(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法及びターゲット強度自己測定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/52 20060101AFI20250225BHJP
G01S 7/539 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
G01S7/52 U
G01S7/539
(21)【出願番号】P 2024540803
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2022101706
(87)【国際公開番号】W WO2023130682
(87)【国際公開日】2023-07-13
【審査請求日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】202210016770.X
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520154254
【氏名又は名称】江蘇科技大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.2 Mengxi Road,Zhenjiang,Jiangsu 212003,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 呈
(72)【発明者】
【氏名】徐 多
(72)【発明者】
【氏名】徐 子建
(72)【発明者】
【氏名】李 暁曼
(72)【発明者】
【氏名】王 彪
(72)【発明者】
【氏名】羅 成名
(72)【発明者】
【氏名】▲ビー▼ 雪▲潔▼
(72)【発明者】
【氏名】馬 林
(72)【発明者】
【氏名】呉 游
(72)【発明者】
【氏名】孔 凡童
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-057963(JP,A)
【文献】特開2019-096099(JP,A)
【文献】ZHAO Anbang, HE Chengm, HUI Juan, NIU Fang,Sonar target strength measurements using time reversal mirror,Journal of Applied Acoustics,中国,2015年01月31日,34,DOI:10.11684/j.issn.1000-310X.2015.01.012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72-G01S 1/82
G01S 3/80-G01S 3/86
G01S 5/18-G01S 5/30
G01S 7/00-G01S 7/42
G01S 7/52-G01S 7/64
G01S 13/00-G01S 13/95
G01S 15/00-G01S 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法であって、
測定対象ターゲット自体に搭載されたソナー送受信機器を使用し、垂直境界に音響強度I
sの音波Aを送信するステップであって、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L
2/λを満たし、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長であるステップS1と、
前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、音波B’を垂直境界に送信するステップS2と、
前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、音波Cの信号に基づいて音響強度I
iを計算するS3と、
前記ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、音波D’を垂直境界に送信するステップS4と、
前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、音波Eの信号に基づいて音響強度I
Tを計算するステップS5と、
測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数15】
を計算するステップS6と、を含むことを特徴とする、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法。
【請求項2】
前記垂直境界は、崖壁であることを特徴とする、請求項1に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法。
【請求項3】
前記ソナー送受信機器は、送受信兼用型トランスデューサであることを特徴とする、請求項1に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法。
【請求項4】
前記測定対象ターゲットは、水中に位置することを特徴とする、請求項1に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法。
【請求項5】
前記ソナー送受信機器は、垂直境界に音波を水平方向に送信することを特徴とする、請求項1に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法。
【請求項6】
測定対象ターゲットに設けられており、音波信号を送信及び受信するためのソナー送受信機器と、音波信号を時間反転するための信号時間反転モジュールと、音波信号の音響強度を計算するための音響強度取得モジュールと、測定対象ターゲットのターゲット強度を計算するためのターゲット強度計算モジュールと、を備える境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システムであって、
測定対象ターゲットのターゲット強度の計算ステップでは、
ソナー送受信機器は、垂直境界に音響強度I
sの音波Aを送信し、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L
2/λを満たし、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長であり、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、
信号時間反転モジュールは、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、
ソナー送受信機器は、音波B’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Cの音響強度I
iを計算し、
ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、
