(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】車速演算装置、及び車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250220BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20250220BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20250220BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20250220BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20250220BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60T8/171 Z
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2021034779
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 亨
(72)【発明者】
【氏名】西村 公一
(72)【発明者】
【氏名】石野 嵩人
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155869(JP,A)
【文献】特開平01-218953(JP,A)
【文献】特開平10-035464(JP,A)
【文献】国際公開第2014/016945(WO,A1)
【文献】特開2008-056226(JP,A)
【文献】特開2010-202062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0324766(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005023701(DE,A1)
【文献】特開2011-213247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 - 6/10
B62D 5/04
B60W 10/00
B60W 30/00 - 60/00
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
B60G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される各種の機能を実現させるべく動作する車両用装置を制御する際に用いられる状態変数として、車両が実際に走行している速度である車体速を推定して得られる制御用車速を演算する車速演算部を備え、
前記車速演算部は、
複数の車輪についての車輪速のうちの前記車体速との間で乖離を生じさせる影響が小さい状況で回転していることが想定される前記車輪から得られる少なくとも一の車輪速を抽出する抽出機能と、
前記複数の車輪についての車輪速のうち異常が有るとされる車輪速が、前記抽出機能によって抽出されることを回避する回避機能と、
前記抽出機能を通じて抽出した前記少なくとも一の車輪速に基づいて、前記制御用車速を演算する演算機能と、を有するように構成されている車速演算装置。
【請求項2】
前記回避機能では、前記異常が有るとされる車輪速を、前記抽出機能によって抽出されることを回避可能な値に置換することにより、前記異常が有るとされる車輪速が、前記抽出機能によって抽出されることを回避するように構成されている請求項1に記載の車速演算装置。
【請求項3】
前記抽出機能では、前記複数の車輪速の値を大小で分類した場合に小さい値に分類される前記車輪速を抽出するように構成されている請求項1
又は請求項2に記載の車速演算装置。
【請求項4】
前記抽出機能では、車両が走行中であるにもかかわらず接地面に対して回転しなくなるロック状態に陥り難いとして車両の設計上で定められた前記車輪の前記車輪速を抽出するように構成されている請求項
3に記載の車速演算装置。
【請求項5】
前記抽出機能は、
前記複数の車輪速の値を大小で分類した場合に小さい値に分類される前記車輪速を抽出する第1抽出機能と、
車両が走行中であるにもかかわらず接地面に対して回転しなくなるロック状態に陥り難いとして車両の設計上で定められた前記車輪の前記車輪速を抽出する第2抽出機能と、を含んで構成されており、
前記車速演算部は、前記第1抽出機能を通じて抽出した前記車輪速に基づき得られる第1車速と、前記第2抽出機能を通じて抽出した前記車輪速に基づき得られる第2車速との少なくともいずれかに基づいて、前記制御用車速を演算するように構成されている請求項
4に記載の車速演算装置。
【請求項6】
前記車速演算部は、前記第1抽出機能を通じて得られる前記第1車速と前記第2抽出機能を通じて得られる前記第2車速とを含む複数の車速を所定配分比率で合算する車速配分機能をさらに含み、
前記車速配分機能は、
車両の加減速の状態に応じて前記配分比率を変更する機能と、
前記配分比率を変更する際、当該配分比率を徐々に変化させる機能と、を有するように構成されている請求項
5に記載の車速演算装置。
【請求項7】
請求項1~請求項
6のうちいずれか一項に記載の車速演算装置を含み、
前記車速演算装置を通じて得られた前記制御用車速を用いた前記車両用装置の動作を制御するように構成されている車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速演算装置、及び車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される各種の機能には、例えば、車両の転舵輪を転舵させる機能が含まれている。特許文献1には、車両の転舵輪を転舵させる機能を実現させる装置として、ステアバイワイヤ式の操舵装置が開示されている。
【0003】
上記特許文献1に記載の操舵装置は、当該操舵装置の動作を制御する制御装置を備えている。こうした制御装置は、車両から得られる各種情報のうちの車速(以下、「制御用車速」という。)に基づいて上記操舵装置の動作を制御するように構成されている。そして、制御装置では、車両に設けられた各前輪センサから得られる各転舵輪の車輪速の平均値として制御用車速を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述の如くして得られる制御用車速は、上記特許文献1における上記操舵装置の動作の制御に限らず、その他の車両における各種の制御にも用いられる。ただし、一般的に車両にて得られる制御用車速は、車両が実際に走行している速度である車体速を推定して得られる。そのため、制御用車速を得る際に対象になっている車輪の回転の状況によっては、車体速と、当該車体速を推定して得られる制御用車速とが乖離することがある。
【0006】
車体速と、制御用車速との乖離を抑える方法としては、例えば、制御用車速を得る際にフィルタ処理を施す方法がある。これは、車体速と、制御用車速との乖離が比較的に大きければ有効であるが、当該乖離が比較的に小さいと制御用車速を用いた車両における各種の制御での当該制御用車速の変化に対する追従性を低下させてしまう。つまり、車体速と、制御用車速との乖離を抑えることと、制御用車速を用いた車両における各種の制御での当該制御用車速の変化に対する追従性の低下を抑えることとは、互いにトレードオフの関係にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する車速演算装置は、車両に搭載される各種の機能を実現させるべく動作する車両用装置を制御する際に用いられる状態変数として、車両が実際に走行している速度である車体速を推定して得られる制御用車速を演算する車速演算部を備え、前記車速演算部は、複数の車輪についての車輪速のうちの前記車体速との間で乖離を生じさせる影響が小さい状況で回転していることが想定される前記車輪から得られる少なくとも一の車輪速を抽出する抽出機能と、前記抽出機能を通じて抽出した前記少なくとも一の車輪速に基づいて、前記制御用車速を演算する演算機能と、を有するように構成されている。
【0008】
上記構成によれば、制御用車速の演算では、車体速との間で乖離を生じさせる影響が大小様々の状況で回転している複数の車輪のなかで、車体速との間で乖離を生じさせる影響が小さい状況で回転していることが想定される車輪から得られる車輪速が積極的に加味されることになる。これは、車速演算部が有する抽出機能により実現される。これにより、車速演算部の機能を通じて演算される制御用車速は、車体速との間での乖離が小さく抑えられる。つまり、車体速と、制御用車速との乖離を抑える方法としては、例えば、制御用車速を得る際にフィルタ処理を施す方法を採用する必要がなくなる。この場合、車体速と、制御用車速との乖離を抑えることと、制御用車速を用いた車両における各種の制御での当該制御用車速の変化に対する追従性の低下を抑えることとの両立を図ることができる。
【0009】
ここで、車輪の回転の状況として、例えば、接地面に対して空転するスリップ状態に陥っている車輪から得られた車輪速は、当該スリップ状態に陥っていない車輪から得られる車輪速と比べて大きい値となり易く、車体速との間で乖離している可能性が高い。これに対して、複数の車輪速の値について、大小で分類したなかで小さい値に分類される車輪速は、スリップ状態に陥っている状況の車輪から得られた値である可能性が低くなる。
【0010】
そこで、上記車速演算装置において、前記抽出機能では、前記複数の車輪速の値を大小で分類した場合に小さい値に分類される前記車輪速を抽出するように構成されていることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、複数の車輪のなかで、例えば、スリップ状態に陥っている状況の車輪が存在していたとしても、スリップ状態に陥っていない状況の車輪から得られた車輪速を制御用車速の演算に積極的に加味することができる。これは、車体速と、制御用車速との乖離を抑えるのに効果的である。
【0012】
ここで、車輪の回転の状況として、例えば、ロック状態に陥っている車輪から得られた車輪速は、当該ロック状態に陥っていない車輪から得られる車輪速と比べて小さい値となり易く、車体速との間で乖離している可能性が高い。これに対して、複数の車輪では、ロック状態に陥り難い車輪が車両の設計上で予め定められている。
【0013】
そこで、上記車速演算装置において、前記抽出機能では、車両が走行中であるにもかかわらず接地面に対して回転しなくなるロック状態に陥り難いとして車両の設計上で定められた前記車輪の前記車輪速を抽出するように構成されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、複数の車輪のなかで、例えば、ロック状態に陥っている状況の車輪が存在していたとしても、ロック状態に陥っていない状況の車輪から得られた車輪速を制御用車速の演算に積極的に加味することができる。これは、車体速と、制御用車速との乖離を抑えるのに効果的である。
【0015】
また、上記車速演算装置において、前記抽出機能は、前記複数の車輪速の値を大小で分類した場合に小さい値に分類される前記車輪速を抽出する第1抽出機能と、車両が走行中であるにもかかわらず接地面に対して回転しなくなるロック状態に陥り難いとして車両の設計上で定められた前記車輪の前記車輪速を抽出する第2抽出機能と、を含んで構成されており、前記車速演算部は、前記第1抽出機能を通じて抽出した前記車輪速に基づき得られる第1車速と、前記第2抽出機能を通じて抽出した前記車輪速に基づき得られる第2車速との少なくともいずれかに基づいて、前記制御用車速を演算するように構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、例えば、スリップ状態に陥っている状況の車輪が存在することが想定される状況であれば、第1車速に基づき制御用車速を演算するようにしたり、ロック状態に陥っている状況の車輪が存在することが想定される状況であれば、第2車速に基づき制御用車速を演算するようにしたりできる。したがって、車体速と、制御用車速との乖離を効果的に抑えることができる。
