(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】研磨スラリー
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20250221BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20250221BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250221BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250221BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2023184172
(22)【出願日】2023-10-26
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591186888
【氏名又は名称】株式会社トッパンインフォメディア
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三橋 正輝
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122191(WO,A1)
【文献】特開2005-063530(JP,A)
【文献】特開2018-159033(JP,A)
【文献】特開2016-183212(JP,A)
【文献】特表2009-511719(JP,A)
【文献】特開2010-080842(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021192(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に研磨粒子としてα-アルミナを含有し、
前記α-アルミナが、
レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)が80~120nmであり、
JIS-Z8830(2013)の規定に基づき測定した比表面積(BET)が20m
2/g以上であり、
前記比表面積(BET)と前記平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が1.5m/g×
10
8
以上
であり、
JIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定した軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.00~1.35である研磨スラリー。
【請求項2】
前記比表面積(BET)が25m
2/g以上であり、前記比表面積(BET)と前記平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が2.0m/g×
10
8
以上である、請求項
1に記載の研磨スラリー。
【請求項3】
前記研磨粒子の含有量が0.01~10質量%であり、且つ分散剤として0.0001~1質量%の硝酸を含有する請求項1又は2に記載の研磨スラリー。
【請求項4】
ポリイミド樹脂を含む絶縁材料の研磨に用いられる遊離砥粒研磨スラリーであることを含む請求項1又は2に記載の研磨スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨スラリーに関し、例えば、光学部品、電子部品、精密機器部品、またはこれらに実装される半導体パッケージ基板等の半導体装置に形成される層間絶縁膜の表面の精密加工に利用可能な研磨スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体集積回路を含む半導体パッケージ基板の高集積化及び高性能化に伴って配線の微細化や多層化などの微細加工技術が開発されてきている。化学機械研磨法(以下、「CMP(Chemical Mechanical Polishing)法」ともいう)もその1つであり、半導体集積回路の製造工程、特に微細多層配線形成工程において頻繁に利用される技術である。
【0003】
しかしながら、微細化や多層化は、配線間容量の増大に伴う信号遅延により半導体集積回路の高速化の妨げとなる。そのため、高速化処理への対応には、低誘電率、低誘電正接、高耐熱性等の種々の特性を満たす低誘電率絶縁膜材料の開発が行われている。低誘電率絶縁膜材料を使うことの利点は、誘電率が小さいほど伝播速度が速くなることにあり、特にポリイミド樹脂を主成分とした有機絶縁材料は、低誘電率化による伝送速度向上効果が知られている。
【0004】
CMP法をポリイミド樹脂などの樹脂膜の表面の研磨に適用することで、表面粗さの低い良質な層間絶縁膜を形成することができることが期待されており、CMP法を用いて樹脂を含む研磨対象物の余分な部分を研磨、除去する工程が検討されている。
【0005】
特許文献1には、高剛性および高強度を有する樹脂を、高い研磨速度で研磨する手段として、砥粒と、分散媒と、を含み、砥粒の旧モース硬度が8以上であり、かつアンモニア昇温脱離法(NH3-TPD法)によって測定される砥粒の表面酸量が0.05mmol/g以上である、研磨用組成物が開示されている。
【0006】
