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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】包帯巻き具
(51)【国際特許分類】
   A61F 15/00 20060101AFI20250220BHJP
【FI】
A61F15/00 338
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020180112
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071257
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-09-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月26日~28日にインテックス大阪で開催された第6回医療と介護の総合展(メディカルジャパン大阪)に出展、令和2年5月21日に日刊工業新聞に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】庄川 久美子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】才木 直史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕亮
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-50989(JP,A)
【文献】特開2018-143265(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2184026(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状で一重のケースと、前記ケースの一端側を塞ぐ底蓋と、前記ケースの他端側を塞ぐ上蓋と、からなる包帯を収容する包帯収容部において、
前記ケースには包帯を引き出すための開口が設けられており、
前記開口の外側に沿って設けられ、前記ケースから引き出された包帯が通過する通路壁と、前記通路壁と相対して固定され、通過する前記包帯と接触する圧子と、の隙間によって前記包帯の引き出しに抵抗を付与するとともに、
前記ケースの前記開口において、前記包帯の引き出し方向における該開口の前後両側には、前記包帯収容部を支えるローラーが前記ケースの側面に沿って設けられており、
前記圧子は、断面が長円状であり、回転可能に固定され、
前記圧子を回転させ、前記隙間を調整する操作部を前記ケースの端部側に備えていることを特徴とする包帯巻き具。
【請求項2】
前記包帯収容部における前記ケースの側面に沿って、巻き付け作業に利用する突起部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の包帯巻き具。
【請求項3】
前記ローラーは、複数の芯材と、前記芯材を覆うパイプ状の表皮とからなり、変形可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の包帯巻き具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性包帯の張力を一定にして巻き付けることができる包帯巻き具に関する。
【背景技術】
【0002】
静脈の血流速度が遅くなると、血栓が生じる深部静脈血栓症(DVT、エコノミークラス症候群)を発症し易くなる。特に、重力に逆らった血流方向となる下肢は、麻酔の作用で血管の拡張が誘発されたり、筋肉の弛緩によるポンプの役割が不足したりすると血栓を発症し易くなる。この血栓が剥がれて(遊離して)肺動脈で詰まる肺血栓塞栓症を併発する危険性がある。
【0003】
