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特許7638397金クラスター、組成物、およびうつ病の治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-20
(45)【発行日】2025-03-03
(54)【発明の名称】金クラスター、組成物、およびうつ病の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20250221BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20250221BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P25/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023565422
(86)(22)【出願日】2021-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 CN2021089648
(87)【国際公開番号】W WO2022226692
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-533636(JP,A)
【文献】特開2016-023188(JP,A)
【文献】Matheus Scarpatto RODRIGUES et al.,“Nanotechnology as a therapeutic strategy to prevent neuropsychomotor alterations associated with hypercholesterolemia”,Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2021年05月,Vol.201,111608,DOI: 10.1016/j.colsurfb.2021.111608
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のうつ病を治療するための医薬組成物であって、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む、医薬組成物
【請求項2】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記金コアの直径が0.5~3nmの範囲にある、医薬組成物
【請求項3】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある、医薬組成物
【請求項4】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、医薬組成物
【請求項5】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項6】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドは、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項7】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項8】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項9】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドは、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項10】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患治療の技術分野に関し、特にリガンド結合金クラスター(AuCs)、リガンド結合AuCを含む組成物、うつ病の治療のための医薬の製造における使用、並びに、リガンド結合AuCおよび組成物を利用したうつ病の治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
うつ病は、世界人口の21%という高い有病率を持つ精神疾患であり、悲しみ、怒り、フラストレーション、絶望感、不安、焦燥感、意欲の欠如、罪悪感などの深刻な症状を引き起こす。
【0003】
生物学的差異、脳化学、ホルモン、遺伝的特徴、慢性炎症など、さまざまな要因の関与が疑われているが、うつ病を引き起こす正確な要因や、ある要因がうつ病を引き起こす場合の正確なメカニズムは不明であり、うつ病の治療法の研究や開発に重大な課題を突きつけている。
【0004】
現在利用可能なうつ病の治療薬は、抗うつ薬で、脳の化学に直接作用するものであり、うつ病の原因となっている化学的調節障害を修正することによって治療効果を発揮すると推測されている。抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、例えば、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、シタロプラム、エスシタロプラムなどがある)、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI、代表的な薬物としては、ベンラファキシン、デュロキセチンなどが挙げられる)などがある。
【0005】
うつ病に対するナノ粒子の効果を調べるようとする研究が行われている。20~80nmのナノサイズの酸化亜鉛(NanoZnO)は、リポ多糖(LPS)誘発うつ病モデルマウスにおいて、強制水泳試験(FST)における不動時間を減少させた(Xie、 2012)。20nmサイズの鉄ナノ粒子(INP)は、LPS誘発うつ病ラットモデルにおいてうつ病症状を改善した(Saeidienik、2018)。しかし、10nmサイズのナノ銀(nanoAg)を0.2mg/kg体重で経口投与すると、ミエリン鞘の形態学的障害が誘発され、ラットの中枢神経系(CNS)に毒性を示した(Dabrowska-Bouta、2016)。呼吸経路を通過したAlナノ粒子(NPs)は、雌マウスにうつ様行動を引き起こした(Zhang、2015)。うつ病に対するナノ粒子の影響について、先行研究では何らのコンセンサスや指針が得られなかったことは明らかである。
【0006】
