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特許7637778高いトリペプチド生産能を有する微生物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】高いトリペプチド生産能を有する微生物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/16 20060101AFI20250220BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20250220BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20250220BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20250220BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12N1/16 Z
C12P21/02 G
C12N9/04 Z
A61P39/06
A61P39/02
A61K36/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023536882
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 KR2021017985
(87)【国際公開番号】W WO2022131623
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0177834
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12777P
(73)【特許権者】
【識別番号】500578515
【氏名又は名称】サムヤン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アン,シンヘ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ブス
(72)【発明者】
【氏名】イ,サンヒ
(72)【発明者】
【氏名】パク,チョンジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウンス
(72)【発明者】
【氏名】クォン,スンギュ
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/139031(WO,A1)
【文献】Acta Biotechnol.,1999年,Vol. 19, Issue 1,pp.27-36
【文献】Appl. Microbiol. Biotechnol.,2004年,Vol. 66,pp.233-242
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール脱水素化酵素(Alcohol dehydrogenase、ADH)活性およびアルコール耐性を有し、
グルタチオン生産能を有し、
受託番号がKCCM 12777Pである、
カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株。
【請求項2】
前記菌株は、菌体の乾燥重量(g)当りADH活性が0.18mU/ml以上であり、菌体の乾燥重量(g)当りグルタチオン生成量が0.8重量%以上である、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
前記菌株は、エタノール濃度が2~15%(v/v)である条件で生育できるアルコール耐性を有する、請求項1に記載の菌株。
【請求項4】
前記菌株は、アルコール濃度が6~15%(v/v)である条件で培養した場合、寄託番号KCCM 11355を有するCandida utilisの菌体光学密度(optical density、OD)値100%を基準にして120~200%を有するものである、請求項3に記載の菌株。
【請求項5】
請求項1~のうちのいずれか一項によるカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、アルコール分解用組成物。
【請求項6】
前記菌株は、菌体の乾燥重量(g)当りアルコール脱水素化酵素(Alcohol dehydrogenase、ADH)活性が0.18mU/ml以上である、請求項に記載のアルコール分解用組成物。
【請求項7】
請求項1~のうちのいずれか一項によるカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、二日酔い解消、改善、軽減、または予防用組成物。
【請求項8】
請求項1~のうちのいずれか一項によるカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株を培養して、グルタチオン生成量を増加させる方法。
【請求項9】
前記菌株の培養は、炭素源として砂糖またはブドウ糖を使用するものである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記菌株の培養は、発酵液内エタノール含量を測定して炭素源供給速度を調節して行うものである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
システインを添加して菌株を培養することを含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いトリペプチド生産能および/またはアルコール分解酵素活性を有するカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコールは他の食品とは異なり、体内に蓄積されないxenobioticsの一種類であって、アセトアルデヒド(acetaldehyde)のような分解産物によって酸化ストレスによる細胞損傷と二日酔い症状の主要原因として知られている。アルコールは摂取量によって肝代謝に多様な影響を与えるようになり、アルコールそれ自体よりは酸化分解過程で生成されたnicotinamide adenine dinucleotide phosphate(NADP)およびアセトアルデヒド(acetaldehyde)が生体内活性アミン類と縮合反応を経て肝損傷の主要媒介体として作用すると同時に、脳に送達されたアセトアルデヒド(acetaldehyde)は、多くの有害化合物に変化して、顔面紅潮、脈拍増加、悪心、嘔吐などの二日酔い症状が現れると知られている。
【0003】
