(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】歯科ユニット
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20250220BHJP
A61G 15/04 20060101ALI20250220BHJP
A61G 15/08 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61C19/00 B
A61G15/04
A61G15/08
(21)【出願番号】P 2021070967
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】渡部 実苗
(72)【発明者】
【氏名】木村 好章
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-171385(JP,A)
【文献】特開2003-000659(JP,A)
【文献】特開2020-018465(JP,A)
【文献】米国特許第09597243(US,B1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0433987(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61G 15/04
A61G 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能に設けられた着座部、及び前記着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれを備える患者用椅子と、
前記患者用椅子の周辺に配置される可動部材と、
前記可動部材及び前記患者用椅子の少なくとも1つに配置され、前記可動部材及び/又は前記患者用椅子が本来の可動方向でない方向に移動したことを検知するセンサと、
前記センサからの信号に基づいて前記着座部及び前記背もたれの昇降及び傾倒起立を規制する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、前記センサの信号により前記可動部材及び/又は前記患者用椅子が前記本来の可動方向でない方向に移動したことを検知し
てからの所定の時間
の経過に基づいて前記着座部及び前記背もたれの昇降及び傾倒起立を規制する、
歯科ユニット。
【請求項2】
前記可動部材がドクターユニット及びアシスタントハンガーの少なくとも一方である請求項1に記載の歯科ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科において患者が着座する患者用椅子を有する歯科ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科ユニットは、歯科治療の際に使用される各種設備が備えられるユニットであり、患者が着座する患者用椅子を備えている。そしてその周囲には、施術者が使用する歯科治療のための各種器具が配置されるドクターユニット、主にアシスタントが用いる各種器具が具備されるアシスタントハンガー、患者にうがい水等を供給する給水部、これを排水するためのスピットン、患者の口腔内を照らす歯科用照明等が備えられている。また、歯科ユニットの周辺には施術者が座る椅子が置かれていることもある。
ここで患者用椅子は、患者を治療や処置のしやすい姿勢にさせるため、昇降可能であるとともに、背もたれを傾倒起立できるように構成されている。
【0003】
このように患者用椅子の昇降、及び傾倒起立が可能であることにより、その可動範囲にドクターユニットやアシスタントハンガーは入ることがあり衝突する虞がある。このような衝突は当然に回避されるべきである。又は、衝突したとしてもこれを検知して速やかに患者用椅子の昇降や傾倒起立を止めるべきである。
【0004】
特許文献1には、アームの角度を検出するセンサを取り付け、歯科用ユニットホルダーが治療椅子と当接する角度を検出すると少なくともオート操作を動作禁止状態とする歯科用ユニットアームの安全装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の安全装置では、ドクターユニットの移動、アシスタントハンガーの移動、患者用椅子の昇降、及び傾倒起立の際に、実質的には安全性には問題がないが安全性が害されたものと誤認して、患者用椅子の昇降や傾倒起立を止めてしまうことがあった。これはより安全側の作動であるため、あってもよいことではあるが、治療等の一連の作業効率の観点からは不要な停止であり、回避したいことである。このような不要な停止の頻度が高くなると無視することができない効率低下となってしまう。
【0007】
