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特許7637582活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー、その製造方法、及びコーティング剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー、その製造方法、及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20250220BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20250220BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20250220BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20250220BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20250220BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20250220BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C08F265/06
C08F290/12
C08F8/00
C09D183/07
C09D133/14
C09D133/06
C09D4/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021115229
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2023011394
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 稜平
(72)【発明者】
【氏名】細越 敏久
(72)【発明者】
【氏名】堀江 翔一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晴香
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-176054(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152006(WO,A1)
【文献】特開2011-213885(JP,A)
【文献】特開2002-179991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/06
C08F 290/12
C08F 8/00
C09D 183/07
C09D 133/14
C09D 133/06
C09D 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(i)10~60質量%と、
セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、及び数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも一種のモノマー(ii)(但し、数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサンのみの場合を除く)に由来する構成単位(ii)40~80質量%と、
(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレートの少なくともいずれかのモノマー(iii)に由来する構成単位(iii)0~20質量%と、を含み(但し、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とする)、
前記モノマー(ii)及び前記モノマー(iii)の少なくともいずれかが、その分子構造中にアクリロイルオキシ基を有し、
数平均分子量が10,000~30,000である活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー。
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 1」は、下記構成単位(a)30~85質量%、下記構成単位(b)10~40質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(a):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環反応物(a1);メタクリル酸に由来する構成単位と、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかとのエポキシ開環反応物(a2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの付加反応物(a3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【請求項2】
不飽和結合当量が550~1,350eq/gである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法であって、
下記一般式(2)で表されるポリマー型モノマー、前記モノマー(ii)、及び前記モノマー(iii)をラジカル重合して、数平均分子量1,000~12,000のマクロモノマーを得る工程(2)と、
得られた前記マクロモノマーに、
下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d1)である場合には、(メタ)アクリル酸を反応させ、
下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d2)である場合には、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかを反応させ、
下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d3)である場合には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させる工程(3)と、
を有する活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法。
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 2」は、下記構成単位(d)、下記構成単位(b)15~45質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(d)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(d):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位(d1);メタクリル酸に由来する構成単位(d2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(d3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【請求項4】
下記一般式(3)で表される化合物の存在下、
グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれか;メタクリル酸;又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、
炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、
その他のメタクリレートと、
を重合して、前記ポリマー型モノマーを得る工程(1)をさらに有する請求項3に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法。
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示す)
