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特許7637629二次電池用正極、二次電池、電子機器およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】二次電池用正極、二次電池、電子機器およびシステム
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20250220BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250220BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250220BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250220BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20250220BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0566
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021550722
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(86)【国際出願番号】 IB2020059076
(87)【国際公開番号】W WO2021070002
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019187370
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199752
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020127004
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】荻田 香
(72)【発明者】
【氏名】門間 裕史
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 智哉
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】岩城 裕司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰義
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】種村 和幸
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208325(JP,A)
【文献】特開2011-198550(JP,A)
【文献】特開2015-213079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097227(US,A1)
【文献】国際公開第2011/122671(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109473656(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用正極であって、
下地膜と、正極活物質層と、キャップ層と、を有し、
前記下地膜および前記キャップ層の少なくとも一方は、チタン化合物であり、
前記チタン化合物は、一部窒素に置換された酸化チタン、一部酸素に置換された窒化チタン、または酸化窒化チタンであり、
前記正極活物質層はコバルト酸リチウムを有する、二次電池用正極。
【請求項2】
請求項1において、
前記下地膜の有する結晶構造と前記正極活物質層の有する結晶構造はいずれも、陰イオンのみが配列する面を有する、二次電池用正極。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記下地膜と、前記正極活物質層はいずれも、陽イオンと陰イオンが交互に配列している結晶構造を有する、二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の二次電池用正極と、固体電解質と、負極と、を有する二次電池。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池を有する電子機器。
【請求項6】
請求項4に記載の二次電池と、
正極と、負極と、電解液と、セパレータとを有するリチウムイオン二次電池と、
を有するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、またはそれらの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
また需要の拡大と併せて、より性能の高いリチウムイオン二次電池が要求されるようになっている。そのためリチウムイオン二次電池の高容量化、サイクル特性向上を目指した正極活物質の改良が進んでいる(例えば特許文献1)。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池のなかでもより安全性の高い全固体電池の開発が進められている。正極、電解質および負極がPVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)等で形成される薄膜二次電池も、全固体電池の一種である(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-206747号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/0190051号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】EELS analysis of cation valence states and oxygen vacancies in magnetic oxides、Z.L.Wang、J.S.Yin、Y.D.Jiang、Micron 31(2000)571-580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄膜二次電池には、充放電特性、サイクル特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で改善の余地が残されている。たとえばサイクル特性については、充放電を繰り返すにつれ正極活物質の結晶構造が崩れ、充放電容量の低下につながっている可能性がある。また正極活物質と電解質との界面、正極活物質と正極集電体との界面等で副反応が生じ、これも充放電容量の低下につながっている可能性がある。
【0009】
そこで本発明の一態様は、充放電を繰り返しても正極活物質と電解質との界面、正極活物質と正極集電体との界面等で副反応が生じにくい二次電池用正極を提供することを課題の一とする。また充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい二次電池用正極を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクル特性に優れた二次電池用正極を提供することを課題の一とする。または、充放電容量が大きい二次電池用正極を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される二次電池用正極を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクル特性に優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、充放電容量が大きい二次電池を提供することを課題の一とする。または、安全性または信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0011】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様では、結晶構造を崩れにくくし、または副反応を抑制し、サイクル特性を向上するために、正極活物質層上に、キャップ層を設けることとした。
【0013】
本発明の一態様は、二次電池用正極であって、下地膜と、正極活物質層と、キャップ層と、を有し、下地膜およびキャップ層の少なくとも一方は、酸化窒化チタンを有し、正極活物質層はコバルト酸リチウムを有し、キャップ層は酸素を含むチタン化合物を有する、二次電池用正極である。
【0014】
または上記において、下地膜の有する結晶構造と正極活物質層の有する結晶構造はいずれも、陰イオンのみが配列する面を有することが好ましい。
【0015】
また上記において、下地膜と、正極活物質層はいずれも、陽イオンと陰イオンが交互に配列している結晶構造を有することが好ましい。
【0016】
また本発明の一態様は、上記の二次電池用正極と、固体電解質と、負極と、を有する二次電池である。
【0017】
また本発明の一態様は、上記の二次電池を有する電子機器である。
【0018】
また本発明の一態様は、上記の二次電池と、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを有するリチウムイオン二次電池と、を有する電子機器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様により、充放電を繰り返しても正極活物質と電解質との界面、正極活物質と正極集電体との界面等で副反応が生じにくい二次電池用正極を提供することができる。充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい二次電池用正極を提供することができる。また、充放電サイクル特性に優れた二次電池用正極を提供することができる。また、充放電容量が大きい二次電池用正極を提供することができる。また、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される二次電池用正極を提供することができる。また、充放電サイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。また、充放電容量が大きい二次電池を提供することができる。また、安全性または信頼性の高い二次電池を提供することができる。
【0020】
また本発明の一態様により、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【0021】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A乃至図1Cは本発明の一態様の正極の斜視図である。
図2Aおよび図2Bは本発明の一態様の正極が有する結晶構造を説明する図である。
図3A乃至図3Cは本発明の一態様の二次電池の積層構造を説明する図である。
図4Aは、本発明の一態様を示す上面図であり、図4B乃至図4Dは、本発明の一態様を示す断面図である。
図5Aおよび図5Cは本発明の一態様を示す上面図であり、図5Bおよび図5Dは本発明の一態様を示す断面図である。
図6Aは、本発明の一態様を示す上面図であり、図6Bは、本発明の一態様を示す断面図である。
図7Aは、本発明の一態様を示す上面図であり、図7Bは、本発明の一態様を示す断面図である。
図8は、本発明の一態様の二次電池の作製フローを説明する図である。
図9Aおよび図9Bは、本発明の一態様を示す上面図である。
図10は、本発明の一態様を示す断面図である。
図11は、本発明の一態様の二次電池の作製フローを説明する図である。
図12は、二次電池の製造装置の上面模式図である。
図13は、二次電池の製造装置の一部の断面図である。
図14Aは、電池セルの一例を示す斜視図である。図14Bは、回路の斜視図である。図14Cは、電池セルと回路を重ねた場合の斜視図である。
図15Aは、電池セルの一例を示す斜視図である。図15Bは、回路の斜視図である。図15C及び図15Dは電池セルと回路を重ねた場合の斜視図である。
図16Aは、電池セルの斜視図である。図16Bは、電子機器の一例を示す図である。
図17A乃至図17Cは、電子機器の例を示す図である。
図18A乃至図18Cは、電子機器の例を示す図である。
図19A乃至図19Dは、電子機器の例を示す図である。
図20Aは本発明の一態様であるシステムの一部を示す図である。図20Bは本発明の一態様である電子機器の例を示す図である。
図21Aは、本発明の一態様である電子機器の概略図である。図21Bは、システムの一部を示す図であり、図21Cはシステムに用いる携帯データ端末の斜視図の一例である。
図22Aおよび図22Bは実施例1に係る二次電池の充放電特性のグラフである。
図23Aおよび図23Bは実施例1に係る二次電池のサイクル特性のグラフである。
図24は実施例2に係る正極の断面TEM像である。
図25Aは実施例2に係る正極活物質層の断面TEM像である。図25Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図26Aおよび図26Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図27は実施例2に係る正極の断面TEM像である。
図28Aおよび図28Bは実施例2に係る正極の断面TEM像である。
図29は実施例2に係る正極活物質層のEELSスペクトルである。
図30は実施例2に係る正極の断面TEM像である。
図31Aおよび図31Bは実施例2に係る正極の断面TEM像である。