そこで、本開示は上記の問題点に鑑み、衝突に対して安全に作動するとともに、不要な停止を減らして作業の効率が低下することを抑制することが可能な歯科ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様は、昇降可能に設けられた着座部、及び着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれを備える患者用椅子と、患者用椅子の周辺に配置される可動部材と、可動部材及び患者用椅子の少なくとも1つに配置され、可動部材及び/又は患者用椅子が本来の可動方向でない方向に移動したことを検知するセンサと、センサからの信号に基づいて着座部及び背もたれの昇降及び傾倒起立を規制する演算手段と、を備え、演算手段は、センサの信号により可動部材及び/又は患者用椅子が本来の可動方向でない方向に移動したことを検知した時間に基づいて着座部及び背もたれの昇降及び傾倒起立を規制する、歯科ユニットである。
【0009】
可動部材をドクターユニット及びアシスタントハンガーの少なくとも一方とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の歯科ユニットによれば、衝突に関する不要な停止を減らして、作業の効率が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】
図4は、センサ30の1つの態様について説明する図である。
【
図5】
図5は、センサ30の他の態様について説明する図である。
【
図6】
図6は、衝突演算手段40を説明する図である。
【
図7】
図7は、衝突演算、及びこれによる歯科ユニット1の制御の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0013】
1.歯科ユニットの構成
図1~
図3は、1つの形態にかかる歯科ユニット1の外観を示している。
図1は平面図(上から見た図)、
図2は正面図(
図1の矢印IIから見た図)、
図3は背面図(
図1の矢印IIIから見た図)である。
歯科ユニット1は、基台2、患者用椅子3、ドクターユニット10、アシスタントユニット20、センサ30、及び、衝突演算手段40を備えている。さらに、不図示の歯科用照明を備えている。歯科用照明としては公知の形態を挙げることができ、照明が具備された照明部が継手により連結された複数のアームにより保持されており照明部を持って施術者が照明部を移動させることができるように構成されている。
【0014】
1.1.基台
基台2は患者用椅子3の下方に配置されており、患者用椅子3の土台となるものである。基台2は、筐体により外郭が形成されるとともに、該筐体内側には、各種制御機器が内包されている。ここに含まれる制御機器としては、例えば、患者用椅子3の昇降、傾倒起立等をさせるための油圧回路、及び該油圧回路を制御する油圧制御手段を挙げることができる。従って、基台2のうち、患者用椅子3の背面側には、不図示のフットスイッチが設けられる。施術者はこのフットスイッチやドクターユニット10の操作パネル11cの操作スイッチを操作して油圧制御手段に対して指令を出し、油圧回路を制御して患者用椅子3の昇降、傾倒起立をさせることができる。
【0015】
1.2.患者用椅子
本形態において患者用椅子3は、着座部3a、背もたれ3b、ヘッドレスト3c、レッグレスト3d、及びフットレスト3eを備えている。
【0016】
着座部3aは、基台2の上方に昇降可能に取り付けられている。着座部3aの昇降は、上記したように基台2内に収められた油圧回路により行われる。具体的には、フットスイッチや後述するドクターユニット10の操作パネル11cを施術者が操作し、その操作指令を受けた油圧制御手段が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることで着座部3aが昇降する。そして背もたれ3b、ヘッドレスト3c、レッグレスト3d、及びフットレスト3eは着座部3aと一体に昇降する。
【0017】
背もたれ3bは、着座部3aの一端側を軸に回動可能に設けられている部材で、患者の胴部をサポートするものである。背もたれ3bは、患者が着座の姿勢、仰向けの姿勢になることができるように傾倒及び起立が可能とされている。背もたれ3bの傾倒起立は、基台2内から連結される油圧回路により行われる。具体的には、フットスイッチやドクターユニット10の操作パネル11cを施術者が操作し、その操作指令を受けた油圧制御手段が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることで背もたれ3bが傾倒起立する。
【0018】
