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  • 特許-ポリビニルアセタール樹脂 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-18
(45)【発行日】2025-02-27
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 16/38 20060101AFI20250219BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20250219BHJP
   C08F 8/28 20060101ALI20250219BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250219BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20250219BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20250219BHJP
【FI】
C08F16/38
C04B35/634 200
C08F8/28
C08K3/013
C08L29/14
H01G13/00 351Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024092310
(22)【出願日】2024-06-06
(62)【分割の表示】P 2024083510の分割
【原出願日】2024-05-22
【審査請求日】2024-06-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】北村 俊介
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106398071(CN,A)
【文献】特許第7432051(JP,B2)
【文献】特開2011-236304(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023517(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/023518(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/047717(WO,A1)
【文献】特開2010-001488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/38
C04B 35/634
C08F 8/28
C08K 3/013
C08L 29/14
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差屈折率検出器を用いたGPC測定における、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)と、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)とが下記式(1)を満たし、かつ、
赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて、波数3050~3750cm-1の範囲内におけるピークの最小透過率をX(%)としたとき、[100-(100-X)/2]を満たす透過率a(%)を示す波数のうち、低波数側の波数をA、高波数側の波数をBとした場合、前記A、B及びH-NMRで測定された水酸基量を用い、下記式(2)で求められる水酸基量換算波数幅が8.3~9.4であり、
水酸基量が18モル%以上、40モル%以下、アセチル基量が0.1モル%以上、20モル%以下である、ポリビニルアセタール樹脂。
THFMz-NMPMz<470000 (1)
水酸基量換算波数幅(cm-1/mol%)=[(B-A)/水酸基量] (2)
【請求項2】
前記Aが3275cm-1以上、3305cm-1以下である、請求項1に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
前記A、B並びにH-NMRで測定された水酸基量及びアセタール基量を用い、下記式(3)で求められる水酸基アセタール基量換算波数幅が0.120~0.135である、請求項1又は2記載のポリビニルアセタール樹脂。
水酸基アセタール基量換算波数幅(cm-1/mol%/mol%)=[(B-A)/水酸基量/アセタール基量] (3)
【請求項4】
エタノールとトルエンとの1:1混合溶剤に溶解した5質量%溶液を、溶液温度が20℃の条件でB型粘度計を用いて測定した場合の溶液粘度が64mPa・s以上、2000mPa・s以下である、請求項1又は2に記載のポリビニルアセタール樹脂。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリビニルアセタール樹脂と、有機溶剤と、セラミック粉末とを含有する、セラミックグリーンシート用スラリー。
【請求項6】
請求項に記載のセラミックグリーンシート用スラリーを用いてなる、セラミックグリーンシート。
【請求項7】
請求項に記載のセラミックグリーンシートを用いて得られる、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシート用スラリー、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器に搭載される電子部品の小型化、積層化が進んでおり、多層回路基板、積層コイル、積層セラミックコンデンサ等の積層型電子部品が広く使用されている。
なかでも、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造されている。
まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ビーズミル、ボールミル等の混合装置により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、又はSUSプレート等の支持体面に流延して、これを加熱等により、溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
次に、得られたセラミックグリーンシート上に、内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷により塗布したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を作製する。その後、積層体中に含まれるバインダー樹脂成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行い、焼成して得られるセラミック焼結体の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミック・バインダーとして好適なポリビニルアセタール樹脂として、所定の重合度、ビニルエステル単位の含有率、アセタール化度を有し、アセトアルデヒドによりアセタール化された部分とブチルアルデヒドによってアセタール化された部分とのモル比が所定の範囲であるポリビニルアセタール樹脂が記載されている。
