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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】制振間柱
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20250220BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20250220BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/02 Z
F16F7/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020075464
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021172997
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 悠磨
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 隆
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史恭
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-021927(JP,U)
【文献】特開2005-133433(JP,A)
【文献】特開平11-303451(JP,A)
【文献】特開2005-133443(JP,A)
【文献】特開平10-153012(JP,A)
【文献】特開2014-190099(JP,A)
【文献】特開平11-270178(JP,A)
【文献】実開平05-017024(JP,U)
【文献】特開2001-059363(JP,A)
【文献】特開2009-013683(JP,A)
【文献】特開平09-256458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側の梁に接合され、下端部にベースプレートを備えた鋼製の上間柱と、
前記上間柱の下方において下側の梁に接合され、前記上間柱と離間して配置され、上端部にトッププレートを備えた鋼製の下間柱と、
前記上間柱の下端面及び前記下間柱の上端面に接合され、前記上間柱及び前記下間柱を構成する鋼材よりせん断降伏力が小さいせん断降伏部と、
前記ベースプレートの上方に配置された部分の下端が前記ベースプレートの上端面に溶接され、前記トッププレートの下方に配置された部分の上端が前記トッププレートの下端面に溶接され、前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分の上端が前記ベースプレートの下端面に溶接され、前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分の下端が前記トッププレートの上端面に溶接されて、前記ベースプレートの上方から前記トッププレートの下方に亘って、前記上間柱及び前記下間柱のフランジと平行に設けられ、前記上間柱に作用する軸力を前記下間柱へ伝達する軸力伝達リブと、
を有し、
前記ベースプレートの上方に配置された部分は、前記上間柱のウェブに上下方向に沿って溶接され、
前記トッププレートの下方に配置された部分は、前記下間柱のウェブに上下方向に沿って溶接された、
制振間柱。
【請求項2】
前記軸力伝達リブは、
前記ベースプレートの上方に配置された部分として、2本の上リブと、
前記トッププレートの下方に配置された部分として、2本の下リブと、
前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分として、前記上間柱の下端面及び前記下間柱の上端面に溶接された2本の中央リブと、
を備え、
前記せん断降伏部は、
前記2本の中央リブ間に設けられている、
請求項1に記載の制振間柱。
【請求項3】
前記せん断降伏部は、
前記梁を含む柱梁架構の面内方向に沿う板状のパネルと、
前記パネルの一方の面に接して配置された横方向に沿う第一補強材と、
前記パネルの他方の面に接して配置された上下方向に沿う第二補強材と、
を備えた、
請求項1に記載の制振間柱。
【請求項4】
前記上間柱は前記上側の梁に剛接合され、
前記下間柱は前記下側の梁に剛接合され、
前記せん断降伏部は、前記上側の梁及び前記下側の梁の中間の高さを含む位置に設置されている、
請求項1に記載の制振間柱。
【請求項5】
