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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】多孔質セルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20250220BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C08J9/28 CEP
C08J3/12 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021535423
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029220
(87)【国際公開番号】W WO2021020507
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019142164
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 徹
(72)【発明者】
【氏名】大倉 裕道
(72)【発明者】
【氏名】平林 由紀
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/073286(WO,A1)
【文献】特開平09-132601(JP,A)
【文献】特開平04-091142(JP,A)
【文献】特開平02-235944(JP,A)
【文献】特開2017-071561(JP,A)
【文献】国際公開第2006/115198(WO,A1)
【文献】特開平11-158202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/12
9/00-9/42
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無置換のセルロースと、
前記無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するブレンドポリマーと、
を含む多孔質セルロースであって、
前記ポリマー及び無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率が、1質量%以上20質量%以下であり、
前記無置換セルロースの重合度が、10以上1000以下である、多孔質セルロース。
【請求項2】
下記の方法で測定される、含水状態の前記多孔質セルロースの固形分含有率が、10質量%以下である、請求項1に記載の多孔質セルロース。
(固形分含有率の測定方法)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロースを、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する。次に、前記純水中の前記多孔質セルロース約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上静置して前記多孔質セルロースを沈降させる。その後、上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーのおよそ1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った前記多孔質セルロースの塊をろ紙から剥がして秤量し、前記多孔質セルロースの湿潤質量とする。次に、この多孔質セルロースを80℃のオーブン中で2時間乾燥させた後に秤量し、乾燥質量とする。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
【請求項3】
前記ポリマーが、セルロース誘導体である、請求項1又は2に記載の多孔質セルロース。
【請求項4】
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、リン酸セルロース、硫酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、N,N-ジエチルアミノエチルセルロース及びN,N-ジメチルアミノエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の多孔質セルロース。
【請求項5】
前記多孔質セルロースの形状が、粒子、塊状、又は膜状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質セルロース。
【請求項6】
無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロースとを含む混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程と、
を備え、
前記混合溶液において、前記ポリマー及び前記無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率が1質量%以上30質量%以下であり、
前記無置換セルロースの重合度が、10以上1000以下である、多孔質セルロースの製造方法。
【請求項7】
前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーと前記無置換のセルロースとを溶媒に溶解させて前記混合溶液を調製する、請求項6に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【請求項8】
前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーと前記無置換のセルロースとを、同時に又は順次、前記溶媒に溶解させて前記混合溶液を調製する、請求項7に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【請求項9】
前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーの溶液と前記無置換のセルロースの溶液とを混合して前記混合溶液を調製する、請求項6に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【請求項10】
前記ポリマーが、セルロース誘導体である、請求項6~9のいずれか1項に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【請求項11】
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、リン酸セルロース、硫酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、N,N-ジエチルアミノエチルセルロース及びN,N-ジメチルアミノエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【請求項12】