体内に入ったアルコールの80~90%は、肝細胞に存在するアルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase、ADH)によって先ずアセトアルデヒドに分解され、前記アセトアルデヒドは、再びアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldehyde dehydrogenase、ALDH)酵素によって代謝されて酢酸を形成した後、二酸化炭素と水に加水分解されて完全に分解される。肝でのエタノール分解は、ADHによる酸化反応を経てアセトアルデヒドへ転換される段階が重要な段階となる。
【0004】
グルタチオン(L-γ-glutamyl-L-cysteinylglycine、GSH)は細胞内に存在する生理活性物質であって、グルタミン酸(glutamate)、システイン(cystein)、およびグリシン(glycine)の3つのアミノ酸から構成されたトリペプチド形態である。体内では還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)の二つの形態で存在する。グルタチオンは、動物、植物、および微生物の細胞内で0.1~10mMの濃度で存在し、細胞の総非タンパク質性活性分の90%以上を占めている。グルタチオンの多様な機能は、農業分野だけでなく、酵素学、輸送、薬物学、治療、毒物学、内分泌学、および微生物学を含む多くの医学分野で重要である。
【0005】
グルタチオンは主に微生物を用いた発酵または酵素合成工程で生産可能であり、現在、高い生産単価によって酵素合成工程はまだ商用化されていない。反面、産業的に微生物を培養して菌体から抽出する方法が広く用いられている。グルタチオン生産のための微生物菌株としては、細胞内に高含量のグルタチオンを含有し食品生産に安全な微生物と認識される酵母が広く用いられており、特にSaccharomyces属菌株とCandida属菌株が代表的である。この酵母種の野生型菌株の場合、グルタチオン濃度が細胞乾燥重量の0.1-1%程度であってすでに非常に高く、低価の培地で高密度細胞培養および速い成長が可能であるという長所は、酵母を用いたグルタチオンの発酵生産が競争力を有するようにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トリペプチド生産能および/または高いADH活性を有するカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株、これを用いたアルコール分解用組成物、二日酔い解消、二日酔い改善、または二日酔い予防用組成物、または酸化ストレス軽減用組成物または抗酸化組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一例は、高いADH活性を有するカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株を提供するものである。
【0008】
本発明の一例は、トリペプチド生産能および高いADH活性を有するカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株を提供するものである。
【0009】
本発明の追加一例は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の溶解物、前記菌体の破砕物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、アルコール分解用組成物を提供するものである。
【0010】
本発明の追加一例は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、二日酔い解消、二日酔い改善、または二日酔い予防用組成物を提供するものである。
【0011】
本発明の追加一例は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、酸化ストレス軽減用組成物または抗酸化組成物を提供するものである。
【0012】
本発明の追加一例は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、酸化ストレス関連疾患の予防、改善または治療用組成物を提供するものである。
【0013】
本発明の追加例は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む、食品組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によって1次選定された候補菌株のグルタチオン生産性を示すグラフである。
図2】本発明によって1次選定された候補菌株の単位時間当り生成されたNADH濃度を示すグラフである。
図3】本発明によるスクロース注入速度(Feeding rate)によるグルタチオン含量の変化率を示したグラフである。
図4】本発明によるスクロース注入速度による培養液内エタノール含量を示したグラフである。
図5】本発明によるスクロース注入速度による時間別菌体濃度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、グルタチオン生成能および/またはアルコール分解酵素(Alcohol dehydrogenase、ADH)活性を有しており、さらに詳しくは、グルタチオン生成能が高いだけでなく、アルコール分解酵素活性を有していて体内アルコールを解毒し排出することにさらに円滑に作用する長所がある。本発明に係る酵母菌株は、組換え技術で製造されたものでなく、自然から分離したnon-GMO菌株であって、活用性が高いという長所がある。
【0016】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン生成量が0.8重量%以上および/またはADH活性が0.18mU/ml以上であるものであってもよく、好ましくは、菌体の乾燥重量(g)当りグルタチオンが約1.5重量%以上および/またはADH活性が0.2mU/ml以上であってもよい。
【0017】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、アルコール分解能(Alcohol dehydrogenase、ADH)およびアルコール耐性を有し、詳しくは、エタノール濃度が2~15%(v/v)である条件で生育できるアルコール耐性を有し、さらに詳しくは、アルコール濃度が6~15%(v/v)である条件で培養した場合、寄託番号KCCM 11355を有するCandida.utilisの菌体光学密度(optical density、OD)値100%を基準にして、本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体光学密度(optical density、OD)値が120~200%を有するものであってもよい。
