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特許7638373脳卒中を治療するための金クラスター、組成物、および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】脳卒中を治療するための金クラスター、組成物、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20250221BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20250221BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20250221BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K47/18
A61K47/20
A61P9/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023531705
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 CN2021112729
(87)【国際公開番号】W WO2022110911
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/132280
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-551250(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195127(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0186534(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106370640(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103006565(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳卒中を治療するための医薬組成物であって、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドとを含み、
前記金コアの直径が、0.5~3nmであり、
前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つであり、
前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれ、
前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチド、システイン含有テトラペプチド、またはシステイン含有ペンタペプチドであり、
前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれ、
前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、医薬組成物。
【請求項2】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである、医薬組成物。
【請求項3】
請求項記載の医薬組成物であって、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、医薬組成物。
【請求項4】
請求項記載の医薬組成物であって、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、医薬組成物。
【請求項5】
請求項記載の医薬組成物であって、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、医薬組成物。
【請求項6】
請求項記載の医薬組成物であって、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患治療の技術分野に関し、特にリガンド結合金クラスター(AuCs)、前記リガンド結合AuCsを含む組成物、前記リガンド結合AuCsの脳卒中の治療のための医薬の製造における使用、および前記リガンド結合AuCsおよび組成物を利用して脳卒中を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管が血栓で詰まったり、破れたりすると、脳卒中は発症する。脳卒中には、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の三つのタイプがある。
【0003】
出血性脳卒中は、血管が破れて、脳への血流が妨げられることで起こる。一般的な症状としては、突然の脱力感、体のどこかの麻痺、発話障害、嘔吐、歩行困難、昏睡、意識消失、首こり、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0004】
虚血性脳卒中は、脳虚血(brain ischemia)や脳の虚血(cerebral ischemia)とも呼ばれ、ヒトに最も多く見られる病気の一つであり、死亡や身体障害の主な原因となっている。虚血性脳卒中は、脳卒中全体の87%程度を占めている。虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する動脈に血栓やプラークなどの塊が生じることで発症し、その塊が首や頭蓋骨に現れ、脳への血流や酸素が減少し、脳細胞の損傷や死滅を引き起こす。血液の循環が速やかに回復しない場合、永久的な脳損傷になる可能性がある。
【0005】
虚血性脳卒中の具体的な症状は、影響を受けた脳の部位によって異なる。ほとんどの虚血性脳卒中に共通する症状としては、視力障害、手足の脱力や麻痺、浮動性めまい(dizziness)や回転性めまい(vertigo)、混乱、協調性の喪失、顔面の片側の垂れ下がりなどがある。症状が出現したら、できるだけ早く治療を受けることが重要で、そうすることで、永続的な障害が残る可能性を低くすることができる。
【0006】
虚血性脳卒中の治療法は、非常に限られている。虚血性脳卒中の主な臨床的治療薬は、血栓を分解する組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)であるが、このtPAを脳卒中の発症から4時間半以内に静脈内投与しなければ、効果がない。しかし、tPAは出血を引き起こすため、出血性脳卒中、脳内出血、最近の大手術や頭部外傷の既往歴のある患者の場合は、tPAによる治療を受けることができない。長期的な治療法としては、血栓の進展を防ぐためにアスピリンや抗凝固剤を使用することが挙げられる。
【0007】
Amaniらは、25nmのコロイド状金ナノ粒子の表面にOX26-PEGを結合させたOX26@GNPsが壊死した脳組織を著しく増加させ、裸のGNPとPEG化したGNPは壊死した体積に影響を及ぼさなかったことから、OX26@GNPは脳卒中の治療に適さないことを示していることを開示している。
【0008】
Zhengらは、OGD/R損傷ラットモデルにおいて、20nmのAu-NPsが細胞生存率を高め、神経細胞のアポトーシスと酸化ストレスを緩和し、ミトコンドリア呼吸を改善することを明らかにしている。しかし、Zhengらは、5nmのAuNPsは逆の効果を示し、脳卒中の治療には適さないことも実証している。
【0009】
TIAは、一時的な血栓によって引き起こされるものである。一般的な症状としては、体の片側の脱力感やしびれ、麻痺、言葉が不明瞭になること、目が見えなくなること、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0010】
脳卒中の治療は、脳虚血または脳出血に起因して脳神経細胞が損傷または死亡することによる患者の神経機能不全または死亡を回避または軽減するために、タイムリーに行う必要がある。出血性脳卒中およびTIAを治療するための特異的な治療薬は存在せず、虚血性脳卒中を治療するためのtPAなどの主要な薬物は、出血を引き起こす。よって、患者が出血性脳卒中ではなく虚血性脳卒中であると断定的に診断された場合のみ、虚血性脳卒中の治療のための薬物を使用することが決定される。しかしながら、この断定的診断のプロセスは、虚血性脳卒中をタイムリーに治療するための貴重な時間を費やしている。
【0011】
脳卒中を治療するための効果的な方法および薬物、特に、出血性脳卒中および虚血性脳卒中の両方に治療効果のある薬物が求められている。出血性脳卒中および虚血性脳卒中の原因が根本的に異なるため、文献中のすべての薬物開発は、いずれも出血性脳卒中又は虚血性脳卒中のうちのどちらかを対象としている。よって、出血性脳卒中や虚血性脳卒中を問わず、脳卒中の患者を治療することができる薬物を開発することは、想像を絶する挑戦であり、業界ではタブーとされることができる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、リガンド結合金クラスターを含む、対象の脳卒中を治療するための医薬組成物を提供する。
【0013】
特定の実施形態では、リガンド結合金クラスターを含む、対象の脳卒中を治療するための医薬組成物が提供され、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含み、前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmである。
【0015】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである。
【0016】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0017】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0018】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0019】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0020】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0021】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる。
【0022】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
図1
図2
図3
図4
図5
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