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  • 特許-大気有害物質付着抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】大気有害物質付着抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/25 20060101AFI20250220BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 33/08 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20250220BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61K8/25
A61K9/10
A61K33/06
A61K33/08
A61P17/16
A61P39/02
A61Q19/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019106323
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020200249
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 聡史
(72)【発明者】
【氏名】朝野 萌子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智也
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-347159号公報(JP,A)
【文献】特開2017-109930号公報(JP,A)
【文献】国際公開第07/141916号(WO,A1)
【文献】特開2011-105626号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上50μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下であ該無機粒子(A)がシリカ粒子であり、付着抑制の対象が皮膚表面である、大気有害物質付着抑制剤。
【請求項2】
圧縮強度が0.7~10kgf/mm 2 である架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粉体を含有しない、請求項1に記載の大気有害物質付着抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の大気有害物質付着抑制剤を皮膚表面に塗布して、大気有害物質の皮膚表面への付着を抑制する、大気有害物質の付着抑制方法。
【請求項4】
前記大気有害物質付着抑制剤を、無機粒子(A)の付着量として0.01mg/cm2以上3mg/cm2以下で皮膚表面に塗布する、請求項に記載の大気有害物質の付着抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気有害物質付着抑制剤、及び該大気有害物質付着抑制剤を用いる大気有害物質の付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子は、多くの機能を発現するため、幅広い産業分野への応用の検討がされてきた。例えば、無機粒子の光学的性質を利用して肌への凹凸を目立たなくする技術が知られている。特許文献1には、隠蔽性等を有する化粧料の提供を目的として、金属酸化物、金属水酸化物、及び/又はそれらを含む複合体から選択される少なくとも1種以上の粉体粒子の表面を、特定の共重合体で被覆してなる表面被覆処理粉体と、1次粒子の平均粒子径が25~35μmの球状粒子と、油剤とを配合する化粧料が記載されている。
また、無機多孔体の細孔の吸着能を利用した技術も知られている。例えば、特許文献2には、大気汚染物質等の外的刺激から肌を保護するスキンケア化粧料として、特定の量のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムと、特定の量の紫外線防御剤とを含有するスキンケア化粧料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-250917号公報
【文献】国際公開2014/136993号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、スギ、ヒノキ等の花粉、ばい煙、粉じん等の大気汚染物質、黄砂などの大気中に浮遊する大気有害物質が、人体へ様々な健康被害をもたらすため問題となっている。大気有害物質の中でも、PM2.5と呼ばれる直径2.5μm以下の粒子状物質は、その成分が炭素成分、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等から構成されており、PM2.5や黄砂は吸入により循環器系や呼吸器系の疾患を引き起こすことが知られている。また、PM2.5や花粉、黄砂は、皮膚に付着又は浸透することにより肌トラブルの原因となることが指摘されている。例えば、PM2.5が肌にダメージを与えることについて、Shiraiwaらによる学術報告がある(ネイチャー ケミストリー(Nature Chemistry) 3, 291-295 (2011))。そこで、大気有害物質曝露による健康被害を抑えるため、皮膚、毛髪、衣類等の身の回りの様々な固体表面への大気有害物質の付着を抑制する付着抑制剤への要望が高くなっている。
