(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】耐力壁パネル接続構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20250220BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
E04B1/58 602
E04B2/56 632A
E04B2/56 632J
(21)【出願番号】P 2022129893
(22)【出願日】2022-08-17
【審査請求日】2024-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】土方 和己
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 輝
(72)【発明者】
【氏名】中川 岳士
(72)【発明者】
【氏名】堤 哲文
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-24423(JP,A)
【文献】特開2019-119990(JP,A)
【文献】特開2018-155088(JP,A)
【文献】特開2021-143558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0083082(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0248445(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 2/56 - 2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形平板状に形成されて、建築物の水平耐力を負担する上下階に並べて配置される耐力壁パネルと、
上階の前記耐力壁パネルの下端から突出して形成される第一固定プレートと、
下階の前記耐力壁パネルの上端から突出して形成される第二固定プレートと、
直方体形状に形成されており、上面から第一突出プレートが突出し、下面から第二突出プレートが突出して形成されるジョイント部材と、
前記耐力壁パネルの面外方向から前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに固定されて、当該第一固定プレート及び当該第一突出プレートを接続する第一接続部材と、
前記耐力壁パネルの面外方向から前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに固定されて、当該第二固定プレート及び当該第二突出プレートを接続する第二接続部材と、を備え、
前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記耐力壁パネルから伝わる水平力によって塑性変形可能であり、
前記ジョイント部材は、2つ以上の側面から水平方向にそれぞれ突出して形成される梁受けプレートを有し、当該梁受けプレートは、木製梁の端部に設けられたスリットに挿入されて、当該木製梁を貫通するドリフトピンが直交することで、前記木製梁の端部を受けることを特徴とする耐力壁パネル接続構造。
【請求項2】
前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記第一固定プレート又は前記第二固定プレート、及び前記第一突出プレート又は前記第二突出プレートに着脱可能に固定されることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁パネル接続構造。
【請求項3】
前記第一接続部材は、前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有し、
前記第二接続部材は、前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の耐力壁パネル接続構造。
【請求項4】
前記第一固定プレート、前記第二固定プレート、前記第一突出プレート、前記第二突出プレート、前記第一接続部材、及び前記第二接続部材は、所定の耐火性能を有する鋼製であり、
前記耐力壁パネルは、木製耐力壁パネルであり、
