(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】バイオ炭の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/02 20060101AFI20250221BHJP
G01N 5/04 20060101ALI20250221BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20250221BHJP
G01N 25/58 20060101ALI20250221BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
G01N25/02 Z
G01N5/04 E
G01N25/20 G
G01N25/58
G01N33/22 A
(21)【出願番号】P 2024024251
(22)【出願日】2024-02-21
【審査請求日】2024-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開時に本願発明の特許を受ける権利を有する者であった宮崎崇は、令和5年9月7日から9月8日までの2日間開催された「第21回日本炭化学会総会ならびに研究発表会」において、バイオ炭の分析方法について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(74)【代理人】
【識別番号】100217467
【氏名又は名称】鶴崎 一磨
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇
(72)【発明者】
【氏名】梶本 武志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-191950(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103940697(CN,A)
【文献】特開2004-279073(JP,A)
【文献】特開平02-263143(JP,A)
【文献】特開2006-031558(JP,A)
【文献】立本 英機,2 木炭の種類と特性,千葉県木質バイオマス新用途開発プロジェクト サンブスギ木炭の新用途開発研究成果報告書(総括版:平成16年度~20年度),2023年,p. 9-13,<検索日:2024.12.27>, <URL: https://www.pref.chiba.lg.jp/shigen/biomass/documents/documents/p9-13.pdf>,<サンブスギ木炭の新用途開発研究成果報告書(総括版:平成16年度~20年度)URL: https://www.pref.chiba.lg.jp/shigen/biomass/documents/c-accomplishment-report.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00- 9/36
25/00-25/72
31/00-33/46
G06Q10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G16Z99/00
インターネット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ炭を熱重量法により分析する方法であって、
酸素非含有ガスの雰囲気下でバイオ炭からなる試料を900℃以上の第1温度帯まで昇温させる工程と、
前記試料を300℃以下の第2温度帯まで降温させる工程と、
酸素含有ガスの雰囲気下で前記試料を900℃以上の第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程と、
前記第1温度帯まで昇温させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の炭化温度を推定する工程と、
前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の二酸化炭素貯留量を推定する工程と、を含む、バイオ炭の分析方法。
【請求項2】
前記試料の炭化温度を推定する工程において、バイオ炭の原料種類毎に炭化温度と前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度の関係を分析したデータを予め蓄積しておき、前記試料の前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度を前記データと照合することで当該試料の炭化温度を推定する、請求項1に記載のバイオ炭の分析方法。
【請求項3】
バイオ炭を熱重量法により分析する方法であって、
酸素非含有ガスの雰囲気下でバイオ炭からなる試料を900℃以上の第1温度帯まで昇温させる工程と、
前記試料を300℃以下の第2温度帯まで降温させる工程と、
酸素含有ガスの雰囲気下で前記試料を900℃以上の第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程と、
前記第1温度帯まで昇温させる工程、前記第2温度帯まで降温させる工程、および前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の原料種類および炭化温度を推定する工程と、
前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の二酸化炭素貯留量を推定する工程と、を含む、バイオ炭の分析方法。
【請求項4】
