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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H10D 8/60 20250101AFI20250220BHJP
   H10D 8/01 20250101ALI20250220BHJP
   H10D 62/10 20250101ALI20250220BHJP
   H10D 64/64 20250101ALI20250220BHJP
【FI】
H10D8/60 M
H10D8/60 D
H10D8/60 E
H10D8/60 Z
H10D8/01 S
H10D8/60 F
H10D62/10 101G
H10D62/10 101V
H10D64/64
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023110545
(22)【出願日】2023-07-05
(62)【分割の表示】P 2021191322の分割
【原出願日】2013-06-05
(65)【公開番号】P2023126914
(43)【公開日】2023-09-12
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2012129219
(32)【優先日】2012-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 泰宏
【審査官】戸川 匠
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-157547(JP,A)
【文献】特開2008-103436(JP,A)
【文献】特表2009-524217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0001382(US,A1)
【文献】特開平10-125936(JP,A)
【文献】特開2010-225914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0256699(US,A1)
【文献】特表2008-518445(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0086939(US,A1)
【文献】特表2014-500620(JP,A)
【文献】国際公開第2012/064636(WO,A2)
【文献】特開平09-283771(JP,A)
【文献】特開2012-023199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0018836(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10D 8/60
H10D 8/01
H10D 62/10
H10D 64/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面および裏面を有するSiC半導体層と、
前記SiC半導体層の前記表面上に形成され、厚さ10nm~150nmのモリブデンからなるショットキー層と、
前記ショットキー層上に形成されたアルミニウム電極層と、
前記SiC半導体層の前記裏面に形成されたカソード電極とを含み、
前記ショットキー層と前記SiC半導体層の前記表面との間にショットキー接合部が形成され、
前記SiC半導体層の前記ショットキー接合部のみに複数の凹部が形成されており、
前記SiC半導体層の前記表面において前記ショットキー接合部を除く領域には、前記ショットキー接合部に形成された前記複数の凹部と同様の凹部が形成されておらず、
前記ショットキー層の一部は、前記複数の凹部に埋め込まれている、半導体装置。
【請求項2】
前記SiC半導体層の前記表面に形成された開口を有するフィールド絶縁膜であって、
傾斜部および平坦部を含み、かつ前記開口を介して前記ショットキー層が前記SiC半導体層の前記表面に接して前記ショットキー接合部を形成しているフィールド絶縁膜を含み、
前記ショットキー層および前記アルミニウム電極層は、前記フィールド絶縁膜の前記傾斜部および前記平坦部の一部の両方を覆うように形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記フィールド絶縁膜の前記開口の周縁から前記アルミニウム電極層の外周縁までの前記アルミニウム電極層の部分は、10μm以上の幅を有している、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
表面および裏面を有するSiC半導体層と、
前記SiC半導体層の前記表面上に形成され、厚さ10nm~150nmのモリブデンからなるショットキー層と、
