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特許7637651冷媒量診断装置、冷媒システム及び冷媒量診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】冷媒量診断装置、冷媒システム及び冷媒量診断方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/36 20180101AFI20250220BHJP
   F24F 11/38 20180101ALI20250220BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20250220BHJP
   F24F 11/49 20180101ALI20250220BHJP
【FI】
F24F11/36
F24F11/38
F25B49/02 520H
F25B49/02 520B
F25B49/02 520Z
F24F11/49
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022048845
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023142131
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】國眼 陽子
(72)【発明者】
【氏名】楠本 寛
(72)【発明者】
【氏名】岡 恵子
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 久恵
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 伯之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 規和
(72)【発明者】
【氏名】土橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】緒方 英治
【審査官】塩田 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-292211(JP,A)
【文献】特開2017-053566(JP,A)
【文献】特開2021-042949(JP,A)
【文献】特開2008-196829(JP,A)
【文献】特開2005-098642(JP,A)
【文献】特開2019-152386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0208861(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113654182(CN,A)
【文献】独国特許出願公開第102014221106(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F25B 49/02
B60H 1/00-3/06
B61D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和システムの運転状況データを取得するデータ収集部と、
予め算出されている、前記空気調和システムにおける冷媒量の指標値である基準冷媒量指標値と、取得した前記運転状況データに基づいて算出される前記冷媒量の指標値である実測冷媒量指標値との比又は差分値である冷媒量指標評価値を算出する評価値算出部と、
前記冷媒量指標評価値に基づいて、前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する冷媒量診断部と、
を有し、
前記基準冷媒量指標値は、前記空気調和システムにおける少なくとも1つの運転条件と対応付けられているとともに、前記基準冷媒量指標値は、前記運転条件が有する所定の値に対して対応付けられており、
前記評価値算出部は、
前記空気調和システムの冷媒漏洩が発生していないと予め推測される期間である第1の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第1の冷媒量指標評価値を算出し、
前記冷媒量の診断対象となる期間である第2の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第2の冷媒量指標評価値を算出し、
前記冷媒量診断部は、
前記第1の冷媒量指標評価値に関する情報と、前記第2の冷媒量指標評価値に関する情報とを比較することにより前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する
ことを特徴とする冷媒量診断装置。
【請求項2】
前記基準冷媒量指標値は、シミュレータによる算出、前記空気調和システムの試験結果、又は、ネットワークを介して収集された前記運転状況データに基づいて算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項3】
前記冷媒量診断部は、
前記第1の期間において、算出された複数の前記第1の冷媒量指標評価値の平均値である第1の平均値を前記第1の期間について算出された前記第1の冷媒量指標評価値に関する情報として算出し、前記第2の期間において、算出された複数の前記第2の冷媒量指標評価値の平均値である第2の平均値を前記第2の期間について算出された前記第2の冷媒量指標評価値に関する情報として算出し、
前記第1の平均値と、前記第2の平均値とを比較することにより、前記冷媒量を診断する
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項4】
前記冷媒量診断部は、
前記運転条件の値によって変動する重み付け係数を用いて、前記第1の冷媒量指標評価値及び前記第2の冷媒量指標評価値それぞれの加重平均を算出することによって、前記第1の平均値及び前記第2の平均値を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の冷媒量診断装置。
【請求項5】
前記重み付け係数は、前記空気調和システムにおいて、空調負荷が高い運転条件の方が、前記空調負荷が低い運転条件より高い値である
ことを特徴とする請求項4に記載の冷媒量診断装置。
【請求項6】
前記基準冷媒量指標値は、記憶部に格納されており、
前記記憶部において、
前記基準冷媒量指標値は、前記運転条件をパラメータとした関数、又は、前記運転条件の値と前記基準冷媒量指標値とが対応付けられているマップとして格納されている
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項7】
前記運転条件には、外気温度、冷凍サイクルの高圧側圧力、圧縮機の回転速度のうち、少なくとも1つが含まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項8】
前記冷媒量診断装置は、前記空気調和システムとは別の装置として設置されており、
前記冷媒量診断装置は、通信を介して前記空気調和システムから前記運転状況データを取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項9】
前記冷媒量診断部による診断結果を出力部に出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の冷媒量診断装置。
【請求項10】
前記冷媒量診断装置は、前記空気調和システムを構成する室内機に備えられ、
前記出力部は、前記室内機に備えられている
ことを特徴とする請求項9に記載の冷媒量診断装置。
【請求項11】
空気調和システムを備えるとともに、
前記空気調和システムの運転状況データを取得するデータ収集部と、
予め算出されている、前記空気調和システムにおける冷媒量の指標値である基準冷媒量指標値と、取得した前記運転状況データに基づいて算出される前記冷媒量の指標値である実測冷媒量指標値との比又は差分値である冷媒量指標評価値を算出する評価値算出部と、
前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づいて、前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する冷媒量診断部と、
を有する冷媒診断装置を備える冷媒システムであって、
前記基準冷媒量指標値は、前記空気調和システムにおける少なくとも1つの運転条件と対応付けられているとともに、前記基準冷媒量指標値は、前記運転条件が有する所定の値に対して対応付けられており、
前記評価値算出部は、
前記空気調和システムの冷媒漏洩が発生していないと予め推測される期間である第1の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第1の冷媒量指標評価値を算出し、
前記冷媒量の診断対象となる期間である第2の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第2の冷媒量指標評価値を算出し、