【0017】
上記車速演算装置において、前記車速演算部は、前記第1抽出機能を通じて得られる前記第1車速と前記第2抽出機能を通じて得られる前記第2車速とを含む複数の車速を所定配分比率で合算する車速配分機能をさらに含み、前記車速配分機能は、車両の加減速の状態に応じて前記配分比率を変更する機能と、前記配分比率を変更する際、当該配分比率を徐々に変化させる機能と、を有するように構成されていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、車両の加減速の状態に応じて、スリップ状態、又はロック状態への陥る可能性の高低が変化するところ、車両の加減速の状態に応じて配分比率を変更するようにしている。そして、配分比率を実際に変更すると、当該変更の前後で演算の結果として得られる制御用車速が急変する可能性がある。そこで、上記構成を採用する場合、配分比率を変更したとしても、当該変更の前後で、演算の結果として得られる制御用車速の急変を抑えることができる。
【0019】
上記の車速演算装置は、上記車速演算装置を通じて得られた制御用車速を用いた車両用装置の動作を制御するように構成されている車両用制御装置に用いられるのに好適である。この場合、車体速と、制御用車速との乖離を抑えることと、制御用車速を用いた車両における各種の制御での当該制御用車速の変化に対する追従性の低下を抑えることとの両立を図ることができる車両用制御装置を実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車速演算装置、及び車両用制御装置によれば、車体速と、制御用車速との乖離を抑えることと、制御用車速を用いた車両における各種の制御での当該制御用車速の変化に対する追従性の低下を抑えることとの両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ステアバイワイヤ式の操舵装置の概略構成を示す図。
【
図3】操舵側制御部について操舵力演算部の機能を示すブロック図。
【
図4】操舵側制御部について軸力演算部の機能を示すブロック図。
【
図5】転舵側制御部について制限処理部の機能を示すブロック図。
【
図6】転舵側制御部についてピニオン角フィードバック制御部の機能を示すブロック図。
【
図7】第1実施形態の転舵側制御部について車速演算部の機能を示すブロック図。
【
図8】第1実施形態の車速演算部について第1車速演算部の機能を示すブロック図。
【
図9】第1実施形態の車速演算部について第2車速演算部の機能を示すブロック図。
【
図10】第2実施形態の車速演算部について第1車速演算部の異常車輪速置換部の機能を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
車速演算装置、及び車両用制御装置の第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両の操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、当該操舵装置2の動作を制御する車両用制御装置としての操舵制御装置1を備えている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵機構4と、運転者により操舵機構4に入力される操舵に応じて左右の転舵輪5L,5Rを転舵させる転舵機構6とを備えている。各転舵輪5L,5Rは、車両の前方側に配置された左右の前側車輪である。本実施形態の操舵装置2は、操舵機構4と、転舵機構6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。本実施形態において、操舵装置2、すなわち操舵機構4、及び転舵機構6は、車両に搭載される各種の機能を実現させるべく動作する車両用装置の一例である。
【0023】
操舵機構4は、ステアリング軸11と、操舵側アクチュエータ12とを備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。操舵側アクチュエータ12は、操舵側モータ13と、減速機構14とを有している。操舵側モータ13は、ステアリング軸11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する。操舵側モータ13は、例えば、ウォームアンドホイールからなる減速機構14を介してステアリング軸11に連結されている。
【0024】
転舵機構6は、ピニオン軸21と、転舵軸としてのラック軸22と、ラックハウジング23とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって連結されている。ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛み合わせることによりラックアンドピニオン機構24が構成されている。つまり、ピニオン軸21は、各転舵輪5L,5Rの転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラックハウジング23は、ラックアンドピニオン機構24を収容している。なお、ピニオン軸21のラック軸22と連結される側と反対側の一端は、ラックハウジング23から突出している。また、ラック軸22の両端は、ラックハウジング23の軸方向の両端から突出している。そして、ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、それぞれ左右の各転舵輪5L,5Rが組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0025】
転舵機構6は、転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵側モータ32は、伝達機構33、及び変換機構34を介してラック軸22に対して各転舵輪5L,5Rを転舵させる転舵力を付与する。転舵側モータ32は、例えば、ベルト伝達機構からなる伝達機構33を介して変換機構34に対して回転を伝達する。伝達機構33は、例えば、ボールねじ機構からなる変換機構34を介して転舵側モータ32の回転をラック軸22の往復動に変換する。
【0026】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵側アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、各転舵輪5L,5Rの転舵角が変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。つまり、操舵装置2では、操舵側アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0027】
ちなみに、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するためである。すなわち、操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0028】
<操舵装置2の電気的構成>
図1に示すように、操舵側モータ13、及び転舵側モータ32には、操舵制御装置1が接続されている。操舵制御装置1は、各モータ13,32の制御量である電流の供給を制御することによって、各モータ13,32の駆動を制御する。
【0029】
操舵制御装置1には、トルクセンサ41と、操舵側回転角センサ43と、転舵側回転角センサ44とが接続されている。
トルクセンサ41は、運転者のステアリング操舵によりステアリング軸11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。トルクセンサ41は、ステアリング軸11における減速機構14よりもステアリングホイール3側の部分に設けられている。トルクセンサ41は、ステアリング軸11の途中に設けられたトーションバー42の捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。なお、操舵トルクThは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0030】
操舵側回転角センサ43は、操舵側モータ13の回転軸の角度である回転角θaを360°の範囲内で検出する。操舵側回転角センサ43は、操舵側モータ13に設けられている。操舵側モータ13の回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。操舵側モータ13と、ステアリング軸11とは、減速機構14を介して連動する。このため、操舵側モータ13の回転角θaと、ステアリング軸11の回転角、ひいてはステアリングホイール3の回転角である操舵角θsとの間には相関がある。したがって、操舵側モータ13の回転角θaに基づき操舵角θsを求めることができる。なお、回転角θaは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0031】
転舵側回転角センサ44は、転舵側モータ32の回転軸の角度である回転角θbを360°の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ44は、転舵側モータ32に設けられている。転舵側モータ32の回転角θbは、ピニオン角θpの演算に使用される。転舵側モータ32と、ピニオン軸21とは、伝達機構33と、変換機構34と、ラックアンドピニオン機構24を介して連動する。このため、転舵側モータ32の回転角θbと、ピニオン軸21の回転角度であるピニオン角θpとの間には相関がある。したがって、転舵側モータ32の回転角θbに基づきピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオン軸21は、ラック軸22に噛合されている。このため、ピニオン角θpとラック軸22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、各転舵輪5L,5Rの転舵角である転舵機構6の状態を反映する値である。なお、回転角θbは、例えば右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0032】
操舵制御装置1には、図示しないCAN等の車載ネットワークを介して制動制御装置45が接続されている。制動制御装置45は、操舵制御装置1とは別に車両に設けられている。制動制御装置45は、車両に搭載される図示しないブレーキ装置の作動を制御する。制動制御装置45には、左前車輪速センサ47lと、右前車輪速センサ47rとが接続されている。
【0033】
左前車輪速センサ47lは、左側の前側車輪である転舵輪5Lの前車輪速Vflを検出する。右前車輪速センサ47rは、右側の前側車輪である転舵輪5Rの前車輪速Vfrを検出する。各前車輪速センサ47l,47rは、車体に対して各転舵輪5L,5Rを回転可能に支持する図示しない軸受装置であるハブユニットに設けられたセンサハブである。
【0034】