前記試料の炭化温度と原料種類を推定する工程において、バイオ炭の原料種類毎に、炭化温度と、前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度、前記酸素非含有ガスの雰囲気下での重量減少率、前記酸素含有ガスの雰囲気下での熱分解温度、前記酸素含有ガスの雰囲気下での重量減少率、および残渣の割合の5つのパラメータと、の関係を分析したデータを予め蓄積しておき、前記試料における前記5つのパラメータを前記データと照合することで当該試料の原料種類および炭化温度を推定する、請求項3に記載のバイオ炭の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ炭の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ炭の土壌等への施用による炭素隔離(CCS; Carbon Capture and Storage)が大気中の二酸化炭素を簡便に削減する方法として世界的に注目されている。IPCC(規定気候変動に関する政府間パネル、Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告書には、バイオ炭施用による二酸化炭素貯留量の算定式の例が記載されており、バイオ炭の種類や炭化方法で分類された数値を用いて二酸化炭素貯留量の計算が可能である。しかし、この方法では施用するバイオ炭の炭質が明確にわからないと二酸化炭素貯留量を計算できない。そこで、この二酸化炭素貯留量を算定するために、現在JIS M8812(石炭類及びコークス類-工業分析方法)に基づいた炭質分析を行っている。しかし、JIS M8812による炭質分析では、分析に時間がかかることや、手分析のため分析者の違いによる誤差が大きいことが問題となっていた。石炭類やコークス類の分析においては、熱天秤装置を用いてJIS 8812と同様の温度プロファイルで水分、揮発分、固定炭素および灰分を測定することで、手分析によらずに測定ないし分析する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。バイオ炭の分析においては、炭化温度等の炭質を把握することが重要であるが、従来の方法ではバイオ炭の炭質に関する情報を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、炭質を効率よく分析するのに適したバイオ炭の分析方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題について本発明者らが鋭意検討した結果、熱重量法によりバイオ炭の重量を測定し分析するに際し、試料を所定の条件下で、昇温し、次いで降温し、その後再度昇温して燃焼させることにより、炭質(炭化温度および二酸化炭素貯留量)を推定することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明の第1の側面によって提供されるバイオ炭の分析方法は、バイオ炭を熱重量法により分析する方法であって、酸素非含有ガスの雰囲気下でバイオ炭からなる試料を900℃以上の第1温度帯まで昇温させる工程と、前記試料を300℃以下の第2温度帯まで降温させる工程と、酸素含有ガスの雰囲気下で前記試料を900℃以上の第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程と、前記第1温度帯まで昇温させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の炭化温度を推定する工程と、前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の二酸化炭素貯留量を推定する工程と、を含む。
【0007】
本発明の第1の側面の好ましい実施の形態においては、前記試料の炭化温度を推定する工程において、バイオ炭の原料種類毎に炭化温度と前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度の関係を分析したデータを予め蓄積しておき、前記試料の前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度を前記データと照合することで当該試料の炭化温度を推定する。
【0008】
本発明の第2の側面によって提供されるバイオ炭の分析方法は、バイオ炭を熱重量法により分析する方法であって、酸素非含有ガスの雰囲気下でバイオ炭からなる試料を900℃以上の第1温度帯まで昇温させる工程と、前記試料を300℃以下の第2温度帯まで降温させる工程と、酸素含有ガスの雰囲気下で前記試料を900℃以上の第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程と、前記第1温度帯まで昇温させる工程、前記第2温度帯まで降温させる工程、および前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の原料種類および炭化温度を推定する工程と、前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の二酸化炭素貯留量を推定する工程と、を含む。
【0009】
