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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20250221BHJP
   F01M 9/06 20060101ALI20250221BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20250221BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20250221BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250221BHJP
   F16C 33/41 20060101ALI20250221BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20250221BHJP
   F02F 1/20 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
F02F7/00 301F
F01M9/06 A
F01M1/06 K
F16C9/02
F16C19/06
F16C33/41
F16C33/44
F02F1/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023019309
(22)【出願日】2023-02-10
(65)【公開番号】P2024113982
(43)【公開日】2024-08-23
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 大
(72)【発明者】
【氏名】永田 渉
【審査官】齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-054607(JP,U)
【文献】特開2000-130563(JP,A)
【文献】特開2009-243288(JP,A)
【文献】特開2019-002498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
F01M 9/06
F01M 1/06
F16C 9/02
F16C 19/06
F16C 33/41
F16C 33/44
F02F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(23)内のピストン(25)の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト(21)と、
前記クランクシャフト(21)のジャーナル(21cL,21cR)を支持するクランクベアリング(50,60)と、
を備えた内燃機関(20)において、
前記クランクベアリング(50,60)は、内外輪(51,52又は61,62)間で複数のボール(53,63)を支持する樹脂製のリテーナー(54,64)を備え、
前記リテーナー(54,64)は、
前記クランクベアリング(50,60)の軸方向の一側に臨む第一端面部を、前記複数のボール(53,63)を支持する複数の突起(55c,65c)が形成された凹凸形状部(55,65)とし、
前記軸方向の他側に臨む第二端面部を、前記軸方向と直交する平面状に形成された、あるいは前記クランクベアリング(50,60)の径方向から見て前記凹凸形状部(55,65)よりも高低差の少ない凹凸形状に形成された凹凸抑制部(56,66)とし、
前記クランクベアリング(60)における前記軸方向で前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側は、前記クランクベアリング(60)に対するエンジンオイルの供給経路の上流側であり、
前記リテーナー(54,64)は、前記軸方向で前記凹凸抑制部(56,66)が前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側に位置するように配置されている
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記クランクベアリング(50,60)は、前記軸方向で一対に設けられ、
一対の前記クランクベアリング(50,60)の前記リテーナー(54,64)の前記凹凸抑制部(56,66)は、ともに前記軸方向で前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側に位置することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記クランクシャフト(21)を回転可能に収容するクランクケース(22)を備え、
前記クランクシャフト(21)のクランクウェブ(21bR)と、前記クランクケース(22)における前記クランクベアリング(50,60)を支持するベアリング支持部(22dR)および前記クランクベアリング(50,60)と、の間にオイル溜まり(35)が形成され、
前記オイル溜まり(35)内のエンジンオイルは、前記オイル溜まり(35)内に臨む環状のオイル分岐部(34)によって、前記クランクシャフト(21)のクランクピン(21a)への供給分と前記クランクベアリング(50,60)への供給分とに分けられ、
前記クランクウェブ(21bR)には、前記オイル分岐部(34)よりも外周側に、内周側を開口させた円板状のオイルセパレータ(33)が取り付けられ、