前記耐力壁パネルと、前記木製梁との間に耐火板材が配置されることを特徴とする請求項3に記載の耐力壁パネル接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の水平耐力を負担する耐力壁パネルを設置する耐力壁パネル接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木製の梁の端部又は柱の柱脚に設けられたスリットに挿入可能なプレートを有しており、梁や柱を接合する接合金物が知られている。例えば特許文献1においては、通し梁の上面に当接する水平板の両側が垂れ下がって梁の両側面に接しており、上面の水平板から鉛直な柱脚固定プレートが突出し、両側面から梁受けプレートが形成されて梁の端部を固定している。
【0003】
また、耐力壁として、直交集成板(CLT)等の中実で高剛性の木製板を用いることが知られている。このような高剛性の耐力壁は、従来よりも耐力壁量を減らしつつ、建築物の耐震性を確保し、建築物の外周に大きな開口部を設けるなどの設計の自由度を高めることができる。そして、このような直交集成板などの耐力壁パネルは、耐力壁パネル自体がほとんど変形することができないので、基礎、梁、床などの構造躯体との接合部に力が集中する問題があった。
【0004】
そこで、耐力壁パネルを梁に接合する接合金物に変形性能を持たせて、地震などで建築物に加わる水平力を吸収することが知られている。例えば特許文献2には、木質の耐力壁パネルと木質の梁との間に降伏可能な接合金物を設けて、耐力壁パネルに加わる水平力を接合金物の変形に寄って吸収する構成が記載されている。また、特許文献3には、上端隅又は下端隅に切欠部が形成された耐力壁パネルであり、梁に打ち込まれるアンカーによって固定された接合金物が切欠部に配置されて耐力壁パネルに変形可能に接合される構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-54085号公報
【文献】特開2019-196669号公報
【文献】特開2018-162602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2や特許文献3のような耐力壁パネルと梁とを接合する接合構造は、梁の長さ方向の中間部で当該梁の上面又は下面にボルト等で固定されるものであり、梁の端部は別途柱などに梁受け金物を介して接合する構造である。したがって、耐力壁パネルに建築物の鉛直荷重を負担させて柱を省略するような構造とすることはできない。
【0007】
また、建築物の水平力を受けた耐力壁パネルから接合金物に加わった荷重は梁に伝達されることとなるので、接合金物の変形によって水平力を吸収した場合であっても、耐力壁パネルの角や接合金物自体が梁にめり込み、梁が損傷するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、耐力壁パネルの接合部で水平力を吸収できるとともに、建築物の水平力を受けた耐力壁パネルの荷重を梁に伝えることがなく、梁の損傷を抑制することができる耐力壁パネル接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の耐力壁パネル接続構造は、矩形平板状に形成されて、建築物の水平耐力を負担する上下階に並べて配置される耐力壁パネルと、上階の前記耐力壁パネルの下端から突出して形成される第一固定プレートと、下階の前記耐力壁パネルの上端から突出して形成される第二固定プレートと、直方体形状に形成されており、上面から第一突出プレートが突出し、下面から第二突出プレートが突出して形成されるジョイント部材と、前記耐力壁パネルの面外方向から前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに固定されて、当該第一固定プレート及び当該第一突出プレートを接続する第一接続部材と、前記耐力壁パネルの面外方向から前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに固定されて、当該第二固定プレート及び当該第二突出プレートを接続する第二接続部材と、を備え、前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記耐力壁パネルから伝わる水平力によって塑性変形可能であり、前記ジョイント部材は、2つ以上の側面から水平方向にそれぞれ突出して形成される梁受けプレートを有し、当該梁受けプレートは、木製梁の端部に設けられたスリットに挿入されて、当該木製梁を貫通するドリフトピンが直交することで、前記梁の端部を受けることを特徴としている。
【0010】
本発明の第二の耐力壁パネル接続構造は、第一の耐力壁パネル接続構造の特徴に加えて、前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記第一固定プレート又は前記第二固定プレート、及び前記第一突出プレート又は前記第二突出プレートに着脱可能に固定されることを特徴としている。
