え部と、
を備える
車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記第1制御指令から予測される軌道である予測軌道を求め、前記予測軌道と前記第2制御指令とに基づいて、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を一方の制御指令から他方の制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記予測軌道の少なくとも一部に前記第2制御指令による軌道が重なるように、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項10】
請求項
8に記載の車両制御装置であって、
前記切り替え部は、
前記予測軌道から前記第2制御指令による軌道に徐々に乗り替わるように、前記アクチュエータ部へ出力する制御指令を前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える、
車両制御装置。
【請求項11】
車両に搭載される車両制御装置が実行する車両制御方法であって、
車両の前方情報を取得する前方情報取得ステップと、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を取得する第1制御指令取得ステップと、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する第2制御指令生成ステップと、
前記前方情報取得ステップで取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、前記車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える切り替えステップと、
を
含み、
前記第1制御指令は、道路形状に沿った経路、車間距離、または、設定速度に基づく制御指令であり、
前記第2制御指令は、前記車両の左右方向の加速度、または、前記車両の左右方向の加加速度を条件として計画された軌道に基づく制御指令である、
車両制御方法。
【請求項12】
車両制御システムであって、
車両の前方情報を取得する外界認識センサ装置と、
前記車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を生成する第1コントロールユニットと、
前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成し、前記外界認識センサ装置で取得された前記車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、出力する制御指令を前記第1制御指令から前記第2制御指令へ切り替える第2コントロールユニットと、
前記第2コントロールユニットから出力された制御指令を取得し、前記制御指令に基づいて前記車両の運動を制御するアクチュエータ部と、
を備え
、
前記第1制御指令は、道路形状に沿った経路、車間距離、または、設定速度に基づく制御指令であり、
前記第2制御指令は、前記車両の左右方向の加速度、または、前記車両の左右方向の加加速度を条件として計画された軌道に基づく制御指令である、
車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の走行軌跡生成装置は、運転者の要求する通過時間及びその他の運転条件を満足した走行軌跡を導出するものであり、所定の目標通過時間と道路境界線とに基づいた第1拘束条件を達成するように収束演算して走行軌跡を導出する第1収束演算部と、前記第1拘束条件を達成している状態において、所定の運転条件を優先させるための評価関数を収束演算して走行軌跡を導出する走行軌跡導出部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、レーンキープアシスト(Lane Keeping Assist:LKA)やアダプティブクルーズコントロール(Adaptive Cruise Control:ACC)などの機能を有する、先進支援システム(Advanced Driver Assistance System:ADAS)若しくは自動運転(Autonomous Driving:AD)と呼ばれる運転支援技術が開発されている。
