(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】蓄熱管理システム
(51)【国際特許分類】
B60L 58/24 20190101AFI20250220BHJP
B60H 1/08 20060101ALI20250220BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
B60L58/24
B60H1/08 611Z
B60H1/22 651A
B60H1/22 671
(21)【出願番号】P 2021154274
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 渉
(72)【発明者】
【氏名】高沢 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正亮
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】清水 宣伯
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037178(JP,A)
【文献】特開2015-191703(JP,A)
【文献】国際公開第2021/177057(WO,A1)
【文献】特開2015-179609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/24
B60H 1/08
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源で発生した温熱又は冷熱を蓄熱する蓄熱部と、
循環する熱媒体が前記蓄熱部と熱交換する熱媒体回路と、
前記熱媒体回路に対して、前記蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モードと前記蓄熱部に蓄えられた熱を利用する蓄熱利用モードの切替え制御を行う制御部とを備える蓄熱管理システムであって、
前記制御部は、
前記蓄熱部の温度に基づいて、前記蓄熱モードから前記蓄熱利用モードに切替える第1切替え閾値と、前記蓄熱利用モードから前記蓄熱モードに切替える第2切替え閾値の一方又は両方を変更
し、
前記蓄熱部の温度が管理温度範囲内にある場合に、外気温度と前記蓄熱部の温度に基づいて、制御モードを前記蓄熱モード又は前記蓄熱利用モードに設定し、
前記第1切替え閾値と前記第2切替え閾値の間に、前記切替え制御を行うモード切替え領域を設定し、
前記蓄熱モード又は前記蓄熱利用モードにおける前記蓄熱部の温度を予測し、
予測した前記蓄熱部の温度に基づいて、前記第1切替え閾値又は前記第2切替え閾値の変更を行い、
予測した前記蓄熱部の温度に基づいて、
切替え後の制御モードを設定時間だけ維持できるように前記第1切替え閾値又は前記第2切替え閾値の変更を行うことを特徴とする蓄熱管理システム。
【請求項2】
熱源で発生した温熱又は冷熱を蓄熱する蓄熱部と、
循環する熱媒体が前記蓄熱部と熱交換する熱媒体回路と、
前記熱媒体回路に対して、前記蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モードと前記蓄熱部に蓄えられた熱を利用する蓄熱利用モードの切替え制御を行う制御部とを備える蓄熱管理システムであって、
前記制御部は、
前記蓄熱部の温度に基づいて、前記蓄熱モードから前記蓄熱利用モードに切替える第1切替え閾値と、前記蓄熱利用モードから前記蓄熱モードに切替える第2切替え閾値の一方又は両方を変更し、
前記蓄熱部の温度が管理温度範囲内にある場合に、外気温度と前記蓄熱部の温度に基づいて、制御モードを前記蓄熱モード又は前記蓄熱利用モードに設定し、
前記第1切替え閾値と前記第2切替え閾値の間に、前記切替え制御を行うモード切替え領域を設定し、
前記蓄熱モード又は前記蓄熱利用モードにおける前記蓄熱部の温度を予測し、
予測した前記蓄熱部の温度に基づいて、前記第1切替え閾値又は前記第2切替え閾値の変更を行い、
前記蓄熱モードを継続して設定時間後の前記蓄熱部の温度を予測し、予測した前記蓄熱部の温度が、設定非切替え温度を超えない場合に、
現在の前記蓄熱部の温度を前記第1切替え閾値に設定する蓄熱管理システム。
【請求項3】
熱源で発生した温熱又は冷熱を蓄熱する蓄熱部と、
循環する熱媒体が前記蓄熱部と熱交換する熱媒体回路と、
前記熱媒体回路に対して、前記蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モードと前記蓄熱部に蓄えられた熱を利用する蓄熱利用モードの切替え制御を行う制御部とを備える蓄熱管理システムであって、
前記制御部は、
前記蓄熱部の温度に基づいて、前記蓄熱モードから前記蓄熱利用モードに切替える第1切替え閾値と、前記蓄熱利用モードから前記蓄熱モードに切替える第2切替え閾値の一方又は両方を変更し、
前記蓄熱部の温度が管理温度範囲内にある場合に、外気温度と前記蓄熱部の温度に基づいて、制御モードを前記蓄熱モード又は前記蓄熱利用モードに設定し、
前記第1切替え閾値と前記第2切替え閾値の間に、前記切替え制御を行うモード切替え領域を設定し、
現在の前記蓄熱部の温度に基づいて、切替え後の制御モードで設定切替え温度に達するまでの時間を予測し、予測した時間が設定時間を超える場合に、現在の前記蓄熱部の温度を前記第1切替え閾値に設定する蓄熱管理システム。
【請求項4】
前記制御部は、
前記蓄熱利用モードに切替えて設定時間後の前記蓄熱部の温度を予測し、予測した前記蓄熱部の温度が、設定切替え温度を超えない場合に、現在の前記蓄熱部の温度を前記第1切替え閾値に設定することを特徴とする請求項
1記載の蓄熱管理システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記蓄熱利用モードに切替えて第1設定時間後の前記蓄熱部の温度を予測し、予測した前記蓄熱部の温度が、設定切替え温度を超えた場合には、
前記蓄熱利用モードに切替えて前記第1設定時間より短い第2設定時間後の予測した前記蓄熱部の温度が前記設定切替え温度を超えない場合であって、且つ前記蓄熱モードを継続して第3設定時間後の予測した前記蓄熱部の温度が設定非切替え温度を超えない場合に、
現在の前記蓄熱部の温度を前記第1切替え閾値に設定することを特徴とする請求項
1記載の蓄熱管理システム。
【請求項6】
前記制御部は、
蓄熱利用ニーズを予測し、その予測結果に基づいて、前記第1切替え閾値又は前記第2切替え閾値の変更を行うことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【請求項7】
前記蓄熱利用ニーズが有ると予測した場合、前記蓄熱利用モードから前記蓄熱モードへの移行を早めるように前記第2切替え閾値を変更することを特徴とする請求項
6記載の蓄熱管理システム。
【請求項8】