うつ病の治療には、有効な方法と薬剤が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、リガンド結合金クラスターを含む、対象のうつ病を治療するための医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明の特定の実施形態は、対象のうつ病を治療するための医薬組成物であって、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む、医薬組成物を提供する
【0009】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0010】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0011】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0012】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドは、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0013】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0015】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドは、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる。
【0016】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
【0017】
本発明の目的および利点は、添付の図面に関連するその好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
次に、本発明による好ましい実施形態を、同様の参照番号が同様の要素を示す図を参照して説明する。
【0019】
図1】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBC修飾金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)の紫外線可視(UV)スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0020】
図2】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuCs)の紫外線可視(UV)スペクトル、TEM画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0021】
図3】様々な粒子サイズのL-NIBC-AuCの赤外線スペクトルを示す。
【0022】
図4】リガンドCR結合金クラスター(CR-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0023】
図5】リガンドRC結合金クラスター(RC-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0024】
図6】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(即ち、Cap)結合金クラスター(Cap-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0025】
図7】リガンドGSH結合金クラスター(GSH-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0026】
図8】リガンドD-NIBC結合金クラスター(D-NIBC-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0027】
図9】リガンドL-システイン結合金クラスター(L-Cys-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0028】
図10】リガンド2-アミノエタンチオール結合金クラスター(CSH-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0029】
図11】リガンド3-メルカプトプロピオン酸結合金クラスター(MPA-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0030】
図12】リガンド4-メルカプト安息香酸結合金クラスター(p-MBA-AuCs)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0031】
図13】リガンド4-システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)結合金クラスター(CDEVD-AuCs)のUV、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0032】
図14】リガンド4-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)結合金クラスター(DEVDC-AuCs)のUV、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。
【0033】
図15】強制水泳試験の結果を示す棒グラフである。
【0034】
図16】尾懸垂試験の結果を示す棒グラフである。
【0035】
図17】慢性的な社会的ストレスを受けたマウスの社会行動試験の結果を示す。Aは、第1段階試験における社会的相互作用ゾーンにおける正常マウスおよびモデルマウスの社会的相互作用時間T1である。Bは、第2段階試験における社会的相互作用ゾーンにおける正常マウスおよびモデルマウスの社会的相互作用時間T2である。Cは、社会的行動試験における正常マウスおよびモデルマウスの社会的相互作用比率T2/T1である。データは平均値±SEMで示し、正常対照群における正常マウスと比較すると、**P<0.01、***P<0.001であった。
【0036】
図18】A1薬物投与群のマウスの社会行動試験の結果を示す。Aは、第1段階試験における社会的相互作用ゾーンにおける正常対照群、モデル対照群およびA1薬物投与群の社会的相互作用時間T1である。Bは、第2段階試験における社会的相互作用ゾーンにおける正常対照群、モデル対照群およびA1薬物投与群の社会的相互作用時間T2である。Cは、社会的行動試験における正常対照群、モデル対照群およびA1薬物投与群の社会的相互作用比率T2/T1である。データは平均値±SEMで示し、正常対照群と比較すると、#P<0.05、モデル対照群と比較すると、*P<0.05であった。