また、特許文献2には、所定の重合度、ビニルエステル単位の含有率、アセタール化度を有し、特定の構成単位を有するポリビニルアセタール樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-236304号公報
【文献】国際公開第2012/023517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年では、電子機器の多機能化、小型化に伴い、積層セラミックコンデンサは、大容量化小型化が求められており、セラミックグリーンシートにも更なる薄層化が求められている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載のポリビニルアセタール樹脂を用いた場合、得られるセラミックグリーンシートの強度が不充分なものになるという問題がある。
また、得られるセラミックグリーンシートの表面粗さが低下するという問題もある。
【0006】
本発明は、機械的強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができ、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを作製可能なポリビニルアセタール樹脂、及び、該ポリビニルアセタール樹脂を用いたセラミックグリーンシート用スラリー、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示1は、示差屈折率検出器を用いたGPC測定における、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)と、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)とが下記式(1)を満たし、かつ、赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて、波数3050~3750cm-1の範囲内におけるピークの最小透過率をX(%)としたとき、[100-(100-X)/2]を満たす透過率a(%)を示す波数のうち、低波数側の波数をA、高波数側の波数をBとした場合、前記A、B及びH-NMRで測定された水酸基量を用い、下記式(2)で求められる水酸基量換算波数幅が8.3~9.4である、ポリビニルアセタール樹脂である。
THFMz-NMPMz<470000 (1)
水酸基量換算波数幅(cm-1/mol%)=[(B-A)/水酸基量] (2)
本開示2は、前記Aが3275cm-1以上、3305cm-1以下である、本開示1に記載のポリビニルアセタール樹脂である。
本開示3は、前記A、B並びにH-NMRで測定された水酸基量及びアセタール基量を用い、下記式(3)で求められる水酸基アセタール基量換算波数幅が0.120~0.135である、本開示1又は2記載のポリビニルアセタール樹脂である。
水酸基アセタール基量換算波数幅(cm-1/mol%/mol%)=[(B-A)/水酸基量/アセタール基量] (3)
本開示4は、エタノールとトルエンとの1:1混合溶剤に溶解した5質量%溶液を、溶液温度が20℃の条件でB型粘度計を用いて測定した場合の溶液粘度が64mPa・s以上、2000mPa・s以下である、本開示1~3の何れかに記載のポリビニルアセタール樹脂である。
本開示5は、水酸基量が18モル%以上、40モル%以下である、本開示1~4の何れかに記載のポリビニルアセタール樹脂である。
本開示6は、アセチル基量が0.1モル%以上、20モル%以下である、本開示1~5の何れかに記載のポリビニルアセタール樹脂である。
本開示7は、本開示1~6の何れかに記載のポリビニルアセタール樹脂と、有機溶剤と、セラミック粉末とを含有する、セラミックグリーンシート用スラリーである。
本開示8は、本開示7に記載のセラミックグリーンシート用スラリーを用いてなる、セラミックグリーンシートである。
本開示9は、本開示8に記載のセラミックグリーンシートを用いて得られる、積層セラミックコンデンサである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、移動相の溶媒を変更して測定したz平均分子量が所定の関係を満たし、かつ、赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて3050~3750cm-1の範囲内でのピークの波数幅が所定の範囲内であるポリビニルアセタール樹脂は、機械的強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができ、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、示差屈折率検出器を用いたGPC測定における、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)と、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)とが下記式(1)を満たし、かつ、赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて、波数3050~3750cm-1の範囲内におけるピークの最小透過率をX(%)としたとき、[100-(100-X)/2]を満たす透過率a(%)を示す波数のうち、低波数側の波数をA、高波数側の波数をBとした場合、前記A、B及びH-NMRで測定された水酸基量を用い、下記式(2)で求められる水酸基量換算波数幅が8.3~9.4である。
THFMz-NMPMz<470000 (1)
水酸基量換算波数幅(cm-1/mol%)=[(B-A)/水酸基量] (2)
このようなポリビニルアセタール樹脂を用いることで、強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0010】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、示差屈折率検出器を用いたGPC測定における、z平均分子量(THFMz)と、z平均分子量(NMPMz)とが上記式(1)を満たす。上記範囲内とすることで、分子量のバラツキを狭小化してセラミックグリーンシートの表面粗さを低減することができる。
上記THFMz-NMPMzは、100以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、470000未満であることが好ましく、450000未満であることがより好ましい。
本発明において、THFMz-NMPMzは、水素結合性による見かけ分子量のバラツキの狭小性の指標となる。
上記THFMz-NMPMzは、移動相、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、検出器として示差屈屈折率検出器を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)を測定した後、移動相、溶媒としてN-メチルピロリドンを用い、検出器として示差屈屈折率検出器を用いたGPC測定により、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)を測定し、THFMz-NMPMzを計算することで算出することができる。
