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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】RNAウイルスベクターの力価決定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20250220BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20250220BHJP
   C12N 15/49 20060101ALN20250220BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/06 ZNA
C12N15/49
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023514828
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 US2021049110
(87)【国際公開番号】W WO2022051648
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】202010922956.2
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522043220
【氏名又は名称】アベルゼータ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ゼファ
(72)【発明者】
【氏名】リー,リー
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ハニング
(72)【発明者】
【氏名】カオ,イーラン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ティン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ジシュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,イー
(72)【発明者】
【氏名】チャン,リー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-520075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のRNAウイルスベクターの力価を決定する方法であって、
(a)RNAウイルスベクターおよびDNA分子を含む試料を提供する、またはRNAウイルスベクターを含む試料にDNA分子を添加する工程であって、前記RNAウイルスベクターおよび前記DNA分子の両方が配列要素を含む工程;
(b)前記試料から第1の部分および第2の部分を得る工程;および
(c)前記第1の部分に対してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施して、前記第1の部分における前記配列要素のコピー数(n1)を決定し、前記第2の部分に対して逆転写PCR(RT-PCR)を実施して、前記第2の部分における前記配列要素のコピー数(n2)を決定する工程であって、前記試料中の前記RNAウイルスベクターのRNAコピー数が、n1とn2との差、すなわちn2-n1によって決定される工程を含む、方法。
【請求項2】
前記試料中の前記RNAウイルスベクターの前記RNAコピー数に基づいて前記RNAウイルスベクターの感染力価を決定する工程(d)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記RNAウイルスベクターがレトロウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記配列要素が調節要素である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記調節要素がウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記配列要素が、長い末端反復(LTR)またはプロモーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記PCRが、プライマー対を使用して前記配列要素の領域を増幅する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記RT-PCRが、プライマー対を使用して前記配列要素の領域を増幅する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記PCRおよび前記RT-PCRが、それぞれプライマー対を使用して前記配列要素の領域を増幅する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プライマー対が、(i)配列番号1および配列番号2、それぞれ;(ii)配列番号3および配列番号4、それぞれ;または(iii)配列番号5および配列番号6、それぞれに示されるヌクレオチド配列を含む2つのプライマーを含む、請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記PCRが定量PCR(qPCR)であり、前記RT-PCRがRT-qPCRである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記力価が物理的力価または感染力価である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記DNA分子がDNAプラスミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記DNAプラスミドがパッケージングプラスミドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記RNAウイルスベクターの前記感染力価が、(前記RNAウイルスベクターの前記RNAコピー数×陽性対照の感染力価)/前記陽性対照のRNAコピー数によって決定され、前記陽性対照は、既知の感染力価を有するRNAウイルスベクターである、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記RNAウイルスベクターの前記力価が2時間以内に決定される、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月4日に出願された中国特許出願第2020109229562号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表を含む。2021年9月2日に作成された前記ASCIIコピーは、11299-009941-WO0_ST25.txtと名付けられ、2KBのサイズである。
【0003】
本開示は、レンチウイルスベクターなどのRNAウイルスベクターの力価を迅速に決定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
遺伝子治療は、外因性治療用遺伝子を標的細胞へ導入して、遺伝子の欠陥または異常によって引き起こされる疾患を矯正または補正することを指す。あるいは、外因性遺伝子によって発現される産物は、治療標的において治療のために作用することができる。
【0005】
外因性遺伝子は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを介して形質導入または送達され得る。一般的に使用される非ウイルスベクターには、リポソーム、デンドリマー、非天然カチオン性ポリマー、天然多糖類などが含まれる。非ウイルス遺伝子送達ベクターは比較的安全で安定であるが、それらのトランスフェクション効率は通常低い。ウイルスベクターは、外来遺伝子を天然ウイルスのキャプシドにパッケージングし、ウイルスの感染力を使用して外来遺伝子を細胞に導入することができる。一般的なウイルスベクターには、レトロウイルス(組換えレトロウイルス、rRV)、組換えレンチウイルス(rLV)、アデノウイルス(組換えアデノウイルス、rAd)、およびアデノ随伴ウイルス(組換えアデノ随伴ウイルス、rAAV)が含まれる。ウイルスベクターの形質導入効率は、非ウイルスベクターの形質導入効率よりもはるかに高い。したがって、ウイルスベクターは、リンパ球などの感染しにくい標的細胞を感染させるのに特に適している。
【0006】
組換えレンチウイルスベクターは、HIV-1(ヒト免疫不全I型ウイルス)に基づくことができる。他のレトロウイルスベクターとは異なり、レンチウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染する能力を有する。組換えレンチウイルスベクターは、生物学的力価が高く、インビボおよびインビトロでの免疫原性が低いので、CAR-T細胞および遺伝子治療のための第一選択のトランスジェニックベクターになっている。
【0007】
