(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20250220BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20250220BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20250220BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20250220BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20250220BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250220BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20250220BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20250220BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20250220BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K31/195
A61K47/18
A61K35/50
A61K47/46
A61P17/00
A61K8/73
A61K8/44
A61K8/98
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020214032
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020036531
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】唐仁原 亨
(72)【発明者】
【氏名】緒方 真由美
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸之
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 35/00
A61K 47/00
A61K 8/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ヘパリン類似物質、(b)トラネキサム酸又はその塩、及び(c)プラセンタエキスを含有することを特徴とする外用組成物。
【請求項2】
(c)プラセンタエキスの含有量が0.01~5w/w%である請求項
1に記載の外用組成物。
【請求項3】
(c)プラセンタエキスの含有量が、(a)ヘパリン類似物質1質量部に対し0.2質
量部以上である、請求項
1又は2に記載の外用組成物。
【請求項4】
(c)プラセンタエキスの含有量が、(b)トラネキサム酸1質量部に対し0.05質量部以上である、請求項
1~3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
化粧料、医薬部外品、又は医薬品である、請求項
1~4のいずれかに記載の外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパリン類似物質及びトラネキサム酸を含有する外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリン類似物質は、酸性ムコ多糖類の一種であり、皮膚に対する保湿効果や抗炎症作用、血流促進、瘢痕・ケロイドの治療や予防など幅広い効果があることから医薬品や医薬部外品などの外用製剤に配合されている。従来、ヘパリン類似物質の効果を向上させる検討は種々行われており、例えば、ヘパリン類似物質にベタイン類を併用することで、ヘパリン類似物質の角質水分保持増強作用とベタイン類の保湿作用が相乗的に作用し、肌荒れに対して顕著な改善・予防効果を示すことが知られている(特許文献1)。
【0003】
ヘパリン類似物質の皮膚への有用性が示される一方で、ヘパリン類似物質を配合した水溶液や軟膏について、ヘパリン類似物質が経時的に分解し安定性が低いことが明らかになっている。従来、ヘパリン類似物質の安定性を改善する製剤技術として、ヘパリン類似物質にポリデキストロース、マンニット及びコンドロイチン硫酸などを配合する方法等が報告されている(特許文献2)。
【0004】
トラネキサム酸は止血作用、抗炎症作用、美白作用を有するため医薬品、化粧品の成分
として汎用されている(特許文献3)。
【0005】
プラセンタエキスはブタ、ウシ、ウマ、ヒト又はヒツジなどの哺乳動物の胎盤から抽出されたエキスである。哺乳動物の胎盤組織には、胎児の成長に不可欠な栄養素であるアミノ酸、活性ペプチド、ビタミン、ミネラル、糖類、酵素、核酸などが豊富に蓄えられており、前記哺乳動物の胎盤から抽出されたエキスをプラセンタエキスという。前記プラセンタエキスには、細胞増殖作用、免疫力の向上、血圧の改善、抗酸化作用、抗炎症作用、鎮痛作用、血液凝固抑制作用などの効用があり、美白効果化粧品などの化粧品、疲労回復効果飲料などの健康補助食品、アンチエイジング薬などの医薬品などに原料として使用されている(特許文献4)。
ヘパリン類似物質とプラセンタエキスを配合した化粧料として、2019年5月にアドライズ(登録商標) アクティブローションが発売されている。しかし、ヘパリン類似物質とトラネキサム酸を配合した外用組成物は知られておらず、当該成分を配合することによる安定性への影響は報告されていない。さらに、プラセンタエキスを配合した外用組成物も知られておらず、安定性に及ぼす影響への報告もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-143486号公報
【文献】特開平2-282331号公報
【文献】特開2009-234957号公報
