(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】キルン
(51)【国際特許分類】
F27B 7/20 20060101AFI20250220BHJP
F27B 1/10 20060101ALI20250220BHJP
F27B 5/06 20060101ALI20250220BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20250220BHJP
F27B 9/24 20060101ALI20250220BHJP
F27B 9/26 20060101ALI20250220BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250220BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250220BHJP
【FI】
F27B7/20
F27B1/10
F27B5/06
F27B9/04
F27B9/24 R
F27B9/26
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2021563438
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 IB2020061298
(87)【国際公開番号】W WO2021116819
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019223081
(32)【優先日】2019-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-228381(JP,A)
【文献】特開2014-210710(JP,A)
【文献】特開平11-307098(JP,A)
【文献】特開2012-48968(JP,A)
【文献】特開平10-87332(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103522(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/132071(WO,A1)
【文献】特開2013-167423(JP,A)
【文献】特開2016-38116(JP,A)
【文献】特開2005-273926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 7/20
F27B 1/10
F27B 5/06
F27B 9/04
F27B 9/24
F27B 9/26
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入された被処理物を連続的に処理するロータリーキルンであって、
前記ロータリーキルンは、キルン本体と、ミルと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、第1の原料供給手段と、第2の原料供給手段と、雰囲気制御手段と、を有し、
前記キルン本体は略円筒状であり、回転することで前記被処理物を攪拌する機能を有し、
前記キルン本体は上流部分と、下流部分と、を有し、前記被処理物を前記上流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、前記下流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、
前記ミルは前記被処理物の固着を抑制する機能を有し、
前記第1の加熱手段は前記キルン本体の前記上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、
前記第2の加熱手段は前記キルン本体の前記下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、
前記第1の原料供給手段は前記キルン本体の前記上流部分に前記被処理物を供給する機能を有し、
前記第2の原料供給手段は前記キルン本体の前記下流部分に追加原料を供給する機能を有し、
前記雰囲気制御手段は前記キルン本体の内部に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入ラインである、ロータリーキルン。
【請求項2】
投入された被処理物を連続的に処理するキルンであって、
前記キルンは、キルン本体と、第1のミルと、第2のミルと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、原料供給手段と、を有し、
前記キルン本体は略円筒状であり、内部に掻揚羽根を有し、
前記掻揚羽根は前記被処理物を攪拌する機能を有し、
前記キルン本体は上流部分と、下流部分と、を有し、前記被処理物を前記上流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、前記下流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、
前記第1のミルおよび前記第2のミルは前記上流部分と前記下流部分の間に設けられ、前記被処理物の固着を抑制する機能を有し、
前記第1の加熱手段は前記キルン本体の前記上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、
前記第2の加熱手段は前記キルン本体の前記下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、
前記原料供給手段は前記キルン本体の前記上流部分に前記被処理物を供給する機能を有する、キルン。
【請求項3】
容器に入った被処理物を連続的に処理するローラーハースキルンであって、
前記ローラーハースキルンは、トンネル状のキルン本体と、複数のローラーと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、雰囲気制御手段と、固着抑制手段と、を有し、
前記複数のローラーは、前記容器を搬送する機能を有し、
前記キルン本体は、前記複数のローラーの搬送方向に沿って、上流部分と、下流部分と、を有し、
前記第1の加熱手段は、前記上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、
前記第2の加熱手段は、前記下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、
前記雰囲気制御手段は前記キルン本体の内部に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入ラインであり、
前記固着抑制手段は、前記容器を振動させる機能を有する、ローラーハースキルン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器またはそれらの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
需要の拡大に伴い、リチウムイオン電池およびその材料の生産性の向上が求められている。その一環としてリチウムイオン電池の材料の一つである正極活物質を効率よく作製する方法の開発が進められている。例えば特許文献1には、連続処理が可能なロータリーキルンを用いた正極活物質の作製方法が開示されている。
【0005】
また、正極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献1乃至非特許文献3)。
【0006】
X線回折(XRD)は、正極活物質の結晶構造の解析に用いられる手法の一つである。非特許文献4に紹介されているICSD(Inorganic Crystal Structure Database)を用いることにより、XRDデータの解析を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第WO2012/098724号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】Toyoki Okumura et al,”Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”,Journal of Materials Chemistry,2012,22,p.17340-17348
【文献】Motohashi,T.et al,”Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO▲2▼(0.0≦x≦1.0)”,Physical Review B,80(16),2009,165114
【文献】Zhaohui Chen et al,“Staging Phase Transitions in LixCoO▲2▼”,Journal of The Electrochemical Society,2002,149(12)A1604-A1609
【文献】Belsky,A.et al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD):accessibility in support of materials research and design”,Acta Cryst.,2002,B58 364-369.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
正極活物質はリチウムイオン二次電池の中でもコストの高い材料であり、生産性向上の効果が高い。同時に高性能化(たとえば高容量化、サイクル特性の改善、信頼性または安全性の向上)の要求も高い。
【0010】
そこで本発明の一態様は、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、生産性よく正極活物質を作製することのできる製造装置を提供することを課題の一とする。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクル特性に優れた正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、充放電容量が大きい正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、信頼性または安全性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0011】
また本発明の一態様は、正極活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0012】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、リチウムと、遷移金属と、酸素およびフッ素を有する正極活物質の作製方法であって、被処理物の加熱中に固着抑制工程を有する、正極活物質の作製方法である。
【0014】
上記において、固着抑制工程は、加熱中に炉を回転させることによる攪拌であることが好ましい。または加熱中に被処理物の入った容器を振動させることによる攪拌であることが好ましい。
【0015】
また本発明の別の一態様は、リチウムと、遷移金属と、酸素およびフッ素を有する正極活物質の作製方法であって、複数の加熱工程の間に、固着抑制工程を有する、正極活物質の作製方法である。
【0016】
上記において、固着抑制工程は、加熱中に被処理物の入った容器を振動させることによる攪拌と、複数の加熱工程の間に行われる解砕の、少なくとも一であることが好ましい。
【0017】
上記において、炉に被処理物と共にセラミックボールを投入することが好ましい。
【0018】
また本発明の別の一態様は、投入された被処理物を連続的に処理するロータリーキルンであって、ロータリーキルンは、キルン本体と、ミルと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、第1の原料供給手段と、第2の原料供給手段と、雰囲気制御手段と、を有し、キルン本体は略円筒状であり、回転することで被処理物を攪拌する機能を有し、キルン本体は上流部分と、下流部分と、を有し、被処理物を上流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、下流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、ミルは被処理物の固着を抑制する機能を有し、第1の加熱手段はキルン本体の上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、第2の加熱手段はキルン本体の下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、第1の原料供給手段はキルン本体の上流部分に被処理物を供給する機能を有し、第2の原料供給手段はキルン本体の下流部分に追加原料を供給する機能を有し、雰囲気制御手段はキルン本体の内部に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入ラインである、ロータリーキルンである。
【0019】
また本発明の別の一態様は、投入された被処理物を連続的に処理するキルンであって、キルンは、キルン本体と、第1のミルと、第2のミルと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、原料供給手段と、を有し、キルン本体は略円筒状であり、内部に掻揚羽根を有し、掻揚羽根は被処理物を攪拌する機能を有し、キルン本体は上流部分と、下流部分と、を有し、被処理物を上流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、下流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有し、第1のミルおよび第2のミルは上流部分と下流部分の間に設けられ、被処理物の固着を抑制する機能を有し、第1の加熱手段はキルン本体の上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、第2の加熱手段はキルン本体の下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、原料供給手段はキルン本体の上流部分に被処理物を供給する機能を有する、キルンである。
【0020】
また本発明の別の一態様は、容器に入った被処理物を連続的に処理するローラーハースキルンであって、ローラーハースキルンは、トンネル状のキルン本体と、複数のローラーと、第1の加熱手段と、第2の加熱手段と、雰囲気制御手段と、固着抑制手段と、を有し、複数のローラーは、容器を搬送する機能を有し、キルン本体は、複数のローラーの搬送方向に沿って、上流部分と、下流部分と、を有し、第1の加熱手段は、上流部分を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、第2の加熱手段は、下流部分を500℃以上1130℃以下に加熱する機能を有し、雰囲気制御手段はキルン本体の内部に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入ラインであり、固着抑制手段は、容器を振動させる機能を有する、ローラーハースキルンである。
【0021】
また本発明の別の一態様は、容器に入った被処理物をバッチ処理する加熱炉であって、加熱炉は、加熱手段と、加熱炉内空間と、雰囲気制御手段と、固着抑制手段と、を有し、加熱手段は加熱炉内空間を800℃以上1100℃以下に加熱する機能を有し、雰囲気制御手段は加熱炉内空間に酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入ラインであり、固着抑制手段は容器を振動させる機能を有する、加熱炉である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様により、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することができる。または、生産性よく正極活物質を作製することのできる製造装置を提供することができる。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質の作製方法を提供することができる。または、充放電サイクル特性に優れた正極活物質の作製方法を提供することができる。または、充放電容量が大きい正極活物質の作製方法を提供することができる。または、信頼性または安全性の高い二次電池を提供することができる。
【0023】
また本発明の一態様により、正極活物質、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【0024】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
また、本明細書等において結晶面および方向の表記にはミラー指数を用いる。結晶面を示す個別面は( )で表す。結晶面、方向および空間群の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。
【0028】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0029】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0030】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。たとえばLiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は274mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0031】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深度を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1ということとする。
【0032】
また本明細書等において、本発明の一態様の正極および正極活物質を用いた二次電池として、対極にリチウム金属を用いる例を示す場合があるが、本発明の一態様の二次電池はこれに限らない。負極に他の材料、例えば黒鉛、チタン酸リチウム等を用いてもよい。本発明の一態様の正極および正極活物質の、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくく、良好なサイクル特性を得られる等の性質は、負極の材料に影響されない。また本発明の一態様の二次電池について、対極リチウムで充電電圧4.6Vといった比較的高い電圧で充放電する例を示す場合があるが、より低い電圧で充放電をしてもよい。より低い電圧で充放電する場合は本明細書等で示すよりもさらにサイクル特性がよくなることが見込まれる。
【0033】
また本明細書等において、加熱を経て粒子同士が集まって固まることを固着するということとする。この粒子同士の結合はイオン結合またはファンデルワールス力によると推定されるが、加熱の温度、結晶の状態、元素の分布状態等を問わず、単に粒子同士が集まって固まっていれば固着ということとする。
【0034】
また本明細書等においてキルンとは、被処理物を加熱する装置をいう。たとえばキルンに代えて炉、窯、加熱装置等といってもよい。
【0035】
(実施の形態1)
本実施の形態では、
図1乃至
図4を用いて本発明の一態様の正極活物質の作製方法の例について説明する。本実施の形態で説明する作製方法は、作製する正極活物質の量が多い場合、たとえば10g以上のときに特に効果が大きい。
【0036】
<ステップS11>
図1のステップS11として、まずリチウム、遷移金属Mおよび酸素を有する複合酸化物(LiMO
2)の材料として、リチウム源および遷移金属M源を用意する。
【0037】
リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム等を用いることができる。
【0038】
遷移金属Mとしてはリチウムとともに空間群R-3mに属する層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち少なくとも一を用いることができる。つまり遷移金属M源としてコバルトのみを用いてもよいし、ニッケルのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種、またはコバルトとニッケルの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。
【0039】
層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる金属を用いる場合、層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲のコバルト、マンガン、ニッケルの混合比とすることが好ましい。また、層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲で、これらの遷移金属にアルミニウムを加えてもよい。
【0040】
遷移金属M源としては、遷移金属Mとして例示した上記金属の酸化物、水酸化物等を用いることができる。コバルト源としては、例えば酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。マンガン源としては、酸化マンガン、水酸化マンガン等を用いることができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、等を用いることができる。
【0041】
<ステップS12>
次にステップS12として、上記のリチウム源および遷移金属M源を解砕および混合する。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0042】
<ステップS13>
