(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】消費者の未来の消費約束に基づく団体又は個人への応援・支援のための金融機関システム、その方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/02 20230101AFI20250220BHJP
G06Q 40/06 20120101ALI20250220BHJP
G16Y 10/50 20200101ALI20250220BHJP
【FI】
G06Q40/02
G06Q40/06
G16Y10/50
(21)【出願番号】P 2021036359
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】302064762
【氏名又は名称】株式会社日本総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120167
【氏名又は名称】木田 博
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【氏名又は名称】大石 敏弘
(74)【代理人】
【識別番号】100144244
【氏名又は名称】成毛 敏明
(72)【発明者】
【氏名】松本 美乃里
【審査官】上田 威
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148970(JP,A)
【文献】国際公開第2018/134885(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3061304(JP,U)
【文献】特開2017-224129(JP,A)
【文献】特開2017-097436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16Y 10/00-40/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消費者の未来の消費約束に基づいて、特定の団体又は個人を応援・支援するための金融機関システムであって、
応援者の求めに応じて、応援先を応援・支援するために、
前記応援先の識別子を含む前記応援先の情報とともに前記応援者が前記応援先で将来使う予定の金額を、使うつもり貯金枠として、前記応援者の口座内に登録する、使うつもり貯金枠登録部と、
前記使うつもり貯金枠からの振込及び現金の引き出しによる出金、並びに預け入れによる入金を
前記応援先の識別子を用いて管理する、使うつもり貯金枠入出金管理部と、
所定の条件下で公表するために、前記使うつもり貯金枠の金額、登録数、利用状況を、
個人情報を特定しないように集計し
て、出力する、使うつもり貯金枠集計・公表手段と、
を備えることを特徴とする金融機関システム。
【請求項2】
前記応援者が、前記使うつもり貯金枠から行う出金に応じて、前記応援者又は前記応援先に所定のポイントを付与する、ポイント付与制御部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の金融機関システム。
【請求項3】
前記応援先が金融機関に融資を申し込んだ場合に、前記使うつもり貯金枠の集計を参考値として、前記融資の審査のための基礎データを生成する、融資判断部を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の金融機関システム。
【請求項4】
前記ポイント付与制御部は、前記応援者が前記登録した応援先に対して前記使うつもり貯金枠から出金した場合には、前記応援者及び/又は前記応援先に対して所定のポイントを付与する、ことを特徴とする請求項2に記載の金融機関システム。
【請求項5】
前記応援者が前記登録した応援先以外に対して前記使うつもり貯金枠から出金した場合には、前記応援先に対して所定のポイントを付与する、ことを特徴とする請求項4に記載の金融機関システム。
【請求項6】
前記ポイント付与制御部は、前記応援者が前記使うつもり貯金枠から現金で引き出した場合に、前記現金の支払い先が前記応援先であることを証明する領収書が提示されたことを条件に、前記応援者にポイントを付与することを特徴とする請求項2に記載の金融機関システム。
【請求項7】
前記応援者が前記使うつもり貯金枠からまったく出金しなかった場合に、前記出金しなかった金額の一部又は全部を、前記使うつもり貯金枠に登録した応援先に寄付することを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の金融機関システム。
【請求項8】
消費者の未来の消費約束に基づいて、特定の団体又は個人を応援・支援するための方法であって、
応援者の求めに応じて、応援先を応援・支援するために、
前記応援先の識別子を含む前記応援先の情報とともに前記応援者が前記応援先で将来使う予定の金額を、使うつもり貯金枠として、前記応援者の口座内に登録するステップと、
