(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20250221BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20250221BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20250221BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20250221BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20250221BHJP
C22C 1/051 20230101ALI20250221BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 C
B23B27/14 B
B23P15/28 Z
B24C1/10 E
B24C1/10 G
B24C11/00 D
C22C1/051 H
(21)【出願番号】P 2022536520
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086723
(87)【国際公開番号】W WO2021122960
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-19
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブロムクヴィスト, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ホルムストレーム, エーリク
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-230589(JP,A)
【文献】特開2008-000885(JP,A)
【文献】特開2009-000807(JP,A)
【文献】原田泰典ら,高速度工具鋼の表面特性に及ぼす微細ショットピーニングの影響,砥粒加工学会誌,日本,2007年,Vol.51, No.3,P.30-35,<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsat/51/3/51_3_161/_pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 7/00
B23B 27/14
B23P 15/28
B24C 1/10,11/00
C22C 1/051,29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金の基材を含む切削工具であって、前記超硬合金は金属バインダー中に硬質成分を含み、硬質成分はWCを含み、超硬合金中のWC含有量は80~96重量%であり、超硬合金は、Ni含有量が2.5~13重量%であり、Fe/Niの重量比が<1.5であり、Co/Niの重量比が<0.825であり、前記切削工具は、すくい面、逃げ面、およびそれらの間の切れ刃を含み、硬度H[HV100]は、ビッカース圧痕が100×9.81Nの荷重でなされて測定され、耐クラック性Wは、
と定義され、
Pは、ビッカース硬度圧痕の荷重[N]であり、
は、ビッカース硬度圧痕のコーナーに形成される各亀裂の平均亀裂長さ[μm]であり、すくい面の硬度H(rake)とすくい面の耐クラック性W(rake)との積は、
3000HV100×N/μm<H(rake)×W(rake)
<7000HV100×N/μ
mであり、切削工具のバルク領域で測定されるWは、W(bulk)であり、
2.5<W(rake)/W(bulk)
<4である、切削工具。
【請求項2】
超硬合金は、x重量%のNi、y重量%のFe、およびz重量%のCoを含み、5<x+y+z<13である、請求項1の切削工具。
【請求項3】
切削工具のすくい面の硬度H(rake)と切削工具の逃げ面の硬度H(flank)との関係は、0.9<H(rake)/H(flank)<1.1である、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
切削工具のすくい面の硬度H(rake)と切削工具のバルク領域の硬度H(bulk)との関係は、0.9<H(rake)/H(
bulk)<1.1である、請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
切削工具のすくい面で測定される耐クラック性WはW(rake)であり、切削工具の逃げ面で測定されるWはW(flank)であり、W(rake)/W(flank)>