【0011】
本発明の第三の耐力壁パネル接続構造は、第一又は第二の耐力壁パネル接続構造の特徴に加えて、前記第一接続部材は、前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有し、前記第二接続部材は、前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有する、ことを特徴としている。
【0012】
本発明の第四の耐力壁パネル接続構造は、第一から第三のいずれかの耐力壁パネル接続構造の特徴に加えて、前記第一固定プレート、第二固定プレート、第一突出プレート、第二突出プレート、第一接続部材、及び第二接続部材は、所定の耐火性能を有する鋼製であり、前記耐力壁パネルは、木製耐力壁パネルであり、前記耐力壁パネルと、前記木製梁との間に耐火板材が配置されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第一の耐力壁パネル接続構造によると、上階の耐力壁パネルの下端から突出して形成される第一固定プレートと、ジョイント部材の上面から突出する第一突出プレートと、を接続する第一接続部材の塑性変形、及び下階の耐力壁パネルの上端から突出して形成される第二固定プレートと、ジョイント部材の下面から突出する第二突出プレートと、を接続する第二接続部材の塑性変形によって、耐力壁パネルの接合部に集中する建築物の水平力を吸収することができ、地震荷重に対する靱性の高い建築物とすることができる。さらに、上階の耐力壁パネルに加わる建築物の鉛直荷重や地震などの水平荷重を、ジョイント部材によって木製梁を介さずに下階の耐力壁パネルに伝達することができるので、木製梁に大きな荷重が加わることがなく、木製梁の損傷を抑制することができる。さらに、ジョイント部材は、2つ以上の側面から水平方向にそれぞれ突出して梁受けプレートが形成されており、当該梁受けプレートに木製梁の端部が支持されるので、上下の耐力壁パネルを連結する役割のみならず、ジョイント部材が木製梁の端部を支持する役割も果たすことができる。ジョイント部材が木製梁の端部を受けるとともに上側の耐力壁パネルから下側の耐力壁パネルへ建築物の鉛直荷重を伝達することで、上下の耐力壁パネルが柱の役割も果たすことができる。
【0014】
本発明の第二の耐力壁パネル接続構造によると、第一接続部材及び第二接続部材は、第一固定プレート又は第二固定プレート、及び第一突出プレート又は第二突出プレートに着脱可能に固定されているので、第一接続部材及び第二接続部材が、塑性変形し交換等のメンテナンスが必要となった場合に、耐力壁パネルや木製梁を建築物から取り外すことなく、第一接続部材及び第二接続部材のみを取り外して交換することができ、比較的簡易なメンテナンス作業で耐震性を維持することができる。
【0015】
本発明の第三の耐力壁パネル接続構造によると、第一接続部材は、第一固定プレート及び第一突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、接合板の周縁に、接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有し、第二接続部材は、第二固定プレート及び第二突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、接合板の周縁に、接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有するので、第一接続部材及び第二接続部材のそれぞれの接合板のスリップ変形を枠板によって抑制することができ、地震の際の正負の繰返し荷重と層間変位角との関係を示す履歴曲線をバイリニア型とすることで、第一接続部材及び第二接続部材のエネルギー吸収能力の低下を防ぐことができる。
【0016】
本発明の第四の耐力壁パネル接続構造によると、第一固定プレート、第二固定プレート、第一突出プレート、第二突出プレート、第一接続部材、及び第二接続部材は、所定の耐火性能を有する鋼製であり、耐力壁パネルは、木製耐力壁パネルであり、耐力壁パネルと、木製梁との間に耐火板材が配置されているので、木製の梁と木製の耐力壁パネルでありつつ、耐火上の縁を切ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】耐力壁パネル接続構造の全体構造を示す一部省略斜視図。
【
