(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20250220BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250220BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20250220BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61K38/08 ZNA
A61P27/02
A61P27/04
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2022572705
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 KR2021005118
(87)【国際公開番号】W WO2021241892
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0062610
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515187098
【氏名又は名称】ノバセル テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ギム,ジェ ワン
(72)【発明者】
【氏名】イ,テ フン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヒョン ジュ
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506362(JP,A)
【文献】特表2018-500546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/08
A61P 27/04
A61P 27/02
C07K 7/06
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2
のアミノ酸配
列で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する、眼球乾燥症治療及び予防用薬学的組成物。
【請求項2】
前記眼球乾燥症は、水性涙欠乏性または蒸発性眼球乾燥症である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記ペプチドのN末端には、オクタノイル基またはC末端にアミン基が付加された、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
配列番号2
のアミノ酸配
列で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する、乾性眼によって誘発される角結膜炎治療用薬学的組成物。
【請求項5】
配列番号2
のアミノ酸配
列で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する、乾性眼によって誘発される角膜損傷及び混濁改善用薬学的組成物。
【請求項6】
軟膏、皮膚外用剤、エアロゾル、スプレー、点眼剤、経口剤及び注射剤で構成された群から選択される剤形を有する、請求項1から請求項5のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の薬学的組成物を眼球乾燥症を病んでいる人間を除く哺乳動物個体に投与する段階を含む、前記個体の眼球乾燥症の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物に係り、さらに詳細には、副作用なしに眼球乾燥症と関連した眼科疾患治療が可能な新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球乾燥症(dry eye syndrome)とは、一般的に涙生成の減少または涙蒸発による涙膜の損失増加によって、異物感、灼熱感または目の刺激感などの症状が発生する症候群である。既存の眼球乾燥症に対する治療は、症状によって不足な涙を補充するために、人工的に作った涙である人工涙液を点眼するか、涙道を一時的あるいは永久的に塞ぐなどの保全的な方法で一定量以上の涙の保持に焦点を置いていた。しかし、このような対症治療は、その効果が十分ではなく、発病原因の改善に直接介入することができない。したがって、眼球乾燥症に対する最近の治療傾向は、症状緩和目的の消極的治療よりは涙腺と眼球表面との炎症を減らして乾性眼を好転させようとする直接的であり、究極的な治療方法が好まれている。また、人工涙液で調節しにくい重症度以上の眼球乾燥症には、単純な人工涙液の処方ではない炎症調節のための薬物としてシクロスポリン、ステロイド、自己血清点眼液などの炎症抑制治療剤が共に使われている。しかし、人工涙液は、その効果が一時的であるために、1日数回使用しなければならず、角膜損傷に対する保護効果がないという短所があり、ステロイド製剤は、長期間使用する場合、緑内障のような致命的な副作用を誘発する恐れがあり、幅広い免疫抑制剤であるシクロスポリンも、眼球疼痛、灼熱感、異物感、充血などの問題と一部の全身副作用などが表われる。また、治療用コンタクトレンズは、使用するのに不便であり、むしろ感染の原因を提供することができ、涙点閉鎖施術は、手術であるという拒否感と共に副作用が発生する場合、原状回復が難しいという短所がある。したがって、副作用なしに眼球乾燥症を効果的に予防または治療することができる製剤の開発が切実に要求されている。これと関連して大韓民国公開特許第2014-0099526号は、眼球乾燥症の治療のためのJNK信号伝達経路の細胞-透過性ペプチド抑制子の用途について開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記先行技術の場合、眼粘膜に局所的な刺激を誘発する可能性が高く、定量投与が困難であって、治療効率を顕著に減少させうる。
【0004】
