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特許7637611変位計測システム、変位計測方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】変位計測システム、変位計測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/20 20060101AFI20250220BHJP
【FI】
G01D5/20 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021194300
(22)【出願日】2021-11-30
(65)【公開番号】P2023080786
(43)【公開日】2023-06-09
【審査請求日】2024-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 英雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 基至
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166055(JP,A)
【文献】特開2020-63962(JP,A)
【文献】実開昭59-82809(JP,U)
【文献】特開平6-109821(JP,A)
【文献】特開昭60-67819(JP,A)
【文献】特開平4-157323(JP,A)
【文献】特開昭56-26254(JP,A)
【文献】特開2018-119795(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156275(WO,A1)
【文献】特開2003-142998(JP,A)
【文献】特開2017-45682(JP,A)
【文献】実開平3-123926(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252、
3/00-3/036
G01B 7/00-7/34
H01H 36/00-36/02
H03K 17/945-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを有する変位検出部と、
前記コイルの温度を計測する温度検出部と、
前記変位検出部に前記コイルのインダクタンスに対応した周波数の交流電圧を印加する発振回路と、
前記温度検出部が計測した前記コイルの温度に基づいて変位算出処理を実行する信号処理部と、
前記発振回路が出力する交流電圧の振幅を、前記温度検出部が計測した前記コイルの温度に基づいて制御する振幅制御部と、を備え、
前記振幅制御部は、27℃の振幅に対する-253℃の振幅の変化率が、27℃の振幅に対する-196℃の振幅の変化率の、1.6倍以上である、
変位計測システム。
【請求項2】
前記信号処理部は、さらに前記変位検出部の出力信号にも基づいて変位算出処理を実行する、
請求項1に記載の変位計測システム。
【請求項3】
前記振幅制御部は、前記発振回路が出力する交流電圧の振幅を、低温側から高温側に向かって、前記コイルの温度に対して連続的に増加させて制御する、
請求項1又は請求項2に記載の変位計測システム。
【請求項4】
前記振幅制御部は、前記コイルの温度を複数の区間に分割し、前記コイルの温度が特定の区間に含まれる場合に、前記発振回路が特定の交流電圧の振幅を出力するように制御し、かつ、低温側から高温側に向かって、交流電圧の振幅を段階的に増加させるように制御する、
請求項1又は請求項2に記載の変位計測システム。
【請求項5】
前記変位検出部を覆う外筒、又は前記変位検出部の周囲に設けられ、前記変位検出部への熱量の流入を妨げる真空層部と、を備える、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の変位計測システム。
【請求項6】
前記変位検出部と前記温度検出部との間に設けられ、前記変位検出部と前記温度検出部との間の熱量の移動を促進する伝熱部と、を備える、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の変位計測システム。
【請求項7】
変位検出部のコイルの温度を取得するステップと、
取得したコイルの温度に基づいて、発振回路に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、
決定された振幅で前記コイルのインダクタンスに対応した周波数の交流電圧を発振回路に出力させるステップと、
変位検出部の出力信号を取得するステップと、
コイルの温度に基づいて変位を算出するステップと、を含み、
前記振幅を決定するステップにおいては、27℃の振幅に対する-253℃の振幅の変化率を、27℃の振幅に対する-196℃の振幅の変化率の、1.6倍以上に決定する、
変位計測方法。
【請求項8】
変位検出部のコイルの温度を取得するステップと、
取得したコイルの温度に基づいて、発振回路に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、
