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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】トレッドが改良された空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20250221BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C11/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022533434
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 FR2020052270
(87)【国際公開番号】W WO2021111083
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】1913722
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】デュラン-ガセリン ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】へロット ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ マリー-ロール
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-160982(JP,A)
【文献】特開2018-127601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0154696(US,A1)
【文献】特開2008-195099(JP,A)
【文献】特開2014-004844(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02676808(EP,A1)
【文献】特開2006-248305(JP,A)
【文献】特開平11-059123(JP,A)
【文献】特表2016-530156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0214437(US,A1)
【文献】特開2008-143331(JP,A)
【文献】特開平06-336101(JP,A)
【文献】特開昭62-157806(JP,A)
【文献】特表2013-512142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0298271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗用車用のタイヤ(1)であって、
トレッド面(22)を介して地面と接触することが意図されたトレッド(2)と、リムと接触することが意図された2つのビードと、クラウンを前記ビードに連結する2つのサイドウォールとを備え、
前記トレッドは、クラウン補強体(3)の半径方向外側にあり、前記クラウン補強体は、補強要素を含む少なくとも1つのクラウン層を備え、
前記トレッドは、中央部分と2つの軸方向外側部分とを有し、前記中央部分は、前記トレッド(2)の軸方向幅Lの90%に等しい軸方向幅を有し、
前記トレッドは、第1、第2及び第3のゴム配合物と呼ばれる、少なくとも3つのゴム配合物(221,222,223)を備え、
前記トレッドの前記中央部分は、少なくとも前記第1及び第2のゴム配合物(221,222)を備え、前記2つのゴム配合物は、前記トレッドの前記中央部分の体積の少なくとも90%を構成し、
前記トレッドの前記中央部分において、前記第1のゴム配合物(221)は前記第2のゴム配合物(222)の半径方向外側にあり、前記第1のゴム配合物(221)は前記トレッドの前記中央部分の体積の少なくとも40%、最大で60%を構成し、
前記第1及び第3のゴム配合物(221,223)は、前記トレッドの軸方向外側部分の体積の少なくとも90%を構成し、前記第3のゴム配合物は、前記第1のゴム配合物の軸方向外側にあって、軸方向外側部分の体積の少なくとも40%を構成し、
前記第2のゴム配合物(222)が、前記第1のゴム配合物(221)のショア硬さDS1に5を加えたものに少なくとも等しいショア硬さDS2を有し、前記第3のゴム配合物(223)のショア硬さDS3が、前記第1のゴム配合物(221)のショア硬さDS1と最大で等しく、各ショア硬さDS1、DS2、DS3が、ASTM規格2240-15e1に準拠して23℃で測定され、
前記第2のゴム配合物(222)が、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.75倍に等しく、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.25倍に等しい300%変形時の割線係数MA300_2を有し、前記第3のゴム配合物(223)が、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.9倍に等しく、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.3倍に等しい300%変形時の割線係数MA300_3を有し、
前記第2のゴム配合物(222)が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD0_1と少なくとも等しい、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2を有し、前記第3のゴム配合物(223)が、ASTM規格D 5992-96に従って温度0℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD0_1の最大で70%に等しい、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_3を有し、
ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD23_1が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第2のゴム配合物(222)の動的損失tanD23_2に最大で等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第3のゴム配合物(223)の動的損失tanD23_3が、ASTM規格D 5992-96に準拠し温度23℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD23_1の最大で70%に等しい、
ことを特徴とするタイヤ(1)。
【請求項2】
前記トレッド(2)の前記第1及び第2のゴム配合物(221,222)は、エラストマの100重量パーセントに少なくとも等しいシリカ充填材を備え、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される前記トレッド(2)の前記第1及び第2のゴム配合物(221,222)の動的損失tanD0_1及びtanD0_2は少なくとも0.7に等しく、前記トレッド(2)の前記第3のゴム配合物(223)は、エラストマの100重量パーセントに最大で等しいシリカ充填材を備え、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される前記トレッド(2)の第3のゴム配合物(223)の動的損失tanD0_3は、少なくとも0.22に等しい、
請求項1に記載のタイヤ(1)。
【請求項3】
前記第2のゴム配合物(222)は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD0_1の最大で1.2倍に等しい、
請求項1または2に記載のタイヤ(1)。
【請求項4】
ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第1のゴム配合物(221)の動的損失tanD23_1は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第2のゴム配合物(222)の動的損失tanD23_2の最大で0.8倍に等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される前記第3のゴム配合物(223)の動的損失tanD23_3は、最大で0.3に等しい、
請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項5】
前記第2のゴム配合物(222)は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される場合、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.9倍に等しく、前記第1のゴム配合物(221)の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.1倍に等しい、300%変形時の割線係数MA300_2を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項6】
前記第3のゴム配合物(223)は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300_3が、少なくとも1.5MPaに等しい、
請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項7】
前記第2のゴム配合物(222)は、ショア硬さDS2が前記第1のゴム配合物(221)のショア硬さDS1に最大で10を加えたものに等しい、
請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項8】
前記第3のゴム配合物(223)は、ショア硬さDS3が前記第1のゴム配合物(221)のショア硬さDS1から3を引いたものに最大で等しく、前記第1のゴム配合物(221)のショア硬さDS1から7を引いたものに少なくとも等しい、
請求項1から7のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項9】
前記トレッドの前記第3のゴム配合物(223)は、前記トレッドの一部を覆って前記トレッドの前記第1のゴム配合物(221)の半径方向内側にある、
請求項1から8のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【請求項10】
前記第3のゴム配合物(223)は、前記トレッドの軸方向外側部分の体積の少なくとも75%を占める、
請求項1から9のいずれか1項に記載のタイヤ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用のタイヤに関し、より詳細には、そのようなタイヤのトレッドに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、回転軸に関して回転対称性を示す幾何学的形状を有するので、タイヤの幾何学的形状は一般に、タイヤの回転軸を含む子午面内に描かれる。所与の子午面について、半径方向、軸方向及び周方向はそれぞれ、タイヤの回転軸に垂直な方向、タイヤの回転軸に平行な方向、及び子午面に垂直な方向を表す。
【0003】
以下において、「~の半径方向内側に」及び「~の半径方向外側に」という表現は、それぞれ、「~よりも、半径方向においてタイヤの回転軸に近い」及び「~よりも、半径方向においてタイヤの回転軸から遠い」を意味する。「~の軸方向内側に」及び「~の軸方向外側に」という表現は、それぞれ、「~よりも、軸方向において赤道面に近い」及び「~よりも、軸方向において赤道面から遠い」を意味する。赤道面とは、回転軸に垂直でトレッドの中央を通る周面である。
【0004】
「半径方向距離」とは、タイヤの回転軸に対する距離であり、「軸方向距離」とは、タイヤの赤道面に対する距離である。「半径方向厚さ」は半径方向に測定され、「軸方向幅」は軸方向に測定される。
【0005】
タイヤは、トレッド面を介して地面と接触することが意図されたトレッドと、トレッドの半径方向内側に少なくとも1つのクラウン補強体とを含むクラウンを備える。タイヤはまた、リムと接触することが意図された2つのビードと、クラウンをビードに連結する2つのサイドウォールとを備える。さらに、タイヤは、クラウンの半径方向内側にあって、2つのビードを連結する少なくとも1つのカーカス層を含むカーカス補強体を備える。