前記熱源は、電動車両駆動用のモーターを含み、
前記蓄熱部は、前記モーターに給電するバッテリを含む
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【請求項9】
前記熱源は、ヒートポンプ式の冷媒回路を含み、
前記熱媒体回路は、前記冷媒回路を循環する冷媒と前記熱媒体回路を循環する熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項記載の蓄熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱と蓄熱の利用とを適正に管理する蓄熱管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両(EV:Electric Vehicle)などにおける熱管理システムは、駆動電源であるバッテリの温調を行いながら、このバッテリを蓄熱部として利用することが行われている(下記特許文献1参照)。バッテリに蓄えられた熱は、バッテリ温調用の熱媒体回路(所謂チラー)を介してヒートポンプ(冷媒回路)の冷媒と熱交換することで、空調などに利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両などでは、駆動用のモーターやパワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)などが発熱部(熱源)になるが、これら発熱部の排熱を直接ヒートポンプに吸熱させるのではなく、一度バッテリなどに蓄熱することで、排熱利用の効率を高めることができる。
【0005】
このように発熱部の排熱をバッテリに蓄熱する場合、バッテリ温調用の熱媒体回路は、発熱部から排熱を回収してバッテリに蓄熱する蓄熱モードと、バッテリに蓄えらえた熱を冷媒回路に吸熱させるなどして利用する蓄熱利用モードとを切替えることが必要になる。この際、蓄熱を無駄なく利用するには、切替えのタイミングを様々な状況に応じて適正に設定することが求められる。
【0006】
また、熱媒体回路に対する蓄熱モードと蓄熱利用モードの切替えは、バッテリの温度が適温の範囲内に管理されていることを前提にすべきである。バッテリに蓄えられた熱をヒートポンプの吸熱に利用する際には、吸熱量が大きいとバッテリの温度が急激に低下することになる。このような場合、バッテリの温度を適温の範囲内に管理するには、蓄熱モードから蓄熱利用モードに切替えた後、速やかに蓄熱モードに切替えることが必要になる。そうした場合、熱媒体回路の流路切替えが短い時間間隔で繰り返されることがあり、熱媒体回路の切替えロスの発生や頻繁な切替えに伴う切替え弁の寿命への悪影響が懸念される。
【0007】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、熱媒体回路に対して蓄熱モードと蓄熱利用モードの切替えを行う蓄熱管理システムにおいて、蓄熱部の温度を適正な管理温度範囲に保ちながら蓄熱を無駄なく利用できるようにすること、モード切替えが頻繁に行われることを避けることで、熱媒体回路の切替えロスや切替え弁の寿命への悪影響を抑制すること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明による蓄熱管理システムは、以下の構成を具備するものである。
熱源で発生した温熱又は冷熱を蓄熱する蓄熱部と、循環する熱媒体が前記蓄熱部と熱交換する熱媒体回路と、前記熱媒体回路に対して、前記蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モードと前記蓄熱部に蓄えられた熱を利用する蓄熱利用モードの切替え制御を行う制御部とを備える蓄熱管理システムであって、前記制御部は、前記蓄熱部の温度に基づいて、前記蓄熱モードから前記蓄熱利用モードに切替える第1切替え閾値と、前記蓄熱利用モードから前記蓄熱モードに切替える第2切替え閾値の一方又は両方を変更することを特徴とする蓄熱管理システム。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する蓄熱管理システムは、熱媒体回路に対して蓄熱モードと蓄熱利用モードの切替え制御を行うに際して、蓄熱部の温度に基づいて、蓄熱モードから蓄熱利用モードに切替える第1切替え閾値と、蓄熱利用モードから蓄熱モードに切替える第2切替え閾値の一方又は両方を変更することで、蓄熱部の温度を適正な管理温度範囲に保ちながら蓄熱を無駄なく利用することができ、また、モード切替えが頻繁に行われることを避けて、熱媒体回路の切替えロスや切替え弁の寿命への悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る蓄熱管理システムの概略構成を示した説明図。
【
図2】熱媒体回路の流路切替えモードを示す説明図((a)が発熱部と蓄熱部間で循環する流路切替えモードを示し、(b)が蓄熱部と熱利用部間で循環する流路切替えモードを示す。)。
【
図3】蓄熱管理システムにおける制御装置のハードウェア構成を説明する説明図。
【
図4】蓄熱管理システムの制御装置が備える制御マップの例を示した説明図((a)が暖房運転時の制御マップ、(b)が冷房運転時の制御マップ。)。
【
図5】(a)が暖房運転時の切り替え制御を示し、(b)が冷房運転時の切り替え制御を示した説明図。
【
図6】制御装置が実行する制御のメインフローを示した説明図。
【
図7】予測制御(蓄熱量最適化制御)のサブフロー(暖房運転時)を示した説明図。
【
図8】予測制御(蓄熱部最適化制御)のサブフロー(冷房運転時)を示した説明図。
【
図9】(a)が条件A(ステップS12)の説明図。(b)が条件B1(ステップS13A)の説明図。(c)が条件B2(ステップS13B)の説明図。
【
図10】(a)が条件C(ステップS21)の説明図。(b)が条件D1(ステップS22A)の説明図。(c)が条件D2(ステップS22B)の説明図。
【
図11】蓄熱管理システムのシステム構成例(蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱))の説明図。
【
図12】蓄熱管理システムのシステム構成例(蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱))の説明図。
【
図13】蓄熱管理システムのシステム構成例(蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱))の説明図。
【
図14】蓄熱管理システムのシステム構成例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0012】
(基本構成)
図1に示すように、蓄熱管理システム1は、EVなどにおいて、熱源が発生する温熱又は冷熱を蓄熱しながら管理するものであり、発熱部2、蓄熱部3、熱利用部4、制御部5、熱媒体回路10を備えている。