前記冷媒量診断部は、
前記第1の冷媒量指標評価値に関する情報と、前記第2の冷媒量指標評価値に関する情報とを比較することにより前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する
ことを特徴とする冷媒システム。
【請求項12】
鉄道車両に搭載されている
ことを特徴とする請求項11に記載の冷媒システム。
【請求項13】
自動車に搭載されている
ことを特徴とする請求項11に記載の冷媒システム。
【請求項14】
空気調和システムの運転状況データを取得するデータ収集部と、
予め算出されている、前記空気調和システムにおける冷媒量の指標値である基準冷媒量指標値と、取得した前記運転状況データに基づいて算出される前記冷媒量の指標値である実測冷媒量指標値との比又は差分値である冷媒量指標評価値を算出する評価値算出部と、
前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づいて、前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する冷媒量診断部と、
を有し、
前記基準冷媒量指標値は、前記空気調和システムにおける少なくとも1つの運転条件と対応付けられているとともに、前記基準冷媒量指標値は、前記運転条件が有する所定の値に対して対応付けられており、
前記評価値算出部が、
前記空気調和システムの冷媒漏洩が発生していないと予め推測される期間である第1の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第1の冷媒量指標評価値を算出する第1の冷媒量指標評価値算出ステップと、
前記冷媒量の診断対象となる期間である第2の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第2の冷媒量指標評価値を算出する第2の冷媒量指標評価値算出ステップと
を実行し、
前記冷媒量診断部が、
前記第1の冷媒量指標評価値に関する情報と、前記第2の冷媒量指標評価値に関する情報とを比較することにより前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する診断ステップを実行する
ことを特徴とする冷媒量診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒量診断装置、冷媒システム及び冷媒量診断方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの冷却・冷凍・空調システムが、フロン等の冷媒を利用して作動している。これらの冷媒は地球温暖化を進行させるため、大気への漏洩を抑制することが求められている。冷媒の大気への漏洩は、冷凍機、空調機等の冷媒が封入されている機器を廃棄する際に回収しなかった冷媒が大気に漏洩する場合ばかりでなく、機器の使用中に生じる場合も多くある。従って、機器の使用中における冷媒の漏洩を検知することが求められている。
【0003】
これに対し、特許文献1には、「空気調和システムの運転データを取得する運転データ取得部と、前記取得された運転データから冷媒量指標値を算出する算出部と、前記取得された運転データと前記算出された冷媒量指標値との少なくとも一方、および、補正モデルを用いて、冷媒量指標値の補正に関する情報を推論する推論部と、前記冷媒量指標値の補正に関する情報に基づいて、前記空気調和システムの冷媒量を判定する判定部と、を備える」冷媒量判定装置、方法、およびプログラムが開示されている(要約参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、過去の運転データから算出した冷媒量指標値と推論部が推論した正常時の冷媒量指標値の予測値との差または比と、の両方に基づいて空気調和システムの冷媒量を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-042949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、空気調和システムのような機器は、運転条件が周囲の環境やユーザの要求等により変化する。そのため、機器から取得される運転状況データ(運転条件等を含むデータ)には、指令された運転条件へ移行する過渡期のデータが含まれる可能性がある。特に、サンプリング周期が長い場合や、室内機や室外機等の要素機器が多く含まれる機器等では、そのデータが過渡状態のものであるのか安定した状態であるのか判断が難しい。
【0007】
また、機器に封入される冷媒の特徴として、同じ冷媒量が封入されていても、運転条件により温度や圧力からは漏洩が検知しにくい場合がある。
【0008】
特許文献1に記載の手法では、上記のような運転条件に対して補正モデルを適用した場合、正しい冷媒量判定ができない可能性がある。また、特許文献1では、入力項目の補正が不完全な場合についても、判定時の運転条件に近い運転条件であった過去の冷媒量指標値と比較すること等が記載されている。しかしながら、室内機や室外機が複数台ある機器では各要素機器が同じように動いているデータが存在しない可能性もある。すなわち、空調システムを構成する、複数の室内機や、室外機が同じ運転状態で稼働しているとは限らない。その他、特許文献1にはAI(Artificial Intelligence)の活用等による誤検知回避の手法も記載されているが、いずれも計算負荷が高い手法を取り入れる必要がある。
【0009】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、処理負荷を軽減させた冷媒量診断装置、冷媒システム及び冷媒量診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するため、本発明は、空気調和システムの運転状況データを取得するデータ収集部と、予め算出されている、前記空気調和システムにおける冷媒量の指標値である基準冷媒量指標値と、取得した前記運転状況データに基づいて算出される前記冷媒量の指標値である実測冷媒量指標値との比又は差分値である冷媒量指標評価値を算出する評価値算出部と、前記冷媒量指標評価値に基づいて、前記空気調和システムの前記冷媒量を診断する冷媒量診断部と、を有し、前記基準冷媒量指標値は、前記空気調和システムにおける少なくとも1つの運転条件と対応付けられているとともに、前記基準冷媒量指標値は、前記運転条件が有する所定の値に対して対応付けられており、前記評価値算出部は、前記空気調和システムの冷媒漏洩が発生していないと予め推測される期間である第1の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第1の冷媒量指標評価値を算出し、前記冷媒量の診断対象となる期間である第2の期間について、対応する前記運転条件の値を有する前記基準冷媒量指標値と、前記実測冷媒量指標値とに基づく前記冷媒量指標評価値である第2の冷媒量指標評価値を算出し、前記冷媒量診断部は、前記第1の冷媒量指標評価値に関する情報と、前記第2の冷媒量指標評価値に関する情報とを比較することにより前記空気調和システムの前記冷媒量を診断することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理負荷を軽減させた冷媒量診断装置、冷媒システム及び冷媒量診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る冷媒システムを示す図である。
図2】第1実施形態に係る冷媒量診断サーバの構成例を示す図である。
図3】第1実施形態に係る冷媒量診断サーバのハードウェア構成を示す図である。
図4】冷媒量指標値と運転条件、正常時比率、及び、判定時比率との関係を示す図である。
図5】本実施形態における冷媒量判定について説明するための図である。
図6】正常期間における処理の手順を示すフローチャートである。
図7A】判定期間における処理の手順を示すフローチャート(その1)である。
図7B】判定期間における処理の手順を示すフローチャート(その2)である。
図8】第2実施形態における室内機の構成を示す図である。
図9】第2実施形態における室内機の別の例を示す図である。
図10】鉄道車両に本実施形態の冷媒システムが搭載されている例を示す図である。
図11】自動車に本実施形態の冷媒システムが搭載されている例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に示す構成は、以下に示すものに限ったものでなく、冷媒を封入して冷却または加熱するヒートポンプ装置であればよい。例えば、ビル用マルチエアコン等のマルチエアコン、チラーを熱源とするセントラル空調システム、店舗・オフィス用(業務用)エアコン、ルームエアコン等の任意の空気調和システムに本実施形態を適用可能である。また、本実施形態は、冷暖房用途以外のみならず、冷蔵庫等の冷蔵・冷凍システムにも適用可能である。また、本実施形態はヒートポンプ式の給湯器等にも適用可能である。