また、制動制御装置45には、左後車輪速センサ48lと、右後車輪速センサ48rとが接続されている。左後車輪速センサ48lは、車両の後方側に配置された、図示しない左右の後側車輪のうちの左側の後側車輪の後車輪速Vrlを検出する。右後車輪速センサ48rは、車両の後方側に配置された、図示しない、左右の後側車輪のうちの右側の後側車輪の後車輪速Vrrを検出する。各後車輪速センサ48l,48rは、車体に対して各後側車輪を回転可能に支持する図示しない軸受装置であるハブユニットに設けられたセンサハブである。本実施形態の操舵装置2は、車両の前方側に搭載された、例えば、エンジン、又はモータ等の駆動源が発生させる動力により左右の後側車輪に回転駆動するための駆動トルクを発生させる、いわゆるFR方式の車両に搭載されている。つまり、左右の後側車輪は、車両が走行に必要な駆動力を発生させるように駆動される駆動輪である。
【0035】
そして、制動制御装置45には、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrが入力される。制動制御装置45は、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrを操舵制御装置1に出力するように構成されている。
【0036】
また、制動制御装置45には、ストップランプスイッチ49が接続されている。制動制御装置45は、車両に搭載されたブレーキペダルBpの操作を検出する場合、ストップランプスイッチ49をオンとして車両の後部に搭載されたストップランプの点灯状態を点灯に制御する。また、制動制御装置45は、ブレーキペダルBpの操作を検出しない場合、ストップランプスイッチ49をオフとして上記ストップランプの点灯状態を消灯に制御する。制動制御装置45は、ストップランプの点灯状態を示す情報として、ストップランプ信号Sを生成する。ストップランプ信号Sは、ブレーキペダルBpが操作されているか否か、すなわち車両の加減速状態のうちの減速状態であるか否かを示す情報である。制動制御装置45は、ストップランプスイッチ49をオンとする場合に当該オンを示すストップランプ信号Sを生成する。また、制動制御装置45は、ストップランプスイッチ49をオフとする場合に当該オフを示すストップランプ信号Sを生成する。そして、制動制御装置45は、ストップランプ信号Sを操舵制御装置1に出力するように構成されている。
【0037】
<操舵制御装置1の機能>
操舵制御装置1は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。これにより、各種の処理が実行される。
【0038】
図2に、操舵制御装置1が実行する処理の一部を示す。
図2に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0039】
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側モータ13に対する給電を制御する操舵側制御部50を備えている。操舵側制御部50は、操舵側電流センサ54を有している。操舵側電流センサ54は、操舵側制御部50と、操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる操舵側モータ13の各相の電流値から得られる操舵側実電流値Iaを検出する。操舵側電流センサ54は、操舵側モータ13に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つに纏めて図示している。
【0040】
また、操舵制御装置1は、転舵側モータ32に対する給電を制御する転舵側制御部60を備えている。転舵側制御部60は、転舵側電流センサ66を有している。転舵側電流センサ66は、転舵側制御部60と転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる転舵側モータ32の各相の電流値から得られる転舵側実電流値Ibを検出する。転舵側電流センサ66は、転舵側モータ32に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つに纏めて図示している。
【0041】
また、操舵制御装置1は、車速演算部200を備えている。車速演算部200は、車両が実際に走行している速度である車体速を推定して得られる車速として制御用車速Vを演算する。なお、車体速とは、車両の搭乗者が体感している速度と言うこともできる。車速演算部200には、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrr、及びストップランプ信号Sが入力される。車速演算部200は、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrr、及びストップランプ信号Sに基づいて、制御用車速Vを演算する。なお、車速演算部200の機能については、後で詳しく説明する。こうして得られた制御用車速Vは、操舵装置2の動作を制御する際に用いる状態変数の一つとして、操舵側制御部50、及び転舵側制御部60に出力される。本実施形態において、車速演算部200は、転舵側制御部60の機能の一つとして実現されている。本実施形態において、転舵側制御部60は、車速演算装置に相当する。すなわち転舵側制御部60を備えた操舵制御装置1は、車速演算装置に相当する。
【0042】
<操舵側制御部50>
操舵側制御部50には、操舵トルクTh、制御用車速V、回転角θa、転舵側実電流値Ib、及び後述の目標ピニオン角θp*が入力される。操舵側制御部50は、操舵トルクTh、制御用車速V、回転角θa、転舵側実電流値Ib、及び目標ピニオン角θp*に基づいて、操舵側モータ13に対する給電を制御する。
【0043】
操舵側制御部50は、操舵角演算部51と、目標反力トルク演算部52と、通電制御部53とを有している。
操舵角演算部51には、回転角θaが入力される。操舵角演算部51は、回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の位置であるステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵角演算部51は、換算して得られた積算角に減速機構14の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。こうして得られた操舵角θsは、目標反力トルク演算部52に出力される。また、操舵角θsは、転舵側制御部60、すなわち後述の舵角比変更制御部62に出力される。
【0044】
目標反力トルク演算部52には、操舵トルクTh、制御用車速V、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、及び後述の目標ピニオン角θp*が入力される。目標反力トルク演算部52は、操舵トルクTh、制御用車速V、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、及び目標ピニオン角θp*に基づいて、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の操舵反力の目標となる反力制御量としての目標反力トルクTs*を演算する。
【0045】
具体的には、目標反力トルク演算部52は、操舵力演算部55と、軸力演算部56とを有している。
操舵力演算部55には、操舵トルクTh、制御用車速V、操舵角θsが入力される。操舵力演算部55は、操舵トルクTh、制御用車速V、及び操舵角θsに基づいて操舵力Tb*を演算する。
【0046】
具体的には、
図3に示すように、操舵力演算部55は、基本制御量演算部71と、補償量演算部72とを有している。
基本制御量演算部71には、操舵トルクTh、及び制御用車速Vが入力される。基本制御量演算部71は、操舵トルクTh、及び制御用車速Vに基づいて、基本制御量I1*を演算する。基本制御量I1*は、ステアリングホイール3の操舵に関わって演算される制御量である。基本制御量I1*は、操舵力Tb*の基礎成分であり、ステアリングホイール3の操舵が所望の特性を示すように設定されている。例えば、基本制御量演算部71は、操舵トルクThの変化に対する基本制御量I1*の変化率であるアシスト勾配を考慮して、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、制御用車速Vが小さいほど、より大きな絶対値となる基本制御量I1*を演算する。こうして得られた基本制御量I1*は、加算器73に出力される。
【0047】
補償量演算部72には、操舵トルクTh、制御用車速V、及び操舵角θsが入力される。補償量演算部72は、操舵トルクTh、制御用車速V、及び操舵角θsに基づいて、以下の戻り補償量I2*、ヒステリシス補償量I3*、ダンピング補償量I4*、慣性補償量I5*を演算する。なお、各種補償量には、各補償量I2*~I5*の特定補償量の他、図示しないが操舵トルクThの位相を遅らせるように位相補償する位相遅れ補償量や、基本制御量I1*の位相を進ませるように位相補償する位相進み補償量を含んでいる。位相遅れ補償量は、アシスト勾配を調整するためのものである。位相進み補償量は、共振特性を抑えてシステムを安定化させるためのものである。各種補償量は、基本制御量I1*に基づき実現されるステアリングホイール3の動作が所望の特性を示すように補償するための補償量である。
【0048】
そして、補償量演算部72は、戻り補償量演算部81と、ヒステリシス補償量演算部82と、ダンピング補償量演算部83と、慣性補償量演算部84とを有している。
戻り補償量演算部81には、操舵トルクTh、制御用車速V、及び操舵角θsと、当該操舵角θsを微分して微分器85を通じて得られる操舵速度ωsとが入力される。戻り補償量演算部81は、操舵トルクTh、制御用車速V、操舵角θs、及び操舵速度ωsに基づいて、戻り補償量I2*を演算する。戻り補償量I2*は、ステアリング中立位置に戻すステアリングホイール3の戻り動作を補償するものである。ステアリングホイール3の戻り動作については、各転舵輪5L,5Rのセルフアライニングトルクが関わっているところ、当該セルフアライニングトルクの過不足が戻り補償量I2*によって補償される。戻り補償量I2*は、ステアリングホイール3をステアリング中立位置に戻す方向へ向けたトルクを発生させるためのものである。こうして得られた戻り補償量I2b*は、加算器73に出力される。
【0049】
ヒステリシス補償量演算部82には、制御用車速V、及び操舵角θsが入力される。ヒステリシス補償量演算部82は、制御用車速V、及び操舵角θsに基づいて、ヒステリシス補償量I3*を演算する。ヒステリシス補償量I3*は、ステアリングホイール3の動作時の摩擦によるヒステリシス特性を最適化するように補償するものである。ステアリングホイール3の動作時の摩擦によるヒステリシス特性については、操舵装置2が搭載される車両の機械的な摩擦成分が関わっているところ、当該機械的な摩擦成分によるヒステリシス特性の最適化がヒステリシス補償量I3*によって補償される。ヒステリシス補償量I3*は、操舵角θsの変化に対してヒステリシス特性を有する。こうして得られたヒステリシス補償量I3*は、加算器73に出力される。
【0050】
ダンピング補償量演算部83には、制御用車速V、及び操舵速度ωsが入力される。ダンピング補償量演算部83は、制御用車速V、及び操舵速度ωsに基づいて、ダンピング補償量I4*を演算する。ダンピング補償量I4*は、ステアリングホイール3に生じる微振動を低減するように補償するものである。ステアリングホイール3に生じる微振動を低減することについては、操舵装置2の粘性成分、特に転舵側アクチュエータ31の粘性成分が関わっているところ、ステアリングホイール3に生じる微振動を低減することがダンピング補償量I4*によって補償される。ダンピング補償量I4*は、その時の操舵速度ωsの発生方向とは反対方向のトルクを発生させるためのものである。こうして得られたダンピング補償量I4*は、加算器73に出力される。
【0051】