信号時間反転モジュールは、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、
ソナー送受信機器は、音波D’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Eの音響強度I
Tを計算し、
ターゲット強度計算モジュールは、測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数16】
を計算することを特徴とする、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システム。
【請求項7】
前記垂直境界は、崖壁であることを特徴とする、請求項6に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システム。
【請求項8】
前記ソナー送受信機器は、送受信兼用型トランスデューサであることを特徴とする、請求項6に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システム。
【請求項9】
前記測定対象ターゲットは、水中に位置することを特徴とする、請求項6に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システム。
【請求項10】
前記ソナー送受信機器は、垂直境界に音波を水平方向に送信することを特徴とする、請求項6に記載の境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響計測技術分野に属し、具体的には、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法及びターゲット強度自己測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水中音響技術の発展に伴い、ソナーターゲットの騒音レベルがますます低くなり、中にはレベル3の海況における海洋環境の騒音レベルに近いか、それよりも低く、パッシブソナーを使用して探知することが困難であり、このような静かなターゲットの探知には、アクティブソナーが最も効果的な方法である。アクティブソナー探知技術では、敏感なターゲットのステルス性能、ソナー機器の探知性能は、いずれもターゲットのエコーの強さから反映され、検証される必要がある。重要なソナーパラメータとして、ターゲット強度は、ソナーの探知性能を決定する。水中ターゲット強度は、ターゲットの音響散乱テストによって得られ、現在の水中の大型ターゲットの音響散乱テストでは、船舶を利用してテスト機器を個別に配置する必要があり、結果がターゲットの散乱特性と浅海環境の影響を受けやすく、操作が煩雑であり、測定タスクが重く、周期が長く、測定変動が大きいため、得られたターゲット強度値のロバスト性に影響を与える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の目的は、テスト機器を必要とせず、測定対象ターゲット自体に搭載されたソナー送受信機器だけで実現される、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法及びターゲット強度自己測定システムを提供することにある。
【0004】
技術的解決手段は、次のとおりである。本発明の一態様では、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法が開示され、前記方法は、次のステップを含む。
【0005】
S1、測定対象ターゲット自体に搭載されたソナー送受信機器を使用し、垂直境界に音響強度Isの音波Aを送信し、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L2/λを満し、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長である。
【0006】
S2、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、音波B’を垂直境界に送信する。
【0007】
S3、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、音波Cの信号に基づいて音響強度Iiを計算する。
【0008】
S4、前記ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、音波D’を垂直境界に送信する。
【0009】
S5、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、音波Eの信号に基づいて音響強度ITを計算する。
【0010】
S6、測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数1】
を計算する。
【0011】
好ましくは、前記垂直境界は、崖壁である。
【0012】
好ましくは、前記ソナー送受信機器は、送受信兼用型トランスデューサである。
【0013】
好ましくは、前記測定対象ターゲットは、水中に位置する。
【0014】
好ましくは、前記ソナー送受信機器は、垂直境界に音波を水平方向に送信する。
【0015】
別の態様では、本発明は、上記方法を実現するためのターゲット強度自己測定システムをさらに開示する。前記ターゲット強度自己測定システムは、測定対象ターゲットに設けられており、音波信号を送信及び受信するためのソナー送受信機器と、音波信号を時間反転するための信号時間反転モジュールと、音波信号の音響強度を計算するための音響強度取得モジュールと、測定対象ターゲットのターゲット強度を計算するためのターゲット強度計算モジュールとを備える。
【0016】
測定対象ターゲットのターゲット強度の計算ステップは、次のとおりである。
ソナー送受信機器は、垂直境界に音響強度I
sの音波Aを送信し、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L
2/λを満たし、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長であり、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、
信号時間反転モジュールは、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、
ソナー送受信機器は、音波B’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Cの音響強度I
iを計算し、
ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、
信号時間反転モジュールは、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、
ソナー送受信機器は、音波D’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Eの音響強度I
