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特許7637794内視鏡システムおよび内視鏡システムの作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-19
(45)【発行日】2025-02-28
(54)【発明の名称】内視鏡システムおよび内視鏡システムの作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20250220BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
A61B1/00 655
A61B1/00 553
A61B1/045 615
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023564292
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043828
(87)【国際公開番号】W WO2023100234
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 亮太
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-162633(JP,A)
【文献】特表2017-515523(JP,A)
【文献】特表2014-520351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00- 1/317
A61B 34/30
G02B 23/24-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡と、
該内視鏡を保持し移動させる移動装置と、
1以上のプロセッサとを備え、
該1以上のプロセッサが、
前記移動装置によって移動させられる前記内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出し、
前記内視鏡によって撮像された画像内の動体の領域を推定し、
該動体の領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出し、
前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出し、
算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する、内視鏡システム。
【請求項2】
前記移動装置が、前記内視鏡を該内視鏡の長手軸回りに回転可能に保持し、
前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間の前記ずれが、前記長手軸に対応する軸回りの回転方向のずれを含む、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記1以上のプロセッサが、
前記他の領域の被写体の移動方向を検出し、
前記内視鏡の移動方向と前記他の領域の被写体の移動方向とに基づいて前記ずれを算出する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記1以上のプロセッサが、
前記他の領域の被写体の移動ベクトルを検出し、
前記内視鏡の移動方向と前記他の領域の被写体の移動ベクトルとに基づいて前記ずれを算出する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項5】
ユーザからのトリガの入力を受け付けるユーザインタフェースを備え、
前記1以上のプロセッサは、前記ユーザインタフェースが前記トリガを受け付けたことに応答して、前記移動装置の座標系を補正するための処理を実行する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記1以上のプロセッサが、異なる時刻に撮像された2以上の画像に基づいて前記被写体の移動方向を検出し、
前記2以上の画像のうちの1つは、前記トリガが受け付けられた時点の画像である請求項5に記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記1以上のプロセッサが、
前記内視鏡によって撮像される画像を所定の時間間隔毎に取得し、
前記画像を新たに取得する度に、新たに取得された画像と過去に取得された画像とに基づいて前記被写体の移動方向を検出する、請求項5に記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記1以上のプロセッサが、
前記被写体の移動ベクトルを検出し、
前記被写体の移動ベクトルの大きさが所定の閾値以上である場合に、前記ずれの算出および前記移動装置の座標系の補正を実行する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項9】
前記1以上のプロセッサが、
前記他の領域内の複数の位置の複数の移動ベクトルを検出し、
該複数の移動ベクトルから前記被写体の移動ベクトルを算出する、請求項4に記載の内視鏡システム。
【請求項10】
前記1以上のプロセッサが、
前記他の領域内の複数の位置の複数の移動方向を検出し、
該複数の移動方向から前記被写体の移動方向を算出する、請求項3に記載の内視鏡システム。
【請求項11】
前記1以上のプロセッサが、
前記移動ベクトルの個数を方向毎に数え、
前記複数の移動ベクトルの中から、個数が最多の移動ベクトルおよび該最多の移動ベクトルと方向が近い移動ベクトルを選択し、
選択された前記移動ベクトルから前記被写体の移動ベクトルを算出する、請求項9に記載の内視鏡システム。