本発明の第2の側面の好ましい実施の形態においては、前記試料の炭化温度と原料種類を推定する工程において、バイオ炭の原料種類毎に、炭化温度と、前記酸素非含有ガスの雰囲気下での熱分解温度、前記酸素非含有ガスの雰囲気下での重量減少率、前記酸素含有ガスの雰囲気下での熱分解温度、前記酸素含有ガスの雰囲気下での重量減少率、および残渣の割合の5つのパラメータと、の関係を分析したデータを予め蓄積しておき、前記試料における前記5つのパラメータを前記データと照合することで当該試料の原料種類および炭化温度を推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るバイオ炭の分析方法によれば、バイオ炭の炭質(炭化温度および二酸化炭素貯留量)を推定することが可能である。バイオ炭の施用による炭素隔離においては、炭質を評価するうえで当該バイオ炭の炭化温度は重要な要素であるが、本発明によれば、バイオ炭の炭化温度を適切に推定することが可能である。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るバイオ炭の分析方法の第1実施形態において熱重量法による温度変化と試料重量の関係を示すグラフである。
【
図2】第1温度帯まで昇温させる工程において、炭化温度毎の試料重量の変化の一例を示すグラフである。
【
図3】第1温度帯まで昇温させる工程において、バイオ炭の原料種類に応じて、炭化温度と酸素非含有ガス雰囲気下での熱分解温度との関係を示すグラフである。
【
図4】工業分析における固定炭素と熱重量法における空気下重量減少率との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明に係るバイオ炭の分析方法の第2実施形態において熱重量法による温度変化と試料重量の関係を示すグラフである。
【
図6】バイオ炭の原料種類が異なる場合の温度変化と試料重量の関係を示すグラフである。
【
図7】バイオ炭の炭化温度が異なる場合の温度変化と試料重量の関係を示すグラフである。
【
図8】バイオ炭の炭化温度が異なる場合の温度変化と試料重量の関係を示すグラフである。
【
図9】温度変化と試料重量の関係から導き出された各種パラメータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
<第1実施形態>
本発明に係るバイオ炭の分析方法の第1実施形態について説明する。本実施形態では、バイオ炭の試料を調製し、当該試料の温度を変化させながら熱重量法により試料の重量を測定し、測定結果を分析した。また従来法である工業分析により上記試料の成分を分析し、本分析方法(熱重量法)と比較検討した。ここで、「バイオ炭」とは、生物由来の有機物(バイオマス)を炭化させた炭化物全般を意味する。バイオ炭の原料種類としては、例えば、木材由来、草本由来、もみ殻・稲わら由来、ムギ殻、麦わら由来、そば殻、豆殻、バガス、木の実由来、汚泥由来や家畜糞尿由来の炭化物、および竹炭など多種類が挙げられる。
【0015】
<試料の調製>
バイオ炭の原料となるバイオマスを所定温度で炭化処理することで試料を作製した。具体的には、バイオマス原料を電気炉に設置した半密閉の鉄製容器内で300~800℃の所定温度で熱処理し、バイオ炭試料を得た。バイオ炭の試料は、当該バイオ炭の原料種類毎に炭化温度が300℃、350℃、400℃、500℃、600℃、700℃および800℃のものをそれぞれ準備した。
【0016】
<熱重量法による試料の測定>
熱重量法による試料の測定ないし分析は、例えば熱天秤装置を使用して行う。本実施形態では、熱天秤装置を利用し、オートサンプラーと連携させて試料の分析を行った。まず、バイオ炭からなる試料を900℃以上に昇温させ(第1温度帯まで昇温させる工程)、次いで当該試料を300℃以下に降温させて冷却(第2温度帯まで降温させる工程)した後、900℃以上に再び昇温し燃焼させた(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)。試料を900℃以上に昇温させ(第1温度帯まで昇温させる工程)、次いで300℃以下に降温させる工程(第2温度帯まで降温させる工程)は、酸素非含有ガス(例えば窒素ガス)の雰囲気下で行う。その後試料を900℃以上に昇温し燃焼させる工程(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)は、酸素含有ガス(例えば空気)の雰囲気下で行う。そして、上記したように試料の温度を変化させる過程において試料重量(TG)を連続的に測定した。
【0017】
<工業分析>
比較検討のための工業分析は、JIS M8812(石炭類及びコークス類-工業分析方法)に準じて行い、揮発分、固定炭素、灰分の重量比率を求めた。
【0018】
図1は、熱重量法により測定した試料の温度変化と重量の関係の一例を示すグラフである。
図1に示した例では、まず、窒素ガス雰囲気下でバイオ炭からなる試料を室温から約950℃まで昇温させた(第1温度帯まで昇温させる工程)。このときの昇温速度は10℃/minとした。昇温後は約950℃の高温状態を約10分間維持した。次いで、試料を約260℃まで降温させた(第2温度帯まで降温させる工程)。このときの降温速度は10℃/minとした。降温後は約260℃の低温状態を約10分間維持した。その後、空気雰囲気下で試料を約950℃まで昇温し燃焼させた(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)。このときの昇温速度は10℃/minとした。
図1の細線は、試料の温度を表す。
【0019】
図1に示した例では、試料はアカマツ(木材由来)のバイオ炭であり、当該試料の炭化温度は500℃である。
図1の太線は、試料重量(TG)を表す。試料重量は、測定開始前の試料の重量に対する測定時の重量の割合を百分率で示したものである。なお、
図1に示した試料の温度変化は一例であり、本分析方法はこれに限定されない。試料の昇温速度や降温速度も同図の例に限定されない。
【0020】
<試料の炭化温度の推定>