【0018】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、(i)30℃で振とう培養時、グルタチオン生産量が増加すること、(ii)振とう培養する条件で、ブドウ糖含有培地で培養する場合の菌体濃度(600nm OD値)100%を基準にして、スクロース含有培地で培養する場合の菌体濃度(600nm OD値)値が105%以上、110%以上、または115%以上の下限値を有することができ、菌体濃度の上限値が120%以下であり、または前記下限値と上限値を組み合わせた範囲を有することができ、例えば、105~120%であるか、または振とう培養する条件で、ブドウ糖含有培地で培養する場合のグルタチオン含量(mg/L)100%を基準にして、スクロース含有培地で培養する場合のグルタチオン含量がより具体的に、105%以上、110%以上、または115%以上でありながら、150%以下、140%以下、130%以下、または120%以下であってもよく、例えば、105~150%、または110~140%であること、(iii)システイン(Cysteine)添加培養時、増加されたグルタチオン生産量を有すること、および(iv)注入速度(Feeding rate)6g/L・h-1で供給した流加(fed-batch)培養条件でグルタチオン生成量を維持すること、例えばbatch終了時点のグルタチオン含量を基準にして50~120%を有すること、またはエタノール含量2g/L以上濃度でbatch当り最大グルタチオン含量に対比して80%~120%含量を有する培養特性からなる群より選択された1種以上を有するものであってもよい。
【0019】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、アルコールに対する耐性とアルコール分解能を有していて、飲酒前または後アルコール分解による二日酔い解消効果と肝の解毒作用を助けて、その後におけるアルコール性肝疾患を予防することができる食品などの製造に広範囲に活用できるアルコール分解能がある健康機能性食品および食品添加剤に関するものである。
【0020】
本発明に係る菌株は、アルコール(エタノール)分解酵素活性が優れているため摂取したアルコール(エタノール)の吸収を効果的に抑制することによって過多なアルコール代謝による肝機能障害とアルコール性肝疾患および腸疾患発生を予防することができるようになる。
【0021】
具体的に、アルコールは体内に貯蔵されないため代謝されなければならず、この過程は大部分が肝で行われ、このような代謝は肝に存在するアルコール分解酵素(Alcohol dehydrogenase)によって行われる。アルコールはこのような酵素によってアセトアルデヒドという物質を経て分解され、前記生成されたアセトアルデヒドは毒性があるため肝細胞に損傷を与え、アルコール代謝の結果、脂肪酸が多く生成され、肝に脂肪が蓄積されてアルコール性肝疾患を起こす。このようなアルコール性肝疾患は、大きくアルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝線維症、アルコール性肝硬変に分類され、肝の損傷機序は、アルコール自体による場合、アセトアルデヒドのような代謝産物による場合、免疫反応による場合などがあり、特にアセトアルデヒドは、脂肪のペルオキシデーション(Peroxidation)、細胞質との結合、ミトコンドリアの電子伝達系攪乱、マイクロチューブル(Microtubule)の機能妨害、タンパク質と結合物質形成、コラーゲン合成の増加など肝毒性の主犯として作用する。
【0022】
また、本発明に係る菌株は、グルタチオン生成活性が優れているため、摂取したアルコール(エタノール)の代謝による毒性物質の排出を促進し、有害活性酸素などによる肝細胞の損傷を防御して、肝機能障害とアルコール性肝疾患および腸疾患発生を予防することができるようにする。
【0023】
具体的に、グルタチオンは毒性物質が尿や胆汁中に排泄されるように促進する抗酸化剤であり、特にアルコールの代謝産物が肝で解毒する過程に作用して毒性物質の排泄を促進する機能を有する。また、グルタチオンは、有害活性酸素などによる肝細胞の損傷を防御する。したがって、本発明に係る菌株は、アルコールに対する耐性とアルコール分解能を有していて、アルコールの吸収を防止および分解する機能だけでなく、グルタチオン含量が高いことからアルコールの分解による毒性物質の排出を促進し、肝損傷および肝疾患を防止することができる。
【0024】
本発明は、血中アルコール水準減少および体内抗酸化能増進に有効な成分を含有する食品、食品添加剤、飲料または健康補助食品に関するものである。
【0025】
本発明に係る菌株は、炭素源、窒素源、および無機塩などを含む培地で好気的に培養することができる。
【0026】
これら菌株の培地組成としては、炭素源として通常の微生物の培養に用いられるデキストリン、グルコース、スクロース(sucrose)、酢酸、エタノール、糖蜜(molasses)、および亜硫酸パルプ廃液などからなる群より選択される1種または2種以上が使用でき、グルタチオン生産を考慮すればスクロースが好ましい。さらに詳しくは、本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、(ii)振とう培養する条件で、ブドウ糖含有培地で培養する場合菌体濃度(600nm OD値)100%を基準にして、スクロース含有培地で菌体濃度が105~120%であり、または振とう培養する条件で、ブドウ糖含有培地で培養する場合グルタチオン含量(mg/L)100%を基準にして、スクロース含有培地でグルタチオン含量が105~150%、または110~140%、(iii)システイン(Cysteine)添加培養時、グルタチオン生産量増加、および(iv)注入速度(Feeding rate)6g/L・h-1で供給した流加(fed-batch)培養条件でグルタチオン生成量を維持することからなる培養特性からなる群より選択された1種以上を有するものである菌株であってもよい。
【0027】
窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムあるいはリン酸アンモニウムなどの無機塩、およびとうもろこし浸漬液(corn steep liquor)(CSL)、カゼイン、酵母エキスあるいはペプトンなどの窒素含有有機物などからなる群より選択される1種または2種以上が使用される。また、リン酸成分、カリウム成分、マグネシウム成分を培地に添加してもよく、これらとしては、過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩酸マグネシウムなどの通常の工業用原料であればよい。その他に亜鉛、銅、マンガン、鉄イオンなどの無機塩を使用してもよい。その他にビタミン、核酸関連物質などを添加してもよい。