しかし、LKAやACCなどの機能は、乗員の乗り心地を考慮して車両運動を制御するものではないため、走行条件によっては左右方向の加速度や左右方向の加加速度の増大によって、乗員の乗り心地が悪くなってしまう場合があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転支援や自動運転による車両走行状態において、快適な乗り心地などの異なる指標の性能を付加できる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムは、その1つの態様において、車両の前方情報が所定の条件を満たすとき、車両の運動を制御するアクチュエータ部へ出力する制御指令を、車両の運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令から、前記第1制御指令とは異なる指標に基づいて車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令へ切り替えるものであって、前記第1制御指令は、道路形状に沿った経路、車間距離、または、設定速度に基づく制御指令であり、前記第2制御指令は、車両の左右方向の加速度、または、車両の左右方向の加加速度を条件として計画された軌道に基づく制御指令である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、運転支援や自動運転による車両走行状態において、快適な乗り心地などの異なる指標の性能を付加できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】LKA及びACCによる走行における経路、車速、加速度、加加速度を示す図である。
【
図3】乗り心地制御による走行における経路、車速、加速度、加加速度を示す図である。
【
図4】車両制御システムの具体的構成を示すブロック図である。
【
図6】軌道計画による経路の計算例を示す図である。
【
図7】軌道計画による車速、加速度、加加速度の設定を示す図である。
【
図8】軌道の切り替え処理の第1形態を示す図である。
【
図9】軌道の切り替え処理の第2形態を示す図である。
【
図10】軌道の切り替え処理の第3形態を示す図である。
【
図11】軌道追従制御部の構成を示すブロック図である。
【
図12】乗り心地制御の介入条件の判定処理を示すフローチャートである。
【
図13】第2制御指令から第1制御指令への切り替え処理を示すタイムチャートである。
【
図14】ADAS-ECUが乗り心地制御機能を備える場合のシステムブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、4輪自動車である車両100に搭載される車両制御システム200の一態様を示す概略構成図である。
【0010】
車両制御システム200は、外界認識センサ装置300、第1コントロールユニットである運転支援コントロールユニット400(以下では、ADAS-ECU400と称する。)、第2コントロールユニットである車両運動制御装置500、アクチュエータ部600を有する。
外界認識センサ装置300は、車両100の外界情報を検知、認識する装置であり、ステレオカメラ、単眼カメラ、全周囲カメラなどを有する。
そして、外界認識センサ装置300は、車両100が走行している道路白線や路肩に関する情報や、車両100の先行車に関する情報を出力する。
【0011】
車両100の運動を制御するアクチュエータ部600は、操舵装置610、駆動装置620、制動装置630を有する。
操舵装置610は、操舵輪である前輪101,102の向き、つまり、操舵角を変えるためのモータなどの操舵アクチュエータを備え、操舵アクチュエータの電子制御によって操舵角を可変にできる、電子制御パワーステアリング装置或いはステアバイワイヤ式ステアリング装置である。
【0012】
駆動装置620は、たとえばモータや内燃機関などの動力源が発生する駆動力を車両100の前輪101,102及び/または後輪103,104に伝える装置であり、モータへの供給電力の電子制御や内燃機関のスロットルの電子制御などを通じて駆動力を可変にできる装置である。
制動装置630は、たとえばエネルギー源としての電動式の油圧ポンプを備え、車輪101-104のブレーキシリンダに供給する油圧の電子制御を通じて、車輪101-104に付与する制動力を可変にできる装置である。
なお、制動装置630を油圧式や摩擦制動に限定するものではなく、車両制御システム200は、モータ駆動によってブレーキパッドを動かす制動装置や、駆動装置620としてのモータによる回生制動などを制動装置630として用いることができる。
【0013】
ADAS-ECU400は、取得した情報に基づいて演算処理した結果を出力するマイクロコンピュータ(演算処理部)を備えた電子制御装置である。
そして、ADAS-ECU400は、外界認識センサ装置300などから車両100の前方情報を含む各種の情報を取得し、アクチュエータ部600を制御するための制御指令(以下、第1制御指令と称する。)を生成する。
【0014】
アクチュエータ部600を制御するための制御指令は、操舵装置610に出力される操舵指令、駆動装置620に出力される駆動指令、制動装置630に出力される制動指令を含む。
ここで、操舵指令は操舵トルク指令若しくは操舵角指令であり、駆動指令は駆動トルク指令であり、制動指令は、制動トルク指令、液圧指令、ブレーキ圧指令などである。
【0015】
ADAS-ECU400は、車両100の運転者の運転操作を支援するためにアクチュエータ部600を制御する機能を有し、ADAS-ECU500が生成する第1制御指令は、運転支援を実現するための制御指令である。