【0037】
図19】A4薬物投与群マウスの高架式十字迷路試験の結果である。Aは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群のマウスのオープンアームでの移動時間である。Bは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群マウスのオープンアームでの移動距離である。Cは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群のマウスのオープンアームでの往復(shuttling)回数である。Dは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群のマウスの、オープンアーム時間+クローズアーム時間に対するオープンアーム時間の割合(TO%)である。Eは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群のマウスの、総移動距離に対するオープンアーム移動距離の割合(DO%)である。Fは、正常対照群、モデル対照群およびA4薬物投与群のマウスの、総往復回数に対するオープンアーム往復回数の割合(EO%)である。図中のデータは平均値±SEMで示し、正常対照群と比較すると、#P<0.05、モデル対照群と比較すると*P<0.05であった。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0039】
本出願にわたって、刊行物が参照される場合、これらの刊行物の開示は、本発明が関係する技術の状態をより完全に説明するために、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0040】
本明細書で使用される「投与」とは、経口(「po」)投与、座薬としての投与、局所接触、静脈内(「iv」)、腹腔内(「ip」)、筋肉内(「im」)、病変内、海馬内、脳室内、鼻腔内または皮下(「sc」)投与、または対象へのミニ浸透圧ポンプもしくは侵食性インプラントのような徐放デバイスの埋め込みを意味する。投与は、非経口および経粘膜(例えば、経口、鼻腔、膣、直腸、または経皮)を含む任意の経路によるものである。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、および頭蓋内などの投与が含まれる。他の送達形態としては、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
用語「全身投与」および「全身的投与」とは、化合物又は組成物が循環系を介して、医薬作用の標的部位を含む体内の部位に送達されるように、哺乳動物に化合物又は組成物を投与する方法を意味する。全身投与には、経口、鼻腔内、直腸および非経口投与(すなわち、筋肉内、静脈内、動脈内、経皮および皮下などの消化管経由以外の投与)が含まれるが、これらに限定されない。ただし、本明細書で使用される場合、全身投与は、髄腔内注射および頭蓋内投与などの循環系経由以外の手段による脳領域への直接投与を含まない。
【0042】
本明細書で使用される「治療する」および「治療」という用語は、その用語が適用される疾患もしくは状態、またはこのような疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状のいずれかの発症を遅らせること、進行を遅らせることもしくは逆転すること、または緩和もしくは予防することを意味する。
【0043】
「患者」、「対象」又は「個体」という用語は、互換的に、哺乳動物、例えば、ヒト、又は霊長類(例えば、マカク、パントログロディート、ポンゴ)、家畜哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ)、農業用哺乳動物(例えば、ウシ科動物、ヒツジ科動物、ブタ、ウマ科動物)、実験用哺乳動物またはげっ歯類(例えば、ラット、ネズミ、ラグモルファ、ハムスター、モルモット)を含む非ヒト哺乳類を指す。
【0044】
金クラスター(AuCs)は、金原子と金ナノ粒子の間にある特殊な形態の金である。AuCsは、サイズが3nm未満であり、数個から数百個の金原子で構成されているため、金ナノ粒子の面心立方積層構造が崩壊する。その結果、AuCsは、金ナノ粒子の連続又は準連続エネルギー準位とは異なり、違うHOMO-LUMOギャップを持つ分子のような離散化した電子構造を示す。これにより、従来の金ナノ粒子が持つ表面プラズモン共鳴効果と、UV-Visスペクトルでの対応するプラズモン共鳴吸収帯(520±20nm)が消失する。
【0045】
本発明は、リガンド結合AuCを提供する。
【0046】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCは、リガンドと、金コアとを含み、前記リガンドが前記金コアに結合している。リガンドと金コアとの結合は、リガンドが共有結合、水素結合、静電気力、疎水性力疎水性力、ファンデルワールス力などを介して金コアと溶液中で安定している複合体を形成することを意味する。特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0047】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCの前記リガンドが、チオール含有化合物またはオリゴペプチドである。特定の実施形態では、前記リガンドが、Au-S結合を介して金コアに結合してリガンド結合AuCを形成する。
【0048】
特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、またはシステイン誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン誘導体が、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、またはN-アセチル-D-システイン(D-NAC)である。
【0049】