しかしながら、特許文献1の技術は、肌の凹凸の隠蔽性を課題とするものであり、付着抑制効果が十分でない。また、特許文献2の技術では、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの吸着能により大気有害物質を吸着して皮膚への付着を抑制するものであるため、付着抑制効果が十分でなかった。また、無機粒子は粉体の形態ではきしみ感が強く、とりわけ皮膚に塗布した後の感触に劣る場合がある。そのため、付着抑制剤を固体表面に塗布した後の感触の低下の抑制も求められている。
本発明は、大気有害物質に対する高い付着抑制効果を有し、かつ塗布後の感触の低下を抑制できる大気有害物質付着抑制剤、及び該大気有害物質付着抑制剤を用いる大気有害物質の付着抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、無機粒子の表面粗さRaを所定の範囲とし、大気有害物質の付着抑制効果を高め、一方で該無機粒子の平均粒子径を所定の範囲とし、塗布後の感触の低下を抑制することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上50μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下である、大気有害物質付着抑制剤。
[2]前記[1]に記載の大気有害物質付着抑制剤を固体表面に塗布して、大気有害物質の固体表面への付着を抑制する、大気有害物質の付着抑制方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、大気有害物質に対する高い付着抑制効果を有し、かつ塗布後の感触の低下を抑制できる大気有害物質付着抑制剤、及び該大気有害物質付着抑制剤を用いる大気有害物質の付着抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】付着抑制効果の評価方法を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[大気有害物質付着抑制剤]
本発明の大気有害物質付着抑制剤(以下、「付着抑制剤」ともいう)は、無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上50μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下である。
本発明において「大気有害物質」とは、スギ、ヒノキ等の花粉;硫黄酸化物、ばいじん、窒素酸化物等のばい煙、粉じん、自動車排出ガス、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有害大気汚染物質、揮発性有機化合物(VOC)等を含む粒子などの大気汚染物質;黄砂などの大気中に浮遊する有害物質(PM2.5を含む)を意味する。
【0009】
本発明の付着抑制剤は、大気有害物質、とりわけ微粒子状の大気有害物質に対する付着抑制効果が高く、付着抑制剤を塗布した後の感触の低下を抑制できる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の付着抑制剤に含まれる無機粒子は、その表面粗さRaが所定の範囲であるため、該付着抑制剤を固体表面へ塗布した際に該固体表面に局所的なナノサイズの凹凸を形成する。そして、このような表面に大気有害物質が接触すると、接触面積がより小さくなり、該有害物質の付着を効果的に抑制できると考えられる。さらに、無機粒子の平均粒子径が所定の範囲であるため、付着抑制剤を塗布した後の感触の低下を抑制できると考えられる。
【0010】
<無機粒子(A)>
無機粒子(A)の表面粗さRaは、付着抑制効果を向上させる観点から、50nm以下であり、好ましくは40nm以下、より好ましくは35nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、そして、10nm以上であり、好ましくは12nm以上、より好ましくは14nm以上、更に好ましくは15nm以上である。より具体的には、表面粗さRaは、付着抑制効果を向上させる観点から、好ましくは10~40nm、より好ましくは12~40nm、更に好ましくは12~35nm、より更に好ましくは14~35nm、より更に好ましくは15~35nm、より更に好ましくは15~30nmである。
前記表面粗さRaは、実施例に記載の方法により測定される。
【0011】
無機粒子(A)の平均粒子径DAは、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、1μm以上であり、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2μm以上であり、そして、50μm以下であり、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは25μm以下、より更に好ましくは20μm以下、より更に好ましくは15μm以下、より更に好ましくは10μm以下である。より具体的には、平均粒子径DAは、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくは1~40μm、より好ましくは1~30μm、更に好ましくは1~25μm、より更に好ましくは1~20μm、より更に好ましくは1~15μm、より更に好ましくは1~10μm、より更に好ましくは1.5~10μm、より更に好ましくは2~10μmである。