2である、請求項1から4のいずれか一項に記載
の切削工具。
【請求項6】
切削工具のすくい面の硬度H(rake)は、>1300HV10
0である、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
切削工具のすくい面の耐クラック性は、W(rake)>1.5N/μ
mである、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
切削工具のすくい面上の表面領域で測定される残留応力は、圧縮であり、>1500MP
aであり、応力測定は、X線回折およびWCの(211)反射を使用するsin
2Ψ法でなされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
超硬合金は、2.5~7重量%のNi、0.5~3重量%のFe、0.1~0.5重量%のC
o、および残部のWCを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項10】
超硬合金は、Ti、Nb、Ta、Mo、Re、Ru、Cr、Zr、V、Nの1つ以
上、および残部のWCを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項11】
前記切れ刃の少なくとも一部の縁の丸みERは、10μm~50μ
mである、請求項1から10のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項12】
超硬合金基材を含む切削工具を製造する方法であって、
前記超硬合金は、金属バインダー中に硬質成分を含み、硬質成分はWCを含み、超硬合金中のWCの含有量は、80~96重量%であり、超硬合金は、Ni含有量が2.5~13重量%、Fe/Niの重量比が<1.5、Co/Niの重量比が<0.825であり、切削工具(1)は、すくい面(2)、逃げ面(3)、およびそれらの間の切れ刃を含み、ショットピーニングは、少なくともすくい面(2)上で行われ、方法は、切削工具のすくい面をショットピーニングするステップを含み、前記ショットピーニングは、100~600
℃の温度で行われる、方法。
【請求項13】
ショットピーニングは、セラミックビーズ
で行われる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金の切削工具に関し、超硬合金は、金属バインダーおよびWCを含む硬質成分を含む。切削工具の表面領域の耐クラック性は、工具のバルク領域における耐クラック性より高い。
【背景技術】
【0002】
金属切削用途用の切削工具は、一般的には超硬合金の基材を含む。超硬合金は、高硬度および高靭性の両方を示す材料であり、切削用途における性能は数十年間成功を収めている。切削工具の性能をさらに向上させるために、耐摩耗性コーティングで工具をコーティングすることが知られている。ウェットブラスト、ドライブラスト、エッジブラシおよび/または研磨などのステップを含むポスト処理と呼ばれるプロセスで切削工具を処理することも知られている。これらのポスト処理プロセスは、典型的には、切削工具の表面粗さおよび/または切削工具の表面領域における残留応力を変化させる。
【0003】
超硬合金のショットピーニングの影響は、Wangらによる「Effect of shot peening on the residual stresses and microstructure of tungsten cemented carbide」、Materials and Design 95、2016年、159~164頁に記載されている。CoおよびWCの両方において、表層において圧縮残留応力が引き起こされることが示されている。
【0004】
製造で時間を節約し、破損した切削工具による不具合の危険性を低減するために、切削工具の寿命および性能を向上させる連続するニーズがある。超硬合金中のCoの量を低減し、金属切削性能において従来のCo含有超硬合金と競合することができる代替の超硬合金を発見するニーズがさらにある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、金属切削用途での向上した耐摩耗性を備えた切削工具を提供することを目的とし、それを製造する方法を提供することも目的とする。本発明は、切れ刃でのコーティングの欠損に対して高抵抗を備えた切削工具を提供することもさらなる目的とする。本発明は、切れ刃の欠損および/または切削工具の破損に対して高抵抗を備えた旋削工具を提供することを別の目的とする。
【0006】
これらの目的の少なくとも1つは、請求項1に記載の切削工具、および請求項12に記載の方法で達成される。好ましい実施形態は、従属クレームにおいて挙げられる。
