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特許7638485ゲルインウォーター型エマルション、その製造方法及び経皮吸収剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】ゲルインウォーター型エマルション、その製造方法及び経皮吸収剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20250225BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250225BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
A61K47/44
A61K8/06
A61K8/92
A61K8/36
A61K9/107
A61K47/12
A61K45/00
A61K47/24
A61P35/00
A61K31/337
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020090562
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021014445
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019128726
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 九州大学工学部物質科学工学科 化学プロセス・生命工学コース 平成30年度 卒業論文発表要旨集にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】井嶋 博之
(72)【発明者】
【氏名】重栖 佑次
(72)【発明者】
【氏名】ファルドゥス ジャンナトゥル
【審査官】阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-087931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0033555(US,A1)
【文献】特開2001-157835(JP,A)
【文献】特開2000-103722(JP,A)
【文献】特開2019-073462(JP,A)
【文献】特開2008-088092(JP,A)
【文献】特開平07-206657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0125661(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109464395(CN,A)
【文献】改訂・完全版 化粧品成分用語事典2006,中央書院,2005年11月30日,第116頁
【文献】岩波 理化学辞典 第4版,株式会社 岩波書店,1987年10月12日,第654,1002頁
【文献】医薬品添加物事典,株式会社 薬事日報社,1994年01月14日,第131頁(「ミツロウ」)
【文献】久保亮五 他 編集,岩波 理化学辞典 第4版,株式会社 岩波書店,1987年10月12日,第654頁,第1002頁
【文献】佐藤孝俊 他 編著,香粧品科学,株式会社 朝倉書店,1998年03月10日,第59頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72;47/00-47/69
A61K8/00-8/99;A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤、当該ゲル化剤によりゲル化されたオイル、当該オイル中に含まれる難水溶性薬剤、界面活性剤及び水を含むゲルインウォーター型エマルションを含有する点眼薬、眼軟膏剤、点鼻薬、口腔薬、坐薬、内服薬、注射薬又は貼付剤であって、
当該エマルション中のゲル粒子の平均粒径が500nm以下である、点眼薬、眼軟膏剤、点鼻薬、口腔薬、坐薬、内服薬、注射薬又は貼付剤
【請求項2】
ゲル化剤が高級脂肪酸及び蜜蝋からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の点眼薬、眼軟膏剤、点鼻薬、口腔薬、坐薬、内服薬、注射薬又は貼付剤
【請求項3】
ゲル化剤、オイル、当該オイル中に含まれる難水溶性薬剤、界面活性剤及び水を含む混合物を、ゲル化剤の融点以上の温度でエマルション化処理する工程と、
エマルション化処理後の混合物を、ゲル化剤の融点未満の温度まで冷却してゲルインウォーター型エマルションを得る工程と、を有するゲルインウォーター型エマルションを含有する点眼薬、眼軟膏剤、点鼻薬、口腔薬、坐薬、内服薬、注射薬又は貼付剤の製造方法であって、
前記ゲルインウォーター型エマルションにおいて、ゲル化された前記オイル中に前記難水溶性薬剤が含まれる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルインウォーター型エマルション、その製造方法及び経皮吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オイル(油)が水中に分散されてなるオイルインウォーター型エマルションは、化粧品や医薬品の原料として従来利用されてきた。オイルインウォーター型エマルションには、化粧品や医薬品の有効成分をオイル中に内包させ安定化させることができる等といった利点がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の構成を有するオイルインウォーター(O/W)エマルションにより、化粧品活性成分の浸透性が改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-114800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1を含む従来のオイルインウォーター型エマルションは、一般的に、長期保存すると粒子の沈降や凝集により、分散性が低下する傾向がある。