前記ショットキー層上に形成されたアルミニウム電極層と、
前記SiC半導体層の前記裏面に形成されたカソード電極と、
前記SiC半導体層の前記表面に形成された開口を有するフィールド絶縁膜であって、
傾斜部および平坦部を含み、かつ前記開口を介して前記ショットキー層が前記SiC半導体層の前記表面に接して前記ショットキー接合部を形成しているフィールド絶縁膜と、
前記ショットキー層と前記アルミニウム電極層との間に形成され、60nm~190nmの厚さを有するチタン層を含み、
前記ショットキー層と前記SiC半導体層の前記表面との間にショットキー接合部が形成され、
前記SiC半導体層の前記ショットキー接合部のみに複数の凹部が形成されており、
前記SiC半導体層の前記表面において前記ショットキー接合部を除く領域には、前記ショットキー接合部に形成された前記複数の凹部と同様の凹部が形成されておらず、
前記ショットキー層の一部は、前記複数の凹部に埋め込まれており、
前記ショットキー層および前記アルミニウム電極層は、前記フィールド絶縁膜の前記傾斜部および前記平坦部の一部の両方を覆うように形成されている、半導体装置
【請求項5】
前記フィールド絶縁膜は、0.5μm~3μmの厚さを有している、請求項2~4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記SiC半導体層は、基板と、前記基板上のエピタキシャル層とを含み、
前記基板は、50μm~600μmの厚さを有している、請求項2~5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記フィールド絶縁膜は、Siを含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体装置の長さ方向および幅方向の大きさは、それぞれ、0.5mm~20mmである、請求項2~7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記アルミニウム電極層の外周部および前記SiC半導体層の前記表面の一部を覆う表面保護膜をさらに含む、請求項2~8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記表面保護膜は、窒化シリコン膜および前記窒化シリコン膜上のポリイミド膜を含む2層構造を有している、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記ショットキー接合部を取り囲むように前記SiC半導体層に形成されたガードリングをさらに含む、請求項2~10のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記SiC半導体層は、第1導電型を有している、請求項2~11のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記ショットキー接合部および前記ガードリングの内周部は、前記フィールド絶縁膜の前記開口から選択的に露出している、請求項11に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記SiC半導体層の前記表面の一部は、前記フィールド絶縁膜の周囲から露出しており、
前記アルミニウム電極層の外周部および前記露出した前記SiC半導体層の前記表面の一部を覆う表面保護膜をさらに含む、請求項2~8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項15】
各前記凹部は、5nm以下の深さを有している、請求項1~14のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記アルミニウム電極層の外周部を越えて外側に延びるように前記SiC半導体層に形成されたガードリングをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記アルミニウム電極層の外周部および前記SiC半導体層の前記表面の一部を覆う表面保護膜をさらに含み、
前記表面保護膜の周縁部は、前記SiC半導体層の端面にまで至っている、請求項1~8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記凹部は、5nm以下の深さを有し、前記SiC半導体層上に不規則に配列されている、請求項1~17のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCからなるショットキーバリアダイオードを備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ制御システム、電力変換システム等、各種パワーエレクトロニクス分野におけるシステムに主として使用される半導体パワーデバイスが注目されている。半導体パワーデバイスとして、SiCショットキーバリアダイオードが公知である(たとえば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-79339号公報
