(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】抗酸化用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20250225BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20250225BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20250225BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20250225BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250225BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20250225BHJP
【FI】
A61K35/747
A61K36/06 A
A61P39/06
A61P3/06
A61P1/16
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2020123678
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020044745
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-10896
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11115
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11116
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11117
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-11118
(73)【特許権者】
【識別番号】504312667
【氏名又は名称】株式会社フィス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マンドー ゴーナム
(72)【発明者】
【氏名】薮本 義江
(72)【発明者】
【氏名】薮本 鐵美
(72)【発明者】
【氏名】末松 陽子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 百合子
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107058161(CN,A)
【文献】特開2003-038122(JP,A)
【文献】国際公開第2001/097820(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/151020(WO,A1)
【文献】特開2017-007983(JP,A)
【文献】SOLEYMANZADEH, Nazila et al.,Antioxidant activity of camel and bovine milk fermented by lactic acid bacteria isolated from traditional fermented camel milk (Chal),Dairy Science & Technology,2016年,96, 443-457,<DOI: 10.1007/s13594-016-0278-1>
【文献】LIU, Je-Ruei et al.,Antioxidative Activities of Kefir,Asian-Australas J Anim Sci.,2005年,18(4):567-573,<DOI: 10.5713/ajas.2005.567>
【文献】NEJATI, Fatemeh et al.,A Big World in Small Grain: A Review of Natural Milk Kefir Starters,Microorganisms,2020年01月30日,8(2):192,<doi: 10.3390/microorganisms8020192>
【文献】"STANDARD FOR FERMENTED MILKS", [online],2020年02月04日,[検索日:2024年6月13日],インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20200204013331/https://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/sh-proxy/en/?lnk=1&url=https%253A%252F%252Fworkspace.fao.org%252Fsites%252Fcodex%252FStandards%252FCXS%2B243-2003%252FCXS_243e.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23C
A23L 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微生物の乳発酵物又はその処理物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化用組成物
であって、前記複数の微生物は、ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus Kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)、ラクトバチルス ケフィリP-B1(Lactobacillus kefiri P-B1)(受託番号FERM BP-11115)、カザツタニア ツリセンシスP-Y3(Kazachstania turicensis P-Y3)(受託番号FERM BP-11116)、カザツタニア ユニスポラP-Y4(Kazachstania unispora P-Y4)(受託番号FERM BP-11117)、及びクリュイベロミセス マルシアヌスP-Y5(Kluyveromyces marxianus P-Y5)(受託番号FERM BP-11118)を含む、該抗酸化用組成物。
【請求項2】
酸化ストレスを低減させるために使用する、請求項1に記載の抗酸化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化ストレスは老化プロセスに関与しており、これは活性酸素種(ROS)の形成に密接に関連すると言われている。これらの活性酸素種(ROS)は非常に反応性が高く、核酸、タンパク質、脂質などの多くの生体高分子を酸化的に損傷する可能性があり、遺伝的変異や細胞老化を引き起こす可能性がある。
【0003】
老化したラットではより高いレベルのフリーラジカルが報告されている。これは抗酸化物質レベルの低下に起因している。抗酸化物質レベルの年齢依存的な低下は、ラット及びヒトで十分に実証されている。例えば、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素的抗酸化物質のmRNAレベルは、老年ラットの肝臓で定量化され、減少していることが判明している。
【0004】
加齢中に変化する細胞の酸化還元状態は、食事によって変更される場合がある。現在世界中で20億人を超える人々に影響を及ぼしている鉄やその他の栄養不足は、酸化ストレスを誘発することが示されている。これまでの研究は、フェリチンが内皮細胞並びにマウス及びヒト白血病細胞の酸化的損傷に対する保護剤として作用することを示唆している。我々は最近、二価及び三価の鉄酸塩に由来する鉄ベースのヒドロ鉄酸塩流体の抗酸化効果が、インビトロでのマウス脾細胞の酸化ストレス誘発アポトーシスに対する保護効果を示すことを示した(非特許文献1)。
【0005】
一方、乳酸菌は、人間の寿命を延ばす可能性があると長い間考えられてきたもう1つの天然の食事関連物質である。生物学者Eli Metchnikoffは、1900年代初期にこの効果を示唆した(非特許文献2)。乳酸菌は発酵乳や食品の製造によく使用され、発酵乳に含まれる乳酸菌株は腸内細菌叢に見られる通常の細菌である。乳酸菌は、プロバイオティクス細菌の健全なバランスを維持しながら、腸内の病原菌を減らすのに役立つことが示されている。さらに、乳酸菌は、関節リウマチ、クローン病、癌を含むさまざまな疾患に有益な効果があることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Badr El-Din NK, Noaman E, Fattah SM, Ghoneum M. Reversal of age-associated oxidative stress in rats by MRN-100, a hydro-ferrate fluid. In Vivo. 2010; 24(4):525-33.
