(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】無線給電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20250221BHJP
H02J 50/40 20160101ALI20250221BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J50/40
(21)【出願番号】P 2021025634
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
(72)【発明者】
【氏名】仲 泰正
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-176697(JP,A)
【文献】特開2019-170146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/05
H02J 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電電極上を該電極に沿って移動する電動体に対し非接触で電力を伝送する無線給電装置であって、
高周波電力を供給する電源と、ジャイレータと、少なくとも4枚の受電電極と、
伝送線路を用いる少なくとも4枚の送電電極と、を備え、
該送電電極は、送電電力の波動が有する波長の2分の1の正の整数倍だけの物理長であり、かつ、該送電電極は、終端が適宜開放又は短絡される二種類とし、
該ジャイレータは、該高周波電源と終端が短絡された該送電電極との間に装荷され、
該送電電極の入力インピーダンスを短絡から開放に変化させることを特徴とする無線給電装置。
【請求項2】
前記受電電極が受ける電力を少なくとも4枚の電極を用いて電力合成を行うことを特徴とする請求項1に記載の無線給電装置。
【請求項3】
前記高周波電源と少なくとも4枚の前記送電電極の始端との間に装荷される第一の整合回路と、
終端が開放された該送電電極と該終端に接続された第一の負荷との間に装荷される第二の整合回路と、
終端が短絡された該送電電極と該終端に接続された第二の負荷との間に装荷される第三の整合回路と、を備え、
前記整合回路のうち第二および第三の整合回路が同一のインダクタ素子およびコンデンサ素子から構成されることを特徴とする請求項1および2に記載の無線給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線給電装置に関するものである。特に、無線給電エリア内の路面上において、電動体の位置に依らず、電界結合を用いて、無線で電力を当該電動体へ供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線給電技術において、インフラ設備における電極やコイルなど送電器に生じる送電電力の波動の定在波により電力伝送効率が低下することが知られている。特に、走行中の電動体に備えられた受電器に対し給電するには、受電器と送電器との相対的な位置に依存することなく給電できることが重要である。
【0003】
電界結合を用いる無線給電技術には次のものがある。
【0004】
例えば、特許文献1および2では、面状の給電(以下、「二次元給電」ということがある。)のための送電電極の構造が開示されている。しかしながら、送電電極に発生する定在波による給電電力の低下の影響を考慮していない。
【0005】
また、非特許文献1および2では、走行中給電のためのシステムが示されている。非特許文献1では、送電電極の途中に、送電電力の波動の波長に対し一定の間隔で、いわゆる左手系回路を挿入することで定在波を打ち消し、電力供給を一定の水準に保つことができる。さらに、非特許文献2では、送電電極を含む伝送線路を、可変リアクタンスを用いて終端することで、電動体の位置にしたがって定在波の位相を変化させるシステムが示されている。
【0006】
非特許文献1および2では、走行中給電の課題のひとつである、定在波による電力伝送効率の低下および反射電力の増加をともに解決しているが、非特許文献1では、送電電極が長くなるにつれて必要とされる、いわゆる左手系回路の挿入個数が増加し、無線給電システムの煩雑化およびコストの増加につながる課題があった。また、非特許文献2では、無線給電中は絶えず終端リアクタンスの可変制御が必要となり、無線給電システムの煩雑化およびコストの増加につながる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-32425号公報
【文献】特開2020-43686号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】鈴木良輝, 他5名,"バッテリーレス電動カート連続給電走行のための右手左手複合系電化道路," 電子情報通信学会論文誌C, vol.J99-C, no.4, pp.133-141, Mar.2016.