ADAS-ECU400は、運転支援機能として、レーンキープアシスト(Lane Keeping Assist)機能410(以下、LKA機能410と称する。)、及び、アダプティブクルーズコントロール(Adaptive Cruise Control)機能420(以下、ACC機能420と称する。)を有する。
【0016】
LKA機能410は、道路白線や路肩の検知、認識に基づく操舵制御によって、車線中央の維持や車線逸脱の抑制を行う運転支援機能である。
つまり、LKA機能410は、車両100の横位置、換言すれば、道路若しくは車線の幅方向における車両100の位置を制御する機能であり、道路形状に沿った経路に車両100を追従走行させる。
【0017】
ACC機能420は、先行車との距離である車間距離の検知、認識に基づき、制駆動力を制御する機能であって、基本的にLKA機能410と一緒に使用される。
ACC機能420は、設定速度で車両100を定速走行させ、更に、先行車に近づいたときに車両100を自動的に加減速させて適切な車間距離を維持しながら先行車に追従走行させる運転支援機能である。
【0018】
なお、LKA機能410とACC機能420とのいずれか一方が運転支援する状態は、レベル1の自動運転に相当し、LKA機能410とACC機能420との双方が運転支援することで、車両100が車線を維持しながら先行車に追従走行する状態は、レベル2の自動運転に相当する。
つまり、ADAS-ECU400は、運転主体を人とするレベル1乃至レベル2の自動運転を実現する制御機能を有し、運転支援または自動運転に関する制御指令である第1制御指令を生成する第1制御指令生成部を備えた制御装置である。
【0019】
車両運動制御装置500は、取得した情報に基づいて演算処理した結果を出力するマイクロコンピュータ(換言すれば、演算処理部)を備えた電子制御装置である。
車両運動制御装置500は、前方情報取得部510、第1制御指令取得部520、第2制御指令生成部530、及び、切り替え部540を有し、アクチュエータ部600に制御指令を出力して車両100の運動を制御する車両制御装置である。
【0020】
前方情報取得部510は、外界認識センサ装置300などが検知、認識した車両100の前方情報を取得する。つまり、前方情報取得部510は、車両運動制御において、車両100の前方情報を取得するステップを実行する。
第1制御指令取得部520は、ADAS-ECU400のLKA機能410、ACC機能420が生成した制御指令である第1制御指令を取得する。つまり、第1制御指令取得部520は、車両運動制御において、第1制御指令を取得するステップを実行する。
【0021】
第2制御指令生成部530は、快適な乗り心地を実現できる軌道を計画し、計画した軌道に車両100が追従させるためのアクチュエータ部600の制御指令(以下、第2制御指令と称する。)を生成する。つまり、第2制御指令生成部530は、車両運動制御において、第2制御指令を生成するステップを実行する。
なお、第2制御指令生成部530が生成する軌道は、経路の情報と車速の情報とを含む。
ここで、第2制御指令生成部530は、車両100の左右方向の加速度、または、車両100の左右方向の加加速度を条件として軌道計画を行うことで、快適な乗り心地を実現できる軌道を計画する。
換言すれば、第2制御指令生成部530は、所定の乗り心地条件を満たすように、車両100の左右方向の加速度、または、車両100の左右方向の加加速度を考慮して、軌道を計画する。
【0022】
前述したように、第1制御指令は、道路形状に沿った経路、車間距離、または、設定速度に関する制御指令であるのに対し、第2制御指令は、車両100の左右方向の加速度、または、車両100の左右方向の加加速度を条件として計画された軌道に関する制御指令である。
つまり、第2制御指令生成部530は、第1制御指令とは異なる指標に基づいて前記車両の運動を実行させるための制御指令である第2制御指令を生成する。
なお、以下では、第2制御指令による車両制御を、「乗り心地制御」と称する。
【0023】
切り替え部540は、車両100の前方情報が所定の条件を満たすとき、アクチュエータ部600へ出力する制御指令を、ADAS-ECU400が生成した第1制御指令から第2制御指令生成部530が生成した第2制御指令へ切り替える。つまり、切り替え部540は、車両運動制御において、第1制御指令から第2制御指令へ切り替えるステップを実行する。
つまり、切り替え部540は、LKA機能410及びACC機能420による運転支援が行われている車両走行状態において、「快適な乗り心地」という運転支援とは異なる指標の性能を付加する。
換言すれば、切り替え部540が第1制御指令から第2制御指令に切り替えることで、LKA機能410及びACC機能420による運転支援が行われるときの乗り心地を改善することができる。
【0024】
なお、後で詳細に説明するように、切り替え部540による制御指令の切り替え判断は、車両100の前方情報としての道路曲率の情報や、所定の車両運動が要求されているか否かの情報などに基づいて行われる。