上記THFMzの測定に使用するカラムとしては、TSKgelSuperHZM-H(東ソー社製)、上記NMPMzの測定に使用するカラムとしては、LF-804(Shodex社製)等を用いることができる。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)が、300,000以上2,000,000以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシートの強度のばらつきを抑制することができる。上記THFMzは、400,000以上であることがより好ましく、1,200,000以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)が、300,000以上1,500,000以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシートのばらつきを抑制することができる。上記NMPMzは、400,000以上であることがより好ましく、1000,000以下であることがより好ましい。
【0013】
上記THFMz-NMPMzは、例えば、原料ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度、ケン化度、アセタール化反応の温度や時間条件を変化させ、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量、水酸基量、アセチル基量等を適宜設定することで調整することができる。
特に、上記THFMz-NMPMzは、後述するアセタール化反応時の冷却温度、冷却時間、反応温度、反応時間、保持(熟成)温度、保持(熟成)時間を変化させることで調整することができ、特に反応温度、反応時間、冷却温度、冷却時間を変化させることで調整することが可能となる。
【0014】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて、波数3050~3750cm-1の範囲内におけるピークの最小透過率をX(%)としたとき、[100-(100-X)/2]を満たす透過率a(%)を示す波数のうち、低波数側の波数をA、高波数側の波数をBとした場合、前記A、B及びH-NMRで測定された水酸基量を用い、上記式(2)で求められる水酸基量換算波数幅が8.3~9.4である。
上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシートの強度を向上することができる。
上記波数幅の好ましい下限は8.3、より好ましい下限は8.35であり、好ましい上限は9.4、より好ましい上限は9.35である。
本発明において、上記波数幅は、樹脂同士の水素結合量の指標となる。
上記IR吸収スペクトルの測定は、例えば、20℃の条件でフーリエ変換赤外分光光度計(HORIBA社製「FT-720」、日本分光社製「FT/IR-4000」等)を用いて透過法により測定することができる。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、前記A、B並びにH-NMRで測定された水酸基量及びアセタール量を用い、上記式(3)で求められる水酸基アセタール基量換算波数幅が0.120~0.135であることが好ましい。
上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシートの強度を向上することができる。
上記水酸基アセタール基量換算波数幅のより好ましい下限は0.122、更に好ましい下限は0.123であり、より好ましい上限は0.134、より好ましい上限は0.133である。
【0016】
上記赤外分光光度計によるポリビニルアセタール樹脂の分析では、ポリビニルアセタール樹脂が有するC-H結合の伸縮振動に由来したスペクトルが2980cm-1付近に出現する。上記ピーク分析は、まず、このC-H結合の伸縮振動に由来するピークの最小透過率が、2500cm-1と3050cm-1とを結んでベースラインとしたときに20%になるよう測定サンプルの膜厚を調整して測定する。更に、その測定結果で上記波数3050~3750cm-1の範囲内において出現したピークに対してベースラインを引き、ピークの両端の透過率が100%となるよう補正したデータに対して実施する。
【0017】
本発明のポリビニルアセタール樹脂について、20℃の条件で赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルの一例を図1に示す。図1は、縦軸を透過率、横軸を波数としたものである。
図1に示すIR吸収スペクトルにおいて、最小透過率Xは65.7%である。また、[100-(100-X)/2]を満たす透過率aは82.85%であり、低波数側の波数Aは3297cm-1、高波数側の波数Bは3557cm-1である。上記の場合、水酸基量が30モル%であれば、水酸基量換算波数幅[(B-A)/水酸基量]は8.67(cm-1/モル%)である。
上記波数Aは、3275cm-1以上が好ましく、3280cm-1以上がより好ましい。3305cm-1以下が好ましく、3300cm-1以下が好ましい。
上記波数Bは、3530cm-1以上が好ましく、3550cm-1以上がより好ましい。3600cm-1以下が好ましく、3580cm-1以下が好ましい。
上記透過率aは、80%以上が好ましく、85%以下が好ましい。
【0018】
上記波数幅は、例えば、原料ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度、ケン化度、アセタール化反応の温度や時間条件を変化させ、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量、水酸基量、アセチル基量等を適宜設定することで調整することができる。
上記波数幅は、後述するアセタール化反応時の冷却温度、冷却時間、冷却速度、昇温速度、反応温度、反応時間、保持(熟成)温度、保持(熟成)時間を変化させることで調整することができ、特に冷却温度、冷却時間を変化させることで調整することが可能となる。
【0019】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、エタノールとトルエンとの1:1混合溶剤に溶解した5質量%溶液を、溶液温度が20℃の条件でB型粘度計を用いて測定した場合の溶液粘度が64mPa・s以上、2000mPa・s以下であることが好ましい。
引張強度を良くすることができる点から、上記粘度はより好ましくは64mPa・s以上、さらに好ましくは65mPa・s以上である。セラミックスラリー組成物の粘度安定性を良くすることができる点からより好ましくは2000mPa・s以下、さらに好ましくは1800mPa・s以下である。
上記B型粘度計としては、例えば、東機産業社製、TVB-10形粘度計を用いることができる。また、粘度測定の際のローターや回転数は、溶液粘度によって適宜調整して測定することが好ましく、例えば、回転数0.3~100rpmの範囲で、SPINDLE No.M1~M4を用いて測定することが好ましい。
【0020】
上記粘度は、例えば、例えば、原料ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度、ケン化度、アセタール化反応の温度や時間条件を変化させ、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量、水酸基量、アセチル基量等を適宜設定することで調整することができる。