【0015】
本実施形態では、主として、室内機を複数台備える空気調和システムの冷房運転について説明する。ただし、運転動作は冷房運転だけに限るものではなく、暖房運転も可能な機器においては、冷房負荷及び暖房負荷を合わせた運転状況データを考慮する必要がある。
以下、本発明の第一の実施形態に係る空気調和システムの冷媒量の診断にかかる方法について、図1図7Bを参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[第1実施形態]
まず、図1図7Bを参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
(冷媒システム1)
図1は、第1実施形態に係る冷媒システム1を示す図である。
冷媒システム1は、冷媒量診断サーバ(冷媒量診断装置)100と、空気調和システム200とを備えている。空気調和システム200は、空気調和システム200とは別の装置として設置されており、空気調和システム200の制御基板(図示せず)からネットワークNを介して冷媒量診断サーバ100と通信可能に接続されている。つまり、冷媒量診断サーバ100は、通信を介して空気調和システム200から運転状況データを取得する。なお、運転状況データとは、前記したように空気調和システム200に設けられた各種センサからの信号や、制御信号、設定、設置環境等のデータを含むものである。具体的には、運転状況データは、空気調和システム200から取得できるログデータで、運転データ(圧力・温度・電流)と、設定値(設定温度・正常時の冷媒封入量・室内機ファン風量)等を含むものでる。このように、運転状況データは、実際に運転している空気調和システム200から得られる生データを含むものである。なお、運転状況データは、後記する運転条件のデータを含んでいる。
【0017】
冷媒量診断サーバ100は、空気調和システム200から取得した運転状況データを基に冷媒量の変化を判定する。冷媒量診断サーバ100については後記する。
【0018】
(空気調和システム200)
空気調和システム200は、室外機210と、複数の室内機220とを有する。図1の例では、空気調和システム200は、1台の室外機210と2台の室内機220とを備えているが、室外機210の台数、室内機220の台数は、図1に示す例に限らない。

室外機210は、室外熱交換器である凝縮器211と室外ファンである凝縮側ファン212を備えている。
また、それぞれの室内機220は、室内熱交換器である蒸発器221と、室内ファンである蒸発側ファン222と、膨張弁223を備えている。
そして、室外機210に備えられている凝縮器211と、室内機220に備えられている蒸発器221及び膨張弁223とは、冷媒が封入された流路環状に接続されることで冷媒サイクルを形成している。図1において、冷媒の流れを矢印で示している。ただし、図1において矢印は冷房時の冷媒の流れを示しており、暖房時、冷媒は図1に示す例とは逆向きに流れる。暖房時では、凝縮器211が蒸発器となり、蒸発器221が凝縮器となる。
【0019】
図1に示すように、凝縮器211の出口側と、それぞれの室内機220に設けられている膨張弁223の入り口側との間に膨張弁231が備えられている。さらに、それぞれの室内機220に設けられている蒸発器221の出口側と、室外機210に設けられている凝縮器211の入り口側との間に圧縮機232が設けられている。圧縮機232の近傍には四方弁233が設けられており、冷房時及び暖房時における圧縮機232へ流入する冷媒の流れを制御している。
【0020】
また、空気調和システム200内には、冷媒配管及び周囲空気の温度を測定するサーミスタT1~T7や圧力センサP1~P2が設けられている。それぞれのサーミスタT1~T7や、圧力センサP1~P2は以下のデータを取得する。
【0021】
なお、以下の吐出、吸込、入口、出口等の語句は、図1に示す冷房時における冷媒の流れに基づいている。
サーミスタT1は圧縮機232の吐出側冷媒の温度(冷媒の吐出温度)を測定する。
サーミスタT2は凝縮器211の熱交換温度を測定する。
サーミスタT3は蒸発器221の入口空気温度を測定する。
サーミスタT4は蒸発器221の出口空気温度を測定する。
サーミスタT5は凝縮器211の吸込温度等の外気温度を測定する。
圧力センサP1は圧縮機232の吐出圧力を測定する。
圧力センサP2は圧縮機232の吸込圧力を測定する。
【0022】
その他にも、圧縮機232や、凝縮側ファン212や、蒸発側ファン222の電流値、圧縮機232の回転速度等が、各種設定値等のデータとともに、運転状況データとして冷媒量診断サーバ100へ送信可能となっている。
【0023】
(冷媒量診断サーバ100)
図2は、第1実施形態に係る冷媒量診断サーバ100の構成例を示す図である。適宜、図1を参照する。
冷媒量診断サーバ100は、データ収集部111、算出部112、比率算出部(評価値算出部)113、冷媒量判定部(冷媒量診断部)114、出力処理部115を備えている。
【0024】
データ収集部111は、ネットワークNを介して空気調和システム200の運転状況データを収集する。また、データ収集部111は、計測した運転状況データを履歴データとして副記憶装置130(図3参照)に記録する。
【0025】
具体的には、データ収集部111は、正常期間(第1の期間)の空気調和システム200から運転状況データを一定期間取得する。正常期間とは、空気調和システム200の冷媒漏洩が発生していないと予め推測される期間である。本実施形態では空気調和システム200が稼働開始してから所定期間、空気調和システム200は正常期間であるものとする。
さらに、データ収集部111は、空気調和システム200の判定期間(第2の期間)の運転状況データを取得する。判定期間とは、正常期間以外の期間であり、冷媒量の変化が判定されることによって冷媒量の診断が行われる期間(冷媒量の診断対象となる期間)である。正常期間に対する判定期間の冷媒量の変化が生じている場合、冷媒漏洩が生じていると判定される。
【0026】
算出部112は、正常期間に収集した運転状況データに基づき、実測冷媒量指標値を運転条件毎に算出する。さらに、算出部112は、判定期間に収集した運転状況データに基づき、実測冷媒量指標値を運転条件毎に算出する。実測冷媒量指標値については後記する。
【0027】
比率算出部113は、副記憶装置130(図3参照)に予め格納されている基準冷媒量指標値131と、正常期間で算出された実測冷媒量指標値との比(比率:以降、正常時比率(冷媒量指標評価値)と称する)を算出する。同様に、副記憶装置130に格納されている基準冷媒量指標値131と、判定期間で算出された実測冷媒量指標値との比(以降、判定時比率(冷媒量指標評価値)と記載)を算出する。基準冷媒量指標値131、実測冷媒量指標値、正常時比率、判定時比率のそれぞれについては後記する。
【0028】
冷媒量判定部114は、基準冷媒量指標値131(図3参照)と、実測冷媒量指標値とに基づいて、空気調和システム200の冷媒量を診断する。具体的には、冷媒量判定部114は、正常時比率と判定時比率とを比較し、その差の絶対値が一定の値を超えると冷媒量の変化が生じていると判定する。冷媒量判定部114の処理については後記する。
出力処理部115は、冷媒量判定部114による判定結果(診断結果)、具体的には、冷媒量に変化が生じていると判定した場合、冷媒量の変化が生じている旨の情報を出力装置(出力部)123(図3参照)に出力する。
【0029】
(ハードウェア構成)
図3は、第1実施形態に係る冷媒量診断サーバ100のハードウェア構成を示す図である。適宜、図2を参照する。
図3に示すように、冷媒量診断サーバ100は主記憶装置121、演算装置122、副記憶装置130、出力装置(出力部)123、入力装置124、通信装置125を備える。
主記憶装置121は、RAM(Random Access Memory)等で構成され、演算装置122はCPU(Central Processing Unit)等で構成される。また、副記憶装置130は、HD(Hard Disk)や、SSD(Solid State Drive)等で構成される。また、出力装置123はディスプレイや、プリンタ等で構成され、入力装置124はキーボードや、マウス等で構成される。通信装置125は、空気調和システム200と通信を行うための装置である。
【0030】
副記憶装置130に格納されているプログラムが主記憶装置121にロードされる。そして、ロードされたプログラムが演算装置122によって実行されることにより、図2に示す各部111~115が具現化する。
【0031】
また、主記憶装置121は、比率算出部113の結果である正常時比率、判定時比率等を保持する。