特定の実施形態では、前記リガンドが、システイン含有オリゴペプチドとその誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有ジペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、またはL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有トリペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、またはL-グルタチオン(GSH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有テトラペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)またはグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有ペンタペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)、またはアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)である。
【0050】
特定の実施形態では、前記リガンドが、チオール含有化合物である。特定の実施形態では、チオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、または4-メルカプト安息香酸(p-MBA)である。
【0051】
本発明は、うつ病の治療のための医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記対象が、ヒトである。特定の実施形態では、前記対象が、犬のようなペット動物である。
【0052】
特定の実施形態では、前記医薬組成物が、上述したリガンド結合AuCと、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤が、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0053】
本発明は、うつ病の治療のための医薬の製造における上述したリガンド結合AuCsの使用を提供する。
【0054】
本発明は、うつ病を有する対象を治療するための上述したリガンド結合AuCsの使用、または上述したリガンド結合AuCsを使用してうつ病を有する対象を治療する方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、前記対象に薬理学的有効な量のリガンド結合AuCsを投与することを含む。前記薬理学的有効な量は、通常の体内研究により決定することができる。特定の実施形態では、リガンド結合AuCsの前記薬理学的有効な量は、少なくとも0.001mg/kg/日、0.005mg/kg/日、0.01mg/kg/日、0.05mg/kg/日、0.1mg/kg/日、0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、6mg/kg/日、7mg/kg/日、8mg/kg/日、9mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、20mg/kg/日、30mg/kg/日、40mg/kg/日、50mg/kg/日、60mg/kg/日、70mg/kg/日、80mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日、500mg/kg/日、600mg/kg/日、700mg/kg/日、800mg/kg/日、900mg/kg/日、または1000mg/kg/日の用量である。
【0055】
以下の実施例は、本発明の原理を説明することのみを目的として提供されている。それらは、決して本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0056】
実施例
【0057】
実施例1. リガンド結合AuCsの製造
【0058】
1.1 HAuClをメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、又は酢酸エチルに溶解して、HAuCl濃度0.01~0.03Mの溶液Aが得られた。
【0059】
1.2 リガンドを溶媒に溶解して、リガンド濃度0.01~0.18Mの溶液Bが得られた。前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、及び、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、及びN-アセチル-D-システイン(D-NAC)等のその他のシステイン誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体(L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-システイン-L(D)-ヒスチジン(CH)、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-グルタチオン(GSH)、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸ペンタペプチド(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システインペンタペプチド(DEVDC)等の、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むが、これらに限定されない)、及び1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)のうちの一つ又は複数等のその他のチオール含有化合物を含むが、これらに限定されない。前記溶媒は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、酢酸ブチル、t-ブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルのうちの一つ又は複数であった。
【0060】
1.3 HAuClとリガンドとのモル比が1:(0.01~100)となるように、溶液Aと溶液Bを混合して、氷浴において0.1~48時間撹拌し、0.025~0.8M NaBHの水、エタノール又はメタノール溶液を加えて、氷水浴において引き続き撹拌し、そして0.1~12時間反応させた。NaBHとリガンドとのモル比は、1:(0.01~100)であった。
【0061】
