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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】車載撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20250220BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01C3/06 110V
G01C3/06 140
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023516291
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022004031
(87)【国際公開番号】W WO2022224533
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2021072203
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 浩
(72)【発明者】
【氏名】永崎 健
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078716(JP,A)
【文献】特開2015-232442(JP,A)
【文献】特開2017-198710(JP,A)
【文献】特開2009-098839(JP,A)
【文献】特開2007-206789(JP,A)
【文献】特開2017-139600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、レンズと撮像素子とを含む単数又は複数のカメラにより画像を撮像する撮像部と、
前記画像に含まれる測定対象の特徴部分を抽出する抽出部と、
前記画像に基づいて前記撮像部から前記特徴部分までの物標距離を算出する距離算出部と、
前記レンズの歪特性を基に、前記撮像素子の受光面を、前記レンズの光軸に対応する位置から複数の異なる像高位置で区分した複数の像高領域の位置に関する情報を保持する領域情報保持部と、
数の前記像高領域ごとに決められ、前記物標距離を算出するための補正値に関する情報を保持する補正値保持部と、
前記特徴部分が数の前記像高領域のいずれに属するかを特定する領域特定部と、
前記特徴部分が属する前記像高領域の情報に基づいて前記補正値保持部から前記補正値に関する情報を取得する補正値取得部と、
を有し、
前記距離算出部は、前記補正値取得部が取得した前記補正値により前記物標距離を補正し、
第1の時刻で撮像された前記画像を基に前記特徴部分について前記距離算出部で算出された第1の物標距離が保持される第1の距離保持部と、
前記第1の時刻より後の第2の時刻で撮像された前記画像を基に同一の前記特徴部分について前記距離算出部で算出された第2の物標距離が保持される第2の距離保持部と、
前記第1の距離保持部で保持された前記第1の物標距離と前記第2の距離保持部に保持された前記第2の物標距離との距離の差を算出する差分算出部と、
前記車両の走行距離に関する情報を取得する車両情報取得部と、
前記車両情報取得部で取得した、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの間に前記車両が移動した移動距離と、前記差分算出部で算出した距離の差と、を比較する比較部と、
前記移動距離と、前記距離の差と、予め定めた閾値と、に基づき、前記補正値の更新を実行するか否かを判定する判定部と、
を有し、
前記移動距離と前記距離の差に基づき、新たな前記補正値を算出する補正値算出部を有し、
前記判定部は、前記補正値の更新を実行すると判定した場合、前記補正値保持部が保持している前記特徴部分が属していた前記像高領域に対応する前記補正値の情報を、前記補正値算出部が算出した新たな前記補正値の情報に更新し、
前記判定部は、前記補正値の更新を実行しないと判定した場合は、前記補正値保持部が保持している前記特徴部分が属していた前記像高領域に対応する前記補正値の情報を更新せず、
前記車両の車速情報と、前記特徴部分が属している前記像高領域の情報とを用いて、前記特徴部分が特定の同一の前記像高領域内に留まる2点間の時間を算出する2点間時間算出部を有し、