図32は実施例2に係る正極活物質層のEELSスペクトルである。
図33Aは実施例2に係る正極活物質層の断面TEM像である。図33Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図34Aおよび図34Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図35Aは実施例2に係る正極活物質層の断面TEM像である。図35Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図36Aおよび図36Bは実施例2に係る正極活物質層の極微電子線回折像である。
図37は実施例2に係る二次電池の充放電サイクル特性を示すグラフである。
図38Aおよび図38Bは実施例2に係る二次電池のインピーダンス測定について説明する図である。
図39は実施例2に係る二次電池のインピーダンス測定結果である。
図40は実施例2に係る二次電池のインピーダンス測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0024】
また、本明細書等において結晶面および方向の表記にはミラー指数を用いる。結晶面を示す個別面は( )で表す。方位は[ ]で表す。逆格子点も同様の指数を用いるが、かっこは付さない。結晶面、方向および空間群の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。
【0025】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0026】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0027】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。これらが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造が一致する結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型の空間群Fm-3mとは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶と岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造が一致するとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0028】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することができる。X線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。結晶の配向が概略一致していると、TEM像等で、直線状に陽イオンと陰イオンが交互に配列した列の方向の差が5度以下、あるいは2.5度以下である様子が観察できる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0029】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。たとえばLiCoOの理論容量は274mAh/g、LiNiOの理論容量は274mAh/g、LiMnの理論容量は148mAh/gである。
【0030】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深度を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1ということとする。
【0031】
また本明細書等において、面同士が平行であるとは、数学的に厳密な平行である場合だけでなく、面同士のなす角度が5°以下、あるいは2.5°以下であることをいう。
【0032】
(実施の形態1)
図1を用いて、本発明の一態様の二次電池用正極について説明する。
【0033】
図1Aは本発明の一態様である正極100の一例の斜視図である。正極100は、正極集電体103と、下地膜104と、正極活物質層101と、キャップ層102を有する。
【0034】
下地膜104は正極集電体103と正極活物質層101の間に設けられる。下地膜104は正極集電体103と正極活物質層101間の導電性を高める機能を有する。または正極活物質層101等に含まれる酸素による正極集電体103の酸化、または正極集電体103に含まれる金属原子の正極活物質層101への拡散といった副反応を抑制する機能を有する。または正極活物質層101が有する結晶構造を安定化させる機能を有する。
【0035】
下地膜104としては導電性を有する材料を用いることが好ましい。また酸化を抑制しやすい材料を用いることが好ましい。たとえばチタン化合物である酸化チタン、窒化チタン、一部窒素に置換された酸化チタン、一部酸素に置換された窒化チタン、または酸化窒化チタン(TiO、0<x<2、0<y<1)等を適用することができる。中でも窒化チタンは導電性が高くかつ酸化を抑制する機能が高いため特に好ましい。
【0036】
キャップ層102は、正極活物質層101の上に設けられる。キャップ層102は正極活物質層101と電解質との副反応を抑制する機能を有する。または正極活物質層101が有する結晶構造を安定化させる機能を有する。
【0037】
キャップ層102としてはチタン化合物を用いることが好ましい。たとえば酸化チタン、窒化チタン、一部窒素に置換された酸化チタン、一部酸素に置換された窒化チタン、または酸化窒化チタン(TiO、0<x<2、0<y<1)を有することが好ましい。チタンおよび酸素は固体電解質に含まれうる材料である。そのため酸化チタンはキャップ層102として特に好適である。
【0038】
なお本明細書等において電解質とは、固体電解質だけでなく、液体の溶媒にリチウム塩を溶解させた電解液およびゲル状の化合物にリチウム塩を溶解させた電解液も含むこととする。
【0039】
正極活物質層101はリチウムと、遷移金属Mと、酸素と、を有する。正極活物質層101はリチウムと遷移金属Mを含む複合酸化物を有するといってもよい。
【0040】
正極活物質層101が有する遷移金属Mとしては、リチウムとともに空間群R-3mに属する層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる金属を用いことが好ましい。遷移金属Mとして、たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち一つもしくは複数を用いることができる。つまり正極活物質層101が有する遷移金属としてコバルトのみを用いてもよいし、ニッケルのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種、またはコバルトとニッケルの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。つまり正極活物質層101は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、コバルトの一部がニッケルで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム等の、リチウムと遷移金属Mを含む複合酸化物を有することができる。
【0041】
また正極活物質層101は上記に加えて、マグネシウム、フッ素、アルミニウムをはじめとする遷移金属M以外の元素を有していてもよい。これらの元素が、正極活物質層101が有する結晶構造をより安定化させる場合がある。つまり正極活物質層101は、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト-アルミニウム酸リチウム、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム等を有することができる。
【0042】
正極活物質層101がリチウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、酸素およびフッ素を有する場合、正極活物質層101が有するコバルトの原子数比を100としたときニッケルの原子数比はたとえば0.05以上2以下が好ましく、0.1以上1.5以下がより好ましく、0.1以上0.9以下がさらに好ましい。正極活物質層101が有するコバルトの原子数比を100としたときアルミニウムの原子数比はたとえば0.05以上2以下が好ましく、0.1以上1.5以下がより好ましく、0.1以上0.9以下がさらに好ましい。正極活物質層101が有するコバルトの原子数比を100としたときマグネシウムの原子数比はたとえば0.1以上6以下が好ましく、0.3以上3以下がより好ましい。また正極活物質層101が有するマグネシウムの原子数比を1としたときフッ素の原子数比はたとえば2以上3.9以下が好ましい。
【0043】
上記のような濃度でニッケル、アルミニウムおよびマグネシウムを有することで、高電圧で充放電を繰り返しても安定した結晶構造を保つことができる。そのため高容量で充放電サイクル特性に優れた正極活物質層101とすることができる。
【0044】
コバルト、ニッケル、アルミニウムおよびマグネシウムのモル濃度はたとえば誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により評価することができる。フッ素のモル濃度はたとえばグロー放電質量分析法(GD-MS)により評価することができる。
【0045】
<第一原理計算>
ここで正極活物質層101にコバルト酸リチウムを用いた場合の、正極活物質層101と下地膜104の界面の結晶構造について計算した結果について図2を用いて説明する。
【0046】
図2Aは下地膜104として窒化チタンを適用した場合の図である。窒化チタンが空間群Fm-3mに属する岩塩型の結晶構造を有し、コバルト酸リチウムが空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有するとして計算した。窒化チタンの(111)面とコバルト酸リチウムの(001)面が平行となるよう積層されている。
【0047】
図2Bは下地膜104として酸化チタンを適用した場合の図である。酸化チタンが空間群P42/mnmに属するルチル型の結晶構造を有し、コバルト酸リチウムが空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有するとして計算した。酸化チタンの(100)面とコバルト酸リチウムの(001)面が平行となるよう積層されている。
【0048】
いずれの図も正極活物質層101と下地膜104の界面を抜粋して示す。その他の計算条件について表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
下地膜104として窒化チタンを適用した図2Aの場合、Ti-O距離は2.03Å、Ti-N距離は1.93Å、Co-O距離は2.25Å、Co-N距離は2.21Åとなった。なお、1Å=10-10mである。
【0051】
空間群Fm-3mに属する岩塩型の結晶構造では、陰イオンのみが配列する面が、(111)面と平行な面に存在する。窒化チタンでは(111)面と平行な面に窒素原子のみが配列している。空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造では、陰イオンのみが配列する面が、(001)面と平行な面に存在する。コバルト酸リチウムでは(001)面と平行な面に酸素原子のみが配列している。
【0052】
窒化チタンの(111)面とコバルト酸リチウムの(001)面が平行であると、両者で陰イオンのみが配列する面が平行になり、結晶構造が安定になりやすい。
【0053】
また空間群Fm-3mに属する岩塩型の結晶構造と、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造はいずれも、陽イオンと陰イオンが交互に配列している結晶構造であるといえる。そのため岩塩型の結晶構造の窒化チタン上に、層状岩塩型の結晶構造のコバルト酸リチウムを積層すると、下地膜104と正極活物質層101の結晶の配向が概略一致しやすい。
【0054】
一方、下地膜104として酸化チタンを適用した図2Bの場合、Ti-O距離は2.15Å、Co-O距離は1.91Åとなった。ルチル型の結晶構造の酸化チタンは、酸素原子が(100)面と平行な平面上に配列しない。そのため窒化チタンと比較すると、層状岩塩型の結晶構造を安定化させる機能が低い可能性がある。
【0055】
このように正極活物質層101に層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウムを用いるとき、窒化チタンは下地膜104として特に好適である。
【0056】
図1Bは本発明の一態様である正極100の他の一例の斜視図である。図1Bに示す正極100は、正極集電体103と、正極活物質層101と、キャップ層102を有する。このように正極100は必ずしも下地膜104を有していなくてもよい。下地膜104を有さなくても、キャップ層102を有することで十分にサイクル特性が向上した二次電池とすることができる場合がある。
【0057】
図1Aおよび図1Bでは正極集電体103が集電体と基板の機能を兼ねる正極について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。図1Cは本発明の一態様である正極100の他の一例の斜視図である。図1Cに示すように、基板110上に正極集電体103、下地膜104、正極活物質層101およびキャップ層102を成膜して作製した正極100としてもよい。