また、第1制御指令による車両運動制御状態(換言すれば、運転支援状態)と、第2制御指令による車両運動制御状態(換言すれば、乗り心地制御状態)との間での遷移が滑らかに行われるように、アクチュエータ部600に出力される制御指令を過渡的に処理する機能を、切り替え部540及び/または第2制御指令生成部530が備えることができる。
【0025】
ここで、第2制御指令生成部530における乗り心地の良い車両運動とは、車両100の左右方向(換言すれば、横方向)の加速度、左右方向の加加速度が所定範囲内に抑えられた車両運動である。
係る乗り心地の良い車両運動を実現するため、第2制御指令生成部530は、時々刻々変化する走行可能領域に合わせて、左右方向の加速度、加加速度を小さくできる軌道を計画し、計画した軌道に車両100を追従させるための第2制御指令を生成する。
なお、走行可能領域とは、前方道路の車線内であって、道路白線(換言すれば、車線境界)までの余裕が確保され、更に、障害物を避け、先行車との車間距離が確保された領域である。
【0026】
LKA機能410及びACC機能420によって、車両100が車線を維持しながら、定速走行若しくは先行車に追従走行する状態では、道路形状及び車速にしたがって左右方向の加速度、加加速度が発生する。
これに対し、第2制御指令生成部530は、経路に合わせた加速度、加加速度を小さくする車速と、車速に合わせた道幅を有効に使う経路とを同時に計算して、軌道を適切に計画することで、車両100の左右方向の加速度、加加速度を低減して乗員の乗り心地を向上させる。
【0027】
図2は、LKA機能410及びACC機能420によって、車両100が車線を維持しながら定速走行する状態での車速、左右方向の加速度、及び、左右方向の加加速度を例示する図である。
また、
図3は、
図2と同じ道路において乗り心地制御を介入させた走行状態での車速、左右方向の加速度、及び、左右方向の加加速度を例示する図である。
LKA機能410及びACC機能420の運転支援によって、道路形状に沿った経路(詳細には、車線の中央付近)を車両100が定速走行する場合、道路が曲がっている場所、つまり、カーブでは、道路形状に沿って車両100の左右方向の加速度、左右方向の加加速度が大きくなる(
図2参照)。
【0028】
これに対し、乗り心地制御では、経路に合わせた加速度、加加速度を小さくする車速と、車速に合わせた道幅を有効に使う経路とを同時に計算することで、操舵角を小さくできる経路を設定し、また、道路曲率の増大に合わせて車速を低下させる(
図3参照)。
したがって、道路が曲がっている場所でも、左右方向の加速度、左右方向の加加速度を抑えることができ、車両100の乗員の乗り心地が向上する(
図3参照)。
【0029】
図4は、車両制御システム200の構成をより具体的に示すブロック図である。
車両制御システム200は、外界認識センサ装置300とともに、地図データベース301、V2Xモジュール302、GPS(Global Positioning System)受信部303、車両物理量センサ304を備える。
【0030】
地図データベース301は、車両100に搭載された記憶装置内に形成される。地図データベース301の地図情報は、道路位置、道路形状、交差点位置などの情報を含む。
V2X(ビークルツーエブリシング)モジュール302は、ADAS-ECU400や車両運動制御装置500のマイクロコンピュータが、他の車両のマイクロコンピュータや、道路上の設備である路側機との間で通信を行うための装置である。
【0031】
GPS受信部303は、GPS衛星から信号を受信することにより、車両100の位置の緯度及び経度を測定する。
ここで、車両制御システム200は、GPS受信部303が測定した車両100の位置の情報に基づき地図データベース301を参照することで、車両100が走行している道路を特定したり、車両100の目的地までの経路を設定したりする。
【0032】
車両物理量センサ304は、車速センサまたは車輪速センサを有し、車両100の車速を検出する。
更に、車両物理量センサ304は、車両100の前後加速度、左右加速度、上下加速度、ヨーレート、ピッチレート、ロールレートのうちのいずれかを検出する車両挙動センサを有する。
【0033】
車両運動制御装置500は、第2制御指令生成部530を構成する乗り心地制御部550を有し、乗り心地制御部550は、軌道生成部560及び軌道追従制御部570を有する。
軌道生成部560は、車両前方の走行可能領域の情報に基づき、安全安心、快適、かつ、時短で移動できる目標軌道を生成する軌道計画を実施する。
なお、軌道生成部560が生成する目標軌道は、目標経路の情報及び目標車速の情報を含む。
【0034】
ここで、「安全安心」とは、未知の状況やリスクを、余裕をもって避けられることを意図するもので、「快適」とは、曲がった道路でも乗員の体が前後左右に振られず乗員の乗り心地が良い走行を意図し、「時短」とは、法規や周囲環境の範囲においてできるだけ高い車速を維持することを意図する。