前記第2の距離保持部は、前記第1の時刻から前記2点間の時間が経過した時刻を前記第2の時刻として前記距離算出部で算出された前記第2の物標距離を保持することを特徴とする車載撮像装置。
【請求項2】
前記2点間時間算出部は、
特定の前記特徴部分が特定の前記像高領域に属する、前記車両の最も長い走行距離を、前記画像内における前記特徴部分の位置及び前記像高領域の位置と関連付けたテーブルとして予め保持し、
前記領域特定部が特定した、前記第1の時刻に前記特徴部分が属している前記像高領域をzx、前記第1の時刻に前記車両が走行している前記車両の位置をLxとするとき、
前記特徴部分がzxに属する、前記Lxからの、前記車両の最も長い走行距離であるDxを、前記テーブルと前記画像内における前記特徴部分の位置及び前記像高領域の位置とを基に取得し、
前記車両情報取得部から取得した情報を基に前記Lxからの前記車両の走行距離を逐次求め、
前記Lxからの前記車両の走行距離が前記Dxへ到達した時点を前記第2の時刻であるとして、前記第2の時刻で撮像された前記画像を基に同一の前記特徴部分について前記距離算出部で算出された前記第2の物標距離を前記第2の距離保持部に保持させる、
ことを特徴とする請求項に記載の車載撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に搭載され、対象物までの距離を測定可能な撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両操作の一部又は全部をシステムが担う自動運転車両の開発が進められている。自動運転車両には車両外部の物体を正確に捉える外界認識センサが必要となる。外界認識センサの内、特に前方の物体までの正確な距離を捉えるためにカメラを使った撮像装置の開発が進められている。
【0003】
交差点における運転支援や自動運転に対応するため、広角レンズを使いカメラの視野角を広く取り、かつ物体までの距離を正確に取得することが衝突回避などのために重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-341458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし広角レンズになると、画像の周辺部に映る物体の像の位置ずれ量が増加し、画像の周辺部に映る物体までの距離の測定精度も低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車載撮像装置は、車両に搭載され、レンズと撮像素子とを含む単数又は複数のカメラにより画像を撮像する撮像部と、前記画像に含まれる測定対象の特徴部分を抽出する抽出部と、前記画像に基づいて前記撮像部から前記特徴部分までの物標距離を算出する距離算出部と、前記レンズの歪特性を基に、前記撮像素子の受光面を、前記レンズの光軸に対応する位置から複数の異なる像高位置で区分した複数の像高領域の位置に関する情報を保持する領域情報保持部と、前記複数の像高領域ごとに決められ、前記物標距離を算出するための補正値に関する情報を保持する補正値保持部と、前記特徴部分が前記複数の像高領域のいずれに属するかを特定する領域特定部と、前記特徴部分が属する前記像高領域の情報に基づいて前記補正値保持部から前記補正値に関する情報を取得する補正値取得部と、を有し、前記距離算出部は、前記補正値取得部が取得した前記補正値により前記物標距離を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも処理負荷が少なく、対象物までの距離の測定を迅速に行うことができる車載撮像装置を提供できる。本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に係る車載撮像装置のブロック図。
図2】測定対象の特徴部分が含まれる撮像画像の一例を示す図。
図3】レンズ特性と像高シフトとの関係を説明する図。
図4】撮像画像と像高領域を重ねた図。
図5】実施形態1に係る車載撮像装置の処理の一例を示すフロー図。
図6】実施形態2に係る車載撮像装置のブロック図。
図7】実施形態2に係る車載撮像装置の処理の一例を示すフロー図。
図8】実施形態3に係る車載撮像装置のブロック図。
図9図9(a)は時刻t1での撮像画像と像高領域を重ねた図、図9(b)は時刻t2での撮像画像と像高領域を重ねた図。
図10】実施形態3に係る車載撮像装置の処理の一例を示すフロー図。