前記せん断降伏部は、建物の1次設計用地震力より大きい外力が生じた場合にせん断降伏する、請求項1又は2に記載の制振間柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振間柱に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、上下に分断された形態のH形鋼からなる曲げ柱の間にせん断パネルを取り付けた曲げ柱ダンパーが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-133433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の曲げ柱ダンパーは、地震時に、せん断パネルが降伏することで制震ダンパーとして機能する。地震時には、この曲げ柱ダンパーに、せん断力のほか軸力が作用する。したがって、せん断パネルが軸力によって座屈して、せん断耐力を十分に発揮できない可能性がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、柱に作用する軸力が、せん断変形するせん断降伏部に作用し難い制振間柱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の制振間柱は、上側の梁に接合され、下端部にベースプレートを備えた鋼製の上間柱と、前記上間柱の下方において下側の梁に接合され、前記上間柱と離間して配置され、上端部にトッププレートを備えた鋼製の下間柱と、前記上間柱の下端面及び前記下間柱の上端面に接合され、前記上間柱及び前記下間柱を構成する鋼材よりせん断降伏力が小さいせん断降伏部と、前記ベースプレートの上方に配置された部分の下端が前記ベースプレートの上端面に溶接され、前記トッププレートの下方に配置された部分の上端が前記トッププレートの下端面に溶接され、前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分の上端が前記ベースプレートの下端面に溶接され、前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分の下端が前記トッププレートの上端面に溶接されて、前記ベースプレートの上方から前記トッププレートの下方に亘って、前記上間柱及び前記下間柱のフランジと平行に設けられ、前記上間柱に作用する軸力を前記下間柱へ伝達する軸力伝達リブと、を有し、前記ベースプレートの上方に配置された部分は、前記上間柱のウェブに上下方向に沿って溶接され、前記トッププレートの下方に配置された部分は、前記下間柱のウェブに上下方向に沿って溶接されている。
【0007】
請求項1の制振間柱によると、上側の梁に接合された上間柱と下側の梁に接合された下間柱との間に、せん断降伏部が配置されている。このため、地震時に上間柱と下間柱とが横方向に相対変位すると、せん断降伏部にせん断力が作用する。
せん断降伏部は、上間柱及び下間柱を構成する鋼材よりせん断降伏力が小さい。したがって、このせん断降伏部が上間柱及び下間柱に先行してせん断変形し、地震エネルギーを吸収することができる。
【0008】
また、この制振間柱には、上間柱から下間柱に亘って軸力伝達リブが設けられている。地震時には、縦揺れや横揺れによって上間柱及び下間柱に上下方向の軸力が作用するが、この軸力伝達リブを介して上間柱と下間柱との間で軸力が伝達される。これにより、せん断降伏部に軸力が入力されることが抑制される。
【0009】
したがって、せん断降伏部が軸力により座屈し難い。これにより、せん断降伏部がせん断変形して地震エネルギーを吸収し易い。
請求項2の制振間柱は、請求項1に記載の制振間柱において、前記軸力伝達リブは、前記ベースプレートの上方に配置された部分として、2本の上リブと、前記トッププレートの下方に配置された部分として、2本の下リブと、前記ベースプレートと前記トッププレートの間に配置された部分として、前記上間柱の下端面及び前記下間柱の上端面に溶接された2本の中央リブと、を備え、前記せん断降伏部は、前記2本の中央リブ間に設けられている。
請求項3の制振間柱は、請求項1に記載の制振間柱において、前記せん断降伏部は、前記梁を含む柱梁架構の面内方向に沿う板状のパネルと、前記パネルの一方の面に接して配置された横方向に沿う第一補強材と、前記パネルの他方の面に接して配置された上下方向に沿う第二補強材と、を備えている。
【0010】
請求項4の制振間柱は、請求項1に記載の制振間柱において、前記上間柱は前記上側の梁に剛接合され、前記下間柱は前記下側の梁に剛接合され、前記せん断降伏部は、前記上側の梁及び前記下側の梁の中間の高さを含む位置に設置されている。
【0011】
地震時に上側の梁と下側の梁とが相対変位した際、制振間柱には曲げモーメントが作用する。上間柱は上側の梁に剛接合され、下間柱は下側の梁に剛接合されている。このため、制振間柱に作用する曲げモーメントは、上側の梁と下側の梁との中間部分において最も小さくなる。
【0012】
請求項4の制振間柱においては、曲げモーメントが最も小さくなる位置に、せん断降伏部が配置されている。このため、せん断降伏部に曲げモーメントが作用しにくい。これにより、せん断降伏部がせん断変形して地震エネルギーを吸収し易い。
【0013】
請求項5の制振間柱は、請求項1又は2に記載の制振間柱において、前記せん断降伏部は、建物の1次設計用地震力より大きい外力が生じた場合にせん断降伏する。
【0014】
請求項5の制振間柱では、建物の1次設計用地震力以下の外力によっては、せん断降伏部がせん断降伏しない。つまり、制振間柱に、建物の許容応力度計算によって算出された応力以下の内部応力が発生しても、せん断降伏部はせん断降伏しないで弾性を維持する。これにより制振間柱は、中小規模の地震においては耐震部材として機能し、大規模の地震においては制振部材として機能する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、制振間柱に作用する軸力が、せん断変形するせん断降伏部に作用し難い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る制振間柱を示す立面図である。