【0013】
発熱部2は、EVにおいては駆動中に熱(排熱)を発生するモーターやPCUなど、暖房時等に積極的に発熱するヒータ(PCT(Positive Temperature Coefficient)ヒータなど)などを含めることができる。また、運転中に凝縮器(放熱器)から熱を放出するヒートポンプ式の冷媒回路を発熱部2とすることができる。発熱部2が駆動中に発生する熱は、蓄熱管理システム1における熱源の一つになる。
【0014】
蓄熱部3は、熱源が発生した熱を蓄える熱容量の大きい部位であり、EVにおける駆動用のバッテリなどが蓄熱部3に含まれる。また、熱媒体回路10に熱媒体を貯留するタンクを設けて、そこを蓄熱部3にすることもできる。
【0015】
熱利用部4は、蓄熱部3に蓄えた熱を利用するために設けられる。熱利用部4は、蒸発器(吸熱器)によって蓄熱された熱を吸熱するヒートポンプ式の冷媒回路、車室内の空調を行う車室内空調装置、外気と熱交換する外部熱交換器などを含む。ここで、ヒートポンプ式の冷媒回路は、蓄熱管理システム1における熱源の一つであり、前述した発熱部2にも成り得るし、熱利用部にも成り得る。
【0016】
制御部5は、熱媒体回路10の流路を、蓄熱部3に熱を蓄える蓄熱モードから蓄熱部3に蓄えらえた熱を熱利用部4にて利用する蓄熱利用モードに切替える、或いはその逆に、前述した蓄熱利用モードから前述した蓄熱モードに切替える切替え制御を行う。制御部5は、制御装置100と制御装置100によって熱媒体回路10の流路を切替える流路切替え弁V1,V2などを備える。
【0017】
熱媒体回路10は、循環する熱媒体が前述した熱源や蓄熱部3と熱交換することで、蓄熱部3に熱を蓄える蓄熱モードと蓄熱部3に蓄えらえた熱を熱利用部4にて利用する蓄熱利用モードの各制御モードを実行する。熱媒体回路10は、発熱部2や蓄熱部3や熱利用部4と熱媒体とが熱交換するための熱交換部(熱交換器)10A,10B,10Cを備え、熱媒体を循環させるためのポンプPを備える。
【0018】
熱媒体回路10の切替え制御は、例えば、
図2に示すように行われる。
図2(a)に示した熱媒体回路の流路切替え状態(制御モード)は、発熱部2で発生した温熱を蓄熱部3に蓄える蓄熱モード(温熱)になり、蓄熱部3に蓄えられた冷熱で発熱部2を冷却する蓄熱利用モード(冷熱)になる。また、
図2(b)に示した熱媒体回路の流路切替え状態(制御モード)は、蓄熱部3に蓄えられた温熱を熱利用部4の冷媒回路に吸熱させる蓄熱利用モード(温熱)になり、熱利用部4の冷媒回路の吸熱で発生する冷熱を蓄熱部3に蓄える蓄熱モード(冷熱)になる。
【0019】
蓄熱モードとしては、例えば、動作時に凝縮器(放熱器)から温熱を放熱する冷媒回路を発熱部2とし、暖房運転時の余剰熱を蓄熱部3に蓄熱することができる。また、蓄熱利用モードとしては、冷媒回路を熱利用部4とし、蓄熱部3の温熱を蒸発器(吸熱器)で吸熱して暖房運転することができ、外気と熱交換する外部熱交換器(ラジエータ)を熱利用部4とし、蓄熱部3の温熱で除霜を行うこともできる。
【0020】
蓄熱モードと蓄熱利用モードの切替え制御は、EVにおいて空調が暖房運転を行っている場合には、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の切替え制御になり、EVにおいて空調が冷房運転を行っている場合には、蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の切替え制御になる。
【0021】
前述した制御部5における制御装置100のハードウェア構成を、EVに設置される場合を例にして説明する。
図3に示すように、蓄熱管理システム1における制御装置100は、EVの制御を行う各種ECU(Electronic Control Unit)に車載ネットワークLを介して接続された一つのECUとして構成される。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、入出力I/F(Interface)104、外部I/F(Interface)105などを備え、各ハードウェアは、バスを介して相互に接続されている。
【0022】
CPU101は、ROM102に記憶されている各種プログラムを実行することにより、後述する制御装置100の制御を実行する。ROM102は、不揮発性メモリである。例えば、ROM102は、CPU101により実行されるプログラム、CPU101がプログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM103は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等の主記憶装置である。例えば、RAM103は、CPU101がプログラムを実行する際に利用する作業領域として機能する。入出力I/F104は、EVに設置される各種センサやモニタに接続され、CPU101にデータを入力すると共に、CPU101が演算処理したデータを出力する。外部I/F105は、車載ネットワークLに接続されることで、EVに設定された他のECUとのデータ送受信を制御する。
【0023】
制御装置100は、入出力I/F104や外部I/F105を介して外気温度やバッテリ温度など、或いはEVの運転状況に関するデータが入力されることで、CPU101が実行するプログラムによって、以下に示す切替え制御を実行する。以下の説明では、蓄熱部3としてEV駆動用のバッテリを例にして説明するが、本発明の実施形態としてはこれに限定されるものではない。
【0024】
(制御マップ)
制御装置100は、例えば、
図4に示す制御マップを備えている。制御マップは、蓄熱部3の状態(温度)に基づいて制御モードの初期設定を行うものであり、図示の例では、制御装置100に入力される外気温度とバッテリ温度に基づいて、各制御モードを設定する。この際、蓄熱部3であるバッテリの温度には、管理温度範囲が設定されており、管理温度範囲の上限(例えば、40℃)を超えると、バッテリを冷却するように熱媒体回路10を制御し、管理温度範囲の下限(例えば、10℃)を下回ると、バッテリを加熱するように熱媒体回路10を制御する。
【0025】
図4において、(a)は、暖房運転時の制御マップであり、外気温度が設定された暖房使用上限温度より低い場合に適用され、(b)は、冷房運転時の制御マップであり、外気温度が設定された冷房使用下限温度より高い場合に適用される。
【0026】
図4(a)に示した制御マップを適用する場合は、暖房運転時にバッテリ温度が管理温度範囲内にある場合であり、現在の外気温度とバッテリ温度に基づいて、熱媒体回路10の制御モードを、バッテリに温熱を蓄える蓄熱モード(温熱)にするか、バッテリに蓄えた温熱を利用する蓄熱利用モード(温熱)にするかの設定を行う。
【0027】
同様に、