図11図11(a)は、点Oを撮像画像の中心に配置した場合の、時刻が異なる2つの撮像画像と像高領域を重ねた図、図11(b)は、点Oを撮像画像の中心よりも下方に配置した場合の、時刻が異なる2つの撮像画像と像高領域を重ねた図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の技術に係る複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では左側通行の場合を例に説明する。
【0010】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車載撮像装置のブロック図である。
なお、この実施形態の特徴は、単数又は複数のカメラの構成に適用できる。図1において、301は撮像部、302は抽出部、303は距離算出部、304は領域特定部、305は領域情報保持部、306は補正値取得部、307は補正値保持部、100は車載撮像装置である。
【0011】
<撮像部>
撮像部301は、車両に搭載され、レンズと撮像素子とを含むカメラにより画像を撮像する。画像には、人や道路標識、電柱、信号機、縁石等の測定対象が含まれる。本実施例では、撮像部301は、一対のカメラを有するステレオカメラシステムによって構成されている。一対のカメラの各レンズは、互いの光軸が水平方向に所定間隔を有して鉛直方向に略同一の高さで配置されている。一対のカメラは、それぞれのレンズの歪特性を含む光学的な仕様及び各撮像素子の受光面の大きさや有効画素数等の仕様は互いに同じに設定されている。
【0012】
図2は、測定対象の特徴部分が含まれる撮像画像の一例を示す図である。
図2の撮像画像は、片側一車線の左路側202と中央線203に挟まれる自車線201を走行する車両において撮像部301で撮像したものである。撮像画像において、201は自車線、202は左路側、203は縁石、204は中央線、205は測定対象の速度標識、206は特徴部分である速度標識の数字の部分である。
【0013】
<抽出部>
抽出部302は、画像に含まれる測定対象の特徴部分を抽出する。抽出部302は撮像画像の画像データを基に画像処理を行い、既知のパターン認識等の手法を用いて測定対象を認識し、特徴部分を抽出する。
【0014】
<距離算出部>
距離算出部303は、撮像部301から特徴部分までの距離である物標距離を算出する。ここで、物標とは、物や人等、測定の対象となるものをいい、物標距離とは、撮像部301から物標までの距離のことをいう。距離算出部303は、撮像部301により撮像された画像を用いて物標距離を算出する。物標距離の算出方法は、たとえば、視差を用いるなど、既知の方法で行うものであり、詳細な説明は省略する。
ステレオカメラの場合、レンズの光軸間の距離をd、レンズの焦点距離をf、視差をq´とすると、相似な三角形の長さの関係から物標距離p´を
p´=(f×d)/q´ ・・・ (1)
の式で求めることができる。
【0015】
距離算出部303は、一対のカメラで取得した特徴部分の各画像上の位置から視差q´の値を算出する。次に、距離算出部303は、不図示の保持部に保持されている焦点距離f、距離dを読み込み、視差q´と合わせて式(1)に従って物標距離p´を算出する。
【0016】
ここで、上記の式(1)におけるp´、q´は、次に説明するレンズの歪特性による像の位置ずれの影響が多い場合の物標距離及び視差である。そして後で説明するように、距離算出部303では、補正値保持部307から取得した補正値を使って物標距離p´を補正し、レンズの歪特性による像の位置ずれの影響が少ない場合の物標距離pを算出する。
【0017】
次に、レンズに起因する像の位置ずれについて説明を行う。
図3は、レンズ特性と像高シフトとの関係を説明する図である。
図3に示す撮像画像110は、撮像画像110の視野中央部とレンズの光軸とが一致しており、光軸対応点となっている。図3に示す撮像画像110の視野中央部に撮像されている人物103と、撮像画像110の横端に撮像されている人物105は、同一人物であり、撮像部301から同一の距離だけ離れているとする。歪みのない理想の特性を有するレンズの場合は、人物103と人物105は、撮像画像110内において大きさが同じでかつ高さが同じ位置に撮像される。
【0018】