現在、組換えレンチウイルスベクターの力価を決定するための最も一般的なアッセイには、p24 Elisa法および機能的力価定量法が含まれる。p24 Elisa法は結果を得るのに1日かかるが、後者は少なくとも7日を必要とし、非特異的であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、レンチウイルスベクターの力価を迅速に評価するための方法を開発する緊急の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、試料中のRNAウイルスベクターの力価を決定する方法を提供する。方法は、(a)RNAウイルスベクターおよびDNA分子を含む試料を提供する、またはRNAウイルスベクターを含む試料にDNA分子を添加する工程であって、RNAウイルスベクターとDNA分子の両方が配列要素を含む工程;(b)試料から第1の部分および第2の部分を得る工程;および(c)第1の部分に対してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施して、第1の部分における配列要素のコピー数(n1)を決定し、第2の部分に対して逆転写PCR(RT-PCR)を実施して、第2の部分における配列要素のコピー数(n2)を決定する工程であって、試料中のRNAウイルスベクターのRNAコピー数が、n1とn2との差、すなわちn2-n1によって決定される工程を含む。
【0010】
方法は、試料中のRNAウイルスベクターのRNAコピー数に基づいてRNAウイルスベクターの感染力価を決定する工程(d)をさらに含み得る。
【0011】
方法は、試料中のRNAコピー数に基づいてRNAウイルスベクターの力価を決定する工程(d)をさらに含み得る。
【0012】
RNAウイルスベクターは、レンチウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターであり得る。
【0013】
配列要素は、調節要素、例えばウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)であり得る。
【0014】
配列要素は、長い末端反復(LTR)またはプロモーターであり得る。
【0015】
PCRは、プライマー対を使用して配列要素の領域を増幅することができる。RT-PCRは、プライマー対を使用して配列要素の領域を増幅することができる。
【0016】
PCRおよびRT-PCRは、プライマー対を使用して、それぞれ配列要素の領域を増幅することができる。
【0017】
プライマー対は、(i)配列番号1および配列番号2、それぞれ;(ii)配列番号3および配列番号4、それぞれ;または(iii)配列番号5および配列番号6、それぞれに示されるヌクレオチド配列を含む2つのプライマーを含み得る。
【0018】
PCRは、定量PCR(qPCR)であり得る。RT-PCRは、RT-qPCR(リアルタイム定量逆転写PCR)であり得る。
【0019】
DNA分子はDNAプラスミドであり得る。一実施形態では、DNAプラスミドは、パッケージングプラスミド、エンベローププラスミド、および/またはトランスファープラスミドである。
【0020】
特定の実施形態では、RNAウイルスベクターの感染力価は、(RNAウイルスベクターのRNAコピー数×陽性対照の感染力価)/陽性対照のRNAコピー数によって決定され、陽性対照は、既知の感染力価を有するRNAウイルスベクターである。
【0021】
RNAウイルスベクターの力価は、2時間以内に決定され得る。
【0022】
力価は、物理的力価または感染力価であり得る。
【0023】
本開示は、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を迅速に決定する方法を提供する。
【0024】
本開示の第1の態様は、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価(例えば、感染力価または物理的力価)を迅速に決定する方法を提供し、方法は、 (a)試験される試料であって、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)およびDNA分子(例えば、DNAプラスミド)を含む試料を提供する工程;
(b)試料中の配列要素(例えば、WPRE要素)のコピー数であって、配列要素(例えば、WPRE要素)を含有するRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数および配列要素(例えば、WPRE要素)を含有するDNA分子(例えば、DNAプラスミド)のコピー数を含む配列要素(例えば、WPRE要素)のコピー数を得るために、試料に対してRT-PCRおよびPCR反応をそれぞれ実行する工程;および
(c)試料中の配列要素(例えば、WPRE要素)を含有するRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数に基づいてRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を決定する工程を含む。
【0025】
一実施形態では、試料中の配列要素(例えば、WPRE要素)を含むRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数は、以下の式:配列要素(例えば、WPRE要素)を含むRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数と、配列要素(例えば、WPRE要素)を含むDNA分子(例えば、DNAプラスミド)のコピー数との合計コピー数-配列要素(例えば、WPRE要素)を含むDNA分子(例えば、DNAプラスミド)のコピー数、を使用して計算することができる。合計コピー数がRT-PCRを用いて得られるのに対して、DNA分子のコピー数はPCRを用いて得られる。
【0026】
記号「-」は、差分を得るための減算を指す。
【0027】
一実施形態では、工程(c)における「RNAウイルスベクターのRNAコピー数に基づいて」は、式Q1を使用して計算を実行してRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を得ることを含む。
【0028】
Q1=(試料中のウイルスベクターRNAのコピー数*陽性対照の力価)/陽性対照中のウイルスベクターRNAのコピー数
陽性対照は、既知の力価(例えば、感染力価または物理的力価)を有するRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を指す。陽性対照の力価および陽性対照のRNAコピー数をアッセイする方法は、試験される試料のそれらをアッセイする方法と同じであってもよい。
【0029】
試験される試料中のRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数は、以下の式:配列要素(例えば、WPRE要素)を含むRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数と、配列要素(例えば、WPRE要素)を含むDNA分子(例えば、DNAプラスミド)のコピー数との合計コピー数-配列要素(例えば、WPRE要素)を含むDNA分子(例えば、DNAプラスミド)のコピー数、を用いて得られ得る。合計コピー数がRT-PCRを用いて得られるのに対して、DNA分子のコピー数はPCRを用いて得られる。
【0030】
一実施形態では、力価は感染力価または機能的力価である。別の実施形態では、力価は物理的力価である。
【0031】
特定の実施形態では、試験される試料は、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)パッケージング上清、精製中間産物、またはRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の研究開発および製造プロセスにおける最終産物からのものであるか、またはそれらに由来する。
【0032】
一実施形態では、PCRは、リアルタイムPCR、定量PCR、定量リアルタイムPCRまたはqPCRを含む。定量PCRは、例えば、SYBR緑色色素(Thermo Fisher Scientific)を使用する。qPCRは、レポーターとして二本鎖DNA結合色素を用いるリアルタイムPCRであり得る(非特異的検出)。1つの実施形態において、PCRは、SYBR緑色色素を使用する定量PCRである。qPCRは、蛍光レポータープローブ法を用いたリアルタイムPCRであり得る(特異的検出)。一実施形態では、PCRはTaqManリアルタイムPCRである。
【0033】
特定の実施形態において、RT-PCRは、本明細書中に記載されるRT-qPCRと同様であり得る。
【0034】
一実施形態では、RT-PCR反応において、プライマー対(例えば、上流プライマーおよび下流プライマー)を使用して、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)およびDNA分子(例えば、DNAプラスミド)上の配列要素(例えば、WPRE要素)を特異的に増幅し、それによってRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)およびDNA分子(例えば、DNAプラスミド)上の配列要素(例えば、WPRE要素)を特異的に増幅するためのサイクル閾値(Ct)値を得る。
【0035】
一実施形態において、上流プライマーおよび下流プライマーは、PCRまたはRT-PCRにおいて配列要素(例えば、WPRE要素)を増幅するために使用される。