決定された振幅で前記コイルのインダクタンスに対応した周波数の交流電圧を発振回路に出力させるステップと、
変位検出部の出力信号を取得するステップと、
コイルの温度に基づいて変位を算出するステップと、含み、
前記振幅を決定するステップにおいては、27℃の振幅に対する-253℃の振幅の変化率を、27℃の振幅に対する-196℃の振幅の変化率の、1.6倍以上に決定する、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変位計測システム、変位計測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
変位を検出するセンサとして渦電流型変位センサが知られている。例えば、特許文献1には、コイルを含む検出部と、検出部に交流信号を供給する発振回路と、検出部に接続される外付回路と、検出部及び外付回路のインピーダンスの位相変動量に基づいて変位を検出する変位検出手段と、を備える変位センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-38849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような変位センサを-196℃以下のような極低温環境下において使用した場合、計測対象物の変位に対する変位センサの出力電圧が大きくなり、計測対象物の変位が大きいと出力電圧が計測可能範囲を超えてしまい、正確に計測対象物の変位を計測できないという課題があった。また、温度変動が大きいと変位センサの温度と、その温度を計測する温度センサの温度に差が生じ、変位センサの温度補正を行う場合に不都合が生じるという課題があった。
【0005】
本開示は上記課題を鑑み、極低温環境下において変位を適切に計測可能な変位計測システム、変位計測方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る変位計測システムは、コイルを有する変位検出部と、前記コイルの温度を計測する温度検出部と、前記変位検出部に交流電圧を印加する発振回路と、前記温度検出部が計測した前記コイルの温度に基づいて変位算出処理を実行する信号処理部と、前記発振回路が出力する交流電圧の振幅を、前記温度検出部が計測した前記コイルの温度に基づいて制御する振幅制御部と、を備える。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る変位計測方法は、変位検出部のコイルの温度を取得するステップと、取得したコイルの温度に基づいて、発振回路に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、決定された交流電圧を発振回路に出力させるステップと、変位検出部の出力信号を取得するステップと、コイルの温度に基づいて変位を算出するステップと、を含む。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプログラムは、変位検出部のコイルの温度を取得するステップと、取得したコイルの温度に基づいて、発振回路に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、決定された交流電圧を発振回路に出力させるステップと、変位検出部の出力信号を取得するステップと、コイルの温度に基づいて変位を算出するステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温環境下において変位を適切に計測可能な変位計測システム、変位計測方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示に係る変位計測システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、本開示に係るセンサ部の構成の一例を示す図である。
図3図3は、本開示に係る変位計測方法を示すフローチャートである。
図4図4は、本開示に係る交流電圧振幅制御の第1例を示す図である。
図5図5は、本開示に係る交流電圧振幅制御の第2例を示す図である。
図6図6は、本開示に係るセンサ部の構成の一例を示す図である。
図7図7は、本開示に係る変位検出部温度と温度検出部温度の時間変化の一例を示す図である。
図8図8は、本開示に係るセンサ部の構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本開示が限定されるものではない。
【0012】
図1は、本開示に係る変位計測システムの構成例を示すブロック図である。図2は、本開示に係るセンサ部の構成の一例を示す図である。図1に示すように、本開示に係る変位計測システム100は、センサ部110と、発振回路120と、振幅制御部130と、信号処理部140と、を備える。なお、振幅制御部130と、信号処理部140は、回路要素によってハードウェアとして構成されてよいが、各回路の機能をコンピュータに実行させるプログラムにより記述して、このプログラムをCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置に実行させることによりソフトウェアとして構成してもよい。