前記混合溶液を前記凝固溶媒に接触させる工程が、前記混合溶液を気体中の微小液滴とした後、前記微小液滴を前記凝固溶媒に吸収させる工程である、請求項6~11のいずれか1項に記載の多孔質セルロースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質セルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを代表とする多糖およびその誘導体は、さまざまな用途に利用されている。例えば、これらの微多孔質体は、それ自体が吸着剤となりうるし、またその表面に何らかの化学修飾を行うことにより、吸着や分離、触媒などの機能が付与できる。
【0003】
例えば、セルロースやアガロースなどを用いた生物高分子分離用のマトリクスの製法が種々開示されており、その有用性もよく知られるところとなっている。セルロースやその他の多糖の表面に機能性を持たせるためには、化学修飾が行われる。例えば塩基性条件で糖の-OH基をクロロ酢酸と反応させるとカルボキシメチルエーテルが、1-クロロ-2-(ジエチルアミノ)エタンと反応させるとジエチルアミノエチルエーテルが生成し、それぞれ弱いイオン交換体として利用されている。しかし、このような化学修飾はコストを押し上げるのみならず、粒子のミクロからマクロな構造に悪影響を与える可能性もある。このため、より簡便な官能基導入の方法が望まれている。
【0004】
一方でセルロースのビーズを作製する方法として、例えば特許文献1には、セルロースを尿素あるいはチオ尿素含有水酸化アルカリ水溶液に溶解し、スプレーして凝固液に触れさせる方法が開示されている。また、例えば特許文献2には、セルロースを水酸化アルカリ溶液に微分散状態としたものを有機液体に分散、凝固液に触れさせる方法が開示されている。これらは、簡便なプロセスで微細孔を有するセルロースビーズを得る優れた方法であるが、これらについて化学修飾を行うためには上述の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-133355号公報
【文献】国際公開第2015/046473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、無置換のセルロースにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性が付与された、新規な多孔質セルロース及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、多孔質セルロースの製造方法として、無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロースとを含む混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程とを備える多孔質セルロースの製造方法を採用し、前記混合溶液において、前記ポリマー及び無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率を20質量%以下とすることで、無置換のセルロースにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性が付与された新規な多孔質セルロースが得られることを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
項1. 無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、
無置換のセルロースと、
を含む多孔質セルロースであって、
前記ポリマー及び無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率が、20質量%以下である、多孔質セルロース。
項2. 下記の方法で測定される、含水状態の前記多孔質セルロースの固形分含有率が、10質量%以下である、項1に記載の多孔質セルロース。
(固形分含有率の測定方法)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロースを、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する。次に、前記純水中の前記多孔質セルロース約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上静置して前記多孔質セルロースを沈降させる。その後、上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーのおよそ1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った前記多孔質セルロースの塊をろ紙から剥がして秤量し、前記多孔質セルロースの湿潤質量とする。次に、この多孔質セルロースを80℃のオーブン中で2時間乾燥させた後に秤量し、乾燥質量とする。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
項3. 前記ポリマーが、セルロース誘導体である、項1又は2に記載の多孔質セルロース。
項4. 前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、リン酸セルロース、硫酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、N,N-ジエチルアミノエチルセルロース及びN,N-ジメチルアミノエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項3に記載の多孔質セルロース。
項5. 前記多孔質セルロースの形状が、粒子、モノリス、又は膜状である、項1~4のいずれか1項に記載の多孔質セルロース。
項6. 無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロースとを含む混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程と、
を備え、
前記混合溶液において、前記ポリマー及び前記無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率が30質量%以下である、多孔質セルロースの製造方法。
項7. 前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーと前記無置換のセルロースとを溶媒に溶解させて前記混合溶液を調製する、項6に記載の多孔質セルロースの製造方法。