次にステップS13として、上記で混合した材料を加熱する。本工程は、後の加熱工程との区別のために、焼成または第1の加熱という場合がある。加熱は800℃以上1100℃未満で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、リチウム源および遷移金属M源の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、酸化還元反応を担う遷移金属Mが過剰に還元される、リチウムが蒸散するなどの原因で欠陥が生じるおそれがある。例えば遷移金属Mとしてコバルトを用いた場合、コバルトが2価となる欠陥が生じうる。
【0043】
加熱時間はたとえば1時間以上100時間以下とすることができ、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。加熱時間は短い方が、生産性がよく好ましい。しかし加熱時間が長すぎると、リチウム源および遷移金属M源の分解および溶融が不十分となるおそれがある。焼成は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気(例えば露点-50℃以下、より好ましくは-100℃以下)で行うことが好ましい。例えば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材料を室温まで冷却することができる。例えば規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0044】
ただし、ステップS13における室温までの冷却は必須ではない。その後のステップS41乃至ステップS44の工程を行うのに問題がなければ、冷却は室温より高い温度までとしてもよい。
【0045】
<ステップS14>
次にステップS14として、上記で焼成した材料を回収し、リチウム、遷移金属Mおよび酸素を有する複合酸化物(LiMO2)を得る。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、コバルトの一部がニッケルで置換されたコバルト酸リチウム、またはニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムなどを得る。
【0046】
また、ステップS14としてあらかじめ合成されたリチウム、遷移金属Mおよび酸素を有する複合酸化物を用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。
【0047】
例えば、あらかじめ合成された複合酸化物として、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム(商品名:セルシードC-10N)を用いることができる。これはメディアン径(D50)が約12μmであり、グロー放電質量分析法(GD-MS)による不純物分析において、マグネシウム濃度およびフッ素濃度が50ppm wt以下、カルシウム濃度、アルミニウム濃度およびシリコン濃度が100ppm wt以下、ニッケル濃度が150ppm wt以下、硫黄濃度が500ppm wt以下、ヒ素濃度が1100ppm wt以下、その他のリチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度が150ppm wt以下である、コバルト酸リチウムである。
【0048】
または、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム(商品名:セルシードC-5H)を用いることもできる。これはメディアン径(D50)が約6.5μmであり、GD-MSによる不純物分析において、リチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度がC-10Nと同程度かそれ以下である、コバルト酸リチウムである。
【0049】
本実施の形態では、金属Mとしてコバルトを用い、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製セルシードC-10N)を用いることとする。
【0050】
<ステップS21>
次にステップS21として、混合物902の材料として、フッ素源およびマグネシウム源を用意する。またリチウム源も用意することが好ましい。
【0051】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化チタン(TiF4)、フッ化コバルト(CoF2、CoF3)、フッ化ニッケル(NiF2)、フッ化ジルコニウム(ZrF4)、フッ化バナジウム(VF5)、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化セリウム(CeF2)、フッ化ランタン(LaF3)、六フッ化アルミニウムナトリウム(Na3AlF6)等を用いることができる。またフッ素源は固体に限られず、たとえばフッ素(F2)、フッ化炭素、フッ化硫黄、フッ化酸素(OF2、O2F2、O3F2、O4F2、O2F)等を用い、後述する加熱工程において雰囲気中に混合してもよい。また複数のフッ素源を混合して用いてもよい。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい。
【0052】
塩素源としては、例えば塩化リチウム、塩化マグネシウム等を用いることができる。
【0053】
マグネシウム源としては、例えばフッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を用いることができる。
【0054】
リチウム源としては、例えばフッ化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム等を用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができる。またフッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。
【0055】
本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウムLiFを用意し、フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF2を用意することとする。フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2は、LiF:MgF2=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2のモル比は、LiF:MgF2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF2=x:1(x=0.33近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0056】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う場合は、溶媒を用意する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、アセトンを用いることとする。
【0057】
<ステップS22>
次に、ステップS22において、上記の混合物902の材料を混合および粉砕する。混合は乾式または湿式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この混合および粉砕工程を十分に行い、混合物902を微粉化することが好ましい。
【0058】
<ステップS23>
次に、ステップS23において、上記で混合、粉砕した材料を回収し、混合物902を得る。
【0059】
混合物902は、例えばD50(メディアン径)が600nm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように微粉化された混合物902であれば、後の工程でリチウム、遷移金属Mおよび酸素を有する複合酸化物と混合したときに、複合酸化物の表面に混合物902を均一に付着させやすい。複合酸化物の表面に混合物902が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物の表面近傍にもれなくフッ素およびマグネシウムを分布させやすいため好ましい。表面近傍にフッ素およびマグネシウムが含まれない領域があると、充電状態において後述するO3’型の結晶構造になりにくいおそれがある。
【0060】
<ステップS41>
次にステップS41において、ステップS14で得られるLiMO2と、混合物902と、を混合する。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物LiMO2中の遷移金属の原子数Mと、混合物902が有するマグネシウムの原子数Mgとの比は、M:Mg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、M:Mg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。
【0061】
ステップS41の混合は、複合酸化物LiMO2の粒子を破壊しないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが一般的に穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0062】
<ステップS42>
次にステップS42において、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。
【0063】
なお、本実施の形態ではフッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの混合物を、不純物の少ないコバルト酸リチウムに添加する方法について説明しているが、本発明の一態様はこれに限らない。ステップS42の混合物903の代わりに、コバルト酸リチウムの出発材料にマグネシウム源およびフッ素源等を添加して焼成したものを用いてもよい。この場合は、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21乃至ステップS23の工程を分ける必要がないため簡便で生産性が高い。
【0064】
または、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いれば、ステップS11乃至ステップS14の工程を省略することができより簡便である。
【0065】
さらに、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムに、さらにマグネシウム源およびフッ素源を添加してもよい。
【0066】
<ステップS43>
次にステップS43において、混合物903を、酸素を含む雰囲気中で加熱する。該加熱は、混合物903の粒子同士が固着しないよう、固着抑制効果のある加熱とすることが好ましい。本工程は先の加熱工程との区別のために、アニール、固着抑制アニールまたは第2の加熱という場合がある。
【0067】
なお本工程は、乾燥雰囲気でなく水を含む雰囲気で行うことが好ましい場合がある。雰囲気中に適度な量の水が存在すると、フッ化マグネシウムをはじめとするフッ化物の加水分解を促進することができる場合がある。そのためたとえば本工程中の雰囲気として大気を用いてもよい。大気を用いると生産性がよく好ましい。また本工程中の雰囲気として大気と酸素ガスを混合して用いてもよい。大気と酸素ガスを混合して用いると、生産性を向上させつつ、酸素分圧を上げることができ好ましい。
【0068】
加熱中に混合物903の粒子同士が固着すると、後述する表面近傍に分布することが好ましい添加物の分布が悪化する可能性がある。またなめらかで凹凸が少ないことが好ましい正極活物質の表面も、粒子同士が固着すると凹凸が増え、ひびやクラック等の欠陥が増える可能性がある。これは混合物903同士が固着することで、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、および添加物が拡散する経路を阻害することよる影響だと考えられる。
【0069】
そのため固着抑制効果のある加熱を行うことで、良好な特性を有する正極活物質を作製することができる。加熱は、連続式およびバッチ式のいずれで行ってもよい。
【0070】
固着抑制効果のある加熱としては、たとえば混合物903を攪拌しながらの加熱、混合物903の入った容器を振動させながらの加熱等をあげることができる。
【0071】
ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができ、固着抑制アニールとして好ましい。連続式は生産性がよく好ましい。バッチ式は雰囲気制御が容易であり好ましい。
【0072】
ローラーハースキルンによって加熱する場合は、加熱中に混合物903の入った容器を振動させることが好ましい。ローラーハースキルンは連続式であるため生産性がよく好ましい。
【0073】
またロータリーキルンの中、または混合物903の入った容器の中に、混合物903と共に攪拌球等を投入することが好ましい。攪拌球の材料としては混合物903と化学反応を起こしにくいもの、または化学反応が起きても悪影響を及ぼさないものが好ましく、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等が好ましい。混合物903と攪拌球が共に攪拌されることで固着抑制効果をさらに強めることができる。攪拌球は後の工程で取り除き易いように、正極活物質100の粒子よりも十分に大きいことが好ましい。ただし攪拌球が大きすぎると、攪拌が十分に行われず、正極活物質の粒径が大きくなる場合がある。そのため攪拌球の直径はたとえば正極活物質100のメディアン径D50の10倍以上100倍以下の直径であると好ましい。
【0074】
ステップS43における加熱温度はLiMO2と混合物902の反応が進む温度以上である必要がある。ここでいう反応が進む温度とは、LiMO2と混合物902の有する元素の相互拡散が起こる温度であればよい。そのためこれらの材料の溶融温度より低くてもよい。例えば、酸化物では溶融温度Tmの0.757倍(タンマン温度Td)から固相拡散が起こる。そのため例えば500℃以上であればよい。
【0075】
ただし混合物903の少なくとも一部が溶融する温度以上であるとより反応が進みやすく好ましい。そのためアニール温度は混合物902の共融点以上であることが好ましい。混合物902がLiF及びMgF2を有する場合、LiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、ステップS43の温度を742℃以上とすると好ましい。
【0076】
また、LiCoO2:LiF:MgF2=100:0.33:1(モル比)となるように混合した混合物903は、示差走査熱量測定(DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、LiMO2がコバルト酸リチウムの場合は、ステップS43の温度を830℃以上とするとより好ましい。
【0077】
アニール温度は高い方が反応が進みやすく、アニール時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0078】
ただしアニールする温度はLiMO2の分解温度(LiCoO2の場合は1130℃)以下である必要がある。また分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがLiMO2の分解が懸念される。そのため、アニール温度としては、1130℃以下であることが好ましく、1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0079】
よって、アニール温度としては、500℃以上1130℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上950℃以下がさらに好ましく、500℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。
【0080】
さらに混合物903を加熱する際、雰囲気中のフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0081】
本実施の形態で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるフッ化リチウムが融剤として機能する。この機能によりアニール温度をLiMO2の分解温度以下、たとえば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表面近傍にマグネシウムをはじめとする添加物をむらなく分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できると考えられる。
【0082】
しかし気体のフッ化リチウムは酸素よりも軽いため、加熱によりフッ化リチウムが揮発すると混合物903中のフッ化リチウムが減少する。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、フッ化リチウムの揮発を抑制しつつ、加熱する必要がある。なおフッ素源等としてフッ化リチウムを用いなかったとしても、LiMO2表面のリチウムとフッ素が反応して、フッ化リチウムが生じ、揮発する可能性もある。そのため、フッ化リチウムより融点が高いフッ化物を用いたとしても、同じように揮発の抑制が必要である。
【0083】
そこで、フッ化リチウムを含む雰囲気で混合物903を加熱すること、すなわち、加熱炉内のフッ化リチウムの分圧が高い状態で混合物903を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物903中のフッ化リチウムの揮発を抑制することができる。
【0084】
ロータリーキルンによって加熱する場合は、キルン内の酸素を含む雰囲気の流量を制御して混合物903を加熱することが好ましい。たとえば酸素を含む雰囲気の流量を少なくする、最初に雰囲気をパージしキルン内に酸素雰囲気を導入した後は雰囲気のフローはしない、等が好ましい。
【0085】
ローラーハースキルンによって加熱する場合は、たとえば混合物903の入った容器に蓋を配することでフッ化リチウムを含む雰囲気で混合物903を加熱することができる。
【0086】
アニールは、適切な時間で行うことが好ましい。適切なアニール時間は、アニール温度、ステップS14のLiMO2の大きさおよび組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0087】
例えばステップS14の粒子のメディアン径(D50)が12μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば3時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0088】
一方、ステップS24の粒子のメディアン径(D50)が5μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、2時間程度がより好ましい。
【0089】
アニール時間は電池特性を損なわない範囲で短い方が、生産性が高く好ましい。
【0090】
アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0091】
<ステップS44>
次にステップS44において上記で固着抑制アニールをした材料を回収し、正極活物質100を作製することができる。このとき、回収された正極活物質100をさらに、ふるいにかけることが好ましい。
【0092】
図1では、ステップS43として固着抑制アニールを行う作製方法について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。
図2および
図4のステップS53乃至ステップS55に示すような方法によっても、被処理物の固着を抑制することができる。なお、
図1と共通する部分が多いため、異なる部分について主に説明する。共通する部分については
図1についての説明を参酌することができる。
【0093】
<ステップS53>
図2および
図4のステップS53において、混合物903を、酸素を含む雰囲気中で加熱する。このとき特に攪拌等は行わなくてもよい。他の条件はステップS43の記載を参酌することができる。混合物903を1回以上加熱したものを複合酸化物ということとする。
【0094】
<ステップS54>
次にステップS54において、上記の複合酸化物について固着抑制操作を行う。複合酸化物の固着抑制操作としては、乳棒で解砕する、ボールミルを用いて混合する、自転交転式ミキサーを用いて混合する、ふるいにかける、複合酸化物の入った容器を振動させる、等があげられる。本工程も、乾燥雰囲気でなく水を含む雰囲気で行うことが好ましい場合がある。雰囲気中に適度な量の水が存在すると、フッ化マグネシウムをはじめとするフッ化物の加水分解を促進することができる場合がある。そのためたとえば本工程中の雰囲気として大気を用いてもよい。大気を用いると生産性がよく好ましい。また本工程中の雰囲気として大気と酸素ガスを混合して用いてもよい。大気と酸素ガスを混合して用いると、生産性を向上させつつ、酸素分圧を上げることができ好ましい。
【0095】
<ステップS55>
次にステップS55において、固着抑制操作後の複合酸化物を、酸素を含む雰囲気中で加熱する。加熱条件はステップS53の記載を参酌することができる。
【0096】
ステップS54およびステップS55は、n回(nは1以上の整数)行うことができる。nは多すぎると生産性が低下し、正極活物質の特性も悪化する恐れがあり好ましくない。そのためたとえばnは1以上3以下が好ましく、2がより好ましい。
【0097】
ステップS53乃至ステップS55のように、複数の加熱工程の間に固着抑制操作を行うことで複合酸化物の固着を抑制することができる。この方法では、加熱中の攪拌等が必要ないため、バッチ式の非回転炉でも固着を抑制することができる。
【0098】
また
図1ではステップS41においてステップS14で得られるLiMO