【請求項5】
請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを含有する活性エネルギー線硬化型のコーティング剤。
【請求項6】
有機溶剤と、
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する活性エネルギー線硬化型のモノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかと、をさらに含有する請求項5に記載のコーティング剤。
【請求項7】
離型剤として用いられる請求項5又は6に記載のコーティング剤。
【請求項8】
撥水・撥油剤として用いられる請求項5又は6に記載のコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー、その製造方法、及びコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性エネルギー線硬化性及び熱硬化性の撥水・撥油剤や離型剤等の疎水性表面を形成するために用いられるコーティング剤には、ステアリル(メタ)アクリレート等の長鎖(メタ)アクリレートの共重合体、ジメチルシロキサン等のシリコンポリマーがグラフトした共重合体、及びフッ素系(メタ)アクリレートの共重合体が使用されている(特許文献1~5)。このような特定のモノマーで構成したり、グラフト構造を形成したりすることで、撥水・撥油性や離型性等の特性を共重合体に付与することが可能であり、防汚性や剥離性を示すコーティング剤、及び離型シート等に応用されている。また、これら共重合体を硬化させるために、架橋基として機能する(メタ)アクリロイルオキシ基をポリマーに導入し、活性エネルギー線で硬化させるコーティング剤に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-202685号公報
【文献】特開2003-147327号公報
【文献】特開昭55-9619号公報
【文献】特開平6-166705号公報
【文献】特開2010-144046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性エネルギー線硬化型のポリマーの硬化性能を高めるには、(メタ)アクリロイル基等の架橋基の導入量を増加させることが必要である。しかし、架橋基の導入量を増加させると、離型性や撥水・撥油性を発揮する官能基の導入量が相対的に減少し、離型性等の各種機能性が低下しやすくなる。一方、離型性等の各種機能性を向上させるために架橋基の導入量を減少させると、硬化性が不十分になる場合があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、撥水・撥油性や離型性等に優れているとともに、密着性、耐擦過性、耐薬品性、及び耐溶剤性等の特性が保持された硬化膜を形成しうる、硬化性の良好なコーティング剤を調製することが可能な活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法、及びこの活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを用いたコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下に示す活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーが提供される。
[1]下記一般式(1)で表される構成単位(i)10~60質量%と、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、及び数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも一種のモノマー(ii)に由来する構成単位(ii)40~80質量%と、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレートの少なくともいずれかのモノマー(iii)に由来する構成単位(iii)0~20質量%と、を含み(但し、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とする)、前記モノマー(ii)及び前記モノマー(iii)の少なくともいずれかが、その分子構造中にアクリロイルオキシ基を有し、数平均分子量が10,000~30,000である活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー。
【0007】
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 1」は、下記構成単位(a)30~85質量%、下記構成単位(b)10~40質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(a):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環反応物(a1);メタクリル酸に由来する構成単位と、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかとのエポキシ開環反応物(a2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの付加反応物(a3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【0008】
[2]不飽和結合当量が550~1,350eq/gである前記[1]に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法であって、下記一般式(2)で表されるポリマー型モノマー、前記モノマー(ii)、及び前記モノマー(iii)をラジカル重合して、数平均分子量1,000~12,000のマクロモノマーを得る工程(2)と、得られた前記マクロモノマーに、下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d1)である場合には、(メタ)アクリル酸を反応させ、下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d2)である場合には、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかを反応させ、下記一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d3)である場合には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させる工程(3)と、を有する活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法。
【0010】
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 2」は、下記構成単位(d)、下記構成単位(b)15~45質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(d)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(d):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位(d1);メタクリル酸に由来する構成単位(d2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(d3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【0011】
[4]下記一般式(3)で表される化合物の存在下、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれか;メタクリル酸;又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、その他のメタクリレートと、を重合して、前記ポリマー型モノマーを得る工程(1)をさらに有する前記[3]に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法。