【0021】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、下記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位、下記式(5)で表される水酸基を有する構成単位、下記式(6)で表されるアセチル基を有する構成単位を有することが好ましい。
【0022】
【化1】
上記式(4)中、Rは水素原子又は炭素数1~20のアルキル基を表す。
【0023】
上記式(4)中、Rが炭素数1~20のアルキル基である場合、該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、n-プロピル基が好ましい。
【0024】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記式(4)で表されるアセタール基を有する構成単位の含有量(以下、「アセタール基量」ともいう)の好ましい下限は50モル%、好ましい上限は83モル%である。
上記アセタール基量が50モル%以上であると、有機溶剤への溶解性を向上させることができる。上記アセタール基量が83モル%以下であると、引張強度に優れたポリビニルアセタール樹脂とすることができる。
上記アセタール基量は、より好ましい下限が55モル%、より好ましい上限が80モル%である。すなわち、上記アセタール基量は50~83モル%であることが好ましく、55~80モル%であることがより好ましい。
上記水酸基量とすることで、水酸基量アセタール基量換算波数幅を所定の範囲とすることができる。
上記アセタール基量は、例えば、H-NMRにより測定することができる。
なお、アセタール基量の計算方法については、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基がポリビニルアルコールの2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用する。
【0025】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(5)で表される水酸基を有する構成単位の含有量(以下、「水酸基量」ともいう)の好ましい下限は18モル%、好ましい上限は40モル%である。
上記水酸基量が18モル%以上であると、強靭性の高いポリビニルアセタール樹脂とすることができる。上記水酸基量が40モル%以下であると、有機溶剤への溶解性を充分に向上させることができる。
上記水酸基量は、より好ましい下限が22モル%、より好ましい上限が38モル%である。すなわち、上記水酸基量は18~40モル%であることが好ましく、22~38モル%であることがより好ましい。
上記水酸基量とすることで、水酸基量換算波数幅や水酸基量アセタール基量換算波数幅を所定の範囲とすることができる。
上記水酸基量は、例えば、H-NMRにより測定することができる。
【0026】
本発明のポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(6)で表されるアセチル基を有する構成単位の含有量(以下、「アセチル基量」ともいう)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は20.0モル%である。
上記アセチル基量が0.1モル%以上であると、ポリビニルアセタール樹脂中の水酸基の分子内及び分子間の水素結合によるセラミックグリーンシート用スラリー組成物の高粘度化を抑制することができる。上記アセチル基量が20.0モル%以下であると、ポリビニルアセタール樹脂の柔軟性が上がりすぎることなく、ハンドリング性を向上させることができる。
上記アセチル基量は、より好ましい下限が0.5モル%、より好ましい上限が18.0モル%である。すなわち、上記アセチル基量は0.1~20.0モル%であることが好ましく、0.5~18.0モル%であることがより好ましい。
上記アセチル基量は、例えば、H-NMRにより測定することができる。
【0027】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、薄膜セラミックグリーンシートを作製する場合に、機械的強度が保てるという観点から、平均重合度の好ましい下限が500、より好ましい下限が600、また有機溶剤への溶解性や、溶解粘度の観点から、好ましい上限が10,000、より好ましい上限が9,000である。すなわち、上記平均重合度は500~10,000であることが好ましく、600~9,000であることがより好ましい。
なお、上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は原料ポリビニルアルコールのものと同様である。また、上記平均重合度は、JIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、通常、ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することにより製造することができる。
【0029】
上記ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系樹脂をアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。
上記ポリビニルアルコール樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセモ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコール樹脂であってもよい。また、上記ポリビニルアルコール樹脂としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂等、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
上記ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0030】
上記ポリビニルアルコール樹脂は、ケン化度が75モル%以上であることが好ましい。
上記ケン化度は76モル%以上99.9モル%以下であることがより好ましく、78モル%以上99.5モル%以下であることが更に好ましい。すなわち、上記ケン化度は76~99.9モル%であることが好ましく、78~99.5モル%であることがより好ましい。
【0031】
上記アセタール化は、水溶剤中、水と水との相溶性のある有機溶剤との混合溶剤中、あるいは有機溶剤中で行うことが好ましい。
上記水との相溶性のある有機溶剤としては、例えば、アルコール系有機溶剤を用いることができる。
上記有機溶剤としては、例えば、アルコール系有機溶剤、芳香族有機溶剤、脂肪族エステル系溶剤、ケトン系溶剤、低級パラフィン系溶剤、エーテル系溶剤、アミド系溶剤、アミン系溶剤等が挙げられる。
上記アルコール系有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール等が挙げられる。
上記芳香族有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、安息香酸メチル等が挙げられる。