項8. 前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーと前記無置換のセルロースとを、同時に又は順次、前記溶媒に溶解させて前記混合溶液を調製する、項7に記載の多孔質セルロースの製造方法。
項9. 前記混合溶液を調製する工程において、前記ポリマーの溶液と前記無置換のセルロースの溶液とを混合して前記混合溶液を調製する、項6に記載の多孔質セルロースの製造方法。
項10. 前記ポリマーが、セルロース誘導体である、項6~9のいずれか1項に記載の多孔質セルロースの製造方法。
項11. 前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、リン酸セルロース、硫酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、N,N-ジエチルアミノエチルセルロース及びN,N-ジメチルアミノエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項10に記載の多孔質セルロースの製造方法。
項12. 前記混合溶液を前記凝固溶媒に接触させる工程が、前記混合溶液を気体中の微小液滴とした後、前記微小液滴を前記凝固溶媒に吸収させる工程である、項6~11のいずれか1項に記載の多孔質セルロースの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、無置換のセルロースにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性が付与された、新規な多孔質セルロースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の多孔質セルロースは、無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロースとを含む多孔質セルロースであって、前記ポリマー及び無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率が、20質量%以下であることを特徴としている。本開示の多孔質セルロースは、このような構成を備えていることにより、無置換のセルロースにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性(すなわち、前記ポリマーが備える機能性であって、特に前記ポリマーが有する官能基に基づく機能性)が付与されている。
【0011】
また、このような機能性を発揮する本開示の多孔質セルロースは、前述の通り、多孔質セルロースの製造方法として、例えば、無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロースとを含む混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程とを備える多孔質セルロースの製造方法を採用し、前記混合溶液において、前記ポリマー及び無置換のセルロースの合計100質量%中、前記ポリマーの含有率を20質量%以下に設定することにより、好適に製造することができる。
【0012】
以下、本開示の多孔質セルロース及びその製造方法について、詳述する。
【0013】
1.多孔質セルロース
本開示の多孔質セルロースは、無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換のセルロース(以下、単に「無置換セルロース」と表記することがある)とを含む。
【0014】
本開示において、無置換のセルロースとは、セルロースが有する水酸基が実質的に置換されていない(すなわち、置換セルロースではない)ことを意味しており、例えば水酸基の置換度が0.05以下のセルロースである。
【0015】
また、本開示において、無置換のセルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーとは、グルコースユニットを有するポリマーであって、無置換のセルロースとは異なるポリマー(以下、単に「ポリマー」と表記することがある。)である。本開示においては、多孔質セルロースに含まれる当該ポリマーは、グルコースユニットを有していることから、当該ポリマー共に含まれる無置換セルロースとの親和性が高く、多孔質セルロース中で無置換セルロース中に均質に分散され、安定な多孔質セルロースを形成することができる。その結果、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性が付与された、新規な多孔質セルロースとなる。
【0016】
すなわち、本開示においては、無置換セルロースと共に含まれるブレンドポリマーとして、前記のグルコースユニットを有するポリマー(無置換セルロースと同じく、グルコースが脱水縮合してなる高分子、すなわちグルカン類及びその誘導体を含むポリマー)を用いる。なお、グルコースの脱水縮合形式は複数存在しており、当該ポリマーにおける脱水縮合形式は特に制限されない。以下、グルコースの脱水縮合形式の典型的なものを例示する。脱水縮合は、もっぱらグルコースの1位の水酸基と、縮合相手となるグルコースの1位以外の水酸基から脱水する形式をとる。この時、1位の立体化学にはαとβの二通りがありうる。他方、縮合の相手としては2位、3位、4位、6位のそれぞれの水酸基がありうるが、これらはそれぞれ決まった立体化学を持っている。従って、1位のようにエピマーが2種存在するということはない。原理的には1位のα、βと相手方の2位から6位のすべての組み合わせが考えられるし、同じ高分子の中に異なる複数の結合様式を持つ場合もある。代表的なグルカンとしては、β-1,4-結合であるセルロース(ただし、本開示において、無置換セルロースは除外する)、α-1,4-結合であるアミロース、α-1,6-結合であるデキストラン、α-1,4-結合とα-1,6-結合の混合したプルラン、β-1,3-結合であるカードランや側鎖としてグルコースを結合したシゾフィラン、α-1,3-結合などがある。ここで例示した名称は、しばしばこれらを産生する特定の微生物や植物によって限定的に用いられるものであるが、本開示は必ずしもこれらの名称を持つものに限られるものではない。
【0017】
ポリマーとしては、無置換セルロースと極性や主鎖の形状が類似することから、セルロース誘導体が好ましい。
【0018】
また、セルロース誘導体が有する置換基(官能基)としては、例えば、硫酸基、リン酸基、酢酸基などのエステル結合を介して結合される置換基;メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などのエーテル結合を介して結合される置換基などが挙げられる。
【0019】
