(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】表面処理鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/14 20060101AFI20250220BHJP
C23C 10/28 20060101ALI20250220BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20250220BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20250220BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20250220BHJP
H01M 50/128 20210101ALI20250220BHJP
【FI】
C25D5/14
C23C10/28
C25D5/50
H01M50/107
H01M50/119
H01M50/128
(21)【出願番号】P 2021517163
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020017988
(87)【国際公開番号】W WO2020222305
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019086917
(32)【優先日】2019-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
(72)【発明者】
【氏名】石原 和彦
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186950(JP,A)
【文献】特開2007-122940(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181950(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/005774(WO,A1)
【文献】吉岡興、堀江慎一郎、石原和彦、友森龍夫,アルカリマンガン乾電池正極缶用Ni-Co合金めっき材料の開発,東洋鋼鈑,第39巻,日本,東洋鋼鈑株式会社技術研究所,2017年03月,p.7-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 10/28
C25D 5/12
C25D 5/50
H01M 50/119
H01M 50/128
H01M 50/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板上に、最表層として形成されたニッケル-コバルト-鉄拡散層と、を備える表面処理鋼板であって、
高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、
前記Co濃度が最大値を示す深さ位置をD
Co_MAXとし、前記深さ位置D
Co_MAXよりも前記鋼板側であり、かつ、前記Co濃度が、前記最大値に対して15%の値を示す深さ位置をD
Co_15%とした場合に、前記深さ位置D
Co_MAXから、前記深さ位置D
Co_15%までの間における、Co濃度勾配ΔP
Coが、33質量%/0.1μm以下であ
り、
前記Co濃度の半値幅W
Co
が、0.1~0.35μmである表面処理鋼板。
【請求項2】
高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、
前記Ni濃度が最大値を示す深さ位置をD
Ni_MAXとし、前記深さ位置D
Ni_MAXよりも前記鋼板側であり、かつ、前記Ni濃度が、前記最大値に対して15%の値を示す深さ位置をD
Ni_15%とした場合に、前記深さ位置D
Ni_MAXから、前記深さ位置D
Ni_15%までの間における、Ni濃度勾配ΔP
Niが、15質量%/μm以上である請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層中における前記Ni強度が最大値に対して0.5%となる深さ位置のうち、表面側に位置する深さ位置をD
Ni_0.5%とした場合に、前記深さ位置D
Ni_0.5%における、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)が70質量%以下であり、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)が5質量%以上であり、Fe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)が15質量%以上である請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記深さ位置D
Ni_0.5%における、Fe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)が30質量%以上である請求項3に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記深さ位置D
Ni_0.5%における、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)が12質量%以上である請求項3または4に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるCoの含有量が0.2g/m
2以上である請求項1~5のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiの含有量が0.2~12.5g/m
2である請求項1~6のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【請求項8】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiの含有量が0.2~7.0g/m
2である請求項7に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~14.0g/m
2である請求項1~8のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【請求項10】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~7.5g/m
2である請求項9に記載の表面処理鋼板。
【請求項11】
前記鋼板と前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層との間に、鉄-ニッケル拡散層をさらに備える請求項1~10のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【請求項12】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層および前記鉄-ニッケル拡散層に含まれるNiの合計の含有量が1.0~12.5g/m
2である請求項11に記載の表面処理鋼板。
【請求項13】
前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層および前記鉄-ニッケル拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~14.0g/m
2である請求項11または12に記載の表面処理鋼板。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の表面処理鋼板からなる電池容器。
【請求項15】
請求項14に記載の電池容器を備える電池。
【請求項16】
請求項1~9のいずれかに記載の表面処理鋼板を製造する方法であって、
鋼板上に、ニッケルの含有量が0.2~12.5g/m
2であるニッケルめっき層を形成する工程と、
前記ニッケルめっき層上に、コバルトの含有量が0.2~5.0g/m
2であるコバルトめっき層を形成する工程と、
前記ニッケルめっき層および前記コバルトめっき層が形成された鋼板に対して、450~900℃の温度で熱処理を施すことで、Co濃度勾配ΔP
Coが、33質量%/0.1μm以下であるニッケル-コバルト-鉄拡散層を最表層として形成する工程と、を備える表面処理鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ機器や携帯電話など、多方面において携帯用機器が用いられ、その作動電源として一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが多用されている。これらの電池においては、高出力化および長寿命化など、高性能化が求められており、正極活物質や負極活物質などからなる発電要素を充填する電池容器も電池の重要な構成要素としての性能の向上が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、電池容器として用いた場合に、電池特性を向上させるという観点より、電池容器内面となる面の最表面に、特定のニッケル-コバルト合金層が形成されてなる電池容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の電池容器を、アルカリ電池、ニッケル水素電池などの強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として用いた場合には、時間の経過とともに、電解液と接触している電池容器内面の接触抵抗値が上昇して、電池特性が低下してしまうという問題があった。これに対し、経時後における電池特性の低下の抑制など、さらなる電池特性の向上が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として用いた場合における電池特性に優れ、経時後においても電池特性の低下を抑制することができる表面処理鋼板を提供することである。また、本発明は、このような表面処理鋼板の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、鋼板上に、最表面側の層としてニッケル-コバルト-鉄拡散層が形成されてなる表面処理鋼板において、表面処理鋼板に対して高周波グロー放電発光分析法による測定を行うことによって求められるニッケル-コバルト-鉄拡散層中のCo濃度について、Co濃度の変化率であるCo濃度勾配ΔPCoを特定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、鋼板と、前記鋼板上に、最表層として形成されたニッケル-コバルト-鉄拡散層と、を備える表面処理鋼板であって、高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、前記Co濃度が最大値を示す深さ位置をDCo_MAXとし、前記深さ位置DCo_MAXよりも前記鋼板側であり、かつ、前記Co濃度が、前記最大値に対して15%の値を示す深さ位置をDCo_15%とした場合に、前記深さ位置DCo_MAXから、前記深さ位置DCo_15%までの間における、Co濃度勾配ΔPCoが、33質量%/0.1μm以下である表面処理鋼板が提供される。
【0009】
本発明の表面処理鋼板において、高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、前記Ni濃度が最大値を示す深さ位置をDNi_MAXとし、前記深さ位置DNi_MAXよりも前記鋼板側であり、かつ、前記Ni濃度が、前記最大値に対して15%の値を示す深さ位置をDNi_15%とした場合に、前記深さ位置DNi_MAXから、前記深さ位置DNi_15%までの間における、Ni濃度勾配ΔPNiが、15質量%/μm以上であることが好ましい。
【0010】
本発明の表面処理鋼板において、高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層中における前記Ni強度が最大値に対して0.5%となる深さ位置のうち、表面側に位置する深さ位置をDNi_0.5%とした場合に、前記深さ位置DNi_0.5%における、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)が70質量%以下であり、Co濃度PCo(DNi_0.5%)が5質量%以上であり、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)が15質量%以上であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記深さ位置DNi_0.5%における、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)が30質量%以上であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記深さ位置DNi_0.5%における、Co濃度PCo(DNi_0.5%)が12質量%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるCoの含有量が0.2g/m2以上であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiの含有量が0.2~12.5g/m2であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiの含有量が0.2~7.0g/m2であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~14.0g/m2であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~7.5g/m2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の表面処理鋼板は、前記鋼板と前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層との間に、鉄-ニッケル拡散層をさらに備えることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層および前記鉄-ニッケル拡散層に含まれるNiの合計の含有量が1.0~12.5g/m2であることが好ましい。