【0007】
本発明は、超硬合金の基材を含む切削工具であって、前記超硬合金は金属バインダー中に硬質成分を含み、硬質成分はWCを含み、超硬合金中のWC含有量は80~96重量%であり、超硬合金は、Ni含有量が2.5~13重量%であり、Fe/Niの重量比が<1.5であり、Co/Niの重量比が<0.825であり、前記切削工具は、すくい面、逃げ面、およびそれらの間の切れ刃を含み、硬度H[HV100]は、ビッカース圧痕が100×9.81Nの荷重でなされて測定され、耐クラック性Wは、
と定義され、
Pは、ビッカース硬度圧痕の荷重[N]であり、
は、ビッカース硬度圧痕のコーナーに形成される各亀裂の平均亀裂長さ[μm]であり、すくい面の硬度H(rake)とすくい面の耐クラック性W(rake)との積は、H(rake)×W(rake)>2000HV100×N/μm、好ましくは>3000HV100×N/μm、より好ましくは>3500HV100×N/μmである、切削工具に関する。
【0008】
通常、最も技術的な複合材料、例えば、超硬合金材料について、靭性の向上は、硬度の減少に関係している。本明細書に記載された特定組成の範囲で材料を処理することによって、耐クラック性が硬度を失わずに向上されたことが意外にも分かった。切削工具用途の靭性と耐塑性変形性(つまり、硬度)との組み合わせを示す1つの方法は、硬度Hと耐クラック性Wとの積、つまり、H×Wをもたらすことによる。H×Wがより高いと、切削工具は、クラック形成および塑性変形の両方により耐性がある。H×W>2000HV100×N/μm、好ましくは>3000HV100×N/μm、より好ましくは>3500HV100×N/μmのこの高い値は、粒子粒径、相の体積分率などの一般的な材料設計変数を変化することによって達成することができない。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金は、x重量%のNi、y重量%のFe、およびz重量%のCoを含み、5<x+y+z<13である。この範囲内のバインダー含有量の超硬合金は、金属切削工具の用途に適している靭性と耐塑性変形性との良好な組み合わせを有する。特定の金属切削用途によって、バインダーの量は、当業者によって最適化することができる。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面の硬度H(rake)と切削工具の逃げ面の硬度H(flank)との関係は、0.9<H(rake)/H(flank)<1.1である。すくい面および逃げ面のいずれかにおいて、高い耐クラック性は、硬度を低下させることによって達成することができるが、これは、切削工具寿命時間に悪影響を及ぼす耐塑性変形性を低下させるであろう。両方の面の高硬度は、切削工具の耐摩耗性に有利である。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面の硬度H(rake)と切削工具のバルク領域の硬度H(bulk)との関係は、0.9<H(rake)/H(bulk)<1.1である。切削工具の表面領域およびバルクの両方における高硬度は、金属切削用途での切削工具の耐摩耗性に有利である。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面で測定される耐クラック性Wは、W(rake)であり、切削工具の逃げ面で測定されるWは、W(flank)であり、W(rake)/W(flank)>2、好ましくは>2.5である。金属切削の間に生じる亀裂は、通常、切削工具のすくい面側で起こり、したがって、すくい面の良好な耐クラック性は、金属切削用途に有利である。さらに、すくい面のみがショットピーニングされ、逃げ面側はわずかに重要性が低い場合、切削工具製造プロセスは比較的単純になる。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面で測定される耐クラック性WはW(rake)であり、切削工具のバルク領域で測定されるWはW(bulk)であり、W(rake)/W(bulk)>2、好ましくは>2.5、より好ましくは>3である。金属切削の間に生じる亀裂は、通常、切削工具のすくい面側に起こり、したがって、すくい面の良好な耐クラック性は、金属切削用途に有利である。亀裂は、通常、バルクにではなく切削工具の表面に現れ、したがって、表面領域における高い耐クラック性は有利である。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面の硬度H(rake)は、>1300HV100、好ましくは>1400HV100、より好ましくは>1500HV100である。