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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】形状測定システム及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20250220BHJP
   G01D 5/353 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
G01D5/353 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023569212
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2022043879
(87)【国際公開番号】W WO2023120055
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2021210127
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
(72)【発明者】
【氏名】和田 良太
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輝人
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/246497(WO,A1)
【文献】特開2002-185063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の中心にはコアが配置されておらず、かつ断面の中心から所定距離の略同一円周上に4個以上のコアが略等間隔で配置されているマルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの長手方向における各コアの歪分布を測定する歪分布測定装置と、
前記マルチコア光ファイバの歪分布を用いて、前記各コアにおける軸歪が互いに等しいことに基づく連立方程式を解くことで、前記マルチコア光ファイバの各地点での曲率および曲げ角度を求め、前記マルチコア光ファイバの形状を算出する解析装置と、
を備える形状測定システム。
【請求項2】
前記歪分布測定装置は、前記マルチコア光ファイバが基準形状であるときの前記歪分布を予め測定し、
前記解析装置は、前記歪分布測定装置で測定された歪分布を前記基準形状であるときの歪分布と比較することで、前記基準形状から変化した前記マルチコア光ファイバの形状を算出する、
請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項3】
前記解析装置は、
前記歪分布測定装置で測定された歪分布と前記基準形状であるときの歪分布を用いて、差分歪を求め、
前記差分歪を用いて、前記歪分布測定装置で歪分布が測定された前記マルチコア光ファイバの各地点での前記曲率および曲げ角度を求め
前記曲率および曲げ角度に対応する方向への前記差分歪に応じた大きさの位置ベクトルを用いて、3次元空間における前記マルチコア光ファイバの形状を算出する、
請求項2に記載の形状測定システム。
【請求項4】
前記マルチコア光ファイバは、既知の捩じりが与えられており、
前記解析装置は、前記既知の捩じりによる歪に基づいて、前記マルチコア光ファイバの形状の変化に起因する意図しない捩じりの歪を推定し、推定した前記意図しない捩じりによる歪を、前記マルチコア光ファイバの歪分布から除外すること、
を特徴とする請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項5】
前記マルチコア光ファイバは、125μmのクラッド直径を有し、35μm以上45μm以下の間隔で正方格子上に配置されているコアを有すること、
を特徴とする請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項6】
前記マルチコア光ファイバの中心軸が中空であることを特徴とする
請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項7】
前記歪分布測定装置が、前記マルチコア光ファイバで発生した後方ブリルアン散乱光分布を計測することを特徴とする請求項1に記載の形状測定システム。
【請求項8】
歪分布測定装置が、断面の中心にはコアが配置されておらず、かつ断面の中心から所定距離の略同一円周上に4個以上のコアが略等間隔で配置されているマルチコア光ファイバを用いて、前記マルチコア光ファイバの長手方向における各コアの歪分布を測定し、
解析装置が、前記マルチコア光ファイバの歪分布を用いて、前記各コアにおける軸歪が互いに等しいことに基づく連立方程式を解くことで、前記マルチコア光ファイバの各地点での曲率および曲げ角度を求め、前記マルチコア光ファイバの形状を算出する、
形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定対象に沿って設置したマルチコア光ファイバの光の伝搬方向における歪分布の測定及び解析に基づいて、測定対象の3次元形状を導出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチコア光ファイバ(以下、MCF(Multi Core Fiber)と称する場合がある。)の各コアの周波数領域の反射スペクトルをOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)で測定し、測定結果を解析することで、測定対象の3次元形状を導出することができる(例えば、非特許文献1及び2参照。)。しかし、OFDRを用いた3次元形状の同定では、数10mmオーダーの高分解能を実現できるが、測定距離が数10m程度に限定される。