図2】本発明の実施形態に係る制振間柱におけるせん断降伏部を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る制振間柱の施工方法を示す立面図である。
図4】(A)は本発明の実施形態に係る制振間柱において上間柱の上端部及び本体部を一体的に形成し、かつ、下間柱の下端部及び本体部を一体的に形成した変形例を示す立面図であり、(B)は(A)においてさらに接合プレートを設けた変形例を示す立面図である。
図5】本発明の実施形態に係る制振間柱において、上間柱及び下間柱のフランジを、軸力伝達リブとして利用した変形例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る制振間柱20について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
図1には、本発明の実施形態に係る制振間柱20(以下、間柱20と称す)が示されている。間柱20は、柱梁架構の建物において上下に隣り合う梁10(上梁10A及び下梁10B)のそれぞれに接合された間柱である。間柱20は、設計上、長期荷重を支持しないものとされている。
【0019】
図1に矢印Xで示す方向は、梁10の架設方向と一致する方向(横方向)であり、矢印Zで示す方向は、間柱20の延設方向と一致する方向(上下方向)である。また、X方向及びZ方向は、何れも梁10を含んで構成された柱梁架構の面内方向に沿う方向である。
【0020】
上梁10A及び下梁10Bは、同一構面において上下に隣り合うH形鋼の梁である。上梁10Aは上側の梁であり、下梁10Bは下側の梁である。なお、上梁10A及び下梁10Bは、鉄筋コンクリート製や、鉄骨鉄筋コンクリート製としてもよい。
【0021】
<制振間柱>
間柱20は、それぞれ普通鋼であるH形鋼で形成された上間柱22及び下間柱24を備えて構成されている。上間柱22は、上梁10Aに剛接合され、上梁10Aから下方へ向かって突出している。同様に、下間柱24は、下梁10Bに剛接合され、上梁10Aから上方へ向かって突出している。上間柱22及び下間柱24は、平面視で同位置に配置されている。
【0022】
(上間柱)
上間柱22は、上梁10Aと一体化された上端部22A(所謂ブラケット)と、上端部22AにスプライスプレートPを用いて接合された本体部22Bと、を備えている。スプライスプレートPは、上端部22A及び本体部22Bのフランジ同士及びウェブ同士をそれぞれ接合している。本体部22Bの下端部には、ベースプレート22Cが接合されている。ベースプレート22Cは、本体部22Bのウェブ及びフランジのそれぞれに溶接されている。
【0023】
(下間柱)
同様に、下間柱24は、下梁10Bと一体化された下端部24A(所謂ブラケット)と、下端部24AにスプライスプレートPを用いて接合された本体部24Bと、を備えている。スプライスプレートPは、下端部24A及び本体部24Bのフランジ同士及びウェブ同士をそれぞれ接合している。本体部24Bの上端部には、トッププレート24Cが接合されている。トッププレート24Cは、本体部24Bのウェブ及びフランジのそれぞれに溶接され、ベースプレート22Cと上下方向に離間して配置されている。すなわち、上間柱22と下間柱24とは、上下方向に離間して配置されている。
【0024】
(軸力伝達リブ)
軸力伝達リブ40は、上下方向に離間して配置された上間柱22から下間柱24に亘って設けられた補強材である。軸力伝達リブ40は、上間柱22と下間柱24との間で、軸力を伝達する。なお、この軸力は地震時に作用する軸力である。
【0025】
軸力伝達リブ40は、上リブ42、下リブ44及び中央リブ46を備えて構成されている。また、軸力伝達リブ40は、上間柱22及び下間柱24を形成する鋼材と同じ鋼材を用いて形成されている。
【0026】
上リブ42は、Z方向に沿って設けられ、上間柱22における本体部22Bのウェブ及びベースプレート22Cに溶接されている。上リブ42は、X方向に離間して2本(柱梁架構を正面視して2本)設けられている。また、上リブ42は、本体部22Bのウェブの両側に(すなわち、合計4本)設けられている。
【0027】
下リブ44は、Z方向に沿って設けられ、下間柱24における本体部24Bのウェブ及びトッププレート24Cに溶接されている。下リブ44は、X方向に離間して2本(柱梁架構を正面視して2本)設けられている。また、下リブ44は、本体部24Bのウェブの両側に(すなわち、合計4本)設けられている。
【0028】
中央リブ46は、Z方向に沿って設けられ、上間柱22のベースプレート22C及び下間柱24のトッププレート24Cに溶接されている。中央リブ46は、X方向に離間して2本設けられている。
【0029】
なお、上リブ42、下リブ44及び中央リブ46は、X方向の位置が等しい。すなわち、上リブ42、下リブ44及び中央リブ46は、それぞれが互いのZ方向における延長線上に配置されている。
【0030】
(せん断降伏部)