【0013】
センサ部110は、計測対象物に対面して配置され、測定対象物との距離を検出することで、測定対象物との変位を計測する。図2に示すように、センサ部110は、変位検出部111と、温度検出部112と、外筒113と、を備える。
【0014】
変位検出部111は、測定対象物と対面して配置され、測定対象物に対して非接触で、測定対象物との距離(ギャップ)を検出する。変位検出部111は、金属等の導電性材料を用いて形成され、交流電圧が印加された場合に計測対象物の変位によってインピーダンスが変化するコイル131を備える。変位検出部111は、コイル131の端部に導線132が接続され、発振回路120に接続されている。コイル131の形状は、螺旋状に形成されるソレノイドコイルであってよい。また、コイル131は空芯であってよい。コイル131は、発振回路120が印加する交流信号(交流電圧)が印加される。
【0015】
コイル131は、発振回路120によって印加された交流電圧に応じて高周波電流が流れ、高周波磁界を発生させる。この磁界内に計測対象物が位置していると、磁界の電磁誘導作用により計測対象物の表面を通過する磁束の周りに渦電流が流れて、コイル131のインピーダンスが変化する。コイル131のインピーダンスは、コイル131と計測対象物との距離によって変化する為、コイル131のインピーダンスの変化によるコイル131の出力電圧の変化を計測することで、計測対象物の変位を計測することができる。
【0016】
温度検出部112は、変位検出部111が有するコイル131の温度を計測する。温度検出部112は、センサ部110の内部に配置される。温度検出部112は、先端部がコイル131に接触してもよい。温度検出部112は、-196℃以下の低温域の温度を検出可能なセンサである。温度検出部112は、熱電対を用いることができる。熱電対は、例えば、クロメル(登録商標)-アルメル(登録商標)熱電対(JIS C 1602に規定される熱電対の種類の記号K)、クロメル(登録商標)-コンスタンタン熱電対(JIS C 1602に規定される熱電対の種類の記号E)、ナイクロシル-ナイシル熱電対(JIS C 1602に規定される熱電対の種類の記号N)、銅-コンスタンタン熱電対(JIS C 1602に規定される熱電対の種類の記号T)などであってよい。
【0017】
外筒113は、変位検出部111と温度検出部112を内部に収容する収納容器である。外筒113の形状は例えば、一方が開口した中空有底円筒状の形状であってよい。また、外筒113の材料には例えば、樹脂やセラミックなどの非導電性材料を用いてよい。
【0018】
発振回路120は、変位検出部111のコイル131に交流電圧を印加する。発振回路120は、変位検出部111が有するコイル131のインダクタンスに対応した周波数の交流電圧を出力する。発振回路120は、例えば、高周波発振回路であるLC発振回路によって構成される。なお、発振回路120の構成は特に限定されない。LC発振回路は、ハートレー型、コルピッツ型、コレクタ同調型、ベース同調型、エミッタ同調型などの方式によって構成されてよい。
【0019】
振幅制御部130は、発振回路120が出力する交流電圧の振幅、つまり、電圧値を、温度検出部112が計測したコイル131の温度に基づいて制御する。振幅制御部130は、発振回路120が出力する交流電圧の振幅を、低温側から高温側に向かって、コイル131の温度の変化に対して連続的に増加させて制御する。振幅制御部130は、例えば、予め変位検出部111の温度特性を取得しておき、これを記憶して補正処理を実行してよい。また、予め計測した校正データを用いた回帰式を用いて変換してもよい。
【0020】
信号処理部140は、変位検出部111の出力信号と温度検出部が計測したコイル131の温度とに基づいて変位算出処理を実行する。信号処理部140は、CPU等の演算装置と、ROM,RAM等の記憶装置を有する演算処理装置である。信号処理部140は、プログラムが記憶され、ブログラムに基づいて各部の処理を制御し、計測対象物との距離を算出する。
【0021】
信号処理部140は、温度検出部112で検出した温度の検出結果に基づいて、交流電圧の振幅を決定し、振幅制御部130と発振回路120を制御して、決定した振幅の交流電圧をコイル131に入力させて、変位検出部111で検出した信号を取得する。信号処理部140は、検出した信号を入力信号の条件と、温度の検出結果に基づいて、処理して検出対象物との距離を算出する。信号処理部140は、距離の変化に基づいて変位を検出することができる。
【0022】