【0006】
そこで本発明は、長期保存した場合であっても、粒子の沈降や凝集が抑制され、分散安定性に優れる、オイルインウォーター型エマルションの代替物となり得るゲルインウォーター型エマルション及びその製造方法、並びにゲルインウォーター型エマルションを含有する経皮吸収剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討の結果、所定の要件を備える、オイルインウォーター型エマルションにおけるオイルをゲル化したゲルインウォーター型エマルションにより、分散安定性が改善されることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1] ゲル化剤、当該ゲル化剤によりゲル化されたオイル、界面活性剤及び水を含むゲルインウォーター型エマルションであって、当該エマルション中のゲル粒子の平均粒径が500nm以下である、ゲルインウォーター型エマルション。
[2] ゲル化されたオイル中に難水溶性薬剤を含む、[1]に記載のゲルインウォーター型エマルション。
[3] ゲル化剤が高級脂肪酸及び蜜蝋からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載のゲルインウォーター型エマルション。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のゲルインウォーター型エマルションを含有する経皮吸収剤。
[5] ゲル化剤、オイル、界面活性剤及び水を含む混合物を、ゲル化剤の融点以上の温度でエマルション化処理する工程と、エマルション化処理後の混合物を、ゲル化剤の融点未満の温度まで冷却する工程と、を有するゲルインウォーター型エマルションの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分散安定性及び徐放性に優れるゲルインウォーター型エマルション及びその製造方法、並びにゲルインウォーター型エマルションを含有する経皮吸収剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例19及び20並びに比較例1について、抗腫瘍活性評価を行った結果を示す図である。
図2】実施例21及び比較例2について、抗腫瘍活性評価を行った結果を示す図である。
図3】実施例23について、皮膚透過性評価を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態のゲルインウォーター型エマルション(以下、「G/W型エマルション」ともいう。)は、ゲル化剤、当該ゲル化剤によりゲル化されたオイル、界面活性剤及び水を含む。本実施形態のG/W型エマルションはまた、必要に応じて、ゲル化されたオイル中に難水溶性薬剤を含んでいてもよい。なお、G/W型エマルションとは、ゲル化されたオイル由来のゲル粒子が水中に分散されてなるエマルションである。
【0013】
エマルション中のゲル粒子の平均粒径は、500nm以下である。これにより、分散安定性が向上する。エマルション中のゲル粒子の平均粒径は、分散安定性をより向上させる観点から、400nm以下であると好ましく、300nm以下であるとより好ましく、200nm以下であると更に好ましい。ゲル粒子の平均粒径の下限は特に限定されないが、例えば、50nm以上とすることができる。なお、ゲル粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定される粒径である。
【0014】
以下、本実施形態のG/W型エマルションにおける各成分について詳細に説明する。
【0015】
(ゲル化剤)
ゲル化剤としては、オイルをゲル化可能なものであれば特に制限はないが、常温で固形であり、加温すると融解するものを用いることができる。ゲル化剤の融点は、例えば、50~100℃とすることができる。ゲル化剤は、一般的に医薬用製剤において許容されるものであると好ましい。
【0016】
ゲル化剤はワックス類、高級脂肪酸、脂肪酸エステル類、金属セッケン、アミノ酸系ゲル化剤又は炭化水素であると好ましい。ゲル化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
ワックス類の具体例としては、硬化油、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木蝋、蜜蝋、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス及びエチレン・プロピレンコポリマー等が挙げられる。
【0018】
高級脂肪酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸、12-ヒドロキシステアリン酸(12-HSA)、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、イソヘキサデカン酸、アンテイソヘンイコサン酸、長鎖分岐脂肪酸、ダイマー酸及び水素添加ダイマー酸等が挙げられる。
【0019】