前記オイルセパレータ(33)の内径は、前記クランクベアリング(50,60)および前記オイル分岐部(34)の外径よりも大きい
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記クランクシャフト(21)を回転可能に収容するクランクケース(22)を備え、
前記クランクシャフト(21)のクランクウェブ(21bL)と、前記クランクケース(22)における前記クランクベアリング(50,60)を支持するベアリング支持部(22dL)および前記クランクベアリング(50,60)と、の間にエンジンオイルを浸入させる開口部(s4)が形成され、
前記クランクベアリング(50,60)における前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側の内側面(50a)は、前記ベアリング支持部(22dL)における前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側の内側面(22dL1)よりも、前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側に位置している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する燃費向上に関する研究開発が行われている。
例えば特許文献1には、ボールベアリングにおけるボール保持器(リテーナー)を合成樹脂製とした構造が開示されている。樹脂製リテーナーは、金属製リテーナーに比べて、生産性、柔軟性、耐摩耗性、耐食性等に優れ、かつ軽量化も図れるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-046069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃費向上に関する本技術において、上記従来の樹脂製リテーナーを車両用等の内燃機関に用いる場合、油室内での使用を考慮すると、樹脂製リテーナーにおけるボール保持側の凹凸形状がエンジンオイルをかき上げやすい。このため、ベアリングが回転することによるオイル攪拌抵抗が大きくなりやすいという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、樹脂製リテーナーを備えるベアリングを採用した場合のオイル攪拌抵抗を抑えることができる内燃機関を提供することを目的とする。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の第一の態様は、シリンダ(23)内のピストン(25)の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト(21)と、前記クランクシャフト(21)のジャーナル(21cL,21cR)を支持するクランクベアリング(50,60)と、を備えた内燃機関(20)において、前記クランクベアリング(50,60)は、内外輪(51,52又は61,62)間で複数のボール(53,63)を支持する樹脂製のリテーナー(54,64)を備え、前記リテーナー(54,64)は、前記クランクベアリング(50,60)の軸方向の一側に臨む第一端面部を、前記複数のボール(53,63)を支持する複数の突起(55c,65c)が形成された凹凸形状部(55,65)とし、前記軸方向の他側に臨む第二端面部を、前記軸方向と直交する平面状に形成された、あるいは前記クランクベアリング(50,60)の径方向から見て前記凹凸形状部(55,65)よりも高低差の少ない凹凸形状に形成された凹凸抑制部(56,66)とし、前記リテーナー(54,64)は、前記軸方向で前記凹凸抑制部(56,66)が前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側に位置するように配置されている。
この構成によれば、クランクシャフトを支持するボールベアリング(クランクベアリング)において、シリンダの中心軸側に位置する端面部を、平面形状等に形成された凹凸抑制部とすることで、以下の効果を奏する。すなわち、クランクベアリングにおけるシリンダの中心軸側には、クランクシャフトのクランクウェブの外側部が隣接する。クランクウェブの外側部には、クランクウェブがかき上げたエンジンオイルが多く付着している。このエンジンオイルをリテーナーの端面部が攪拌し難くなるので、クランクベアリングが回転する際に発生するオイル攪拌抵抗を少なくする構造とすることができ、その結果、エンジンの燃費向上を図ることができる。
【0007】
本発明の第二の態様は、上記第一の態様において、前記クランクベアリング(60)における前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側は、前記クランクベアリング(60)に対するエンジンオイルの供給経路の上流側である。
この構成によれば、クランクシャフトを支持するボールベアリング(クランクベアリング)において、エンジンオイルの供給経路の上流側に位置する端面部を、平面形状等に形成された凹凸抑制部とすることで、クランクウェブの外側部に多く存在する上流側のエンジンオイルを、リテーナーの端面部が攪拌し難くなる。これにより、クランクベアリングが回転する際に発生するオイル攪拌抵抗を少なくする構造とすることができ、その結果、エンジンの燃費向上を図ることができる。
【0008】