ベースプレート22Cとトッププレート24Cとの間には、せん断降伏部30が形成されている。また、せん断降伏部30は、2本の中央リブ46の間に設けられている。
【0031】
なお、せん断降伏部30は、上梁10A及び下梁10Bの中間の高さを含む位置(中心線CLに跨る位置)に設置されている。
【0032】
また、図2に示すように、せん断降伏部30は、パネル32と、補強材34、36と、を備えて構成されている。なお、図2においては、せん断降伏部30の構成を説明するために、上間柱22の図示は省略されている。
【0033】
パネル32は、間柱20(上間柱22及び下間柱24)の軸心を通る位置において、X方向及びZ方向(換言すると柱梁架構の面内方向)に沿って配置された板状部材であり、上間柱22及び下間柱24を形成する鋼材よりせん断降伏力が小さい鋼材を用いて形成されている。
【0034】
また、パネル32の上下端面は、それぞれベースプレート22C及びトッププレート24Cに溶接されている。換言すると、パネル32は、上間柱22の下端面と下間柱24の上端面とに、それぞれ例えば溶接によって接合されている。パネル32には、上梁10Aと下梁10Bとが相対変位した際にせん断力が入力される。パネル32は、建物の1次設計用地震力より大きい外力が生じた場合にせん断降伏する。
【0035】
なお、本実施形態においては、パネル32として、上間柱22と下間柱24を形成する鋼材よりせん断降伏「応力」が小さい鋼材(例えば低降伏点鋼)を用いている。しかし、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0036】
例えばパネル32として、上間柱22及び下間柱24を形成する鋼材と、せん断降伏応力が等しい鋼材を使用してもよい。この場合、パネル32の厚みを、上間柱22及び下間柱24を形成するH形鋼のウェブの厚みより薄くすることで、相対的にせん断降伏力を小さくできる。
【0037】
このように、パネル32として用いる鋼材のせん断降伏応力と、パネル32の厚みとを調整することで、任意のせん断降伏力を得ることができる。また、パネル32の幅(X)方向に沿う長さ)を調整することでも、任意のせん断降伏力を得ることができる。
【0038】
補強材34、36はそれぞれ、上間柱22及び下間柱24を形成する鋼材よりせん断降伏力が小さく、又は、上間柱22及び下間柱24を形成する鋼材とせん断降伏力が同等に形成されている。また、補強材34、36はそれぞれ、パネル32を形成する鋼材よりせん断降伏力が大きく形成されている。
【0039】
補強材34は、両端が2本の中央リブ46にそれぞれ溶接され、板状に形成されている。また、補強材34は、パネル32におけるZ方向の中央部において、X方向に沿って設けられ、パネル32の一方の面と接して配置されている。
【0040】
補強材36は、上下端がベースプレート22C(図1参照)及びトッププレート24Cにそれぞれ溶接され、板状に形成されている。また、補強材36は、パネル32におけるX方向の中央部において、Z方向に沿って設けられ、パネル32の他方の面(補強材34が接する面と反対側の面)と接して配置されている。なお、補強材34、36は、それぞれパネル32に溶接や接着してもよい。
【0041】
<制振間柱の施工方法>
間柱20は、工場で組み立てられた部分を、現場で柱梁架構に組付けて形成される。具体的には、上間柱22の本体部22B、ベースプレート22C、下間柱24の本体部24B、トッププレート24C、軸力伝達リブ40及びせん断降伏部30で形成されたユニットU1を工場で組み立てておき、これを建物の建設現場へ搬入する。
【0042】
建物の建設現場においては、上梁10A及び下梁10Bにスラブ(不図示)が架け渡された後、上間柱22の上端部22A及び下間柱24の下端部24Aの間にユニットU1を配置して、このユニットU1を上端部22A及び下端部24Aへ接合する。
【0043】
なお、ユニットU1は、スラブが架け渡される前に上端部22A及び下端部24Aの間に配置してもよい。この場合、ユニットU1と上梁10A及び下梁10Bとの固定は仮固定とし、スラブの形成後、本固定(スプライスプレート(図1参照)を固定するボルトを本締め)する。
【0044】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る間柱20によると、図1に示すように、上梁10Aに接合された上間柱22と下梁10Bに接合された下間柱24との間に、せん断降伏部30が配置されている。このため、地震時に上間柱22と下間柱24とが横方向(X方向)に相対変位すると、せん断降伏部30にせん断力が作用する。
【0045】
せん断降伏部30を形成するパネル32(図2参照)は、上間柱22及び下間柱24を構成する鋼材よりせん断降伏力が小さい。したがって、パネル32が上間柱22及び下間柱24に先行してせん断変形し、地震エネルギーを吸収することができる。
【0046】
また、間柱20には、上間柱22から下間柱24に亘って軸力伝達リブ40が設けられている。地震時には、縦揺れや横揺れによって上間柱22及び下間柱24に上下方向の軸力が作用するが、この軸力伝達リブ40を介して上間柱22と下間柱24との間で軸力が伝達される。これにより、パネル32に軸力が入力されることが抑制される。
【0047】