本発明の表面処理鋼板において、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層および前記鉄-ニッケル拡散層に含まれるNiおよびCoの合計の含有量が1.6~14.0g/m2であることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、上記いずれかの表面処理鋼板からなる電池容器が提供される。
本発明によれば、上記電池容器を備える電池が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記表面処理鋼板を製造する方法であって、鋼板上に、ニッケルの含有量が0.2~12.5g/m2であるニッケルめっき層を形成する工程と、前記ニッケルめっき層上に、コバルトの含有量が0.2~5.0g/m2であるコバルトめっき層を形成する工程と、前記ニッケルめっき層および前記コバルトめっき層が形成された鋼板に対して、450~900℃の温度で熱処理を施すことで、Co濃度勾配ΔPCoが、33質量%/0.1μm以下であるニッケル-コバルト-鉄拡散層を最表層として形成する工程と、を備える表面処理鋼板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として用いた場合における電池特性に優れ、経時後においても電池特性の低下を抑制することができる表面処理鋼板を提供することができる。また、本発明によれば、このような表面処理鋼板の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る表面処理鋼板を適用した電池の一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る表面処理鋼板の一実施形態であって
図2のIII部の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す表面処理鋼板を製造する方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、高周波グロー放電発光分析法による測定について説明するためのグラフである。
【
図6】
図6は、Co濃度勾配ΔP
Co、Ni濃度勾配ΔP
Niを求める方法を説明するためのグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に係る表面処理鋼板の第2の実施形態を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施例2の表面処理鋼板について、高周波グロー放電発光分析装置により測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態について説明する。本発明に係る表面処理鋼板は、所望の電池の形状に応じた外形形状に加工される。電池としては、特に限定されないが、一次電池であるアルカリ電池、二次電池であるニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを例示することができ、これらの電池の電池容器の部材として、本発明に係る表面処理鋼板を用いることができる。以下においては、強アルカリ性の電解液を用いる電池の一例としてアルカリ電池を挙げ、アルカリ電池の電池容器を構成する正極缶に、本発明に係る表面処理鋼板を用いた実施形態にて、本発明を説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る表面処理鋼板を適用したアルカリ電池2の一実施形態を示す斜視図、
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。本例のアルカリ電池2は、有底円筒状の正極缶21の内部に、セパレータ25を介して正極合剤23および負極合剤24が充填され、正極缶21の開口部内面側には、負極端子22、集電体26およびガスケット27から構成される封口体がカシメ付けられてなる。なお、正極缶21の底部中央には凸状の正極端子211が形成されている。そして、正極缶21には、絶縁性の付与および意匠性の向上等のために、絶縁リング28を介して外装29が装着されている。
【0019】
図1に示すアルカリ電池2の正極缶21は、本発明に係る表面処理鋼板を、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより成形加工することで得られる。以下、
図3を参照して、本発明に係る表面処理鋼板(表面処理鋼板1)の構成について説明する。
【0020】
図3は、
図2に示す正極缶21のIII部を拡大して示す断面図であり、同図において上側が
図1のアルカリ電池2の内面(アルカリ電池2の正極合剤23と接触する面)に相当する。本実施形態の表面処理鋼板1は、
図3に示すように、表面処理鋼板1を構成する鋼板11上に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されてなる。なお、本実施形態の表面処理鋼板1は、鋼板11の少なくとも一方の面、具体的には、アルカリ電池2の内面となる面(電池容器の内面となる面)上に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されていればよい。外面となる面(電池容器の外面となる面)上にもニッケル-コバルト-鉄拡散層が形成されて、両方の面上に形成されていてもよいが、外面となる面は電池として保管または使用する際の耐錆性の観点から、鋼板側から順に、ニッケル-鉄拡散層およびニッケル層が形成されていることが好ましい。
【0021】
本実施形態の表面処理鋼板1は、鋼板11上に、最表面側の層としてニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されてなる表面処理鋼板であって、
表面処理鋼板1について、高周波グロー放電発光分析法により前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面側から深さ方向に向かって連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、前記Ni強度、前記Co強度および前記Fe強度に基づいて、前記ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、
前記Co濃度が最大値を示す深さ位置をDCo_MAXとし、前記深さ位置DCo_MAXよりも前記鋼板11側であり、かつ、前記Co濃度が、前記最大値に対して15%の値を示す深さ位置をDCo_15%とした場合に、前記深さ位置DCo_MAXから、前記深さ位置DCo_15%までの間における、Co濃度勾配ΔPCoが、33質量%/0.1μm以下であるものである。
【0022】
<鋼板11>
本実施形態の鋼板11としては、成形加工性に優れているものであればよく特に限定されないが、たとえば、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%未満の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼を用いることができる。本実施形態においては、これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケール(酸化膜)を除去した後、冷間圧延し、次いで電解洗浄後に、焼鈍、調質圧延したもの、または前記冷間圧延、電解洗浄後、焼鈍をせずに調質圧延を施したもの等を用いることもできる。また、生産性の観点から、鋼板11としては、連続鋼帯を用いることが好ましい。
【0023】
鋼板11の厚みは、表面処理鋼板の用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは0.015~1.5mmである。アルカリ電池やコイン電池などの電池用鋼板(炭素鋼またはステンレス)であれば0.15~0.6mmが好ましく、特にアルカリ電池缶用鋼板としては0.15~0.5mmが好ましい。一方で、軽量化やフレキシブル性を求められる用途においては0.015mm~0.1mmの箔状が好ましい。
【0024】
<ニッケル-コバルト-鉄拡散層12>
本実施形態の表面処理鋼板1は、鋼板11上に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を備える。本実施形態において、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する方法としては、たとえば、
図4に示すように、鋼板11の表面に、ニッケルめっき層13およびコバルト層14をこの順で形成した後、熱処理を施すことで、鋼板および各層に含まれる鉄、ニッケルおよびコバルトをそれぞれ熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を得る方法を用いることができる。ただし、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する方法としては、このような方法に特に限定されるものではない。
【0025】
本実施形態の表面処理鋼板1のニッケル-コバルト-鉄拡散層12は、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中における、特定の深さ領域における、Co濃度の変化率、すなわち、Co濃度勾配ΔPCoが、特定の範囲に制御されたものである。
すなわち、表面処理鋼板1について、高周波グロー放電発光分析法により、所定の測定条件にて、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面側から鋼板11に向かって深さ方向に連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、得られたNi強度、Co強度およびFe強度に基づいて、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、Co濃度が最大値を示す深さ位置をDCo_MAXとし、深さ位置DCo_MAXよりも鋼板11側であり、かつ、Co濃度が、この最大値に対して15%の値を示す深さ位置をDCo_15%とした場合に、深さ位置DCo_MAXから、深さ位置DCo_15%までの間における、Co濃度勾配ΔPCoが、33質量%/0.1μm以下に制御されたものである。
【0026】
ここで、Co濃度勾配ΔP
Coの求め方について、
図5(A)、
図5(B)、
図6(A)を参照して説明する。
【0027】
まず、高周波グロー放電発光分析法により測定を行う際の測定条件を設定するために、測定条件調整用サンプル(鋼板上に、ニッケルめっき層、およびコバルトめっき層をこの順で形成してなるサンプル)を準備する。そして、準備した測定条件調整用サンプルについて、高周波グロー放電発光分析装置によって、得られるNi強度、Co強度およびFe強度の最大値(すなわち、ニッケルめっき層中におけるNiが単体で検出される領域でのNi強度、コバルトめっき層中におけるCoが単体で検出される領域でのCo強度、および鋼板中におけるFeが単体で検出される領域でのFe強度)が、それぞれほぼ同等の値となるような条件にて、コバルトめっき層の表面から鋼板に向かって測定を行う。測定した結果の一例を
図5(A)に示す。
図5(A)では、縦軸は強度を示し、横軸は、高周波グロー放電発光分析装置により表面処理鋼板1の表面からArプラズマによりスパッタリングしながら深さ方向に測定した際のエッチング深さを示している。なお、Ni強度、Co強度およびFe強度の最大値がそれぞれ同等の値となるように調整する方法としては、高周波グロー放電発光分析装置の光電子増倍管チャンネルの電圧(H.V.)を、測定する元素ごとに調整する方法を用いることができる。
【0028】
