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特許7637406装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテン
<図1>
  • 特許-装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテン 図1
  • 特許-装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテン 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテン
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/54 20210101AFI20250220BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20250220BHJP
   A47H 23/08 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
D03D15/54
D03D11/00 Z
A47H23/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021072053
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166677
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】392019134
【氏名又は名称】株式会社カツクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002804
【氏名又は名称】弁理士法人フェニックス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁
(72)【発明者】
【氏名】氷坂 公治
(72)【発明者】
【氏名】寺井 悟
(72)【発明者】
【氏名】田邉 裕基
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-019089(JP,A)
【文献】特開平09-049178(JP,A)
【文献】特開2009-091696(JP,A)
【文献】実開昭59-113370(JP,U)
【文献】登録実用新案第3117957(JP,U)
【文献】特許第5101977(JP,B2)
【文献】特開2018-021272(JP,A)
【文献】特開2014-074256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
A47H1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と中間層と裏層の三層の織布構造による基礎織布部が構成され、この基礎織布部が、前記中間層の緯糸と、その両面の表層の経糸および裏層の経糸とからなる経糸二重組織の三層構造であって、かつ、前記表層の織組織が経朱子組織である一方、
前記中間層の緯糸が黒色の原着糸であり、かつ、前記表層の経糸が白色の仮撚加工糸であって、この表層の経糸の太さは、前記中間層の緯糸の太さよりも太く、
この表層の経糸の組織点同士の間における膨出によって前記緯糸が被覆されて、表層側への緯糸の露出が防止されている一方、
織物組織による装飾模様層が前記基礎織布部の表層の表面に一体に織成され、当該装飾模様層を構成する経緯糸の色相に対する前記緯糸の加色が防止されて構成されていることを特徴とする装飾性遮光織物。
【請求項2】
経糸二重組織の三層構造からなる基礎織布部が両面サテン織組織からなることを特徴とする請求項1記載の装飾性遮光織物。
【請求項3】
請求項1または2記載の装飾性遮光織物を用いて、前記中間層の黒色の原着糸の緯糸が水平方向に配置されたことを特徴とするカーテン。
【請求項4】
前記装飾模様層が室内側に面するように、織物の上端部に取付具を配設可能に構成したことを特徴とする請求項3記載のカーテン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性生地の改良、更に詳しくは、優れた遮光性能を有しつつも、表面の装飾模様の本来の色相を維持して高い鑑賞性を得ることができて、かつ、一度の織成工程で製造することができる装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日差しなどを遮断するための遮光カーテンに使用する生地として、経糸または緯糸に黒原着糸を使用した織物が知られているが(例えば、特許文献1参照)、カーテンは室内で使用されるため、黒原着糸の黒色が室内側に露出していると、物理的に照度を抑止する以上に、室内の雰囲気までも暗くしてしまうという副作用がある。
【0003】
この際、遮光生地の表面(室内側)に模様を付与することが考えられるが、黒原着糸が露出していると模様の色と黒色とが加色混合してしまい、くすんだ色になって本来の色相が発現されず、十分な装飾効果を表現できないという不満があった。