【0028】
本発明に適用可能な培養温度は、酵母の培養条件であってもよく、例えば20~40℃、好ましくは25~35℃がよく、pHは3.5~8.0、特に4.0~6.0が好ましい。
【0029】
本発明に適用可能な培養形式としては、回分培養、流加培養(fed-batch)または連続培養のうちのいずれもよいが、産業的には流加培養または連続培養が採用される。
【0030】
本発明は、前記カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株を培養して、グルタチオン生成量を増加させる方法を提供する。
【0031】
前記菌株の培養は、炭素源として砂糖またはブドウ糖を使用したものであってもよい。前記菌株の培養は、発酵液内エタノール含量を測定して炭素源供給速度を調節して行うものであってもよい。例えば、前記発酵液内エタノール含量が5g/L以下である場合、炭素源を連続的に供給することができ、炭素源供給速度は、5~10g/L・h-1、5.5~8g/L・h-1、5.5~7g/L・h-1、または5.5~6.5g/・h-1であってもよい。
【0032】
さらに詳しくは、本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、グルタチオン生産を考慮すれば、流加培養することが好ましく、さらに好ましくは、注入速度(Feeding rate)6g/L・h-1で供給した流加(fed-batch)培養条件でグルタチオン生成量を維持することができる。
【0033】
好ましくは、前記グルタチオン生成量を増加させる方法は、炭素源の種類、炭素源の供給速度調節、システイン添加条件、およびその他培養条件調節からなる群より選択された1種以上の方法を行うことができる。例えば、(i)システイン(Cysteine)添加培養、(ii)スクロースまたはグルコースを炭素源として使用、(iii)炭素源供給速度調節、(iv)培養温度、および(v)攪拌条件などからなる群より選択された1種以上の方法であって、具体的に、30℃で振とう培養、振とう培養する条件でスクロースを炭素源として使用、システイン(Cysteine)添加培養、および流加(fed-batch)培養からなる群より選択された1種以上の方法で行うことができる。前記流加(fed-batch)培養は、発酵液内エタノール含量を測定して炭素源供給速度を調節、例えば、注入速度(Feeding rate)6g/L・h-1で供給した流加(fed-batch)培養で行うことができる。
【0034】
本発明の方法により、高濃度グルタチオンを酵母菌体内に含有する培養物が得られるが、培養物からグルタチオンを含有する分画物を得てもよい。培養物からグルタチオンを含有する分画物を分画する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法でもよいが、熱水抽出、菌体破砕による抽出などが挙げられる。また、得られた抽出物を担体(carrier)に担持(support)させることによって、グルタチオンを高濃度で含む分画物に濃縮も可能である。また、前記方法によって培養した培養物から酵母抽出物を製造することもできる。酵母抽出物を製造する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法でもよいが、自己消化法、酵素分解法あるいはアルカリ抽出法などが産業的に採用される。
【0035】
また、前記方法によって培養した培養物から乾燥菌体を製造することができる。乾燥酵母菌体を製造する方法としては、通常行われている方法であればいずれの方法でもよいが、産業的には凍結乾燥法、スプレードライ法、ドラムドライ法などが採用される。
【0036】
本発明の一例は、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含む酸化ストレス軽減用組成物、抗酸化組成物、または酸化ストレス関連疾病の予防、改善、軽減または治療用組成物に関するものである。前記組成物は、薬学組成物、食品組成物または化粧料組成物であってもよい。
【0037】
本発明は、身体の細胞、組織および器官で酸化性ストレスの逆効果および/またはフリーラジカルの生成から招来されるか関連する疾患、症状、病理学および疾病を治療するための新たな適用で抗酸化剤としてのカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の用途を提供する。
【0038】
酸化性ストレスは、タンパク質、DNAおよび脂質に損傷を起こす神経退行性および老化-関連疾患の進行に重大な役割を果たす。低分子量の疎水性抗酸化剤化合物は、例えば、急性呼吸困難症候群(respiratory distress syndrome)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、アテローム動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease)、多臓器機能不全(multiple organ dysfunctions)、および例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、およびクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob’s disease)のような中枢神経系退行性神経疾患などの末梢組織の症状を治療することに有用である。酸化性ストレスは、他のタイプの疾患だけでなく、パーキンソン病、アルツハイマー病、およびクロイツフェルト・ヤコブ病の発病機序に原因的に関連していると知られている。
【0039】
細胞内に抗酸化剤が欠乏すれば、過量のフリーラジカルが発生して巨大細胞が破壊され脂質が過酸化され毒素が蓄積されて結局、細胞が死滅するようになることがある。細胞の酸化を防止することにおける抗酸化剤化合物の重要性のため、例えばグルタチオン(glutathione(GSH)([γ]-グルタミルシステイニルグリシン))のような天然抗酸化剤が組織に継続して提供される。GSHはほとんど全ての細胞で合成され、体内に適当な酸化状態を維持することを担当する基本的細胞抗酸化剤の一つである。酸化された時、GSHはGSSGという二量体を形成し、これはグルタチオン還元酵素を生産する器官で再循環するようになる。人間成人において、還元されたGSHは基本的に肝でGSSGから生産され、骨格筋と赤血球および白血球でも比較的に少量合成され、血流に乗って体内の他の組織に送られることもある。
【0040】