ここで、ニッケル、コバルトおよび鉄は、Arプラズマによるスパッタレートはほぼ同等であることから、ニッケル、コバルトおよび鉄のそれぞれの単一材を高周波グロー放電発光分析装置により測定した場合には、スパッタの条件(Arガス圧(単位はPa)と出力(単位はW))を同一とした場合には、各単一材がエッチングされる量がほぼ同量となる。したがって、測定されるNi強度に寄与するニッケルのエッチング量、測定されるCo強度に寄与するコバルトのエッチング量、および測定されるFe強度に寄与する鉄のエッチング量は、それぞれほぼ同量となる。
【0029】
そのため、
図5(A)のように、Ni強度、Co強度およびFe強度の最大値がそれぞれほぼ同等の値(
図5(A)に示す例では、Intensityが約2.0V)となるような条件にて、高周波グロー放電発光分析装置によって測定を行うことにより、得られるNi強度、Co強度およびFe強度から求められる強度比は、そのままNiの質量、Coの質量およびFeの質量の質量比として用いることができる。たとえば、Ni強度、Co強度およびFe強度の合計に対するFe強度の割合は、そのままNiの質量、Coの質量およびFeの質量の合計に対するFeの質量の割合(Feの含有割合(質量%))とすることができ、このことは、Ni、Coについても同様である。本実施形態においては、このようにして予め高周波グロー放電発光分析装置による測定条件(光電子増倍管チャンネルの電圧)を設定し、設定した条件にて、表面処理鋼板1について測定を行うことにより、得られるNi強度、Co強度およびFe強度から、各深さ位置(スパッタリングしながら測定した際の測定時間から求められる深さ位置)における、ニッケル、コバルトおよび鉄の合計の含有量に対する、Niの含有割合、Coの含有割合およびFeの含有割合を、それぞれ求めることができるものである。
【0030】
なお、高周波グロー放電発光分析装置による測定条件について、
図5(A)に示す例では、Ni強度、Co強度およびFe強度の最大値をそれぞれ約2.0Vに調整したが、強度の最大値は2.0Vに限定されず、任意の値とすることができるが、値が低すぎると測定の感度が低下するおそれがあり、一方で値が高すぎると得られる強度が飽和して正確な値が得られないおそれがあるため、測定条件調整用サンプルを測定した場合に飽和および感度不足にならない程度の十分な強度の最大値が得られるようなH.V.で設定する。通常、測定装置の推奨あるいは目安とするH.V.で測定した値の±1.0Vの範囲となる。後述する実施例の測定ではNiのH.V.を630Vと設定して測定した際のNi強度の最大値を用いた。なお、測定条件調整用サンプルのニッケルめっき層およびコバルトめっき層の各層の厚さは、十分な強度を得るために0.2~1.0μmとするのが好ましい。
【0031】
そして、
図5(A)に示す方法によって高周波グロー放電発光分析装置の測定条件を設定した後、その測定条件にて、本実施形態の表面処理鋼板1を測定することにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12におけるNi含有割合、Co含有割合およびFe含有割合を求めることができる。
【0032】
ここで、
図5(B)は、後述する実施例1の表面処理鋼板1を、高周波グロー放電発光分析法により、上記測定条件にて、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面側から鋼板11に向かって深さ方向にNi強度、Co強度およびFe強度を連続的に測定したグラフである。また、
図6(A)は、
図5(B)に示すCo強度データに基づいて作成された、エッチング深さと、Co濃度との関係を示すグラフであり、
図6(B)は、
図5(B)に示すNi強度データに基づいて作成された、エッチング深さと、Ni濃度との関係を示すグラフである。なお、上述した
図5(A)、ならびに、
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)は、いずれも横軸を、エッチング深さとするグラフであるが、エッチング深さは、高周波グロー放電発光分析の測定条件(スパッタリング条件含む)と、スパッタリング時間とから求めることができるものである。つまり、予め付着量の明らかな熱処理を施していないニッケルめっき層を形成した鋼板において、エッチング開始からFe強度の最大値に対し10%の強度となる時間までのスパッタリング時間と、付着量とからエッチングレートを算出し、その時と同じ測定条件を用いることで、表面処理鋼板のスパッタリング時間に基づきエッチング深さを求めることができる。
【0033】
そして、
図5(B)に示すグラフは、上記測定条件にて測定した結果を示すものであるため、Ni強度、Co強度およびFe強度から求められる強度比は、そのままNiの質量、Coの質量およびFeの質量の質量比として用いることができ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中の各深さ位置における、Niの質量割合、Coの質量割合およびFeの質量割合、すなわち、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めることができる。具体的には例えば、Ni強度、Co強度、Fe強度の合計に対するNi強度の割合(%)(Ni強度/(Ni強度+Co強度+Fe強度)×100)は、Niの質量割合、すなわちNi濃度として用いることができる。また、Coの質量割合、Feの質量割合も同様に求めることができ、同様に、これらをCo濃度、Fe濃度として用いることができる。そして、
図6(A)は、このようにして求められた、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中の各深さ位置における、Co濃度(すなわち、Niの質量、Coの質量およびFeの質量の合計に対する、Coの質量の割合)を示すグラフである。
【0034】
そして、本実施形態においては、
図6(A)に示すように、Co濃度が最大値を示す点F
Co_MAXに対応する深さ位置をD
Co_MAXとし、このような点F
Co_MAXよりも鋼板11側(すなわち、深さの深い方向)であって、濃度が点F
Co_MAX(深さ位置D
Co_MAX)において示されているCo濃度の最大値に対して15%の値を示す点F
Co_15%に対応する深さ位置をD
Co_15%とした場合に、深さ位置D
Co_MAXから、深さ位置D
Co_15%までの間における、Co濃度勾配ΔP
Coを求めた際に、このようなCo濃度勾配ΔP
Coが、33質量%/0.1μm以下となるように制御するものである。すなわち、
図6(A)を参照すると、深さ位置D
Co_MAX(点F
Co_MAX)におけるCo濃度は約45質量%であり、そのため、深さ位置D
Co_15%(点F
Co_15%)におけるCo濃度は約6.75質量%となる。そして、深さ位置D
Co_MAX(点F
Co_MAX)は、エッチング深さが0.2μm付近であり、深さ位置D
Co_15%(点F
Co_15%)は、エッチング深さが0.7μm付近であり、Co濃度勾配ΔP
Coを算出すると、7.8質量%/0.1μmとなる。
【0035】
すなわち、この
図6(A)に示される実施例1においては、深さ位置D
Co_MAX(点F
Co_MAX)を頂点として、深さ位置D
Co_15%(点F
Co_15%)まで、深さの深い方向へと測定を進めていくと、0.1μmごとに、7.8質量%の割合にて、Co濃度が低減することを示している。なお、
図6(A)に示すように、Co濃度の低減割合は一定ではないため、本実施形態においては、深さ位置D
Co_MAXと、深さ位置D
Co_15%との2点におけるCo濃度に基づいて測定されるCo濃度の変化率を、Co濃度勾配ΔP
Coとする。すなわち、「Co濃度勾配ΔP
Co(質量%/0.1μm)={深さ位置D
Co_MAXにおけるCo濃度(質量%)-深さ位置D
Co_15%におけるCo濃度(質量%)}/0.1×|深さ位置D
Co_MAXにおける深さ(μm)-深さ位置D
Co_15%における深さ(μm)|」にて算出することができる。
【0036】
なお、高周波グロー放電発光分析装置による測定においては、測定対象の硬度がスパッタレート(およびスパッタリングタイム)に影響し、さらに特に最表層から深い地点になるほど、測定される強度が、深さ(最表層から測定点までの深さ)の影響を受けることがある。したがって、本実施形態の表面処理鋼板1については、上述した
図5(A)の方法で設定した測定条件にて測定を開始し、各測定点(各深さ位置)における各元素の強度比を、各元素の含有割合として求めた。また、同じスパッタ条件、H.V.で測定したとしても、アノードの状態に伴い、全体的な数値が上下する場合があり、たとえば、上述した
図5(A)の例では、Intensityの最大値が約2.0Vとなるように調整したが、実際に作製した表面処理鋼板1のニッケル-コバルト-鉄拡散層12を測定した場合には、Intensityの最大値が2.0Vにならない場合があるが、上記のように、各測定点における各元素の強度比を、各元素の含有割合として求めているので問題ない。
【0037】
そして、本実施形態においては、このように算出されるCo濃度勾配ΔPCoを33質量%/0.1μm以下とするものであり、これにより、表面処理鋼板1を、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12が内面となるようにして電池容器とした場合に、得られる電池を、内部抵抗値が低く電池特性に優れたものとすることができるとともに、電解液に対する耐食性にも優れたものとすることができ、経時後においても電池特性の低下を抑制することが可能となるものである。
【0038】
すなわち、従来、電池容器に用いる表面処理鋼板1について、表面に鉄-ニッケル拡散層を形成し、該鉄-ニッケル拡散層が内面となるようにして電池容器とすることで、電池容器内面に鉄を露出させ、これにより、鉄を露出させない場合と比較して、得られる電池を電池特性に優れたものとすることができることが知られている。しかしながら、電池容器内面における鉄の露出量が多くしすぎると、これに伴って電池容器内面におけるニッケルの存在割合が低下して、電池として長期間にわたって保管ないし使用した場合に、鉄が電解液に溶出してしまい、鉄の溶出に起因して発生するガスにより電池内部の内圧が上昇し、内圧の上昇により、封止部から電解液が漏液してしまうという不具合が発生するおそれがあった。また、電池容器内面におけるニッケルの存在割合が低下することにより、電池容器成型前の板や電池容器として保管した場合における大気に対する防錆性が低下するおそれもある。
【0039】
また、従来、電池容器に用いる表面処理鋼板について、表面にニッケル-コバルト合金層を形成し、該ニッケル-コバルト合金層が内面となるようにして電池容器を形成する方法も知られている。この場合には、ニッケル-コバルト合金層中のコバルトの含有割合を増加させることで、電池特性が向上することが知られている。しかしながら、ニッケル-コバルト合金層中のコバルトの含有量を増加させると、単純にコバルトの含有量の増加によって電池容器内面からコバルトが溶出しやすくなってしまうとともに、コバルトの含有量の増加に伴ってニッケルの含有割合が減少してしまうため、ニッケルと合金化しないコバルトの量が増加してしまい、これによっても、コバルトが溶出しやすくなってしまうという問題があった。
【0040】
すなわち、従来においては、電池容器内面において、鉄-ニッケル拡散層や、ニッケル-コバルト合金層を形成し、これらの層中の鉄やコバルトの含有割合を増加させることで、得られる電池の電池特性を向上させることができることが知られていたが、この場合には、鉄やコバルトを含有させることに伴って、ニッケルの含有割合が低下してしまうため、これにより、防錆性や、電解液に対する耐食性が低下してしまうという問題があった。
【0041】
これに対して、本実施形態によれば、表面処理鋼板1に、上述したニッケル-コバルト-鉄拡散層12、すなわち、ニッケル、コバルトおよび鉄の三元素が共存し、かつ、Co濃度が最大値を示す深さ位置DCo_MAXと、このような最大値に対して、Co濃度が15%の値を示す深さ位置DCo_15%との間における、Co濃度勾配ΔPCoを上記範囲に制御することにより、防錆性や電解液に対する耐食性の向上に寄与するニッケルの含有割合を比較的低いものとした場合においても、電池容器内面に鉄を適度に露出させて電池特性を向上させるという効果を確保しながら、電解液に対する耐食性にも優れたものとすることができ、経時後においても電池特性の低下を抑制することが可能となるものである。
【0042】