【文献】特開2011-160742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はヘパリン類似物質の安定性に優れた外用組成物を提供することである。また、製剤安定性に優れた外用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヘパリン類似物質とトラネキサム酸とを配合することにより、外用組成物中でヘパリン類似物質の安定性が向上し、経時的な成分の分解を抑制できることを見出した。また、さらにプラセンタエキスを配合すると、経時的な析出を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)(a)ヘパリン類似物質、(b)トラネキサム酸又はその塩を含有することを特徴とする外用組成物、
(2)(a)ヘパリン類似物質の含有量が0.01~5w/w%である(1)に記載の外用組成物、
(3)(b)トラネキサム酸又はその塩の含有量が0.1~10w/w%である(1)又は(2)に記載の外用組成物、
(4)(b)トラネキサム酸又はその塩の含有量が、(a)ヘパリン類似物質1質量部に対し0.2質量部以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の外用組成物、
(5)(a)ヘパリン類似物質、(b)トラネキサム酸又はその塩、及び(c)プラセンタエキスを含有することを特徴とする外用組成物、
(6)(c)プラセンタエキスの含有量が0.01~5w/w%である(5)に記載の外用組成物、
(7)(c)プラセンタエキスの含有量が、(a)ヘパリン類似物質1質量部に対し0.2質量部以上である、(5)又は(6)に記載の外用組成物、
(8)(c)プラセンタエキスの含有量が、(b)トラネキサム酸1質量部に対し0.05質量部以上である、(5)~(7)のいずれかに記載の外用組成物、
(9)化粧料、医薬部外品、又は医薬品である、(1)~(8)のいずれかに記載の外用組成物、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヘパリン類似物質とトラネキサム酸を含有し、ヘパリン類似物質の安定性に優れた外用組成物を提供することが可能となった。また、さらにプラセンタエキスを配合することにより、析出を抑制した製剤の安定性に優れた外用組成物の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の外用組成物において用いる各成分は、通常医薬品、医薬部外品、又は化粧料に用いられる品質のものを適宜使用することができる。
【0012】
本発明の外用組成物中におけるヘパリン類似物質の含有量は、0.01~5w/w%が好ましく、0.1~0.5w/w%がより好ましい。
【0013】
本発明の外用組成物中におけるトラネキサム酸は、その塩として使用してもよい。その塩は、外用剤として、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。トラネキサム酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;亜鉛塩;鉄塩;アンモニウム塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸との塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミンとの塩などが挙げられる。トラネキサム酸の塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の外用剤におけるトラネキサム酸の含有量は、本発明による効果をより一層高める観点から、例えば、外用剤の全量を基準として、トラネキサム酸又はその総含有量が、通常、0.1~10重量%であり、0.1~5.0重量%であることが好ましい。また、ヘパリン類似物質1質量部に対し、0.2質量部以上であることが好ましく、0.2~20質量部の範囲がより好ましい。トラネキサム酸又の含有量が上記範囲であれば、本発明による効果に加え、トラネキサム酸が有する美白、抗炎症、肌荒れ改善などの作用も得ることができる。
【0014】
本発明の外用組成物中におけるプラセンタエキスの由来としては、例えばヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジなどが挙げられるが、好ましくはブタである。また、プラセンタエキスとして市販されている商品(例えばビオカタライザープラセンタAPF(SW)(M-PE-APF))を使用してもよい。本発明のプラセンタエキスの含有量は、本発明の外用組成物中、0.01~5w/w%が好ましく、0.1~0.5w/w%がより好ましい。また、ヘパリン類似物質1質量部に対し、0.2質量部以上であることが好ましく、0.2~20質量部の範囲がより好ましい。また、トラネキサム酸1質量部に対し0.05質量部以上であることが好ましく、0.05~1質量部の範囲がより好ましい。
【0015】
また、本発明の外用組成物は、水を含有することが好ましい。本発明の外用組成物中における水の含有量は、1~99.9w/w%が好ましく、50~98.8w/w%がより好ましく、60.0~98.0w/w%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の外用組成物は、上記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常の化粧品、医薬部外品、医薬品などに用いられる各種成分を適宜配合することができる。例えば、pH調整剤(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム等)、香料、清涼化剤(メントール、ハッカ油、カンフル等)、抗炎症剤(サリチル酸、グリチルレチン酸、アラントイン、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等)、殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール等)、防腐剤(パラベン類(メチルパラベン、ブチルパラベン、プロピルパラベン等)、安息香酸又はその塩、フェノキシエタノール等)、保湿剤(ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸、多価アルコール(グリセリン、ジグリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール等)、アミノ酸(L-セリン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