【請求項12】
前記1以上のプロセッサが、
前記移動方向の個数を方向毎に数え、
前記複数の移動方向の中から、個数が最多の移動方向および該最多の移動方向と近い移動方向を選択し、
選択された前記移動方向から前記被写体の移動方向を算出する、請求項10に記載の内視鏡システム。
【請求項13】
前記内視鏡は、長尺の鏡筒部と、該鏡筒部の基端に接続され撮像素子を保持する操作部とを有する斜視型の内視鏡であり、前記操作部が前記鏡筒部に対して該鏡筒部の長手軸回りに回転可能であり、
前記1以上のプロセッサが、前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて、前記移動装置に対する前記内視鏡の前記長手軸回りの回転角度および前記鏡筒部に対する前記操作部の前記長手軸回りの回転角度を、前記ずれとして算出する、請求項2に記載の内視鏡システム。
【請求項14】
前記内視鏡は、長尺の鏡筒部と、該鏡筒部の基端に接続され撮像素子を保持する操作部とを有する斜視型の内視鏡であり、前記操作部が前記鏡筒部に対して該鏡筒部の長手軸回りに回転可能であり、
前記1以上のプロセッサが、
前記画像内の前記被写体の3次元位置情報を取得し、
該3次元位置情報から3次元の前記移動ベクトルを検出する請求項4に記載の内視鏡システム。
【請求項15】
前記内視鏡が、前記画像としてステレオ画像を取得可能であり、
前記1以上のプロセッサが、前記ステレオ画像から前記3次元位置情報を取得する請求項14に記載の内視鏡システム。
【請求項16】
前記1以上のプロセッサが、
前記被写体の特徴を強調する強調処理を前記画像に施し、
前記強調処理が施された画像から前記被写体の移動方向を検出する請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項17】
前記1以上のプロセッサが、前記動体の領域にマージンを加えた領域を除いた前記他の領域に基づいて、前記被写体の移動方向を検出する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項18】
前記1以上のプロセッサが、
前記画像内の各位置の移動ベクトルを推定し、
該各位置の移動ベクトルに基づいて前記動体の領域を推定する、請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項19】
内視鏡と、
該内視鏡を保持し移動させる移動装置と、
1以上のプロセッサとを備え、
該1以上のプロセッサが、
前記移動装置によって移動させられる前記内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出し、
前記内視鏡によって撮像された画像内の各位置の移動ベクトルを推定し、
前記移動ベクトルの大きさが所定の閾値以上である領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出し、
前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出し、
算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する、内視鏡システム。
【請求項20】
動装置によって移動した内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出
前記内視鏡によって撮像された画像内の動体の領域を推定
該動体の領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出
前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出
算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する内視鏡システムの作動方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システムおよび座標系補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動ホルダのような移動装置によって内視鏡を移動させる内視鏡システムが知られている。内視鏡を正確に移動させるために、内視鏡の座標系と移動装置の座標系とが相互に一致していることが望ましい。
例えば、術者がユーザインタフェースを使用して電動ホルダを遠隔操作するとき、術者は、内視鏡画像に基づいて内視鏡の所望の移動方向をユーザインタフェースに入力する。内視鏡の座標系と移動装置の座標系とが一致している場合、ユーザは内視鏡を所望の方向に直感的にかつ正確に移動させることができる。一方、内視鏡の座標系と移動装置の座標系とが一致していない場合、内視鏡の実際の移動方向がユーザインタフェースに入力される移動方向とは異なるので、ユーザは内視鏡を所望の方向に直感的にかつ正確に移動させることが難しい。
【0003】
一方、可動アームにカメラシステムが取り付けられたロボットシステムにおいて、ロボットの座標系とカメラシステムの座標系との間の変換を補正する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、ターゲットの画像をカメラシステムによって取得し、画像を取得したときの可動アームの位置と画像内のターゲットの特徴点の位置とから前記変換を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9188973号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の場合、被写体であるターゲットの位置が固定されている条件でしか、座標系間の変換を決定することができない。すなわち、特許文献1は、動く被写体を考慮しておらず、画像内の被写体が動く場合には、ロボットの座標系とカメラシステムの座標系との間の変換を正確に補正することができない。