特に、本発明者らは、電解液に対する耐食性が、ニッケル-コバルト-鉄の表面の組成割合や、ニッケルおよびコバルトの含有量によってのみ決まるものではないことを見出したものである。より具体的には、ニッケル-コバルト-鉄拡散層においては、製造条件によってコバルトの分布態様が異なるものとなること、さらには、製造条件によっては、コバルトが、ニッケル-コバルト-鉄拡散層の厚み方向の全体に広がらず、厚み方向において部分的にコバルト濃度の高い領域が形成されることなどにより、コバルト濃度の勾配が急となるような態様となる場合があること、そして、このような場合には、ニッケル-コバルト-鉄拡散層表面におけるコバルト濃度が低いものであっても、電解液に対する耐食性が悪くなりやすい傾向があることを新たな課題として見出したものである。特に、このような分布態様はコバルトが厚み方向に十分に拡散できない時に生じやすく、さらには、熱処理前のめっきの表面のコバルト濃度が高い時にも生じやすく、特に熱処理前に鋼板上にコバルトめっき層を有する際に生じやすい。このような現象は、おそらく、コバルトがニッケルと比較して拡散しにくいことによって生じるものであり、したがって、このような場合には基材となる鋼板中に含まれる鉄を十分に拡散させることによってコバルト濃度の勾配を緩やかにする必要があることが分かった。すなわち、ニッケル-コバルト-鉄拡散層を形成することにより、電池特性の向上および電解液に対する耐食性を両立させるためには、めっき構成・めっき付着量・熱処理条件を適切に組み合わせることで、コバルト濃度の勾配が特定の範囲にあるものとする必要があること、特に、ニッケル付着量およびコバルト付着量の総付着量を制御しやすい製造方法として、ニッケルめっき層とコバルトめっき層を形成した後に熱処理によってニッケル-コバルト-鉄拡散層を形成する製造方法を選択する場合には、コバルト濃度の勾配を十分に低くするよう注意する必要があることを見出し、このような観点より、Co濃度勾配ΔPCoに着目し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0043】
また、本実施形態によれば、Co濃度勾配ΔPCoを33質量%/0.1μm以下とすることにより、上述したように低い内部抵抗値、電解液に対する耐食性に優れたものとすることができることに加えて、経時における色調変化を低く抑えることもできるものであり、これにより、変色による製品性の低下が抑制されたものとすることができる。
【0044】
Co濃度勾配ΔPCoは33質量%/0.1μm以下であればよいが、好ましくは30質量%/0.1μm以下、より好ましくは27質量%/0.1μm以下、さらに好ましくは24質量%/0.1μm以下である。また、Co濃度勾配ΔPCoの下限は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%/0.1μm以上であり、より好ましくは2質量%/0.1μm以上である。なお、本実施形態においては、Co濃度勾配ΔPCoの単位を「質量%/0.1μm」、すなわち、0.1μm当たりの質量%の変化率にて表すものである。
【0045】
また、本実施形態においては、ニッケル-コバルト-鉄中の鉄は鋼板の鉄が拡散したものであることが好ましい。鋼板の鉄が拡散したものである場合、Co濃度の最大値となるエッチング深さから鋼板に向かってFe濃度は単調に増加している。なお、ここで、単調に増加するとは、途中で濃度が減少に転ずることがないことを意味し、増加率は一定でなくても良い。
【0046】
また、本実施形態においては、表面処理鋼板1を、Co濃度勾配ΔPCoが上記範囲であることに加えて、Ni濃度勾配ΔPNiが、15質量%/μm以上に制御されたものであることが好ましい。すなわち、表面処理鋼板1について、高周波グロー放電発光分析法により、上記同様に測定を行うことで、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の各深さ位置における、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、Ni濃度が最大値を示す深さ位置をDNi_MAXとし、深さ位置DNi_MAXよりも鋼板11側であり、かつ、Ni濃度が、この最大値に対して15%の値を示す深さ位置をDNi_15%とした場合に、深さ位置DNi_MAXから、深さ位置DNi_15%までの間における、Ni濃度勾配ΔPNiが、15質量%/μm以上に制御されたものであることが好ましい。
【0047】
ここで、Ni濃度勾配ΔP
Niは、上記したCo濃度勾配ΔP
Coと同様に求めることができるものであるが、その具体的な方法を説明すると、以下の通りである。すなわち、
図6(B)に示すように、Ni濃度が最大値を示す点F
Ni_MAXに対応する深さ位置をD
Ni_MAXとし、このような点F
Ni_MAXよりも鋼板11側(すなわち、深さの深い方向)であって、濃度が点F
Ni_MAX(深さ位置D
Ni_MAX)において示されているNi濃度の最大値に対して15%の値を示す点F
Ni_15%に対応する深さ位置をD
Ni_15%とした場合に、深さ位置D
Ni_MAXから、深さ位置D
Ni_15%までの間におけるNi濃度の変化率を算出することで、Ni濃度勾配ΔP
Niを求めることができる。なお、
図6(B)に示すように、Ni濃度の低減割合は一定ではないため、本実施形態においては、深さ位置D
Ni_MAXと、深さ位置D
Ni_15%との2点におけるNi濃度に基づいて測定されるNi濃度の変化率を、Ni濃度勾配ΔP
Niとする。すなわち、「Ni濃度勾配ΔP
Ni(質量%/μm)={深さ位置D
Ni_MAXにおけるNi濃度(質量%)-深さ位置D
Ni_15%におけるNi濃度(質量%)}/|深さ位置D
Ni_MAXにおける深さ(μm)-深さ位置D
Ni_15%における深さ(μm)|」にて算出することができる。
【0048】
Ni濃度勾配ΔPNiは15質量%/μm以上であることが好ましく、より好ましくは17質量%/μm以上、さらに好ましくは18質量%/μm以上、特に好ましくは20質量%/μm以上である。また、Ni濃度勾配ΔPNiの上限は、特に限定されないが、好ましくは90質量%/μm以下であり、より好ましくは80%以下であり、さらに好ましくは50質量%/μm以下である。なお、本実施形態においては、Ni濃度勾配ΔPNiの単位については、「質量%/μm」、すなわち、1μm当たりの質量%の変化率にて表すものであり、たとえば、Ni濃度勾配ΔPNiが、30質量%/μmである場合には、深さ位置DNi_MAX(点FNi_MAX)を頂点として、深さ位置DNi_15%(点FNi_15%)まで、深さの深い方向へと測定を進めていくと、1μmごとに、30質量%の割合(0.1μmごとに、3質量%の割合)にて、Ni濃度が減少することを示している。
【0049】
また、本実施形態においては、表面処理鋼板1について、高周波グロー放電発光分析法により、上記同様に測定を行うことで、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度を求めた際に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中におけるNi濃度が最大値に対して0.5%となる深さ位置のうち、表面側に位置する深さ位置をDNi_0.5%とした場合に、この深さ位置DNi_0.5%における、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)、Co濃度PCo(DNi_0.5%)、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)を特定の範囲とすることが好ましく、これにより、表面処理鋼板1を、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として用いた場合における電池特性により優れ、さらには、経時後における電池特性の低下をより一層低減することができる。
【0050】
ここで、上述したように、
図5(B)に示すグラフは、エッチング深さ方向における、Ni強度、Co強度およびFe強度の変化を示すものであり、
図5(B)に示すグラフに示されたNi強度、Co強度およびFe強度は、そのままNiの質量、Coの質量およびFeの質量に換算することができるものである。そのため、本実施形態においては、このようなNi強度、Co強度およびFe強度のグラフに基づいて、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中におけるNi強度が最大値に対して0.5%となる深さ位置D
Ni_0.5%における、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)を以下に説明する方法により求めることができるものであり、本実施形態においては、これらを後述する範囲とすることが好適である。
【0051】
以下、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)の測定方法について詳述すると、まず、
図5(B)に示すように、
図5(B)に係る実施例1の表面処理鋼板1は、表層部分(エッチング深さ0~2.5μm程度の領域)において、Ni,CoおよびFeが共存するニッケル-コバルト-鉄拡散層12が存在する。このニッケル-コバルト-鉄拡散層12は、上述したように、たとえば、鋼板11の表面に、ニッケルめっき層およびコバルトめっき層をこの順で形成し、その後、特定の条件で熱処理を施すことで形成することができるものであり、熱処理によって鋼板11中の鉄が最表面まで熱拡散してなるものである。そして、このようなニッケル-コバルト-鉄拡散層12について、Ni強度の最大値を抽出し、抽出した最大値に対して0.5%の強度となる深さ位置を、深さ位置D
Ni_0.5%として特定する。なお、最大値に対して0.5%の強度となる深さ位置が複数存在する場合には、それらのうち、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面に最も近い位置を、深さ位置D
Ni_0.5%として特定する。具体的には、
図5(B)のグラフでは、Ni強度の最大値は、エッチング深さ位置0.47μm付近にあり、その強度は約1.36Vである。そのため、Ni強度の最大値(1.36V)に対して0.5%の強度は0.00679Vであり、
図5(B)に示すグラフを一部拡大したグラフである、
図5(C)に示すグラフより、Ni強度が0.00679Vとなる深さ位置D
Ni_0.5%は、エッチング深さは、0.055μm付近と特定できる。ただし、
図5(B)、
図5(C)に示す実施例1においては、実際には、測定によるデータの取り込み間隔を、約0.00465μmごとに設定したため、0.5%の強度に一番近い値の深さ位置をNi強度の最大値に対して0.5%の強度となる特定深さ位置D
Ni_0.5%とした(
図5(C)に示す実施例1においては、エッチング深さが0.0558μmが一番近い値であった)が、本発明者等が検討したところ、深さ位置0.055μmにおける各元素の強度割合と、深さ位置0.0558μmにおける各元素の強度割合とは、同じであった。そして、この深さ位置D
Ni_0.5%にける、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)を、上記した方法にしたがって算出することができる。なお、本実施形態において、深さ位置D
Ni_0.5%における、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)に着目するのは、深さ位置D
Ni_0.5%における、これらの濃度が、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表層(最表層および最表層の近傍)における、濃度割合を表していると判断できることによる。本実施形態のニッケル-コバルト-鉄拡散層を有する表面処理鋼板を高周波グロー放電発光分析装置を用いて分析した際、測定開始点で得られる強度は表面粗度の影響などにより不安定であるため安定しない一方で、Ni強度が最大値に対して0.5%の強度となる深さまでエッチングすることにより測定対象によらずある程度の強度を安定的に得られることを本発明者らは見出した。上述の通り、本実施形態においては、Ni強度が最大値に対して0.5%の強度となる点はエッチング深さが0.01~0.1μmであり、ニッケル-コバルト-鉄拡散層の最表層および最表層の近傍である。すなわち、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)は、実質的に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の最表面における、Ni濃度、Co濃度、およびFe濃度を表すものといえるものである。
【0052】
そして、本実施形態においては、深さ位置DNi_0.5%における、Co濃度PCo(DNi_0.5%)は、経時後の電池特性をより向上させることができるという観点より、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは16質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。Co濃度PCo(DNi_0.5%)の上限は、表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合のコバルトの溶出を抑制することにより耐食性の低下を抑制できるという観点より、好ましくは65質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは39質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0053】