【0058】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0059】
(実施の形態2)
本実施の形態では図3乃至図8を用いて、実施の形態1で説明した二次電池用正極を有する二次電池と、その作製方法ついて説明する。
【0060】
[二次電池の構成]
図3Aは、本発明の一態様の二次電池用正極100を有する二次電池200の積層構造の例を説明する図である。
【0061】
二次電池200は薄膜電池であり、先の実施の形態で説明した正極100を有し、正極100上に固体電解質層203、固体電解質層203上に負極212が形成されている。負極212は負極集電体205と、負極活物質層204を有する。また図3Aに示すように負極212は下地膜214とキャップ層209を有することが好ましい。
【0062】
下地膜214は負極集電体205と負極活物質層204の間に設けられる。下地膜214は負極集電体205と負極活物質層204間の導電性を高める機能を有する。または負極活物質層の過度の膨張を抑制する機能を有する。または負極集電体205と負極活物質層204の副反応を抑制する機能を有する。
【0063】
下地膜214としては導電性を有する材料を用いることが好ましい。また負極活物質層の過度の膨張を抑制できる材料を用いることが好ましい。また副反応を抑制しやすい材料を用いることが好ましい。たとえばチタン化合物である酸化チタン、窒化チタン、一部窒素に置換された酸化チタン、一部酸素に置換された窒化チタン、または酸化窒化チタン(TiO、0<x<2、0<y<1)を有することが好ましい。特に、窒化チタンは導電性が高くかつ副反応を抑制する機能が高く好ましい。
【0064】
キャップ層209は、負極活物質層204と固体電解質層203の間に設けられる。キャップ層209は負極活物質層204と固体電解質層203との副反応を抑制する機能を有する。
【0065】
キャップ層209としてはチタン、またはチタン化合物を用いることが好ましい。チタン化合物としてはたとえば酸化チタン、窒化チタン、一部窒素に置換された酸化チタン、一部酸素に置換された窒化チタン、または酸化窒化チタン(TiO、0<x<2、0<y<1)を有することが好ましい。チタンは固体電解質に含まれうる材料である。そのためチタンおよびチタン化合物はキャップ層209として特に好適である。
【0066】
負極活物質層204としてはシリコン、炭素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニッケルなどを用いることができる。またスズ、ガリウム、アルミニウムなどリチウムと合金化する材料を用いる事ができる。またこれら合金化する金属酸化物を用いても良い。また、リチウムチタン酸化物(LiTi12、LiTiなど)を用いても良いが、中でもシリコン及び酸素を含む材料(SiO膜ともいう)が好ましい。また、負極活物質層204としてリチウム金属を用いてもよい。またこれらの材料の混合物を用いてもよい。たとえばシリコン粒子と炭素の混合物は、信頼性が良好でありかつ体積あたりのエネルギー密度が比較的高く好適である。
【0067】
固体電解質層203は正極100と負極212の間に設けられる。固体電解質層203の材料としては、Li0.35La0.55TiO、La(2/3-A)Li3ATiO3、LiPO4、LixPO(4-B)、LiNb(1-A)Ta(A)WO、LiLaZr12,Li(1+A)Al(A)Ti(2-A)(PO、Li(1+A)Al(A)Ge(2-A)(PO、LiNbO等があげられる。なお、A>0、B>0である。成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0068】
固体電解質層203にはチタンを含む化合物を用いることが好ましい。正極100が有するキャップ層102および負極212が有するキャップ層209がチタンを有するため、固体電解質層203にもチタンを有する材料を用いると、簡便に二次電池を作製することができる。
【0069】
また、SiO(0<C≦2)も固体電解質層203として用いることができる。SiO(0<C≦2)を固体電解質層203として用い、さらに負極活物質層204としてSiO(0<C≦2)を用いてもよい。この場合、SiOのシリコンと酸素の比(O/Si)は、固体電解質層203の方が高いと好ましい。該構成とすることによって、固体電解質層203では伝導イオン(特にリチウムイオン)が拡散しやすく、負極活物質層204では伝導イオン(特にリチウムイオン)が脱離または蓄積しやすくなるため、良好な特性を有する固体二次電池とすることができる。上述のように固体電解質層203及び負極活物質層204に同じ成分からなる材料を用いることで、簡便に二次電池を作製できる。
【0070】
また、固体電解質層203を積層構造としてもよく、積層とする場合、一層にリン酸リチウム(LiPO)に窒素を添加した材料(LiPO(4-Z):LiPONとも呼ばれる)を積層してもよい。なお、Z>0である。
【0071】
また図3Bに示すように、負極活物質層204とキャップ層209が複数積層された負極212を有する二次電池200としてもよい。負極活物質層204とキャップ層209が複数積層されることで、容量を向上させつつ、過度な負極212の膨張を抑制することができる。このとき、固体電解質層203と接するキャップ層209と、負極活物質層204に挟まれたキャップ層209は同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。例えば固体電解質層203と接するキャップ層209に酸化チタンを用い、負極活物質層204に挟まれたキャップ層209に窒化チタンを用いてもよい。
【0072】
さらに図3Cに示すように、正極活物質層101とキャップ層102が複数積層された正極100を有する二次電池200としてもよい。正極活物質層101とキャップ層102が複数積層されることで、容量を向上させつつ、正極活物質層101が有する結晶構造が崩れることを抑制することができる。このとき、固体電解質層203と接するキャップ層102と、正極活物質層101に挟まれたキャップ層102は同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。例えば固体電解質層203と接するキャップ層102に酸化チタンを用い、正極活物質層101に挟まれたキャップ層102に窒化チタンを用いてもよい。
【0073】
図4Aおよび図4Bに本発明の一態様の二次電池200のより具体的な一例を示す。ここでは基板110上に形成された二次電池200について説明する。
【0074】
図4Aは上面図であり、図4B図4A中の線A-A’で切断した断面図である。二次電池200は薄膜電池であり、図4B示すように基板110上に先の実施の形態で説明した正極100が形成され、正極100上に固体電解質層203が形成され、固体電解質層203上に負極210が形成されている。負極210は負極集電体205と、下地膜214と、負極活物質層204と、キャップ層209を有する。
【0075】
また、二次電池200には正極100、固体電解質層203および負極210上に保護層206が形成されていることが好ましい。
【0076】
これらの層を形成する膜は、それぞれメタルマスクを用いて形成することができる。スパッタ法を用いて正極集電体103、下地膜104、正極活物質層101、キャップ層102、固体電解質層203、キャップ層209、負極活物質層204、下地膜214、負極集電体205を選択的に形成することができる。また、共蒸着法を用い、メタルマスクを用いることで固体電解質層203を選択的に形成してもよい。
【0077】
図4Aに示すように負極集電体205および正極集電体103の一部を露出させて負極端子部および正極端子部を形成している。負極端子部および正極端子部以外の領域は、保護層206で覆われている。
【0078】
なお図4Aおよび図4Bでは正極集電体103、下地膜104、正極活物質層101およびキャップ層102を有する正極100上に、固体電解質層203、負極活物質層204および負極集電体205が順に積層された構成について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。
【0079】
図4Cに示すように二次電池200は、正極集電体103と正極活物質層101の間に、下地膜104を有さない正極100を有していてもよい。また下地膜214およびキャップ層209を有さない負極210を有していてもよい。
【0080】
また本発明の一態様の二次電池が有する正極および負極のいずれもが活物質層とキャップ層の積層構造となっていてもよい。たとえば図4Dに示すように二次電池200は、負極活物質層204とキャップ層209が複数積層された負極210を有していてもよい。また正極活物質層101とキャップ層102が複数積層された正極100を有していてもよい。
【0081】
また図5Aおよび図5Bに示すように、本発明の一態様の二次電池は、負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極211を有する二次電池201であってもよい。図5Aは二次電池201の上面図であり、図5B図5A中の線B-B’で切断した断面図である。負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極211とすることで、工程が簡略化され生産性の高い二次電池とすることができる。またエネルギー密度の高い二次電池とすることができる。
【0082】
また図5Cおよび図5Dに示すように、本発明の一態様の二次電池は、負極210上に固体電解質層203および正極100が積層された二次電池202であってもよい。図5Cは二次電池202の上面図であり、図5D図5C中の線C-C’で切断した断面図である。
【0083】
また図4および図5では正極だけでなく、固体電解質層および負極も薄膜で形成されている二次電池について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。本発明の一態様は、電解液を有する二次電池であってもよい。また電解液を有し、かつ負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極を有する二次電池であってもよい。また粉体の負極活物質を負極集電体に塗工して作製された負極を有する二次電池であってもよい。
【0084】
電解液を有する二次電池230を図6Aおよび図6Bに示す。図6Aは上面図であり、図6B図6A中の線D-D’で切断した断面図である。
【0085】
図6Bに示すように二次電池230は基板110上の正極100と、基板111上の負極212と、セパレータ220と、電解液221と、外装体222と、を有する。負極212が有する負極集電体205と、負極活物質層204と、キャップ層209は薄膜で形成されている。
【0086】
また図6Aに示すように二次電池230はリード電極223aおよびリード電極223bを有する。リード電極223aは正極集電体103と電気的に接続される。リード電極223bは負極集電体205と電気的に接続される。リード電極223aおよびリード電極223bの一部は外装体222の外に引き出される。
【0087】
電解液と、負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極211を有する二次電池231を図7Aおよび図7Bに示す。図7Aは上面図であり、図7B図7A中の線E-E’で切断した断面図である。
【0088】
図7Bに示すように二次電池231は正極100と、負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極211と、セパレータ220と、電解液221と、外装体222と、を有する。負極集電体層と負極活物質層を兼ねた負極211とすることで、工程が簡略化され生産性の高い二次電池とすることができる。またエネルギー密度の高い二次電池とすることができる。
【0089】
[作製方法]
次に図4Aおよび図4Bに示す二次電池200の作製方法のフローの例について、図8を用いて説明する。
【0090】
まず基板110上に正極集電体103を形成する(S1)。成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。また、導電性を有する基板を集電体として用いても構わない。正極集電体103としては、金、白金、アルミニウム、チタン、銅、マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、銀、パラジウム等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料を用いることができる。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウムを用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
【0091】
また、基板110としては、セラミックス基板、ガラス基板、樹脂基板、シリコン基板、金属基板などを用いることができる。基板110として可撓性を有する材料を用いれば、可撓性を有する薄膜二次電池を作製することができる。
【0092】
正極集電体103は、導電性の高い材料を用いることで基板と正極集電体の機能を兼ねることができる。この場合、例えばチタン、銅をはじめとする金属基板を用いることが好ましい。また下地膜104を設ける場合は、下地膜104が正極活物質層101等に含まれる酸素により正極集電体103が酸化されること、または金属原子の拡散を抑制する。そのため、酸化されやすい材料、または拡散しやすい金属原子を含む材料でも正極集電体103に適用することができる。