【文献】特開2011-9797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、逆方向リーク電流を従来と同程度に抑えながら、順方向電圧を低減することができ、さらに、逆方向リーク電流のばらつきを小さくすることができる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための半導体装置は、第1導電型のSiC半導体層と、前記SiC半導体層の表面に接するモリブデンからなり、10nm~150nmの厚さを有するショットキーメタルとを含み、前記SiC半導体層の前記ショットキーメタルとの接合部は、平坦もしくは5nm以下の凹凸構造である。
【0006】
この構成によれば、SiC半導体層のショットキーメタルとの接合部が平坦もしくは5nm以下の凹凸構造である。これにより、逆方向リーク電流を従来と同程度に抑えながら、順方向電圧を低減することができる。
【0007】
さらにこの構造において、モリブデンからなるショットキーメタルの厚さが10nm~150nmであるため、ショットキーメタルからSiC半導体層に加わる応力を緩和でき、しかもその応力のばらつきを小さくすることができる。そのため、前記半導体装置を量産した場合に、逆方向リーク電流のばらつきを小さくすることができる。その結果、逆方向リーク電流が一定範囲に収まるような品質の半導体装置を安定して供給することができる。また、前記ショットキーメタルの厚さを10nm~100nmとすれば、逆方向リーク電流のばらつきをさらに小さくすることができる。
【0008】
前記ショットキーメタルは、縦断面において結晶界面が露呈しない単一の結晶構造を有することが好ましい。この構成により、ショットキーメタルの特性を全体に渡って均一にすることができる。
【0009】
前記半導体装置は、前記ショットキーメタル上に形成されたアノード電極を含み、前記アノード電極は、前記ショットキーメタルとの接合部にチタン層を含むことが好ましい。その場合、前記アノード電極は、前記チタン層上に形成されたアルミニウム層を含んでいてもよい。
【0010】
また、前記半導体装置は、前記SiC半導体層の裏面に接するニッケルコンタクト層を含むことが好ましい。
【0011】
また、前記半導体装置は、前記ニッケルコンタクト層上に形成されたチタン層を含むカソード電極を含んでいてもよい。その場合、前記ニッケルコンタクト層と前記カソード電極との間には、チタンおよびカーボンを含む合金層がさらに形成されていてもよい。
【0012】
また、前記半導体装置は、前記ニッケルコンタクト層上に形成されたカーボン層をさらに含んでいてもよい。
【0013】
また、前記半導体装置は、前記SiC半導体層の前記接合部を取り囲むように形成された第2導電型のガードリングを含んでいてもよい。その場合、前記SiC半導体層がn型SiCからなり、前記ガードリングがp型SiCからなっていてもよい。
【0014】
また、前記ガードリングは、前記ショットキーメタルの外周縁よりも外方に延びるように形成されていることが好ましい。
【0015】
半導体装置に接続される負荷が誘導性であるときには、負荷に流れる電流を遮断すると、負荷に逆起電力が発生する。この逆起電力に起因して、アノード側が正となる逆電圧が、アノード-カソード間にかかる場合がある。このような場合に、ガードリングの抵抗値を比較的低くできるので、ガードリング内に流れる電流による発熱を抑制することができる。その結果、デバイスが熱破壊することを防止することができる。つまり、誘導負荷耐量(L負荷耐量)を向上させることができる。
【0016】
さらに、前記半導体装置が、前記SiC半導体層の表面に形成され、前記SiC半導体層の前記接合部および前記ガードリングの内周部を選択的に露出させる開口が形成されたフィールド絶縁膜を含む場合、前記ショットキーメタルは、前記開口内で前記SiC半導体層と接合されると共に、前記開口の周縁から10μm~60μmの乗り上がり量で、前記フィールド絶縁膜に乗り上がっていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、前述のようにアノード-カソード間に逆電圧がかかった場合に、ガードリング内に流れる電流の距離を短くできるので、当該電流による発熱を抑制することができる。その結果、デバイスが熱破壊することを防止することができる。
【0018】
したがって、前述のガードリングのドーパント濃度と、ショットキーメタルのフィールド絶縁膜上の乗り上がり量とを組み合わせれば、優れた誘導負荷耐量(L負荷耐量)を実現することができる。
【0019】