前記平均粒子径DAは、実施例に記載の方法により測定される。
【0012】
無機粒子(A)としては、具体的には、二酸化ケイ素(シリカ)、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等のケイ素含有化合物;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウム、酸化クロム等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸チタン、塩化銀、臭化銀等の金属塩;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;チタン、鉄、クロム、ニッケル、金、銀、白金、銅、鉛、亜鉛等の金属及びこれらの金属合金;ダイアモンド;窒化ホウ素、炭化ホウ素等のホウ素含有化合物;炭化チタン、炭化タンタル、炭化ジルコニウム等の金属炭化物;窒化アルミニウム、窒化チタン等の金属窒化物;メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ケイ酸アルミン酸マグネシウム)等の混合物などから選ばれる1種以上の無機物を含む粒子が挙げられる。これらの無機粒子は1種を単独で又は2種以上を用いることができる。
【0013】
無機粒子(A)は、これらの中でも、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくはケイ素含有化合物、金属酸化物、金属塩、金属窒化物、及び金属炭化物から選ばれる1種以上を含む粒子であり、より好ましくは、ケイ素含有化合物及び金属酸化物から選ばれる1種以上を含む粒子であり、更に好ましくはシリカ、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる1種以上を含む粒子であり、より更に好ましくはシリカ及びケイ酸カルシウムから選ばれる1種以上を含む粒子である。
無機微粒子(A)は、表面処理が施されていないものであってもよく、表面処理が施されたものであってもよい。
無機粒子(A)中の前記無機物の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
なお、無機粒子(A)がその表面を表面処理したものである場合、無機粒子(A)の質量、付着量、平均粒子径DA及び表面粗さRaは、表面処理剤を含めての質量、付着量、平均粒子径DA及び表面粗さRaを意味する。
【0014】
無機粒子(A)は、易崩壊性粒子であってもよく、非崩壊性粒子であってもよい。
本発明において「崩壊性」とは、所定の荷重で負荷して擦過したときの、無機粒子の崩壊し易さを意味する。具体的には実施例に規定の方法により、表面性測定機トライボギア TYPE:14(新東科学(株)製)を用いて10回往復擦過した際、下記式(I)で表される粒子径比が50%未満である粒子を「易崩壊性粒子」とし、下記式(I)で表される粒子径比が50%以上である粒子を「非崩壊性粒子」とする。
擦過前後の粒子径比(%)=(擦過後の平均粒子径DA’/擦過前の平均粒子径DA)×100 (I)
【0015】
無機粒子(A)は、付着抑制効果を向上させる観点からは、易崩壊性粒子であることが好ましい。また、無機粒子(A)は、塗布後の感触を向上させる観点からは、非崩壊性粒子であることが好ましい。
本発明において、付着抑制剤は、付着抑制効果を向上させる観点、及び塗布後の感触を向上させる観点から、無機粒子(A)として易崩壊性粒子と非崩壊性粒子とを併用してもよい。
無機粒子(A)として易崩壊性粒子と非崩壊性粒子を併用する場合には、付着抑制剤中の易崩壊性粒子と非崩壊性粒子との質量比(易崩壊性粒子/非崩壊性粒子)は、付着抑制効果を向上させる観点から、好ましくは0.1/99.9以上、より好ましくは10/90以上、更に好ましくは30/70以上であり、そして、塗布後の感触を向上させる観点から、好ましくは99.9/0.1以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは70/30以下である。
【0016】
無機粒子(A)が易崩壊性粒子である場合、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、無機粒子(A)は1次粒子が凝集した2次粒子であることが好ましく、その平均2次粒子径は前述の平均粒子径DAであることが好ましい。