図2】耐力壁パネルを鉛直に厚さ方向の面で切断した状態の耐力壁パネル接続構造を示す一部省略断面図。
【
図3】耐力壁パネルと平行な面で木製梁を切断した状態の耐力壁パネル接続構造を示す一部省略断面図。
【
図4】第一固定プレート、及び第二固定プレートの形状を説明する斜視図。
【
図7】第一接続部材、及び第二接続部材の形状を説明する斜視図。
【
図8】第一接続部材、及び第二接続部材を着脱する状態を説明する断面図。
【
図9】耐火板材の配置を説明する一部省略拡大断面図。
【
図10】耐力壁パネル接続構造の各部を接続する構成を説明する分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の耐力壁パネル接続構造の実施形態について、各図を参照しつつ説明する。本実施形態において、耐力壁パネル接続構造1を用いて耐力壁を形成する建築物は、例えば木造の戸建住宅であり、上下の耐力壁パネル2を連結するジョイント部材3の間に木製梁4を架け渡して構造躯体を形成している。なお、本発明における建築物は、本実施形態に限定されるものではなく、集合住宅や非居住性の各種施設などの建築物であってもよい。
【0019】
本実施形態の耐力壁パネル接続構造1は、
図1から
図3に示すように、上下階に並べて配置される耐力壁パネル2を互いに接続する構造であり、上下階それぞれの耐力壁パネル2と、上階の耐力壁パネル2の下端から突出する第一固定プレート5と、下階の耐力壁パネル2の上端から突出する第二固定プレート6と、上面から第一突出プレート7が突出し、下面から第二突出プレート8が突出するジョイント部材3と、第一固定プレート5及び第一突出プレート7を接続する第一接続部材9と、第二固定プレート6及び第二突出プレート8を接続する第二接続部材10と、を備えている。
【0020】
耐力壁パネル2は直交集成板(CLT)であり、地震などの際に建築物に加わる水平荷重を負担するとともに、上階の耐力壁パネル2やジョイント部材3に接合される梁から伝達される建築物の鉛直荷重を下階の耐力壁パネル2が支える。下階の耐力壁パネル2の下端は、図示しないが、建築物のコンクリート基礎又は鉄骨梁などの高剛性の部材に固定されて支持されている。上階の耐力壁パネル2は、下端に第一固定プレート5を挿入可能な固定溝11が形成されており、下階の耐力壁パネル2は、上端に第二固定プレート6を挿入可能な固定溝11が形成されている。固定溝11は、耐力壁パネル2の面内方向に平行に形成され、耐力壁パネル2の厚さ方向の中央に形成されて、平板状の第一固定プレート5及び第二固定プレート6を挿入可能なスリット状の溝である。
【0021】
耐力壁パネル2は建築物の屋内外を隔てる外壁の内部に配置されるものであってもよく、界壁や間仕切壁のように、建築物の屋内に立設される壁の内部に配置されるものであってもよい。なお、耐力壁パネル2は直交集成板に限定されるものではなく、例えばNLT(Nail Laminated Timber)などの耐力壁パネル2として使用可能なせん断剛性の高い木質材料を用いてもよい。
【0022】
第一固定プレート5及び第二固定プレート6は、
図4に示すように、L字状に形成された鋼製の薄板材であり、耐力壁パネル2に固定するための多数のピン孔12を有する。また、第一固定プレート5及び第二固定プレート6は、耐力壁パネル2から突出する端部に水平に並べた3つのボルト挿入孔13を有する。具体的には、第一固定プレート5の下部及び第二固定プレート6の上部にボルト挿入孔13が形成されている。第一固定プレート5の下端縁及び第二固定プレート6の上端縁はそれぞれ水平な直線状に形成されている。
【0023】
第一固定プレート5は、
図10に示すように、上階の耐力壁パネル2の下端に固定されるプレートである。第一固定プレート5は図示していないが耐力壁パネル2の下端の両隅にそれぞれ固定されている。第一固定プレート5は耐力壁パネル2の下端に形成された固定溝11に挿入されている。第一の固定プレートは、
図2に示すように、耐力壁パネル2を面外方向に貫通する固定ピンと、ボルト及びナットと、からなる固定具14によって、耐力壁パネル2の下端から下向きに下部が突出した状態に固定される。
【0024】
また、第二固定プレート6は、下階の耐力壁パネル2の上端に固定されるプレートである。
図10に示すように、第二固定プレート6は耐力壁パネル2の上端に形成された固定溝11に挿入されいる。第二固定プレート6は、
図2に示すように、耐力壁パネル2を面外方向に貫通する固定ピンと、ボルト及びナットと、からなる固定具14によって、耐力壁パネル2の上端から上向きに上部が突出した状態に固定される。上述の通り、第一固定プレート5の耐力壁パネル2の下端から下方に突出する部分、及び第二固定プレート6の耐力壁パネル2の上端から上方に突出する部分に、それぞれボルト挿入孔13が形成されている。