前記使うつもり貯金枠からの振込及び現金の引き出しによる出金、並びに預け入れによる入金を
前記応援先の識別子を用いて管理するステップと、
所定の条件下で公表するために、前記使うつもり貯金枠の金額、登録数、利用状況を、
個人情報を特定しないように集計し
て出力するステップと、
をコンピュータが実行することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、団体又は個人を応援・支援するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナ流行による自粛により、飲食店やイベントなどが打撃を受けているが、コロナが収束するころには、自分の好きな飲食店が閉店している、イベントを開催する体力がなくなっているなどの可能性がある。将来、自分の好きな飲食店、イベント、その他の団体又は個人に対して、お金を使いたくても使えないという問題が懸念される。このような資金繰りに苦しむ団体や個人を支援するため、従来から、「クラウドファンディング」という方法が知られている。クラウドファンディングとは、「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」という言葉を組み合わせた造語で、インターネットを通じて不特定多数の人に資金提供を呼びかけ、趣旨に賛同した人から資金を集める方法である。
【0003】
例えば、特許文献1には、金融機関、資金需要者、出資者等が、未成立や不成立のCF(キャッシュフロー)案件に関する情報を広く活用する事業性評価支援装置が開示されている。この装置は、記憶部と、クラウドファンディング企業装置から提供されたクラウドファンディング案件に関するクラウドファンディング案件情報を受け付けて記憶部に登録する管理部と、クラウドファンディング案件に対する出資情報をクラウドファンディング企業装置から取得する取得部と、金融機関装置が選択したクラウドファンディング案件について、クラウドファンディング案件情報に含まれる事業計画情報及び資金需要者情報、並びに出資情報に含まれる出資者の属性情報及び出資状況を表す現況情報を所定のアルゴリズムを用いて分析して事業性評価情報を生成して金融機関装置に供給する生成部と、を備えることを特徴とする。
【0004】
また、特許文献2には、ユーザの信用度を適切に計算し、信用の保証された影響力を指標として用いることが可能なサービスを提供するクラウドファンディングシステムが開示されている。このシステムによれば、ユーザが、複数のプロジェクトに設定された複数の支援コースの中から所定の支援コースを選択して支援を行うことができるクラウドファンディングシステムであって、サーバ装置は、ユーザの信用スコアを算出し、計算された信用スコアに基づいて、対象となる支援コースの支援額を変動させ、ユーザによる対象となる支援コースの中からの一の支援コースの選択を受け付け、選択された支援コースを、ユーザが参加する参加支援コースに決定し、ユーザを、参加支援コースの支援者として対応付けて記憶する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-125046号公報
【文献】特開2020-101954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クラウドファンディングには、支援者が金銭的なリターンを得ることができる「投資型」と、金銭以外のモノやサービスを受け取ることができる「非投資型」があるが、上記の特許文献1に記載の技術は、「投資型」に属するものであり、特許文献2に記載の技術は、「投資型」、「非投資型」によらず、ユーザの信用度に応じて、複数の支援コースの中から参加支援コースを選択するものである。また、「非投資型」には、更に「購入型クラウドファンディング」と「寄付型クラウドファンディング」がある。「購入型クラウドファンディング」は、プロジェクト起案者が目標額と期限を設定し、支援者を募り、支援者のリターンとしては、市場に出回っていないモノやサービス、権利といった金銭以外の特典を設定する(典型的には、ふるさと納税がこれに近い)。また、「寄付型クラウドファンディング」は、集まった資金は全額寄付となるため、基本的に支援者にリターンはなく、プロジェクト起案者、支援者ともに純粋な社会貢献を目的としている傾向があり、環境保全、罹災地支援、病気の子供たちの支援といった、共感性の高いプロジェクトが多いのが特徴である。
【0007】
どのクラウドファンディングでもプロジェクト起案者が必要であるが、一般の消費者には、プロジェクト起案者となるにはやや敷居が高い。単に支援先に対する気持ちだけではなく、支援先の業務内容に熟知する必要があるからである。したがって、投資型、購入型、寄付型のような従来のクラウドファンディングではない、アフターコロナを見据えた、一般の人でも容易に参加可能で、プロジェクト起案者も必要としないような、新たな応援・支援の仕組みが求められている。
