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  • -シェービング剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】シェービング剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20250225BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20250225BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20250225BHJP
   A61Q 9/02 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/02
A61K8/46
A61Q9/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020135902
(22)【出願日】2020-08-11
(65)【公開番号】P2022032280
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊博
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-062332(JP,A)
【文献】特開2015-189698(JP,A)
【文献】特公昭40-006118(JP,B1)
【文献】国際公開第2004/062615(WO,A2)
【文献】英国特許出願公告第01015917(GB,A)
【文献】特表2013-516498(JP,A)
【文献】特開2020-105473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/73
A61K 8/02
A61K 8/46
A61Q 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維幅が1~1000nmで、かつ軸比が10~340000のセルロース微細繊維及び発泡成分を含
前記セルロース微細繊維として、ヒドロキシ基の一部又は全部がリンオキソ酸のエステルで変性された微細繊維及び未変性の微細繊維を含み、
スルホン酸型の界面活性剤を含む、
ことを特徴とするシェービング剤組成物。
【請求項2】
前記リンオキソ酸が亜リン酸であり、
前記亜リン酸のエステルの導入量が2.0mmol/gを超える、
請求項に記載のシェービング剤組成物。
【請求項3】
前記発泡成分として、カルボン酸型の界面活性剤、スルホン酸型の界面活性剤、硫酸エステル型の界面活性剤、リン酸エステル型の界面活性剤、及びアミノ酸型の界面活性剤から選択される少なくとも1種のアニオン界面活性剤を含む、
請求項1又は請求項2に記載のシェービング剤組成物。
【請求項4】
前記セルロース微細繊維の結晶化度が、50~100%である、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【請求項5】
前記セルロース微細繊維の濃度を1質量%とした分散液のB型粘度が、1000~200000cpsである、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【請求項6】
前記セルロース微細繊維の平均繊維長が、3~5000μmである、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【請求項7】
組成物全体に対する前記亜リン変性微細繊維の割合が1~20質量%である、
請求項に記載のシェービング剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シェービングフォーム、シェービングジェルフォーム等の発泡性のシェービング剤として使用するに好適なシェービング剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
髭やむだ毛等の体毛を剃刀等で剃る際に使用するシェービング剤としては、石鹸等の脂肪酸を使用した固形又は粉末のシェービングソープや、シェービングクリーム、シェービングジェル、エアゾール型シェービングフォーム、後発泡シェービングジェルフォーム等が存在する。
【0003】
このようなシェービング剤に関する提案としては、例えば、ジェル状の吐出物が高い透明性を有することを課題としたもの等もある(特許文献1参照)。しかしながら、シェービング剤の必須の課題は、やはり肌へのストレスをいかに軽減するかということにある。特に発泡性(型)のシェービング剤の場合は、そのために発泡量が多いこと、つまり十分に泡立つことの他、発泡した泡が経時的に安定すること等が求められる。
【0004】
この点、シェービング剤に関しては、シェービング剤に圧縮ガスを溶解させることで発泡を図る提案もある(特許文献2参照)。この提案には、圧縮ガスの溶解量が少なく、ペンタン等の後発泡剤を使用したシェービング剤(特許文献1参照)の方が発泡量が多くなるとの評価もある。しかしながら、上記したように発泡性の問題とは別に発泡安定性(発泡維持性)の問題が存在する。この問題(発泡安定性の問題)は後発泡剤を使用するのがよいか、圧縮ガスを使用するのがよいかというような視点では解決することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-163861号公報
【文献】特開平2-247115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、発泡安定性に優れるシェービング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
平均繊維幅が1~1000nmで、かつ軸比が10~340000のセルロース微細繊維及び発泡成分を含
前記セルロース微細繊維として、ヒドロキシ基の一部又は全部がリンオキソ酸のエステルで変性された微細繊維及び未変性の微細繊維を含み、
スルホン酸型の界面活性剤を含む、
ことを特徴とするシェービング剤組成物。
【0008】
【0009】
(請求項に記載の手段)