【0006】
従って、トレッドは、クラウン層の補強要素を被覆するゴム配合物を除いて、クラウン補強体の補強要素の半径方向最外層の半径方向外側にある1又は2以上のゴム配合物によって構成される。
【0007】
トレッドは、タイヤの各サイドウォール上に配置されたゴム配合物を含まず、その一部は、クラウン補強体の半径方向外側且つ軸方向外側とすることができる。特に紫外線に耐えるため、非常に特殊な組成物を有するサイドウォール配合物は、トレッドの表面及び体積から排除される。子午断面上表面の30%以上が半径方向最内クラウン層の半径方向内側にあるタイヤのゴム配合物は、トレッドの配合物ではなく、サイドウォール配合物である。
【0008】
「ゴム配合物」という表現は、少なくともエラストマ及び充填材を備えたゴムの組成物を意味する。
【0009】
本発明が検討するタイヤのトレッドは、互いに向き合い、互いにゼロでない距離だけ離間して底面で連結されている材料壁によって画定された空間に対応する切込みを備える。トレッドパターンの高さは、底面の半径方向最内点とトレッド面との最大半径方向距離である。これらの切込みは、濡れた地面でのグリップ力、特にアクアプレーニングの点で性能に必須である。地面とトレッドのゴム配合物を接触させるために、トレッド面と材料壁の界面で切込みが発生させる地面への過圧により、タイヤが走行する地面に存在する水膜が破壊される。また、この切込みは空隙体積を形成し、これによって、地面に存在し、タイヤが走行する地面とトレッド面が接触することによって移動する水を蓄えることが可能となる。この貯水容量は、アクアプレーニング性能にとって極めて重要である。
【0010】
タイヤの性能は、その摩耗に伴って変化する。トレッドパターンの高さが摩耗により減少するにつれて、タイヤの性能が変化し、ゴム配合物の変形厚さが減少するため転がり抵抗が減少し、トレッドパターンの剛性が増加して貯水容量が減少し、その結果としてアクアプレーニング性能が低下する。
【0011】
摩耗したタイヤについて、濡れた地面でのグリップ力、特にアクアプレーニングに関する性能をさらに向上させるために、1つの解決策は、新品状態のトレッドに0℃で高いヒステリシスを備えたゴム配合物を使用することである。しかしながら、0℃でそのような特性を有するゴム配合物は、23℃でも高いヒステリシスを有し、この特性が主として転がり抵抗を支配するので、この解決法は、転がり抵抗を大きく劣化させる。
【0012】
先行技術において、この目的は、タイヤがより磨耗するにつれて切込みを再形成する複雑なトレッドパターンを使用することによって達成される(欧州特許第2311655(A1)号、特開昭61-160303号)。これらの解決策は、複雑で、高価で、脱型が煩雑で、ゴムのチャンキングに敏感なタイヤ金型の製造を必要とする。
【0013】
他のタイヤは、欧州特許第3208110号、国際公開第2015/032601号、国際公開第2018/002487号、及び国際公開第2019/145621号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】欧州特許第2311655(A1)号明細書
【文献】特開昭61-160303号公報
【文献】欧州特許第3208110号明細書
【文献】国際公開第2015/032601号パンフレット
【文献】国際公開第2018/002487号パンフレット
【文献】国際公開第2019/145621号パンフレット
【文献】国際公開第2018/115722号パンフレット
【文献】国際公開第2012/069585号パンフレット
【文献】国際公開第2012/069565号パンフレット
【文献】国際公開第2012/069567号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、転がり抵抗を劣化させることなく、タイヤの寿命末期に濡れた地面で非常に良好なグリップ力を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、
・トレッド面を介して地面と接触することが意図されたトレッドと、リムと接触することが意図された2つのビードと、クラウンをビードに連結する2つのサイドウォールと、を備えた乗用車タイヤによって達成され、
・トレッドは、クラウン補強体の半径方向外側にあり、クラウン補強体は、補強要素を含む少なくとも1つのクラウン層を備え、
・トレッドは、中央部分と2つの軸方向外側部分とを有し、中央部分は、トレッドの軸方向幅Lの90%に等しい軸方向幅を有し、
・トレッドは、第1、第2及び第3のゴム配合物と呼ばれる、少なくとも3つのゴム配合物を備え、
・トレッドの中央部分は、少なくとも第1及び第2のゴム配合物を備え、これら2つのゴム配合物は、トレッドの中央部分の体積の少なくとも90%を構成し、
・トレッドの中央部分において、第1のゴム配合物は第2のゴム配合物の半径方向外側にあり、第1のゴム配合物はトレッドの中央部分の体積の少なくとも40%、最大で60%を構成し、
・第1及び第3のゴム配合物は、トレッドの軸方向外側部分の体積の少なくとも90%を構成し、第3のゴム配合物は、第1のゴム配合物の軸方向外側にあって、軸方向外側部分の体積の少なくとも40%を構成し、
・第2のゴム配合物は、ショア硬さDS2が第1のゴム配合物のショア硬さDS1に少なくとも5を加えたものに等しく、第3のゴム配合物のショア硬さDS3は、第1のゴム配合物のショア硬さDS1と最大で等しく、各ショア硬さDS1、DS2、DS3は、ASTM規格2240-15e1に準拠して23℃で測定され、
・第2のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数(secant tensile modulus)MA300_1の少なくとも0.75倍に等しく、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.25倍に等しい、300%変形時の割線係数MA300_2を有し、第3のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.9倍に等しく、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.3倍に等しい、300%変形時の割線係数MA300_3を有し、
