IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】空調制御装置および空調制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20250221BHJP
   F24F 110/70 20180101ALN20250221BHJP
   F24F 120/00 20180101ALN20250221BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F110:70
F24F120:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024510880
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015944
(87)【国際公開番号】W WO2023188096
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】宇高 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】元谷 美緒
(72)【発明者】
【氏名】澤田 昌江
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】特許第7042973(JP,B1)
【文献】特許第6739671(JP,B1)
【文献】特開2021-152416(JP,A)
【文献】特開2014-16126(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108200668(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/64
F24F 110/70
F24F 120/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御モードごとに、空調対象空間の環境を表す各変数がどの重要度になるかを記憶する変数重要度テーブルと、
前記重要度ごとに、前記各変数の快適度を記憶する快適度テーブルと、
前記各変数の値と前記快適度との関係性を定義する快適度関数と、前記変数重要度テーブルと、前記快適度テーブルとから特定される前記制御モードに対応する前記変数の前記重要度に対応する前記快適度に基づいて、各変数の重みづけ係数を算出する係数演算部と、
算出された前記重みづけ係数と操作量に対応する前記各変数とに基づいて評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値が高い前記操作量を空調装置の操作量として決定する運転状態決定部と、
を備えることを特徴とする空調制御装置。
【請求項2】
前記係数演算部は、前記快適度関数において、前記重要度で特定される前記快適度以上になる面積の大きさに基づいて前記各変数の重みづけ係数を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の空調制御装置。
【請求項3】
前記係数演算部は、前記面積の大きさが小さいほど前記各変数の重みづけ係数を大きくして算出すること
を特徴とする請求項2に記載の空調制御装置。
【請求項4】
前記評価値算出部は、前記各変数と前記各変数に対応する重みづけ係数を掛け合わせ合算することで前記評価値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の空調制御装置。
【請求項5】
気流解析の結果から前記空調対象空間の環境の分布の傾向を解析結果よりも少ないデータで表すパターンデータとを備え、
前記変数は前記パターンデータから特定される変数を含むこと
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の空調制御装置。
【請求項6】
前記パターンデータは空気質に関する変数を含み、
前記操作量が換気装置の操作量を含み、
前記パターンデータから特定される前記空気質に関する変数が目標値を満たしているか否かを判定し、前記空気質に関する変数が許容範囲内に収まっている前記パターンデータを、前記評価値を算出する候補パターンとして抽出する空気質判定部と、
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の空調制御装置。
【請求項7】
設定値の変更履歴を記憶する変更履歴テーブルと、
前記変更履歴テーブルの一定期間の設定値から算出される代表設定値と、現在の設定値に基づいて、前記快適度関数の快適度を前記現在の設定値を基準として、所定量補正する関数改良と、
を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の空調制御装置。
【請求項8】
前記関数改良部は、前記代表設定値と現在の設定値とを比較した結果、前記代表設定値の方が快適な場合に、前記快適度関数を補正する
ことを特徴とする請求項7に記載の空調制御装置。
【請求項9】
制御モードごとに、空調対象空間の環境を表す各変数がどの重要度になるかを変数重要度テーブルに記憶するステップと、
前記重要度ごとに、前記各変数の快適度を快適度テーブルに記憶するステップと、
前記各変数の値と前記快適度との関係性を定義する快適度関数と、前記変数重要度テーブルと、前記快適度テーブルとから特定される前記制御モードに対応する前記変数の前記重要度に対応する前記快適度に基づいて、各変数の重みづけ係数を算出するステップと、
算出された前記重みづけ係数と操作量に対応する前記各変数とに基づいて評価値を算出するステップと、
前記評価値が高い前記操作量を空調装置の操作量として決定する運転状態決定部と、
を備えることを特徴とする空調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空調機を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
室内環境の分布を考慮して空調機を制御するために、流体解析の手段を用いて空調機を制御する空調制御装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、空調の風温や風向き等の制御量を制御して、空調対象空間の温度調整をする。このとき、ただ温度調整をするだけではなく、消費電力をより抑えて目的温度を達成したい場合や、より早く目標温度に到達させたい場合等、様々な要望がある。どのような要望を優先するかで、同じ目的温度を目指すにしても制御量のそれぞれの値は異なる。このような様々な要望に応じて制御量を決定するために、特許文献1では評価値を利用して、複数ある制御量のパターンから特定のパターンを決定する旨について開示されている。
【0004】
より具体的には、制御量の組合せ毎に、制御量を関数(モデル)に入力して、平均風速や消費電力等のユーザの要望に係る対象項目を算出し、より優先したい対象項目により重みの付いた重み係数を掛け足し合わせることで評価値を算出し、評価値がより高い制御量で空調機器を制御することで、よりユーザの要望にあった空調運転を実現する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-61447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1ではより優先したい対象項目に、より重みを付けた重み係数とすることについては開示さてれているが、具体的にどのように重みづけ係数を決定するかについては開示なく、重み係数を自動で決定する旨についても開示がない。また、重みづけには空調の快適性について何も考慮されておらず、その示唆もない。本開示では、より快適性を維持しながら要望に合わせて空調を制御するように重み係数を自動で調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る空調制御装置は、制御モードごとに、空調対象空間の環境を表す各変数がどの重要度になるかを記憶する変数重要度テーブルと、重要度ごとに、各変数の快適度を記憶する快適度テーブルと、各変数の値と快適度との関係性を定義する快適度関数と、変数重要度テーブルと、快適度テーブルとから特定される制御モードに対応する変数の重要度に対応する快適度に基づいて、各変数の重みづけ係数を算出する係数演算部と、算出された重みづけ係数と操作量に対応する各変数とに基づいて評価値を算出する評価値算出部と、評価値が高い操作量を空調装置の操作量として決定する運転状態決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より快適性を維持しながら要望に合わせて空調を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る空調制御装置を含む空調システムの一例を示す構成図である。
図2図1に示した空調機の一構成例を示す冷媒回路図である。
図3】実施の形態1に係る空調制御装置の一構成例を示すブロック図である。
図4】解析条件リストの一例を示す図である。
図5】解析条件のうち、空調機の運転状態に関する吹出条件の一例を示す図である。
図6】解析条件のうち、負荷条件の一例を示す図である。
図7】優先度を数値範囲によって管理する優先度管理テーブルの一例を示す図である。
図8】パターンデータの一例を示す図である。
図9】制御モードリストの一例を示す図である。
図10】変数重要度テーブルの一例を示す図である。
図11】変数重要度テーブルの変数が異なる一例を示す図である。
図12図10で示した変数重要度テーブルの制御モードおよび変数に対応する、冷房時の快適度テーブルの一例を示す図である。
図13】暖房時の快適度テーブルの一例を示す図である。
図14図11で示した変数重要度テーブルに対応する冷房時における快適度テーブルの一例を示す図である。
図15】冷房時における“床面1.1m風速”の快適度関数の一例を示す図である。
図16】冷房時における“床面1.1m温度”の快適度関数の一例を示す図である。
図17】冷房時における“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数の一例を示す図である。
図18】係数演算部が重み係数を決定する方法を説明する際に用いる変数重要度テーブルの一例を示す図である。
図19】係数演算部が重み係数を決定する方法を説明する際に用いる快適度テーブルの一例を示す図である。
図20】冷房時における“床上+1.1m風速”の快適度関数を示す図である。
図21】冷房時における“床上+1.1m温度”の快適度関数を示す図である。
図22】冷房時における“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数を示す図である。
図23図3に示す快適度関数の別の一例を示す図である。
図24図3に示す演算装置の一構成例を示すハードウェア構成図である。
図25図3に示す演算装置の別の構成例を示すハードウェア構成図である。
図26】実施の形態1に係る空調制御装置の動作手順の一例を示すフロー図である。
図27図26に示すステップST11における動作手順のフロー図である。
図28図26に示すステップST15における動作手順のフロー図である。
図29図28に示すステップST23における動作手順のフロー図である。
図30】実施の形態2に係る空調制御装置を含む空調システムの一例を示す構成図である。
図31図30に示す換気装置の機能構成図である。
図32図30に示す換気装置の全熱交換器の構成の一例を示す図である。
図33】実施の形態2に係る空調制御装置の一構成例を示すブロック図である。
図34】解析条件のうち、空調機および換気装置の運転状態に関する吹出条件の一例を示す図である。
図35図33に示すパターンデータの一例を示す図である。
図36図33に示す快適度関数の一例を示す図である。
図37図26に示すステップST15の実施の形態2における動作手順のフロー図である。
図38】実施の形態3に係る空調制御装置の一構成例を示すブロック図である。
図39図38に示す変更履歴テーブルの一例を示す図である。
図40図38に示す関数改良部によって改良された快適度関数の一例を示す図である。
図41】実施の形態3における関数改良部の動作手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本開示の空調制御装置1の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、実施の形態1に係る空調制御装置1を含む空調システムの一例を示す構成図である。空調システムは、空調対象空間の空気を調和する空調機2と、空調機2を制御する空調制御装置1と、少なくとも空調対象空間の環境を計測するセンサ3とを有する。空調制御装置1は、ネットワーク4を介して、空調機2およびセンサ3と接続される。センサ3はセンサ3a、センサ3b・・・を有する。本実施の形態では空調機2とセンサ3は別に接続されているが、空調機2の中にセンサ3はあっても良く場所は限定されない。図1に示すように、空調機2は、室外機21と、室内機22と、コントローラ23とを有する。室内機22は、空調対象空間である室内に設置されている。
【0012】
図2は、図1に示した空調機2の一構成例を示す冷媒回路図である。図2に示すように、室外機21は冷媒配管を介して室内機22と接続されている。室外機21は、圧縮機51と、四方弁52と、熱源側熱交換器53と、絞り装置54と、室外ファン57とを有する。室内機22は、負荷側熱交換器55と、室内ファン58と、風向調節部59とを有する。
【0013】
圧縮機51、熱源側熱交換器53、絞り装置54および負荷側熱交換器55が冷媒配管で接続され、冷媒が循環する冷媒回路50が構成される。本実施の形態1においては、室外機21と室内機22との間を循環する熱媒体が冷媒の場合で説明するが、水と冷媒とが熱交換する熱媒体熱交換器(図示せず)を室外機21に設け、室外機21と室内機22との間を水が循環する構成であってもよい。
【0014】
風向調節部59は、室内機22の空気の吹出口に設けられている。風向調節部59は、左右フラップ61および上下フラップ62を有する。左右フラップ61は、室内機22の吹出口の正面方向を基準として、時計回りまたは反時計回りに角度を変化させることで、室内機22から送出される気流の方向を床面に対して平行に変化させる。左右フラップ61の角度に対応して変化する気流の方向が左右風向である。以下では、左右風向の角度について、室内機22の吹出口の正面方向を基準として、時計回りの角度をプラスの値で表し、反時計回りの角度をマイナスの値で表す。
【0015】
上下フラップ62は、室内機22の吹出口において、重力方向を基準として重力方向から水平方向への角度を変化させることで、室内機22から送出される気流の方向を変化させる。この場合、重力方向を0°とすると、水平方向は90°である。上下フラップ62の角度に対応して変化する気流の方向が上下風向である。上下風向を示す角度の表示方法は、重力方向を0°とし、水平方向を90°とする場合に限らず、重力方向を90°とし、水平方向を0°としてもよい。つまり、水平方向を0°とする場合、俯角が上下風向を示す角度に相当する。
【0016】
コントローラ23は、例えば、マイクロコンピュータである。コントローラ23は、図に示さない信号線を介して、圧縮機51、四方弁52、室外ファン57、絞り装置54、室内ファン58および風向調節部59と接続される。コントローラ23は、ユーザまたは管理者が室内機22のオンおよびオフを切り換えたり、設定温度および風量等を手動で設定変更したりするための装置である。コントローラ23は、リモートコントローラであってもよい。