【0008】
一般的に、「支援」とは、自分の行動やお金といった面で実際に助けることを言い、「応援」とは、人や何かを元気づけるといった精神的なことを言うが、上記で求める仕組みは、両者の意味を兼ねて「応援・支援」と言うことにする。「応援又は支援」としないのは、両者の重なる部分もカバーすることを示すためである。すなわち、本発明は、最初は精神的な思いが中心である「応援」から始めて、コロナ禍後に応援先が事業を再開した後にも、実際の行動が中心である「支援」に移行することが可能な仕組み作りを目指すものである。
【0009】
したがって、本発明では、従来型のクラウドファンディング(投資型、購入型、寄付型)のいずれでもなく、消費者の未来の消費約束に基づく団体又は個人への応援・支援のための新たな仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下のような解決手段を提供する。
【0011】
(1)消費者の未来の消費約束に基づいて、特定の団体又は個人を応援・支援するための金融機関システムであって、応援者の求めに応じて、応援先を応援・支援するために、前記応援先の情報とともに前記応援者が前記応援先で将来使う予定の金額を、使うつもり貯金枠として、前記応援者の口座内に登録する、使うつもり貯金枠登録部と、前記使うつもり貯金枠からの振込及び現金の引き出しによる出金、並びに預け入れによる入金を管理する、使うつもり貯金枠入出金管理部と、前記使うつもり貯金枠の金額、登録数、利用状況を集計し、所定の条件下で公表する、使うつもり貯金枠集計・公表手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成において、前記応援者が、前記使うつもり貯金枠から行う出金に応じて、前記応援者又は前記応援先に所定のポイントを付与する、ポイント付与制御部を更に備えることを特徴とする。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)に記載の構成において、前記応援先が金融機関に融資を申し込んだ場合に、前記使うつもり貯金枠の集計を参考値として、前記融資の審査のための基礎データを生成する、融資判断部を更に備えることを特徴とする。
【0014】
(4)上記(2)に記載の構成において、前記ポイント付与制御部は、前記応援者が前記登録した応援先に対して前記使うつもり貯金枠から出金した場合には、前記応援者及び/又は前記応援先に対して所定のポイントを付与する、ことを特徴とする。
【0015】
(5)上記(2)に記載の構成において、前記応援者が前記登録した応援先以外に対して前記使うつもり貯金枠から出金した場合には、前記応援先に対して所定のポイントを付与する、ことを特徴とする。
【0016】
(6)上記(2)に記載の構成において、前記ポイント付与制御部は、前記応援者が前記使うつもり貯金枠から現金で引き出した場合に、前記現金の支払い先が前記応援先であることを証明する領収書が提示されたことを条件に、前記応援者にポイントを付与することを特徴とする。
【0017】
(7)上記(1)から(6)までのいずれか1つに記載の構成において、前記応援者が前記使うつもり貯金枠からまったく出金しなかった場合に、前記出金しなかった金額の一部又は全部を、前記使うつもり貯金枠に登録した応援先に寄付することを特徴とする。
【0018】
(8)消費者の未来の消費約束に基づいて、特定の団体又は個人を応援・支援するための方法であって、応援者の求めに応じて、応援先を応援・支援するために、前記応援先の情報とともに前記応援者が前記応援先で将来使う予定の金額を、使うつもり貯金枠として、前記応援者の口座内に登録するステップと、前記使うつもり貯金枠からの振込及び現金の引き出しによる出金、並びに預け入れによる入金を管理するステップと、前記使うつもり貯金枠の金額、登録数、利用状況を集計し、所定の条件下で公表するステップと、をコンピュータが実行することを特徴とする。
【0019】
(9)上記(8)に記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来型のクラウドファンディング(投資型、購入型、寄付型)ではなく、消費者の未来の消費約束に基づく団体又は個人への応援・支援の新たな仕組みを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の基本イメージ(仕組み)を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る「使うつもり貯金」の口座枠の概念について説明するための図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る金融機関システムの機能構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