しかし、ある条件ではGSHの正常的な生理的供給が不充分であり、その分配が不適切であるか局所的酸化要求度が過度に高くて細胞の酸化を防止することができなくなる。他の条件では、例えば、GSHのような細胞抗酸化剤の生産と要求度が不一致して体内で前記分子が不充分な濃度になる。他の場合には、ある組織や生物学的経路によって抗酸化剤が消尽されて、細胞間抗酸化剤濃度が抑制される。このような場合に、例えばグルタチオンのような抗酸化剤の血清濃度が増加すれば、細胞内に入り得る抗酸化剤の量が増加するようになる。細胞吸収のために促進された輸送システムにおいては、吸収を誘導する濃度勾配が増加する。
【0041】
酸化剤の過剰生産と結びついた症状、疾病、疾患または病理学的症状を予防、改善または治療するためのものであって、前記症状、疾病、疾患または病理学的症状が、AIDS、糖尿病、黄斑変性、うっ血性心臓機能喪失(congestive heart failure)、心臓血管疾患(cardiovascular disease)、心臓動脈再狭窄(coronary artery restenosis)、肺疾患(lung disease)、炎症性疾患(inflammatory disease)、喘息(asthma)、RNAウイルス感染、DNAウイルス感染、敗血症(sepsis)、骨粗しょう症(osteoporosis)、骨疾患(bone disease)、微生物感染、毒物暴露(toxin exposure)、放射線暴露(radiation exposure)、火傷(burn trauma)、プリオン(prion)病、神経疾患(neurological disease)、血液疾患(blood disease)、血球疾患(blood cell disease)、動脈疾患(arterial disease)、および筋肉疾患(muscle disease)からなる群より選択できる。
【0042】
前記グルタチオン含有酵母抽出物は、菌体の抽出物を意味するものであり、グルタミン酸、システイン、およびグリシンの3つのアミノ酸から構成されたトリペプチドであるグルタチオンが豊富に含まれている。本発明に係る二日酔いの予防または治療用組成物では、グルタチオンが5%以上含まれているグルタチオン含有酵母抽出物を用いることが好ましい。
【0043】
本発明に係る食品組成物は、通常、乾燥酵母、酵母エキスを添加することができる飲食品であればいずれのものでもよいが、例えばアルコール飲料、清涼飲料、醗酵食品調味料、スープ類、一般食品、菓子類などが挙げられる。したがって、本発明によって、グルタチオンを高濃度で含む飲食品を効率的に製造することができる。
【0044】
本発明の一例は、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株の菌体、前記菌株の培養物、前記菌体の破砕物、前記菌体の溶解物、および前記菌体、菌株培養物、菌体の破砕物、菌体の溶解物およびこれらの抽出物からなる群より選択された1種以上を含むアルコール分解用組成物;二日酔い解消、二日酔い改善、二日酔い軽減、または二日酔い予防用組成物;またはアルコール性肝疾患の予防、改善、軽減または治療用組成物に関するものである。前記アルコール性肝疾患は、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝線維症、およびアルコール性肝硬変を含むが、これに限定されない。前記組成物は、薬学組成物または食品組成物であってもよい。
【0045】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、アルコールに対する耐性とアルコール分解能を有していて、飲酒前または後アルコール分解による二日酔い解消効果と肝の解毒作用を助けて、前記菌株の菌体などを用いてアルコール性肝疾患を予防、軽減、改善または治療することができる薬学組成物、食品組成物、健康機能性食品、および食品添加剤に関するものである。
【0046】
本発明の二日酔い関連組成物は、前記主要成分以外にも、二日酔い解消効果をさらに増大させるための補助成分として、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、またはベータカロテンのようなビタミン、Ca、Mg、またはZnなどのミネラル成分、レシチンなどのリン脂質、アラニンまたはタウリンなどのアミノ酸、果糖、オリゴ糖、万年茸、またはこれらの混合物をさらに含むことができる。前記酵母抽出物に含まれているアミノ酸などの成分がアルコール代謝を促進する機能を有して二日酔い解消、改善、または予防機能を有する。
【0047】
本発明に係るカンジダ・ユチリス(Candida utilis)菌株は、アルコールに対する耐性とアルコール分解能を有していて、飲酒前または後アルコール分解による二日酔い解消効果と肝の解毒作用を助けて、その後におけるアルコール性肝疾患を予防することができる。本発明に係る菌株は、アルコール(エタノール)分解酵素活性が優れているため、摂取したアルコール(エタノール)の吸収を効果的に抑制することによって過多なアルコール代謝による肝機能障害とアルコール性肝疾患および腸疾患発生を予防することができ、さらに、本発明に係る菌株はグルタチオンを生産するので、アルコール代謝過程で発生される毒性物質による肝毒性を予防、改善または軽減するだけでなく、アルコール代謝産物の排出を促進することができる。
【0048】
本発明に係る薬学組成物は、有効成分以外に、薬剤学的に許容可能な担体および添加剤を選択して添加することによって通常の剤形に製造することができる。前記薬学組成物は、液剤、懸濁剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、またはエキス剤の剤形に製剤化して経口服用することができるが、これに限定されるのではない。前記薬剤学的に許容可能な担体としては、希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、甘味剤、安定剤、防腐剤の中で1種以上を選択して使用することができ、薬剤学的に許容可能な添加剤としては、香料、色素、減摩剤、および酸味剤の中で1種以上を選択して使用することができる。
【0049】
また、添加剤として味覚をかきたてるために、梅の実香、レモン香、パイナップル香、ハーブ香などの天然香料、天然果汁、クロロフィリン、フラボノイドなどの天然色素、果糖、蜂蜜、糖アルコール、砂糖のような甘味成分またはクエン酸、クエン酸ナトリウムのような酸味剤を混合して使用することもできる。
【0050】
前記薬学組成物は、二日酔い予防または治療効果を得るために、有効成分として体重60kg成人を基準にして1日総量が0.3~10g、好ましくは0.7~4.2gになるように任意に数回経口投与することができるが、これに限定されず、目的とする効果のために適切な含量で使用できる。