また、深さ位置DNi_0.5%における、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)は、得られる電池における電池特性をより高めることができるという観点より、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。Fe濃度PFe(DNi_0.5%)の下限は、表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合の鉄の溶出を抑制することにより耐食性の低下を抑制できるという観点より、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
【0054】
さらに、本実施形態においては、深さ位置DNi_0.5%における、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)は、表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合に、接触抵抗の増大を抑制できるという観点、および電池特性向上の観点より、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、特に好ましくは50質量%以下である。Ni濃度PNi(DNi_0.5%)の下限は、表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合に、コバルトおよび鉄の溶出をより適切に抑制できるという観点より、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは12質量%以上である。
【0055】
また、本実施形態の表面処理鋼板1においては、Co濃度PCo(DNi_0.5%)に対するFe濃度PFe(DNi_0.5%)の比RFe/Co(PFe(DNi_0.5%)/PCo(DNi_0.5%))の下限は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上であり、上限は、好ましくは20以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは8.0以下である。比RFe/Coを上記範囲とすることにより、得られる電池の電池特性を向上させる効果と、電解液に対する耐食性を向上させる効果とを、より高度にバランスさせることが可能となる。
【0056】
また、初期の電池特性をより向上させることができるという観点では、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)を55質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは65質量%以上である。この場合、電解液への溶出を抑制するために、加えてCo濃度PCo(DNi_0.5%)が5質量%以上であることが好ましく、後述のニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のコバルト含有量が0.2g/m2以上であることが好ましく、さらに、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のニッケルおよびコバルトの合計の含有量が1.6g/m2以上であることが好ましい。このとき、経時後の電池特性向上の観点よりニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のコバルト含有量はより好ましくは0.5g/m2以上であり、さらに好ましくは0.7g/m2以上である。コバルト含有量を上記値とすることで、表層のCo含有割合だけでなく、拡散層中にコバルトを一定量含有することにより、経時後の電池特性を優れたものとすることができる。
【0057】
また、本実施形態においては、
図7に示す表面処理鋼板1aのように、鋼板11とニッケル-コバルト-鉄拡散層12との間に、鉄-ニッケル拡散層15をさらに備えていてもよい。これにより、表面処理鋼板1aを電池容器として用いた場合に、電解液に対する耐食性をより向上させることができるようになる。
【0058】
なお、本実施形態の表面処理鋼板1aにおいては、次のような方法により、鉄-ニッケル拡散層15が存在することを確認することができる。すなわち、上述した
図5(B)と同様の方法で、表面処理鋼板1aについて、高周波グロー放電発光分析法により、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面から鋼板11に向かって深さ方向にNi強度、Co強度およびFe強度を連続的に測定した際に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面から深さ方向に向かって測定されるCo強度がその最大値を迎えた後にその最大値に対して15%の強度となる深さを起点として、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の表面から深さ方向に向かって測定されるNi強度がその最大値を迎えた後にその最大値に対して15%となる強度となるまでの深さまでの領域が存在する場合には、このような深さ領域は、コバルトを含まない鉄とニッケルからなる拡散層、すなわち鉄-ニッケル拡散層であると判断でき、この場合には、鉄-ニッケル拡散層が存在すると判断することができる。なお、高周波グロー放電発光分析装置による測定においてはエッチングが進むにつれて、エッチングした地点の側壁からの元素情報が入りやすくなり、表層に存在する元素がノイズとして検出されやすいため、表層および表層近傍以外の、これよりも十分に深い深さにおいて、各元素の強度の最大値に対し15%以下の強度となる場合には、通常、その元素はほとんど存在しないとみなすことができる。
【0059】
本実施形態においては、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のコバルトの含有量は、下限について、好ましくは0.2g/m2以上であり、電池特性をより向上させるという観点からより好ましくは0.5g/m2以上であり、さらに好ましくは0.7g/m2以上である。また、コバルトの含有量の上限は、拡散層からのコバルト溶出の過剰な溶出を抑制するという観点より、好ましくは5.0g/m2以下であり、より好ましくは3.0g/m2以下であり、さらに好ましくは2.0g/m2以下である。
【0060】
鉄-ニッケル拡散層15が形成する場合における、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12および鉄-ニッケル拡散層15に含まれるニッケルの合計の含有量の下限は、耐食性を向上させるという観点より、好ましくは1.0g/m2以上であり、より好ましくは1.3g/m2以上であり、さらに好ましくは1.6g/m2以上である。ニッケル-コバルト-鉄拡散層12および鉄-ニッケル拡散層15に含まれるニッケルの合計の含有量の上限は、厚すぎると鉄露出が困難となるおそれや安定した割合とできないおそれがあることから、好ましくは12.5g/m2以下であり、より好ましくは9.5g/m2以下であり、さらに好ましくは8.5g/m2以下であり、特に好ましくは7.0g/m2以下である。
【0061】
また、鉄-ニッケル拡散層15を形成しない場合における、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のニッケルの含有量の下限は、耐食性を向上させるという観点より、好ましくは0.2g/m2以上、より好ましくは0.5g/m2以上、さらに好ましくは0.7g/m2以上である。鉄-ニッケル拡散層15を形成しない場合における、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のニッケルの含有量の上限は、厚すぎると鉄露出が困難となるおそれや安定した割合とできないおそれがあることから、好ましくは11.3g/m2以下、より好ましくは9.5g/m2以下、さらに好ましくは8.5g/m2以下、特に好ましくは7.0g/m2以下である。
【0062】
ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のニッケルおよびコバルトの合計の含有量(鉄-ニッケル拡散層15が形成されている場合には、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12および鉄-ニッケル拡散層15に含まれるニッケルおよびコバルトの合計量)は、下限について、地鉄からの溶出を抑制するという観点より、好ましくは1.6g/m2以上であり、より好ましくは2.5g/m2以上であり、さらに好ましくは3.0g/m2以上、特に好ましくは3.5g/m2以上である。ニッケルおよびコバルトの合計の含有量の上限は、厚すぎると鉄露出が困難となるおそれや安定した割合とできないおそれがあることから、好ましくは14.0g/m2以下であり、より好ましくは10.0g/m2以下であり、さらに好ましくは9.0g/m2以下であり、特に好ましくは7.5g/m2以下である。
【0063】
なお、上述したニッケルの含有量、およびコバルトの含有量は、例えば表面処理鋼板1,1aについて蛍光X線分析を行い、予め求めた検量線に基づきニッケルおよびコバルトのそれぞれの付着量を測定することで求めることができる。
【0064】
なお、上記付着量測定の際に、蛍光X線分析による半定量分析(任意の元素に対して組成割合の算出)も行えるが、X線の侵入深さが10μm以上であるため、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12のニッケルおよびコバルトの含有量が14.0g/m2以下である場合、最表層から測定したとしても基材の鉄まで含めた割合となってしまう。たとえば、後述する実施例1の表面処理鋼板(高周波グロー放電発光分析法により求められる値が、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)=23.50質量%、Co濃度PCo(DNi_0.5%)=15.14質量%、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)=61.37質量%である表面処理鋼板)について蛍光X線分析を行うと、ニッケル、コバルト、鉄の割合がそれぞれ、13.6質量%、5.6質量%、80.8質量%となり、蛍光X線分析による測定結果は、高周波グロー放電発光分析法による測定結果とは異なるものとなる。したがって、特に表層まで鉄を露出させた場合、めっき付着量や蛍光X線分析からの割合を算出したものと、高周波グロー放電発光分析で表層(最表層および最表層の近傍)の割合を分析したものとは異なるものとなる。これに対し、高周波グロー放電発光分析によれば、表層(最表層および最表層の近傍)の割合を適切に分析できるものである。
【0065】
本実施形態の表面処理鋼板1,1aは、以上のようにして構成される。
【0066】
本実施形態の表面処理鋼板1,1aは、深絞り加工法、絞りしごき加工法(DI加工法)、絞りストレッチ加工法(DTR加工法)、または絞り加工後ストレッチ加工としごき加工を併用する加工法などにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12が容器内面側となるように、
図1,2に示すアルカリ電池2の正極缶21や、その他の電池の電池容器などに成形加工されて用いられる。
【0067】
本実施形態の電池容器は、上述した本実施形態の表面処理鋼板1,1aを用いてなるものであるため、電池とした場合に、内部抵抗値が低く電池特性に優れたものとすることができるとともに、強アルカリ性の電解液に対する耐食性にも優れたものとすることができ、経時後においても電池特性の低下を抑制することが可能となるものであり、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として好適に用いることができる。なお、上述した例では、本実施形態の表面処理鋼板1,1aをアルカリ電池の部材として用いた例を示したが、アルカリ電池に限定されず、本実施形態の表面処理鋼板1,1aは、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として好適に用いることができる。特に、本実施形態の電池容器は、電池内部に発生したガスを放出させる機構を備えた電池の電池容器として好適に用いることができる。このようなガス放出機構を備えている場合、本実施形態の電池容器内面側に形成されたニッケル-コバルト-鉄拡散層12から、コバルトや鉄が極微量に溶出し、これにより微量のガスが発生してしまった場合にも、発生したガスを適切に放出することができるためである。
【0068】
<表面処理鋼板の製造方法>
次いで、本実施形態の表面処理鋼板1の製造方法について、説明する。
【0069】
まず、鋼板11を準備し、鋼板11に対してニッケルめっきを施すことにより、