【0004】
そこで、遮光生地の表面に白色の糸を配置し、その上からプリント加工によって模様を形成することにより、装飾性および鑑賞性を付与するものが開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、この<特許文献2>の発明にあっては、プリント加工のための転写装置等の設備投資が必要であり、かつ、加工時間もかかって製造コストが増大するという問題がある。
【0006】
また、黒色の影響を防止する手段として、遮光生地と柄の生地とを接着剤シートによって貼り合わせたものが開示されている(特許文献3参照)
【0007】
しかしながら、この<特許文献3>の発明にあっては、接着剤シートの存在によってカーテンのドレープ性が損なわれてしまうし、また、接着剤シートの剥離や、大型の生地の作製が困難であり、製造の手間とコストがかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】登録実用新案公報第3117957号公報
【文献】特開2004-136041号公報
【文献】特開2006-77534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、優れた遮光性能を有しつつも、表面の装飾模様の本来の色相を維持して高い鑑賞性を得ることができて、かつ、一度の織成工程で製造することができる装飾性遮光織物およびそれを用いたカーテンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0011】
即ち、本発明は、表層1と中間層2と裏層3の三層の織布構造による基礎織布部を構成して、この基礎織布部を、前記中間層2の緯糸21と、その両面の表層1の経糸11および裏層3の経糸31とからなる経糸二重組織の三層構造にして、かつ、前記表層1の織組織を経朱子組織にする一方、
前記中間層2の緯糸21を黒色の原着糸にして、かつ、前記表層1の経糸11を白色の仮撚加工糸にして、この表層1の経糸11の太さを、前記中間層2の緯糸21の太さよりも太くし、
この表層1の経糸11の組織点同士の間における膨出によって前記緯糸21を被覆して、表層1側への緯糸21の露出を防止する一方、
織物組織による装飾模様層4を前記基礎織布部の表層1の表面に一体に織成して、当該装飾模様層4を構成する経緯糸の色相に対する前記緯糸21の加色を防止して構成するという技術的手段を採用したことによって、装飾性遮光織物を完成させた。
【0015】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、経糸二重組織の三層構造からなる基礎織布部を両面サテン織組織にするという技術的手段を採用することもできる。
【0017】
また、本発明は、上記の課題手段によって構成した装飾性遮光織物を用いて、前記中間層2の黒色の原着糸の緯糸21を水平方向に配置してカーテンを構成するという技術的手段を採用することもできる。
【0018】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、前記装飾模様層4が室内側に面するように、上端部に取付具を配設可能に構成するという技術的手段を採用することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、表層と中間層と裏層の三層の織布構造による基礎織布部を構成して、前記中間層の緯糸を濃色の原着糸にして、かつ、前記表層の経糸を淡色の仮撚加工糸にして、この表層の経糸の膨出によって前記緯糸を被覆して、表層側への緯糸の露出を防止する一方、
織物組織による装飾模様層を前記基礎織布部の表層の表面に一体に織成したことによって、当該装飾模様層を構成する経緯糸の色相に対する前記緯糸の加色を防止することができる。
【0020】
したがって、本発明の装飾性遮光織物によれば、優れた遮光性能を有しつつも、表面の装飾模様の本来の色相を維持して高い鑑賞性を得ることができる。
【0021】
また、基礎織布部と装飾模様層とが一枚の織物として一体化されているので、一台の織機で一度の織成工程で製造することができる。
【0022】
そして、必要に応じて、基礎織布部を、中間層の緯糸と、その両面の表層の経糸および裏層の経糸とからなる経糸二重組織の三層構造にすることによって、使用糸量が少なくて済み、優れたドレープ性を得ることもできることから、産業上の利用価値は頗る大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態の装飾性遮光織物の構造を表わす概略断面図である。
図2】本発明の実施形態の装飾性遮光織物の組織を表わす断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態を図1および図2に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものは表層であり、符号2で指示するものは中間層、符号3で指示するものは裏層、符号4で指示するものは装飾模様層である。
【0025】