一方、内視鏡画像は動く被写体を含むことが多い。したがって、特許文献1の方法を内視鏡システムに適用した場合、座標系の補正を正確に行うことが難しい。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、画像内に動く被写体が存在する場合においても座標系を正確に補正することができる内視鏡システムおよび座標系補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、内視鏡と、該内視鏡を保持し移動させる移動装置と、1以上のプロセッサとを備え、該1以上のプロセッサが、前記移動装置によって移動させられる前記内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出し、前記内視鏡によって撮像された画像内の動体の領域を推定し、該動体の領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出し、前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出し、算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する、内視鏡システムである。
【0008】
本発明の他の態様は、内視鏡と、該内視鏡を保持し移動させる移動装置と、1以上のプロセッサとを備え、該1以上のプロセッサが、前記移動装置によって移動させられる前記内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出し、前記内視鏡によって撮像された画像内の各位置の移動ベクトルを推定し、前記移動ベクトルの大きさが所定の閾値以上である領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出し、前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出し、算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する、内視鏡システムである。
【0009】
本発明の他の態様は、移動装置によって移動した内視鏡の、前記移動装置の座標系における移動方向を検出、前記内視鏡によって撮像された画像内の動体の領域を推定、該動体の領域を除いた前記画像の他の領域に基づいて、前記画像内の被写体の移動方向を検出、前記内視鏡の移動方向と前記被写体の移動方向とに基づいて前記内視鏡の座標系と前記移動装置の座標系との間のずれを算出、算出された前記ずれに基づいて前記移動装置の座標系を補正する内視鏡システムの作動方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像内に動く被写体が存在する場合においても座標系を正確に補正することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る内視鏡システムの全体構成図である。
図2図1の内視鏡システムの全体構成を示すブロック図である。
図3A】表示装置に表示される内視鏡画像の一例を示す図であり、内視鏡座標系とホルダ座標系との関係を説明する図である。
図3B】表示装置に表示される内視鏡画像の一例を示す図であり、回転した内視鏡座標系とホルダ座標系との関係を説明する図である。
図3C】表示装置に表示される内視鏡の移動後の内視鏡画像の一例を示す図であり、回転した内視鏡座標系とホルダ座標系との関係を説明する図である。
図4A】内視鏡画像内の処置具領域および他の領域の一例を示す図である。
図4B】内視鏡画像内の処置具領域、マージンおよび他の領域の一例を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る座標系補正方法のフローチャートである。
図6】本発明の第2実施形態に係る内視鏡システムにおける斜視型の内視鏡を示す図である。
図7】斜視型の内視鏡の内視鏡座標系の算出方法を説明する図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る内視鏡システムによる被写体の移動ベクトルの推定方法を説明する図であり、内視鏡画像内の各位置の移動ベクトルを示す図である。
図9】本発明の第4実施形態に係る内視鏡システムによる被写体の移動ベクトルの推定方法を説明する図であり、移動ベクトルの方向と個数とを示す表である。
図10】本発明の第5実施形態に係る内視鏡システムによる被写体の移動ベクトルの推定方法を説明する図であり、強調処理された内視鏡画像内の各位置の移動ベクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る内視鏡システムおよび座標系補正方法について図面を参照して説明する。
図1および図2に示されるように、本実施形態に係る内視鏡システム1は、内視鏡2と、内視鏡2を保持し移動させる移動装置3と、ユーザによって操作される操作装置4と、操作装置4からの操作信号に基づいて移動装置3を制御する制御装置5と、表示装置6とを備える。
【0013】
内視鏡2は、長尺かつ硬性の鏡筒部2aと、鏡筒部2a内に配置され被写体からの光を集光する光学系2bと、鏡筒部2aに対して固定され集光された光を撮像する撮像素子2cと、を有する硬性鏡である。また、内視鏡2は、鏡筒部2aの長手軸Aと同軸の視軸(光軸)Bを有する直視型の内視鏡である。撮像素子2cは、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等のイメージセンサである。