ヘッドレスト3cは、背もたれ3bの端部のうち、着座部3aが配置される側とは反対側の端部に配置される部材で、患者の頭部をサポートする部材である。ヘッドレスト3cは、患者の頭部位置を施術に都合よい姿勢にさせるため、移動、回動可能に形成されている。ヘッドレスト3cのこのような動作は背もたれ3bの内部に組み込まれたモータを含む機構により行われる。具体的には、背もたれ3b又はヘッドレスト3cの背面側に設けられた不図示のスイッチや後述するドクターユニット10の操作パネル11cを施術者が操作する等して、その操作指令を受けた上記機構が作動することでヘッドレスト3cが移動回動する。
【0019】
レッグレスト3dは、着座部3aの端部のうち、上記背もたれ3bが配置される側とは反対側の端部を軸に回動可能に設けられている部材で、患者の脚部をサポートするものである。レッグレスト3dは、背もたれ3bの傾倒起立の姿勢に合わせて鉛直、水平の姿勢となることができるように回動可能である。このようなレッグレスト3dの回動は、背もたれ3bの傾倒起立にリンクして作動するリンク機構により行われる。具体的には、上記のように背もたれ3bをフットスイッチやドクターユニット10の操作パネル11cを施術者が操作すると、背もたれ3bが傾倒起立し、これにリンクしてレッグレスト3dが回動する。
【0020】
フットレスト3eは、レッグレスト3dから該レッグレスト3dを延長する方向に設けられている部材であり、患者の足先をサポートするものである。具体的には、背もたれ3bが起立した姿勢、すなわち着座の姿勢では、フットレスト3eは患者の足裏を受けるようにレッグレスト3dに対して屈曲している。一方、背もたれ3bが傾倒され患者が仰向けとなる姿勢では、フットレスト3eは患者のかかとを受けるようにレッグレスト3dに対して概ね平らになる。フットレスト3eのこのような移動の手段としては油圧、モータ、リンク機構等を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0021】
1.3.ドクターユニット
ドクターユニット10は、患者用椅子3の側方のうちアシスタントユニット20とは反対側の側方に設けられ、本形態では作業台11、第一アーム12、及び第二アーム13を有している。
作業台11は、施術者が必要とする各器具やスイッチ等が備えられる部位である。具体的には、作業台11はその上面に作業面11aを具備し、施術者が施術の際に使用するハンドピースを収納するホルダー11bが設けられている。なお、ホルダー11bには図示は省略するが各種ハンドピースが保持されている。ハンドピースとしては、例えば、エアタービン、マイクロモータ、スケーラ、シリンジ等を挙げることができる。ほとんど全てのハンドピースは、チューブ類を介して、電気回路、水回路、エア回路等と連結されている。また、作業面11aとホルダー11bとの間には操作パネル11cが具備されている。操作パネル11cには、各種操作スイッチ類が設けられており、例えば患者用椅子3の傾倒起立、昇降操作、歯科用照明の点灯及び消灯の切り替え等が可能となっている。
このように、ホルダー11bや操作パネル11cは作業台11のうち、患者用椅子3の背面側に集められている。これにより患者の頭部付近で施術を進める施術者の利便が図られる。
【0022】
第一アーム12は、中空棒状のいわゆるアーム部材であり、その一端が基台2の下部に配置され、鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能とされている。従って第一アーム12は、
図1に矢印Iaで示したように回動することが可能である。
第二アーム13も中空棒状のアーム部材である。第二アーム13の一端は、第一アーム12の端部のうち、基台2側とは反対側である他端に配置されている。また、第二アーム13の他端には作業台11が配置されている。第二アーム13は第一アーム12と鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能に接続されており、
図1に矢印Ibで示したように回動することができる。
また、作業台11は第二アーム13と鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能に接続されており、
図1に矢印Icで示したように回動することができる。
【0023】
従って、作業台11は、第一アーム12、第二アーム13、及び、作業台11自体の上記回動が組み合わされた範囲で移動及び姿勢をとることができ、施術者の利便性を高めている。そして施術者は作業台11の取っ手等を掴み、作業台11を押したり引いたりすることで作業台11の位置及び姿勢を変更することが可能である。
【0024】
1.4.アシスタントユニット
アシスタントユニット20は、患者用椅子3の側方のうちのドクターユニット10が配置された側とは反対側に設けられ、アシスタントハンガー21、給排水部29を備えている。