【0025】
ジョイント部材3は、鋼製で、
図5に示すように、直方体形状の本体部16と、本体部16の上面から上方に突出する第一突出プレート7と、本体部16の下面から下方に突出する第二突出プレート8と、本体部16の3つの側面からそれぞれ水平方向に突出する梁受けプレート15と、を有している。本体部16は、
図1及び
図2に示すように、鉛直方向の長さが木製梁4の梁せいと同じ長さに形成されている。また、本体部16は、耐力壁パネル2の面外方向に平行な方向の長さが耐力壁パネル2の厚さと同じ長さに形成されており、
図3に示すように、耐力壁パネル2の面内方向に平行な方向の長さが第一接続部材9及び第二接続部材10の長さと等しく形成されている。第一突出プレート7は、本体部16の上面から鉛直方向に延びて、3つのボルト受け孔17が形成されている。第一突出プレート7の上端縁は水平な直線状に形成されており、第一固定プレート5の下端縁に突き合わせられる。また、第二突出プレート8は、本体部16の下面から鉛直方向に延びて、3つのボルト受け孔17が形成されている。第二突出プレート8の下端縁は水平な直線状に形成されており、第二固定プレート6の上端縁に突き合わせられる。第一固定プレート5、第二固定プレート6、第一突出プレート7、及び第二突出プレート8は、耐力壁パネル2と面内方向と平行な平板状であり、耐力壁パネル2の厚さ方向の中央に配置されている。
【0026】
梁受けプレート15は、本体部16の水平方向を向く4つの側面のうち、2つ以上の側面から突出するように形成されて、木製梁4の端部を受けるプレートである。梁受けプレート15は本体部16の側面から平行に2枚のプレートが突出して形成されている。梁受けプレート15には、鉛直方向に並べて3つの梁受孔18が形成されている。木製梁4の端部には、それぞれ2つのスリット20が梁受けプレート15を挿入可能に形成されている。また、木製梁4の端部を水平に貫通するように3つのピン固定孔19が設けられている。
図1、
図5、
図10に示すように、本実施形態においては、梁受けプレート15は本体部16の3つの側面からそれぞれ突出して形成されており、木製梁4のスリット20にそれぞれ梁受けプレート15が挿入されて、木製梁4の端部を貫通するピン固定孔19に挿入されるドリフトピン28が梁受けプレート15の梁受孔18に挿入されることで、ジョイント部材3が木製梁4の端部を受けている。
【0027】
なお、本発明の梁受けプレート15は本体部16の3つの側面から突出されるものに限定されるものではなく、例えば木製梁4を平面視十字に配置する場合には、本体部16の4つの側面からそれぞれ突出していてもよく、または、
図6に示すように、梁受けプレート15が本体部16の2側面から互いに離反する方向に突出していてもよく、また、梁受けプレート15が本体部16の互いに直交する2側面から突出していてもよい。
【0028】
ジョイント部材3に形成された梁受けプレート15が木製梁4を受ける構成とすることで、当該木製梁4には、第一接続部材9や第二接続部材10が当接することがなく、例えば地震などの際に上階の耐力壁パネル2に加わる水平力が第一接続部材9、ジョイント部材3、及び第二接続部材10を介して下階の耐力壁パネル2に伝わるので、木製梁4の損傷を抑制することができる。
【0029】
第一接続部材9及び第二接続部材10は、
図7に示すように、第一固定プレート5又は第二固定プレート6、及び第一突出プレート7又は第二突出プレート8に当接して、それぞれのプレートに高力ボルト24及びナット25で接合される矩形の接合板21と、接合板21の周縁に、接合板21に対して垂直な平板状に形成される枠板22と、を有しており、耐力壁パネル2の面外方向に向かって開いたボックス形状に形成されている。
【0030】
第一接続部材9は、
図3及び
図10に示すように、接合板21に6つの接合孔23が形成されている。接合孔23は、上下2列で水平方向に3つずつ並んで形成されており、上側の3つの接合孔23が第一固定プレート5のボルト挿入孔13と整合し、下側の3つの接合孔23が第一突出プレート7のボルト受け孔17に整合している。第一接続部材9は、
図2に示すように、第一固定プレート5及び第一突出プレート7の表面及び裏面にそれぞれ接合板21が当接し、上側の接合孔23及びボルト挿入孔13にそれぞれ高力ボルト24を挿入してナット25で締め付けるとともに、下側の接合孔23及びボルト受け孔17にそれぞれ高力ボルト24を挿入してナット25で締め付けることで第一固定プレート5及び第一突出プレート7を接合している。