炭化水素の具体例としては、α-オレフィンオリゴマー、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、ポリブテン、スクワラン、オリーブ由来スクワラン、スクワレン、ワセリン及び固形パラフィン等が挙げられる。
【0020】
脂肪酸エステル類としては、コレステロール脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等があり、糖脂肪酸エステルとしては、具体的にはパルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、イソステアリン酸デキストリン、ステアリン酸フルクトオリゴ糖、ステアリン酸イヌリン、ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
【0021】
金属セッケンの具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸アルミニウム、2‐エチルヘキサン酸カルシウム、2‐エチルヘキサン酸リチウム、2‐エチルヘキサン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0022】
アミノ酸系ゲル化剤の具体例としては、N-ラウロイルグルタミン酸ジ-n-ブチルアミド等が挙げられる。
【0023】
これらの中で、ゲル化剤は、高級脂肪酸又は蜜蝋であるとより好ましい。
【0024】
ゲル化剤の含有量は、ゲル粒子の粒径をより小さくする観点から、G/W型エマルション中のオイル全量を基準として、2~20質量%であると好ましく、3~15質量%であるとより好ましく、4~12質量%であると更に好ましい。
【0025】
(オイル)
オイルとしては、例えば、植物油、動物油、中性脂質(モノ置換、ジ置換またはトリ置換のグリセライド)、脂肪酸エステル油、合成油脂、流動パラフィン(ミネラルオイル)、重質流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、ステロール誘導体、乳酸エステル、多価カルボン酸エステル、2-エチルヘキサン酸セチル、シリコーン、リピオドール等を挙げることができる。オイルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。オイルは、常温で液体であるものであり、一般的に医薬用製剤において許容されるものであると好ましい。
【0026】
植物油の具体例としては、ヤシ油、バーム油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油、落花生油、サフラワー油、サンフラワー油、オリーブ油、ナタネ油、シソ油、ウイキョウ油、カカオ油、ケイヒ油、ハッカ油、ベルガモット油等が挙げられる。
動物油の具体例としては、魚油、鯨油等が挙げられる。
中性脂質の具体例としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリオレイン、トリリノレイン、トリパルミチン、トリステアリン、トリミリスチン、トリアラキドニン等が挙げられる。
脂肪酸エステル油の具体例としては、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。
合成油脂の具体例としては、アゾン等が挙げられる。
ステロール誘導体の具体例としては、コレステリルオレエート、コレステリルリノレート、コレステリルミリステート、コレステリルパルミデート、コレスレリルアラキデート等が挙げられる。
乳酸エステルの具体例としては、乳酸エチル、乳酸セチル等が挙げられる。
多価カルボン酸エステルの具体例としては、クエン酸トリエチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル等が挙げられる。
【0027】
これらの中で、オイルは、ミリスチン酸イソプロピル、大豆油又はリピオドールであると好ましい。
【0028】
G/W型エマルション中のオイルと水の含有量の質量比は、ゲル粒子の粒径をより小さくする観点から、1:1~1:50であると好ましく、1:2~1:40であるとより好ましく、1:4~1:10であると更に好ましい。
【0029】
薬剤等の有効成分の浸透度を蛍光観察により確認するために、オイルに蛍光物質等を添加してもよい。蛍光物質としては、疎水性蛍光物質であるクマリン6、カルセイン、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素等が挙げられる。
【0030】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤又は胆汁酸塩を挙げることができる。界面活性剤は、一般的に医薬用製剤において許容されるものであると好ましい。
【0031】
界面活性剤は、分子中に親水基と疎水基を有し、親水基と疎水基のバランス(HLB値)によって、親水性か疎水性かに分類される。具体的には、HLB値が10より大きいものが親水性、HLB値が10以下であるものが疎水性に分類される。これらの界面活性剤は特に制限なく利用することができるが、親水性の界面活性剤であると好ましい。界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
