(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】白金ナノ粒子含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20250221BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250221BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20250221BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
B22F1/102
(21)【出願番号】P 2021017498
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】521057110
【氏名又は名称】和達 大樹
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎一
(72)【発明者】
【氏名】和達 大樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002336(JP,A)
【文献】特表2018-526432(JP,A)
【文献】特開2014-152337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
C09K 11/00-11/89
C12Q 1/00- 3/00
G01N 21/62-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷冷下において白金イオンと第五乃至第七世代のポリアミドアミンデンドリマーとを反応させ前記白金イオンと前記ポリアミドアミンデンドリマーとの間で化学結合を形成させることで、前記ポリアミドアミンデンドリマー内に前記白金イオンを取り込ませる結合工程と、
前記白金イオンを取り込んだポリアミドアミンデンドリマーをフルクトースで還元することで、前記ポリアミドアミンデンドリマー内において白金ナノ粒子を合成する還元工程と、
前記白金ナノ粒子に
GABAを反応させて白金ナノ粒子にアミノ基を結合させる修飾工程を備えることを特徴とする白金ナノ粒子含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記
GABAは、4-アミノ酪酸であることを特徴とする請求項1に記載の白金ナノ粒子含有組成物の製造方法。
【請求項3】
氷冷下において白金イオンと第五乃至第七世代のポリアミドアミンデンドリマーとを反応させ前記白金イオンと前記ポリアミドアミンデンドリマーとの間で化学結合を形成させることで、前記ポリアミドアミンデンドリマー内に前記白金イオンを取り込ませる結合工程と、
前記白金イオンを取り込んだポリアミドアミンデンドリマーをフルクトースで還元することで、前記ポリアミドアミンデンドリマー内において白金ナノ粒子を合成する還元工程と、
前記白金ナノ粒子にβ-アラニンを反応させて白金ナノ粒子にアミノ基を結合させる修飾工程を備えることを特徴とする白金ナノ粒子含有組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか一つで得られた前記白金ナノ粒子含有組成物を単離及び精製することを特徴とする白金ナノ粒子含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光及び磁気プローブとして使用できる白金ナノ粒子含有組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノマテリアル、光エレクトロニクス、医療等の様々な分野において、ナノ粒子(金属ナノ粒子等)を用いた蛍光プローブの開発が進められている(例えば、特許文献1,2参照)。
特に、医療分野においては特定の標的分子、例えば癌細胞と反応又は結合することによって、高感度に癌細胞を検出することが可能であるので、研究や治療に蛍光プローブは欠かせない。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、Si塩化物等をジメチルホルムアミド含有溶媒中で加熱還流して製造するものである。
この製造方法によると、危険性の高い試薬を用いる必要がないだけではなく後処理の必要もなく、さらには粒子径の揃ったナノ粒子蛍光体を大量生産可能である。
【0004】
また、特許文献2に記載の発明は、金属化合物を、タンパク質を含むとともにpH調整された水溶液中で還元して、蛍光体組成物を製造するものである。
この製造方法によると、金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を、製造過程で危険性の高い試薬を用いることなく、大量生産可能である。
また、制御された異なる粒子径を持つ種々の金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を幅広く製造可能である。
【0005】