深部静脈血栓症の予防方法として、特許文献1に開示されるような、医療用弾性ストッキングがある。医療用は通常のストッキングよりもかなり圧迫力が強く、また、静脈血やリンパ液を心臓方向へ流れやすくするために、足首の圧が一番強く、太ももに向かって圧が弱くなるよう作られている。しかしながら、医療用弾性ストッキングは寸法がS、M、Lサイズというような既製品の寸法であり、オーダーメイドではないので、寸法が合わない患者が多い。また、医療用弾性ストッキングはリンパ浮腫(むくみ)の予防にも使用されるが、リンパ浮腫が大きい患者や四肢が変形している患者には既製品では合わない。また、深部静脈血栓症の場合と浮腫の場合とでは圧迫力が異なるが、医療用弾性ストッキングは圧迫力の変更ができない。
【0004】
そこで、特許文献2に開示されるような、弾性包帯を四肢に巻き付ける方法が考えられた。弾性包帯はどのような下肢の形状でも使用可能であり、病状や四肢の状態に合わせて圧迫圧や範囲を調節できるという特徴がある。弾性ストッキングが履けない、サイズが合わない、あるいは皮膚障害などで中断した、下肢の手術や変形などの理由で、ストッキングを装着できないという場合でも弾性包帯を使用して四肢を圧迫することができる。この弾性包帯による圧迫は深部静脈血栓症の予防だけでなく、止血や浮腫のコントロール、下肢静脈瘤の治療やリンパ浮腫の治療にも使用されている。さらに、弾性包帯は「圧迫」のみならず、「創傷保護」としての包帯や、「固定」として、骨折、脱臼、捻挫部位の固定と安静や、「保持・支持」としてずれやすいドレッシングや薬剤の保持、点滴のチューブやシーネなどの支持にも使用されている。
【0005】
弾性包帯は所定範囲の圧力で患部に巻かなければならない。例えば、深部静脈血栓症の予防であれば、26.7hPs~40hPs(20mmHg~30mmHg)の圧力でなければならない。毛細血管の圧力は42.7hPsであるので、これ以上の圧力を弾性包帯で掛けると毛細血管が閉塞状態になり皮膚組織に血が通わなくなってしまうので、褥瘡を予防するにはこの数値以下にしなければならない。さらに、下肢への圧迫においては、静脈血やリンパ液を心臓方向へ流れやすくするために、足首の圧が一番強く、太ももに向かって圧が弱くなるよう巻かなければならない。例えば、その比率は足首:ふくらはぎ:太ももが10:7:4である。
【0006】
弾性包帯は主として看護師が巻くのであるが、所定の圧力で患部に巻くには、所定の張力で弾性包帯を引っ張り、且つ所定の巻き数にしなければならない。所定の巻き数にするのはさほど困難ではないが、所定の張力で弾性包帯を引っ張ることは非常に難しく、熟練が必要である。種々のテクニックを教授するも、現状としては看護師の感に頼ることになり、個人差が生じるという課題がある。また、幅の広い弾性包帯を巻くときは、弾性包帯側を母指(親指)と母指球に当てて引っ張るために、幅方向で張力が均一にならない。このように弾性包帯による圧力にばらつきがあるために、弾性包帯を解いて発赤などの異常がないかのチェックを頻繁に行わなければならない。
【0007】
特許文献3に包帯を巻き付ける自動包帯器が開示されているが、これは包帯の回転力を指の押圧で調整することにより包帯の張力を調整するものである。したがって、指の押圧が一定でないという問題や、巻かれている包帯の半径が変化すれば包帯の張力が変わるという問題がある。
【0008】
また、弾性包帯を包帯巻き具から一定の引張力で引っ張り出しても、まだ患部に巻き付いていない部分が緩む恐れがある。特に、最初の1巻きをするまでは、包帯Bの先端を他方の手で押さえていなければ包帯が患部から外れるので、包帯巻き具1Cを片手で一周させなければならず、まだ患部に巻き付いていない部分が緩むことが多い。
【0009】
そこで、本願の発明者は、特許文献4に示すように、包帯の繰り出し口の2つの板面の間を通る包帯を適度な手の力で外側の板を押圧することにより、包帯の半径が変化しても包帯の張力が変化しないようにした包帯巻き具を考えた。
【0010】
また、本願の発明者は特許文献5に示すように、包帯が繰り出されるときの狭い経路の長さを変化させることで、熟練者でなくとも弾性包帯の張力が所定の圧迫圧になる包帯巻き具を考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-188116号公報
【文献】特表2015-526224号公報
【文献】特開2001-137290号公報
【文献】特開2018-143265号公報