【0017】
コントローラ23は、冷媒回路50を循環する冷媒の冷凍サイクルを制御する。コントローラ23は、暖房運転および冷房運転の運転モードに対応して、冷媒回路50における冷媒の流通方向が切り替わるように四方弁52を制御する。また、コントローラ23は、センサ3によって計測される室内の温度および湿度がそれぞれの設定値と予め決められた範囲で一致するように、圧縮機51の運転周波数、絞り装置54の開度および室外ファン57の回転数を制御する。室内の温度および湿度の設定値はユーザによって設定される。コントローラ23は、一定時間間隔で、空調機2の運転状態を示す空調運転データ36を、ネットワーク4を介して空調制御装置1に送信する。一定時間間隔は、例えば、5分である。
【0018】
また、コントローラ23は、空調制御装置1から制御指令を受信すると、制御指令にしたがって、室内ファン58の回転数と、風向調節部59の左右フラップ61の角度および上下フラップ62の角度とを制御する。室内ファン58の回転数に対応して風量および風速が調整される。左右フラップ61の角度に対応して左右風向が調整され、上下フラップ62の角度に対応して上下風向が調整される。
【0019】
運転モードが暖房運転の場合、熱源側熱交換器53において冷媒が吸熱し、負荷側熱交換器55において冷媒が室内の空気と熱交換して放熱することで、室内の空気が暖められる。一方、運転モードが冷房運転の場合、熱源側熱交換器53において冷媒が放熱し、負荷側熱交換器55において冷媒が室内の空気と熱交換することで、室内の空気が冷却される。
【0020】
次に、図1に示す空調機2の適用事例について説明する。住宅向けの空調システムでは、1室に1台の室内機22が設置されることが多い。例えば、ルームエアコンは空調機2の代表例である。空調機2は、室外機1台に対して室内機22が複数台接続されるルームエアコンであってもよい。
【0021】
また、空調機2は、オフィスビル等で用いられるビル用マルチエアコンであってもよい。さらに、空調システムは、大規模ビルの全館空調に用いられるセントラル空調システムであってもよい。空調システムは、サーバ室および倉庫などに設置され、対物空調を行う空調システムであってもよい。これらの構成は空調機2および空調機2を含む空調システムの一例であり、空調機2の種類は、上述の構成に限定されるものではない。また、空調対象空間も上述の部屋および建物などの空間に限定されるものではない。
【0022】
次に、図1に示すセンサ3について説明する。センサ3は、物理量を計測するセンサである。センサ3は、一定時間間隔で、計測値であるセンサデータ37を、ネットワーク4を介して空調制御装置1に送信する。一定時間間隔は、例えば、5分である。センサ3は、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0023】
図1は、センサ3が複数のセンサ3-1~3-n(nは2以上の整数)を有する場合を示す。センサ3は、室内および室外の環境の情報を取得する。センサ3は、温度、湿度、放射温度、熱画像および気流速度等を計測するセンサである。センサ3が赤外線センサを含む場合、熱画像は赤外線センサによって取得される。
【0024】
図1に示す構成例においては、センサ3が空調機2とは別に設けられる場合を示しているが、センサ3が空調機2に設けられていてもよい。例えば、室内の空気の温度である室温を計測するセンサ3が室内機22に設けられ、室外の空気の温度である外気温を計測するセンサ3が室外機21に設けられていてもよい。なお、外気温は、センサ3が空調制御装置1に送信する場合に限らない。天気予報をインターネット等のネットワークを介して提供するサーバ(図示せず)が、外気温の情報を空調制御装置1に送信してもよい。
【0025】
ネットワーク4は、空調制御装置1と、空調機2およびセンサ3とを接続する通信用のネットワークである。ネットワーク4における通信手段は、有線でも、無線でもよく、または有線と無線との組み合わせであってもよい。また、ネットワーク4を介して行われる通信の通信プロトコルは、特に限定されず、一般に公開されている汎用プロトコルでもよい。ネットワーク4の通信範囲は、LAN(Local Area Network)等の狭い範囲であってよく、インターネット等の広い範囲であってもよい。さらに、ネットワーク4が空調機2の製造会社によって運用される専用線である場合、ネットワーク4で使用される通信プロトコルは専用プロトコルであってもよい。次に、図1および図3を参照して、空調制御装置1の構成を説明する。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る空調制御装置1の一構成例を示すブロック図である。空調制御装置1は、空調機2を制御する情報処理装置である。空調制御装置1は、記憶装置13と、演算装置14と、受信装置11と、送信装置12とを有する。
【0027】
受信装置11は、空調機2から一定時間間隔で空調運転データ36を取得し、取得したデータを記憶装置13に記憶させる。受信装置11は、センサ3から一定時間間隔でセンサデータ37を取得し、取得したデータを記憶装置13に記憶させる。一定時間間隔は、例えば、5分である。本実施の形態1では、受信装置11が空調機2およびセンサ3のそれぞれからデータを取得する時間間隔が同じ場合で説明するが、空調機2からデータを取得する時間間隔とセンサ3からデータを取得する時間間隔とが異なっていてもよい。送信装置12は、演算装置14によって空調機2への制御指令が決定されると、決定された制御指令を空調機2に送信する。
【0028】
記憶装置13は、解析条件リスト131と、機器および空間情報132と、気流解析モデル133と、パターンデータ134と、目標条件135と、空調運転データ36およびセンサデータ37を含む計測データ136と、制御モードリスト137と、変数重要度テーブル138と、快適度テーブル139と、快適度関数140とを記憶する。記憶装置13は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)である。記憶装置13は半導体メモリであってもよい。図3に示す記憶装置13が記憶する情報について、図4図6を参照して説明する。
【0029】
図4は、図3に示す解析条件リスト131の一例を表すイメージ図である。解析条件リスト131には、吹出条件と負荷条件との組合せからなる解析条件が複数設定されている。図4に示す例では、解析条件の識別子に対応して、パターン名、運転モード、優先度、負荷条件、吹出条件およびパターン生成状態が記憶されている。パターン生成状態は、解析条件によって気流解析が行われ、気流解析の結果に基づいてパターンデータが生成されているか否かを示す。パターンデータについては後で詳しく説明する。
【0030】
図4に示すように、各解析条件には優先度が付されている。本実施の形態1では、優先度が正の整数で表される。例えば、最も高い優先度に1が割り当てられ、最も低い優先度に10が割り当てられる。優先度として、各解析条件に対して、重複しない一意の整数が付されてもよく、重複する整数が付されてもよい。例えば、優先度が1の解析条件が複数あってもよく、優先度が1の解析条件が1つであってもよい。
【0031】
各解析条件に付される優先度は、例えば、空調運転データ36に基づいて設定される。空調機2の過去の運転状態のうち、運転状態の発生頻度が高いほど、その運転状態に対応する解析条件に対して高い優先度が付される。発生頻度は、過去の一定期間(3カ月間)など予め決められた期間に記憶装置13が記憶する運転状態の実績データを基に算出される。発生頻度の具体例を説明する。
【0032】
説明を簡単にするために、運転状態の発生頻度に大きく影響する条件が吹出条件の場合とし、例えば、次のようにして発生頻度を求める。実績データの中で吹出口における温度、風量および風向の変数毎に設定値と一致する発生回数をカウントする。そして、これらの発生回数のうち、これら3つの各変数がそれぞれの設定値と一致する発生回数を発生頻度とする。室内機22が複数の吹出口を有する場合、吹出口毎に発生頻度が算出される。
【0033】
図5は、図4に示す解析条件のうち、空調機2の運転状態に関する吹出条件の一例を表すイメージ図である。吹出条件には、圧縮機51の状態、並びに室内機22の吹出口における吹出風速および吹出風向などの条件が設定されている。圧縮機51の状態とは、オンまたはオフの状態である。吹出風向は左右風向および上下風向を含む情報である。吹出条件に、吹出風量および吹出温度が含まれていてもよい。室内機22に設けられる吹出口は1つでも複数でもよく、また、複数台の室内機22が共通の空調対象空間となる部屋に設置されてもよい。室内機22に複数の吹出口が設けられている場合、吹出条件は、吹出口ごとに設定される吹出条件の組合せで構成される。複数台の室内機22が部屋に設置されている場合、吹出条件は、各室内機22の吹出口ごとに設定される吹出条件の組み合わせで構成される。
【0034】
図6は、図4に示す解析条件のうち、負荷条件の一例を表すイメージ図である。負荷条件は、室内への熱の流入および室内からの熱の流出に関する条件である。例えば、負荷条件には、境界条件、熱通過条件および熱発生条件が設定されている。境界条件は、空調機2が設置される部屋における壁面などの境界面から、室内と室外との温度差などによって発生する熱の流入および流出に関する条件である。熱通過条件は、窓および扉などの開口部から室内への熱の流入および流出に関する条件である。熱発生条件は、人体およびOA機器などに起因して室内で発生する発熱量に関する条件である。
【0035】
図6は、負荷条件の一例として、空調対象空間への熱の流入および流出に関する条件を示すテーブルである。図6に示す負荷条件は、境界条件、熱通過条件および熱発生条件の一部を示す。負荷条件のテーブルには、壁の表面温度、天井の表面温度および床の表面温度のそれぞれの値が、負荷条件の識別子に対応して設定されている。図6では、壁の表面温度を壁温度Twと表し、天井の表面温度を天井温度Tcと表し、床の表面温度を床温度Tfと表している。負荷条件H1の場合、壁温度Tw=15℃、天井温度Tc=25℃および床温度Tf=15℃が設定されている。図6において、例えば、Tw=15℃の表記は、壁温度が15℃と一致している場合に限らず、壁温度が15℃を中心値として±ΔTの許容範囲に属する場合であってもよい。ΔTは、例えば、2℃である。
【0036】
図7は、優先度を数値範囲によって管理する場合の優先度管理テーブルの一例を示すイメージ図である。図7に示す例では、優先度が必須条件と追加条件との2つに分けて設定され、管理されている。必須条件および追加条件のそれぞれに上限優先度および下限優先度が設定されている。必須条件には、気流制御を開始できる解析条件の優先度の範囲が設定されている。具体的に説明すると、必須条件は、上限優先度が付された解析条件から下限優先度が付された解析条件まで気流解析が行われると、気流制御を開始できることを表している。
【0037】
追加条件には、気流制御開始後に気流解析が行われる解析条件の優先度の範囲が設定されている。具体的には、追加条件は、気流制御が開始された後、上限優先度が付された解析条件から下限優先度が付された解析条件まで、気流解析およびその解析結果の蓄積を気流制御と並行して実施できることを表している。優先度管理テーブルは図示されない。
【0038】
図7に示す例では、必須条件として、上限優先度に整数の1が設定され、下限優先度に整数の3が設定されている。この場合、1以上3以下の優先度が付された解析条件を対象とした気流解析が完了すると、気流制御を開始できる。また、追加条件として、上限優先度に整数の4が設定され、下限優先度に整数の10が設定されている。この場合、4以上10以下の優先度が付された解析条件については、気流制御が開始された後、気流解析およびその解析結果の蓄積を気流制御と並行して実施できる。図7に示す例は、必須条件の上限優先度が1であり、下限優先度が3の場合を示しているが、下限優先度が上限優先度と同じ1であってもよい。
【0039】
機器および空間情報132は、気流解析モデル133を作成するために必要な情報であり、空間情報および機器情報で構成される。空間情報は、空調機2が設置される空調対象空間に関する情報である。例えば、空間情報は、空調対象空間の部屋に関して、部屋の形状と、窓、扉および什器等の配置と、壁面の熱特性を表す断熱性能とを含む情報である。機器情報は、空調機2の性能に関する情報である。例えば、機器情報は、空調機2の吹出口の位置と、空調機2の能力および効率と、設定可能な吹出温度、風量および風向とを含む情報である。ここに挙げた情報は一例であり、機器および空間情報132は、これらの情報に限らない。
【0040】
気流解析モデル133は、例えば、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)解析手法等に用いるモデルである。気流解析モデル133は、機器および空間情報132と、解析条件リスト131における解析条件とに基づいて作成される。
【0041】
図8は、図3に示すパターンデータの一例を表すイメージ図である。パターンデータは、気流解析の結果に基づいて作成され、空調対象空間内の温度および風速などの環境の分布の傾向を示すデータである。パターンデータに含まれるこれらの温度および風速などの空調対象空間内の環境を表す変数は、室内空間における温熱に関する指標や快適性に関する変数であれば、温度および風速以外の変数であってもよく、その数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0042】
後で説明する変数重要度テーブル138で設定される変数の種類および数は、パターンデータに含まれるこれらの変数と同一となるように設定される。図3に示すパターンデータ134は、複数のパターンデータが記録されたテーブルなどの情報を意味する。図8に示すパターンデータの生成方法は、後で説明する。
【0043】
図9は、図3に示す制御モードリスト137の一例を表すイメージ図である。制御モードリスト137は、冷房や暖房を行う際の制御モードが記憶されたリストである。制御モードとは、空調機2の運転モードとは異なり、空調対象空間に対する時間的または空間的な効果を得るための冷房や暖房等を用いた制御の名称である。例えば、急速な冷房および暖房、室温維持を目的とした冷房および暖房、ユーザの知的生産性の向上を図るための冷房および暖房、ユーザの気流感を重視した冷房、ユーザの足元を重点的に暖める暖房等である。制御モードリスト137では、各制御モードに対応する記号と、各制御モードに対応する運転モードが付されており、次で述べる変数重要度テーブル138の制御モード記号と対応している。
【0044】
変数重要度テーブル138は、制御モードリスト137に記憶された各々の制御モードおよび運転モードに対して、パターンデータ内で用いられる空調対象空間内の温度および風速等の変数の重要度を記憶したテーブルである。
【0045】
図10は、図3に示す変数重要度テーブル138の一例を表すイメージ図である。変数重要度は、1つの制御モード内において、1以上かつ変数重要度テーブル138における変数の個数以下の数値で表される整数値であり、1を最重要とする数値である。重要度は、制御モードごとに予め記憶されているが、後からユーザによって更新されてもよい。変数重要度テーブル138の変数の種類および数は、パターンデータに含まれる空調対象空間内の温度および風速等の変数の種類および数と同一となるように記憶される。
【0046】