しかしながら、一般的にレンズは、光軸を中心とした対称性のある歪特性を有しており、視野中央部よりも周辺部の方が歪みが大きくなるため、人物103と比べ人物105の大きさと位置は、本来の大きさと異なり、位置もずれる(シフトする)。特に、広角レンズの場合には、視野角が広いので、撮像画像の端部における物標の大きさの変化と位置のズレ量も大きくなる(像高シフトが大となる)。
【0019】
レンズの歪特性はレンズの仕様で変わるのはもちろん、同一の仕様であってもレンズの個体ばらつき、温度、経年変化等の要因で変わることがある。例えば樹脂製の安価なレンズのように温度変化や経年変化の挙動が視野中央部と周辺部で異なるレンズの場合、物標の大きさの変化と位置ずれのズレ量が視野中央部と周辺部とで大きく異なる。したがって、図3に示す例では、本来であれば人物103、105の位置と大きさに撮像されるはずが、温度変化や経年変化によって、人物104、106の位置と大きさに撮像されるおそれがある。
【0020】
このような物標の大きさと位置ずれの現象は、撮像画像の垂直方向および水平方向のいずれにも発生し、撮像画像の視野中央部である光軸中心に対称な像高シフト現象として現れる。したがって、レンズの視野中心部と周辺部でのズレ方の違いにより、測距のズレ方も異なるおそれがあり、測距距離に基づいた車両制御に影響を及ぼすことが懸念される。
【0021】
本実施形態の車載撮像装置では、レンズの光軸を中心とした対称性のある歪特性に着目して、図3に複数の同心円で示すように、像高領域を複数のゾーン領域に区分けして、ゾーン領域単位でズレ量の把握と補正を行う。
【0022】
図4は、撮像画像と像高領域を重ねた図である。
ここで、符号15は撮像画像の有効画素領域、Oはレンズの光軸対応点である。図4ではレンズの光軸対応点Oは、有効画素領域15の対角線が交差する位置に設定されている。図4における像高は、レンズの光軸対応点Oからの距離であり、レンズの光軸対応点Oから有効画素領域15の対角線の各端部までの距離を像高100%としている。
【0023】
本実施形態では、レンズの歪特性を基に、撮像部の撮像素子を、レンズの光軸に対応する位置から複数の異なる像高位置で区分した複数の像高領域としている。各像高領域の境界線はレンズの光軸に対応する位置を中心とする同心円状になるように設定されている。
【0024】
<領域情報保持部>
領域情報保持部305は、レンズの歪特性を基に、撮像素子の受光面を、レンズの光軸に対応する位置から複数の異なる像高位置で区分した複数の像高領域の位置に関する情報を保持する。
【0025】
<領域特定部>
領域特定部304は、特徴部分が複数の像高領域のいずれに属するかを特定する。領域特定部304は、領域情報保持部305が保持する各像高領域に対応する位置の情報を参照し、測定対象の特徴部分がどの像高領域に入るかを特定する。
【0026】
<補正値保持部>
補正値保持部307は、複数の像高領域ごとに決められ、物標距離を算出するための補正値に関する情報を保持する。補正値保持部307は、各像高領域に対応する補正値(距離補正係数)を保持する。
【0027】
<補正値取得部>
補正値取得部306は、領域特定部304が特定した像高領域に対応する補正値(距離補正係数)を補正値保持部307から取得する。
【0028】
<距離算出部>
距離算出部303は、レンズの歪特性による像の位置ずれの影響が多い場合の物標距離を、補正値取得部306が取得した補正値により補正することで、レンズの歪特性による像の位置ずれの影響が少ない場合の物標距離pを算出する。式(1)で求めた物標距離p´は、撮像画像上の位置を使って算出している。距離算出部303では、物標距離p´を基に、補正値取得部306で取得した補正値(距離補正係数)を積算することで物標距離pを算出する。
【0029】
なお、実施形態1は、カメラが2つの構成であるが、カメラが1つの構成でも適用できる。カメラが1つの場合には例えばカラーフィルターを使って画像ぼけの形状から物標距離p´を求める方法を利用できる。すなわち、特徴部分が結像した撮像素子上の情報を基に物標距離p´を求めることができ、同様に物標距離pを算出することができる。
【0030】
<車載撮像装置の動作>
図5は、実施形態1に係る車載撮像装置100の処理の一例を示すフロー図である。
まず撮像部301は測定対象が含まれる画像の撮像を行う(S101)。
抽出部302は、撮像された画像に画像処理を行い、既知のパターン認識等の手法を用いて測定対象を認識し、特徴部分を抽出する(S102)。