前記リンオキソ酸が亜リン酸であり、
前記亜リン酸のエステルの導入量が2.0mmol/gを超える、
請求項に記載のシェービング剤組成物。
【0010】
(請求項に記載の手段)
前記発泡成分として、カルボン酸型の界面活性剤、スルホン酸型の界面活性剤、硫酸エステル型の界面活性剤、リン酸エステル型の界面活性剤、及びアミノ酸型の界面活性剤から選択される少なくとも1種のアニオン界面活性剤を含む、
請求項1又は請求項2に記載のシェービング剤組成物。
【0011】
【0012】
【0013】
(請求項に記載の手段)
前記セルロース微細繊維の結晶化度が、50~100%である、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【0014】
(請求項に記載の手段)
前記セルロース微細繊維の濃度を1質量%とした分散液のB型粘度が、1000~200000cpsである、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【0015】
(請求項に記載の手段)
前記セルロース微細繊維の平均繊維長が、3~5000μmである、
請求項1~のいずれか1項に記載のシェービング剤組成物。
【0016】
(請求項に記載の手段)
組成物全体に対する前記亜リン変性微細繊維の割合が1~20質量%である、
請求項に記載のシェービング剤組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、発泡安定性に優れるシェービング剤組成物になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】泡の粘性評価方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。また、以下で示す配合割合は、特にこれに反する記載がない限り、有効成分ではなく水等を含む全成分に対する割合を意味する。
【0020】
本形態のシェービング剤組成物は、平均繊維幅が1~1000nmの微細繊維及び発泡成分を含む。好ましくは、微細繊維としてヒドロキシ基の一部又は全部がリンオキソ酸のエステルで変性された微細繊維、より好ましくは亜リン酸のエステルで変性された亜リン酸変性微細繊維及び未変性の微細繊維の少なくともいずれか一方を含み、かつ特に未変性の微細繊維を含む場合においてはスルホン酸型の界面活性剤を含む。また、通常は、微細繊維の他、発泡成分として界面活性剤を含み、必要に応じて、後発泡剤、圧縮ガス等の発泡助剤などを含む。以下、順に説明する。
【0021】
なお、本形態のシェービング剤組成物は、二重耐圧容器等の耐圧容器、チューブ、ボトルなどの容器から吐出された吐出物がフォーム状(泡状)であっても、ジェル状でありその後に発泡するものであっても(後発泡性)よい。
【0022】
(発泡成分としての界面活性剤)
本形態のシェービング剤組成物は、例えば、シェービング剤として噴射され、あるいは当初はジェルとして吐出されるもののその後に発泡成分である発泡性(起泡性)を有する界面活性剤、後発泡剤等によって泡立ち、フォームを形成する。
【0023】
発泡性の界面活性剤としては、カルボン酸型(好適には、ラウリン酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩等の脂肪酸塩)、スルホン酸型(好適には、α―オレフィンスルホン酸)、硫酸エステル型、リン酸エステル型、アミノ酸型の界面活性剤を例示することができる。
【0024】
本形態においては、シェービング剤組成物が微細繊維を含むため、発泡成分を発泡性の界面活性剤のみとすることもできる。つまり、発泡性の界面活性剤を使用する場合は、後発泡剤や気泡ガスの使用を省略することができる。ただし、起泡(発泡)をより促進したい場合等は、後発泡剤や気泡ガスを発泡助剤として使用する(発泡性の界面活性剤と併用する)のも好適である。
【0025】
発泡性の界面活性剤の配合割合は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%である。配合割合が1質量%を下回ると、発泡性が低下する可能性がある。他方、配合割合が30質量%を上回ると、泡立ち過ぎて、肌への刺激性が強過ぎる可能性がある。
【0026】
ここで発泡性のある界面活性剤について詳細に説明する。
発泡性のある界面活性剤は、水に溶けたときに、電離してイオン化するイオン性界面活性剤と、非イオン性界面活性剤とがある。イオン性界面活性剤はさらに、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び両性界面活性剤に分けられる。本願発明において、発泡性を有する界面活性剤としては、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤とを使用するのが好ましい。
【0027】
発泡性を有するアニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩、ミリスチン酸塩等のカルボン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、αスルホ脂肪酸メチルエステル塩等のスルホン酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキル硫酸塩;ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のN-アシルアミノ酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンセチルエーテルリン酸ナトリウム、ジポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、トリポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ジポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ジポリエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0028】