熱重量法により上記のように試料を昇温、降温、昇温燃焼させて得られた測定結果の分析を行った。窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程(第1温度帯まで昇温させる工程)においては、試料の温度を上げていくと熱分解し、重量が減少する。ここで、試料の窒素ガス雰囲気下での熱分解温度は、当該試料の炭化温度と同程度、または当該炭化温度よりも高温であると考えられる。ここでは、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程において、各炭化温度毎の試料重量の変化を分析した。
【0021】
図2は、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程において、炭化温度毎の試料重量の変化の一例を示すグラフである。
図2は、アカマツ(木材由来)のバイオ炭からなる試料の重量変化を表す。具体的には、炭化温度毎に、試料温度と試料重量(TG)の関係を表す。試料温度が200℃付近を超えてくると、徐々に揮発分の熱分解による重量減少が始まる。当該重量減少開始時における試料重量曲線の変曲点の温度(
図2において当該変曲点をプロットしている)を、当該試料の窒素ガス雰囲気下での熱分解温度とした。
図2に示したグラフより、以下の(1)、(2)の知見が得られた。(1)試料の炭化温度が高温になるにつれて、熱分解温度も高温側にシフトする。(2)試料の炭化温度が高温になるにつれて、熱分解量が減少する。
【0022】
図3は、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程において、バイオ炭の原料種類に応じて、当該バイオ炭の炭化温度と窒素ガス雰囲気下での熱分解温度との関係を示すグラフである。
【0023】
このようにして得られたバイオ炭の原料種類毎の炭化温度と窒素ガス雰囲気下での熱分解温度の関係を既知のサンプルデータとして蓄積しておく。そして、分析対象となる新規のバイオ炭試料についても同様に、上記の本実施形態の熱重量法による測定を行う。当該分析対象のバイオ炭試料について、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程(第1温度帯まで昇温させる工程)での重量変化から求められた窒素ガス雰囲気下での熱分解温度を既知のサンプルデータと照合することで、分析対象のバイオ炭試料の炭化温度を推定することができる。
【0024】
<試料の二酸化炭素貯留量の推定>
図1を参照して上述した熱重量法による測定結果に基づき、バイオ炭の空気下での重量減少率を求めた。
図1に示した例において、矢印で示した「A」は窒素ガス雰囲気下での重量減少率(以下、適宜「窒素下重量減少率」という)に相当し、矢印で示した「B」は空気雰囲気下での重量減少率(以下、適宜「空気下重量減少率」という)に相当する。
図1に示したバイオ炭(原料はアカマツで炭化温度が500℃)の場合、窒素下重量減少率が約20%であり、空気下重量減少率が約79%である。なお、バイオ炭試料を窒素ガス雰囲気下で昇温させる工程(第1温度帯まで昇温させる工程)の初期において重量減少が見られるが、この重量減少分は、バイオ炭試料に残留していた水分に相当する。上記の窒素下重量減少率および空気下重量減少率は、水分が除去された後の試料重量を基準にして百分率で表したものである。この点は、後述の第2実施形態においても同様である。
【0025】
熱重量法により測定された窒素下重量減少率は、熱分解による重量減少分であり、工業分析(JIS M8812)における揮発分に対応している。熱重量法により測定された空気下重量減少率は、燃焼による重量減少分であり、工業分析における固定炭素に対応している。
【0026】
国が認証するJ-クレジット制度の方法論(AG-004)によると、バイオ炭施用によるクレジット化における二酸化炭素貯留量の計算には、炭化物の炭化温度の推定が必要であり、350℃以上の炭化温度の確認を必須としている。そのうえで、原材料や炭化方法別に所定の算定式を用いて固定炭素量に基づく二酸化炭素貯留量の算出が可能とされている。本実施形態においては、バイオ炭の複数の原料種類毎に、炭化温度が異なる試料それぞれについて、工業分析(JIS M8812)における固定炭素と熱重量法における空気下重量減少率を測定し、比較検討した。
【0027】
図4は、工業分析(JIS M8812)における固定炭素と熱重量法における空気下重量減少率との関係を示すグラフである。
図4に示すように、測定したバイオ炭の種類は、竹炭、アカマツ炭、コナラ炭、もみ殻炭、汚泥炭および糞炭であり、多種類に及ぶ。
図4に示した測定結果から、これら多種類のバイオ炭それぞれについて、固定炭素(%)と空気下重量減少率(%)とが互いに近似した値であり、両者に高い相関性が見られた。
【0028】
これにより、熱重量法において空気雰囲気下で試料を昇温し燃焼させる工程(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)でのバイオ炭試料の重量変化から求められた空気下重量減少率を、工業分析(JIS M8812)の固定炭素量に基づく二酸化炭素貯留量の算定式に当て嵌めることで、二酸化炭素貯留量を推定することができる。
【0029】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0030】