領域特定部304は、特徴部分が複数の像高領域のいずれに属するかを領域情報保持部305に保持された情報を参照して特定する(S103)。
補正値取得部306は、領域特定部304が特定した区分に対応する補正値(距離補正係数)を補正値保持部307から取得する(S104)。
距離算出部303は、特徴部分について視差q´から算出した物標距離p´に、補正値(距離補正係数)を積算することで、物標距離pを算出する(S105)。
【0031】
なお、撮像部301、抽出部302、領域特定部304、距離算出部303等で行われる処理は、不図示のカメラ内のマイコンや専用のLSI、PC上のCPUなどによって行われる。
【0032】
このように実施形態1では、複数の像高領域ごとに設定した距離補正係数を用いて物標距離を算出するので、多数のテーブルの保持が不要のため記憶容量を削減でき、複雑な関数計算も不要なので処理負荷が軽減され、物標距離の算出が迅速になる。
【0033】
また、物標距離の算出段階だけで像の位置ずれ要因を補正するので、画像の位置変換後に物標距離を算出する方法に比べ処理負荷が軽減され、物標距離の算出が迅速になる。
【0034】
[実施形態2]
次に実施形態2の説明を行う。車載撮像装置では、レンズの経時変化による屈折率の変化や、レンズの温度による熱膨張、熱収縮が発生し、像の位置ずれに影響を与えることがある。像の位置ずれに影響があると物標距離の測定精度が低下するため、補正値を適正な値に更新する必要がある。そこで実施形態2では、物標距離と基準となる距離との差分が所定の値以上の場合に、補正値を適正な値に更新する較正処理を実行する。ここで、基準となる距離は、たとえば、車両情報取得部311の走行速度情報等から取得する。すなわち異なる2つの時刻t1,t2の間に走行する車両の距離を基準とする。
【0035】
図6は、実施形態2に係る車載撮像装置100Aのブロック図である。このブロック図は3つに分かれている。第1のブロックは、車載撮像装置により物標距離を算出するブロックである。第2のブロックは、異なる時刻で同じ像高領域に属している同じ測定対象から算出した2つの物標距離の差分を算出するブロックである。第3のブロックは、所定の車両走行距離と2つの物標距離の差分とを比較し、補正値の更新の実行の可否を判断するブロックである。
【0036】
第1のブロックについては、実施形態1と同様の構成であるので図面に同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0037】
<第2のブロック>
図6において、311は車両情報取得部、313は第1の距離保持部、314は経過時間ゲート、315は第2の距離保持部、316は差分算出部である。
【0038】
<第1の距離保持部>
第1の距離保持部313には、第1の時刻で撮像された画像を基に特徴部分について距離算出部303で算出された第1の物標距離が保持される。例えば、第1の距離保持部313には、時刻t1での撮像画像から抽出した特徴部分Wについて算出した第1の物標距離が保持される。
【0039】
<第2の距離保持部>
第2の距離保持部315には、第1の時刻より後の第2の時刻で撮像された画像を基に同一の特徴部分について距離算出部303で算出された第2の物標距離が保持される。例えば、第2の距離保持部315には、時刻t1より後の時刻t2での撮像画像から抽出した特徴部分Wについて算出した第2の物標距離が保持される。
【0040】
<車両情報取得部>
車両情報取得部311は、車両の走行距離に関する情報を取得する。車両情報取得部311は、車軸の回転数に比例してパルス信号を発生させる車速センサ等から車速を取得することができる。また、V-CANやロケータなどから車速以外の距離に関する情報を取得してもよい。
【0041】
<経過時間ゲート>
経過時間ゲート314はゲートを開き、第2の時刻t2で撮像された画像を基に同一の特徴部分について距離算出部303で算出された第2の物標距離を第2の距離保持部315に保持させる。
【0042】
<差分算出部>
差分算出部316は、第1の距離保持部313で保持された第1の物標距離と第2の距離保持部315に保持された第2の物標距離との距離の差を算出する。差分算出部316は、第1の距離保持部313に保持された時刻t1のときの特徴部分Wについて算出した第1の物標距離と、第2の距離保持部315に保持された時刻t2のときの特徴部分Wについて算出した第2の物標距離との距離の差Dcを算出する。