本発明の第三の態様は、上記第一又は第二の態様において、前記クランクシャフト(21)を回転可能に収容するクランクケース(22)を備え、前記クランクシャフト(21)のクランクウェブ(21bR)と、前記クランクケース(22)における前記クランクベアリング(60)を支持するベアリング支持部(22dR)および前記クランクベアリング(60)と、の間にオイル溜まり(35)が形成され、前記オイル溜まり(35)内のエンジンオイルは、前記オイル溜まり(35)内に臨む環状のオイル分岐部(34)によって、前記クランクシャフト(21)のクランクピン(21a)への供給分と前記クランクベアリング(60)への供給分とに分けられ、前記クランクウェブ(21bR)には、前記オイル分岐部(34)よりも外周側に、内周側を開口させた円板状のオイルセパレータ(33)が取り付けられ、前記オイルセパレータ(33)の内径は、前記クランクベアリング(60)および前記オイル分岐部(34)の外径よりも大きい。
この構成によれば、クランクウェブとベアリング支持部およびクランクベアリングとの間にオイル溜まりを形成し、オイル溜まり内のオイル分岐部でエンジンオイルをクランクピン用とクランクベアリング用とに分けて供給する構造において、オイルセパレータの内径がクランクベアリングおよびオイル分岐部の外径よりも大きいことで、オイルセパレータの内周側にクランクベアリングおよびオイル分岐部を入り込ませた入れ子構造とすることができ、オイル溜まりとオイル分岐構造とをコンパクトに構成することができる。また、オイルセパレータによりエンジンオイルに含まれる不純物をろ過することができる。そのため、クランクベアリングが回転する際に発生するオイル攪拌抵抗を少なくする構造とすることができ、その結果、エンジンの燃費向上を図ることができる。
【0009】
本発明の第四の態様は、上記第一から第三の態様の何れか一つにおいて、前記クランクシャフト(21)を回転可能に収容するクランクケース(22)を備え、前記クランクシャフト(21)のクランクウェブ(21bL)と、前記クランクケース(22)における前記クランクベアリング(50)を支持するベアリング支持部(22dL)および前記クランクベアリング(50)と、の間にエンジンオイルを浸入させる開口部(s4)が形成され、前記クランクベアリング(50)における前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側の内側面(50a)は、前記ベアリング支持部(22dL)における前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側の内側面(22dL1)よりも、前記シリンダ(23)の中心軸(C2)側に位置している。
この構成によれば、クランクウェブと、ベアリング支持部およびクランクベアリングと、の間にエンジンオイルを浸入させる開口部を形成しながら、クランクベアリングの内側面はベアリング支持部の内側面よりも左クランクウェブに近接させることで、クランクベアリングの内側面とクランクウェブの外側面との間のオイル流量を減少させる。これにより、クランクシャフトが回動することによりコンロッドの大端部周辺で掻き揚げられたエンジンオイルは、クランクウェブとベアリング支持部および左クランクベアリングとの間の開口部を通じてオイル貯留部に環流可能としながら、開口部内のエンジンオイルは、クランクベアリングの内側面とクランクウェブの外側面との間の隙間に供給されすぎない構造とすることができる。また、クランクベアリングのリテーナーは、凹凸抑制部がシリンダ中心側に位置するので、クランクベアリングの内側面とクランクウェブの外側面との間の隙間でのエンジンオイルの攪拌も抑えられる。その結果、オイル攪拌抵抗の増加による燃費への影響が抑えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂製リテーナーを備えるベアリングを採用した場合のオイル攪拌抵抗を抑えることができる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態におけるパワーユニットの右側面図である。
図2】上記パワーユニットにおけるクランク軸線およびシリンダ軸線に沿う断面図である。
図3図2における右クランクベアリング周辺の拡大図である。
図4図2における左クランクベアリング周辺の拡大図である。
図5】左右クランクベアリングのリテーナーを径方向から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、が示されている。図中線CLは実施形態のエンジン20の左右中央を示す。
【0013】
<パワーユニット>
図1は、例えばスクータ型の自動二輪車(鞍乗り型車両)に採用されるユニットスイング式のパワーユニットPUの前部を示している。パワーユニットPUの前部には、駆動源であるエンジン(内燃機関)20が備えられている。パワーユニットPUの後部の左右一側(実施例では左側)には、Vベルト式無段変速機(以下、単に変速機という。)41が一体に備えられている。エンジン20の駆動力は、変速機41等を介して、自動二輪車の駆動輪(後輪)に伝達される。パワーユニットPUは、エンジン20を主たる駆動源として後輪を駆動させて、自動二輪車を走行させる。パワーユニットPUは、駆動源に電気モータを含んでもよい。
【0014】
<エンジン>
図1図2に示すように、エンジン20は、クランクシャフト21を車幅方向(左右方向)に沿わせた単気筒エンジンである。エンジン20は、クランクシャフト21を回転可能に支持して収容するクランクケース22と、クランクケース22の前端部から前方に向けて略水平(詳細にはやや前上がり)に突出し、内部にシリンダ孔を形成するシリンダ23と、シリンダ孔内に往復動可能に嵌装され、クランクシャフト21のクランクピン21aにコンロッド24を介して連結されるピストン25と、を備えている。