また、前記ショットキーメタルは、その外周縁が前記ガードリングに接するように形成されていてもよい。
【0020】
上記課題を解決するための半導体装置の製造方法は、第1導電型のSiC半導体層の表面に、10nm~150nmの厚さを有するモリブデンからなるショットキーメタルを形成する工程と、前記ショットキーメタルの表面を露出させた状態で前記ショットキーメタルを熱処理し、前記SiC半導体層の前記ショットキーメタルとの接合部を、平坦もしくは5nm以下の凹凸構造にする工程とを含む。
【0021】
この方法によれば、SiC半導体層のショットキーメタルとの接合部が平坦もしくは5nm以下の凹凸構造にされる。これにより、逆方向リーク電流を従来と同程度に抑えながら、順方向電圧を低減することができる半導体装置を提供することができる。
【0022】
さらにこの構造において、モリブデンからなるショットキーメタルの厚さが10nm~150nmであるため、ショットキーメタルからSiC半導体層に加わる応力を緩和でき、しかもその応力のばらつきを小さくすることができる。そのため、この方法によって得られる半導体装置を量産した場合に、逆方向リーク電流のばらつきを小さくすることができる。その結果、逆方向リーク電流が一定範囲に収まるような品質の半導体装置を安定して供給することができる。
【0023】
前記SiC半導体層を熱処理する工程は、酸素の存在しない雰囲気で実行されることが好ましい。具体的には、前記SiC半導体層を熱処理する工程は、窒素雰囲気で実行されることが好ましい。その場合、前記SiC半導体層を熱処理する工程は、抵抗加熱炉を用いて実行されることが好ましい。
【0024】
これらの方法によれば、熱処理時にショットキーメタル(モリブデン)が酸化されて、ショットキーメタルの表面部が酸化モリブデンに変質することを防止することができる。
【0025】
前記半導体装置の製造方法は、前記ショットキーメタル上にアノード電極を形成する工程を含み、前記アノード電極を形成する工程では、前記ショットキーメタルに接するようにチタン層を形成することが好ましい。その場合、前記アノード電極を形成する工程は、前記チタン層に接するようにアルミニウム層を形成する工程を含んでいてもよい。
【0026】
また、前記半導体装置の製造方法は、前記ショットキーメタルの形成前に、前記SiC半導体層の裏面にニッケルコンタクト層を形成し、当該ニッケルコンタクト層を熱処理する工程を含むことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の平面図である。
図2図2は、図1の切断面線II-IIから見た断面図である。
図3図3は、図2の破線円内の拡大図である。
図4図4は、前記半導体装置の製造工程の一例を説明するための流れ図である。
図5図5は、図1の半導体装置に変形形態を示す図である。
図6図6は、図1の半導体装置に変形形態を示す図である。
図7図7は、図1の半導体装置に変形形態を示す図である。
図8図8は、参考例1のショットキー界面のTEM画像である。
図9図9は、比較例1のショットキー界面のTEM画像である。
図10図10は、実施例1および比較例1それぞれの、VfとIrとの相関図である。
図11図11は、実施例1および比較例1それぞれの、If-Vf曲線(Ta=25℃)である。
図12図12は、実施例1および比較例1それぞれの、If-Vf曲線(Ta=125℃)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置の平面図である。図2は、図1の切断面線II-IIから見た断面図である。図3は、図2の破線円内の拡大図である。
【0030】
半導体装置1は、SiCが採用された素子であり、たとえば、平面視正方形のチップ状である。なお、半導体装置1は、平面視長方形であってもよい。そのサイズは、図1の紙面における上下左右方向の長さがそれぞれ0.5mm~20mmである。すなわち、半導体装置1のチップサイズは、たとえば、0.5mm/□~20mm/□である。
【0031】
半導体装置1の表面は、環状のガードリング2によって、ガードリング2の内側のアクティブ領域3と、ガードリング2の外側の外周領域4とに区画されている。ガードリング2は、たとえば、p型ドーパントを含む半導体層である。含まれるドーパントとしては、たとえば、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ar(アルゴン)等を使用できる。また、ガードリング2の深さは、100nm~1000nm程度であってよい。
【0032】
図2を参照して、半導体装置1は、n+型SiCからなる基板5と、基板5の表面5Aに積層されたn-型SiCからなるドリフト層6とを含む。この実施形態では、基板5およびドリフト層6が、本発明のSiC半導体層の一例として示されている。
【0033】