切削工具の表面領域、特に、金属切削用途の間に被加工材料に接する切削工具の領域における高硬度は、超硬合金の耐摩耗性が向上される点で有利である。さらに、基材上に塗布されるセラミックコーティングは、硬度がより高い基材上でより長く耐えることができ、それによって切削工具の寿命を向上する。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面の耐クラック性は、W(rake)>1.5N/μm、好ましくは>2.0N/μm、より好ましくは>2.2N/μmである。金属切削の間に生じる亀裂は、切削工具の寿命を制限する。したがって、すくい面の耐クラック性を向上させると、金属切削用途での切削工具の工具寿命は長くなるであろう。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、切削工具のすくい面の表面領域で測定される残留応力は、圧縮であり、>1500MPa、好ましくは>2000MPa、より好ましくは>2200MPaであり、応力測定は、X線回折およびWCの(211)反射を使用するsin2Ψ法でなされる。圧縮応力は、好ましくは<3500MPa、より好ましくは<3000MPaである。圧縮残留応力は、亀裂の形成を抑制する。したがって、すくい面の耐クラック性を向上させると、金属切削用途での切削工具の工具寿命は長くなるであろう。
【0017】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金は、2.5~7重量%のNi、0.5~3重量%のFe、0.1~0.5重量%のCoを含み、好ましくは、超硬合金は、2.5~5.5重量%のNi、0.5~3重量%のFe、0.1~0.3重量%のCo、および残部のWCを含む。
【0018】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金は、Ti、Nb、Ta、Mo、Re、Ru、N、Cr、Zr、V、Nの1つ以上を含み、好ましくは、超硬合金は、5~7重量%のNi、0.5~1.5重量%のFe、0.2~0.4重量%のCo、およびTi、Nb、Ta、Mo、Re、Ru、Cr、Zr、V、Nの1つ以上を含み、より好ましくは、超硬合金は、1.5~2.5重量%のTi、0.25~0.75重量%のNb、2.5~3.5重量%のTa、0.05~0.2重量%のN、5~7重量%のNi、0.5~1.5重量%のFe、0.2~0.4重量%のCo、および残部のWCを含む。この特定の組成は、鋼旋削用途に有利な立方晶炭化物を含まない表面ゾーンを形成するのに最適である。立方晶炭化物を含まない表面ゾーンを備えた切削工具は、良好なバルク耐塑性変形性を維持しながら、向上した耐亀裂成長性を有する。
【0019】
本発明は、さらに、超硬合金基材を含む切削工具を処理する方法であって、前記超硬合金は、金属バインダー中に硬質成分を含み、硬質成分はWCを含み、超硬合金中のWCの含有量は、80~96重量%であり、超硬合金は、Ni含有量が2.5~13重量%、Fe/Niの重量比が<1.5、Co/Niの重量比が<0.825であり、切削工具(1)は、すくい面(2)、逃げ面(3)、およびそれらの間の切れ刃を含み、前記ショットピーニングは、少なくともすくい面(2)で行われ、方法は、切削工具のすくい面をショットピーニングするステップを含む、方法に関する。この特定の超硬合金組成へのショットピーニングは、硬度が維持されながら、表面の耐クラック性を向上させ、それによって、硬度と耐クラック性との組み合わせを向上させることが意外にも分かった。
【0020】
本発明の1つの実施形態において、ショットピーニングは、100~600℃、好ましくは200~550℃、より好ましくは300~500℃の温度で行われる。この高温でのショットピーニングは、特定の超硬合金の特性を、以前に到達していない耐クラック性のレベルおよび/または残留応力のレベルに向上させることが驚くべきことに分かった。
【0021】
本発明のショットピーニングは、1つの実施形態において高温で行われ、この温度は、ショットピーニングされる材料(切削工具の一部)がショットピーニングの間の温度として本明細書において定義される。いくつかの方法、例えば、誘導加熱、抵抗加熱、高温面/オーブン上の予熱、レーザー加熱などを使用して、切削工具の一部の高温を生じることができる。切削工具は、あるいはショットピーニングステップの前に別個のステップで加熱することができる。
【0022】
温度は、温度を測定するのに適切な任意の方法によって基材上で適切に測定される。好ましくは、赤外線温度測定装置が使用される。
【0023】