【0043】
<第3のブロック>
次に第3のブロックについて説明する。図6において、322は比較部、323は補正値算出部、324は判定部、325は更新ゲートである。
【0044】
<比較部>
比較部322は、車両情報取得部311で取得した、第1の時刻から第2の時刻までの間に車両が移動した移動距離と、差分算出部316で算出した距離の差と、を比較する。 第2のブロックの車両情報取得部311で取得した移動距離(車両走行距離)Dmと、第2のブロックの差分算出部316で算出された物標距離の距離の差Dcは、比較部322に送られる。比較部322は|(Dm-Dc)/Dm|を算出する。ここで|(Dm-Dc)/Dm|をKとする。
【0045】
<判定部>
判定部324は、移動距離Dmと、距離の差Dcと、予め定めた閾値と、に基づき、補正値の更新を実行するか否かを判定する。判定部324は、例えばKが閾値3%以上の場合に、第1のブロックの補正値保持部307に保持されている補正値(距離補正係数)の更新を行い、3%未満の場合には更新を行わないように更新ゲート325を設定する。
【0046】
<補正値算出部>
補正値算出部323は、移動距離Dmと、距離の差Dcと、補正値と、に基づき、新たな補正値を算出する。補正値算出部323は、Kが0になるように補正値を算出する。
【0047】
判定部324は、補正値の更新を実行すると判定した場合、補正値保持部307が保持している特徴部分が属していた領域に対応する補正値の情報を、補正値算出部323が算出した新たな補正値の情報に更新する。また、判定部324は、補正値の更新を実行しないと判定した場合は、補正値保持部307が保持している特徴部分が属していた領域に対応する補正値の情報を更新しない。判定部324は、例えばKが3%以上の場合に更新ゲート325のゲートを開き、補正値保持部307に補正値算出部323が算出した新たな補正値を送る。Kが3%未満の場合には更新ゲート325はゲートを開かず、補正値保持部307に保持された補正値は維持される(補正値の更新を行わない)。なお、前記方法では、更新が累積して初期と大きく異なる補正値が与えられることがある。したがって、初期値に対して10%以上補正値が変化した場合は、車両のモニター等に警告を表示して、車両の使用者に知らせることを行ってもよい。
【0048】
<車載撮像装置の動作>
図7は、実施形態2に係る車載撮像装置100Aの処理の一例を示すフロー図である。
【0049】
抽出部302は、画像データを基に画像処理を行い、既知のパターン認識等の手法を用いて測定対象を認識し、特徴部分を抽出する(S201)。
【0050】
距離算出部303は、時刻t1での撮像画像から距離算出部303が算出した第1の物標距離を第1の距離保持部313に保持させる(S202)。
【0051】
車両情報取得部311は、予め保持されていた時刻t2を取得する(S203)。
【0052】
車両情報取得部311は、現在の時刻がt2に到達したかを判断し、到達しない場合は判断を繰り返す(S204)。
【0053】
車両情報取得部311は、時刻t2に到達した場合は時刻t1から時刻t2までの車両の走行距離を取得し、経過時間ゲート314を開き、時刻t2での撮像画像から距離算出部303が算出した第2の物標距離を第2の距離保持部315に保持させる(S205)。
【0054】
差分算出部316は、第1の物標距離と第2の物標距離の差Dcを算出する(S206)。
【0055】
判定部324は、比較部322により算出された|(Dm-Dc)/Dm|(=K)が閾値以上であるか判定する(S207)。
【0056】
判定部324は、Kが閾値以上の場合に、補正値を更新する(S208)。
【0057】
なお、車両情報取得部311、比較部322、差分算出部316、判定部324等で行われる処理は、不図示のカメラ内のマイコンや専用のLSI、PC上のCPUなどによって行われる。
【0058】
上記の較正処理、すなわち判定部324による補正値の更新を実行するか否かの判定は、車両の走行の開始直後、物標距離を算出するごと、又は任意の時間間隔の少なくとも1つのタイミングで実行されるように設定してもよい。
【0059】
また、補正値の更新がされた後、更新された像高領域の測定対象に対し物標距離を算出する場合、直前に上記の較正処理を実行し、更新された補正値が正しいことを確認してもよい。