・第2のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1と少なくとも等しく、第3のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_3が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1の最大で70%に等しく、
・ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD23_1は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第2のゴム配合物の動的損失tanD23_2に最大で等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第3のゴム配合物の動的損失tanD23_3は、ASTM規格D 5992-96に準拠し温度23℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD23_1の最大で70%に等しい。
【0017】
本発明は、本質的に3つのゴム配合物を備えたトレッドの独創的な使用から成る。第1及び第2のゴム配合物は、トレッドの中央部分の体積の90%を構成し、性能の観点から、地面と接触して非常に良好なグリップ力を提供するように設計されており、新品状態では第1のゴム配合物が、摩耗状態では本発明の実施形態に従って、第2のゴム配合物の少なくとも一部が摩耗した後には第2のゴム配合物が、グリップ力を提供する。グリップ性能のために設計された中央部分のこれら2つのゴム配合物と組み合わせて、地面と接触することができ、第1及び第2のゴム配合物と摩耗性能において類似するが、他の2つのゴム配合物のヒステリシスの増大を補償するためにヒステリシスを減少させた第3のゴム配合物が、トレッドの外側部分に配置される。
【0018】
これら3つのゴム配合物と組み合わせて、トレッドは、例えば、以下のいずれかを備えることができる:
-クラウン補強体の補強要素の半径方向最外層を被覆するゴム配合物と、トレッドの半径方向最内界面との間に置いて、これら2つの要素間の連結を提供するようにする、半径方向厚さの薄い0.4mm未満の層、
-タイヤが電気伝導度規格を満たせるように、タイヤが走行する地面とクラウンの補強要素との間にリンクを形成する、導電性のゴム配合物でできた軸方向幅の小さい10mm未満のストリップ。
【0019】
中央部分の体積の90%を占める第1及び第2のゴム配合物は、半径方向に配置され、第1のゴム配合物は、第2のゴム配合物の半径方向外側に配置される。ゴム配合物は両方とも、タイヤが走行する地面での走行に適合する特性、特に機械的特性を有するので、それらは互いに類似した摩耗ポテンシャルを有する。摩耗ポテンシャルは、特に、ASTM規格D 412-16-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300によって表される。転がり抵抗を改善するための周知の配置とは異なり、第2のゴム配合物は、ヒステリシスが非常に低くて摩耗ポテンシャルが非常に低い軟質材料ではない。第2のゴム配合物は、剛性でヒステリシスがある。同様に、第2のゴム配合物と比べて過度に摩耗する第1のゴム配合物を有することで、トレッドパターンの高さが濡れた地面での良好なグリップ力を可能にする使用期間が過度に縮まることになる。従って、第2のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.75倍に等しく、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.25倍に等しい、300%変形時の割線係数MA300_2を有する。
【0020】
ゴム配合物の様々な体積の各体積は、体積を評価するためにタイヤのトロイダル形状を考慮することにより、タイヤの子午断面上でそれらが占める表面積を考慮することで評価される。
【0021】
300%変形時の割線係数MA300が類似する2つのゴム配合物を有することで、より規則的で均一な摩耗が可能となり、従って、不規則な形態の摩耗を回避することが可能となる。このように、第2のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定された場合に、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の少なくとも0.9倍に等しく、第1のゴム配合物の300%変形時における割線係数MA300_1の最大で1.1倍に等しい、300%変形時の割線係数MA300_2を有することが好ましい。
【0022】
トレッド摩耗の末期に所望のウェットグリップ性能を達成する、好ましくは、使用することが必要でない場合、冬用タイヤのように複雑なトレッドパターンに頼ることなく達成するため、並びにトレッドパターン高さの減少を補償するために、第2のゴム配合物は、第1のゴム配合物より優れたグリップ性能を有することが必要である。従って、第2のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1と少なくとも等しい。本発明が目標とするグリップ力のレベルを達成するために、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_1及びtanD0_2は、好ましくは少なくとも0.7に等しい。
【0023】
ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定された場合に、このようなレベルの動的損失tanD0を達成するために、第1及び第2のゴム配合物は、エラストマの100パーセントに少なくとも等しい含有量でシリカ充填材を備える。
【0024】
タイヤの耐用期間中にグリップ力の不相応な変動を回避するために、第2のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1の最大で1.2倍に等しい。
【0025】