上述のように、本実施形態によれば、バイオ炭の炭質(炭化温度および二酸化炭素貯留量)を推定することが可能である。バイオ炭の施用による炭素隔離においては、炭質を評価するうえで当該バイオ炭の炭化温度は重要な要素であるが、本実施形態によれば、バイオ炭の炭化温度を適切に推定することが可能である。これにより、バイオ炭の炭質を評価する際に、当該バイオ炭の炭化温度が低温域(350℃以上450℃未満)、中温域(450℃以上600℃未満)、高温域(600℃以上)のいずれであるかを判定することができる。また、従来の工業分析(JIS M8812)における測定の所要時間は約10時間であり、手分析のため誤差が生じ得た。これに対して、本実施形態の熱重量法による測定の所要時間は、約4時間であり、測定時間の短縮および正確性が見込まれる。さらに、本実施形態の熱重量法では、オートサンプラーと連携させることで、試料分析をより効率よく行うことが可能である。
【0031】
<第2実施形態>
本発明に係るバイオ炭の分析方法の第2実施形態について説明する。本実施形態において、バイオ炭試料の調製、熱重量法による試料の測定、および比較検討のための工業分析については、上記の第1実施形態と同様である。
【0032】
図5は、熱重量法により測定した試料の温度変化と重量の関係の例を示すグラフである。
図5に示した例では、試料はもみ殻のバイオ炭であり、当該試料の炭化温度は300℃である。
図5に示した試料の温度変化の条件は、
図1に示した上記実施形態と同一条件とした。具体的には、まず、窒素ガス雰囲気下でバイオ炭からなる試料を室温から約950℃まで昇温させた(第1温度帯まで昇温させる工程)。このときの昇温速度は10℃/minとした。昇温後は約950℃の高温状態を約10分間維持した。次いで、試料を約260℃まで降温させた(第2温度帯まで降温させる工程)。このときの降温速度は10℃/minとした。降温後は約260℃の低温状態を約10分間維持した。その後、空気雰囲気下で試料を約950℃まで昇温し燃焼させた(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)。このときの昇温速度は10℃/minとした。
図5の細線は、試料の温度を表す。
図5の太線は、試料重量(TG)を表す。試料重量は、測定開始前の試料の重量に対する測定時の重量の割合を百分率で示したものである。なお、
図5に示した試料の温度変化は一例であり、本分析方法はこれに限定されない。試料の昇温速度や降温速度も同図の例に限定されない。
【0033】
<試料の炭化温度と原料種類の推定>
熱重量法により上記のように試料を昇温、降温、昇温燃焼させて得られた測定結果の分析を行った。本実施形態においては、
図5に示した試料重量の変化から、同図に示したA~Eの5つのパラメータに着目した。矢印で示した「A」は、窒素ガス雰囲気下での重量減少率に相当する。矢印で示した「B」は、空気雰囲気下での重量減少率に相当する。矢印で示した「C」は、残渣(灰分)の割合に相当する。図中の「D」は、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度を示す。当該窒素ガス雰囲気下での熱分解温度は、上記第1実施形態で説明したように、窒素ガス雰囲気下(第1温度帯まで昇温させる工程)での試料重量曲線の変曲点温度であり、重量減少の開始する温度である。図中の「E」は、空気雰囲気下での熱分解温度を示す。当該空気雰囲気下での熱分解温度は、空気雰囲気下(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)での試料重量曲線の変曲点温度であり、重量減少の開始する温度である。
【0034】
図6は、バイオ炭試料の原料種類が異なる場合における温度変化と試料重量の関係を示す。
図6に示した例においては、バイオ炭試料の原料は、鶏糞、アカマツ、コナラ、もみ殻であり、各試料の炭化温度は500℃である。
図6に表れているように、バイオ炭試料の原料種類が異なると、炭化温度が同じでも試料重量曲線は明らかに異なっていた。原料が鶏糞の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が38.8%、空気下重量減少率(パラメータB)が9.9%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が51.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が681.1℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が334.5℃であった。原料がアカマツの場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が20.1%、空気下重量減少率(パラメータB)が79.1%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が0.8%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が541.7℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が483.6℃であった。原料がコナラの場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が17.4%、空気下重量減少率(パラメータB)が80.4%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が2.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が541.7℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が477.8℃であった。