【0093】
次に下地膜104を成膜する(S2)。下地膜104の成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。たとえば下地膜104として窒化チタンを用いる場合は、チタンターゲットと窒素ガスを用いた反応性スパッタ法により窒化チタンを成膜することができる。
【0094】
次に正極活物質層101を成膜する(S3)。正極活物質層101は、たとえばリチウムと、マンガン、コバルト、ニッケルのうち一つもしくは複数を有する酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを用いてスパッタ法により成膜することができる。たとえばリチウムコバルト酸化物(LiCoO、LiCoなど)を主成分とするスパッタリングターゲット、リチウムマンガン酸化物(LiMnO、LiMnなど)を主成分とするスパッタリングターゲット、またはリチウムニッケル酸化物(LiNiO、LiNiなど)を主成分とするスパッタリングターゲットを用いることができる。また、真空蒸着法によって成膜してもよい。
【0095】
また、スパッタ法においては、メタルマスクを用いることで選択的に成膜することができる。また、レジストマスクなどを用いてドライエッチングまたはウェットエッチングにより選択的に除去することで正極活物質層101をパターニングしてもよい。
【0096】
また、マグネシウム、フッ素、アルミニウム等を有する正極活物質層101を成膜するために、リチウムと、マンガン、コバルト、ニッケルのうち一つもしくは複数に加えて、マグネシウム、フッ素、アルミニウム等を有するスパッタリングターゲットを用いて成膜してもよい。また、リチウムと、マンガン、コバルト、ニッケルのうち一つもしくは複数を有する酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを用いて成膜した後に、マグネシウム、フッ素、アルミニウム等を真空蒸着法により成膜し、アニールしてもよい。
【0097】
次に、正極活物質層101上にキャップ層102を成膜する(S4)。キャップ層102の成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。たとえばキャップ層102として酸化チタンを用いる場合は、チタンターゲットと酸素ガスを用いた反応性スパッタ法により酸化チタンを成膜することができる。また、酸化チタンのターゲットをスパッタする事でも成膜する事ができる。
【0098】
正極活物質層101およびキャップ層102の成膜は高温(500℃以上)で行うと好ましい。より結晶性が良好な正極100を作製することができる。
【0099】
次に、正極活物質層101上に固体電解質層203を成膜する(S5)。
【0100】
固体電解質層203にはチタンを含む化合物を用いることが好ましい。正極100が有するキャップ層102がチタンを有するため、固体電解質層203にもチタンを有する材料を用いると、簡便に二次電池を作製することができる。成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0101】
次に、固体電解質層203上に負極活物質層204を成膜する(S6)。成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。
【0102】
次に、負極活物質層204上に負極集電体205を作製する(S7)。負極集電体205の材料としては、アルミニウム、チタン、銅、金、クロム、タングステン、モリブデン、ニッケル、銀などから選ばれる一種または複数種の導電材料を用いる。成膜方法としては、スパッタ法、蒸着法などを用いることができる。また、スパッタ法においては、メタルマスクを用いることで選択的に成膜することができる。また、レジストマスクなどを用いてドライエッチングまたはウェットエッチングにより選択的に除去することで導電膜をパターニングしてもよい。
【0103】
なお、上記正極集電体103または負極集電体205をスパッタ法で成膜した場合、正極活物質層101及び負極活物質層204のうち少なくとも一方はスパッタ法で形成することが好ましい。スパッタ装置は、同一チャンバー内または複数のチャンバーを用いて連続成膜を行うことも可能であり、マルチチャンバー方式の製造装置やインライン方式の製造装置とすることもできる。スパッタ法は、チャンバーとスパッタリングターゲットを用いる量産に適した製造方法である。また、スパッタ法は、薄く成形することができ、成膜特性が優れている。
【0104】
次に、正極100、固体電解質層203および負極210上に保護層206を成膜することが好ましい(S8)。保護層206としては、ハフニウム、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、ジルコニウム、タングステン、チタン、タンタル、ニッケル、ゲルマニウム、ネオジム、ランタンまたは、マグネシウムなどから選ばれた一種、または二種以上が含まれた金属酸化物を用いることができる。また、窒化酸化シリコンまたは窒化シリコンなども用いることができる。保護層206はスパッタ法を用いて成膜することができる。
【0105】
また、本実施の形態で説明した各層はスパッタ法に特に限定されず、気相法(真空蒸着法、溶射法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、イオンプレーティング法、コールドスプレー法、エアロゾルデポジション法)を用いることもできる。なお、エアロゾルデポジション(AD)法は、基板を加熱することなく成膜を行う方法である。エアロゾルとは、ガス中に分散している微粒子を指している。また、CVD法や、ALD(Atomic Layer Deposition)法を用いてもよい。
【0106】
上記の工程で、本発明の一態様である二次電池200を作製することができる。
【0107】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0108】
(実施の形態3)
薄膜二次電池の出力電圧を大きくするために、二次電池を直列接続することができる。実施の形態2ではセルが1つである二次電池の例を示したが、本実施の形態では複数のセルを直列接続させた薄膜二次電池を作製する例を示す。
【0109】
図9Aに1つ目の二次電池を形成直後の上面図を示し、図9Bは、2つの二次電池が直列接続されている上面図を示す。なお、図9A及び図9Bにおいて、実施の形態2に示す図5Aと同一の部分には同一の符号を用いる。
【0110】
図9Aは、負極集電体205を成膜した直後の状態を示している。図5Aとは負極集電体205の上面形状が異なっている。図9Aに示す負極集電体205は、固体電解質層側面と一部接し、基板の絶縁表面とも接している。
【0111】
そして、1つめの負極活物質層と重ならない負極集電体205の領域上に、第2の負極活物質層、第2の固体電解質層213、第2の正極活物質層及び第2の正極集電体215をこの順に形成する。最後に保護層206を形成する(図9B)。
【0112】
図9Bは2つの固体二次電池が平面上に並び、直列接続している構成を示している。
【0113】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0114】
(実施の形態4)
薄膜二次電池の出力電圧を大きくするため、または放電容量を大きくするために、正極と負極がそれぞれ複数重畳して積層される多層二次電池とすることができる。実施の形態2では単層セルである二次電池の例を示したが、本実施の形態では多層セルの薄膜電池の例を示す。
【0115】
図10は3層セルの薄膜電池の断面の一例である。基板110上に正極集電体103を形成し、正極集電体103上に下地膜104、正極活物質層101、キャップ層102、固体電解質層203、負極活物質層204、負極集電体205を順次、形成することで、1つ目のセルを構成している。
【0116】
さらに、負極集電体205上に2層目の負極活物質層204、固体電解質層、キャップ層、正極活物質層、下地膜、正極集電体層を順次、形成することで2つ目のセルを構成している。
【0117】
さらに、2層目の正極集電体上に3層目の下地膜、正極活物質層、キャップ層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を順次、形成することで、3つ目のセルを構成している。
【0118】
図10では、最後に保護層206が形成されている。図10に示す3層積層は、容量を大きくするために、直列接続する構成となっているが、外部結線で並列に接続させることもできる。また、外部結線で直列と並列または直並列を選択することもできる。
【0119】
なお、固体電解質層203、2層目の固体電解質層、3層目の固体電解質層は、同じ材料を用いると製造コストを低減できるため、好ましい。
【0120】
また、図10に示す構造を得るための製造フローの一例を図11に示す。
【0121】
図11においては、作製工程を少なくするために、正極活物質層としてコバルト酸リチウム膜を用い、正極集電体及び負極集電体(導電層)としてチタン膜を用いると好ましい。チタン膜を共通電極として用いることで少ない構成で3層積層セルを実現することができる。
【0122】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0123】
(実施の形態5)
本実施の形態では、二次電池の正極集電体層から負極集電体層までの作製を全自動化できるマルチチャンバー方式の製造装置の例を図12及び図13に示す。該製造装置は本発明の一態様の薄膜二次電池作製に好適に用いることができる。
【0124】
図12は、ゲート880、881、882、883、884、885、886、887、888、ロードロック室870、マスクアライメント室891、第1搬送室871、第2搬送室872、第3搬送室873、複数の成膜室(第1成膜室892、第2成膜室874)、加熱室893、第2の材料供給室894、第1の材料供給室895、第3の材料供給室896を備えるマルチチャンバーの製造装置の一例である。
【0125】
マスクアライメント室891は、ステージ851と基板搬送機構852とを少なくとも有する。
【0126】
第1搬送室871は基板カセット昇降機構を有し、第2搬送室872は、基板搬送機構853を有し、第3搬送室873は基板搬送機構854を有する。
【0127】
第1成膜室892、第2成膜室874、第2の材料供給室894、第1の材料供給室895、第3の材料供給室896、マスクアライメント室891、第1搬送室871、第2搬送室872、第3搬送室873はそれぞれ排気機構と接続している。排気機構としては、各室の使用用途に応じて適宜排気装置を選定すれば良く、例えば、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、チタンサブリメーションポンプ等の、吸着手段を有するポンプを備えた排気機構や、ターボ分子ポンプにコールドトラップを備えた排気機構等が挙げられる。
【0128】
基板に成膜する手順としては、基板850または基板カセットをロードロック室870に設置し、基板搬送機構852によってマスクアライメント室891に搬送する。マスクアライメント室891では予めセットされている複数のマスクの中から、用いるマスクをピックアップし、ステージ851上で基板と位置合わせを行う。位置合わせが終わった後、ゲート880が開けられ、基板搬送機構852によってマスクおよび基板850が第1搬送室871に搬送される。第1搬送室871にマスクおよび基板850を運んだ後、ゲート881を開けて基板搬送機構853によって第2搬送室872に搬送する。
【0129】
第2搬送室872にゲート882を介して設けられている第1成膜室892はスパッタ成膜室である。スパッタ成膜室はRF電源と、パルスDC電源を切り替えてスパッタターゲットに電圧を印加できる機構となっている。また、スパッタターゲットは2種または3種類セットすることができる。本実施の形態では、単結晶シリコンターゲットと、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)を主成分とするスパッタリングターゲットと、チタンターゲットと、を設置する。第1成膜室892に基板加熱機構を設け、ヒータ温度700℃まで加熱したまま成膜することも可能である。
【0130】
単結晶シリコンターゲットを用いるスパッタ法では負極活物質層を形成することができる。また、ArガスとOガスによる反応性スパッタ法を用いてSiOとした膜を負極活物質層としても良い。ArガスとNガスによる反応性スパッタ法により窒化シリコン膜を封止膜として用いる事も可能である。また、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)を主成分とするスパッタリングターゲットを用いるスパッタ法では正極活物質層を形成することができる。チタンターゲットを用いるスパッタ法では、集電体となる導電膜を形成することができる。ArガスとNガスによる反応性スパッタ法により窒化チタン膜とし、キャップ層または下地膜を形成する事も可能である。
【0131】