本発明が機能するためには、さらに、トレッドにおけるゴム配合物の位置、それらの剛性、及びそれらのヒステリシスの間に相乗作用を生み出すことが必要である。転がり抵抗を制限し、グリップ力を改善するために、本アイデアでは材料の剛性を高めて、エネルギ散逸を生み出す変形を制限するだけでなく、摩耗と関係するトレッドパターン高さの減少に伴って発生するブリスタリング現象に対抗するようになっている。
【0026】
高速での当業者によく知られている現象は、アクアプレーニングという現象である。速度と共に、接地面において1秒間に退避される水量が増加する。トレッドパターンの空隙率が一定であるため、この水量が空隙を全て満たす速度が存在する。さらに速度を上げると、もはや水が退避されなくなり、タイヤの前面に水面が形成され、接地面に過圧が発生する。この圧力の影響下で、接地面の表面積は、もはや車両のグリップ力を確保するのに十分でなくなるまで減少しやすく、アクアプレーニング現象が生じる。
【0027】
この現象の研究により、アクアプレーニング現象の主要なパラメータは、トレッドの空隙率であることが明らかになった。さらに詳しく調べてみると、トレッドの1又は2以上のゴム配合物の変形もこの性能に影響を与えることが分かった。水圧が高くなると、ゴム配合物の剛性に応じて、タイヤが走行している地面と接触する接地面部分の接触が失われることで、ブリスタリング現象が発生したりしなかったりする。この現象は、速度が低下した場合にも存在し、ゴムのグリップ力と剛性、さらに転がり抵抗という現象を結び付けることを可能にするであろう。具体的には、転がり抵抗は、トレッドのゴム配合物のヒステリシスに依存するが、それらの変形にも依存し、ひいてはそれらの剛性にも依存する。
【0028】
トレッドの摩耗に伴い、空隙体積が減少してグリップ力に影響を与える。接地面における水の退避は、より高い圧力で生じる。従って、剛性とグリップ力の相乗作用は、トレッドパターンの高さが低い場合に、なお一層効果的である。さらに、剛性の増加は、変形を抑えることで、転がり抵抗を抑えることを可能にする。驚くべきことに、目標とする性能的側面、グリップ力及び転がり抵抗に対して二次的に重要な現象に基づくこの推論は、相乗作用を効果的に生み出す本発明によるヒステリシス及び剛性記述子の範囲に亘って機能するトレッド材料で本発明が実施される限り、有効である。
【0029】
剛性に関して、第2のゴム配合物は、不規則な摩耗の問題を回避するために、ショア硬さDS2が第1のゴム配合物のショア硬さDS1に少なくとも5を加えたものに等しい、好ましくは第1のゴム配合物のショア硬さDS1に最大で10を加えたものに等しいことが必須である。
【0030】
トレッドのゴム配合物のヒステリシスに関して、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される動的損失tanD23_1は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される動的損失tanD23_2と最大で等しいことが必須である。好ましくは、転がり抵抗をさらに改善するために、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される動的損失tanD23_1は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される動的損失tanD23_2の最大で0.8倍に等しいことが有利である。第1のゴム配合物は半径方向で最も外側にあり、それゆえ最も変形が大きい。適切な転がり抵抗性能のために、それは、23℃で最もヒステリシスが小さいことが必要とされる。
【0031】
トレッドの中央部分で得られる相乗作用は、グリップ力、摩耗、挙動及びアクアプレーニングの性能の改善を可能にするが、転がり抵抗性能を劣化させる。この劣化を避けるために、本アイデアでは、トレッドの軸方向外側の部分のレベルにおいて、このゾーン特有の性質を考慮して、トレッドに第3の材料を導入するようになっている。
【0032】
第3の材料は、荷重及び横方向力に関して特に高い応力が掛かる間だけ、地面と接触する。トレッドの軸方向外側部分は、これらの部分が長手方向及び軸方向に二重に湾曲しているため、中央部分よりも遥かに大きな扁平変形を受ける。従って、第2のゴム材料の付加は、転がり抵抗の非常に有意な劣化に繋がり、第1のゴム配合物は、この比較的応力のないゾーンにおけるグリップ力の必要性という観点では、ほとんど関連がない。本アイデアは、トレッドのこれら軸方向外側部分に、第1のゴム配合物の近くで地面と接触するのに十分な剛性を持つが、23℃におけるヒステリシスが十分に小さくて、転がり抵抗の観点で第2のゴム配合物の導入を補償することのできる材料を配置することである。
【0033】
従って、第1及び第3のゴム配合物は、トレッドの軸方向外側部分の体積で少なくとも90%を構成する必要があり、第3のゴム配合物は、第1のゴム配合物の軸方向外側、すなわち、変形がより大きいゾーンに存在して、転がり抵抗を低減する。第3のゴム配合物は、転がり抵抗において最大限の改善をもたらすために、軸方向外側部分の体積の少なくとも40%、優先して75%、優先的には90%を含む。
【0034】
トレッドの軸方向外側部分における第1及び第3のゴム配合物の分布に関して解決策が可能であり、ここでは、同じ軸方向座標に2つのゴム配合物が存在する。この場合、第1のゴム配合物のより優れたグリップ特性を考慮すると、好ましい解決策は、トレッドの第3のゴム配合物が第1のゴム配合物の半径方向内側にあることである。
【0035】
転がり抵抗を著しく低減するためには、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第3のゴム配合物の動的損失tanD23_3は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD23_1の最大で70%に等しいことが必須欠である。好ましくは、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第3のゴム配合物の動的損失tanD23_3は、最大で0.3に等しく、優先して最大で0.25に等しく、優先的には最大で0.2に等しい。
【0036】