【0014】
内視鏡2は、1以上の処置具7と共に体内に挿入され、1以上の処置具7を含む内視鏡画像C(図3Aから図3C参照。)を撮像素子2cによって取得し、内視鏡画像Cを表示装置6に送信する。表示装置6は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の任意のディスプレイである。術者は、表示装置6に表示される内視鏡画像Cを観察しながら処置具7を操作する。
【0015】
移動装置3は、内視鏡2の位置および姿勢を3次元的に制御する電動ホルダ3aを備える。電動ホルダ3aは、複数の関節3bを有するロボットアームであり、電動ホルダ3aの先端部に内視鏡2の基端部が長手軸A回りに回転可能に保持されている。複数の関節3bの動作によって電動ホルダ3aの先端および内視鏡2が一体的に移動し、内視鏡2の位置および姿勢が3次元的に変更される。移動装置3は、複数の関節3bの各々の回転角度を検出する角度センサ3cを備える。角度センサ3cは、例えば、各関節3bに設けられたエンコーダ、ポテンショメータまたはホールセンサである。
【0016】
操作装置4は、キー、ジョイスティック、ボタンおよびタッチパネル等の入力デバイスを含むユーザインタフェース4aを有する。操作者は、ユーザインタフェース4aを操作することによって、内視鏡2を移動させるための指示を操作装置4に入力することができる。操作装置4は、ユーザインタフェース4aの操作に基づく操作信号を制御装置5に送信する。
また、ユーザインタフェース4aは、ユーザからのトリガの入力を受け付けることができる。トリガは、後述するように、ホルダ座標系Σrを補正する処理を実行させるためのものである。
【0017】
図2に示されるように、制御装置5は、少なくとも1つのプロセッサ5aと、メモリ5bと、記憶部5cと、入力インタフェース5dと、出力インタフェース5eとを備える。
制御装置5は、入力インタフェース5dおよび出力インタフェース5eを経由して周囲の他の装置2,3,4,6と接続され、内視鏡画像C、関節3bの回転角度の情報および信号等をインタフェース5d,5eを経由して送受信する。
【0018】
メモリ5bは、例えば、ROM(read-only memory)またはRAM(Random Access Memory)領域を含む半導体メモリである。
記憶部5cは、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体であり、例えば、ハードディスクまたはフラッシュメモリ等の半導体メモリを含む不揮発性の記録媒体である。
プロセッサ5aは、操作装置4からの操作信号に基づいて移動装置3を制御することによって、操作者がユーザインタフェース4aに入力した指示に従って内視鏡2を移動させる。
【0019】
ここで、図3Aに示されるように、ホルダ座標系Σrと内視鏡座標系Σeとが相互に一致するように、ホルダ座標系Σrは初期設定される。内視鏡座標系Σeは、鏡筒部2aおよび撮像素子2cに対して固定された座標系であり、ホルダ座標系Σrは、電動ホルダ3aの先端に対して固定された座標系である。
【0020】
一例において、内視鏡座標系Σeは、相互に直交するXe軸、Ye軸およびZe軸を有する直交座標系であり、ホルダ座標系Σrは、相互に直交するXr軸、Yr軸およびZr軸を有する直交座標系である。Xe軸およびXr軸は長手軸Aと一致し、Ye軸およびYr軸は、内視鏡画像Cの水平方向(左右方向)に平行であり、Ze軸およびZr軸は内視鏡画像Cの鉛直方向(上下方向)に平行である。ホルダ座標系Σrと内視鏡座標系Σeとが相互に一致するとは、Xe軸およびXr軸の方向が相互に一致し、Ye軸およびYr軸の方向が相互に一致し、かつ、Ze軸およびZr軸の方向が相互に一致することを意味する。
【0021】
ただし、図3Bに示されるように、移動装置3に対して内視鏡2が長手軸A回りに回転させられることによって、内視鏡座標系Σeとホルダ座標系Σrとの間にずれが生じる。すなわち、内視鏡座標系Σeが長手軸Aに対応するXe軸回りに回転し、内視鏡座標系Σeが、Xe軸回りの回転方向に内視鏡2の回転角度θだけホルダ座標系Σrに対してずれる。
【0022】
このように内視鏡座標系Σeがホルダ座標系Σrと一致していない場合、表示装置6に表示される内視鏡画像Cを観察しているユーザは、ユーザインタフェース4aの操作によって内視鏡2を所望の方向に直感的にかつ正確に移動させることが難しい。
例えば、内視鏡座標系Σeがホルダ座標系Σrに対して90°回転している場合、内視鏡画像Cの上方向に内視鏡2を移動させるための指示をユーザがユーザインタフェース4aに入力すると、移動装置3は内視鏡画像Cの左方向に内視鏡2を移動させてしまう。
【0023】
プロセッサ5aは、座標系Σe,Σr間のずれに基づいてホルダ座標系Σrを補正する処理を実行することができる。
具体的には、図2に示されるように、プロセッサ5aは、内視鏡画像C内の処置具領域(動体領域)Dを推定する処置具領域推定部(動体領域推定部)51と、内視鏡画像C内の被写体Sの移動方向を検出する被写体移動検出部52と、電動ホルダ3aの先端の移動方向を検出するホルダ移動検出部53と、被写体Sの移動方向および電動ホルダ3aの先端の移動方向に基づいて座標系Σe,Σr間のずれを算出するずれ算出部54と、推定されたずれに基づいてホルダ座標系Σrを補正する座標系補正部55と、ホルダ座標系Σrに基づいて移動装置3を制御する制御部56と、を備える。
【0024】
プロセッサ5aは、記憶部5cに記録されメモリ5bに読み出された座標系補正プログラム(図示略)に従って処理を実行することによって、各部51,52,53,54,55,56の後述の機能を実現する。
【0025】