原料がもみ殻の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が10.4%、空気下重量減少率(パラメータB)が45.4%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が44.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が540.3℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が414.0℃であった。特に、原料が鶏糞の場合、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が顕著に大きかった。もみ殻についても、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が比較的大きかった。
【0035】
図7は、バイオ炭試料の炭化温度が異なる場合における温度変化と試料重量の関係を示す。
図7に示した例においては、バイオ炭試料の原料はコナラであり、当該試料の炭化温度が300℃、500℃、700℃の場合を示している。
図7に表れているように、炭化温度が異なると、バイオ炭試料の原料種類が同じでも試料重量曲線は明らかに異なっていた。炭化温度が300℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が45.0%、空気下重量減少率(パラメータB)が54.1%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が0.9%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が352.8℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が477.8℃であった。炭化温度が500℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が17.4%、空気下重量減少率(パラメータB)が80.4%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が2.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が541.7℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が477.8℃であった。炭化温度が700℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が6.1%、空気下重量減少率(パラメータB)が88.6%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が5.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が750.0℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が476.3℃であった。上記結果から分かるように、バイオ炭試料(コナラ炭)の炭化温度が高くなるにつれて、窒素下重量減少率(パラメータA)が小さくなり、空気下重量減少率(パラメータB)が大きくなった。
【0036】
図8は、バイオ炭試料の炭化温度が異なる場合における温度変化と試料重量の関係を示す。
図7に示した例においては、バイオ炭試料の原料は鶏糞であり、当該試料の炭化温度が300℃、500℃、700℃の場合を示している。
図8に表れているように、炭化温度が異なると、バイオ炭試料の原料種類が同じでも試料重量曲線は明らかに異なっていた。炭化温度が300℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が47.2%、空気下重量減少率(パラメータB)が11.2%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が41.6%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が356.7℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が349.1℃であった。炭化温度が500℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が38.8%、空気下重量減少率(パラメータB)が9.9%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が51.3%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が681.1℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が334.5℃であった。炭化温度が700℃の場合、窒素下重量減少率(パラメータA)が36.8%、空気下重量減少率(パラメータB)が7.6%、残渣(灰分)の割合(パラメータC)が55.6%、窒素ガス雰囲気下での熱分解温度(パラメータD)が684.2℃、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)が331.6℃であった。上記結果から分かるように、バイオ炭試料(鶏糞炭)の炭化温度が高くなるにつれて、窒素下重量減少率(パラメータA)が小さくなり、空気下重量減少率(パラメータB)が大きくなった。また、上述の