親水性の界面活性剤の具体例としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ラウリルアルコールアルコキシレート、グリセリン脂肪酸エステル、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖エルカ酸エステル等)、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート、レシチン(アブラナレシチン、大豆レシチン、卵黄レシチン等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO-40,HCO-60,HCO-80,HCO-100等)、ポリオキシエチレン―ポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。これらの中で、皮膚透過性を向上させる観点からは、レシチンを適用することが好ましい。また、後述するドラッグデリバリーシステムに適用する観点からは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の、ポリオキシエチレン鎖を親水部として有する界面活性剤が好ましい。ポリオキシエチレン鎖が導入された化合物は、肝臓等の臓器によって捕捉されづらく(ステルス性が高く)、患部に薬物が送達される可能性を高めることができる。
【0033】
界面活性剤の含有量は、ゲル粒子の粒径をより小さくする観点から、G/W型エマルション中のオイル1mL当たり、10~1000mgであると好ましく、20~600mgであるとより好ましく、25~400mgであると更に好ましい。
【0034】
(難水溶性薬剤)
難水溶性薬剤とは、水への溶解性が低い薬剤であり、例えば、20℃のイオン交換水への溶解度が10mg/mL以下のものを言う。
【0035】
難水溶性薬剤の具体例としては、アセメタシン、インドメタシン、ジフルニサル、イブプロフェン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ナプロキセン、ピロキシカム、アスピリン、等の抗炎症および/または解熱・鎮痛剤(NSAIDs)、フルオロメトロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、等のステロイド系抗炎症剤、酢酸メドロキシプロゲステロン、メトトレキサート、パクリタキセル、メルカプトプリン、マイトマイシンC、クエン酸タモキシフェン、シスプラチン、ドセタキセル水和物、等の抗悪性腫瘍薬、シクロスポリンA、タクロリムス水和物、等の免疫抑制剤、エノキサシン、ノルフロキサシン、等の抗生物質、イトラコナゾール、グリセオフルビン、等の抗真菌剤、アシクロビル等の抗ウイルス剤、クロフィブラート、プロブコール、シンバスタチン、等の高脂血症治療薬、ジピリダモール、ニフェジピン、ピンドロール、塩酸プラゾシン、レセルピン、塩酸ベラパミル、アテノロール、等の高血圧および/または狭心症治療薬、ジギトキシン、ジゴキシン、等の心疾患治療薬、ジアゼパム、ニトラゼパム、ハロペリドール、ドロペリドール、スルピリド、トリアゾラム、等の抗精神病または催眠・鎮静薬、フェニトイン、フェノバルビタール、等の抗てんかん薬、フマル酸クレマスチン、テルフェナジン、塩酸シプロヘプタジン、等の抗ヒスタミン剤、シメチジン、ファモチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、オキセサゼイン、スクラルファート、ゲファルナート、レバミピド、メトクロプラミド、等の胃・十二指腸潰瘍治療薬、パルミチン酸レチノール、酪酸リボフラビン、リン酸ピリドキサール、メコバラミン、葉酸、酢酸トコフェロール、フィトナジオン、メナテトレノン、等のビタミン類、フロセミド、インダパミド、スピロノラクトン、等の利尿剤、テオフィリン、トラニラスト、等の気管支喘息治療薬、塩酸ブロムヘキシン等の鎮咳・去痰薬、酢酸クロルマジノン、ダナゾール、メチルプレドニゾロン、等のホルモン作用薬、ベンズブロマロン、アロプリノール、等の痛風治療薬、トルブタミド等の糖尿病治療薬、レボドパ等のパーキンソン病治療薬等が挙げられる。難水溶性薬剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
難水溶性薬剤の含有量は、例えば、G/W型エマルション中のオイル1mL当たり、0.1~10mgとすることができる。
【0037】
なお、本実施形態のG/W型エマルションを、オイルに分散させて、ゲルインウォーターインオイル(G/W/O)型多相エマルションとして利用することもできる。ここで使用するオイルは界面活性剤を含んでいてもよい。オイルに分散する前に、G/W型エマルションを透析し、余剰の親水性の界面活性剤の除去を行ってもよい。G/W/O型多相エマルションとすることで角質層への浸透を改善することができる。
【0038】
(G/W型エマルションの製造方法)
G/W型エマルションの製造方法は特に限定されないが、例えば、ゲル化剤、オイル、界面活性剤及び水を含む混合物を、ゲル化剤の融点以上の温度でエマルション化処理する工程(エマルション処理工程)と、エマルション化処理後の混合物を、ゲル化剤の融点未満の温度まで冷却する工程(冷却工程)と、を有する方法により製造することができる。ゲル化剤、オイル、界面活性剤及び水を含む混合物を調製する際には、ゲル化剤およびオイルを、ゲル化剤の融点以上の温度で混合しオルガノゾルを形成した後に、ゲル化剤の融点以上の温度に加温した水と混合することにより、混合物を調製することが好ましい。この際、界面活性剤は、オルガノゾル中に混合されていてもよく、水中に混合されていてもよく、オルガノゾル及び水とは別に投入されてもよい。
【0039】