次に、図3を用いて、変位計測方法について説明する。図3は、本開示に係る変位計測方法を示すフローチャートである。図3に示すように、本開示に係る変位計測方法は、以下に説明する5つのステップにより構成される。まず、変位検出部111が有するコイル131の温度を取得する(ステップS100)。続いて、取得したコイル131の温度に基づいて、発振回路120に出力させる交流電圧の振幅を決定する(ステップS110)。続いて、決定された振幅で交流電圧を発振回路120に出力させる(ステップS120)。続いて、変位検出部111の出力信号を取得する(ステップS130)。続いて、コイル131の温度に基づいて変位を算出する(ステップS140)。
【0023】
これにより、変位計測システム100は、変位検出部111の温度を検出し、検出した温度に基づいて、計測時の交流電圧の振幅を調整することで、極低温領域などの計測対象物の変位に対する出力信号の感度が大きくなる温度範囲であっても、正確に計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0024】
図4は、本開示に係る交流電圧振幅制御の一例を示す図である。図4は、横軸がセンサ温度、つまり変位検出部111の温度である。温度T1、T2は、極低温領域の温度である。ここで、極低温領域とは例えば-196℃以下の温度である。例えば、T1は、-253℃、T2は、-196℃である。図4に示すように、振幅制御部130は、コイル131の温度に対して低温側から高温側に向かって連続的に増加するように交流電圧振幅を制御する。図4に示すように、変位検出部111は、センサの温度が低下するほど、センサ感度が高くなる。特に、極低温領域においては、計測対象物の変位に対するコイル131の出力電圧の変化が大きくなり、センサ感度が大きくなる。コイル131は、温度が下がるとコイル131の抵抗が下がることからコイル131のインピーダンスが減少して、コイル131に交流電流が流れやすくなる影響等と考えられる。
【0025】
本実施形態に係る振幅制御部130は、交流電圧振幅で示すようにセンサ温度に対して連続的に振幅を変化させる。具体的には、振幅制御部130は、極低温領域において発振回路120が出力する交流電圧の振幅を常温領域と比較して小さく設定することによって、コイル131に印加する交流電圧を常温領域と比較して小さくすることで、極低温領域のコイル131の出力電圧の振幅を小さくする。すなわち、振幅制御部130は発振回路120が出力する交流電圧の振幅を変位検出部111の出力信号の振幅が計測可能範囲に含まれるように低温側の交流電圧の振幅を小さく制御する。そのため、極低温領域のコイル131の出力電圧の振幅を信号処理部140の出力電圧の計測可能範囲に収めることが可能となる。したがって、振幅制御部130が上述のように発振回路120が出力する交流電圧の振幅を制御することによって、極低温領域においても適切に計測対象物の変位を計測することが可能となる。例えば、温度に基づいて出力された信号を補正すると、変位検出部111の出力信号の振幅が信号処理部140の出力電圧の計測可能範囲を超えて変位が計測できない温度変化が生じた場合でも、変位を計測することができる。また、ごく低温領域に対応するために、感度を低く設定し、感度が低い温度域、例えば、T2よりも高い温度で変位の計測精度が低下することも抑制できる。
【0026】
図5は、本開示に係る交流電圧振幅制御の他の例を示す図である。振幅制御部130は、図5に示すように、コイル131の温度を複数の範囲に分割し、コイル131の温度が特定の範囲に含まれる場合に、発振回路120が出力する交流電圧の振幅を特定の振幅に設定してもよい。図5には、センサ温度の温度T1からT2までの温度範囲を2分割している。この場合、分割した温度範囲のうち、センサ温度が低温側の温度範囲では、交流電圧の振幅が高温側の温度範囲と比較して小さくなるように制御する。また、振幅制御部130は、センサ温度の温度T1からT2までの温度範囲を2分割した温度の範囲のうち、センサ温度が高温側の温度範囲に含まれる場合、交流電圧の振幅を低温側の温度範囲と比較して大きくなるように制御する。ここで、交流電圧の振幅は、変位検出部111の出力信号の振幅が計測可能範囲に含まれるように設定することが好ましい。なお、振幅制御部130が交流電圧の振幅を段階的に変化させて制御する温度範囲は、例えば、特にセンサ感度の変化が大きい-253℃(20K)から-196℃(77K)の温度範囲であってよい。また、コイル131の温度を分割する数は2分割に限定されるものではなく、その他の任意の数に分割してよい。
【0027】
これにより、簡易な制御方式によって低コストで発振回路120が出力する交流電圧を制御することができる。そのため、極低温領域においても信号処理部140の計測可能範囲を超える出力信号が発せられることを抑制することで、計測対象物の変位を計測可能とすることが可能となる。
【0028】
ここで、振幅制御部130は、27℃の振幅に対する-253℃の振幅の変化率が、27℃の振幅に対する-196℃の振幅の変化率の、1.6倍以上であることが好ましい。これにより、極低温領域よりも高温領域での変位を計測可能な状態にしつつ、極低温領域で高い感度で変位を検出することができる。
【0029】