【文献】Sonshu Sakihara, 他3名, “Far-end reactor matching to a traveling load along an RF power transmission line,” IEICE Trans. Electron., vol.E101-A, no.2, pp.396-401, Feb. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、無線給電に係る上記の課題を鑑みなされたものであり、受電器を備える電動体と送電器との相対的な位置によらず、電動体への電力供給を高効率で行う無線給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る第一の無線給電装置は、送電電極上を該電極に沿って移動する電動体に対し非接触で電力を伝送する無線給電装置であって、
高周波電力を供給する電源と、ジャイレータと、少なくとも4枚の受電電極と、
伝送線路を用いる少なくとも4枚の送電電極と、を備え、
該送電電極は、送電電力の波動が有する波長の2分の1の正の整数倍だけの物理長であり、かつ、該送電電極は、終端が適宜開放又は短絡される二種類とし、
該ジャイレータは、該高周波電源と終端が短絡された該送電電極との間に装荷され、
該送電電極の入力インピーダンスを短絡から開放に変化させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る第二の無線給電装置は、本発明に係る第一の無線給電装置であって、前記受電電極が受ける電力を少なくとも4枚の電極を用いて電力合成を行うことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る第三の無線給電装置は、本発明に係る第一および第二の無線給電装置であって、
前記高周波電源と少なくとも4枚の前記送電電極の始端との間に装荷される第一の整合回路と、
終端が開放された該送電電極と該終端に接続された第一の負荷との間に装荷される第二の整合回路と、
終端が短絡された該送電電極と該終端に接続された第二の負荷との間に装荷される第三の整合回路と、を備え、
前記整合回路のうち第二および第三の整合回路が同一のインダクタ素子およびコンデンサ素子から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る無線給電装置によれば、送電電力の波動の影響を受けることなく、高効率に電力伝送を行うことができる。さらに、回路構成が能動素子や複雑な制御回路および制御ソフトウェアを必要としないため安定に動作する無線給電装置を安価に実装できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る無線給電装置の一実施形態を示す概要図である。
【
図3】本発明に係る無線給電装置の一実施形態におけるジャイレータのキャパシタおよびインダクタの比率(変換比率)による入力インピーダンスの変動を示すスミスチャートである。
【
図4】本発明に係る無線給電装置の一実施形態における入力および短絡終端との2ポートのインピーダンス整合を行うための回路トポロジの模式図である。
【
図5】本発明に係る無線給電装置の一実施形態における入力側およびと出力側の整合回路による2ポート同時のインピーダンス整合を示すグラフである。
【
図6】本発明に係る無線給電装置の一実施形態における入力および開放および短絡終端とのインピーダンス整合を行うための回路トポロジの模式図である。
【
図7】本発明に係る無線給電装置において送電電極に用いる伝送線路の始端の位置を揃えない場合の一実施形態を示す概要図である。
【
図8】本発明に係る無線給電装置において位相調整回路を用いる場合の一実施形態を示す概要図である。
【
図9】本発明に係る無線給電装置による電力伝送効率の位置依存性に関する物理シミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図10】本発明に係る無線給電装置による電力反射率の位置依存性に関する物理シミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、以下、図を参照しながら説明する。ただし、説明に使用する図面及び以下の説明は、本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0016】
終端条件もしくは長さの異なる送電伝送線路(送電電極)を用意し、送電電力の波動の定在波の節の発生位置を移動させる。当該送電伝送線路それぞれに受電電極を配置して受電することで、送電電力の波動の節に影響を避けた無線給電を実現できる。このとき、終端条件の可変制御を必要としない。
【0017】
【0018】
本発明に係る無線給電装置は、電源、ジャイレータ、4枚の受電電極および開放終端又は短絡終端の送電伝送線路から構成される。当該無線給電装置では、nを自然数、送電電力の波動の波長をλとするとき、nλ/2の物理長を持つ送電伝送線路上に受電電極を備えた電動体が配置される。このとき、送電電力の波長に応じ当該伝送線路上に定在波が発生する。定在波の形状は終端条件により異なり、開放終端条件では電力波動の節は当該伝送路上の中央に、一方、短絡終端条件では電力波動の節は当該伝送路上の両端に発生する。
【0019】
また、送電電力の反射率は、送電電力(入力電力)に対する電源への反射された電力の割合である。大きい反射電力は、電力伝送効率の低下に加えて、電源の故障の原因となる。そのため、電力反射率を低く抑える必要がある。
【0020】