本発明は、前記問題点を含んで多様な問題点を解決するためのものであって、副作用なしに眼球乾燥症による涙の分泌量の減少及び角膜形態の変化を有意に抑制することによって、眼球乾燥症を効果的に治療する新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。しかし、このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する眼球乾燥症治療及び予防用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0006】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する角結膜炎治療用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0007】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する角膜損傷及び混濁改善用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0008】
本発明の他の一観点によれば、前記組成物を眼球乾燥症を病んでいる個体に投与する段階を含む前記個体の眼球乾燥症の治療方法が提供される。
【0009】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドの眼球乾燥症治療剤の製造においての用途が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【発明の効果】
【0010】
前記のようになされた本発明の新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物は、眼球乾燥症による涙の分泌量の減少、角結膜炎及び角膜形態の変化を有意に抑制して損傷した角膜を回復させ、涙の分泌量を増加させる効果に優れているので、安全かつ効果的な眼球乾燥症治療剤の開発に活用可能である。もちろん、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のペプチドをマウスモデルに処理して角膜の損傷程度を蛍光染色と顕微鏡とを通じて撮影したイメージである。
【
図2】本発明のペプチド処理による角膜損傷程度を定量化して分析したグラフである。
【
図3】本発明のペプチドをマウスモデルに処理して眼球の混濁度を顕微鏡を通じて撮影したイメージである。
【
図4】本発明のペプチド処理による眼球の混濁度を定量化して分析したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使われる用語「抗菌ペプチド」は、一般的に比較的単純な構造からなる陽イオン性ペプチド(cationic peptide)化合物であって、グラム陽性菌(gram-positive bacteria)、グラム陰性菌(gram-negative bacteria)、真菌、ウイルスなどに対する幅広い抗菌スペクトルを有しており、その機転が完全に明らかになっていないが、一般的に微生物の細胞膜を破壊する作用機転を通じて抗菌力を示すと知られている。
【0013】
本発明で使われた用語「眼球乾燥症」は、涙が不足であるか、涙が過度に蒸発するか、涙の構成成分の均衡が合わなくて、眼球表面が損傷し、目がしみ、刺激感、異物感、乾燥感のような刺激症状を感じる目の疾患であって、単純に涙の不足ではない、涙と眼球表面(角膜及び結膜)の炎症による眼球の不快感、視力低下、涙層の不安定性を誘発して眼球表面に損傷を与えて、疼痛、不規則な角膜表面、ぼやけて変動幅が大きくなった視力及び角膜潰瘍などの発病危険性が大きい。
【0014】
本発明で使われた用語「角膜混濁(corneal opacity)」は、正常に透明な組織である角膜に表面乾燥や損傷または炎症などによって不透明な部分が生じるか、角膜が全体として不透明になった状態を意味する。
【0015】
〔発明の詳細な説明〕
本発明の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する眼球乾燥症治療及び予防用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0016】
前記薬学的組成物において、前記眼球乾燥症は、水性涙欠乏性または蒸発性眼球乾燥症である。この際、前記水性涙欠乏性眼球乾燥症は、涙腺の涙の分泌の不足で誘発され、蒸発性眼球乾燥症は、正常涙腺の分泌機能の存在下での露出された目表面からの過多な水分喪失で誘発されることを意味する。また、前記ペプチドのN末端には、オクタノイル基またはC末端にアミン基が付加されうる。
【0017】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する角結膜炎治療用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0018】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドを有効成分として含有する角膜損傷及び混濁改善用薬学的組成物が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0019】
前記薬学的組成物において、前記角膜損傷及び混濁は、眼球乾燥症または角結膜炎によるものであり、軟膏、皮膚外用剤、エアロゾル、スプレー、点眼剤、経口剤及び注射剤で構成された群から選択される剤形を有しうる。
【0020】
本発明の他の一観点によれば、前記組成物を眼球乾燥症を病んでいる個体に投与する段階を含む前記個体の眼球乾燥症の治療方法が提供される。
【0021】
本発明の他の一観点によれば、下記のような構成の群から選択されるアミノ酸配列を含む7個のアミノ酸で構成される抗菌活性を有するペプチドの眼球乾燥症治療剤の製造においての用途が提供される:
BOBWRYm
(この際、Bは、それぞれ選択的にリジン(K)またはアルギニン(R)で構成される群から選択される塩基性アミノ酸であり、Oは、それぞれ選択的にフェニルアラニン(F)またはトリプトファン(W)で構成される群から選択される芳香性アミノ酸である)。
【0022】