無機粒子(A)が2次粒子である場合、該無機粒子(A)の平均1次粒子径dAは、付着抑制効果を向上させる観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上、より更に好ましくは7nm以上であり、そして、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下、より更に好ましくは25nm以下、より更に好ましくは20nm以下、より更に好ましくは15nm以下である。前記平均1次粒子径dAは、実施例に記載の方法により測定される。より具体的には、平均1次粒子径dAは、付着抑制効果を向上させる観点から、好ましくは1~50nm、より好ましくは3~50nm、更に好ましくは3~40nm、より更に好ましくは3~30nm、より更に好ましくは3~25nm、より更に好ましくは5~25nm、より更に好ましくは5~20nm、より更に好ましくは5~15nm、より更に好ましくは7~15nmである。
無機粒子(A)が2次粒子である場合には、表面粗さRaが平均1次粒子径dAに相関するため、平均1次粒子径dAを調整することにより、表面粗さRaを制御することができる。
【0017】
無機粒子(A)の吸油量は、好ましくは50mL/100g以上、より好ましくは100mL/100g以上、更に好ましくは130mL/100g以上であり、そして、好ましくは700mL/100g以下、より好ましくは600mL/100g以下、更に好ましくは500mL/100g以下である。吸油量は、JIS K 5101-13-2:2004に準じて測定することができる。
【0018】
無機粒子(A)は、調製したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
無機粒子(A)を調製する場合は、該粒子(A)を構成する無機物の種類に応じて公知の方法を用いることができる。例えば無機粒子(A)がシリカを含む粒子(以下、「シリカ粒子」ともいう)である場合には、火炎加水分解法、アーク法等の高熱法;沈降法、ゲル法等の湿式法により調製することができる。中でも、無機粒子(A)が2次粒子である場合、1次粒子径を調整し、付着抑制効果を向上させる観点から、ゲル法により調製することが好ましい。ゲル法は、例えば界面活性剤を含む非極性有機溶媒中でケイ酸ナトリウムを乳化してW/Oエマルジョンを得た後、ゲル化させて行うことができる。シリカ粒子の平均粒子径DAは、W/Oエマルジョン径を調整することにより制御することができる。
ゲル化は、例えば硫酸等の鉱酸の中和反応により、酸性の領域で行うことが好ましい。これにより、シリカ1次粒子の成長を抑えた状態で1次粒子の凝集が起こり、シリカ2次粒子を形成することができる。
次いで、ゲル化後の熟成工程により、比表面積、細孔直径、細孔容積等の細孔構造を制御し、1次粒子径及び1次粒子の凝集性を調整することにより、表面粗さRa及び崩壊性を調整することができる。シリカ粒子は、付着抑制効果を向上させる観点からは、崩壊性粒子であることが好ましい。シリカ粒子は、塗布後の感触を向上させる観点からは、非崩壊性粒子であることが好ましい。
無機粒子(A)の市販品としては、サンスフェアHシリーズ(AGCエスアイテック(株)製、商品名)等のシリカ粒子;フローライトR(富田製薬(株)製、商品名)等のケイ酸カルシウム粒子などが挙げられる。
【0019】
シリカ粒子の比表面積は、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは300m2/g以上、更に好ましくは500m2/g以上であり、そして、好ましくは1,000m2/g以下、より好ましくは900m2/g以下、更に好ましくは800m2/g以下である。前記比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて測定されるBET比表面積である。
シリカ粒子の細孔直径は、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上であり、そして、好ましくは20nm以下、より好ましくは17nm以下、更に好ましくは15nm以下である。
シリカ粒子の細孔容積は、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくは0.3mL/g以上、より好ましくは0.5mL/g以上、更に好ましくは0.7mL/g以上であり、そして、好ましくは3mL/g以下、より好ましくは2.7mL/g以下、更に好ましくは2.3mL/g以下である。
前記細孔直径及び前記細孔容積はガス吸着法によって測定することができる。
シリカ粒子中のシリカ(SiO2)含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0020】
大気有害物質付着抑制剤中の無機粒子(A)の含有量は、付着抑制効果を向上させ、塗布後の感触の低下を抑制する観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0021】
本発明の付着抑制剤は、溶剤等に希釈することなく、そのまま使用することができるが、使用形態又は目的に応じて、化粧品等に一般的に用いられる溶剤、油剤、添加剤を適宜配合して使用することもできる。
本発明の付着抑制剤の使用形態に特に制限はない。使用形態としては、ミスト状、液状、泡状、ペースト状、クリーム状等の任意の形態が挙げられるが、液状、ペースト状又はクリーム状とすることが好ましく、液状とすることがより好ましい。
【0022】
本発明の付着抑制剤は、使用形態に応じて常法により製造することができ、無機粒子(A)、及び必要に応じて各種添加剤を公知の方法で混合して製造することができる。