【0012】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示す)
【0013】
さらに、本発明によれば、以下に示すコーティング剤が提供される。
[5]前記[1]又は[2]に記載の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを含有する活性エネルギー線硬化型のコーティング剤。
[6]有機溶剤と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する活性エネルギー線硬化型のモノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかと、をさらに含有する前記[5]に記載のコーティング剤。
[7]離型剤として用いられる前記[5]又は[6]に記載のコーティング剤。
[8]撥水・撥油剤として用いられる前記[5]又は[6]に記載のコーティング剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撥水・撥油性や離型性等に優れているとともに、密着性、耐擦過性、耐薬品性、及び耐溶剤性等の特性が保持された硬化膜を形成しうる、硬化性の良好なコーティング剤を調製することが可能な活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを提供することができる。また、本発明によれば、この活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法、及びこの活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを用いたコーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー(以下、「硬化型ポリマー」とも記す)は、下記一般式(1)で表される数平均分子量1,000~12,000の構成単位(i)10~60質量%と、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、及び数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサンからなる群より選択される少なくとも一種のモノマー(ii)に由来する構成単位(ii)40~80質量%と、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレートの少なくともいずれかのモノマー(iii)に由来する構成単位(iii)0~20質量%と、を含む(但し、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とする)。モノマー(ii)及びモノマー(iii)の少なくともいずれかは、その分子構造中にアクリロイルオキシ基を有するモノマーである。そして、本発明の硬化型ポリマーの数平均分子量は、10,000~30,000である。
【0016】
(前記一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 1」は、下記構成単位(a)30~85質量%、下記構成単位(b)10~40質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(a):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環反応物(a1);メタクリル酸に由来する構成単位と、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかとのエポキシ開環反応物(a2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの付加反応物(a3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【0017】
本発明の硬化型ポリマーは、離型性や撥水・撥油性等の効果を発揮する主鎖と、この主鎖に結合(グラフト)する、活性エネルギー線の作用により硬化する側鎖と、を有するグラフト型ポリマーであり、機能が分離したポリマーである。従来のコーティング剤に用いられるポリマーは、架橋基が主鎖にランダムに導入されたランダム構造を有しており、離型性等を発揮するモノマー単位と、架橋基を有するモノマー単位とが、短い繰り返し単位で構成されている。これに対して、本発明の硬化型ポリマーは、主鎖に含まれる機能性のモノマー単位が長く、離型性等の効果が十分に発揮される。また、主鎖と相溶しうるモノマー単位がグラフト鎖に組み込まれているので、主鎖とグラフト鎖の相溶性が良好であり、形成される塗膜の透明性を向上させることができる。さらに、グラフト鎖には架橋基が密集した状態で導入されているので、架橋性及び硬化性が良好であり、基材との密着性が向上した塗膜(硬化膜)を形成することができる。
【0018】
本発明の硬化型ポリマーは、疎水性が高い主鎖と、この主鎖に結合(グラフト)した、架橋基が導入された側鎖(グラフト鎖)とを有するポリマーである。架橋基が導入されたグラフト鎖は、下記一般式(1)で表される構成単位(i)を含むポリマー鎖である。
【0019】
【0020】
一般式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示す。一般式(1)中、「Polymer 1」は、下記構成単位(a)30~85質量%、下記構成単位(b)10~40質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(a)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
【0021】
構成単位(a):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環反応物(a1);メタクリル酸に由来する構成単位と、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかとのエポキシ開環反応物(a2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの付加反応物(a3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位
【0022】
一般式(1)中のRは、後述する製造方法で用いられる下記一般式(3)で表される化合物に由来する基である。
【0023】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示す)
【0024】
一般式(3)で表される化合物は、メタクリレート系モノマーを重合する際に連鎖移動剤として機能する。すなわち、一般式(3)で表される化合物の存在下でメタクリレート系モノマーを重合すると、形成されるポリマーの片末端に重合性基を導入することができる。一般式(3)で表される化合物を連鎖移動剤として用いる場合、メタクリレート系モノマー以外のモノマー(スチレン等のビニルモノマーやアクリレート)を重合すると、一般式(3)中の重合性基がこれらのモノマーと重合してしまい、形成されるポリマーの片末端に重合性基を導入することができない。これに対して、メタクリレート系モノマーを重合すると、メタクリレート系モノマーのラジカルの立体障害によって、メタクリレート系モノマーは一般式(3)中の重合性基と反応せず、重合性基が導入された一般式(1)で表される構成単位を形成することができる。
【0025】
一般式(1)中の「Polymer 1」は、以下に示す構成単位(a)を含む。
構成単位(a):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸とのエポキシ開環反応物(a1);
メタクリル酸に由来する構成単位と、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかとのエポキシ開環反応物(a2);又は