慣性補償量演算部84には、制御用車速V、及び操舵速度ωsを微分して微分器86を通じて得られる操舵加速度αsが入力される。慣性補償量演算部84は、制御用車速V、及び操舵加速度αsに基づいて、慣性補償量I5*を演算する。慣性補償量I5*は、ステアリングホイール3の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制するように補償するものである。ステアリングホイール3の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することについては、操舵装置2の慣性成分が関わっているところ、ステアリングホイール3の操舵し始め時の引っ掛かり感や操舵終わり時の流れ感を抑制することが慣性補償量I5*によって補償される。慣性補償量I5*は、ステアリングホイール3の操舵し始め時等の操舵加速度αsの絶対値が増加する場合に当該操舵加速度αsの発生方向のトルクを発生させるとともに、ステアリングホイール3の操舵終わり時等の操舵加速度αsの絶対値が減少する場合に当該操舵加速度αsの発生方向とは反対方向のトルクを発生させるためのものである。こうして得られた慣性補償量I5*は、加算器73に出力される。
【0052】
加算器73は、基本制御量I1*に対して各補償量I2*~I5*を加算して得られる操舵力Tb*を演算する。なお、基本制御量I1*には、各補償量I2*~I5*の他、位相遅れ補償量や、位相進み補償量も合わせて加算等されて反映される。こうして得られた操舵力Tb*は、減算器57に出力される。操舵力Tb*は、運転者の操舵方向と同一方向に作用する。操舵力Tb*は、トルクの次元(N・m)の値として演算される。
【0053】
図2に示すように、軸力演算部56には、制御用車速V、転舵側実電流値Ib、及び後述の目標ピニオン角θp*が入力される。軸力演算部56は、制御用車速V、転舵側実電流値Ib、及び目標ピニオン角θp*に基づいて、各転舵輪5L,5Rを通じてラック軸22に作用する軸力Fを演算する。
【0054】
具体的には、
図4に示すように、軸力演算部56は、角度軸力演算部91と、電流軸力演算部92と、軸力配分比演算部93とを有している。
角度軸力演算部91には、後述の目標ピニオン角θp*、及び制御用車速Vが入力される。角度軸力演算部91は、目標ピニオン角θp*、及び制御用車速Vに基づいて角度軸力Frを演算する。角度軸力Frは、任意に設定する車両のモデルにより規定される軸力の理想値である。角度軸力Frは、路面情報が反映されない軸力として演算される。路面情報とは、車両の横方向への挙動に影響を与えない微小な凹凸や車両の横方向への挙動に影響を与える段差等の情報である。例えば、角度軸力演算部91は、目標ピニオン角θp*の絶対値が大きくなるほど、角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。また、角度軸力演算部91は、制御用車速Vが大きくなるにつれて角度軸力Frの絶対値が大きくなるように演算する。角度軸力Frは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた角度軸力Frは、乗算器94に出力される。
【0055】
電流軸力演算部92には、転舵側実電流値Ibが入力される。電流軸力演算部92は、転舵側実電流値Ibに基づいて電流軸力Fiを演算する。電流軸力Fiは、各転舵輪5L,5Rを転舵させるべく動作するラック軸22に実際に作用する軸力、すなわちラック軸22に実際に伝達される軸力の推定値である。電流軸力Fiは、上記路面情報が反映される軸力として演算される。例えば、電流軸力演算部92は、転舵側モータ32によってラック軸22に加えられるトルクと、各転舵輪5L,5Rを通じてラック軸22に加えられる力に応じたトルクとが釣り合うとして、転舵側実電流値Ibの絶対値が大きくなるほど、電流軸力Fiの絶対値が大きくなるように演算する。電流軸力Fiは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた電流軸力Fiは、乗算器95に出力される。
【0056】
軸力配分比演算部93には、制御用車速Vが入力される。軸力配分比演算部93は、制御用車速Vに基づいて、軸力配分ゲインDiを演算する。軸力配分ゲインDiは、角度軸力Frと、電流軸力Fiとを配分して軸力Fを得る際の電流軸力Fiの配分比率である。軸力配分比演算部93は、制御用車速Vと、軸力配分ゲインDiとの関係を定めた軸力配分ゲインマップを備えている。そして、軸力配分比演算部93は、制御用車速Vを入力として、軸力配分ゲインDiをマップ演算する。こうして得られた軸力配分ゲインDiは、電流軸力Fiに乗算して乗算器95を通じて得られる最終的な電流軸力Fimとして加算器98に出力される。また、減算器96にて、記憶部97に記憶された「1」から軸力配分ゲインDiが差し引かれることで軸力配分ゲインDrが演算される。こうして得られた軸力配分ゲインDrは、乗算器94に出力される。軸力配分ゲインDrは、軸力Fを得る際の角度軸力Frの配分比率である。つまり、軸力配分ゲインDrは、軸力配分ゲインDiとの和が「1(100%)」となるように値が演算される。配分比率は、角度軸力Fr及び電流軸力Fiのいずれかしか軸力Fに配分しないゼロ値の概念を含む。なお、記憶部97は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。
【0057】
こうして得られた軸力配分ゲインDrは、角度軸力演算部91で得られた角度軸力Frに乗算して乗算器94を通じて得られる最終的な角度軸力Frmとして加算器98に出力される。加算器98にて、角度軸力Frmと、電流軸力Fimとが加算されることで軸力Fが演算される。軸力Fは、運転者の操舵方向とは反対方向に作用する。軸力Fは、トルクの次元(N・m)の値として演算される。こうして得られた軸力Fは、減算器57に出力される。減算器57にて、操舵力Tb*から軸力Fが差し引かれることで、目標反力トルクTs*が演算される。こうして得られた目標反力トルクTs*は、通電制御部53に出力される。
【0058】
図2に示すように、通電制御部53には、目標反力トルクTs*、回転角θa、及び操舵側実電流値Iaが入力される。通電制御部53は、目標反力トルクTs*に基づいて、操舵側モータ13に対する電流指令値Ia*を演算する。通電制御部53は、電流指令値Ia*と、操舵側実電流値Iaを回転角θaに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように操舵側モータ13に対する給電を制御する。操舵側モータ13は、目標反力トルクTs*に応じたトルクを発生する。これにより、運転者に対して適度な手応え感を与えることができる。
【0059】
<転舵側制御部60>
転舵側制御部60は、ピニオン角演算部61と、舵角比変更制御部62と、制限処理部63と、ピニオン角フィードバック制御部(
図2中「ピニオン角F/B制御部」)64と、通電制御部65と、車速演算部200とを有している。
【0060】
ピニオン角演算部61には、回転角θbが入力される。ピニオン角演算部61は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の位置であるラック中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。ピニオン角演算部61は、換算して得られた積算角に伝達機構33の減速比、変換機構34のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオン角θpを演算する。こうして得られたピニオン角θpは、ピニオン角フィードバック制御部64に出力される。
【0061】
舵角比変更制御部62には、制御用車速V、及び操舵角θsが入力される。舵角比変更制御部62は、操舵角θsに調整量を加算することによって制限前の目標ピニオン角θpb*を演算する。制限前の目標ピニオン角θpb*は、最終的な目標ピニオン角θp*の基礎成分である。舵角比変更制御部62は、操舵角θsに対する目標ピニオン角θpb*の比率である舵角比を可変するための調整量を、制御用車速Vに応じて可変させる。例えば、制御用車速Vが小さい場合に大きい場合よりも、操舵角θsの変化に対する目標ピニオン角θpb*の変化を大きくするように、調整量を可変させる。操舵角θsと、目標ピニオン角θpb*との間には、相関関係がある。また、ピニオン角θpは、目標ピニオン角θpb*を基礎成分とする目標ピニオン角θp*に基づいて制御される。このため、操舵角θsと、ピニオン角θpとの間にも相関関係がある。こうして得られた目標ピニオン角θpb*は、制限処理部63に出力される。
【0062】
制限処理部63には、制御用車速V、及び目標ピニオン角θpb*が入力される。
具体的には、
図5に示すように、制限処理部63は、制限値演算部101と、ガード処理部102とを有している。
【0063】
制限値演算部101には、制御用車速Vが入力される。制限値演算部101は、制御用車速Vに基づいて、目標ピニオン角θpb*に対する制限値θLを演算する。目標ピニオン角θpb*の変化範囲は、制限値θLによって制限される。制限値θLは、車両の軸力特性に応じて転舵側モータ32の最大出力と、ラック軸22に作用する軸力との力の釣り合いを保つことができるとして定められた角度の限界値を基準として設定される。各転舵輪5L,5Rを転舵させる際にラック軸22に作用する軸力は、制御用車速Vによって異なる。例えば、制限値演算部101は、各転舵輪5L,5Rを転舵させる際にラック軸22に作用する軸力について制御用車速Vが比較的に大きい場合に制御用車速Vが比較的に小さい場合と比べて小さくなる傾向であれば、制御用車速Vが大きくなるほど、制限値θLの絶対値が小さくなるように演算する。こうして得られた制限値θLは、ガード処理部102に出力される。
【0064】
ガード処理部102には、目標ピニオン角θpb*、及び制限値θLが入力される。ガード処理部102は、制限値θLに基づいて目標ピニオン角θpb*を制限値θLに基づいて制限するように制限処理を実行する。すなわち、ガード処理部102は、目標ピニオン角θpb*と制限値θLとを比較し、目標ピニオン角θpb*の絶対値が制限値θLを超える値である場合、目標ピニオン角θpb*の代わりに、当該目標ピニオン角θpb*の絶対値を制限値θLに制限して得られる値を最終的な目標ピニオン角θp*として演算する。また、ガード処理部102は、目標ピニオン角θpb*の絶対値が制限値θL以下の値である場合、舵角比変更制御部62を通じて得られた目標ピニオン角θpb*をそのまま最終的な目標ピニオン角θp*として演算する。こうして得られた最終的な目標ピニオン角θp*は、ピニオン角フィードバック制御部64に出力される。また、目標ピニオン角θp*は、操舵側制御部50、すなわち軸力演算部56に出力される。
【0065】
図2に示すように、ピニオン角フィードバック制御部64には、制御用車速V、目標ピニオン角θp*、及びピニオン角θpが入力される。
具体的には、
図6に示すように、ピニオン角フィードバック制御部64は、比例成分演算部111と、積分成分演算部112と、微分成分演算部113とを有している。
【0066】
比例成分演算部111には、制御用車速V、及び目標ピニオン角θp*からピニオン角θpを減算して減算器114を通じて得られる角度偏差Δθpが入力される。比例成分演算部111は、比例ゲイン演算部121を通じて比例ゲインKpを演算する。比例ゲイン演算部121は、制御用車速Vに基づいて、比例ゲインKpを演算する。こうして得られた比例ゲインKpは、乗算器122を通じて、角度偏差Δθpに対して乗算して得られる比例成分Tpとして加算器115に出力される。
【0067】