【0036】
特定の実施形態において、上流プライマーおよび下流プライマーは、以下に示される通りである。
【0037】
プライマー対1:
上流プライマー:actgtgtttgctgacgcaac(配列番号1);
下流プライマー:acaacaccacggaattgtca(配列番号2)。
【0038】
プライマー対2:
上流プライマー:actgtgtttgctgacgcaac(配列番号3);
下流プライマー:gatgatttccccgacaacac(配列番号4)。
【0039】
プライマー対3:
上流プライマー:gtgttgtcggggaaatcatc(配列番号5);
下流プライマー:gagatccgactcgtctgagg(配列番号6)。
【0040】
一実施形態では、PCR反応において、プライマー対(例えば、上流プライマーおよび下流プライマー)を使用して、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)上の配列要素(例えば、WPRE要素)を特異的に増幅し、それによってDNA分子(例えば、プラスミドDNA)上の配列要素(例えば、WPRE要素)を特異的に増幅するためのCt値を得る。
【0041】
特定の実施形態において、上流プライマーおよび下流プライマーは、以下に示される通りである。
【0042】
プライマー対1:
上流プライマー:actgtgtttgctgacgcaac(配列番号1);
下流プライマー:acaacaccacggaattgtca(配列番号2)。
【0043】
プライマー対2:
上流プライマー:actgtgtttgctgacgcaac(配列番号3);
下流プライマー:gatgatttccccgacaacac(配列番号4)。
【0044】
プライマー対3:
上流プライマー:gtgttgtcggggaaatcatc(配列番号5);
下流プライマー:gagatccgactcgtctgagg(配列番号6)。
【0045】
一実施形態では、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)の配列要素(例えば、WPRE要素)の特異的増幅のCt値に基づいて、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数が得られる。
【0046】
特定の実施形態では、PCR後に得られる配列要素(例えば、WPRE要素)のコピー数は、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数と同一(または実質的に同一)である。
【0047】
特定の実施形態では、RT-PCR後に得られる配列要素(例えば、WPRE要素)のコピー数は、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数およびDNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数の合計と同一(または実質的に同一)である。
【0048】
一実施形態では、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)およびDNA分子(例えば、プラスミドDNA)上の配列要素(例えば、WPRE要素)の特異的増幅のCt値を使用して、式Q2を使用してRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAおよびDNA分子(例えば、プラスミドDNA)の合計コピー数を計算する。
【0049】
Q2=RNAおよび/またはDNAのコピー数=(各反応ウェルにおける試料の核酸のコピー数×1000×希釈係数)/各反応ウェルに添加された試料の量。
【0050】
各反応ウェル中の試料の核酸のコピー数=10^(aX+b)、式中、Xは試料のCt値の平均であり、aは、標準曲線フィッティングによって得られた係数であり、bは、標準曲線フィッティングによって得られた切片である。
【0051】
一実施形態では、(i)RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAおよびDNA分子(例えば、プラスミドDNA)の合計コピー数、ならびに(ii)DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数に基づいて、式Q3を使用して、試験される試料中のRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAのコピー数を計算する。
【0052】
Q3=RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAおよびDNA分子(例えば、プラスミドDNA)の合計コピー数-DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数。
【0053】
一実施形態において、配列要素(例えば、WPRE要素)を特異的に増幅するために使用される上流および下流プライマーは、Lenti-X(商標)qRT-PCR Titration Kit(Takara)の検出キットからのものである。
【0054】
一実施形態では、DNAプラスミドは、パッケージングプラスミドであるか、またはそれに由来する。一実施形態では、DNAプラスミドは、エンベローププラスミドであるか、またはそれに由来する。一実施形態では、DNAプラスミドは、トランスファープラスミドであるか、またはそれに由来する。
【0055】
一実施形態では、方法はまた、陽性対照を使用する。
【0056】
一実施形態では、方法は、非診断的かつ非治療的方法である。
【0057】
一実施形態では、方法はインビトロ法である。
【0058】
一実施形態では、試験される試料中のRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の濃度は、5×10~5×10形質導入単位/ml(TU/ml)、1×10~8×10TU/ml、または5×10~5×10TU/mlである。
【0059】
本開示の範囲内で、上記の技術的特徴および以下に具体的に記載される技術的特徴(実施形態など)を互いに組み合わせて、新しいまたは好ましい技術的解決策を形成することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】レンチウイルス標準(既知のコピー数を有する;左パネル)および試料(右パネル)の段階的希釈物の調製プロセスを示す。左パネルにおいて、キットによって提供されたレンチウイルス標準は、5×10コピー/μlの濃度を有した。最初に、2μlの5×10コピー/μlレンチウイルス標準を清潔なEPチューブに移し、次いで18μlのEASY希釈緩衝液を添加し、十分に混合した。次いで、3μlの混合溶液(5×10コピー/μlの濃度を有する)を27μlのEASY希釈緩衝液に添加し、十分に混合した。上記の手順に従って、5つのレンチウイルス標準濃度を調製した。NTCはEASY希釈緩衝液のみであった。右側のパネルは、試験される試料の希釈プロセスを示す。
図2】qPCRのパラメータであり、温度および時間設定を示している。
図3】レンチウイルス標準の段階的続希釈試料から得られたCt平均値をx軸、レンチウイルス標準の対応するコピー数の対数(底10)をy軸としてプロットした標準曲線である。計算式:y=-0.5883x+10.97、R=0.9999を得た。この式から、この検出方法では、レンチウイルスRNAコピー数の対数値が、対応するCt値と良好な線形相関を有していたことが分かる。試験方法は安定で信頼性があった。標準曲線は、レンチウイルス試料のコピー数を計算するために使用することができる。
図4】本明細書に記載の上流および下流プライマーを使用した、WPRE要素およびプラスミドDNAの特異的増幅によって得られた産物の解離曲線である。解離曲線はただ1つの鋭いピークを有し、プライマーが良好な特異性を有することを示している。
図5】リアルタイム定量PCR反応の増幅曲線である。増幅曲線は、類似/同一の勾配を有し、実質的に平行であり、プライマーの一貫した効率を示している。反応ウェルでPCRを阻害する汚染はなかった(NTC曲線を除く)。
図6】反応チューブ(RT-PCR)および対照チューブ(PCR)のセットアップであり、RT-PCRおよびPCR反応がそれぞれ行われる。核酸のコピー数は、絶対定量によって算出することができる。反応チューブ(RT-PCR)内の試料の核酸コピー数(RNA+DNA)をn2(核酸の総コピー数)と表記する。対照チューブ内の核酸(DNA、例えばプラスミドDNA)のコピー数はn1(DNAのコピー数)と表記され、n2-n1=RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本開示は、試料中のRNAウイルスベクターの力価を決定する方法を提供する。方法は、(a)RNAウイルスベクターおよびDNA分子を含む試料を提供する、またはRNAウイルスベクターを含む試料にDNA分子を添加する工程であって、RNAウイルスベクターとDNA分子の両方が配列要素を含む工程;(b)試料から第1の部分および第2の部分を得る工程;および(c)第1の部分に対してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施して、第1の部分における配列要素のコピー数(n1)を決定し、第2の部分に対して逆転写PCR(RT-PCR)を実施して、第2の部分における配列要素のコピー数(n2)を決定する工程であって、試料中のRNAウイルスベクターのRNAコピー数が、n1とn2との差、すなわちn2-n1によって決定される工程を含む。