図10は、パターンデータに含まれる変数が“床面1.1m風速”および“床面1.1m温度”、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の3つである場合において、それぞれの変数の重要度を図9で示した制御モードごとに示したものである。
【0047】
例えば、制御モードが“A:急速冷房”である場合は、ユーザの作業面高さの温度を快適な範囲内まで低下させることを最重要な要素として、“床面1.1m温度”の重要度を1(最重要)とする。次に、ユーザが気流によって快適に感じることを次点に重要な要素として、“床面1.1m風速”の重要度を2とする。そして、ユーザの頭の高さおよび足元の高さの温度の差については、冷房時においてさほど重要でない要素として、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の重要度を3とする。
【0048】
また、制御モードが“D:室温維持(暖房)”である場合は、暖房気流によるドラフト感の抑制とユーザの頭の高さおよび足元高さの温度の差の拡大の防止をともに最重要な要素として、“床面1.1m風速”と“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の重要度をともに1(最重要)とする。一方、“床面1.1m温度”は、足元高さの温度が上昇すると同時に上昇すると考えられるため、重要度は次いで2とする。このように、変数重要度テーブル138には、各制御モード内において各変数の重要度が記憶されている。また、他の制御モードについても同様に重要度が記憶されている。
【0049】
図11は、変数重要度テーブル138の変数が異なる一例を表すイメージ図である。変数重要度テーブル138に記憶されている変数は、パターンデータに含まれる空調対象空間内の変数と同一であれば、図10に記憶された変数以外の変数であってもよい。例えば、ユーザの体感温度や放射温度、予測平均温冷感申告(PMV)などがパターンデータの変数として用いられている場合、図11のように、変数重要度テーブル138にも、同様にこれらの変数が加えられる。
【0050】
つまり、変数は空調対象空間の環境を表すものである。環境とは風速や温度、温度差、体感温度、放射温度、PMV、消費電力等を含む、空調対象空間の空調を評価できるものならなんでもよい。変数重要度テーブル138は、制御モードごとに、空調対象空間の環境を表す各変数がどの重要度になるかを記憶する
【0051】
快適度テーブル139は、変数重要度テーブル138に記憶されている各制御モードおよび各変数の重要度に対して、冷房時および暖房時のそれぞれにおける、快適と感じるユーザの割合の目標値が記憶されたテーブルである。快適度は、0%~100%の値をとる数値である。快適度は、100%が最も快適であるという意味の値であり、例えば、快適度が80%である変数がある場合、それは空調対象空間内のユーザの80%がその変数に対して快適と感じるように気流制御を行うという意味である。
【0052】
快適度は、重要度1における値を最大とし、それよりも低い重要度の快適度は1段階高い重要度の快適度未満となるように記憶されている。本実施の形態では、快適度を快適と感じるユーザの割合としているが、これに限定されるものではなく、快適さを表す指標であれば何でも良い。快適度テーブル139は重要度ごとに、各変数の快適度を記憶する。快適度テーブル139の一例を、図12図14を用いて説明する。
【0053】
図12は、図10で示した変数重要度テーブル138の制御モードおよび変数に対応する、冷房時の快適度テーブル139の一例である。例えば、“床面1.1m風速”では、ドラフト気流によって不快に感じるユーザの割合は、どのような制御モードにおいても小さく抑えられるべきであるため、重要度1では快適度90%、重要度2では快適度75%、重要度3では快適度50%のように設定されている。このように、たとえ低い重要度であっても、快適と感じるユーザの割合が他の変数よりも比較的大きくなるように記憶させることも可能である。
【0054】
図13は、暖房時の快適度テーブル139の一例である。例えば、“床面1.1m温度”では、先に述べた“D:室温維持(暖房)”の例のように足元高さの温度と共に上昇すると考えられる場合があり、制御モードによっては必ずしも大きい値である必要はないという理由から、重要度1は快適度85%、重要度2は快適度60%、重要度3は快適度30%のように、重要度が低くなるにつれて快適と感じるユーザの割合が小さくなるように設定する。
【0055】
図14は、図11で示した変数重要度テーブル138に対応する冷房時における快適度テーブル139の一例である。快適度テーブル139に記憶されている快適度は、ユーザが後から建物の外部環境等に基づいて変更することが可能である。例えば、外部環境が寒冷である地域の場合、室内の隙間から流入した空気によって足元の高さの温度が他の地域と比べて低下しやすく、足元の寒さに対して不快に感じやすくなる可能性がある。
【0056】
このような地域では、足元の高さの温度については、重要度1では90%、重要度2では80%、重要度3では70%のように、低い重要度であっても快適と感じさせるユーザの割合が大きくなるように設定することにより、他の地域よりもより足元の寒さに対して不快に感じにくくすることができる。
【0057】
快適度テーブル139に記憶されている快適度は、さらに、空調対象空間の形状やユーザの温熱環境に対する嗜好等を考慮して変更することが可能である。例えば、空調対象空間の形状を考慮した場合、空調による気流が部屋の隅々まで届きにくいL字またはコの字のような形状であれば、“床面1.1m風速”や“床面1.1m温度”における各重要度の快適度を、正方形の形状の部屋よりも全体的に高く変更することにより、気流が部屋の隅々まで届きやすい空調を行うことが可能となる。
【0058】
また、ユーザの温熱環境に対する嗜好を考慮した場合、気流感を好むユーザが多いフロアであれば、“床面1.1m風速”について、各重要度の快適度を他のフロアよりも全体的に高く変更することにより、空調による気流がユーザに比較的多く当たりやすい空調を行うことが可能となる。快適度の変更を行うこれらの要因はあくまで一例であり、他の要因に基づいて快適度が変更されてもよい。他の要因とは、例えば、空調機2の能力や台数、空調対象空間内のユーザの男女比等である。
【0059】
図15図17は、図3に示す快適度関数140の一例を表すイメージ図である。快適度関数140は、冷房時または暖房時における、室内の変数とユーザの快適度の相関関数およびそのグラフである。快適度関数140は、各変数の値と快適度との関係性を定義する。快適度関数140は、横軸に1つの変数をとり、縦軸にユーザの快適度をとったものである。冷房時の快適度関数140の一例を、図15図17を用いて説明する。
【0060】
図15は、冷房時における“床面1.1m風速”の快適度関数140の一例である。図15では、風速が0~0.2m/sの範囲では快適と感じるユーザの割合が風速の増加に伴って上昇し、0.2m/sを快適度の最大値として、それ以上の範囲では快適に感じるユーザの割合が風速の増加に伴って低下することが示されている。
【0061】
図16は、冷房時における“床面1.1m温度”の快適度関数140の一例である。図16では、温度が26℃のときが快適度の最大値であり、それ以外の範囲では、26℃を最大として、快適に感じるユーザの割合が低下することが示されている。
【0062】
図17は、冷房時における“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数140の一例である。図17では、温度差が0℃の場合にユーザは最も快適と感じ、それ以上の値では温度の差が拡大するにつれて、快適に感じるユーザの割合が低下することが示されている。
【0063】
快適度関数140には、予め関数の定義域が設定されている。定義域とは、快適度関数140において、快適度が定義されている変数の範囲を示す値である。例えば、図17に示した、冷房時における“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数140の定義域は、0℃から8℃までの範囲である。また、快適度関数140の定義域は、後に説明する目標条件135によって設定されていてもよい。
【0064】
快適度関数140は、公知の文献から引用されたものであってもよいし、実験等から得られた結果に基づくものであってもよい。また快適度関数140は、2つの軸による2次元平面グラフに限定されるものではなく、室内変数を2つ同時に考慮した3つの軸による3次元空間グラフであってもよい。例えば、X軸方向に“床面1.1m風速”、Y軸方向に“床面1.1m温度”、Z軸方向に快適度をとった快適度関数140を用いることで、ユーザの位置の風速と温度を同時に考慮した快適度を表すことができる。
【0065】
また、快適度関数140の横軸に用いられる変数の値は、必ずしも変数の絶対値である必要はなく、他の基準値から見た相対的な値であってもよい。例えば、一般的にユーザが快適と感じる基準値を設定し、その基準値との差分の大きさを表す相対的な値を横軸として用いてもよい。また、後述するセンサデータ37が計測した値によって得られる空調対象空間内の代表値や平均値等を用いた値を横軸として用いてもよい。
【0066】
また、任意の空調対象空間内の点におけるセンサデータ37が計測した値と、次に説明する目標条件135で設定された目標値または空調運転データ36に含まれる設定温度等の設定値との差分の大きさを表す相対的な値を横軸として用いてもよい。
【0067】
目標条件135は、空調対象空間に対して空調機2の運転によって形成される環境の目標に関する設定条件である。目標条件135は、例えば、温度および風速等の変数について、空調対象空間が満たすべき範囲の上限値および下限値などである。目標条件135は、1つの変数に関する設定条件であってもよく、複数の変数に関する設定条件であってもよい。例えば、複数の変数が組み合わされる吹出条件について、目標条件135が設定されてもよい。また、目標条件135は、各変数の目標値を含んでいてもよく、リモートコントローラ(図示せず)を介してユーザによって設定されてもよい。
【0068】
ここで、目標条件135と高い優先度が付される解析条件との違いを説明する。目標条件135は、空調対象空間から導き出せる理想的な環境またはユーザが快適と考える理想的な環境を作るための設定条件である。これに対し、高い優先度が付される解析条件は、空調対象空間の現在の環境に対応して、目標条件135の環境を形成するために必要な気流制御を行うために気流解析を優先的に行う解析条件である。
【0069】
目標条件135は、各変数の快適度関数140について、それぞれの定義域を含んでいてもよい。ここで、目標条件135において設定される、変数が空調対象空間内で満たすべき範囲と快適度関数140の定義域は、同じ値であってもよいし、それぞれが独立した異なる値であってもよい。
【0070】
また、目標条件135に含まれる各変数の目標値は、快適度テーブル139で設定される快適度の基準として用いられてもよい。例えば、目標条件135で設定された床面1.1m温度の目標値が26℃である場合、快適度テーブル139における床面1.1m温度の重要度1に対する快適度は、床面1.1m温度の快適度関数140における26℃のときの快適度としてもよい。
【0071】
空調運転データ36は、例えば、設定温度、風量、左右風向および上下風向等の設定値またはこれらの運転状態に関する情報と、室温、外気温、冷媒温度および冷媒流量等の空調制御に用いられる情報である。空調制御に用いられる情報は、空調機2に設けられたセンサ3によって計測される。
【0072】
センサデータ37は、室内に設置された温度センサ等のセンサ3によって計測されるデータである。センサ3が空調機2に設けられている場合、空調運転データ36がセンサデータ37を含んでいてもよい。
【0073】
次に、図3に示した演算装置14の構成を説明する。演算装置14は、モデル作成部141と、解析条件毎に気流解析を行う気流解析部142と、解析結果からパターンデータを生成するパターン生成部143と、パターンデータまたは解析結果に基づいて空調機2の気流を制御する気流制御部144とを有する。また図示しないが、評価値を算出する評価値算出部を有する。
【0074】
モデル作成部141は、気流解析に用いるモデルを作成する。まず、モデル作成部141は、機器および空間情報132に基づいて、部屋形状と、窓および什器の配置と、空調機2の吹出口の位置とを指定した形状データを作成し、解析対象領域を複数の小空間に分割する処理を行う。さらに、モデル作成部141は、解析条件に基づいて、壁面から解析対象領域内への熱の流入および流出に関する条件と、什器の位置を考慮した人体発熱およびOA機器発熱等による発熱条件と、吸入口の位置における流入温度および3次元の流入風速の吸入条件と、並びに吹出口における流出風量等の吹出条件とを設定する。
【0075】
気流解析部142は、CFD解析手法等により気流解析モデル133を対象に計算を行い、空調対象空間である室内の温度および風速等の分布を求める。例えば、気流解析部142は、空調対象空間を多数の微小領域に分割し、各微小領域の温度および風速等を、気流解析モデル133を用いて計算する。
【0076】
【数1】
・・・(1)
【0077】
【数2】
・・・(2)
【0078】
【数3】
・・・(3)
【0079】
ここで、uは3次元の速度ベクトル、tは時間、pは圧力、ρは密度、μは粘性係数、ρは基準密度、gは重力加速度、Cは定圧比熱、Tは温度、kは熱伝導率、Qは内部発熱量である。
【0080】
式(1)は、流体の質量保存を表す連続の式である。式(2)は、運動量保存を表す非圧縮性ナビエ・ストークス方程式である。式(3)は、エネルギー方程式である。気流解析部142は、これらの式(1)~(3)を適切な初期値および境界条件の下で解くことで、分割された各領域の温度および風速等を算出する。この場合、空調機2の空調運転データ36およびセンサデータ37は、気流解析における初期値および境界条件値として用いられる。
【0081】
気流解析モデル133に含まれる解析条件には優先度が付されており、気流解析部142は、この優先度の順番にしたがって気流解析を行う。予め決められた優先度が付された解析条件の気流解析が完了した後、気流制御を開始できる状態になる。その後、一定時間間隔(例えば、5分間隔)で気流制御が気流制御部144によって実行されるが、その間、気流解析部142は、気流解析を行っていない解析条件に対して、計算を一時中断してもよく、並列処理により計算を継続してもよい。
【0082】
例えば、空調機2の過去の運転状態のうち、発生頻度の高い運転状態に対応する解析条件に対して高い優先度が付されている場合、運転実績の高い運転状態に対して、気流制御部144は、早期の段階に気流解析を用いた気流制御を開始できる。この場合、過去に運転実績のある運転状態のうち、最も効率のよい運転を空調機2に早期に開始させることができる。
【0083】
一方、運転実績が低い運転状態に対しては、気流制御が開始された後も気流解析部142が継続して気流解析を行うことで、運転実績の低い運転状態に対応する解析条件による解析結果が蓄積される。その後、気流制御部144は、運転実績の低い運転状態も気流制御の選択肢に含めることができるようになる。
【0084】
パターン生成部143は、気流解析結果に統計処理を行うことで、空調対象空間の環境の分布の傾向を気流解析結果よりも少ない変数で表現するパターンデータを生成する。記憶装置13は、生成されるパターンデータを記憶することで、気流解析結果の状態で記憶する場合よりも、記憶するデータ容量を削減できる。図8は、パターンデータの一例を示すイメージ図である。変数の一例として温度の場合で説明すると、パターン生成部143は、次のようにしてパターンデータを生成する。