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの付加反応物(a3)
【0026】
「Polymer 1」中の構成単位(a)の割合は、30~85質量%であり、好ましくは35~80質量%である。なお、構成単位(a)、構成単位(b)、及び構成単位(c)の合計を100質量%とする。構成単位(a)の割合が30質量%未満であると、架橋性能や密着性が不十分になる。一方、構成単位(a)の割合が85質量%超であると、極性の高い水酸基やウレタン結合が多く含まれることになるので、主鎖と相溶性が低下する。
【0027】
一般式(1)中の「Polymer 1」は、以下に示す構成単位(b)を含む。
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
【0028】
「Polymer 1」に構成単位(b)が含まれることで、主鎖との相溶性が向上し、形成される塗膜(硬化膜)を透明にすることができる。炭素数6~22のアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよい。炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、セチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等を挙げることができる。なかでも、炭素数8~18のアルキル基を有するアルキルメタクリレートが好ましく、セチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレートがさらに好ましい。これらのアルキルメタクリレートを用いることで、主鎖の結晶化や疎水性化を阻害せず、塗膜の軟質化、液状化、及びタック性を低減させることができるとともに、離型性等の効果を発揮させることができる。
【0029】
「Polymer 1」中の構成単位(b)の割合は、10~40質量%であり、好ましくは15~35質量%である。構成単位(b)の割合が10質量%未満であると、主鎖との相溶性が向上しない場合がある。一方、構成単位(b)の割合が60質量%超であると、側鎖のガラス転移点(Tg)が低すぎてしまい、膜の軟質化、離型性等の性能の低下、及び重合性の低下等が生じやすくなる。
【0030】
一般式(1)中の「Polymer 1」は、以下に示す構成単位(c)を含んでいてもよい。
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位
【0031】
その他のメタクリレートに由来する構成単位を導入することで、側鎖のTg、形成される硬化膜の特性(軟質・硬質)、基材との密着性等を調整することができるとともに、重合性をさらに向上させることができる。その他のメタクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、アダマンチルメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、無水フタル酸と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物等のラジカル重合性モノマーを挙げることができる。さらには、耐光性の向上を目的として、2-(4-ベンゾキシ-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール等の紫外線を吸収しうるモノマーを用いてもよい。
【0032】
「Polymer 1」中の構成単位(c)の割合は、0~30質量%であり、好ましくは0~20質量%である。構成単位(c)の割合が30質量%超であると、構成単位(a)及び構成単位(b)の割合が相対的に低下するので、側鎖としての効果が不十分になることがある。
【0033】
硬化型ポリマーは、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、及び数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサン(以下、「シリコーンマクロモノマー」とも記す)からなる群より選択される少なくとも一種のモノマー(ii)に由来する構成単位(ii)を含む。
【0034】
セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレートは、結晶性が高く、蝋状及びワックス状等の性質をポリマーに付与し、離型性及び撥水・撥油性等の効果を発揮させることができる。前述の通り、一般式(3)で表される化合物の重合性基はメタクリレート系モノマーとは反応しにくいので、モノマー(ii)はアクリレート系モノマーであることが好ましく、セチルアクリレート、ステアリルアクリレート、及びベヘニルアクリレートが、それらの結晶性の観点からも特に好ましい。
【0035】
また、シリコーンマクロモノマーは、疎水性の高いシロキサン構造を有するので、離型性及び撥水・撥油性等の効果を発揮させることができる。シリコーンマクロモノマーは、通常、シロキサン結合(Si-O-Si)の繰り返し単位を主骨格とする線状ポリシロキサン分子の片末端に(メタ)アクリロイル基を有する。シリコーンマクロモノマーとしては、片末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有するとともに、もう一方の片末端にジメチルブチルオキシ基等の任意の有機基を有するポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0036】
シリコーンマクロモノマーの数平均分子量(Mn)は900~12,000であり、好ましくは2,000~5,000である。シリコーンマクロモノマーのMnが900未満であると、撥水・撥油性が不十分になる場合がある。一方、シリコーンマクロモノマーのMnが12,000超であると、重合性が低下して残存しやすくなる。
【0037】
硬化型ポリマーに含まれる構成単位(ii)の割合は、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とした場合に、40~80質量%であり、好ましくは45~75質量%である。構成単位(ii)の割合が40質量%未満であると、離型性及び撥水・撥油性が不十分になる。一方、構成単位(ii)の割合が80質量%超であると、構成単位(i)の割合が相対的に低下するので、活性エネルギー線による硬化性、基材との密着性、及び耐擦過性等が低下する。
【0038】
硬化型ポリマーは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレートの少なくともいずれかのモノマー(iii)に由来する構成単位(iii)をさらに含んでいてもよい。(メタ)アクリレートとしては、前述の「その他のメタクリレート」と同様のものを挙げることができる。硬化型ポリマーに含まれる構成単位(ii)の割合は、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とした場合に、0~20質量%であり、好ましくは0~15質量%である。構成単位(iii)の割合が20質量%超であると、構成単位(i)や構成単位(ii)の割合が相対的に減少するので、離型性や撥水・撥油性が不足したり、架橋性が低下したりすることがある。
【0039】
一般式(1)で表される構成単位(i)の末端に存在する不飽和結合は、メタクリレート系モノマーとほとんど重合しないので、モノマー(ii)及びモノマー(iii)の少なくともいずれかには、その分子構造中にアクリロイルオキシ基を有するモノマーを用いる。
【0040】
硬化型ポリマーの数平均分子量(Mn)は10,000~30,000であり、好ましくは11,000~25,000である。Mnが10,000未満であると、硬化しても耐久性が不十分になる場合がある。一方、Mnが30,000超であると、溶液の粘度が過剰に高まるので、コーティングしにくくなる。また、コーティングに適した粘度とするために有機溶剤で過剰に希釈すると、十分な膜厚を有する硬化膜を形成することが困難になる。本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値を意味する。