【0015】
図中線C1はクランクシャフト21の回転中心軸線(クランク軸線)、線C2はシリンダ23のシリンダ孔の中心軸線(シリンダ軸線、シリンダ中心軸)をそれぞれ示す。クランク軸線C1は左右方向と平行である。シリンダ軸線C2は実施形態ではエンジン20の左右中央CLにあるものとする。実施形態で「軸方向(又は左右方向)内側」とは、クランク軸線C1に沿う方向(クランク軸方向、左右方向)でシリンダ軸線C2に近い側を示し、「軸方向(又は左右方向)外側」とは、クランク軸方向でシリンダ軸線C2から遠い側を示す。
【0016】
クランクケース22は、クランクシャフト21の左右クランクウェブ21bL,21bRおよびクランクピン21aを収容するクランク室形成部22aを形成している。クランク室形成部22aの下部は、エンジンオイルを貯留するオイル貯留部22bとされている。
シリンダ23は、クランクケース22の前端部に直に連結されるシリンダブロック23aと、シリンダブロック23aの前端部に連結されるシリンダヘッド23bと、シリンダヘッド23bの前端部を覆うヘッドカバー23cと、を備えている。シリンダ23内には、燃焼室23dが形成されている。
【0017】
ピストン25は、シリンダ23内を摺動可能である。ピストン25の往復動は、コンロッド24を介してクランクシャフト21に伝達される。ピストン25の往復動により、クランクシャフト21がクランク軸線C1を中心に回転する。シリンダヘッド23bの上部には吸気系部品が接続され、シリンダヘッド23bの下部には排気系部品が接続される。
シリンダヘッド23bの前部内には、カムシャフト27を含む動弁機構VMが構成されている。動弁機構VMは、不図示のバルブの開閉により燃焼室23dの吸気および排気を制御する。バルブの開閉は、カムシャフト27の回転により制御される。カムシャフト27は、クランクシャフトとカムチェーン30を介して連動する。
【0018】
カムシャフト27の左端部には、従動スプロケット28が取り付けられる。クランクシャフト21の左側には、カムドライブスプロケット29が支持されている。従動スプロケット28とカムドライブスプロケット29との間には、無端状のカムチェーン30が掛け渡されている。カムシャフト27は、クランクシャフト21の回転に連動して回転し、吸排気カムのパターンに応じて吸排気バルブを開閉させる。図中符号Pはシリンダヘッド23bに取り付けられた点火プラグを示す。
【0019】
クランクケース22の左右方向右側内には、ACG(AC Generator:交流発電機)37が収容されている。ACG37は、アウターロータ形式の回転電機である。ACG37は、ステータ38と、アウターロータ39と、を備えている。ステータ38は、クランクケース22に固定されている。アウターロータ39は、クランクシャフト21に固定されている。アウターロータ39は、ステータ38の外周を覆う円筒状を有している。ACG37は、発電機として機能する他、スタータモータとして機能したりアシストモータとして機能してもよい。
【0020】
アウターロータ39の右側には、ACG37およびシリンダ23を冷却するためのファン39aが取り付けられている。クランクケース22の左右方向右端には、ファン39aを覆うファンカバー39bが取り付けられている。ファンカバー39bの左右方向外側面には、網目状のグリルを有する冷却風取入口39cが形成されている。ファンカバー39bの前方には、空冷のエンジン20のシリンダ23の右側方の空間を覆うように導風カバー39dが連結されている。
【0021】
ACG37およびファン39aが配置される空間と、クランクケース22内の油室(クランク室形成部22aおよびオイル貯留部22b)との間は、クランクケース22の右側壁22cRによって隔てられている。図中符号22sRは右側壁22cRのクランク挿通孔とクランクシャフト21の右延長シャフト21dRとの間を油密にシールするシール部材を示す。
【0022】
<変速機>
図2を参照し、クランクケース22の左右方向左側には、伝動ケース45が連結されている。伝動ケース45の内部には、クランクシャフト21に駆動側が連結された変速機41が収容されている。
変速機41は、クランクシャフト21の左側部に支持されたドライブプーリ42と、伝動ケース45の後部の従動軸に支持されたドリブンプーリ(何れも不図示)と、ドライブプーリ42とドリブンプーリとの間に巻き掛けられる無端状のVベルト44と、を備えている。
【0023】
ドライブプーリ42ひいては変速機41が配置される空間(伝動ケース45内の空間)と、クランクケース22内の油室(クランク室形成部22aおよびオイル貯留部22b)との間は、クランクケース22の左側壁22cLおよびその左側方に間隔を空けて取り付けられる左カバー22cL1によって隔てられている。図中符号22sLは左カバー22cL1のクランク挿通孔とクランクシャフト21の左延長シャフト21dLとの間を油密にシールするシール部材を示す。左側壁22cLと左クランクベアリング50との間には、シリンダ23側に延びるカムチェーン室30aが設けられている。
【0024】