特許文献2には、無機粒子と樹脂材料とからなる層間絶縁材料の研磨方法として、無機粒子の平均粒子径と等しいかまたは大きい平均粒子径を有する第一の研磨粒子と分散剤とを含んだ第一の研磨スラリーで層間絶縁材料を研磨する工程と、第一の研磨スラリーで研磨された層間絶縁材料を、無機粒子の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する第二の研磨粒子と分散剤とを含んだ第二の研磨スラリーでさらに研磨する工程とを含む、研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-183212号公報
【文献】特開2021-141213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリイミド樹脂のような高分子化合物からなる有機層間絶縁膜は、従来のSiO2等の無機層間絶縁膜に比べて機械的強度が低い。このような機械的強度が低い研磨対象物に対して単純に硬度の高い砥粒を用いて物理的に処理を行うと、クラック、スクラッチ等の被膜欠陥が生じやすく、十分な研磨速度が得られないことがある。それを補うように二段階研磨を行うと、工程のスループットの低下、或いは研磨装置の定盤(プラテン)の区別等による研磨装置の大型化の問題等が生じる。
【0009】
上記課題を鑑み、本発明は、機械的強度が比較的低い研磨対象物に対しても表面特性の良好な研磨面を高い研磨速度でより効率良く得ることが可能な研磨スラリーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る研磨スラリーは一側面において、水性媒体中に研磨粒子としてα-アルミナを含有し、α-アルミナが、レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)が80~120nmであり、JIS-Z8830(2013)の規定に基づき測定した比表面積(BET)が20m2/g以上であり、比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が1.5m/g×10
8
以上であり、JIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定した軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.00~1.35である研磨スラリーである。
【0012】
本発明に係る研磨スラリーは別の一実施態様において、比表面積(BET)が25m2/g以上であり、比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が2.0m/g×10
8
以上である。
【0013】
本発明に係る研磨スラリーは更に別の一実施態様において、研磨粒子の含有量が0.01~10質量%であり、且つ分散剤として0.0001~1質量%の硝酸を含有する。
【0014】
本発明に係る研磨スラリーは更に別の一実施態様において、ポリイミド樹脂を含む絶縁材料の研磨に用いられる遊離砥粒研磨スラリーである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的強度が比較的低い研磨対象物に対しても表面特性の良好な研磨面を高い研磨速度でより効率良く得ることが可能な研磨スラリーが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(研磨対象物)
研磨対象物は特に限定されないが、本発明の実施の形態に係る研磨スラリーは例えば半導体装置等に形成される絶縁膜(特に層間絶縁膜)の遊離砥粒研磨処理に好適である。
【0017】
層間絶縁膜は、銅、アルミニウム等による微細化した配線間を埋めて絶縁し、回路パターンを多層化するための絶縁膜として用いられる。回路パターンの多層化にあたっては、半導体基板上に形成された層間絶縁膜をCMP法により平坦化し、更にその上にフォトリソグラフィーにより新たな配線を光学露光して回路を形成し、この操作を繰り返すことにより所定の回路が積層される。具体的には、ベースとなる基板(例えばベークライト基板、ガラスエポキシ基板、エポキシやポリエステルなどの樹脂基板、またはこれらのコンポジット基板など)の表面上に導電層を回路形成し、この上に層間絶縁膜を積層する。そして、基板上の層間絶縁膜を研磨し、導体層を露出させるように、基板表面を平坦化していく。
【0018】
このような層間絶縁膜に用いられる材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が好適に利用できる。中でも本実施形態においては、ポリイミド樹脂を主成分(50wt%以上)とするポリイミド膜が好適に処理できる。ポリイミド膜は、ポリアミド酸を高温加熱によりイミド化(脱水・環化)させた芳香族ポリイミドを主成分とするものが一般的であり、低誘電率化のために置換基としてフッ素原子や脂環族基を導入したもの、膜密度を下げるためにナノポーラス化したもの、低誘電率の添加物を物理的に添加したもの、低熱膨張率化のために主鎖骨格の直線性を高くしたもの、低膨張の繊維、ウィスカー、粒子を添加したもの等であってもよい。
【0019】
このような層間絶縁材料として用いられるポリイミド膜は、SiO2膜等に比べて機械的強度が比較的低いが、本発明の実施の形態に係る研磨スラリーによれば、このような機械的強度が低い材料に対しても、表面特性の良好な研磨面をより高い研磨速度で得ることができる。