る金融機関のネットバンキングにおいて、ユーザがユーザ端末を使って行う処理を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るネットバンキングでの「使うつもり貯金枠」の登録方法を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るネットバンキングでの「使うつもり貯金枠」からの振込、及びATMでの「使うつもり貯金枠」からの現金引き出し方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以降の図においては、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号又は符号を付している。また、機能構成の図において、機能ブロック間の矢印は、データの流れ方向、又は処理の流れ方向を表す。
【0023】
(基本イメージ)
図1は、本発明の基本イメージ(仕組み)を示す図である。以下の()内の数字は図中の丸数字と対応している。
【0024】
(1)応援者又は支援者であるユーザ(以下、単に「応援者」と呼ぶことにする)は、応援・支援する先の団体又は個人(以下、単に「応援先」と呼ぶことにする)を、自分が取引している銀行などの金融機関に、応援先として登録する。応援先には、コロナによる打撃が大きい事業者、例えば、飲食店、観光・交通事業者、イベント主催者の他、アーティストなどの個人事業主も含まれる。金融機関は、応援者からのこの登録情報に基づいて、未来の消費約束である「使うつもり貯金」を、応援者(ユーザ)の口座内に論理的な口座枠として設定する。
【0025】
図2は、この「使うつもり貯金」の口座枠(以下、「使うつもり貯金枠」と言う)の概念について説明するための図である。図示するように、応援者の口座には、通常の口座内に、「使うつもり貯金枠」が、指定された比率又は金額で論理的に設定される(この例では、口座残高総額の95%が通常の口座枠で、残り5%が「使うつもり貯金枠」として設定している)。「使うつもり貯金枠」は、応援先ごとに更に分割(応援先A、応援先B、応援先Cなどに分割)してもよいし、口座枠の金額、割合を適宜変更してもよい。
【0026】
図1に戻り、(2)応援者は、設定された口座枠に対して「使うつもり貯金」をする(すなわち、口座内の預金を「使うつもり貯金枠」に一部割り当てる)。応援者が「使うつもり貯金枠」に対して、入出金を行うときは、自分の口座番号に加え、「使うつもり貯金枠」の識別子を指定する必要がある。ユーザが応援先の識別子を指定しないで入出金を行う場合は、通常の口座枠から入出金がなされる。
【0027】
(3)金融機関では、このようにして多数の応援者から集めた「使うつもり貯金枠」の金額、登録数、利用状況などを集計し、個人名が特定されないかたちで公表する。この集計は、後述の金融機関からの応援先への融資の審査の際に参考値とされる他、政府等が支援策を決める際の参考値ともなる。
【0028】
(4)ここで、応援者が「使うつもり貯金枠」からの出金要求を出して、実際にそのお金を応援先で使うと、使った額に応じて、所定のポイントが応援者側に付与される(4A)。また、応援者が「使うつもり貯金枠」からの出金要求を出して、そのお金を応援先以外に使うと、そこで使った額に応じて、所定のポイントが応援先のほうへ付与される(4B)。
ただし、「自分がポイントをもらうのか、応援先がもらうのか」については、応援者が事前又は事後に設定しておいてもよい。なお、応援者が「使うつもり貯金枠」から所定の期間まったく出金しなかった場合は、応援者の意思により、その「使うつもり貯金枠」の一部又は全部を当初の応援先に寄付するようにしてもよい。
【0029】
(5)また、応援先が金融機関に融資を申し込んだ場合、金融機関は、その応援先に対して集計された「使うつもり貯金枠」の金額、登録数、利用状況を融資の審査の際の参考値とする。すなわち、金融機関は、融資を申し込んだ事業者に対して登録された「使うつもり貯金枠」全てに基づいて、その事業者のコロナ禍後の事業性を評価し融資判断する。「使うつもり貯金枠」がたくさん集まっている事業者は、融資枠を増やしたり、金利を下げたりすることができる。また、応援先でお金を継続して使っている人やコロナ禍以前から利用している人は、クレジットカードなどの利用履歴から判断して、応援したい気持ちの信用度が高いので、金融機関の融資チェックの際に評価度合いを高めたり、融資の決定後に与えられるポイント率を上げたりしてもよい。また、支払実績(図示せず)を基に未来の消費を約束する「応援者候補」を抽出してもよい。抽出された「応援者候補」に、「使うつもり貯金枠」の設定を促してもよい。これまでの支払実績のある消費者であれば未来の消費も期待できるからである。
【0030】