基板5の厚さは、50μm~600μmであり、その上のドリフト層6の厚さは、3μm~100μmであってもよい。また、基板5およびドリフト層6に含まれるn型ドーパントとしては、たとえば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)等を使用できる。基板5およびドリフト層6のドーパント濃度の関係は、基板5のドーパント濃度が相対的に高く、ドリフト層6のドーパント濃度が基板5に比べて相対的に低い。具体的には、基板5のドーパント濃度は、1×1018~1×1020cm-3であり、ドリフト層6のドーパント濃度は、5×1014~5×1016cm-3であってもよい。
【0034】
基板5の裏面5B(たとえば、(000-1)C面)には、その全域を覆うようにニッケル(Ni)コンタクト層7が形成されている。ニッケルコンタクト層7上には、カソード電極8が形成されている。ニッケルコンタクト層7は、基板5との間にオーミック接合を形成するニッケル含有金属からなる。そのような金属は、たとえば、ニッケルシリサイド層を含んでいてもよい。また、カソード電極8は、たとえば、ニッケルコンタクト層7側から順にチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、金(Au)および銀(Ag)が積層された構造(Ti/Ni/Au/Ag)を有していて、その最表面にAg層が露出している。
【0035】
ドリフト層6の表面6A(たとえば、(0001)Si面)には、ドリフト層6の一部をアクティブ領域3として露出させるコンタクトホール9を有し、当該アクティブ領域3を取り囲む外周領域4を覆うフィールド絶縁膜10が形成されている。フィールド絶縁膜10は、たとえば、SiO2(酸化シリコン)で構成することができる。フィールド絶縁膜10の膜厚は、0.5μm~3μmとすることができる。
【0036】
フィールド絶縁膜10上には、ショットキーメタル11およびアノード電極12が積層されて形成されている。
【0037】
ショットキーメタル11は、コンタクトホール9を介してドリフト層6の表面6Aに接しており、ドリフト層6との間にショットキー障壁を形成している。具体的には、ショットキーメタル11は、モリブデン(Mo)からなり、10nm~150nmの厚さを有している。このショットキーメタル11は、コンタクトホール9に埋め込まれているとともに、フィールド絶縁膜10におけるコンタクトホール9の周縁部を上から覆うように、フィールド絶縁膜10に乗り上がっている。より具体的には、ショットキーメタル11は、ガードリング2がショットキーメタル11の外周縁19よりも外方に延びる(張り出す)ようにフィールド絶縁膜10に乗り上がっていることが好ましい。ガードリング2を外方へ張り出させるためには、たとえば、ショットキーメタル11のフィールド絶縁膜10上に乗り上がった部分(乗り上がり部18)のコンタクトホール9の周縁から外周縁19までの幅W(乗り上がり量)を、10μm~60μmとすることが好ましい。なお、コンタクトホール9の周縁とは、この実施形態では、フィールド絶縁膜10の厚さが0(ゼロ)の位置を示している。したがって、たとえばコンタクトホール9が上端から下端にかけて径が狭まるテーパ状に形成されている場合、幅Wは、コンタクトホール9の周縁の下端から測定される。
【0038】
ショットキーメタル11が10nm~150nmと比較的薄いため、ショットキーメタル11において、フィールド絶縁膜10に乗り上がった上部と、ドリフト層6の表面6Aに接している下部との間の段差を小さくすることができる。これにより、アノード電極12の最表面における段差も小さくすることができるので、当該最表面に対してボンディングワイヤを接合し易くすることができる。
【0039】
また、ショットキーメタル11は、縦断面において結晶界面が露呈しない単一の結晶構造を有していてもよい。ショットキーメタル11が単一の結晶構造であるか否かは、たとえば、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)を用いてショットキーメタル11の断面を撮影し、その画像を見ることによって確認することができる。この構成により、ショットキーメタル11の特性を全体に渡って均一にすることができる。
【0040】
ここで図3に示すように、ドリフト層6のショットキーメタル11との接合部61(表面6Aの一部)に凹凸構造13が形成されている場合、その凹凸構造13の高さH1は5nm以下である。図3のように、凹凸構造13において複数の凹部が形成されている場合、凹凸構造13の高さH1は、最も深い凹部の深さを適用してもよい。なお、この実施形態では、接合部61に凹凸構造13が形成されている例を示しているが、半導体装置1の接合部61は、凹凸がほとんどない平坦な構造であってもよい。
【0041】