図4Aに示されるように、処置具領域推定部51は、人工知能による画像認識等の公知の方法を用いて内視鏡画像C内の処置具(動体)7を認識し、処置具7の領域を処置具領域Dとして推定する。
被写体移動検出部52は、処置具領域Dを除いた内視鏡画像Cの他の領域Eに基づいて、被写体Sの移動方向を検出する。具体的には、被写体移動検出部52は、オプティカルフローまたはVisual SLAM等の公知の方法を使用し、異なる時刻に撮像された2以上の内視鏡画像Cから、他の領域Eの被写体Sの移動ベクトルVobjを推定する。移動ベクトルVobjは、Xe軸に直交するYeZe平面内での被写体Sの移動方向を表す2次元ベクトルであり、内視鏡座標系Σeにおける内視鏡2の移動方向を表す。具体的には、移動ベクトルVobjと内視鏡2の移動方向は、相互に逆方向となる。
【0026】
ホルダ移動検出部53は、角度センサ3cによって検出された関節3bの回転角度を移動装置3から取得し、関節3bの回転角度から電動ホルダ3aの先端の位置を算出し、位置の時間変化から電動ホルダ3aの先端の速度Vtipを算出する。速度Vtipは、Xr軸に直交するYrZr平面内での電動ホルダ3aの先端の移動方向を表す2次元ベクトルであり、ホルダ座標系Σrにおける内視鏡2の移動方向を表す。
【0027】
ずれ算出部54は、移動ベクトルVobjおよび速度Vtipを用いて下式(1)から座標系Σe,Σr間のずれθを算出する。ずれθは、電動ホルダ3aに対する内視鏡2の長手軸A回りの回転角度θに相当する。
【数1】
【0028】
座標系補正部55は、ずれθに基づいてホルダ座標系Σrを補正することによって、ホルダ座標系Σrを内視鏡座標系Σeに一致させる。具体的には、座標系補正部55は、ホルダ座標系Σrが内視鏡座標系Σeに一致するように、ずれθに基づいて電動ホルダ3aのDH(Denavit-Hartenberg)パラメータを補正する。
制御部56は、補正されたホルダ座標系Σrに基づいて移動装置3を制御する。
【0029】
次に、プロセッサ5aが実行する座標系補正方法について、図5を参照して説明する。
ユーザは、ホルダ座標系Σrの補正を行いたい任意のタイミングでユーザインタフェース4aにトリガを入力する。例えば、ユーザは、表示装置6に表示される内視鏡画像C内の被写体Sの向きを調整するために電動ホルダ3aに対して内視鏡2を長手軸A回りに手動で回転させ、その後、トリガをユーザインタフェース4aに入力する。
続いて、ユーザは、操作装置4を操作することによって、電動ホルダ3aの先端および内視鏡2を移動させる。
【0030】
ユーザインタフェース4aがトリガを受け付けたことに応答し(ステップS1のYES)、プロセッサ5aは、ホルダ座標系Σrを補正するための処理S2~S12を実行する。
具体的には、電動ホルダ3aの先端および内視鏡2の移動中、プロセッサ5aは、所定の時間間隔毎に内視鏡画像Cを取得し(ステップS2)、取得された内視鏡画像Cをメモリ5bまたは記憶部5cに記録する(ステップS4,S6)。
【0031】
トリガが受け付けられた時点の内視鏡画像Cが1フレーム目として最初に取得および記憶され(ステップS3のYES、ステップS4)、1フレーム目の内視鏡画像C内の処置具領域Dが処置具領域推定部51によって推定される(ステップS5)。
その後、新たな内視鏡画像Cが取得される度に(ステップS2)、新たに取得された内視鏡画像(すなわち、現在の内視鏡画像)Cが記憶され(ステップS6)、現在の内視鏡画像C内の処置具領域Dが処置具領域推定部51によって推定され(ステップS7)、現在の内視鏡画像Cと過去に取得された1フレーム目の内視鏡画像Cとを用いて移動ベクトルVobjが被写体移動検出部52によって検出される(ステップS8)。ここで、ステップS8において、現在および1フレーム目の2つの内視鏡画像Cの各々から処置具領域Dが除外され、2つの内視鏡画像Cの他の領域Eのみに基づいて移動ベクトルVobjが推定される。
【0032】
移動ベクトルVobjの大きさが閾値以上である場合(ステップS9のYES)、続いて、1フレーム目の内視鏡画像Cの撮像時から現在の内視鏡画像Cの撮像時までの電動ホルダ3aの先端の位置の時間変化から、電動ホルダ3aの先端の速度Vtipがホルダ移動検出部53によって検出される(ステップS10)。
次に、速度Vtipおよび移動ベクトルVobjから座標系Σe,Σr間のずれθがずれ算出部54によって算出される(ステップS11)。
次に、ずれθに基づいてホルダ座標系Σrが座標系補正部55によって補正され、ホルダ座標系Σrが内視鏡座標系Σeに一致させられる(ステップS12)。
【0033】
一方、移動ベクトルVobjの大きさが閾値未満である場合(ステップS9のNO)、ステップS10~S12を行うことなくステップS2に戻り、移動ベクトルVobjの大きさが閾値以上になるまで、ステップS2,S6,S7,S8が繰り返される。
ステップS12の後、移動装置3が、ユーザインタフェース4aに入力された指示に従い、補正されたホルダ座標系Σrに基づいて制御部56によって制御される。
【0034】
内視鏡画像Cには、静止した被写体Sの他に動く被写体(動体)が含まれ得る。動く被写体は移動ベクトルVobjの精度に影響し、動く被写体を含む内視鏡画像Cから、内視鏡2の移動方向を正確に表す被写体の移動ベクトルを推定することは難しい。特に、手術中の内視鏡画像Cにおいて処置具7が動く。
【0035】
本実施形態によれば、内視鏡画像Cの内、処置具領域Dを除いた他の領域Eが移動ベクトルVobjの推定に使用される。これにより、内視鏡画像C内に動く処置具7が存在する場合においても、内視鏡2の移動方向を正確に表す高精度の移動ベクトルVobjが推定される。このような高精度の移動ベクトルVobjに基づいて座標系Σe,Σr間の正確なずれθを算出し、ホルダ座標系Σrを正確に補正することができる。さらに、正確に補正されたホルダ座標系Σrに基づいて、ユーザが操作装置4に入力した方向と正確に対応する方向に移動装置3によって内視鏡2を移動させることができる。