【0003】
センシング媒体の全長にFBG(Fiber Bragg Grating)を付与し、測定分解能を改善する手法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、センシング媒体の製造性や経済性が低下する問題がある。
【0004】
一方、FBGの付与など準分布測定を用いて、形状同定を行うこともできる(例えば、非特許文献2参照。)。しかし、この技術では、測定点数に制約があり、長距離にわたる形状同定が困難である問題がある。
【0005】
また、MCFを用いた形状同定も提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。非特許文献3では、数km~数10kmに亘る長距離の測定が可能なBOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)を用いている。しかし、非特許文献3では、MCFのクラッド中心にコアが必要であるため、通信用途で用いられているクラッド中心にコアがない4コアファイバを用いることはできない。
【0006】
さらに、非特許文献3では、小さい曲率の形状センシングのためには中心コアと外周コアの距離を大きくする必要がある。しかし、コア間隔を広げるためにクラッド直径を大きくすると、光ファイバの曲げによる破断が生じやすくなる問題が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】https://doi.org/10.1117/12.720914(High-accuracy fiber-optic shape sensing)
【文献】DOI:10.1109/TMECH.2010.2080360(Real-Time Estimation of 3-D Needle Shape and Deflection for MRI-Guided Interventions)
【文献】小林他、“BOTDRによるマルチコアファイバを用いた大型線状構造体の形状センシングの基礎検討”OFT2020-19,2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、クラッドの中心にコアを持たないマルチコア光ファイバを用いて長距離に亘る測定対象の形状同定を実現可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
具体的には、本開示の形状測定システムは、
断面の中心以外の部分に4個以上のコアが配置されているマルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの長手方向における各コアの歪分布を計測する歪分布測定装置と、
前記マルチコア光ファイバの歪分布を用いて、前記マルチコア光ファイバの形状を算出する解析装置と、
を備える。
【0010】
具体的には、本開示の形状測定方法は、
歪分布測定装置が、断面の中心以外の部分に4個以上のコアが配置されているマルチコア光ファイバを用いて、前記マルチコア光ファイバの長手方向における各コアの歪分布を計測し、
解析装置が、前記マルチコア光ファイバの歪分布を用いて、前記マルチコア光ファイバの形状を算出する。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、クラッドの中心にコアを持たないマルチコア光ファイバを用いて長距離に亘る測定対象の形状同定を実現可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示のシステム構成の一例を示す。
図2】本開示のシステムが実行するフローの一例を示す。
図3】本開示における曲率κの説明図である。
図4】本開示における距離r、角度α及び曲げ角度βの説明図である。
図5A】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第1の抽出例を示す。
図5B】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第1の抽出例を示す。
図5C】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第1の抽出例を示す。
図6A】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第2の抽出例を示す。
図6B】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第2の抽出例を示す。
図6C】本開示の実施形態例における3次元形状変化の第2の抽出例を示す。
図7】距離rとコアに生じる歪量の一例を示す。
図8A】充実型の光ファイバの断面構成例を示す。
図8B】中空型の光ファイバの断面構成例を示す。
図8C】クラッドの直径に対する断面係数の一例を示す。
図9】本開示の実施形態例において用いるMCFの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
(実施形態例1)
図1に本開示のシステム構成の一例を示す。
本開示の形状同定法を実現するシステムは、測定対象100の形状変化の抽出に用いるマルチコア光ファイバ91と、前記マルチコア光ファイバ91の各コア11の伝搬方向における歪分布を検出する歪分布測定装置92と、前記歪分布測定装置92で取得された測定データを解析する解析装置93を備える。