上記脂肪族エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等が挙げられる。
上記ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン等が挙げられる。
上記低級パラフィン系溶剤としては、ヘキサン、ペンタン、オクタン、シクロヘキサン、デカン等が挙げられる。
上記エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
上記アミド系溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルテセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトアニリド等が挙げられる。
上記アミン系溶剤としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン等が挙げられる。
これらは、単体で用いることもできるし、2種以上の溶剤を混合で用いることもできる。これらのなかでも、樹脂に対する溶解性及び精製時の簡易性の観点から、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0032】
上記アセタール化は、酸触媒の存在下において行うことが好ましい。
上記酸触媒は特に限定されず、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で用いられてもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0033】
上記アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、炭素数1~10の鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有するアルデヒドが挙げられる。これらのアルデヒドとしては、従来公知のアルデヒドを使用できる。上記アセタール化反応に用いられるアルデヒドは、特に限定されるものではなく、例えば、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド等が挙げられる。
上記脂肪族アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、アミルアルデヒド等が挙げられる。
上記芳香族アルデヒドとしては、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。
これらのアルデヒドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アルデヒドとしては、なかでも、アセタール化反応性に優れ、生成する樹脂に充分な内部可塑効果をもたらし、結果として良好な柔軟性を付与することができるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ノニルアルデヒドが好ましい。また、耐衝撃性及び金属との接着性に特に優れる接着剤組成物を得られることから、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0034】
上記アルデヒドの添加量としては、目的とするポリビニルアセタール樹脂のアセタール基量にあわせて適宜設定することができる。特に、ポリビニルアルコール100モル%に対して、好ましくは50モル%以上95モル%以下、より好ましくは55モル%以上90モル%以下とすると、アセタール化反応が効率よく行われ、未反応のアルデヒドも除去しやすいため好ましい。
【0035】
上記アセタール化反応は、所定の温度に降温し保持した(冷却工程)後、所定の温度に昇温し保持する(反応工程)ことが好ましい。
上記冷却工程における冷却時間は、30分以上、5時間以下であることが好ましく、1時間以上、3時間以下であることがより好ましい。
また、冷却工程における冷却温度は8℃以上、20℃以下であることが好ましく、10℃以上、17℃以下であることが好ましい。
さらに、冷却速度は、0.2℃/分以上、3℃/分以下であることが好ましく、0.5℃/分以上、2℃/分以下であることがより好ましい。
上記冷却時間、冷却温度とすることで、上記波数幅を所定の範囲とすることができる。
【0036】
上記反応工程における反応時間は、1時間以上、12時間以下であることが好ましく、2時間以上、6時間以下であることがより好ましい。
上記反応工程における反応温度は、47℃以上、58℃以下であることが好ましく、50℃以上、55℃以下であることがより好ましい。
また、昇温速度は、0.05℃/分以上、1.5℃/分以下であることが好ましく、0.1℃/分以上、1℃/分以下であることがより好ましい。
上記反応時間、反応温度とすることで、上記THFMz-NMPMzを所定の範囲とすることができる。
【0037】
本発明のポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤とを含むことで、セラミックグリーンシート用樹脂組成物とすることができる。
上記セラミックグリーンシート用樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、酸化防止剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の成分を含有していてもよい。
【0038】
上記セラミックグリーンシート用樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドによってアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂に対して、可塑剤及びその他必要に応じて添加される添加剤を添加して混合してセラミックグリーンシート用樹脂組成物とすることができる。
【0039】
上記セラミックグリーンシート用樹脂組成物は、可塑剤を含む。上記可塑剤を添加することで、得られるセラミックグリーンシートの機械的強度、及び、柔軟性を大幅に向上させることができる。
上記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)等のフタル酸ジエステル、ジオクチルアジペート等のアジピン酸ジエステル、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルブチレート、テトラエチレングリコール-ジ-ヘプタノエート、トリエチレングリコール-ジ-ヘプタノエート等のアルキレングリコールジエステル等が挙げられる。
【0040】
上記セラミックグリーンシート用樹脂組成物において、上記可塑剤の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する好ましい下限が7重量部、より好ましい下限が8.5重量部、好ましい上限が18重量部、より好ましい上限が13.5重量部である。
【0041】
本発明のポリビニルアセタール樹脂に有機溶剤、セラミック粉末を混合することでセラミックグリーンシート用スラリーを作製することができる。