本発明による薬学的組成物は、薬剤学的に許容可能な担体または添加剤をさらに含みうる。前記で「薬学的に許容可能な」とは、生理学的に許容され、ヒトに投与される時、通常の胃腸障害、めまいのようなアレルギー反応またはこれと類似した反応を起こさないことを意味する。前記添加剤の例としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、分散剤、安定化剤などが挙げられる。前記賦形剤の例としては、乳糖、マンニトール、イソマルト、微結晶セルロース、ケイ素化微結晶セルロース、粉末セルロースなどが挙げられる。崩壊剤の例としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、澱粉グリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、澱粉などが挙げられる。結合剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポビドン、コポビドン、全ゲル化澱粉などが挙げられる。滑沢剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。湿潤剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル誘導体、ポロキサマー、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体などが挙げられる。分散剤としては、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、コポビドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロースなどが挙げられる。安定化剤としては、クエン酸、フマル酸、コハク酸などが挙げられる。また、本発明の薬剤学的組成物は、抗凝集剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含みうる。
【0023】
さらに、本発明の薬学的組成物は、哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速、持続または遅延された放出を提供できるように、当業者に公知の方法を使用して剤形化される。前記薬剤学的剤形は、粉末、顆粒、錠剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ、エアロゾル、または軟質または硬質ゼラチンカプセルである。
【0024】
本発明で使われた用語「治療」とは、本発明の組成物の投与で前記眼球乾燥症の症状が好転または有利に変更されるあらゆる行為を言う。
【0025】
前記薬学的組成物の投与経路は、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれ、例えば、塗布による局部投与(topical application)方式で適用可能である。前記非経口は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、病巣内の注射または注入技術を含む。
【0026】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与することができる。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/危険の比率で疾患の治療に十分な量を意味し、有効容量レベルは、個体の種類及び重症度、年齢、性別、疾病の種類、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使われる薬物を含んだ要素及びその他の医学分野によく知られた要素によって決定されうる。本発明の組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与され、従来の治療剤とは順次または同時に投与される。そして、単一または多重投与される。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者によって容易に決定されうる。
【0027】
前記薬学的組成物の投与量は、個体の年齢、体重、一般的な健康、性別、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合及び特定疾患の重症を含んだ多様な要因によって多様に変わる。また、本発明の薬学的組成物は、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。また、前記薬学的組成物は、大人基準に0.001~200mg/kgの範囲内の投与量で投与され、前記薬学的組成物が外用剤である場合には、大人基準に1.0~3.0mlの量で1日1~5回塗布して1ヶ月以上続けることが良いが、前記投与量は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
本発明者らは、従来の基礎スクリーニングを通じて探索したペプチドに基づいて抗菌活性と浸透度とをさらに増加させるために、パルミトイル基、オクタノイル基など多様な脂質成分を前記ペプチドのN末端に付着させた修飾ペプチドを合成して高い抗菌作用と免疫調節活性とを示すことによって、アトピー皮膚炎のような免疫疾患治療及び病原性細菌感染による疾患の治療に効果的な新規な抗菌及び免疫調節ペプチド(以下、「Peptide I」と略称する)を開発した(大韓民国登録特許第1855170号)。しかし、前記ペプチドを眼球乾燥症誘発動物モデルに適用した結果、対照群と比較して顕著な角膜損傷及び角膜混濁の改善効果を確認して、本発明を完成した。
【0029】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として具現可能なものであって、以下の実施例は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。
【0030】
〔実施例1:免疫調節及び抗菌ペプチドの製造〕
本発明者らは、従来の基礎スクリーニング探索を通じて免疫調節機能と抗菌活性とを有するペプチド(KFKWRYm)を開発して、これについて特許を確保した(大韓民国特許第10-1855170号)。引き続き、前記ペプチドよりもさらに免疫調節及び抗菌能力に優れた改良ペプチドを開発するために、前記特許ペプチドのアミノ酸配列で多様な変異体を考案して、それを通常のアミノ酸合成法(Umbarger,H.E.,Ann.Rev.Biochem.,47:533-606,1978)を用いて合成し、それを免疫調節及び抗菌候補ペプチドとして使用した。また、本発明者らは、前記から合成されたペプチドのN末端にオクタノイル基またはアセチル基などを付加し/付加するか、C末端のカルボキシ基の代わりに、アミン基を置換した形態の変形を加えた。
【0031】
〔実施例2:新規なペプチドのFPR2活性化及び抗菌活性の実験〕