したがって、パネル32が軸力により座屈し難い。これにより、パネル32が十分にせん断変形できるため、地震エネルギーを吸収し易い。
【0048】
ここで、地震時に上梁10Aと下梁10Bとが相対変位した際、間柱20には曲げモーメントが作用する。上間柱22は上梁10Aに剛接合され、下間柱24は下梁10Bに剛接合されている。このため、間柱20に作用する曲げモーメントは、上梁10Aと下梁10Bとの中間部分(中心線CLの近傍)において最も小さくなる。
【0049】
間柱20においては、曲げモーメントが最も小さくなる位置(中心線CLに跨る位置))に、せん断降伏部30が配置されている。このため、せん断降伏部30に曲げモーメントが作用しにくい。これにより、パネル32が十分にせん断変形できるため、地震エネルギーを吸収し易い。
【0050】
また、間柱20では、建物の1次設計用地震力より大きい外力が生じた場合に、パネル32がせん断降伏する。換言すると、建物の1次設計用地震力以下の外力によっては、パネル32はせん断降伏しない。つまり、間柱20に、建物の許容応力度計算によって算出された応力以下の内部応力が発生している状態では、パネル32はせん断降伏しないで弾性を維持する。これにより間柱20は、中小規模の地震においては耐震部材として機能し、大規模の地震においては制振部材として機能する。
【0051】
また、間柱20では、パネル32に接して補強材34、36が設けられている。これにより、パネル32が面外方向(Y方向)に座屈することが抑制されている。したがって、パネル32が十分にせん断変形できるため、地震エネルギーを吸収し易い。
【0052】
このように、間柱20では、せん断降伏部30を設けたことにより地震エネルギーを吸収できるので、建物の柱梁架構の損傷を抑制できる。また、ダンパーなどの制振装置を用いる場合と比較して、低コストで建物の制振性能を高めることができる。
【0053】
<その他の実施形態>
上述した実施形態においては、上間柱22を、上端部22A、本体部22B及びベースプレート22Cで形成し、かつ、下間柱24を、下端部24A、本体部24B及びトッププレート24Cで形成しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0054】
例えば図4(A)に示すように、上端部22A及び本体部22Bに代えて、これらを一体化した本体部22Dを設けてもよい。また、下端部24A及び本体部24Bに代えて、これらを一体化した本体部24Dを設けてもよい。
【0055】
この場合、上間柱22のベースプレート22C、下間柱24のトッププレート24C、軸力伝達リブ40の中央リブ46及びせん断降伏部30で形成されたユニットU2を工場で組み立てておき、これを建物の建設現場へ搬入する。ユニットU2は、本体部22D、本体部24D、上リブ42及び下リブ44と溶接される。
【0056】
なお、図4(B)に示すように、本体部22Dの下端部及び本体部24Dの上端部には、それぞれ接合プレート22E、24Eを設けてもよい。この場合、接合プレート22Eとベースプレート22Cとをボルト接合し、接合プレート24Eとトッププレート24Cとをボルト接合すれば、現場での溶接作業を減らすことができる。
【0057】
また、上述した実施形態においては、図1に示すように、上リブ42、下リブ44及び中央リブ46を2本(柱梁架構を正面視して2本)設けているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0058】
例えば図5に示すように、上リブ42、下リブ44を1本のみ設ける構成としてもよい。この場合、中央リブ46のうち1本(中央リブ46A)を、上間柱22及び下間柱24のフランジの延長線上に配置する。これにより、上間柱22及び下間柱24のフランジを、軸力伝達リブとして利用することができる。
【0059】
また、上述した実施形態においては、上間柱22が上梁10Aに剛接合され、下間柱24が下梁10Bに剛接合されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば上間柱22及び下間柱24の、上梁10A及び下梁10Bに対する接合方法及び接合力は任意であり、接合方法及び接合力がそれぞれ異なるものとしてもよい。
【0060】
この場合、間柱20において曲げモーメントが最小となる高さ位置が変化する。具体的には、曲げモーメントが最小となる高さ位置は、接合力が小さい部分に近づく。この場合、せん断降伏部30も適宜移動させることが好適である。
【0061】
また、上述した実施形態においては、パネル32が、建物の1次設計用地震力より大きい外力が生じた場合にせん断降伏するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。すなわち、パネル32のせん断耐力は任意の値に設定することができる。
【0062】
例えばパネル32のせん断耐力は、建物に許容設計応力以下の外力が作用している状態において、パネル32がせん断降伏する耐力としてもよい。これにより、せん断降伏部30は、中小規模の地震においても、制振性能を発揮できる。
【符号の説明】
【0063】
10A 上梁(上側の梁)
10B 下梁(下側の梁)
20 制振間柱
22 上間柱
24 下間柱
30 せん断降伏部
40 軸力伝達リブ
図1
図2
図3
図4
図5