【0085】
はじめに、パターン生成部143は、空調対象空間となる部屋を複数の小領域に区分けし、各小領域の温度の計測値のうち、居住者が存在する可能性のある領域の温度の計測値を抽出する。居住者が存在する可能性のある領域は、例えば、床面から床上1.1mの高さの領域である。次に、パターン生成部143は、予め設定された温度の上限値および下限値と、温度範囲の分割数とを基に、複数の温度範囲を設定する。そして、パターン生成部143は、各温度範囲に含まれる小領域を床面に平行な面に投影し、投影した面の面積の割合の合計が100%になるように、温度分布を示すパターンデータを生成する。
【0086】
図8を例に説明すると、温度の範囲が、下限が20℃、上限が30℃、温度の区分け単位が1℃の場合、20℃以上21℃未満の第1区分、21℃以上22℃未満の第2区分、・・・、および29℃以上30℃未満の第10区分からなる10区分に設定される。パターンデータは、温度範囲が10区分に分割される場合、居住者が存在する可能性のある領域のうち、各温度範囲に属する小領域がどの程度の割合を占めているか発生率(%)を表す。
【0087】
図8を参照して、パターンによってパターンデータが異なることを説明する。パターン名がpattern001のパターンデータは、第5区分の発生率が44.43%であり、第7区分の発生率が9.7%である。これに対して、パターン名がpattern002のパターンデータは、第5区分の発生率が5.26%であり、第7区分の発生率が40.16%である。パターン名がpattern002のパターンの方が、パターン名がpattern001のパターンよりも室温が高いことがわかる。
【0088】
図8を参照して説明したパターンデータの生成方法は、一例であり、その他の方法であってもよい。また、変数は温度の場合に限らず、変数が風速、湿度および快適性指標等の他の変数に対しても、パターン生成部143は、変数が温度の場合と同様にパターンデータを生成できる。さらに、変数は床上1.1mの高さの領域に限らず、ユーザの足元付近の高さに該当する床上0.1mの領域、ユーザの立位時の頭付近の高さに該当する床上1.7mの領域、床上0.1mの高さから床上1.7mの高さまでの領域等の他の領域に対しても、パターン生成部143は、領域が床上1.1mの高さの領域と同様にパターンデータを生成できる。
【0089】
変数の数は1つに限らず、複数であってもよい。パターンデータは、解析結果における室内の温度、湿度、風速および快適性指標等のうち、いずれか1つ以上に基づく度数分布で表現される。変数重要度テーブル138で設定された変数の種類および数は、パターンデータに含まれるこれらの変数と同一となるように記憶される。
【0090】
気流解析による結果をパターンデータに置き換えることで、解析結果のデータサイズを圧縮し、記憶装置13の記憶容量を削減することができる。また、パターンデータを用いることで、パターンデータから部屋の温度むら等を表す指標を計算し評価値を計算することができる。つまり、温度むら等の部屋全体の状態を考慮して快適性を判断して、重みづけ係数を決定することができる。
【0091】
気流制御部144は、気流制御可否判定部41と、運転状態決定部42と、制御指令変換部43と、係数演算部44とを有する。気流制御可否判定部41は、パターン生成部143によるパターンデータの生成状態に基づいて、気流制御を開始できるか否かを判定する。パターンデータは、優先度が付された解析条件に対応して生成される。気流制御可否判定部41は、優先度が高く設定された解析条件に対応するパターンデータの生成が全て完了している場合、気流制御を開始できると判定する。
【0092】
運転状態決定部42は、係数演算部44を有し、気流制御可否判定部41が気流制御を開始できると判定した場合、計測データ136と、次で述べる係数演算部44が決定したパターンデータの評価値を計算する際に用いる重み係数とに基づいて、生成された複数のパターンデータの中から目標条件135に最も近い環境を実現するパターンを選択し、空調機2の運転状態を決定する。
【0093】
運転状態決定部42は、センサデータ37が計測した室内環境の計測値に基づいて、制御モードリスト137に記憶されている制御モードを1つ選択し、係数演算部44に出力する。制御モードは、制御モードリスト137の中からリモートコントローラ(図示せず)を介してユーザによって設定されてもよい。
【0094】
制御モードの選択方法は、例えば、空調機2の運転状態が過渡状態にあるか、安定状態に到達しているかを判定し、運転状態に対応して決定する方法がある。過渡状態とは、空調機2の起動直後等の非定常過程にある状態である。空調機2の運転状態は、例えば、空調機2から吸込み温度および設定温度の情報を取得し、吸込み温度と設定温度との温度差と予め決められた閾値温度とを比較することによって判定される。
【0095】
運転状態決定部42は、吸込み温度と設定温度との温度差が閾値温度以上である場合、空調機2の運転状態を過渡状態と判定し、制御モード“急速冷房”または“急速暖房”のいずれかを選択する。運転状態決定部42は、吸込み温度と設定温度との温度差が閾値温度未満である場合、空調機2の運転状態を安定状態と判定し、制御モード“室温維持(冷房)”または“室温維持(暖房)”のいずれかを選択する。
【0096】
気流制御は、気流制御部144によって一定時間間隔(例えば、5分間隔)で実行されるため、運転状態決定部42も同じ時間間隔で制御モードを選択する。これにより、センサデータ37によって計測された最新の室内環境の計測値に基づいて制御モードを選択することができる。このように、最新の室内環境の計測値に基づいて制御モードを柔軟に選択することで、空調機2の起動直後は目標値への到達速度が優先され、空調機2の安定後は快適性が優先され、空調機2の状況に応じた気流制御を行うことができる。
【0097】
空調機2の運転状態の判定は、上述の判定方法に限らない。空調機2の運転状態は、起動開始からの経過時間が予め決められた閾値時間以上であるか否かによって判定されてもよい。空調機2の起動開始からの経過時間が閾値時間未満である場合、空調機2の運転状態は過渡状態と判定され、空調機2の起動開始からの経過時間が閾値時間以上である場合、空調機2の運転状態は安定状態と判定される。
【0098】
また、運転状態決定部42は、空調機2の起動開始からの経過時間ではなく、現在の時刻に基づいて、他の制御モードを選択してもよい。例えば、一般に業務時間帯とされる8時から17時までの時間帯のうち、特に高い生産性が求められる時間帯においては、制御モード“知的生産性の向上(冷房)”または“知的生産性の向上(暖房)”等の制御モードが選択されてもよい。
【0099】
このように、冷房および暖房等の運転モードではなく、空調対象空間に対する時間的または空間的な効果を得るための冷房や暖房等を用いた制御の名称である制御モードに基づいて空調機2による気流制御を行うことによって、ユーザの知的生産性の向上を目的とした空調空間等のような、温熱的な快適性に限定されない多目的な空調空間、または熱的快適性に更なる付加価値を付与した質の高い空調空間を実現することが可能となる。
【0100】
係数演算部44は、運転状態決定部42が選択した制御モードと、変数重要度テーブル138に記憶されている該当する制御モードにおける各変数の重要度と、快適度テーブル139に記憶されている各変数の重要度に対応する快適度と、各変数を横軸にとった快適度関数140を用いて、評価値を計算する際に使用する、温度および風速等の変数の重み係数を決定する。
【0101】
係数演算部44は、各変数の値と快適度との関係性を定義する快適度関数140と、変数重要度テーブル138と、快適度テーブル139とから特定される制御モードに対応する変数の重要度に対応する快適度に基づいて、各変数の重みづけ係数を算出する。係数演算部44が重み係数を決定する具体的な手順を以下に説明する。図13を用いて説明する。
【0102】
図18図19は、係数演算部44が重み係数を決定する方法を説明する際に用いる変数重要度テーブル138と快適度テーブル139の一例を表すイメージ図である。まず、係数演算部44は、変数重要度テーブル138に記憶されている制御モード記号の列の中から、運転状態決定部42が選択した制御モードを表す制御モード記号と同一の制御モード記号を探索し、同一の制御モード記号が記憶されている行に含まれる各変数の重要度を取得する。
【0103】
例えば、運転状態決定部42が制御モードとして、図9に示した制御モードリスト137の中から“C:室温維持(冷房)”を選択した場合を仮定する。
【0104】
図18は、運転状態決定部42が制御モード“C:室温維持(冷房)”を選択した場合に、係数演算部44が、変数重要度テーブル138を参照するときのイメージを説明するための図である。
【0105】
上記の場合、図18に示すように、係数演算部44は、運転状態決定部42が選択した制御モード“C:室温維持(冷房)”を、変数重要度テーブル138に記憶されている制御モード記号の列の中から探索し、制御モード“C:室温維持(冷房)”が記憶されている行に含まれる各変数の重要度を取得する。この場合、図18に示すように、係数演算部44は、“床上+1.1m風速”の重要度を2、“床上+1.1m温度”の重要度を1、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の重要度を3として取得する。
【0106】
次に、係数演算部44は、変数重要度テーブル138から取得した各変数の重要度に対応する快適度を、快適度テーブル139から取得する。
【0107】
図19は、係数演算部44が図18に示した制御モードにおける各変数の重要度を取得した場合において、係数演算部44が、快適度テーブル139を参照するときのイメージを説明するための図である。
【0108】
上記の場合、図19に示すように、係数演算部44は、“床上+1.1m風速”は重要度2のとき快適度75%、“床上+1.1m温度”は重要度1のとき快適度90%、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”は重要度3のとき快適度30%として取得する。
【0109】
次に、係数演算部44は、快適度テーブル139で取得した各変数の重要度に応じた快適度と、各変数における快適度関数140に基づいて、取得した快適度以上を満たす快適度関数140の範囲を、座標平面上における領域の面積値に変換する。さらに、係数演算部44は、各変数における快適度関数140と、各変数における快適度関数140の定義域の上限値および下限値とに基づいて、定義域内にある快適度関数140の範囲を、座標平面上における領域の面積値に変換する。
【0110】
以下に、係数演算部44が行う処理について説明する。図20から図22は、係数演算部44が重み係数を決定する方法を説明する際に用いる快適度関数140の一例を表すイメージ図である。
【0111】
図20は、冷房時における“床上+1.1m風速”の快適度関数140を示している。
【0112】
図21は、冷房時における“床上+1.1m温度”の快適度関数140を示している。
【0113】
図22は、冷房時における“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数140を示している。さらに、図20図22は、各変数の快適度関数140において、快適度テーブル139で取得した各変数の重要度に応じた快適度を、各変数の快適度関数140のY軸上に反映した図でもある。さらに、図20図22は、Y軸上に反映された快適度以上の快適度を有する関数の一部分およびそのときの変数の上限値および下限値、X軸によって囲まれる領域(図14中の斜線部分)を示した図でもある。
【0114】
係数演算部44は、快適度の値以上を満たす快適度関数140の領域(快適領域とする)の、快適度関数140の定義域内で定義される領域(定義領域とする)に対する比を算出する。係数演算部44は、快適領域および定義領域をそれぞれ面積値に変換することで、両者の比を算出する。
【0115】
係数演算部44が、定義領域に対する快適領域の面積比を算出する過程を説明する。定義領域に対する快適領域の面積比は、例えば、以下の式4~式6によって算出することができる。
【0116】
【数4】
・・・(4)
【0117】
【数5】
・・・(5)
【0118】
【数6】
・・・(6)
【0119】
ここで、RsおよびRt、Ruは、それぞれ“床上+1.1m風速”および“床上+1.1m温度”、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”における、定義領域に対する快適領域の面積比[-]である。f(x)、g(x)およびh(x)は、各変数の快適度関数140である。
【0120】
sminとsmax、および、s1とs2は、“床上+1.1m風速”の快適度関数140における、定義域の上限値および下限値[m/s]、および、快適度75%以上を満たす床上+1.1m風速の上限値および下限値[m/s]である。tminとtmax、および、t1およびt2は、“床上+1.1m温度”の快適度関数140における、定義域の上限値および下限値[℃]、および、快適度90%以上を満たす床上+1.1m温度の上限値および下限値[℃]である。uminとumax、および、u1とu2は、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の快適度関数140における、定義域の上限値および下限値[℃]、および、快適度30%以上を満たす床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差の上限値および下限値[℃]である。
【0121】
また、目標条件135に定義域が設定された場合、その定義域によっては、sminがs1を上回る、または、smaxがs2を下回る場合もあるため、その場合は、s1の下限値はsminとなるように補正する、または、s2の上限値がsmaxとなるように補正してもよい。これらの補正は、式4に示した変数に限らず、他の変数についても同様である。
【0122】
図20では、s1=0.05[m/s]、s2=0.3[m/s]であることが示されている。また、図21では、t1=25.5[℃]、t2=26.5[℃]であることが示されている。また、図22では、u1=0(=umin)[℃]、u2=10[℃]であることが示されている。
【0123】
図20図22では、係数演算部44がこれらの上限値および下限値と式4~式6を用いて快適領域と定義領域の面積比を計算した結果、RsおよびRt、Ruが、Rs=0.7、Rt=0.2、Ru=0.9として得られたことが示されている。
【0124】
各変数について求めた面積比Rs、RtおよびRuは、その重要度または快適度が高くなるほどその値は小さくなる傾向がある。したがって、面積比が小さな値をもつ変数ほど、その変数の環境の要素としての重みを大きく必要がある。また、その方法としては、例えば、1から引くまたは、逆数をとるなどがあり、これ以外の方法であってもよい。
【0125】
最後に、係数演算部44は、各変数について求めた面積比に基づいて、各変数の係数としての重みを算出する。図14に示したように得られたRsおよびRt、Ruにおいて、小さな値ほど変数としての重みを大きく換算するための方法として、例えば、1から引く方法を用いた場合、各変数の係数としての重みは、1-Rs=0.3、1-Rt=0.8、1-Ru=0.1となり、その比は、0.3:0.8:0.1=3:8:1となる。