図4に示すように、鋼板11の電池容器内面となる面にニッケルめっき層13を形成する。なお、ニッケルめっき層13は、鋼板11の電池容器内面となる面だけでなく、反対の面にも形成されることが好ましい。ニッケルめっき層13を鋼板11の両面に形成する際には、鋼板11における電池容器の内面となる面と、電池容器の外面となる面とに、別々の組成のめっき浴を用いて、組成や表面粗度などが異なるニッケルめっき層13をそれぞれ形成してもよいが、製造効率を向上させる観点より、鋼板11の両面に、同じめっき浴を用いて1工程でニッケルめっき層13を形成してもよい。
【0070】
ニッケルめっき層13を形成するためのニッケルめっき浴としては、特に限定されないが、電気ニッケルめっきで通常用いられているめっき浴、すなわち、ワット浴や、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴、クエン酸浴などを用いることができる。たとえば、ニッケルめっき層13は、ワット浴として、硫酸ニッケル200~350g/L、塩化ニッケル20~60g/L、ほう酸10~50g/Lの浴組成のものを用い、pH3.0~4.8(好ましくはpH3.6~4.6)、浴温50~70℃にて、電流密度0.5~60A/dm2(好ましくは1~40A/dm2)の条件で形成することができる。
【0071】
ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量は、12.5g/m2以下であればよく、好ましくは10.0g/m2以下、より好ましくは9.0g/m2以下、さらに好ましくは8.8g/m2以下である。なお、ニッケルの含有量は、ニッケルめっき層13を形成した鋼板11について、蛍光X線分析を行うことで、ニッケルめっき層13を構成するニッケル原子の付着量を測定することで求めることができる。ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.2g/m2以上、より好ましくは0.4g/m2以上、さらに好ましくは0.8g/m2以上、さらにより好ましくは1.2g/m2以上であり、耐食性をより高めることができるという観点より、特に好ましくは1.6g/m2以上である。ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量を上記範囲とすることにより、後述するように、ニッケルめっき層13上に、コバルトめっき層14を形成し、さらに熱処理を行うことでニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する際に、熱処理によって鋼板11を構成する鉄が、ニッケルめっき層13を経てコバルトめっき層14の表面までより良好に熱拡散できるようになり、これにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の形成をより良好に行うことができるようになる。
【0072】
次いで、ニッケルめっき層13を形成した鋼板11に対して、コバルトめっきを施すことにより、コバルトめっき層14を形成する。
【0073】
コバルトめっき層14を形成するためのコバルトめっき浴としては、特に限定されないが、硫酸コバルト:200~300g/L、塩化コバルト:50~150g/L、塩化ナトリウム:10~50g/L、ホウ酸10~60g/Lの浴組成のコバルトめっき浴を用いて、pH:2~5、浴温:40~80℃、電流密度:1~40A/dm2の条件で形成することができる。
【0074】
コバルトめっき層14に含まれるコバルトの含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.2g/m2以上、より好ましくは0.4g/m2以上、さらに好ましくは0.6g/m2以上、さらにより好ましくは0.8g/m2以上であり、耐食性をより高めることができるという観点より、特に好ましくは1.0g/m2以上である。上限は特に限定されないが、拡散層からのコバルト溶出の過剰な溶出を抑制するという観点より、好ましくは5.0g/m2以下であり、より好ましくは3.0g/m2以下であり、より好ましくは2.0g/m2以下である。コバルトめっき層14に含まれるコバルトの含有量を上記範囲とすることにより、ニッケルめっき層13およびコバルトめっき層14を形成した鋼板11に対して、後述するように熱処理を行う際に、熱処理によって鋼板11を構成する鉄が、ニッケルめっき層13を経てコバルトめっき層14の表面までより良好に熱拡散できるようになり、これにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の形成をより良好に行うことができるようになる。
【0075】
次いで、ニッケルめっき層13およびコバルトめっき層14を形成した鋼板11に対して、熱処理を行うことにより、鋼板11を構成する鉄と、ニッケルめっき層13を構成するニッケルと、コバルトめっき層14を構成するニッケルおよびコバルトとを、それぞれ相互に熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する。これにより、
図3に示すように、鋼板11上にニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されてなる表面処理鋼板1が得られる。あるいは、ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量、コバルトめっき層14に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量、熱処理の条件などによっては、
図7に示すように、鋼板11とニッケル-コバルト-鉄拡散層12との間に鉄-ニッケル拡散層15が形成されてなる表面処理鋼板1aが得られる。
【0076】
熱処理の条件は、ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量、コバルトめっき層14に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量に応じて、適宜、選択すればよく、つまり、鋼板の鉄が十分に拡散するだけの熱量を与えられる熱処理条件を温度と時間の組み合わせで選択すればよい。例えば、連続焼鈍においては、熱処理温度が、480~900℃であればよく、ニッケルおよびコバルトの合計の含有量が2.7g/m2以上のときは好ましくは650~850℃、より好ましくは680~840℃が好ましい。また、熱処理における均熱時間(上記熱処理温度を保持する時間)は、好ましくは10秒~2分、より好ましくは10秒~1.5分、さらに好ましくは20~70秒である。鋼板の鉄が十分に拡散するだけの熱量を与えられる熱処理条件とは、例えば、4.5g/m2以上の場合700℃以上750℃未満で1分以上の保持または750℃~840℃の20秒~1.5分が好ましい。また、箱型焼鈍においては、熱処理温度が450~680℃が好ましく、より好ましくは500℃~650℃である。また、箱型焼鈍における均熱時間は、ニッケルおよびコバルトの合計の含有量および熱処理温度によって、1~24時間の範囲において適宜選択すればよく、好ましくは3~20時間、より好ましくは6~18時間である。熱拡散処理の方法としては、連続焼鈍および箱型焼鈍のいずれでもよいが、連続鋼帯における生産性が良いという観点からは連続焼鈍が好ましく、より鉄を露出させ電池特性の向上を図るという観点からは箱型焼鈍が好ましい。特に、連続鋼帯での製造においては、鋼帯をロール状とした状態にて箱型焼鈍を行うのが一般的であるところ、箱型焼鈍による熱処理温度が高すぎると、表面に形成したニッケル-コバルト-鉄拡散層12から、これに接触する裏面に、コバルトが拡散してしまい、品質が安定しないという問題があることに加え、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12中に於ける、Ni濃度勾配ΔPNiの値が低くなりすぎてしまう傾向にある。
【0077】
以上のようにして、本実施形態の表面処理鋼板1,1aを製造することができる。特に、本実施形態においては、ニッケルめっき層13およびコバルトめっき層14をこの順で形成した鋼板11に対して、熱処理を行うことにより、鋼板11を構成する鉄と、ニッケルめっき層13を構成するニッケルと、コバルトめっき層14とを、それぞれ相互に熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成するものであり、たとえば、コバルトめっき層14に代えて、ニッケル-コバルト合金めっき層を形成する場合などと比べて、連続鋼帯での製造を行った際における、得られるニッケル-コバルト-鉄拡散層12中のニッケル量やコバルト量を容易に所望の範囲に制御できるものであり、これにより優れた生産性を実現できるものである。
【0078】
本実施形態の製造方法によれば、ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量、コバルトめっき層14に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量、および熱処理の条件を、それぞれ上記範囲に制御することにより、形成されるニッケル-コバルト-鉄拡散層12における、Co濃度勾配ΔP
Coが、33質量%/0.1μm以下に制御されたものを好適に得ることができる。そして、これにより、本実施形態の製造方法によれば、得られる本実施形態の表面処理鋼板1,1aを電池容器として用いた場合に、得られる電池を、内部抵抗値が低く電池特性に優れたものとすることができるとともに、強アルカリ性の電解液に対する耐食性にも優れたものとすることができ、経時後においても電池特性の低下を抑制することが可能となるものであり、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として好適に用いることができる。特に、容器内面側に形成されたニッケル-コバルト-鉄拡散層12において、コバルトや鉄の溶出によって微量のガスが発生した場合にも、発生したガスを適切に放出することができることから、電池内部に発生したガスを放出させる機構を備えた電池の電池容器として好適に用いることができる。とりわけ、ニッケルめっきの後にコバルトめっきを行い熱処理する製造方法においては、基材側のCoは拡散しやすく、表面に近い領域ではCoが残存しやすいため、結果、Co分布としては表面に近い領域にCoが集中した領域が形成されやすく、そのため、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12における、Co濃度の半値幅W
Coが、0.1~0.35μmと比較的小さいものとなるが、Co濃度勾配を特定の範囲とすることにより、内部抵抗の低減効果、強アルカリ性の電解液に対する耐食性の向上効果をより高めることができるものである。なお、Co濃度の半値幅W
Coは、
図6(A)のグラフの横軸のスケールを変更したグラフである
図6(C)に示すように、Co濃度が最大値を示す点F
Co_MAXにおけるCo濃度に対し、50%のCo濃度を示す深さ位置D
Co_50%_iniと、深さ位置D
Co_50%_endとの差(すなわち、|深さ位置D
Co_50%_iniにおける深さ(μm)-深さ位置D
Co_50%_endにおける深さ(μm)|)を算出することで、求めることができる。
【0079】
なお、上記においては、鋼板11の表面に、ニッケルめっき層13およびコバルトめっき層14をこの順で形成した後、熱処理を施すことで、各層に含まれる鉄、ニッケルおよびコバルトをそれぞれ熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する方法を例示したが、このような方法に代えて、鋼板11の表面に、ニッケルめっき層13を形成せずに、ニッケル-コバルト合金めっき層14’のみを直接形成した後、熱処理を施すことで、鋼板11と、ニッケル-コバルト合金めっき層14’とを熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する方法を採用してもよい。
以下、ニッケルめっき層13を形成せずに、ニッケル-コバルト合金めっき層14’のみを形成した後、熱処理を施すことで、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する場合における、表面処理鋼板1の製造方法について、説明する。
【0080】
ニッケル-コバルト合金めっき層14’を形成するためのニッケル-コバルト合金めっき浴としては、特に限定されないが、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いることが好ましい。なお、ニッケル-コバルト合金めっき浴中における、コバルト/ニッケル比は、コバルト/ニッケルのモル比で、0.05~1.0の範囲とすることが好ましく、0.1~0.7の範囲とすることがより好ましい。たとえば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いる場合には、硫酸ニッケル:10~300g/L、塩化ニッケル:20~60g/L、硫酸コバルト:10~250g/L、ほう酸:10~40g/Lの範囲で、コバルト/ニッケル比が上記範囲となるように、各成分を適宜調整してなるめっき浴を用いることができる。また、ニッケル-コバルト合金めっきは、浴温40~80℃、pH1.5~5.0、電流密度1~40A/dm2の条件とすることが好ましい。