アノード電極12は、ショットキーメタル11上に形成されたチタン層121と、チタン層121上に形成されたアルミニウム層122との2層構造であってもよい。アノード電極12は、半導体装置1の最表面に露出して、ボンディングワイヤ等が接合される部分である。また、アノード電極12は、ショットキーメタル11と同様に、フィールド絶縁膜10におけるコンタクトホール9の周縁部を上から覆うように、フィールド絶縁膜10に乗り上がっている。また、チタン層121は、70nm~230nmの厚さを有しており、アルミニウム層122は、3.2μm~5.2μmの厚さ(たとえば、4.2μm)を有していることが好ましい。チタン層121は、より詳細には、下層のTiと上層のTiNとの2層構造であってもよい。このとき、Tiの厚さは10nm~40nm(たとえば、25nm)であり、TiNの厚さは60nm~190nm(たとえば、130nm)である。
【0042】
ドリフト層6をアクティブ領域3と外周領域4に区画するガードリング2は、フィールド絶縁膜10のコンタクトホール9の内外に跨るように(アクティブ領域3および外周領域4に跨るように)、当該コンタクトホール9の輪郭に沿って形成されている。したがって、ガードリング2は、コンタクトホール9の内方へ張り出し、コンタクトホール9内のショットキーメタル11の終端部に接する内側部分21(内周部)と、コンタクトホール9の外方へ張り出し、フィールド絶縁膜10の周縁部を挟んでショットキーメタル11に対向する外側部分22とを有している。
【0043】
半導体装置1の最表面には、表面保護膜14が形成されている。表面保護膜14の中央部には、アノード電極12を露出させる開口15が形成されている。ボンディングワイヤは、この開口15を介してアノード電極12に接合される。表面保護膜14は、アノード電極12上に形成された窒化シリコン(SiN)膜141と、窒化シリコン膜141上に形成されたポリイミド膜142との2層構造であってもよい。また、窒化シリコン膜141は、800nm~2400nmの厚さ(たとえば、1600nm)を有しており、ポリイミド膜142は、5μm~14μmの厚さ(たとえば、9μm)を有していることが好ましい。
【0044】
この半導体装置1では、アノード電極12に正電圧、カソード電極8に負電圧が印加される順方向バイアス状態になることによって、カソード電極8からアノード電極12へと、ドリフト層6のアクティブ領域3を介して電子(キャリア)が移動して電流が流れる。これにより、半導体装置1(ショットキーバリアダイオード)が動作する。
【0045】
そして、この半導体装置1によれば、ドリフト層6のショットキーメタル11との接合部61が平坦もしくは5nm以下の凹凸構造13である。これにより、逆方向バイアス状態で流れるリーク電流(逆方向リーク電流)を従来と同程度に抑えながら、使用環境(周囲温度等)に依らず、順方向電圧を低減することができる。
【0046】
さらにこの構造において、モリブデンからなるショットキーメタル11の厚さが10nm~150nm(たとえば、100nm)であるため、ショットキーメタル11からドリフト層6に加わる応力(たとえば、図3に矢印で示す圧縮応力)を緩和でき、しかもその応力のばらつきを小さくすることができる。そのため、半導体装置1を量産した場合に、逆方向リーク電流のばらつきを小さくすることができる。たとえば、工程能力指数Cpkを1.0以上(好ましくは、1.3~3.0)にすることができる。その結果、逆方向リーク電流が一定範囲に収まるような品質の半導体装置1を安定して供給することができる。
【0047】
また、ガードリング2がショットキーメタル11の外周縁19よりも外方に延びる(張り出す)ように、ショットキーメタル11がフィールド絶縁膜10に乗り上がっている。半導体装置1に接続される負荷が誘導性であるときには、負荷に流れる電流を遮断すると、負荷に逆起電力が発生する。この逆起電力に起因して、アノード側が正となる逆電圧が、アノード-カソード間にかかる場合がある。このような場合に、ガードリング2の抵抗値を比較的低くでき、かつガードリング2内に流れる電流の距離を短くすることができる。これにより、ガードリング2内に流れる電流による発熱を抑制できるので、デバイスが熱破壊することを防止することができる。つまり、半導体装置1の誘導負荷耐量(L負荷耐量)を向上させることができる。
【0048】
図4は、半導体装置1の製造工程の一例を説明するための流れ図である。
【0049】
まず、基板5の表面5A上に、ドリフト層6をエピタキシャル成長させる(ステップS1)。次に、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法によって、ドリフト層6の表面6Aにマスクを形成し、当該マスクを介して、ドリフト層6の表面6Aへ向かって不純物を注入する。その後、ドリフト層6を熱処理することによって、ドリフト層6の表面部に選択的にガードリング2が形成される(ステップS2)。