以上のようにすることで、その応援先の事業者に対して使うつもりの金額を今のうちに貯金しておくことで、応援先を気持ちの上でまずは応援することができる。そして、事業者が、コロナ禍を克服し事業を再開した後は、精神的な「応援」から、実際の行動を伴った「支援」に移行することもできる。応援の仕方としては、応援先のプリペイド金券を購入することも考えられるが、本発明の仕組みは、応援先が個人や小さな商店であって金券を発行できないような場合であっても応援が可能であり、また、応援者が「使うつもり貯金枠」を万一他の目的で使ってしまっても、応援先側にポイントが付与されるので貯金したことが無駄にはならないし、応援者に特段のペナルティもない。また、金融機関が介在することで、融資が必要な場合は、金融機関からの支援も受けやすくなる。さらに、応援者は、コロナ禍でも利益が増えている事業者に対しては、もう支援しなくても大丈夫という判断を貯金中でもすることができる。その場合は、その事業者の「使うつもり貯金枠」を解除してもよいし、他の応援先に振り替えてもよい。
【0031】
なお、付与されるポイントの原資は、政府などが営業時間の短縮要請に対する補助金などから充当する他、金融機関の融資の審査判定に寄与している(金融機関が安心して融資できる)ので、その分、金融機関がポイントの原資を負担してもよい。
【0032】
また、将来使う金額として、「使うつもり貯金枠」を集計することで、その事業者の先々の収益が見えてくる。応援者は、今まで自分が使った履歴から、将来の予測値(=「使うつもり貯金枠」の金額)を計算してもよい。なお、応援者は、その応援先でモノ又はサービスを享受したつもりで、その金額を「使ったつもり貯金枠」として貯金してもよい(ただし、この場合は、従来の「つもり貯金」、すなわち、何かをしたつもりになって、使うはずだったお金を貯める方法と同じになる)。
【0033】
(機能構成)
図3は、本発明の実施形態に係る金融機関システム100の機能構成を示す図である。以下では、金融機関が銀行である場合について説明するが、金融機関が銀行以外を含む場合については、後述の実施形態の変形例で説明する。
【0034】
図3の金融機関システム100は、応援者側のユーザ(自行の預金者)の端末である応援者ユーザ端末10と、応援先側のユーザの端末である応援先ユーザ端末20とに、ネットワークで接続されているものとする。なお、応援者又は応援先のユーザが金融機関の窓口だけで手続きする場合は、必ずしもユーザ端末を所持していなくてもよい。
【0035】
金融機関システム100は、顧客とのインターフェースとなる機能部として、ネットバンキング101、ATM102、及び店頭の窓口端末103を備え、バックヤードの処理を行う機能部として、使うつもり貯金枠登録部104、ユーザ登録情報DB105A、使うつもり貯金枠入出金管理部106、口座入出金データDB107、ポイント付与制御部108、使うつもり貯金枠集計・公表手段109、融資申込情報DB110、融資判断部111を備えている。なお、応援先のユーザ登録情報を格納するDBを、応援先ユーザ登録情報DB105Bと呼んで、応援者側のユーザ登録情報DB105Aと区別してもよい。以下、バックヤードの各機能部について順に説明する。
【0036】
使うつもり貯金枠登録部104は、ネットバンキング101、ATM102、窓口端末103から、ユーザの「使うつもり貯金枠」の設定登録を受け付け、ユーザ登録情報105Aにその設定情報を格納する。この登録の具体的方法は後述する。
【0037】
ユーザ登録情報DB105Aは、応援者が金融機関に登録した情報(住所、氏名、連絡先、生年月日、職業、年収、契約内容など)を格納したデータベースである。「使うつもり貯金枠」の設定情報もこのDBに格納されるものとする。
【0038】
使うつもり貯金枠入出金管理部106は、ユーザの口座の中の「使うつもり貯金枠」の入出金を管理する。「使うつもり貯金枠」の入出金は、通常の口座枠とは別に管理される。入出金の方法は、振込及び現金の引き出しによる出金、並びに預け入れによる入金のいずれでもよいが、ユーザは、入出金のときに「使うつもり貯金枠」の識別子(応援先の名称、場所などでもよい)を指定する必要がある。この出金時の具体例は後述する。
【0039】
口座入出金データDB107は、ユーザの口座の入出金のトランザクションを記録、管理するためのDBである。前述したように、ユーザの口座の入出金は、通常の口座枠と「使うつもり貯金枠」に分けて管理される。さらに、「使うつもり貯金枠」は、応援先ごとに管理される。
【0040】
ポイント付与制御部108は、ユーザが「使うつもり貯金枠」から出金するときに、その出金先に応じて、所定のポイント(例えば、出金額の1~2%)を付与するか否か、ポイントを付与する場合は、その付与先を決定する。なお、ここで付与されるポイントは、一定以上貯めると、現金や商品などに交換が可能である。ユーザが登録した応援先に振り込む場合、又はその応援先の領収書を提示して現金で引き出した場合は、ポイントがユーザに付与される。一方、「使うつもり貯金枠」から、応援先以外に振り込んだ場合、又は現金で引き出して所定期間内に応援先の領収書が提示されなかった場合は、ポイントはその応援先に付与される。ここで、領収書の提示は事後でもよいが、スマートフォンなどで撮った領収書の写真を金融機関の所定の送信先に送信することでもよい。