図6は、本開示に係るセンサ部の構成の一例を示す図である。図6に示す変位計測システムのセンサ部110aは、変位検出部111と、温度検出部112と、外筒113と、真空層部114と、を有する。変位検出部111と、温度検出部112は、第1実施形態に係る変位計測システム100の変位検出部111、温度検出部112と同じであるから説明を省略する。
【0030】
真空層部114は、変位検出部111を覆う外筒113、又は変位検出部111の周囲に設けられ、変位検出部111への熱の流入を抑制する。
【0031】
真空層部114は、内部の気圧が極端に低く抑えられた断熱層である。真空層部114の真空度は、外筒113の先端から変位検出部111のコイル131の先端の位置までの間隔の制約から10-2Pa以下とすることが好ましい。真空層部114の真空度は低いほど熱伝導率が低下するため好ましいが、製造上の制約などにより10-4Pa以上の真空度であってもよい。これにより、変位検出部111への熱量の流入が抑制される為、変位検出部111の温度変動が低減される。そのため、極低温領域などの温度変動が過酷な環境下においても、変位検出部111の出力信号を周囲環境の温度変動に対して安定させることができる。
【0032】
図7は、変位検出部温度と温度検出部温度の時間変化の一例を示す図である。図7に示すように極低温領域などの時間に対する温度変動が大きい環境下では、変位検出部温度と温度検出部温度の温度変化に時間遅れが生じることが想定される。この場合、変位検出部温度と温度検出部温度との間に、例えば図7に示す温度差ΔT1のような温度差が生じる。センサ感度の変化が急激な極低温領域においては、僅かな温度差によって変位検出部111の出力電圧から求められる変位が大きくずれる可能性がある。センサ部110aは、真空層部114を設け、変位検出部111の温度変動を小さくすることによって、変位検出部111と温度検出部112との間の温度差を小さくすることができる。したがって、極低温領域において適切に計測対象物の変位を計測することが可能となる。
【0033】
図8は、本開示に係るセンサ部の構成の他の例を示す図である。図8に示す変位計測システムのセンサ部110bは、変位検出部111と、温度検出部112と、外筒113と、伝熱部115と、を有する。変位検出部111と、温度検出部112は、センサ部110の変位検出部111と、温度検出部112と同じであるから説明を省略する。
【0034】
伝熱部115は、変位検出部111と温度検出部112との間に設けられ、変位検出部111と温度検出部112との間の熱量の移動を促進する。伝熱部115は、液体水素、液体ヘリウム、ネオンなどの流体を変位検出部111と温度検出部112との間において循環させる構成としてよい。これにより、当該流体と変位検出部111と温度検出部112との間において強制対流熱伝達を発生させることができるため、変位検出部111と温度検出部112との間における温度差を縮小することができる。
【0035】
したがって、信号処理部140における変位算出処理において、温度検出部112の温度計測値を変位検出部111の温度と同じとみなしてよく、変位検出部111の温度を正確に反映して、計測対象物の変位を算出することが可能となる。そのため、極低温領域などの温度変動が大きい環境であっても、計測対象物の変位を正確に計測することが可能となる。
【0036】
(構成と効果)
本開示に係る変位計測システム100は、コイル131を有する変位検出部111と、コイル131の温度を計測する温度検出部112と、変位検出部111に交流電圧を印加する発振回路120と、温度検出部112が計測したコイル131の温度に基づいて変位算出処理を実行する信号処理部140と、発振回路120が出力する交流電圧の振幅を、温度検出部112が計測したコイル131の温度に基づいて制御する振幅制御部130と、を備える。
【0037】
この構成によれば、温度によるコイル131の抵抗変化による変位検出部111の変位に対する出力信号のセンサ感度への影響を発振回路120が出力する交流電圧の振幅に反映することができる。そのため、温度による変位検出部111の出力信号の変化を考慮して、計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0038】
本開示に係る変位計測システム100の信号処理部140は、さらに変位検出部111の出力信号にも基づいて変位算出処理を実行する。
【0039】
この構成によれば、温度によるコイル131の抵抗変化による変位検出部111の変位に対する出力信号のセンサ感度への影響を発振回路120が出力する交流電圧の振幅に反映することができる。そのため、温度による変位検出部111の出力信号の変化を考慮して、計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0040】
本開示に係る変位計測システム100の振幅制御部130は、発振回路120が出力する交流電圧の振幅を、低温側から高温側に向かって、コイル131の温度の変化に対して連続的に増加するように変化させて制御することが好ましい。
【0041】