ただし、発泡の界面活性剤としては、カルボン酸型の界面活性剤、スルホン酸型の界面活性剤、硫酸エステル型の界面活性剤、リン酸エステル型の界面活性剤、及びアミノ酸型の界面活性剤から選択される少なくとも1種の界面活性剤を使用するのが好ましい。
【0029】
また、微細繊維として未変性の微細繊維を使用する場合は、スルホン酸型の界面活性剤を使用するのが好ましく、αオレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩を使用するのがより好ましい。未変性の微細繊維を使用する場合においてスルホン酸型の界面活性剤を使用すれば、発泡性が高く、しかも泡の強度も向上するため、発泡安定性(発泡維持性)も高くなる。なお、スルホン酸型とは、スルホン酸ナトリウムを含む界面活性剤を意味し、アルファオレフィン系としてαオレフィンスルホン酸ナトリウム等、またノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
発泡性を有する両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、アルキルスルホベタイン等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0031】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルモノイソステアレート、ポリオキシエチレングリセリルトリイソステアレート等のポリオキシエチレングリセリル脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールモノイソステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシルデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレン付加型界面活性剤;ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のポリグリセリン型界面活性剤;ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体等のシリコーン誘導体界面活性剤などの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0032】
また、組成物の乳化あるいは分散性向上を目的として非イオン性界面活性剤を用いることもある。この非イオン系界面活性剤は、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であるHLBが10以上であるのが好ましく、11以上であるのがより好ましく、12以上であるのが特に好ましい。HLBが10未満であると、組成物の分散性に劣る可能性がある。
【0033】
HLBが10以上の非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(以下POE)(9)ラウリルエーテル〔HLB(以下、同様。):14.5〕、POE(7)セチルエーテル〔11.5〕、POE(20)ステアリルエーテル〔18.0〕、POE(7)オレイルエーテル〔10.5〕、POE(20)ベヘニルエーテル〔18.0〕等のPOEアルキルエーテル類、POE(10)ポリオキシプロピレン(POP)(4)セチルエーテル〔10.5〕、POE(20)POP(6)デシルテトラデシルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類、モノラウリン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)〔12.5〕、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)〔11.0〕、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)〔11.0〕等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、POE(20)ヒマシ油〔10.5〕、POE(30)硬化ヒマシ油〔11.0〕等のPOEヒマシ油・硬化ヒマシ油類、モノヤシ油脂肪酸POE(20)ソルビタン〔16.9〕、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン〔15.6〕、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン〔14.9〕、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン〔15.0〕等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類等の中から1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本形態のシェービング剤組成物においては、脂肪酸及びアルカリ剤を用いることで、発泡性の界面活性剤が含まれるものとすることができる。
【0035】
脂肪酸としては、例えば、炭素数10~22(好適には12~18)の直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸を使用することができる。具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の脂肪酸、及びこれらの脂肪酸類を含む天然油脂由来の脂肪酸等を使用することができる。これらの脂肪酸は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、及びこれらの脂肪酸類を含むヤシ油脂肪酸を使用するのが好ましい。
【0036】
脂肪酸は、通常は石鹸として含まれる。石鹸は、好ましくは高級脂肪酸及びアルカリ剤が配合されることによって生成される。
【0037】
高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の中から1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