そして、副記憶装置130は、冷媒量に関する値であり、正常時比率や、判定時比率を算出する際の基準となる基準冷媒量指標値131を格納している。基準冷媒量指標値131は空気調和システム200の運転条件と対応付けられて格納されている。なお、基準冷媒量指標値131は、少なくとも1つの運転条件に対応付けられていればよい。運転条件については後記する。基準冷媒量指標値131は、運転条件の値(運転条件値)と基準冷媒量指標値131とが対応付けられているマップの形式で格納されていてもよいし、運転条件をパラメータとした関数の形式で格納されていてもよい。ちなみに、本実施形態では、運転条件の具体的な値を運転条件値と称し、パラメータとして運転条件を扱う場合は運転条件と記載する。
【0032】
なお、運転条件値と基準冷媒量指標値131とが対応付けられているマップの形式で格納さることで、後記するように実測冷媒量指標値と同じ運転条件値を有する基準冷媒量指標値131を取得する処理が容易となる。また、基準冷媒量指標値131と、運転条件の関係を関数の形式で格納することにより、後記するように実測冷媒量指標値と同じ運転条件値を有する基準冷媒量指標値131を取得する処理がマップよりも容易となる。
【0033】
さらに、副記憶装置130には、運転条件に対応した重み付け係数132が格納されている。重み付け係数132は、冷媒量判定部114が、後記する正常時比率平均値や、判定時比率平均値を算出する際に用いるものであり、運転条件によって変動するものである。重み付け係数132については後記する。
【0034】
なお、基準冷媒量指標値131、重み付け係数132は冷媒量診断サーバ100とは別の装置であるデータベースに格納されてもよい。
【0035】
(冷媒量指標値)
以下の説明では、適宜図1を参照する。
本実施形態において、冷媒量指標値は空気調和システム200における冷媒量の指標値である。具体的には、冷媒量指標値は冷媒循環量と凝縮器211の出口における冷媒状態の相関を表す値である。なお、冷媒量指標値とは、実測冷媒量指標値と、基準冷媒量指標値131を含むものである。ちなみに、基準冷媒量指標値131は冷媒漏洩が生じていない場合における理想的な冷媒量指標値である。冷媒量指標値のうち、シミュレータや、試験等によって予め算出されているものを基準冷媒量指標値131と称する。また、空気調和システム200から取得した運転状況データ(実測値)に基づいて算出される冷媒量指標値を実測冷媒量指標値と称する。
冷媒循環量は、以下の(A1)~(A13)のうち、少なくとも1つによって算出される。
【0036】
(A1)圧縮機232の回転速度
(A2)圧縮機232の冷媒吐出圧力(圧力センサP1の測定値)
(A3)圧縮機232の来売吸込圧力(圧力センサP2の測定値)
(A4)圧縮機232の冷媒吐出温度(サーミスタT1の測定値)
(A5)圧縮機232の冷媒の吸込温度
(A6)凝縮器211の入口外気温度(サーミスタT5の測定値)
(A7)凝縮器211の出口外気温度
(A8)凝縮器211の入口冷媒温度
(A9)凝縮器211の熱交換温度(サーミスタT2の測定値)
(A10)蒸発側ファン222の風量
(A11)凝縮側ファン212の風量
(A12)蒸発器221の入口外気温度(サーミスタT3の測定値)
(A13)蒸発器221の出口外気温度(サーミスタT4の測定値)
【0037】
(A1)~(A13)に示すデータは運転状況データに含まれるデータである。なお、圧縮機232の冷媒の吸込温度、凝縮器211の出口外気温度、凝縮器211の入口冷媒温度、蒸発側ファン222の風量、凝縮側ファン212の風量のそれぞれは図示しないセンサによって取得されるデータである。
【0038】
次に、凝縮器211の出口における冷媒状態について記載する。一般的に、空気調和システム200では、凝縮器211において周囲と熱交換されることにより、冷媒はガス相からガスと液が混在した二相状態となり、最終的には液相の状態に変化する。しかし、冷媒漏洩等により冷媒が不足状態となると、凝縮器211の出口において、冷媒の液相の領域が減少したり、液相に至らずに二相状態のままであったりする現象が発生する。これにより、凝縮器211の出口における冷媒状態は、二相域から液域への相変化や、液域の広さに関連した値を用いる。凝縮器211の出口における冷媒状態として具体的には以下の(B1)~(B5)のうち、少なくとも1つが使用される。
【0039】
(B1)膨張弁231の開度
(B2)圧縮機232の冷媒吐出圧力(圧力センサP1の測定値)
(B3)圧縮機232の冷媒吸込圧力(圧力センサP2の測定値)
(B4)凝縮器211の出口外気温度
(B5)凝縮器211の熱交換温度(サーミスタT2の測定値)
【0040】
また、空気調和システム200の冷媒サイクルに過冷却器(図示せず)が備えられている場合、(B1)~(B8)のうち、少なくとも1つが使用可能である。
(B6)過冷却器出口温度
(B7)過冷却膨張弁開度
(B8)過冷却度
【0041】
(B1)~(B8)に示すデータは運転状況データに含まれるデータである。凝縮器211の出口空気温度、過冷却器出口温度、過冷却膨張弁開度は、図示しないセンサによってそれぞれ取得されるデータである。
【0042】
例えば、凝縮器211の出口における冷媒状態を表すものとして膨張弁231の開度が用いられた場合、冷媒サイクルに封入されている冷媒の量である冷媒量が不足する(冷媒漏洩が生じている)と、冷媒量指標値の値が大きくなる。また、凝縮器211の出口における冷媒状態を表すものとして過冷却度が用いられた場合、冷媒量が不足する(冷媒漏洩が生じている)と、冷媒量指標値の値が小さくなる。本実施形態では、冷媒量が不足すると、値が大きくなるような冷媒量指標値を想定しているが、冷媒量が不足すると、値が小さくなるような冷媒量指標値が用いられてもよい。
【0043】
(運転条件)
次に、冷媒量指標値と対応付けられる運転条件について述べる。
一般に、空気調和システム200を含むヒートポンプ装置は、運転条件により動作点が変化する。それに伴い取得されるデータ、及び、そこから算出される冷媒量指標値も変化する。そのため、適切に冷媒量指標値を評価するためには、同等の運転条件で比較することが重要となる。第1実施形態で示す運転条件は、実際に空気調和システム200の冷媒量に変化がないにもかかわらず、冷媒量指標値が変化する外的要因として定義される。運転条件として、具体的には、以下に示す(C1)~(C9)のうち、少なくとも1つが使用される。
【0044】
(C1)凝縮器211の入口外気温度(サーミスタT5の測定値:外気温度)
(C2)圧縮機232の回転速度
(C3)運転している蒸発器221の台数(つまり、室内機220の台数)
(C4)蒸発器221の設定温度(つまり、室内機220の設定温度)
(C5)蒸発側ファン222の風量
(C6)凝縮側ファン212の風量
(C7)蒸発器221の入口外気温度(サーミスタT3の測定値:外気温度)
(C8)蒸発器221の出口外気温度(サーミスタT4の測定値:外気温度)
(C9)圧縮機232の冷媒吐出圧力(圧力センサP1の測定値:冷凍サイクルの高圧側圧力)
【0045】
(C1)~(C9)に示すデータは運転状況データに含まれるデータである。また、(C1)~(C9)の他に、冷房時蒸発器の出入り口温度差に室内ファンの風量を乗じたものである冷房/暖房能力相当量が用いられてもよい。なお、第1実施形態では、上記した冷媒循環量、凝縮器211の出口における冷媒状態、及び、運転条件は、図1に示すような空気調和システム200を制御するために搭載されているセンサから推算可能なものを想定している。しかし、冷媒循環量、凝縮器211の出口における冷媒状態ともこれに限ったものではなく、必要に応じて、温度センサ、圧力センサ、流量計、サイトグラス等が設置されることでデータを取得してもよい。
【0046】
(基準冷媒量指標値131)
次に、第1実施形態に係る冷媒量診断サーバ100が冷媒量を判定する際に使用する基準冷媒量指標値131について記載する。適宜、図1図3を参照する。
副記憶装置130に格納されている基準冷媒量指標値131は、空気調和システム200において、想定しうる運転条件についてシミュレータ等によるシミュレーションによって予め算出されているものである。つまり、副記憶装置130に格納されている基準冷媒量指標値131は、シミュレーションによって、基準冷媒量指標値131は、対応する運転条件が有する所定の運転条件値について、予め算出され、対応付けられている。対応する運転条件が有する所定の運転条件値について、予め算出され、対応付けられるとは、運転条件が有する運転条件値それぞれに対して基準冷媒量指標値131が対応付けられているという意味である。つまり、対応する運転条件が有する所定の運転条件値について、予め算出され、対応付けられるとは、それぞれの運転条件に対する所定の対象範囲内において、離散的あるいは連続的な運転条件値のすべてに対して基準冷媒量指標値131が対応付けられているという意味である。
【0047】