【0062】
方法は、試料中のRNAウイルスベクターのRNAコピー数に基づいてRNAウイルスベクターの感染力価を決定する工程(d)をさらに含み得る。
【0063】
方法は、試料中のRNAコピー数に基づいてRNAウイルスベクターの力価を決定する工程(d)をさらに含み得る。
【0064】
RNAウイルスベクターは、レンチウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターであり得る。
【0065】
配列要素は、調節要素、例えばウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)であり得る。
【0066】
配列要素は、長い末端反復(LTR)またはプロモーターであり得る。
【0067】
PCRは、プライマー対を使用して配列要素の領域を増幅することができる。RT-PCRは、プライマー対を使用して配列要素の領域を増幅することができる。
【0068】
PCRおよびRT-PCRは、プライマー対を使用して、それぞれ配列要素の領域を増幅することができる。
【0069】
プライマー対は、(i)配列番号1および配列番号2、それぞれ;(ii)配列番号3および配列番号4、それぞれ;または(iii)配列番号5および配列番号6、それぞれに示されるヌクレオチド配列を含む2つのプライマーを含み得る。
【0070】
PCRは、定量PCR(qPCR)であり得る。RT-PCRは、RT-qPCRであり得る。
【0071】
DNA分子はDNAプラスミドであり得る。一実施形態では、DNAプラスミドは、パッケージングプラスミド、エンベローププラスミド、および/またはトランスファープラスミドである。
【0072】
特定の実施形態では、RNAウイルスベクターの感染力価は、(RNAウイルスベクターのRNAコピー数×陽性対照の感染力価)/陽性対照のRNAコピー数によって決定され、陽性対照は、既知の感染力価を有するRNAウイルスベクターである。
【0073】
RNAウイルスベクターの力価は、2時間以内に決定され得る。
【0074】
力価は、物理的力価または感染力価であり得る。
【0075】
物理的力価は、試料中のウイルス粒子の量を測定し、ウイルス核酸またはウイルスタンパク質、例えばp24の存在に基づいてもよい。機能的力価または感染力価は、作製されたウイルス粒子のうちどれだけが実際に細胞に感染し得るかを測定する。感染力価についてのアッセイは、標的細胞株にウイルスを感染させること、および遺伝子の発現についてアッセイすること、または標的細胞のゲノムに組み込まれたウイルスコピーの数を定量することを含み得る。
【0076】
特定の実施形態において、物理的力価は、ウイルスRNAコピー数に基づいて評価され得る。一実施形態では、物理的力価は、1mlまたは1μl当たりのウイルスRNAコピー数である。物理的力価は、定量PCRによって、例えばSYBR緑色色素を使用して、またはTaqMan PCRによって決定することができる。1ml試料中のウイルスゲノムコピー数は、例えば既知のコピー数を有する標準核酸(例えば、RNA標準、レンチウイルス標準などのRNAウイルス標準)の段階的希釈から生成された標準曲線から計算することができる。
【0077】
特定の実施形態では、感染力価は、プロウイルス組み込み力価アッセイによって決定された感染単位に基づいて決定され得る。例えば、感染力価は、RNAウイルスベクターの段階的希釈を用いた細胞の形質導入、および細胞あたりの組み込みベクターのコピーの、定量PCR(例えば、TaqMan PCR)による計算を通して決定され得る。
【0078】
特定の実施形態では、バイオセーフティの理由から、RNAウイルスゲノム(例えば、レンチウイルスゲノム)は修飾されており、シスおよびトランス作用性ウイルス配列は、3~4個の異なるプラスミドにわたって分離されている。例えば、ウイルスの構造タンパク質および機能タンパク質は、トランスで提供され得、1つまたは2つのパッケージングプラスミドによってコードされる一方、エンベローププラスミドは、水疱性口内炎ウイルスエンベロープ(VSV-G)の糖タンパク質をコードし、トランスファープラスミドは、RNAゲノムのパッケージングに必要なすべてのシス作用性ウイルス配列に隣接する目的の導入遺伝子をコードする。レンチウイルスベクターの作製は、高濃度の種々のプラスミドを使用して、細胞、例えばヒト胎児腎臓(293T)細胞の一過性トランスフェクションによって達成され得、これは、濃縮後でも、ベクター調製物中に残留プラスミドDNAが存在することを意味する。
【0079】
特定の実施形態では、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)試料はまた、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)を含有し得る。特定の実施形態では、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)試料はまた、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)を含有しない。
【0080】
特定の実施形態では、方法は、RNAウイルスベクターを含む試料にDNA分子を添加することを含み得る。試料に添加される場合、DNA分子は、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μl、約10コピー/μl~約10コピー/μlの範囲の濃度を有し得る。
【0081】
特定の実施形態では、RNAウイルスベクターの力価(感染力価または物理的力価)は、(試料中のRNAコピー数*陽性対照の力価)/陽性対照のRNAコピー数に等しく、式中、陽性対照は、既知の力価(感染力価または物理的力価)を有するRNAウイルスベクターである。記号「*」は、乗算を指す。記号「/」は、除算を指す。
【0082】
本開示は、試料中のRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を決定する方法を提供する。この方法は、(a)RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)および遊離プラスミドDNAを含む試料を提供すること;(b)試料に対してRT-PCRおよびPCR反応をそれぞれ行って、WPRE要素を含有するレンチウイルスベクターRNAのコピー数およびWPRE要素を含有する遊離プラスミドDNAのコピー数を含む、試料中のWPRE要素のコピー数を得ること;ならびに(c)レンチウイルスベクターRNAのコピー数に基づいてレンチウイルスベクターの力価を決定することを含み得る。
【0083】
本方法は、いくつかの利点を提供する。本方法は、例えば2時間以内に、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を迅速に決定することができる。
【0084】
それは、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)作製プロセスにおける中間産物の力価を迅速かつ定量的に評価するために使用することができ、ウイルスベクターの最終産物の量を制御するのに役立つことができる。配列要素(例えば、WPRE要素)は、定量的方法、例えばRT-PCRによって増幅され得る。試料中のDNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数およびRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAのコピー数を決定することができる。DNA分子(例えば、プラスミドDNA)およびRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)RNAの合計コピー数からDNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数を減算することにより、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価を迅速かつ特異的に決定することができる。加えて、本方法の実験設計および操作は単純であるしたがって、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価のアッセイは、迅速、効率的かつ特異的に2時間以内で実施され得る。本方法は、陽性対照の力価を使用して試料の力価を計算することができ、これは、ウイルスベクターの量を迅速に調整するのに役立つ。本方法は、簡単な操作工程、短い検出時間、検出結果の速いフィードバック、および信頼性の高い結果を提供する。それは、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の開発または作製プロセスの様々な段階における、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価の決定に非常に適している。
【0085】