2と、混合物902と、を混合する作製方法について説明したが、本発明の一態様はこれに限らない。
図3および
図4のステップS31、ステップS32およびステップS41に示すように、さらに他の添加物を混合してもよい。
【0099】
添加物としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、コバルト、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素より選ばれる一以上を用いることができる。
図3および
図4ではステップS31としてニッケル源、ステップS32としてアルミニウム源の2種を添加物として用いる例を示す。
【0100】
これらの添加物は、各元素の酸化物、水酸化物、フッ化物等を微粉化して用いることが好ましい。微粉化は、たとえば湿式で行うことができる。
【0101】
このように、遷移金属Mと添加物を導入する工程を分けることにより、それぞれの元素の深さ方向のプロファイルを変えることができる場合がある。例えば、正極活物質100の内部に比べて表面近傍で添加物の濃度を高めることができる。また、遷移金属Mの原子数を基準とし、該基準に対する添加物元素の原子数の比を、内部よりも表面近傍において、より高くすることができる。
【0102】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0103】
(実施の形態2)
本実施の形態では、
図5乃至
図10を用いて本発明の一態様の正極活物質について説明する。
【0104】
図5Aは本発明の一態様である正極活物質100の上面図である。
図5A中のA-Bにおける断面図を
図5Bに示す。
【0105】
<含有元素と分布>
正極活物質100は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、添加物と、を有する。正極活物質100はLiMO2で表される複合酸化物に添加物が添加されたものといってもよい。
【0106】
正極活物質100が有する遷移金属Mとしては、リチウムとともに空間群R-3mに属する層状岩塩型の複合酸化物を形成しうる金属を用いることが好ましい。たとえばマンガン、コバルト、ニッケルのうち少なくとも一を用いることができる。つまり正極活物質100が有する遷移金属としてコバルトのみを用いてもよいし、ニッケルのみを用いてもよいし、コバルトとマンガンの2種、またはコバルトとニッケルの2種を用いてもよいし、コバルト、マンガン、ニッケルの3種を用いてもよい。つまり正極活物質100は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、コバルトの一部がニッケルで置換されたコバルト酸リチウム、ニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム等の、リチウムと遷移金属Mを含む複合酸化物を有することができる。遷移金属Mとしてコバルトに加えてニッケルを有すると、高電圧での充電状態において結晶構造がより安定になる場合があり好ましい。
【0107】
正極活物質100が有する添加物としては、マグネシウム、フッ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、コバルト、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素のうち少なくとも一を用いることが好ましい。これらの元素が、後述するように正極活物質100が有する結晶構造をより安定化させる場合がある。つまり正極活物質100は、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウム、フッ素およびチタンが添加されたコバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト-アルミニウム酸リチウム、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム、マグネシウムおよびフッ素が添加されたニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム等を有することができる。なお本明細書等において添加物のかわりに混合物、原料の一部、不純物などといってもよい。
【0108】
図5Bに示すように、正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。表層部100aは内部100bよりも添加物の濃度が高いことが好ましい。また
図5Bにグラデーションで示すように、添加物は内部から表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。本明細書等において、表層部100aとは正極活物質100の表面から深さ方向に10nm以下の領域をいう。ひびやクラックにより生じた面も表面といってよい。また正極活物質100の表層部100aより深い領域を、内部100bとする。
【0109】
本発明の一態様の正極活物質100では、充電により正極活物質100からリチウムが抜けても、コバルトと酸素の八面体からなる層状構造が壊れないよう、添加物の濃度の高い表層部100a、すなわち粒子の外周部が補強している。
【0110】
また添加物の濃度勾配は、正極活物質100の表層部100a全体において同じような勾配であることが好ましい。不純物濃度の高さに由来する補強が表層部100aに均質に存在することが好ましいといってもよい。表層部100aの一部に補強があっても、補強のない部分が存在すれば、ない部分に応力が集中する恐れがあり好ましくないためである。粒子の一部に応力が集中すると、そこからクラック等の欠陥が生じ、正極活物質の割れおよび充放電容量の低下につながる恐れがある。
【0111】
マグネシウムは2価であり、層状岩塩型の結晶構造における遷移金属サイトよりもリチウムサイトに存在する方が安定であるため、リチウムサイトに入りやすい。マグネシウムが表層部100aのリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできる。マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムの挿入および離脱に悪影響を及ぼさず好ましい。しかしながら、過剰であるとリチウムの挿入および離脱に悪影響が出る恐れがある。後述するように、表層部100aはたとえばマグネシウムよりも遷移金属Mの濃度が高いことが好ましい。
【0112】
アルミニウムは3価であり酸素との結合力が強い。そのため添加物としてアルミニウムを有すると、リチウムサイトに入ったときに結晶構造の変化が抑制できる。そのため充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質100とすることができる。
【0113】
チタン酸化物は超親水性を有することが知られている。そのため、表層部100aにチタン酸化物を有する正極活物質100とすることで、極性の高い溶媒に対して濡れ性がよくなる可能性がある。二次電池としたときに正極活物質100と、極性の高い電解液との界面の接触が良好となり、抵抗の上昇を抑制できる可能性がある。
【0114】
二次電池の充電電圧の上昇に伴い、正極の電圧は一般的に上昇する。本発明の一態様の正極活物質は、高い電圧においても安定な結晶構造を有する。充電状態において正極活物質の結晶構造が安定であることにより、充放電の繰り返しに伴う容量の低下を抑制することができる。
【0115】
また、二次電池のショートは二次電池の充電動作や放電動作における不具合を引き起こすのみでなく、発熱および発火を招く恐れがある。安全な二次電池を実現するためには、高い充電電圧においてもショート電流が抑制されることが好ましい。本発明の一態様の正極活物質100は、高い充電電圧においてもショート電流が抑制される。そのため高い容量と安全性と、を両立した二次電池とすることができる。
【0116】
本発明の一態様の正極活物質100を用いた二次電池は好ましくは、高い容量、優れた充放電サイクル特性、および安全性を同時に満たす。
【0117】
添加物の濃度勾配は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて評価できる。EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ。また線状に走査しながら測定し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価することを線分析と呼ぶ。さらにEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出したものを線分析と呼ぶ場合もある。またある領域について走査せずに測定することを点分析と呼ぶ。
【0118】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、正極活物質100の表層部100a、内部100bおよび結晶粒界近傍等における、添加物の濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、添加物の濃度分布等を分析することができる。
【0119】
正極活物質100についてEDX線分析をしたとき、表層部100aのマグネシウム濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0120】
なお本明細書等においてEDX分析における正極活物質100の表面とは、コバルト、酸素をはじめとする正極活物質100全体に存在する元素について、内部100bの検出量の平均値を求め、該平均値の50%の値に最も近い測定値を示した測定点を正極活物質100の表面であると推定することとする。またバックグラウンドを差し引いてから平均値を求めることが好ましい。コバルトはバックグラウンドに含まれにくく内部100bの平均値を求めやすい点で、表面の位置の推定に好適である。また正極活物質100は複合酸化物であるため、酸素の検出量を表面の推定に採用することも好適である。
【0121】
また正極活物質100が有するフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。そのためEDX線分析をしたとき、表層部100aのフッ素濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0122】
なお、全ての添加物が同様の濃度分布でなくてもよい。たとえば正極活物質100が添加物としてアルミニウムを有する場合はマグネシウムおよびフッ素と若干異なる分布となっていることが好ましい。たとえばEDX線分析をしたとき、表層部100aのアルミニウム濃度のピークよりも、マグネシウム濃度のピークが表面に近いことが好ましい。例えばアルミニウム濃度のピークは正極活物質100の表面から中心に向かった深さ0.5nm以上20nm以下に存在することが好ましく、深さ1nm以上5nm以下に存在することがより好ましい。
【0123】
また正極活物質100について線分析または面分析をしたとき、表層部100aにおける不純物Iと遷移金属Mの原子数の比(I/M)は0.05以上1.00以下が好ましい。さらに不純物がチタンである場合、チタンと遷移金属Mの原子数の比(Ti/M)は0.05以上0.4以下が好ましく、0.1以上0.3以下がより好ましい。また不純物がマグネシウムである場合、マグネシウムと遷移金属Mの原子数の比(Mg/M)は0.4以上1.5以下が好ましく、0.45以上1.00以下がより好ましい。また不純物がフッ素である場合、フッ素と遷移金属Mの原子数の比(F/M)は0.05以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.00以下がより好ましい。
【0124】
また正極活物質100について線分析または面分析をしたとき、結晶粒界近傍における添加物Iと遷移金属Mの原子数の比(I/M)は、0.020以上0.50以下が好ましい。さらには0.025以上0.30以下が好ましい。さらには0.030以上0.20以下が好ましい。たとえば添加物がマグネシウム、遷移金属がコバルトであるときは、マグネシウムとコバルトの原子数の比(Mg/Co)は、0.020以上0.50以下が好ましい。さらには0.025以上0.30以下が好ましい。さらには0.030以上0.20以下が好ましい。
【0125】
なお上述したように正極活物質100が有する添加物は、過剰であるとリチウムの挿入および離脱に悪影響が出る恐れがある。また二次電池としたときに抵抗の上昇、容量の低下等を招く恐れもある。一方、不純物が不足であると表層部100a全体に分布せず、結晶構造を保持する効果が不十分になる恐れがある。このように添加物は正極活物質100において適切な濃度である必要があるが、その調整は容易ではない。
【0126】
そのため、たとえば正極活物質100は、添加物が偏在する領域を有していてもよい。このような領域の存在により、過剰な添加物が内部100bから除かれ、内部100bにおいて適切な添加物濃度とすることができる。内部100bにおいて適切な添加物濃度とすることで、二次電池としたときの抵抗の上昇、容量の低下等を抑制することができる。二次電池の抵抗の上昇を抑制できることは、特に高レートでの充放電において極めて好ましい特性である。
【0127】
また添加物が偏在している領域を有する正極活物質100では、作製工程においてある程度過剰に添加物を混合することが許容される。そのため生産におけるマージンが広くなり好ましい。
【0128】
なお本明細書等において、偏在とはある領域における元素の濃度が、他の領域と異なることをいう。偏析、析出、不均一、偏り、濃度が高いまたは濃度が低い、などといってもよい。
【0129】
<結晶構造>
【0130】
コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの層状岩塩型の結晶構造を有する材料は、放電容量が高く、二次電池の正極活物質として優れることが知られている。層状岩塩型の結晶構造を有する材料として例えば、LiMO2で表される複合酸化物が挙げられる。
【0131】
遷移金属化合物におけるヤーン・テラー効果は、遷移金属のd軌道の電子の数により、その効果の強さが異なることが知られている。
【0132】
ニッケルを有する化合物においては、ヤーン・テラー効果により歪みが生じやすい場合がある。よって、LiNiO2において高電圧における充放電を行った場合、歪みに起因する結晶構造の崩れが生じる懸念がある。LiCoO2においてはヤーン・テラー効果の影響が小さいことが示唆され、高電圧における充放電の耐性がより優れる場合があり好ましい。
【0133】
図6および
図7を用いて、正極活物質について説明する。
図6および
図7では、正極活物質が有する遷移金属Mとしてコバルトを用いる場合について述べる。
【0134】
<従来の正極活物質>
図7に示す正極活物質は、後述する作製方法にてフッ素およびマグネシウムが添加されないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
図7に示すコバルト酸リチウムは、非特許文献1および非特許文献2等で述べられているように、充電深度によって結晶構造が変化する。
【0135】
図7に示すように、充電深度0(放電状態)であるコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する領域を有し、リチウムが8面体サイトを占有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。
【0136】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0137】
また充電深度が0.73以上、代表的には0.88程度のときのコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
2の構造と、R-3m(O3)のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図7をはじめ本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0138】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。このようにH1-3型結晶構造は、1つのコバルトおよび2つの酸素を用いたユニットセルにより表される。一方、後述するように、本発明の一態様のO3’型の結晶構造は好ましくは、1つのコバルトおよび1つの酸素を用いたユニットセルにより表される。これは、O3’の構造の場合とH1-3型構造の場合では、コバルトと酸素との対称性が異なり、O3’の構造の方が、H1-3型構造に比べてO3の構造からの変化が小さいことを示す。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すのがより好ましいか、の選択は例えば、XRDのリートベルト解析において、GOF(goodness of fit)の値がより小さくなるように選択すればよい。
【0139】
充電電圧がリチウム金属の酸化還元電位を基準に4.6V以上になるような高電圧の充電、あるいは充電深度が0.8以上になるような深い深度の充電と、放電とを繰り返すと、コバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり、非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0140】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図7に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層がR-3m(O3)から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0141】
さらに体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.0%以上である。
【0142】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0143】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためだと考えられる。
【0144】
<本発明の一態様の正極活物質>
≪内部≫
本発明の一態様の正極活物質100は、高電圧の充放電の繰り返しにおいて、CoO2層のずれを小さくすることができる。さらに、体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質は、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態において安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。そのような場合には安全性がより向上するため、好ましい。
【0145】
本発明の一態様の正極活物質では、十分に放電された状態と、高電圧で充電された状態における、結晶構造の変化および同数の遷移金属原子あたりで比較した場合の体積の差が小さい。
【0146】
正極活物質100の充放電前後の結晶構造を、
図6に示す。正極活物質100はリチウムと、遷移金属Mとしてコバルトと、酸素と、を有する複合酸化物である。上記に加えて添加物としてマグネシウムを有することが好ましい。また添加物としてフッ素、塩素等のハロゲンを有することが好ましい。
【0147】
図6の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、
図7と同じR-3m(O3)である。一方、正極活物質100は、十分に充電された充電深度の場合、H1-3型結晶構造とは異なる構造の結晶を有する。本構造は、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。また本構造のCoO
2層の対称性はO3型と同じである。よって、本構造を本明細書等では、O3’型結晶構造、または擬スピネル型の結晶構造と呼称する。したがって、O3’型結晶構造を、擬スピネル型の結晶構造と言い換えてもよい。なお、
図8に示されているO3’型結晶構造の図では、コバルト原子の対称性と酸素原子の対称性について説明するために、リチウムの表示を省略しているが、実際はCoO
2層の間にコバルトに対して例えば20原子%以下のリチウムが存在する。また、O3型結晶構造及びO3’型結晶構造のいずれの場合も、CoO
2層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在することが好ましい。また、酸素サイトに、ランダムかつ希薄に、フッ素等のハロゲンが存在することが好ましい。
【0148】
なお、O3’型結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0149】
またO3’型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0150】
本発明の一態様の正極活物質100では、高電圧で充電し多くのリチウムが離脱したときの、結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。例えば、
図6中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0151】
より詳細に説明すれば、本発明の一態様の正極活物質100は、充電電圧が高い場合にも構造の安定性が高い。例えば従来の正極活物質において、リチウム金属の電位を基準として4.6V程度の充電電圧ではH1-3型結晶構造となってしまうが、本発明の一態様の正極活物質100は、当該4.6V程度の充電電圧においても、R-3m(O3)の結晶構造を保持できる。さらに高い充電電圧、例えばリチウム金属の電位を基準として4.65V乃至4.7V程度の電圧においても、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る。さらに充電電圧を4.7Vより高めると、本発明の一態様の正極活物質100はようやくH1-3型結晶が観測される場合がある。また、充電電圧がより低い場合(たとえば充電電圧がリチウム金属の電位を基準として4.5V以上4.6V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。