【0025】
アシスタントハンガー21は、主にアシスタントが使用する器具が具備された部位である。アシスタントハンガー21は、ハンガー部22、第一アーム23、第二アーム24を備えている。
【0026】
ハンガー部22は、施術者が施術の際に使用するハンドピース(不図示)を収納するホルダーである。ハンドピースとしては例えばバキューム、排唾管、シリンジ等のハンドピースを挙げることができる。バキュームや排唾管は、吸引管を介してバキュームユニット(不図示)に接続されている。
【0027】
第一アーム23は、中空棒状のいわゆるアーム部材であり、その一端が給排水手段29の筐体に配置され、鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能とされている。従って第一アーム23は、
図1に矢印Idで示したように回動することが可能である。
第二アーム24も中空棒状のアーム部材である。第二アーム24の一端は、第一アーム23の端部のうち、給排水部29の筐体とは反対側である他端に配置されている。また、第二アーム24の他端には、ハンガー部22が配置されている。第二アーム24は第一アーム23と鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能に接続されており、
図1に矢印Ieで示したように回動することができる。
また、ハンガー部22は第二アーム24と鉛直方向を軸線とする軸線回りに回動可能に接続されており、
図1に矢印Ifで示したように回動することができる。
【0028】
従って、ハンガー部22は、第一アーム23、第二アーム24、及び、ハンガー部22自体の上記回動が組み合わされた範囲で移動及び姿勢をとることができ、施術者の利便性を高めている。そして施術者はハンガー部22の取っ手等を掴み、ハンガー部22を押したり引いたりすることでハンガー部22の位置及び姿勢を変更することが可能である。
【0029】
給排水部29は、治療中や治療後に患者がうがいをして、口腔内を洗浄するための給排水を行うための部位であり、公知の構成を適用することができる。例えば本形態の給排水部29は、スピットン29a及び給水部29bを備えており、給水部29bから供給された水がコップに注がれ、患者はこれによりうがいをしてスピットン29aに対してその水を吐き捨てる。従って、スピットン29aは、うがいをした後の口腔内の水を吐き捨てるため、鉢状とされている。そしてスピットン29aに排出された唾液や水は、給排水部29の排水トラップを介して排出される。なお、スピットンは患者の姿勢の利便性が考慮され可動式にすることができる。その場合には患者がうがいをする際にスピットン29aを患者の前に移動させることができる。
【0030】
1.5.センサ
歯科ユニット1にはセンサ30を備えている。本形態ではセンサ30は、可動部材としてのドクターユニット10、及び、アシスタントユニット20のアシスタントハンガー21に配置されており、ドクターユニット10、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動を検知しこれを電気信号として出力することができるように構成されている。
上記のように本形態においてドクターユニット10及びアシスタントハンガー21は各アームの構成により、本来の可動方向として水平方向が許容されており、ドクターユニット10及びアシスタントハンガー21の鉛直方向への移動は許容されていない(遊びや構成部材の寸法誤差等による鉛直方向への若干の移動は除く。以下同様)。このような本来の可動方向でない方向である鉛直方向への移動が生じるのは患者用椅子との衝突等のような不具合の場合が想定され、センサ30はこのため、ドクターユニット10、及び、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動を検知できるように構成されている。
【0031】
このようなセンサ30は、ドクターユニット10については、基台2と第一アーム12との接続部、第一アーム12と第二アーム13との接続部、及び、第二アーム13と作業台11との接続部の少なくとも1つに配置されていることが好ましい。一方、アシスタントハンガー21については、給排水部29と第一アーム23との接続部、第一アーム23と第二アーム24との接続部、及び、第二アーム24とハンガー部22との接続部の少なくとも1つに配置されていることが好ましい。これによりドクターユニット10、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動(変形)が検知し易くなる。
【0032】
センサ30の具体的態様は特に限定されることはないが、例えば光電センサやマイクロスイッチを挙げることができる。