特定の実施形態において、RT-PCRおよびPCRは、RNAウイルスベクターを含有する試料に対してそれぞれ行われる。RT-PCRはベクターRNAおよびDNAの両方を増幅するが、PCR(逆転写酵素なし)はDNAのみを増幅する。ウイルスベクター(RNA)のコピー数は、(i)RT-PCRにより得られた、配列要素(例えば、WPRE要素)を含むウイルスベクター(RNA)およびDNA(例えば、プラスミドDNA)のコピー数の合計コピー数と、(ii)PCRにより得られた、配列要素(例えば、WPRE要素)を含むDNA(例えば、プラスミドDNA)のコピー数との差により算出することができる。
【0086】
試料中のRNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数に基づいて、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)の力価(例えば、感染力価)を決定することができる。
【0087】
さらに、本方法は、プラスミドまたは他の核酸からの非特異的干渉を実質的に減少させ、迅速に定量化を達成することができる。さらに、本方法は、2時間以内に特異的な定量結果をもたらすことができ、これを使用して、レンチウイルスベクター作製プロセスにおいて中間産物の力価を迅速かつ定量的に評価することができる。さらに、実施において、最終産物の物理的力価または機能的力価を制御することができる。
【0088】
「ベクター」という用語は、本明細書では、別の核酸分子を移入または輸送することができる核酸分子を指すために使用される。移入された核酸は、一般に、ベクター核酸分子に連結される、例えば挿入される。ベクターは、細胞内で自律複製を指示する配列を含み得るか、または宿主細胞DNAへの組み込みを可能にするのに十分な配列を含み得る。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌人工染色体およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。
【0089】
「ウイルスベクター」という用語は、典型的には核酸分子の移入もしくは細胞のゲノムへの組み込みを容易にするウイルス由来核酸要素を含む核酸分子(例えば、トランスファープラスミド)、または核酸移入を媒介するウイルス粒子のいずれかを指すために広く使用される。ウイルス粒子は、核酸に加えて、様々なウイルス成分および時には、宿主細胞成分をも含み得る。「ウイルスベクター」という用語は、核酸を細胞に移入することができるウイルスまたはウイルス粒子、または移入された核酸自体のいずれかを指し得る。ウイルスベクターおよびトランスファープラスミドは、主にウイルスに由来する構造的および/または機能的遺伝子要素を含む。
【0090】
サイクル閾値(Ct)は、ベースライン信号を超える蛍光の有意な増加が検出されるサイクル数を指すことができる。
【0091】
数値に関する「約」という用語は、記載された数値の±10%を指す。換言すれば、数値は、記載値の90%~記載値の110%の範囲内であり得る。
【0092】
RNAウイルスおよびレトロウイルス
RNAウイルスは、RNA(リボ核酸)をその遺伝物質として有するウイルスである。
【0093】
この核酸は、一本鎖RNA(ssRNA)または二本鎖RNA(dsRNA)であり得る。
【0094】
RNAウイルスには、アストロウイルス科、カリシウイルス科、ピコルナウイルス科、コロナウイルス科、レトロウイルス科、トガウイルス科、アルファテトラウイルス科、ビルナウイルス科、シストウイルス科、ノダウイルス科、およびペルムトレトラウイルス科およびフラビウイルス科が含まれるが、これらに限定されない。例として、アストロウイルス科にはヒトアストロウイルスが含まれ、カリシウイルス科にはノーウォークウイルスが含まれ、ピコルナウイルス科には、コクサッキーウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、ビモウイルス、コモウイルス、ネポウイルス、ノダウイルス、ピコルナウイルス、ポチウイルス、ソベモウイルス、およびルテオウイルスのサブセット(ビート西部萎黄病ウイルスおよびジャガイモ葉巻ウイルスなど)が含まれ、コロナウイルス科には、コロナウイルスおよびSARウイルスが含まれ、レトロウイルス科には、アルファレトロウイルス、ベータレトロウイルス、デルタレトロウイルス、レンチウイルスおよびスプーマウイルスが含まれ、トガウイルス科には、風疹ウイルスおよびアルファウイルスが含まれ、フラビウイルス科には、C型肝炎ウイルス、フラビウイルス、カルモウイルス、ダイアンソウイルス属(dianthoviruses)、ペスチウイルス属、ステートウイルス属(statoviruses)、トンブスウイルス属、一本鎖RNAバクテリオファージ、およびルテオウイルス属のサブセット(オオムギ黄色萎縮ウイルス)が含まれる。
【0095】
特定の実施形態では、RNAウイルスは、コロナウイルス科ウイルス、ニューモウイルス科ウイルス、パラミクソウイルス科ウイルス、ピコルナウイルス科ウイルス、またはオルトミクソウイルス科ウイルスであり得る。特定の実施形態では、コロナウイルス科ウイルスはコロナウイルスまたはSARSであり、ニューモウイルス科ウイルスはヒト呼吸器合胞体ウイルス(HRSV)であり、パラミクソウイルス科ウイルスはヒトパラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルスまたは流行性耳下腺炎ウイルスであり、ピコルナウイルス科ウイルスはライノウイルスであり、オルトミクソウイルス科ウイルスはインフルエンザウイルスである。特定の実施形態では、RNAウイルスは、ニューモウイルス科ウイルスである。一実施形態では、RNAウイルスはHRSVである。
【0096】
RNAウイルスの非限定的な例には、ヒト呼吸器多核体ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ロタウイルス、ピコビルナウイルス、ブルータングウイルス、アルファウイルス、カラウイルス、フロウイルス、ホルデイウイルス、ポテックスウイルス、ルビウイルス、トブラウイルス、トリコルナウイルス、チモウイルス、リンゴクロロティックリーフスポットウイルス(apple chlorotic leaf spot virus)、ビート萎黄ウイルス、E型肝炎ウイルス、セリウイルス、デルタウイルス、エマラウイルス、ヒグレウイルス、イダエウイルス、ウルミアウイルス、ポレモウイルス、ソベモウイルス、テヌイウイルス、アンブラウイルス、バリコサウイルスなども含まれる。RNAウイルスは、モノネガウイルス目、ニドウイルス目、ピコルナウイルス目およびティモウイルス目などのウイルス分類目に由来し得る。
【0097】
レトロウイルス
レトロウイルスは、そのゲノムRNAをDNAコピーに逆転写し、続いてそのDNAを宿主ゲノムに組み込むRNAウイルスである。ウイルスが宿主ゲノムに組み込まれると、それはプロウイルスと呼ばれる。プロウイルスは、RNAポリメラーゼの鋳型として機能し、新しいウイルス粒子を作製するのに必要な構造タンパク質および酵素をコードするRNA分子の発現を指令する。
【0098】
レトロウイルス科は、オルソレトロウイルス亜科およびスピューマレトロウイルス亜科の2つの亜科に分けることができる。オルソレトロウイルス亜科には、以下の属:アルファレトロウイルス(鳥白血病ウイルスおよびラウス肉腫ウイルスなど);ベータレトロウイルス(マウス乳腺腫瘍ウイルスなど);ガンマレトロウイルス(マウス白血病ウイルスおよびネコ白血病ウイルスなど);デルタレトロウイルス(ウシ白血病ウイルスおよび癌を引き起こすヒトTリンパ球向性ウイルスなど);エプシロンレトロウイルス;およびレンチウイルス(ヒト免疫不全ウイルス1型ならびにサルおよびネコ免疫不全ウイルスなど)が含まれる。スピューマレトロウイルス亜科には、以下の属:ボビスピューマウイルス(Bovispumavirus);エクイスピューマウイルス(Equispumavirus);フェリスピューマウイルス(Felispumavirus);プロシミイスピューマウイルス(Prosimiispumavirus);およびシミイスピューマウイルス(Simiispumavirus)が含まれる。
【0099】
レトロウイルスの非限定的な例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)およびレンチウイルスが挙げられる。
【0100】
「レトロウイルスベクター」という用語は、構造的および機能的遺伝子要素またはそれらの部分を含む、主にレトロウイルスに由来するウイルスベクターまたはプラスミドを指す。「レトロウイルスベクター」および「レトロウイルス」という用語は互換的に使用され得る。
【0101】
本明細書で使用される「レトロウイルス」または「レトロウイルスベクター」という用語は、「レンチウイルス」および「レンチウイルスベクター」を含むことを意味する。
【0102】
レンチウイルス
レンチウイルスとしては、限定されないが、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV1型およびHIV2型を含む);ビスナマエディウイルス(VMV);ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV);ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV);ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる
「レンチウイルスベクター」という用語は、長い末端反復(LTR)を含む、主にレンチウイルスに由来する構造的および機能的遺伝子要素またはそれらの部分を含むウイルスベクターまたはプラスミドを指す。特定の実施形態では、「レンチウイルスベクター」という用語は、レンチウイルストランスファープラスミドおよび/または感染性レンチウイルス粒子を指すために使用され得る。
【0103】
「レンチウイルスベクター」および「レンチウイルス」という用語は、互換的に使用され得る。
【0104】
配列要素
PCRまたはRT-PCRでは、配列要素を増幅するために、配列要素を標的とするプライマーが使用され得る。配列要素には、特定のウイルス成分、クローニング部位、プロモーター、制御要素、調節要素、異種核酸(例えば、導入遺伝子自体)などが含まれる。
【0105】
配列要素の非限定的な例には、LTR、WPRE、プロモーターなどが含まれる。プロモーターには、CMVプロモーター、U6プロモーター、PGKプロモーターなどが含まれる。
【0106】
本明細書において配列要素に言及する場合、これらの要素の配列は、RNAウイルスベクターまたはRNAウイルス(例えば、レンチウイルスベクターまたはレンチウイルス)中にRNA形態で存在し、DNA分子(例えば、プラスミド)中にDNA形態で存在することを理解されたい。
【0107】
「制御要素」または「調節要素」は、ベクターの非翻訳領域、例えば複製起点、選択カセット、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(例えば、シャインダルガルノ配列、コザック配列)、イントロン、ポリアデニル化配列、5’および3’非翻訳領域であり得、これらは宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および/または翻訳を行う。
【0108】
特定の実施形態では、配列要素は、調節要素、例えば転写後調節要素、ポリアデニル化部位、転写終結シグナルなどであり得る。特定の実施形態では、配列要素は、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE)であり得る。特定の実施形態では、配列要素は、B型肝炎ウイルス(HPRE)に存在する転写後調節要素であり得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターにおける異種配列の発現は、転写後調節要素、効率的なポリアデニル化部位、および場合により転写終結シグナルをベクターに組み込むことによって増加する。様々な転写後調節要素、例えばウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節要素(WPRE;Zufferey et al.,1999,J.Virol.,73:2886);B型肝炎ウイルス(HPRE)に存在する転写後調節要素(Huang et al.,Mol.Cell.Biol.,5:3864);およびその他(Liu et al.,1995,Genes Dev.,9:1766)は、タンパク質における異種核酸の発現を増加させ得る。特定の実施形態では、本発明のベクターは、WPREまたはHPREなどの転写後調節要素を含む。
【0109】
例えば、WPREは、ウッドチャック肝炎ウイルスのゲノム配列(GenBankアクセション番号J04514)中に存在するヒトB型肝炎ウイルス転写後調節要素(HBVPRE)に類似する領域を指すことができ、このゲノム配列の1093から1684位までの592ヌクレオチドは、転写後調節領域に相当する(Journal of Virology,Vol.72,p.5085-5092,1998)。レトロウイルスベクターを用いた分析により、目的の遺伝子の3’末端非翻訳領域に挿入されたWPREが、産生されるタンパク質の量を増加させることが明らかになった。また、WPREの導入により、mRNAの分解が抑制されることが報告されている(Journal of Virology,Vol.73,p.2886-2892,1999)。
【0110】
特定の実施形態では、配列要素は調節要素、例えばイントロン、エンハンサー要素などであり得る。本明細書で有用な調節配列はまた、イントロン、例えばプロモーター/エンハンサー配列とコード配列との間に位置するものを含み得る。1つの例示的なイントロン配列はSV40に由来し、SV40イントロンと呼ばれる。
【0111】
ベクターにおいて使用され得る他のエンハンサー要素としては、例えば、ユビキチンエンハンサーおよびCMBエンハンサーが挙げられる。使用され得るさらなる調節要素としては、例えば、アプタザイム(aptazyme)、miRNAおよびmiRNA結合要素が挙げられる。
【0112】
特定の実施形態において、配列要素は、LTRであり得る。プロウイルスの各末端は、「長い末端反復」または「LTR」と呼ばれる構造である。「長い末端反復(LTR)」という用語は、それらの天然の配列の状況において直接反復であり、U3、RおよびU5領域を含むレトロウイルスDNAの末端に位置する塩基対のドメインを指す。LTRは一般に、レトロウイルス遺伝子の発現(例えば、促進、開始および遺伝子転写物のポリアデニル化)およびウイルス複製にとって基本的な機能を提供する。LTRは、転写制御要素を含む多数の調節シグナル、ポリアデニル化シグナル、ならびにウイルスゲノムの複製および組み込みに必要な配列を含む。ウイルスLTRは、U3、RおよびU5と呼ばれる3つの領域に分けられる。U3領域は、エンハンサーおよびプロモーター要素を含有する。
【0113】
U5領域は、プライマー結合部位とR領域との間の配列であり、ポリアデニル化配列を含む。R(反復)領域は、U3およびU5領域に隣接している。LTRは、U3、RおよびU5領域から構成され、ウイルスゲノムの5’末端および3’末端の両方に現れる。5’LTRに隣接するのは、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)およびウイルスRNAの粒子への効率的なパッケージングに必要な配列(Psi部位)である。様々な実施形態では、ベクターは、修飾5’LTRおよび/または3’LTRを含む。LTRのいずれかまたは両方は、これらに限定されないが、1つ以上の欠失、挿入または置換を含む、1つ以上の修飾を含み得る。3’LTRの修飾は、ウイルスに複製欠損を与えることによってレンチウイルス系またはレトロウイルス系の安全性を改善するために行われることが多い。「自己不活性化」(SIN)ベクターは、U3領域として知られている右(3’)LTRエンハンサープロモーター領域が(例えば、欠失または置換によって)修飾されて、最初のウイルス複製ラウンドを超えるウイルス転写を防止する複製欠損ベクター、例えば、レトロウイルまたはレンチウイルスベクターを指す。これは、右(3’)LTR U3領域がウイルス複製中に左(5’)LTR U3領域の鋳型として使用され、したがって、ウイルス転写物はU3エンハンサープロモーターなしで作製することができないからである。さらなる実施形態において、3’LTRは、U5領域が、例えば、理想的なポリ(A)配列で置き換えられるように修飾される。LTRに対する修飾、例えば3’LTR、5’LTRまたは3’および5’LTRの両方に対する修飾も本開示に含まれることに留意されたい。
【0114】
ウイルス粒子の作製中にウイルスゲノムの転写を駆動するために、5’LTRのU3領域を異種プロモーターで置き換えることによって安全性がさらに増強される。使用され得る異種プロモーターの例は、例えば、ウイルス性シミアンウイルス40(SV40)(例えば、早期または後期)、サイトメガロウイルス(例えば、最初期)、モロニ-マウス白血病ウイルス(MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、および単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターが挙げられる。典型的なプロモーターは、Tat非依存的様式で高レベルの転写を駆動することができる。ウイルス産生システムに完全なU3配列が存在しないため、この置換によって、複製コンピテントウイルスを生成するための組換えの可能性が低下する。
【0115】
特定の実施形態において、配列要素はパッケージング配列であり得る。本明細書で使用される場合、「パッケージングシグナル」または「パッケージング配列」という用語は、ウイルスRNAをウイルスキャプシドまたは粒子に挿入するために必要なレトロウイルスゲノム内に位置する配列を指し、例えば、Clever et al.,1995.J.of Virology,Vol.69,No.4;pp.2101-2109を参照されたい。いくつかのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムのキャプシド形成に必要な最小パッケージングシグナル(psi[Ψ]配列とも呼ばれる)を使用する。したがって、本明細書で使用される場合、用語「パッケージング配列」、「パッケージングシグナル」、「psi」および記号「Ψ」は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のキャプシド形成に必要な非コード配列に関して使用される。