本発明者らは、本発明の免疫調節及び抗菌ペプチド候補を対象にして生体の免疫調節機能を活性化させるか否かを確認するために、カルシウムイオン透過性の変化を観察した。具体的に、前記ペプチドがFPR2を活性化させるかを確認するために、細胞内のカルシウムイオンの濃度を測定した。このために、FPR2を発現していないRBL細胞とRBL細胞でFPR1を過発現させた細胞(FPR1-RBL)とFPR2を過発現させた細胞(FPR2-RBL)とを使用し、細胞内のカルシウムイオンの遊離を鋭敏に測定することができる方法としてカルシウムに結合力が強い染色物質であるFura-2/AMを利用した。すなわち、細胞を10%ウシ胎児血清が含有されたRPMI培地に培養し、対数期状態である時(mid-log phase、1-3×107細胞/ml)、遠心分離して収穫した後、ウシ胎児血清が含有されていないRPMI培地で数回洗浄し、それを1×107細胞/mlになるようにRPMI培地に再懸濁した。引き続き、最終3μMの濃度のFura-2/AMを添加し、37℃、5% CO2培養器で45分間撹拌し続けながら培養した。適正時間が経過した後、細胞を収穫して再びRPMI培地で数回洗浄した後、それを250μMの濃度のスルフィンピラゾン(Sulfinpyrazone)が添加された適正量のRPMI培地に懸濁して細胞内に入ったFura-2が細胞外部への遺失を防止した。約2×106個の細胞を毎度取って急速遠心分離で収穫し、それをカルシウムイオンが添加されず、EGTAが添加されたロック(Locke)溶液1mlに再懸濁して分光光度計上で340nm及び380nmの2つの波長での吸光度比をモニタリングしたが、約1分間隔で本発明の一実施例によるペプチドを濃度を異ならせて(1μM、0.1μM及び0.01μM)処理した後、2つの波長での吸光度差を調査し、それを後でグリンキーウィクス(Grynkiewicz)の方法によって細胞内に遊離されたカルシウムイオンの濃度に換算した。
【0032】
また、前記ペプチドの抗菌活性を測定するために、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とグラム陰性菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)とを準備した後、寒天平板培地に4次塗抹して36℃培養器で一晩中培養した。翌日、寒天平板培地上に生成された菌株コロニーを3mlの栄養培地に接種して36℃、220rpmの条件で撹拌培養器で一晩中培養した。翌日、前記菌を希釈して600nmで吸光度を測定し、0.5になるように調整し、栄養培地に1:100の比率で希釈した。その後、前記実施例で製造したペプチドを栄養培地に0、1.25、2.5、5、10、20及び40μMの濃度で順次希釈して1mlずつ製造した後、前記希釈された菌1mlを接種した。引き続き、36℃、220rpmの条件で撹拌し、18時間培養した後、600nmでの吸光度を測定した。
【0033】
その結果、ほとんどのペプチドでFPR2活性化効力を示し、緑膿菌(P.aeruginosa)及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)について高い抗菌活性を示した(表1)。前記ペプチドのFPR2活性化及び抗菌活性の結果を下記表1に要約した。
【0034】
【0035】
〔実施例3:動物モデルの製作〕
本発明者らは、本発明のペプチドであるPeptide I(配列番号2)の乾性眼(dry eye)及び炎症改善効能を確認するために、マウス動物モデルを製作した。具体的に、実験動物としてC57BL/6系の12週齢雄マウスを使用し、乾性眼を誘導しない対照群(control)を除いたマウスに0.2%塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)を、実験期間15日間、1日2回点眼・投与して乾性眼及び角結膜炎(keratoconjunctivitis)を誘導した。その後、3日経過時点に角膜染色(corneal staining)を通じてマウスの角膜損傷程度を評価し、十分に角膜損傷が発生したマウスを選別後、乱塊法(randomized block design)を通じて実験群を分類した。引き続き、4日目から0.2%塩化ベンザルコニウム投与1時間後、本発明のPeptide I(0.005%及び0.01%)を1日2回間隔で点眼・投与した。前記Peptide Iは、投与液の濃度に合わせて生理食塩水(saline)に溶解して投与し、陽性対照群としては商用化されているアラガン(Allergan)社のRestasis(0.05% cyclosporin)及び陰性対照群としては生理食塩水を投与した。
【0036】
〔実施例4:角膜損傷の改善効果〕
本発明者らは、本発明のPeptide I投与による乾性眼及び角結膜炎の治療効果を調査した。具体的に、乾性眼誘導3、7、11、15日目(薬物投与0、4、8、12日目)に前記マウスをイソフルラン(isoflurane)で吸入・麻酔させた後、蛍光染色剤(fluorescence dye)であるフルオレセイン(Fluorescein)を点眼して角膜染色を行った。その後、生理食塩水で残留フルオレセインを洗浄した後、蛍光顕微鏡で眼球を撮影してイメージを収得し、蛍光染色された面積をイメージ分析プログラム(Image J)で算出及び定量化して乾性眼及び角膜炎による角膜損傷程度を評価した。
【0037】
その結果、対照群と比較して本発明のPeptide I投与がさらに低い濃度で角膜損傷を有意に改善すると表われた(
図1及び
図2)。
【0038】
〔実施例5:角膜混濁の改善効果〕
本発明者らは、本発明のPeptide I投与による角膜損傷による混濁の改善効果を調査した。具体的に、乾性眼誘導3、7、11、15日目(薬物投与0、4、8、12日目)に前記マウスをイソフルランで吸入・麻酔させた後。顕微鏡で眼球を撮影してイメージを収得した。角膜の混濁程度は、0点から4点まで点数を与えて、混濁なしに虹彩が鮮明に見えれば、0点、部分的に弱い混濁が確認される場合、1点、部分的に混濁するか、全体として弱い混濁が確認される場合、2点、角膜全体に混濁が確認される場合、3点、深刻な混濁と血管発達とが観察される場合、4点に定量化して評価した。
その結果、対照群と比較して本発明のPeptide I投与がさらに低い濃度で角膜混濁を有意に改善すると表われた(
図3及び
図4)。
【0039】
結論的に、本発明の新規な眼球乾燥症治療用薬学的組成物をマウス動物モデルに投与した結果、対照群と比較して副作用なしに角膜損傷及び角膜混濁を有意に改善したので、損傷した角膜を回復させ、涙の分泌量を増加させて眼球乾燥症を効果的に治療する素材として活用することができる。
【0040】
本発明は、前述した実施例を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されねばならない。
【配列表】