(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】微小気泡の分散液
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20250220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250220BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P35/00
A61P41/00
(21)【出願番号】P 2023000326
(22)【出願日】2023-01-04
(62)【分割の表示】P 2017236430の分割
【原出願日】2017-12-08
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】509332671
【氏名又は名称】大平 猛
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大 平 猛
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-245817(JP,A)
【文献】柘植秀樹,マイクロバブル・ナノバブルの基礎,日本海水学会誌,2010年,Vol.64,No.1,pp.4-10,全文,特に
図6,第4頁左欄第10-12行,第6頁右欄第2-8行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞・漿膜接着の剥離用分散液であって、
平均粒径1~900μmである
帯電したマイクロバブルを含み、
前記
帯電したマイクロバブルは、前記分散液1ccに対し10
5~10
10個含まれ
、
前記帯電したマイクロバブルのバルーニング効果によって、前記癌細胞と前記漿膜間で前記マイクロバブルが癌細胞を持ち上げ、漿膜から前記癌細胞を剥離・除去することを特徴とする
癌細胞・漿膜接着の剥離用分散液。
【請求項2】
前記癌細胞は、
漿膜と接着することで漿膜播種性転移を成立させる癌細胞であり、
癌細胞・漿膜接着の剥離用分散液は、漿膜から前記癌細胞を剥離・除去することで、漿膜播種性転移を防ぐためのものであることを特徴とする請求項1に記載の癌細胞・漿膜接着の剥離用分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小気泡の分散液に係り、特にナノバブル又は/及びマイクロバブルを含んだ医療のための微小気泡の分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノバブル分散液は直径1μm未満の粒径の微小気泡を含んでおり、生物の生理活性を促進する作用効果を有することから様々な産業分野での注目を集めている。先行技術として、特許文献1及び2には、ナノバブル分散液を製造する方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、これらの先行技術には、ナノバブル分散液を医療の分野に利用することが記載されていない。ナノバブルよりも粒径が大きなマイクロバブルもナノバブルと同様な作用効果が考えられるが、マイクロバブル分散液を医療の分野に利用することも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-131768号公報
【文献】特許第4144669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、本発明の目的は、ナノバブル分散液又はマイクロバブル分散液が医療分野に有効利用できるための手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、正又は負に帯電した平均粒径が10~500nmであるナノバブルを含むナノバブル分散液を患部に接触させることを特徴とする。
【0007】
前記ナノバブル分散液を患部に接触させることにより、患部の病原性微生物に対する抗菌効果を制御することが好ましい。
【0008】
又、前記ナノバブル分散液を患部に接触させることにより、患部の腫瘍細胞を破砕することが好ましい。
【0009】
本発明は、正又は負に帯電した平均粒径1~900μmであるマイクロバブルを含むマイクロバブル分散液を患部に接触させることを特徴とする。
【0010】
前記マイクロバブル分散液を患部に接触させることにより、マイクロバブルのバルーニング効果によって患部の血性あるいは非血性感染性粘性排出物又は血性あるいは非血性感染性浸出物を破砕して洗浄することが好ましい。
【0011】
前記マイクロバブル分散液を患部に接触させることにより、マイクロバブルのバルーニング効果によって患部の前記血性凝血塊を破砕して除去することが好ましい。
【0012】
前記マイクロバブル分散液を患部に接触させることにより、マイクロバブルのバルーニング効果によって患部の腫瘍細胞を剥離して除去することが好ましい。