冷媒量診断サーバ100が、複数の空気調和システム200を診断する場合、基準冷媒量指標値131は、それぞれの空気調和システム200で共通としてもよいし、それぞれの空気調和システム200で基準冷媒量指標値131が算出されてもよい。また、基準冷媒量指標値131は、シミュレーションのような計算値に限らなくてもよい。例えば、正常期間の空気調和システム200に対して試験的に運転条件値を変えて得られた運転状況データを基に算出された冷媒量指標値が基準冷媒量指標値131として算出され(空気調和システム200の試験結果)、副記憶装置130に格納されてもよい。冷媒量指標値は、基準冷媒量指標値131と、実測冷媒量指標値とを含むものである。また、基準冷媒量指標値131は、ネットワークN(図1参照)等を介して収集され、診断対象となっている空気調和システム200を含む複数の空気調和システム200(図1参照)から収集した運転状況データに基づいて算出されてもよい。この場合、実稼働データの収集元となる空気調和システム200は互いに同じ機種でもよいし、互いに異なる機種でもよい。
【0048】
あるいは、シミュレーションや、試験や、ネットワークNを介して収集された運転状況データによって算出された基準冷媒量指標値131が混在する形で用いられてもよい。
【0049】
(重み付け係数132)
以下の説明では、適宜図1図3を参照する。
運転条件に対応した重み付け係数132は、空気調和システム200において空調負荷の高い運転条件の方が、空調負荷の低い運転条件より高い値になるように調整されているものである。重み付け係数132は、例えば、ある運転条件は別の運転条件より重み付け係数132が大きい等運転条件毎に設定されてもよい。あるいは、同じ運転条件でも運転条件値が小さい場合は重み付け係数132を小さくし、運転条件値が大きい場合は重み付け係数132を大きくしてもよい。なお、空調負荷の高い運転条件とは単に冷房能力の出力が大きい条件ばかりでなく、例えば、冷罵の凝縮圧力が高い場合等も含める。また、重み付け係数132は必ずしもすべての運転条件に正の数を与える必要はない。例えば、安定状態ではないと予め判断可能な運転条件あるいは運転条件値に対して重み付け係数132が0と設定されてもよい。
【0050】
(冷媒量指標値と運転条件との関係、正常時比率、及び、判定時比率)
図4は、冷媒量指標値と運転条件、正常時比率、及び、判定時比率との関係を示す図である。適宜、図1図3を参照する。
図4において、白抜きの丸印で示されるプロット301が副記憶装置130に格納された基準冷媒量指標値131である。また、斜線の丸印で示されるプロット302が算出部112によって算出される、正常期間での実測冷媒量指標値である。そして、斜線の三角印で示されるプロット303が、判定期間で算出される実測冷媒量指標値である。
【0051】
また、図4に示す例では冷媒量指標値に影響を与える運転条件として2つの運転条件(第1運転条件、第2運転条件)が示されている。つまり、それぞれの冷媒量指標値は、第1運転条件及び第2運転条件の各値対応付けられている。なお、図4において縦軸は冷媒量指標値を示している。
【0052】
ただし、運転条件は2つに限ったものではなく、2つ以上であってもよいし、1つであってもよい。なお、図4に示す例では、第2運転条件が一定の下における冷媒量指標値が示されている。つまり、それぞれの冷媒量指標値は、第1運転条件と冷媒量指標値とで形成される平面上に示されている。
【0053】
また、第1実施形態に係る冷媒量診断サーバ100では、副記憶装置130には、前記した基準冷媒量指標値131が、空気調和システム200において想定される運転条件値毎に予め格納されている。前記したように、基準冷媒量指標値131は、シミュレーションや、実験等によって、運転条件が有する運転条件値のそれぞれについて算出される。図4の例では、第1運転条件及び第2運転条件運転条件値のそれぞれについて基準冷媒量指標値131がシミュレーションや、実験によって算出され、算出された基準冷媒量指標値131は副記憶装置130に格納される。
【0054】
一方で、正常期間及び判定期間それぞれの実測冷媒量指標値は、空気調和システム200で想定される運転条件値のそれぞれに対応付けられている必要はない。つまり、実測冷媒量指標値は、考えられる運転条件値のすべてについて取得する必要はない。さらに、正常期間と判定期間の実測冷媒量指標値のそれぞれにおいて運転条件値が異なっていてよい。
【0055】
まず、正常期間の実測冷媒量指標値は、正常期間に取得した運転状況データ数に応じて複数の実測冷媒量指標値が算出されている。前記したように、本実施形態では、空気調和システム200の稼働開始から所定時間の間は、空気調和システム200が正常に稼働しているものとみなし、稼働開始から所定時間の間を正常期間と称する。
【0056】
そして、比率算出部113は、正常期間について、同じ(対応する)運転条件値を有する基準冷媒量指標値131と、前記実測冷媒量指標値とに基づく正常時比率(冷媒量指標評価値、第1の冷媒量指標評価値)を算出する。具体的には、比率算出部113は、同じ運転条件の値を有する基準冷媒量指標値131と、実測冷媒量指標値との比を算出する。例えば、比率算出部113は、正常期間における実測冷媒量指標値を選択する。ここでは、プロット302aで示される実測冷媒量指標値が選択されたものとする。続いて、比率算出部113は選択した実測冷媒量指標値に対応する運転条件値を取得する。図4に示す例では、符号311で示す運転条件値が取得される。そして、比率算出部113は、取得した運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131を取得する。図4に示す例では、符号311に示す運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131(プロット301a)が取得される。そして、比率算出部113は、取得した基準冷媒量指標値131に対し、同じ運転条件値を有する実測冷媒量指標値の比(比率)を算出する。図4に示す例では、プロット301aで示される基準冷媒量指標値131(値「A1」)に対する、プロット302aで示される実測冷媒量指標値(値「B」)の比「B/A1」が算出される。このような比を正常時比率と称する。
【0057】
比率算出部113は、プロット302a以外の正常期間の実測冷媒量指標値に対しても、それぞれの実測冷媒量指標値と運転条件が一致する基準冷媒量指標値131との比を算出する。このようにして、比率算出部113は正常期間における実測冷媒量指標値のそれぞれについて正常時比率を求める。
【0058】
ちなみに、一般的に正常期間の実測冷媒量指標値は基準冷媒量指標値131に近い値となる。そのため、一般的に正常時比率は1に近い近い値となる。しかし、空気調和システム200の設置環境や施工時の冷媒封入量の違いや個体差によって、正常期間の実測冷媒量指標値が、問題のない範囲で基準冷媒量指標値131とは異なる値となる場合がある。このような場合、正常時比率は1近傍の値をとらない場合がある。
【0059】
同様に、比率算出部113は、判定期間について、同じ(対応する)運転条件の値を有する基準冷媒量指標値131と、実測冷媒量指標値とに基づく判定時比率を算出する。判定期間の実測冷媒量指標値(プロット303)も複数算出されるが、正常期間と同様の手順で判定時比率が求められる。
【0060】
例えば、比率算出部113は、判定期間における実測冷媒量指標値を選択する。ここでは、プロット303aで示される実測冷媒量指標値が選択されたものとする。続いて、比率算出部113は選択した実測冷媒量指標値に対応する運転条件値を取得する。図4に示す例では、符号312で示す運転条件値が取得される。そして、比率算出部113は、取得した運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131を取得する。図4に示す例では、符号312に示す運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131(プロット301b)が取得される。そして、比率算出部113は、取得した基準冷媒量指標値131に対し、同じ運転条件値を有する実測冷媒量指標値の比(比率)を算出する。図4に示す例では、プロット301bで示される基準冷媒量指標値131(値「A2」)に対する、プロット303aで示される実測冷媒量指標値(値「C」)の比「C/A2」が算出される。
【0061】
プロット303a以外の判定期間の実測冷媒量指標値に対しても、基準冷媒量指標値131に対して、運転条件値が一致するそれぞれの実測冷媒量指標値の比が算出される。このように算出される、判定期間における基準冷媒量指標値131と、実測冷媒量指標値との比を判定時比率(冷媒量指標評価値、第2の冷媒量指標評価値)と称する。
【0062】
なお、第1実施形態では、正常時比率及び判定時比率に示すように、実測冷媒量指標値と、基準冷媒量指標値131との比が算出されている。しかし、これに限らず、実測冷媒量指標値と、基準冷媒量指標値131との差分値が正常時比率及び判定時比率の代わりとして用いられてもよい。
【0063】
算出された、すべての正常時比率及び判定時比率は、それぞれの運転条件値に紐づけられた状態で主記憶装置121に格納され、図5に示す冷媒量判定へ進む。
【0064】
(冷媒量判定)