【0036】
また、座標系Σe,Σr間のずれθが、2以上の内視鏡画像Cおよび電動ホルダ3aの先端の位置の情報のみから算出される。すなわち、ずれθを検出するためにセンサ等の機器の追加は不要であり、ずれθをセンサレスで推定することができる。したがって、電動ホルダ3aの改良が不要であると共に、電動ホルダ3aの細径化および小型化が容易である。
【0037】
内視鏡2の回転角度θを検出するセンサ等の機器を電動ホルダ3aに追加することによって、ずれθの計測を容易に実現することができる。しかし、この場合には、従来の電動ホルダを使用することができず、電動ホルダの改良が必要である。また、電動ホルダの外径、サイズおよび重量が増大し、電動ホルダ3aが手術の邪魔になり得る。
【0038】
本実施形態において、図4Bに示されるように、処置具領域推定部51が、処置具領域DにマージンFを加えた領域を除いた他の領域E’に基づいて、被写体Sの移動方向を推定してもよい。
マージンFは、処置具領域Dの輪郭に沿って延び処置具領域Dを囲む領域であり、例えば、所定の幅を有する帯状の領域である。
【0039】
処置具7の近傍において、被写体Sの移動が処置具7の動きに影響される可能性がある。例えば、処置具7に押し引きされることによって、処置具7の近傍において被写体Sが部分的に動くことがある。
処置具領域DにマージンFを加えた領域を除外することによって、被写体Sの移動ベクトルVobjの推定精度を向上し、座標系Σe,Σr間のずれθをさらに正確に推定することができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る内視鏡システムおよび座標系補正方法について説明する。
本実施形態は、内視鏡21が斜視型である点において、第1実施形態と相違する。本実施形態において、第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と共通の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
本実施形態に係る内視鏡システムは、内視鏡21、移動装置3、操作装置4、制御装置5および表示装置6を備える。
図6に示されるように、内視鏡21は、長手軸Aに対して傾斜する視軸Bを有する斜視型の硬性鏡である。内視鏡21は、長尺かつ硬性の鏡筒部2aと、鏡筒部2aの基端に接続された操作部2dとを有する。操作部2dは、鏡筒部2aに対して長手軸A回りに回転可能であり、撮像素子2cは、操作部2dの内部に保持され、操作部2dに対して固定されている。電動ホルダ3aは、鏡筒部2aを長手軸A回りに回転可能に保持する。撮像素子2cは、3次元カメラであり、被写体Sの3次元位置情報を含むステレオ画像を内視鏡画像Cとして取得することができる。
【0042】
鏡筒部2aが操作部2dと一体的に電動ホルダ3aに対して回転することによって、視軸Bが長手軸A回りに回転移動し視軸Bの方向が変更される。また、操作部2dが鏡筒部2aおよび電動ホルダ3aに対して回転することによって、撮像素子2cが長手軸A回りに回転し表示装置6に表示される内視鏡画像Cが回転する。
【0043】
このように、本実施形態において、内視鏡座標系Σeは、電動ホルダ3aに対する鏡筒部2aの回転、および、鏡筒部2aに対する操作部2dの回転によって、ホルダ座標系Σrに対して回転する。したがって、内視鏡座標系Σeとホルダ座標系Σrとの間のずれは、長手軸A回りの鏡筒部2aの回転角度θおよび長手軸A回りの操作部2dの回転角度βから算出される。
【0044】
図7は、鏡筒部2aの回転角度θおよび操作部2dの回転角度βを算出する方法を説明している。
内視鏡21の先端に、XbaseYbaseZbase基準座標系を設定する。Xbase軸は、長手軸Aと一致する。XbaseYbaseZbase基準座標系をXbase軸回りにθだけ回転させた座標系を、X1Y1Z1座標系とする。Xbase軸回りの回転は、鏡筒部2aの回転に相当する。X1Y1Z1座標系をY1軸回りに、視軸Bの傾斜角度α(例えば、-30deg)だけ回転させた座標系を、X2Y2Z2座標系とする。X2Y2Z2座標系をX2軸回りにβだけ回転させた座標系を、X3Y3Z3座標系とする。X2軸回りの回転は、操作部2dの回転に相当する。X3Y3Z3座標系は、鏡筒部2aおよび操作部2dの回転後の内視鏡座標系Σeである。
【0045】
上記の定義を踏まえると、下式が成立する。
【数2】
【0046】
ただし、V=(vx,vy,vz)は、ホルダ座標系Σrにおける内視鏡21の3次元速度であり、ホルダ移動検出部53によって検出される電動ホルダ3aの先端の速度Vtipである。V’=(vx’,vy’,vz’)は、回転角度θ,βおよび速度Vに基づいて算出される、内視鏡座標系Σeにおける内視鏡21の計算上の速度である。H i-1は、i-1座標系からi座標系への同次変換行列である。また、Cθ=cosθ、Sθ=sinθである。
【0047】
内視鏡画像Cに基づいて算出される内視鏡座標系Σeにおける内視鏡21の速度をV”とすると、下式(2)に示すように、V’とV”との間の誤差が最小となる回転角度θ,βを求めることによって、鏡筒部2aの回転角度θおよび操作部2dの回転角度βを推定することができる。
【数3】
【0048】
速度V”は、被写体移動検出部52によって検出される被写体Sの移動速度Vobjである。ステップS8において、被写体移動検出部52は、被写体Sの3次元位置情報を複数の内視鏡画像Cの各々から取得し、SfM(Structure from Motion)またはVisual SLAM等の公知の画像処理技術を用いて複数の内視鏡画像Cから内視鏡21の位置および姿勢を推定し、推定された位置および姿勢の変化量から内視鏡座標系Σeにおける内視鏡21の速度V”=Vobjを算出する。