【0081】
ニッケル-コバルト合金めっき層14’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量は、好ましくは11.5g/m2以下であり、より好ましくは10.0g/m2以下、さらに好ましくは9.0g/m2以下、特に好ましくは7.5g/m2以下である。なお、ニッケル-コバルト合金めっき層14’に含まれるニッケルおよびコバルトの含有量は、ニッケル-コバルト合金めっき層14’を形成した鋼板11について、蛍光X線分析を行うことで、ニッケル-コバルト合金めっき層14’を構成するニッケル原子およびコバルト原子の合計の付着量を測定することで、求めることができる。ニッケル-コバルト合金めっき層14’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは1.6g/m2以上、より好ましくは2.5g/m2以上、さらに好ましくは3.0g/m2以上、特に好ましくは3.5g/m2以上である。ニッケル-コバルト合金めっき層14’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量を上記範囲とすることにより、ニッケル-コバルト合金めっき層14’を形成した鋼板11に対して、後述するように熱処理を行う際に、熱処理によって鋼板11を構成する鉄が、ニッケル-コバルト合金めっき層14’の表面までより良好に熱拡散できるようになり、これにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の形成をより良好に行うことができるようになる。
【0082】
次いで、ニッケル-コバルト合金めっき層14’を形成した鋼板11に対して、熱処理を行うことにより、鋼板11を構成する鉄と、ニッケル-コバルト合金めっき層14’を構成するニッケルおよびコバルトとを、相互に熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する。これにより、
図3に示すように、鋼板11上にニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されてなる表面処理鋼板1が得られる。なお、本製造方法においては、その製造方法の性質上、
図6に示す表面処理鋼板1aのように、鋼板11とニッケル-コバルト-鉄拡散層12との間に、鉄-ニッケル拡散層15をさらに備える構成とするには適さないものである。
【0083】
熱処理の条件は、ニッケル-コバルト合金めっき層14’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量に応じて、適宜、選択すればよいが、熱処理温度が、好ましくは480~900℃、より好ましくは500~800℃、さらに好ましくは520~750℃である。また、熱処理における均熱時間(上記熱処理温度を保持する時間)は、好ましくは3秒~2分、より好ましくは10秒~1.5分、さらに好ましくは20~60秒である。熱拡散処理の方法としては、連続焼鈍および箱型焼鈍のいずれでもよいが、熱処理温度および熱処理時間を上記範囲に調整しやすいという観点より、連続焼鈍が好ましい。
【0084】
上記の製造方法によれば、ニッケル-コバルト合金めっき層14に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量、および熱処理の条件を、それぞれ上記範囲に制御することにより、形成されるニッケル-コバルト-鉄拡散層12を、Co濃度勾配を33%/0.1μm以下に制御されたものとすることができる。これにより、得られる本実施形態の表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合に、得られる電池を、内部抵抗値が低く電池特性に優れたものとすることができるとともに、強アルカリ性の電解液に対する耐食性にも優れたものとすることができ、経時後においても電池特性の低下を抑制することが可能となるものであり、強アルカリ性の電解液を用いる電池の電池容器として好適に用いることができる。特に、容器内面側に形成されたニッケル-コバルト-鉄拡散層12において、コバルトや鉄の溶出によって微量のガスが発生した場合にも、発生したガスを適切に放出することができることから、電池内部に発生したガスを放出させる機構を備えた電池の電池容器として好適に用いることができる。
【0085】
あるいは、上記と同様にして、ニッケルめっき層13を形成した後、ニッケルめっき層13を形成した鋼板11に対して、ニッケル-コバルト合金めっきを施すことにより、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成し、これを熱処理する方法を採用してもよい。
【0086】
ニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成するためのニッケル-コバルト合金めっき浴としては、特に限定されないが、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いることが好ましい。なお、ニッケル-コバルト合金めっき浴中における、コバルト/ニッケル比は、コバルト/ニッケルのモル比で、0.05~1.0の範囲とすることが好ましく、0.1~0.7の範囲とすることがより好ましい。たとえば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸コバルトおよびホウ酸を含有してなるワット浴をベースとしためっき浴を用いる場合には、硫酸ニッケル:10~300g/L、塩化ニッケル:20~60g/L、硫酸コバルト:10~250g/L、ほう酸:10~40g/Lの範囲で、コバルト/ニッケル比が上記範囲となるように、各成分を適宜調整してなるめっき浴を用いることができる。また、ニッケル-コバルト合金めっきは、浴温40~80℃、pH1.5~5.0、電流密度1~40A/dm2の条件とすることが好ましい。
【0087】
ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量は、7.5g/m2以下であればよく、好ましくは4.0g/m2以下、より好ましくは3.0g/m2以下である。なお、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの含有量は、ニッケルめっき層13およびニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成した鋼板11について、蛍光X線分析を行うことで、ニッケルめっき層13およびニッケル-コバルト合金めっき層14’’を構成するニッケル原子およびコバルト原子の合計の付着量を測定し、得られた合計の付着量から、上述したニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量を差し引くことで(あるいは、ニッケルめっき層13を形成する際のニッケルの付着量を差し引くことで)、求めることができる。ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.4g/m2以上、より好ましくは0.8g/m2以上、さらに好ましくは1.2g/m2以上、特に好ましくは1.6g/m2以上である。ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量を上記範囲とすることにより、ニッケルめっき層13およびニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成した鋼板11に対して、後述するように熱処理を行う際に、熱処理によって鋼板11を構成する鉄が、ニッケルめっき層13を経てニッケル-コバルト合金めっき層14’’の表面までより良好に熱拡散できるようになり、これにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12の形成をより良好に行うことができるようになる。
【0088】
ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるコバルトの含有量は、0.2g/m2以上であることが好ましいが、得られる電池の電池特性をより向上させるために、より好ましくは0.5g/m2以上、さらに好ましくは0.7g/m2以上である。コバルトの含有量の上限は、表層の含有割合を所定の範囲とすることを阻害しなければ特に制限されないが、コバルトの含有量が多くなりすぎると鉄が露出しにくくおそれがあるため、好ましくは5.0g/m2以下、より好ましくは3.0g/m2以下、さらに好ましくは2.0g/m2以下である。なお、コバルトの含有量は、ニッケルめっき層13およびニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成した鋼板11について、蛍光X線分析を行うことで、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’を構成するコバルト原子の付着量を測定することで求めることができる。ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるコバルトの含有量を上記範囲とすることにより、表面処理鋼板1を電池容器として用いた場合に、得られる電池の電池特性をより向上させることができる。
【0089】
次いで、ニッケルめっき層13およびニッケル-コバルト合金めっき層14’’を形成した鋼板11に対して、熱処理を行うことにより、鋼板11を構成する鉄と、ニッケルめっき層13を構成するニッケルと、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’を構成するニッケルおよびコバルトとを、それぞれ相互に熱拡散させ、ニッケル-コバルト-鉄拡散層12を形成する。これにより、
図3に示すように、鋼板11上にニッケル-コバルト-鉄拡散層12が形成されてなる表面処理鋼板1が得られる。あるいは、ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量、熱処理の条件などによっては、
図7に示すように、鋼板11とニッケル-コバルト-鉄拡散層12との間に鉄-ニッケル拡散層15が形成されてなる表面処理鋼板1aが得られる。
【0090】
熱処理の条件は、ニッケルめっき層13に含まれるニッケルの含有量、ニッケル-コバルト合金めっき層14’’に含まれるニッケルおよびコバルトの合計の含有量に応じて、適宜、選択すればよいが、熱処理温度が、480~900℃であればよく、好ましくは500~800℃、より好ましくは520~750℃である。また、熱処理における均熱時間(上記熱処理温度を保持する時間)は、好ましくは3秒~2分、より好ましくは10秒~1.5分、さらに好ましくは20~60秒である。熱拡散処理の方法としては、連続焼鈍および箱型焼鈍のいずれでもよいが、熱処理温度および熱処理時間を上記範囲に調整しやすいという観点より、連続焼鈍が好ましい。なお、ニッケルおよびコバルトの含有量が11.5g/m2以下のとき、より安定的に鉄を露出できるという観点より、熱処理温度600~900℃の連続焼鈍がより好ましく、熱処理温度700~830℃の連続焼鈍がさらに好ましい。ニッケルおよびコバルトの含有量が5.4g/m2以下のときは熱処理温度480℃以上600℃未満の連続焼鈍でもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の定義および評価方法は、以下のとおりである。
【0092】
<Ni量およびCo量>
表面処理鋼板の表面を、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)により測定することで、ニッケル-コバルト-鉄拡散層中に含まれるニッケル量およびコバルト量(鋼板とニッケル-コバルト-鉄拡散層との間に鉄-ニッケル拡散層が形成されている場合には、ニッケル-コバルト-鉄拡散層および鉄-ニッケル拡散層に含まれる合計のニッケル量およびコバルト量)を、それぞれ測定した。
【0093】
<Co濃度勾配ΔPCo、Ni濃度勾配ΔPNi、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)、Co濃度PCo(DNi_0.5%)、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)>
表面処理鋼板について、上述した方法にしたがい、高周波グロー放電発光分析法により、ニッケル-コバルト-鉄拡散層の表面側から鋼板に向かって深さ方向に連続的にNi強度、Co強度およびFe強度を測定し、得られたNi強度、Co強度およびFe強度に基づいて、Ni濃度、Co濃度およびFe濃度をそれぞれ求め、求めた結果に基づいて、Co濃度勾配ΔPCo、Ni濃度勾配ΔPNi、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)、Co濃度PCo(DNi_0.5%)、およびFe濃度PFe(DNi_0.5%)を求めた。また、求めたCo濃度PCo(DNi_0.5%)、およびFe濃度PFe(DNi_0.5%)に基づいて、Co濃度PCo(DNi_0.5%)に対する、Fe濃度PFe(DNi_0.5%)の比RFe/Co(PFe(DNi_0.5%)/PCo(DNi_0.5%))も求めた。なお、高周波グロー放電発光分析法による測定条件は、以下のようにした。