【0126】
したがって、制御モード“C:室温維持(冷房)”を仮定した上記の場合においては、“床上+1.1m風速”および“床上+1.1m温度”、“床面+1.7mと床上+0.1mの温度の差”の重み係数をそれぞれαおよびβ、γとすると、α:β:γ=3:8:1と算出することができる。
【0127】
また上記の場合において、小さな面積比をもつ変数ほどその係数としての重みを大きく換算するための方法として、1から引く方法ではなく、逆数をとる方法を用いた場合、1/Rs:1/Rt:1/Ru=1/7:1/2:1/9=18:63:14となる。したがって、この換算方法におけるαおよびβ、γは、α:β:γ=18:63:14と算出することができる。
【0128】
このように、運転状態決定部42によって1つの制御モードが選択されたとき、係数演算部44が、まず各変数の快適度関数140を用いて、該当する制御モードにおける各変数の重要度に対応する快適度を取得し、次にその快適度以上となる領域の面積値を算出し、最後にその面積値が小さい変数ほど係数としての重みを大きく換算してその比を算出することで、運転状態決定部42の係数演算部44は、快適性における定量的な根拠をもって各変数の係数としての重みである重みづけ係数を決定することができる。
【0129】
評価値算出部は、算出された重みづけ係数と操作量に対応する各変数とに基づいて評価値を算出する。各変数はパターンデータと共通すること説明したが、パターンデータだけでなく、関数を利用しても良い。空調機器の操作量に応じて、それぞれの変数のパターンデータや関数の出力が決定され、各変数と各変数に対応する重みづけ係数を掛け合わせ合算することで評価値を算出する。より具体的な算出方法については後述する。運転状態決定部42は、評価値が高い操作量を空調装置の操作量として決定する。
【0130】
図23は、図3に示す快適度関数140の別の一例を表すイメージ図である。快適度関数140が、2つの軸で構成される2次元平面グラフではなく、図23に示すように、2つの変数を表す2つの軸と、快適度を表す1つの軸を用いた3つの軸で構成される3次元空間グラフである場合、係数演算部44は、2つの変数を同時に考慮した変数重要度テーブル138(図示せず)と、2つの変数を同時に考慮した快適度テーブル139(図示せず)と、3つの軸で構成される快適度関数140とを用いて、2つの変数の重要度に応じた快適度以上となるような快適度関数140の範囲を、空間的な領域を体積値(快適領域の体積値とする)に変換する。
【0131】
そして、係数演算部44は、定義域内の全領域の体積(定義領域の体積値とする)に対するその体積値の比を計算する。そして、定義域内の体積値に対する快適領域の体積値の比を、各変数で比較し、その体積比が小さい変数ほど、係数としての重みを大きく換算してその比を算出することで、2つの変数を同時に考慮した場合でも、2次元平面グラフの場合と同様の手法で、各変数の係数としての重みを算出することができる。このとき、3つの軸による3次元空間グラフを用いた場合、式4~式6は2次元平面における領域の面積を計算する式ではなく、3次元空間における領域の体積を計算する式となる。
【0132】
3つの軸による3次元空間グラフに基づいて重み係数を算出した場合、2つの変数を組み合わせて考慮することができるため、2つの軸による2次元平面グラフを用いた場合よりもパターンデータの評価値をより綿密に計算することができ、より精度の高い気流制御を行うことが可能となる。
【0133】
制御指令変換部43は、運転状態決定部42によって決定された操作量である運転状態を空調機2に対して実際に指令を与える制御指令に変換する。そして、制御指令変換部43は、制御指令を空調機2に送信する。
【0134】
なお、本実施の形態1においては、気流制御可否判定部41が気流制御を開始できるか否かを判定する際、パターンデータの生成状態に基づいて判定する場合で説明するが、気流解析部142による解析結果の生成状態に基づいて判定してもよい。
【0135】
また、優先度の設定方法として、一定期間における運転状態の発生頻度を用いる方法を説明したが、この方法に限らない。複数の運転状態のうち、ユーザによって優先度の高い運転状態が選択されてもよい。また、空調機2の運転可能な範囲に対して等間隔に優先度の高い運転状態を予め設定するなど、ランダムに優先度の高い運転状態を設定してもよい。
【0136】
さらに、優先度の別の設定方法の一例を説明する。例えば、予め空調機2の運転状態の選択可能な範囲を複数の範囲に区分けし、区分けされた各範囲において、代表的な1つの運転状態に高い優先度を付し、その他の運転状態に代表的な運転状態の優先度よりも相対的に低い優先度を付すことが考えられる。この場合、早期に代表的な条件の中から最適な運転状態が決定でき、次第にその他の条件にも選択可能な運転状態の範囲を拡大していくことができる。
【0137】
運転状態の選択可能な範囲の一例を説明する。ここでは、運転状態が室内機22の吹出口の上下風向の場合で説明する。重力方向を角度0°とし、水平方向を角度90°とし、上下風向の選択可能な範囲を角度0°~90°の範囲とし、1°単位で上下風向を設定できるものとする。この場合において、運転状態の選択可能な範囲を3区分に分割する。3区分は、0°以上30°未満の第1区分と、30°以上60°未満の第2区分と、60°以上90°以下の第3区分である。
【0138】
第1区分において、代表値として角度15°に高い優先度が割り当てられ、その他の角度には代表値の優先度よりも相対的に低い優先度が割り当てられる。第2区分において、代表値として45°に高い優先度が割り当てられ、その他の角度に代表値の優先度よりも相対的に低い優先度が割り当てられる。第3区分において、代表値として75°に高い優先度が割り当てられ、その他の角度に代表値の優先度よりも相対的に低い優先度が割り当てられる。
【0139】
この例の場合、気流解析部142は、上下風向の角度が15°、45°および75°の解析条件について優先的に気流解析を実行する。その後、気流解析部142は、上下風向の角度が15°、45°および75°以外の角度の解析条件について気流解析を実行する。区分けされた各範囲の中で代表的な運転状態に対して気流解析が完了した段階で気流制御を開始でき、代表的な運転状態の中から最も効率のよい運転を行うことができる。ここで、図3に示した空調制御装置1の演算装置14のハードウェアの一例を説明する。
【0140】
図24は、図3に示した演算装置14の一構成例を示すハードウェア構成図である。演算装置14の各種機能がハードウェアで実行される場合、図3に示した演算装置14は、図24に示すように、処理回路81で構成される。図3に示した、モデル作成部141、気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144の各機能は、処理回路81により実現される。
【0141】
各機能がハードウェアで実行される場合、処理回路81は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものに該当する。モデル作成部141、気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144の各部の機能のそれぞれを処理回路81で実現してもよい。また、モデル作成部141、気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144の各部の機能を1つの処理回路81で実現してもよい。
【0142】
図25は、図3に示した演算装置14の別の構成例を示すハードウェア構成図である。図3に示した演算装置14の別のハードウェアの一例を説明する。演算装置14の各種機能がソフトウェアで実行される場合、図3に示した演算装置14は、図25に示すように、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ82およびメモリ83で構成される。モデル作成部141、気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144の各機能は、プロセッサ82およびメモリ83により実現される。図25は、プロセッサ82およびメモリ83が互いにバス84を介して通信可能に接続されることを示している。
【0143】
各機能がソフトウェアで実行される場合、モデル作成部141、気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ83に格納される。プロセッサ82は、メモリ83に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0144】
メモリ83として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable and Programmable ROM)およびEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)等の不揮発性の半導体メモリが用いられる。また、メモリ83として、RAM(Random Access Memory)の揮発性の半導体メモリが用いられてもよい。
【0145】
さらに、メモリ83として、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、CD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)およびDVD(Digital Versatile Disc)等の着脱可能な記録媒体が用いられてもよい。次に、本実施の形態1の空調制御装置1の動作を説明する。
【0146】
図26は、実施の形態1に係る空調制御装置1の動作手順の一例を示すフロー図である。図26に示すフロー開始のトリガーは、例えば、運転を開始したことを示す運転開始通知信号を空調機2から空調制御装置1が受信することである。この場合、空調機2のコントローラ23は、運転を開始したとき、運転開始通知信号を空調制御装置1に送信する。
【0147】
ステップST11において、気流制御可否判定部41は、気流制御を開始できるか否か判定する。例えば、気流制御可否判定部41は、予め決められた優先度よりも高い優先度が付された解析条件による気流解析の結果を基にパターン生成部143によってパターンデータの生成が完了しているか否かを判定する。
【0148】
ステップST11の判定の結果、優先度の高い解析条件に対応するパターンデータの生成が完了している場合、気流制御可否判定部41は、気流制御を開始できると判定し、ステップST12に進む。一方、ステップST11の判定の結果、優先度の高い解析条件に対応するパターンデータの生成が完了していない場合、気流制御可否判定部41は、ステップST11に戻る。
【0149】
ステップST12において、気流制御部144は、気流制御実行周期のタイミングか否かを判定する。気流制御部144は、気流制御実行周期のタイミングであると判定した場合、ステップST13に進む。気流制御部144は、気流制御実行周期のタイミングでないと判定した場合、ステップST12に戻る。気流制御実行周期は、例えば、5分間隔などの一定の周期である。
【0150】
気流制御部144が気流制御を実行するためにステップST13の処理に移行すると、気流解析部142は、残りの解析条件についても優先度の高い解析条件から順に気流解析を継続する。気流制御と並行して気流解析が行われることで、優先度が比較的低く設定された解析条件の気流解析の結果も時間の経過と共に記憶装置13に蓄積される。優先度の低い解析条件による気流解析の結果も早い段階で利用することができ、より精度の高い気流制御を行うことができる。
【0151】
ステップST13において、気流制御部144は、空調運転データ36およびセンサデータ37を記憶装置13から取得する。ここで取得されるデータは、現在の時刻に最も近い時刻に空調機2およびセンサ3から取得されたデータである現在データに限らない。記憶装置13から取得されるデータは、過去に記憶装置13に記憶された空調運転データ36およびセンサデータ37からなる過去データであってもよい。
【0152】
ステップST14において、気流制御部144は、パターン生成部143による生成済みのパターンデータから、予め設定された目標値に最も近い状態を実現するパターンを選択する。
【0153】
ステップST15において、運転状態決定部42は、ステップST14で選択されたパターンに対応する空調機2の吹出条件を参照し、空調機2の運転状態を決定する。
【0154】
ステップST16において、制御指令変換部43は、ステップST15で決定された運転状態を、実際に空調機2に対して指令を与える制御指令に変換し、制御指令を空調機2に送信する。
【0155】
ステップST17において、気流制御部144は、終了条件が満たされているか否かを判定する。終了条件が満たされている場合、気流制御部144は処理を終了する。一方、ステップST17の判定の結果、終了条件が満たされていない場合、気流制御部144は、ステップST12に戻る。終了条件は、例えば、空調機2の停止である。
【0156】
この場合、空調機2のコントローラ23は、ユーザまたは管理者によって空調機2の運転停止の指示が入力されると、空調機2の運転を停止すると共に、空調機2の運転を停止したことを示す停止通知信号を空調制御装置1に送信する。終了条件は、空調機2の停止の場合に限らず、空調機2の運転開始から予め設定された時間に到達したことを条件としてもよい。予め設定される時間は、空調機2の運転が安定状態になる時間である。次に、図26に示したステップST11における気流解析部142、パターン生成部143および気流制御部144による動作を、図27を参照して説明する。
【0157】
図27は、図26に示したステップST11における動作手順の一例を示すフロー図である。ここでは、解析条件に付される優先度を整数kとする。また、複数にランク付けされる優先度kのうち、最も高い優先度を1とする。k=1は図7に示す必須条件の上限優先度に相当する。複数にランク付けされる優先度kのうち、図7に示す必須条件の下限優先度をkLとする。
【0158】
気流解析部142は、読み出し対象の解析条件の優先度kに最も高い優先度である1が設定されると(ステップST31)、優先度k=1が付された解析条件を記憶装置13から読み出して気流解析を実行する(ステップST32)。続いて、パターン生成部143は、解析結果からパターンデータを生成する(ステップST33)。
【0159】
さらに、パターン生成部143は、生成したパターンデータを記憶装置13に保存する(ステップST34)。気流制御可否判定部41は、優先度kが下限優先度kLと一致するか否かを判定する(ステップST35)。ステップST35の判定の結果、優先度kが下限優先度kLと一致しない場合、気流制御可否判定部41は、現在の優先度kに1を加算した値を新たな優先度kに設定し(ステップST36)、ステップST32に戻る。
【0160】
一方、ステップST35の判定の結果、優先度kが下限優先度kLと一致する場合、気流制御可否判定部41は、気流制御を実行できると判定する(ステップST37)。なお、同じ優先度kが付された解析条件が2以上ある場合、気流制御部144は、2以上の解析条件毎にステップST32~ST34を実行した後、ステップST35に進む。
【0161】
このようにして、優先度の高い気流解析を優先的に実行することで、主要な吹出条件を含む解析条件の気流解析が完了する早期の段階に空調制御を開始できる。次に、図26に示したステップST15における運転状態決定部42の動作を説明する。