【文献】Metchinkoff E and Metchinkoff II: The Prolongation of Life: Optimistic Studies. Putnam, New York, NY, pp109-132, 1908.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗酸化用組成物の新たな有効成分を提供できれば治療や処置の選択の幅が広がる。また、天然産物もしくはその一次的な処理物が有効成分であれば、副作用のリスクも少ないと考えられるので、望ましい。
【0008】
したがって、本発明の目的は、天然産物もしくはその一次的な処理物を有効成分とした新規な抗酸化用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物又はその処理物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化用組成物。
[2]酸化ストレスを低減させるために使用する、[1]に記載の抗酸化用組成物。
[3]前記ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)は、ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus Kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)を含む、[1]または[2]に記載の抗酸化用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物又はその処理物を有効成分にするので、安全で副作用少なく抗酸化効果を得ることができる、新規な抗酸化用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例6において生化学的血清パラメーターの評価を行った結果を示す図表であり、
図1(a)は血清中のALT(EC2.6.1.2)の酵素活性を測定した結果を示す図表であり、
図1(b)は血清中のAST(EC2.6.1.1)の酵素活性を測定した結果を示す図表であり、
図1(c)は血清中の総タンパク質の濃度を測定した結果を示す図表である。
【
図2】試験例6において生化学的血清パラメーターの評価を行った結果を示す図表であり、
図2(a)は血清中の総コレステロール(TC)の濃度を測定した結果を示す図表であり、
図2(b)は血清中のトリグリセリド(TG)の濃度を測定した結果を示す図表であり、
図2(c)は血清中の低密度リポタンパク質(LDL)の濃度を測定した結果を示す図表であり、
図2(d)は血清中の高密度リポタンパク質(HDL)の濃度を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)としては、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)に属する微生物であればよく、特に制限はないが、好ましくはラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus Kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)を用いる。ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)は、公知の方法により、又はそれに準じて培養を行うことができ、例えば、市販のMRS培地(商品名「Lactobacilli MRS Broth」、Difco社製)を用いて嫌気静置培養することなどにより、大量培養が可能である。
【0013】
ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物は、乳原料にラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)をスターターとして接種して所定の発酵条件に曝すことによって得ることができる。
【0014】
乳発酵のための乳原料としては、例えば、牛乳、乳清、発酵乳、乳酸菌飲料、脱脂乳、脱脂粉乳、調製粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳、脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳などが挙げられる。これらはそのまま、あるいは適宜水等に溶解又は希釈したり、濃縮したりした後、必要に応じてオートクレーブ滅菌等の処理を施して、乳発酵のための原料とすることができる。
【0015】
発酵用微生物(スターター)の接種方法としては、MRS培地等による前培養液を添加する方法や、前に発酵を行ったときの残りの乳発酵物を添加する方法などが挙げられる。培養条件としては、20~30℃、より好ましくは24~26℃で、1~10日、より好ましくは3~7日間嫌気静置培養する方法などが好ましく採用される。
【0016】