【0152】
なお、二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合には、上記よりも黒鉛の電位の分だけ二次電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.05V乃至0.2V程度である。そのため例えば負極活物質に黒鉛を用いた二次電池の電圧が4.3V以上4.5V以下においても本発明の一態様の正極活物質100はR-3m(O3)の結晶構造を保持でき、さらに充電電圧を高めた領域、例えば二次電池の電圧が4.5Vを超えて4.6V以下においてもO3’型結晶構造を取り得る。さらには、充電電圧がより低い場合、例えば二次電池の電圧が4.2V以上4.3V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。
【0153】
そのため、本発明の一態様の正極活物質100においては、高電圧で充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい。
【0154】
なおO3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。
【0155】
CoO2層間、つまりリチウムサイトにランダムかつ希薄に存在する添加物、たとえばマグネシウムは、高電圧で充電したときにCoO2層のずれを抑制する効果がある。そのためCoO2層間にマグネシウムが存在すると、O3’型の結晶構造になりやすい。そのためマグネシウムは本発明の一態様の正極活物質100の粒子全体に分布していることが好ましい。またマグネシウムを粒子全体に分布させるために、本発明の一態様の正極活物質100の作製工程において、加熱処理を行うことが好ましい。
【0156】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じて添加物、たとえばマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。コバルトサイトに存在するマグネシウムは、高電圧充電時においてR-3mの構造を保つ効果がない。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0157】
そこで、マグネシウムを粒子全体に分布させるための加熱処理よりも前に、コバルト酸リチウムにフッ化物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。フッ化物を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチオンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易となる。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することが期待できる。
【0158】
なお、マグネシウム濃度を所望の値以上に高くすると、結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。マグネシウムが、リチウムサイトに加えて、コバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウムの原子数は、遷移金属Mの原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.01より大きく0.04未満がより好ましく、0.02程度がさらに好ましい。ここで示すマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0159】
コバルト酸リチウムにコバルト以外の金属(以下、金属Z)として、例えばニッケル、アルミニウム、マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムから選ばれる一以上の金属を添加してもよく、特にニッケルおよびアルミニウムの一以上を添加することが好ましい。マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムは安定に4価を取りやすい場合があり、構造安定性への寄与が高い場合がある。金属Zを添加することにより本発明の一態様の正極活物質では例えば、高電圧での充電状態において結晶構造がより安定になる場合がある。ここで、本発明の一態様の正極活物質において、金属Zは、コバルト酸リチウムの結晶性を大きく変えることのない濃度で添加されることが好ましい。例えば、前述のヤーン・テラー効果等を発現しない程度の量であることが好ましい。
【0160】
図6中の凡例に示すように、ニッケル、マンガンをはじめとする遷移金属およびアルミニウムはコバルトサイトに存在することが好ましいが、一部がリチウムサイトに存在していてもよい。またマグネシウムはリチウムサイトに存在することが好ましい。酸素は、一部がフッ素と置換されていてもよい。
【0161】
本発明の一態様の正極活物質のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質の容量が減少することがある。その要因として例えば、リチウムサイトにマグネシウムが入ることにより、充放電に寄与するリチウム量が減少する可能性が考えられる。また、過剰なマグネシウムが、充放電に寄与しないマグネシウム化合物を生成する場合もある。本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてニッケルを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えてニッケルおよびアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。
【0162】
以下に、本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウム、金属Z、等の元素の濃度を、原子数を用いて表す。
【0163】
本発明の一態様の正極活物質が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。ここで示すニッケルの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0164】
本発明の一態様の正極活物質が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。ここで示すアルミニウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0165】
本発明の一態様の正極活物質は、元素Xを有することが好ましく、元素Xとしてリンを用いることが好ましい。また、本発明の一態様の正極活物質は、リンと酸素を含む化合物を有することがより好ましい。
【0166】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xを含む化合物を有することにより、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。
【0167】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xとしてリンを有する場合には、電解液の分解により発生したフッ化水素とリンが反応し、電解液中のフッ化水素濃度が低下する可能性がある。
【0168】
電解液がLiPF6を有する場合、加水分解により、フッ化水素が発生する場合がある。また、正極の構成要素として用いられるPVDFとアルカリとの反応によりフッ化水素が発生する場合もある。電荷液中のフッ化水素濃度が低下することにより、集電体の腐食や被膜はがれを抑制できる場合がある。また、PVDFのゲル化や不溶化による接着性の低下を抑制できる場合がある。
【0169】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xに加えてマグネシウムを有する場合、高電圧の充電状態における安定性が極めて高い。元素Xがリンである場合、リンの原子数は、コバルトの原子数の1%以上20%以下が好ましく、2%以上10%以下がより好ましく、3%以上8%以下がさらに好ましく、加えてマグネシウムの原子数は、コバルトの原子数の0.1%以上10%以下が好ましく、0.5%以上5%以下がより好ましく、0.7%以上4%以下がより好ましい。ここで示すリンおよびマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0170】
正極活物質がクラックを有する場合、その内部にリン、より具体的には例えばリンと酸素を含む化合物が存在することにより、クラックの進行が抑制される場合がある。
【0171】
≪表層部≫
マグネシウムは本発明の一態様の正極活物質100の粒子全体に分布していることが好ましいが、これに加えて表層部100aのマグネシウム濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。例えば、XPS等で測定される表層部100aのマグネシウム濃度が、ICP-MS等で測定される粒子全体の平均のマグネシウム濃度よりも高いことが好ましい。
【0172】
また、本発明の一態様の正極活物質100がコバルト以外の元素、例えばニッケル、アルミニウム、マンガン、鉄およびクロムから選ばれる一以上の金属を有する場合において、該金属の表層部における濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。例えば、XPS等で測定される表層部100aのコバルト以外の元素の濃度が、ICP-MS等で測定される粒子全体の平均における該元素の濃度よりも高いことが好ましい。
【0173】
粒子表面は、いうなれば全て結晶欠陥である上に、充電時には表面からリチウムが抜けていくので内部よりもリチウム濃度が低くなりやすい部分である。そのため、不安定になりやすく結晶構造が崩れやすい部分である。表層部100aのマグネシウム濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。また表層部100aのマグネシウム濃度が高いと、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0174】
またフッ素等も、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。電解液に接する領域である表層部100aにフッ素が存在することで、フッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。
【0175】
このように本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aは内部100bよりも、添加物、たとえばマグネシウムおよびフッ素の濃度が高い、内部と異なる組成であることが好ましい。またその組成として常温で安定な結晶構造をとることが好ましい。そのため、表層部100aは内部100bと異なる結晶構造を有していてもよい。例えば、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。また表層部100aと内部100bが異なる結晶構造を有する場合、表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0176】
ただし表層部100aがMgOのみ、またはMgOとCoO(II)が固溶した構造のみでは、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまう。そのため表層部100aは少なくともコバルトを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有している必要がある。また、マグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0177】
また、元素Xは本発明の一態様の正極活物質100の粒子の表層部100aに位置することが好ましい。例えば本発明の一態様の正極活物質100は、元素Xを有する被膜に覆われていてもよい。
【0178】
≪粒界≫
本発明の一態様の正極活物質100が有する添加物は、内部にランダムかつ希薄に存在していてもよいが、一部は粒界に偏析していることがより好ましい。
【0179】
換言すれば、本発明の一態様の正極活物質100の結晶粒界およびその近傍の添加物濃度も、内部の他の領域よりも高いことが好ましい。
【0180】
粒子表面と同様、結晶粒界も面欠陥である。そのため不安定になりやすく結晶構造の変化が始まりやすい。そのため、結晶粒界およびその近傍の添加物濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0181】
また、結晶粒界およびその近傍の添加物濃度が高い場合、本発明の一態様の正極活物質100の粒子の結晶粒界に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面の近傍で添加物濃度が高くなる。そのためクラックが生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0182】
なお本明細書等において、結晶粒界の近傍とは、粒界から10nm程度までの領域をいうこととする。
【0183】
≪粒径≫
本発明の一態様の正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、平均粒子径(D50:メディアン径ともいう。)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。
【0184】
<分析方法>
ある正極活物質が、高電圧で充電されたときO3’型の結晶構造を示す本発明の一態様の正極活物質100であるか否かは、高電圧で充電された正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。
【0185】
本発明の一態様の正極活物質100は、これまで述べたように高電圧で充電した状態と放電状態とで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で充電した状態で、放電状態との変化が大きな結晶構造が50wt%以上を占める材料は、高電圧の充放電に耐えられないため好ましくない。そして添加物元素を添加するだけでは目的の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、高電圧で充電した状態でO3’型の結晶構造が60wt%以上になる場合と、H1-3型結晶構造が50wt%以上を占める場合と、がある。また、所定の電圧では、O3’型の結晶構造がほぼ100wt%になり、さらに当該所定の電圧をあげるとH1-3型結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析が必要である。
【0186】
ただし、高電圧で充電した状態または放電状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えばO3’型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、サンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0187】
≪充電方法≫
ある複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するための高電圧充電は、例えば対極リチウムでコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して充電することができる。
【0188】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電助剤およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0189】
対極にはリチウム金属を用いることができる。なお対極にリチウム金属以外の材料を用いたときは、二次電池の電位と正極の電位が異なる。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0190】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0191】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いることができる。
【0192】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0193】
上記条件で作製したコインセルを、4.6V、0.5Cで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電する。なおここでは1Cは137mA/gとする。温度は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、高電圧で充電された正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。
【0194】
≪XRD≫
XRD測定の装置および条件は特に限定されない。たとえば下記のような装置および条件で測定することができる。
XRD装置 :Bruker AXS社製、D8 ADVANCE
X線源 :CuKα線
出力 :40KV、40mA
スリット系 :Div.Slit、0.5°
検出器:LynxEye
スキャン方式 :2θ/θ連続スキャン
測定範囲(2θ) :15°以上90°以下
ステップ幅(2θ) :0.01°設定
計数時間 :1秒間/ステップ
試料台回転 :15rpm
【0195】
測定サンプルが粉末の場合は、ガラスのサンプルフォルダーに入れる、またはグリースを塗ったシリコン無反射板にサンプルを振りかける、等の手法でセッティングすることができる。測定サンプルが正極の場合は、正極を基板に両面テープで貼り付け、正極活物質層を装置の要求する測定面に合わせてセッティングすることができる。
【0196】
O3’型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα1線による理想的な粉末XRDパターンを
図8に示す。また比較のため充電深度0のLiCoO
2(O3)と、充電深度1のCoO
2(O1)の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献4参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。O3’型の結晶構造のパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0197】
図8に示すように、O3’型の結晶構造では、2θ=19.30±0.20°(19.10°以上19.50°以下)、および2θ=45.55±0.10°(45.45°以上45.65°以下)に回折ピークが出現する。より詳しく述べれば、2θ=19.30±0.10°(19.20°以上19.40°以下)、および2θ=45.55±0.05°(45.50°以上45.60°以下)に鋭い回折ピークが出現する。しかしH1-3型結晶構造およびCoO
2(P-3m1、O1)ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、高電圧で充電された状態で2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°のピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0198】
これは、充電深度0の結晶構造と、高電圧充電したときの結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、両者の主な回折ピークのうち2つ以上、より好ましくは3つ以上において、ピークが出現する位置の差が、2θ=0.7以下、より好ましくは2θ=0.5以下であるということができる。
【0199】
なお、本発明の一態様の正極活物質100は高電圧で充電したときO3’型の結晶構造を有するが、粒子のすべてがO3’型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、O3’型の結晶構造が50wt%以上であることが好ましく、60wt%以上であることがより好ましく、66wt%以上であることがさらに好ましい。O3’型の結晶構造が50wt%以上、より好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは66wt%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0200】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったときO3’型の結晶構造が35wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、43wt%以上であることがさらに好ましい。
【0201】
また、正極活物質の粒子が有するO3’型の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO2(O3)の1/10程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、高電圧充電後に明瞭なO3’型の結晶構造のピークが確認できる。一方単純なLiCoO2では、一部がO3’型の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0202】