ドライブプーリ42は、クランクシャフト21に固定された駆動側固定プーリ半体42aと、駆動側固定プーリ半体42aの左右方向内側(右側)でクランクシャフト21にクランク軸方向で摺動可能に支持された駆動側可動プーリ半体42bと、を備えている。駆動側可動プーリ半体42bの左右方向内側(右側)には、クランクシャフト21に固定されたランププレート42cが配置されている。駆動側可動プーリ半体42bとランププレート42cとの間には、ウエイトローラ42dが収容されている。駆動側固定プーリ半体42aと駆動側可動プーリ半体42bとの間には、断面V字状のベルト溝が形成されている。
【0025】
ドライブプーリ42においては、クランクシャフト21の回転数(エンジン回転数)が上昇すると、ウエイトローラ42dが遠心力によってドライブプーリ42の外周側に移動し、駆動側可動プーリ半体42bを駆動側固定プーリ半体42a側に移動させる。この駆動側可動プーリ半体42bの移動に応じて、駆動側固定プーリ半体42aおよび駆動側可動プーリ半体42b間のベルト溝の幅が減少し、Vベルト44のVベルト44の巻き掛け径を増大させる。このとき、不図示のドリブンプーリにおいては、Vベルト44の張力によってベルト溝の幅が増加し、Vベルト44の巻き掛け径を減少させる。このように、変速機41は、クランクシャフト21の回転数に応じて、Vベルト44の巻き掛け径を連続的に変化させて、変速比を自動的かつ無段階に変化させる。変速機41を介して、クランクシャフト21の回転駆動力(エンジン20の駆動力)が駆動輪である後輪に伝達される。
【0026】
<クランクシャフト>
図2を参照し、クランクシャフト21は、クランクケース22の前部内において、左右一対のボールベアリング(転がり軸受け、以下、クランクベアリングという。)50,60を介して回転可能に支持されている。クランクシャフト21は、ピストン25の往復運動からクランク軸線C1回りの回転運動を生成する。クランクシャフト21は、クランクアームおよびカウンタウェイトを含む左右一対のクランクウェブ21bL,21bRと、左右クランクウェブ21bL,21bRの各々からクランク軸線C1に沿って左右方向外側に突出する左右一対のジャーナル21cL,21cRと、左右ジャーナル21cL,21cRの各々からさらにクランク軸線C1に沿って左右方向外側に延びる左右一対の延長シャフト21dL,21dRと、を一体回転可能に備えている。
【0027】
例えば、左右クランクウェブ21bL,21bRは、それぞれクランク軸線C1を中心とした円板状をなしている。
図3を併せて参照し、右クランクウェブ21bRの左右方向外側の側面(右側面)には、板状のオイルセパレータ33が取り付けられている。オイルセパレータ33は、内周側を開口とした円板状に形成されている。オイルセパレータ33は、右クランクウェブ21bRの右側面の外周側に沿って環状に設けられている。オイルセパレータ33は、その外周縁部33aが右クランクウェブ21bRの右側面の外周側に嵌合し、残余の部位が右クランクウェブ21bRの右側面から右側に離間して配置されている。オイルセパレータ33は、右クランクウェブ21bRと一体的に回転し、オイルセパレータ33と右クランクウェブ21bRとの間のオイル溜まり35内のエンジンオイル内の異物を、クランクシャフト21の回転による遠心力によりオイル溜まり35の外周部に集約し、異物が右クランクベアリング60、クランクピン21a、コンロッド24の大端部24aといった摺接部へ供給されることを抑制可能とする。
【0028】
左右ジャーナル21cL,21cRは、それぞれ左右クランクベアリング50,60に挿通されて回転可能に支持されている。左右クランクベアリング50,60は、クランクケース22の左右側壁22cL,22cRのベアリング支持部22dL,22dRに嵌入されて保持されている。
【0029】
左延長シャフト21dLの基端側(左ジャーナル21cL側)には、左ジャーナル21cL側から順に、カムドライブスプロケット29およびポンプドライブギヤ31が一体回転可能に支持されている。カムドライブスプロケット29には、カムチェーン30が巻き掛けられている。ポンプドライブギヤ31には、不図示のオイルポンプの従動ギヤが噛み合っている。ポンプドライブギヤ31はスプロケットであってもよい。左延長シャフト21dLの先端側には、変速機41のドライブプーリ42が一体回転可能に支持されている。
右延長シャフト21dRには、ACG37のアウターロータ39が一体回転可能に支持されている。
【0030】
左右クランクウェブ21bL,21bRは、クランク軸方向でコンロッド24を挿通可能な間隔を空けて対向配置されている。左右クランクウェブ21bL,21bRの周方向の規定位置は、各々クランクアームとされている。左右クランクアームの先端側(クランク軸線C1から偏心した位置)には、クランクピン21aの両端部が支持されている。クランクピン21aには、コンロッド24の大端部24aが回転可能に外嵌されている。左右クランクウェブ21bL,21bRの左右方向外側には、それぞれ左右ジャーナル21cL,21cRが一体に設けられている。
【0031】
<クランクベアリング>
図2図3図5を参照し、各クランクベアリング50,60は、アウターレース51,61およびインナーレース52,62と、アウターレース51,61およびインナーレース52,62の間に挟み込まれる複数のボール(鋼球)53.63と、複数のボール53,63を回転自在に保持するリテーナー(保持器)54,64と、を備えている。実施形態のリテーナー54,64は、鉄板にプレス成形等を施して製造された金属製品ではなく、ポリアセタール等の高強度の合成樹脂で一体成型された樹脂成型品である。以下、各クランクベアリング50,60の軸方向、周方向および径方向をそれぞれ単に軸方向、周方向および径方向ということがある。
【0032】