【0051】
また、本発明の組成物は健康補助食品として使用できる。このような健康補助食品は、前記薬用植物の抽出物を有効性分とした茶、ゼリー、エキス、飲料などに製造できる。
【実施例
【0052】
下記の実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明が下記の実施例に限定される意図ではない。
【0053】
実施例1: グルタチオン生成菌株の分離
1-1: 菌株培養
グルタチオンを生産する微生物を探索するために、全国の伝統市場で販売するマッコリ、麹、伝統醤類などを購入して試料として使用した。試料1gを0.85%NaCl 10mLに懸濁し、懸濁液100μlをYPD(Yeast extract 10g/L、Peptone 20g/L、Dextrose 20g/L)寒天プレート(agar plate)に塗抹した後、30℃で2日間固体培養を実施した。固体培地で育ったコロニーの中で形態と大きさがそれぞれ異なるものを選別して150個のコロニーを分離した後、YPD broth(yeast extract 10g/L、Peptone 20g/L、Dextrose 20g/L)を用いてTest tubeで30℃で2日間振とう培養して菌株培養物を得た。
【0054】
1-2: 菌体増殖程度(吸光度)測定
前記菌株培養物に対して600nmで吸光度を測定して菌体濃度を測定して、その結果をcell OD値として測定した。
【0055】
1-3: 培養物に含まれているグルタチオン含量測定
前記菌株培養液を遠心分離して上清液を除去し、蒸留水で1回洗浄して菌体を回収した。回収した菌体に40~70%エタノールを投入し、fine mixerを使用して10~30分間細胞内グルタチオンを抽出した。前記抽出溶液を遠心分離後、上清液を取って0.5Mリン酸カリウム(potassium phosphate)pH8.0バッファーに溶解させた10mM DTNB(5,5’-Dithiobis-(2-Nitrobenzoic Acid))と40℃で20分間反応して412nmで吸光度を測定してグルタチオン含量を確認し、前記グルタチオン含量(GSH mg/L)を測定した。グルタチオン分析に主に使用されるDTNBは、エルマン試薬(Ellman’s reagent)として知られており、thiol化合物を検出するために考案された試薬である。DTNBとGSHの反応で黄色の2-nitro-5-benzoic acidとGSSGが生成され、412nmでOD値を測定することによってGSHの濃度を計算することができる。GSSGはグルタチオン還元酵素(glutathione reductase)によってGSHに還元されて、再びDTNBと反応するrecycling systemを成すようになる。
【0056】
1-4: 菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量測定
前記菌株培養液を遠心分離して上清液を除去し、蒸留水で1回洗浄して菌体を回収した。前記回収された菌体に対して吸光度を測定し、吸光度により乾燥菌体濃度を計算した。具体的に、菌体乾燥重量(g)は、前記培養液を遠心分離後、上清液を除去して菌体のみ回収し、回収した菌体を0.9%NaClで洗浄し、蒸留水で希釈して吸光度0.1~1の間になるようにサンプルを準備した。前記希釈した菌体試料に対して600nmで吸光度を測定し、吸光度による乾燥菌体重量を計算した。前記吸光度を測定した後に、前記菌体を0.2μmのろ過紙を使って減圧下でろ過した。菌体がろ過されたろ過紙は60℃で12時間以上乾燥し、シリカゲルが入っているデシケーターで6時間以上放置した後に重量を測定した。空のろ過紙と菌体がろ過されたろ過紙の重量差を計算して、乾燥菌体量を確認した。したがって、吸光度値による乾燥菌体濃度(g/L)を確認することができた。
【0057】
前記吸光度測定後、菌体に対して前記実施例1-3と実質的に同様な方法でグルタチオンを抽出し、前記抽出溶液を遠心分離後、上清液を取ってグルタチオン生成量(g/L)を測定した。測定されたグルタチオン生成量を前記計算された乾燥菌体濃度(g/L)で割った後、100を掛けて乾燥菌体重量(g)当りGSH%を計算した。前記菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量を測定して、下記表1に乾燥菌体重量(g)当りGSH含量(%)をGSH(%)/g-cellで示す。
【0058】
前記方法で150個菌株のグルタチオン生産性を確認した結果として、菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量(GSH(%)/g-cell)は約0.3~2重量%範囲の分布を示し、菌体乾燥重量(g)当りグルタチオンの含量を基準にして上位7個候補菌株を分離した。前記選別された7個菌株の分析結果として、実施例1-2のcell OD、実施例1-3のグルタチオン含量、および菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量を表1に示し、菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量を図1に示した。
【0059】
対照群として、標準菌株C.utilis KCCM 11355に対しては同一に実験を行って結果を表1および図1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記表1に示したように、エタノール無含有培地で菌体成長とグルタチオン生成量を分析した結果、選定された7種菌株のグルタチオン含量は標準菌株C.utilis KCCM 11355より高く、具体的に約0.7~2重量%のグルタチオン含量および生産量を示すのを確認し、SYC-7D菌株を除いた6個菌株が標準菌株の菌体成長程度が同等であるか高くてさらに好ましい特性を有するのを確認した。
【0062】
したがって、菌株選定基準でグルタチオン生産量(mg/L)および乾燥菌体重量当りグルタチオン生産量(GSH(%)/g-cell)を考慮すれば、SYC-7D、SYC-JH、SYC-P1、SYC-P3、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20を選定することができ、好ましくは、乾燥菌体重量当り生産量(GSH(%)/g-cell)が0.8重量%以上であるSYC-7D、SYC-JH、SYC-P1、SYC-P3、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20が選定でき、さらに好ましくは、1.5重量%以上であるSYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20が選定できる。