【0031】
また第二接続部材10は、第一接続部材9と同様の6つの接合孔23が接合板21に形成されておいる。第二接続部材10は、
図2に示すように、第二固定プレート6及び第二突出プレート8の表面及び裏面にそれぞれ接合板21が当接し、上側の接合孔23及びボルト受け孔17にそれぞれ高力ボルト24を挿入してナット25で締め付けるとともに、下側の接合孔23及びボルト挿入孔13にそれぞれ高力ボルト24を挿入してナット25で締め付けることで第二固定プレート6及び第二の突出プレートを接合している。
【0032】
建築物に加わった水平力が上側の耐力壁パネル2の下端隅における鉛直方向の引張力及び圧縮力に変換されるが、上述のように、第一突出プレート7及び第二突出プレート8が、ジョイント部材3によって連結されていることで、当該引張力及び圧縮力が木製梁4を介することなく、下側の耐力壁パネル2に伝達されるので、木製梁4に大きな荷重をかけることがなく、木製梁4の損傷を防止できる。
【0033】
第一接続部材9及び第二接続部材10は、鋼製で耐力壁パネル2よりも剛性が低く形成されており、第一接続部材9及び第二接続部材10が塑性変形することで耐力壁パネル2から伝達される水平力を吸収可能に形成されている。そして、第一接続部材9及び第二接続部材10は、矩形の接合板21と、接合板21の周縁に形成される枠板22と、を有することで、接合板21のスリップ変形が枠板22によって抑制され、地震の際の正負の繰返し荷重と層間変位角との関係を示す履歴曲線をバイリニア型とすることができ、第一接続部材9及び第二接続部材10のエネルギー吸収能力の低下を防ぐことができる。
【0034】
また、
図8に示すように、第一接続部材9及び第二接続部材10は、高力ボルト24及びナット25を取り外して、耐力壁パネル2の面外方向に引き出すことで、木製梁4や耐力壁パネル2に干渉することなく構造躯体から取り外すことができる。したがって、第一接続部材9及び第二接続部材10が地震等によって塑性変形し交換等のメンテナンスが必要となった場合であっても、耐力壁パネル2や木製梁4を建築物から取り外すことなく、変形した接続部材9,10のみを取り外して交換することができ、比較的簡易なメンテナンス作業で耐震性を維持することができる。
【0035】
第一固定プレート5、第二固定プレート6、第一突出プレート7、第二突出プレート8、第一接続部材9、第二接続部材10、及びジョイント部材3は、木製梁4及び耐力壁パネル2よりも耐火性能の高い鋼製に形成されている。ここで本発明における「所定の耐火性能」は、本実施形態においては法令の要件を満たす耐火性能をいい、例えば1時間の延焼抑制性能をいう。上階の耐力壁パネル2と木製梁4との間には第一接続部材9が配置され、下階の耐力壁パネル2と木製梁4との間には第二接続部材10が配置されて、それぞれ耐力壁パネル2と木製梁4との間に隙間が形成されている。そして、
図9に示すように、上階の耐力壁パネル2と木製梁4との間には第一接続部材9が配置されている位置を切り欠いて耐火板材の床材26が形成されており、下階の耐力壁パネル2と木製梁4との間には第二接続部材10が配置されている位置を切り欠いて耐火板材の天井材27が形成されている。そしてこれらの耐火板材と第一接続部材9及び第二接続部材10との間にはそれぞれ図示しない耐火被覆材が配置されている。このように木製梁4と木製の耐力壁パネル2とが直接的に接続されずに、耐火板材が配置されることで、木製梁4と木製耐力壁パネル2を用いた構造でありつつ、耐火上の縁切りを行うことができ、上下階の間に耐火ラインを設けることができる。
【0036】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【0037】
<第一の特徴>
本実施形態の第一の耐力壁パネル接続構造は、矩形平板状に形成されて、建築物の水平耐力を負担する上下階に並べて配置される耐力壁パネルと、上階の前記耐力壁パネルの下端から突出して形成される第一固定プレートと、下階の前記耐力壁パネルの上端から突出して形成される第二固定プレートと、直方体形状に形成されており、上面から第一突出プレートが突出し、下面から第二突出プレートが突出して形成されるジョイント部材と、前記耐力壁パネルの面外方向から前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに固定されて、当該第一固定プレート及び当該第一突出プレートを接続する第一接続部材と、前