正極活物質層を形成する場合は、マスクと基板を重ねた状態で基板搬送機構853によって第2搬送室872から第1成膜室892に搬送し、ゲート882を閉めて、スパッタリング法による成膜を行う。成膜を終えた後は、ゲート882及びゲート883を開けて、加熱室893に搬送し、ゲート883を閉めた後、加熱を行うことができる。加熱室893の加熱処理には、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置、抵抗加熱炉、マイクロ波加熱装置を用いることができる。RTA装置には、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。加熱室893の加熱処理は、窒素、酸素、希ガス、または乾燥空気の雰囲気下で行うことができる。また、加熱時間は1分以上24時間以下とする。
【0132】
そして、成膜または加熱処理を終えた後は、基板及びマスクをマスクアライメント室891まで戻し、新たなマスクを位置合わせする。位置合わせを終えた基板及びマスクは、基板搬送機構852によって第1搬送室871に搬送される。第1搬送室871の昇降機構によって基板を運び、ゲート884を開けて基板搬送機構854によって第3搬送室873に搬送する。
【0133】
第3搬送室873とゲート885を介して接続している第2成膜室874は蒸着による成膜を行う。
【0134】
第2成膜室874の構成の断面構造の一例を図13に示す。図12中の点線で切断した断面模式図が図13である。第2成膜室874は排気機構849と接続し、第1の材料供給室895は排気機構848と接続している。第2の材料供給室894は排気機構847と接続している。図13に示す第2成膜室874は、第1の材料供給室895から移動させた蒸着源856を用いて蒸着を行う蒸着室であり、複数の材料供給室からそれぞれ蒸着源を移動させ、複数の物質を同時に気化して蒸着、即ち共蒸着ができる。図13においては第2の材料供給室894からも移動させた蒸着ボート858を有する蒸着源を示している。
【0135】
また、第2成膜室874は、ゲート886を介して第2の材料供給室894と接続されている。また、第2成膜室874は、ゲート888を介して第1の材料供給室895と接続されている。また、第2成膜室874は、ゲート887を介して第3の材料供給室896と接続されている。従って、第2成膜室874は3元共蒸着が可能である。
【0136】
蒸着を行う手順としては、まず基板を基板保持部845に設置する。基板保持部845は回転機構865と接続されている。そして、第1の材料供給室895である程度、第1の蒸着材料855を加熱し、蒸着レートが安定した段階でゲート888を開け、アーム862を伸ばして蒸着源856を移動させ、基板の下方の位置で停止させる。蒸着源856は、第1の蒸着材料855と、ヒータ857と、第1の蒸着材料855を収納する容器と、で構成される。また、第2の材料供給室894においてもある程度、第2の蒸着材料を加熱し、蒸着レートが安定した段階でゲート886を開け、アーム861を伸ばして蒸着源を移動させ、基板の下方の位置で停止させる。
【0137】
その後、シャッター868、及び蒸着源シャッター869を開けて共蒸着を行う。蒸着の間は回転機構865を回転させて膜厚の均一性を高める。蒸着を終えた基板は、同じ経路をたどり、マスクアライメント室891に搬送される。製造装置から基板を取り出す場合にはマスクアライメント室891からロードロック室870に搬送して取り出すこととなる。
【0138】
また、図13では、基板保持部845に基板850及びマスクが保持されているときを一例として示す。基板回転機構により基板850(及びマスク)を回転させることで、成膜の均一性を高めることができる。基板回転機構は、基板搬送機構を兼ねていても良い。
【0139】
また、第2成膜室874には、CCDカメラ等の撮像手段863を備えていても良い。撮像手段863を備えることで、基板850の位置確認が可能となる。
【0140】
また、第2成膜室874では、膜厚計測機構867の測定結果により、基板表面に成膜された膜厚が予測できる。膜厚計測機構867としては、例えば、水晶振動子等を備えていれば良い。
【0141】
なお、気化した蒸着材料の蒸着を制御するため、蒸着材料の気化の速度が安定するまで基板と重なるシャッター868や、蒸着源856や蒸着ボート858と重なる蒸着源シャッター869を備えている。
【0142】
蒸着源856において、抵抗加熱方式の例を示しているが、EB(Electron Beam)蒸着方式であってもよい。また、蒸着源856の容器としてルツボの例を示しているが、蒸着ボートであってもよい。ヒータ857で加熱するルツボには第1の蒸着材料855として有機材料を入れる。また、ペレットや粒子状のSiOなどを蒸着材料として用いる場合には蒸着ボート858を用いる。蒸着ボート858は3つのパーツからなり、凹面を有する部材と、2つの穴の開いた中蓋と、一つの穴の開いた上蓋とが重ねられている。なお、中蓋は取り外して蒸着を行ってもよい。蒸着ボート858は通電させることで抵抗として働き、蒸着ボート自身が加熱する仕組みである。
【0143】
また、本実施の形態ではマルチチャンバー方式の例を示したが特に限定されず、インライン方式の製造装置としてもよい。
【0144】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0145】
(実施の形態6)
本実施の形態では、電池制御回路等を有する薄膜二次電池の例について説明する。
【0146】
図14Aは、薄膜二次電池の外観図である。二次電池913は、端子951および端子952を有する。端子951は正極に、端子952は負極に、それぞれ電気的に接続される。本発明の一態様の二次電池はサイクル特性が優れている。また、全固体二次電池とすることができるため、安全性にも優れる。よって、本発明の一態様の二次電池を二次電池913として好適に用いることができる。
【0147】
図14Bは、電池制御回路の外観図である。図14Bに示す電池制御回路は、基板900および層916を有する。基板900上には回路912およびアンテナ914が設けられる。アンテナ914は回路912に電気的に接続される。回路912には端子971および端子972が電気的に接続される。回路912は端子911に電気的に接続される。
【0148】
端子911は例えば、薄膜型の固体二次電池の電力が供給される機器に接続される。例えば、表示装置、センサ、等に接続される。
【0149】
層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0150】
図14Cには、図14Bに示す電池制御回路を二次電池913上に配置する例を示す。端子971は端子951に、端子972は端子952に、それぞれ電気的に接続される。層916は基板900と二次電池913との間に配置される。
【0151】
基板900として可撓性を有する基板を用いることが好ましい。
【0152】
基板900として可撓性を有する基板を用いることにより、薄型の電池制御回路を実現することができる。また後述する図15Dに示すように電池制御回路を二次電池に巻き付けることができる。
【0153】
図15A乃至図15Dを用いて、電池制御回路等を有する薄膜二次電池の他の一例について説明する。図15Aは薄膜型の固体二次電池の外観図である。図15Bに示す電池制御回路は、基板900および層916を有する。
【0154】
図15Cに示すように、基板900を二次電池913の形状に合わせて曲げ、電池制御回路を二次電池の周りに配置することにより、図15Dに示すように、電池制御回路を二次電池に巻き付けることができる。このような構成の二次電池とすることで、より小型の二次電池とすることができる。
【0155】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0156】
(実施の形態7)
本実施の形態では、薄膜二次電池を用いた電子機器の例について図16A図16B及び図17A乃至図17Cを用いて説明する。本発明の一態様の二次電池は放電容量およびサイクル特性が高く、安全性が高い。そのため該電子機器は安全性が高く、長時間使用可能である。
【0157】
図16Aは、本発明に係る薄膜型二次電池3001の外観斜視図である。固体二次電池の正極と電気的に接続される正極リード電極513と、負極と電気的に接続される負極リード電極511が突出するように、ラミネートフィルムまたは絶縁材料で封止されている。
【0158】
図16Bは、本発明に係る薄膜型二次電池を用いた応用機器の一例であるICカードである。電波3005からの給電により得られた電力を薄膜型二次電池3001に充電することができる。ICカード3000内部にはアンテナ及びIC3004や、薄膜型二次電池3001が配置されている。ICカード3000上には、管理バッジを装着する作業者のID3002及び写真3003が表示されている。薄膜型二次電池3001に充電した電力を用いてアンテナから認証信号などの信号を発信することもできる。
【0159】
ID3002および写真3003の表示のために、アクティブマトリクス表示装置を設けてもよい。アクティブマトリクス表示装置としては反射型液晶表示装置や有機EL表示装置や電子ペーパーなどがある。アクティブマトリクス表示装置に映像(動画または静止画)や時間を表示させることもできる。アクティブマトリクス表示装置の電力は、薄膜型二次電池3001から供給することができる。
【0160】
ICカードはプラスチック基板が用いられるため、フレキシブル基板を用いた有機EL表示装置が好ましい。
【0161】
また、写真3003に代えて太陽電池を設けてもよい。外光の照射により光を吸収し、電力を発生させ、その電力を薄膜型二次電池3001に充電することができる。
【0162】
また、薄膜型二次電池は、ICカードに限定されず、車載に用いるワイヤレスセンサの電源、MEMSデバイス用の二次電池などに用いることができる。
【0163】
図17Aは、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる場合がある。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0164】
例えば、図17Aに示すような眼鏡型デバイス400に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス400は、フレーム400aと、表示部400bを有する。湾曲を有するフレーム400aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス400とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0165】
また、ヘッドセット型デバイス401に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス401は、少なくともマイク部401aと、フレキシブルパイプ401bと、イヤフォン部401cを有する。フレキシブルパイプ401b内やイヤフォン部401c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0166】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス402に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス402の薄型の筐体402aの中に、二次電池402bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0167】
また、衣服に取り付け可能なデバイス403に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス403の薄型の筐体403aの中に、二次電池403bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0168】
また、ベルト型デバイス406に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス406は、ベルト部406aおよびワイヤレス給電受電部406bを有し、ベルト部406aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0169】
また、腕時計型デバイス405に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス405は表示部405aおよびベルト部405bを有し、表示部405aまたはベルト部405bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0170】
表示部405aには、時刻だけでなく、メールや電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0171】
また、腕時計型デバイス405は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0172】
図17Bに腕から取り外した腕時計型デバイス405の斜視図を示す。
【0173】
また、腕時計型デバイス405の側面図を図17Cに示す。図17Cには、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は実施の形態5に示した二次電池である。二次電池913は表示部405aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【0174】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0175】