1.4 反応終了した後、MWCOが3K~30Kの限外ろ過チューブを使用して、8000~17500r/分の勾配で反応溶液を10~100分間遠心することにより、異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を得た。異なるMWCOの限外ろ過チューブのろ過メンブレンの開きは、直接的に、前記メンブレンを通過できるリガンド結合AuCsのサイズを決定した。当該ステップは、任意に省略されてもよい。
【0062】
1.5 ステップ(1.4)で得られた異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を水に溶解し、透析バッグに投入し、そして水において室温で1~7日間透析した。
【0063】
1.6 透析後、リガンド結合AuCsを12~24時間凍結乾燥して、粉末状又は凝集状物質であるリガンド結合AuCsを得た。
【0064】
測定からわかるように、前記方法により得られた粉末状又は凝集状物質の粒子サイズは、3nm未満であった(全体的に、0.5~2.6nmにわたって分布した)。520nmで明らかな吸収ピークがなかった。得られた粉末又は凝集体がリガンド結合AuCsであったことが特定された。
【0065】
実施例2. 異なるリガンドが結合したAuCsの製造及び同定
【0066】
2.1 L-NIBC結合AuCs、即ち、L-NIBC-AuCsの製造
【0067】
リガンドであるL-NIBCを例とし、L-NIBCが結合したAuCsの製造及び確認について以下で詳細に説明する。
【0068】
2.1.1 1.00gのHAuClを量り、そして100mLのメタノールに溶解して、0.03Mの溶液Aを得た。
【0069】
2.1.2 0.57gのL-NIBCを量り、そして100mLの氷酢酸(酢酸)に溶解して、0.03Mの溶液Bを得た。
【0070】
2.1.3 1mLの溶液Aを量り、0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、又は5mLの溶液Bとそれぞれ混合し(すなわち、HAuClとL-NIBCとのモル比が、それぞれ、1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5であった。)、氷浴において撹拌しながら2時間反応させ、溶液が明るい黄色から無色になると、速やかに1mLの新たに製造された0.03M(11.3mgのNaBHを量り、そして10mLのエタノールに溶解することにより製造された。)のNaBHエタノール溶液を加えて、溶液が濃褐色になった後、引き続き30分間反応し、そして10mLのアセトンを加えて反応を停止させた。
【0071】
2.1.4 反応後、反応溶液に対して勾配遠心を行い、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs粉末を得た。具体的な方法は以下のとおりであった。即ち、反応終了後、反応溶液を30KのMWCO及び50mLの体積を有する限外ろ過チューブに転移し、10000r/分で20分間遠心し、そして内チューブ中の保持液(retentate)を超純水に溶解して、約2.6nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び10KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、13,000r/分で30分間遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.8nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び3KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、17,500r/分で40分間遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.1nmの粒子サイズを有する粉末を得た。
【0072】
2.1.5 勾配遠心により得られた3つの異なる粒子サイズでの粉末を沈殿させ、それぞれ溶媒を除去し、粗生成物をNでブロー乾燥させて、5mLの超純水に溶解し、透析バッグ(MWCOが3KDa)に入れ、透析バッグを2Lの超純水に入れ、一日おきに水を交換し、7日間透析し、凍結乾燥し、将来の使用のために保持した。
【0073】
2.2 L-NIBC-AuCsの同定
【0074】
上記で得られた粉末(L-NIBC-AuCs)に対して同定実験が行われた。同時に、リガンドであるL-NIBCにより修飾した金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)は、対照として使用された。前記リガンドがL-NIBCである金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(W.Yan、L.Xu、C.Xu、W.Ma、H.Kuang、L.Wang及びN.A.Kotov、Journal of American Chemical Society 2012、134、15114;X.Yuan、B.Zhang、Z.Luo、Q.Yao、D.T.Leong、N.Yan及びJ.Xie、Angewandte Chemie International Edition 2014、53、4623)に参照する。
【0075】
2.2.1 透過型電子顕微鏡(TEM)によるモーフォロジーの観察
【0076】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に2mg/Lになるまで溶解してサンプルとし、そして懸滴法により試験サンプルを製造した。より具体的に、5μLのサンプルを超薄型カーボンフィルムに滴下し、水滴がなくなるまで自然蒸発させ、そしてJEM-2100F STEM/EDS電界放出形高分解能TEMによりサンプルのモーフォロジーを観察した。
【0077】
L-NIBC-AuNPsの4つのTEM画像は、図1のパネルB、E、H、及びKに示され、L-NIBC-AuCsの3つのTEM画像は、図2のパネルB、E、及びHに示される。
【0078】
図2の画像で示されるように、各L-NIBC-AuCsサンプルは、均一な粒子サイズ及び良好な分散性を有し、かつ、L-NIBC-AuCsの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm及び2.6nmであり、図2のパネルC、F及びIの結果とよく一致した。これに対して、L-NIBC-AuNPsサンプルは、より大きい粒子サイズを有した。それらの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm及び18.2nmであり、図1のパネルC、F、I及びLの結果とよく一致した。