ここで、医療分野で用いられる蛍光プローブに関しては、当然のことながら生体への毒性が無いことが必須であるが、特許文献1に記載の発明は、生体が生存できない有機溶媒中での合成手法であるので、医療分野の蛍光プローブとしては適していない。
また、生体内には可視光を吸収する多様な分子が存在しているため、400~570nm程度の波長の光は皮膚表面や生体内の分子によって吸収されてしまい、生体の深部からこの波長の蛍光シグナルを観察できないので、癌の診断や幹細胞治療などの高精細な医療診断技術を確立するためには、生体組織に吸収・散乱されることなく生体の深部からでも観察可能な近赤外領域(600~850nm)に発光波長を有する蛍光プローブでなければならないが、特許文献1に記載の発明は近赤外領域に蛍光特性を持つ蛍光体ではない。
【0006】
また、特許文献2に記載されるような蛍光タンパク質は、数分から1時間程度観察に使用すると退色、つまり蛍光物質としての特性を失ってしまう。仮に、これらの蛍光物質を最も退色しない条件(4℃の暗所)で保管しても1,2ヶ月程度で光学特性(明るさ(輝度))が半分以下になる。
すなわち、この蛍光プローブを長期間の経過観察が必要な癌の転移の検査や診断に利用することは困難である。
【0007】
そこで、本発明者は、氷冷温度下において白金イオンと第五乃至第七世代のポリアミドアミンデンドリマーとを反応させ白金イオンとポリアミドアミンデンドリマーとの間で化学結合を形成させることで、ポリアミドアミンデンドリマー内に白金イオンを取り込ませる結合工程と、白金イオンを取り込んだポリアミドアミンデンドリマーをフルクトースで還元することで、ポリアミドアミンデンドリマー10内において白金ナノ粒子を合成する還元工程と、を備える製造方法によって、近赤外領域に蛍光特性を有しつつ生体に対する毒性が低く、しかも長期間退色しない金属ナノ粒子含有組成物を提供した(特許文献3)。
【0008】
このように光を利用した生体イメージング法では、ターゲット分子の時間的・量的な動態・局在を捉えるだけでなく、分子の発現・機能のみならず細胞内の環境やストレスを非侵襲的かつ継続的に可視化できる。
そのため、光を利用した分子イメージングによって、癌の発現や転移だけでなく幹細胞の分化段階における細胞の機能情報や組織への集積について詳細に評価できる。
【0009】
しかし、光計測技術は全身画像の取得を苦手としており、癌細胞や幹細胞の生理的情報と体内での位置を一度に診断することが困難であるため、磁気共鳴画像(MRI)による全身画像による解剖学的情報を加味しなければ、癌の有無やその正確な形状や体内での位置を診断することは困難である。
【0010】
そこで、本発明者は、単一の分子プローブで蛍光イメージングとMRIを組み合わせたマルチモーダルな画像計測法を確立することに着目した。
なお、癌などの疾患の正確な検出、特性決定、モニタリング及び処置を可能にする蛍光シリカ系ナノ粒子を提出するものは知られている(特許文献4)。
特許文献4には、蛍光シリカ系ナノ粒子に磁気特性を持つイオンをコンジュゲートされ得る点が記載されているが、その詳細は明らかではなく少なくとも単一の材料ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5452098号公報
【文献】特開2012-246449号公報
【文献】特許第6573370号公報
【文献】特表2016-516729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的とするところは、単一の材料で近赤外領域に蛍光特性と磁気特性を同時に有する白金ナノ粒子含有組成物の製造方法の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の白金ナノ粒子含有組成物(1)の製造方法は、氷冷下において白金イオン(20)と第五乃至第七世代のポリアミドアミンデンドリマー(10)とを反応させ前記白金イオン(20)と前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)との間で化学結合を形成させることで、前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)内に前記白金イオン(20)を取り込ませる結合工程(100)と、前記白金イオン(20)を取り込んだポリアミドアミンデンドリマー(10)をフルクトースで還元することで、前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)内において白金ナノ粒子(30)を合成する還元工程(200)と、前記白金ナノ粒子(30)にGABAを反応させて白金ナノ粒子(30)にアミノ基(40)を結合させる修飾工程(300)を備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記GABAは、4-アミノ酪酸であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、氷冷下において白金イオン(20)と第五乃至第七世代のポリアミドアミンデンドリマー(10)とを反応させ前記白金イオン(20)と前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