【0049】
ステップS11において、ずれ算出部54は、回転角度θ,βを網羅的に変化させることによって、V’とV”との間の誤差が最小となる回転角度θ,βをずれとして算出する。
ステップS12において、座標系補正部55は、回転角度θ,βに基づいてホルダ座標系Σrを補正することによって、ホルダ座標系Σrを内視鏡座標系Σeに一致させる。具体的には、座標系補正部55は、ホルダ座標系Σrが内視鏡座標系Σeに一致するように、回転角度θ,βに基づいて電動ホルダ3aのDH(Denavit-Hartenberg)パラメータを補正する。
【0050】
この場合に、本実施形態のステップS8においても、内視鏡画像Cの内、処置具領域Dを除いた他の領域Eが移動ベクトルVobjの推定に使用される。したがって、内視鏡画像C内に動く処置具7が存在する場合においても、斜視型の内視鏡21の移動方向を正確に表す高精度の移動ベクトルVobjが推定することができる。このような高精度の移動ベクトルVobjに基づいて座標系Σe,Σr間の正確なずれθ,βを算出し、ホルダ座標系Σrを正確に補正することができる。
本実施形態のその他の作用および効果は、第1実施形態と同一であるので説明を省略する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、処置具領域DにマージンFを加えた領域を除いた他の領域E’に基づいて、被写体Sの移動方向Vobjを推定してもよい。
【0051】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る内視鏡システムおよび座標系補正方法について説明する。
本実施形態は、被写体Sの移動方向を検出する方法において、第1実施形態と相違する。本実施形態において、第1実施形態と異なる点について説明し、第1実施形態と共通の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
第1実施形態と同様に、本実施形態に係る内視鏡システム1は、内視鏡2、移動装置3、操作装置4、制御装置5および表示装置6を備える。
図8に示されるように、ステップS8において、被写体移動検出部52は、内視鏡画像C内の各位置の移動ベクトルu(矢印参照。)を推定し、処置具領域Dを除く他の領域E内の位置の移動ベクトルuを選択し、選択された移動ベクトルuから被写体Sの移動ベクトルVobjを推定する。例えば、移動ベクトルVobjは、選択された移動ベクトルuの平均である。
【0053】
図8の内視鏡画像C内の黒いドットは、エッジのような特徴(階調値の変化)が無いまたは少ないことが原因で移動ベクトルuが推定されなかった位置を示している。移動ベクトルが推定されなかった位置も、被写体Sの移動ベクトルVobjの推定において除外されてもよい。
【0054】
実際の手術シーンにおいて、他の領域E内の臓器等の被写体Sは完全に静止しているとは限らず、例えば、処置具7によって押し引きされることによって他の領域E内の被写体Sが部分的に動くことがある。このような被写体Sの動きは、移動ベクトルVobjの推定誤差の原因となる。
本実施形態によれば、他の領域E内の複数の位置の移動ベクトルuを用いることによって、被写体Sの移動ベクトルVobjの推定誤差を低減することができる。
【0055】
本実施形態のその他の作用および効果は、第1実施形態と同一であるので説明を省略する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、処置具領域DにマージンFを加えた領域を除いた他の領域E’に基づいて、被写体Sの移動方向Vobjを推定してもよい。すなわち、被写体移動検出部52は、他の領域E’内の位置の移動ベクトルuを選択し、選択された移動ベクトルuから被写体Sの移動ベクトルVobjを推定してもよい。
【0056】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る内視鏡システムおよび座標系補正方法について説明する。
本実施形態は、他の領域E内の位置の移動ベクトルuの中から方向に基づいて選択された移動ベクトルuのみを被写体Sの移動ベクトルVobjの推定に使用する点において、第3実施形態と相違する。本実施形態において、第1および第3実施形態と異なる点について説明し、第1および第3実施形態と共通の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
本実施形態のステップS8において、図9に示されるように、被写体移動検出部52は、他の領域E内の位置の移動ベクトルuを選択した後、移動ベクトルuの方向di(i=1,2,3,…)に基づいて移動ベクトルuをさらに選択する。
具体的には、被写体移動検出部52は、移動ベクトルuの個数ni(i=1,2,3,…)を方向di(i=1,2,3,…)毎に数える。
【0058】
次に、被写体移動検出部52は、個数が最多である移動ベクトルuと、最多の移動ベクトルuと方向が近い移動ベクトルとを選択する。例えば、最多の移動ベクトルuに対して方向が±δ°以内である移動ベクトルuが選択される。δは、適宜設定される値である。図9の例において、方向d3の移動ベクトルuの数n3が最多であり、方向d3の移動ベクトルuと方向d2,d4の移動ベクトルとが選択される。
次に、被写体移動検出部52は、選択された移動ベクトルuのみから被写体Sの移動ベクトルVobjを推定する。
【0059】
前述したように、他の領域E内の被写体Sが、内視鏡2の移動とは関係なく部分的に動くことがある。