【0013】
正又は負に帯電した平均粒径が10~500nmであるナノバブルを含むナノバブル分散液と正又は負に帯電した平均粒径1~900μmであるマイクロバブルを含むマイクロバブル分散液との混合液を患部に接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノバブルを含むナノバブル分散液又は/及びマイクロバブルを含むマイクロバブル分散液を医療分野に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】粘性排出物又は感染性浸出物に対するマイクロバブルの作用を説明する模式図である。
【
図2】癌細胞の漿膜剥離性を示すコントロールとの剥離に要する時間比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を各実施形態により具体的に説明する。
本発明は、ナノバブル分散液又はマイクロバブル分散液あるいはこれらの分散液の混合液を患部に接触させて行うものである。
【0017】
本発明に用いるナノバブル分散液は、ナノバブルを液体中に分散させることにより形成される。ナノバブルとしては、平均粒径が10~500nmとなっているナノオーダーの微小気泡が用いられる。平均粒径が10nm未満の気泡では、気泡が小さくなりすぎて医療目的の組織への作用力が小さくなって好ましくなく、平均粒径が500nmを越えると、液体中での分散性が低下し、結果として医療目的の組織への作用力が小さくなって好ましくない。
【0018】
又、ナノバブルは正又は負に帯電した状態で液体に分散されている。正又は負のいずれかに帯電することにより、ナノバブルが相互に反撥し合うため、液体中での分散性が良好となる。そして分散性が良好となることにより満遍なく患部へ接触することができる。患部への接触は、分散液を患部に塗布したり、分散液を染み込ませたガーゼを患部に当てたり、患部を分散液に浸漬する等により行うことができる。
【0019】
ナノバブルは液体1ccに対し105~1010個程度含まれていることが良好である。この含有量とすることにより、組織への作用力を良好に発揮することができる。さらに、ナノバブルはゼータ電位が10~200mVであることが好ましい。この範囲を逸脱したゼータ電位では、液体中の分散性が低下して好ましくない。
ナノバブルを分散させる液体としては、オゾン水や滅菌水が選択される。この内、オゾン水は、オゾンをナノバブルとして用いることができる。
【0020】
本発明では、このようなナノバブル分散液を患部の組織に接触させて行う。病原性微生物の場合、ナノバブル分散液を患部の組織に接触させることにより、病原性微生物を殺菌させて抗菌効果を向上させることができる。
これは帯電したナノバブルが静電気的に病原性微生物の細胞膜に接合し、穿刺して細胞膜を破壊し、核等の細胞内構造物が逸脱して細胞が死滅することによる。このとき、オゾンを含む場合には、オゾンによる細胞膜の破壊も伴う。又、帯電しているナノバブルが患部の細胞と接触すると、エンドサイトーシス又はファゴサイトーシスによってナノバブルが細胞内に侵入し、細胞内のライソゾームへ搬送されてライソゾームを破壊し、ライソゾーム内の消化酵素の原形質が脱失して細胞の内側から細胞を破壊することによる。
【0021】
本発明では、ナノバブル分散液を癌細胞等の腫瘍細胞に接触させることにより腫瘍細胞を破砕して死滅させることができる。
病原性微生物の場合と同様に、ナノバブルが癌細胞等の腫瘍細胞と接触すると、帯電したナノバブルが腫瘍細胞に静電気的に接合し、穿刺して細胞膜を破壊し、細胞核等の細胞内構造物が逸脱して細胞が死滅する。このとき、オゾンを含む場合には、オゾンによる細胞膜の破壊も伴う。これらにより抗腫瘍性が発揮される。
又、帯電しているナノバブルが細胞と接触すると、エンドサイトーシス又はファゴサイトーシスによってナノバブルが腫瘍細胞内に侵入し、腫瘍細胞内のライソゾームへ搬送されてライソゾームを破壊し、ライソゾーム内の消化酵素の原形質が脱失して腫瘍細胞の内側から細胞が破壊することによる。これによっても抗腫瘍性が発揮される。
【0022】
本発明では、ナノバブル分散液の他にマイクロバブル分散液を用いることができる。マイクロバブル分散液は、平均粒径が1~900μmとなっているマイクロオーダーの微小気泡を液体中に分散させることにより形成される。平均粒径が1μm未満では、医療目的の組織への作用力が小さくなって好ましくなく、平均粒径が900nmを越えると、液体中での分散性が低下し、結果として医療目的の組織への作用力が小さくなって好ましくない。
【0023】
マイクロバブルは正又は負に帯電した状態で液体に分散されている。正又は負のいずれかに帯電することにより、マイクロバブルが相互に反撥し合うため、液体中での分散性が良好となる。そして、分散性が良好となることにより満遍なく組織へ接触することができる。