【0015】
前記マルチコア光ファイバ91は、測定対象100の長手方向に沿って設置される。前記マルチコア光ファイバ91は、クラッド12内に配置された計4個のコア11を有する。図では、実施形態の一例として、4個のコア11は、クラッド12の断面中心以外の領域であって、クラッド12の断面中心から距離rの概ね同一円周上に概ね等間隔の正方格子上に配置されている例を示す。
【0016】
本開示の実施形態例では、前記4個のコア11は概ね同等の屈折率分布および光学特性を有する例について説明する。ただし、MCF91に備わるコア11は、各コアの屈折率分布や光学特性が意図的に異なるように配置される構造でも構わない。また、本開示の実施形態例ではコア11の数が4である例を示すが、コア11の数が4以上であれば良い。また、MCF91のコア11同士の間隔は、等間隔でなく配置されていても良いが、MCF91の断面においてある程度均等にコア11が配置されていた方が好ましい。例えば、4つのコアの場合には、直交座標における4象限のそれぞれにコアが配置されていてもよい。
【0017】
本開示の実施形態例のMCF91では、クラッド外径が125μm、コア間のクロストーク低減のためにコア間隔が35μm~45μmに設定されているMCFを用い、MCF91の延伸状態の変化を検出した。また、歪分布測定装置92には、後方ブリルアン散乱光分布を計測するBOTDR装置を用いることとした。図2に本開示の形状同定法の実施フローの一例を示す。
【0018】
始めに、測定対象100にMCF91を敷設し、歪分布測定装置92を用いて、定常状態における各コア11の歪分布特性を取得する(ステップS1)。これにより、解析装置93は、基準形状であるときの歪分布を取得する。
次に、測定対象100の3次元形状が変化した状態で、歪分布測定装置92を用いて、改めて各コア11の歪分布特性を取得する(ステップS2)。これにより、解析装置93は、未知形状であるときの歪分布を取得する。
次に、ステップS1で取得したデータと、ステップS2で取得したデータを用い、歪分布測定装置92が歪を計測するMCF91の各地点における、ステップS2におけるステップS1に対する差分歪を導出する(ステップS3)。このステップS3で算出した差分歪εは、MCF91の曲げによる歪εと、MCF91の長手方向の軸歪εの和である。
【0019】
図3に示すようにMCF91を曲げた場合、各コアCi(i=1~4)における、曲げ歪εb,iと曲率κと曲げ角度βは関係式(1)により表される。
εb,i=r・κ・cos(α-β) (1)
尚、rはクラッド12の中心軸Cからコア11までの距離、αはコア11のMCF91の断面内における角度を表す。
【0020】
図4に、距離r、角度α及び曲げ角度βの具体例を示す。角度αは、コアC1とMCF91の中心軸Cを結ぶ線とコアC1に隣接するコアC4とMCF91の中心軸Cを結ぶ線とのなす角度である。本実施形態では、コアC1~C4が同心円上に概ね等間隔で配置されているため、角度α~αは90度である。
【0021】
ここで、軸歪εは、MCF91の断面に対して一様に発生するため、コア番号iによらず一定となる。したがって、ステップS3で算出したコア番号iにおける差分歪εは式(2)で表される。
ε=ε+εb,i (2)
【0022】
本実施形態では、コア11が4つあるので、4元連立方程式が得られる。また、軸歪ε、曲げ歪における曲率κ、曲げ角度βはいずれのコア11においても等しい。そこで、最小二乗法などを用いて、各コア11の差分歪εを求める。(ステップS3)
【0023】
最後に、フレネ・セレの積分公式を用い、歪を計測した距離zの各地点における曲率κと曲げ角度βに対応する方向への、差分歪εに応じた大きさの位置ベクトルを決定する(ステップS4)。これにより、マルチコア光ファイバ91の距離zの各地点においてどの方向にどの程度変形しているかを求めることができるため、定常状態から変形後のマルチコア光ファイバ91の形状を測定することができる。
【0024】
尚、マルチコア光ファイバ91の距離zにおける被測定区間の始点と終点を補正することにより、位置精度を向上することができる。また、本実施形態例では歪分布測定にBOTDRを用いたが、OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)などの光ファイバの歪を計測可能な任意の手段を使用しても良い。
【0025】
図5A図5Cに、本開示の実施形態例における3次元形状変化の抽出例を示す。本開示の実施形態例では、センシング用のMCF91を直線状に延伸した状態で、前記図2のステップS1における基準形状であるときの歪分布データを取得した。次に、図5AのようにMCF91の中央付近に配置された測定対象100の周囲を反時計回りに一定曲率でxy平面上で1巻し、ステップS2を実行した。これにより、図5Bの未知形状であるときの歪分布データを取得した。図5B中のC1、C2、C3、C4の実線は、それぞれコア番号iの違いを表す。図5Cは、ステップS1及びS2の歪分布データをもとに、基準形状から変化したMCF91形状を算出し、形状同定した結果を示している。本結果から測定対象100の中央付近における曲げの曲率が精度良く検出できていることが分かる。
【0026】
図6A図6Cに、本開示の実施形態例における3次元形状変化の抽出例を示す。図5A図5Cの場合と同様に、センシング用のMCF91を直線状に延伸した状態で、前記図2のステップS1における基準形状であるときの歪分布データを取得した。次に、図6AのようにMCF91の終端から、xy平面上で渦を巻くような測定対象100に沿って変形させ、ステップS2を実行した。これにより、図6Bの未知形状であるときの歪分布データを取得した。図6B中のC1、C2、C3、C4の実線は、それぞれコア番号iの違いを表す。図6Cは、ステップS1及びS2の歪分布データをもとに、基準形状から変化したMCF91形状を算出し、形状同定した結果を示している。本結果から、MCF91の終端側で曲率が徐々に小さくなる形状変化が精度良く検出できていることが分かる。