【0041】
一般式(1)中の(メタ)アクリロイルオキシ基に由来する硬化型ポリマーの不飽和結合当量は、550~1,350eq/gであることが好ましく、550~1,300eq/gであることがさらに好ましい。不飽和結合当量とは、活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマー中の(メタ)アクリロイルオキシ基の1官能基当たりの分子量を意味する。より具体的には、樹脂(硬化型ポリマー)1g当たり(メタ)アクリロイルオキシ基のモル数から、その逆数を算出し、(メタ)アクリロイルオキシ基1モル当たりの分子量(不飽和結合当量)とすることができる。不飽和結合当量が1,300eq/g超であると、硬化性がやや不十分になることがある。一方、不飽和結合当量が550eq/g未満であると、構成単位(i)中の(メタ)アクリロイルオキシ基の量が相対的に増加するので、主鎖との相溶性がやや低下する場合がある。
【0042】
<活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーの製造方法>
本発明の硬化型ポリマーは、例えば、以下に示す方法によって製造することができる。すなわち、本発明の硬化型ポリマーの製造方法は、前述の硬化型ポリマーを製造する方法であり、下記一般式(2)で表されるポリマー型モノマー、モノマー(ii)、及びモノマー(iii)をラジカル重合して、数平均分子量1,000~12,000のマクロモノマーを得る工程(2)と、得られたマクロモノマーに、(メタ)アクリル酸;グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれか;又は(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート;を反応させる工程(3)と、を有する。
【0043】
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示し、「Polymer 2」は、下記構成単位(d)、下記構成単位(b)15~45質量%、及び下記構成単位(c)0~30質量%を含む(但し、(d)+(b)+(c)=100質量%とする)ポリマーブロックを示す。
構成単位(d):グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位(d1);メタクリル酸に由来する構成単位(d2);又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(d3)
構成単位(b):炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位
構成単位(c):その他のメタクリレートに由来する構成単位)
【0044】
本発明の硬化型ポリマーの製造方法は、ポリマー型モノマーを得る工程(1)をさらに有することが好ましい。この工程(1)では、下記一般式(3)で表される化合物の存在下、メタクリレート系モノマーを重合して、一般式(2)で表されるポリマー型モノマーを得る。このメタクリレート系モノマーは、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートの少なくともいずれか;メタクリル酸;又は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種と、炭素数6~22のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、その他のメタクリレートと、である。
【0045】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1~18のアルキル基を示す)
【0046】
一般式(3)の化合物の存在下でメタクリレート系モノマーを重合すると、その末端に不飽和結合が導入されたポリマーを形成することができる。すなわち、一般式(3)で表される化合物は、連鎖移動剤として機能する成分である。メタクリレート系モノマーは、従来公知の溶液重合によって重合することができる。具体的には、一般式(3)で表される化合物の存在下でアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤や過酸化ベンゾイル等の過酸化物系開始剤を用いると、ラジカルが発生する。この状況下でメタクリレート系モノマーを重合すると、発生したラジカルが一般式(3)で表される化合物と反応して3級の炭素ラジカルが発生する。発生した3級の炭素ラジカルがα位のメチレン基に移動しつつ、α位の炭素に結合した臭素がラジカルとして脱離して、不飽和結合末端が形成される。脱離した臭素はさらにメタクリレート系モノマーと重合し、ポリマー末端のラジカルが他の一般式(3)で表される化合物と反応して、不飽和結合末端が形成される。このようなサイクルが繰り返されると、重合中のメタクリレートラジカル末端は、形成される不飽和結合末端とは立体障害によって反応することができない。その結果、不飽和結合末端を有する、一般式(2)で表されるポリマー型モノマーを得ることができる。
【0047】
メタクリレート系モノマー100質量部に対する、一般式(3)で表される化合物の量は、0.5~10質量部とすることが好ましく、1~5質量とすることがさらに好ましい。一般式(3)で表される化合物の量が、メタクリレート系モノマー100質量部に対して0.5質量部未満であると、得られるポリマー型モノマーのMnが大きくなりやすい。一方、10質量部超であると、得られるポリマー型モノマーのMnが小さくなりやすい。
【0048】
アゾ系開始剤や過酸化物開始剤等の開始剤の量は、一般式(3)で表される化合物の量を基準として、10mol%以下とすることが好ましい。開始剤の量が多すぎると、開始剤によって重合が完結しやすく、目的とするポリマー型モノマー以外のポリマーが多く生成しやすくなることがある。
【0049】
溶液重合の際に用いる溶媒としては、ヘキサン、ドデカン、イソドデカン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール系溶媒;プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;等を挙げることができる。なかでも、低極性の溶媒を用いることが好ましく、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒を用いることが好ましい。
【0050】
工程(2)では、一般式(2)で表されるポリマー型モノマー、モノマー(ii)、及びモノマー(iii)をラジカル重合してマクロモノマーを得る。ラジカル重合の具体的な条件等は任意であり、特に限定はない。また、ラジカル重合は、溶液重合とすることが好ましい。溶液重合の際に用いる溶媒としては、上述の各種溶媒を用いることができる。
【0051】
マクロモノマーの数平均分子量(Mn)は、1,000~12,000であり、好ましくは3,000~10,000である。マクロモノマーのMnが1,000未満であると、主鎖に反応性の不飽和結合が多く導入されてしまい、疎水性が損なわれる場合がある。また、一般式(2)で表されるポリマー型モノマーの製造時に一般式(3)で表される化合物を多く使用することになるので、重合率を高めることが困難になる場合がある。一方、マクロモノマーのMnが12,000超であると、グラフト鎖が大きすぎてしまい、疎水性が損なわれる場合がある。
【0052】
工程(3)では、一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d1)である場合には、(メタ)アクリル酸をマクロモノマーに反応させる。また、一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d2)である場合には、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかをマクロモノマーに反応させる。そして、一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d3)である場合には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをマクロモノマーに反応させる。