図4(b)に示した制御マップを適用する場合は、冷房運転時にバッテリ温度が管理温度範囲内にある場合であり、現在の外気温度とバッテリ温度に基づいて、熱媒体回路10の制御モードを、バッテリに冷熱を蓄える蓄熱モード(冷熱)にするか、バッテリに蓄えた冷熱を利用する蓄熱利用モード(冷熱)にするかの設定を行う。
【0028】
この制御マップにおいては、バッテリ温度が管理温度範囲内の目標温度になるように、モード切替え領域が設定されている。モード切替え領域は、切替え領域上限と切替え領域下限の間の領域であって、切替え領域上限と切替え領域下限は、バッテリを温調する際の目標温度の上限値と下限値になる。
【0029】
具体的には、切替え領域上限と切替え領域下限は、外気温度に応じて設定され、切替え領域上限は、バッテリ温度(目標温度)=外気温度+第1設定温度になり、切替え領域下限は、バッテリ温度(目標温度)=外気温度+第2設定温度になる。この際、
図4(a)に示す暖房運転時には、例えば、外気温度0℃で第1設定温度を15℃~20℃、第2設定温度を10℃とし、
図4(b)に示す冷房運転時には、例えば、外気温度35℃で第1設定温度を-10℃、第2設定温度を-20℃とする。
【0030】
制御マップにおけるモード切替え領域は、モード切替えの制御を行う際のデフォルト値(初期値)であり、この際、第1設定温度と第2設定温度との差は、例えば、5℃~10℃の範囲に設定されている。
【0031】
バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合に、現在の外気温度とバッテリ温度が、切替え領域上限を上回る場合には、
図4(a)に示す暖房運転時の制御マップでは、蓄熱利用モード(温熱)が設定され、
図4(b)に示す冷房運転時の制御マップでは、蓄熱モード(冷熱)が設定される。また、バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合に、現在の外気温度とバッテリ温度が、切替え領域下限を下回る場合には、
図4(a)に示す暖房運転時の制御マップでは、蓄熱モード(温熱)が設定され、
図4(b)に示す冷房運転時の制御マップでは、蓄熱利用モード(冷熱)が設定される。
【0032】
図4(a)に示した暖房運転時の制御マップにおいて、蓄熱モード(温熱)が設定されると、バッテリ温度は蓄温熱によって徐々に上昇し、蓄熱利用モード(温熱)が設定されると、バッテリ温度は蓄温熱の利用によって徐々に低下する。また、
図4(b)に示した冷房時の制御マップにおいて、蓄熱モード(冷熱)が設定されると、バッテリ温度は蓄冷熱によって徐々に低下し、蓄熱利用モード(冷熱)が設定されると、バッテリ温度は蓄冷熱の利用によって徐々に上昇する。したがって、バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合に、蓄熱モードと蓄熱利用モードのいずれかが設定され、その制御モードが維持又は適宜切替えられることで、バッテリ温度は、モード切替え領域内に入り、目標温度に調整される。
【0033】
ここで、蓄熱モードから蓄熱利用モードへの切替えが行われる閾値を第1切替え閾値とし、蓄熱利用モードから蓄熱モードへの切替えが行われる閾値を第2切替え閾値として、切替え制御の「基本制御」と「予測制御」を説明する。
【0034】
(基本制御)
基本制御は、制御マップにおいてデフォルト値として設定されている切替え領域上限と切替え領域下限を第1切替え閾値又は第2切替え閾値とする。すなわち、
図4(a)に示した暖房運転時の制御マップでは、蓄熱モード(温熱)から蓄熱利用モード(温熱)に切替えられる第1切替え閾値が切替え領域上限になり、蓄熱利用モード(温熱)から蓄熱モード(温熱)に切替えられる第2切替え閾値が切替え領域下限になる。また、
図4(b)に示した冷房運転時の制御マップでは、蓄熱モード(冷熱)から蓄熱利用モード(冷熱)に切替えられる第1切替え閾値が切替え領域下限になり、蓄熱利用モード(冷熱)から蓄熱モード(冷熱)に切替えられる第2切替え閾値が切替え領域上限になる。この際、制御マップに基づいて、第1切替え閾値と第2切替え閾値は、外気温度の変化に応じて変更される。
【0035】
このような基本制御では、外気温度に応じた切替え制御が可能になるが、EV走行に伴う様々な状況に対応した制御がなされないので、蓄熱と蓄熱利用を最適化した制御にはならない場合がある。すなわち、発熱部2における発熱量(例えば、モーターやPCUの排熱量)や熱利用部4のヒートポンプ式冷媒回路の吸熱量は、EVの運転状況に応じて変化するので、蓄熱や蓄熱利用に伴うバッテリ温度の変化度合いがEVの運転状況に依存することになり、基本制御では最適のタイミングで切替え制御を行うことができない場合がある。
【0036】
より具体的に、暖房運転時の切替え制御を例にして説明すると、ヒートポンプ式冷媒回路の吸熱量が小さい場合には、蓄熱利用モードにおけるバッテリ温度の低下が緩やかになることから、冷媒回路の蓄熱利用運転と外気吸熱運転の切替えサイクルが長くなり、十分に蓄熱の利用がなされないうちに目的に到着してしまい、バッテリの蓄熱が残る場合が起こりうる。また、冷媒回路の吸熱量が大きい場合には、蓄熱利用モードにおけるバッテリ温度の低下が急峻になることから、冷媒回路の蓄熱利用運転と外気吸熱運転の切替えサイクルが短くなり、熱媒体回路10の切替えロスの発生や流路切替え弁V1,V2の弁寿命に悪影響を与える場合がある。これは、発熱部2の発熱量がEVの運転状況に応じて変化する場合も同様である。
【0037】
また、基本制御では、EVの運転状況に対応した切替え制御の切替えタイミングが考慮されていないので、必要な時に蓄熱利用モードへの切替えが行えないだけでなく、蓄熱利用モードへの切替えを行いたくても蓄熱部3に十分な熱が蓄えられていない場合がある。例えば、EVの低速走行時には冷媒回路の外気吸熱運転の成績係数(COP:Coefficient of Performance)が低下するので、蓄熱利用モードでの運転が好ましく、また、EVの高速走行時はグリルを閉じると空力が上がるので、この場合も蓄熱利用モードでの運転が好ましいが、基本制御では、低速・高速走行時に合わせた蓄熱利用モードへの自動切替えができず、蓄熱利用モードへの切替えを行いたくても十分な蓄熱がなされていない状況が生る場合がある。
【0038】
(予測制御)
これに対して、予測制御は、制御マップにて設定されている切替え領域上限と切替え領域下限を初期設定として、EVの運転状況に基づいて、蓄熱部3の蓄熱状態を予測し、予測した蓄熱部3の蓄熱状態に基づいて、前述した第1切替え閾値と第2切替え閾値の一方又は両方を設定する。予測制御を行うことで、切替え制御の最適化が可能になる。
【0039】