図4には光電センサ30による検知の概念図、
図5にはマイクロスイッチ30による検知の概念図を表した。
【0033】
図4(a)に示したように、連結された2つの部材A及び部材B(本形態の歯科ユニット1では例えば第一アーム12に備えられる部材と第二アーム13に備えられる部材)の一方である部材Aに光電センサ30を設置し、この光電センサ30で部材Bの所定の場所(この例では部材Bの端面)を検知する状態を基準状態とする。
これに対して
図4(b)、
図4(c)に示したように、部材A及び/又は部材Bに外部から鉛直方向の力Fが加わると、部材A及び/又は部材Bが変形することで光電センサ30が部材Bの端面を検知することができなくなる。この状態により、部材A、部材Bの鉛直方向への移動(変形)が検知できる。
このような光電センサ30が、ドクターユニット10については、基台2と第一アーム12との接続部、第一アーム12と第二アーム13との接続部、第二アーム13と作業台11との接続部の少なくとも1つに配置されることでドクターユニット10の鉛直方向への移動(変形)を検知することができる。アシスタントハンガー21については、給排水部29と第一アーム23との接続部、第一アーム23と第二アーム24との接続部、及び、第二アーム24とハンガー部22との接続部の少なくとも1つに配置されていることで、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動(変形)を検知することができる。
【0034】
図5(a)に示したように、連結された2つの部材A及び部材B(本形態の歯科ユニット1では例えば第一アーム12に備えられる部材と第二アーム13に備えられる部材)の一方である部材Aにマイクロスイッチ30を設置し、このマイクロスイッチ30を部材Bが押圧している状態(ON状態)を基準状態とする。
これに対して
図5(b)に示したように、部材Bに外部から鉛直方向の力Fが加わると、部材Bが変形することで部材Bがマイクロスイッチ30から離れて押圧が解除される状態(OFF状態)となる。この状態により、部材A、部材Bの鉛直方向への移動(変形)が検知できる。
このようなマイクロスイッチ30が、ドクターユニット10については、基台2と第一アーム12との接続部、第一アーム12と第二アーム13との接続部、第二アーム13と作業台11との接続部の少なくとも1つに配置されることでドクターユニット10の鉛直方向への移動(変形)を検知することができる。アシスタントハンガー21については、給排水部29と第一アーム23との接続部、第一アーム23と第二アーム24との接続部、及び、第二アーム24とハンガー部22との接続部の少なくとも1つに配置されていることで、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動(変形)を検知することができる。
【0035】
1.6.衝突演算手段
衝突演算手段40は、センサ30からの電気信号を受信してドクターユニット10、アシスタントハンガー21が他の部位(患者用椅子3)に衝突したかを判断し、判断に応じて患者用椅子3の昇降及び傾倒起立を停止する命令を出す。具体的な判断の過程について後で説明する。
図6に衝突演算手段40の構成を概念的に表した。
図6からわかるように、衝突演算手段40は、演算子41、RAM42、記憶手段43、受信手段44、及び出力手段45を備えている。
【0036】
演算子41は、いわゆるCPU(中央演算子)により構成されており、上記した各構成部材に接続され、これらを制御することができる手段である。また、記憶媒体として機能する記憶手段43等に記憶された各種プログラムを実行し、これに基づいて各種データの生成やデータの選択をする手段として演算を行うのも演算手段41である。
【0037】
RAM42は、演算子41の作業領域や一時的なデータの記憶手段として機能する構成部材である。RAM42は、SRAM、DRAM、フラッシュメモリ等で構成することができ、公知のRAMと同様である。
【0038】
記憶手段43は、各種演算の根拠となるプログラムやデータが保存される記憶媒体として機能する部材である。また記憶手段43には、プログラムの実行により得られた中間、最終の各種結果を保存することができてもよい。
【0039】
本形態では、この記憶手段43に記憶されたプログラムの1つに、センサ30からの信号に基づいてドクターユニット10、アシスタントハンガー21が他の部位(患者用椅子3)に衝突したかを判断し、さらにセンサ30からの信号検知時間に基づいて患者用椅子3の昇降及び傾倒起立を停止する命令を出す演算が含まれている。
【0040】