高級脂肪酸の配合割合は、組成物全体に対して2~30質量%であるのが好ましい。
【0039】
以上の脂肪酸を中和するためには、アルカリ剤を配合するのが好ましい。アルカリ剤としては、例えば、アルカノールアミンや塩基性アミノ酸等の有機塩基、水酸化アルカリ金属等の無機塩基を使用することができる。具体的には、例えば、アルカノールアミンとして、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等、塩基性アミノ酸として、アルギニン、リジン、ヒスチジン等、水酸化アルカリ金属として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。ただし、微細繊維を使用する本形態においては、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0040】
(後発泡剤)
後発泡剤としては、ノルマルペンタンやイソペンタンを使用するのが好ましい。ただし、イソブタン、ノルマルブタン等の他の後発泡剤の使用も可能である。
【0041】
後発泡剤の配合割合は、1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、1~10質量%が特に好ましい。配合割合が1質量%未満であると、発泡が量的に不十分になる可能性がある。他方、配合割合が20質量%を超えると、発泡が多過ぎ、微細繊維を含む本形態においても発泡の経時的な安定性が得られなくなる可能性がある。
【0042】
(圧縮ガス)
本形態においては、後発泡剤に替えて、あるいは後発泡剤と共に、発泡成分として圧縮ガスを含ませることができる。
【0043】
圧縮ガスとしては、例えば、二酸化炭素ガス、亜硫酸窒素ガス等の窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0044】
(その他)
本形態のシェービング剤組成物には、通常、水を配合する。水は、水道水であっても、蒸留水であっても、イオン交換水や精製水等であってもよい。
【0045】
水の配合割合は、組成物全体に対して、例えば40~95質量%、好ましくは45~90質量%である。
【0046】
本形態のシェービング剤組成物には、後述する微細繊維以外の成分、例えば保湿剤や、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤、清涼剤、殺菌剤、香料、色素等を適宜配合することができる。なお、以下で詳細に説明する微細繊維は、粘度調整剤としての役割も有する。
【0047】
(微細繊維)
本形態のシェービング剤組成物は、微細繊維によって粘度の向上が図られているため、発泡性が向上し、しかも組成物全体に渡って均一に発泡するようになり、肌にジェルのまま残るといったことがない(徐気泡型後発泡性組成物とする場合)。しかも、微細繊維によって粘度の向上が図られているため、発泡安定性にも優れる。なお、徐気泡型後発泡性組成物とした場合は、肌に吐出したジェル(吐出物)を軽く擦ることにより、徐々に発泡してフォームを形成する。
【0048】
本形態のシェービング剤組成物は、微細繊維としてリンオキソ酸変性微細繊維、より好ましくは亜リン酸変性微細繊維及び未変性微細繊維の少なくともいずれか一方を含む。ただし、未変性微細繊維を含む場合は、前述したようにスルホン酸型の界面活性剤を使用するのが好ましい。スルホン酸型の界面活性剤を使用すれば、後述する実施例から明らかなように初期発泡性が高い。なお、亜リン酸を含むリンオキソ酸変性微細繊維の場合は、いずれの界面活性剤を使用する場合においても発泡安定性に極めて優れる。
【0049】
本形態において未変性であるとは、セルロース繊維がTEMPO酸化、リン酸、亜リン酸等のリンのオキソ酸による変性、カルバメート変性等の化学変性がされていない場合を想定している。この点、セルロース原料が化学変性されていると、一般に、その後の解繊によって得られるセルロースナノファイバーの均一性が高くなる。しかしながら、スルホン酸型の界面活性剤を使用する場合は、未変性のセルロース繊維を使用すると、静電反発による影響を抑えることができ、初期発泡性や発泡安定性が優れることになる。もっとも、未変性微細繊維のみを使用すると、弾力性が劣る傾向にある。一方、スルホン酸型の界面活性剤を使用する場合において亜リン酸変性微細繊維のみを使用すると、起泡性が劣る傾向にある。そこで、初期発泡性、発泡安定性、弾力性、使用可能な界面活性剤等を考慮して亜リン酸変性微細繊維及び未変性微細繊維を使い分けるのが好ましい。このような観点から、亜リン酸変性微細繊維及び未変性微細繊維の両者を併用する場合、その配合割合は、スルホン酸型の界面活性剤を使用する場合は、質量基準で、例えば1:1~10、好ましくは1:1~5、より好ましくは1:1~3である。一方、スルホン酸型の界面活性剤以外の界面活性剤を使用する場合は、質量基準で、例えば1:1~10、好ましくは1:1~8、より好ましくは1:1~6である。
【0050】
なお、本発明において未変性とは、セルロース繊維表面の水酸基を変性してないことを意味するものと定義する。
【0051】
一方、亜リン酸変性微細繊維は、セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部又は全部が亜リン酸のエステルで変性されている。好ましくは、当該ヒドロキシ基の一部又は全部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されることで亜リン酸のエステルが導入(修飾、変性)されている。特に好ましくは、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、カルバメート基で置換されて、カルバメート(カルバミン酸のエステル)も導入されている。
【0052】
【化1】
【0053】
構造式(1)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0054】