リテーナー54,64は、クランク軸線C1中心の環状をなしている。リテーナー54,64は、クランクベアリング50,60の軸方向の一側に臨む第一端面部を、複数のボール53,63を支持する複数の突起が形成された凹凸形状部55,65とし、軸方向の他側に臨む第二端面部を、軸方向と直交する平面状に形成された凹凸抑制部56,66としている。
【0033】
図5を参照し、凹凸形状部55,65は、凹凸抑制部56,66の平坦面56a,66aから軸方向一側に規定量だけ離れた基端面55a,65aを形成するとともに、基端面55a,65aを周方向で等間隔に切り欠くように複数のポケット55b,65bを形成している。各ポケット55b,65bは、各ボール53,63と略同径の円形状の凹部であり、各ボール53,63を回転自在に収容して保持する。各ポケット55b,65bは、軸方向一側が基端面55a,65a上で切り欠かれて開放するとともに、径方向の両側がリテーナー54,64の内外周面上でそれぞれ開放している。
【0034】
凹凸形状部55,65は、クランク軸線C1中心の径方向から見て、各ポケット55b,65bの内周面を基端面55a,65aよりも軸方向一側に延長するように、基端面55a,65aよりも軸方向一側に突出する複数の保持爪55c,65cを形成している。各ポケット55b,65bは、各ボール53,63の外周面の半周以上を保持可能であるが、保持爪55c,65cが内周面を延長することで、各ボール53,63の外周面を保持する範囲が広がり、各ポケット55b,65bにおけるボール53,63の離脱が抑制されている。凹凸形状部55,65は、基端面55a,65aから各ボール53,63の一部および各保持爪55c,65cが突出することで、クランク軸線C1中心の径方向から見て凹凸形状に形成されている。
【0035】
凹凸抑制部56,66は、リテーナー54,64の軸方向他側に、軸方向と直交する平坦面56a,66aを形成している。例えば、平坦面56a,66aは、アウターレース51,61およびインナーレース52,62の軸方向他側の平坦面56a,66a(クランクベアリング50,60の軸方向他側の平坦面56a,66aに相当)と略面一状に形成されている。平坦面56a,66aは、アウターレース51,61およびインナーレース52,62の軸方向他側の平坦面56a,66aよりも軸方向一側(クランクベアリング50,60の内側)に形成されてもよい。
【0036】
実施形態の凹凸抑制部56,66は、軸方向と直交する平坦形状に形成されているが、この構成に限らない。例えば、凹凸抑制部56,66は、径方向から見て、ある程度の凹凸を有してもよい。ある程度の凹凸とは、径方向から見て、凹凸形状部55,65よりも高低差の少ない緩やかな凹凸形状(エンジンオイルを攪拌し難い形状)である。凹凸抑制部56,66は、径方向に沿う断面で凹凸を有してもよいが、この場合、断面視の凹凸形状が周方向で連続的に延び、径方向から見て平坦形状又は緩やかな凹凸形状に形成されていればよい。
すなわち、凹凸抑制部56,66は、クランクベアリング50,60の回転時に、凹凸形状部55,65よりもエンジンオイルを攪拌し難い形状であればよい。
【0037】
<クランクベアリングの配置>
図3図5を参照し、実施形態の左右クランクベアリングは、シリンダ軸線C2に近い側の内側面50a,60a(右クランクベアリング60においては左側面、左クランクベアリング50においては右側面)に、各リテーナー54,64の平坦面56a,66aが位置するように配置されている。
【0038】
まず、右クランクベアリング60の配置およびその周辺の構成について説明する。
図3を参照し、右クランクウェブ21bRの右側面(クランク軸方向の外側面)s1は、内外周にそれぞれ内外凸形状t1,t2を残して、左側に規定量だけオフセットした変位面s2を形成している。実施形態では、内外凸形状t1,t2の右先端(突出端)が位置する最外側面(クランク軸線C1と直交する平面)を、右クランクウェブ21bRの右側面(外側面)s1とする。変位面s2の一部は、クランクピン21aの右端面で形成されている。なお、変位面s2を右クランクウェブ21bRの右側面の一部と捉えてもよい。
【0039】
外凸形状t2の内周側には、オイルセパレータ33の外周縁部33aが嵌合している。オイルセパレータ33は、外周縁部33aから内周側に延びる板状部33bを備えている。板状部33bは、クランク軸線C1と直交する平板状をなし、変位面s2との間に間隙を有して配置されている。板状部33bは、軸方向で変位面s2から離間している。板状部33bの内周端は、右ベアリング支持部22dRのシリンダ軸線C2側の内側面(左側面)22dR1から突出する、クランク軸線C1中心の環状をなす環状凸部34に、外周側から近接して配置されている。オイルセパレータ33の板状部33bと右クランクウェブ21bRの変位面s2との間には、領域R1が形成されている。環状凸部34よりも内周側で右クランクベアリング60の内側面(シリンダ軸線C2側の面、左側面)60aと右クランクウェブ21bRの変位面s2との間には、領域R2が形成されている。これらの領域R1,R2は、互いに連通したオイル溜まり35を形成している。オイル溜まり35には、右ベアリング支持部22dRの内側面22dR1に開口するオイル供給口(不図示)からエンジンオイルが供給される。
【0040】