軌道生成部560は、上記の「快適」、換言すれば、乗り心地の良い走行を実現するために、車両100の左右方向の加速度、加加速度を条件として目標軌道を計画する。
【0035】
つまり、軌道生成部560は、運転支援、詳細には、LKA機能410、ACC機能420による走行状態に比べて左右方向の加速度、加加速度を小さくするために、左右方向の加速度、加加速度が所定範囲内になるように、目標軌道を計画する。
なお、加速度、加加速度の所定範囲とは、乗り心地の観点から許容される範囲であって、許容上限値を下回る範囲である。
そして、軌道追従制御部570は、軌道生成部560が計画した目標軌道に車両100を追従させるためのアクチュエータ制御指令、つまり、第2制御指令として、操舵制御指令、駆動制御指令、制動制御指令をそれぞれ出力する。
【0036】
また、車両運動制御装置500は、切り替え部540を構成する、制御介入判定部580及び3個の切替器590A,590B,590Cを有する。
制御介入判定部580は、乗り心地制御を介入させる条件、換言すれば、ADAS-ECU500による運転支援機能で生成された第1制御指令に代えて、乗り心地制御による第2制御指令をアクチュエータ部600に出力する条件が成立しているか否かを判定する。
そして、制御介入判定部580は、介入条件の成立、非成立の判定結果に応じた切り替え制御信号を、切替器590A,590B,590Cそれぞれに出力する。
【0037】
切替器590Aは、ADAS-ECU500(詳細には、LKA機能410)が出力する操舵制御指令(以下、第1操舵制御指令と称する。)、及び、乗り心地制御部550(詳細には、軌道追従制御部570)が出力する操舵制御指令(以下、第2操舵制御指令と称する。)を取得する。
そして、切替器590Aは、制御介入判定部580が乗り心地制御の介入条件の成立を判定すると、操舵装置610に出力する操舵制御指令を、第1操舵制御指令から第2操舵制御指令へ切り替える。
【0038】
切替器590Bは、ADAS-ECU500(詳細には、ACC機能420)が出力する駆動制御指令(以下、第1駆動制御指令と称する。)、及び、乗り心地制御部550が出力する駆動制御指令(以下、第2駆動制御指令と称する。)を取得する。
そして、切替器590Bは、制御介入判定部580が乗り心地制御の介入条件の成立を判定すると、駆動装置620に出力する駆動制御指令を、第1駆動制御指令から第2駆動制御指令へ切り替える。
【0039】
切替器590Cは、ADAS-ECU500(詳細には、ACC機能420)が出力する制動制御指令(以下、第1制動制御指令と称する。)、及び、乗り心地制御部550が出力する制動制御指令(以下、第2制動制御指令と称する。)を取得する。
そして、切替器590Cは、制御介入判定部580が乗り心地制御の介入条件の成立を判定すると、制動装置630に出力する制動制御指令を、第1制動制御指令から第2制動制御指令へ切り替える。
【0040】
以下では、軌道生成部560による目標軌道の生成処理、換言すれば、軌道計画を詳細に説明する。
図5は、軌道生成部560が、非線形最適化理論を用いて目標軌道(目標経路及び目標車速)を求める処理を概略的に示す図である。
軌道生成部560は、準ニュートン法などの既知の非線形最適化手法を用いて軌道計算を行うことで、複数の条件を満たす最適解としての目標軌道を求める。
【0041】
つまり、軌道生成部560は、非線形最適化問題として以下の拘束条件を満たし、評価関数を最大化する目標軌道を求める。
・拘束条件1:[安心安全]走行可能領域内に収める。
・拘束条件2:[時短]走破時間を最短にする。
・拘束条件3:[快適]左右方向の加速度、加加速度を許容値に収める。
このように、非線形最適化理論を用いて目標軌道を求める場合、基準となる中央線の情報を必要とせず、走行可能領域の形状によらない計算が可能である。
【0042】
図6及び
図7は軌道生成部560による目標軌道の計算例を第1ブロック-第3ブロック毎に示す図であり、
図6は道路形状に対する目標経路を示し、
図7は、目標車速及び目標軌道に追従させたときの加速度、加加速度の走行距離に対する変化を示す。
軌道生成部560は、時々刻々変化する走行領域に合わせて目標軌道を計算することで、車両100の左右方向の加速度、加加速度を許容範囲内に抑えた快適な乗り心地を実現できる目標軌道を生成する。
【0043】
ここで、軌道生成部560が実施する、LKA機能410及びACC機能420による軌道から、乗り心地制御による軌道に滑らかにつなげるための軌道切り替え処理を説明する。
なお、「軌道が滑らかにつながる」とは、たとえば、軌道の曲率の微分値が所定値以下で軌道の切り替えが行われ、また、車両100の横方向の加加速度が所定値以下で軌道の切り替えが行われることを意味する。
【0044】
図8は、軌道を滑らかにつなげるための軌道切り替え処理の第1形態を示す。
この第1形態において、軌道生成部560は、記憶部561(