エマルション処理工程において、エマルション化処理には従来公知の方法を適用することができ、例えば超音波ホモジナイザーを用いる方法、高圧ホモジナイザーを用いる方法、超高速ホモジナイザーを用いる方法、マイクロ流路を用いる方法、ホモミキサーを用いる方法、等が挙げられる。また、エマルション化処理の際の温度は、ゲル化剤の融点以上であればよく、温度の上限は特に限定されないが、例えば110℃以下又は100℃以下とすることができる。
【0040】
冷却工程において、冷却の方法は特に限定されないが、エネルギー効率の観点から、大気下で室温まで放冷することが好ましい。また、ゲル化を安定させる観点から、冷却後の温度で静置することが好ましい。
【0041】
(経皮吸収剤)
本実施形態の経皮吸収剤は、上述のG/W型エマルションを含有する。かかる経皮吸収剤は、G/W型エマルションを上述のG/W/O型多相エマルションとして含有していてもよい。かかる経皮吸収剤は、G/W型エマルションを含有するので、徐放性に優れる。経皮吸収剤の剤形は、G/W型エマルションとしての形状を維持できるものであればよく、例えば、液剤(ローション剤、スプレー剤を含む)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、乳液剤、スティック剤等の各種の外用の製剤形態を挙げることができる。さらに本実施態様のG/W型エマルションの分散液を粘着剤や熱可塑性エラストマーに添加して塗工液を調製し、支持体及び/又は剥離ライナーに塗布することによって貼付剤として用いることも好ましい形態の一つである。
【0042】
経皮吸収剤として用いる場合には必要に応じて、経皮吸収促進剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤等を添加して用いることができる。また、貼付剤として用いる場合には、さらに、粘着付与剤、賦形剤等を添加して用いることができる。貼付剤において、G/W型エマルションと粘着付与剤の合計量に対するG/W型エマルションの含有量は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上である。
【0043】
貼付剤は、例えば、下記の工程(1)~(3)を有する方法により製造することができる。
(1)G/W型エマルションを調製する工程;
(2)G/W型エマルションを濃縮や上澄み除去等により、G/W型エマルション濃度を上昇させる工程;
(3)G/W型エマルションに貼付性付与剤、添加剤を添加して塗工液を調製し、塗工液を支持体又は剥離ライナーに塗布する工程。
【0044】
本実施形態の経皮吸収剤の使用量は、疾患の種類や症状の程度、患部の大きさによって異なり一概に規定できない。通常1日、一回乃至は数回、適量を患部に塗布することによって用いられる。
【0045】
(その他の剤形)
なお、本実施形態のG/W型エマルション及びG/W/O型多相エマルションは、上述した経皮吸収剤としての外皮用薬の他、点眼薬、眼軟膏剤、点鼻薬、口腔薬、坐薬、等の外用薬や、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、チュアブル錠、糖衣錠、等の内服薬や注射薬として用いることができる。
【0046】
(ドラッグデリバリーシステム)
ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは、薬物の効果を最大限に発揮させるために理想的な体内動態に制御する技術・システムのことで、必要最小限の薬物を、必要な場所に、必要な時に供給することを目的としている。一方、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果は、血漿タンパク質や血中に投与した高分子が腫瘍選択的に自然に集積する現象であり、このEPR効果を利用したDDSが検討されている。
【0047】
本実施形態の難水溶性薬剤を含むG/W型エマルションによれば、ゲル粒子の微粒子化によるEPR効果により疾病部位に薬物を効率的に送達することや、ゲル粒子中に難水溶性薬剤が担持されることで難水溶性薬剤が安定化され、疾病部位で徐放されること等が期待される。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1~18)
表1~3に示す配合で、オイル(油相)に界面活性剤とゲル化剤を加え、80℃の湯浴中で振とうして溶解させた。得られた溶液に表1~3に示す油相:水相の割合となるように、80℃の水を加え、80℃の恒温槽に容器を浸漬しながら超音波ホモジナイザーにより20分間処理してエマルションを得た。得られたエマルションを室温で放冷することにより、分散している油相がゲル化し、G/W型エマルションが得られた。
得られたエマルションに水を加えて600倍に希釈し、動的光散乱を測定して平均粒径と多分散度を測定した。動的光散乱はZertasizer Nano-ZS (Marvern Panalytical Ltd.社)を用いて測定した。
なお、表1~3中、オイル、界面活性剤及びゲル化剤としては、以下のものを用いた。
<オイル>
IPM ;ミリスチン酸イソプロピル
リピオドール ;ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル
<界面活性剤>
大豆レシチン
HCO-60 ;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ社)(PEG鎖を有する脂肪酸エステル)
<ゲル化剤>
蜜蝋(融点:約65℃)
12-HSA;12-ヒドロキシステアリン酸(高級脂肪酸)(融点:約75℃)