【0020】
以下に限定されるものではないが、本発明の実施の形態に係る研磨スラリーを用いて研磨可能な層間絶縁膜としては、好ましくはヤング率が0.1~20.0GPa、より好ましくは1.0~10.0GPa、より更に好ましくは3.0~8.0GPa程度のものが好適に利用可能である。なお、ヤング率はJIS-Z2255(2003)に基づいて評価できる。
【0021】
(研磨スラリー)
本発明の実施の形態に係る研磨スラリーは、水性媒体中に研磨粒子(砥粒)としてα-アルミナを含有してなる。水性媒体としては、研磨粒子を分散させることが可能な水性の媒体であれば特に限定されないが、不純物を含有しない水であることが好ましく、例えば、純水、超純水、蒸留水等が好適に用いられる。水性媒体中に分散されるα-アルミナは、レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)が80~120nmであるのが好ましい。例えばポリイミド樹脂のような有機層間絶縁膜は、従来のSiO2などの無機層間絶縁膜に比べて機械的強度が低いために、単純に硬度の高いα-アルミナを砥粒として用いても、クラック、スクラッチなどの被膜欠損を生じやすい。水性媒体中に分散されるα-アルミナの平均粒子径(D50)を80~120nmと比較的小さな粒径に調整することによって、機械的強度が低い研磨対象物であっても、被膜欠損を生じにくくしながら研磨速度を向上できる。なお、α-アルミナの平均粒子径(D50)は、90~120nmがより好ましく、95~110nmがより更に好ましい。
【0022】
ポリイミド樹脂を用いた有機層間絶縁膜のような機械的強度が低い樹脂材料の研磨においては、単純に平均粒子径(D50)が小さく、比表面積(BET)が大きいα-アルミナを砥粒に用いても、十分な研磨速度、表面特性の良い研磨面が得られないことがある。被膜欠損が生じにくい適度な粒子径の範囲において、比表面積を大きくすることにより、高い研磨速度で表面特性の良い研磨面が得られるものである。
【0023】
本実施形態では、α-アルミナの比表面積(BET)が20m2/g以上であることが好ましく、25m2/g以上であることがより好ましく、30m2/g以上であることがより更に好ましい。α-アルミナの比表面積(BET)は、高すぎると分散が難しくなり、分散工程の負荷増加や、未分散物の発生、ひいては研磨対象物への傷の原因となることがあるため、一実施態様においては120m2/g以下であることが好ましく、80m2/g以下であることがより好ましく、50m2/g以下であることがより更に好ましい。なお、比表面積(BET)は、JIS-Z8830(2013)の規定に基づいて測定することができる。
【0024】
更に、研磨粒子として用いられるα-アルミナの比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)を適正な範囲に調整することにより、ポリイミド樹脂を用いた有機層間絶縁膜のような機械的強度が低い樹脂材料の研磨を好適に行うことができる。BET/D50は、1.5m/g×10
8
以上であることが好ましく、2.0m/g×10
8
以上であることがより好ましく、2.5m/g×10
8
以上であることがより更に好ましい。適切な表面粗さと十分な研磨速度を確保するために、BET/D50は、15.0m/g×10
8
以下であることが好ましく、10.0m/g×10
8
以下であることがより好ましく、6.3m/g×10
8
以下であることがより更に好ましい。
【0025】
α-アルミナの軽装嵩密度(LBD)は高すぎると粒径が大きい一次粒子の割合が増え研磨後の表面特性が低下する原因となり、低すぎるとα化率が低いアルミナの割合が増えて研磨速度が低下する原因となることがある。LBDは0.6g/cm3以上であることが好ましく、0.7g/cm3以上であることがより好ましく、0.8g/cm3以上であることがより更に好ましい。また、LBDの上限値は特に限定されないが、1.7g/cm3以下であることが好ましく、1.3g/cm3以下であることがより好ましい。
【0026】
また、α-アルミナの重装嵩密度(TBD)は高すぎると粒径が大きい一次粒子の割合が増え研磨後の表面特性が低下する原因となり、低すぎるとα化率が低いアルミナの割合が増えて研磨速度が低下する原因となることがある。TBDは0.8g/cm3以上であることが好ましく、0.9g/cm3以上であることがより好ましく、1.0g/cm3以上であることがより更に好ましい。TBDの上限値は特に限定されないが、2.0g/cm3以下であることが好ましく、1.5g/cm3以下であることがより好ましい。軽装嵩密度(LBD)及び重装嵩密度(TBD)は、JIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定することができる。
【0027】