添加剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。該添加剤としては、無機粒子(A)以外の、染料、有機顔料、無機顔料、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤、香料、美容成分、薬効成分、pH調整剤、粘度調整剤、保湿剤、酸化抑制剤、殺菌剤、防腐剤、ポリマー粒子等の感触向上剤などが挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
[大気有害物質の付着抑制方法]
本発明の付着抑制剤は、大気有害物質に対する付着抑制効果が高く、塗布後の感触の低下を抑制できるため、付着抑制の対象が固体表面である大気有害物質付着抑制剤として用いることが好ましい。
すなわち、前記付着抑制剤は、該付着抑制剤を固体表面に塗布して、大気有害物質の固体表面への付着を抑制することが好ましい。
本発明において「固体表面」とは固体と大気との界面を意味する。
前記固体としては、生物固体、非生物固体のいずれであってもよい。
生物固体としては、ヒトや動物の皮膚、毛髪、爪等が挙げられる。
非生物固体としては、ガラス、陶器、磁器、琺瑯、タイル、セラミックス、木材、金属;ポリエチレン、ポリプロピレン、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、FRP等の合成樹脂;木綿、絹、羊毛等の天然繊維;ポリエステル、ナイロン、レーヨン等の合成繊維などが挙げられる。
固体表面の形状は、特に制限はない。
【0024】
前記付着抑制剤の固体表面への塗布方法は、固体表面の形状に応じて適宜選択することができる。前記付着抑制剤が、液状、泡状、ペースト状、クリーム状である場合は、通常そのまま塗布、噴霧等により施用することができる。
固体表面へ塗布する際の付着抑制剤の塗布量は、付着抑制効果を向上させる観点から、無機粒子(A)の付着量として、好ましくは0.01mg/cm2以上、より好ましくは0.05mg/cm2以上、更に好ましくは0.07mg/cm2以上であり、そして、外観及び感触の観点から、好ましくは3mg/cm2以下、より好ましくは1mg/cm2以下、更に好ましくは0.5mg/cm2以下である。より具体的には、固体表面へ塗布する際の付着抑制剤の塗布量は、付着抑制効果を向上させる観点、並びに外観及び感触の観点から、無機粒子(A)の付着量として、好ましくは0.01~3mg/cm2、より好ましくは0.05~1mg/cm2、更に好ましくは0.07~0.5mg/cm2である。
【0025】
本発明の付着抑制剤は、付着抑制効果の観点から、及び塗布後の感触の低下を抑制する観点から、付着抑制の対象である固体表面として皮膚表面に塗布することが好ましい。すなわち、前記付着抑制剤は、前記と同様の観点から、皮膚表面に塗布して、大気有害物質の皮膚への付着を抑制する方法に用いることが好ましい。皮膚への塗布においては、皮膚外用剤、皮膚化粧料等への大気有害物質付着抑制効果を付与するための素材として使用することもできる。ここで、「皮膚表面に塗布する」とは、皮膚表面に手などで付着抑制剤を直接塗布することだけでなく、噴霧等により付着抑制剤を皮膚表面に付着させることを含む。
皮膚表面へ塗布する際の付着抑制剤の塗布量は、付着抑制効果を向上させる観点から、無機粒子(A)の付着量として、好ましくは0.01mg/cm2以上、より好ましくは0.05mg/cm2以上、更に好ましくは0.07mg/cm2以上であり、そして、外観及び感触の観点から、好ましくは3mg/cm2以下、より好ましくは1mg/cm2以下、更に好ましくは0.5mg/cm2以下である。より具体的には、皮膚表面へ塗布する際の付着抑制剤の塗布量は、付着抑制効果を向上させる観点、並びに外観及び感触の観点から、無機粒子(A)の付着量として、好ましくは0.01~3mg/cm2、より好ましくは0.05~1mg/cm2、更に好ましくは0.07~0.5mg/cm2である。
【0026】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の実施態様を開示する。
<1> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上50μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下である、大気有害物質付着抑制剤。
【0027】
<2> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上25μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下であり、該無機粒子(A)がケイ素含有化合物、金属酸化物、金属塩、金属窒化物、及び金属炭化物から選ばれる1種以上を含む粒子であり、該大気有害物質付着抑制剤中の無機粒子(A)の含有量が70質量%以上100質量%以下である、大気有害物質付着抑制剤。