積分成分演算部112には、制御用車速V、及び角度偏差Δθpが入力される。積分成分演算部112は、積分ゲイン演算部131を通じて積分ゲインKiを演算する。積分ゲイン演算部131は、制御用車速Vに基づいて、積分ゲインKiを演算する。こうして得られた積分ゲインKiは、乗算器132を通じて、角度偏差Δθpに対して乗算して得られる積分基礎成分Tibとして加算器133に出力される。加算器133は、今回の演算周期で演算された積分基礎成分Tibに対して前回の積分成分Ti(-)を加算することで得られる積算値を積分成分Tiとして演算する。なお、前回の積分成分Ti(-)は、前回の演算周期までに演算された積分基礎成分Tibの加算を繰り返すことで得られる積算値である。こうして得られた積分成分Tiは、加算器115に出力される。
【0068】
微分成分演算部113には、制御用車速V、及び角度偏差Δθpが入力される。微分成分演算部113は、微分ゲイン演算部141を通じて微分ゲインKdを演算する。こうして得られた微分ゲインKdは、乗算器142を通じて、角速度偏差Δωpに対して乗算して得られる微分成分Tdとして加算器115に出力される。角速度偏差Δωpは、微分器143にて角度偏差Δθpを微分して得られる。
【0069】
加算器115は、比例成分Tpと、積分成分Tiと、微分成分Tdとを加算して得られる転舵力指令値Tt*を演算する。こうして得られた転舵力指令値Tt*は、通電制御部65に出力される。
【0070】
通電制御部65には、転舵力指令値Tt*、回転角θb、及び転舵側実電流値Ibが入力される。通電制御部65は、転舵力指令値Tt*に基づき転舵側モータ32に対する電流指令値Ib*を演算する。そして、通電制御部65は、電流指令値Ib*と、転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵側モータ32に対する給電を制御する。これにより、転舵側モータ32は、転舵力指令値Tt*に応じた角度だけ回転する。
【0071】
<車速演算部200>
ここで、車速演算部200の機能について詳しく説明する。
図7に示すように、車速演算部200は、第1車速演算部201と、第2車速演算部202と、車速配分比演算部203とを有している。
【0072】
第1車速演算部201には、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrが入力される。
具体的には、
図8に示すように、第1車速演算部201は、第1max値演算部211と、第2max値演算部212と、第1min値演算部213と、第2min値演算部214と、第3min値演算部215と、第3max値演算部216と、第4min値演算部217とを有している。
【0073】
第1max値演算部211には、各前車輪速Vfl,Vfrが入力される。第1max値演算部211は、各前車輪速Vfl,Vfrのうちの値が大きい方を前輪最大値Vfmaxとして抽出するように演算する。前輪最大値Vfmaxは、左右の前側車輪についての車輪速の最大値である。こうして得られた前輪最大値Vfmaxは、第3min値演算部215に出力される。
【0074】
第2max値演算部212には、各後車輪速Vrl,Vrrが入力される。第2max値演算部212は、各後車輪速Vrl,Vrrのうちの値が大きい方を後輪最大値Vrmaxとして抽出するように演算する。後輪最大値Vrmaxは、左右の後側車輪についての車輪速の最大値である。こうして得られた後輪最大値Vrmaxは、第3min値演算部215に出力される。
【0075】
第1min値演算部213には、各前車輪速Vfl,Vfrが入力される。第1min値演算部213は、各前車輪速Vfl,Vfrのうちの値が小さい方を前輪最小値Vfminとして抽出するように演算する。前輪最小値Vfminは、左右の前側車輪についての車輪速の最小値である。こうして得られた前輪最小値Vfminは、第3max値演算部216に出力される。
【0076】
第2min値演算部214には、各後車輪速Vrl,Vrrが入力される。第2min値演算部214は、各後車輪速Vrl,Vrrのうちの値が小さい方を後輪最小値Vrminとして抽出するように演算する。後輪最小値Vrminは、左右の後側車輪についての車輪速の最小値である。こうして得られた後輪最小値Vrminは、第3max値演算部216に出力される。
【0077】
第3min値演算部215には、各輪最大値Vfmax,Vrmaxが入力される。第3min値演算部215は、各輪最大値Vfmax,Vrmaxのうちの値が小さい方を第1車輪中間値Vmid1として抽出するように演算する。第1車輪中間値Vmid1は、左右の前側車輪、及び左右の後側車輪の4つの車輪についての車輪速のうちの2番目又は3番目の大きさの中間値である。つまり、第1車輪中間値Vmid1は、4つの車輪についての車輪速のうちの最大値、及び最小値を除いて得られる値である。こうして得られた第1車輪中間値Vmid1は、第4min値演算部217に出力される。
【0078】
第3max値演算部216には、各輪最小値Vfmin,Vrminが入力される。第3max値演算部216は、各輪最小値Vfmin,Vrminのうちの値が大きい方を第2車輪中間値Vmid2として抽出するように演算する。第2車輪中間値Vmid2は、4つの車輪についての車輪速のうちの2番目又は3番目の大きさの中間値である。つまり、第2車輪中間値Vmid2は、4つの車輪についての車輪速のうちの最大値、及び最小値を除いて得られる値である。こうして得られた第2車輪中間値Vmid2は、第4min値演算部217に出力される。
【0079】
第4min値演算部217には、各車輪中間値Vmid1,Vmid2が入力される。第4min値演算部217は、各車輪中間値Vmid1,Vmid2のうちの値の小さい方を第1車速V1として抽出するように演算する。第1車速V1は、4つの車輪についての車輪速のうちの3番目の大きさの中間値である。こうして得られた第1車速V1は、乗算器206に出力される。
【0080】
4つの車輪についての車輪速のうちの1番目、及び2番目の大きさの車輪速は、車両の加速に伴って車輪が接地面に対して空転する、いわゆるスリップ状態に陥っている車輪が存在している場合、当該スリップ状態に陥っている車輪から得られた情報である可能性が高い。これは、スリップ状態に陥っている車輪が存在している場合、当該車輪が一つの車輪のみではなく、左右の前側車輪、又は左右の後側車輪のいずれかの組みである可能性が高いからである。これに対して、3番目の大きさの車輪速は、いくつかの車輪の回転の状況として、例えば、スリップ状態が生じていたとしても、当該スリップ状態に陥っていない車輪から得られた情報である可能性が高い。つまり、3番目の大きさの車輪速は、スリップ状態に陥っている状況の車輪から得られた値である可能性が低くなる。また、3番目の大きさの車輪速は、4つの車輪についての車輪速の平均値に近い値である。この場合、3番目の大きさの車輪速は、スリップ状態に陥っている車輪が存在しなければ、4番目の大きさの車輪速と比較して車体速との間で乖離の大きさが小さくなる。本実施形態において、3番目の大きさの車輪速として得られる第1車速V1は、いくつかの車輪の回転の状況として、スリップ状態に陥る状況を想定した場合に、車体速との間で乖離の大きさを小さくする機能を有する値である。
【0081】
本実施形態において、第1車速演算部201では、4つの車輪についての車輪速のうちの3番目の大きさの値を抽出することが抽出機能、すなわち第1抽出機能に相当する。また、第1車速演算部201では、4つの車輪についての車輪速のうちの3番目の大きさの値を第1車速V1として演算することが演算機能に相当する。
【0082】
第2車速演算部202には、各後車輪速Vrl,Vrrが入力される。
具体的には、
図9に示すように、第2車速演算部202には、4つの車輪についての各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrのなかから抽出された2つの車輪についての各後車輪速Vrl,Vrrが入力される。そして、第2車速演算部202は、加算器221にて、各後車輪速Vrl,Vrrを加算して得られる各後車輪速Vrl,Vrrの加算値である後車輪加算値Vaddを演算する。こうして得られた後車輪加算値Vaddは、ゲイン乗算器222を通じて、予め定められた「0.5(2分の1)」のゲインを乗算して得られる第2車速V2として乗算器207に出力される。つまり、第2車速V2は、各後車輪速Vr1,Vr2の平均値として演算される。
【0083】
4つの車輪のうちの左右の後側車輪は、車両の制動に伴って車輪が接地面に対して回転しなくなる、いわゆるロック状態に陥り難い車輪として車両の走行安定性の観点で車両の設計上で予め定められている。すなわち、左右の後側車輪から得られた車輪速は、いくつかの車輪の回転の状況として、例えば、ロック状態が生じていたとしても、当該ロック状態に陥っていない車輪から得られた情報である可能性が高い。つまり、左右の後側車輪から得られた車輪速は、ロック状態に陥っている状況の車輪から得られた値である可能性が低くなる。この場合、左右の後側車輪から得られた車輪速は、4つの車輪の全てがロック状態に陥っている状況を除いて、車体速との間での乖離の大きさが小さくなる。本実施形態において、左右の後側車輪から得られた第2車速V2は、いくつかの車輪の回転の状況として、ロック状態に陥る状況を想定した場合に、車体速との間で乖離の大きさを小さくする機能を有する値である。
【0084】
本実施形態において、第2車速演算部202では、4つの車輪についての車輪速のなかから抽出したロック状態に陥り難いとして車両の設計上で定められた左右の後側車輪から得られた各後車輪速Vrl,Vrrを入力する構成されていることが抽出機能、すなわち第2抽出機能に相当する。また、第2車速演算部202では、4つの車輪についての車輪速のうちの各後車輪速Vrl,Vrrの平均値を第2車速V2として演算することが演算機能に相当する。
【0085】
図7に示すように、車速配分比演算部203は、車速ゲイン演算部204と、徐変処理部205とを有している。車速ゲイン演算部204には、ストップランプ信号Sが入力される。車速ゲイン演算部204は、ストップランプ信号Sに基づいて、基礎車速配分ゲインDv2bを演算する。車速ゲイン演算部204は、ストップランプ信号Sがオンの場合に「1(100%)」の基礎車速配分ゲインDv2bを演算するとともに、ストップランプ信号Sがオフの場合に「ゼロ値(0%)」の基礎車速配分ゲインDv2bを演算する。こうして得られた基礎車速配分ゲインDv2bは、徐変処理部205を通じた徐変処理が施される。
【0086】
具体的には、徐変処理部205は、基礎車速配分ゲインDv2bが「1」と「ゼロ値」との間で切り替わった場合、基礎車速配分ゲインDv2bに対して、時間に対する徐変処理を実行する。そして、徐変処理部205は、基礎車速配分ゲインDv2bが「1」と「ゼロ値」との間で切り替わった場合、切り替え前に演算された基礎車速配分ゲインDv2bと切り替え後に演算された基礎車速配分ゲインDv2bとの偏差、すなわち「1」を取得し、当該偏差分をオフセット量として演算する。この場合、徐変処理部205は、切り替え後の基礎車速配分ゲインDv2bを切り替え前の基礎車速配分ゲインDv2b側にオフセット量だけずらすことにより、徐変処理後の車速配分ゲインDv2を演算する。そして、徐変処理部205は、オフセット量を時間の経過に伴って徐々に小さくしていずれ車速配分ゲインDv2が本来の切り替え後の値となるように変化させる徐変処理を実行する。これにより、基礎車速配分ゲインDv2bが「1」と「ゼロ値」との間で切り替わった場合であっても、車速配分ゲインDv2が急変することが抑えられている。なお、徐変処理部205は、基礎車速配分ゲインDv2bが「1」と「ゼロ値」との間で切り替わらない間、上記オフセット量が存在していなければ、車速ゲイン演算部204により演算された基礎車速配分ゲインDv2bを徐変処理後の車速配分ゲインDv2として演算する。車速配分ゲインDv2は、第1車速V1と、第2車速V2とを配分して制御用車速Vを得る際の第2車速V2の配分比率となる。