【文献】特開2019-50989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4の包帯巻き具には包帯が通る2つの板面の隙間を調節する調節ネジが付いているが、特許文献4の図4に示されるように、この調節ネジが保持される支持体33は2つのガイド33cがケース21のガイド孔21dに嵌入しているだけで、支持体33はケース21に保持あるいは固着されていないので、支持体33が手の親指や母指球で押圧されていないと、包帯が通る2つの板面の隙間は所定の寸法に維持されない。すなわち、特許文献4は手の親指や母指球で押圧されていないと、調節ネジが付いていても、所定の張力で包帯を引っ張ることはできないという短所がある。例えば、下肢に包帯を複数巻きするときに包帯を右手/左手と持ち替えるが、このときに特許文献4の支持体33の押圧の継続が途切れて包帯が緩む恐れがある。
【0013】
特許文献5の包帯巻き具は包帯が繰り出される狭くて長い経路を設けるために、内ケースと外ケースの二重構造となっている。このために、外径が大きくなるという短所がある。手が小さな女性の看護師にとって外径が大きくなると包帯を巻きにくくなるので、できるだけ小型なものが好ましい。
そこで本発明は、手で押圧しなくても所定の張力で弾性包帯を引っ張ることができ、かつ、小型の包帯巻き具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様に係る包帯巻き具は、包帯を収容する筒状の包帯収容部の包帯引出口に、前記包帯の引き出しに抵抗を加える隙間を設け、前記隙間は、前記包帯が通過する通路壁と、前記通路壁と相対して固定された圧子で形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の包帯巻き具は、隙間の抵抗による包帯への張力の付与なので、多重のケースを必要としないため、小型化となる。また、隙間を通路壁と固定された圧子で形成するため、隙間は一定のままであり、手による押圧が不要となり安定した張力を維持できるため、包帯を巻き付けし易い。
【0016】
本発明の包帯巻き具においては、前記圧子は、回転可能に固定され、前記圧子を回転させ、前記隙間を調整する操作部を備えていることが好ましい。このような構成により、圧操作部により圧子を回転させることで、相対する通路壁との隙間を変化させることができ、包帯の張力を調整することができる。
【0017】
本発明の包帯巻き具においては、前記操作部は、前記包帯収容部の側面に設けられていることが好ましい。このような構成により、巻き付け作業中にも指で簡単に操作部を操作することができ、包帯の張力を簡単に調整することができる。
【0018】
本発明の包帯巻き具においては、前記包帯収容部の側面に沿って、突起部を設けることが好ましい。このような構成により、突起部に手のひらを当てて回せるため、左右の手の切り替えを楽に行うことができる。また、このような構成は、手の小さい看護師にとって非常に扱いやすい。
【0019】
本発明の包帯巻き具においては、前記包帯収容部の外側にローラーを備え、前記ローラーが変形可能となっていることが好ましい。包帯収容部の外側に設けたローラーは、包帯巻き具から繰り出された包帯が緩むことを低減することができるが、ローラーのこのような構成により、人体の湾曲にローラーが追従することができ、巻き付け作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る発明者の実験結果である弾性包帯の張力と弾性包帯による圧迫圧の関係を示す折れ線グラフである。
図2】Aは実施形態の包帯巻き具に弾性包帯が装着されている状態の試作品の調整つまみ側の撮像であり、BはAとは逆側の撮像であり、Cはローラー側の撮像である。
図3】Aは歯車側の撮像であり、BはAとは逆側の撮像ある。
図4】弾性包帯の巻き方を示す撮像である。
図5】Aは実施形態の包帯巻き具の右側面を透視した右側面図であり、Bは左側面図である。
図6】Aは図5AのVIA-VIA断面正面図であり、BはA底面から投影した図5AのVIB-VIB断面底面図である。
図7図6AのVII-VII断面右側面図である。