【0042】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。また、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。更に、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2-エチルヘキシル、酪酸2-エチルヘキシル等のエステル類等が挙げられる。また、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等が挙げられる。特に、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類及びこれらの混合溶剤が塗工性、乾燥性の面から見て好ましい。なかでも、エタノールとトルエンの混合溶剤やメチルエチルケトンとトルエンの混合溶剤がより好ましい。
【0043】
上記セラミックグリーンシート用スラリー中の上記有機溶剤の含有量は、用いられるポリビニルアセタール樹脂の種類等によって設定されるものであって、特に限定されるものではないが、あまり少ないと、混錬に必要な溶解性を発揮しにくい。また、あまり多いと、セラミックグリーンシート用スラリー組成物の粘度が低くなり過ぎてセラミックグリーンシートを作製する際のハンドリング性が悪くなることがある。このため、有機溶剤の含有量は、好ましくは20重量%以上80重量%以下である。
【0044】
上記セラミック粉末としては、セラミックの製造に使用される金属又は非金属の酸化物もしくは非酸化物の粉末が挙げられる。また、これらの粉末の組成は単一組成、化合物の状態のものを単独又は混合して使用しても差し支えない。なお、金属の酸化物又は非酸化物の構成元素はカチオン又はアニオンともに単元素でも複数の元素から成り立っていてもよく、更に酸化物又は非酸化物の特性を改良するために加えられる添加物を含んでいてもよい。具体的には、Li、K、Mg、B、Al、Si、Cu、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Ga、In、Y、ランタノイド、アクチノイド、Ti、Zr、Hf、Bi、V、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Co、Ni等の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物等が挙げられる。
また、通常複酸化物と称される複数の金属元素を含む酸化物粉末の具体的なものを結晶構造から分類すると、ペロブスカイト型構造をとるものとしてNaNbO、SrZrO、PbZrO、SrTiO、BaZrO、PbTiO、BaTiO等が挙げられる。スピネル型構造をとるものとしてMgAl、ZnAl、CoAl、NiAlO4、MgFe等が挙げられる。イルメナイト型構造をとるものとしてはMgTiO、MnTiO、FeTiO等が挙げられる。ガーネット型構造をとるものとしてはGdGa12、YFe12等が挙げられる。このなかでも、本願の変性ポリビニルアセタール樹脂は、BaTiOの粉末と混合したセラミックグリーンシートに対し、高い特性を示す。
【0045】
上記セラミック粉末の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、薄層セラミックグリーンシート(厚さ5μm以下)の作製用としては、0.5μm以下であることが好ましい。
【0046】
上記セラミックグリーンシート用スラリーは、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリビニルアセタール樹脂以外のポリビニルアセタール樹脂や、アクリル樹脂、エチルセルロース等の他の樹脂を含有していてもよい。このような場合、全バインダー樹脂に対する本発明のポリビニルアセタール樹脂の含有量が50重量%以上であることが好ましい。
【0047】
上記セラミックグリーンシート用スラリーには、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、充填剤等を適宜添加してもよく、場合によってはアクリル樹脂やウレタン樹脂等の他樹脂を少量添加してもよい。
【0048】
上記セラミックグリーンシート用スラリーを製造する方法としては特に限定されず、例えば、本発明のポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤、セラミック粉末及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
【0049】
上記セラミックグリーンシート用スラリーを塗工した後、加熱し乾燥させることでセラミックグリーンシートが得られる。
上記セラミックグリーンシートを用いて、セラミック電子部品を製造することができる。例えば、セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層し加熱圧着して得られた積層体を脱脂、焼成する工程を行うことで、セラミック電子部品を製造することができる。
【0050】
上記セラミックグリーンシート用スラリー組成物を塗工する場合の方法としては、特に限定されず、例えば、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の方法が挙げられる。なお、その他の具体的な方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0051】
上記セラミック電子部品としては特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、キャパシタ、圧電アクチュエーター、積層バリスタ、積層サーミスタ、EMIフィルタ、窒化アルミニウム多層基板、アルミナ多層基板等が挙げられる。このような積層セラミックコンデンサもまた本発明の1つである。
【0052】
上記セラミック電子部品の製造方法では、上記セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程を行う。
電極層用ペーストとしては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂やエチルセルロース、アクリル樹脂等をバインダー樹脂として有機溶剤に溶解し、導電粉末等を分散させることで得ることができる。これらの樹脂は単独で使用しても2種以上混合して使用してもよい。ポリビニルアセタール樹脂を含有する電極層用ペーストは、加熱圧着工程において、セラミックグリーンシートに優れた接着性を示すので好ましい。
【0053】
上記セラミック電子部品の製造方法では、上述した、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを作製した後、同様にして作製した電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層し加熱圧着して得られた積層体を脱脂、焼成することで、シートアタックやクラック等の問題が解決された積層セラミック電子部品が得られる。