上記乳発酵のスターターとしては、複数の菌種を併用してもよい。これによれば、複数の微生物が共生的に生育することによって乳発酵が起こるので、味や外観がよい乳発酵物が得られる。例えば、カザツタニア ツリセンシス(Kazachstania turicensis)、カザツタニア ユニスポラ(Kazachstania unispora)、及びクリュイベロミセス マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)からなる群から選ばれた少なくとも1種の酵母菌を併用してもよい。あるいは、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)として、上記ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus Kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)に加えてラクトバチルス ケフィリP-B1(Lactobacillus kefiri P-B1)(受託番号FERM BP-11115)などを併用してもよい。
【0017】
特に好ましい態様では、上記乳発酵のスターターとして、ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)を主要微生物として、その他に副次的微生物として、ラクトバチルス ケフィリP-B1(Lactobacillus kefiri P-B1)(受託番号FERM BP-11115)、カザツタニア ツリセンシスP-Y3(Kazachstania turicensis P-Y3)(受託番号FERM BP-11116)、カザツタニア ユニスポラP-Y4(Kazachstania unispora P-Y4)(受託番号FERM BP-11117)、及びクリュイベロミセス マルシアヌスP-Y5(Kluyveromyces marxianus P-Y5)(受託番号FERM BP-11118)を少なくとも含む複合微生物を用いて、上記乳原料で発酵し、発酵後の乳発酵物の微生物群中に、ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)が80菌数%以上、より好ましくは90菌数%以上占めるように調製して、そのように調製された乳発酵物を用いることが好ましい。
【0018】
本発明においては、抗酸化用組成物の有効成分として、上記のように得られたラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物又はその処理物を用いる。ここで「処理物」には、乳発酵物に対して加熱殺菌、濃縮、乾燥、菌体の分離、菌体の除去、菌体の破砕、水系溶媒や含水アルコール系溶媒等による希釈、水系溶媒や含水アルコール系溶媒等への抽出などの処理の1種又は2種以上の組み合わせを施して調製したものが含まれる。また、水系溶媒あるいは含水アルコール系溶媒等で抽出した抽出物に対して加熱殺菌、濃縮、乾燥、固形物の除去などの処理の1種又は2種以上の組み合わせを施して調製したものも含まれる。
【0019】
例えば、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)は、その菌体に60~120℃、より好ましくは、95~120℃の加熱処理を施すことにより、死菌化される。よって、乳発酵物を噴霧乾燥により粉末化することができるが、それと同時に付加される熱で死菌化されていてもよい。あるいは、乳発酵物の粉末化は凍結乾燥によって行ってもよい。これによれば、乳発酵物の凍結乾燥物を水等で戻すことにより、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)を生きた状態で提供することも可能である。
【0020】
本発明の抗酸化用組成物においては、上記有効成分以外に、他の素材を配合することに特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤、注射剤、吸引剤、塗布剤等の形態にして利用することができる。
【0021】
本発明の抗酸化用組成物は、ヒト又は動物に投与すればよく、その投与形態に特に制限はない。例えば、経口投与、静脈内投与、脳内局所投与、腹腔内投与、吸引、経鼻投与などが挙げられる。なかでも、摂取者の負担の軽減や服用のし易さの観点からは、経口投与の形態が好ましい。
【0022】
本発明の抗酸化用組成物を経口投与する場合、その1日当りの投与量としては、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物の乾燥物の状態の量で換算した量で0.01(g/kg体重)~10(g/kg体重)であることが好ましく、0.05(g/kg体重)~5(g/kg体重)であることがより好ましく、0.1(g/kg体重)~1(g/kg体重)であることが更により好ましい。あるいは、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物中に含まれる該ケフィリ菌の菌数で換算した量で1×1013(個/kg体重)~1×1016(個/kg体重)であることが好ましく、5×1013(個/kg体重)~5×1015(個/kg体重)であることがより好ましく、1×1014(個/kg体重)~1×1015(個/kg体重)であることが更により好ましい。投与量がそれらの範囲よりも少ないと、十分な効果が得られにくく、投与量がその範囲よりも多いと、何らかの副作用を生じるリスクが高まる。