亜リン酸のエステルは、リン原子にヒドロキシ基(ヒドロキシル基)(-OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、かつそのヒドロキシ基が酸性プロトンを与える化合物である。故に、亜リン酸のエステルは、リン酸基を有する化合物と同様にマイナス電荷が高い。したがって、亜リン酸のエステルを導入すると、セルロース分子間の反発が強くなり、セルロース繊維の解繊が容易になる。また、亜リン酸のエステルを導入すると、分散液の透明度や粘度が向上する。さらに、亜リン酸変性微細繊維もセルロース微細繊維であり、セルロース微細繊維はチキソトロピー性を有する。したがって、シェービング剤の吐出物を当初はジェル状とし、その後にフォーム状にするのではなく、当初からフォーム状とする場合(例えば、シェービング剤組成物を噴射する場合。)においても、きめ細かな泡を形成することができる。
【0055】
特に、亜リン酸のエステルと共にカルバメートをも導入すると、透明度や粘度がより向上する。この点、亜リン酸変性微細繊維の透明度が向上すると、当初ジェルとして吐出するシェービング組成物等においては、当初のジェルを所望の色で提供することができるようになる。また、カルバメートは、アミノ基を有する。したがって、カルバメートを導入すると、プラス電荷をも有することになる。故に、カルバメートをも導入すると、亜リン酸のエステル及びカルバメートによる電荷的相互作用が高まり、粘度が向上するものと考えられる。亜リン酸変性微細繊維の粘度が向上すると、当該亜リン酸変性微細繊維を含むシェービング剤組成物の粘度も向上する。結果、吐出当初のジェルの安定性(例えば、ジェルが流れ落ちてしまわない等。)を図ることでき、その後に発泡するシェービング剤の発泡量を増やすことができ、また、発泡安定性(発泡状態の維持)を図ることができる。さらに、亜リン酸変性微細繊維はチキソトロピー性を有するため、吐出当初のジェルは安定性を有するものの塗布性には優れ、また、剃刀を滑らせるに良好である。また、圧縮ガスを使用し、シェービング剤組成物を噴射する場合等においては、噴射によって形成する泡をより細かくすることができる。
【0056】
亜リン酸のエステルの導入量は、セルロース繊維1gあたり2.0mmоl超、好ましくは2.1mmоl以上、より好ましくは2.2mmоl以上である。導入量が2.0mmol以下であると、セルロース繊維の解繊が容易にならないおそれがある(解繊に先立って変性する場合)。また、セルロース繊維の水分散液が、不安定になるおそれもある。他方、亜リン酸のエステルの導入量は、セルロース繊維1gあたり3.39mmol以下であることが好ましい。導入量が3.39mmolを超えると、セルロース繊維が水に溶解するおそれがある。
【0057】
亜リン酸のエステルの導入量は、元素分析に基づいて評価した値である。この元素分析には、堀場製作所製X-Max 50 001を使用する。
【0058】
亜リン酸のエステルの導入量は、元素分析に基づいて評価した値である。この元素分析には、堀場製作所製X-Max 50 001を使用する。
【0059】
カルバメートの導入量は、セルロース微細繊維1g当たり、好ましくは0.06~2.34mmol、より好ましくは0.15~1.28mmol、特に好ましくは0.39~1.02mmolである。導入量が0.06mmol未満であると、分散液の光透過度及び粘度が十分に高まらないおそれがある。他方、導入量が2.34mmolを超えると、セルロース繊維が水に溶解するおそれがある。なお、カルバメートの導入量の算出方法は、ケルダール法によるものである。
【0060】
以上では、微細繊維が未変性である場合、及び亜リン酸変性やカルバメート化する場合を説明したが、セルロース繊維はリンオキソ酸一般によって変性(エステル化)するのも好ましい。リンオキソ酸によるエステル化は、例えば、特開2019-199671号公報に掲げる手法で行うことができる。
【0061】
リンオキソ酸によりエステル化された微細繊維は、好ましくはセルロース繊維のヒドロキシ基の一部が下記構造式(2)に示す官能基で置換される。構造式(2)に示す官能基の導入量は、セルロース繊維1gあたり2.0mmоl超、好ましくは2.1mmоl以上、より好ましくは2.2mmоl以上である。
【0062】
【化2】
【0063】
構造式(2)において、a,b,m,nは自然数である。
【0064】
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはOであり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0065】
なお、リンオキソ酸によるエステル化の反応は、セルロース繊維にリンオキソ酸類やリンオキソ酸金属塩類等の添加物を添加し、加熱することで進行する。添加物としては、例えば、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を例示することができる。これらの添加物は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0066】
微細繊維の繊維幅(単繊維の平均直径)は、リンオキソ酸変性微細繊維、亜リン酸変性微細繊維及び未変性の微細繊維のいずれの場合においても(以下、同様。)、好ましくは1~1000nm、より好ましくは1~500nm、特に好ましくは2~100nmである。繊維幅が1nm未満であると、繊維が水に溶解し、セルロース微細繊維としての物性、例えば、粘度やチキソトロピー性、強度や剛性、寸法安定性等を有さなくなるおそれがある。他方、繊維幅が1000nmを超えると、繊維の均一性も劣るようになり、例えば、肌に触れた際に異物感を感じさせる主原因になるほか、ひげの剃り残しが増加するおそれがある。また、チキソトロピー性等が発揮されなくなるおそれがある。
【0067】
微細繊維の繊維幅は、電子顕微鏡を使用して次のように測定する。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10,000倍又は30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。この観察においては、観察画像に2本の対角線を引き、更に対角線の交点を通過する直線を任意に3本引く。そして、この3本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。この計測値の中位径を繊維幅とする。