本実施形態の装飾性遮光織物は、基礎織布部と装飾模様層との平行な2面の面組織を有する多層織物であって、まず、表層1と中間層2と裏層3の三層の織布構造による基礎織布部の構成について説明する。
【0026】
本実施形態では、基礎織布部における経糸および緯糸の材料としてポリエステルを採用することができ、また、糸の太さは、50~500dtexの範囲とすることができる。
【0027】
そして、前記中間層2の緯糸21を濃色の原着糸として、かつ、前記表層1の経糸11を淡色の仮撚加工糸にする。ここで、原着糸とは、紡糸時において原着剤や着色剤を原料に練り込んで色付きの合繊糸として製造したものであって、通常の糸は、糸の表面が染色によって着色されているのに対し、原着糸は、糸の表面だけでなく芯部までも着色されている。なお、濃色には、可視光線を最も良く吸収する黒色であることが好ましいが、黒色以外にも紺色や赤色などであってもよい。
【0028】
本実施形態では、前記表層1の経糸11の淡色を白系色の糸にすることができる。こうすることによって、装飾模様層4の本来の色相をより忠実に現出させることができる。なお、淡色は彩度の低いものであれば薄色やベージュなどを採用することができる。
【0029】
また、表層1の経糸11等に用いる仮撚加工糸(テクスチャードヤーン)は、化学繊維の熱可塑性を利用してポリエステルやナイロン等のフィラメント糸にクリンプ形態を与え、嵩高性や伸縮性を付与した糸である。通常は、糸に撚りをかけた状態で加熱した後、冷却することによって撚り変形を繊維に固定し、撚る方向と逆方向に撚りかけて、撚りが無く、嵩高で伸縮性のある糸に加工したものである。
【0030】
そして、この表層1の経糸11の膨出によって前記緯糸21が被覆されて、表層1側への緯糸21の露出が防止されている。即ち、経糸11は仮撚加工糸であるため、糸の嵩高性を利用して、組織点同士の間において膨出させて被覆させることができるのである。
【0031】
更に、織物組織による装飾模様層4を前記基礎織布部の表層1の表面に一体に織成する。この装飾模様層4は、一台の織機を使用して経糸の織り込みによって基礎織布部の織組織に浮沈させながら一体に織成することができる。また、装飾模様層4は基礎織布部の糸の太さや織組織などの制約を受けることがなく、朱子織や綾織、平織であっても良く、糸の色や太さも自由に選択することができる。
【0032】
更に、装飾模様層4を、基礎織布部の表層側に基礎組織とは別の経糸および緯糸として織り込むことにより、濃色(黒色)の加色混合の影響を受けることがないことから、当該装飾模様層4を構成する経緯糸の色相に対する前記緯糸21の加色を防止することができる。
【0033】
本実施形態では、前記表層1の経糸11の太さを、前記中間層2の緯糸21の太さよりも太くすることもできる。こうすることによって、隣接して直交する中間層2の緯糸21の露出を確実に被覆することができる。
【0034】
また、本実施形態では、前記基礎織布部を、前記中間層2の緯糸21と、その両面の表層1の経糸11および裏層3の経糸31とからなる経糸二重組織の三層構造にすることができる(図2参照)。経糸二重組織とは、経糸二重、緯糸一重からなる組織であって、経糸を表面および裏面に出るようにしたものである。この場合、中間層2の緯糸21は基礎織布部の内部に存在するため、表層1および裏層2の表面には経糸11と経糸31とが現れる。こうすることによって、少ない糸量で済み、生地を低密度にすることができ、優れた遮光性およびドレープ性を得ることができる。
【0035】
この際、本実施形態では、経糸二重組織の三層構造からなる基礎織布部を両面サテン織組織(朱子組織)にすることができる。こうすることによって、生地の風合いやドレープ性を良くすることができる。
【0036】
更にまた、本実施形態では、経糸二重組織の三層構造からなる基礎織布部の表層1の織組織が経朱子組織にすることができる。経朱子組織は、緯糸よりも経糸の飛びが多いため、表層1の経糸11が表面に多く露出することになるため、表層1における中間層2の緯糸21を被覆してより確実に露出を防止することができる。
【0037】
また、本実施形態では、上記のとおり構成した装飾性遮光織物を用いて、前記中間層2の濃色の原着糸の緯糸21を水平方向に配置したカーテンを形成することができる。こうすることによって、日射角度に対して緯糸21自身も直下の糸に影を作ることによって、隙間からの漏れ日がなくなり、より効果的に遮光することができる。
【0038】
また、本実施形態のカーテンにあっては、前記装飾模様層4が室内側に面するように、上端部に取付具を配設可能に構成することもできる。こうすることによって、カーテンの縦横および裏表の設置方向を特定することができ、上記の遮光効果および装飾模様効果を確実に得ることができる。
【0039】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、基礎織布部における表層1と中間層2と裏層3の三層の織布構造は、各層が経緯糸による織物組織であっても良く、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0040】
1 表層
11 経糸
2 中間層
21 緯糸
3 裏層
31 経糸
4 装飾模様層
図1
図2