(実施の形態8)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極を有する二次電池を用いた電子機器について、図18A乃至図18C図19A乃至図19Dおよび図20Aおよび図20Bを用いて説明する。本発明の一態様の正極を有する二次電池は放電容量およびサイクル特性が高く、安全性が高い。そのため以下に示すような電子機器に好適に用いることができる。特に耐久性が求められる電子機器に好適に用いることができる。
【0176】
図18Aに、腕時計型の携帯情報端末(スマートウォッチとも呼ぶ)700の斜視図を示す。携帯情報端末700は、筐体701、表示パネル702、留め金703、バンド705A、705B、操作ボタン711、712を有する。
【0177】
ベゼル部を兼ねる筐体701に搭載された表示パネル702は、矩形状の表示領域を有している。また、該表示領域は曲面を構成している。表示パネル702は可撓性を有すると好ましい。なお、表示領域は非矩形状であってもよい。
【0178】
バンド705Aおよびバンド705Bは、筐体701と接続される。留め金703は、バンド705Aと接続される。バンド705Aと筐体701とは、例えばピンを介して接続部が回転できるように接続される。バンド705Bと筐体701、ならびにバンド705Aと留め金703の接続についても同様である。
【0179】
図18B図18Cにそれぞれ、バンド705Aおよび二次電池750の斜視図を示す。バンド705Aは二次電池750を有する。二次電池750には、例えば先の実施の形態で説明した二次電池を用いることができる。二次電池750はバンド705Aの内部に埋め込まれ、正極リード751および負極リード752はそれぞれ一部がバンド705Aから突出している(図18B参照)。正極リード751および負極リード752は、表示パネル702と電気的に接続される。また二次電池750の表面は外装体753で覆われている(図18C参照)。なお、上記のピンが電極の機能を有していてもよい。具体的には、正極リード751および表示パネル702、ならびに負極リード752および表示パネル702が、それぞれバンド705Aと筐体701とを接続するピンを介して電気的に接続されていてもよい。このようにすることで、バンド705Aおよび筐体701の接続部における構成を簡略化できる。
【0180】
二次電池750は可撓性を有する。そのためバンド705Aは、二次電池750と一体形成することで作製できる。例えば、バンド705Aの外形に対応する金型に二次電池750をセットし、バンド705Aの材料を該金型に流し込み、該材料を硬化させることで図18Bに示すバンド705Aを作製できる。
【0181】
バンド705Aの材料としてゴム材料を用いる場合、加熱処理によってゴムを硬化させる。例えばゴム材料としてフッ素ゴムを用いる場合、170℃、10分の加熱処理によって硬化させる。また、ゴム材料としてシリコーンゴムを用いる場合、150℃、10分の加熱処理によって硬化させる。
【0182】
バンド705Aに用いる材料としては、フッ素ゴム、シリコーンゴムのほか、フロロシリコーンゴム、ウレタンゴムが挙げられる。
【0183】
なお、図18Aに示す携帯情報端末700は、様々な機能を有することができる。例えば、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示領域に表示する機能、タッチパネル機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、無線通信機能、無線通信機能を用いて様々なコンピュータネットワークに接続する機能、無線通信機能を用いて様々なデータの送信又は受信を行う機能、記録媒体に記録されているプログラム又はデータを読み出して表示領域に表示する機能、等を有することができる。
【0184】
また、筐体701の内部に、スピーカ、センサ(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい又は赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン等を有することができる。なお、携帯情報端末700は、発光素子をその表示パネル702に用いることにより作製することができる。
【0185】
なお、図18Aでは二次電池750がバンド705Aに含まれる例を示したが、二次電池750がバンド705Bに含まれていてもよい。バンド705Bとしてはバンド705Aと同様の材料を用いることができる。
【0186】
図19Aは、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301の上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0187】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0188】
図19Bは、ロボットの一例を示している。図19Bに示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0189】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0190】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0191】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0192】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0193】
図19Cは、飛行体の一例を示している。図19Cに示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、および二次電池6503などを有し、自律して飛行する機能を有する。
【0194】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0195】
図19Dは、自動車の一例を示している。自動車7160は、二次電池7161、エンジン、タイヤ、ブレーキ、操舵装置、カメラなどを有する。また後述するシステム1000を有することが好ましい。自動車7160は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池7161を備える。本発明の一態様に係る二次電池を自動車7160に用いることで、自動車7160を航続距離が長く、安全性が高く、信頼性が高い自動車とすることができる。
【0196】
また本発明の一態様は、先の実施の形態で説明した薄膜電池と、他の二次電池と、を有する電子機器またはシステムであってもよい。他の二次電池は特に限定されないが、たとえば正極と、負極と、電解液と、セパレータとを有するリチウムイオン二次電池、またはバルク全固体二次電池を用いることができる。なお本明細書等においてシステムとは、個々の要素が組み合わされた系をいうこととする。要素の一つとして二次電池を有する。
【0197】
図20Aに、先の実施の形態で説明した薄膜電池1001と、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを有するリチウムイオン二次電池1002を有するシステム1000を示す。このような電子機器またはシステムとすることで、より大きな放電容量を有する二次電池と、薄く軽くすることが容易な先の実施の形態で説明した薄膜電池の両方の利点を生かすことができる。システム1000は、ワイヤレス給電装置を有することが好ましい。ワイヤレス給電装置を有すると、リチウムイオン二次電池1002から薄膜電池1001へ簡便に給電することができる。
【0198】
図20Bに、システム1000を有する場合の自動車7160の内部を示す。自動車7160は、駆動用の二次電池、ワイヤレス給電装置7162および鍵7163を有する。ワイヤレス給電装置7162上に鍵7163を配置することで、駆動用の二次電池7161から鍵7163に給電することができる。なお図20Bではワイヤレス給電装置7162がダッシュボード上に設置されている例を示したがこれに限らない。運転席周辺の他の場所に鍵7163の収納場所を設け、該収納場所にワイヤレス給電装置7162を設けてもよい。
【0199】
このとき鍵7163が先の実施の形態で説明した薄膜電池を有すると、より薄く軽い鍵とすることができ好ましい。また自動車7160の駆動用の二次電池には、たとえば正極と、負極と、電解液と、セパレータとを有するリチウムイオン二次電池、またはバルク全固体二次電池といった、より大きな放電容量を得やすい二次電池を用いることが好ましい。
【0200】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0201】
(実施の形態9)
本実施の形態で説明するデバイスは、バイオセンサと、バイオセンサに電力を供給する固体二次電池を少なくとも有し、赤外光と可視光を用いて様々な生体情報を取得し、メモリに記憶させることができる。このような生体情報は、ユーザーの個人認証の用途と、ヘルスケアの用途の両方に用いることができる。本発明の一態様の二次電池は放電容量及びサイクル特性が高く、さらに安全性が高い。そのため該デバイスは安全性が高く、長時間使用可能である。
【0202】
バイオセンサは、生体情報を取得するセンサであり、ヘルスケアの用途に用いることのできる生体情報を取得する。生体情報としては、脈波、血糖値、酸素飽和度、中性脂肪濃度などがある。データはメモリに記憶させる。
【0203】
さらに本実施の形態で説明するデバイスに、他の生体情報を取得する手段を設けることが好ましい。例えば、心電図、血圧、体温などの体内の生体情報のほか、表情、顔色、瞳孔などの表面的な生体情報などがある。また、歩数や運動強度、移動の高低差、食事(摂取カロリーや栄養素など)の情報も、ヘルスケアには重要な情報となる。複数の生体情報等を用いることで、複合的な体調管理が可能となり、日常的な健康管理だけでなく、傷病の早期発見にもつながる。
【0204】
例えば、血圧は、心電図と、脈波の2つの拍動のタイミングのずれ(脈波伝搬時間の長さ)から算出することができる。血圧が高いと脈波伝搬時間が短く、逆に血圧が低いと脈波伝搬時間が長くなる。また、心電図及び脈波から算出される心拍数と血圧の関係から、ユーザーの身体状態を推定することもできる。例えば心拍数と血圧がいずれも高いと、緊張や興奮状態であると推定でき、その逆に心拍数と血圧がいずれも低いと、リラックス状態であると推定することができる。また、低血圧で且つ心拍数が高い状態が継続する場合には、心臓疾患などの可能性がある。
【0205】
ユーザーは、電子機器で測定された生体情報や、その情報をもとに推定された自己の身体状況などを随時確認できるため、健康意識が向上する。その結果、暴飲暴食を避ける、適度な運動に気を付ける、または体調管理を行うなど、日々の習慣の見直しを行うことや、必要に応じて医療機関による診察を受けるきっかけにもなりうる。
【0206】
それぞれのデータは、複数のバイオセンサ間で共有されてもよい。図21Aはユーザーの体内にバイオセンサ80aを埋め込んだ例と、手首にバイオセンサ80bを装着させた例である。図21Aは、例えば心電図の計測が行えるバイオセンサ80aを有するデバイスと、ユーザーの腕の脈を光学式でモニタする心拍計測などが行えるバイオセンサ80bを有するデバイスである。なお、図21Aに示す時計やリストバンドタイプの装着型のデバイスは心拍計測に限定されず、様々なバイオセンサを用いることができる。
【0207】
図21Aに示す埋め込むタイプのデバイスの場合は小型であること、且つ、発熱がほとんどないこと、皮膚に接触してもアレルギー反応などが生じないこと、などが前提となる。本発明の一態様のデバイスに用いる二次電池は、小型であり、発熱がほとんどなく、アレルギー反応などが生じないため、好適である。また、埋め込むタイプのデバイスは無線充電可能とするためにアンテナを内蔵することが好ましい。
【0208】
図21Aに示す生体内に埋め込むタイプのデバイスは、心電図の計測が行えるバイオセンサに限定されず、他の生体データを取得可能なバイオセンサを用いることができる。
【0209】
デバイスに内蔵されたバイオセンサ80bは、取得したデータをそのデバイスに内蔵されている一時メモリに記憶させる機能を有していてもよい。もしくは、バイオセンサで取得したそれぞれのデータが図21Bの携帯データ端末85に無線又は有線で送られ、携帯データ端末85にて波形を検出する機能を有していてもよい。携帯データ端末85は、スマートフォンなどであり、それぞれのバイオセンサで取得したデータから不整脈などの問題が発生していないかを検出することができる。携帯データ端末85に複数のバイオセンサで取得したデータを有線で送る場合は、有線で接続するまでに取得したデータをまとめて転送することが好ましい。なお、検出されるそれぞれのデータには、自動で日が付与されて携帯データ端末85のメモリに保存され、個人的に管理してもよい。もしくは、図21Bに示すようにネットワーク(Network)(インターネット(Internet)を含む)を介して病院などの医療機関87に送信してもよい。当該データは、病院のデータサーバに管理され、治療時の検査データとして利用することができる。医療データは膨大となる場合があるため、バイオセンサ80bから携帯データ端末85まではBluetooth(登録商標)や2.4GHzから2.4835GHzの周波数帯を含むネットワークを用い、携帯データ端末85から携帯データ端末85までは第5世代無線方式を用いて高速通信を行ってもよい。第5世代無線方式は、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の周波数を用いる。第5世代無線方式を用いることで自宅だけでなく、外出時においてもデータの取得及び医療機関87へのデータ送信が可能となり、ユーザーの体調異常時のデータを的確に取得し、その後の処理または治療に役立てることができる。なお、携帯データ端末85としては、図21Cに示す構成を利用することができる。