【0060】
また、閾値を2つ持ち、高い閾値を超えた場合は直ちに他の物標で上記較正動作を再度実行し、真偽を確認してもよい。
【0061】
また、2つの閾値のうち高い閾値を連続で超えるような場合には異常値としてログを保存し、アラート信号を発報し、ユーザーにはランプ等で知らせるようにしてもよい。
【0062】
なお、実施形態2に係る車載撮像装置100Aによる較正処理は、所定の長さ以上続く略直線状の道路で実行されることが好ましい。
【0063】
[実施形態3]
上記した実施形態2では、時刻t1と時刻t2での特徴部分の属する像高領域が同じにならない場合がある。そのため測定精度を高くできない場合がある。そこで実施形態3では、2つの物標距離の差が像の位置ずれの影響を受けにくくなるように、距離取得部312によって時刻t1と時刻t2の両方の時点で特定の特徴部分が特定の同一の像高領域内に留まるようにする形態について説明する。なお、実施形態3において、実施形態2と同様の構成要素については、同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0064】
図8は、実施形態3に係る車載撮像装置100Bのブロック図である。実施形態2のブロック図との相違点は距離取得部312が追加され、領域特定部304、領域情報保持部305、経過時間ゲート314、比較部322と関連する点である。
【0065】
<距離取得部>
距離取得部312は、画像上を移動する物標の特徴部分が特定の同一の像高領域内に留まる2点間の距離と時間を取得する。距離取得部312は、車速情報と、物標が存在している像高領域とを用いて算出テーブルを参照することによって像高領域別の2点間距離および2点間時間を算出する。本実施形態の距離取得部312は、特許請求の範囲における2点間時間算出部に対応する。
【0066】
距離取得部312では、時刻t1と時刻t2の両方の時点で特定の特徴部分が特定の同一の像高領域内に属するようにする。具体的には、距離取得部312は、特定の特徴部分が特定の同一の像高領域に属する、車両の最も長い走行距離を、画像内における特徴部分の位置及び像高領域の位置と関連付けたテーブルとして予め保持している。「最も長い」とは、様々な測定誤差要因、装置の個々のばらつき等を入れた場合でも、特定の特徴部分が特定の同一の像高領域に確実に属するように余裕をみた場合に「最も長い」という意味である。ここで、領域特定部304が特定した、第1の時刻t1に特徴部分が属している像高領域をzx、第1の時刻t1に車両が走行している位置をLxとする。距離取得部312は、特徴部分が像高領域zxに属する、位置Lxからの、車両の最も長い走行距離であるDx(目標値Dm)を、テーブルと画像内における特徴部分の位置及び像高領域の位置とを基に取得する。
【0067】
距離取得部312は、車両情報取得部311から取得した車速情報を基にLxからの車両の走行距離を逐次求める。
【0068】
距離取得部312は、Lxからの車両の走行距離がDx(目標値Dm)へ到達した時点を第2の時刻であるとして、第2の時刻で撮像された画像を基に同一の特徴部分について距離算出部303で算出された第2の物標距離を第2の距離保持部315に保持させる。距離取得部312は、走行距離が目標値Dmへ到達した時点が第2の時刻t2であるとして経過時間ゲート314のゲートを開き、第2の時刻t2で撮像された画像を基に同一の特徴部分について距離算出部303で算出された第2の物標距離を第2の距離保持部315に保持させる。
【0069】
図9は、時刻t1及び時刻t2で特徴部分Wが同一の像高領域z2に属していることを示す図である。図9(a)は時刻t1での撮像画像と像高領域を重ねた図である。図9(b)は時刻t2での撮像画像と像高領域を重ねた図である。
【0070】
<車載撮像装置の動作>
図10は、実施形態3に係る車載撮像装置100Bの処理の一例を示すフロー図である。実施形態2と相違するのはS303とS304の2つのステップであり、重複するステップについては説明を省略する。
【0071】
距離取得部312は、特定の特徴部分が特定の像高領域に属する、車両の最も長い走行距離を、画像内における特徴部分の位置及び像高領域の位置と関連付けたテーブルとして予め保持している。ここで、領域特定部304が特定した、第1の時刻に特徴部分が属している像高領域をzx、第1の時刻に車両が走行している位置をLxとする。距離取得部312は、特徴部分がzxに属する、Lxからの、車両の最も長い走行距離であるDx(目標値Dm)を、テーブルと画像内における特徴部分の位置及び像高領域の位置とを基に取得する(S303)。