)との間で化学結合を形成させることで、前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)内に前記白金イオン(20)を取り込ませる結合工程(100)と、前記白金イオン(20)を取り込んだポリアミドアミンデンドリマー(10)をフルクトースで還元することで、前記ポリアミドアミンデンドリマー(10)内において白金ナノ粒子(30)を合成する還元工程(200)と、前記白金ナノ粒子(30)にβ-アラニンを反応させて白金ナノ粒子(30)にアミノ基(40)を結合させる修飾工程(300)を備えることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、得られた前記白金ナノ粒子含有組成物(1)を単離及び精製することを特徴とする。
【0017】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製造された白金ナノ粒子含有組成物は、近赤外領域において蛍光特性を有するので、放出された光が生体組織に吸収・散乱され難い。したがって、生体の深部(数mm~数10cm)からでも白金ナノ粒子含有組成物の蛍光を1μm以下の分解能かつ高感度で観察可能である。
それに加えて、白金ナノ粒子含有組成物は磁気特性を有するものであるので、全身計測可能なMRIを融合させることにより、生体の全身画像の取得が可能となりマルチモーダルな画像計測法を確立することができる。
【0019】
これにより、癌の正確な位置を1細胞レベルで特定できるので、初期癌や癌転移の診断が可能となる。また、個体から細胞まで様々なスケールで分子情報を含んだ高精密な生体画像情報を引き出すことが可能となり、生体内における癌発現・癌転移過程の分子機構観察,癌細胞の分化メカニズムの解明や体内追跡など癌治療や再生医療に関する研究を飛躍的に発展することができる。
【0020】
また、弱い還元剤であるフルクトースを用いて温和な80~90℃の温度下で還元しているので、形成された白金ナノ粒子30は細胞毒性が低い。特に、白金ナノ粒子含有組成物はそのサイズが1.1nm~1.5nmと小さいので、生体内に長期間内在させても細胞内へ蓄積され難く、金属の蓄積による細胞毒性が極めて低い。
また、合成に使用した白金は安定で酸化され難いので、生体内での酸化反応によるイオン化及び生成した金属イオンによる生体毒性の発生のリスクが他の金属材料(鉄、コバルト、パラジウム、ニッケル等)による金属ナノ粒子に比べて低い。
【0021】
このように毒性が低いということは、生体のみならず環境への影響も小さいということでもある。
本発明に係る白金ナノ粒子含有組成物は、太陽電池(ソーラーパネル)にも応用可能である。太陽光には可視光が約50%、近赤外光が約30%含まれているが、本発明に係る白金ナノ粒子含有組成物を太陽電池に使用すると、既存の太陽電池がほとんど利用できていない近赤外光も発電に利用できるようになるので、発電効率を飛躍的に向上させることができる。そして、太陽電池等に本発明に係る白金ナノ粒子含有組成物を使用した場合に、故障・破損等による光学物質が漏洩しても環境や人体への影響が小さい。
さらには、化学的に安定しているので、白金ナノ粒子含有組成物を光学物質として半永久的に使用可能である。
【0022】
長時間観察に使用しても退色せずその輝度(明るさ)が維持され、また白金ナノ粒子含有組成物を室温で半年以上保管してもその光学特性は維持できているので、経過観察が必要な検査や診断に使用可能である。例えば、癌の転移の検査等に有益である。他には、幹細胞を標識し、生体組織へ移植後に長期間経過観察することで、生体内での幹細胞の挙動(移動)や分化・増殖・再生などの過程を評価することができることから、幹細胞による生体組織の再生や治療の過程を可視化・診断できる。
【0023】
なお、本発明のように、単一の材料で近赤外領域に蛍光特性と磁気特性を同時に有する白金ナノ粒子含有組成物の製造方法について、上述した特許文献1乃至4には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物の製造方法の結合工程100を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物の製造方法の還元工程200を示す概略図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物の製造方法の修飾工程300を示す概略図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物の蛍光特性を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物において、
GABAの中で
4-アミノ酪酸を白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として100倍となるように加えたものの磁気特性を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物において、
GABAの中で