【0210】
図21Cは、携帯データ端末の他の一例を示している。携帯データ端末89は、二次電池に加えて、スピーカ、一対の電極83、カメラ84、及びマイク86を有している。
【0211】
一対の電極83は、筐体82の一部に、表示部81aを挟んで設けられている。表示部81bは曲面を有している領域である。電極83は、生体情報を取得するための電極として機能する。
【0212】
図21Cに示すように、一対の電極83を筐体82の長手方向に配置することで、横長の画面で携帯データ端末89を使用する際に、ユーザーが意識することなく生体情報の取得を実行することができる。
【0213】
携帯データ端末89の使用状態の例を示している。表示部81aには、一対の電極83で取得した心電図の情報88aと、心拍数の情報88bなどが表示できる。
【0214】
図21Aのようにユーザーの体内にバイオセンサ80aを埋め込んだ場合は、この機能は不要といえるが、埋め込んでいない場合、ユーザーは一対の電極83を両手で把持することにより、心電図を取得することができる。ユーザーの体内にバイオセンサ80aを埋め込んだ場合であっても、バイオセンサ80aが正常に機能しているかどうか確かめるために、図21Cに示す携帯データ端末89を使用できる。また複数のユーザー間で心電図のデータを比較する場合にも、図21Cに示す携帯データ端末89を使用できる。
【0215】
カメラ84は、ユーザーの顔などを撮像することができる。ユーザーの顔の画像から、表情、瞳孔、顔色などの生体情報を取得することができる。
【0216】
マイク86は、ユーザーの声を取得することができる。取得した声の情報から、声紋認証に用いることのできる声紋情報を取得することができる。また、声の情報を定期的に取得し、その声質の変化をモニタすることにより、健康管理にも利用することもできる。勿論、マイク86、カメラ84、スピーカを用いて医療機関87にいる医師とテレビ電話で通話も可能である。
【0217】
図21Aに示すデバイス及び図21Cに示す携帯データ端末89を用いることで、遠隔地から病院の医師へ情報を送り、医師の診療を受けるというような遠隔医療支援システムを実現することもできる。
【0218】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0219】
【実施例1】
本実施例では、本発明の一態様である下地膜およびキャップ層を有する二次電池と、比較例として下地膜またはキャップ層を有さない二次電池を作製し、充放電特性およびサイクル特性を評価した。
【0220】
<二次電池の作製>
本発明の一態様であるサンプル1を以下のように作製した。まず基板および正極集電体層を兼ねるものとしてチタンシートを用いた。チタンシートは、圧延箔で、厚さ0.1mm、純度99.5%、エッチング加工、非鏡面のものを12mmφに加工して用いた。
【0221】
チタンシート上に、下地膜として窒化チタン(TiN)を20nmスパッタ法により成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:チタンターゲット、直径100mm
スパッタ電源、出力:DC電源、500W
雰囲気:アルゴン流量12.0sccm、窒素流量28sccm、圧力0.4Pa
成膜時間:8分
成膜温度:600℃に設定
成膜レート:2.5nm/分
【0222】
次に、正極活物質層としてコバルト酸リチウム(LiCoO)をスパッタ法により1000nm成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:コバルト酸リチウムターゲット、直径100mm
スパッタ電源、出力:RF電源、500W
雰囲気:アルゴン流量40sccm、酸素流量10sccm、圧力0.4Pa
成膜時間:461分
成膜温度:600℃に設定
成膜レート:2.2nm/分
【0223】
次に、キャップ層として酸化チタン(TiO)をスパッタ法により約20nm成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:チタンターゲット、直径100mm
スパッタ電源、出力:DC電源、500W
雰囲気:アルゴン流量24sccm、酸素流量16sccm、圧力0.4Pa
成膜時間:27.7分
成膜温度:600℃に設定(実際の基板温度は400℃程度)
成膜レート:0.72nm/分
【0224】
また下地膜を有さないサンプル2、および下地膜として酸化チタン(TiO)を成膜したサンプル3を作製した。これらは下地膜の他は、サンプル1と同様に作製した。
【0225】
さらに比較例として、キャップ層を有さないサンプル4乃至サンプル6を作製した。これらはキャップ層を成膜しなかった他は、サンプル1乃至3と同様に作製した。
【0226】
各サンプルの作製条件を表2に示す。
【0227】
【表2】
【0228】
<電池セルの作製>
次に、各サンプルを正極として用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の電池セルを作製した。
【0229】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0230】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、で混合されたものを用いた。なお、充放電効率の評価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加した。
【0231】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0232】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0233】
<充放電効率の測定>
初期特性の測定は、充電をCCCV、0.2C、4.2V、カットオフ電流0.1Cで行った。放電をCC、0.2C、カットオフ電圧2.5Vで行った。なおここでの1Cは正極活物質重量あたりの電流値で137mA/gとした。測定温度は25℃とした。初期特性を測定した結果を表3及び図22Aおよび図22Bに示す。図22Aはサンプル1乃至サンプル3、図22Bはサンプル4乃至サンプル6のグラフである。
【0234】
【表3】
【0235】
表3、図22Aおよび図22Bより、いずれのサンプルも良好な充放電特性を示すことが分かった。
【0236】
<充放電サイクル特性>
次に、これらの電池セルについて充放電サイクル特性を評価した。サイクル特性の測定における充放電は初期特性の測定と同様に行った。サイクル特性の結果を図23Aおよび図23Bに示す。図23Aはサンプル1乃至サンプル3、図23Bはサンプル4乃至サンプル6のグラフである。
【0237】
図23Aおよび図23Bより、キャップ層を有するサンプル1乃至サンプル3は、キャップ層を有さないサンプル4乃至サンプル6よりも大幅に良好なサイクル特性を示した。下地膜として窒化チタンを有するサンプル1は最も良好な特性を示し、25サイクル経過後の放電容量は115mAh/g、放電容量維持率は93%であった。下地膜として酸化チタンを有するサンプル3はサンプル1に次ぐ特性を示し、25サイクル経過後の放電容量は113mAh/g、放電容量維持率は93%であった。下地膜を有さないサンプル2は、25サイクル経過後の放電容量は111mAh/g、放電容量維持率は92%であった。
【0238】
よって、キャップ層を設けることで、充放電サイクル特性の良好な二次電池を作製できることが明らかとなった。また下地膜がない場合より、下地膜を有する場合の方が、充放電サイクル特性が良好であり、特に窒化チタンが好ましいことが明らかとなった。
【実施例2】
【0239】
本実施例では、本発明の一態様であるキャップ層を有する二次電池と、比較例としてキャップ層を有さない二次電池を作製し、TEM、電子エネルギー損失分光法(EELS)、極微電子線回折、インピーダンス測定等で特徴を分析し、サイクル特性を評価した。
【0240】
<二次電池の作製>
本発明の一態様であるサンプル11を以下のように作製した。まず基板および正極集電体層を兼ねるものとして100μmのチタンシートを用いた。
【0241】
チタンシート上に、下地膜として窒化チタン(TiN)を20nmスパッタ法により成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:チタンターゲット、直径2インチ
スパッタ電源、出力:RF電源、100W
雰囲気:アルゴン流量3.0sccm、窒素流量7sccm、圧力0.5Pa
成膜時間:15分
成膜温度:600℃に設定
ターゲット-基板距離:75mm
【0242】
次に、正極活物質層としてコバルト酸リチウム(LiCoO)をスパッタ法により900nm成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:コバルト酸リチウムターゲット、直径2インチ
スパッタ電源、出力:RF電源、200W
雰囲気:アルゴン流量10sccm、圧力0.5Pa
成膜時間:109分
成膜温度:600℃に設定
ターゲット-基板距離:75mm
成膜レート:9.2nm/分
【0243】
次に、キャップ層として酸化チタン(TiO)をスパッタ法により20nm成膜した。スパッタ条件は下記の通りとした。
ターゲット:チタンターゲット、直径100mm
スパッタ電源、出力:DC電源、500W
雰囲気:アルゴン流量24sccm、酸素流量16sccm、圧力0.4Pa
成膜時間:27.7分
成膜温度:600℃に設定(実際の基板温度は400℃程度)
成膜レート:0.72nm/分
【0244】
また比較例としてキャップ層を有さないサンプル12を作製した。サンプル12はキャップ層の他はサンプル11と同様に作製した。
【0245】
各サンプルの作製条件を表4に示す。
【0246】
【表4】
【0247】
<TEM>
TEM像の撮影条件は下記の通りとした。
試料前処理:FIB法(μ-サンプリング法)による薄片化
透過電子顕微鏡:日本電子製 JEM-ARM200F
観察条件 加速電圧:200kV
倍率精度:±3%
【0248】
図24に充放電前のサンプル11の断面TEM像を示す。表層部に酸化チタンのキャップ層1102が観察された。図27に充放電後のサンプル11の断面TEM像を示す。表層部に酸化チタンのキャップ層1102が観察された。図30に充放電後のサンプル12の断面TEM像を示す。いずれのサンプルも、コバルト酸リチウムの正極活物質層1101が多結晶であり、結晶子が縦に長い柱状である様子が観察された。
【0249】
<EELS>
次に充放電後のサンプルについて、EELSを用いてコバルトの電子状態を分析し、非特許文献1を参照してL/L比から価数を算出した。EELSの測定条件は下記の通りとした。
元素分析(点分析)
走査透過電子顕微鏡:日本電子製 JEM-ARM200F
加速電圧:200kV
ビーム径:約0.1nmφ
元素分析装置:Gatan製Quantum ER
電子分光器:MOSディテクターアレイ
取込時間:30秒
【0250】
充放電後のサンプル11のEELS分析箇所を図28A中の*1および*2、図28B中の*3、*4および*5で示す。*1および*2はコバルト酸リチウム層の最表面から基板に向かって100nm程度の深さである。*3乃至*5は同じく30nm程度の深さである。いずれの分析箇所も粒界およびその付近であるが、*2、*4および*5は、*1および*3よりも結晶粒の内部である。なお図28Bは、図27中に白線で囲ったphoto.3-14部分の拡大像である。
【0251】
サンプル11の*1乃至*5に示した箇所のEELSスペクトルを図29に示す。Co-Ledgeよりも低結合エネルギー側から算出されるバックグラウンドを差し引いたEELスペクトラム(Background subtracted EEL spectrum)と、Co-LedgeとCo-Ledge間のエネルギー帯から算出されるバックグラウンドをさらに差し引いた、コバルトのL準位とL準位連続体のスペクトル(Co-L continuum subtracted spectrum)を図中に示す。なおBackground subtracted EEL spectrumは、元のデータからべき乗則(power law)のモデルにてフィッティングしてバックグラウンドを差し引いた。またCo-L continuum subtracted spectrumは、上記べき乗則フィッティングでバックグラウンド除去したデータからさらに、コバルトの散乱断面積のモデル(Hartree-slatercross sectionモデル)をバックグラウンド関数として用いて差し引いて求めた。またL/Lの面積強度比と、算出したコバルトの価数を表5に示す。
【0252】
【表5】
【0253】
図31Aおよび図31Bは充放電後のサンプル12の断面TEM像である。EELS分析箇所を図31A中の*1および*2、図18B中の*3、*4および*5で示す。いずれの分析箇所も粒界およびその付近であるが、*2、*4および*5は、*1および*3よりも結晶粒の内部である。なお図31Bは、図30中に白線で囲ったphoto.2-16部分の拡大像である。
【0254】
充放電後のサンプル12の*1乃至*5箇所のEELSスペクトルを同様に図32に示す。L/Lの面積強度比と、算出したコバルトの価数を表6に示す。
【0255】
【表6】
【0256】