図5は、本実施形態における冷媒量判定について説明するための図である。適宜、図2図3を参照する。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は冷媒量指標値の比である冷媒量指標比率を示す。冷媒量指標比率は、図4で説明した正常時比率、及び、判定時比率を含むものである。
冷媒量判定では、正常期間について算出された正常時比率に関する情報と、判定期間について算出された判定時比率に関する情報とを比較することにより空気調和システム200の冷媒量が診断される。以下、図5を参照して、冷媒量判定について説明する。
【0065】
図5では、正常時比率及び判定時比率が時系列でプロットされている。
前記したように、診断対象の空気調和システム200の稼働開始(もしくは設置)直後から一定期間の間、正常期間411として運転状況データが収集される。そして、収集された運転状況データを基に実測冷媒量指標値が算出される。また、正常期間411の後の期間を判定期間421~423として運転状況データが収集される。そして、収集された運転状況データを基に実測冷媒量指標値が算出される。図5に示すように、判定期間421~423は、所定期間毎に区切られている。
【0066】
正常期間411について複数の正常時比率が算出されている。同様に、判定期間421~423についていずれの期間も複数の判定時比率が算出されている。図5の正常期間411に示されているプロット431は、いずれも正常時比率を示している。同様に、判定期間421~423に示されているプロット431は、いずれも判定時比率を示している。
【0067】
なお、図5ではデータを正常期間411、判定期間421、判定期間422、判定期間4233の4つの期間を分けて説明するが、正常期間411と判定期間4211又は判定期間422又は判定期間342のデータは同一期間のデータを含んでいてもよい。つまり、正常期間411、判定期間421~423が重複した期間を有していてもよい。また、正常期間411、判定期間421~423のそれぞれは必ずしも連続していなくてもよい。
【0068】
冷媒量判定部114は、判定期間421~423それぞれにおいて、期間が終了する時点(時刻441~443)になると、判定時比率の算出及び冷媒量判定処理を行う。ちなみに、正常期間411が終了する時点(時刻440)では正常時比率の算出が行われる。図5に示されている、正常時比率及び判定時比率のプロット431は、時刻440~443のそれぞれで算出された正常時比率及び判定時比率を、それぞれの正常時比率及び判定時比率の元となった運転状況データの取得時刻でプロットし直したものである。
【0069】
ここでは、時刻441で行われる冷媒量判定処理について説明する。時刻441では判定期間421において冷媒量が変化しているか否かが判定される。
冷媒量判定部114は、まず、正常期間411における正常時比率のそれぞれに対して対応付けられている運転条件毎に重み付け係数132を抽出する。そして、冷媒量判定部114は、正常期間411の正常時比率それぞれに、対応する重み付け係数132を乗じて加重平均を算出することで、正常時比率平均値(第1の平均値:第1の冷媒量指標評価値に関する情報)を算出する。図5の実線401は正常時比率平均値を表したものである。正常時比率の中には、正常時比率平均値から下方に乖離したものがある(例えば、プロット431a)。このように正常時比率平均値から乖離した正常時比率の運転条件は、他の正常時比率における運転条件よりも重み付け係数132が低く設定されている。従って、加重平均されることで、プロット431aのように正常時比率平均値から乖離した正常時比率の正常時比率平均値に対する影響を小さくすることができる。冷媒量判定部114は、算出された正常時比率平均値を主記憶装置121に格納する。
【0070】
冷媒量判定部114は、判定期間421でも、正常期間411と同様に判定時比率のそれぞれに対して、副記憶装置130から重み付け係数132を抽出し、当該重み付け係数132で加重平均を算出する。これにより、冷媒量判定部114は、一点鎖線402で示される判定期間421の判定時比率平均値(第2の平均値:第2の冷媒量指標評価値に関する情報)を算出する。
【0071】
そして、冷媒量判定部114は、算出した判定時比率平均値と正常時比率平均値と算出した判定時比率平均値とを比較して、冷媒量を判定する。具体的には、冷媒量判定部114は、正常時比率平均値との差の絶対値と閾値とを比較する。
【0072】
冷媒量判定部114は、時刻442において、判定期間421と同様、判定期間422における判定時比率平均値(一点鎖線403で示されている)を算出する。そして、冷媒量判定部114は、算出した判定時比率平均値と正常時比率平均値との差の絶対値と閾値とを比較する。同様に、冷媒量判定部114は、時刻443において、判定期間423に対する判定時比率平均値(実線404で示されている)を算出する。そして、冷媒量判定部114は、算出した判定時比率平均値と正常時比率平均値との差の絶対値と閾値とを比較する。
【0073】
判定時比率平均値と正常時比率平均値との差の絶対値が、所定の閾値よりも大きい場合、冷媒量判定部114は、対象となっている判定期間421~423では正常期間411と比較して冷媒量変化ありと判定する。逆に、判定時比率平均値と正常時比率平均値との差の絶対値が所定の閾値以下の場合、冷媒量判定部114は、対象となっている判定期間421~423では正常期間411と比較して冷媒量変化なしと判定する。
【0074】
図5に示す例では、一点鎖線403で示される判定期間422の判定時比率平均値と、実線401で示される正常時比率平均値との差は、所定の閾値より大きい。従って、冷媒量判定部114は、正常期間411と比較して判定期間422において冷媒量変化ありと判定する。冷媒量変化ありとは、冷媒漏洩が生じているという意味である。冷媒量変化ありと判定されると、ユーザが冷媒量を検査する。
【0075】
また、図5に示す例では、一点鎖線402で示される判定期間421の判定時比率平均値と、実線401で示される正常期間411の正常時比率平均値との差は、所定の閾値以下である。従って、冷媒量判定部114は、正常期間411と比較して判定期間421において冷媒量変化なしと判定する。
【0076】
同様に、図5に示す例では、実線404で示される判定期間423の判定時比率平均値と、実線401で示される正常期間411の正常時比率平均値との差は、所定の閾値以下である。従って、冷媒量判定部114は、正常期間411と比較して判定期間423において冷媒量変化なしと判定する。
【0077】
なお、図5に示す例では、判定期間422において冷媒量変化あり(冷媒漏洩あり)と判定されたため、判定期間422の終了時点(時刻442)において冷媒が追加封入されている。そのため、判定期間423では判定時比率平均値(実線404)が正常時比率平均値(実線401)と同等になっている。
【0078】
なお、前記したように冷媒量指標値は、冷媒量が多いほど値が大きくなるよう設定することも可能である。このように冷媒量指標値が設定された場合、正常時比率平均値及び判定時比率平均値の時系列データは図5とは上下が逆となる。
【0079】
[正常期間における正常時比率の算出処理]
図6は、正常期間411(図5参照)における処理の手順を示すフローチャートである。適宜、図1図3を参照する。
まず、空気調和システム200の電源がONとなったか否かを基に、データ収集部111は空気調和システム200の稼働が開始されたか否かを判定する(S101)。
稼働が開始されていない場合(S101→No)、データ収集部111はステップS101へ処理を戻る。
稼働が開始された場合(S101→Yes)、データ収集部111が運転状況データを取得する(S102)。なお、運転状況データは一定間隔で取得される。
そして、算出部112が、取得した運転状況データを基に実測冷媒量指標値を算出する(S103)。
【0080】
続いて、比率算出部113はステップS101で空気調和システム200の稼働が開始されてから所定時間が経過したか否かを判定する(S104)。
ステップS104の結果、所定時間が経過していない場合(S104→No)、比率算出部113はステップS102へ処理を戻す。
ステップS104の結果、所定時間が経過している場合(S104→Yes)、比率算出部113は、ステップS103で算出した実測冷媒量指標値のすべてを収集する(S111)。
【0081】
続いて、データ収集部111は、収集した実測冷媒量指標値それぞれに対する運転条件値を運転状況データから抽出する(S112)。
その後、比率算出部113は、副記憶装置130を参照し、抽出した運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131を取得する。そして、比率算出部113は、基準冷媒量指標値131と、ステップS111で収集した実測冷媒量指標値との比を算出することにより、正常時比率を算出する(S113)。ステップS113の処理は、図4において正常時比率(「B/A1」を算出する処理に相当する。
そして、比率算出部113は、算出した正常時比率を主記憶装置121に格納し(S114)、冷媒量診断サーバ100は処理を終了する。