本開示の多孔質セルロースにおいて、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を特に好適に発揮する観点から、好ましいポリマーの具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、リン酸セルロース、硫酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、N,N-ジメチルアミノエチルセルロース、N,N-ジエチルアミノエチルセルロース(DEAEセルロース)などが挙げられる。これらのポリマーは、無置換セルロースと同じくセルロース骨格を有しているため、無置換セルロースとの共溶媒の選択が容易であり、かつ、多孔質セルロース中に保持されやすいため特に好ましい。本開示の多孔質セルロースに含まれる当該ポリマーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0020】
ポリマーの重合度としては、特に制限されないが、多孔質セルロース中における無置換セルロースとの親和性を高め、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を好適に発揮させる観点から、例えば10以上、好ましくは100以上が挙げられる。なお、ポリマーの重合度の上限としては、例えば1000以下が挙げられ、ポリマー重合度の好ましい範囲としては、10~500程度、より好ましくは100~300程度が挙げられる。また、後述の通り、無置換セルロースの重合度としては、特に制限されないが、例えば1000以下であることが好ましい。重合度が1000以下であれば、後述するアルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなり、好ましい。また、無置換セルロースの重合度が10以上であれば、得られる多孔質セルロースの機械的強度が大きくなるため好ましい。無置換セルロースの重合度の好ましい範囲は、100~500程度である。
【0021】
本開示の多孔質セルロースにおいて、ポリマー及び無置換セルロースの合計100質量%中、ポリマーの含有率は20質量%以下である。本開示においては、ポリマーの含有率が20質量%に設定されていることより、無置換セルロースによって形成される多孔質構造を保持しつつ、水中において多孔質セルロースがゲルとしての特性を示し、さらに、ポリマーが多孔質セルロース中に保持されて、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を発揮することができる。これらの特性をより好適に発揮する観点から、当該ポリマーの含有率は、上限については、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、下限については、好ましくは1質量%以上、よりこのましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲としては、1~20質量%程度、1~15質量%程度、1~10質量%程度、1~8質量%程度、2~20質量%程度、2~15質量%程度、2~10質量%程度、2~8質量%程度、3~20質量%程度、3~15質量%程度、3~10質量%程度、3~8質量%程度が挙げられる。
【0022】
本開示の多孔質セルロースは、後述のように、水に分散あるいは浸漬した状態で好適に得られる。本開示の多孔質セルロースは、水中では含水状態であり、含水ゲルを形成している。また、本開示の多孔質セルロースは、通常水湿の状態で保存することができる。本開示の多孔質セルロースは、下記の方法で測定される、含水状態での多孔質セルロースの固形分含有率が、10質量%以下であることが好ましい。また、当該固形分含有率は、下限については、例えば1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲については、1~10質量%、3~10質量%が挙げられる。
【0023】
(固形分含有率の測定)
純水中に沈降した状態の多孔質セルロースを、大気圧下、温度25℃の環境で1日以上静置する(通常、3日以内)。次に、純水中の多孔質セルロース約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤(例えば、ライオン株式会社製の商品名ママレモン)を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日以上(通常、3日以内)静置して沈降させる。その後上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーの1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙(例えば、ADVANTEC社製のNo.131 150mm)上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った多孔質セルロースの塊をろ紙から剥がして秤量し、多孔質セルロースの湿潤質量を取得する(なお、多孔質セルロースが塊状である場合には、おおよそ200~300mgの塊を切り出し、表面に付着した余剰水分を前記ろ紙上で転がして吸いとったのちに、秤量、乾燥、秤量を行う。)。次に、この多孔質セルロースを80℃のオーブン中で2時間乾燥させて、乾燥質量を取得する。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とする。
【0024】
なお、本開示の多孔質セルロースを水湿で長期保存する場合には、腐敗を防ぐためにアルコールやアジ化ナトリウムなどの防腐剤を加える。また、グリセリンや糖類、尿素などを加えた状態で乾燥、好ましくは凍結乾燥することもできる。
【0025】
本開示の多孔質セルロースの形状としては、特に制限されず、粒子(球状粒子、不定形粒子)、塊状(モノリス)、膜状などが挙げられる。例えば、本開示の多孔質セルロースの形状が粒子である場合、当該多孔質セルロース粒子の粒子径としては、用途に応じて適宜選択でき、下限については、例えば1μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、50μm以上が挙げられ、上限については、例えば3mm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下などが挙げられ、好ましい範囲としては、1~600μm程度、1~500μm程度、1~400μm程度、1~300μm程度、5~600μm程度、5~500μm程度、5~400μm程度、5~300μm程度、10~600μm程度、10~500μm程度、10~400μm程度、10~300μm程度、20~600μm程度、20~500μm程度、20~400μm程度、20~300μm程度50~600μm程度、50~500μm程度、50~400μm程度、50~300μm程度が挙げられる。これらの粒径は、本開示の多孔質セルロースをクロマトグラフィーの充填材や担体として用いる場合に特に好適である。本開示の多孔質セルロース粒子を実際に使用する場合には、目的によって更に分級を行い、より好適な粒度範囲のものを用いる。また、例えば、本開示の多孔質セルロースの形状がモノリスである場合についても、当該多孔質セルロースモノリスのサイズは、その用途に応じて適宜選択(例えば、クロマトグラフィーの担体として用いる場合には、カラムのサイズに合わせるなど)すればよい。また、例えば、本開示の多孔質セルロースの形状が膜状である場合についても、当該多孔質セルロース膜の厚みは、その用途(例えば、中空糸膜など)に応じて適宜選択すればよく、例えば100μm~5mm程度が挙げられる。