基材の一部は、前記温度でショットピーニングを受ける。切削工具が加熱される場合にショットピーニングで切削工具を処理することによって、切削工具の寿命を向上させるための重要な特性である表面領域におけるその耐クラック性が向上することが意外にも分かった。
【0024】
本発明の1つの実施形態において、前記切れ刃の少なくとも一部の縁の丸みERは、10μm~50μm、好ましくは20μm~40μmである。本方法によって作製された切削工具は、このERを備えた切削工具で優良に機能することが驚くべきことに分かった。
【0025】
本発明の1つの実施形態において、ショットピーニングは、セラミックビーズ、好ましくはZrO2、SiO2、およびAl2O3を含むビーズで行われる。媒体のタイプに依存して、当業者は、切削工具に供給されるエネルギーのレベルを最適化し、それによって、ショットピーニングプロセスを最適化することができる。
【0026】
本発明の1つの実施形態において、ショットピーニングは、平均直径が約50~200μmのビーズで行われる。ビーズがあまりにも大きい場合、切れ刃を破損する危険性が高まる。ビーズが小さすぎる場合、媒体から基材に供給されるエネルギーおよび衝撃はほとんど顕著ではなくなる。ショットピーニング時のビーズからの衝撃またはエネルギーは、これが切削工具の表面および切れ刃を破損する危険性を増すので、高すぎるべきではない。ビーズからの衝撃またはエネルギーは低すぎるべきではなく、技術的効果がその時達成されないからである。ビーズの適切なサイズはビーズの材質と関連し、当業者によって選択される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】切削工具インサート1の全体図であり、切削工具インサート1は、すくい面2、逃げ面3、およびそれらの間に設けられた切れ刃を備える。
【
図2】切れ刃の断面の全体図であり、縁の丸みERが示され、さらに切れ刃の幅Aが概略的に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
「超硬合金」は、連続金属バインダーに分散された硬質成分または連続金属バインダーに埋め込まれた骨格を形成する硬質成分を含む材料である。硬質成分は主としてWCを含む。この種の材料は、金属バインダーからの高靭性と硬質成分からの高硬度を組み合わせた特性を有しており、金属切削工具用の基材材料として適切である。
【0029】
超硬合金「の組成」または超硬合金「中の含有量」は、本明細書において超硬合金基材中の平均組成または平均含有量を意味する。例えば、切削工具が少なくとも数mmの大きさであるので、表面ゾーンでの傾斜、例えば基材の表面からバルクへの15~30μmは、局所的により高い金属バインダー含有量で、切削工具の超硬合金基材の平均組成を変化させない。
【0030】
超硬合金の「金属バインダー」は、焼結中に金属バインダーに溶解される元素、例えばWCから生じるWおよびCを含むことができる。どのようなタイプの硬質成分が存在するかに依存して、他の元素をバインダーに溶解することもできる。
【0031】
「切削工具」は、本明細書において、金属切削用途、例えばインサート、エンドミル、またはドリル用の切削工具を意味する。適用分野は、旋削、フライス加工、または削孔とすることができる。
【0032】
「ER」は、縁の鋭さを示すことを意図する縁の丸みの値である。ERのより大きな値は切れ刃のより粗い形状を表し、一方、ERのより小さな値は鋭い切れ刃を表す。
【0033】
ERは、下記に従って算出される値として本明細書に定義される:
-切削工具をその座面上の平坦面または切削工具の対応面上に載せる。
-縁に接して、前記平坦面に垂直な切削工具の側に沿って第1の面を整列させ、例えば、切削工具1の逃げ面3に沿って測定する。
-前記平坦面と平行に、交点で前記第1の面と交差して第2の面を整列させ、前記第2の面は、縁に接して接点で測定し、例えば、前記第2の面は、切削工具1のすくい面2に沿って整列される。
【0034】
値「ER」は、第1の面と第2の面との交点と、第1の面と縁に近い切削工具との接点との距離に等しく、
図2を参照されたい。
【0035】
「ショットブラスト」は、本明細書において、砥粒を使用するプロセスを意味し、材料は、典型的に磨損によって処理面から取り除かれる。ショットブラストは、切削工具の分野で周知であり、例えば、切削工具上のコーティングにおいて残留応力を導入することが知られている。
【0036】
「ショットピーニング」は、本明細書において、切削工具の表面が、粒子、例えば、非研磨性であり、典型的には円形であるビーズを含む媒体を受けることを意味する。媒体は、硬質材料、例えば、酸化物、鋼、または超硬合金のビーズとすることができる。