本実施形態では、JIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定した軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.5以下であることが好ましい。TBD及びLBDの値の間の差が小さいことは、タッピング後も空隙率に大きな変化がなく、α-アルミナの平均粒子径(D50)に含まれる個々の二次粒子(凝集粒子)の嵩密度が高い、つまり二次粒子の凝集力が高いことを意味する。適度な粒子径に分散後も凝集粒子の形態を保つ粒子が多く存在することにより、比較的小さい適度な粒子径の範囲において、高い研磨速度で表面特性の良い研磨面が得られる。なお、TBD/LBDは1.00~1.50であることがより好ましく、1.00~1.35であることがより更に好ましい。
【0028】
水性媒体中の研磨粒子の含有量は用途に応じて任意に設定できる。特に限定されないが、良好な表面特性を具備しつつ十分な研磨速度を得るためには、0.01~10質量%とすることが好ましく、0.05~5質量%とすることがより好ましく、0.1~1質量%とすることがより更に好ましい。
【0029】
また、研磨粒子として用いられるα-アルミナのα化率は、特に限定されないが、機械的特性の比較的低い材料を十分な研磨速度で研磨処理する観点から、例えばα化率が40~65%であることが好ましく、45~60%であることがより好ましい。なお、α-アルミナのα化率は、X線回折測定による(113)面回折線の積分強度比から求めることができる。
【0030】
研磨スラリーは、研磨粒子と分散剤とを含むように調製することが好ましい。研磨スラリーが分散剤を含むことにより、研磨粒子を効率よく分散させて、層間絶縁膜内に速やかに研磨粒子を供給できる効果が得られる。分散剤としては公知のものを使用でき、例えば界面活性剤にある分子鎖の立体障害を利用するものや、粒子表面電位の電気的反発により分散向上させるものなどを使用できる。特に本実施形態では、研磨粒子として極性が高い酸化物であるα-アルミナを用いるため、例えばポリアクリル酸塩やポリスチレンスルホン酸塩などのイオン性高分子界面活性剤や、塩酸や硝酸、クエン酸、酢酸などの酸を使用できる。半導体パッケージ基板等の表面汚染の回避(洗浄のしやすさ)、層間絶縁材料が含む樹脂材料への適度な侵食性を得る観点からは、分散剤として酸を使用するのが好ましい。特に、ポリイミド樹脂を用いた有機層間絶縁膜の場合には、分散剤としては硝酸を好ましく用いることができる。硝酸の含有量は特に限定されないが、例えば0.0001~1質量%とすることができ、好ましくは0.001~0.1質量%、より好ましくは0.002~0.05質量%とすることができる。
【0031】
研磨スラリーは、更に増粘剤を含むように調製することが好ましい。一実施形態において、本実施形態では、TBD/LBDが1.5以下であるα-アルミナが好適に用いられ、研磨粒子に含まれる個々の二次粒子(凝集粒子)の嵩密度が高い。そのため、研磨スラリーに増粘剤を更に含ませることにより、嵩密度が高い、α-アルミナの凝集粒子の沈殿を防止でき、研磨粒子の分散安定性を高めることができる。
【0032】
増粘剤としては、界面活性剤または水溶性高分子を挙げることができる。特に水溶性高分子は、α-アルミナの凝集粒子の沈殿を防止し、分散安定性を高める上で好適に用いることができる。
【0033】
水溶性高分子としては、アニオン系(陰イオン性)のものとしてポリカルボン酸系水溶性高分子を用いることができ、例えばポリアクリル酸又はその塩やアクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はその塩などのポリアクリル酸系水溶性高分子、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。ノニオン系(非イオン性)のものとしては、ヒドロキシルエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドが挙げられる。カチオン系(陽イオン性)の水溶性高分子としてはポリエチレンイミンを挙げることができる。
【0034】
本実施形態においては、増粘剤が研磨粒子としてのα-アルミナの凝集粒子の沈殿を防止し、分散安定性を高めるとともに、粘度の過度な上昇による研磨対象物への研磨速度の低下等の研磨阻害を抑える機能を担保する観点からノニオン系(非イオン性)の水溶性高分子を好適に用いることができる。水溶性高分子の含有量は、研磨スラリー全体に対して0.01~1質量%、好ましくは0.1~0.9質量%が適当である。
【0035】
なお、本発明の実施の形態に係る研磨スラリーは、ポリイミド樹脂を主成分とする層間絶縁材料の研磨に好適に用いられるが、層間絶縁材料の研磨は、銅、アルミニウム等による金属配線も、層間絶縁膜と一緒にCMP法により平坦化する必要が生じる場合がある。この場合は、必要に応じて、酸化剤、錯形成剤、酸化防止剤、pH調整剤などを適宜含めることもできる。
【0036】
酸化剤は、銅などの金属膜を適度に酸化してイオン化する機能をもち、錯形成剤は銅などの金属膜のイオン化を促進する。また酸化防止剤は、酸化剤や錯形成剤による金属膜の過剰なエッチングを抑制することができ、これらの濃度を調整することで金属膜に対する研磨速度を好適な範囲内に調整することができる。
【0037】
酸化剤としては、例えば、H2O2、Na2O2、Ba2O2、(C6H5C)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物を用いることができる。なかでも、金属成分を含有せず、有害な副生成物を発生しない過酸化水素(H2O2)は好適に用いられる。酸化剤の含有量は研磨スラリー全体に対して0.01~15質量%、好ましくは0.1~10質量%が適当である。