表5および表6より、キャップ層のあるサンプル11の方が、結晶粒の内部のコバルトの還元が抑制されている傾向が明らかとなった。そのためキャップ層を設けることで層状岩塩型の結晶構造の劣化を抑制できることが示唆された。
【0257】
<極微電子線回折>
次に極微電子線回折を用いてコバルト酸リチウムの粒界およびその付近の結晶構造を分析した。
【0258】
図25Aは充放電前のサンプル11の断面TEM像である。極微電子線回折の分析箇所を、図25A中の*point1-1、*point1-2、*point1-3で示す。なお図25Aは、図24中に黒線で囲ったphoto.1-7部分の拡大像である。
【0259】
図25Bに*point1-1部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point1-1部分について解析したところ、1の面間隔が0.137nm、2の面間隔が0.143nm、3の面間隔が0.464nmと算出された。また面角度は∠1O2=17°、∠1O3=107°、∠2O3=90°であった。このとき、電子線入射方向は[120]であり、面間隔と面角度から、1は層状岩塩型結晶の-213であり、2は同様に-210であり、3は同様に00-3であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から*point1-1部分の格子定数を算出すると、a=2.86(Å)、c=13.9(Å)であった。
【0260】
図26Aに、*point1-2部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point1-2部分について解析したところ、1の面間隔が0.137nm、2の面間隔が0.143nm、3の面間隔が0.464nmと算出された。また面角度は∠1O2=17°、∠1O3=107°、∠2O3=90°であった。このとき電子線入射方向は[120]であり、面間隔と面角度から、1は層状岩塩型結晶の-213であり、2は同様に-210であり、3は同様に00-3であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から*point1-2部分の格子定数を算出すると、a=2.86(Å)、c=13.9(Å)であった。
【0261】
図26Bに、*point1-3部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point1-3部分について解析したところ、1の面間隔が0.146nm、2の面間隔が0.139nm、3の面間隔が0.463nmと算出された。また面角度は∠1O2=17°、∠1O3=90°、∠2O3=72°であった。このとき電子線入射方向は[120]であり、面間隔と面角度から、1は層状岩塩型結晶の-210であり、2は同様に-21-3であり、3は同様に00-3あり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から*point1-3部分の格子定数を算出すると、a=2.92(Å)、c=13.9(Å)であった。
【0262】
図33Aは充放電後のサンプル11の断面TEM像である。極微電子線回折の分析箇所を、図33A中の*point3-1、*point3-2、*point3-3で示す。
【0263】
図33Bに*point3-1部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point3-1部分について解析したところ、1の面間隔が0.227nm、2の面間隔が0.183nm、3の面間隔が0.475nmと算出された。また面角度は∠1O2=21°、∠1O3=71°、∠2O3=50°であった。このとき電子線入射方向は[0-10]であり、面間隔と面角度から、1は層状岩塩型結晶の10-2であり、2は同様に10-5であり、3は同様に00-3であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から*point3-1部分の格子定数を算出すると、a=2.76(Å)、c=14.2(Å)であった。
【0264】
図34Aに*point3-2部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point3-2部分について解析したところ、1の面間隔が0.226nm、2の面間隔が0.181nm、3の面間隔が0.468nmと算出された。また面角度は∠1O2=22°、∠1O3=71°、∠2O3=49°であった。このとき電子線入射方向は[0-10]であり、1は層状岩塩型結晶の-102であり、2は同様に-105であり、3は同様に003であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から*point3-2部分の格子定数を算出すると、a=2.74(Å)、c=14.1(Å)であった。
【0265】
図34Bに*point3-3部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1とし、図中に示した。*point3-3部分を解析したところ、1の面間隔が0.470nmと算出された。このとき電子線入射方向は[003]であり、1は層状岩塩型結晶の003であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。このd値から、*point3-3部分の格子定数を算出すると、c=14.0(Å)であった。a軸は該当のd値が無いため算出しなかった。
【0266】
図35Aは充放電後のサンプル12の断面TEM像である。極微電子線回折の分析箇所を、図35A中の*point2-1、*point2-2、*point2-3で示す。
【0267】
図35Bに*point2-1部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point2-1部分について解析したところ、1の面間隔が0.125nm、2の面間隔が0.115nm、3の面間隔が0.234nmと算出された。また面角度は∠1O2=29°、∠1O3=96°、∠2O3=66°であった。このとき電子線入射方向は[010]であり、1は層状岩塩型結晶の20-1であり、2は同様に205であり、3は同様に006であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から、*point2-1部分の格子定数を算出すると、a=2.91(Å)、c=14.1(Å)であった。
【0268】
図36Aに*point2-2部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1、2、3とし、図中に示した。*point2-2部分について解析したところ、1の面間隔が0.126nm、2の面間隔が0.115nm、3の面間隔が0.234nmと算出された。また面角度は∠1O2=29°、∠1O3=95°、∠2O3=66°であった。このとき電子線入射方向は[010]であり、1は層状岩塩型結晶の20-1であり、2は同様に205であり、3は同様に006であり層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。これらのd値から、*point2-2部分の格子定数を算出すると、a=2.91(Å)、c=14.1(Å)であった。
【0269】
図36Bに*point2-3部分の極微電子線回折像を示す。透過光をO、回折スポットの一部を1とし、図中に示した。*point2-3部分について解析したところ、1の面間隔が0.474nmと算出された。このとき電子線入射方向は[003]であり、1は層状岩塩型結晶の003であり、層状岩塩型の結晶構造を有すると考えられた。このd値から、*point2-3部分の格子定数を算出すると、c=14.21(Å)であった。a軸は該当のd値が無いため算出しなかった。
【0270】
上記のように、充放電後のキャップ層のないサンプル11の格子定数は、充放電前のコバルト酸リチウムの格子定数よりも大きくなる傾向があった。これはコバルトの還元が起きたためと推測される。
【0271】
一方、キャップ層を有するサンプル12では充放電後でも平均的にa軸が小さい傾向があった。これはコバルトの価数が大きく、コバルトの還元が抑制されていることを示している。
【0272】
<充放電サイクル>
次にサンプル11およびサンプル12を用いた二次電池を作製し、充放電サイクル特性を評価した。
【0273】
サンプル11およびサンプル12を正極、リチウム金属を対極として、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の電池セルを作製した。
【0274】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合したものに、添加材としてビニレンカーボネート(VC)を2wt%加えたものを用いた。
【0275】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0276】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0277】
サイクル試験は以下の条件で行った。充電電圧は4.2Vとした。測定温度は25℃とした。充電はCC/CV(0.2C,0.1Ccut)、放電はCC(0.1C,2.5Vcut)とし、次の充電の前に10分休止時間を設けた。なお本実施例等において1Cは137mA/gとした。
【0278】
図37に充放電サイクル試験の結果を示す。キャップ層のないサンプル12と比較して、キャップ層を有するサンプル11の正極は極めて良好な充放電サイクル特性を示した。
【0279】
<インピーダンス>
上記充放電サイクル試験中に、二次電池のインピーダンスを測定した。
【0280】
本実施例では、本発明の一態様の二次電池で生じる電気化学的現象を、図38Aのような等価回路に置き換えて解析する。
【0281】
ここでRsは電極の電気抵抗および電解液の抵抗である。ここで電極の電気抵抗とは、コインセルに含まれる単純な電気抵抗を全て含むこととする。また電解液の抵抗とは、溶液中のイオン拡散抵抗をいう。
【0282】
R1はRfまたはRsurfaceと表記される場合があり、二次電池のインピーダンスの高周波成分である。R1には正極と電解液界面でのリチウムイオン拡散の抵抗が含まれる。
【0283】
CPE1(constant phase element,電気二重層容量)は多孔質な電極での挙動を再現する容量である。
【0284】
R2はRctと表記される場合があり、低周波成分である。R2にはLiイオンが正極活物質層(本実施例ではLiCoO)に脱挿入する過程(charge transfer)の抵抗が含まれる。
【0285】
Ws1は固体中でのリチウム拡散に伴う抵抗である。
【0286】
インピーダンスは典型的には図38Bに示すようなグラフとなる。図中に、各成分が影響する範囲を示した。
【0287】
サンプル11のインピーダンスを図39に、サンプル12のインピーダンスを図40に示す。それぞれ2サイクル目と50サイクル目のグラフを示す。測定装置はソーラトロン社製 CELLTEST マルチチャンネル電気化学測定システムを使用し、交流電圧10mVを、0.001Hzから1MHzまで掃引した。測定温度は25℃とした。インピーダンス測定前に0.2Cで4.2Vまで充電を行い、2時間放置した。この時のOCVはそれぞれ、サンプル11の2サイクル後は4.1308V、50サイクル後は4.0607Vであった。サンプル12の2サイクル後は4.1162V、50サイクル後は4.0005Vであった。
【0288】
図40に示すように、サンプル12では2サイクル目と50サイクル目のインピーダンスを比較するとR1(高周波成分)が特に増加している。そのためリチウムの拡散経路、たとえば正極活物質層と電解液の界面、および一部の結晶粒界等で劣化が生じ、これが図37に示すような充放電サイクル特性の悪化の原因であることが推測される。
【0289】
一方、図39に示すようにサンプル11では2サイクル目と50サイクル目のインピーダンスを比較したときのR1の増加は比較的小さい。そのためキャップ層の効果で被膜の生成を抑制できていることが推測される。またR2(低周波成分)が大きく増加している。そのためLiCoOの結晶構造に劣化が生じていることが推測される。
【符号の説明】
【0290】
100:正極、101:正極活物質層、102:キャップ層、103:正極集電体、104:下地膜、110:基板、111:基板、200:二次電池、201:二次電池、202:二次電池、203:固体電解質層、204:負極活物質層、205:負極集電体、206:保護層、209:キャップ層、210:負極、211:負極、212:負極、213:固体電解質層、214:下地膜、215:正極集電体、220:セパレータ、221:電解液、222:外装体、223a:リード電極、223b:リード電極、230:二次電池、231:二次電池
図1A
図1B
図1C
図2A-B】
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図15D
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図19C
図19D
図20A
図20B
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図23A
図23B
図24
図25A
図25B
図26A
図26B
図27
図28A
図28B
図29
図30
図31A
図31B
図32
図33A
図33B
図34A
図34B
図35A
図35B
図36A
図36B
図37
図38A
図38B
図39
図40