測定装置:マーカス型高周波グロー放電発光表面分析装置(堀場製作所社製、型番:GD-Profiler2)
光電子増倍管チャンネルの電圧(H.V.):Feが785V、Niが630V、Coが720V
アノード径:φ4mm
ガス種:Ar
取り込み間隔:0.05秒
ガス圧力:600Pa
出力:35W
【0094】
<腐食電流密度>
表面処理鋼板を切断することにより、幅20mm、長さ40mmの短冊状の試験片を作製した。次いで、作製した試験片において測定面積をφ6mmとし、液温を25℃とした濃度10Mの水酸化カリウム水溶液に浸漬させ、電気化学測定システム(北斗電工社製、型番:HZ-5000)を用いて、参照電極として銀/塩化銀電極を、対極として白金をそれぞれ使用し、-800mVから800mVまで50mV/minの速度で掃引して測定を行った。そして、測定結果に基づいて、電位が100mVの時点における電流密度を、腐食電流密度として得た。なお、腐食電流密度の評価においては、腐食電流密度が0.025mA/cm2以下、好ましくは0.015mA/cm2以下であれば、表面処理鋼板が耐溶出性に優れるものであると判断した。
【0095】
<接触抵抗値>
表面処理鋼板を切断することにより、JIS Z 2241:2011「金属材料引張試験方法」にしたがって13B号試験片を作製した。次いで、作製した試験片のひとつを、電気接点シミュレータ(山崎精密研究所社製、型番:CRS-1)を用いて、接触荷重:100gfの条件で測定することにより、試験片の1回目の接触抵抗値を得た。次いで、1回目の接触抵抗値を測定した試験片に対して、卓上形精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AGS-X)を用いて引張率20%の条件にて引張試験を行った後、得られた引張試験後の試験片について、同様に測定を行うことで、試験片の2回目の接触抵抗値を得た。さらに、2回目の接触抵抗値を測定した試験片を、濃度10Mの水酸化カリウム水溶液に、60℃、20日間の条件で浸漬させた後、水酸化カリウム水溶液から引き上げて、同様に測定を行うことで、試験片の3回目の接触抵抗値を得た。なお、測定した接触抵抗値は、後述する表1に記載し、表1中では、1回目の接触抵抗値は「引張前」と、2回目の接触抵抗値は「経時前」と、3回目の接触抵抗値は「経時後」と、それぞれ表記した。また、表1中には、2回目の接触抵抗値と、3回目の接触抵抗値との差分を、「経時前後変化量」として記載した。なお、接触抵抗値の評価においては、「経時後」の測定値が12mΩ以下であれば、表面処理鋼板が、経時後の電池特性の劣化を抑制することができるものであると判断し、さらに10mΩ以下、特に8mΩ以下であればよりこの電池特性の劣化を抑制することができるものと判断した。
【0096】
<恒温恒湿試験による色調変化>
表面処理鋼板について、恒温恒湿器(製品名「LHL-113」、エスペック株式会社製)を用いて、温度55℃、湿度85%、400時間の条件にて、恒温恒湿試験を行った。そして、恒温恒湿試験前後において、表面処理鋼板のニッケル-コバルト-鉄拡散層が形成された面の表面について、分光測色計(製品名「CM-5」、コニカミノルタジャパン株式会社製)を使用して測定を行うことで、恒温恒湿試験前後における、表面処理鋼板のニッケル-コバルト-鉄拡散層が形成された面の表面の色調変化量(ΔL*)を求めた。なお、分光測色計を使用した測定における、測定条件は、主光源:D65、視野:10°、測定方法:反射、正反射光処理:SCE、測定径:φ8mmとした。恒温恒湿試験前後における色調変化量(ΔL*)の値が小さい程、経時における色調変化が小さく、変色による製品性の低下が抑制されたものと判断できる。なお、恒温恒湿試験による色調変化の評価は、実施例3,4、比較例4,6,12について行った。
【0097】
《実施例1》
金属板として、下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼のTM圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板を準備した。
C:0.04重量%、Mn:0.21重量%、Si:0.02重量%、P:0.012重量%、S:0.009重量%、Al:0.061重量%、N:0.0036重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
【0098】
そして、準備した鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてニッケルめっきを行うことで、ニッケルの付着量が3.81g/m2であるニッケルめっき層を形成した。
<ニッケルめっき>
浴組成:硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ほう酸30g/L
pH:3.6~4.6
浴温:60℃
電流密度:20A/dm2
【0099】
次いで、ニッケルめっき層を形成した鋼板に対して、下記条件にてコバルトめっきを行うことで、ニッケルめっき層の上に、コバルトめっき層を形成した。なお、コバルトめっき層の形成に際しては、ニッケルおよびコバルトの合計量(下地となるニッケルめっき層のニッケル量も含む)が表1,2に示す量となるような条件とした。
<コバルトめっき>
めっき浴の浴組成:硫酸コバルト250g/L、塩化コバルト90g/L、塩化ナトリウム20g/L、ホウ酸30g/L
pH:3.5~5.0
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
【0100】
次いで、ニッケルめっき層およびコバルトめっき層を形成した鋼板に対して、熱処理温度800℃を40秒間保持する条件にて、連続焼鈍(熱処理)を行うことにより、ニッケル-コバルト-鉄拡散層を形成し、表面処理鋼板を得た。得られた表面処理鋼板に対して、上記方法にしたがい、Ni量、Co量、Co濃度勾配ΔP
Co、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、Fe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)、腐食電流密度、ならびに接触抵抗値の評価を行った。結果を表1,2および
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)に示す。なお、
図5(B)、
図6(A)、
図6(B)は、Co濃度勾配ΔP
Co、Ni濃度勾配ΔP
Ni、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)を求める際に、表面処理鋼板を高周波グロー放電発光分析法により測定した結果を示すグラフである。
【0101】
《実施例2~5》
ニッケルめっき層を形成する際のニッケルの付着量、コバルトめっき層を形成する際の条件、ならびに、熱処理を行う際の熱処理温度および熱処理方法を、それぞれ表1,2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板を作製し、同様に評価を行った。なお、コバルトめっき層を形成する際の条件は、ニッケルおよびコバルトの合計量(下地となるニッケルめっき層のニッケル量も含む)が表1,2に示す量となるような条件とした。結果を表1,2に示す。なお、実施例2については、
図8(A)~
図8(C)として、Co濃度勾配ΔP
Co、Ni濃度勾配ΔP
Ni、Ni濃度P
Ni(D
Ni_0.5%)、Co濃度P
Co(D
Ni_0.5%)、およびFe濃度P
Fe(D
Ni_0.5%)を求める際に、表面処理鋼板を高周波グロー放電発光分析法により測定した結果を示すグラフを示す。
【0103】
《比較例1~3》
ニッケルめっき層を形成する際のニッケルの付着量を表1に示すように変更した点、コバルトめっき層を形成しなかった点、および、熱処理を行う際の熱処理温度および熱処理方法を、表1,2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1~3においては、コバルトめっき層を形成しておらず、そのため、蛍光X線分析での測定においてもコバルトは検出されない一方で、高周波グロー放電発光分析法による測定においては、コバルトの発光波長が、ニッケルや鉄の発光波長と近いことから、測定結果としてはコバルトが検出されてしまうことがある。しかしながら、比較例1~3の表面処理鋼板は、コバルトめっき層を形成していないことから、コバルトを含有していないことは明らかであるため、高周波グロー放電発光分析法により得られる強度比に基づく各元素の濃度の計算においては、測定結果のCo強度に基づいて計算されるCo濃度PCo(DNi_0.5%)の値が非常に小さい値(2質量%以下程度)であったため、コバルトが含有されていないものと判断し、Ni強度およびFe強度の合計を100%とした場合における、Ni強度の比、Fe強度の比に基づいて、Ni濃度PNi(DNi_0.5%)およびFe濃度PFe(DNi_0.5%)を求めた。また、比較例1~3においては、比RFe/Coの算出も行わなかった。
【0104】
《比較例4》
ニッケルめっき層を形成せず、鋼板上に、直接コバルトめっき層を形成した点、コバルトめっき層を形成する際の条件を表1に示すように変更した点、熱処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板を作製し、同様に評価を行った。なお、コバルトめっき層を形成する際の条件は、ニッケルおよびコバルトの合計量(下地となるニッケルめっき層のニッケル量も含む)が表1に示す量となるような条件とした。結果を表1に示す。比較例4については、腐食電流密度の値が明らかに大きく、電池容器として用いた場合に、電解液に対する耐食性に劣るものとなることが確認されたため、接触抵抗値の測定は、行わなかった。
【0105】
《比較例5~12》
ニッケルめっき層を形成する際のニッケルの付着量、コバルトめっき層を形成する際の条件、ならびに、熱処理を行う際の熱処理温度および熱処理方法を、それぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板を作製し、同様に評価を行った。なお、コバルトめっき層を形成する際の条件は、ニッケルおよびコバルトの合計量(下地となるニッケルめっき層のニッケル量も含む)が表1に示す量となるような条件とした。結果を表1に示す。比較例5~12については、腐食電流密度の値が明らかに大きく、電池容器として用いた場合に、電解液に対する耐食性に劣るものとなることが確認されたため、接触抵抗値の測定は、行わなかった。
【0106】
【0107】
【0108】
表1,2に示すように、深さ位置DCo_MAXから、深さ位置DCo_15%までの間における、Co濃度勾配ΔPCoが33質量%/0.1μm以下に制御されたニッケル-コバルト-鉄拡散層が形成された表面処理鋼板は、腐食電流密度が0.03mA/cm2以下、好ましくは0.002mA/cm2以下であり、経時後の接触抵抗値が8mΩ以下であることから、耐溶出性に優れ、しかも、経時後における電池特性の劣化が抑制されるものであることが確認された(実施例1~5)。なお、実施例1~5について、深さ位置DNi_MAXから、前記深さ位置DNi_15%までの間における、Ni濃度勾配ΔPNiの測定を行ったところ、実施例1のNi濃度勾配ΔPNiは36.6質量%/μmであり、実施例2は39.8質量%/μm、実施例3は32.5質量%/μm、実施例4は21.4質量%/μm、実施例5は13.6質量%/μmであった。また、実施例1~5における、Co濃度の半値幅WCoは、実施例1は0.23μm、実施例2は0.19μm、実施例3は0.20μm、実施例4は0.25μm、実施例5は0.53μmであった。
【0109】
一方、表1,2に示すように、最表層に、ニッケル-コバルト-鉄拡散層を形成しなかった場合や、Co濃度勾配ΔPCoが33質量%/0.1μmを超える場合には、腐食電流密度が高くなり、耐溶出性に劣るものとなるか、あるいは、経時後の接触抵抗値が高く、経時後における電池特性が悪化してしまうものとなる結果となった(比較例1~12)。
【0110】
また、恒温恒湿試験による色調変化量(ΔL*)は、実施例3においては、色調変化量(ΔL*):-0.3、実施例4においては、色調変化量(ΔL*):-0.6、比較例4においては、色調変化量(ΔL*):-3.0、比較例6においては、色調変化量(ΔL*):-1.4、比較例12においては、色調変化量(ΔL*):-1.1であり、実施例3、実施例4は、恒温恒湿試験による色調変化量(ΔL*)が低く抑えられたものであった。そして、実施例3,4以外の実施例1,2,5についても、実施例3,4と同様に、恒温恒湿試験による色調変化量(ΔL*)が低く抑えられたものとなっていると考えられる。
【符号の説明】
【0111】
1,1a…表面処理鋼板
11…鋼板
12…ニッケル-コバルト-鉄拡散層
13…ニッケルめっき層
14…コバルトめっき層
15…鉄-ニッケル拡散層