<3> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上20μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが12nm以上35nm以下であり、該無機粒子(A)が、シリカ、ケイ酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選ばれる1種以上を含む粒子であり、該大気有害物質付着抑制剤中の無機粒子(A)の含有量が80質量%以上100質量%以下である、大気有害物質付着抑制剤。
<4> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上10μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが15nm以上30nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)であり、該大気有害物質付着抑制剤中の無機粒子(A)の含有量が90質量%以上100質量%以下である、大気有害物質付着抑制剤。
【0028】
<5> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上25μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。
<6> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上25μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上40nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。
<7> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上25μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが15nm以上35nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。
<8> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上15μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。
<9> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上10μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが10nm以上50nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。<10> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上10μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが15nm以上35nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)である、大気有害物質付着抑制剤。
【0029】
<11> 無機粒子(A)が非崩壊性粒子である、前記<1>~<10>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤。
<12> 無機粒子(A)が易崩壊性粒子である、前記<1>~<10>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤。
<13> 無機粒子(A)が、1次粒子が凝集した2次粒子であり、平均1次粒子径dAが3nm以上50nm以下である、前記<12>に記載の大気有害物質付着抑制剤。
<14> 無機粒子(A)が、1次粒子が凝集した2次粒子であり、平均1次粒子径dAが3nm以上25nm以下である、前記<12>に記載の大気有害物質付着抑制剤。
<15> 無機粒子(A)を含有する大気有害物質付着抑制剤であって、
該無機粒子(A)の平均粒子径DAが1μm以上10μm以下であり、該無機粒子(A)の表面粗さRaが15nm以上35nm以下であり、該無機粒子(A)がシリカを含む粒子(シリカ粒子)であり、無機粒子(A)が、平均1次粒子径dAが3nm以上25nm以下の1次粒子が凝集した2次粒子である、大気有害物質付着抑制剤。
【0030】
<16> 付着抑制の対象が固体表面である、前記<1>~<15>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤。
<17> 付着抑制の対象が皮膚表面である、前記<1>~<15>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤。
<18> 前記<1>~<15>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤を、無機粒子(A)の付着量として0.01mg/cm2以上3mg/cm2以下で固体表面に塗布して、大気有害物質の固体表面への付着を抑制する、大気有害物質の付着抑制方法。
<19> 前記<1>~<15>のいずれかに記載の大気有害物質付着抑制剤を、無機粒子(A)の付着量として0.01mg/cm2以上3mg/cm2以下で皮膚表面に塗布して、大気有害物質の皮膚表面への付着を抑制する、大気有害物質の付着抑制方法。