【0041】
なお、ポイント率は付与先に応じて変化させるようにしてもよい。ユーザが通常の口座枠から応援先に振り込んだ場合は、ポイントは付与されないが、寄付として何らかの方法で指定して振り込んだ場合は、別途ポイントを付与するようにしてもよい。このようにすることで、「使うつもり貯金枠」で設定した金額を超えるような寄付をすることもできる。ただし、「使うつもり貯金枠」を登録している場合に限る。
【0042】
使うつもり貯金枠集計・公表手段109は、その金融機関内に登録された「使うつもり貯金枠」の金額、登録数、利用状況等を集計し、外部に公表する手段を有する。ここでは、個人情報が特定されないようにセキュリティ管理の上、統計処理されるのはいうまでもない。また、公表する手段は何であってもよいが、公表先は、政府機関、地方自治体、使うつもり貯金サービスを提供している他の金融機関など、所定の条件を満たした場合に限られる。なお、この集計は、自らの金融機関内のデータに限定してもよいが、使うつもり貯金サービスを有する他の金融機関と連携して集計してもよい。このようにすることで、一つの応援先に対する複数の金融機関に跨る応援者及び応援先のデータをまとめることができる。
【0043】
融資申込情報DB110は、応援先の事業者が金融機関に融資を申し込む場合に、その事業者が記載した申込情報を格納したデータベースである。金融機関の融資担当者は、融資申込人の名称、屋号、住所、口座番号などを確認し、その融資申込人に対して登録された「使うつもり貯金枠」があるか否かを確認する。「使うつもり貯金枠」がある場合は、融資の参考値とするため、融資担当者が、「使うつもり貯金枠」の集計情報を融資申込情報DB110に格納する。
【0044】
融資判断部111は、融資申込情報DB110に格納された融資申込情報、「使うつもり貯金枠」の集計情報、及びその他の信用情報(図示せず)を収集し、かつ応援先ユーザ登録情報DB105Bの情報も確認して、所定の基準を満たしてしていると判断される場合は、金融機関内の融資の審査で判断するための基礎データをまとめる。なお、「使うつもり貯金枠」の規模に応じて、融資の条件が変更されることもある。また、融資判断部111は、使うつもり貯金枠集計・公表手段109が行った「使うつもり貯金枠」の集計に対して、応援者から当該応援先への支払い実績(図示せず)を考慮してもよい。応援者から当該応援先へのこれまでの支払い実績が十分あるときは、「使うつもり貯金枠」の金額をその応援先に利用することが期待でき、支払い実績が十分でないときは、その応援先に利用することを過度に期待できないからである。より具体的には、判断のための積算金額を算出するときに、応援先の利用実績の有無に応じて「使うつもり貯金枠」に関する重みを変えて、算出してもよい。
【0045】
(ユーザ端末での処理フロー)
図4は、本発明の実施形態に係る金融機関のネットバンキングにおいて、ユーザ(応援者)が応援者ユーザ端末10を使って行う処理を示す図である。なお、この処理フロー図(フローチャート)においては、各ステップの入力と出力の関係を損なわない限り、各ステップの処理順序を入れ替えてもよい。
【0046】
まず、ステップS10において、応援者であるユーザが、金融機関のネットバンキング101にログインする。
【0047】
次に、ステップS11において、画面上の所定の操作ボタン等で、「使うつもり貯金枠」からの振込であるか否かを指定する。「使うつもり貯金枠」からの振込であれば、ステップS12において、振込先が応援先として登録済か否かを確認する。「使うつもり貯金枠」からの振込でなければ、ステップS19に移る。
【0048】
ステップS12において、振込先が応援先として登録済である場合は、ステップS13において、振込を指定して、「使うつもり貯金枠」からの振込を実行する。そして、ステップS14において、ユーザ(応援者)に所定のポイント付与をポイント付与制御部108へ要求し、処理を終了する。
【0049】
ステップS12において、振込先が登録されてない場合は、ステップS15において、新規に登録するか否かを判断し、新規に登録する場合は、ステップS16において、新規応援先として登録し、ステップS11に戻る。
【0050】
ステップS15において、新規応援先を登録しない場合は、ステップS17において、応援先以外への振り込みであるが応援先にポイントを付与することに承諾するか否かを選択する。承諾する場合は、ステップS18において、応援先に対して所定のポイント付与をポイント付与制御部108へ要求し、S13へ移る。承諾しない場合は、ステップS11に戻る。
【0051】
ステップS11で「使うつもり貯金枠」から振込をしない場合、ステップS19において、振込先を指定し、通常の口座枠から振込を実行し、処理を終了する。