【0026】
また、本開示の多孔質セルロースは、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を発揮することから、例えばサイズ排除クロマトグラフィーに好適に利用することができる。さらに、このことは、とりもなおさず、サイズ排除以外のさまざまのモードによるクロマトグラフィー分離にも利用できることを示す。これらには、イオン交換、疎水性、アフィニティーなどのモードが含まれる。
【0027】
また、本開示の多孔質セルロースに、架橋剤を用いて、セルロース鎖間を共有結合により架橋することで、より強度を向上させた分離剤としても利用することができる。
【0028】
本開示の多孔質セルロースや架橋した多孔質セルロース媒体に、アフィニティーリガンドを固定化することにより、吸着体を製造することもできる。この吸着体は、アフィニティークロマトグラフィー用の分離剤としても利用することができる。
【0029】
本開示において、多孔質セルロースの製造方法は、前記の構成を備える本開示の多孔質セルロースが得られることを限度として、特に制限されず、下記の「2.多孔質セルロースの製造方法」に示す製造方法により、好適に製造することができる。
【0030】
2.多孔質セルロースの製造方法
本開示の多孔質セルロースの製造方法は、無置換セルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換セルロースとを含む混合溶液を調製する工程(混合溶液調製工程)と、当該混合溶液を、凝固溶媒に接触させる工程(凝固工程)とを備えている。また、当該混合溶液において、ポリマー及び無置換セルロースの合計100質量%中、ポリマーの含有率は、30質量%以下とする。ポリマー及び無置換セルロース等の詳細については、前述の「1.多孔質セルロース」の欄に説明した通りである。なお、混合溶液中のポリマーの含有率の上限を30質量%以下に設定し、前述した多孔質セルロース中のポリマーの含有率の上限20質量%以下よりも含有率を高く設定する理由は、凝固工程において、ポリマーがゲルを形成する際に多少溶脱する場合があることを考慮したものである。本開示の多孔質セルロースの製造方法を用いて、前述のポリマー含有率が20質量%超30質量%以下の多孔質セルロースを製造することも可能である。
【0031】
(混合溶液調製工程)
混合溶液調製工程は、無置換セルロースを除くグルコースユニットを有するポリマーと、無置換セルロースとを含む混合溶液を調製する工程である。混合溶液調製工程においては、ポリマーと無置換セルロースとが所定の含有率で含まれる混合溶液が調製されれば、その調製方法については特に制限はない。例えば、混合溶液を調製する工程において、ポリマーと無置換セルロースとを溶媒に溶解させて混合溶液を調製する。より具体的には、混合溶液を調製する工程において、ポリマーと無置換セルロースとを、同時に又は順次、溶媒に溶解させて混合溶液を調製する方法、また、ポリマーの溶液(以下、「ポリマー溶液」と表記することがある)と無置換セルロースの溶液(以下、「無置換セルロース溶液」と表記することがある)とを混合して混合溶液を調製する方法が挙げられる。
【0032】
ポリマーと無置換セルロースとを、同時に又は順次、溶媒に溶解させて混合溶液を調製する方法を採用する場合には、ポリマー及び無置換セルロースの両方を溶解できる溶媒を選択して、混合溶液を調製する。
【0033】
一方、ポリマー溶液と、無置換セルロース溶液とを混合して混合溶液を調製する方法においては、ポリマーを溶解できる溶媒を用いてポリマー溶液を調製し、さらに、無置換セルロースを溶解できる溶媒を用いて無置換セルロース溶液を調製し、これらの溶液を混和して混合溶液を調製する。ポリマーを溶解できる溶媒と、無置換セルロースを溶解できる溶媒とは、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、ポリマー溶液と無置換セルロース溶液とを混和した際に、沈殿などが生じることは好ましくないため、これらの溶液の溶媒としては、同一の溶媒を用いることが好ましい。なお、同一の溶媒を用いた場合にも、溶質が異なる場合に容易に混和しないこともあるが、2つの溶液の混合比が一方に偏っている場合には、混合直後に一部に相分離が生じても、最終的に一相となる場合が多いといえる。
【0034】
無置換セルロース溶液、ポリマー溶液、及び混合溶液において、それぞれ、溶媒としては、銅エチレンジアミン液、N-メチルモルホリンオキシド(NMMO)一水和物、水酸化アルカリ水溶液、苛性アルカリ-尿素系水溶液、チオシアン酸カルシウム水溶液、塩化リチウム又は臭化リチウムのN,N’-ジメチルアセトアミド溶液、塩化リチウムのジメチルフォルムアミド溶液、塩化リチウムのジメチルイミダゾリウム溶液、塩化リチウムのジメチルスルホキシド溶液、アルキルイミダゾリウム塩を主とするイオン溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。溶媒としては、水性液体(水を主成分とする液体)が好ましく、これらの中でも、水酸化アルカリ水溶液、水酸化アルカリ-尿素系水溶液(例えば、尿素、チオ尿素などを含む、尿素-水酸化アルカリ水溶液)が特に好ましい。
【0035】
溶媒としての水性液体の具体例としては、水酸化アルカリの7~10質量%水溶液(水酸化アルカリ水溶液)であり、好ましくは更に尿素あるいはチオ尿素を5~15質量%含む水溶液(尿素-水酸化アルカリ水溶液)である。水酸化アルカリとして、無置換セルロースやポリマーの溶解性の良さにおいては水酸化リチウムおよび水酸化ナトリウムが好ましく、原料コストの観点から好ましいのは水酸化ナトリウムである。この水酸化アルカリ水溶液を基本とする溶媒では、溶質(無置換セルロース、ポリマー)と溶媒とを好ましくは撹拌しながら-10℃~-15℃付近まで冷却した後、常温にもどす操作を1回あるいは複数回行うことによって、流動性の溶液となる。さらに不溶物が残って最終製品の機能によくない影響を及ぼすような場合には、ろ過や遠心分離によって不溶物を取り除くことができる。また、100℃以上に加熱した臭化リチウムの40~60質量%水溶液に溶解することもできる。有機溶媒を主とする場合には、例えば前述の塩化リチウム又は臭化リチウムを8~12質量%含むN,N’-ジメチルアセトアミドが好ましい。ただし、前述の水酸化ナトリウム水溶液又は尿素-水酸化アルカリ水溶液は、価格が安く、適切に中和さえすれば有害物質を残さない点において環境負荷の小さい、より好ましい溶媒である。