<20> 無機粒子(A)の付着量が0.05mg/cm2以上1mg/cm2以下である、前記<18>又は<19>に記載の大気有害物質の付着抑制方法。
【実施例
【0031】
以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」である。
各種の物性の測定は、以下の方法で行った。
【0032】
(1)平均粒子径DAの測定
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(商品名「LA-920」、(株)堀場製作所製)を用い、イオン交換水を分散媒として測定した。有機粒子の測定においては相対屈折率を1.10とし、無機粒子の測定においては相対屈折率を1.09とした。測定は、フローセルを使用し、循環速度:15、超音波照射:なし、分布形態:標準、粒子径基準:体積の測定条件にて行った。
【0033】
(2)平均1次粒子径dAの測定
測定試料が板状以外の形状を有する場合には、予め調製した測定試料の分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)(商品名「JEM1400Plus」、日本電子(株)製)の試料台に載せて、風乾させた後、TEMにより観察倍率50,000倍の条件で観察した画像中の300個の1次粒子の最大短径を測定し、その数平均値をそれぞれの平均1次粒子径とした。ここで、最大短径とは、長径と直交する短径のうち、最大長を有する短径を意味する。
測定試料が板状の形状を有する場合には、上記と同様の方法及び観察倍率の条件で観察した画像中の300個の1次粒子の厚さを測定し、その数平均値をそれぞれの平均1次粒子径とした。
なお、測定試料の分散液は、測定試料5gに溶媒としてエタノール95gを加えて超音波分散して調製した。
【0034】
(3)表面粗さRaの測定
各粒子の分散液(分散媒:エタノール、固形分濃度:5%)を人工皮革(商品名「ラフォーレS2923」、(株)オカモト新和製)上に2.0mg/cm2(粒子の付着量:0.1mg/cm2)となるように均一に20秒間で塗布し、常温で24時間乾燥させて各測定サンプルを得た。次いで、測定サンプルの粒子が塗布された表面を、走査型プローブ顕微鏡システム(走査型プローブ顕微鏡ユニット:AFM5100N、走査型プローブステーション:AFM5000II)((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、測定条件(カンチレバー:SI-DF20P2、PMモード、走査範囲:20μm×20μm、補正:二次曲線)を設定し、測定される500nmの線粗さRaを表面粗さRaとした。
【0035】
(4)崩壊性の確認
各粒子の分散液(分散媒:エタノール、固形分濃度:5%)0.04gを人工皮革(ラフォーレS2923)(5cm×4cm)に均一に20秒で塗り広げ(粒子の付着量:0.1mg/cm2)、常温で24時間乾燥させて各測定サンプルを得た。表面性測定機トライボギア TYPE:14(新東科学(株)製)(垂直荷重:360g、移動距離:50mm、移動速度:600mm/min)により、何も塗布されていない人工皮革(ラフォーレS2923)(3cm×10cm)を貼り付けた治具(3cm×3cm)を用いて、測定サンプルの粒子が塗布された表面を10回往復擦過した。次いで、電界放射形走査電子顕微鏡(FE-SEM)(型式:4800(5.0kV)、(株)日立ハイテクノロジー製)を用いて測定サンプルの擦過した表面を観察倍率15,000倍の条件で観察し、観察画像中の30個の粒子についてそれぞれ長径及び短径を測定し、長径と短径の平均値を各粒子の粒子径とした。粒子30個の粒子径から体積基準の粒子径を算出し、擦過後の平均粒子径DA’とした。
下記式(I)で表される粒子径比が50%未満である粒子を「易崩壊性粒子」とし、下記式(I)で表される粒子径比が50%以上である粒子を「非崩壊性粒子」とした。
擦過前後の粒子径比(%)=(擦過後の平均粒子径DA’/擦過前の平均粒子径DA)×100 (I)
【0036】
実施例1~6及び比較例1~4
表1に示す付着抑制剤の配合量で各付着抑制剤のエタノール分散液(分散媒:エタノール)を調製し、該エタノール分散液を用いて以下に示す方法により評価を行った。
表1に示す各成分は以下のとおりである。
無機粒子(A)の平均粒子径DA、平均1次粒子径dA、表面粗さRa及び粒子の崩壊性は表1に示す。
【0037】
〔無機粒子(A)〕
ケイ酸Ca粒子A1:ケイ酸カルシウム粒子、商品名「フローライトR」、富田製薬(株)製、吸油量460mL/100g
シリカ粒子A2:商品名「サンスフェアH-31」、AGCエスアイテック(株)製、吸油量150mL/100g、比表面積800m2/g、細孔直径5nm、細孔容積1mL/g
シリカ粒子A3:商品名「サンスフェアH-32」、AGCエスアイテック(株)製、吸油量300mL/100g、比表面積700m2/g、細孔直径10nm、細孔容積2mL/g
シリカ粒子A4:商品名「サンスフェアH-33」、AGCエスアイテック(株)製、吸油量400mL/100g、比表面積700m2/g、細孔直径11nm、細孔容積2mL/g
シリカ粒子A5:商品名「サンスフェアH-52」、AGCエスアイテック(株)製、吸油量300mL/100g、比表面積700m2/g、細孔直径10nm、細孔容積2mL/g