【0023】
なお、ラクトバチルス ケフィリ(Lactobacillus kefiri)の乳発酵物の乾燥物中に含まれる該ケフィリ菌の菌数は、5×1012(個/g)~3×1015(個/g)であることが好ましく、5×1013(個/g)~2×1015(個/g)であることがより好ましく、5×1014(個/g)~1×1015(個/g)であることが更により好ましい。
【0024】
本発明の抗酸化用組成物は、例えば、年齢に伴う酸化ストレスの改善のために好ましく用いることができる。典型的に、例えば30歳以上、より典型的には40歳以上、更により典型的には50歳以上、最も典型的には60歳以上のヒトの年齢に伴う酸化ストレスの改善のために、好ましく用いることができる。また、ペット動物等に適用してもよく、特に、上記ヒトの年齢に相当する高齢のペット動物等の年齢に伴う酸化ストレの改善のために、好ましく用いることができる。例えば、イヌの場合、4年齢以上、より典型的には6年齢以上、更により典型的には8年齢以上、最も典型的には10年齢以上のイヌの年齢に伴う酸化ストレスの改善のために、好ましく用いることができる。また、例えば、ネコの場合、4年齢以上、より典型的には6年齢以上、更により典型的には9年齢以上、最も典型的には11年齢以上のネコの年齢に伴う酸化ストレスの改善のために、好ましく用いることができる。
【0025】
本発明の抗酸化用組成物を投与するための製品の形態としては、その作用効果を損なわない限り、特に制限はない。例えば、医薬品、医薬部外品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、など各種の製品形態で、あるいはそれら製品と組み合わせて使用されることが可能である。あるいはペット動物等のための動物用製品であってもよい。
【実施例】
【0026】
以下に例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
[材料及び方法]
(1)抗酸化用組成物の調製
ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)をMRS液体培地に植菌して、25℃で前培養し、これを主要微生物として、その他に副次的微生物として、ラクトバチルス ケフィリP-B1(Lactobacillus kefiri P-B1)(受託番号FERM BP-11115)、カザツタニア ツリセンシスP-Y3(Kazachstania turicensis P-Y3)(受託番号FERM BP-11116)、カザツタニア ユニスポラP-Y4(Kazachstania unispora P-Y4)(受託番号FERM BP-11117)、及びクリュイベロミセス マルシアヌスP-Y5(Kluyveromyces marxianus P-Y5)(受託番号FERM BP-11118)を少なくとも含む複合微生物をスターターとして用いて、脱脂乳培地(イオン交換水90質量部に脱脂粉乳10質量部を混合し、オートクレーブ滅菌して調製した培地)に植菌して、25℃、5日間嫌気静置培養し発酵させた。得られた発酵培養物は、ラクトバチルス ケフィリP-IF(Lactobacillus kefiri P-IF)(受託番号FERM BP-10896)が90菌数%以上を占める、黄褐色をしたヨーグルト状の液体であった。これを加熱処理後、凍結乾燥し、以下の動物実験に用いた。なお、乾燥物中の菌数濃度としては、およそ1×1015/gであった。また、以下簡略化のためこの調製物を「PFT」と称する。
【0028】
(2)動物及び実験
10ヶ月齢の雄のスイスアルビノマウス(体重約23-28g:老年マウス)及び2ヶ月齢の雄のスイスアルビノマウス(体重約11-22g:若年マウス)を使用した。マウスは、グループ1(正常な若年マウス)、グループ2(正常な老年マウス)及びグループ3(PFT処置群)に分類した。PFT処置群では、水を自由に摂取できる状態で6週間毎日2mg/kg体重の用量でPFTを経口投与した。6週間後、一晩絶食した動物に麻酔をかけ、腹部大動脈から注射器を使用して血液を採取し、血清を分離して分析まで-80℃で保存した。また、肝臓及び脳組織を迅速に切除し、氷冷0.9%NaClで洗浄した後、液体窒素で凍結し、同様に-80℃で保存した。
【0029】
分析のためのサンプルとして、組織をPBS、0.1M、pH7.4(9mL/g組織)でホモジナイズし、4℃、6000rpmで、20分間遠心分離して、その上清を収集した。
【0030】
[試験例1]
<脂質過酸化レベル及び一酸化窒素レベルの評価>
脂質過酸化レベルは、マロンジアルデヒド(MDA)含量を、チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)の形で分析することにより評価した。具体的には、500μLのサンプルを1mLのトリクロロ酢酸(TCA、15%)に加え、3000rpmで10分間遠心分離した。1mLの上清を500μLのチオバルビツール酸(TBA、0.7%)と混合し、沸騰水浴で10分間加熱した後、冷却し、532nmの波長の光で吸光度を測定した。TBARSレベルは、下記式に従って計算して、測定サンプル用量中の量(nmol/mL)の単位で求めた(BROWN WD, TAPPEL AL「Fatty acid oxidation by carp liver mitochondria.」Arch Biochem Biophys. 1959 Nov; 85: pp149-58.)。