本発明の一態様の正極活物質においては、前述の通り、ヤーン・テラー効果の影響が小さいことが好ましい。本発明の一態様の正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、遷移金属としてコバルトを主として有することが好ましい。また、本発明の一態様の正極活物質において、ヤーン・テラー効果の影響が小さい範囲であれば、コバルトの他に、先に述べた金属Zを有してもよい。
【0203】
正極活物質において、XRD分析を用いて、ヤーン・テラー効果の影響が小さいと推測される格子定数の範囲について考察する。
【0204】
図9は、本発明の一態様の正極活物質が層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとニッケルを有する場合において、XRDを用いてa軸およびc軸の格子定数を見積もった結果を示す。
図9Aがa軸、
図9Bがc軸の結果である。なお、
図9は、正極活物質の合成を行った後の粉体のXRDパターンを示しており、正極に組み込む前のものである。横軸のニッケル濃度は、コバルトとニッケルの原子数の和を100%とした場合のニッケルの濃度を示す。正極活物質は、後述するステップS21乃至ステップS25を用いて作製し、ステップS21においてコバルト源およびニッケル源を用いた。ニッケルの濃度は、ステップS21においてコバルトとニッケルの原子数の和を100%とした場合のニッケルの濃度を示す。
【0205】
図10には、本発明の一態様の正極活物質が層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとマンガンを有する場合において、XRDを用いてa軸およびc軸の格子定数を見積もった結果を示す。
図10Aがa軸、
図10Bがc軸の結果である。なお、
図10は、正極活物質の合成を行った後の粉体のXRDパターンを示しており、正極に組み込む前のものである。横軸のマンガン濃度は、コバルトとマンガンの原子数の和を100%とした場合のマンガンの濃度を示す。正極活物質は、後述するステップS21乃至ステップS25を用いて作製し、ステップS21においてコバルト源およびマンガン源を用いた。マンガンの濃度は、ステップS21においてコバルトとマンガンの原子数の和を100%とした場合のマンガンの濃度を示す。
【0206】
図9Cには、
図9Aおよび
図9Bに格子定数の結果を示した正極活物質について、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)を示す。
図10Cには、
図10Aおよび
図10Bに格子定数の結果を示した正極活物質について、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)を示す。
【0207】
図9Cより、ニッケル濃度が5%と7.5%ではa軸/c軸が顕著に変化する傾向がみられ、a軸の歪みが大きくなっていると考えられる。この歪みはヤーン・テラー歪みである可能性がある。ニッケル濃度が7.5%未満において、ヤーン・テラー歪みの小さい、優れた正極活物質が得られることが示唆される。
【0208】
次に、
図10Aより、マンガン濃度が5%以上においては、格子定数の変化の挙動が異なり、ベガード則に従わないことが示唆される。よって、マンガン濃度が5%以上では結晶構造が異なることが示唆される。よって、マンガンの濃度は例えば、4%以下が好ましい。
【0209】
なお、上記のニッケル濃度およびマンガン濃度の範囲は、粒子の表層部100aにおいては必ずしもあてはまらない。すなわち、粒子の表層部100aにおいては、上記の濃度より高くてもよい場合がある。
【0210】
以上より、格子定数の好ましい範囲について考察を行ったところ、本発明の一態様の正極活物質において、XRDパターンから推定できる、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数が2.814×10-10mより大きく2.817×10-10mより小さく、かつc軸の格子定数が14.05×10-10mより大きく14.07×10-10mより小さいことが好ましいことがわかった。充放電を行わない状態とは例えば、二次電池の正極を作製する前の粉体の状態であってもよい。
【0211】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)が0.20000より大きく0.20049より小さいことが好ましい。
【0212】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、XRD分析をしたとき、2θが18.50°以上19.30°以下に第1のピークが観測され、かつ2θが38.00°以上38.80°以下に第2のピークが観測される場合がある。
【0213】
なお粉体XRDパターンに出現するピークは、正極活物質100の体積の大半を占める、正極活物質100の内部100bの結晶構造を反映したものである。表層部100a等の結晶構造は、正極活物質100の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0214】
≪XPS≫
X線光電子分光(XPS)では、表面から2乃至8nm程度(通常5nm程度)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部100aの深さ方向の約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素にもよるが約1原子%である。
【0215】
本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析をしたとき、添加物の原子数は遷移金属Mの原子数の1.6倍以上6.0倍以下が好ましく、1.8倍以上4.0倍未満がより好ましい。添加物がマグネシウム、遷移金属Mがコバルトである場合は、マグネシウムの原子数はコバルトの原子数の1.6倍以上6.0倍以下が好ましく、1.8倍以上4.0倍未満がより好ましい。またフッ素の原子数は、遷移金属Mの原子数の0.2倍以上6.0倍以下が好ましく、1.2倍以上4.0倍以下がより好ましい。
【0216】
XPS分析を行う場合には例えば、X線源として単色化アルミニウムを用いることができる。また、取出角は例えば45°とすればよい。
【0217】
また、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がフッ素を有する場合、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0218】
さらに、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。つまり、本発明の一態様の正極活物質100がマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0219】
表層部100aに多く存在することが好ましい添加物、たとえばマグネシウムおよびアルミニウムは、XPS等で測定される濃度が、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)、あるいはGD-MS(グロー放電質量分析法)等で測定される濃度よりも高いことが好ましい。
【0220】
マグネシウムおよびアルミニウムは、加工によりその断面を露出させ、断面をTEM-EDXを用いて分析する場合に、表層部100aの濃度が、内部100bの濃度に比べて高いことが好ましい。加工は例えばFIB(Focused Ion Beam)により行うことができる。
【0221】
XPS(X線光電子分光)の分析において、マグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.4倍以上1.5倍以下であることが好ましい。一方ICP-MSの分析によるマグネシウムの原子数の比Mg/Coは0.001以上0.06以下であることが好ましい。
【0222】
一方、遷移金属Mに含まれるニッケルは表層部100aに偏在せず、正極活物質100全体に分布していることが好ましい。ただし前述した過剰な添加物が偏在する領域が存在する場合はこの限りではない。
【0223】
≪表面粗さと比表面積≫
本発明の一態様の正極活物質100は、表面がなめらかで凹凸が少ないことが好ましい。表面がなめらかで凹凸が少ないことは、表層部100aにおける添加物の分布が良好であることを示す一つの要素である。
【0224】
表面がなめらかで凹凸が少ないことは、たとえば正極活物質100の断面SEM像または断面TEM像、正極活物質100の比表面積等から判断することができる。
【0225】
たとえば以下のように、正極活物質100の断面SEM像から表面のなめらかさを数値化することができる。
【0226】
まず正極活物質100をFIB等により加工して断面を露出させる。このとき保護膜、保護剤等で正極活物質100を覆うことが好ましい。次に保護膜等と正極活物質100との界面のSEM像を撮影する。該SEM像に画像処理ソフトでノイズ処理を行う。たとえばガウスぼかし(σ=2)を行った後、二値化を行う。さらに画像処理ソフトで界面抽出を行う。さらに自動選択ツール等で保護膜等と正極活物質100との界面ラインを選択し、データを表計算ソフト等に抽出する。表計算ソフト等の機能を用いて、回帰曲線(二次回帰)から補正を行い、傾き補正後データからラフネス算出用パラメータを求め、標準偏差を算出した二乗平均平方根表面粗さ(RMS)を求めた。また、この表面粗さは、正極活物質は少なくとも粒子外周の400nmにおける表面粗さである。
【0227】
本実施の形態の正極活物質100の粒子表面においては、ラフネスの指標である粗さ(RMS:二乗平均平方根表面粗さ)は3nm未満、好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満の二乗平均平方根表面粗さ(RMS)であることが好ましい。
【0228】
なおノイズ処理、界面抽出等を行う画像処理ソフトについては特に限定されないが、たとえば「ImageJ」を用いることができる。また表計算ソフト等についても特に限定されないが、たとえばMicrosoft Office Excelを用いることができる。
【0229】
またたとえば、定容法によるガス吸着法にて測定した実際の比表面積ARと、理想的な比表面積Aiとの比からも、正極活物質100の表面のなめらかさを数値化することができる。
【0230】
理想的な比表面積Aiは、すべての粒子の直径がD50と同じであり、重量が同じであり、形状は理想的な球であるとして計算して求める。
【0231】
メディアン径D50は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。比表面積は、たとえば定容法によるガス吸着法を用いた比表面積測定装置等によって測定することができる。
【0232】
本発明の一態様の正極活物質100は、メディアン径D50から求めた理想的な比表面積Aiと、実際の比表面積ARの比AR/Aiが2以下であることが好ましい。
【0233】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせ用いることができる。
【0234】
(実施の形態3)
本実施の形態では、
図11乃至
図14を用いて本発明の一態様である製造装置について説明する。該製造装置は、先の実施の形態で説明した正極活物質を作製するのに好適である。
【0235】
<バッチ式ロータリーキルン>
図11Aにバッチ式のロータリーキルン110の断面模式図を示す。ロータリーキルン110は、キルン本体111と、加熱手段112と、原料供給手段113と、雰囲気制御手段116を有する。またロータリーキルン110は制御盤115、および測定装置120を有することが好ましい。
【0236】
キルン本体111は略円筒状であり、一方の端に原料供給手段113が接続され、他方の端に排出部114を有する。キルン本体が回転することで、キルン内部に投入された被処理物が攪拌される。
【0237】
加熱手段112はキルン本体111を700℃以上1200℃以下に加熱する機能を有する。加熱手段としてはたとえば炭化ケイ素ヒーター、カーボンヒーター、金属ヒーター、二珪化モリブデンヒーター等を用いることができる。
【0238】
原料供給手段113は被処理物をキルン本体111に投入する機能を有する。
【0239】
雰囲気制御手段116はキルン本体111の内部の雰囲気を制御する機能を有する。雰囲気制御手段116としては例えばガス導入ラインが挙げられる。導入するガスは酸素を含むことが好ましい。
【0240】
制御盤115はキルン本体111の加熱温度、雰囲気等を制御することができる。
【0241】
測定装置120は、例えばキルン本体111内部の雰囲気を測定することができる。測定装置120としてはGC(ガスクロマトグラフィー)、MS(質量分析計)、GC-MS、IR(赤外分光法)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等を適用することができる。キルン本体111の雰囲気、より具体的にはフッ化リチウム、酸素等の分圧を測定することで好ましい加熱条件になっているかを確認できる。なお、測定装置120は好ましい加熱条件になっていることを確認することができればよいため、雰囲気以外の測定装置であってもよい。例えば測定装置120として排気口またはその周辺に水晶振動式膜厚計等を設けてもよい。排気口またはその周辺には排出されたフッ化リチウムが冷却され堆積していく。そのためその膜厚を水晶振動式膜厚計により測定することでも、フッ化リチウムを定量的に測定することができる。
【0242】
ロータリーキルン110は、加熱中にキルン本体111が回転することで被処理物を攪拌できるため、被処理物の粒子同士が固着しにくい。すなわちキルン本体111を回転させる工程が、固着抑制工程となる。
【0243】
図11Aに示すようなバッチ式は、雰囲気制御がしやすく好ましい。
【0244】
また
図11Bおよび
図11Cに示すように、内部に攪拌のための羽根117が設けられたキルン本体111aを有するロータリーキルン110aとしてもよい。
図11Bはバッチ式ロータリーキルン110aの断面模式図であり、
図11BのA-A’におけるキルン本体111aの断面図が
図11Cである。
【0245】
図11Bおよび
図11Cでは直線状の羽根117が1枚設けられたキルン本体111aの例を示したが、本発明の一態様はこれに限らない。複数の羽根117が設けられてもよい。また羽根117はらせん状等他の形状であってもよい。
【0246】
<連続式ロータリーキルン>
またバッチ式に限らず、連続式のロータリーキルンとしてもよい。また原料供給手段を複数有し、加熱の途中で新たな原料を供給する機能を有していてもよい。またキルン本体の内部にミルを有し、該ミルにより被処理物の固着を抑制してもよい。
【0247】
図12Aに連続式で、原料供給手段を複数有し、ミルを有するロータリーキルン110bの断面模式図を示す。ロータリーキルン110bは、キルン本体111と、加熱手段112aおよび加熱手段112bと、原料供給手段113aおよび原料供給手段113bと、雰囲気制御手段116を有する。またロータリーキルン110bは制御盤115、および測定装置120を有することが好ましい。
【0248】
キルン本体111は略円筒状であり、一方の端に原料供給手段113aが接続され、他方の端に排出部114を有し、これらの間に原料供給手段113bが接続される。原料供給手段113aから原料供給手段113b直前までを上流部分ということとする。原料供給手段113b以降から排出部114までを下流部分ということとする。またキルン本体111の内部にミル130が設けられることが好ましい。
【0249】
キルン本体111は、上流部分に被処理物を1時間以上100時間以下滞留させる機能を有することが好ましい。また下流部分に被処理物を1時間以上100時間以下滞留させる機能を有することが好ましい。
【0250】
原料供給手段113aはキルン本体111の上流部分に被処理物を供給する機能を有する。また原料供給手段113bはキルン本体111の下流部分に追加原料を供給する機能を有する。
【0251】
ミル130は被処理物の固着を抑制する機能を有する。具体的には被処理物は図中の点線矢印で示すようにミル130とキルン本体111の内壁の間を通過することで、固着が抑制される。なお
図12Aではミル130は上流部分に1つ設けられているが、本発明の一態様はこれに限らない。ミル130は複数設けられていてもよい。また下流部分に設けられていてもよいし、上流部分および下流部分の両方に設けられていてもよい。
【0252】
加熱手段112aおよび加熱手段112bは、異なる加熱温度に設定することができる。たとえば上流部分を加熱する加熱手段112aは800℃以上1200℃以下に加熱する機能を有することが好ましい。また下流部分を加熱する加熱手段112bは700℃以上1000℃以下に加熱する機能を有することが好ましい。なお、ミル130が設けられた部分は上述の温度よりも低くなってもよい。
【0253】
雰囲気制御手段116、制御盤115および測定装置120等については
図11Aの記載を参酌することができる。
【0254】
連続式のロータリーキルンは、生産性を向上させやすく好ましい。上述のような構成のロータリーキルン110bとすることで、生産性良くより性能のよい正極活物質を作製することができる。先の実施の形態で説明したように、不純物の少ないLiMO2を合成してから、添加物を加え、再度加熱すると、充電後の結晶構造の安定性が良好となる。そのためたとえば上流部分は800℃以上1200℃以下の比較的高温でLiMO2を合成した後、原料供給手段113bでマグネシウム、フッ素、ニッケル、アルミニウム等の新たな材料を添加し、その後下流部分で700℃以上1000℃以下の比較的低温でアニールを行うことで、良好な特性を有する正極活物質を作製できる。
【0255】
<縦型のキルン>
また
図12Bに示すように、縦型のキルン110cとしてもよい。
図12Bはキルン110cの断面模式図である。キルン110cはキルン本体111bと、加熱手段112aおよび加熱手段112bと、第1のミル131aおよび第2のミル131bと、原料供給手段113を有する。
【0256】
キルン本体111bは略円筒状であり、一方の端に原料供給手段113が接続される。キルン本体111bは内部に掻揚羽根を有する。またキルン本体111bの内部に第1のミル131aおよび第2のミル131bが設けられる。原料供給手段113から第1のミル131a直前までを上流部分ということとする。また第2のミル131bより後を下流部分ということとする。つまり第1のミル131aおよび第2のミル131bは上流部分と下流部分の間に設けられる。
【0257】
掻揚羽根またはキルン本体111bは回転することで被処理物を攪拌する機能を有する。また被処理物を上流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有する。また被処理物を下流部分に1時間以上100時間以下滞留させる機能を有する。
【0258】
第1のミル131aおよび第2のミル131bは一対の碾臼として機能する。第1のミル131aおよび第2のミル131bの間で被処理物を挽くことで、被処理物の固着を抑制する。第1のミル131aおよび第2のミル131bの少なくとも一方は、表面に溝を有することが好ましい。
【0259】
加熱手段112aおよび加熱手段112bは異なる加熱温度に設定することができる。たとえば上流部分を加熱する加熱手段112aは800℃以上1200℃以下に加熱する機能を有することが好ましい。また下流部分を加熱する加熱手段112bは700℃以上1000℃以下に加熱する機能を有することが好ましい。
【0260】
原料供給手段113はキルン本体111bの上流部分に被処理物を供給する機能を有する。
【0261】
<ローラーハースキルン>
また本発明の一態様の製造装置は、容器に入った被処理物を連続的に処理するローラーハースキルンであってもよい。
図13Aはローラーハースキルン150の断面模式図である。
図13Bは、ローラーハースキルンが有する複数のローラー152を説明する図である。
【0262】
ローラーハースキルン150は、キルン本体151と、複数のローラー152と、加熱手段153aおよび加熱手段153bと、雰囲気制御手段154と、固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cを有する。またローラーハースキルン150は遮断板157a、遮断板157bおよび遮断板157cと、測定装置120aおよび測定装置120bを有することが好ましい。
【0263】
キルン本体151はトンネル状である。複数のローラー152は、被処理物161の入った容器160を搬送する機能を有する。容器160は複数のローラー152によりトンネル状のキルン本体151を通過し外まで搬送される。
【0264】
キルン本体151は複数のローラー152の搬送方向に沿って、上流部分と、下流部分を有する。キルン本体151は上流部分に加熱手段153aを有し、下流部分に加熱手段153bを有する。上流部分と下流部分の間に遮断板157bを設けてもよい。遮断板157bを設けることで、上流部分と下流部分の雰囲気を個別に制御することができる。またキルン本体151の入り口付近に遮断板157b、出口付近に遮断板157cを設けてもよい。これらを設けることで、キルン本体151の内部の雰囲気を制御しやすくなる。
【0265】
ローラーハースキルン150が有する固着抑制手段は、たとえば容器160を振動させる手段である。例えば
図13Aに示す固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cのように、複数のローラー152の間に設けられた棒状または板状の装置であってもよい。固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cは固定されていてもよいが、容器160を振動させるために動いてもよい。また