【0053】
一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d1)である場合には、(メタ)アクリル酸をマクロモノマーに反応させると、(メタ)アクリル酸がエポキシ基と反応し、エポキシ基が開環するとともに、(メタ)アクリロイルオキシ基が導入され、目的とする硬化型ポリマーが形成される。反応の際には、トリエチルアミン等のアミン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物;テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロライド等の第4級ホスホニウム塩;等の触媒を用いることができる。触媒の量は、(メタ)アクリル酸の量を基準として、10mol%以下とすることが好ましい。反応温度は、50~150℃とすることが好ましく、80~120℃とすることがさらに好ましい。エポキシ基が開環すると水酸基が形成される。形成される水酸基に、無水コハク酸、オクチル無水コハク酸、無水シクロヘキセンジカルボン酸等の二塩基酸;ステアリルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物;等をさらに反応させてもよい。赤外分光光度計を使用して、エポキシ基の吸収の消滅や水酸基の生成を確認したり、滴定して酸価を測定したりすることで、反応の終点を確認することができる。
【0054】
一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d2)である場合には、グリシジルメタクリレート及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかをマクロモノマーに反応させると、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基がカルボキシ基と反応し、エポキシ基が開環するとともに、(メタ)アクリロイルオキシ基が導入され、目的とする硬化型ポリマーが形成される。反応の際には、トリエチルアミン等のアミン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物;テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムクロライド等の第4級ホスホニウム塩;等の触媒を用いることができる。触媒の量は、(メタ)アクリル酸の量を基準として、10mol%以下とすることが好ましい。反応温度は、50~150℃とすることが好ましく、80~120℃とすることがさらに好ましい。エポキシ基が開環すると水酸基が形成される。形成される水酸基に、無水コハク酸、オクチル無水コハク酸、無水シクロヘキセンジカルボン酸等の二塩基酸;ステアリルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物;等をさらに反応させてもよい。赤外分光光度計を使用して、エポキシ基の吸収の消滅や水酸基の生成を確認したり、滴定して酸価を測定したりすることで、反応の終点を確認することができる。
【0055】
一般式(2)中の構成単位(d)が構成単位(d3)である場合には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをマクロモノマーに反応させると、(メタ)アクリロイルオキシ基が導入され、目的とする硬化型ポリマーが形成される。反応の際には、ジラウリン酸スズ塩、ビスマス塩、ジルコニウム塩等の触媒を用いることができる。反応温度は、50~100℃とすることが好ましい。赤外分光光度計を使用して、イソシアネート基の吸収の消失を確認したり、滴定してイソシアネート%を測定したりすることで、反応の終点を確認することができる。
【0056】
一般式(2)で表されるポリマー型モノマーに反応させる、(メタ)アクリル酸、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の低分子化合物の量は、ポリマー型モノマーの官能基量よりも少なくすることが好ましい。反応させる低分子化合物の量を、ポリマー型モノマーの官能基量の等モル以上の量とすると、低分子化合物をすべて反応させるまでに時間がかかったり、低分子化合物が残存してしまったりする場合がある。ポリマー型モノマーの官能基の量に対して、低分子化合物の量を95mol%以下とすることが好ましく、90mol%以下とすることがさらに好ましい。
【0057】
<活性エネルギー線硬化型のコーティング剤>
本発明の活性エネルギー線硬化型のコーティング剤は、前述の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーを含有する。本発明のコーティング剤は、紫外線、電子線、及び放射線等の活性エネルギー線の照射によって硬化し、離型性や撥水・撥油性を示す皮膜(硬化膜)を形成しうるコーティング剤である。
【0058】
コーティング剤は、有機溶剤と、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する活性エネルギー線硬化型のモノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかと、をさらに含有してもよい。有機溶剤としては、溶液重合の際に使用可能な前述の有機溶剤を用いることができる。
【0059】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有する活性エネルギー線硬化型のモノマー及びオリゴマーとしては、前述の「その他のメタクリレート」と同様のものの他、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2以上)ジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(n=2以上)ジ(メタ)アクリレート、ビニロキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)-ヒドロキシエチル-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシポリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートとポリ(n=6-15)テトラメチレングリコールとのウレタン化反応物に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンとコハク酸及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロ-ルプロパンとコハク酸、エチレングリコール、及び(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0060】
また、光硬化性ポリマーを適宜含有させることもできる。光硬化性ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエポキシ樹脂、ポリオレフィン、ポリブタジエンをはじめとするゴム樹脂等のポリマー、これらのポリマーの末端や側鎖にラジカル重合性である(メタ)アクリロイルオキシ基が複数導入されたポリマー等を挙げることができる。さらに、カルボキシ基等を有する、アルカリ現像性を持たせた光硬化性ポリマーを用いてもよい。
【0061】
また、光重合開始剤を含有させることができる。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド等のリン酸化合物;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1;カンファーキノン;等を挙げることができる。さらに、光増感剤等の化合物を併用してもよい。
【0062】