【0031】
TBARSレベル(nmol/mL)=サンプルの吸光度532nm/156
【0032】
一酸化窒素(NO)レベルは、グリース反応を利用して、次のようにして測定した。まず、100μLのサンプルを100μLの酸性グリース試薬(2.5%リン酸中に1%スルファニルアミド及び0.1%ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩を含む)に添加し、混合後、540nmの波長の光で吸光度を測定した。NOレベルは、別途、標準物質を用いて異なる濃度にわたる標準曲線を作成して測定結果をあてはめることで、測定サンプル用量中の濃度(μM)の単位で求めた。
【0033】
【0034】
表1に示されるように、以下の(1)~(2)のことが明らかとなった。
(1)TBARSレベル
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるTBARSレベルが有意に増加した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で55%、脳で81%、及び血清で73%と各組織におけるTBARSレベルが有意に減少した。
【0035】
(2)NOレベル
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるNOレベルが有意に増加した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で47%、脳で60%、及び血清で82%と各組織におけるNOレベルが有意に減少した。
【0036】
以上から、PFT投与により、年齢に関連したTBARSレベル及びNOレベルの増加が打ち消されることが判明し、換言すれば、PFTにより酸化ストレスが低減されることが明らかとなった。
【0037】
[試験例2]
<還元型グルタチオンレベル及びグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性の評価>
還元型グルタチオン(GSH)レベルは、次のようにして測定した。まず、100μLのサンプルを100μLのスルホサリチル酸(4%)と混合した。その後、4℃で少なくとも1時間保持し、4℃で1200rpm、10分間遠心分離した。100μLの上清を2.7mLのリン酸緩衝液(0.1M、pH7.4)及び0.2mLのDTNB試薬(5,5’-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid)と混合し、5分間インキュベートした。黄色の生成物について412nmの波長の光で吸光度を測定した。GSHレベルは、別途、標準物質を用いて異なる濃度にわたる標準曲線を作成して測定結果をあてはめることで、測定サンプル中のタンパク量に対する量(mg・mg-1タンパク量)の単位で求めた。
【0038】
グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)活性は、1-クロロ-2、4-ジニトロベンゼン(CDNB)と還元型グルタチオン(GSH)との結合を利用して、次のようにして測定した。まず、100μLのGSH(5mM)と10μLのCDNB(エタノール中1mM)と25μLのサンプルとを1.365mLのリン酸緩衝液(0.1M、pH6.5)に添加し、室温で20分間インキュベートした。その後、310nmの波長の光で吸光度を測定し、常法の定式化によりGST活性(μmol・min-1・mg-1タンパク質)を求めた(Habig WH, Pabst MJ, Jakoby WB「Glutathione S-transferases. The first enzymatic step in mercapturic acid formation.」J Biol Chem. 1974; 249: pp7130-39.)。
【0039】
【0040】
表2に示されるように、以下の(1)~(2)のことが明らかとなった。
(1)GSHレベル
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるGSHレベルが有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で122%、脳で126%、及び血清で167%と各組織におけるGSHレベルが有意に上昇した。
【0041】
(2)GST活性
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるGST活性が有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で205%、脳で164%、及び血清で255%と各組織におけるGST活性が有意に上昇した。
【0042】
以上から、PFT投与により、年齢に関連したGSHレベル及びGST活性の増加が打ち消されることが判明し、換言すれば、PFTにより酸化ストレスが低減されることが明らかとなった。