図8】Aは第1ローラーの用途を示す撮像であり、Bは第2ローラーの用途を示す撮像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0022】
図1を用いて、実施形態の包帯巻き具1の発明の経緯を説明する。発明者は弾性包帯EBの張力と弾性包帯EBによる圧迫圧の実験を行った。その結果、図1に示すように、弾性包帯EBの張力と圧迫圧に相関があることが分かった。例えば、実験データから最小二乗法で近似式を得れば、所望する圧迫圧にするための弾性包帯EBの張力を求めることができる。また、逆に張力から圧迫圧を求めることもできる。この実験結果より、発明者は張力を調整する包帯巻き具1を発明すれば、所望する圧迫圧で一定に弾性包帯EBを巻くことができると考えた。
【0023】
圧迫療法に適しているとされる圧迫圧は26.7hPs~40hPs(20~30mmHg)なので、圧迫療法に適している弾性包帯EBの張力は図1から約6N~約13Nとなる。また発明者は弾性包帯EBの張力と伸びについての引張試験も行っている。この結果、20Nを越えたところで急激に伸びていくが、圧迫療法に適している約6N~約13Nでは張力に比例して伸びることがわかった。このような結果を基にして包帯巻き具1の発明が行われた。
【0024】
[実施形態]
図2図7を用いて、所望する圧迫圧で一定に弾性包帯EBを巻くことができる実施形態の包帯巻き具1の構成を説明する。なお、図5Aは、本発明の要部を記すために、包帯巻き具の右側面を透視した図となっている。
包帯巻き具1は、包帯収容部2と、第1ローラーR1と、第2ローラーR2と、からなる。
【0025】
[包帯収容部]
この包帯収容部2は、弾性包帯EBを収容すると共に弾性包帯EBを巻き付ける際の張力を調整するために弾性包帯EBが繰り出される抵抗を変化させる調整機能を備えている。具体的には、包帯収容部2は、ケース3と、底蓋4、第1ローラー上取付具5、第2ローラー上取付具6、上蓋7、隙間調整部8とからなる。
【0026】
ケース3は、射出成型の合成樹脂あるいは押出成形のアルミニウム材等からなり、図4図7に示すような断面が(開口を下向きとする)C字形状の筒状となっている。そして、C字形の両端と中央上の3箇所にそれぞれボス31が形成され、それぞれのボス31の両端に雌ネジ32(図6の32参照)が切られている。また、図2B図7に示すように中央のボス31は、ケース3の筒側面に沿って外向きに突出しており、包帯収容部2における突起部を形成している。
【0027】
底蓋4は、図6Aに示すようにケース3の一端側である底部を塞ぐものであり、後述の隙間調整部8の一部を収容する。具体的には、底蓋4は、内蓋41と、外蓋42と、第1ローラー底取付具43と、第2ローラー底取付具44からなる。
【0028】
合成樹脂製の内蓋41と外蓋42は、ケース3の開口部を塞ぐ略円形の部分と、第1ローラーR1と第2ローラーR2を取付けるために円形部分から突出した部分(次に説明する第1ローラー底取付具43と第2ローラー底取付具44を形成する部分)からなり、略同形状の部材である。そして、内蓋41と外蓋42は、対向側に空間を形成しており、底蓋4は、この形成された空間内に、隙間調整部8の一部を収容する構成となっている。
【0029】
第1ローラー底取付具43は、第1ローラーR1の一端が取付けられるものであり、第2ローラー底取付具44は、第2ローラーR2の一端が取付けられるものである。第1ローラー底取付具43は、内蓋41と外蓋42のそれぞれから一体に伸びており、内蓋41から伸びた部分と外蓋42から伸びた部分とが重なりあって、1つの第1ローラー底取付具43を構成している。同様に、第2ローラー底取付具44は、内部41と外蓋42のそれぞれから一体に伸びており、内蓋41から伸びた部分と外蓋42から伸びた部分とが重なりあって、第2ローラー底取付具44を構成している。
そして、図5A図6Bに示すように、底蓋4は、3つの第2ボルトB2でケース3の3つのボス31に螺着されて、ケース3の一端側である底部を塞ぐ。
【0030】