【0116】
特定の実施形態では、配列要素はTAR要素であり得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、配列要素であり得るTAR要素を含む。「TAR」という用語は、レンチウイルス(例えば、HIV)LTRのR領域に位置する「トランス活性化応答」遺伝子要素を指す。この要素は、レンチウイルストランス活性化因子(tat)遺伝子要素と相互作用してウイルス複製を増強する。
【0117】
特定の実施形態において、配列要素は、R領域であり得る。「R領域」は、キャッピング基の開始(すなわち、転写の開始)時に始まり、ポリAトラクトの開始直前に終わる、レトロウイルスLTR内の領域を指す。R領域はまた、U3およびU5領域に隣接するものとして定義される。R領域は、逆転写中に、発生期DNAをゲノムの一端から他端へ移動させる役割を果たす。
【0118】
特定の実施形態において、配列要素は、FLAP要素であり得る。本明細書で使用される場合、「FLAP要素」という用語は核酸を指し、その配列はレトロウイルス、例えばHIV-1またはHIV-2のセントラルポリプリントラクトおよびセントラル終結配列(cPPTおよびCTS)を含む。適切なFLAP要素は、米国特許第6,682,907号、およびZennou,et al.,2000,Cell,101:173に記載されている。HIV-1の逆転写中、セントラルポリプリントラクト(cPPT)でのプラス鎖DNAのセントラル開始およびセントラル終結配列(CTS)でのセントラル終結は、3本鎖DNA構造:HIV-1セントラルDNAフラップの形成をもたらす。特定の実施形態では、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクター骨格は、ベクター中の目的の異種遺伝子の上流または下流に1つ以上のFLAP要素を含む。例えば、特定の実施形態において、トランスファープラスミドはFLAP要素を含む。一実施形態では、本開示のベクターは、HIV-1から単離されたFLAP要素を含む。
【0119】
特定の実施形態において、配列要素は、エクスポート要素であり得る。一実施形態では、レトロウイルスまたはレンチウイルスのトランスファーベクターは、1つ以上のエクスポート要素を含む。「エクスポート要素」という用語は、細胞の核から細胞質へのRNA転写物の輸送を調節する、シス作用転写後調節要素を指す。RNAエクスポート要素の例としては、これらに限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)rev応答要素(RRE)(例えば、Cullen et al.,1991.J.Virol.65:1053;およびCullen et al.,1991.Cell 58:423を参照されたい)、およびB型肝炎ウイルス転写後調節要素(HPRE)が挙げられる。一般に、RNAエクスポート要素は、遺伝子の3’UTR内に配置され、1つまたは複数のコピーとして挿入され得る。
【0120】
特定の実施形態において、配列要素は、転写終結シグナルまたはポリアデニル化配列であり得る。効率的な終結および異種核酸転写物のポリアデニル化を指示する要素は、異種遺伝子発現を増加させる。転写終結シグナルは、一般に、ポリアデニル化シグナルの下流に見出される。特定の実施形態では、ベクターは、発現されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのポリアデニル化配列3’を含む。本明細書で使用される「ポリA部位」または「ポリA配列」という用語は、終結、およびRNAポリメラーゼIIによる発生期RNA転写物のポリアデニル化の両方を指示するDNA配列を表す。ポリアデニル化配列は、コード配列の3’末端にポリAテールを付加することによってmRNA安定性を促進することができ、したがって翻訳効率の向上に寄与する。ポリAシグナルの実例としては、理想的なポリA配列(例えば、AATAAA、ATTAAA、AGTAAA)、ウシ成長ホルモンポリA配列(BGHpA)、ウサギベータグロビンポリA配列(rβgpA)、または当技術分野で公知の別の適切な異種または内因性ポリA配列が挙げられる。ポリアデニル化配列には、SV40 ポリA、bGH ポリAおよび合成ポリAテールも含まれる。
【0121】
特定の実施形態において、配列要素は、インシュレーター要素であり得る。特定の実施形態において、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターは、1つ以上のインシュレーター要素をさらに含む。インシュレーター要素は、ゲノムDNA中に存在するシス作用性要素によって媒介され、移入された配列の発現の調節解除をもたらし得る組み込み部位効果(すなわち、位置効果;例えば、Burgess-Beusse et al.,2002,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,99:16433;およびZhan et al.,2001,Hum.Genet.,109:471を参照)から、レンチウイルス発現配列、例えば治療用ポリペプチドを保護するのに寄与し得る。いくつかの実施形態において、トランスファーベクターは、3’LTRの1つ以上のインシュレーター要素を含み、プロウイルスが宿主ゲノムに組み込まれると、プロウイルスは、3’LTRを複製することによって、5’LTRまたは3’LTRの両方に1つ以上のインシュレーターを含む。本発明での使用に適したインシュレーターには、限定されないが、ニワトリベータグロビンインシュレーターが含まれる(参照により本明細書に組み込まれる、Chung et al.,1993.Cell 74:505;Chung et al.,1997.PNAS 94:575;およびBell et al.,1999.Cell 98:387を参照されたい)。インシュレーター要素の例には、ニワトリHS4などのベータグロビン遺伝子座由来のインシュレーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0122】
特定の実施形態では、配列要素は、抗生物質耐性遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)、導入遺伝子などの異種核酸であり得る。
【0123】
レトロウイルス配列および/またはレンチウイルス配列の多様な供給源が使用され得、または組み合わされ得、本明細書に記載の機能を実行するためのトランスファーベクターの能力を損なうことなく、一定のレンチウイルス配列における多くの置換および変化が順応され得ることを理解されたい。さらに、様々なレンチウイルスベクターが当技術分野で知られており、それらの多くは、本開示のウイルスベクターまたはトランスファープラスミドを作製するように適合され得る。Naldini et al.,(1996a、1996b、および1998);Zufferey et al.,(1997);Dull et al.,1998,米国特許第6,013,516号;および5,994,136号を参照されたい。
【0124】
RT-PCR
RT-PCR(逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応)は、RNAの逆転写(RT)とcDNAのポリメラーゼ連鎖増幅(PCR)とを組み合わせた技術である。まず、RNAから逆転写酵素によりcDNAを合成した後、cDNAを鋳型として使用して、DNAポリメラーゼによって標的断片を増幅合成する。RT-PCR技術は、高感度で汎用性があり、細胞における遺伝子発現レベル、および細胞または培養上清中のRNAウイルスの含有量を検出するために使用することができる。特定の実施形態では、RT-PCR反応システムは、プライマー、逆転写酵素、PCR酵素、緩衝液、dNTPおよび他の構成要素を含み得る。
【0125】
RT-PCRでは、ウイルスRNAを最初にcDNAに変換し、次いでPCR(例えば、リアルタイムPCR、定量PCRまたはqPCR)を用いて定量する。
【0126】
本開示では、RT-PCRを使用して、同じ試料中のDNAおよびRNAの両方を検出することができる。
【0127】
一実施形態では、反応チューブおよび対照チューブが提供される。反応チューブは、試験される試料およびRT-PCRのすべての反応システムを含む。対照チューブは、反応チューブと同じ試料、およびPCR反応システム(例えば、逆転写酵素を除くRT-PCR反応システム)を含有する。反応チューブ内で、RNAおよびDNAの両方を増幅して、特異的に増幅された配列要素(例えば、WPRE要素)のCt値を得る。反応チューブについて計算されたコピー数は、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数+DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のコピー数である。
【0128】