4-アミノ酪酸を白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として50倍となるように加えたものの磁気特性を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物において、β-アラニンを白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として100倍となるように加えたものの磁気特性を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物において、β-アラニンを白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として50倍となるように加えたものの磁気特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1乃至
図4を参照して、本発明の実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物1の製造方法を説明する。
この白金ナノ粒子含有組成物1の製造方法は、結合工程100と、還元工程200と、修飾工程300と、単離工程を備える。
【0026】
結合工程100では、ガラス製のスクリュー管(10mL)に超純水5mL加えてから、氷冷下(4℃)で鋳型分子である第五世代のポリアミドアミンデンドリマー10(PAMAM G5-OH)0.25μmolへ、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H
2PtCl
6・6H
2O)(0.5M)を90μL加え、そのまま5日間反応させた。
このように低温下で反応させることで、
図1に示すように、白金イオン20がポリアミドアミンデンドリマー10内により多く取り込まれるので、次工程となる還元工程200における合成効率が高くなる。
【0027】
次に還元工程200では、1Mの濃度で調整したフルクトース(D-Fructose)を白金イオン20に対してモル比を基準として50倍(50:1)となるように加え、80~90℃の温度下で2週間還元反応させた。
これにより、
図2に示したように、ポリアミドアミンデンドリマー10内において白金ナノ粒子30が合成される。
【0028】
次に修飾工程300では、常温(20~25℃)において、
GABA50の中で
4-アミノ酪酸を白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として100倍(100:1)となるように加えた後、冷暗所で1週間反応させた。
これにより、
図3に示したように、白金ナノ粒子30の周りにアミノ基(NH
2)が結合した白金ナノ粒子含有組成物1が得られる。白金ナノ粒子含有組成物1のモル濃度は、324.9pmol(ピコモル)であった。
【0029】
最後に単離工程では、超遠心分離機及び近赤外蛍光検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を使用して不純物を取り除き、白金ナノ粒子含有組成物1を単離及び精製を行う。
【0030】
このように生成した白金ナノ粒子含有組成物1に対して励起光として535nmの波長の光を照射したとき、
図4に示すように発光波長が630nmの赤色蛍光(近赤外光)を観測できた。
また、本実施形態に係る白金ナノ粒子30の粒子径は1.1~1.5nm、量子収率が0.5%であることもわかった。
【0031】
なお、第一乃至第三世代のポリアミドアミンデンドリマー10を使用して白金ナノ粒子含有組成物1を生成した場合、この白金ナノ粒子含有組成物1は蛍光性を示さなかった。
一方、第四世代のポリアミドアミンデンドリマー10を使用して白金ナノ粒子含有組成物1を生成した場合、緑色蛍光性(発光波長:520nm)を有するものであった。
【0032】
一般的に、金属ナノ粒子の粒子半径が小さくなるほど、発光波長は青色(短波長)側へシフトすること、また世代の大きなデンドリマーを使用することで金属ナノ粒子の粒子径を大きくすることができること、及び以上の結果より、第五世代以上のポリアミドアミンデンドリマー10を使用して生成された白金ナノ粒子含有組成物1が赤色蛍光性を有することがわかる。
ここで、従来の赤く光る金属ナノ粒子の粒子径は2.3nm程度であることが知られているが、本実施形態に係る白金ナノ粒子30はこれの約半分の大きさであることもわかった。
【0033】
また、生成された白金ナノ粒子含有組成物1に対して磁場をかけた場合、
図5に示すように、白金ナノ粒子含有組成物1は磁気的に正極と負極に分極して磁化されることが観測された。横軸の磁界に対して縦軸は磁化を示し、磁化は飽和しているときに大体1になるように規格化したものである。
また、
図6に示したものは、修飾工程300において、
GABAの中で
4-アミノ酪酸を白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として50倍(50:1)となるように加えたものであり、白金ナノ粒子含有組成物1は明確に磁化されていることがわかる。なお、白金ナノ粒子含有組成物1のモル濃度は、195.8pmol(ピコモル)であった。