球状ポリメタクリレート粒子AC1:特開2006-8980号公報の実施例1に従って合成した、ラウリルメタクリレート/エチレングリコールジメタクリレート/メタクリル酸ナトリウム共重合体の粒子
真球状シリカ粒子AC2:商品名「SO-E4」、(株)アドマテックス、比表面積3~5m2/g
微粒子シリカAC3:商品名「AEROSIL R972」、日本アエロジル(株)製、比表面積110±20m2/g
多孔質ナイロン粒子AC4:商品名「POMP605」、宇部興産(株)製
【0038】
〔評価〕
参考例1として付着抑制剤が塗布されていない状態の皮膚又は皮膚の代替として人工皮革についても同様の方法により評価した。
<付着抑制の評価>
前記付着抑制剤のエタノール分散液を、皮膚の代替として白色人工皮革(ラフォーレS2923)に無機粒子(A)の付着量で0.1mg/cm2となる塗布量にて塗布し、室温で24時間乾燥させた。
なお、比較例3においては、微粒子シリカAC3のエタノール分散液を、該微粒子シリカAC3の付着量として0.01mg/cm2となる塗布量にて塗布した。 評価用大気有害物質の送風環境中に付着抑制剤が塗布された人工皮革表面を曝露し、分光色差計を用いて曝露前後の色差ΔEを以下の方法により測定し、付着抑制を評価した。結果を表1に示す。
〔色差ΔEの測定〕
分光色差計(商品名「NF 777」、日本電色工業(株)製)を用い、評価用大気有害物質を曝露する前の付着抑制剤が塗布された人工皮革表面の色のL1 *、a1 *、b1 *値を測定した。
別途、グローブバッグ(品番:3-118-01、アズワン(株)製)内に、送風機(商品名「シルキーウィンド9ZF002RH02」、サイズ:129×106×83mm、リズム時計工業(株)製)、網ふるい(Test sieves試験用ふるい JIS Z 8801、枠寸法:φ100×45H、目開き:106μm、東京スクリーン(株)製)を固定した。網ふるいの設置高さは17cmとした。
試験サンプルの付着抑制剤が塗布された人工皮革(5cm×4cm)を該人工皮革の下端の高さが11cmの位置になるように支持体に貼り付けた。該支持体の人工皮革の塗布表面と送風機との間の距離を15cmとし、図1に示すとおり送風機の送風方向に対して人工皮革の塗布表面が垂直に、送風機の羽根の中心高さと人工皮革の中心高さが同じになるように設置した。
グローブバッグ内の温度を25℃、相対湿度を57%RHとし、網ふるいから目詰まり除去ブラシ(商品名「JNB-5」、目開き:106μm以下用、ブラシ径53μm、東京スクリーン(株)製)を用いて、表1に示す評価用大気有害物質0.05gを分級しながら、送風目盛りを1に設定した送風機の吹き出し口の前に1分間落下させ、評価用大気有害物質の送風環境中に付着抑制剤が塗布された人工皮革表面を曝露した。
次いで、上記分光色差計を用いて曝露した人工皮革表面の色差測定を行い、曝露後のL2 *、a2 *、b2 *値を測定し、下記式(II)より色差ΔE値を求めた。
ΔE=[(L1 *-L2 *2+(a1 *-a2 *2+(b1 *-b2 *20.5 (II)
試験サンプルの付着抑制剤を塗布した人工皮革の色差ΔEをΔEtとし、付着抑制剤が塗布されていない人工皮革の色差ΔEをΔEsとし、ΔEsに対するΔEtの比(ΔEt/ΔEs)(N=3)から付着抑制効果を評価した。比(ΔEt/ΔEs)が1.0未満であれば、大気有害物質の付着抑制効果を有する。比(ΔEt/ΔEs)が小さいほど付着抑制効果に優れる。
なお、表1に示す評価用大気有害物質は、以下のとおりである。
黒鉛粉末:商品名「J-CPB」、平均粒径:5.5μm、日本黒鉛工業(株)製
石松子:商品名「ニュータイプ 石松子」、平均粒径:30~40μm、(株)アグリ社製
【0039】
<感触(さらさら感)の評価>
専門パネラー3名が、前腕内側部へ直径3cm円状に各付着抑制剤のエタノール分散液(付着抑制剤の配合量:5%又は0.5%)0.02mLを塗布し、25℃、57%RHの条件下で20秒かけて均一に塗り延ばした。各パネラーが、エタノール乾燥後の感触(さらさら感)を下記基準により4回の官能評価を行い、3名の平均スコアを求めた。結果を表1に示す。
5:とてもさらさらとした感触がある。
4:さらさらとした感触がある。
3:どちらでもない。
2:きしむ感触がある。
1:とてもきしむ感触がある。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から、実施例1~6の大気有害物質付着抑制剤は、参考例1のように何も塗布していない状態と比べて、高い付着抑制効果を有し、かつ感触の低下も抑制されていることが分かる。
一方、比較例1,2及び4は、無機粒子(A)を含有しないため、付着抑制効果を発現していないことが分かる。
また、比較例3は、付着抑制効果を有するものの、微粒子シリカAC3の平均粒子径が0.2μmであるため、感触の低下が抑制されていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の大気有害物質付着抑制剤は、付着抑制効果が高く、塗布後の感触の低下も抑制されるため、固体表面へ塗布して大気有害物質に対する付着抑制剤として特に有用である。
【符号の説明】
【0043】
1:評価対象のサンプル
2:支持体
3:網ふるい
4:評価用大気有害物質
5:送風機
図1