本実施形態によれば、他の領域E内の移動ベクトルuの中から、内視鏡2の移動に因る被写体Sの移動方向d3とは異なる方向d1,d5,d6の移動ベクトルuが除外され、内視鏡2の移動に因る被写体Sの移動方向d3およびこれに近い方向d2,d4の移動ベクトルuのみが移動ベクトルVobjの推定に使用される。これにより、第3実施形態と比較して、被写体Sの移動ベクトルVobjの推定誤差をさらに低減することができる。
【0060】
本実施形態のその他の作用および効果は、第1実施形態と同一であるので説明を省略する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、処置具領域DにマージンFを加えた領域を除いた他の領域E’に基づいて、被写体Sの移動方向Vobjを推定してもよい。
【0061】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る内視鏡システムおよび座標系補正方法について説明する。
本実施形態は、移動ベクトルVobjの推定に使用する内視鏡画像Cに強調処理を施す点において、第3および第4実施形態と相違する。本実施形態において、第1、第3および第4実施形態と異なる点について説明し、第1、第3および第4実施形態と共通の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
前述したように、特徴が無いまたは少ない位置の移動ベクトルuを推定することは難しい。被写体移動検出部52は、エッジ強調処理またはコントラスト強調処理等、特徴を強調するための強調処理を、内視鏡画像Cに施す。例えば、被写体移動検出部52は、内視鏡画像CをN×Mの複数の領域に分割し、複数の領域の輝度値のヒストグラムが同等となるように領域毎に強調処理を施す。必要に応じて、被写体移動検出部52は、強調処理の前に、グレースケール変換等の前処理をカラーの内視鏡画像Cに施してもよい。
【0063】
次に、被写体移動検出部52は、強調処理が施された2以上の内視鏡画像Cを使用して移動ベクトルVobjを推定する。図10は、強調処理が施された内視鏡画像C内の移動ベクトルuを示している。図8および図10に示されるように、強調処理が施されていない内視鏡画像Cでは移動ベクトルuが推定されなかった位置においても、強調処理が施された内視鏡画像Cでは移動ベクトルuが推定される。
【0064】
このように、本実施形態によれば、特徴を強調する処理を内視鏡画像Cを施すことによって、移動ベクトルuが推定される領域が拡大し、被写体Sの移動ベクトルVobjの正しい推定に寄与する領域が増える。これにより、第3および第4実施形態と比較して、被写体Sの移動ベクトルVobjの推定誤差をさらに低減することができる。
【0065】
本実施形態のその他の作用および効果は、第1実施形態と同一であるので説明を省略する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、処置具領域DにマージンFを加えた領域を除いた他の領域E’に基づいて、被写体Sの移動方向Vobjを推定してもよい。
【0066】
上記第1から第5実施形態において、動体が、処置具7であることとしたが、動体は、処置具7に限定されるものではなく、内視鏡画像C内で動く任意の被写体であってもよい。例えば、動体は、トロッカまたはサージカルテープのような手術器具、蠕動する腸または呼吸によって動く横隔膜のような臓器、または、処置具等によって組織を焼灼したときに発生する煙であってもよい。
【0067】
上記第1から第5実施形態において、処置具領域推定部51が、人工知能による画像認識によって処置具7のような動体の領域を推定することとしたが、これに代えて、内視鏡画像C内の各位置の移動ベクトルuに基づいて動体の領域を推定してもよい。例えば、処置具領域推定部51は、移動ベクトルuの大きさが閾値以上である位置を動体の領域として推定してもよい。
【0068】
この構成によっても、動く処置具7の領域を推定することができる。また、処置具7に代えてまたはこれに加えて他の動体が内視鏡画像C内に含まれる場合、他の任意の動体の領域も移動ベクトルuに基づいて推定することができる。したがって、内視鏡画像C内に他の動体が存在する場合、他の動体の領域を除いた他の領域に基づいて、内視鏡2の移動方向を正確に表す高精度の移動ベクトルVobjを推定することができる。
【0069】
上記第1から第5実施形態において、移動装置3に対する内視鏡2,21の長手軸A回りの回転によって、座標系Σe,Σr間にずれが生じることとしたが、本発明は、内視鏡2,21および移動装置3の任意の相対運動によって座標系Σe,Σr間にずれが生じる場合にも適用することができる。すなわち、電動ホルダ3によって移動させられる内視鏡2のホルダ座標系Σrでの移動方向と、内視鏡画像C内の被写体Sの移動方向とから、座標系Σe,Σr間の任意の方向のずれを算出することができる。したがって、算出されたずれに基づいて、内視鏡座標系Σeとホルダ座標系Σrとが相互に一致するように、内視鏡座標系Σeおよびホルダ座標系Σrの少なくとも一方を補正することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 内視鏡システム
2,21 内視鏡
2a 鏡筒部
2c 撮像素子
2d 操作部
3 移動装置
3a 電動ホルダ、ロボットアーム
4 操作装置
4a ユーザインタフェース
5 制御装置
5a プロセッサ
7 処置具(動体)
A 内視鏡の長手軸
B 内視鏡の視軸
C 内視鏡画像
D 処置具領域(動体領域)
E,E’ 他の領域
F マージン
S 被写体
Σr ホルダ座標系(移動装置の座標系)
Σe 内視鏡座標系(内視鏡の座標系)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10