【0052】
上記の金融機関システムの機能構成は、あくまで一例であり、一つの機能ブロック(データベース及び機能処理部)を分割したり、複数の機能ブロックをまとめて一つの機能ブロックとして構成したりしてもよい。各機能処理部は、装置に内蔵されたCPU(Central Processing Unit)が、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、ハードディスク等の記憶装置に格納されたコンピュータ・プログラムを読み出し、CPUにより実行されたコンピュータ・プログラムによって実現される。すなわち、各機能処理部は、このコンピュータ・プログラムが、記憶装置に格納されたデータベース(DB;Data Base)やメモリ上の記憶領域からテーブル等の必要なデータを読み書きし、場合によっては、関連するハードウェア(例えば、入出力装置、表示装置、通信インターフェース装置)を制御することによって実現される。また、本発明の実施形態におけるデータベース(DB)は、商用データベースであってよいが、単なるテーブルやファイルの集合体をも意味し、データベースの内部構造自体は問わないものとする。
【0053】
(「使うつもり貯金枠」登録例)
図5は、本発明の実施形態に係るネットバンキングでの「使うつもり貯金枠」の登録方法を示す図である。図示するネットバンキング画面200では、ネットバンキングのメニュー画面などから、使うつもり貯金枠登録ボタン201を押した後に表示される画面の一例を示している。
【0054】
図示する貯金額設定エリア202には、ユーザの口座残高総額が表示され、ユーザは、その中から「使うつもり貯金枠」に割り当てる金額又は割合を指定する。この例では、口座残高200万円のうち、10万円(5%)を「使うつもり貯金枠」に割り当てている。この割当額は、一括でもよいが、毎月の積み立てで行ってもよい。また、図示する応援先登録エリア203には、応援先の名称(事業者名、屋号、芸名など)、可能なら振込先の金融機関の口座番号等、及び、応援先ごとの口座枠を入力できるようになっている。入力した応援先のロゴマークなどを表示させるようにしてもよい。この例では、3つの応援先に、それぞれ3万円を割り当てている。また、図示する残高エリア204には、「使うつもり貯金枠」の残高及び通常の口座枠の残高が表示される。ユーザがそれらの情報を確認後、設定ボタン205を押すと登録が完了する
【0055】
なお、図示は省略するが、応援先の名称などの情報は、応援先のHP、パンフレット、名刺等の該当箇所の画像、又は応援先が発行した領収書やイベントチケット等の画像をアップロードして入力するようにしてもよい。
【0056】
また、上記の例では一つの応援先に対して一つの枠を登録しているが、同じ応援先に複数の枠を登録してもよい。例えば、一人のアーティストの東京公演と九州公演がある場合などは地域ごとに別々に登録してもよい。将来、東京には応援に行けるが九州には応援に行けない場合があるからである。
【0057】
(「使うつもり貯金枠」出金例)
図6は、本発明の実施形態に係るネットバンキングでの「使うつもり貯金枠」からの振込、及びATMでの「使うつもり貯金枠」からの現金引き出しの方法を示す図である。図示するネットバンキング画面300では、通常の振込画面で、「使うつもり口座枠から振込」301を指定した後に表示される画面の一例を示している。
【0058】
ここでは、ユーザが登録した応援先一覧302が表示され、振込先情報指定エリア303が表示される。ユーザが応援先一覧302から特定の応援先を選択し、振込先情報指定エリア303に振込金額、振込先の口座番号を入力すると、ユーザに付与される応援ポイントが自動的に計算されて表示される。ユーザが、その内容を確認して「承諾して実行ボタン」304を押せば振込が実行される。なお、このとき振込パスワードやワンタイムパスワードの入力が求められる。
【0059】
次に、図示するATM画面310では、応援先の口座番号が分らない場合に、現金で支払う場合を示している。この画面は、ユーザがATMで所定の操作をして、「使うつもり貯金枠から引き出し」311を選択した場合の画面の一例を示している。この画面では応援先一覧312が表示され、ユーザが特定の応援先を選択し、引き出し額指定エリア313から現金引き出し額を入力すると、付与される応援ポイントが自動的に計算され表示される。ただし、この時点では引き出した現金をその応援先で使う保証がないため、現時点での応援ポイントはゼロとなっている。ただし、後日、ユーザが応援先の領収書を提示した場合は、利用額の所定%のポイントが付与される旨のメッセージ314が表示される。ユーザがこのことに納得し、「承諾して実行」ボタン315を押せば現金が引き出され、将来のポイント付与も登録されるが、「承諾しないで実行」ボタン316を押すと現金は引き出されるが、将来のポイント付与は登録されない。
【0060】