当該物理シミュレーションでは、終端条件が異なる伝送線路、ジャイレータ、4枚の受電電極を使用する。当該ジャイレータは、短絡終端の伝送線路の入力部に装荷され、該伝送線路の入力インピーダンスを短絡から開放に変化させる役割を担う。これにより、短絡終端側の伝送線路において、入力部での仮想的な短絡による過電流の発生を抑制する。
【0021】
送電伝送線路上に発生する電界分布は、開放終端では該伝送線路の中央部に定在波の節が発生し、短絡終端では該伝送線路の端に定在波の節が発生する。
【0022】
電動体が前記伝送線路の中央に位置した場合、終端開放された伝送線路上では、発生する定在波の節により電力伝送効率が低下する。一方、終端短絡された伝送線路では、発生する定在波は腹となる。そこで、4枚の受電電極から受電電力を合成する。受電電力の合成により、発生する定在波の節の影響を低減させる。
【0023】
図2に本発明に係る整合回路を示す。当該整合回路は、送電側、開放終端側、短絡終端側の3つ(以下、第一から第三の整合回路と記す。)が必要である。当該整合回路は、送受電電極に50Ωの抵抗値を持つポートおよび電源の設置、該送電電極の電源側とは反対側のもう一方の他端(すなわち、終端)に50Ω負荷の設置を想定し、インピーダンス整合のため装荷される。
【0024】
当該整合回路は終端条件ごとに設計される必要がある。開放終端用の第二の整合回路は、電動体すなわち受電電極を送電伝送線路上の隅に設置した場合の物理シミュレーション結果を基に設計される。また、短絡終端用の第三の整合回路は、電動体すなわち受電電極を送電伝送線路上の中央に設置した場合の物理シミュレーション結果を基に設計される。
【0025】
整合回路の設計ステップは次の通りである。
【0026】
ステップ1 受電電極を開放および短絡終端条件の電力定在波の腹に置く。
【0027】
ステップ2 ジャイレータの素子値を調整して終端条件毎の入力インピーダンスを一致させる。
【0028】
ステップ3 一方の終端条件で2ポート同時のインピーダンス整合を行う。
【0029】
ステップ4 もう一方の受電電極にも整合回路を装荷して、電力伝送効率の位置依存性を求める。
【0030】
従来は、高周波回路ネットワークの入力が1ポート、出力が2ポートであるため、3ポート同時のインピーダンス整合が必要になるが、上記のステップを行うことで、2ポート同時のインピーダンス整合で設計した整合回路を用いることができるため、3ポート同時のインピーダンス整合を行う必要はなくなる。負荷が三つ以上になった場合も同様で、2ポート同時のインピーダンス整合を行うことで整合回路を設計できる。
【0031】
図3に示すとおり、短絡終端の短絡部に発生する、インダクタンスによる影響が無視できない場合、ジャイレータの変換比率を調整することでその影響を抑えることができる。ジャイレータの変換比率は、送電伝送線路の特性インピーダンスZ
cとジャイレータに搭載されるインダクタLおよびキャパシタCのリアクタンス値との比率である。本発明に係る実施形態では、インダクタンスが小さくなるようするため、当該変換比率を1として設計する。
【0032】
図4は、入出力各2ポートを有するインピーダンス整合回路を設計するためのモデルを示す。入出力各3ポートへ拡張する場合においても、当該モデルをそのまま利用できる。
【0033】
図5は、
図4に示したインピーダンス整合回路の計算結果を示す。伝送電力を表すS21が高く、反射電力を表すS11が低くなっていることから、整合状態が確認できる。
【0034】
上記ステップ3における2ポート同時のインピーダンス整合により電力伝送効率は99.1%を達成した。
【0035】
図6において、開放及び短絡終端に装荷されるの第二および第三の整合回路は同じトポロジであり、同じ素子値を有する同一の整合回路とする。
【0036】
なお、上記の一実施形態では、すべての送電電極の両端の位置が揃い、仮想のひとつの矩形内に設置されているが、
図7に示すように、すべての送電電力の定在波の節が同じ位置に存在するのであれば、開放終端の送電伝送線路の開始位置をずらし、仮想のひとつの平行四辺形内に設置されるように配置してもよい。開放終端の伝送線路の2枚を1ペアとして、それを複数個、位置をずらして並列に並べる。こうすることで、電動体(受電器)の位置によらず、一定の電界強度で送受電器が結合される。つまり伝送効率の変動を抑制できる。
【0037】
さらに、
図8のように、送電伝送線路の入出力段に、整合回路の代わりに位相調整回路を挿入することでも同様の効果が得られる。任意の位相調整回路(例えばコンデンサやインダクタ)で終端することでも効果を得られる。電源に近い位相調整回路のうち、
図8中の上に位置する位相調整回路は、本発明に係る無線給電装置において送電電極の短絡端の伝送線路に対応し、同図中下に位置する位相調整回路は、本発明に係る無線給電装置においてジャイレータに対応する。
【実施例】
【0038】
電力伝送効率を入力電力P
inに対する、開放終端の負荷への出力電力P
out2および短絡終端の負荷への出力電力P
out3の合成電力P
out2+P
out3の割合とする。
図9に、本発明の係る無線給電装置による電力伝送効率の位置依存性に関する物理シミュレーションの結果を示す。本発明に係る無線給電装置は、受電器を備える電動体の位置に寄らず、95%以上の電力を安定して伝送できていることが示されている。
【0039】
図10は、本発明の係る無線給電装置による電力反射率の位置依存性に関する物理シミュレーションの結果を示している。本発明に係る無線給電装置では、受電器を備える電動体の位置に寄らず、電力反射率を5%以内に抑制されており、
図9の結果とともに高効率に電力の伝送ができていることが明らかである。