より具体的には、予測制御では、基本制御におけるモード切替え領域(切替え領域上限と切替え領域下限)を初期設定(デフォルト)にして、EVの運転状況に基づいて、バッテリ温度を予測し、予測したバッテリ温度の変化に対して第1切替え閾値又は第2切替え閾値を設定して、設定した第1切替え閾値と第2切替え閾値の間で制御モードの切替えを行って、その間でバッテリ温度の調整を行う。
【0040】
予測制御において、蓄熱モードと蓄熱利用モードの切替え制御を最適化する際に考慮すべき事項としては、以下の事項を挙げることができる。
【0041】
(1)管理温度範囲内にバッテリ温度が保持されることを前提にして、設定した制御モードを一定時間だけ維持できる場合。
(2)蓄熱モードを設定した場合に、蓄温熱では有効なバッテリ温度の上昇が得られ、蓄冷熱では有効なバッテリ温度の低下が得られる場合。
(3)蓄熱利用モードを設定した場合に、蓄温熱利用では有効なバッテリ温度の低下が得られ、蓄冷熱利用では有効なバッテリ温度の上昇が得られる場合。
(4)今後、蓄熱利用のニーズが高まる場合。
【0042】
予測制御では、このような事項を考慮して、基本制御におけるモード切替え領域を初期設定として、予測されたバッテリ温度に基づく第1切替え閾値と第2切替え閾値の間にモード切替え領域を設定する。そして、EVの運転状況に応じて第1切替え閾値と第2切替え閾値を変更することで、モード切替え領域を適宜変更し、バッテリ温度を、変更したモード切替え領域の温度範囲に制御する。
【0043】
この際、
図5(a),(b)に示すように、蓄熱モード(温熱,冷熱)から蓄熱利用モード(温熱,冷熱)に切替えられる第1切替え閾値は、例えば図示のように、デフォルト値である切替え領域上限を超えて設定される場合があり、蓄熱利用モード(温熱,冷熱)から蓄熱モード(温熱,冷熱)に切替えられる第2切替え閾値は、例えば図示のように、デフォルト値である切替え領域下限にバッテリ温度が達する前に設定される場合がある。
【0044】
第1切替え閾値をデフォルト値から変更する場合の制御例としては、熱利用部4での蓄熱利用の要求が大きく、基本制御ではモード切替え回数が増えてしまうことを抑制するために、デフォルト値を超える第1切替え閾値を設定して、蓄熱部3の蓄熱容量を増やす場合と、発熱部2の発熱量が少なく、基本制御ではデフォルト値まで蓄熱することができない状況に対して、デフォルト値を超えない第1切替え閾値を設定して蓄熱利用モードへの切替えタイミングを早め、蓄熱利用できないまま無駄に蓄熱することを抑制する場合などがある。
【0045】
また、第2切替え閾値をデフォルト値から変更する場合の制御例としては、デフォルト値を超えない第2切替え閾値を設定して、蓄熱利用モードにて蓄熱を使い切る前に蓄熱モードに切替えることで、蓄熱利用タイミングに合わせた適切な蓄熱量の確保を可能にする場合と、デフォルト値を超える第2切替え閾値を設定して蓄熱モードへの切り替えを遅らせ、この後に蓄熱利用する機会がない場合(例えば、目的地への到達が近い場合)に、蓄熱を使い切ることで蓄熱利用の最適化を図る場合などがある。
【0046】
制御装置100が行うバッテリ温度の予測は、制御装置100に入力される現在又は過去の各種データ(EVの運転状況データ、周辺環境データ、空調制御における目標値など)、或いは制御装置100がネットワークを介して参照するビックデータなどに基づき、AI予測など、既存の予測アルゴリズムを用いて実行することができる。
【0047】
(制御フロー)
制御装置100が前述した予測制御を行う際の制御フローの一例を説明する。
図6に示すメインフローの一制御サイクルでは、制御開始後に、適宜の初期化処理(ステップS01)を行った後、入力されたバッテリ温度が管理温度範囲内であるか否かを判断する(ステップS02)。バッテリ温度が管理温度範囲内から外れている場合(ステップS02:NO)、管理温度上限(例えば、40℃)を超えているか否かを判断し(ステップS03)、管理温度を超えている場合(ステップS03:YES)、バッテリを冷却する制御モードを実行する(ステップS04)。また、バッテリ温度が管理温度範囲内から外れていて(ステップS02:NO)、管理温度上限を超えていない場合(ステップS03:NO)、管理温度の下限を下回っていることになるので、バッテリを加熱する制御モードを実行する(ステップS05)。
【0048】
バッテリ温度が管理温度範囲内である場合には(ステップS02:YES)、入力されたバッテリ温度と外気温度等に基づいて制御モードを設定(蓄熱モードか蓄熱利用モードかの設定)する(ステップS06)。そして、設定した制御モードでバッテリ温度の変化をみて、バッテリ温度がモード切替え領域の初期設定に入るまでステップS02,S06を繰り返し(ステップS07:NO)、バッテリ温度がモード切替え領域の初期設定に入ったら、前述した予測制御(蓄熱量最適化制御)のサブフローに入る(ステップS08)。
【0049】
図7及び
図8に示す予測制御のサブフローでは、制御開始後、空調の運転状況が判断され、暖房運転の場合(ステップS10:暖房)、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の切替え制御を行い、冷房運転の場合(ステップS10:冷房)、
図8に示すフロー(「ステップ1」以下のフロー)で、蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の切替え制御を行う。
【0050】
暖房運転の場合、設定されている制御モードが蓄熱モード(温熱)であるか否か判断し(ステップS11)、蓄熱モード(温熱)である場合(ステップS11:YES)、予測制御を行うための条件A,B1,B2の判断を行う(ステップS12,S13A,S13B)。
【0051】
ここでの条件Aは、一例として、予測したバッテリ温度に基づいて、切替え後の制御モードが設定時間維持されるか否かを判断する。具体的には、
図9(a)に示すように、現在、制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、第1設定時間(例えば、10分程度)経過後のバッテリ温度予測値が、設定切替え温度を超えない場合(ステップS12:YES)、その時点で蓄熱モード(温熱)から蓄熱利用モード(温熱)への切替えを行い、現在のバッテリ温度を第1切替え閾値(温熱)とする(ステップS14)。ここでの設定切替え温度は、制御の目的に応じて任意に設定することができる温度であり、一例としては、前述した第2切替え閾値(温熱)とすることもできる。
【0052】
条件Aでは、蓄熱利用モードに切替えた場合に、蓄熱利用が所定時間継続できるか否かを判断しているので、前述の判断に替えて、現在、制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して、バッテリ温度が設定切替え温度に達するまでの時間を予測し、その予測時間が第1設定時間(例えば、10分程度)を超えるか否かを判断するようにしてもよい。
【0053】