、グリシン等)、リピジュア、ソルビトール、マルチトール等)、粘稠剤(ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラギーナン等)各種動植物(オウレン、オウバク、海藻、ボタンピ、カンゾウ、ローズマリー、セージ等)の抽出物、ビタミン類(パルミチン酸レチノール、アスコルビン酸、硝酸チアミン、シアノコバラミン、ビオチン、リボフラビン、ニコチン酸アミド等)、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソプロピルガレート等)、溶解補助剤(各種植物油、各種動物油、アルキルグリセリルエーテル、炭化水素類等)、油性ゲル化剤(ステアリン酸イヌリン、パルミチン酸デキストリン等)等)代謝賦活剤、粘着剤、抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、局所麻酔剤(プロカイン、テトラカイン、ブピパカイン、メピパカイン、クロロプロカイン、プロパラカイン、メプリルカイン又はこれらの塩、オルソカイン、オキセサゼイン、オキシポリエントキシデカン、ロートエキス、ペルカミンパーゼ、テシットデシチン等)、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進成分(γ―オリザノール、ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、ムコ多糖類(グルコサミン等)等が挙げられる。
これらの成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの成分の添加量は、特に制約はなく、使用感等を考慮しながら適宜定めることができる。薬理成分を含有させる場合、その含有量については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0017】
本発明の外用組成物は化粧料、医薬部外品、医薬品などの用途に使用できる。
【0018】
本発明の外用組成物は皮膚に適用できる剤形である限り、その形態は特に制限されない。具体的な剤形としては、ローション、クリーム、乳液、ゲル、パック等が挙げられる。本発明の外用組成物は、W/O又はO/W型のエマルション製剤であってもよい。
【0019】
本発明の外用組成物は、剤形に応じて常法により製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例、比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は、下記の例に限定されるものではない。
【0021】
(ヘパリン類似物質の分析)
ヘパリン類似物質を含有する外用組成物中のヘパリン類似物質は、適当な溶媒で希釈して試料を作製し、当該試料を、例えば下記の条件下の液体クロマトグラフィーに付すことにより、分析することができる。試験条件は使用する機器や材料、試薬等によって、システムの再現性やピーク面積を確認し適宜調整を行ってよい。
<液体クロマトグラフィーの試験条件>
検出器:紫外吸収光度計(測定波長202nm)
ガードカラム:2mm×50mm USP L61packing カラム
カラム:2mm×250mm USP L61packing カラム
カラム温度:40℃
流速:0.22mL/min
移動相A:リン酸二水素ナトリウム0.8gを水2000mLに溶かし、リン酸を加えてpH3.0に調整する。
移動相B:リン酸二水素ナトリウム0.8g及び過塩素酸ナトリウム一水和物280gを水2000mLに溶かし、リン酸を加えてpH3.0に調整する。
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比率を表1のように変えて直線濃度勾配制御
する。
【0022】
【0023】
(外用組成物の調製法)
以下表2に示す処方に従い、ヘパリン類似物質、トラネキサム酸、プラセンタエキスを精製水に均一に混合し、実施例1~7及び比較例1、2の外用組成物を得た。
【0024】
(ヘパリン類似物質の安定性評価)
実施例1~7、比較例1、2の各外用組成物を30mLのスクリュー管に充てんし、65℃で2週間保管した。保管後の各液剤はよく混合した後に、試験を行った。調製直後と保管後の各液剤について、超純水で同一の操作によって適当な濃度に各液剤を希釈し、上記条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行った。各々のピーク面積を測定し、以下式1を用いてヘパリン類似物質の残存率を求めた。
【0025】
<式1>
残存率(%)=保管後のピーク面積/調製直後のピーク面積×100
【0026】
【0027】
表2の結果から明らかなように、ヘパリン類似物質単独の場合(比較例1、2)では、保管後にヘパリン類似物質中の成分の低下が認められたが、トラネキサム酸を配合するとヘパリン類似物質中の安定性が向上した(実施例1~7)。
【0028】
(製剤の安定性評価)
200mLのガラス容器に実施例1、実施例2、及び実施例8~14の各外用組成物100mLを充てんし、室温にて3週間保管した。保管後の外観性状(析出)について目視にて評価した。結果を表3に示す。
【0029】
【0030】
実施例1、実施例9、実施例11、及び実施例13では、外用組成物中に含まれるヘパリン類似物質の安定性には影響はないものの、製剤中に析出が確認された。一方、ヘパリン類似物質及びトラネキサム酸を含む外用組成物にプラセンタエキスを配合することで、析出が抑制された(実施例2、実施例8、実施例10、実施例12、実施例14)。析出の抑制により、外観や使用感の変化に伴う製剤品質の低下が抑制された。
【0031】
以上より、ヘパリン類似物質及びトラネキサム酸を含む外用組成物にさらにプラセンタエキスを配合すると、ヘパリン類似物質中の成分の安定性の向上及び析出の抑制を達成した。
(処方例)
【0032】
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によりヘパリン類似物質の安定性が向上している外用組成物を提供することが可能になった。また、さらに、析出抑制により製剤安定性が向上している外用組成物を提供することが可能になった。