また、レベリング剤、ワックス、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、染料、顔料、シリカ等のフィラー、シランカップリング剤、金属微粒子、帯電防止剤、導電剤等の各種の添加剤をさらに含有させることができる。
【0063】
コーティング剤中の硬化型ポリマーの含有量を、皮膜(硬化膜)成分の50質量%以上とすることが、離型性や撥水・撥油性等の特性がより有効に発揮される硬化膜を形成することができるために好ましい。コーティング剤の粘度は、塗布方法(コーティング方法)に適した任意の粘度に設定すればよい。例えば、フローコートやディップによって塗工する場合には、100mPa・s以下とすることが好ましい。
【0064】
コーティング剤を基材や物品等に塗布した後、活性エネルギー線を照射して硬化させることで、硬化膜を形成することができる。基材等に塗布した後に加熱して揮発成分を除去し、未硬化膜を形成することもできる。形成した未硬化膜に紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成することもできる。紫外線や電子線等は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンアーク、カーボンアーク、LEDランプ等の光源を用いて照射することができる。光照射量は、例えば、100~10,000mJ/cmとすることが好ましく、300~5,000mJ/cmとすることがさらに好ましい。
【0065】
コーティング剤を塗布する方法としては、刷毛塗、スプレー塗装、ディプコート、フローコート、ロール塗、カーテンコート、スピンコート、インクジェット等の方法を挙げることができる。
【0066】
コーティング剤を硬化させて形成される硬化膜の厚さは、0.1~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがさらに好ましい。この範囲の厚さとすることで、十分な硬さであるとともに、耐擦傷性や長期的に安定な密着性を示し、かつ、クラック等の不具合が生じにくい硬化膜とすることができる。
【0067】
コーティング剤を塗布する基材としては、例えば、プラスチック成形体等のポリマー製品、木材系製品、繊維、セラミックス、ガラス、金属、これらの複合物や積層体等を挙げることができる。形成される硬化膜との密着性を向上させるために、コロナ処理、プラズマ処理、化学薬品処理等して基材の表面を活性化してもよい。
【0068】
本発明のコーティング剤を用いれば、離型性、撥水・撥油性、剥離性、防汚性、防水性、耐指紋性、低摩擦性、耐摩耗性、表面ハジキ性、菌・ウイルス付着防止性等の特性を長期にわたって基材等の表面に付与することができる。
なかでも、本発明のコーティング剤は、離型剤として好適に用いることができる。
なかでも、構成単位(ii)が、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位である場合には、特に良好な剥離性を示すので、離型剤としてより好適に用いることができる。
【0069】
また、本発明のコーティング剤は、撥水・撥油剤として好適に用いることができる。なかでも、構成単位(ii)が、数平均分子量900~12,000のポリジメチルシロキサンの片末端(メタ)アクリル変性ポリシロキサンに由来する構成単位である場合には、特に良好な撥水・撥油性を示すので、撥水・撥油剤としてより好適に用いることができる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0071】
<硬化型ポリマーの製造>
(実施例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)300.0部、エチル2-(ブロモメチル)アクリレート(EBMAと略記)9.0部、ステアリルメタクリレート(StMA)120.0部、メチルメタクリレート(MMA)90.0部、及びグリシジルメタクリレート(GMA)90部を入れ、窒素ガスをバブリングしながら撹拌して65℃に加温した。2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フィルム和光純薬社製)(V-65)0.9部を添加した後、65℃で2時間重合した。V-65 0.9部をさらに添加して65℃で5時間重合し、マクロモノマーEM-1の溶液を得た。反応溶液の一部をサンプリングし、水分計を使用して測定した固形分は49.5%(180℃で恒量に達した加熱残分)であり、固形分より算出した重合率は約100%であった。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにて測定したマクロモノマーの数平均分子量(Mn)は7,400であり、ピークトップ分子量(PT)は10,100であり、分散度(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.51であった。
【0072】
撹拌機、逆流コンデンサー、及び温度計を取り付けた反応装置に、マクロモノマーEM-1の溶液161.6部、PGMAc18.4部、酢酸ブチル100.0部、及びステアリルアクリレート(SA)120.0部を入れ、撹拌して65℃に加温した。V-65 3.6部を添加し、65℃で2時間重合した。V-65 1.8部をさらに添加して65℃で5時間重合し、グラフトコポリマーを形成した。90℃に加温して30分間維持し、未反応の重合開始剤を分解させた後に40℃まで冷却した。反応溶液の一部をサンプリングして測定したグラフトコポリマーのMnは13,700であり、PTは20,100であり、PDIは1.88であった。分子量が高分子量側にシフトしたことから、グラフトコポリマーが生成したことがわかる。
【0073】
得られたたグラフトコポリマーの溶液に、4-メトキシフェノール(MEHQ)0.5部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.75部、及びアクリル酸(AA)11.7部を添加し、撹拌して100℃に加温し、4時間反応させて硬化型ポリマーRAG-1を形成した。反応溶液の一部をサンプリングして赤外(IR)吸収を測定したところ、AA由来の炭素-炭素不飽和結合の吸収ピークが観測された。0.1mol/L エタノール性水酸化カリウム溶液を用いる中和滴定によって測定した硬化型ポリマーRAG-1の酸価は1.5mgKOH/gであり、この酸価から算出したAAの反応率は94.0%であった。以上より、マクロモノマー中のグリシジル基にAAがほぼ定量的に反応したことを確認した。得られた硬化型ポリマーRAG-1のMnは14,200であり、PTは21,700であり、PDIは1.85であった。反応溶液にトルエン231.4部を添加して希釈し、硬化型ポリマーRAG-1の溶液(固形分34.3%)を得た。
【0074】
AAの反応率は、以下の手順で算出した。まず、反応が進行していない状態の反応溶液中のAAの酸価を算出する。反応溶液中のAAの量が「0.162/418.35=0.000387mol/g」であることから、AAの酸価は「0.000387×56.11×1000=21.7mgKOH/g」である。そして、硬化型ポリマーRAG-1の酸価は「1.5mgKOH/g」である。以上より、AAの反応率を「(21.7-1.5)/21.7×100=94.0%」と算出することができる。
【0075】
設定不飽和結合当量を算出する方法を、実施例1を例に挙げて説明する。得られた硬化型ポリマー100部中に、GMAとAAの反応物であるGMA・AA(Mw:214.21)が16.5部含まれている。このため、設定不飽和結合当量は「16.5/214.21/100=0.00077031/0.0007703=1,298eq/g」と算出することができる。
【0076】
(実施例2~12)
表1-1、1-2、2、3-1、及び3-2に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして硬化型ポリマーRAG-2~12を得た。表1-1、1-2、2、3-1、及び3-2中の略号の意味を以下に示す。
・ECHMA:3,4-エポキシシクロヘキシルメタクリレート
・VA:べへニルアクリレート