【0072】
距離取得部312は、車両情報取得部311から取得した情報を基にLxからの車両の走行距離を逐次求める。距離取得部312は、走行距離が目標値Dmへ到達したかを判断する(S304)。
【0073】
距離取得部312は、走行距離が目標値Dmへ到達したと判断した場合、走行距離が目標値Dmへ到達した時点が第2の時刻であるとして経過時間ゲート314のゲートを開き、第2の時刻で撮像された画像を基に同一の特徴部分について距離算出部303で算出された第2の物標距離を第2の距離保持部315に保持させる(S205)。
【0074】
なお、距離取得部312等で行われる処理は、不図示のカメラ内のマイコンや専用のLSI、PC上のCPUなどによって行われる。
【0075】
上記の較正処理、すなわち判定部324による補正値の更新を実行するか否かの判定は、車両の走行の開始直後、物標距離を算出するごと、又は任意の時間間隔の少なくとも1つのタイミングで実行されるように設定してもよい。
【0076】
また、補正値の更新がされた後、更新された像高領域の測定対象に対し物標距離を算出する場合、直前に上記の較正処理を実行し、更新された補正値が正しいことを確認してもよい。
【0077】
また、閾値を2つ持ち、高い閾値を超えた場合は直ちに他の物標で上記較正動作を再度実行し、真偽を確認してもよい。
【0078】
また、2つの閾値のうち高い閾値を連続で超えるような場合には異常値としてログを保存し、アラート信号を発報し、ユーザーにはランプ等で知らせるようにしてもよい。
【0079】
なお、実施形態3に係る車載撮像装置100Bによる較正処理は、所定の長さ以上続く略直線状の道路で実行されることが好ましい。
【0080】
このように、特徴部分がともに同一の像高領域にある2つの時刻における各画像から各物標距離を算出するので、物標距離の測定精度を高くできる。
【0081】
また、特徴部分が特定の像高領域内に属する最も長い走行距離を取得できるので、物標距離の測定精度を高くできる。
【0082】
[実施形態4]
実施形態3では、車両の走行時に、同一の特徴部分が特定の同一の像高領域に存在している2か所の走行位置の間隔をできるだけ長くとることで較正の精度を上げている。しかし、同一の特徴部分が特定の像高領域に存在することがないと較正ができない。また、同一の特徴部分が特定の像高領域に存在している2か所の走行位置の間隔を長くとれない場合には、較正の精度が下がってしまう。そこで、実施形態4では、撮像画像から有効画素領域を切り出す範囲を変更して、レンズの光軸対応点Oを撮像画像の中心に配置した範囲から、撮像画像の中心よりも下方に配置した範囲に移動させる。
【0083】
図11(a)は、点Oを撮像画像の中心に配置した場合の、時刻が異なる2つの撮像画像の有効画素領域と像高領域を重ねた図である。
図11(b)は、撮像画像から有効画素領域を切り出す範囲を変更して、レンズの光軸対応点Oを撮像画像の中心よりも下方に配置した場合の、時刻が異なる2つの撮像画像の有効画素領域と像高領域を重ねた図である。
【0084】
このように、撮像画像から有効画素領域を切り出す範囲を変更して、レンズの光軸対応点Oの位置を相対的に移動させることによって、測定対象の特徴部分が像高領域z2に存在する車両走行距離を長くすることが可能になり、測定精度を上げることができる。
【0085】
また、像高が大きい像高領域について補正値(距離補正係数)を較正する場合に、適当な特徴部分が存在しない場合や、像高領域に滞在する車両走行距離が短い場合にも精度の高い較正を行うことが可能である。
【0086】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0087】
15:有効画素領域、100,100A,100B:車載撮像装置、301:撮像部、302:抽出部、303:距離算出部、304:領域特定部、305:領域情報保持部、306:補正値取得部、307:補正値保持部、311:車両情報取得部、312:距離取得部(2点間時間算出部)、322:比較部、324:判定部。
図1
図2
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図11