条件Aを満足する場合(ステップS12:YES)、現在のバッテリ温度が第1切替え閾値に設定されるが、バッテリ温度の予測によって条件Aを満足するタイミングは異なるので、設定される第1切替え閾値は、バッテリ温度の今後の変化に応じて異なる値に変更される。
【0054】
条件Aを満足しない場合(ステップS12:NO)、直接ステップS15に移行して、現在の蓄熱モード(温熱)を継続するようにしても良いが、ここでは、条件Aを満足しない場合に、条件B1と条件B2の判断を行い、両方を満足する場合(ステップS13A:YES且つステップS13B:YES)、ステップS14(蓄熱利用モード(温熱)への切替え)に移行し、条件B1と条件B2の何れかを満足しない場合(ステップS13A:NO又はステップS13B:NO)、ステップS15(蓄熱モード(温熱)の継続)に移行する。
【0055】
ここでの条件B1は、例えば、
図9(b)に示すように、現在、制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、前述した第1設定時間(例えば、10分程度)より短い第2設定時間(例えば、5分程度)経過後のバッテリ温度予測値が、設定切替え温度を超えるか否かを判断する。第2設定時間経過後のバッテリ温度予測値が設定切替え温度を超えない場合(ステップS13A:YES)、制御モードを切替えた後に第1設定時間の継続はできないが、第2設定時間の継続が可能であると判断できる。
【0056】
そして、条件B2は、例えば、
図9(c)に示すように、蓄熱モード(温熱)を継続したと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、第3設定時間(例えば、第2設定時間より長い10分程度)後のバッテリ温度予測値が、設定非切替え温度を超えるか否かの判断を行う。ここでは、蓄熱モード(温熱)を継続した場合に十分なバッテリ温度の上昇(即ち蓄熱量)が得られるか否かを判断し、十分なバッテリ温度の上昇(蓄熱量)が得られない(第3設定時間後のバッテリ温度予測値が設定非切替え温度を超えない)場合(ステップS13A:YES)、ステップS14(蓄熱利用モード(温熱)への切替え)に移行し、十分な蓄熱量が得られる(第3設定時間後のバッテリ温度予測値が設定非切替え温度を超える)場合、ステップS15(蓄熱モード(温熱)の継続)に移行する。ここでの設定非切替え温度は、制御の目的に応じて、第1切替え閾値(温熱)未満で任意に設定することができる温度である。なお、条件B2は、単独で蓄熱モード(温熱)から蓄熱利用モード(温熱)へ切替える第1切替え閾値の設定条件として用いることができる。
【0057】
ここで、条件B1も条件Aと同様に、蓄熱利用モードに切替えた場合に、蓄熱利用が所定時間継続できるか否かを判断しているので、前述の判断に替えて、現在、制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して、バッテリ温度が設定切替え温度を超えるまでの時間を予測し、その予測時間が第2設定時間を超えるか否かを判断するようにしてもよい。
【0058】
現在設定されている制御モードが蓄熱利用モード(温熱)の場合(ステップS11:NO)、蓄熱利用モード(温熱)から蓄熱モード(温熱)に切替える第2切替え閾値の設定は、例えば、今後の予測で蓄熱利用のニーズが有るか否かの判断(ステップS16)によって行うことができる。
【0059】
この際、蓄熱利用のニーズが有ることは、例えば、以下の項目を総合的に判断して決定することができる。
(1)今後、空調負荷が増える。
(2)今後、発熱部2の排熱が減る。
(3)今後、冷媒回路40の効率が減る。
(4)今現在、発熱部2の排熱が増えている。
(5)今現在、空調負荷が増えている。
(6)今現在、冷媒回路40の効率が減っている。
【0060】
そして、蓄熱利用のニーズが有る場合(ステップS16:YES)、第2切替え閾値(温熱)を上げる変更を行うことで(ステップS17A)、蓄熱モード(温熱)に切替わるタイミングを早めて蓄熱利用ニーズに応えるための蓄熱量確保を行い、蓄熱利用のニーズが無い場合(ステップS16:NO)、第2切替え閾値(温熱)を下げる変更を行うことで(ステップS17B)、蓄熱モード(温熱)に切替わるタイミングを遅らせて、蓄熱利用による消費電力低減などを享受する。
【0061】
その後は、変更した第2切替え閾値と現在のバッテリ温度を比較し(ステップS18)、現在のバッテリ温度が第2切替え閾値を下回った場合(ステップS18:YES)、蓄熱モード(温熱)への切替えを行い(ステップS15)、現在のバッテリ温度が第2切替え閾値を下回らない場合(ステップS18:NO)、蓄熱利用モード(温熱)を継続する。
【0062】
図8に示す蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の切替え制御を行う制御フローは、基本的は、
図7に示した蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の切替え制御を行う制御フローと同様である。冷房運転時の切替え制御では、蓄熱モード(冷熱)によりバッテリ温度は低下し、蓄熱利用モード(冷熱)によりバッテリ温度は上昇する。
【0063】
冷房運転の場合、設定されている制御モードが蓄熱モード(冷熱)であるか否か判断し(ステップS20)、蓄熱モード(冷熱)である場合(ステップS20:YES)、予測制御を行うための条件C,D1,D2の判断を行う(ステップS21,S22A,S22B)。
【0064】
条件Cは、条件Aと同様に、予測したバッテリ温度に基づいて、切替え後の制御モードが設定時間維持されるか否かを判断する。具体的には、
図10(a)に示すように、現在制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、第1設定時間(例えば、10分程度)経過後のバッテリ温度予測値が設定切替え温度を超えない場合(ステップS21:YES)、その時点で蓄熱モード(冷熱)から蓄熱利用モード(冷熱)への切替えを行い、現在のバッテリ温度を第1切替え閾値(冷熱)とする(ステップS23)。
【0065】
条件Cでは、蓄熱利用モードに切替えた場合に、蓄熱利用が所定時間継続できるか否かを判断しているので、前述の判断に替えて、現在制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して、バッテリ温度が設定切替え温度を超えるまでの時間を予測し、その予測時間が第1設定時間(例えば、10分程度)を超えるか否かを判断するようにしてもよい。
【0066】
条件Cを満足しない場合(ステップS21:NO)、直接ステップS24に移行して、現在の蓄熱モード(冷熱)を継続するようにしても良いが、条件Cを満足しない場合に、条件D1と条件D2の判断を行い、両方を満足する場合(ステップS22A:YES且つステップS22B:YES)、ステップS23(蓄熱利用モード(冷熱)への切替え)に移行し、条件C1と条件C2の何れかを満足しない場合(ステップS22A:NO又はステップS22B:NO)、ステップS24(蓄熱モード(冷熱)の継続)に移行する。