図13Aでは固着抑制手段155を3つ設ける構成としたが、本発明の一態様はこれに限らない。固着抑制手段155は1または2つ設けてもよいし、4つ以上設けてもよい。
【0266】
またローラーハースキルン150が有する固着抑制手段は、
図13Bに示すような、傾きを変えた複数のローラー152であってもよい。
【0267】
加熱手段153aおよび加熱手段153b、雰囲気制御手段154、測定装置120aおよび測定装置120b等については
図11Aの記載を参酌することができる。
【0268】
ローラーハースキルン150は被処理物を連続的に処理するため生産性が高く好ましい。
【0269】
また本発明の一態様の製造装置は、加熱の途中で新たな原料を供給する機能を有するローラーハースキルンであってもよい。
図13Cは原料供給手段158を有するローラーハースキルン150aの断面模式図である。
【0270】
ローラーハースキルン150aはキルン本体151の上流部分と下流部分の間に原料供給手段158を有する。原料供給手段158を有することで、
図12Aに示すロータリーキルン110bと同様に、不純物の少ないLiMO
2を合成してから、原料供給手段158により添加物を加え、再度加熱することができる。この場合、被処理物161を入れる容器としては蓋のない容器160aが好ましい。
【0271】
その他の構成要素は
図13Aの記載を参酌することができる。
【0272】
<メッシュベルトキルン>
また本発明の一態様の製造装置は、搬送手段としてメッシュベルトを用い、容器に入った被処理物を連続的に処理するメッシュベルトキルンであってもよい。
図14Aはメッシュベルトキルン170の断面模式図である。
【0273】
メッシュベルトキルン170は、キルン本体171と、メッシュベルト174と、加熱手段173と、固着抑制手段172を有する。またメッシュベルトキルン170は測定装置120を有すことが好ましい。
【0274】
キルン本体171はトンネル状である。メッシュベルト174は被処理物161の入った容器160を搬送する機能を有する。容器160はメッシュベルト174によりトンネル状のキルン本体171を通過し外まで搬送される。
【0275】
メッシュベルトキルン170が有する固着抑制手段は、たとえば容器160を振動させる手段である。例えば
図14Aに示す固着抑制手段172のように、メッシュベルト174下に設けられた容器160を振動させる凹凸のある装置であってもよい。固着抑制手段172は固定されていてもよいが、容器160を振動させるために動いてもよい。また
図14Aでは固着抑制手段172を1つ設ける構成としたが、本発明の一態様はこれに限らない。固着抑制手段172は複数設けてもよい。また、固着抑制手段172の長さは、キルン本体171と同程度の長さであってもよい。
【0276】
メッシュベルトキルン170は被処理物を連続的に処理するため生産性が高く好ましい。その他の構成要素は
図13Aの記載を参酌することができる。
【0277】
<マッフル炉>
また本発明の一態様の製造装置は、バッチ式のマッフル炉であってもよい。
図14Bはマッフル炉180の断面模式図である。
【0278】
マッフル炉180は、熱板181と、加熱手段182と、断熱材183と、雰囲気制御手段184と、固着抑制手段185を有する。またマッフル炉180は測定装置120を有することが好ましい。
【0279】
マッフル炉180が有する固着抑制手段185は、被処理物191の入った容器190を振動させる手段である。
図14Bに示す固着抑制手段185は容器190を載せる台であって、容器190を振動させる機能を有する。
【0280】
マッフル炉180は雰囲気制御および温度制御がしやすく好ましい。その他の構成要素は
図13Aの記載を参酌することができる。
【0281】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせ用いることができる。
【0282】
(実施の形態4)
本実施の形態では、
図15乃至
図18を用いて本発明の一態様の二次電池の例について説明する。
【0283】
<二次電池の構成例1>
以下に、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0284】
〔正極〕
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。正極活物質層は正極活物質を有し、導電材およびバインダを有していてもよい。正極活物質には、先の実施の形態で説明した作製方法を用いて作製した正極活物質を用いる。
【0285】
また先の実施の形態で説明した正極活物質と、他の正極活物質を混合して用いてもよい。
【0286】
他の正極活物質としてはたとえばオリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物等がある。例えば、LiFePO4、LiFeO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物があげられる。
【0287】
また、他の正極活物質としてLiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、ニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1-xMxO2(0<x<1)(M=Co、Al等))を混合すると好ましい。該構成とすることによって、二次電池の特性を向上させることができる。
【0288】
また、他の正極活物質として、組成式LiaMnbMcOdで表すことができるリチウムマンガン複合酸化物を用いることができる。ここで、元素Mは、リチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リンを用いることが好ましく、ニッケルであることがさらに好ましい。また、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体を測定する場合、放電時に0<a/(b+c)<2、かつc>0、かつ0.26≦(b+c)/d<0.5を満たすことが好ましい。なお、リチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の金属、シリコン、リン等の組成は、例えばICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて測定することができる。またリチウムマンガン複合酸化物の粒子全体の酸素の組成は、例えばEDX(エネルギー分散型X線分析法)を用いて測定することが可能である。また、ICPMS分析と併用して、融解ガス分析、XAFS(X線吸収微細構造)分析の価数評価を用いることで求めることができる。なお、リチウムマンガン複合酸化物とは、少なくともリチウムとマンガンとを含む酸化物をいい、クロム、コバルト、アルミニウム、ニッケル、鉄、マグネシウム、モリブデン、亜鉛、インジウム、ガリウム、銅、チタン、ニオブ、シリコン、およびリンなどからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。
【0289】
以下に一例として、活物質層200に導電材としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を説明する。
【0290】
図15Aに、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質100と、導電材としてのグラフェンまたはグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含む。
【0291】
本明細書等においてグラフェン化合物201とは、多層グラフェン、マルチグラフェン、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。グラフェン化合物とは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートといってもよい。グラフェン化合物は官能基を有してもよい。またグラフェン化合物は屈曲した形状を有することが好ましい。またグラフェン化合物は丸まってカーボンナノファイバーのようになっていてもよい。
【0292】
本明細書等において酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、官能基、特にエポキシ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するものをいう。
【0293】
本明細書等において還元された酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。炭素シートといってもよい。還元された酸化グラフェンは1枚でも機能するが、複数枚が積層されていてもよい。還元された酸化グラフェンは、炭素の濃度が80atomic%より大きく、酸素の濃度が2atomic%以上15atomic%以下である部分を有することが好ましい。このような炭素濃度および酸素濃度とすることで、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。また還元された酸化グラフェンは、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドの強度比G/Dが1以上であることが好ましい。このような強度比である還元された酸化グラフェンは、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。
【0294】
活物質層200の縦断面においては、
図15Bに示すように、活物質層200の内部において概略均一にシート状のグラフェンまたはグラフェン化合物201が分散する。
図15Bにおいてはグラフェンまたはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェンまたはグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0295】
ここで、複数のグラフェンまたはグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0296】
ここで、グラフェンまたはグラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。つまり完成後の活物質層は還元された酸化グラフェンを有することが好ましい。グラフェンまたはグラフェン化合物201の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェンまたはグラフェン化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元するため、活物質層200に残留するグラフェンまたはグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行ってもよい。
【0297】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電材と異なり、グラフェンまたはグラフェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電材よりも少量で粒状の正極活物質100とグラフェンまたはグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0298】
また、予め、スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電材であるグラフェン化合物を被膜として形成し、さらに活物質同士間をグラフェン化合物で導電パスを形成することもできる。
【0299】
〔負極〕
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電材およびバインダを有していてもよい。
【0300】
[負極活物質]
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0301】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0302】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0303】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0304】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0305】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0306】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0307】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0308】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0309】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
【0310】
負極活物質層が有することのできる導電材およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電材およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0311】
[負極集電体]
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0312】
〔電解液〕
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0313】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0314】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0315】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0316】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0317】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0318】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
【0319】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。
【0320】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0321】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0322】
〔セパレータ〕
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0323】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0324】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0325】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0326】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0327】
〔外装体〕
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0328】
<二次電池の構成例2>
以下に、二次電池の構成の一例として、固体電解質層を用いた二次電池の構成について説明する。
【0329】
図16Aに示すように、本発明の一態様の二次電池400は、正極410、固体電解質層420および負極430を有する。
【0330】
正極410は正極集電体413および正極活物質層414を有する。正極活物質層414は正極活物質411および固体電解質421を有する。正極活物質411には、先の実施の形態で説明した作製方法を用いて作製した正極活物質を用いる。また正極活物質層414は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0331】
固体電解質層420は固体電解質421を有する。固体電解質層420は、正極410と負極430の間に位置し、正極活物質411および負極活物質431のいずれも有さない領域である。
【0332】
負極430は負極集電体433および負極活物質層434を有する。負極活物質層434は負極活物質431および固体電解質421を有する。また負極活物質層434は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。なお、負極430に金属リチウムを用いる場合は、
図16Bのように、固体電解質421を有さない負極430とすることができる。負極430に金属リチウムを用いると、二次電池400のエネルギー密度を向上させることができ好ましい。
【0333】
固体電解質層420が有する固体電解質421としては、例えば硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質等を用いることができる。
【0334】
硫化物系固体電解質には、チオシリコン系(Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4等)、硫化物ガラス(70Li2S・30P2S5、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・38SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、50Li2S・50GeS2等)、硫化物結晶化ガラス(Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等)が含まれる。硫化物系固体電解質は、高い伝導度を有する材料がある、低い温度で合成可能、また比較的やわらかいため充放電を経ても導電経路が保たれやすい等の利点がある。
【0335】
酸化物系固体電解質には、ペロブスカイト型結晶構造を有する材料(La2/3-xLi3xTiO3等)、NASICON型結晶構造を有する材料(Li1-XAlXTi2-X(PO4)3等)、ガーネット型結晶構造を有する材料(Li7La3Zr2O12等)、LISICON型結晶構造を有する材料(Li14ZnGe4O16等)、LLZO(Li7La3Zr2O12)、酸化物ガラス(Li3PO4-Li4SiO4、50Li4SiO4・50Li3BO3等)、酸化物結晶化ガラス(Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等)が含まれる。酸化物系固体電解質は、大気中で安定であるといった利点がある。
【0336】
ハロゲン化物系固体電解質には、LiAlCl4、Li3InBr6、LiF、LiCl、LiBr、LiI等が含まれる。また、これらハロゲン化物系固体電解質を、ポーラス酸化アルミニウムやポーラスシリカの細孔に充填したコンポジット材料も固体電解質として用いることができる。
【0337】
また、異なる固体電解質を混合して用いてもよい。
【0338】
中でも、NASICON型結晶構造を有するLi1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦1)(以下、LATP)は、アルミニウムとチタンという、本発明の一態様の二次電池400に用いる正極活物質が有してもよい元素を含むため、サイクル特性の向上について相乗効果が期待でき好ましい。また、工程の削減による生産性の向上も期待できる。なお本明細書等において、NASICON型結晶構造とは、M2(XO4)3(M:遷移金属、X:S、P、As、Mo、W等)で表される化合物であり、MO6八面体とXO4四面体が頂点を共有して3次元的に配列した構造を有するものをいう。
【0339】
〔外装体と二次電池の形状〕
本発明の一態様の二次電池400の外装体には、様々な材料および形状のものを用いることができるが、正極、固体電解質層および負極を加圧する機能を有することが好ましい。
【0340】
例えば
図17は、全固体電池の材料を評価するセルの一例である。
【0341】
図17Aは評価セルの断面模式図であり、評価セルは、下部部材761と、上部部材762と、それらを固定する固定ねじや蝶ナット764を有し、押さえ込みねじ763を回転させることで電極用プレート753を押して評価材料を固定している。ステンレス材料で構成された下部部材761と、上部部材762との間には絶縁体766が設けられている。また上部部材762と、押さえ込みねじ763の間には密閉するためのOリング765が設けられている。
【0342】
評価材料は、電極用プレート751に載せられ、周りを絶縁管752で囲み、上方から電極用プレート753で押されている状態となっている。この評価材料周辺を拡大した斜視図が
図17Bである。
【0343】
評価材料としては、正極750a、固体電解質層750b、負極750cの積層の例を示しており、断面図を
図17Cに示す。なお、
図17A、
図17B、
図17Cにおいて同じ箇所には同じ符号を用いる。
【0344】
正極750aと電気的に接続される電極用プレート751および下部部材761は、正極端子に相当するということができる。負極750cと電気的に接続される電極用プレート753および上部部材762は、負極端子に相当するということができる。電極用プレート751および電極用プレート753を介して評価材料に押圧をかけながら電気抵抗などを測定することができる。
【0345】
また、本発明の一態様の二次電池の外装体には、気密性に優れたパッケージを使用することが好ましい。例えばセラミックパッケージや樹脂パッケージを用いることができる。また、外装体を封止する際には、外気を遮断し、密閉した雰囲気下、例えばグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0346】