記耐力壁パネルの面外方向から前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに固定されて、当該第二固定プレート及び当該第二突出プレートを接続する第二接続部材と、を備え、前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記耐力壁パネルから伝わる水平力によって塑性変形可能であり、前記ジョイント部材は、2つ以上の側面から水平方向にそれぞれ突出して形成される梁受けプレートを有し、当該梁受けプレートは、木製梁の端部に設けられたスリットに挿入されて、当該木製梁を貫通するドリフトピンが直交することで、前記梁の端部を受けることを特徴としている。
【0038】
この特徴により第一接続部材及び第二接続部材の塑性変形によって、耐力壁パネルの接合部に集中する建築物の水平力を吸収でき、地震荷重に対する靱性の高い建築物とすることができる。さらに、上階の耐力壁パネルに加わる建築物の鉛直荷重や地震などの水平荷重を、ジョイント部材によって木製梁を介さずに下階の耐力壁パネルに伝達することができるので、木製梁に大きな荷重が加わることがなく、木製梁の損傷を抑制することができる。さらに、ジョイント部材は、上下の耐力壁パネルを連結する役割のみならず、ジョイント部材が木製梁の端部を支持する役割も果たすことができる。そして、ジョイント部材が木製梁の端部を受けるとともに上側の耐力壁パネルから下側の耐力壁パネルへ建築物の鉛直荷重を伝達することで、上下の耐力壁パネルが柱の役割も果たすことができる。
【0039】
<第二の特徴>
本実施形態の第二の耐力壁パネル接続構造は、上述した第一の特徴に加えて、前記第一接続部材及び前記第二接続部材は、前記第一固定プレート又は前記第二固定プレート、及び前記第一突出プレート又は前記第二突出プレートに着脱可能に固定されることを特徴としている。
【0040】
この特徴により、第一接続部材及び第二接続部材が、塑性変形し交換等のメンテナンスが必要となった場合に、耐力壁パネルや木製梁を建築物から取り外すことなく、第一接続部材及び第二接続部材のみを取り外して交換することができ、比較的簡易なメンテナンス作業で耐震性を維持することができる。
【0041】
<第三の特徴>
本実施形態の第三の耐力壁パネル接続構造は、上述した第二の特徴に加えて、前記第一接続部材は、前記第一固定プレート及び前記第一突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有し、前記第二接続部材は、前記第二固定プレート及び前記第二突出プレートに当接して、それぞれのプレートにボルト及びナットで接合される矩形の接合板と、前記接合板の周縁に、当該接合板に対して垂直な平板状に形成される枠板と、を有する、ことを特徴としている。
【0042】
この特徴により、第一接続部材及び第二接続部材のそれぞれの接合板のスリップ変形が枠板によって抑制され、地震の際の正負の繰返し荷重と層間変位角との関係を示す履歴曲線をバイリニア型とすることで、第一接続部材及び第二接続部材のエネルギー吸収能力の低下を防ぐことができる。すなわち、地震の際の正負繰返しの水平荷重により、一旦変形した第一接続部材及び第二接続部材が、逆方向の水平荷重を受けた際に枠板を有することによって元の形に復元されやすいので、水平力の吸収能の低下を抑えることができる。
【0043】
<第四の特徴>
本実施形態の第四の耐力壁パネル接続構造は、上述した第三の特徴に加えて、前記第一固定プレート、第二固定プレート、第一突出プレート、第二突出プレート、第一接続部材、及び第二接続部材は、所定の耐火性能を有する鋼製であり、前記耐力壁パネルは、木製耐力壁パネルであり、前記耐力壁パネルと、前記木製梁との間に耐火板材が配置されることを特徴としている。
【0044】
この特徴により、比較的延焼しやすい木製の梁と木製の耐力壁パネルで形成した建築物であっても、天井及び床面で耐火上の縁を切ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る耐力壁パネル接続構造は、例えば木造住宅に耐力壁パネルを設置する構造として好適である。
【符号の説明】
【0046】
1 耐力壁パネル接続構造
2 耐力壁パネル
3 ジョイント部材
4 木製梁
5 第一固定プレート
6 第二固定プレート
7 第一突出プレート
8 第二突出プレート
9 第一接続部材
10 第二接続部材
15 梁受けプレート
21 接合板
22 枠板
24 高力ボルト(ボルト)
25 ナット
26 床材(耐火板材)
27 天井材(耐火板材)