・CA:セチルアクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・TDL:ジラウリン酸スズ
・AOI:2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート
・VMA:ベヘニルメタクリレート
・CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
・HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
・X-22-174BX:片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「X-22-174BX」、信越化学工業社製、分子量2,300)
・X-22-174ASX:片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「X-22-174ASX」、信越化学工業社製、分子量900)
・KF2012:片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「KF2012」、信越化学工業社製、分子量4,600)
・X-22-2426:片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン(商品名「X-22-2426」、信越化学工業社製、分子量12,000)
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
(比較例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び滴下ロートを取り付けた反応装置に、PGMAc150.0部、酢酸ブチル150.0部、及びSA150.0部を入れ、65℃に加温した。別容器に、MMA60.0部、GMA90.0部、及びV-65 1.5部を入れて撹拌し、均一に溶解したモノマー溶液を調製した。反応装置内にモノマー溶液の約半量を投入した後、モノマー溶液の残りを1.5時間かけて滴下した。65℃で6時間重合後、V-65 0.5部を添加し、さらに65℃で2時間重合してポリマーの溶液を得た。90℃に加温して30分間維持し、未反応の重合開始剤を分解させた後、40℃まで冷却した。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は49.8%であり、重合率は約100%であった。得られたポリマーのMnは23,600であり、PTは46,100であり、PDIは2.06であった。
【0083】
得られたポリマーの溶液に、MEHQ1.0部、TDL3.0部、及びAA45.6部を添加し、撹拌して90℃に加温し、4時間反応させて硬化型ポリマーH-1を形成した。反応溶液の一部をサンプリングし、IR吸収を測定したところ、AA由来の炭素-炭素不飽和結合の吸収ピークが観測された。硬化型ポリマーH-1の酸価は1.2mgKOH/gであり、この酸価から算出したAAの反応率は97.8%であった。以上より、ポリマー中のグリシジル基にAAがほぼ定量的に反応したことを確認した。得られた硬化型ポリマーH-1のMnは23,900であり、PTは47,500であり、PDIは2.22であった。反応溶液にトルエン394.8部を添加して希釈し、硬化型ポリマーH-1の溶液(固形分33.9%)を得た。
【0084】
(比較例2及び3)
表4に示す配合としたこと以外は、前述の比較例1と同様にして硬化型ポリマーH-2及びH-3を得た。
【0085】
【0086】
(比較例4及び5)
表5に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして硬化型ポリマーH-4及びH-5を得た。
【0087】
【0088】
<UV硬化型の離型コーティング剤の調製>
(実施例13)
硬化型ポリマーRAG-1の溶液20.0部、ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名「GD785」、DIC社製)50.0部、多官能モノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA))30部、光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、商品名「オムニラッド184」、IGMレジン社製)3部、及びトルエン0.8部を樹脂製の容器に入れた。ディスパーを使用して均一になるまで撹拌して、UV硬化型の離型コーティング剤を得た。
【0089】
(実施例14~28、比較例6~14)
表6-1、6-2、及び7に示す配合(単位:部)としたこと以外は、前述の実施例13と同様にして、UV硬化型の離型コーティング剤を調製した。
【0090】
<評価(1)>
(剥離フィルムの製造)
バーコーター(No.6)を用いて調製したUV硬化型の離型コーティング剤を透明なPETフィルム(厚さ:100μm)に塗布した後、100℃の乾燥機を使用して1分間乾燥させた。次いで、80W/cm高圧水銀灯を使用し、5m/min、1パスの条件でUV照射して硬化させ、剥離フィルムを得た。
【0091】
(剥離応力の測定)
得られた剥離フィルムの塗工面に30mm幅のセロハンテープを貼り付けた。室温(25℃)で1時間放置後に剥離試験機にセットし、引張速度0.3m/minの条件で180°剥離強度(剥離応力(N)、25℃)を測定した。また、その塗工面にセロハンテープを貼り付けた剥離フィルムを150℃のオーブン内で1時間加温した後、室温(25℃)まで冷却した。そして、上記と同様にして180°剥離強度(剥離応力(N)、150℃)を測定した。結果を表6-1、6-2、及び7に示す。
【0092】
(耐摩耗性の評価)
得られた剥離フィルムの塗工面にティッシュペーパーを載置し、荷重500gの条件で10往復擦る摩擦試験を行った。摩擦試験後の剥離フィルムの塗工面を目視にて観察し、以下に示す評価基準にしたがって耐摩耗性を評価した。結果を表6-1、6-2、及び7に示す。
○:全く変化しなかった。
△:若干傷がついた。
×:半分以上剥離した。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
<UV硬化型の撥水コーティング剤の調製>
(実施例29)
硬化型ポリマーRAG-10の溶液50部、ウレタンアクリレートオリゴマー(GD785)50部、紫外線吸収剤(商品名「チヌビン400」BASF社製)1.0部、光重合開始剤(オムニラッド184)3部、及びトルエン6.6部を樹脂製の容器に入れた。ディスパーを使用して均一になるまで撹拌して、UV硬化型の撥水コーティング剤を得た。
【0097】
(実施例30及び31、比較例15)
表8に示す配合(単位:部)としたこと以外は、前述の実施例29と同様にして、UV硬化型の撥水コーティング剤を調製した。
【0098】
<評価(2)>
(撥水性評価用フィルム製造)
バーコーター(No.6)を用いて調製したUV硬化型の撥水コーティング剤を透明なPETフィルム(厚さ:100μm)に塗布した後、100℃の乾燥機を使用して1分間乾燥させた。次いで、80W/cm高圧水銀灯を使用し、5m/min、1パスの条件でUV照射して硬化させ、撥水性評価用フィルムを得た。
【0099】
(撥水性の評価)
得られた撥水性評価用フィルムを分度器が設置された架台に取り付けた。ピペットを用いてフィルムの塗工面に水50μLを滴下した。架台を徐々に傾斜させ、水滴が滑落する角度(初期滑落角(°))を測定した。結果を表8に示す。
【0100】
(耐候性の評価)
スーパーキセノンウェザーメーターを使用して、得られた撥水評価用フィルムの塗工面に500時間光照射した。その後、上記の「撥水性の評価」を実施し、水滴が滑落する角度(光照射後滑落角度(°))を測定した。結果を表8に示す。
【0101】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の活性エネルギー線硬化型(メタ)アクリレートポリマーは、例えば、自動車、建築物、外壁、船舶、道路、太陽光発電機等の保護用や意匠用のコーティング剤の材料として有用である。