【0036】
無置換セルロース溶液とは、無置換セルロースを含む液体であって、流動性を示し、ポリマー溶液と混合された混合溶液として凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとポリマーとが相溶した状態で固体化するものを指し、無置換セルロース溶液中において、無置換セルロース分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロースの製造方法において、無置換セルロース溶液とは、無置換セルロースを含む液体であることを意味し、無置換セルロースが液体中に分散している分散液と、無置換セルロースが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロースの製造方法において、無置換セルロース溶液を調製する場合、無置換セルロース溶液に無置換セルロースが含まれていればよく、その形態については、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0037】
また、ポリマー溶液についても、同様であり、ポリマー溶液とは、ポリマーを含む液体であって、流動性を示し、無置換セルロース溶液と混合された混合溶液として凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとポリマーとが相溶した状態で固体化するものを指し、ポリマー溶液中において、ポリマー分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロースの製造方法において、ポリマー溶液とは、ポリマーを含む液体であることを意味し、ポリマーが液体中に分散している分散液と、ポリマーが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロースの製造方法において、ポリマー溶液を調製する場合、ポリマー溶液にポリマーが含まれていればよく、その形態については、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0038】
また、混合溶液についても、同様であり、混合溶液とは、無置換セルロース及びポリマーを含む液体であって、流動性を示し、混合溶液が凝固溶媒に触れたときに、無置換セルロースとポリマーとが相溶した状態で固体化するものを指し、混合溶液中において、無置換セルロース分子及びポリマー分子が分散しているか、一部会合物を残しているか、微細な繊維状物が単に分散しているに過ぎないもの(分散液と呼ばれることがある。)かは問わない。すなわち、本開示の多孔質セルロースの製造方法において、混合溶液とは、無置換セルロース及びポリマーを含む液体であることを意味し、無置換セルロース又はポリマーが液体中に分散している分散液と、無置換セルロース又はポリマーが液体中に溶解している溶液とを包含する概念である。本開示の多孔質セルロースの製造方法において、混合溶液中における無置換セルロース及びポリマーの形態については、それぞれ、分散・溶解、又はこれらの混合状態のいずれであってもよい。
【0039】
以下、溶媒が尿素-水酸化アルカリ水溶液である場合を例にとって、セルロース溶液の調製法を具体的に説明する。ポリマー溶液についても、溶質としてポリマーを用いて、同様にポリマー溶液を調製することができる。また、ポリマーと無置換セルロースとを、同時に又は順次、溶媒に溶解させて混合溶液を調製する方法においても、溶質を無置換セルロース及びポリマーとして、同様に混合溶液を調製することができる。
【0040】
水酸化アルカリ水溶液に含まれるアルカリは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化四級アンモニウムが好ましく、製品安全性、価格、溶解あるいは分散の良さの面から水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0041】
前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度に特に限定は無いが、3~20質量%であることが好ましい。アルカリの濃度がこの範囲であれば、無置換セルロースのアルカリ水溶液への分散性・膨潤性、溶解性が高くなるため好ましい。より好ましいアルカリの濃度は5~15質量%であり、さらに好ましくは6~10質量%である。
【0042】
上記アルカリ水溶液にさらに尿素又はチオ尿素を加える。尿素又はチオ尿素の濃度は10~15質量%が好ましい。水に三成分(セルロース、水酸化アルカリ、尿素又はチオ尿素)を加えるが、添加順序はセルロースの溶解状態を最適化するために、適切に選ぶ。こうして得られたスラリーを後に述べる条件で冷却することにより、全成分を添加した直後よりも透明な無置換セルロース溶液が得られる。
【0043】
前述のとおり、無置換セルロースの重合度が1000以下であれば、アルカリ水溶液への分散性・膨潤性が高くなり、好ましい。その他、溶解性が向上された無置換セルロースの例としては、溶解パルプも挙げられる。
【0044】
アルカリ水溶液と無置換セルロースとの混合条件は、無置換セルロース溶液が得られれば特に制限されない。例えば、アルカリ水溶液に無置換セルロースを加えてもよいし、無置換セルロースにアルカリ水溶液を加えてもよい。ポリマー溶液を調製する場合にも、アルカリ水溶液とポリマーとの混合条件は、ポリマー溶液が得られれば特に制限されず、アルカリ水溶液にポリマーを加えてもよいし、ポリマーにアルカリ水溶液を加えてもよい。ポリマーと無置換セルロースとを、同時に又は順次、溶媒に溶解させて混合溶液を調製する方法においても、ポリマー、無置換セルロース、溶媒の混合順序は特に制限されない。
【0045】
無置換セルロースは、アルカリ水溶液と混合する前に、水に懸濁させておいてもよい。
【0046】
また、無置換セルロース溶液中の無置換セルロースの濃度は、その後のプロセスにおいて必要とされる流動性を持ち、また後述する混合溶液から調製される多孔質セルロースの固形分含量が10%以下になるように適切に設定されれば特に制限されず、例えば2~10質量%程度が挙げられる。また、ポリマー溶液中のポリマーの濃度についても、後述する混合溶液から調製された多孔質セルロースの固形分含量、ポリマー含有率が適切になるように設定されれば特に制限されず、例えば2~10質量%程度が挙げられる。