この23℃における動的損失の低下は、0℃における動的損失の低下を伴う。第3のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第3のゴム配合物の動的損失tanD0_3が、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1の最大で70%に等しいことが必須である。しかしながら、第3のゴム配合物は、極端な応力下における性能の良好な線形性のために、十分に高いグリップ性能を有することが好ましい。そのために、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定されるトレッドの第3のゴム配合物の動的損失tanD0_3は、少なくとも0.22に等しく、優先して少なくとも0.28に等しいことが好ましい。
【0037】
軸方向外側部分の動作モードを考慮すると、このヒステリシスの低下はまた、扁平化を促進するために、第2の材料に対して、さらに第1の材料に対しても第3の材料の剛性低下を伴う必要がある。従って、第3のゴム配合物のショア硬さDS3は、第1のゴム配合物のショア硬さDS1に最大で等しく、結果として事実上、トレッドの第2の材料のショア硬さDS2より小さく、好ましくは第1のゴム配合物のショア硬さDS1から3を引いた値に最大で等しいことが必須である。しかしながら、第1のゴム配合物と第3のゴム配合物とのショア硬さの差は、これらの部分をそれらの界面の微小亀裂生成に対して敏感にし、偏摩耗を発生させる可能性がある。従って、それら双方のショア硬さは近い値であることが好ましく、すなわち、第3のゴム配合物は、第1のゴム配合物のショア硬さDS1から7を引いた値に少なくとも等しいショア硬さDS3を有することが好ましく、乗用車タイヤに用いられるゴム配合物の範囲では、優先して少なくとも45に等しい、優先的には少なくとも50に等しいショア硬さを有することが好ましい。
【0038】
軸方向外側部分は、中央部分と同様に、クラウン補強体の補強要素の半径方向最外層を被覆するゴム配合物と、トレッドの半径方向最内界面との間に位置付けられ、これら2つの要素間の連結を提供するようにする、半径方向厚さの薄い0.4mm未満の層を備える。
【0039】
トレッドは、新品時に又はタイヤが完全に摩耗してしまう前に、第3のゴム配合物が地面に接触するように設計される。第3の材料は、地面と接触する能力を有することが必須である。さらに、第3の材料は、トレッドの軸方向外側部分の摩耗が中央部分の摩耗と揃うように(特にこれらの部分間の界面において)。機械的特性の観点から、第1のゴム配合物に十分に近い必要がある。従って、第3のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300_3が、第1のゴム配合物の300%変形時の割線係数MA300_1の少なくとも0.9倍に等しいことが必須である。同様に、偏摩耗の発生傾向を回避するため、第3のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300_3が、少なくとも1.5MPaに等しい、優先して少なくとも1.7MPaに等しい、最大で2.4MPaに等しい、優先的には最大で2.2MPaに等しいことが好ましい。
【0040】
これらの性能を達成するために、好ましい解決策は、第3のゴム配合物が、最大でエラストマの100重量パーセントに等しいシリカ充填材を備えることである。
【0041】
ゴム配合物の特性は、タイヤから採取した接着試験片で測定される。ASTM規格D 5992-96(2006年9月発行版、1996年初承認)において図X2.1に記載されるような試験片(円形バージョン)が使用される。試験片の直径「d」は10mm[-0~+0.04mm]、ゴム配合物の各部分の厚さ「L」は2mm[1.85~2.20]である。
【0042】
これらの特性は、加硫処理された試験片についてMetravib VA4000タイプの粘度分析器で測定される。
【0043】
複素弾性係数、弾性係数及び粘性係数という用語は、当業者には周知の動的特性を意味する。「複素弾性係数」G*は、以下の関係によって定義される:G*=√(G’2+G”2)、ここで、G’は弾性係数を表し、G”は粘性係数を表す。力と変位の間の位相角δは、動的損失tanδとして表現され、比率G”/G’に等しい。
【0044】
平衡位置に関して対称的に課せられた、周波数10Hzの単純な交番正弦波剪断応力を受けた加硫処理されたゴム配合物の試料の応答が記録される。温度掃引測定に先立って、試験片を適応ませる。そのために、試験片は、10Hz、100%フルスケール変形、23℃で掛けられる正弦波剪断応力を受ける。
【0045】
温度掃引測定は、材料のガラス転移温度Tg未満の温度Tminから、材料のゴム状平坦域に対応し得る温度Tmaxまで、毎分1.5℃ずつ増加する温度曲線上で行われる。掃引を開始する前に、試料を温度Tminで20分間安定させて、試料全体の温度を均一にするようにする。選択された温度及び選択された応力において利用される結果は、一般に、弾性部分G’、粘性部分G”、及び比率G”/G’に等しい損失因子tanDとして表現される力と変位の間の位相角δから成る動的複素剪断弾性係数G*である。ガラス転移温度Tgは、温度掃引の間に動的損失tanDが最大値に達する温度である。
【0046】
本発明が最適に機能するために、第1のゴム配合物は、タイヤの導電性を保証するのに必要な場合があるゴム配合物は別として、トレッドの半径方向最外側部分のほぼ全てを構成することが好ましい。従って、第1のゴム配合物は、摩耗インジケータの半径方向最外点の半径方向外側にあって、摩耗インジケータの当該点から2mmに等しい半径方向距離だけ離間した点の半径方向外側にあるトレッドの中央部分の体積の少なくとも90%を構成していることが好ましい。
【0047】
好ましい解決策は、提供されるグリップ力がタイヤの寿命末期に有効であるように、第2のゴム配合物が摩耗インジケータの上方に存在し、この第2のゴム配合物の23℃におけるヒステリシスの転がり抵抗へ影響が制限されたままであるように、摩耗インジケータの上方2mmという限界を超えてはいけない。従って、好ましい解決策は、第2のゴム配合物は、摩耗インジケータの半径方向最外点を通る軸方向直線と、摩耗インジケータの半径方向最外点の半径方向外側にあり、摩耗インジケータの半径方向最外点から2mmに等しい半径距離に位置する点との間で、トレッドの中央部分の少なくとも20%を構成する。