なお、上記加熱圧着工程、積層体を脱脂、焼成する工程については特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、機械的強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができ、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを作製可能なポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシート用スラリー、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明のポリビニルアセタール樹脂について、IR吸収スペクトル測定を行った場合のIR吸収スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.1モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、17℃で1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、50℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
【0058】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたポリビニルアセタール樹脂2重量部、及び、ジオクチルフタレート(DOP)2重量部を、エタノール/トルエン混合溶剤(重量比1:1)96重量部に加え、攪拌溶解することにより、樹脂溶液を作製した。
また、ポリビニルアセタール樹脂「BL-1」(積水化学工業社製)3重量部をエタノール/トルエン混合溶剤(重量比1:1)40重量部に加え、攪拌溶解した。次いで、チタン酸バリウム粉末(堺化学工業社製、BT01)100重量部を加え、ビーズミル(アイメックス社製レディーミル)にて180分間攪拌することにより、無機分散液を作製した。
得られた無機分散液に上記樹脂溶液100重量部を加えてビーズミルにて攪拌することにより、スラリー組成物を得た。なお、攪拌中、5分毎にサンプリングを実施し、得られたスラリー組成物0.1重量部を、エタノール/トルエン混合溶剤(重量比1:1)10重量部に添加し、超音波分散機(エスエヌディ社製 US-303)にて撹拌することにより、分散評価用溶液を作製した。レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製、LA-910)を用いて粒度分布測定を行い、粒度分布のD50値が1.0μmに達した時点で攪拌を終了した。
得られたスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが20μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、加熱乾燥させ、セラミックグリーンシートを作製した。
【0059】
(実施例2)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.2モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、10℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、50℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0060】
(実施例3)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.2モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、10℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、55℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0061】
(実施例4)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.2モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、17℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、55℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0062】
(実施例5)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.4モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、17℃にて3時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、50℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0063】
(実施例6)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.1モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、10℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、50℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、3時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0064】
(比較例1)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.1モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を反応温度以下まで冷却せず、50℃に冷却した。次いで、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0065】
(比較例2)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.4モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、23℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、55℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0066】
(比較例3)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.0モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、17℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、40℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0067】
(比較例4)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.2モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、5℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、50℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し、6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0068】