【0047】
無置換セルロース溶液を調製する際の温度としては、特に制限されないが、例えば、無置換セルロースと尿素あるいはチオ尿素を含むアルカリ水溶液とを室温で混合し、撹拌しながら低温に冷却し、その後扱いやすい温度に戻すことにより無置換セルロース溶液が好適に形成される。低温に冷却する際の温度としては、例えば0℃ないし-20℃、好ましくは-5℃ないし-15℃程度が挙げられる。ポリマー溶液を調製する際の温度についても同様である。
【0048】
無置換セルロース溶液とポリマー溶液とを混合することによって、混合溶液が調製される。無置換セルロース溶液とポリマー溶液との混合比は、該混合溶液から調製した多孔質セルロースのポリマー含量が適切な値になるように適宜調整する。無置換セルロース溶液とポリマー溶液とを混合する場合、無置換セルロース溶液とポリマー溶液とが混合されて一相の混合溶液となるよう十分に撹拌することが好ましい。また、前述の通り、ポリマーと無置換セルロースとを、同時に又は順次、溶媒に溶解させて混合溶液を調製することもできる。
【0049】
混合溶液において、ポリマー及び無置換セルロースの合計100質量%中、ポリマーの含有率は30質量%以下である。混合溶液において、当該ポリマーの含有率が20質量%に設定されていることより、無置換セルロースによって形成される多孔質を保持しつつ、水中において多孔質セルロースがゲルとしての特性を示し、さらに、ポリマーが多孔質セルロース中に保持されて、無置換セルロースのみにより構成された多孔質セルロースそのものにはない機能性を発揮することができる多孔質セルロースが得られる。これらの特性をより好適に発揮する観点から、混合溶液中における当該ポリマーの含有率は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、下限については、好ましくは1質量%以上、よりこのましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましい範囲としては、1~20質量%程度、1~15質量%程度、1~10質量%程度、1~8質量%程度、2~20質量%程度、2~15質量%程度、2~10質量%程度、2~8質量%程度、3~20質量%程度、3~15質量%程度、3~10質量%程度、3~8質量%程度が挙げられる。
【0050】
また、混合溶液中のポリマー及び無置換セルロースの合計濃度としては、1~10質量%であることが好ましい。1質量%以上であれば、得られる多孔質セルロースの機械的強度が大きくなるため好ましく、10質量%以下であれば、混合溶液の粘度が低く、例えば前述した所定の粒子径となるようにしてスプレーノズルからの噴霧することが容易になるため好ましい。混合溶液におけるこれら合計濃度としては、より好ましくは2~6質量%、さらに好ましくは3~5質量%が挙げられる。なお、この混合溶液中の合計濃度には、溶解・分散・膨潤しきれず均一にならなかった成分を含めない。
【0051】
(凝固工程)
本開示の多孔質セルロースの製造方法において、混合溶液調製工程の後、混合溶液を凝固溶媒に接触させる凝固工程を行う。混合溶液を凝固溶媒に接触させることにより、混合溶液中の無置換セルロース溶液及びポリマーを相溶状態で凝固させて、多孔質セルロースを得る。
【0052】
ここにいう凝固溶媒との接触の具体的な態様は、目的とする多孔質セルロースの形状(例えば、粒子(球状粒子、不定形粒子)、塊状(モノリス)、膜状)に応じて、公知の方法を用いることができる。多孔質セルロースの用途の点で重要な形状の一つは球状粒子である。凝固工程において、多孔質セルロースの球状粒子を得る代表的な方法は、比較的粘度が高く、混合溶液に混和しない液体(例えば流動パラフィンやフルオロルーブ等)の中に、混合溶液を、必要に応じて適切な分散剤とともに撹拌、分散させ、得られた分散液と凝固溶媒(分散液と混合することによって無置換セルロースおよびポリマーを沈殿させるような溶媒)を撹拌しながら加えて行く方法がある。
【0053】
また、混合溶液をスプレーやノズルなどを用いて気体中の液滴とし、これを凝固溶媒に落とすことも可能である。すなわち、この方法で多孔質セルロース粒子を調製する場合、凝固工程は、混合溶液を気体中の微小液滴とした後、微小液滴を凝固溶媒に吸収させる工程とすることができる。また、混合溶液を糸状に押し出して凝固溶媒中に入れ、凝固させたのち、切断あるいは破砕して無定形の粒子にすることもできる。
【0054】
一方、凝固工程において、多孔質セルロースモノリスを調製する場合には、混合溶液を適当な容器に入れ、これを凝固溶媒に浸漬する。可能な場合には浸漬の前に気相を通して凝固溶媒の蒸気を吸収させることもできる。
【0055】
また、膜状の多孔質セルロースを得る最も一般的な方法は、混合溶液を適切な平板の上に流延(スピンコーターやバーコーターを用いて厚みの一定な液相を形成する)し、これを凝固溶媒に浸漬する方法が挙げられる。多孔質セルロース膜の透過性を高めるために、浸漬前に気相から凝固溶媒を吸収させるなどの操作を付加することもできる。多孔質セルロース膜の形状を中空糸とする場合には、二重管の内側に凝固溶媒、外側に該セルロース溶液を流し、外部は必要に応じて気相の中を通過後、凝固溶媒中(内管に流すものと同一である必要はない)に導く。
【0056】
凝固溶媒は、該混合溶液から無置換セルロース及びポリマーを沈殿させるものであれば、特に制限されず、メタノール、エタノール、アセトンのような有機溶媒、水、食塩など塩類を溶かした水、該混合溶液が水酸化アルカリを含む場合には酸を含む水などが例示できる。
【0057】
水湿で長期保存する場合には、腐敗を防ぐためにアルコールやアジ化ナトリウムなどの防腐剤を加える。また、グリセリンや糖類、尿素などを加えた状態で乾燥、好ましくは凍結乾燥することもできる。
【実施例
【0058】
以下に、実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。ただし、各実施例における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施例によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0059】
<実施例1>
(無置換セルロース溶液の調製)
フラスコの中で水808.05gに水酸化ナトリウム70.35gを溶解、室温に冷却したのち、撹拌しながらこの中に粉末セルロース(無置換セルロース 旭化成 セオラスPH101)42.11gを分散させた。更に尿素120.05gを加えて溶かしたのち、撹拌しながら約1時間をかけて-15℃まで冷却、その後、水浴を用いて室温まで温めると、ほぼ透明な溶液となった。なお、粉末セルロースの含水率が4.25質量%であったことから、溶媒系は合計1000.24g、無置換セルロースは40.32g、外割無置換セルロース濃度は4.0質量%、内割無置換セルロース濃度は3.85質量%であった。