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
<抗がん剤(パクリタキセル)含有G/W型エマルションの抗腫瘍活性評価>
(実施例19)
リピオドールに予め飽和溶解度のパクリタキセル(濃度約2mg/ml)を溶解させておく以外は実施例17と同様の操作を行い、抗がん剤含有G/W型エマルションを調製した。
【0054】
(実施例20)
リピオドールに予め飽和溶解度のパクリタキセル(濃度約2mg/ml)を溶解させておく以外は実施例18と同様の操作を行い、抗がん剤含有G/W型エマルションを調製した。
【0055】
(抗腫瘍活性評価)
96-well plateにA549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)を5000cells/cmで播種し、37℃のインキュベーター中で24時間培養した。ウェル中の培地を抜き取った後、実施例19又は20の抗がん剤含有G/W型エマルションをDMEM培地で1000倍に希釈したものを80μl/well添加し、37℃で培養した。24時間後、48時間後に、それぞれ10%WST-8(生細胞を染色する色素)添加のDMEM培地で培地を置換した後、37℃で3時間培養した。次に0.1M塩酸8μl/well添加して反応を止め、測定波長450nmで吸光度を測定した。
また、抗がん剤含有G/W型エマルションを用いなかったこと以外は同様の操作を行った結果を比較例1とした。これらの結果をまとめて図1に示す。
【0056】
図1から明らかであるように、実施例19及び20はいずれも比較例1よりも、24時間、48時間経過後の吸光度が低く、A549細胞の生細胞が少なくなっていることが確認された。この結果から、抗がん剤含有G/W型エマルションが抗腫瘍活性を有している(腫瘍細胞増殖抑制効果がある)ことが示される。
【0057】
<担がんマウスを用いた抗腫瘍活性評価>
(実施例21)
リピオドールに予めパクリタキセル(濃度約144mg/ml)を分散させておく以外は実施例18と同様の操作を行い、抗がん剤含有G/W型エマルションを調製した。
【0058】
(抗腫瘍活性評価)
実施例21で調製した抗がん剤含有G/W型エマルションをPBS(リン酸緩衝生理食塩水)でPTX(パクリタキセル)濃度が1.8mg/mlとなるように希釈した。担がんマウスは、マウス(ICR、雄、6週齢)の脇腹にB16F10細胞(2.0×10細胞/個体)を移植して担がん状態とした。移植後24時間後から担がんマウスの腫瘍周辺に、上記の抗がん剤含有G/W型エマルションを2日ごとに100μl(PTX 0.18mg相当)皮下投与した。また、抗がん剤含有G/W型エマルションを用いなかったこと以外は同様の操作を行った結果を比較例2とした。2日ごとに腫瘍体積をノギスを用いて測定した結果を図2に示す。図2から明らかであるように、実施例21は比較例2よりも腫瘍体積の増加が抑制され、生体環境下でも抗がん剤含有G/W型エマルションが抗腫瘍活性を有していることが示される。
【0059】
(実施例22)
実施例3、15及び16で得られたG/W型エマルションをサンプル管に入れて室温で30日間保管した。その後、G/W型エマルションの状態を目視により確認したが、粒子の沈降や凝集は見られず、分散安定性に優れることが明らかとなった。
【0060】
<マウス皮膚を用いた皮膚透過性評価>
(実施例23)
リピオドールに疎水性蛍光物質であるクマリン6を0.03重量%、ゲル化剤である12-HSA(12-ヒドロキシステアリン酸)を8重量%となるように添加し、80℃の湯浴中で振盪しながら溶解させ油相を調製した。この油相に対して1:7となるように界面活性剤HCO-60 150mg/mLを含む純水を混合し、80℃の恒温槽に容器を浸漬しながら超音波ホモジナイザーにより20分間処理してクマリン6含有G/W型エマルションを得た(平均粒径:47.7nm 多分散度:0.214)。
得られたG/W型エマルション2mlを透析チューブ(分画分子量1kDa)に封入し、純水中で4時間透析を行い、余剰の界面活性剤の除去を行った。
透析したG/W型エマルションに界面活性剤であるショ糖エルカ酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製、「ER-290」)を50mg/ml含むIPMを1:2の比率で加え、超音波ホモジナイザーにより10分間処理してクマリン6含有G/W/O型エマルションを得た。(平均粒径:139.9nm 多分散度:0.126)
【0061】
(皮膚透過性評価)
マウスの背中の毛を剃刀で軽く剃った後、除毛剤を用いて残りの毛をきれいに除去し、超純水で皮膚を洗浄した。マウスの皮膚を全層摘出し、ハサミで2cm角程度に切ったのち、拡散セルに角質層がドナー側、真皮層がリザーバー側となるよう皮膚を装着した。拡散セルのリザーバー側にPBSを皮膚下面が接する程度まで加え、ドナー側に上記クマリン6含有G/W/O型エマルションを200μl添加した。インキュベーターに入れて37℃で1日間静置することで透過試験を行った。皮膚を回収し、プロワイプで軽く表面を拭きとり、皮膚を小さくカットし、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社製)に包埋した後、-80℃下で凍結し、ミクロトームで20μmの組織片を作製した。スライドガラスに組織片を吸着させ、位相差観察と蛍光観察を行った。その結果を図3に示す。クマリン6を単独でIPM溶液として用いた場合と比較してクマリン6含有G/W/O型エマルションを用いた場合は皮膚の深部まで疎水性物質が浸透していることが確認された。
図1
図2
図3