【0034】
これにより、生成された白金ナノ粒子含有組成物1は、単一の材料で、近赤外領域に蛍光特性を有するとともに、磁気特性を同時に有することが確認された。
【0035】
なお、癌細胞に対して白金ナノ粒子含有組成物1が蛍光プローブ及び磁気プローブとして有用であることが確認でき、かつこの蛍光プローブ及び磁気プローブとして機能させるために必要な白金ナノ粒子30の濃度において、白金ナノ粒子30は生体に使用可能な程度に十分毒性が低いことも確認できた。
【0036】
以上のように製造された白金ナノ粒子含有組成物1によれば、近赤外領域において蛍光特性を有するので、放出された光が生体組織に吸収・散乱され難い。したがって、生体の深部(数mm~数10cm)からでも白金ナノ粒子含有組成物1の蛍光を1μm以下の分解能かつ高感度で観察可能である。
それに加えて、白金ナノ粒子含有組成物1は磁気特性を有するものであるので、全身計測可能なMRIを融合させることにより、生体の全身画像の取得が可能となりマルチモーダルな画像計測法を確立することができる。
【0037】
これにより、癌の正確な位置を1細胞レベルで特定できるので、初期癌や癌転移の診断が可能となる。また、個体から細胞まで様々なスケールで分子情報を含んだ高精密な生体画像情報を引き出すことが可能となり、生体内における癌発現・癌転移過程の分子機構観察,癌細胞の分化メカニズムの解明や体内追跡など癌治療や再生医療に関する研究を飛躍的に発展することができる。
【0038】
また、弱い還元剤であるフルクトースを用いて温和な80~90℃の温度下で還元しているので、形成された白金ナノ粒子30は細胞毒性が低い。特に、本実施形態に係る白金ナノ粒子含有組成物1はそのサイズが1.1nm~1.5nmと小さいので、生体内に長期間内在させても細胞内へ蓄積され難く、金属の蓄積による細胞毒性が極めて低い。
また、合成に使用した白金は安定で酸化され難いので、生体内での酸化反応によるイオン化及び生成した金属イオンによる生体毒性の発生のリスクが他の金属材料(鉄、コバルト、パラジウム、ニッケル等)による金属ナノ粒子に比べて低い。
【0039】
さらに、長時間観察に使用しても退色せずその輝度(明るさ)が維持され、また白金ナノ粒子含有組成物1を室温で半年以上保管してもその光学特性は維持できているので、経過観察が必要な検査や診断に使用可能である。例えば、癌の転移の検査等に有益である。他には、幹細胞を標識し、生体組織へ移植後に長期間経過観察することで、生体内での幹細胞の挙動(移動)や分化・増殖・再生などの過程を評価することができることから、幹細胞による生体組織の再生や治療の過程を可視化・診断できる。
【0040】
なお、本実施形態では、修飾工程300において、常温(20~25℃)において、GABAの中で4-アミノ酪酸を白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として100倍(100:1)となるように加えた後、冷暗所で1週間反応させたものであるが、4-アミノ酪酸にかえてβ-アラニンを使用することもできる。すなわち、修飾工程300において、常温(20~25℃)において、β-アラニンを白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として100倍(100:1)となるように加えた後、冷暗所で1週間反応させるようにしてもよい。これによっても、白金ナノ粒子30の周りにアミノ基(NH2)が結合した白金ナノ粒子含有組成物1が得られる。白金ナノ粒子含有組成物1のモル濃度は、94.3pmol(ピコモル)であった。
【0041】
このとき、β-アラニンを使用して生成された白金ナノ粒子含有組成物1に対して磁場をかけた場合、
図7に示すように、白金ナノ粒子含有組成物1は磁気的に微小ではあるが正極と負極に分極して磁化されることが観測された。横軸の磁界に対して縦軸は磁化を生データの形で示したものである。
また、
図8に示したものは、修飾工程300において、β-アラニンを白金ナノ粒子30に対してモル比を基準として50倍(50:1)となるように加えたものであり、白金ナノ粒子含有組成物1は微小ではあるが磁化されていることがわかる。なお、白金ナノ粒子含有組成物1のモル濃度は、36.4pmol(ピコモル)であった。
【0042】
これにより、β-アラニンを使用して生成された白金ナノ粒子含有組成物1は、GABAの中で4-アミノ酪酸を使用して生成された白金ナノ粒子含有組成物1と同様に、単一の材料で、近赤外領域に蛍光特性を有するとともに、磁気特性を同時に有することが確認され、GABAの中で4-アミノ酪酸を使用して生成された白金ナノ粒子含有組成物1と同様の効果を有するものであった。
【0043】
また、本実施形態では還元工程200を80~90℃の温度下で行ったが、これに限られるものではなく、70~90℃であればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 白金ナノ粒子含有組成物
10 ポリアミドアミンデンドリマー
20 白金イオン
30 白金ナノ粒子
40 アミノ基
100 結合工程
200 還元工程
300 修飾工程