【0060】
(CMC溶液の調製)
同様に、水41.5gに水酸化ナトリウム3.57gを溶解、室温に戻して、カルボキシメチルセルロース(CMC)(CMC1190((株)ダイセル)0.52gを添加すると、やや濁りを帯びた透明、粘稠な溶液となった。ここに尿素5.97gを溶かすと透明度の高い溶液となった。
【0061】
(混合溶液の調製)
無置換セルロース溶液336.1gにCMC溶液69.90gを加え撹拌すると、均一に混和し透明な混合溶液となった。
【0062】
(微粒子化)
得られた混合溶液をスプレーして霧状とし、メタノールに吸収させると、微粉末が得られた。これを繰り返し水洗することによりセルロースとCMCとが混合された多孔質微粒子である、多孔質セルロースを純水中に得た。
【0063】
(CMC含量の測定)
実施例1で得られた多孔質セルロースと、参照とするCMCを1N塩酸で洗浄し、基-CO2Naを基-CO2Hに変換したのち乾燥した。多孔質セルロースはそのものを、CMCはリファレンスとして19倍量の無置換セルロースとともに臭化カリウムと摩砕、圧縮してディスクとし、赤外吸収スペクトルをアブソーバンスモードで測定した。カルボキシル基含量の指標として、2890cm-1(セルロース骨格に基づくνC-H領域)に対する1735cm-1(カルボキシル基に基づくνC=O領域)の相対強度を求めた。なお、近似的に近傍ピークの影響を除くため、前者は3000cm-1と2600cm-1付近に、後者は1800cm-1と1570cm-1付近にそれぞれ接線を引き、これらをベースラインと想定した。ベースラインからピークトップまでのアブソーバンス差を強度Iとしたとき、多孔質セルロースに対するI1735/I2890は0.204、リファレンスのそれは0.17であった。標準試料の酸型CMC含量(無置換セルロースと酸型CMC混合物中の酸型CMC重量%)は4.45%であるため、多孔質セルロースの酸型CMC含量は5.3質量%と求められた(4.45×0.204/0.17=0.053)。一方、多孔質セルロースの調製に用いた溶液のCMC含量は、CMC(通常置換度1.5、その約半分がNa塩)重量を酸型CMC重量に換算することにより、4.7質量%と求められた。測定精度を加味すれば、添加したCMCがほぼ全量、多孔質セルロースの中に残っていると結論できる。
【0064】
(固形分含有率の測定)
実施例1で得られた含水状態の多孔質セルロース粒子について、次の方法で固形分含有率を測定したところ、固形分含有率は4.3質量%であった。純水中に沈降した状態の多孔質セルロース粒子を、大気圧下、温度25℃の環境で1日静置した。次に、純水中の多孔質セルロース粒子約2mLをピペットで吸い上げ、中性洗剤(ライオン株式会社製の商品名ママレモン)を純水で1000倍希釈した溶液20ml中に分散させ、1日静置して粒子を沈降させた。その後上澄みを傾瀉によって除き、残ったスラリーの1/3量を1つのサンプルとして、JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される3種に相当するろ紙(ADVANTEC社製のNo.131 150mm)上に落とし、20秒間放置して、余剰の水分を除去した後、ろ紙上に残った多孔質セルロース粒子の塊をろ紙から剥がして秤量し、多孔質セルロース粒子の湿潤質量を取得した。次に、この多孔質セルロース粒子を80℃のオーブン中で2時間乾燥させて、乾燥質量を取得した。これらの操作を3つのサンプルについて行い、各々、湿潤質量に対する乾燥質量の割合を算出し、得られた3つの値の平均値を固形分含有率とした。
【0065】
試験例1(多孔質セルロースによる吸着)
実施例1で得られた多孔質セルロースを篩で分級し、53μmから106μmの部分を得た。水中で沈降した沈殿約1mLを底にフィルターを敷いたプラスチックシリンジ(5mL)に入れ、多少の水を加えて撹拌、下から水を自然落下させ、深さ1.4cmのベッドを作った。このベッドに炭酸カリウムの約0.2%水溶液4mLを流し、その後2回、純水3mLで洗浄した。このベッドにメチレンブルーの3.5mg/水100mL溶液2.0mLを通すと、ベッドの上面から深さ1~2mmが濃い藍色に着色した。この結果は、陰イオン性である多孔質セルロースが、イオン交換作用により陽イオン性のメチレンブルーを多量に吸着することを示している。
【0066】
一方、CMCを添加しないで同様に調製した多孔質セルロース微粒子について、同様にメチレンブルーの吸着を確認したところ、上面から深さ1cmまでが青く着色しており、メチレンブルーが殆ど吸着されていないことが分かる。
【0067】
<実施例2>
(リン酸セルロース溶液の調製)
Whatman社製のリン酸セルロース(P11 Phosphorylated Cellulose)1.00gを水14.81gに懸濁し、ここに水酸化ナトリウム1.75gを水5.59gに溶かした液を加え、十分に撹拌した後、更に尿素3.0gを加えて撹拌すると、透明度、粘度を増し、膨潤した不溶粒子を懸濁した液となった。これをドライアイスバスで一部白色結晶が析出するまで冷却し、室温に戻しながら撹拌する操作を2回繰り返した。本液を10,000rpm,4℃,15分遠心分離し、傾瀉によって透明、粘性を持った上澄み溶液を得た。
【0068】
(混合溶液の調製)
実施例1と同じ要領で調製した無置換セルロース溶液90gと、上記のリン酸セルロース溶液10gを混合、撹拌すると均一に混和し、透明な混合溶液となった。
【0069】
(微粒子化)
得られた混合溶液をスプレーして霧状とし、メタノールに吸収させると、懸濁状態の微粉末が得られた。酢酸を加えてメタノール液を中性とし、微粉末をろ別、これを繰り返し水洗することにより、無置換セルロースとリン酸セルロースとが混合された多孔質微粒子である、多孔質セルロースを純水中に得た。
【0070】
(リン分析)
得られた粒子を乾燥しICP発光分析を行ったところ、リン含量は4300ppmであった。この値からセルロースおよびP11(リン酸セルロース)の混合乾燥物におけるP11の重量比は4.6%と推定される。以下、本計算を説明する。Whatman社の”CERTIFICATE OF ANALYSIS”によれば、P11は水分3.9%を含み、これを乾燥した物のリン酸含量が28.9%と報告されている。これをリン原子含量に換算すると、31/98(リン原子量/リン酸分子量)を乗じ、9.14%となる。乾燥粒子の分析から得られたリン含量4200ppmの値は、乾燥P11含量に換算すれば、0.0914で除し0.046、即ち4.6%である。
【0071】
(固形分含有率の測定)
実施例2で得られた含水状態の多孔質セルロース粒子について、実施例1と同様にして固形分含有率を測定したところ、固形分含有率は4.2質量%であった。