この構成によれば、極低温領域などの計測対象物の変位に対する変位検出部111の出力信号のセンサ感度が大きくなる温度範囲であっても、変位検出部111の出力信号の振幅が計測可能範囲を超えることを抑制することができる。そのため、極低温環境下であっても正確に計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0042】
本開示に係る変位計測システム100の振幅制御部130は、コイル131の温度を複数の区間に分割し、コイル131の温度が特定の区間に含まれる場合に、発振回路120が特定の交流電圧の振幅を出力するように制御し、かつ、低温側から高温側に向かって、交流電圧の振幅を段階的に増加させるように制御することが好ましい。
【0043】
この構成によれば、簡易な制御方式によって低コストで発振回路120が出力する交流電圧の振幅を制御することができる。また、極低温領域などの計測対象物の変位に対する変位検出部111の出力信号の感度が大きくなる温度範囲であっても、変位検出部111の出力信号の振幅が計測可能範囲を超えることを抑制することができる。そのため、極低温環境下であっても正確に計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0044】
変位検出部111を覆う外筒113、又は変位検出部111の周囲に設けられ、変位検出部111への熱量の流入を妨げる真空層部114と、を備えることが好ましい。
【0045】
この構成によれば、変位検出部111の温度変動を抑制することが可能となる為、温度による変位検出部111の変位に対する出力信号の感度の変化を緩和することが可能となる。そのため、極低温領域などの計測対象物の変位に対する変位検出部111の出力信号の感度が大きくなる温度範囲であっても、正確に計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0046】
変位検出部111と温度検出部112との間に設けられ、変位検出部111と温度検出部112との間の熱量の移動を促進する伝熱部115と、を備えることが好ましい。
【0047】
この構成によれば、変位検出部111と温度検出部112の温度差を抑制することが可能となる。そのため、極低温領域における変位計測などの時間による温度変動が大きい場合であっても、正確に計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0048】
ここで、振幅制御部130は、27℃の振幅に対する-253℃の振幅の変化率が、27℃の振幅に対する-196℃の振幅の変化率の、1.6倍以上であることが好ましい。これにより、極低温領域よりも高温領域での変位を計測可能な状態にしつつ、極低温領域で高い感度で変位を検出することができる。
【0049】
本開示に係る変位計測方法は、変位検出部111が有するコイル131の温度を取得するステップと、取得したコイル131の温度に基づいて、発振回路120に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、決定された振幅で交流電圧を発振回路120に出力させるステップと、変位検出部111の出力信号を取得するステップと、コイル131の温度に基づいて変位を算出するステップと、を含む。
【0050】
この構成によれば、この構成によれば、温度によるコイル131の抵抗変化による変位検出部111の変位に対する出力信号のセンサ感度への影響を発振回路120が出力する交流電圧の振幅に反映することができる。そのため、温度による変位検出部111の出力信号の変化を考慮して、計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0051】
本開示に係るプログラムは、変位検出部111が有するコイル131の温度を取得するステップと、取得したコイル131の温度に基づいて、発振回路120に出力させる交流電圧の振幅を決定するステップと、決定された振幅で交流電圧を発振回路120に出力させるステップと、変位検出部111の出力信号を取得するステップと、コイル131の温度に基づいて変位を算出するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0052】
この構成によれば、この構成によれば、温度によるコイル131の抵抗変化による変位検出部111の変位に対する出力信号のセンサ感度への影響を発振回路120が出力する交流電圧の振幅に反映することができる。そのため、温度による変位検出部111の出力信号の変化を考慮して、計測対象物の変位を算出することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
100 変位計測システム
110、110a、110b センサ部
111 変位検出部
112 温度検出部
113 外筒
114 真空層部
115 伝熱部
120 発振回路
130 振幅制御部
140 信号処理部
図1
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図8