次に、ケース3の他端側について説明する。図5Bに示すように、第1ローラー上取付具5と第2ローラー上取付具6は、第1ローラーR1と第2ローラーR2を取付けるための部品であり、ケース3から突出するような形状となっており、合成樹脂で形成されている。そして、図5B図6Bに示すように、第1ローラー上取付具5と第2ローラー上取付具6は、第3ボルトB3によりケース3の端部のボス31に螺着されている。この第1ローラー上取付具5は、反対側の第1ローラー底取付具43と第1ローラーR1を介して相対している。また、第2ローラー上取付具6は、反対側の第2ローラー底取付具44と第2ローラーR2を介して相対している。
【0031】
上蓋7は、図6Aに示すようにケース3の他端側である上部の開口を塞ぐものである。上蓋7も合成樹脂で形成されている。また、上蓋7は、図5B図6Bに示すように、ケース3の中央のボス31の上部に第3ボルトで螺着されて、ケース3の上部を塞ぐ。
【0032】
また、上蓋7には第1ローラー上取付具5と第2ローラー上取付具6を螺着する第3ボルトB3を隠すように突出した2つのネジ蓋71が設けられている。このネジ蓋71は、第1ローラー上取付具5と第2ローラー上取付具6の第3ボルトB3の頭が入り込む凹部51、61に嵌入する。本実施形態のような包帯収容部2の構成は、ケース3の撓みによりケース3の開口側が開きやすくなってしまうが、ネジ蓋71の凹部51、61への嵌入により、ケース3が開くのを防ぐことができる。
【0033】
隙間調整部8は、弾性包帯EBが繰り出される抵抗を変化させる調整機能を構成するものである。具体的には、この隙間調整部8は、通路壁81と、圧子82と、調整つまみ83と、伝動歯車84からなる。
【0034】
通路壁81は、ケース3の開口に沿って設けられており、ケース3から繰り出される弾性包帯EBが通過する通路となるものであり、図7に示すように、ケース3の一方のボス31から延在している。より詳しくは、この通路壁81は、図7に示すように、通路端を構成する水平な通路壁と、水平な通路壁に繋がる斜めの通路壁と、斜めの通路壁に繋がりケース3のボス31に至る垂直な通路壁で構成されている。
【0035】
圧子82は、通路壁81の上を通過する弾性包帯EBに対して圧子82の先端82aを接触させることで、弾性包帯EBを繰り出す際の抵抗を付与するものである。具体的には、圧子82は、通路壁81と同様にケース3の開口に沿って設けられており、図7に示すように断面が角丸長方形(オーバルトラック)となっている。また、図7に示すように、圧子82は、通路壁81に相対して回転可能に固定されている。そして、圧子82の先端82aと通路壁81との隙間Sが、弾性包帯EBが繰り出される通路となる。包帯引出口に設けられたこの隙間Sによって弾性包帯EBに抵抗が付与される。
【0036】
また、圧子82は両端に軸が形成されており、一方の軸が第2ローラー上取付具6により(図4図5Bを参照)、他方の軸が底蓋4の外蓋42により(図6Aを参照)、軸支されている。この構成により圧子82が回転可能となっている。
【0037】
圧子82が回転することにより、圧子82の先端82aと通路壁81との間で形成される隙間Sが変化する。そして、隙間Sが変化することで、弾性包帯EBが繰り出される抵抗が変化する。つまり圧子82の回転により隙間Sが徐々に広がったり狭まったりするので、それに伴い抵抗が変化することになる。
【0038】
なお、圧子82の先端82aの形状は、図7のような円弧形状が好ましい。本発明者は、最初に圧子82の先端82aの形状を本実施形態とは異なる角丸四角形としていた。しかし、角丸四角形の圧子82を回転させても、先端82aの直線部分により弾性包帯EBに付与する抵抗の調整が難しかった。一方、本実施形態のような先端82aの形状にしたところ、圧子82を回転させることで、弾性包帯EBに付与する抵抗を直線的に変化せることができ、抵抗の調整を簡単に精度よく行うことができた。
【0039】
調整つまみ83は、圧子82を回転させて隙間Sを変化させる際に、使用者により操作されるものである。調整つまみ83は、円盤状であり、その側面83aにはローレットが刻まれて指で回転し易くなっている。調整つまみ83は、底蓋4の内蓋41と外蓋42で形成された空間内に配置されると共に、調整つまみ83の側面83aの一部が、図5Aに示すように、底蓋4の第1ローラー底取付具43側から突出している。そして、この調整つまみ83の突出が、包帯収容部2の側面に設けられ、圧子82を回転させ隙間Sを調整する操作部を構成する。