【0048】
転がり抵抗を改善するための有利な解決策は、トレッドパターンの底部、周方向ファロウ(furrow)の底部、トレッドパターン要素のグリップ力又は剛性に寄与しないが転がり抵抗の点で性能に寄与する溝の底部が、第1のゴム配合物で作られることである。従って、有利な解決策は、少なくとも1つの周方向ファロウを備えたタイヤについて、各ファロウの底面と鉛直方向に一致する半径方向厚さが0.5mmであるトレッドの部分が、第1のゴム配合物で構成されることである。
【0049】
クラウン補強体のアタックに対する良好な耐性のための好ましい解決策は、トレッドパターンの溝の底部とクラウン補強体の半径方向最外補強要素との間に、半径方向厚さが少なくとも1mmに等しいトレッドのゴム層が存在することである。このゴム配合物の層は、主にトレッドの第1のゴム配合物でできている。転がり抵抗を最適化するために、この層は、可能な限り薄くすると同時に、衝撃の際にクラウン補強体の保護を可能にする必要があり、すなわち、この層は、最大で2.5mmに等しい、好ましくは最大で2mmに等しい必要がある。この層は、半径方向最外クラウン層の補強要素の半径方向最外点から、周方向ファロウ又は溝の底面の点までの子午断面上で測定される。
【0050】
従って、好ましい解決策は、溝の半径方向最内点とクラウン補強体との間の半径方向距離が、少なくとも1mmに等しく、最大で2.5mmに等しく、優先的には最大で2mmに等しいことである。
本発明の特徴及び他の利点は、本発明によるタイヤのクラウンの子午半断面を表す図1及び2の助けを借りて、より良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】第3のゴム配合物223がその半径方向厚さに亘って第1のゴム配合物の軸方向外側にある、本発明の一実施形態を示す。
図2】第3のゴム配合物が第1のゴム配合物221の軸方向外側にあるが、これら2つのゴム配合物がトレッドの軸方向外側部分の一部分226に存在する、本発明の変形形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
タイヤは、トレッド面22を介して地面と接触することが意図されたトレッド2を有する。トレッドは、少なくとも3つのゴム配合物221、222、223を備える。第1及び第2のゴム配合物221、222は、トレッドの中央部分の体積の少なくとも90%を構成する。中央部分は、トレッドの軸方向幅Lの90%に等しい軸方向幅を有する。第1及び第3のゴム配合物221、223は、トレッドの軸方向外側部分の少なくとも90%を構成する。
【0053】
トレッド2は、タイヤが電気伝導度規格に適合するように、クラウン補強体とトレッド面のリンクを形成する小さな軸方向幅の部分224を中央部分に有することもできる。
【0054】
クラウン補強体3とトレッド2の接合を確実にするために、トレッドが、最大で0.4mmに等しい半径方向厚さを有するゴムカップリング化合物225を備えることも可能である。
【0055】
また、摩耗インジケータ、その半径方向最外点11、並びに最外点11の半径方向外側で半径方向距離2mmにある点12が図示される。点12の半径方向外側にあるトレッドの部分は、少なくとも90体積%の第1のゴム配合物221を備え、残りの体積%は、軸方向幅の小さい、トレッド面とクラウン補強体の接合を可能にする導電性ゴム配合物224である。
【0056】
点11を通る直線と点12によって形成される直線との間にあるトレッドの部分は、40体積%の第2のゴム配合物を備える。
【0057】
タイヤはまた、トレッド2の半径方向内側にあって、複数層の補強要素を含むクラウン補強体3を備える。図に示す半径方向内側の2つの層は、2つのワーキング層であり、その単一層で互いに平行な補強要素は、周方向と絶対値で17~50°の角度を成す。補強要素は、1つの層から別の層へと交差している。半径方向最外層はフーピング層であり、その補強要素は、周方向と-7~+7°の角度を成す。
【0058】
図はまた、トレッド幅Lの決定方法を示している。トレッドの幅Lは、公称リムに装着されて、公称圧力まで膨らんだタイヤについて決定される。トレッド面とタイヤの残部との間に明らかな境界がある場合、トレッドの幅は、当業者によって自明な方法で決定される。トレッド面21がタイヤのサイドウォール26の外側横面と連続している場合、トレッドの軸方向限界は、トレッド面21への接線と軸方向YY’との成す角度が30°に等しい点を通過する。子午面において、その角度が30°に等しい点が複数存在する場合、半径方向最外点が採用される。トレッドの幅Lは、赤道面の両側にあるトレッド面の2つの軸方向限界間の軸方向距離に等しい。
【0059】
図1は、第3のゴム配合物223がその半径方向厚さに亘って第1のゴム配合物の軸方向外側にある、本発明の一実施形態を示している。図2は、第3のゴム配合物が第1のゴム配合物221の軸方向外側にあるが、これら2つのゴム配合物がトレッドの軸方向外側部分の一部分226に存在する、本発明の変形形態を示している。この構成において、好ましい解決策は、図2に示すように、第3のゴム配合物が第1のゴム配合物の半径方向内側にあることである。
【0060】
本発明者らは、公称幅225mmのサイズ225/45 R17のタイヤについて、本発明に基づく試験を実施した。
【0061】
従来設計の、本発明によらない対照タイヤTは、2つのゴム配合物221及び222を備える。第1のゴム配合物は、転がり抵抗を低減するという従来の目的で設計された第2のゴム配合物よりも、剛性でヒステリシスがあり、それゆれより粘着性であるが、より散逸性である。従って、第2のゴム配合物は、タイヤが走行する地面と接触するようには設計されていない。2つのゴム配合物は、それぞれ以下のような特性を有する。
・第1のゴム配合物のショア硬さDS1は、64に等しく、第1のゴム配合物のショア硬さDS2は、63.5に等しく、各ショア硬さDS1、DS2はASTM規格2240-15e1に準拠して23℃で測定される。
・第1のゴム配合物は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される、1.77MPaに等しい300%変形時の割線係数MA300_1を有する。第2のゴム配合物の300%変形時の割線係数MA300_2は測定できず、MA300測定条件に達する前に破断してしまう、というのは、このゴム配合物は、ヒステリシスが非常に小さく、タイヤが走行する地面と接触するように設計されていないからである。