(比較例5)
ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、ケン化度99.1モル%)300gに純水3000gを加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を1℃/分で冷却し、10℃にて1時間保持することで冷却した。次いで、0.5℃/分で、65℃まで再昇温し、これに濃度35重量%の塩酸220gとn-ブチルアルデヒド180gとを添加し6時間保持してアセタール化反応[反応工程]を行った。その後、常法により中和、水洗及び乾燥を行い、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0069】
(評価)
実施例及び比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシートについて、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0070】
(1)ポリビニルアセタール樹脂の評価
(1-1)アセタール基量、水酸基量、アセチル基量
得られたポリビニルアセタール樹脂について、AV400型分光計(Bruker社製)を使用して、H-NMR測定を行い、アセタール基量、水酸基量、アセチル基量を算出した。
なお、得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-D中に1.6重量%になるように溶解し、測定溶液とした。また、H-NMR測定は80℃で実施した。
【0071】
(1-2)z平均分子量(THFMz、NMPMz)測定
得られたポリビニルアセタール樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に0.2重量%の濃度で溶解させ、孔径0.45μmのPTFE製フィルターを通し、GPC装置HLC-8220(東ソー製)を用い、移動相にTHF、検出器に示差屈屈折率検出器ブライス型ダブルパス(東ソー社製)カラムにTSKgelSuperHZM-H(東ソー社製)を用いて、流量0.35mL/minで測定した。得られた測定結果を、単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して校正し、z平均分子量THFMzを得た。
同様に、得られたポリビニルアセタール樹脂をN-メチルピロリドン(NMP)に0.2重量%の濃度で溶解させ、孔径0.45μmのPTFE製フィルターを通し、GPC装置GPC-101(Shodex社製)を用い、移動相にNMP、検出器に示差屈屈折率検出器RI-715(Shodex社製)、カラムにLF-804(Shodex社製)を用いて、流量0.5mL/minで測定した。得られた測定結果を、単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して校正し、z平均分子量NMPMzを得た。
得られたTHFMz及びNMPMzから、「THFMz-NMPMz」を算出した。
【0072】
(1-3)IR吸収スペクトル
得られたポリビニルアセタール樹脂を重量比1:1のエタノール・トルエン混合溶液に溶解し、次いで、PETフィルム上に塗工し、C-H結合の伸縮振動に由来する2980cm-1付近に出現するピークの最小透過率が20%になるよう、測定サンプルの膜厚を調整し、ポリビニルアセタール樹脂シートを得た。得られたポリビニルアセタール樹脂シートについて、20℃の条件で赤外分光光度計(HORIBA社製、FT-720)によりIR吸収スペクトルを測定した。測定結果について、波数3050~3750cm-1の範囲内において出現したピークに対してベースラインを引き、ピークの両端の透過率が100%となるよう補正したデータに対してピーク分析を実施して、最小透過率X、透過率a、ピーク波数A及びBを測定した。その後、H-NMR測定により求めた水酸基量を用いて、水酸基量換算波数幅(cm-1/mol%)=[(B-A)/水酸基量]を算出した。
また、H-NMR測定により求めたアセタール基量を用いて、水酸基アセタール基量換算波数幅(cm-1/mol%)=[(B-A)/水酸基量/アセタール基量]を算出した。
【0073】
(1-4)粘度測定
得られたポリビニルアセタール樹脂を重量比1:1のエタノール・トルエン混合溶液に対して5質量%となるように溶解し、粘度測定用サンプルを調製した。得られた粘度測定用サンプルについて、溶液温度が20℃の条件でB型粘度計を用い、粘度測定を実施した。
なお、B型粘度計としては、TVB-10形粘度計(東機産業社製)を用い、回転数とローターは次の通りにして測定を行った。
実施例1~6、比較例1~5:回転数30rpm、SPINDLE No.M1
【0074】
(2)セラミックグリーンシートの評価
(2-1)引張弾性率
得られたセラミックグリーンシートについて、JIS K 7113に準拠して、引張試験機(島津製作所製、AUTOGRAPH AGS-J)を用い、引張速度20mm/分の条件にて、引張弾性率(MPa)の測定を行い、以下の基準で評価した。
A:引張弾性率が1150MPa以上
B:引張弾性率が1090MPa以上、1150MPa未満
C:引張弾性率が1090MPa未満
【0075】
(2-2)表面粗さ
得られたセラミックグリーンシートについて、JIS B 0601(1994)に基づいて十点平均粗さ(Rz)を測定し、以下の基準で評価した。
A:Rzが0.27μm以下
B:Rzが0.27μm超、0.37μm以下
C:Rzが0.37μm超
【0076】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、機械的強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができ、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを作製可能なポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシート用スラリー、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【要約】      (修正有)
【課題】機械的強度が高く、好適な表面粗さを有するセラミックグリーンシートを得ることができ、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを作製可能なポリビニルアセタール樹脂、セラミックグリーンシート用スラリー、セラミックグリーンシート及び積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】示差屈屈折率検出器を用いたGPC測定における、移動相にTHFを使用して得られるz平均分子量(THFMz)と、移動相にNMPを使用して得られるz平均分子量(NMPMz)とが下記式(1)を満し、かつ、赤外分光光度計により測定したIR吸収スペクトルにおいて3050~3750cm-1の範囲内でのピークを基に計算される水酸基量換算波数幅が所定の範囲内であるポリビニルアセタール樹脂。
THFMz-NMPMz<470000(1)
【選択図】なし
図1