【0162】
図28は、図26に示したステップST15における動作手順の一例を示すフロー図である。図28を参照して、運転状態決定部42によるパターン選択処理を説明する。
【0163】
ここでは、説明の便宜上、次のような構成および条件の場合で説明する。空調機2は1台の室内機22を有し、室内機22に設けられた吹出口の数は1つである。計測データ136のうち、空調運転データ36は、空調機2のオンまたはオフの状態、冷房運転または暖房運転を示す運転モード、設定温度、吹出風速、上下風向および左右風向のデータを含む。センサ3は赤外線センサであり、センサデータ37は、赤外線センサの熱画像から取得される壁表面温度、天井表面温度および床表面温度のデータを含む。
【0164】
また、解析条件のうち、負荷条件は壁表面温度、天井表面温度および床表面温度であり、吹出条件は、室内機22に設けられた1つの吹出口における、吹出温度、並びに気流の上下風向および左右風向である。気流解析で計算される対象は温度および風速等の室内の環境を表す変数である。目標条件135として、空調対象空間の部屋において、予め決められた高さの平面における風速および温度等の各変数に対して上限値および下限値が設定されている。
【0165】
ステップST21において、運転状態決定部42は、次のようにして、現在の運転状態に近似したパターンである現在状態パターンを選択する。運転状態決定部42は、空調機2のオンまたはオフの状態、運転モード、吹出風速、上下風向、左右風向を空調運転データ36から取得し、取得した空調機2の運転状態と一致する吹出条件を、解析条件における吹出条件から選択する。
【0166】
次に、運転状態決定部42は、センサデータ37から、壁表面温度、天井表面温度および床表面温度を取得し、取得した天井表面温度から床表面温度を減算することで、天井表面温度と床表面温度との温度差である上下温度差を求める。さらに、運転状態決定部42は、解析条件における負荷条件についても、天井温度から床温度を減算して上下温度差を求め、この上下温度差と、壁温度をそれぞれセンサデータ37から取得した値と比較して、最も近い負荷条件を決定する。
【0167】
ここで、決定された吹出条件および負荷条件を含む解析条件に対応するパターンデータが一意に決まる。運転状態決定部42は、一意に決まったパターンデータを現在の室内環境推定値となる現在状態パターンとする。
【0168】
ステップST22において、運転状態決定部42は、次のようにして、現在状態パターンから吹出風速、上下風向および左右風向を変更した場合の室内環境の推定値として候補となるパターンである候補パターンを抽出する。運転状態決定部42は、空調運転データ36を参照して、空調機2のオンまたはオフの状態と運転モードとが一致し、吹出風速、上下風向および左右風向が異なる複数の吹出条件を選択する。
【0169】
続いて、運転状態決定部42は、選択した複数の吹出条件のうち、いずれかの吹出条件と同一の吹出条件と、ステップST21で決定した負荷条件と同一の負荷条件とを含む複数の解析条件を、解析条件リスト131の中から抽出する。運転状態決定部42は、抽出された解析条件に対応するパターンを候補パターンとする。候補パターンは、1つの場合があるが、複数の場合もある。
【0170】
ステップST23において、運転状態決定部42は、ステップST21で決定した現在状態パターンおよびステップST22で決定した候補パターンのそれぞれについて、評価値を計算する。評価値は、パターンデータにおける温度および風速等の各変数について、各操作量に応じて、予め設定された範囲の上限値および下限値に含まれる領域の割合を算出し、各変数の割合に対して、ステップST41~ステップST45で決定した重み係数を乗じて合計した値とする。
【0171】
変数は、パターンデータだけでなく関数を含んでよく、例えば消費電力等の変数の場合は、操作量に応じて消費電力を特定できる関数に、各操作量を入力して消費電力を求める。操作量は設定温度や風向き等複数のパラメータでも良いし、ひとつのパラメータでも良く数は制限されない。
【0172】
例えば、評価値算出部は、評価値=α・パターンデータg(床面1.1m温度)+β・関数f(消費電力)+γ・パターンデータh(床上+1.1m風速)という評価関数を用いて評価値を算出する。ここで、α、β、γの各値は、重み係数を表す。
【0173】
ここで、パターンデータを利用したときの評価値計算イメージの具体的な例を説明する。まず、風速と温度について、上下限値(人が快適と感じる上下限値)を風速が0~2m/s、温度が21~23℃であり、ある操作量でのパターンデータAで得られた室内の風速分布が0~1m/sが40%あり、1~2m/sが30%あり、2~3m/sが20%あり、3m/s~が10%あったとする。
【0174】
また、温度分布が、20~21m/sが40%あり、21~22m/sが30%あり、22~23m/sが20%あり、23m/s~が10%あったとする。この場合、風速の上下限値0~2m/sに収まるのは、40+30=70%(0.7)であり、温度の上下限値21~23℃に収まるのは、30+20=50%(0.5)となる。ここで、風速と温度の重み係数の比が、1:2であったとするとパターンデータAの評価値は、(0.7×1+0.5×2)/(1+2)=0.566となる。
【0175】
また、気流解析の解析結果またはパターンデータは、実際の条件と完全に一致する場合があるが、誤差が含まれることもある。そのため、運転状態決定部42は、空調運転データ36およびセンサデータ37の一方または両方の計測値を用いて、解析結果またはパターンデータを補正し、補正した解析結果またはパターンデータを使用してもよい。例えば、空調機2の吸込口に吸い込まれる空気の温度である吸込み温度を計測するセンサ3が設けられ、運転状態決定部42は、吸込み口に設けられたセンサ3から計測値の情報を取得する。
【0176】
そして、運転状態決定部42は、解析結果またはパターンデータから吸込み温度に相当する温度の情報を取得し、解析結果またはパターンデータから取得した温度と計測値との差分値を用いて、解析結果またはパターンデータを補正する。解析結果またはパターンデータを補正することで、この補正が実際の室内に実行される気流制御に反映され、室内の温度が補正される。これにより、解析条件と実際の条件との違いに起因する誤差が修正され、精度の高い気流制御を行うことができる。
【0177】
ステップST24において、運転状態決定部42は、次のようにして、空調機2の運転状態を決定する。運転状態決定部42は、ステップST23で算出した複数の候補パターンの評価値のいずれもが現在状態パターンの評価値を下回る場合、運転状態の変更を行わない。運転状態決定部42は、現在状態パターンの評価値よりも評価値が高い候補パターンがある場合、候補パターンに対応する吹出条件に対応する空調機2の運転状態を空調機2の運転状態の目標値に決定する。
【0178】
現在状態パターンの評価値よりも評価値が高い候補パターンが複数ある場合、運転状態決定部42は、評価値が最も高い候補パターンを選択し、選択した候補パターンに対応する吹出条件に対応する空調機2の運転状態を空調機2の運転状態の目標値に決定する。図28に示したステップST23における運転状態決定部42による動作を、図29を参照して説明する。
【0179】
図29は、図28に示したステップST23における動作手順の一例を示すフロー図である。ステップST41において、運転状態決定部42は、センサデータ37または現在時刻等のデータに基づいて、制御モードを制御モードリスト137から選択する。ステップST42において、運転状態決定部42は、ステップST41で選択した制御モードに基づいて、変数重要度テーブル138を用いて、各変数の重要度を取得する。ステップST43において、運転状態決定部42は、快適度テーブル139に基づいて、ステップST42で取得した各変数の重要度に対応する快適度を取得する。
【0180】
ステップST44において、係数演算部44は、まず、ステップST43で取得した各変数の重要度に対応する快適度と、各変数における快適度関数140に基づいて、取得した快適度以上を満たす快適度関数140の上限値および下限値を取得し、各変数の快適度関数140において、取得した快適度以上の快適度を有する快適度関数140の一部分、および、そのときの変数の上限値および下限値、X軸によって囲まれる領域の面積値を算出する。
【0181】
ステップST45において、面積値が小さい変数ほど係数としての重みを大きく換算し、その比を算出することで、各変数の重み係数を決定する。
【0182】
このようにして、空調制御装置1は、機器および空間情報132と解析条件リスト131とを基に作成した気流解析モデル133を対象に気流解析を行った結果をパターンデータとして蓄積する。そして、空調制御装置1は、気流制御を行う際、計測データ136に基づいてパターンデータの中から目標条件135を満たすパターンを選択して気流制御を実行する。
【0183】
解析条件リスト131における各解析条件に優先度が付されており、空調制御装置1は、優先度の高い順に気流解析を行うことで、優先度の高い条件の気流解析が完了した早期の段階に気流制御を開始できる。また、空調制御装置1は、気流制御の開始後、優先度の低い解析条件の気流解析を継続することで、次第に種々のパターンデータが蓄積され、気流制御の精度を向上させることができる。
【0184】
なお、本実施の形態1において、モデル作成部141は、記憶装置13に蓄積される計測データ136を用いて機械学習を行って、気流解析モデル133が空調対象空間に適合するように、気流解析モデル133を更新してもよい。これにより、気流解析の精度がさらに向上する。
【0185】
本実施の形態1によれば、気流解析結果に対する評価値の算出に用いる評価項目ごとの重み係数の算出方法を明確にし、それぞれの評価項目に対してユーザの快適性との相関を考慮することで、それぞれの評価項目の重み係数に快適性に関する根拠を与える空調制御装置1を提供するものである。
【0186】
これにより、本開示で提供する空調制御装置は、複数の評価項目に対して評価値を算出する際、それぞれの評価項目の優先順位や重要度の大きさを、固定値ではなくユーザの快適性に基づいて自由に決定できるようになり、温熱環境の状態やユーザの嗜好に唯一合致した最適な評価関数に基づいて評価値を算出できるようになるため、ユーザが常に快適となる最適な解析結果を取得できるようになる。
【0187】
従来、気流解析結果の評価値を計算する際には、使用する変数ごとの重み係数は、有限の代表的な室内外環境下における値に基づく決め打ちの固定値を使用することが考えられる。しかし、室内外の環境は空調対象空間ごとに全て異なるものであり、特に空調対象空間の形状や建物の蓄熱性能等の環境の違いに依存する空間の暖まりやすさおよび冷えやすさの違いは、ユーザの快適性に大きく影響を与えるため、固定値に基づいた重み係数による解析結果の評価はこれらの違いを考慮できず、気流制御によるユーザの快適性を担保できないおそれがある。
【0188】
これに対して、本実施の形態1の空調制御装置1は、ユーザの快適性の感じ方が空調対象空間ごとの室内外環境の違いによって左右されることを考慮して変数ごとの重み係数を快適性の根拠に基づいて決定する。快適性の根拠に基づいた空調対象空間ごとの重み係数を気流解析結果の評価に使用するため、空調対象空間ごとの快適性をより高い精度で担保する気流制御を行うことができる。
【0189】
また、本実施の形態1によれば、複数の解析条件のそれぞれに優先度が付され、高い優先度が付された解析条件から順に気流解析を行うことで、優先度の高い解析条件の気流解析が完了した早期の段階に気流制御を開始できる。空調機2の起動開始から早期に適切な気流制御が行われるため、快適な環境をユーザに早期に提供することができる。より早く空調対象空間に適した気流制御が行われるため、圧縮機51の運転周波数を無駄に変更してしまうことが抑制され、省エネルギー化を図ることができる。
【0190】
従来、解析対象となる解析条件の数が多い場合、気流解析の時間を短縮するために、解析条件の数を減らし、不足する解析条件を補間処理等の手法によって補うことが考えられる。しかし、解析条件の減らし方によっては、使用頻度の高い運転状態に対応する解析条件が削除され、削除された解析条件を補間処理で補うことがある。この場合、気流解析の精度が悪化してしまうおそれがある。
【0191】
これに対して、本実施の形態1の空調制御装置1は、複数の解析条件に対して解析条件の数を減らすのではなく、優先度の高い解析条件の気流解析を優先的に実行し、解析結果を基に気流制御を開始する。優先度の高い解析条件の気流解析が行われるため、気流解析の精度が損なわれることが抑制される。
【0192】
また、本実施の形態1においては、気流制御の開始後、気流制御と並行して気流解析部142が優先度の低い解析条件の気流解析を行うことで、時間の経過と共に多くの解析結果が記憶装置13に蓄積される。そのため、空調制御装置1は、記憶装置13に蓄積される多くの解析条件の解析結果を用いて、ユーザに対してきめ細かな気流制御を高い精度で行うことができる。
【0193】
さらに、本実施の形態1において、記憶装置13は、気流解析の結果をそのまま記憶して管理するのではなく、空調対象空間の環境の分布を示すパターンデータを記憶および管理する。そのため、解析結果のデータサイズが圧縮され、記憶装置13の記憶容量を削減することができる。解析条件が多い場合でも、必要な記憶容量を抑制できる。その結果、本実施の形態1によれば、計算負荷および記憶容量を削減すると共に、空調対象空間の温熱環境の分布を考慮した気流制御を早期に開始することができる。
【0194】
本実施の形態1の空調制御装置1は、それぞれに優先度が付された複数の解析条件および解析条件毎の気流解析の結果と、気流解析の結果の評価値に用いる重み係数を決定するための複数のデータとを記憶する記憶装置13と、空調機2を制御する演算装置14とを有する。記憶装置13は、気流解析の結果から空調対象空間の環境の分布の傾向を解析結果よりも少ない変数で表現するパターンデータ134と、パターンデータ134に含まれる変数ごとの重要度が記憶された変数重要度テーブル138と、各変数の重要度に対応する快適度が記憶された快適度テーブル139と、各変数と快適度の相関関係を表す快適度関数140およびそのグラフとを有する。
【0195】
演算装置14は、複数の解析条件のうち優先度の高い解析条件から順に気流解析を行う気流解析部142と、気流解析部142による気流解析の結果の生成状態に基づいて空調機2に対して気流制御を開始できるか否かを判定する気流制御可否判定部41と、気流制御を開始できると気流制御可否判定部41によって判定された気流解析の結果の評価値を算出するための各変数の重み係数を決定する係数演算部44とを有し、気流解析の結果の評価値に基づいて空調機2の運転状態を決定する気流制御部144を有する。
【0196】
本開示によれば、気流解析結果に対する評価値の算出に用いる評価項目ごとの重み係数の算出方法を明確にし、それぞれの評価項目に対してユーザの快適性との相関を考慮することで、それぞれの評価項目の重み係数に快適性に関する根拠を与える空調制御装置1を提供するものである。
【0197】
これにより、本開示で提供する空調制御装置1は、複数の評価項目に対して評価値を算出する際、それぞれの評価項目の優先順位や重要度の大きさを、固定値ではなくユーザの快適性に基づいて自由に決定できるようになり、温熱環境の状態やユーザの嗜好に唯一合致した最適な評価関数に基づいて評価値を算出できるようになるため、ユーザが常に快適となる最適な解析結果を取得できるようになる。
【0198】
実施の形態2.