【0087】
こうして得られた車速配分ゲインDv2は、第2車速V2に乗算して乗算器207を通じて得られる最終的な第2車速V2mとして加算器208に出力される。また、減算器209にて、記憶部210に記憶された「1」から車速配分ゲインDv2が差し引かれることで車速配分ゲインDv1が演算される。車速配分ゲインDv1は、制御用車速Vを得る際の第1車速V1の配分比率である。つまり、車速配分ゲインDv1は、車速配分ゲインDv2との和が「1(100%)」となるように値が演算される。本実施形態の配分比率は、第1車速V1及び第2車速V2のいずれかしか制御用車速Vに配分しないゼロ値の概念を含む。
【0088】
具体的には、各車速配分ゲインDv1,Dv2は、ストップランプ信号Sがオンである場合に、車速配分ゲインDv2が「1」、車速配分ゲインDv1が「ゼロ値」となる。ストップランプ信号Sがオンである車両が減速状態では、いくつかの車輪の回転の状況として、ロック状態に陥る状況を想定することができる。つまり、いくつかの車輪の回転の状況として、ロック状態に陥る状況が想定される場合には、制御用車速Vに対して第2車速V2のみが配分されること、すなわち第1車速V1が配分されないことを示す。
【0089】
また、各車速配分ゲインDv1,Dv2は、ストップランプ信号Sがオフである場合に、車速配分ゲインDv2が「ゼロ値」、車速配分ゲインDv1が「1」となる。ストップランプ信号Sがオフである車両が減速状態でない加速状態を含む状態では、いくつかの車輪の回転の状況として、スリップ状態に陥る状況を想定することができる。つまり、いくつかの車輪の回転の状況として、スリップ状態に陥る状況が想定される場合には、制御用車速Vに対して第1車速V1のみが配分されること、すなわち第2車速V2が配分されないことを示す。
【0090】
こうして得られた車速配分ゲインDv1は、第1車速V1に乗算して乗算器206を通じて得られる最終的な第1車速V1mとして加算器208に出力される。なお、記憶部210は、図示しないメモリの所定の記憶領域のことである。
【0091】
加算器208は、第1車速V1mに対して第2車速V2mを加算して得られる制御用車速Vを演算する。こうして得られた制御用車速Vは、舵角比変更制御部62、制限処理部63、及びピニオン角フィードバック制御部64に出力される。また、制御用車速Vは、操舵側制御部50、すなわち操舵力演算部55、及び軸力演算部56に出力される。
【0092】
以下、本実施形態の作用を説明する。
本実施形態によれば、制御用車速Vの演算では、車体速との間で乖離を生じさせる影響が大小様々の状況で回転している4つの車輪のなかで、車体速との間で乖離を生じさせる影響が小さい状況で回転していることが想定される車輪から得られる車輪速が積極的に加味されることになる。これは、車速演算部200が有する、第1車速演算部201、及び第2車速演算部202の機能により実現される。
【0093】
ここで、車輪の回転の状況として、例えば、スリップ状態に陥っている車輪から得られた車輪速は、当該スリップ状態に陥っていない車輪から得られる車輪速と比べて大きい値となり易く、車体速との間で乖離している可能性が高い。これに対して、4つの車輪についての車輪速の値を大きい方から順に大小で分類したなかで、3番目及び4番目である小さい値に分類される車輪速は、スリップ状態に陥っている状況の車輪から得られた値である可能性が低くなる。
【0094】
そこで、第1車速演算部201では、4つの車輪についての車輪速のうちの3番目の大きさの車輪速を抽出して得られる第1車速V1を演算するように構成されている。こうして得られた第1車速V1は、車速演算部200を通じて、車両が減速状態でない加速状態を含む状態の場合に制御用車速Vに加味される。この場合、いくつかの車輪の回転の状況として、特に、スリップ状態に陥る状況を想定して、車体速と、制御用車速Vとの間で乖離の大きさを小さく抑えることができる。
【0095】
また、車輪の回転の状況として、例えば、ロック状態に陥っている車輪から得られた車輪速は、当該ロック状態に陥っていない車輪から得られる車輪速と比べて小さい値となり易く、車体速との間で乖離している可能性が高い。これに対して、ロック状態に陥り難い車輪として後側の2つの車輪が車両の走行安定性の観点で車両の設計上で予め定められている。
【0096】
そこで、第2車速演算部202では、4つの車輪についての車輪速のうちの左右の後側車輪の車輪速を抽出して得られる第2車速V2を演算するように構成されている。こうして得られた第2車速V2は、車速演算部200を通じて、車両が減速状態の場合に制御用車速Vに加味される。この場合、いくつかの車輪の回転の状況として、特に、ロック状態に陥る状況を想定して、車体速と、制御用車速Vとの間で乖離の大きさを小さく抑えることができる。
【0097】
以下、本実施形態の効果を説明する。
(1-1)本実施形態の車速演算部200では、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑える方法としては、例えば、制御用車速Vを得る際にフィルタ処理を施す方法を採用する必要がなくなる。この場合、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑えることと、制御用車速Vを用いた車両における各種の制御での当該制御用車速Vの変化に対する追従性の低下を抑えることとの両立を図ることができる。
【0098】
(1-2)第1車速演算部201では、4つの車輪についての車輪速のうちの3番目の大きさの車輪速を抽出するようにしている。これにより、いくつかの車輪のなかで、スリップ状態に陥っている状況の車輪が存在していたとしても、スリップ状態に陥っていない状況の車輪から得られた値を制御用車速Vの演算に積極的に加味することができる。これは、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑えるのに効果的である。
【0099】
(1-3)第2車速演算部202では、4つの車輪についての左右の後側車輪の車輪速を抽出するようにしている。これにより、いくつかの車輪のなかで、ロック状態に陥っている状況の車輪が存在していたとしても、ロック状態に陥っていない状況の車輪から得られた値を制御用車速Vの演算に積極的に加味することができる。これは、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑えるのに効果的である。
【0100】
(1-4)車速演算部200では、第1車速演算部201を通じて得られた第1車速V1と、第2車速演算部202を通じて得られた第2車速V2とを配分することに基づいて、制御用車速Vを演算するようにしている。これにより、スリップ状態に陥っている状況の車輪が存在することが想定される状況であれば、第1車速V1に基づき制御用車速Vを演算するとともに、ロック状態に陥っている状況の車輪が存在することが想定される状況であれば、第2車速V2に基づき制御用車速Vを演算することができる。したがって、車体速と、制御用車速Vとの乖離を効果的に抑えることができる。
【0101】
(1-5)車両の減速状態であるか否かに応じて、スリップ状態、又はロック状態に陥っている状況の車輪が存在する可能性の高低が変化するところ、車速演算部200では、車両の減速状態であるか否かに応じて配分比率を変更するようにしている。そして、配分比率を実際に変更すると、当該変更の前後で演算の結果として得られる制御用車速Vが急変する可能性がある。そこで、車速演算部200では、車速配分比演算部203について、徐変処理部205を有する構成を採用するようにしている。この場合、配分比率を変更したとしても、当該変更の前後で、演算の結果として得られる車速の急変を抑えることができる。
【0102】
(1-6)本実施形態の車速演算部200は、制御用車速Vを用いた操舵装置2の動作を制御するように構成されている操舵制御装置1の機能として実現するようにしている。この場合、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑えることと、制御用車速Vを用いた操舵制御装置1の制御での当該制御用車速Vの変化に対する追従性の低下を抑えることとの両立を図ることができる。
【0103】
<第2実施形態>
車速演算装置、及び車両用制御装置の第2実施形態を図面に従って説明する。なお、ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。また、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付す等して、その重複する説明を省略する。
【0104】
本実施形態では、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrに対して、それぞれの値に対する妥当性、すなわち異常の有無を判断する情報が付加されるようにしている。例えば、制動制御装置45は、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrを操舵制御装置1に出力する際、異常の有る値が存在すればいずれの値が異常であるかを示す情報として異常信号Seを出力する。この場合、制動制御装置45は、各車輪速センサ47l,47r,48l,48rについて、前回値との比較で取り得ない値となる等の場合に異常信号Seを生成する。なお、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrの値に対する異常の有無の判断は、車速演算部200の機能として実現してもよい。この場合、異常信号Seに関わる構成は、削除することができる。
【0105】
<第1車速演算部201>
具体的には、
図10に示すように、第1車速演算部201は、上記第1実施形態で説明した構成に加えて、さらに異常車輪速置換部218を有している。
【0106】
異常車輪速置換部218には、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrr、及び異常信号Seが入力される。異常車輪速置換部218は、各車輪速Vfl,Vfr,Vrl,Vrrについて異常が有る旨を示す異常信号Seが入力される場合、当該異常が有る対象とされた車輪速を予め定めた固定値Reに置き換えるための置換処理を実行する。固定値Reは、車輪速として取り得る絶対値の最大値の負値に設定されている。つまり、固定値Reは、他の車輪速との比較でいずれの値よりも小さい、すなわち4つの車輪についての車輪速のなかで最小値を示すことになる。この場合、異常車輪速置換部218は、異常信号Seに基づき異常が有る対象とされた車輪速について、固定値Reを第1max値演算部211、第2max値演算部212、第1min値演算部213、及び第2min値演算部214に出力する。
【0107】
例えば、異常信号Seに基づき異常が有る対象とされた車輪速が右側の後側車輪の車輪速Vrrの場合、異常車輪速置換部218は、後車輪速Vrrの値として固定値Reを第1max値演算部211、第2max値演算部212、第1min値演算部213、及び第2min値演算部214に対して出力することになる。この場合、第2max値演算部212では、4つの車輪についての車輪速のなかで最小値である固定値Reとされた後車輪速Vrrを後輪最大値Vrmaxとして演算することが回避される。一方、第2min値演算部214では、4つの車輪についての車輪速のなかで最小値である固定値Reとされた後車輪速Vrrが後輪最小値Vrminとして演算される。ただし、第3max値演算部216では、後車輪速Vrrである後輪最小値Vrminを第2車輪中間値Vmid2として演算することが回避される。