以上に加えて、マイクロバブルはナノバブルと同様に、液体1ccに対し105~1010個程度含まれていることが良好である。この含有量とすることにより、組織への作用力を良好に発揮することができる。さらに、マイクロバブルはゼータ電位が10~200mVであることが好ましい。この範囲を逸脱したゼータ電位では、液体中の分散性が低下して好ましくない。
【0024】
患部が血性あるいは非血性感染性粘性排出物又は血性あるいは非血性感染性浸出物の場合、本発明のマイクロバブル分散液を患部の血性あるいは非血性感染性粘性排出物又は血性あるいは非血性感染性浸出物に接触させる。
マイクロバブル分散液はバルーニング効果を有している。バルーニング効果は、マイクロバブルが数秒~数十秒の間に数mmの大きさに膨化する現象である。マイクロバブル分散液が血性あるいは非血性感染性粘性排出物又は血性あるいは非血性感染性浸出物に接触すると、バルーニング効果によってこれらを数μm~数百μmの範囲に破砕するため、洗浄効率を著しく向上させることができる。
より詳しくは、帯電されることによりマイクロバブルが収縮性クーロン力を有しており、マイクロバブル分散液がバブル内ガス分子のエントロピー増大力とのバランスでバブル径増大傾向をコンロトールすることによって、粘性排出物および粘性浸出物をマイクロバブルによってもたらされるバルーニング効果にて破砕する。このことにより洗浄効率を著しく向上させることができる。
【0025】
図1は、この場合のマイクロバブルの作用を説明する模式図である。マイクロバブルの帯電性と小サイズを生かして喀痰等の粘性分泌物の内部に侵入し、マイクロバブルのバル-ニング効果によって粘性分泌物を内面より破砕する。このとき、ファイバー繊維のみを残して粘性分泌物を粉砕するため、粘性分泌物の早急で完全な洗浄性を保持することができる。このためデブリドマン(不良肉芽や壊死組織の排除・洗浄)を短時間に完了し、創傷治癒を遅延させる局所汚染因子を肉眼レベルで瞬時に完全に除去することが可能となる。
【0026】
患部が血性凝血塊の場合、本発明のマイクロバブル分散液を血性凝血塊に接触させ、マイクロバブルのバルーニング効果によって前記血性凝血塊を破砕して除去することができる。この作用は上述した
図1と同様である。
【0027】
マイクロバブルの帯電性と小サイズ特性を生かしてマイクロバブルが凝血塊の内部に侵入し、マイクロバブルのバルーニング効果によって凝血塊を内面より破砕し、ファイバー繊維のみを残し凝血塊を粉砕する。これにより凝血塊の早急で完全な洗浄性を保持することができる。従って洗浄凝血塊による手術の視野確保ができる。
【0028】
一般的に、脾臓からの出血により腹腔内巨大血腫と血性腹水が充たされる。従来では、生理食塩水によって何分洗浄してもゼリー状の凝血塊が残り、洗浄ノズルが詰まっているが、本発明では、脾臓からの出血によって腹腔内巨大血腫と血性腹水が充たされた後でも、バルーニング効果時の5秒間の霧状生理食塩水の曇りを生じることはあるが、その後、凝血塊は全て破砕できる。このためクリアな視野を確保しながら体腔内洗浄を遂行することができ、手術操作の早期復帰・続行が可能となる。
【0029】
患部が癌細胞等の腫瘍細胞の場合、本発明のマイクロバブル分散液を腫瘍細胞に接触させ、マイクロバブルのバルーニング効果によって腫瘍細胞を剥離して除去する。以下、癌細胞を例にして説明する。
【0030】
癌細胞が細胞外接着因子によって腹膜・胸膜・心膜などの漿膜と接着し、同漿膜に癌漿膜播種転移を成立させる。これに対し、マイクロバブル分散液を癌細胞に接触させると、癌細胞・漿膜間への帯電したマイクロバブルの電気的接合及び小サイズに起因した侵入性により癌細胞の間に介在する。そして帯電したマイクロバブルのバルーニング効果により癌細胞・漿膜間でマイクロバブルが車両用ジャッキと同様の原理で細胞を持ち上げる。これにより癌細胞接着因子による癌細胞・漿膜接着の剥離が行われ、漿膜播種性転移の防止・除去を達成することができる。
【0031】
図2は、癌細胞の漿膜剥離性を示すコントロールとの剥離に要する時間比較を示す。全ての癌細胞において、帯電性のマイクロバブル分散液の剥離・洗浄の優位性が示されている。
図2は外科手術の対象となる癌細胞であり、「AGS」は胃腺癌、「KATO III」は胃癌、「ASPC-1」は転移性膵臓癌、「MIAPaCa-2」は膵臓癌、「HepG2」は肝癌、「DlD-1」、「HT-29」、「LS180」は結腸腺癌の癌細胞を示す。
【0032】
本発明においては、以上のナノバブル分散液とマイクロバブル分散液を混合した混合液を患部に接触させて治療に用いることができる。混合液を用いる場合には、ナノバブル分散液とマイクロバブル分散液と双方の効用を発揮することができる。すなわちナノバブル分散液によって、病原性微生物に対する抗菌及び腫瘍細胞の破砕ができ、マイクロバブル分散液によって、同分散液が有するマイクロバブルのバルーニング効果により血性あるいは非血性感染性粘性排出物又は血性あるいは非血性感染性浸出物の破砕・洗浄ができ、血性凝血塊の破砕・除去ができ、腫瘍細胞の剥離・除去ができる。