次に、実施の形態2の空調制御装置1について説明する。実施の形態1の空調制御装置1は、空調対象空間内の気流制御を空調機2によって行うものあった。実施の形態2の空調制御装置1は、空調機2によって空調対象空間に対する気流制御を行うと同時に、換気装置5による換気量制御も行う。
【0199】
実施の形態2では、空調機2による気流制御に加えて、換気装置5による換気量制御も行い、空調対象空間の温熱環境の分布と空気質の分布の両方を同時に考慮する。これにより、実施の形態2では、個々の空調対象空間に対して質の高い快適性を提供すると共に、さらに、質の高い健康的な空気質も提供することが可能となる。
【0200】
図30は、実施の形態2に係る空調制御装置1を含む空調システムの一例を示す構成図である。図30において、図1と同じ符号を付している機器などについては、同一または相当部分を示す。図30に示すように、実施の形態2の空調システムにおける空調制御装置1は、ネットワーク4を介して、空調機2およびセンサ3、換気装置5と接続され、換気装置5はコントローラ71を有する。
【0201】
コントローラ71は、ユーザまたは管理者が換気装置5のオンおよびオフを切り換えたり、換気風量等を手動で設定変更したりするための装置である。コントローラ71は、リモートコントローラであってもよい。
【0202】
図31は、図30に示す換気装置5の機能構成図である。図31に示すように、換気装置5は、給気ファン72と、排気ファン73と、全熱交換器74と、制御装置75と、室外温度センサ76と、室内温度センサ77と、室内湿度センサ78と、を有する。換気装置5の左側が建物外、右側が室内になる。なお、室内温度センサ77と室内湿度センサ78は、一体型の温湿度センサであってもよい。また、室外温度センサ76および室内温度センサ77、室内湿度センサ78は、センサ3に含まれていてもよい。
【0203】
図31を用いて、換気装置5を流れる空気の流れを説明する。この構成の換気装置5では、建物外の空気が全熱交換器74を通過して室内に取り込まれる。以下では、この建物外から換気装置5に入ってくる空気を「外気」、室内に取り込まれる空気を「給気」と記憶する。一方、室内の空気は、全熱交換器74を通過して建物外に排出される。以下では、この室内から換気装置5に入ってくる空気を「還気」、建物外に排出される空気を「排気」と記憶する。
【0204】
全熱交換器74では、外気と還気との間で熱交換を行い、温度および湿度が調整された給気が室内に供給される。ただし、全熱交換器74を通過せずに、外気を直接室内に取り込む場合もある。この場合、図31では省略しているが、全熱交換器74を通過せずに、外気を取り込むバイパス経路を備えている。全熱交換器74を通る経路とバイパス経路とは、ダンパー(図示せず)によって切り換えられる。
【0205】
給気ファン72は、建物外の空気を室内に取り入れるためのファンである。この例では、給気ファン72は全熱交換器74よりも室内側に配置している。排気ファン73は室内の空気を建物外に排出するためのファンである。この例では、排気ファン73は全熱交換器74よりも室外側に配置している。
【0206】
図32は全熱交換器74の構成の一例を示した図である。左側が室外、右側が室内である。室外から外気が全熱交換器74に入り室内に給気され、室内から還気が全熱交換器74に入り室外に排気される。全熱交換器74は、外気と還気とを全熱交換させる。例えば、図32に示すように、全熱交換器74は、四角柱状に形成されている。全熱交換器74では、平板部材である仕切板79と波状部材である間隔板80とが交互に積層されることで、隣り合う側面の一方に外気を流すための外気用流路が形成され、隣り合う側面の他方に排気を流すための排気用流路が形成されている。
【0207】
なお、平板部材および波状部材は、透湿性を有した材料(例えば、紙)で構成されており、給気と排気との間で水分の移動が可能となっている。これにより、全熱交換器74では、顕熱の交換に加え、潜熱の交換が可能になる。
【0208】
全熱交換器74は、取り込む外気と排出する室内空気とは仕切板79で完全に分けられている。また、間隔板80の波状部が土手の役割をすることで、給気風路と排気風路とを完全に分離することができる。また、間隔板80を波状部材とすることにより全熱交換器74の強度を保っている。また、仕切板79の表裏で流れる給気と排気との間で温度および湿度の交換を行っている。例えば、仕切板79には熱交換効率が高く透湿性に優れた全熱交換用紙を用い、間隔板80にはハニカム構造のコルゲート加工紙を用いるとよい。
【0209】
図33は、実施の形態2に係る空調制御装置1の一構成例を示すブロック図である。実施の形態2の空調制御装置1は、計測データ136が換気運転データ38を有する。また、実施の形態2の空調制御装置1は、運転状態決定部42が空気質判定部45を有する。
【0210】
次に、実施の形態2における記憶装置13の構成のうち、実施の形態1と異なる部分を説明する。実施の形態2では、解析条件リスト131、パターンデータ134、目標条件135、計測データ136、変数重要度テーブル138、快適度テーブル139、快適度関数140が、それぞれ実施の形態1と一部異なる。
【0211】
実施の形態2では、解析条件リスト131は、空調機2の運転状態に関する吹出条件に加え、換気装置5の運転状態に関する吹出条件も含んでいる。換気装置5の操作量である運転状態とは、例えば、換気風量である。換気風量は、ここでは給気される風量および排気される風量を総称した風量を指しているが、給気される風量と排気される風量が異なる値である場合は、換気風量ではなく、それぞれを給気風量および排気風量と称してもよい。
【0212】
図34は、解析条件のうち、空調機2および換気装置5の運転状態に関する吹出条件の一例を表すイメージ図である。図34に記憶されている換気風量は、給気風量と排気風量を区別して記憶されてもよいし、それぞれ給気ファン72および排気ファン73の出力として記憶されてもよい。また、全熱交換器74を用いて外気と還気との間で熱交換を行うか否かを示す識別子が含まれていてもよい。また、全熱交換器74を通る経路ではなくバイパス経路を経由することで外気を取り込むことを示す識別子が含まれていてもよい。
【0213】
実施の形態2では、解析条件リスト131が、図34に示した空調機2と換気装置5の吹出条件をともに含むことにより、空調機2と換気装置5の運転状態をともに制御するための解析条件を設定することができる。
【0214】
実施の形態2では、パターンデータ134は、実施の形態1で示した変数の他に、空調対象空間内における空気質に関する変数を少なくとも1つ含んでいる。空気質に関する変数とは、例えば、CO2濃度、空気齢、換気効率、換気回数、換気量、必要換気量を基準とした相対的な換気量を表すその他の指標、その他の汚染物質の濃度等である。
【0215】
図35は、図33に示すパターンデータの一例を表すイメージ図であり、CO2濃度を空気質に関する変数として用いた場合の一例である。実施の形態2では、パターンデータ134に少なくとも1つの空気質に関する変数を含むため、変数重要度テーブル138も同一の空気質に関する変数を含んでいる。このことから、実施の形態2では、快適度テーブル139は、変数重要度テーブル138に含まれている少なくとも1つの空気質に関する変数の重要度に対応する快適度を含んでいる。
【0216】
さらに、このことから、実施の形態2では、快適度関数140は、パターンデータ134に含まれる空気質に関する変数とユーザの快適度の相関関数およびそのグラフを含んでいる。図33に示す快適度関数140の一例を表すイメージ図である。
【0217】
図36は、空気質に関する変数として、CO2濃度を横軸にとった場合の快適度関数140の一例である。実施の形態2では、目標条件135は、実施の形態1で示した設定条件の他に、空調対象空間内における少なくとも1つの空気質に関する変数が満たすべき許容範囲の上限値および下限値等を含んでいる。
【0218】
実施の形態2では、計測データ136は、実施の形態1で示した空調運転データ36およびセンサデータ37の他に、換気運転データ38を含んでいる。換気運転データ38は、例えば、設定風量等の運転状態に関する情報である。
【0219】
次に、実施の形態2における演算装置14の構成のうち、実施の形態1と異なる部分を説明する。実施の形態2では、運転状態決定部42が空気質判定部45を有する。
【0220】
空気質判定部45は、気流制御可否判定部41が気流制御を開始できると判定した全てのパターンデータに対して、パターンデータに含まれている空気質に関する変数の代表値が、目標条件135で設定されている許容範囲の上限値および下限値を満たしているか否かを判定する。空気質判定部45は、空気質に関する変数が許容範囲内に収まっているパターンデータを候補のパターンデータである候補パターンとして抽出する。
【0221】
空気質判定部45は、パターンデータから特定される空気質に関する変数が目標値を満たしているか否かを判定し、空気質に関する変数が許容範囲内に収まっているパターンデータを、評価値を算出する候補パターンとして抽出する
【0222】
ここで、パターンデータに含まれている空気質に関する変数の代表値には、例えば、パターンデータに含まれる発生率が最も大きい小領域における変数の中間値を用いる方法等がある。中間値を用いる方法の場合、図35に示したCO2濃度を空気質に関する変数として用いた場合のパターンデータ“pattern001”を例にとると、CO2濃度区分500~550における発生率が最も大きいため、“pattern001”のCO2濃度の代表値は、500と550の中間値である525ppmとなる。
【0223】
パターンデータに含まれている空気質に関する変数の代表値には、他にも、パターンデータに含まれる発生率を小数表記した値と変数の区分の値の積を求めることによる、発生率で重みをつけた平均値を計算する方法、最大値を用いる方法等があり、これ以外の方法であってもよい。例えば、図35に示したパターンデータ“pattern001”に対して、CO2濃度の濃度区分ごとの発生率で重みを付けた平均値を計算した場合は、濃度区分の中央値を用いると549.7ppmという代表値が得られる。
【0224】
次に、実施の形態2の空調制御装置1の動作を説明する。なお、実施の形態2の空調制御装置1は、実施の形態1におけるST15の処理を詳細に説明したST21~ST24と異なる処理を行うが、その他の動作については実施の形態1と同様の処理を行う。したがって、以下では、実施の形態2に係る空調制御装置1の動作のうち、実施の形態1に係るST15の処理を詳細に説明したST21~ST24に相当するフローについて説明する。
【0225】
図37は、図26に示したステップST15の実施の形態2における動作手順の一例を示すフロー図である。図37を参照して、実施の形態2に係る運転状態決定部42によるパターン選択処理を説明する。
【0226】
ステップST51において、運転状態決定部42は、次のようにして、空調機2および換気装置5の現在の運転状態に近似したパターンである現在状態パターンを選択する。運転状態決定部42は、空調機2のオンまたはオフの状態、運転モード、吹出風速、上下風向、左右風向を含む空調運転データ36と、換気装置5のオンまたはオフの状態、換気風量を含む換気運転データ38とを取得し、取得した空調機2および換気装置5の運転状態と一致する吹出条件を、解析条件リスト131における吹出条件から選択する。
【0227】
次に、運転状態決定部42は、センサデータ37から、壁表面温度、天井表面温度および床表面温度を取得し、取得した天井表面温度から床表面温度を減算することで、天井表面温度と床表面温度との温度差である上下温度差を求める。
【0228】
さらに、運転状態決定部42は、解析条件における負荷条件についても、天井温度から床温度を減算して上下温度差を求め、この上下温度差と、壁温度をそれぞれセンサデータ37から取得した値と比較して、最も近い負荷条件を決定する。ここで、決定された吹出条件および負荷条件を含む解析条件に対応するパターンデータが一意に決まる。運転状態決定部42は、一意に決まったパターンデータを現在の室内環境推定値となる現在状態パターンとする。
【0229】
ステップST52において、運転状態決定部42は、次のようにして、現在状態パターンから空調機2の吹出風速、上下風向および左右風向と、換気装置5の換気風量を変更した場合の室内環境の推定値として候補となるパターンである候補パターンを抽出する。
【0230】
まず、運転状態決定部42は、空調運転データ36を参照して、空調機2のオンまたはオフの状態と運転モードとが一致し、吹出風速、上下風向および左右風向が異なる複数の吹出条件を選択する。次に、運転状態決定部42は、換気運転データ38を参照して、換気装置5のオンまたはオフの状態が一致し、換気風量が異なる複数の吹出条件を、さらに選択する。
【0231】
続いて、運転状態決定部42は、選択した複数の吹出条件のうち、いずれかの吹出条件と同一の吹出条件と、ステップST21で決定した負荷条件と同一の負荷条件とを含む複数の解析条件を、解析条件リスト131の中から抽出する。運転状態決定部42は、抽出された解析条件に対応するパターンを抽出し、空気質判定部45に出力する。
【0232】
ステップST53において、空気質判定部45は、ステップST52で運転状態決定部42が抽出したパターンのそれぞれについて、パターンデータに含まれる空気質に関する変数の代表値が目標条件135で設定された許容範囲内にあるか否かの判定を行う。空気質判定部45は、空気質に関する変数の代表値がこれらの範囲内に収まると判定されたパターンを候補パターンする。候補パターンは、1つの場合があるが、複数の場合もある。
【0233】
ステップST54において、運転状態決定部42は、ステップST51で決定した現在状態パターンと、ステップST53で決定した候補パターンのそれぞれについて、評価値を計算する。評価値は、パターンデータにおける温度および風速等の変数と、少なくとも1つの空気質に関する変数のそれぞれについて予め設定された目標値の範囲に含まれる領域の割合を算出し、各変数の割合に対して重み係数を乗じて合計した値とする。
【0234】
ステップST55において、運転状態決定部42は、次のようにして、空調機2および換気装置5の運転状態を決定する。運転状態決定部42は、ステップST54で算出した複数の候補パターンの評価値のいずれもが現在状態パターンの評価値を下回る場合、運転状態の変更を行わない。
【0235】
運転状態決定部42は、現在状態パターンの評価値よりも評価値が高い候補パターンがある場合、候補パターンに対応する吹出条件に対応する空調機2および換気装置5の運転状態を、空調機2および換気装置5の運転状態の目標値に決定する。現在状態パターンの評価値よりも評価値が高い候補パターンが複数ある場合、運転状態決定部42は、評価値が最も高い候補パターンを選択し、選択した候補パターンに対応する吹出条件に対応する空調機2および換気装置5の運転状態を、空調機2および換気装置5の運転状態の目標値に決定する。
【0236】
このように、実施の形態2の空調制御装置1では、計測データ136が換気装置5の運転状態に関する情報である換気運転データ38を有し、さらに、運転状態決定部42がパターンデータに含まれる空気質に関する変数の代表値の判定を行う空気質判定部45を有する。このため、実施の形態2の空調制御装置1は、空調対象空間内における快適性の向上と健康的な空気質の担保を高い精度で両立することができ、実施の形態1と比べて、ユーザに対してさらに価値の高い空調空間を提供することができる。
【0237】
実施の形態3.