図7に示した場合(バイオ炭試料の原料がコナラ)と比較すると理解されるように、バイオ炭試料の炭化温度が同じであっても、バイオ炭の原料種類が異なると、窒素下重量減少率(パラメータA)、空気下重量減少率(パラメータB)、残渣(灰分)の割合(パラメータC)、空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)等において、明らかな相違があった。
【0037】
図9は、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程(第1温度帯まで昇温させる工程)、試料を降温させる工程(第2温度帯まで降温させる工程)、空気雰囲気下で試料を昇温し燃焼させる工程(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)において、試料重量曲線から導出された上記のパラメータA~Eの一例を示す。
図9においては、複数のバイオ炭の原料種類毎に、炭化温度が異なる複数の試料のデータを示している。空気雰囲気下での熱分解温度(パラメータE)について、原料種類がアカマツ、コナラの場合と、もみ殻の場合と、鶏糞の場合とで、大きな違いがあることが分かる。
【0038】
このようにして得られたバイオ炭の原料種類毎に、複数の炭化温度における試料重量曲線(パラメータA~E)を既知のサンプルデータとして蓄積しておく。そして、分析対象となる新規のバイオ炭試料についても同様に、上記の本実施形態の熱重量法による測定を行う。当該分析対象のバイオ炭試料について、窒素ガス雰囲気下で試料を昇温させる工程(第1温度帯まで昇温させる工程)、試料を降温させる工程(第2温度帯まで降温させる工程)、空気雰囲気下で試料を昇温し燃焼させる工程(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)での試料重量曲線(パラメータA~E)を既知のサンプルデータと照合することで、分析対象のバイオ炭試料の原料種類および炭化温度を推定することができる。
【0039】
<試料の二酸化炭素貯留量の推定>
【0040】
熱重量法により測定された窒素下重量減少率は、熱分解による重量減少分であり、工業分析(JIS M8812)における揮発分に対応している。熱重量法により測定された空気下重量減少率は、燃焼による重量減少分であり、工業分析における固定炭素に対応している。
【0041】
J-クレジット制度の方法論(AG-004)によると、バイオ炭施用による二酸化炭素貯留量のクレジット化は、バイオ炭の生成時において350℃以上の炭化温度であることが成立条件である。本実施形態においては、バイオ炭の複数の原料種類毎に、炭化温度が異なる試料それぞれについて、工業分析(JIS M8812)における固定炭素と熱重量法における空気下重量減少率を測定し、比較検討した。
【0042】
上記の第1実施形態において
図4を参照して説明したように、
図4に示した測定結果から、竹炭、アカマツ炭、コナラ炭、もみ殻炭、汚泥炭および糞炭といった多種類のバイオ炭それぞれについて、固定炭素(%)と空気下重量減少率(%)とが互いに近似した値であり、両者に高い相関性が見られた。
【0043】
これにより、熱重量法において空気雰囲気下で試料を昇温し燃焼させる工程(第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程)でのバイオ炭試料の重量変化から求められた空気下重量減少率を、工業分析(JIS M8812)の固定炭素量に基づく二酸化炭素貯留量の算定式に当て嵌めることで、二酸化炭素貯留量を推定することができる。
【0044】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0045】
上述のように、本実施形態によれば、バイオ炭の炭質(原料種類、炭化温度および二酸化炭素貯留量)を推定することが可能である。バイオ炭の施用による炭素隔離においては、炭質を評価するうえで当該バイオ炭の原料種類および炭化温度は重要な要素であるが、本実施形態によれば、バイオ炭の原料種類および炭化温度を適切に推定することが可能である。これにより、バイオ炭の炭質を評価する際に、当該バイオ炭の炭化温度が低温域(350℃以上450℃未満)、中温域(450℃以上600℃未満)、高温域(600℃以上)のいずれであるかを判定することができる。また、従来の工業分析(JIS M8812)における測定の所要時間は約10時間であり、手分析のため誤差が生じ得た。これに対して、本実施形態の熱重量法による測定の所要時間は、約4時間であり、測定時間の短縮および正確性が見込まれる。さらに、本実施形態の熱重量法では、オートサンプラーと連携させることで、試料分析をより効率よく行うことが可能である。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【要約】
【課題】炭質を効率よく分析するのに適したバイオ炭の分析方法を提供する。
【解決手段】バイオ炭を熱重量法により分析する方法であって、酸素非含有ガスの雰囲気下でバイオ炭からなる試料を900℃以上の第1温度帯まで昇温させる工程と、前記試料を300℃以下の第2温度帯まで降温させる工程と、酸素含有ガスの雰囲気下で前記試料を900℃以上の第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程と、前記第1温度帯まで昇温させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の炭化温度を推定する工程と、前記第3温度帯まで昇温し燃焼させる工程における前記試料の重量変化に基づいて、前記試料の二酸化炭素貯留量を推定する工程と、を含む。
【選択図】
図1