対照チューブでは、逆転写酵素がなければ、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAを増幅することができず、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のみを増幅して、特定の増幅された配列要素(例えば、WPRE要素)のCt値を得る。そこから得られたコピー数は、DNA分子(例えば、プラスミドDNA)のDNAコピー数である。次に、RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数が、反応チューブ内のRNAおよびDNAのコピー数(n2)から対照チューブ内のDNAのコピー数(n1)を差し引くことによって得られ得る、すなわち、n2-n1=RNAウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)のRNAコピー数(図6に示す)。
【0129】
陽性対照
陽性対照は、既知の力価、感染力価または物理的力価を有するウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクターなどのRNAウイルスベクター)であり得る(例えば、Shanghai CBMG Biotechnology Co.,Ltd.から入手可能なLV-CAR001)。
【0130】
特定の実施形態では、陽性対照はまた、DNAおよびRNAを含み、陽性対照のコピー数および力価の計算方法は、試験される試料の計算式と同じである。
【0131】
本発明は、本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために提示される以下の非限定的な実施例を参照することによって、よりよく理解され得る。本開示は、特定の具体的な実施形態に関連して、以下でさらに説明される。これらの実施形態は、本発明を例示するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するために使用されないことを理解されたい。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常、対応する従来の条件、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されている条件に基づくか、または製造業者によって推奨される条件に従う。特に明記しない限り、パーセンテージおよび部は重量で計算される。
【0132】
特に明記しない限り、本開示の実施例で使用される試薬および材料はすべて市販品である。
【0133】
[実施例1]
装置:Quantstudio(商標)DX(ABI)
1.試薬調製
実験は氷上で行った。十分な体積のマスター反応混合物(MRM)を調製した。
【表1】
【0134】
2.試料希釈
試験される試料をEASY希釈緩衝液で適切な濃度(10~10TU/ml)に希釈した。
【0135】
3.試料溶解
2μlの希釈ウイルスおよび18μlのウイルス溶解緩衝液を添加し、よく混合し、室温で1~5分間インキュベートした。
【0136】
4.Lenti-X RNA対照希釈鋳型を用いた標準曲線の確立
標準希釈は、清浄な0.2ml PCRチューブ内で行った。図1を参照して、RNA標準の段階的希釈を行った。各チューブを十分に混合した後、次のチューブを希釈した。
【0137】
5×10コピー/μlを標準曲線の最高点として使用し、EASY希釈緩衝液を陰性対照(NTC、0コピー/μl)として使用した。
【0138】
5.96ウェルPCRプレートを氷上に置いた。18.4μlのMRM(3つの並行試料)をピペットで適切なウェルに移した。
【0139】
6.ピペットを使用して、1.6μlの標準希釈物、NTC、および試料(3つの並行試料)を96ウェルPCRプレートに移した。
【0140】
7.4℃で2分間、2000rpmで遠心分離して気泡を除去する。
【0141】
8.PCRプログラムを図2に従って設定した。96ウェルプレートを充填してプログラムを開始した。
【0142】
9.データ処理
1)標準曲線:Lenti-X RNA対照勾配希釈物の平均Ct値は、RNAコピー数(対数スケール)と線形関係にあった。
【0143】
2)各反応ウェル中の試料のRNAコピー数は、希釈試料の平均Ct値に基づいて計算した。キット中のレンチウイルス標準の段階的希釈試料から得られたCt平均値をX軸として使用した。レンチウイルス標準RNAコピー数の対応する対数値をY軸として使用した。標準曲線は、Y=aX+bである計算式にフィッティングすることによって得られた。
【0144】
Y:RNA標準または試験されるレンチウイルスベクターのRNAコピー数の対数値(底10)
X:標準または試料から得られたCt値の平均
a:標準曲線フィッティングにより得られる係数
b:標準曲線フィッティングにより得られる切片
A(各反応ウェルの核酸のコピー数)=10^(aX+b)
3)元の試料のRNAのコピー数(コピー/ml)=5×10コピー/ul
結果:
1.標準曲線
既知のコピー数の標準(例えば、RNA標準)を用いて標準曲線を作成し、未知試料のコピー数を算出した。Lenti-X RNA標準の希釈およびウイルス試料の希釈は、図1に示すように行った。図2に示すプログラムをPCR増幅に使用した。標準曲線を、Ct値および対応するウイルスコピー数に基づいてプロットした(図3)。標準品を測定することにより、得られた検出値をフィッティングすることができる。フィッティングされたデータは、良好な線形相関を示し(R≧0.9999)、検出方法が良好な安定性および精度を有することを示している。
【0145】
2.解離曲線
解離曲線(図4)は、ピークの数およびピークの位置を調べることによって、増幅産物の特異性および産物の状態を検証することができる。異なるピークは異なる産物を表す。
【0146】
2つのピークまたはさらには複数のピークが存在する場合、それはプライマーの特異性が高くないこと、すなわち、得られたCt値が信頼できないことを示す。ここで、リアルタイム定量PCR反応により得られた解離曲線は、唯一の鋭いピークを有し、この反応システムにおけるプライマーが高い特異性を有することを示した。本方法によって増幅された産物は安定で正確であり、検出データは信頼性があった。
【0147】
3.増幅曲線(図5
リアルタイム定量PCRの増幅曲線は、反応の増幅効率を反映することができる。高い一貫した増幅効率が、検出を成功させる鍵である。増幅効率が一貫していない場合、増幅効率曲線の勾配は同じ勾配を有さず、平行ではなく、プライマーの効率が同じではないこと、または個々の試料もしくは反応ウェルにおいてPCRを阻害する汚染があることを示している。図5から、本方法を用いて得られた増幅曲線は実質的に平行であり、傾斜度は相似または実質的に同一であることが見られ、本発明の方法が高い増幅効率を有することを示している。
【0148】
4.計算結果
【表2】
【0149】
Ct SD値から、試験される試料が互いに実質的に平行であったことが分かる。特異的増幅後の産物の融解温度(Tm)はいずれも75℃前後であり、良好なプライマー増幅効率を示し、非特異的増幅はなかった。既知の感染力価を有する陽性対照と比較することによって、試料の感染力価も迅速に計算/推定することができる。試料のレンチウイルス力価を適時に得ることは非常に重要である。この方法は、レンチウイルス力価の迅速な検出に良好な適用性を有することを示している。
【0150】
qPCRプログラムのパラメータを図2に示す。プログラムの開始から終了までの合計時間は、1時間20分である。試料調製時間およびqPCRプログラム後のデータ処理時間を合わせると、合計時間は2時間以内であることが可能である。
【0151】
結論
通常、レンチウイルスベクターの感染力価を決定するのに3~7日かかることがある。
【0152】
レンチウイルスベクターは脆弱であり、分解されやすいため、レンチウイルスベクター製造中の進行中監視のための、高速力価測定(titering)方法を開発する必要がある。本方法を使用して、レンチウイルスベクターの感染力価(または物理的力価)を効率的、迅速(例えば、2時間以内)かつ特異的に決定することができる。方法を使用して、作製プロセスにおける中間試料の力価を迅速に決定し、中間産物の量を決定し、最終産物の濃度を制御することができる。
【0153】
本開示の範囲は、上記で具体的に示され説明されたものによって限定されない。当業者は、材料、構成、構造および寸法の図示された例に対する適切な代替物があることを認識するであろう。特許および様々な刊行物を含む多数の参考文献が、本発明の説明において引用され、議論される。そのような参考文献の引用および議論は、単に本開示の説明を明確にするために提供されており、いかなる参考文献も本明細書に記載の本発明の先行技術であることを認めるものではない。本明細書で引用および議論されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されているものの変形、修正、および他の実施は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく当業者に想起されるであろう。本開示の特定の実施形態を示し説明したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく変更および修正を行うことができることは当業者には明らかであろう。前述の説明および添付の図面に記載された事項は、例示としてのみ提供され、限定として提供されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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