【0040】
また、調整つまみ83は、調整つまみ歯車831を備えており、底蓋4内で内蓋41と外蓋42とに軸支されている。そして、操作部である調整つまみ83は、使用者の指で回転させることができる。
【0041】
また、底蓋4内では、伝動歯車84と、圧子82と一体になって回転する圧子歯車821も、内蓋41と外蓋42で軸支されている。このため使用者による調整つまみ83の回転は、図5A図6Aに示すように、調整つまみ歯車831の回転となり、伝動歯車84を介して、圧子82の圧子歯車821の回転へと伝動される。
【0042】
このように包帯収容部2は、弾性包帯EBが通過する通路壁81と相対する圧子82が固定されて隙間Sが形成されている。従って、一定の隙間Sが維持されるため、手による押圧により隙間Sを形成する場合比べ、安定した張力を常に維持することができ、弾性包帯EBを巻き付けし易い。
【0043】
また、包帯収容部2は、調整つまみ83を回転すると、固定された圧子82が回転して隙間Sが変化し、弾性包帯EBが繰り出される抵抗が変化し、弾性包帯EBが巻き付けられる張力が変化する。
【0044】
また、調整つまみ83は、包帯収容部2の側面に位置しており、また、包帯収容部2の端に位置している。このため、使用者が包帯巻き具1を握ったままの指で調整つまみ83を簡単に操作することができる。これにより、例えば、下肢に弾性包帯EBを巻くとき、足首の圧を一番強くし、太ももに向かって圧が弱くなるようにする圧の変更が容易となる。また、調整つまみ83から指を離しても隙間Sは保持されるので、常時調整つまみ83を操作しなくてもよい。
【0045】
また、本実施形態の調整つまみ83は、図3A図6Aに示すように、回転軸方向に摺動可能になっており、通常コイルスプリング832により調整つまみ83の軸833が外蓋42から突出されている。この時、調整つまみ歯車831の平面に設けられた傾斜凸部(図示せず)と外蓋42の内側に設けられた傾斜凸部(図示せず)とが係合し、一方向(圧子82による隙間Sが広がる方向)だけに回転できるようになっている。従って、包帯巻き具1の使用時には通常弾性包帯EBの張力を弱める方向にだけ、調整つまみ83を回転させることができるようになっている。一方、軸833が使用者の指で押されると、調整つまみ歯車831の平面に設けられた傾斜凸部(図示せず)と外蓋42の内側に設けられた傾斜凸部(図示せず)との係合が解除され、他方向(圧子82による隙間Sが狭くなる方向)にも回転できるようになる。従って、例えば、弾性包帯EBを巻き戻す時や、圧子82の位置を元に戻す場合等に、軸833が使用者によって押されることになる。
【0046】
[第1ローラー/第2ローラー]
第1ローラーR1、第2ローラーR2は、包帯巻き具1で弾性包帯EBを巻く際に、身体に密着し、包帯収容部2を支えるものであります。また、第1ローラーR1は、包帯収容部2の外部に繰り出された弾性包帯EBを人体に向けて押さえるためのローラーとしても機能する。
【0047】
なお、図4で、弾性包帯EBが包帯収容部2から繰り出される方向とは逆方向に配設されるのが第1ローラーR1であり、弾性包帯EBが繰り出される方向に配設されるのが第2ローラーR2である。また、第1ローラーR1と第2ローラーR2は同一部品である。したがって、これらの構成は図6Bの第1ローラーR1の断面部を用いて説明する。
【0048】
第1ローラーR1は、図6Bに示すように、7つに分断された芯R11と、両端の軸受R12と、芯R11と軸受R12を覆う表皮R13で構成されている。そして、芯R11は、合成樹脂(例えば、ABS樹脂)であり、表皮R23は軟質の合成樹脂(例えば、シリコーン)のパイプである。なお、図2図4で示した試作品では、例えば、図2Cからわかるように、第1ローラーR1の表皮R13が不透明で、第2ローラーR2の表皮R23が半透明となっている。
【0049】