【0068】
微細繊維の平均繊維長(単繊維の長さ)は、好ましくは1~5,000μm、より好ましくは2~4,000μm、特に好ましくは3~3,000μmである。平均繊維長が1μm未満であると、繊維の絡みが弱くなりフォームのクッション性に欠けるおそれがある。他方、平均繊維長が5,000μmを超えると、繊維が凝集するおそれがある。
【0069】
微細繊維の平均繊維長は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0070】
微細繊維の平均繊維長は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0071】
微細繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は、好ましくは3~1,000,000、より好ましくは6~340,000、特に好ましくは10~340,000である。軸比が3未満であると、もはや繊維状とは言えなくなり、繊維による肌へのクッション性が失われる恐れがあり、カミソリによる肌ストレスを増加させる可能性がある。他方、軸比が1,000,000を超えると、組成物(スラリー)の粘度が高くなり過ぎるほか、組成物を塗った時に異物感を感じさせるおそれがある。
【0072】
微細繊維のフィブリル化率は、好ましくは1.0~30.0%、より好ましくは1.5~20.0%、特に好ましくは2.0~15.0%である。フィブリル化率が30.0%を上回ると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%下回ると、フィブリル同士の水素結合が少なく、十分なフォームを形成することができなくなるおそれがある。
【0073】
フィブリル化率とは、微細繊維をJIS-P-8220:2012「パルプ-離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをFiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。
【0074】
微細繊維の擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、微細繊維は、繊維長及び繊維径の均一性が高く、乾燥性に優れる。また、繊維径や繊維長の均一性が高いと、分散性にも優れる。
【0075】
微細繊維のピーク値は、5μm以上であるのが好ましく、7μm以上であるのがより好ましく、9μm以上であるのが特に好ましい。ピーク値が5μm未満であると微細化処理を長時間行う必要があり、製造コストの増加に繋がる。
【0076】
微細繊維のピーク値は、60μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが特に好ましい。ピーク値が60μmを超えていると繊維径や繊維長の均一性に劣る傾向がある。
【0077】
微細繊維のピークの半値幅は、30μm以下であるのが好ましく、20μm以下であるのがより好ましく、15μm以下であるのが特に好ましい。ピークの半値幅が30μmを超えていると繊維の均一性に欠ける。
【0078】
微細繊維のピーク値はISO-13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960)を使用して微細繊維の水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布から微細繊維の最頻径を測定する。この最頻径をピーク値とする。
【0079】
微細繊維の結晶化度は、好ましくは50~100%、より好ましくは60~90%、特に好ましくは65~85%である。結晶化度が50%未満であると、泡が十分に形成(フォーム形成)されないおそれがある。
【0080】
結晶化度は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0081】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、微細繊維は、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度は微細繊維全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0082】
微細繊維の光透過率(固形分0.2%溶液)は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは70.0%以上、特に好ましくは90.0%以上である。光透過率が40.0%未満であると、透明性が不十分であるとされるおそれがある。
【0083】
微細繊維の光透過率は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0084】
微細繊維の光透過率は、0.2%(w/v)の微細繊維の分散液の透明度(350~880nm光の透過率)をSpectrophotometer U-2910(日立製作所)を用いて測定した値である。
【0085】
微細繊維の濃度を1質量%(w/w)とした場合における分散液のB型粘度は、好ましくは1,000~200,000cps、特に好ましくは10,000~100,000cpsである。B型粘度が1000cps未満であると、泡の経時的な安定性(フォームの維持)に劣るおそれがある。他方、B型粘度が200,000cpsを超えると、粘度が高くなり過ぎ、ジェル等の吐出物の流動性が不十分(塗布性の低下)になるおそれがある。
【0086】
微細繊維を含む分散液のB型粘度(固形分濃度1%)は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0087】
微細繊維のパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。微細繊維のパルプ粘度が2cpsを下回ると、微細繊維の凝集を抑制するのが困難になるおそれがある。
【0088】
微細繊維のパルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