【0108】
本実施形態によれば、第1実施形態に準じた作用及び効果を奏する。さらに本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(2-1)第1車速演算部201では、異常信号Seに基づき異常が有る対象とされた車輪速が第1車速V1に加味されることが回避される。これは、車体速と、制御用車速Vとの乖離を抑えるのに効果的である。
【0109】
(2-2)本実施形態では、第2車速演算部202について、異常車輪速置換部218と同様の機能を実現するように構成することもできる。例えば、第2車速演算部202には、各後車輪速Vrl,Vrr、及び異常信号Seが入力されるように構成する。この場合、第2車速演算部202は、後車輪速Vrl,Vrrの平均値を、異常信号Seに基づき異常が有る対象とされた車輪速を除いた残りの車輪速の値に置き換えて用いるように構成すればよい。これにより、第2車速演算部202では、異常信号Seに基づき異常が有る対象とされた車輪速が第2車速V2に加味されることが回避される。
【0110】
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記各実施形態では、車速演算部200について、ストップランプ信号Sを入力とする代わりに、車両の減速状態に相関のある状態変数であれば適宜変更できる。上記状態変数は、例えば、車両の速度の変化量ΔVを含む。車両の速度の変化量ΔVは、前回の演算周期までに演算された制御用車速Vを微分して得られる。また、上記状態変数は、例えば、車両に生じる、前後加速度Cx、及び上下加速度Czを含む。
図1中に二点鎖線で示すように、前後加速度Cx、及び上下加速度Czは、車両に設けられたジャイロセンサ等の加速度センサ230の検出結果から得られる。また、上記状態変数は、例えば、各転舵輪5R,5Lに作用する力に基づき演算される前後荷重Fxl,Fxr、上下荷重Fzl,Fzr、ピッチ方向モーメントMFyl,MFyr、及びロール方向モーメントMFzl,MFzrを含む。
図1中に二点鎖線で示すように、前後荷重Fxl,Fxr、上下荷重Fzl,Fzr、ピッチ方向モーメントMFyl,MFyr、及びロール方向モーメントMFzl,MFzrは、各転舵輪5L,5Rに対応するセンサハブの機能の一つとして実現される左前車輪タイヤ力センサ231l、及び右前車輪タイヤ力センサ231rの検出結果から得られる。これは、左右の後側車輪に作用する力である、荷重Rxl,Rxr、上下荷重Rzl,Rzr、ピッチ方向モーメントMRyl,MRyr、及びロール方向モーメントMRzl,MRzrについても同様である。
図1中に二点鎖線で示すように、前後荷重Rxl,Rxr、上下荷重Rzl,Rzr、ピッチ方向モーメントMRyl,MRyr、及びロール方向モーメントMRzl,MRzrは、左右の後側車輪に対応するセンサハブの機能の一つとして実現される左後車輪タイヤ力センサ232l、及び右後車輪タイヤ力センサ232rの検出結果から得られる。また、上記状態変数は、例えば、車両に搭載されたブレーキペダルBpの操作信号Sb、又はブレーキ圧Pbを含む。
図1中に実線で示すように、操作信号Sb、又はブレーキ圧Pbは、ブレーキペダルBpの操作に関わって変化する情報から得られる。上記各種の状態変数を用いては、車両が減速状態であるか否かを判断することができる。
【0111】
・上記各実施形態において、車速演算部200は、車両が減速状態であるか否かを判断する代わりに、車両が加速状態、すなわち車両が駆動中であるかどうかを判断する機能を有してもよい。この場合、車速演算部200、すなわち車速ゲイン演算部204には、ストップランプ信号Sの代わりに、例えば、車両に搭載されたアクセルペダルApの操作信号Sa、又はアクセル開度Oaが入力されるようにすればよい。
図1中に二点鎖線で示すように、操作信号Sa、又はアクセル開度Oaは、アクセルペダルApの操作に関わって変化する情報から得られる。例えば、車速ゲイン演算部204は、操作信号Sa、又はアクセル開度Oaが示す値が、車両が加速状態であることを示す場合に「ゼロ値」の基礎車速配分ゲインDv2bを演算するようにすればよい。また、車速ゲイン演算部204は、操作信号Sa、又はアクセル開度Oaが示す値が、車両が加速状態でない減速状態を含む状態であることを示す場合に「1(100%)」の基礎車速配分ゲインDv2bを演算するようにすればよい。本別形態では、操作信号Sa、又はアクセル開度Oaの代わりに、車両の加速状態に相関のある状態変数であれば適宜変更できる。上記状態変数は、例えば、車両の制御用車速Vの上記変化量ΔVを含む。また、上記状態変数は、例えば、車両に生じる、上記前後加速度Cx、及び上記上下加速度Czを含む。また、上記状態変数は、例えば、各転舵輪5R,5Lに作用する力に基づき演算される上記前後荷重Fxl,Fxr、上記上下荷重Fzl,Fzr、上記ピッチ方向モーメントMFyl,MFyr、及び上記ロール方向モーメントMFzl,MFzrを含む。これは、左右の後側車輪に作用する力である、上記荷重Rxl,Rxr、上記上下荷重Rzl,Rzr、上記ピッチ方向モーメントMRyl,MRyr、及び上記ロール方向モーメントMRzl,MRzrについても同様である。また、上記状態変数は、例えば、車両に搭載されたトランスミッションTMの出力速度Vtmと、各後車輪速Vrl,Vrrに基づき得られる車輪速との偏差を含む。
図1中に二点鎖線で示すように、出力速度Vtmは、車両の走行のための動力を駆動輪である左右の後側車輪に伝達するべく車両に搭載されたトランスミッションTMの動作に関わって変化する情報から得られる。上記各種の状態変数を用いては、車両が加速状態であるか否かを判断することができる。本別形態の車速演算部200では、車両が加速状態であるか否かを判断する機能に加えて、上記各実施形態等で説明した車両が減速状態であるか否かを判断する機能を有するようにしてもよい。
【0112】
・上記各実施形態において、制動制御装置45は、制御用車速Vを用いた制御として、例えば、操舵機構4の状態、すなわち運転者によるステアリング操舵に関係なく車両に発生しているヨーレートYを可変させる制御を実行することもできる。例えば、制動制御装置45には、操舵制御装置1の車速演算部200の機能を通じて得られた制御用車速Vが入力されるように構成してもよい。本別形態において、制動制御装置45は、車両用制御装置に相当する。また、ブレーキ装置は、車両用装置に相当する。その他、制御用車速Vを用いた制御としては、左右の後側車輪を転舵させる後輪転舵装置の制御であってもよい。この場合、後輪転舵装置は、車両用装置に相当する。
【0113】
・上記各実施形態において、制動制御装置45は、車速演算部200の機能を有するように構成してもよい。この場合、操舵制御装置1では、車速演算部200の機能を削除し、制動制御装置45を通じて制御用車速Vが入力される構成とすればよい。本別形態において、制動制御装置45は、車速演算装置に相当する。
【0114】
・上記各実施形態では、車速演算部200の機能を操舵側制御部50の機能として実現してもよい。また、車速演算部200の機能は、操舵制御装置1の機能として実現する場合、各制御部50,60とは別の制御部の機能として実現してもよい。また、車速演算部200の機能は、操舵制御装置1、及び制動制御装置45とは別の制御装置の機能として実現してもよい。
【0115】
・上記各実施形態において、車速演算部200では、徐変処理部205の機能を削除してもよい。この場合、車速演算部200では、ストップランプ信号Sに応じて第1車速V1、及び第2車速V2のいずれかを制御用車速Vとして演算するように構成することができる。これにより、車速演算部200では、徐変処理部205の機能と共に車速ゲイン演算部204の機能を削除することができる。
【0116】
・上記第1実施形態において、第1車速演算部201では、4つの車輪についての車輪速のうちの4番目に大きい、すなわち最も小さい車輪速を抽出してもよい。この場合であっても、上記第1実施形態の効果(1-1)~(1-6)の効果を奏する。
【0117】
・上記第1実施形態において、第1車速演算部201では、スリップ状態に陥っている車輪が存在している場合、当該車輪が一つの車輪であることを想定するのであれば、4つの車輪についての車輪速のうちの2番目の車輪速を抽出してもよい。この場合、第1車速演算部201では、第4min値演算部217の代わりに、各車輪中間値Vmid1,Vmid2のうちの値の大きい方を第1車速V1として抽出するmax値演算部を有するように構成すればよい。
【0118】
・上記各実施形態において、第2車速演算部202では、後車輪速Vrl,Vrrの平均値の代わりに、各後車輪速Vrl,Vrrのうちのいずれかを第2車速V2として演算することもできる。
【0119】
・上記1実施形態において、車速演算部200は、第1車速演算部201、及び第2車速演算部202の少なくともいずれかの機能有していればよい。例えば、車速演算部200では、第2車速演算部202を削除し、第1車速V1を制御用車速Vとして演算することもできる。この場合、スリップ状態に陥っていない状況の車輪から得られた値を制御用車速Vの演算に積極的に加味することについては少なくとも実現することができる。また、車速演算部200では、第1車速演算部201を削除し、第2車速V2を制御用車速Vとして演算することもできる。この場合、ロック状態に陥っていない状況の車輪から得られた値を制御用車速Vの演算に積極的に加味することについては少なくとも実現することができる。これは、上記第2実施形態についても同様である。
【0120】
・上記第2実施形態において、固定値Reは、第1車速演算部201を通じて第1車速V1として抽出されることを回避できる値であれば、適宜変更可能である。例えば、第1車速演算部201を通じて第1車速V1として抽出されることを回避できる値としては、その時の実際の車輪速を単に負値に置き換えた値や、ゼロ値等であればよい。
【0121】
・上記各実施形態において、基本制御量演算部71では、基本制御量I1*を演算する際、ステアリングホイール3の動作に関わる状態変数を少なくとも用いていればよく、制御用車速Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。ステアリングホイール3の動作に関わる状態変数としては、上記各実施形態で例示した操舵トルクThを用いていなくてもよい。
【0122】
・上記各実施形態において、操舵側制御部50では、操舵トルクThや軸力Fに基づき演算される目標操舵トルクに操舵トルクThを追従させるトルクフィードバック制御の実行により演算される値を操舵力Tb*として目標反力トルクTs*を演算してもよい。なお、この場合、トルクフィードバック制御に用いる比例成分や、積分成分や、微分成分を制御用車速Vに基づいて可変させるようにしてもよい。
【0123】
・上記各実施形態において、補償量演算部72では、各補償量I2*~I5*の少なくともいずれかを演算することができればよい。また、戻り補償量演算部81では、戻り補償量I2*を演算する際、操舵角θs、及び操舵速度ωsを少なくとも用いていればよく、制御用車速Vや操舵トルクThを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、ヒステリシス補償量演算部82では、ヒステリシス補償量I3*を演算する際、操舵角θsを少なくとも用いていればよく、制御用車速Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、ヒステリシス補償量演算部82は、操舵速度ωsに対するヒステリシス特性を考慮するのであれば、ヒステリシス補償量I3*を演算する際、操舵角θsの代わりに操舵速度ωsを用いてもよい。また、ダンピング補償量演算部83は、ダンピング補償量I4*を演算する際、操舵速度ωsを少なくとも用いていればよく、制御用車速Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、慣性補償量演算部84は、慣性補償量I5*を演算する際、操舵加速度αsを少なくとも用いていればよく、制御用車速Vを用いなくてもよいし、操舵トルクTh等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0124】