クランクピン21aには、クランクピン21aの軸心に沿ってピン内油路21a1が形成されている。ピン内油路21a1の右端部は、クランクピン21aの右端面で右側方に開放し、オイル溜まり35に臨んでいる。オイル溜まり35内のエンジンオイルは、クランクピン21aのピン内油路21a1に流入し、クランクピン21aの周方向で部分的に形成されて径方向に延びる径方向油路21a2を介して、クランクピン21aとコンロッド24の大端部24aとの摺接部に供給される。このエンジンオイルは、さらにコンロッド24内に形成された油路(不図示)を通じて、コンロッド24の小端部24bとピストンピン25aとの摺接部等に供給される。
【0041】
オイル溜まり35内のエンジンオイルの一部は、環状凸部(オイル分岐部)34を境に右クランクベアリング60側の領域R2に流入し、右クランクベアリング60に供給される。右クランクベアリング60に供給されたエンジンオイルは、右クランクベアリング60の潤滑等に供された後、クランクケース22下部に流下してオイル貯留部22bに戻される。
右クランクベアリング60の軸方向内側面(左側面)には、樹脂リテーナー64の平坦部(凹凸抑制部66)が臨んでおり、リテーナー64が回転する際にオイル溜まり35のエンジンオイルを攪拌することによる抵抗が抑えられる。その結果、オイル攪拌抵抗の増加による燃費への影響が抑えられる。
【0042】
以上説明したように、上記実施形態におけるエンジン20は、シリンダ23内のピストン25の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト21と、前記クランクシャフト21の左右ジャーナル21cL,21cRをそれぞれ支持する左右ボールベアリング(クランクベアリング)50,60と、を備え、前記左右クランクベアリング50,60は、それぞれ内外輪(アウターレース51,61およびインナーレース52,62)間で複数のボール53,63を支持する樹脂製のリテーナー54,64を備え、前記リテーナー54,64は、前記右クランクベアリング50,60の軸方向の一側に臨む第一端面部を、前記複数のボール53,63を支持する複数の突起(保持爪55c,65c)が形成された凹凸形状部55,65とし、前記軸方向の他側に臨む第二端面部を、前記軸方向と直交する平面状に形成された凹凸抑制部56,66とし、左右クランクベアリング50,60の前記リテーナー54,64は、前記軸方向で前記凹凸抑制部56,66が前記シリンダ23の中心軸C2側に位置するように配置されている。
この構成によれば、クランクシャフト21を支持する左右ボールベアリング(クランクベアリング)50,60において、シリンダ23の中心軸C2側に位置する端面部を、平面形状等に形成された凹凸抑制部56,66とすることで、以下の効果を奏する。すなわち、左右クランクベアリング50,60におけるシリンダ23の中心軸C2側には、クランクシャフト21の左右クランクウェブ21bL,21bRの外側部が隣接する。左右クランクウェブ21bL,21bRの外側部には、左右クランクウェブ21bL,21bRがかき上げたエンジンオイルが多く付着している。特に、少なくとも右クランクウェブ21bRの外側部には、オイル溜まり35が形成されている。このエンジンオイルをリテーナー54,64の端面部が攪拌し難くなるので、左右クランクベアリング50,60が回転する際に発生するオイル攪拌抵抗を少なくする構造とすることができ、その結果、エンジン20の燃費向上を図ることができる。
【0043】
上記エンジン20において、少なくとも前記右クランクベアリング60における前記シリンダ23の中心軸C2側は、前記右クランクベアリング60に対するエンジンオイルの供給経路の上流側であることを特徴とする。
この構成によれば、クランクシャフト21を支持する右ボールベアリング(クランクベアリング)60において、エンジンオイルの供給経路の上流側に位置する端面部を、平面形状等に形成された凹凸抑制部66とすることで、右クランクウェブ21bRの外側部に多く存在する上流側のエンジンオイルをリテーナー64の端面部が攪拌し難くなる。これにより、右クランクベアリング60が回転する際に発生するオイル攪拌抵抗を少なくする構造とすることができ、その結果、エンジン20の燃費向上を図ることができる。
【0044】
上記エンジン20において、前記クランクシャフト21を回転可能に収容するクランクケース22を備え、前記クランクシャフト21の少なくとも右クランクウェブ21bRと、前記クランクケース22における前記右クランクベアリング60を支持する右ベアリング支持部22dRおよび前記右クランクベアリング60と、の間にオイル溜まり35が形成され、前記オイル溜まり35内のエンジンオイルは、前記オイル溜まり35内に臨む環状のオイル分岐部(環状凸部34)によって、前記クランクシャフト21のクランクピン21aへの供給分と前記右クランクベアリング60への供給分とに分けられ、前記右クランクウェブ21bRには、前記オイル分岐部34よりも外周側に、内周側を開口させた円板状のオイルセパレータ33が取り付けられ、前記オイルセパレータ33の内径は、前記右クランクベアリング60および前記オイル分岐部34の外径よりも大きい。
この構成によれば、右クランクウェブ21bRと右ベアリング支持部22dRおよび右クランクベアリング60との間にオイル溜まり35を形成し、オイル溜まり35内のオイル分岐部34でエンジンオイルをクランクピン21a用と右クランクベアリング60用とに分けて供給する構造において、オイルセパレータ33の内径が右クランクベアリング60およびオイル分岐部34の外径よりも大きいことで、オイルセパレータ33の内周側に右クランクベアリング60およびオイル分岐部34を入り込ませた入れ子構造とすることができ、オイル溜まり35とオイル分岐構造とをコンパクトに構成することができる。