【0050】
次に、たとえば、熱酸化法またはCVD法によって、ドリフト層6の表面6Aに、ガードリング2を完全に覆うフィールド絶縁膜10を形成する(ステップS3)。次に、たとえば、スパッタ法によって、基板5の裏面5Bにニッケルコンタクト層7を形成する。その後、基板5を電気炉に搬入し、その中でニッケルコンタクト層7を、所定の第1温度で熱処理する(ステップS4)。ニッケルコンタクト層7の熱処理は、たとえば、内部が窒素雰囲気に調節された誘導加熱炉で行うことが好ましい。次に、フィールド絶縁膜10をパターニングすることによってコンタクトホール9を形成し、当該コンタクトホール9内にガードリング2を選択的に露出させる(ステップS5)。
【0051】
次に、たとえば、スパッタ法によって、ドリフト層6の表面6A全域に、10nm~150nmの厚さを有するモリブデン(Mo)からなるショットキーメタル11を形成する。そして、基板5を電気炉に搬入し、その中でショットキーメタル11の表面を露出させた状態で、所定の第2温度で熱処理する(ステップS6)。ショットキーメタル11の表面を露出させた状態での熱処理とは、ショットキーメタル11の表面にメタルや膜等の保護用キャップを形成しないで、ショットキーメタル11を熱処理することである。ショットキーメタル11の熱処理は、たとえば、内部が実質的に酸素の存在しない雰囲気(この実施形態では、窒素雰囲気)に調節された抵抗加熱炉で行うことが好ましい。窒素雰囲気で熱処理するのであれば、熱処理時にショットキーメタル11(モリブデン)が酸化されて、ショットキーメタル11の表面部が酸化モリブデンに変質することがない。そのため、ショットキーメタル11の表面への保護用キャップの形成を省略することができるので、ショットキーメタル11が保護用キャップの厚さ分、嵩上げされることを防止することができる。その結果、ショットキーメタル11の厚さを10nm~150nmに維持することができる。
【0052】
次に、ショットキーメタル11上に、チタン層121およびアルミニウム層122を順に積層してアノード電極12を形成した後(ステップS7)、表面保護膜14を形成する(ステップS8)。
【0053】
そして、最後に、ニッケルコンタクト層7上にカソード電極8を形成することによって、図1等に示す半導体装置1が得られる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0055】
たとえば、半導体装置1は、図5図7に示す変形形態で実施することができる。
【0056】
図5では、ニッケルコンタクト層7とカソード電極8との間に、カーボン層16が形成されている。カーボン層16は、基板5の裏面5Bに堆積したニッケルと基板(SiC)5中のシリコンとが、図4のステップS4の熱処理によって反応してニッケルシリサイド(ニッケルコンタクト層7)が形成される際、当該反応に寄与せずに余ったカーボン(C)がニッケルコンタクト層7の表面に析出して形成された層である。
【0057】
一方、図6では、ニッケルコンタクト層7とカソード電極8との間に、カーボンを含む合金層17が形成されている。合金層17は、カソード電極8の電極材料(Ti/Ni/Au/Ag)を堆積した後にたとえば熱処理することによって、上記したニッケルシリサイド層形成時に余ったカーボン(C)とカソード電極8のチタン(Ti)とが合金化して形成された層である。
【0058】
すなわち図5および図6では、ニッケルコンタクト層7とカソード電極8との間に、ニッケルシリサイド層形成時の余剰カーボンに由来する層が形成されてもよいことを示しており、各図に示されたカーボン層16および合金層17は、一方のみが形成されていてもよいし、両方が積層される形態で形成されていてもよい。
【0059】
また、図7では、フィールド絶縁膜10が省略されており、ガードリング2は、その全体がドリフト層6の表面6Aに露出している。そして、図2ではフィールド絶縁膜10に乗り上がっていたショットキーメタル11は、ガードリング2がショットキーメタル11の外周縁19よりも外方に延びる(張り出す)ように、その終端部がガードリング2の内周部を全周に亘って覆っている。これにより、ショットキーメタル11の終端部は、ガードリング2の内周部に接合されている。
【0060】
また、たとえば、前述の半導体装置1の各半導体部分の導電型を反転した構成が採用されてもよい。たとえば、半導体装置1において、p型の部分がn型であり、n型の部分がp型であってもよい。
【0061】
また、ニッケルコンタクト層7を抵抗加熱炉で熱処理し、ショットキーメタル11を誘導加熱炉で熱処理してもよい。
【0062】