【0038】
錯形成剤としては、公知のカルボン酸やアミノ酸等の有機酸を用いることができる。有機酸の例としては、グリシン、アラニン、バリン、セリン、トレオニン、システイン、フェニルアラニン、プロリン、アスパラギン、アスパラギン酸、リシン、ヒスチジン、アルギニン、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、及びそれらのアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩、又はそれらの混合物等が挙げられる。なかでも、アミノ基とカルボキシル基の両方を持つアミノ酸であるグリシンは溶けにくい金属を溶かす上で好適に用いることができる。錯形成剤の含有量は研磨スラリー全体に対して0.01~5質量%、好ましくは0.05~3質量%、より好ましくは0.1~1質量%が適当である。
【0039】
酸化防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾフロキサン、2,1,3-ベンゾチアゾール、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、カテコール、o-アミノフェノール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、メラミン、及びこれらの誘導体を用いることができる。酸化防止剤の含有量は研磨スラリー全体に対して0.001~1質量%、好ましくは0.01~0.1質量%が適当である。
【0040】
研磨スラリーのpHは、研磨速度やスラリー粘度、研磨粒子の分散安定性等の観点からpHは3~8、好ましくは、pHは4~7が適当である。研磨スラリーのpHの調整は、公知の方法で行うことができる、研磨スラリーの分散剤として硝酸を用いた場合は、アルカリを使用するのが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、アンモニア、アミン等用いることができ、なかでも、アンモニアを入れてpHを適度な範囲に調整するのが適当である。
【0041】
(研磨スラリーの製造方法)
本発明の実施の形態に係る研磨スラリーの製造方法は、例えば、研磨粒子と分散剤を水性溶媒中で撹拌混合し、希釈することによって製造することができる。例えば、研磨粒子に水と硝酸等の分散剤を加え、ビーズミル等を用いて、研磨粒子の平均粒子径(D50)が80~120nmとなるように撹拌混合した後、研磨粒子の含有量が0.01~10質量%となるように水で希釈し、更にpHを調整することにより、ポリイミド樹脂を含む絶縁材料の研磨に好適な研磨スラリー(遊離砥粒研磨スラリー)が製造できる。
【0042】
(研磨方法)
本発明の実施の形態に係る研磨スラリーを用いて、半導体装置の基板上に形成されたポリイミド樹脂を含む絶縁膜の遊離砥粒研磨処理を好適に行うことができる。研磨装置は、特に限定されず、一般的な種々の研磨装置を用いることができ、片面研磨装置であっても両面研磨装置であってもかまわない。例えば、片面研磨装置を用いる場合には、半導体基板をキャリア等の保持具等によって保持し、半導体基板上に形成されたポリイミド樹脂を含む絶縁膜の表面に、本発明の実施の形態に係る研磨スラリーを供給する。そして、所定の研磨パッドを貼り付けた定盤を研磨対象物に押し付けて定盤を回転させることにより、絶縁膜の表面を所定の研磨速度以上で研磨する。
【0043】
本発明の実施の形態に係る研磨スラリーを用いた研磨方法によれば、ポリイミド樹脂を含む絶縁材料のような機械的強度が比較的低い材料に対しても、研磨処理を段階的に繰り返して行うことなく、一度の研磨処理によって、表面特性の良好な研磨面を高い研磨速度で得られる。これにより、効率の良い研磨処理が実現できる。
【0044】
なお、本発明の実施の形態に係る研磨方法によれば、研磨速度は、200nm/min以上とすることができ、更には300nm/min以上、より更には350nm/min以上とすることができる。研磨速度の推奨上限値は特に規定されないが、早くしすぎると所望の削り量の調整が困難になる場合があることから、典型的には3000nm/min以下、更には1500nm/min以下とすることが好ましい。以下に限定されないが、ポリイミド樹脂を含む絶縁膜への研磨荷重は例えば0.1~10.0psiとすることができ、好ましくは1.0~5.0psiとすることができる。このような処理を行うことにより、絶縁膜の表面には、JIS-B0601(2013)の附属書JBに基づく表面粗さ(中心線平均粗さRa75)が10nm以下、更には5.0nm以下、より更には2.0nm以下の平面特性の良好な研磨面が得られる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0046】
<研磨スラリー>
表1に示す各種研磨粒子を用い、研磨粒子の含有量が30質量%の研磨粒子/水混合物に対して硝酸0.2質量%を添加し、ビーズミルで分散した後、水で希釈して、研磨粒子の含有量(砥粒濃度)が0.5質量%、研磨粒子の平均粒子径(D50)が表1に示す値を示す研磨スラリーをそれぞれ作製した。研磨スラリーのpHはアンモニアの添加によりpH=6に調整した。
【0047】
<粒子径の測定>