そして、第1ローラーR1の一端では、図6Bに示すように、第1ローラー上取付具5に螺入された第1ボルトB1が、一端側の軸受R12と一端側の芯R11に嵌入する。また、第1ローラーR1の他端では、第1ローラー底取付具43に螺入された第1ボルトB1が、他端側の軸受R12と他端側の芯R11に嵌入する。
【0050】
このような構成により、第1ローラーR1は、第1ローラー上取付具5と第1ローラー底取付具43との間において、回動可能に包帯収容部2に軸支される。そして、第2ローラーR2も、第2ローラー上取付具6と第2ローラー底取付具44との間において、回動可能に包帯収容部2に軸支される。
【0051】
また、第1ローラーR1は、芯R11が複数に分断され、表皮R13が軟質となっているので、回転軸方向に沿って変形可能となっている。従って、第1ローラーR1は、人体の湾曲に追従し易くなっている。また、第2ローラーR2も同様である。
【0052】
[使用方法]
次に本実施形態の包帯巻き具1の使用方法について説明する。まず、図4に示すように、上蓋7が外された状態で、弾性包帯EBが半時計方向となる向きでケース3に収容される。このとき、弾性包帯EBは圧子82の先端82aと通路壁81との隙間Sに通される。そして、上蓋7が第3ボルトB3でケース3に螺着される。この時、隙間Sを通った弾性包帯EBは、図4に示すように、通路壁81の端で折り返され、(第2ローラーR2側ではなくて、)第1ローラーR1側に引き出される。
【0053】
そして、図8A図8Bに示すように、第1ローラーR1と第2ローラーR2が身体に密着された状態で、包帯巻き具1は第2ローラーR2を先頭にして移動され、弾性包帯EBが身体に巻き付けられる。このとき、第1ローラーR1と第2ローラーR2は撓みによって身体の曲面に密着するので、弾性包帯EB巻きの作業が安定し、また、均一な張力となり、第1ローラーR1による弾性包帯EBの押圧が均等になる。
【0054】
この巻き付け作業では、弾性包帯EBによる圧迫圧が所定の値になるように、弾性包帯EBの種類や巻き付ける部位に応じて、調整つまみ83を回転させる。また、調整つまみ83の回転は、巻き付け作業中でも包帯巻き具1を握った手の指で操作可能である。
【0055】
また、弾性包帯EBの使用目的が異なるとき、例えば創傷保護や捻挫部位の固定として使用されるときは圧迫圧を変更することがある。この時は所望する圧迫圧を得る張力になるように調整つまみ83を操作する。このように、包帯巻き具1は状況に応じて張力を調整することができるので、所望する圧迫圧を得ることができる。なお、本実施形態では弾性包帯EBを用いた例で説明したが、弾性包帯EBに限定するものではなく、包帯巻き具1は一般的な包帯であって使用することができる。
【0056】
また、図7に示すように、ケース3の中央のボス31は包帯収容部2の筒側面に沿って突出する突起になっている。この突起に指を掛けたり(図8A参照)、手のひらの滑り止めにしたりして、巻き付け作業が行い易くなる。特に、包帯巻き具1を周回させるときは左右の手に包帯巻き具1を持ち替えるが、この持ち替えが容易となる。
【0057】
なお、上述の実施形態の第1ローラーR1と第2ローラーR2は同じ直径であったが、異なる直径でもよい。ローラーの直径を変更することで、患部の種々の直径に対応することができる。また、ローラーの位置を変更できるようにして、患部の種々の直径に対応することもできる。
【0058】
また、ケース3への弾性包帯EBの収納方向や、弾性包帯EBの隙間Sからの繰り出し経路は上述の方法に限定するものではなく、他の方法でもよい。本実施形態では、第2ローラーR2側を先頭にして移動させて使用していた。しかし、例えば、通路壁81の端で折り返され、第1ローラーR1側に引き出された弾性包帯EBを、更に第1ローラーR1の上側を通して第2ローラーR2側へと折り返すことで、第1ローラーR1側を先頭にして移動させて使用することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 包帯巻き具
2 包帯収容部
3 ケース
4 底蓋
7 上蓋
8 隙間調整部
81 通路壁
82 圧子
83 調整つまみ
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8