図4参照)を有し、LKA機能410及びACC機能420による軌道を記憶部561に記憶させる。
そして、軌道生成部560は、乗り心地制御における目標軌道が、記憶部561に記憶した軌道から滑らかにつながるように計算する。
つまり、軌道の曲率の微分値が所定値以下または車両100の横方向の加加速度が所定値以下で軌道がつながるように、制御指令の切り替えが行われる。
【0045】
図9は、軌道を滑らかにつなげるための軌道切り替え処理の第2形態を示す。
この第2形態において、軌道生成部560は、LKA機能410及びACC機能420による運転支援がそのまま継続する場合の将来の軌道を予測する軌道予測部562(
図4参照)を有する。
そして、第2形態では、軌道予測部562が予測した予測軌道と第2制御指令とに基づいて制御指令の切り替えを行なう。
【0046】
軌道予測部562は、LKA機能410及びACC機能420によるこれまでの軌道、運転者の操作状態、車両100の運動状態などに基づいて、将来の軌道を予測する。
なお、運転者の操作状態は、ステアリングホイールの操作角、ステアリングホイールの操作力、ブレーキペダルの踏み込み、アクセルペダルの踏み込みのいずれかを含む。
また、車両100の運動状態は、車速、ヨーレート、左右前後の加速度のいずれかを含む。
【0047】
そして、軌道生成部560は、乗り心地制御による目標軌道の一部が、軌道予測部562が予測した軌道の一部あるいは全てに重なるように、乗り心地制御による目標軌道を生成する。
つまり、予測軌道の少なくとも一部に第2制御指令による軌道(換言すれば、乗り心地軌道)が重なるように、アクチュエータ部600へ出力する制御指令が第1制御指令から第2制御指令へ切り替えられる。
【0048】
図10は、軌道を滑らかにつなげるための軌道切り替え処理の第3形態を示す。
この第3形態において、軌道生成部560は、
図9に示した第2形態と同様に、軌道予測部562(
図4参照)を有する。
【0049】
軌道生成部560は、LKA機能410及びACC機能420による運転支援から乗り心地制御への切り替え直後は、軌道予測部562が推定した軌道を目標軌道とし、車両100を予測軌道に追従させる。
その後、軌道生成部560は、予測軌道から乗り心地制御による軌道に徐々に乗り替わるように、制御指令を切り替える。
【0050】
ところで、
図8-
図10は、LKA機能410及びACC機能420による運転支援状態から乗り心地制御に切り替えるとき、換言すれば、第1制御指令から第2制御指令に切り替えるときの処理を示すが、車両運動制御装置500は、逆方向の切り替えにおいても、第1形態―第3形態と同様な切り替え処理を実施することができる。
つまり、乗り心地制御からLKA機能410及びACC機能420による運転支援に戻すとき、換言すれば、第2制御指令から第1制御指令に切り替えるときに、
図8-
図10に示した、記憶部561や軌道予測部562を用いて軌道を滑らかにつなげる軌道切り替え処理を適用することができる。
【0051】
次に、軌道追従制御部570を詳細に説明する。
図11は、軌道追従制御部570の一態様を示すブロック図である。
軌道追従制御部570は、自車位置推定部571、曲率演算部572、最近接点演算部573、姿勢角演算部574、相対位置演算部575、及び、アクチュエータ指令部576を有する。
【0052】
自車位置推定部571は、車輪速、ヨーレート、前後加速度、左右加速度などの積分値に基づくデッドレコニングにより車両100の位置を推定する。
なお、軌道追従制御部570は、車両100の位置を、GPSを用いて特定することができる。
曲率演算部572は、軌道生成部560から目標軌道の情報を取得し、目標軌道の曲率及び曲率変化を演算する。
最近接点演算部573は、目標軌道上で車両100の位置に最も近い点である最近接点(換言すれば、最近接目標位置)を演算する。
【0053】
姿勢角演算部574は、目標軌道の曲率及び曲率変化に基づき、最近接点において自車両の進行方向を最近接点のヨー角(すなわち、目標軌道の接線方向)と一致させるために必要な自車両の姿勢角を、車速なども考慮して演算する。
相対位置演算部575は、自車両の位置に対する最近接点の相対位置を演算する。
【0054】
アクチュエータ指令部576は、姿勢角演算部574により演算された姿勢角に基づき最近接点のヨー角を補正する。
そして、アクチュエータ指令部576は、車両100が目標車速及び補正後のヨー角で最近接点を通過することになる、つまり、車両100を目標軌道に追従させるための、操舵指令、及び、加速指令(換言すれば、駆動指令)または減速指令(換言すれば、制動指令)を、最近接点の相対位置に基づき生成する。
【0055】
次に、制御介入判定部580による乗り心地制御の介入条件の判定処理を詳細に説明する。
図12は、制御介入判定部580が実行する、介入条件判定処理の一態様を示すフローチャートである。
制御介入判定部580は、まず、ステップS581で、車両前方の情報に基づき、乗り心地制御を実施できる条件が整っているか否かを判断する。