【0082】
図6に示す処理では、正常期間における正常時比率がまとめて算出されているが、ステップS103において、1つ1つ実測冷媒量指標値が算出されるたびに正常時比率が算出されてもよい。
【0083】
(判定期間における処理)
図7A及び図7Bは判定期間421~423(図5参照)における処理の手順を示すフローチャートである。適宜、図1図3を参照する。
判定期間に入ると、データ収集部111が運転状況データを取得する(S201)。なお、運転状況データは一定間隔で取得される。
そして、算出部112が、取得した運転状況データを基に実測冷媒量指標値を算出する(S202)。
続いて、比率算出部113は、最初にステップS201の処理が行われてから所定時間が経過したか否かを判定する(S203)。この所定時間は、図6のステップS104における所定時間と同じ時間でもよいし、異なる時間でもよい。
ステップS203の結果、所定時間が経過していない場合(S203→No)、比率算出部113はステップS201へ処理を戻す。
ステップS203の結果、所定時間が経過している場合(S203→Yes)、比率算出部113は、ステップS202で算出した実測冷媒量指標値のすべてを収集する(S211)。
そして、続いて、データ収集部111は、収集した実測冷媒量指標値それぞれに対する運転条件の値を運転状況データから抽出する(S212)
【0084】
その後、比率算出部113は、副記憶装置130を参照し、抽出した運転条件値に対応する基準冷媒量指標値131を取得する。そして、比率算出部113は、ステップS211で算出した実測冷媒量指標値と、基準冷媒量指標値131との比を算出することにより、判定時比率を算出する(S213)。ステップS213の処理は、図4において判定時比率(「C/A2」を算出する処理に相当する。
そして、比率算出部113は、算出した判定時比率を主記憶装置121に格納する(S214)。
【0085】
図7Bに示す処理は、図5において説明した処理に相当する。
その後、冷媒量判定部114は、主記憶装置121に格納されている正常期間での正常時比率をすべて収集する(図7BのS221)。
その後、冷媒量判定部114は、副記憶装置130を参照し、収集した正常時比率それぞれの運転条件に対応する重み付け係数132を抽出する。そして、冷媒量判定部114は、抽出した重み付け係数132を用いて、ステップS221で収集した正常時比率を加重平均する。重み付け係数132は、対象となる正常時比率に対応付けられている運転条件に基づいて決定される。これにより、冷媒量判定部114は、正常時比率の平均値である正常時比率平均値を算出する(S222:第1の冷媒量指標評価値算出ステップ)。
そして、冷媒量判定部114は、算出した正常時比率平均値を主記憶装置121に格納する(S231)。
【0086】
次に、データ収集部111は、主記憶装置121から図7AのステップS211~S204で算出した空気調和システム200の判定時比率をすべて収集する(S223)。
その後、冷媒量判定部114が、副記憶装置130を参照し、収集した判定時比率それぞれに対応付けられている運転条件の重み付け係数132を抽出する。そして、冷媒量判定部114は、抽出した重み付け係数132を用いて、ステップS223で収集した判定時比率を加重平均する。重み付け係数132は、対象となる判定時比率に対応付けられている運転条件に基づいて決定される。これにより、冷媒量判定部114は判定時比率の平均値である判定時比率平均値を算出する(S224:第2の冷媒量指標評価値算出ステップ)。
【0087】
そして、比率算出部113は、|判定時比率平均値 - 正常時比率平均値|が所定の閾値より大きいか否かを判定する(S241:診断ステップ)。
|判定時比率平均値-正常時比率平均値|が所定の閾値より大きい場合(S241→Yes)、冷媒量判定部114は冷媒量の変化ありと判定する(S242)。出力処理部115は出力装置123に診断結果として冷媒量の変化ありの情報を出力する。
また、|判定時比率平均値-正常時比率平均値|が所定の閾値以下の場合(S241→No)、冷媒量判定部114は冷媒量の変化なしと判定する(S243)。出力処理部115は出力装置123に診断結果として冷媒量の変化なしの情報を出力する。
【0088】
図7Aに示す処理では、ステップS203で所定時間が経過した後、判定期間における判定時比率がまとめて算出されているが、ステップS202で1つ1つ実測冷媒量指標値が算出されるたびに判定時比率が算出されてもよい。
【0089】
なお、第1実施形態では副記憶装置130に格納されている、運転条件毎の重み付け係数132を用いて、正常時比率や、判定時比率の加重平均が算出されている。しかし、診断対象となる空気調和システム200の運転状態によっては、このような重み付け係数132を用いず、正常時比率や、判定時比率のデータ数をもとに単純平均が算出されてもよい。あるいは、取得された運転条件の中で信頼性の高いと考えられる運転条件の値を優先して平均が算出されてもよい。つまり、冷媒量判定部114は取得された運転条件の中で信頼性の高いと考えられる運転条件の値を抽出し、抽出した運転条件の値のみで平均を算出してもよい。
【0090】
一度、空気調和システム200に封入された冷媒について、経時後の量を計測することは困難である。また、空気調和システム200は常時運転条件が変化する。そのため、異なるタイミングにおける冷媒量指標値で冷媒量の診断を行おうとすると、同じ運転条件とすることが困難であり、診断精度の低下が生じる。
【0091】
第1実施形態における冷媒量診断サーバ100では、予め、それぞれの運転条件値に対応付けられている基準冷媒量指標値131が副記憶装置130に格納されている。そして、冷媒量診断サーバ100は、正常期間における基準冷媒量指標値131と実測冷媒量指標値との比(正常時比率)を算出する。さらに、冷媒量診断サーバ100は、判定期間における基準冷媒量指標値131と実測冷媒量指標値との比(判定時比率)を算出する。そして、冷媒量診断サーバ100は、正常時比率と、判定時比率とを比較することで冷媒量の変化(冷媒漏洩の有無)を診断する。このように、第1実施形態における冷媒量診断サーバ100は、稼働データである運転状況データを基に、簡便な方法で冷媒量判定を行うことができる。
【0092】
このようにすることで、運転条件の影響を最小限に抑えることができる。つまり、動作点の違いや、診断対象となっている冷媒量診断サーバ100の設置状況や設定等の個体差の影響を最小限に抑えることができる。従って、精度の高い冷媒量診断を行うことができる。さらに、診断対象となっている冷媒量診断サーバ100の設置状況や設定等の個体差の影響を最小限に抑えることができることから、空気調和システム200毎に診断のためのモデルを生成する必要がない。
【0093】
さらに、実測冷媒量指標値、正常時比率、判定時比率、正常時比率及び判定時比率を用いた冷媒量の判定は、いずれも計算負荷の低い処理である。従って、特許文献1に記載の技術と比較して、処理負荷の大幅な軽減が可能となる。特に、正常時比率平均値や、判定時比率平均値等といった平均値を用いることで、判定の処理負荷の抑制が可能となる。
【0094】
そのため、予め備えた副記憶装置130に格納された基準冷媒量指標値131との同等の運転条件を用いた実測冷媒値を用いて冷媒量判定を行うため、異なる運転条件で判定することによる誤検知を抑制することができる。さらに、前記したように、基準冷媒量指標値131は、運転条件が有する所定の運転条件値に対応付けられている。従って、診断対象となる空気調和システム200が複数あり、それぞれの空気調和システム200で構成が異なる場合でも、それぞれの空気調和システム200に適した基準冷媒量指標値131を用いることで、互いに構成が異なる空気調和システム200でも、容易に本実施形態の冷媒量判定を使用することができる。
また、基準冷媒量指標値131は、前記したようにシミュレータや、試験、他の空気調和システム200から運転状況データを収集することで作成可能である。そのため、診断対象となる空気調和システム200に搭載されているセンサが少ない場合であっても、シミュレータを活用して搭載されているセンサに合わせた基準冷媒量指標値131を生成することができる。従って、搭載されているセンサが少ない場合でも、冷媒量を診断するためにセンサを追加することなく冷媒漏洩の診断が可能である。そのため、空気調和システム200の製造コスト上昇を抑えることができる。
【0095】
さらに、副記憶装置130には運転条件毎に重み付け係数132対応付けられている。前記したように、空気調和システム200において空調負荷の高い運転条件が高い値になるように調整されている。そのため、冷媒量の診断に適した運転条件を有する冷媒量指標値が冷媒量判定に反映されやすい。逆に、冷媒量の診断に適していない運転条件を有する冷媒量指標値は冷媒量判定に反映されにくい。そのため、冷媒量判定の精度を高めることができる。
【0096】