【0043】
[試験例3]
<スーパーオキシドジスムターゼ活性、カタラーゼ活性、及びグルタチオンペルオキシダーゼ活性の評価>
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性は、ピロガロール酸化の阻害率を利用して、次のようにして測定した。まず、20μLのサンプルと10μLの20mMピロガロール(10mM塩酸水溶液)とを1mLのバッファー液に加えて、試験液を調製した。試験液の吸光度は、30秒及び90秒後に420nmの波長の光で吸光度を測定した。ピロガロール酸化の阻害率は、次の式に従って計算した。
【0044】
阻害率(%)=[(100-ΔAt)/ΔAо]×100
(ΔAtは試験液の単位時間(1分間)及び単位用量(1mL)あたりの吸光度420nの変化量、ΔAоはリファレンス液の単位時間(1分間)及び単位用量(1mL)あたりの吸光度420nの変化量)
【0045】
カタラーゼ(CAT)活性は、サンプルキュベット内において、サンプル0.1mLをpH7.6の0.2Mリン酸ナトリウムバッファーの0.5mL及び0.5%H2O2の0.3mLを混合し、その混合物を蒸留水で希釈して合計3mLとした。H2O2の分解を240nmの波長の光の吸光度によって測定し、1分間あたりの吸光度の変化率(吸光度変化率%・min-1)を酵素活性として計算した。
【0046】
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性は、50μLのサンプルと100μLのGSHとを750μLのTris-HCl溶液(50mM、pH7.6)に加え、37oCで10分間インキュベートした。次に、1mLのTCA(15質量%)と100μLのH2O2を加え、3000rpmで20分間遠心分離した。1mLの上清に2mLのTris-HCl溶液(0.4M、pH8.9)及び100μLのDTNB試薬(5,5’-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid)に加え、5分間インキュベートした。得られた試験液の吸光度を412nmの波長の光で測定し、GPxの活性は次の式で計算した。
【0047】
GPx活性(mol・min-1・mg-1タンパク量)=(At-Ao)×6.2×[100/13.1]×0.05×10
(Atは試験液の吸光度412nm、A0はリファレンス液の吸光度412nm)
【0048】
【0049】
表3に示されるように、以下の(1)~(3)のことが明らかとなった。
(1)GPx活性
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるGPx活性が有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で136%、脳で142%、及び血清で135%と各組織におけるGPx活性が有意に上昇した。
【0050】
(2)CAT活性
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるCAT活性が有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で141%、脳で155%、及び血清で140%と各組織におけるCAT活性が有意に上昇した。
【0051】
(3)SOD活性
老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるSOD活性が有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で289%、脳で170%、及び血清で212%と各組織におけるSOD活性が有意に上昇した。
【0052】
以上から、PFT投与により、年齢に関連したGPx活性及びCAT活性及びSOD活性の低下が打ち消されることが判明し、換言すれば、PFTにより酸化ストレスが低減されることが明らかとなった。
【0053】
[試験例4]
<総抗酸化能の評価>
総抗酸化能(Total Antioxidant Capacity:TAC)レベルは、次のようにして測定した。まず、1mLのサンプルを、硫酸(0.6M)、リン酸ナトリウム(28mmol)及びモリブデン酸アンモニウム(4mmol)を含む1mLの溶液に加え、混合物を95℃で90分間インキュベートし、常温に冷却後、695nmの波長の光で吸光度を測定した。TACレベルは、下記式に従って計算した。
【0054】
TAC(%)=[(A0-At)/A0]×100
(A0はリファレンス液の吸光度695nm、Atは試験液の吸光度695nm)
【0055】
【0056】
表4に示されるように、老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるTACレベルが有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で126%、脳で142%、及び血清で144%と各組織におけるTACレベルが有意に上昇した。
【0057】
以上から、PFT投与により、年齢に関連したTACレベルの低下が打ち消されることが判明し、換言すれば、PFTにより酸化ストレスが低減されることが明らかとなった。