・上記各実施形態において、角度軸力演算部91は、角度軸力Frを演算する際、目標ピニオン角θp*を少なくとも用いていればよく、制御用車速Vを用いなくてもよいし、他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、角度軸力演算部91は、目標ピニオン角θp*の代わりに、ピニオン角θpを用いるようにしてもよい。
【0125】
・上記各実施形態において、電流軸力演算部92は、電流軸力Fiを演算する際、転舵側実電流値Ibを少なくとも用いていればよく、制御用車速V等の他の要素を組み合わせて用いるようにしてもよい。なお、電流軸力演算部92は、転舵側実電流値Ibの代わりに、転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を無くすようにするために得られる電流指令値を用いるようにしてもよい。
【0126】
・上記各実施形態において、軸力配分比演算部93は、軸力配分ゲインDiを演算する際、制御用車速Vに代えて又は加えて、ピニオン角θpや、目標ピニオン角θp*や、操舵角θsや、ピニオン角θpを微分して得られる転舵速度等の他の要素を用いるようにしてもよい。
【0127】
・上記各実施形態において、軸力演算部56では、角度軸力演算部91、又は電流軸力演算部92を削除してもよい。この場合、軸力配分比演算部93は、削除してもよい。そして、角度軸力演算部91で演算された角度軸力Fr又は電流軸力演算部92で演算された電流軸力Fiは、減算器57に出力される。
【0128】
・上記各実施形態において、軸力演算部56は、角度軸力演算部91や、電流軸力演算部92以外に、転舵機構6の状況を運転者に伝えるための軸力を演算する機能を有していてもよい。転舵機構6の状況としては、例えば、ステアリングホイール3の操舵限界、すなわち各転舵輪5L,5Rの転舵限界に達する状況がある。また、転舵機構6の状況としては、例えば、ステアリングホイール3の操舵状態と、各転舵輪5L,5Rの転舵状態との間の舵角比を考慮した関係にずれが生じる状況がある。
【0129】
・上記各実施形態において、舵角比変更制御部62は、操舵角θsに調整量を加算することによって演算した目標ピニオン角について、さらに周波数特性の調整を施すことで制限前の目標ピニオン角θpb*を演算するようにしてもよい。この場合、周波数特性の調整具合は、制御用車速Vに応じて変更するようにしてもよい。
【0130】
・上記各実施形態において、舵角比変更制御部62は、制御用車速Vに加えて、例えば、上述の加速度センサ230の検出結果に基づき演算されるヨーレートYや、横加速度G等に応じて舵角比を可変するための調整量を可変してもよい。
【0131】
・上記各実施形態において、転舵側制御部60では、目標ピニオン角θpb*を微分して得られる目標ピニオン角速度を制限値に基づいて制限するように制限処理を実行する制限処理部を設けるようにしてもよい。この場合、制限処理部は、制御用車速Vに応じて目標ピニオン角度に対する制限値を変更する。
【0132】
・上記各実施形態において、ピニオン角フィードバック制御部64において、比例成分演算部111は、制御用車速Vに基づいて比例成分Tpを可変させる際に比例ゲインKpの構成を用いる代わりに、制御用車速Vに基づいて比例成分演算部111の入力に対する出力の関係を変更できればよい。また、積分成分演算部112は、制御用車速Vに基づいて積分成分Tiを可変させる際に積分ゲインKiの構成を用いる代わりに、制御用車速Vに基づいて積分成分演算部112の入力に対する出力の関係を変更できればよい。また、微分成分演算部113は、制御用車速Vに基づいて微分成分Tdを可変させる際に微分ゲインKdの構成を用いる代わりに、制御用車速Vに基づいて微分成分演算部113の入力に対する出力の関係を変更できればよい。
【0133】
・上記各実施形態において、ピニオン角フィードバック制御部64は、角度フィードバック制御として比例成分Tp、積分成分Ti、及び微分成分Tdを用いたPID制御を実行したが、これに限らず、例えばPI制御を実行してもよく、ピニオン角フィードバック制御部64の実行態様は適宜変更可能である。
【0134】
・上記各実施形態において、徐変処理部205は、オフセット量を時間の経過に伴って徐々に小さくすることに代えて、オフセット量を車両状態に応じて変更される量で徐々に小さくする機能を有してもよい。上記車両状態は、例えば、車速配分ゲインDv2の切り替え前の車速配分ゲインDv2を用いた場合に得られる制御用車速V、切り替え後の車速配分ゲインDv2を用いた場合に得られる制御用車速V、及び切り替え前後で想定される制御用車速Vの偏差を含む。また、上記車両状態は、例えば、車両の加減速状態に相関のある状態変数を含む。また、上記車両状態は、例えば、上述の加速度センサ230の検出結果から得られる車両に生じる横加速度Cyを含む。また、上記車両状態は、例えば、上述の各前車輪タイヤ力センサ231l,231rの検出結果から得られる横荷重Fyl,Fyr、ロール方向モーメントMFzl,MFzr、及びヨー方向モーメントMFxl,MFxrを含む。これは、上述の各後車輪タイヤ力センサ232l,232rの検出結果から得られる横荷重Ryl,Ryr、ロール方向モーメントMRzl,MRzr、及びヨー方向モーメントMRxl,MRxrについても同様である。また、上記車両状態は、例えば、上述の加速度センサ230の検出結果に基づき演算されるヨーレートYを含む。また、上記車両状態は、例えば、上述の加速度センサ230の検出結果に基づき演算される各転舵輪5R,5Lの横すべり角であるスリップ角SAを含む。上記各種の車両状態を用いては、オフセット量を車両状態に応じて変更される量で徐々に小さくすることができる。
【0135】
・上記各実施形態において、徐変処理部205は、オフセット量を時間の経過に伴って徐々に小さくすることに代えて、オフセット量を操舵状態に応じて変更される量で徐々に小さくする機能を有してもよい。上記操舵状態は、例えば、操舵角θsを含む。また、上記操舵状態は、例えば、上記操舵トルクThに基づいて演算された操舵角θsの目標値である目標操舵角を含む。また、上記操舵状態は、例えば、上記操舵角θsと上記操舵トルクThとに基づいて操舵角θsを推定した推定操舵角を含む。また、上記操舵状態は、例えば、運転支援制御の際に各転舵輪5R,5Lの転舵角の変更を指示するための運転支援制御量Ad*を含む。
図1中に二点鎖線で示すように、運転支援制御量Ad*は、操舵制御装置1とは別に車両に設けられている運転支援制御装置233から得られる。運転支援制御装置233は、車両の快適性をより向上させるための様々な運転支援を発揮するべく転舵機構6、すなわち操舵装置2の動作を制御するものである。運転支援とは、車両の車線逸脱の防止や、緊急回避の支援や、車両が停車中の運転の代替等を含む。また、上記操舵状態は、例えば、操舵速度ωs、上記目標操舵角を微分して得られる目標操舵速度、上記推定操舵角を微分して得られる推定操舵速度、及び上記運転支援制御量Ad*を微分して得られる運転支援制御量変化量を含む。また、上記操舵状態は、例えば、操舵トルクThを含む。また、上記操舵状態は、例えば、操舵角θsと操舵トルクThとに基づいて操舵トルクThを推定した推定操舵トルクを含む。また、上記操舵状態は、例えば、操舵トルクThを微分して得られる操舵トルク微分値、及び上記推定操舵トルクを微分して得られる推定操舵トルク微分値を含む。上記各種の操舵状態を用いては、オフセット量を操舵状態に応じて変更される量で徐々に小さくすることができる。
【0136】
・上記各実施形態において、徐変処理部205は、オフセット量を時間の経過に伴って徐々に小さくすることに代えて、オフセット量を転舵状態に応じて変更される量で徐々に小さくする機能を有してもよい。上記転舵状態は、例えば、各転舵輪5R,5Lの転舵角、及びピニオン角θpを含む。
図1に二点鎖線で示すように、各転舵輪5R,5Lの転舵角は、ラック軸22の軸方向の変位量Xを検出するストロークセンサ234の検出結果から得られる。また、上記転舵状態は、例えば、目標ピニオン角θp*、及び目標ピニオン角θpb*等の目標ピニオン角θp*の演算過程で演算される角度を含む。また、上記転舵状態は、例えば、上記運転支援制御量Ad*を含む。また、上記転舵状態は、例えば、ピニオン角θpを微分して得られるピニオン角速度、目標ピニオン角θp*や目標ピニオン角θp*の演算過程で演算される角度を微分して得られる目標ピニオン角速度、及び上記運転支援制御量Ad*を微分して得られる運転支援制御量変化量を含む。上記各種の転舵状態を用いては、オフセット量を転舵状態に応じて変更される量で徐々に小さくすることができる。
【0137】
・上記各実施形態において、操舵角演算部51では、操舵トルクThに応じたステアリング軸11の捩れ分を考慮し、当該捩れ分を回転角θaに対して加減算等を通じて加味することで操舵角θsを演算してもよい。
【0138】
・上記各実施形態において、操舵角θsは、ステアリング軸11の回転角を検出するべく当該ステアリング軸11に設けられるステアリングセンサの検出結果を用いてもよい。
・上記各実施形態において、転舵側モータ32は、例えば、ラック軸22の同軸上に配置するものや、ラック軸22にラックアンドピニオン機構を構成するピニオン軸に対してウォームアンドホイールを介して接続されるものを採用してもよい。
【0139】
・上記各実施形態において、操舵制御装置1は、1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。これは、制動制御装置45についても同様である。
【0140】
・上記各実施形態は、操舵装置2を、操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵機構4と転舵機構6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置2は、運転者によるステアリング操舵を補助するための力であるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置としてもよい。この場合、ステアリングホイール3は、ステアリング軸11を介してピニオン軸21が機械的に接続される。
【0141】
・上記各実施形態の操舵装置2が搭載される車両は、当該車両の前方側に搭載された駆動源により左右の前側車輪に回転駆動するための駆動トルクを発生させる、いわゆるFF方式であってもよい。この場合、左右の前側車輪は、駆動輪である。その他、操舵装置2が搭載される車両は、当該車両の前方側に搭載された駆動源が発生させる動力により4つの車輪を個別に回転駆動するための駆動トルクを発生させる、いわゆる四輪駆動方式であってもよい。この場合、4つの車輪は、それぞれが駆動輪である。その他、操舵装置2が搭載される車両では、車両の後方側や、前後方向の中央等、駆動トルクを発生させるための駆動源が搭載される位置は問わない。
【符号の説明】
【0142】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
47l,47r…前車輪速センサ
48l,48r…後車輪速センサ
200…車速演算部
201…第1車速演算部
202…第2車速演算部
203…車速配分比演算部