次に、実施の形態3の空調制御装置1について説明する。実施の形態2の空調制御装置1は、空調対象空間に対して、空調機2による気流制御と換気装置5による換気量制御を同時に行うものであった。実施の形態3の空調制御装置1は、空調機2および換気装置5の運転状態を決定するためのパターンデータの評価に用いる快適度関数140を、空調対象空間内の複数のユーザによる室内機22および換気装置5の操作履歴等のフィードバックに基づいて常に自動的に改良し続けるものである。
【0238】
これにより、実施の形態3では、実施の形態1および実施の形態2におけるユーザの変数重要度テーブル138および快適度テーブル139の更新作業を必要とせずに、空調対象空間ごとの特有の重み係数を決定することが可能となる。したがって、実施の形態3では、空調対象空間内における快適性の向上と健康的な空気質の担保を、空調対象空間の特性およびユーザの嗜好に限りなく適合させた状態で常に高い精度で両立し続けることができるため、実施の形態2と比べて、ユーザに対してさらに価値の高い空調空間を提供することができる。
【0239】
図38は、実施の形態3に係る空調制御装置1の一構成例を示すブロック図である。図38において、図33と同じ符号を付している機器などについては、同一または相当部分を示す。図38に示すように、実施の形態3の空調システムにおける空調制御装置1は、計測データ136が変更履歴テーブル39を有し、さらに演算装置14が関数改良部145を有する。
【0240】
変更履歴テーブル39は、空調対象空間内の複数のユーザが空調機2のコントローラ23を経由して入力した室内機22の設定温度や風量、風向等の設定値の変更履歴、および、換気装置5のコントローラ71を経由して入力した換気装置5の換気風量等の設定値の変更履歴等が記憶されたテーブルである。変更履歴テーブル39、一定時間間隔で、ユーザによる設定値の変更履歴を受信装置11から取得し、ユーザが変更した日時および設定値の変更値、現在の設定値を記憶する。
【0241】
図39は、図38に示す変更履歴テーブル39の一例である。ここでは、説明の便宜上、次のような構成および条件の場合で説明する。空調機2は1台の室内機22を有し、室内機22に設けられた吹出口の数は1つである。また、換気装置5は1台である。変更履歴テーブル39は、室内機22および換気装置5の設定値の変更が行われた日時および変更後の設定値、現在の設定値を少なくとも含んでいる。
【0242】
変更履歴テーブル39には、設定値の変更履歴が記憶されており、一定時間間隔で上書きされる。一定時間間隔とは、短期的な変更履歴を記憶する場合は、例えば5分であり、長期的な変更履歴を記憶する場合は、例えば冷房および暖房が切り替わる期間である6ヶ月である。一定時間間隔は、予め規定の値が設定されていてもよいし、空調対象空間内またはそれ以外の任意のユーザによって変更されてもよい。
【0243】
図39に示した変更履歴テーブル39の例では、室内機22の設定温度、風量、上下風向、左右風向と、換気装置5の換気風量の運転状態において、ユーザが空調機2のコントローラ23を経由して入力した室内機22の設定値、および、換気装置5のコントローラ71を経由して入力した換気装置5の設定値の変更履歴が、時刻ごとに昇順で記憶されている。なお、括弧記号“()”を含む値はユーザによる変更が行われなかったことを示しており、室内機22および換気装置5の最新の設定値を表している。
【0244】
実施の形態3では、運転状態決定部42は、決定した空調機2および換気装置5の運転状態を制御指令変換部43へ出力すると同時に、空調機2および換気装置5の運転状態をそれぞれ空調運転データ36および換気運転データ38に、空調機2および換気装置5の最新の運転状態として記憶する。さらに、運転状態決定部42は、評価値の最も高いパターンデータを次で説明する関数改良部145に出力する。
【0245】
関数改良部145は、変更履歴テーブル39と、空調運転データ36および換気運転データ38に記憶された空調機2および換気装置5の現在の設定値と、運転状態決定部42が出力した評価値の最も高いパターンデータとに基づいて、快適度関数140に記憶されている変数ごとの快適性との相関関数およびそのグラフを改良する。そして、関数改良部145は、改良した快適度関数140を新たな快適度関数140として、記憶装置13に上書きして記憶する。
【0246】
関数改良部145が、快適度関数140上を改良する具体的な方法について、以下に説明する。まず、関数改良部145は、変更履歴テーブル39に記憶された室内機22および換気装置5の設定温度や風量等の設定値の変更履歴を、一定時間間隔で取得し、設定値ごとに一定時間内における代表設定値を計算する。一定時間間隔とは、例えば5分である。
【0247】
設定値の一定時間内における代表設定値とは、例えば、平均値や中央値等の統計的な計算手法によって得られる公知の指標である。設定値の一定時間内における代表設定値に、平均値を用いる場合、設定値の一定時間内における代表設定値は、図39に示した変更履歴テーブル39の例では、設定温度については(26.5+25.5+25.0+24.5+26.0)/5=25.5である。
【0248】
風量や換気風量等のような、文字列による設定値が設定されているために代表設定値を直接計算できない運転データについては、関数改良部145が、空調運転データ36および換気運転データ38に記憶されている文字列による設定値と風量値を照合し、文字列による設定値を風量値に変換することで代表設定値を計算する。
【0249】
次に、関数改良部145は、空調運転データ36および換気運転データ38に記憶されている空調機2および換気装置5の現在の設定値を取得する。図39に示した例では、現在の設定温度は25.0℃である。
【0250】
次に、関数改良部145は、設定値の一定時間内における代表設定値と、取得した現在の設定値を比較し、その大小関係を取得する。そして、関数改良部145は、現在の設定値を基準値として、快適度関数140上の基準値以上または基準値以下の快適度が増加または低下するように、快適度関数140を改良する。
【0251】
図39に示した例では、現在の設定温度である25.0℃よりも代表設定値である25.5℃の方がユーザは快適に感じるという結果が得られているため(ユーザは快適になるように温度を設定する)、この空調対象空間内のユーザは設定温度よりも高い温度を快適に感じる傾向があるということが示唆されている。このとき、関数改良部145は、現在の設定温度である25.0℃を基準として、冷房時の“床上1.1m温度”における快適度関数140の25.0℃以下の快適度が一定の値だけ低下するように改良する。一定の値とは、例えば、5%である。
ここで、代表設定値(25.5℃)が最も快適になることがわかっている。そしてこのときの、現在の設定温度は25.0℃である。冷房時の話であることを踏まえると、「25.0℃が25.5℃に変更された」ということは、「ユーザは25.0℃だと寒いと感じている」ということと同義と考える。
【0252】
この傾向によると、ユーザは、25.0℃より低い温度についても、25.0℃と同じように、寒いと感じる傾向が強い。そこで、快適度を低下させるべき温度は、25.0℃と25.0℃より低い温度を合わせて”25度以下”となりる。
【0253】
現在の設定値を基準として、高い温度と低い温度のどちらの快適度を低下させるかは、設定値の一定時間内における代表設定値と現在の設定値の大小関係にしたがって、関数改良部145が判定する。
【0254】
例えば、上記の例では、冷房時において、設定値の一定時間内における代表設定値(25.5℃)が、現在の設定値(25.0℃)よりも高いため、ユーザはより高い温度を快適に感じるという理由から、現在の設定値より低い温度について、快適度を一定の値だけ低下させた。しかし、同じく冷房時において、例えば設定値の一定時間内における代表設定値が24.5℃である場合は、設定値の一定時間内における代表設定値(24.5℃)が、現在の設定値(25.0℃)よりも低いため、ユーザはより低い温度を快適に感じるという理由から、現在の設定値より高い温度について、快適度を一定の値だけ低下させる。
【0255】
また、快適度の低下量の決定方法には、例えば、現在の設定値と設定値の代表設定値の差分に応じて、対応する低下量を予め決定しておく等の方法がある。例えば、差分が1℃以上の場合は10%、差分が1℃未満の場合は5%等のように決定する。この場合、上記の例では、25.0℃と25.5℃の差分が0.5℃であるため、快適度の低下量は5%である。
【0256】
図40は、図38に示す関数改良部145によって改良された快適度関数140の一例である。図40は、関数改良部145が、冷房時の“床上1.1m温度”における快適度関数140を、上記の例にしたがって変更した場合の、変更後の冷房時の“床上1.1m温度”における快適度関数140の一例を示す図である。
【0257】
例えば、図40に示したように、現在の設定温度である25.0℃を基準値として、この基準値以下の快適度を低下させる場合、図40のように、“床上1.1m温度”における快適度関数140に対して、24.5℃以下における快適度の値を全体的に5%だけ低下させる。
【0258】
以上の処理により、“床上1.1m温度”が24.5℃より高い場合の快適度が、24.5℃以下の快適度に比べて相対的に大きくなる。このように、変更後の設定値の平均値に基づいて快適度関数140を改良することで、設定値の変更が行われた空調対象空間における特有の快適度関数140を作成することができる。
【0259】
最後に、関数改良部145は、快適度関数140の改良が完了した後、改良された快適度関数140を新たな快適度関数140として更新し、記憶装置13に記憶する。
【0260】
上記の例では、関数改良部145が、冷房時における“床上1.1m温度”の快適度関数140を改良する方法を示したが、他の変数についても同様の方法で快適度関数140を改良する。例えば、“床上1.1m風速”であれば、関数改良部145が、空調運転データ36および換気運転データ38に記憶されている文字列による設定値と風量値を照合し、現在の設定値と変更後の設定値の平均値を比較し、さらに最後に出力されたパターンデータの“床上1.1m風速”の現在の設定値を基準値として、“床上1.1m風速”における快適度関数140における基準値以上または基準値以下の快適度が増加または低下するように、快適度関数140を改良する。以上の処理により、他の変数についても、関数改良部145は、快適度関数140を改良することができる。次に、実施の形態3の空調制御装置1の動作を説明する。
【0261】
図41は、実施の形態3に係る関数改良部145の動作手順の一例を示すフロー図である。図41を参照して、実施の形態3に係る関数改良部145による快適度関数140の改良処理を説明する。なお、実施の形態3では、関数改良部145が関与しない動作については実施の形態2と同様の処理を行う。
【0262】
図41に示すフロー開始のトリガーは、例えば、室内機22の設定温度や風量、風向等の設定値が変更されたことを示す信号や、換気装置5の換気風量等の設定値が変更されたことを示す信号を、空調機2のコントローラ23または換気装置5のコントローラ71から空調制御装置1が受信することである。
【0263】
ステップST61において、関数改良部145は、変更履歴テーブル39に記憶された室内機22および換気装置5の設定値の変更履歴を、一定時間間隔ごとに取得し、設定温度や風量等の設定値ごとに代表設定値である平均値を計算する。
【0264】
ステップST62において、関数改良部145は、空調運転データ36および換気運転データ38に記憶された空調機2および換気装置5の現在の設定値を取得する。
【0265】
ステップST63において、関数改良部145は、運転状態決定部42が最後に出力したパターンデータを参照し、各変数の代表設定値を計算する。
【0266】
ステップST64において、関数改良部145は、ステップST61で計算した変更後の設定値の平均値と、ステップST62で取得した現在の設定値を比較する。そして、関数改良部145は、比較した結果に基づいて、ステップST63で計算した最後に出力されたパターンデータの変数の現在の設定値の快適度を基準値として、快適度関数140上の基準値以上または基準値以下の快適度が増加または低下するように、快適度関数140を改良する。
【0267】
ステップST65において、関数改良部145は、快適度関数140を改良後、改良された快適度関数140を新たな快適度関数140として更新し、記憶装置13に記憶する。
【0268】
以上の説明では補正値は差分に対応する低下量を予め定義しておくパターンを説明したが、補正値はこの方法に限定されず、例えば、不快指数を求めて補正値を求めてもよい。不快指数により補正値を特定する方法についても説明する。
【0269】
例えば、「代謝量、仕事量、着衣量、温度、風速、湿度」を環境の入力値とし、その入力値に対して何%の人が不快になるかという指標である不快指数を算出する。例えば、入力値が、代謝量1.1met(64.02W/m^2)、機械的仕事量0.0W/m^2、着衣量0.3cloi(着衣の基礎熱抵抗)、平均風速0.1m/s、相対湿度60.0%で、現在の設定値が25.0℃の場合の不快指数を算出すると、室温25.0℃の場合は不快指数は10.4931となる。つまり、10.5%の人が不快に感じていることになる。
【0270】
ここで、設定値の代表設定値が25.5℃である場合、の不快指数も同様に算出する。室温25.5℃の場合は、不快指数7.13173となり、7.1%の人が不快に感じていることになる。室温25.5℃の方が不快指数が小さいので、25.0℃よりも25.5℃の方が快適に感じている人が多いことがわかる。
【0271】
そこで、25.5℃を設定値の代表設定値(=正解)とする。そして、室温25.5℃での不快指数「7.1%」を、「0%(=だれも不快に感じていない)」と修正する。つまり、このときの補正量は、「-7.1%」となる。よって、この場合は、快適度関数140の低下量X=7.1%(7.1%低下させる)快適度関数140の改良方法は、現在の設定値以下(または以上。大小関係に左右される)は、確実に不快という考えのもと、現在の設定値以下(または以上)の快適度の値を、設定値の代表値を正解値として得た不快指数に基づく補正量にしたがって補正する。
【0272】
このように、実施の形態3では、実施の形態2で示した気流制御を行う空調機2の運転状態と換気量制御を行う換気装置5の運転状態を決定する際のパターンデータの評価に用いる快適度関数140を、複数のユーザの操作履歴に基づいて常に改良し続ける処理を行う。これにより、空調対象空間内における快適性の向上と健康的な空気質の担保を、空調対象空間の特性およびユーザの嗜好に限りなく適合させた状態で両立することができるため、実施の形態2と比べて、ユーザに対してさらに高精度で価値の高い空調空間を提供することができる。
【0273】
さらに、実施の形態3では、ユーザの操作履歴等のフィードバックに基づいて快適度関数140を改良するため、ユーザが快適度テーブル139を変更する手間を要さずに、空調対象空間ごとの理想的な変数ごとの重み係数を自動で最適化することができる。
【符号の説明】
【0274】
1:空調制御装置、2:空調機、3、3-1~3-n:センサ、4:ネットワーク、5:換気装置、11:受信装置、12:送信装置、13:記憶装置、14:演算装置、21:室外機、22:室内機、23:コントローラ、36:空調運転データ、37:センサデータ、38:換気運転データ、39:変更履歴テーブル、41:気流制御可否判定部、42:運転状態決定部、43:制御指令変換部、44:係数演算部、45:空気質判定部、50:冷媒回路、51:圧縮機、52:四方弁、53:熱源側熱交換器、54:絞り装置、55:負荷側熱交換器、57:室外ファン、58:室内ファン、59:風向調節部、61:左右フラップ、62:上下フラップ、71:コントローラ、72:給気ファン、73:排気ファン、74:全熱交換器、75:制御装置、76:室外温度センサ、77:室内温度センサ、78:室内湿度センサ、79:仕切板、80:間隔板、81:処理回路、82:プロセッサ、83:メモリ、84:バス、131:解析条件リスト、132:機器および空間情報、133:気流解析モデル、134:パターンデータ、135:目標条件、136:計測データ、137:制御モードリスト、138:変数重要度テーブル、139:快適度テーブル、140:快適度関数、141:モデル作成部、142:気流解析部、143:パターン生成部、144:気流制御部、145:関数改良部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41