【0067】
条件D1は、
図10(b)に示すように、現在制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、前述した第1設定時間(例えば、10分程度)より短い第2設定時間(例えば、5分程度)経過後のバッテリ温度予測値が設定切替え温度を超えるか否かを判断する。第2設定時間経過後のバッテリ温度予測値が設定切替え温度を超えない場合(ステップS22A:YES)、制御モードを切替えた後に第1設定時間の継続はできないが、第2設定時間の継続が可能であると判断できる。
【0068】
条件D2は、
図10(c)に示すように、蓄熱モード(冷熱)を継続したと仮定して今後のバッテリ温度を予測し、第3設定時間(例えば、第2設定時間より長い10分程度)後のバッテリ温度予測値が設定非切替え温度を超えるか否かの判断を行う。ここでは、蓄熱モード(冷熱)を継続した場合に十分なバッテリ温度の低下(即ち蓄冷熱量)が得られるか否かを判断し、十分なバッテリ温度の低下(蓄冷熱量)が得られない(第3設定時間後のバッテリ温度予測値が設定非切替え温度を超えない)場合(ステップS22A:YES)、ステップS23(蓄熱利用モード(冷熱)への切替え)に移行し、十分な蓄冷熱量が得られる(第3設定時間後のバッテリ温度予測値が設定非切替え温度を超える)場合、ステップS23(蓄熱モード(冷熱)の継続)に移行する。ここでの設定非切替え温度は、制御の目的に応じて、第1切替え閾値(冷熱)より高い温度で任意に設定することができる温度である。
【0069】
ここで、条件D1も条件Cと同様に、蓄熱利用モードに切替えた場合に、蓄熱利用が所定時間継続できるか否かを判断しているので、前述の判断に替えて、現在制御モードを蓄熱利用モードに切替えたと仮定して、バッテリ温度が設定非切替え温度に達するまでの時間を予測し、その予測時間が第2設定時間を超えるか否かを判断するようにしてもよい。
【0070】
現在設定されている制御モードが蓄熱利用モード(冷熱)の場合(ステップS20:NO)、蓄熱利用モード(冷熱)から蓄熱モード(冷熱)に切替える第2切替え閾値の設定は、暖房運転時の制御と同様に、今後の予測で蓄熱利用のニーズが有るか否かの判断(ステップS25)によって行うことができる。
【0071】
そして、蓄熱利用のニーズが有る場合(ステップS25:YES)、第2切替え閾値(冷熱)を下げる変更を行うことで(ステップS26A)、蓄熱モード(冷熱)に切替わるタイミングを早めて蓄熱利用ニーズに応えるための蓄冷熱量確保を行い、蓄熱利用のニーズが無い場合(ステップS25:NO)、第2切替え閾値(冷熱)を上げる変更を行うことで(ステップS25B)、蓄熱モード(冷熱)に切替わるタイミングを遅らせて、蓄熱利用による消費電力低減などを享受する。
【0072】
その後、変更した第2切替え閾値と現在のバッテリ温度を比較して(ステップS27)、現在のバッテリ温度が第2切替え閾値を上回った場合(ステップS27:YES)、蓄熱モード(冷熱)への切替えを行い(ステップS24)、現在のバッテリ温度が第2切替え閾値を上回らない場合(ステップS24:NO)、蓄熱利用モード(冷熱)を継続する。
【0073】
(システム構成例)
図11~
図14は、蓄熱管理システム1(1A~1D)の構成例を示している。各図において、破線は不使用状態の流路を示し、矢印付きの実線が矢印方向に媒体を流す使用状態の流路を示し、灰色塗潰しの弁は閉止状態、灰色塗潰しのポンプは停止状態を示している。
【0074】
図11~
図14に示す構成例は、いずれも、熱利用部4としてヒートポンプ式の冷媒回路40と車室内空調用の車室内空調装置50を備えている。冷媒回路40は、圧縮機41、凝縮器(放熱側熱交換器)42、膨張弁43、蒸発器(吸熱側熱交換器)44を備えている。図において、冷媒回路40の矢印付き太実線は矢印方向に冷媒を流す高圧側の冷媒流路を示し、矢印付きの太二重線は矢印方向に冷媒を流す低圧側の冷媒流路を示している。車室内空調装置50は、車室内の空気と熱交換するために、ヒータコア(内気放熱用熱交換器)51及びクーラーコア(内気吸熱用熱交換器)52を備えている。
【0075】
図11に示した蓄熱管理システム1(1A)は、暖房運転時に蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の切替え制御を行い、冷媒回路40における吸熱に蓄熱を利用するものであり、熱媒体回路10は、制御部5の一部を構成する流路切替え弁V01,V02によって、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の流路切替えを行う。
【0076】
蓄熱管理システム1(1A)の蓄熱モード(温熱)では、熱媒体回路10は、発熱部2と蓄熱部3とで熱交換する熱媒体を循環させる一つの独立回路を形成することで、発熱部2の排熱を蓄熱部3に蓄熱している。また、蓄熱モード(温熱)における熱媒体回路10は、外部熱交換器11と冷媒回路40の蒸発器44との間で熱媒体を循環するもう一つの独立回路を形成することで、冷媒回路40を外気吸熱運転し、冷媒回路40の凝縮器42からの放熱をヒータコア51に供給して暖房運転時の熱源にしている。
【0077】
これに対して、蓄熱管理システム1(1A)の蓄熱利用モード(温熱)では、熱媒体回路10は、発熱部2と外部熱交換器11を迂回する流路を形成して、蓄熱部3に蓄えられた熱を冷媒回路40の蒸発器44にて吸熱させる一つの独立回路を形成することで、冷媒回路40を蓄熱利用運転し、冷媒回路40の凝縮器42からの放熱をヒータコア51に供給して暖房運転時の熱源にしている。
図11には、冷媒回路40を蓄熱モード(温熱)で外気吸熱運転した場合と蓄熱利用モード(温熱)で蓄熱利用運転した場合のモリエル線図を比較して示している。このモリエル線図の比較から分かるように、冷媒回路40を蓄熱利用運転することで、ヒートポンプサイクルの低圧上昇を促し消費電力の低減が可能になる。
【0078】
図12に示した蓄熱管理システム1(1B)は、暖房運転時に蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の切替え制御を行い、蓄熱を直接暖房の熱源として利用するものであり、熱媒体回路10は、制御部5の一部を構成する流路切替え弁V11,V12によって、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の流路切替えを行う。
【0079】