【0037】
用語「バルク」は、本明細書において、切削工具の最奥部(中心)を意味する。
【0038】
用語「表面領域」は、本明細書において、本明細書に開示したショットピーニングプロセスによって影響を受ける基材の外側部分を意味する。
発明のさらなる実施形態
【0039】
本発明の1つの実施形態において、WC粒子サイズは基材全体にわたって均一である。不均一なWC粒子サイズは、異なるゾーンの熱機械特性の差により亀裂開始箇所を引き起こす可能性がある。
【0040】
本発明の1つの実施形態において、平均WC粒子サイズは、0.2~10μm、好ましくは0.5~3μmである。この範囲では、WCの粒子サイズは、金属切削インサート向けの超硬合金に最適である。金属切削用途によって、WC粒子サイズは、当業者によって最適化することができる。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金は、さらに、ガンマ相と呼ばれることがある立方相を含み、それは、Ti、Ta、Nb、Hf、Zr、V、およびCrから選択される1つ以上の元素の立方晶炭化物および/または炭窒化物の固溶体である。立方相の量は、面積%で、適切には2~25%、好ましくは3~15%である。これは、異なる方法で測定することができるが、1つの方法は、基材の断面の光光学顕微鏡像または走査電子顕微鏡(SEM)写真のいずれかの画像解析を行ってガンマ相の平均的な割合を算出することである。
【0042】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金は、立方相と、立方相を含まないバインダー相の豊富な表面ゾーンとを含む。表面ゾーンの厚さは、適切には2~100μm、好ましくは3~70μm、より好ましくは8~35μmである。厚さは、基材の断面のSEMまたはLOM画像上での測定によって決定される。それらの測定は、真の値を得るために、基材表面が適度に平坦な、つまり、縁に近くない、切れ刃またはノーズなどから少なくとも0.3mmの領域で行われるべきである。表面ゾーンとバルクとの境界は、SEMまたはLOM画像中の基材の断面を観察する場合に、通常全く異なる立方相の有無によって決定される。厚さは、表面と、表面ゾーンとバルクとの境界との距離によって決定される。「バインダーの豊富な」は、本明細書において、表面ゾーンでのバインダー相の含有量は、バルク中のバインダー相の含有量の、適切には1.05~1.65倍、好ましくは1.1~1.5倍であることを意味する。表面ゾーンでのバインダー相の含有量は、表面ゾーンの総厚み/深さの半分の深さで適切に測定される。バルクで行われた測定はすべて、表面ゾーンに近すぎない領域で行われるべきである。これは、本明細書において、バルクの微構造に対してなされるいずれの測定も、表面から少なくとも200μmの深さで行われるべきであることを意味する。
【0043】
立方相を含まない表面ゾーンは、本明細書において、表面ゾーンが立方相粒子を含まない、または非常に少ない、つまり0.5面積%未満の立方相粒子を含むことを意味する。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、切削工具は、コーティングを備えている。コーティングは、色層または耐摩耗性コーティングとすることができる。
【0045】
本発明の1つの実施形態において、コーティングの厚さは2~20μm、好ましくは5~10μmである。
【0046】
本発明の1つの実施形態において、コーティングは、CVDコーティングまたはPVDコーティングであり、好ましくは、前記コーティングは、TiN、TiCN、TiC、TiAlN、Al2O3、およびZrCNから選択された1つ以上の層を含む。コーティングは、TiCN層およびAl2O3層を含むCVDコーティングであることが好ましい。
【0047】
本発明の1つの実施形態において、コーティングは、内側TiCN層および外側α-Al2O3層を含むCVDコーティングである。
【0048】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金基材は、耐摩耗性PVDコーティングを備えており、それは、適切には窒化物、酸化物、炭化物、またはそれらとAl、Si、および周期表における4、5、および6族から選択された元素の1つ以上との混合物である。
【0049】
本発明の1つの実施形態において、切削工具は、すくい面、逃げ面、およびそれらの間の切れ刃を含み、前記ショットピーニングは少なくともすくい面で行われる。すくい面ピーニングは、作業材料が切削操作の間に切削工具に衝突し、したがって、基材に影響を及ぼすピーニングの間の機構が、基材の関連領域または体積で適用されるすくい面で行われるという点で有利である。多くの切削工具の形状について、これは、いくつかの切れ刃を同時に処理することを意味するので、すくい面でショットピーニングを適用することはさらに有利である。