【0058】
[試験例5]
<抗ヒドロキシルラジカル活性の評価>
抗ヒドロキシルラジカル(anti-hydroxyl radical:AHR)活性は、次のようにして測定した。まず、10μLのサンプルを、100μLのH2O2、100μLのFeSO4、100μLの2-デオキシリボース-D-リボース、及び2.7mLのリン酸緩衝液(pH7.4)を混合してなる反応生成物に加え、37℃で60分間インキュベートした。次いで、0.2mLのEDTAと2mLのTBA試薬(5.2mLの過塩素酸、1.5gのチオバルビツール酸、60gのトリクロロ酢酸)を加え、生成したピンク色の複合体の吸光度を532nmの波長の光で測定した。結果は、常法の定式により「(U・mg-1タンパク量)」の単位で表した(Halliwell B1, Gutteridge JM, Aruoma OI「The deoxyribose method: a simple "test-tube" assay for determination of rate constants for reactions of hydroxyl radicals.」Anal Biochem. 1987; 165(1): pp215-219.)。
【0059】
【0060】
表5に示されるように、老年マウスでは、若年マウスと比較して、肝臓、脳、及び血清の各組織におけるAHR活性が有意に低下した。これに対して、PFT処置群では、老年マウスと比較して、肝臓で119%、脳で118%、及び血清で119%と各組織におけるAHR活性が有意に上昇した。
【0061】
以上から、PFT投与により、年齢に関連したAHR活性の低下が打ち消されることが判明し、換言すれば、PFTにより酸化ストレスが低減されることが明らかとなった。
【0062】
[試験例6]
<生化学的血清パラメーターの評価>
肝機能の指標であるALT(EC2.6.1.2)とAST(EC2.6.1.1)の酵素活性と、総タンパク質の濃度を測定した。また、血清脂質プロファイルとして、総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、低密度リポタンパク質(LDL)、及び高密度リポタンパク質(HDL)の濃度を測定した。これらの生化学的血清パラメーターは、市販のキットにより、キットの製造元の指示に従って分析した。なお、試験群には、老年マウスに対するPFT処置群とともに、若年マウスに対するPFT処置群を設けて血清を採取して分析に供した。
【0063】
その結果、
図1(a)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べて肝機能の指標であるALT(EC2.6.1.2)の血清中濃度が高くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が若年マウスのレベルにまで低下した。
【0064】
また、
図1(b)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べて肝機能の指標であるAST(EC2.6.1.1)の血清中濃度が高くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が大きく低下した。
【0065】
また、
図1(c)に示されるように、各試験群間で、血清中の総タンパク質の濃度に変化はみられなかった。
【0066】
以上から、老年マウスに対するPFT処置により肝臓に抗酸化作用がもたらされ、老年マウスにおける肝機能が改善したことが考えられた。
【0067】
また、
図2(a)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べて総コレステロール(TC)の血清中濃度が高くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が若年マウスのレベルにまで低下した。
【0068】
また、
図2(b)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べてトリグリセリド(TG)の血清中濃度が高くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が低下した。
【0069】
また、
図2(c)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べて低密度リポタンパク質(LDL)の血清中濃度が高くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が大きく低下した。
【0070】
また、
図2(d)に示されるように、老年マウスでは若年マウスに比べて高密度リポタンパク質(HDL)の血清中濃度が低くなったのに対して、老年マウスに対するPFT処置群では、その濃度が若年マウスのレベルにまで増加した。
【0071】
以上から、老年マウスに対するPFT処置により肝臓に抗酸化作用がもたらされ、老年マウスにおける肝機能が改善したことにより、血清脂質プロファイルが改善したことが考えられた。
【0072】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。