【0079】
2.2.2 紫外線(UV)-可視光(vis)吸収スペクトル
【0080】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に濃度が10mg・L-1になるまで溶解し、室温でUV-vis吸収スペクトルが測定された。走査範囲が190~1100nmであり、サンプルセルが光路長1cmの標準石英キュベットであり、参照セルが超純水により充填された。
【0081】
異なるサイズを有する4つのL-NIBC-AuNPsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図1のパネルA、D、G及びJに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図1のパネルC、F、I及びLに示され、異なるサイズを有する3つのL-NIBC-AuCsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図2のパネルA、D及びGに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図2のパネルC、F及びIに示される。
【0082】
図1で示されるように、表面プラズモン作用により、L-NIBC-AuNPsは、約520nmで吸収ピークを有した。吸収ピークの位置は、粒子サイズに関連した。粒子サイズが3.6nmである場合、UV吸収ピークが516nmで現れ、粒子サイズが6.0nmである場合、UV吸収ピークが517nmで現れ、粒子サイズが10.1nmである場合、UV吸収ピークが520nmで現れ、粒子サイズが18.2nmである場合、吸収ピークが523nmで現れた。4つのサンプルは、いずれも560nm以上で吸収ピークを有しなかった。
【0083】
図2で示されるように、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsサンプルのUV吸収スペクトルでは、520nmでの表面プラズモン作用による吸収ピークがなくなり、560nm以上で2つの明らかな吸収ピークが現れ、吸収ピークの位置がAuCsの粒子サイズによって僅かな相違があった。これは、AuCsが、面心立方構造の崩壊により分子のような特性を示し、AuCsの状態密度の不連続性、エネルギー準位の分裂、プラズモン共鳴効果の消失、及び長波方向の新しい吸収ピークに繋がったためである。上記で得られた異なる粒子サイズの3つの粉末サンプルは、いずれもリガンド結合AuCsであったと結論付けることができる。
【0084】
2.2.3 フーリエ変換赤外線分光法
【0085】
赤外線スペクトルは、Bruker製のVERTEX80Vフーリエ変換赤外線分光計を利用して固体粉末高真空全反射モードで測定された。走査範囲は、4000~400cm-1であり、走査回数が64であった。L-NIBC-AuCsサンプルを例とし、試験サンプルは、異なる3つの粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs乾燥粉末であり、対照サンプルは、純粋なL-NIBC粉末であった。結果は、図3に示す。
【0086】
図3は、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(下部の曲線)と比較すると、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsのSH伸縮振動は、全て、2500~2600cm-1で完全に消失したが、L-NIBCの他の特徴的なピークは、依然として残っていて、L-NIBC分子がAu-S結合を介してAuCの表面に成功に固定されていたことが証明された。この図は、リガンド結合AuCsの赤外スペクトルがそのサイズとは無関係であることも示した。
【0087】
溶液Bの溶媒、HAuClとリガンドとの仕込み比、反応時間及び添加されたNaBHの量をわずかに調整した以外、上記方法と同様な方法で、その他のリガンドが結合したAuCsを製造した。例えば、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドとして使用される場合、溶媒として酢酸が選択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドとして使用される場合、溶媒として水が選択されることなど、その他のステップについても同じようにするため、更なる詳細はここで省略する。
【0088】
本発明は、前記の方法により、一連のリガンド結合AuCsを製造した。リガンドと製造プロセスのパラメーターを表1に示す。
【0089】
【0090】
表1に挙げられたサンプルは、前記方法により確認された。11つの異なるリガンド結合AuCsの特性を図4(CR-AuCs)、図5(RC-AuCs)、図6(Cap-AuCs)(Capは1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンである)、図7(GSH-AuCs)、図8(D-NIBC-AuCs)、図9(L-Cys-AuCs)、図10(CSH-AuCs)、図11(MPA-AuCs)、図12(p-MBA-AuCs)、図13(CDEVD-AuCs)、および図13(DEVDC-AuCs)に示す。図4図12は、UVスペクトル(パネルA)、赤外線スペクトル(パネルB)、TEM画像(パネルC)、及び粒子サイズ分布(パネルD)を示す。図13および図14は、UVスペクトル(パネルA)、TEM画像(パネルB)、及び粒子サイズ分布(パネルC)を示す。
【0091】
その結果から、表1から得られた異なるリガンドが結合したAuCsの直径は、いずれも、3nm未満であることがわかった。紫外線スペクトルは、520±20nmでのピークの消失、及び他の位置での吸収ピークの出現も示した。この吸収ピークの位置は、リガンド、粒子サイズ、及び構造によって異なった。特定の状況で、特殊な吸収ピークが形成されないが、主な原因は、粒子径や構造の異なるAuCsの混合物が形成されたこと、または、ある特殊なAuCsにより吸収ピークの位置が紫外線可視スペクトルの範囲外に移動されたことである。一方、フーリエ変換赤外スペクトルでは、リガンドチオール赤外線吸収ピーク(図4図8のパネルBの点線の間)の消失も示されているが、他の赤外特性ピークはいずれも保持されていることから、全てのリガンド分子がAu原子の表面に成功に結合しており、また、本発明では、表1に記載されたリガンドが結合したAuCsの取得に成功したことを示した。