【0050】
本発明の1つの実施形態において、ショットピーニングは、加熱された切削工具で行われ、方法は、ショットピーニング前のステップを含み、前記切削工具が加熱される。
【0051】
本発明の1つの実施形態において、方法は、さらに少なくとも切削工具の一部をショットブラストするステップを含む。好ましくは、一部は、少なくとも切れ刃の部分または切れ刃に近い領域を含む。
【0052】
本発明の1つの実施形態において、ショットブラストするステップは、ショットピーニング後に行われる。ショットピーニングの間の加熱は、ショットブラストからのそれなりのプラスの効果、例えば、コーティングにおける残留応力の誘導を弱める可能性があり、したがって、ショットブラスト前にショットピーニングを行うことを選択することによって、両方のプラスの効果を維持することができる。
【0053】
本発明の1つの実施形態において、ショットブラストおよびショットピーニングは、切削工具の同じ部分で行われる。これは、例えば、切削工具のより効果的な装填によって大規模な生産の間に有利である。
【0054】
本発明の1つの実施形態において、ショットピーニングは、切削工具の表面に垂直なショット方向に行われる。垂直のショットピーニングは、加熱ショットピーニングがこの方向である場合に、影響される基材の深さが最大である点で有利である。
【0055】
本発明の1つの実施形態において、切削工具1は、インサート、好ましくはフライスインサート、または旋削インサートである。
【0056】
本発明によるショットピーニングプロセスは、例えば、ブラッシング、研磨、ウェットブラスト、ドライブラストなどの切削工具を作製する技術において公知の他のプロセスステップと組み合わせることもできる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の例示的な実施形態を、参照実施形態と比較してより詳細に開示する。コーティングされた、およびコーティングされていない切削工具(インサート)を準備し、分析した。
【実施例1】
【0058】
(試料調製)
超硬合金の切削工具を、表1に従う原料組成に達するように原料から基材を形成することによって調製した。FeおよびNiを、金属(Ni
0.85、Fe
0.15)およびFeとして添加した。TaおよびNbをTaCおよび(Ta
0.6、Nb
0.4)Cとして添加した。TiおよびNを、(Ti
0.5、W
0.5)CおよびTi(C
0.5、N
0.5)として添加した。フライス加工および焼結の間に失われたカーボンを補うCを、カーボンブラックとして添加した。原料「WC-1」または「WC-2」としてWCを添加した。WC-1についての平均粒子サイズ(FSSS)は、1.24~1.44μm、WC-2については5.5~6.3μmであった。各原料の量は適しており、全体乾燥粉末重量に基づいて示され、残部はWCである。フライス加工、噴霧乾燥、プレス、および焼結を含む従来の方法に従って基材を製造した。インサートタイプのCNMG120408-PMの切削工具を形成した。例えば、Ni、Fe、Co、さらにWCの相対的な含有量は、原料乾燥粉末から焼結した超硬合金まで維持される。
【0059】
基材3の焼結の間に、約20μmの立方晶炭化物が無いゾーンを、基材の表面ゾーンに形成した。
【0060】
基材3を、CVDコーティングプロセスにおいてコーティングして層TiN/TiCN/α-Al2O3/TiNを堆積した。コーティング厚さの合計は約14μmであった。下側のTiNおよびTiCNの厚さは合計で約9μmである。
【0061】
すべてのタイプの基材の切削工具を、25℃の室温および500℃の高温でショットピーニングして比較試料1~3および発明試料1~3を形成した。
【0062】
試料のショットピーニングを、AUERマニュアルブラストキャビネットST700PS装置で行った。球形状で平均直径が約100μmのセラミックビーズのブラスト媒体(媒体Microblast(登録商標)B120)を用いた。セラミックビーズの粒子サイズは63~125μmであった。セラミックビーズは、60~70%のZrO2、28~33%のSiO2、および<10%のAl2O3の組成を有する。ショットガン圧を5バールに設定し、作業時間を20秒に設定し、ノズル直径は8mmであり、離間距離は100mmであった。切削工具のすくい面に垂直にピーニングを適用した。加熱ショットピーニングの場合には、切削工具をショットピーニング前に誘導コイルヒーターで加熱し、切削工具の温度を温度センサーで測定した。誘導ヒーターは、1.5kWのRimac誘導ヒーターであった。