図18Aに、
図17と異なる外装体および形状を有する本発明の一態様の二次電池の斜視図を示す。
図18Aの二次電池は、外部電極771、772を有し、複数のパッケージ部材を有する外装体で封止されている。
【0347】
図18A中の一点破線で切断した断面の一例を
図18Bに示す。正極750a、固体電解質層750bおよび負極750cを有する積層体は、平板に電極層773aが設けられたパッケージ部材770aと、枠状のパッケージ部材770bと、平板に電極層773bが設けられたパッケージ部材770cと、で囲まれて封止された構造となっている。パッケージ部材770a、770b、770cには、絶縁材料、例えば樹脂材料やセラミックを用いることができる。
【0348】
外部電極771は、電極層773aを介して電気的に正極750aと電気的に接続され、正極端子として機能する。また、外部電極772は、電極層773bを介して電気的に負極750cと電気的に接続され、負極端子として機能する。
【0349】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0350】
(実施の形態5)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極を有する二次電池の形状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形態の記載を参酌することができる。
【0351】
<コイン型二次電池>
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。
図19Aはコイン型(単層偏平型)の二次電池の外観図であり、
図19Bは、その断面図である。
【0352】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。
【0353】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0354】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0355】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、
図19Bに示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0356】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0357】
ここで
図19Cを用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用いた二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向きになる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0358】
図19Cに示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0359】
<円筒型二次電池>
次に円筒型の二次電池の例について
図20を参照して説明する。円筒型の二次電池600の外観図を
図20Aに示す。
図20Bは、円筒型の二次電池600の断面を模式的に示した図である。
図20Bに示すように、円筒型の二次電池600は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0360】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0361】
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0362】
また、
図20Cのように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0363】
図20Dはモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点線で示した。
図20Dに示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。温度制御装置617が有する熱媒体は絶縁性と不燃性を有することが好ましい。
【0364】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0365】
<二次電池の構造例>
二次電池の別の構造例について、
図21乃至
図25を用いて説明する。
【0366】
図21A及び
図21Bは、電池パックの外観図を示す図である。電池パックは、二次電池913と、回路基板900と、を有する。二次電池913は、回路基板900を介して、アンテナ914に接続されている。また、二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、
図21Bに示すように、二次電池913は、端子951と、端子952と、に接続されている。また回路基板900は、シール915で固定されている。
【0367】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951、端子952、アンテナ914、及び回路912に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
【0368】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体としてアンテナ914を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0369】
電池パックは、アンテナ914と、二次電池913との間に層916を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0370】
【0371】
【0372】
図22Aに示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、
図22Bに示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0373】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きくすることができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方式としては、NFC(近距離無線通信)など、二次電池と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
【0374】
又は、
図22Cに示すように、
図21A及び
図21Bに示す二次電池913に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお、
図21A及び
図21Bに示す二次電池と同じ部分については、
図21A及び
図21Bに示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0375】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0376】
又は、
図22Dに示すように、
図21A及び
図21Bに示す二次電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接続される。なお、
図21A及び
図21Bに示す二次電池と同じ部分については、
図21A及び
図21Bに示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0377】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0378】
さらに、二次電池913の構造例について
図23及び
図29を用いて説明する。
【0379】
図23Aに示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図23Aでは、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0380】
なお、
図23Bに示すように、
図23Aに示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図23Bに示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0381】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0382】
さらに、捲回体950の構造について
図24に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0383】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して
図21に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して
図21に示す端子911に接続される。
【0384】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0385】
<ラミネート型二次電池>
次に、ラミネート型の二次電池の例について、
図25乃至
図35を参照して説明する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。
【0386】
図25を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次電池980は、
図25Aに示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、
図24で説明した捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0387】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリード電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0388】
図25Bに示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム982とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納することで、
図25Cに示すように二次電池980を作製することができる。捲回体993は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有するフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0389】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する蓄電池を作製することができる。
【0390】
また、
図25Bおよび
図25Cでは2枚のフィルムを用いる例を示しているが、1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体993を収納してもよい。
【0391】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0392】
また
図25では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池980の例について説明したが、例えば
図26のように、外装体となるフィルムにより形成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としてもよい。
【0393】
図26Aに示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実施の形態3で示した電解液を用いることができる。
【0394】
図26Aに示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0395】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0396】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を
図26Bに示す。
図26Aでは簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、
図26Bに示すように、複数の電極層で構成する。
【0397】
図26Bでは、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16としても二次電池500は、可撓性を有する。
図26Bでは負極集電体504が8層と、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、
図26Bは負極の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0398】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図27及び
図28に示す。
図27及び
図28は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0399】
図29Aは正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図29Aに示す例に限られない。
【0400】
<ラミネート型二次電池の作製方法>
ここで、
図27に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図29B、
図29Cを用いて説明する。
【0401】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図29Bに積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0402】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0403】
次に、
図29Cに示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0404】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0405】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0406】
全固体電池においては、積層した正極や負極の積層方向に所定の圧力を加えることで、内部における界面の接触状態を良好に保つことができる。正極や負極の積層方向に所定の圧力を加えることで、全固体電池の充放電によって積層方向に膨張することを抑えることができ、全固体電池の信頼性を向上させることができる。
【0407】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0408】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。
【0409】
まず、先の実施の形態で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する例を、
図30A乃至
図30Gに示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0410】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0411】
図30Aは、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0412】
図30Bは、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図30Cに示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0413】
図30Dは、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図30Eに曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0414】
図30Fは、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0415】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0416】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0417】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0418】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0419】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0420】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図30Eに示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0421】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0422】
図30Gは、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0423】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0424】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0425】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0426】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図30H、
図31および
図32を用いて説明する。
【0427】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0428】
図30Hはタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図30Hにおいて電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図30Hに示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0429】
次に、
図31Aおよび
図31Bに、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示す。
図31Aおよび
図31Bに示すタブレット型端末9600は、筐体9630a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示部9631aと表示部9631bを有する表示部9631、スイッチ9625乃至スイッチ9627、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。
図31Aは、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、
図31Bは、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0430】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体9630bに渡って設けられている。
【0431】
表示部9631は、全て又は一部の領域をタッチパネルの領域とすることができ、また当該領域に表示されたアイコンを含む画像、文字、入力フォームなどに触れることでデータ入力をすることができる。例えば、筐体9630a側の表示部9631aの全面にキーボードボタンを表示させて、筐体9630b側の表示部9631bに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。
【0432】
また、筐体9630b側の表示部9631bにキーボードを表示させて、筐体9630a側の表示部9631aに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。また、表示部9631にタッチパネルのキーボード表示切り替えボタンを表示するようにして、当該ボタンに指やスタイラスなどで触れることで表示部9631にキーボードを表示するようにしてもよい。
【0433】
また、筐体9630a側の表示部9631aのタッチパネルの領域と筐体9630b側の表示部9631bのタッチパネルの領域に対して同時にタッチ入力することもできる。
【0434】
また、スイッチ9625乃至スイッチ9627には、タブレット型端末9600を操作するためのインターフェースだけでなく、様々な機能の切り替えを行うことができるインターフェースとしてもよい。例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、タブレット型端末9600の電源のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替える機能、又は白黒表示やカラー表示の切り替える機能を有してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、表示部9631の輝度を調整する機能を有してもよい。また、表示部9631の輝度は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて最適なものとすることができる。なお、タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