【0092】
実施例3. 動物研究のための試験サンプル
【0093】
A1:リガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuCs)、金コアの直径の範囲が0.5~3.0nmである。
【0094】
A2:リガンドN-アセチル-L-システイン結合金クラスター(L-NAC-AuCs)、金コアの直径の範囲が0.5~3.0nmである。
【0095】
A3:リガンドCR結合金クラスター(CR-AuCs)、金コアの直径の範囲が0.5~3.0nmである。
【0096】
A4:リガンドL-システイン結合金クラスター(L-C-AuCs)、金コアの直径の範囲が0.5~3.0nmである。
【0097】
A5:リガンドDEVDC結合金クラスター(DEVDC-AuCs)、金コアの直径の範囲が0.5~3.0nmである。
【0098】
B1:L-NIBC結合金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)、サイズ分布の範囲が6.2±1.2nmである。
【0099】
すべての試験サンプルは、上記の方法に従って調製されたがわずかな変更を加えた。それらの品質は上述の方法で特徴づけられた。
【0100】
実施例4. 強制水泳試験(FST)
【0101】
FSTでは、26℃の水を18cmの水深で張った円筒形の樽の中にマウスを入れた。マウスは樽の中で6分間泳いだ。この間、マウスの浮遊時間が機器で記録され、データ解析には最後の4分間の浮遊時間が使用された。不動(即ち、浮遊時間)率(%)は100×不動時間/試験時間で算出された。不動率が高いほど、マウスのうつ病の程度が高かった。
【0102】
すべてのデータはprism6.01ソフトウェアで解析した(一元配置分散分析(one-way ANOVA)+Dunnettの多重比較検定)。
【0103】
84匹のICRマウスを無作為に、C正常生理食塩水対照群、A1薬物投与群(L-NIBC-AuCs)、A2薬物投与群(L-NAC-AuCs)、A3薬物投与群(CR-AuCs)、A4薬物投与群(L-C-AuCs)、A5薬物投与群(DEVDC-AuCs)、およびB1薬物投与群(L-NIBC-AuNPs)の7群(n-12)に割り付けた。薬物はいずれも生理食塩水に溶解された。A1、A2、A3、A4、A5およびB1群のマウスには1日1回、20mg/kgマウス体重の用量で、注射量が50μlとなるように腹腔内注射し、対照群のマウスには同量の通常の生理食塩水を腹腔内注射した。7日目(day7)、マウスを実験室の環境に60分間順応させた後に薬物を投与し、投与30分後に強制水泳試験(FST)を実施した。
【0104】
図15は、対照群および各薬物投与群におけるマウスの強制水泳試験の結果を示す。対照群のマウスの不動率は67.8%±3.9%であり、A1、A2、A3、A4及びA5金クラスター投与群のマウスの不動率は、52.0%±5.7%、48.7%±4.0%、43.9%±4.9%、47.9%±5.2%、50.2%±5.0%であり、それぞれ対照群よりも有意に低かった(*:P<0.05;**:P<0.01;***:P<0.001)。一方、B1金ナノ粒子投与群では、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。
【0105】
実施例5. 尾懸垂試験
【0106】
マウスの尾懸垂試験(TST)では、マウスの尾の先端から2cmの位置を水平な木の棒に貼り付けて吊り下げた。マウスと周囲との距離は5cmであった。6分間におけるマウスの不動時間(秒)を観察し記録した。不動時間が長いほどマウスのうつ病の程度が高かった。すべてのデータは上記のように分析された。
【0107】
尾懸垂試験には84匹のICRマウスを用いた。群分け及び薬物注射計画は上述した強制水泳試験と同様であった。
【0108】
図16は、対照群および各薬物投与群のマウスの尾懸垂試験の結果を示す。対照群のマウスの不動時間は140.3±12.4秒であったが、A1、A2、A3、A4及びA5金クラスター投与群のマウスの不動時間は90.2±11.1秒、70.4±11.4秒、88.0±10.6秒、68.8±12.2秒、75.5±9.7秒であり、それぞれ対照群と比較して有意に減少した(*:P<0.05;**:P<0.01;***:P<0.001)。一方、B1金ナノ粒子投与群では、対照群と比較して有意差は認められなかった。
【0109】
その結果、5種類の金クラスター薬物はうつ病に大きな治療効果を示したが、金ナノ粒子は効果がなかった。
【0110】
実施例6. 社会的ストレス動物モデル試験
【0111】
6.1. モデル化と薬物投与
【0112】
社会的ストレス動物モデルは、ヒトが通常のコミュニケーションにおいて孤立と無力感によるフラストレーションに遭遇する状況をシミュレートしたもので、攻撃的なCD-1マウスがC57BL/6Jマウス(C57と略記)を攻撃することを短期間許容し、C57マウスを攻撃的なCD-1マウスの脅威と恐怖の中に長期間放置した。マウスが繰り返し社会的敗北のプレッシャーにさらされると、興味の欠如、不安、社会的回避行動を特徴とする明らかなうつ病様症状を引き起こした。このモデルは、人間のうつ病の病因により近い動物モデルである。
【0113】
まず、攻撃的なCD-1マウスがC57正常マウスを攻撃するようにした。
【0114】
(1)攻撃的なCD-1マウスを、穴のあいた透明な仕切りで仕切られたマウスケージの片側に置き、24時間飼育した。
【0115】
(2)正常なC57マウスをその番号に従ってマウスケージ内の攻撃的なCD-1マウスと同じ側に入れ、5分間刺激した(傷害を避けるように)。その後、C57マウスを取り出し、穴の開いた透明な仕切りで仕切られた同じマウスケージの他側に入れた(両側は透明な仕切りで仕切られていた)。これにより、C57マウスは攻撃的なCD-1マウスを見ることができ、CD-1マウスの臭いを嗅ぐことができた。C57マウスとCD-1マウスは24時間一晩一緒にいた。
【0116】
(3)実験中、各C57マウスは20日間ストレスを与え続けた。20日以内に、番号に従って異なるモデル群のC57マウスを攻撃的なCD-1マウスのケージに入れ、毎日刺激を与えた。20日間、2匹のマウス間で1回以上の接触は行わなかった(つまり、なじみを避けるために繰り返し接触は行わなかった)。
【0117】
(4)正常対照群では、攻撃的なCD-1マウスの代わりにC57マウスを用い、透明板で区切り、正常対照群のC57マウスを番号に従って毎日入れ替えた。
【0118】