このような演算は例えば次のような態様とすることができる。患者用椅子3の昇降及び傾倒起立の途中でセンサ30がドクターユニット10、アシスタントハンガー21の鉛直方向への移動(変形)を検知すると、時間の測定を開始する。その後当該移動(変形)の検知が所定の時間内で解消し、基準状態(移動を検知しない状態)に戻った場合には安全を維持できる衝突であったとして患者用椅子3の昇降及び傾倒起立を停止することなく維持する。一方、所定の時間が経過してもセンサ30による検知が継続している場合、安全を維持できない衝突であるとして患者用椅子3の昇降及び傾倒起立を停止する。
ここで、「所定の時間」は衝突によってもドクターユニット10、アシスタントハンガー21が破損しない程度の時間とする。具体的な時間は各部位の配置に応じて適宜設定される。これにより、ドクターユニット10、アシスタントハンガー21の破損防止(安全性の確保)を図るとともに、意図しない患者用椅子の昇降及び傾倒起立の停止を抑制(施術の効率化)することができる。
【0041】
受信手段44は、外部からの情報を衝突演算手段40に適切に取り入れるための機能を有する構成部材であり、少なくともドクターユニット10、アシスタントハンガー21に具備されたセンサ30が接続される。
【0042】
出力手段45は、得られた結果のうち外部に出力すべき情報を適切に外部に出力する機能を有する構成部材であり、本形態では油圧制御手段に接続されている。これにより衝突演算手段40でドクターユニット10、アシスタントハンガー21が他の部材等に衝突し、停止すべきと判断されたとき、油圧制御手段に指令を出して患者用椅子3の移動及び回動を停止させる。
【0043】
2.作動の流れ
次に、衝突演算手段40による、患者用椅子3の昇降及び傾倒起立の許容、及び規制について説明する。
図7に流れを示した。
図7からわかるように、衝突演算手段40による演算は過程S11~過程S17を含む。以下に、各過程について説明する。
【0044】
過程S11は、患者用椅子3の昇降、傾倒起立の指令がなされる。このような患者用椅子3の昇降、傾倒起立の指令は、例えば上記したようにフットスイッチやドクターユニット10により行われる。
【0045】
過程S12は、センサ30から衝突した旨の信号を受信する(又は受信していた信号が受信されなくなる。)。
【0046】
過程S13は、過程S12の状態となった時点からの時間の計測を開始する。
【0047】
過程S14は、過程S13で計測した時間が所定の時間に達したときにセンサ30からの衝突した旨の信号が解消されているかを判断する。
解消されていないときはNoが選択され、過程S15で患者用椅子3の昇降、傾倒起立を停止する。
一方、解消されているときはYesが選択され、過程S16に移り患者用椅子3の昇降、傾倒起立(変形)が継続される。
【0048】
過程S17では、過程S16で患者用椅子3の昇降、傾倒起立(変形)が継続された後に、当初から予定していた変形が完了したかを判断する。
当初から予定していた変形が完了すればYesが選択されて終了する。
一方、当初から予定していた患者用椅子3の昇降、傾倒起立(変形)がまだ完了していなければNoが選択されて過程S12に戻る。
【0049】
3.効果等
以上のように、センサ30及び衝突演算手段40を備える歯科ユニット1によれば、ドクターユニット10、アシスタントハンガー21等の可動部材の破損防止(安全性の確保)を図るとともに、意図しない患者用椅子の昇降及び傾倒起立の停止を抑制(施術の効率化)することができる。
【0050】
上記ではドクターユニット10、及び、アシスタントハンガー21の両方にセンサ30を配置してそれぞれについて衝突演算手段40により演算を行う例を示したが、ドクターユニット10、又は、アシスタントハンガー21のいずれか一方についてのみセンサ30を設けて上記演算を行うように構成してもよい。
【0051】
ここで、上記形態ではドクターユニット10及びアシスタントハンガー21の「本来の可動方向」を水平方向とし、「本来の可動方向でない方向」を鉛直方向としたが、これに限定されることはなく、各部材の構成により必要に応じてこれとは異なる方向を本来の可動方向、及び、本来の可動方向でない方向となるように各部材を構成することができる。
【0052】
また、ここでは可動部材の例としてドクターユニット及びアシスタントハンガーを挙げて説明したが、歯科ユニットに備えられる他の可動部材にセンサを配置して同様に衝突演算手段による演算を行って制御してもよい。他の可動部材としては例えば患者用椅子自体、歯科用照明、及び、アシスタントユニットのスピットン等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 歯科ユニット
2 基台
3 患者用椅子
10 ドクターユニット(可動部材)
20 アシスタントユニット
21 アシスタントハンガー(可動部材)
30 センサ
40 衝突演算手段