【0056】
ここで、制御介入判定部580は、たとえば、車両前方の認識情報を使用することができない場合に、乗り心地制御を実施できる条件が整っていないと判断する。
また、制御介入判定部580は、たとえば、車両前方の走行可能領域の形状が複雑すぎて経路の計算ができない場合に、乗り心地制御を実施できる条件が整っていないと判断する。
【0057】
制御介入判定部580は、ステップS581で、乗り心地制御を実施できる条件が整っていない(換言すれば、乗り心地制御の介入条件が成立していない)と判断すると、ステップS585に進んで、乗り心地制御を介入させることなく、LKA機能410やACC機能420などの運転支援機能を継続させる。
つまり、制御介入判定部580は、ステップS585に進んだ場合、乗り心地制御の介入条件が成立していないと判断した結果に応じた信号を切替器590A,590B,590Cに出力することで、第1制御指令から第2制御指令への切り替えは実行されず、第1制御指令が継続してアクチュエータ部600に出力される。
【0058】
一方、制御介入判定部580は、ステップS581で、乗り心地制御を実施できる条件が整っていると判断すると、ステップS582に進んで、更なる条件判定を実施する。
制御介入判定部580は、ステップS582で、運転支援機能によって車両100が走行すれば十分であるか否か、換言すれば、乗り心地制御によって所期の効果が得られるか否かを判断する。
【0059】
ここで、制御介入判定部580は、たとえば、車両100が走行している道路が高速道路であるなど、車線中央を走行するしかない場合に、運転支援機能によって車両100が走行すれば十分であると判断する。
また、制御介入判定部580は、たとえば、道路曲率が所定値以下で経路の修正による乗り心地の向上(換言すれば、横方向の加速度、加加速度の抑制)が見込めない場合、運転支援機能によって車両100が走行すれば十分であると判断する。
【0060】
制御介入判定部580は、ステップS582で、運転支援機能によって車両100が走行すれば十分である、換言すれば、乗り心地制御を介入させる必要性が低いと判断すると、ステップS585に進んで、乗り心地制御を介入させることなく、LKA機能410やACC機能420などの運転支援機能を継続させる。
一方、制御介入判定部580は、ステップS582で、乗り心地制御を介入させることで乗り心地の向上が見込まれると判断すると、ステップS583に進んで、更なる条件判定を実施する。
【0061】
制御介入判定部580は、ステップS583で、乗り心地よりも優先される所定の車両運動が要求されている状態であるか否かを判断する。
ここで、乗り心地よりも優先される所定の車両運動が要求されている状態とは、LKA機能410及びACC機能420以外の運転支援機能の実施状態、運転者による運転操作が行われた場合、安全機能の実施状態などである。
【0062】
LKA機能410及びACC機能420以外の運転支援機能は、駐車時支援機能や、衝突回避支援若しくは衝突被害軽減ブレーキなどの衝突安全機能などである。
また、運転者による運転操作には、運転者によるステアリングホイールの操作、ブレーキペダルやアクセルペダルなど操作が含まれる。
【0063】
また、安全機能は、ABS(Anti-lock Braking System)と呼ばれる車輪のロックによる滑走発生を低減する機能や、ESC(Electronic Stability Control)と呼ばれる車両100の横滑りを抑止する機能などである。
制御介入判定部580は、ステップS583で、乗り心地よりも優先される所定の車両運動が要求されていると判断すると、ステップS585に進んで、乗り心地制御を介入させることなく、LKA機能410やACC機能420などの運転支援機能を継続させる。
【0064】
一方、制御介入判定部580は、ステップS583で、乗り心地制御よりも優先される所定の車両運動が要求されていないと判断すると、乗り心地制御の介入条件が成立していると判断して、ステップS584に進み、乗り心地制御を介入させる設定を行う。
つまり、制御介入判定部580は、ステップS584に進んだ場合、乗り心地制御の介入条件が成立していると判断した結果に応じた信号を切替器590A,590B,590Cに出力することで、アクチュエータ部600に出力される制御指令が第1制御指令から第2制御指令へ切り替えられ、乗り心地制御が実施される。
【0065】
なお、乗り心地制御に移行した後に、たとえば道路曲率が所定値以下になって車両の前方情報が所定の条件を満たさなくなった場合、制御介入判定部580は、ステップS585に進んで、乗り心地制御を停止させる。
また、乗り心地制御に移行した後に、たとえばESCなどの安全機能が作動した場合も、制御介入判定部580は、ステップS585に進んで、乗り心地制御を停止させる。
更に、乗り心地制御に移行した後に、運転者がたとえば操舵操作を行うと、制御介入判定部580は、ステップS585に進んで、乗り心地制御が停止させる。