【0045】
ここで、クランクケース22の左右ベアリング支持部22dL,22dRの軸方向内側面22dL1,22dR1に対し、左右クランクベアリング50,60の軸方向内側面50a,60aは、シリンダ23の中心軸C2側に所定量だけ突出した位置にある。これにより、左右クランクベアリング50,60の軸方向内側面50a,60aは、左右ベアリング支持部22dL,22dRの軸方向内側面22dL1,22dR1よりも左右同側のクランクウェブ21bL又は21bRに近付くように配置される。換言すれば、左右クランクベアリング50,60の軸方向内側部は、左右ベアリング支持部22dL,22dRの軸方向内側面22dL1,22dR1よりも軸方向内側に突出している。また、左右ベアリング支持部22dL,22dRの軸方向内側面22dL1,22dR1は、左右クランクベアリング50,60の軸方向内側面50a,60aよりも左右同側のクランクウェブ21bL又は21bRから離れるように配置されている。
【0046】
次に、左クランクベアリング50の配置およびその周辺の構成について説明する。
図4を参照し、左ベアリング支持部22dLの軸方向内側面22dL1と左クランクウェブ21bLの軸方向外側面s3との間の隙間は、左クランクベアリング50にエンジンオイルを供給するための開口部s4となる。左クランクウェブ21bLの上方から開口部s4内に浸入したエンジンオイルの一部は、左クランクベアリング50の内側面50aと左クランクウェブ21bLの外側面s3との間の隙間s5に浸入し、左クランクベアリング50に供給される。隙間s5は、開口部s4よりも軸方向幅が狭い。左クランクベアリング50に供給されたエンジンオイルは、左クランクベアリング50の潤滑等に供された後、クランクケース22下部に流下してオイル貯留部22bに戻される。
左クランクベアリング50の軸方向内側面50a(右側面)には、樹脂リテーナー54の平坦部(凹凸抑制部56)が臨んでおり、リテーナー54が回転する際に隙間s5内のエンジンオイルを攪拌することによる抵抗が抑えられる。その結果、オイル攪拌抵抗の増加による燃費への影響が抑えられる。
【0047】
このように、上記エンジン20は、前記クランクシャフト21の左クランクウェブ21bLと、前記クランクケース22における前記左クランクベアリング50を支持する左ベアリング支持部22dLおよび前記左クランクベアリング50と、の間にエンジンオイルを浸入させる開口部s4が形成され、前記左クランクベアリング50におけるシリンダ軸線C2側の内側面50aは、前記左ベアリング支持部22dLにおけるシリンダ軸線C2側の内側面22dL1よりも、シリンダ軸線C2側に位置している。
この構成によれば、左クランクウェブ21bLと、左ベアリング支持部22dLおよび左クランクベアリング50と、の間にエンジンオイルを浸入させる開口部s4を形成しながら、左クランクベアリング50の内側面50aは左ベアリング支持部22dLの内側面22dL1よりも左クランクウェブ21bLに近接させることで、左クランクベアリング50の内側面50aと左クランクウェブ21bLの外側面s3との間の隙間s5を狭めてオイル流量を減少させる。これにより、クランクシャフト21が回動することによりコンロッド24の大端部24a周辺で掻き揚げられたエンジンオイルは、左クランクウェブ21bLと左ベアリング支持部22dLおよび左クランクベアリング50との間の開口部s4を通じてオイル貯留部22bに環流可能としながら、開口部s4内のエンジンオイルは、左クランクベアリング50の内側面50aと左クランクウェブ21bLの外側面s3との間の隙間s5に供給されすぎない構造とすることができる。また、左クランクベアリング50のリテーナー54は、凹凸抑制部56がシリンダ23の中心軸C2側に位置するので、左クランクベアリング50の内側面50aと左クランクウェブ21bLの外側面s3との間の隙間s5でのエンジンオイルの攪拌も抑えられる。その結果、オイル攪拌抵抗の増加による燃費への影響が抑えられる。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、本実施形態の内燃機関は、自動二輪車等の鞍乗り型車両以外の車両に適用してもよい。また、車両への適用に限らず、航空機や船舶等の種々輸送機器、ならびに建設機械や産業機械等、様々な乗物や移動体に適用してもよい。さらに、乗物以外でも内燃機関を備える機器であれば、例えば手押しの芝刈り機や清掃機、発電機等に広く適用可能である。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 エンジン(内燃機関)
21 クランクシャフト
21a クランクピン
21bL,21bR 左右クランクウェブ
21cL,21cR 左右ジャーナル
22 クランクケース
22dL,22dR 左右ベアリング支持部
22dL1,22dR1 軸方向内側面
23 シリンダ
25 ピストン
35 オイル溜まり
29 カムドライブスプロケット(動力伝達部材)
30 カムチェーン
33 オイルセパレータ
34 環状凸部(オイル分岐部)
50,60 左右クランクベアリング
50a,60a 軸方向内側面
51,61 アウターレース
52,62 インナーレース
53,63 ボール
54,64 リテーナー(保持器)
55,65 凹凸形状部
55c,65c 保持爪(突起)
56,66 凹凸抑制部
C1 クランク軸線
C2 シリンダ軸線(中心軸)
PU パワーユニット
s4 開口部
VM 動弁機構
図1
図2
図3
図4
図5