本発明の半導体装置(半導体パワーデバイス)は、たとえば、電気自動車(ハイブリッド車を含む)、電車、産業用ロボット等の動力源として利用される電動モータを駆動するための駆動回路を構成するインバータ回路に用いられるパワーモジュールに組み込むことができる。また、太陽電池、風力発電機その他の発電装置(とくに自家発電装置)が発生する電力を商用電源の電力と整合するように変換するインバータ回路に用いられるパワーモジュールにも組み込むことができる。
【0063】
また、前述の実施形態の開示から把握される特徴は、異なる実施形態間でも互いに組み合わせることができる。また、各実施形態において表した構成要素は、本発明の範囲で組み合わせることができる。
【0064】
本発明の実施形態は、本発明の技術的内容を明らかにするために用いられた具体例に過ぎず、本発明はこれらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の精神および範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【0065】
本出願は、2012年6月6日に日本国特許庁に提出された特願2012-129219号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【実施例
【0066】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1、比較例1および参考例1>
図4のフローに倣って、図1に示した構造の半導体装置1を12枚(SiCウエハ単位)作製した(実施例1)。ショットキーメタル11の厚さは100nmとした。
【0067】
一方、400nm厚のショットキーメタル11(モリブデン)の表面を200nm厚の窒化モリブデン(MoN)で保護した状態で、ショットキーメタル11をニッケルコンタクト層7と同一工程(酸素雰囲気)で熱処理したこと以外は、実施例1と同様の方法により、半導体装置を20枚作製した(比較例1)。また、400nm厚のショットキーメタル11(モリブデン)上に、200nm厚の窒化モリブデン(MoN)を設けた構成の半導体装置を、図4のフローに倣って作製した(参考例1)。
<評価>
(1)TEM画像
参考例1および比較例1で得られた半導体装置のショットキー界面をTEMで撮影した。得られた画像を図8および図9に示す。
【0068】
図8に示すように、参考例1では、ショットキー界面(SiCのショットキーメタルとの接合部)が滑らかな平坦構造になっていることがわかった。また、モリブデン(Mo)が、結晶界面が露呈しない単一の結晶構造になっていることがわかった。なお、実施例1も同様の構造であった。
【0069】
一方、図9に示すように、比較例1では、ショットキー界面に約20nm深さの凹部(図9で黒ずんだ部分)が複数形成されてなる凹凸構造が形成されていることがわかった。また、モリブデン(Mo)の内部に結晶界面が現れていることがわかった。
(2)VfとIrとの関係
次に、実施例1および比較例1それぞれにおいて、1mAの順方向電流を流すために必要な順方向電圧Vf(1mA)と、逆方向リーク電流Irとの関係を調べた。図10は、実施例1および比較例1それぞれの、VfとIrとの相関図である。
【0070】
図10に示すように、実施例1および比較例1では、VfとIrとが互いに背反の関係にあるが、逆方向リーク電流Irを同程度に抑える場面では、実施例1の方がVfを低くできることがわかった。すなわち、ショットキー界面が平坦な(表面荒れの少ない)実施例1は、逆方向リーク電流を比較例1と同程度に抑えながら、順方向電圧を低減することができる。
(3)Vf-If特性
次に、実施例1および比較例1それぞれのVf-If特性を調べた。図11は、実施例1および比較例1それぞれの、If-Vf曲線(Ta=25℃)である。図12は、実施例1および比較例1それぞれの、If-Vf曲線(Ta=125℃)である。
【0071】
図11および図12に示すように、周囲温度Taが25℃および125℃のいずれの温度領域においても、実施例1の方が比較例1に比べて順方向電圧Vfを低くできることがわかった。
(4)逆方向リーク電流のばらつき
実施例1および比較例1それぞれの逆方向リーク電流の工程能力指数Cpkを調べた。その結果、実施例1がCpk=1.82であり、Cpk=0.38の参考例1に比べて、逆方向リーク電流のばらつきが小さいことがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1 半導体装置
2 ガードリング
5 基板
6 ドリフト層
6A 表面
61 接合部
7 ニッケルコンタクト層
11 ショットキーメタル
12 アノード電極
121 チタン層
122 アルミニウム層
13 凹凸構造
16 カーボン層
17 合金層
18 乗り上がり部
19 外周縁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12