【0063】
特に、産業的生産を考慮する場合、菌体OD値と乾燥菌体重量当り生産量(GSH(%)/g-cell)を共に考慮することがさらに好ましいのが分かった。このような観点から、標準菌株より菌体OD値が高いながらもグルタチオン生産量が高い菌株はSYC-P1、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20がさらに好ましいのを確認した。
【0064】
実施例2: アルコール分解酵素(ADH)活性分析
前記実施例1で選定されたグルタチオン含量の高い7種菌株を培養して、ADH活性を確認した。
【0065】
具体的に、ADH活性はADH Activity Assay Kit(Abcam)を使用した。温度30℃、YPD培地で24~48時間培養した後、cellが1*106CFU/mlになるように回収した。蒸留水で回収したcellを洗浄した後、ADH assay bufferを添加し、bead beaterを使用して細胞壁を破砕した。反応液組成は、ADH assay buffer 82μl、Developer 8μl、Isopropanol 10μlにサンプルまたはNADH標準物質を濃度別に50μl混合した。37℃で3分間反応後、450nmで実験区(A0)と対照区吸光度を測定した。37℃で30分間追加反応後、450nmで吸光度の変化を測定した後、単位時間当り生成されたNADH濃度を計算して菌株別ADH活性を比較した。前記測定された菌株別NADH生成量を図2に示す。7種菌株が24~160nmol範囲の分布を有するNADH生成量を有することを確認した。対照群として、標準菌株C.utilis KCCM 11355に対しては同一に実験を行った。結果を表2に示す。
【0066】
酵母菌体の破砕後得られた上清液で7種菌株のADH活性を比較した結果を下記表2に示す。表2に記載された数値は、反応液(ml)当りAlcohol dehydrogenase(ADH)の力価(mUnit、mU)の意味であり、単位はmU/mlであり、単位時間(分)当り生成されるNADH濃度を基準にしてADH活性を計算して得る結果値を示す。また、単位時間(分)当り生成されるNADH濃度を図2に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
上記表2に示したように、7種選定菌株のADH活性は0.03~0.26mu/mlの分布を示し、標準菌株C.utilis KCCM 11355(対照群)のADH活性より高い菌株はSYC-P1、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20であり、最も高い活性を示した菌株はSYC-PR20と確認された。よって、ADH活性側面からSYC-P1、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20を2次に選定することができた。好ましくは、ADH活性が0.20(mU/ml)以上であるSYC-P1、SYC-PR9、SYC-PR20を選定することができた。
【0069】
前記実施例1の表1に示した菌体重量と菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量と、表2の菌株のADH活性分析結果を総合すれば、グルタチオン生成量とADH活性が全て高い菌株が好ましい。これにより、SYC-PR9、SYC-PR19、SYC-PR20が2次候補菌株に選定できる。
【0070】
実施例3: 培養時間による菌体成長およびGSH生産評価
実施例1で選定されたSYC-PR20に対して培養時間による菌体成長およびGSH生産を評価した。
【0071】
SYC-PR20菌株培養のための培地としては、YPD(yeast extract 10g/L、Peptone 20g/L、Dextrose 20g/L)を製造した。Test tubeに培地3mlを分注し、30℃で24~60時間までの培養時間を振とう培養を行った。前記培養物を培養時間24時間、36時間、48時間および60時間にそれぞれ取って、実施例1-2~実施例1-4と実質的に同様な方法で、cell OD、グルタチオン含量、および菌体乾燥重量(g)当りグルタチオン含量をそれぞれ測定した。その結果を下記表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
菌株の培養時間24時間から60時間まで菌体O.D値とGSH生産量を測定した結果、菌体O.Dは24時間に12から、36時間に15、48時間に18、60時間に19まで増加した。GSH生産量は24時間に69mg/L、36時間に82mg/L、48時間に111mg/L、60時間に120mg/Lに生産されるのが確認された。したがって、乾燥菌体量g当りGSH%は、24時間に1.4%から60時間まで1.6%に増加するのを確認することができた。
【0074】
実施例4: 微生物のエタノール耐性評価
実施例1で選定されたSYC-PR20に対してエタノール含有培地で菌体成長を評価した。
【0075】
具体的に、培地は5X YPD(yeast extract 50g/L、Peptone 100g/L、Dextrose 100g/L)を製造し、100%エタノールと混合して培地内最終エタノール濃度を0、2、4、6、8、10、または15v/v%に調整した。Test tubeに濃度別エタノールが含有された培地3mlを分注し、30℃で60時間振とう培養して培養物を得た。前記培養物に対して、実施例1-2と実質的に同様な方法により600nmで吸光度を測定して菌体濃度を測定し、その結果を下記表4に示す。
【0076】
対照群として、標準菌株C.utilis KCCM 11355(対照群)に対しては同一に実験を行って結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
耐アルコール性が高い菌株と知られたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces)がエタノール7~11%(v/v)濃度で生育可能であり、実施例2および3で2次選定されたSYC-PR20菌株が高い耐アルコール性を有し、特に標準菌株C.utilis KCCM 11355(対照群)に比べて、SYC-PR20菌株はアルコール含有培地で高い菌体成長を示し、特にエタノール濃度0.5~15v/v%で110%以上の高い菌体成長を示すのを確認した。
【0079】