蓄熱管理システム1(1B)の蓄熱モード(温熱)では、熱媒体回路10は、発熱部2と蓄熱部3とで熱交換する熱媒体を循環させる一つの独立回路を形成することで、発熱部2の排熱を蓄熱部3に蓄熱している。また、蓄熱モード(温熱)における熱媒体回路10は、冷媒回路40の凝縮器42とヒータコア51の間を循環するもう一つの独立回路を形成することで、外気吸熱運転する冷媒回路40の凝縮器42からの放熱をヒータコア51に供給して暖房運転時の熱源にしている。
【0080】
これに対して、蓄熱管理システム1(1B)の蓄熱利用モード(温熱)では、熱媒体回路10は、発熱部2を迂回する流路を形成し、蓄熱部3に蓄えられた熱を停止した冷媒回路40の凝縮器42を通過させてヒータコア51に供給する一つの独立回路を形成している。この際、冷媒回路40は圧縮機41を停止させている。この例によると、蓄熱利用モード(温熱)では、冷媒回路40を停止させた状態で蓄熱部3に蓄えられた熱で暖房運転を行うので、冷媒回路40の運転に要する電力分の消費電力の低減が可能になる。
【0081】
図13に示した蓄熱管理システム1(1C)は、冷房運転時に蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の切替え制御を行うものであり、熱媒体回路10は、制御部5の一部を構成する流路切替え弁V21,V22によって、蓄熱モード(冷熱)と蓄熱利用モード(冷熱)の流路切替えを行う。
【0082】
蓄熱管理システム1(1C)の蓄熱モード(冷熱)では、熱媒体回路10は、冷媒回路40の蒸発器44の吸熱によって発生する冷熱をクーラーコア52に供給する流路に蓄熱部3と熱交換する流路を直列接続することで、蓄熱部3に冷熱を蓄熱している。この際、蓄熱部3に蓄えられる冷熱の熱源は、冷房運転中にクーラーコア52で空気を冷却して設定温度の冷房を行った残りの余剰冷熱である。また、熱媒体回路10は、冷媒回路40の凝縮器42と外部熱交換器11との間を循環する独立回路形成しており、冷媒回路40は外気放熱運転を行っている。
【0083】
これに対して、蓄熱管理システム1(1C)の蓄熱利用モード(冷熱)では、熱媒体回路10は、冷媒回路40の凝縮器42と外部熱交換器11との間の流路に蓄熱部3と熱交換する流路を直列接続させた一つの独立回路を形成すると共に、冷媒回路40の蒸発器44とクーラーコア52との間を循環するもう一つの独立回路を形成する。この例によると、蓄熱利用モード(冷熱)では、冷房運転を行っている冷媒回路40の放熱先が外部熱交換器11での外気放熱に加えて冷熱が蓄熱された蓄熱部3になるので、モリエル線図で比較して示しているように、ヒートポンプサイクルの高圧低下を促し消費電力の低減が可能になる。
【0084】
図14に示した蓄熱管理システム1(1D)は、暖房運転時に蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の切替え制御を行うものであるが、発熱部2が発熱温度帯の異なる2系統の発熱部2(2-1,2-2)を備えおり、これに応じて、熱媒体回路10は、高温側と低温側に分かれた2系統の熱媒体回路10(10-1,10-2)を有している。そして、高温側の熱媒体回路10(10-1)は、制御部5の一部である流路切替え弁V31,V32によって、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の流路切替えを行い、低温側の熱媒体回路10(10-2)は、制御部5の一部である流路切替え弁V33,V34によって、蓄熱モード(温熱)と蓄熱利用モード(温熱)の流路切替えを行う。
【0085】
高温側の熱媒体回路10(10-1)は、蓄熱モード(温熱)では、図示のように、冷媒回路40の凝縮器42とヒータコア51とで熱媒体が熱交換する一つの独立回路と、発熱部2(2-1)と蓄熱部3(3-1)とで熱媒体が熱交換するもう一つの独立回路を形成する。また、低温側の熱媒体回路10(10-2)は、蓄熱モード(温熱)では、図示のように、冷媒回路40の蒸発器44と外部熱交換器11とで熱媒体が熱交換する一つの独立回路と、発熱部2(2-2)と蓄熱部3(3-2)とで熱媒体が熱交換するもう一つの独立回路を形成する。
【0086】
これにより、蓄熱管理システム1(1D)の蓄熱モード(温熱)では、高温側の熱媒体回路10(10-1)は、発熱部2(2-1)の排熱を蓄熱部3(3-1)に蓄熱しながら、冷媒回路40の凝縮器42から放熱をヒータコア51に供給しており、低温側の熱媒体回路10(10-2)は、冷媒回路40を外気吸熱運転しながら、発熱部2(2-2)の排熱を蓄熱部3(3-3)に蓄熱している。
【0087】
蓄熱管理システム1(1D)の蓄熱利用モードは、2系統の蓄熱部3(3-1,3-2)をどのように利用するかで3形態の制御モードを有する。1つの制御モードとしては、高温側の熱媒体回路10(10-1)を蓄熱モードにし、低温側の熱媒体回路10(10-2)を
図11の蓄熱利用モードと同様に切替えることで、蓄熱利用運転する冷媒回路40の凝縮器42からの放熱をヒータコア51に供給する。
【0088】
別の制御モードとしては、冷媒回路40を停止して、高温側の熱媒体回路10(10-1)を
図12の蓄熱利用モードと同様に切替えることで、蓄熱部3(3-1)に蓄えられた熱のみで暖房運転を行う。また更に別の制御モードとしては、高温側の熱媒体回路10(10-1)を
図12の蓄熱利用モードと同様に切替え、低温側の熱媒体回路10(10-2)を
図11の蓄熱利用モードと同様に切替えることで、冷媒回路40を蓄熱利用運転しながら、冷媒回路40の凝縮器42の放熱に蓄熱部3(3-1)に蓄えらえた熱を加えてヒータコア51に供給する。熱管理システム1(1D)における蓄熱利用モードは、暖房運転時の目標温度と蓄熱部3(3-1,3-2)の蓄熱状態に応じて、適宜の制御モードが選択される。
【0089】
なお、前述した熱管理システム1(1A,1B,1D)の回路の説明で、蓄熱利用モード時に熱媒体回路10が発熱部2を迂回する流路になる旨説明しているが、迂回させない流路の状態であってもよい。その場合は、発熱部2の発熱と蓄熱部3の蓄熱が冷媒回路40の冷媒に吸熱されることになる。
【0090】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1(1A,1B,1C,1D):蓄熱管理システム,
2(2-1,2-2):発熱部,3(3-1,3-2):蓄熱部,4:熱利用部,5:制御部,
10(10-1,10-2):熱媒体回路,
10A,10B,10C:熱交換部(熱交換器),
40:冷媒回路,41:圧縮機,42:凝縮器,43:膨張弁,44:蒸発器,
50:車室内空調装置,51:ヒータコア,52:クーラーコア,
100:制御装置,101:CPU,102:ROM,103:RAM,
104:入出力I/F,105:外部I/F(Interface),P:ポンプ,
V1,V2,V01,V02,V11,V12,V21,V22,V31,V32,V33,V34::流路切替え弁,
L:車載ネットワーク