Tを計算し、
ターゲット強度計算モジュールは、測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数2】
を計算する。
【発明の効果】
【0017】
本発明で開示される境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法及びターゲット強度自己測定システムは、以下の利点を有する。(1)独立したテスト機器を必要とせず、測定対象ターゲット自体に搭載されたソナー送受信機器を使用する。(2)厳しい自由場テスト条件を必要とせず、アクティブ時間反転ミラー技術の音響集束原理を利用し、平面波に似た入射音場を形成し、ターゲット強度テストにおける入射音響条件を満たし、アクティブ時間反転ミラー技術のチャネルマッチング原理を利用し、ターゲットのテスト音場を励起し、チャンネルの影響を校正し、信号対ターゲットエコー比を改善し、測定誤差を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明で開示される境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法のフローチャートである。
【
図2】実施例における境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法の実施シナリオの概略図である。
【
図3】本発明で開示される境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面と具体的な実施形態を組み合わせて本発明をさらに説明する。
【0020】
本発明は、境界音響反射に基づくターゲット強度自己測定方法を開示する。前記方法は、
図1に示すように、次のステップを含む。
S1、測定対象ターゲット自体に搭載されたソナー送受信機器を使用し、垂直境界に音響強度I
sの音波Aを送信し、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L
2/λを満たし、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長である。
【0021】
本実施例では、測定対象ターゲットは、水中に位置し、
図2に示すように、測定対象ターゲットには、指向性のある音波を送信し、受信された音波を電気信号に変換することができる送受信兼用型トランスデューサが設けられる。本実施例では、垂直境界は、崖壁であり、測定対象ターゲットが存在する水中環境を十分に利用する。
【0022】
S2、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、音波B’を垂直境界に送信する。
【0023】
S3、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、音波Cの信号に基づいて音響強度Iiを計算する。
【0024】
S4、前記ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、音波D’を垂直境界に送信する。
【0025】
S5、前記ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、音波Eの信号に基づいて音響強度ITを計算する。
【0026】
垂直境界が音波をよりよく反射することができるために、上記ステップでソナー送受信機器は、垂直境界に音波を水平方向に送信する。
【0027】
S6、測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数3】
を計算する。
【0028】
上記ターゲット強度計算式の証明は、次のとおりである。
音響強度I
sの音波の時間領域信号がs(t)であり、音波Bの時間領域信号がs’(t)であると仮定すると、
【数4】
式では、h(t)は、チャネルの応答、即ち音波Aの送信から音波Bの受信までの伝達関数である。
【0029】
音波s’(t)を時間反転し、音波B’を得て、その時間領域信号が
【数5】
であり、音波B’を垂直境界に送信し、
送受信兼用型トランスデューサは、音波Cを受信し、その音響強度I
iを計算して得て、この音波をs
i(t)とすると、
【数6】
送受信兼用型トランスデューサは、信号s
i(t)に励起されかつ崖で反射された散乱音信号y(t)、即ち音波Dを受信し、そうすると、
【数7】
式では、T(t)は、ターゲットの応答である。
送受信兼用型トランスデューサは、受信された信号y(t)を時間反転し、音波D’を得て送信し、音波D’の時間領域信号が
【数8】
であり、
送受信兼用型トランスデューサは、崖壁によって反射された音響信号y
r(t)、即ち音波Eを受信し、その音響強度I
rを計算して得て、そうすると、
【数9】
次のように計算する。
【数10】
式では、I
Tは、y
r(t)の音響強度であり、
【数11】
演算子は、信号の振幅を取ることを意味する。
ターゲット強度とターゲット応答の関係式
【数12】
に従って、ターゲット強度の計算式を得る。
【数13】
【0030】
本実施例は、上記ターゲット強度自己測定方法を実現するための自己測定システムを開示する。前記自己測定システムは、
図3に示すように、測定対象ターゲットに設けられており、音波信号を送信及び受信するためのソナー送受信機器1と、音波信号を時間反転するための信号時間反転モジュール2と、音波信号の音響強度を計算するための音響強度取得モジュール3と、測定対象ターゲットのターゲット強度を計算するためのターゲット強度計算モジュール4とを備える。
【0031】
測定対象ターゲットのターゲット強度の計算ステップは、次のとおりである。
ソナー送受信機器は、垂直境界に音響強度I
sの音波Aを送信し、前記垂直境界とターゲットとの間の距離disは、dis≧L
2/λを満たし、Lがターゲットの最大直線性であり、λが音波の波長であり、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波Aの反射を受信し、受信されたものが音波Bであると仮定し、
信号時間反転モジュールは、音波Bを時間反転し、音波B’を得て、
ソナー送受信機器は、音波B’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波B’の反射を受信し、受信されたものが音波Cであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Cの音響強度I
iを計算し、
ソナー送受信機器は、音波Cに励起されかつ垂直境界で反射されたターゲットの散乱音波Dを受信し、
信号時間反転モジュールは、音波Dを時間反転し、音波D’を得て、
ソナー送受信機器は、音波D’を垂直境界に送信し、
ソナー送受信機器は、垂直境界による音波D’の反射を受信し、受信されたものが音波Eであると仮定し、
音響強度取得モジュールは、音波Eの音響強度I
Tを計算し、
ターゲット強度計算モジュールは、測定対象ターゲットのターゲット強度TS:
【数14】
を計算する。