・第2のゴム配合物は、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tanD0_2が0.23に等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD0_1は0.69に等しい。
・ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第1のゴム配合物の動的損失tanD23_1は0.38に等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される第2のゴム配合物の動的損失tanD23_2は0.15に等しい。
【0062】
タイヤTのトレッドは、70体積%の第1のゴム配合物と30体積%の第2のゴム配合物とで構成されている。2つのゴム配合物の配置は、タイヤTの先行技術に従って最適化され、すなわち、摩耗インジケータの半径方向最外点より下のトレッドの部分は、トレッドの全幅に亘って第2のゴム配合物で構成される。
【0063】
本発明は、より剛性で、よりグリップ力があり、従ってより散逸性であり、そしてまた第1のゴム配合物の摩耗性能に近いトレッド用ゴム配合物を第1のゴム配合物の半径方向内側に配置し、第3のゴム配合物をトレッドの半径方向外側部分に導入することによって、この設計論理を逆転させることにある。トレッドの中央部分は、58%の第1のゴム配合物と、42%の第2のゴム配合物42%とで構成される。タイヤA1では、トレッドの軸方向外側部分が第3のゴム配合物で構成されている。
【0064】
タイヤA1の3つのゴム配合物は、それぞれ以下のような特性を有する。
・第2のゴム配合物222は64に等しいショア硬さDS2を有し、第1のゴム配合物は57に等しいショア硬さDS1を有し、第3のゴム配合物は52に等しいショア硬さDS3を有し、各ショア硬さDS1、DS2、DS3は、ASTM規格2240-15e1に準拠して23℃で測定される。
・第2のゴム配合物222は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300_2が1.6MPaに等しい、すなわち、1.5MPaに等しい第1のゴム配合物221の300%変形時の割線係数MA300_1の1.07倍である。第3のゴム配合物223は、ASTM規格D 412-16に準拠して23℃で測定される300%変形時の割線係数MA300_3が1.8MPaに等しく、第1及び第2のゴム配合物221、222に対して10~15%の摩耗の低下を表す。
・第1及び第2のゴム配合物221、222はそれぞれ、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される動的損失tandD0_1及びtanD0_2が0.76に等しく、ASTM規格D 5992-96に準拠して温度0℃、10Hzで測定される第3のゴム配合物223の動的損失tanD0_3は0.29に等しく、これにより、地面と接触するゴム配合物として使用するのに相応しいものとなる。
・第1のゴム配合物221の動的損失tanD23_1は0.39に等しく、第2のゴム配合物222の動的損失tanD23_2は0.51に等しく、第3のゴム配合物223の動的損失tanD23_3は0.13に等しく、全てASTM規格D 5992-96に準拠して温度23℃、10Hzで測定される。
【0065】
タイヤA1に関する第1、第2及び第3のゴム配合物221、222、223の組成を、以下の表1を参照して説明する。
【表1】
【0066】
各エラストマ1、2及び3は、国際公開第2018/115722号に記載される各エラストマC、D及びAとそれぞれ同一である。カーボンブラックはN234等級であり、キャボット・コーポレーション社(Cabot Corporation)から供給される。シリカはHDSタイプであり、ロディア社(Rhodia)から参照番号Z1165MPで供給される。レジンは、エクソンモービル・ケミカルズ社(ExxonMobil Chemicals)から参照番号PR-383で供給される。抗酸化剤は、フレクシス社(Flexsys)から供給されるN-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンである。液状シランは、デグサ社(Degussa)から参照番号TESPT Si69で供給される。DPGは、フレクシス社(Flexsys)から参照番号Perkacitで供給されるジフェニルグアニジンである。CBSは、参照番号Santocure CBSでフレクシス社(Flexsys)から供給されるN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾルスルフェンアミドである。
【0067】
当然のことながら、他の組成物は、特定の用途に適した特性を得るために、しかしながら本発明の範囲から逸脱することなく、その様々な構成要素の含有量を変化させて使用することができる。
【0068】
特に、シリカの含有量が比較的高い、国際公開第2012/069585号、国際公開第2012/069565号及び国際公開第2012/069567号に開示される組成物から着想を得ることが可能であろう。
【0069】
タイヤT及びA1を様々な性能的側面について試験した。タイヤT(ベース100)と比較して、本発明によるタイヤA1は、20℃のアスファルトコンクリート上での新品時のウェット制動を+7%、寿命末期においてトレッドパターン高さが2mm残っている時のウェット制動を+9%改善することを可能にする。ウェットクロスグリップも改善され(+3.5%)、サーキット上でのドライ挙動は参照物と同等であり、転がり抵抗は対照のそれと等しい。
【0070】
本発明のタイプのタイヤであるが、軸方向外側部分が第1のゴム配合物で構成される場合、同じ性能が得られものの、転がり抵抗において約5~10%の不利益がある。
【0071】
従って、本発明は単独で、対照と等しい転がり抵抗性能を維持しつつ、新品時に及びタイヤの寿命末期に改善されたグリップ性能を得ることを可能にする。
図1
図2