(5)モデル化の最終日終了後、モデル化C57マウスと正常対照群C57マウスを別々に単独ケージで24時間飼育した後、行動試験を行った。
【0119】
社会的ストレスの15日目に、モデル化したC57マウスに薬物A1、A2、A3、A4、A5、B1を20mg/kgの用量で1日1回、腹腔内注射により9日間連続投与し、A1投与群、A2投与群、A3投与群、A4投与群、A5投与群、B1投与群とした。投与7日目(モデル化から21日目)から、薬物投与後1時間には、行動試験を行った。正常対照群とモデル対照群には同量の生理的食塩水を投与し、対応する日に行動試験を行った。各群には15匹のマウスがあった。
【0120】
6.2. 行動試験
【0121】
最初の行動試験は、マウスの社会的回避行動(うつ病の典型的な特徴)を検出するための社会行動試験であった。この試験は、モデル化開始から14日目と21日目にそれぞれ実施した。14日目の最初の試験は、モデル化が成功したかどうかを評価するためのものであり、21日目の2番目の試験は、マウスの社会的行動に対する薬物の影響を評価するためのものであった。
【0122】
社会行動試験は2段階からなり、各段階は30秒のインターバルをおいて2分半行われた。第1段階(ターゲットなし段階)では、オープンフィールドの一側に半径4cmのガス透過性円筒を設置し、円筒の中心から8cmの領域を相互作用ゾーン(IZ)と定義した。モデル化に成功したC57マウスの相互作用ゾーンでの滞在時間を記録し、T1とした。第2段階(ターゲット段階)では、モデル化段階でマウスと接触していなかったCD-1マウスを円筒内に置き、両者の視覚・嗅覚的相互作用を可能にし(物理的接触は不可)、この段階での相互作用ゾーンにおける両者の視覚・嗅覚的相互作用時間を記録し、T2とした。T2とT1の比(T2/T1)を社会的相互作用比率(SIR)と呼ぶ。この値が小さいほど、社会的回避行動が明らかであることを示し、逆に、この値が大きいほど、その薬物の抗うつ能力が高いことを示した。
【0123】
第2の行動試験は、マウスの不安行動(うつ病のもう1つの典型的な特徴)を検出するための高架式十字迷路試験である。高架式十字迷路試験は、モデル化後23日目から開始した。モデル化したC57マウスを高架式十字迷路のプラットフォームに置き、マウスの5分以内の各アームでの移動時間、移動距離、往復回数を観察・記録した。(1)オープンアームとクローズアームの両方でのマウスの滞在時間に対する、オープンアームでのマウスの滞在時間の割合:TO%=100%*オープンアーム時間/(オープンアーム時間+クローズアーム時間);(2)総移動距離に対するオープンアームでの移動距離の割合:DO%=100%*オープンアーム移動距離/(オープンアーム移動距離+クローズアーム移動距離);(3)オープンアームでの往復回数が総往復回数に占める割合:EO%=100%*オープンアーム往復回数/(オープンアーム往復回数+クローズアーム往復回数)を算出した。上記の値が大きいほど、その薬物の抗不安能力に優れている。
【0124】
すべてのデータはprism6.01ソフトウェアで解析した(一元配置分散分析(one-way ANOVA)+Dunnettの多重比較検定)。
【0125】
6.3.試験結果
【0126】
6.3.1. モデルの成功確立
【0127】
マウスの社会行動能力を14日目(薬物投与の1日前)に試験した。結果を図17に示す。図17A図17Cは、社会行動試験におけるマウスのT1、T2およびT2/T1の結果を示す。その結果によると、モデルマウスのT2/T1値は正常マウスよりも有意に低く、その差は極めて有意であり(P<0.001、***)、モデルマウスの社会性が正常マウスよりも有意に低く、モデルの確立に成功したことが示された。
【0128】
6.3.2. モデルマウスの社会行動に対する薬物の影響
【0129】
図18は、A1薬物を例として、慢性的な社会的ストレスを有するマウスの社会行動試験に対する金クラスター薬物の効果を示す。その結果によると、A1~A5の5種類の金クラスター薬物はモデルマウスのT2/T1比を有意に改善することができ、その差はモデル対照群と比較して有意であり(P<0.05、*)、5種類の金クラスター薬物は社会行動能力を効果的に改善することができ、有意な抗うつ作用を有することが示された。しかし、モデル対照群と比較して、B1群のT2/T1値は改善せず、抗うつ効果がないことが示された。
【0130】
図19は、A4薬物を例として、高架式十字迷路試験における慢性的な社会的ストレスを有するマウスに対する金クラスター薬物の効果の結果を示す。その結果によると、モデル化23日目に、A1~A5の5種類の金クラスターは、オープンアームでの移動時間(図19A)、オープンアームでの移動距離(図19B)、オープンアームでの往復回数(図19C)、オープンアーム+クローズアームでの滞在時間に対するオープンアームでの滞在時間の割合(TO%)(図19D)、総移動距離に対するオープンアームでの移動距離の割合(DO%)(図19E)、総往復回数に対するオープンアームでの往復回数の割合(EO%)(図19F)を有意に増加させることができた。A4薬物を例として、薬物投与群のTO%およびEO%の値は、モデル対照群と比較して有意差があった(P<0.05、*)。これらの結果から、金クラスター薬物は明らかな抗不安作用を有することが示された。しかし、B1薬物は、これらの試験データを改善しなかったことから、3.0nmよりも大きい金ナノ粒子はモデルマウスの不安様行動に対して効果がないことが示された。
【0131】
これらの結果から、金クラスター薬物がモデルマウスの社会的行動や不安様行動を有意に改善することができ、抗うつ薬として開発できることが示された。しかし、3.0nmよりも大きい金ナノ粒子にはそのような効果がなく、抗うつ薬の開発には使用できない。
【0132】
大きさの異なる他のリガンド結合AuCも同様の効果を持つが、その効果はある程度異なる。それらについては、ここでは詳述しない。
【0133】
本発明は、特定の実施形態を参照して説明されてきたが、実施形態は例示であり、本発明の範囲はそれほど限定されないことが理解される。本発明の代替的な実施形態は、本発明が関係する技術分野における通常の技術を有する者に明らかになる。そのような代替の実施形態は、本発明の範囲内に包含されると考えられる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、前記の説明によって支持される。
参考文献



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図19-2】
図19-3】