【0066】
次に、車両運動制御装置500が、乗り心地制御の介入を解除し、LKA機能410やACC機能420などによる制御に戻るときの処理を説明する。
図8-
図10に示したように、車両運動制御装置500は、乗り心地制御を介入させるときに、LKA機能410やACC機能420などによる軌道から、乗り心地制御による軌道につなげるようにする。
【0067】
これに対し、車両運動制御装置500は、乗り心地制御の介入を解除するとき、アクチュエータ部600に出力する制御指令を、乗り心地制御による第2制御指令からLKA機能410やACC機能420などによる第1制御指令にまで徐々に変化させる。
なお、切替器590A,590B,590Cが、第2制御指令から第1制御指令にまで徐々に変化させる機能を有することができる。
【0068】
図13は、乗り心地制御の介入を解除するときの制御指令の変化を例示するタイムチャートである。
車両運動制御装置500は、時刻t1において乗り心地制御の介入解除の条件が成立すると、アクチュエータ部600に出力する制御指令を、乗り心地制御による第2制御指令からLKA機能410やACC機能420などによる第1制御指令に徐々に近づける処理を開始する。
【0069】
そして、車両運動制御装置500は、アクチュエータ部600に出力する制御指令を、数秒の時間をかけて第2制御指令から第1制御指令にまで変化させ、時刻t2において、アクチュエータ部600に出力する制御指令を第1制御指令に戻す。
このように、車両運動制御装置500は、第2制御指令から第1制御指令にまで徐々に変化させることで、制御指令の切り替えに伴って車両挙動が急に変化することを抑止し、また、制御指令の切り替えが乗員に違和感を与えないようにする。
【0070】
但し、車両運動制御装置500は、制御信号を第2制御指令から第1制御指令にまで変化させる時間、換言すれば、制御指令を第2制御指令から第1制御指令にまで変化させるときの制御指令の変化速度を、解除の要因となった条件に応じて変更することができる。
具体的には、車両運動制御装置500は、乗り心地制御の介入解除の条件成立が、衝突安全機能やABSやESCなどの安全機能の実行に因る場合、制御信号を第2制御指令から第1制御指令にまで変化させる時間(
図13の時刻t1から時刻t2までの時間Δt)を、他の解除条件に基づき解除するときに比べて短くすることができる。
【0071】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0072】
図1に示した車両制御システム200では、ADAS-ECU400と、車両運動制御装置500とを個別のユニットとして備えるが、ADAS-ECU400が車両運動制御装置500の機能、つまり、乗り心地制御機能を備えることができる。
図14は、ADAS-ECU400が車両運動制御装置500の機能を備える場合の機能ブロック図である。
【0073】
ここで、ADAS-ECU400が、運転支援制御のための演算処理を実行する第1マイクロコンピュータと、乗り心地制御のための演算処理を実行する第2マイクロコンピュータとを備えることができる。
また、ADAS-ECU400が備える1個のマイクロコンピュータが、運転支援制御のための演算処理と、乗り心地制御のための演算処理とを実行することができる。
【0074】
また、ADAS-ECU400は、LKA機能410やACC機能420に加え、高速道路で自動追い越しを行なう自動運転機能や、高速道路の分合流を自動で行う機能などを備えることができる。
また、アクチュエータ部600は、油圧や空気圧などのエネルギー源をもったアクティブサスペンション(active suspension)を含むことができる。そして、車両運動制御装置500は、乗り心地制御においてダンパーの減衰力などの制御指令をアクティブサスペンションに出力することができる。
【0075】
また、車両運動制御装置500は、車両100のドライブモードが複数種用意されている場合に、乗り心地重視の「コンフォート」のモードが選択されていることを条件に、乗り心地制御の介入を実施することができる。
また、車両運動制御装置500は、乗り心地制御において、左右方向の加速度、加加速度を小さくするために、経路と車速とのいずれか一方を計算し、計算した目標を実現するための制御指令(第2制御指令)をアクチュエータ部600に出力することができる。
【符号の説明】
【0076】
100…車両、200…車両制御システム、300…外界認識センサ装置、400…運転支援コントロールユニット(ADAS-ECU、第1コントロールユニット)、410…レーンキープアシスト機能(LKA機能)、420…アダプティブクルーズコントロール機能(ACC機能)、500…車両運動制御装置(車両制御装置、第2コントロールユニット)、510…前方情報取得部、520…第1制御指令取得部、530…第2制御指令生成部、540…切り替え部、600…アクチュエータ部、610…操舵装置、620…駆動装置、630…制動装置