【0063】
これらの後処理後の切削工具の切れ刃は、ERが約40μmであった。
ビッカースの測定
【0064】
ビッカース圧痕を、切削工具のすくい面および切削工具の断面に行った。ビッカース圧痕を逃げ面側でも行うことができる。
【0065】
コーティングされていない試料を、徐々に研磨して亀裂長さの測定に適切な表面を達成した。試料は、紙上の0.25μmのダイヤモンドペーストを使用して研磨し、および手でまたは中速および荷重35gでGatan社のディンプルグラインダーモデル656を使用して、20mm直径のフェルトホイール上の0.25μmのダイヤモンドペーストを使用して研磨した。後の亀裂長さの測定用の十分に研磨された領域を示す表面を達成するまで研磨を行った。
【0066】
コーティングされた試料を、TiCN層を切削工具のすくい面に露出するように標準的方法を使用して研磨した。バルク試料を、ダイヤモンドホイールを使用してすくい面に垂直にインサートを切断し、続いて、紙上の油に分散した9μmのダイヤモンド、次いで油に分散した1μmのダイヤモンドを使用して研磨することによって調製した。
【0067】
研磨された試料のビッカース硬度を、プログラム可能硬度試験機(KB Pruftechnik社によるKB30S)を使用して測定した。測定をEuro Products Calibration Laboratory(英国)に由来のテストブロックを使用してHV100に対して調整した。ビッカース硬度をISO EN6507に従って測定した。
【0068】
ビッカース硬度測定を、硬度試験機をプログラムしてある位置で圧痕を行うことによって行った。その後、圧痕を、特定荷重を使用して行う。少なくとも2つの平行HV100圧痕を少なくとも1.5mmの互いに離れた距離でなし、示された結果は平均値である。
【0069】
ビッカース窪みの各コーナーの亀裂の長さを分析し、カメラおよびコンピューターを備えたオリンパスBX51M光光学顕微鏡で測定した。ビッカース窪みの対角線がコンピュータースクリーン上に水平で垂直であるように、試験片およびカメラを配列した。少なくとも100倍の倍率を使用した。亀裂の先端を見つけるのが困難である場合、より高い倍率を適用して測定前の亀裂の先端を見つけた。各窪みの2つの対角線を測定し、亀裂を、それぞれの窪みのコーナーから亀裂の先端への窪みの延長した対角線への投影として測定した。
残留応力測定
【0070】
X線回折を使用していわゆるsin2Ψ法によって前述の試料の残留応力を決定した。この方法において、格子面間隔d(したがって歪み)のずれを、試料傾斜角Ψの関数として測定する。残留応力を、歪み対sin2Ψ曲線の直線勾配から得る。残留応力を、X線弾性定数を使用することによって歪み値から変換する。
【0071】
XRD測定を、IμS微小焦点放射源(CuKα放射線、λ=1.5418オングストローム)、Vantec-500領域検出器および1/4オイラークレードルを装備したDavinci設計のBruker DiscoverD8回折計で行った。117.32°2θに位置するWCの(211)反射を、歪み測定に使用した。残留応力測定を1~4の角度方向:Φ:0°、90°、180°、270°で行い、各Φ方向について10等距離のΨ角度(0°~50°)を測定時間400sで測定した。直径が1.0mmのコリメーターをすべての測定において使用した。
【0072】
結果の残留応力を、WCについてのX線弾性定数、ブラッグピーク(211)を使用することによって、歪みデータから得た。X線弾性定数をポアソン比ν=0.191およびヤング率=717.360GPaから算出した。
【0073】
試料をサンプルホルダに接着テープで取り付けた。
【0074】
XRDデータを、ソフトウェアDIFFRAC EVA(Bruker)およびHigh Score Plus(Malvern Panalytical)で分析した。ソフトウェアLEPTOS7(Bruker)を残留応力分析において使用した。
【0075】
本発明を様々な例示の実施形態に関連して記載しているが、本発明が開示した例示の実施形態に限定されず、これに対して添付の請求の範囲内で様々な変更および同等の配置を包含することを意図することが理解される。さらに、本発明の任意の開示した形態または実施形態は、一般的な設計事項の選択として、任意の他の開示または記載または示唆された形態または実施形態に組み込まれ得ることが認識されるべきである。したがって、本明細書に添付された添付の特許請求の範囲によって示される内容によってのみ発明は限定される。