(実施形態の変形例)
図7は、本発明の実施形態の変形例を示す図である。今までは金融機関が銀行である場合について説明したが、ここでは銀行以外の金融機関が介在する実施形態について説明する。図示する例では、「〇〇ペイ」などのQRコード決済事業者や電子マネー決済事業者(以下、まとめて「決済事業者」と呼ぶ)が介在する場合について説明する。応援者は、決済事業者に対して応援先を登録し、応援先ごとに「チャージ枠」を設定させる。そして、応援者は、自分が取引している銀行の口座から、設定された「チャージ枠」に資金を移動(入金)させることで、「使うつもり貯金」を登録する。つまり、決済事業者が設定した「チャージ枠」が銀行の「使うつもり貯金枠」に相当する。
【0061】
ここで、入金を行うのは、銀行の代わりにクレジットカード会社であってもよい。その場合は、銀行の口座番号をクレジットカード番号と読み替え、
図7の「入金指示」をクレジットカードからのチャージ指示、「銀行に融資の申し込み」を、カード会社にカードローンの申し込みと読み替えればよい。また、
図1の場合と同様に、チャージ枠にチャージした金額に対して、政府などが、ユーザの決済事業者のポイントを追加付与するようにしてもよい。
【0062】
(実施形態の効果)
本発明の実施形態の金融機関システムによれば、従来型のクラウドファンディング(投資型、購入型、寄付型)ではなく、消費者の未来の消費約束である「使うつもり貯金」に基づく団体又は個人への応援・支援(特に共助)のための新たな仕組みを提供することができる。
【0063】
具体的な作用効果としては、以下の通りである。
(1)消費者の未来の消費約束に基づいて、特定の団体又は個人を応援・支援するための金融機関システムにおいて、応援者の求めに応じて、応援先を応援・支援するために、応援者が応援先で将来使う予定の金額を、使うつもり貯金枠として、応援者の口座内に登録する。このことにより、将来、その応援先で使うためのお金を前もって貯金することができる。そして、使うつもり貯金枠からの振込及び現金の引き出し又は預け入れの入出金を管理するので、応援先及び応援先以外への使用も区別することができる。また、使うつもり貯金枠の金額、登録数、利用状況を集計し、所定の条件下で公表することができるので、政府や他の金融機関等でもその集計データを利用することができる。
【0064】
(2)応援者が、使うつもり貯金枠から行う出金に応じて、応援者又は応援先に所定のポイントを付与するので、使うつもり貯金のメリットを応援者、応援先とも受けることができる。
【0065】
(3)応援先が金融機関に融資を申し込んだ場合には、使うつもり貯金枠の集計データを参考値として、金融機関内の融資の審査のための基礎データを生成することができるので、その応援先の使うつもり貯金枠が多いほど融資の条件が有利になることが期待される。
【0066】
(4)応援者が登録した応援者以外に対して、使うつもり貯金枠から出金した場合には、応援先に対して所定のポイントを付与するので、応援者の目的外の出金であっても応援先にメリットが生じる。
【0067】
(5)応援者が使うつもり貯金枠から現金で引き出した場合にも、現金の支払い先が応援先であることを証明する領収書が提示されれば、目的内の出金であると判断し、応援者にポイントを付与することができる。
【0068】
(6)応援者が何らかの理由で、使うつもり貯金枠からまったく出金しなかった場合には、出金しなかった金額の一部又は全部を、最初に登録した応援先に寄付することができるので、使うつもり貯金の趣旨に沿った支援ができる。
【0069】
なお、上記の実施形態では、主にコロナ禍での応援・支援について説明したが、その他の被災地、環境保全、病気の子供等の応援・支援にも適用又は応用が可能である。
【0070】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0071】
なお、上記の実施形態では、本発明を物の発明として、金融機関システムについて説明したが、本発明は、方法の発明又はコンピュータ・プログラムの発明としても捉えることもできる。
【符号の説明】
【0072】
10 応援者ユーザ端末
20 応援先ユーザ端末
100 金融機関システム
101 ネットバンキング
102 ATM
103 窓口端末
104 使うつもり貯金枠登録部
105A ユーザ登録情報DB
105B 応援先ユーザ登録情報DB
106 使うつもり貯金枠入出金管理部
107 口座入出金データDB
108 ポイント付与制御部
109 使うつもり貯金枠集計・公表手段
110 融資申込情報DB
111 融資判断部
200 ネットバンキング画面(登録時)
201~205 ネットバンキング画面200の各種エリア、操作ボタン
300 ネットバンキング画面(振込時)
301~304 ネットバンキング画面300の各種エリア、操作ボタン
310 ATM画面(引き出し時)
311~316 ATM画面310の各種エリア、操作ボタン