研磨スラリー中に含まれる研磨粒子の粒子径の測定は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-960)を用いて行った。粒子径の値はレーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)を用いた。
【0048】
<研磨対象物>
φ200mm径のシリコンウエハ上にスピンコーターを用いてポリイミド(アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製 感光性ポジ型)をコーティングし、熱キュアを行って、シリコンウエハ上に厚さ10μmのポリイミド膜を作製した。
【0049】
<研磨条件>
研磨装置として、アプライドマテリアルズ社製、Mirra CMP装置を使用し、以下に示す条件で研磨を行った。研磨装置の定盤には、研磨パッド(ニッタ・デュポン株式会社製、IC1400)を貼り付けて使用した。
Down Force = 2.0 psi
Head Speed / Platen Speed = 120/117 rpm
Slurry Flow = 200 ml/min
Polish Time = 30 sec
【0050】
<研磨速度の測定>
研磨速度の測定は、研磨前後の研磨対象物(ポリイミド膜)の膜厚変化をSCI社製、filmTec1000を用いて研磨時間あたりの膜厚減少量を測定し、研磨速度を算出した。
【0051】
<表面粗さの測定>
表面粗さの測定は、走査型プローブ顕微鏡(ブルカージャパン株式会社製、Nanoscope V)を用いて測定した。表面粗さの値は、JIS-B0601(2013)の附属書JBに定義される中心線平均粗さRa75を用いた。
【0052】
<実験結果>
各種研磨粒子を用いた研磨スラリーによる研磨結果を下記表1に示す。
【0053】
【0054】
研磨粒子としてα-アルミナを用い、粒子径が80~120nmの範囲にあり、比表面積(BET)が20m2/g以上であり、比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が1.5m/g×10
8
以上である実施例1は、比較例1~4と比べて高い研磨速度を得ることができた。また、ポリイミド膜の表面粗さは、Ra75=2.0nm以下と良好であった。なお、実施例1は、軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.5以下であった。
【0055】
研磨粒子としてα-アルミナを用いた比較例1~4についても、平均粒子径(D50)を80~120nmの範囲に調整したことによりいずれも研磨後の表面粗さは良好であった。しかしながら、実施例1と比べ研磨速度が低いものとなった。比較例4は、BETが20m2/g未満、BET/D50が1.5m/g×10
8
未満でBET及びBET/D50が好適な範囲ではなく、TBD/LBDが1.5以下であったが、実施例1と比べ研磨速度が低いものとなった。比較例3はBET/D50は1.5m/g×10
8
以上であったが、BETが20m2/g未満、またTBD/LBDは1.5以上で実施例1と比べ研磨速度が低いものとなった。比較例2は、BETも小さく、TBD/LBDも大きな値で研磨速度が低いものとなった。比較例1は、BETが小さく、BET/D50が1.5m/g×10
8
未満で研磨速度が低いものとなった。また、研磨粒子にθ-アルミナ、シリカを用いた参考例1、参考例2は、どちらも実施例1に比べて高い研磨速度が得られなかった。これらの結果から、研磨粒子としてα-アルミナを用い、α-アルミナがレーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)が80~120nmであり、JIS-Z8830(2013)の規定に基づき測定した比表面積(BET)が20m2/g以上であり、比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が1.5m/g×10
8
以上であること、さらに、好ましくはJIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定した軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.5以下であることで、ポリイミド樹脂等の層間絶縁膜に用いられる機械的強度の低い材料の研磨において十分に高速でしかも優れた平坦化が実現できることがわかった。
【要約】
【課題】機械的強度が比較的低い研磨対象物に対しても表面特性の良好な研磨面を高い研磨速度でより効率良く得ることが可能な研磨スラリーを提供する。
【解決手段】水性媒体中に研磨粒子としてα-アルミナを含有し、α-アルミナが、レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における体積基準積算値50%での平均粒子径(D50)が80~120nmであり、JIS-Z8830(2013)の規定に基づき測定した比表面積(BET)が20m2/g以上であり、比表面積(BET)と平均粒子径(D50)との比率(BET/D50)が1.5m/g×10
8
以上であり、JIS-R9301-2-3(1999)に基づき測定した軽装嵩密度(LBD)と重装嵩密度(TBD)との比率(TBD/LBD)が1.00~1.35である研磨スラリーである。
【選択図】なし