【0435】
また、
図31Aでは筐体9630a側の表示部9631aと筐体9630b側の表示部9631bの表示面積とがほぼ同じ例を示しているが、表示部9631a及び表示部9631bのそれぞれの表示面積は特に限定されず、一方のサイズと他方のサイズが異なっていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルとしてもよい。
【0436】
図31Bは、タブレット型端末9600を2つ折りに閉じた状態であり、タブレット型端末9600は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634を有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係る蓄電体を用いる。
【0437】
なお、上述の通り、タブレット型端末9600は2つ折りが可能であるため、未使用時に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末9600を提供できる。
【0438】
また、この他にも
図31Aおよび
図31Bに示したタブレット型端末9600は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
【0439】
タブレット型端末9600の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0440】
また、
図31Bに示す充放電制御回路9634の構成、および動作について
図31Cにブロック図を示し説明する。
図31Cには、太陽電池9633、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、
図31Bに示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
【0441】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充電を行う構成とすればよい。
【0442】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
【0443】
図32に、他の電子機器の例を示す。
図32において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
【0444】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0445】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0446】
図32において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。
図32では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0447】
なお、
図32では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0448】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0449】
図32において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。
図32では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0450】
なお、
図32では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0451】
図32において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。
図32では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0452】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電子機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0453】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0454】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させることができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。
【0455】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0456】
(実施の形態7)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した二次電池を用いた電子機器の例について
図33乃至
図34を用いて説明する。
【0457】
図33Aは、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0458】
例えば、
図33Aに示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0459】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内やイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0460】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0461】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0462】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006aおよびワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0463】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005aおよびベルト部4005bを有し、表示部4005aまたはベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0464】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メールや電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0465】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0466】
図33Bに腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0467】
また、側面図を
図33Cに示す。
図33Cには、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は実施の形態5に示した二次電池である。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【0468】
図34Aは、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0469】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池6306を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0470】
図34Bは、ロボットの一例を示している。
図34Bに示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0471】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0472】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0473】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0474】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0475】
図34Cは、飛行体の一例を示している。
図34Cに示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、および二次電池6503などを有し、自律して飛行する機能を有する。
【0476】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0477】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0478】
(実施の形態8)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0479】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0480】
図35において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図35Aに示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は、車内の床部分に対して、
図20Cおよび
図20Dに示した二次電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、
図23に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0481】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0482】
図35Bに示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図35Bに、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0483】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0484】
また、
図35Cは、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図35Cに示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0485】
また、
図35Cに示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0486】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0487】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0488】
本実施例では、
図4に示す作製方法により正極活物質を作製し、その特徴を分析し、特性を評価した。
【0489】
<正極活物質の作製>
図4に示す作製方法を参照しながら本実施例で作製したサンプルについて説明する。
【0490】
ステップS14のLiMO2として、遷移金属Mとしてコバルトを有し、添加物を特に有さない市販のコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、セルシードC-10N)を用意した。これにステップS21乃至ステップS23、ステップS31、ステップS32、ステップS41と同様に、固相法で、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、水酸化ニッケルおよび水酸化アルミニウムを添加し混合した。コバルトの原子数を100としたとき、フッ化リチウムの分子量が0.33、フッ化マグネシウムの分子量が1、ニッケルの原子量が0.5、アルミニウムの原子量が0.5となるように添加した。これを混合物903とした。
【0491】
次にステップS53と同様にアニールした。角型のアルミナの容器に混合物903を20g以上60g以下程度入れ、蓋をしてマッフル炉にて加熱し、複合酸化物を得た。アニール温度は900℃、920℃、930℃または950℃とした。アニール時間は、10時間または30時間とした。
【0492】
次にステップS54の固着抑制操作として、複合酸化物を乳棒で叩いて複合酸化物粒子同士の固着を崩した。そして一部のサンプルについて、微粒子化したフッ化リチウムを追加し混合した。コバルトの原子数を100としたとき、フッ化リチウムの分子量が0.33となるように混合した。
【0493】
次にステップS55と同様にアニールした。アニール温度はステップS53と同様の条件とした。
【0494】
そしてステップS54およびステップS55をn回繰り返した。nは0、1、2、3または4とした。
【0495】
このようにしてサンプル1乃至サンプル21の正極活物質を作製した。作製条件を表1に示す。表1におけるアニール回数は、合計のアニール回数(n+1)を示すものである。
【0496】
【0497】
【0498】
図36Aに示すように、900℃10時間のアニールを1回のみ行ったサンプル2では、表面に凹凸が多く観察された。しかしアニールを2回したサンプル4では凹凸が減少した。アニールを3回したサンプル6では凹凸がより少ないなめらかな表面になっている様子が観察された。
【0499】
<二次電池の作製>
サンプル1乃至サンプル21の正極活物質を用いて二次電池を作製した。まずサンプル1乃至サンプル21の正極活物質、ABおよびPVDFを、活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合してスラリーを作製し、該スラリーをアルミニウムの集電体に塗工した。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0500】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。その後、210kN/mで加圧を行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正極の担持量はおよそ7mg/cm2とした。密度は3.8g/cc以上であった。
【0501】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の電池セルを作製した。
【0502】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0503】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、で混合したものに、ビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加したものを用いた。
【0504】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0505】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0506】
<サイクル特性>
アニール温度を900℃とし、固着抑制操作と同時にフッ化リチウムを追加したサンプル1、サンプル3、サンプル5、サンプル7およびサンプル9の二次電池の充放電サイクル特性を
図37Aおよび
図37Bに示す。
図37Aが放電容量、
図37Bが放電容量維持率である。フッ化リチウムを追加しなかったサンプル2、サンプル4、サンプル6、サンプル8およびサンプル10の二次電池の充放電サイクル特性を
図38Aおよび
図38Bに示す。
図38Aが放電容量、
図38Bが放電容量維持率である。いずれも45℃で測定した。充電はCC/CV(1C,4.6V,0.1Ccut)、放電はCC(1C,2.5Vcut)とし、次の充電の前に10分休止時間を設けた。なお本実施例等において1Cは200mA/gとした。
【0507】
図37A乃至
図38Bに示すように、サンプル1およびサンプル2のようにアニール回数が1回では不十分であり、良好な充放電サイクル特性は得られなかった。アニール回数が2回のサンプル3およびサンプル4では、充放電サイクル特性がやや向上した。アニール回数が3回乃至5回のサンプル5乃至サンプル10は、いずれも良好な充放電サイクル特性を示した。特にアニール回数が3回のサンプル5およびサンプル6が最も良好であった。なお
図38Aおよび
図38Bにおいてサンプル6とサンプル8の線が重畳している。
【0508】
フッ化リチウムの追加の有無では特性に大きな差は出なかったものの、追加しない方が若干よい特性となる傾向があった。
【0509】
900℃10時間のアニールと固着抑制操作を3回繰り返したサンプル6と、900℃30時間のアニールを1回行ったサンプル11の二次電池の充放電サイクル特性を
図39Aおよび
図39Bに示す。
図39Aが放電容量、
図39Bが放電容量維持率である。45℃で測定した。充放電を0.5Cとした他は
図37および
図38と同様の充放電条件とした。
【0510】
図39Aおよび
図39Bに示すように、サンプル6とサンプル11では累計のアニール時間が同じであるにもかかわらず、サンプル6の方がはるかに良好な充放電サイクル特性を示した。これは複数回のアニールと固着抑制操作を繰り返したことで正極活物質の表層部の添加物の分布が良好になったためと推測される。
【0511】
アニール温度を920℃としたサンプル12、サンプル13、サンプル14およびサンプル15の二次電池の充放電サイクル特性を
図40Aおよび
図40Bに示す。
図40Aが放電容量、
図40Bが放電容量維持率である。45℃で測定した。充放電を0.5Cとした他は
図37A乃至
図38Bと同様の充放電条件とした。
【0512】
図40Aおよび
図40Bに示すように、
図37A乃至
図38Bと同様の傾向がみられ、サンプル12のようにアニール回数が1回では不十分であり、良好な充放電サイクル特性は得られなかった。アニール回数が2回のサンプル13では、充放電サイクル特性がやや向上した。アニール回数が3回および4回のサンプル14およびサンプル15は、いずれも良好な充放電サイクル特性を示した。特にアニール回数が3回のサンプル14が最も良好であった。
【0513】
アニール温度を930℃としたサンプル16、サンプル17およびサンプル18の二次電池の充放電サイクル特性を
図41Aおよび
図41Bに示す。
図41Aが放電容量、
図41Bが放電容量維持率である。45℃で測定した。充放電を0.5Cとした他は
図37A乃至
図38Bと同様の充放電条件とした。
【0514】
図41Aおよび
図41Bに示すように、
図37A乃至
図38Bおよび
図40Aおよび
図40Bと同様の傾向がみられた。サンプル16のようにアニール回数が1回では不十分であり、良好な充放電サイクル特性は得られなかった。アニール回数が2回および3回のサンプル17およびサンプル18ではいずれも良好な充放電サイクル特性を示した。特にアニール回数が3回のサンプル18が最も良好であった。
【0515】
アニール温度を950℃としたサンプル19、サンプル20およびサンプル21の二次電池の充放電サイクル特性を
図42Aおよび
図42Bに示す。
図42Aが放電容量、
図42Bが放電容量維持率である。45℃で測定した。充放電を0.5Cとした他は
図37A乃至
図38Bと同様の充放電条件とした。
【0516】
図42Aおよび
図42Bに示すように、
図37A乃至
図38B、
図40A乃至
図41Bと同様の傾向がみられた。サンプル19のようにアニール回数が1回では不十分であり、良好な充放電サイクル特性は得られなかった。アニール回数が2回および3回のサンプル20およびサンプル21ではいずれも良好な充放電サイクル特性を示した。
【0517】
サンプル1乃至サンプル21の初回放電容量および30または50サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。
【0518】
【0519】
表2に示すように、アニール温度は900℃以上930℃以下であるとサイクル特性がよくなる傾向にあった。
【0520】
上記に示すように、本発明の一態様の正極活物質の作製方法により、45℃という比較的高温においても良好なサイクル特性を示す正極活物質を作製できることが示された。
【符号の説明】
【0521】
100:正極活物質、100a:表層部、100b:内部、110:ロータリーキルン、110a:ロータリーキルン、110b:ロータリーキルン、110c:キルン、111:キルン本体、111a:キルン本体、111b:キルン本体、112:加熱手段、112a:加熱手段、112b:加熱手段、113:原料供給手段、113a:原料供給手段、113b:原料供給手段、114:排出部、115:制御盤、116:雰囲気制御手段、117:羽根、120:測定装置、120a:測定装置、120b:測定装置、130:ミル、131a:ミル、131b:ミル、150:ローラーハースキルン、150a:ローラーハースキルン、151:キルン本体、152:ローラー、153a:加熱手段、153b:加熱手段、154:雰囲気制御手段、155:固着抑制手段、155a:固着抑制手段、155b:固着抑制手段、155c:固着抑制手段、157a:遮断板、157b:遮断板、157c:遮断板、158:原料供給手段、160:容器、160a:容器、161:被処理物、170:メッシュベルトキルン、171:キルン本体、172:固着抑制手段、173:加熱手段、174:メッシュベルト、180:マッフル炉、181:熱板、182:加熱手段、183:断熱材、184:雰囲気制御手段、185:固着抑制手段、190:容器、191:被処理物