前記表4で、ADH活性(ADH activity)が相対的に高いSYC-PR20菌株が対照群に比べて同一なエタノール濃度で菌体濃度が高いことを確認した。よって、SYC-PR20菌株がグルタチオン生成能、ADH活性およびアルコール耐性に優れたことを確認した。
【0080】
実施例5: 菌株同定
実施例4で、SYC-PR20菌株は、グルタチオン収率1.6%、ADH活性(ADH activity)0.26mU/mlに選別された7種の菌株の中で最も優れた特性を示した。
【0081】
前記SYC-PR20菌株を18S rRNA配列分析し、universal primer ITS1(配列番号2:5’-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3’)、ITS4(配列番号3:5’-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3’)を使用した。前記SYC-PR20菌株の18S rDNA配列は配列番号1に示した。前記18S rDNA配列情報に基づいて菌株同定を実施した結果、Candida utilis(Pichia jadinii)と確認された。
【0082】
前記Candida utilis SYC-PR20菌株をソウル市西大門区弘済内2街キル45に位置する韓国微生物保存センターに2020年8月7日に寄託して受託番号KCCM 12777Pを受けた。
【0083】
実施例6: 発酵槽培養によるグルタチオン生産量評価
微生物の分離および特性調査のための実施例1-4のようなフラスコ培養条件では、機械的な限界で一定以上攪拌速度増加が難しく、一定の培養環境(空気量、pHなど)調節が難しい。これとは異なり、産業的培養は培養液にエアーを供給し攪拌を行うことによって培地成分および酸素などが全ての空間で一定に分布され、温度、pHなどの調節が可能で最適化条件で培養が可能である。よって、発酵槽培養はflaskに対比して高い菌体成長率を示し、それによって投入された糖の消費も急速に起こり生産性も高まるようになる。よって、産業的菌株適用のための発酵槽培養実験が必要である。
【0084】
具体的に、実施例5によるCandida utilis SYC-PR20菌株が接種されたYPD agar plateで形成されたコロニー(colony)を、YPD(Yeast extract 10g/L、Peptone 20g/L、Dextrose 20g/L)broth 3mLに接種して、温度30℃、240rpmの条件下で24時間培養した種菌を再び同一なYPD broth 100mLに前培養した種菌3mLを接種して同一の条件下で培養して、5L発酵槽用種菌を準備した。
【0085】
炭素源による菌体成長およびグルタチオン生産量を評価するために、5L発酵槽培養を行い、表5の培地組成で5L発酵槽で最終2L培養体積でブドウ糖基盤培養培地および砂糖基盤培養培地をそれぞれ準備した。前記準備された種菌を5L発酵槽に接種して表6のような条件で攪拌しながら培養を行った。
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
前記得られた培養液に対して菌体濃度およびグルタチオン生成量を実施例1の方法と実質的に同様な方法で測定し、その測定結果を下記表7に示した。
【0089】
【表7】
【0090】
表7の結果に示したように、初期投入された糖がほとんど消耗された時点はブドウ糖および砂糖基盤培養の両方とも29時間に培養が終了し、その時の菌体濃度はブドウ糖基盤菌体の600nmOD値が28.4、砂糖基盤菌体の600nmOD値がOD31.9で比較的に砂糖基盤の対糖菌体収率が112%増加したことが確認された。前記グルタチオン含量は砂糖基盤223.3mg/Lで、同一時間培養でブドウ糖基盤に対比して約122%増加した結果を示した。
【0091】
実施例7: 培養条件によるグルタチオン生産量評価
前記選別されたCandida utilis SYC-PR20菌株が接種されたYPD agar plateで形成されたコロニー(colony)を、YPD(Yeast extract 10g/L、Peptone 20g/L、Dextrose 20g/L)broth 3mLに接種して、温度30℃、240rpmの条件下で24時間培養した種菌を再び同一なYPD broth 100mLに前培養した種菌3mLを接種して同一な条件下で培養を実施して5L発酵槽用種菌を準備した。
【0092】
高濃度菌体およびグルタチオン生産量を評価するために、実施例5のように種菌および5L発酵槽培養を準備し、batch培養で初期糖消費以後蓄積されたエタノール濃度が5g/L以下である時、スクロース(Sucrose)600g/Lの糖液を連続的に供給する方法でFed-batch培養を行って高濃度の菌体濃度培養とグルタチオン生産性を維持する方法に対する実験を行った。
【0093】
その結果として、スクロース注入速度(sucrose feeding rate)による培養液内グルタチオン含量の変化量を培養時間によって測定して図3に示し、培養液内エタノール含量を図4に示した。また、スクロース注入速度(sucrose feeding rate)による時間別菌体濃度変化を図5に示した。図3図4および図5で、白球はスクロース注入速度(sucrose feeding rate)4.5g/L・h-1を意味し、黒球はスクロース注入速度(sucrose feeding rate)6g/L・h-1を意味する。
【0094】
スクロース注入速度(sucrose feeding rate)6g/L・h-1供給時、培養液に含まれているエタノール含量3g/L以上維持され、それによってグルタチオン含量変化率がほとんど一定に示された。反面、低い注入速度(Feeding rate)(4.5g/L・h-1)ではエタノール含量が低く維持され、細胞内グルタチオン含量が減少するのが示された。このような事実は、スクロース注入速度(sucrose feeding rate)が高い場合、培養液内十分な糖供給によってグルタチオン生合成に必要なエネルギーが十分に供給されるが、スクロース注入速度(sucrose feeding rate)が低い場合、エネルギー供給が十分でなくて菌体が制限的に成長し、その結果、グルタチオン含量が減少するようになることが確認された。
【0095】
したがって、本発明に係るCandida utilis SYC-PR20菌株は、注入速度(Feeding rate)6g/L・h-1で供給時、十分な糖供給による菌体代謝産物として培養液内エタノールが蓄積され、高濃度培養区間でbatch水準のグルタチオン含量を維持することができて、さらに好ましい。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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