また、冷媒量診断サーバ100が空気調和システム200とは別の装置として設置されることにより、空気調和システム200の集中管理を行うことができる。特に、複数の空気調和システム200が備わっている場合、複数の空気調和システム200の集中管理を行うことができる。
【0097】
以下、第1実施形態の変形例を説明する。
前記したように、第1実施形態における冷媒量指標値(基準冷媒量指標値131、実測冷媒量指標値)は、冷媒量が少ない(不足する)ほど値が大きくなるよう設定されている。従って、判定時比率平均値-正常時比率平均値の値が正の値である場合、冷媒が減っていることを示している。また、判定時比率平均値-正常時比率平均値の値が負の値である場合、冷媒が正常期間411(図5参照)より多いことを示している。これを活用して、判定時比率平均値-正常時比率平均値の値が正の値である場合、出力処理部115が、出力装置123に冷媒不足と出力させてもよい。また、判定時比率平均値-正常時比率平均値の値が負の場合、出力処理部115が、出力装置123に冷媒量が十分である旨を出力させてもよい。
【0098】
あるいは、図7BのステップS241で「Yes」が判定された後、冷媒量判定部114が判定時比率平均値-正常時比率平均値の符号を判定してもよい。そして、正の符号を有する場合、冷媒量判定部114が「冷媒量不足」と判定し、冷媒量判定部114が負の符号を有する場合、図7BのステップS243の処理を行ってもよい。あるいは、図7BのステップS241で判定時比率平均値-正常時比率平均値の値が正の実数である閾値より大きければ「Yes」と判定してもよい。
【0099】
[第2実施形態]
続いて、図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図8は、第2実施形態における室内機220aの構成を示す図である。
図8に示す室内機220aは家庭用の空気調和システム200における室内機220aを想定している。すなわち、診断対象となる空気調和システム200の設置場所は家庭である。そして、室内機220Aの制御基盤(不図示)内に、冷媒量診断部100Aが備えられている。ちなみに、図8において、室内機220aに備えられている蒸発器221、蒸発側ファン222、膨張弁223(それぞれ図1参照)は図示省略している。ちなみに、第2実施形態において、室内機220aに冷媒量診断部100Aが備えられていること以外は、空気調和システム200の構成は図1と同様である。
【0100】
冷媒量診断部100Aは、図2に示す冷媒量診断サーバ100と同様に、データ収集部111、算出部112、比率算出部113、冷媒量判定部114、出力処理部115を備えている。また、表示器(出力部)141は、室内機220aに搭載されている(備えられている)表示装置である。表示器141は、例えば、室内機220aに備えられるLED(Light Emission Diode)ランプである。以降、LEDランプを単にランプと記載する。
【0101】
冷媒漏洩の診断方法は第1実施形態と同様の手法で行われる。本手法は計算負荷の低い手法であるため、図8に示す冷媒量診断部100Aは、図1で示すようなネットワークNを介して冷媒量診断サーバ100と通信する構成がなくとも成立する。つまり、第1実施形態及び第2実施形態で用いられる冷媒漏洩診断方法は、計算負荷が低いため、室内機220aに搭載可能である。
【0102】
具体的には、冷媒量判定部114において冷媒不足が判定された診断結果は、出力処理部115によって、表示器141として室内機220aの筐体に備えられている運転状態を表す表示器141によって表示される。例えば、冷媒不足が判定された場合、表示器141が、冷媒不足が発生していない場合とは異なる、特定の色や点滅の回数等で表示する。家庭用の空気調和システム200では、多くの場合、室内機220aの周囲にユーザがいる。そのため、室内機220aに搭載された表示器141の表示に気づくので、冷媒漏洩をユーザに報知することができる。
【0103】
第2実施形態の冷媒システム1は、冷媒量診断のためにネットワークNを用いた通信を使用しないため、空気調和システム200が運転可能な環境であればどこでも搭載可能である。これにより、冷媒漏洩検知機能を備えた空気調和システム200の普及に貢献することができる。
【0104】
なお、第2実施形態に記載の空気調和システム200は、図8に示すもの限らなくてもよい。
図9は、第2実施形態における室内機220bの別の例を示す図である。図9において、図8と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図9に示す室内機220bには、表示器141の代わりに室内機220bとは別の装置である表示端末142が備えられている。表示端末142は、ユーザ所有のリモコンや、スマートフォンや、タブレット端末等である。
【0105】
表示端末142には、例えば、Bluetooth(登録商標)や、Wi-Fi等の通信機能が備えられている。冷媒量診断部100Aによる冷媒量の診断結果は、Bluetooth(登録商標)や、Wi-Fi等の通信によって、ユーザ所有の表示端末142に送られ、表示端末142が冷媒量の診断結果を表示してもよい。
【0106】
[第3実施形態]
次に、図10及び図11を参照して、本発明の第3実施形態について説明する。
図10は、鉄道車両501に本実施形態の冷媒システム1が搭載されている例を示す図であり、図11は、自動車502に本実施形態の冷媒システム1が搭載されている例を示す図である。
図10に示すように鉄道車両501に本実施形態の冷媒システム1が搭載されたり、図11に示すように自動車502に本実施形態の冷媒システム1が搭載されたりすることが可能である。なお、図10及び図11に示す冷媒システム1は、第1~第2実施形態のそれぞれに記載のものである。
【0107】
また、本実施形態の冷媒システム1において、冷媒量診断サーバ100は、クラウド上に設置されたサーバとすることも可能である。
また、本実施形態において基準冷媒量指標値131、重み付け係数132は副記憶装置130に記憶されているものとしているが、ネットワークN等を介して外部から取得される形式としてもよい。
【0108】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0109】
また、前記した各構成、機能、各部111~115,副記憶装置130等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図3に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU等のプロセッサ(演算装置122)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリや、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0110】
1 冷媒システム
100 冷媒量診断サーバ(冷媒量診断装置)
100A 冷媒量診断部
111 データ収集部
112 算出部
113 比率算出部(評価値算出部)
114 冷媒量判定部(冷媒量診断部)
115 出力処理部
121 主記憶装置
122 演算装置
123 出力装置(出力部)
124 入力装置
125 通信装置
130 副記憶装置
131 基準冷媒量指標値
132 重み付け係数
141 表示器(出力部)
142 表示端末
200 空気調和システム
210 室外機
211 凝縮器
212 凝縮側ファン
220 室内機
221 蒸発器
222 蒸発側ファン
223 膨張弁
231 膨張弁
232 圧縮機
233 四方弁
301 プロット(基準冷媒量指標値)
301a プロット(基準冷媒量指標値)
301b プロット(基準冷媒量指標値)
302 プロット(正常期間の実測冷媒量指標値)
302a プロット(正常期間の実測冷媒量指標値)
303 プロット(判定期間の実測冷媒量指標値)
303a プロット(判定期間の実測冷媒量指標値)
311 符号
312 符号
401 実線(第1の冷媒量指標評価値に関する情報)
402 一点鎖線(第2の冷媒量指標評価値に関する情報)
403 一点鎖線(第2の冷媒量指標評価値に関する情報)
404 実線(第2の冷媒量指標評価値に関する情報)
411 正常期間(第1の期間)
421 判定期間(第2の期間)
422 判定期間(第2の期間)
423 判定期間(第2の期間)
431 プロット(冷媒量指標評価値、第1の冷媒量指標評価値、第2の冷媒量指標評価値)
441 時刻
442 時刻
443 時刻
501 鉄道車両
502 自動車
N ネットワーク
P1 圧力センサ
P2 圧力センサ
T1 サーミスタ
T2 サーミスタ
T3 サーミスタ
T4 サーミスタ
T5 サーミスタ
S222 正常時比率平均値を算出(第1の冷媒量指標評価値算出ステップ)
S224 判定時比率平均値を算出(第2の冷媒量指標評価値算出ステップ)
S241 |判定時比率平均値-正常時比率平均値|>閾値(診断ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11