【0027】
(実施形態例2)
図7は距離rに対するコア11に生じる歪量の一例を示している。図7中の線種の違いは曲率の違いを示しており、コア11がクラッド12の中心軸Cから距離rが遠くなるほど、歪量が大きくなり、微小な変化を抽出しやすくなることが分かる。MCF91において、クラッド12の中心軸Cとコア11の中心との距離rを広くするためには、クラッド12の直径を大きくする必要がある。クラッド直径を大きくしていくと、光ファイバの剛性が高くなり、光ファイバ自身が曲がりにくく、破断の可能性も高くなる。この光ファイバの剛性については、光ファイバの断面形状に依存しており、図8Aに示すような光ファイバ全体がガラスである充実型の光ファイバの場合、断面係数は式(3)で表される。
【数3】
【0028】
一方、本開示を用いた場合には、クラッド中心軸Cにコア11が不要となることから、図8Bに示すようなクラッド12の中心軸Cを中空にした中空型の光ファイバにすることが可能になる。その場合の断面係数は式(4)で表される。
【数4】
【0029】
式(3)及び式(4)を用いて算出したクラッド12の直径に対する断面係数を図8Cに示す。非特許文献3には、クラッド12の直径が375μmのMCFでは破断することなく形状同定を行うことが可能であることが示されている。中空の面積を80%にすれば、クラッド12の直径が430μmであっても、クラッド12の直径が375μmと同程度の剛性に留めることができることがわかる。本開示は、中空のMCFを利用することが可能であるため、図8Aに示す充実型と比較してクラッド中心軸Cからコア11の距離rを大きくすることができる。したがって、本開示は、微小な歪量を検出することが可能になる。
【0030】
(実施形態例3)
MCF91を用いて3次元の形状変化を抽出する際に、意図しない捩じりが生じ、計測結果に誤差が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、図9に示すように、形状同定に用いるMCFを作製する際に、意図的に単位長さあたりに一定の回数の捩じりを加える。ここで、図では、理解が容易になるよう、コア数が3の場合を示している。これにより、本実施形態のMCF91は、予め加えられている捩じり回数以下の意図しない捩じりが与えられた場合に、後から与えられた意図しない捩じりを推定することができる。このため、意図しない捩じりによる歪を排除することが可能になり、形状同定の精度を向上させることができる。
【0031】
本実施形態の形状測定システムのシステム構成は図1で説明した構成に対し、MCF91に既知の捩じれが付与されていることに加え、これに伴う解析装置93の解析手順が相違する。具体的には、本実施形態の形状測定方法は、図2に示したステップS3及びS4の解析が異なる。
【0032】
図2のステップS3では、未知形状の各コア11の歪分布と基準形状の各コア11の歪分布との差分をとることにより得られる差分歪εは曲げ歪εb,iと軸歪εの和で表されている。本実施形態では、MCF91に捩じりを加えられているため、差分歪εは、曲げ歪εb,iと軸歪εと捩じり歪εの和になる。また、式(1)の曲げ歪εb,iは式(5)で表され、各係数は(6)から(9)で表される。
【数5】
【0033】
、kは捩じりの補正係数であり、ωはコア番号iの位置を表す角度、νはポアソン比、pは円周上のコア11のスピンレート、φは比捩じり角を示す。ここで、スピンレートは、MCF91に加えた捩じり回数[回/m]である。
【0034】
コア11同士の相対的な位置関係は変化しないので、εb,iの総和はゼロになる。したがって、差分歪εの総和は式(10)になる。
【数10】
【0035】
式(5)及び式(10)を満たす曲率κ、曲げ角度β、軸歪ε、捩じり歪εを最小二乗法などにより決定する(ステップS4)。最後にフレネ・セレの積分公式を用い、歪を計測した距離zの各地点における曲率κと曲げ角度βに対応する方向への、マルチコア光ファイバ差分歪εに応じた大きさの位置ベクトルを決定する。これにより、マルチコア光ファイバ91の距離zの各地点においてどの方向にどの程度変形しているかを求めることができるため、定常状態から変形後のマルチコア光ファイバ91の形状を測定することができる。
【0036】
(本開示の効果)
本開示によれば、形状変化の検出に用いるマルチコア光ファイバの中心にコアがないコア配置の構造を用いて形状同定を可能にする。また、OFDRでは数十mだったものが、数kmか数10kmの形状同定が可能になる。さらに、本開示によれば、MCF91に中空型の光ファイバを用いることができるため、MCFの外径を太くしてクラッド中心とコア中心間距離を拡大することにより、歪を大きくして微小な形状を測定可能な測定感度を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本開示は測定対象の3次元形状を導出することによるインフラの老朽化対策に利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
11:コア
12:クラッド
91:マルチコア光ファイバ
92:歪分布測定装置
93:解析装置
100:測定対象
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図9