【0089】
微細繊維のフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下である。フリーネスが500mlを上回ると、粘度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0090】
微細繊維のフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
【0091】
微細繊維の保水度は、好ましくは250~500%、より好ましくは300~450%、特に好ましくは300~400%である。保水度が250%未満であると、流動性や平滑性を損なうおそれがある。他方、保水度が500%を超えると、濾水性が悪化する。この点、微細繊維の保水度は、当該繊維のヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることで、より低くすることができ、脱水性や乾燥性を高めることができる。
【0092】
微細繊維の保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0093】
微細繊維の保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0094】
微細繊維の配合割合は、組成物全体に対する固形分換算で、好ましくは0.1~5%、より好ましくは0.3~5%、特に好ましくは0.5~5%である。配合割合が0.1%未満であると、微細繊維を含ませることによる効果が発揮されないおそれがある。他方、配合割合が5%を超えると、粘度が高くなり過ぎることで、起泡性が損なわれるおそれがある。
【0095】
(微細繊維の製造方法)
亜リン酸変性微細繊維を製造する場合においては、セルロース繊維に、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる添加物(A)、好ましくは加えて尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる添加物(B)を添加し、加熱してセルロース繊維に亜リン酸のエステル、好ましくは亜リン酸のエステル及びカルバメートを導入する。また、この亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維を洗浄した後に、解繊して亜リン酸変性微細繊維を得る。ただし、亜リン酸のエステルやカルバメートの導入は、解繊(微細化)後に行ってもよい。一方、未変性の微細繊維を製造する場合においては、添加物(A)及び添加物(B)を使用せず、解繊等のみを行う。また、リンオキソ酸のエステルを導入する場合は、前述したようにセルロース繊維にリンオキソ酸類やリンオキソ酸金属塩類等の添加物を添加して加熱し、解繊する。未変性微細繊維やリンオキソ酸変性微細繊維における解繊等の方法は、亜リン酸変性微細繊維を製造する場合と同様であるので、以下では、亜リン酸変性微細繊維を製造する場合を例に説明する。
【0096】
(セルロース繊維)
原料になるセルロース繊維としては、例えば、植物由来の繊維(植物繊維)、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等を使用することができる。これらの繊維は、必要により、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、セルロース繊維としては、植物繊維を使用するのが好ましく、植物繊維の一種であるパルプ繊維を使用するのがより好ましい。セルロース繊維がパルプ繊維であると、亜リン酸変性微細繊維(微細繊維)の物性調整が容易である。
【0097】
植物繊維としては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ、バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等を使用することができる。これらの繊維は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0098】
木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)、古紙パルプ(DIP)等を使用することができる。これらのパルプは、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0099】
広葉樹クラフトパルプ(LKP)は、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。針葉樹クラフトパルプ(NKP)は、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。古紙パルプ(DIP)は、雑誌古紙パルプ(MDIP)であっても、新聞古紙パルプ(NDIP)であっても、段古紙パルプ(WP)であっても、その他の古紙パルプであってもよい。
【0100】
(添加物(A))
添加物(A)は、亜リン酸類及び亜リン酸金属塩類の少なくともいずれか一方からなる。添加物(A)としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの亜リン酸類又は亜リン酸金属塩類は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、亜リン酸水素ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0101】
添加物(A)を添加するにあたって、セルロース繊維は、乾燥状態であっても、湿潤状態であっても、スラリーの状態であってもよい。また、添加物(A)は、粉末の状態であっても、水溶液の状態であってもよい。ただし、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に水溶液の状態の添加物(A)を添加するのが好ましい。
【0102】
添加物(A)の添加量は、セルロース繊維1kgに対して、好ましくは1~10,000g、より好ましくは100~5,000g、特に好ましくは300~1,500gである。添加量が1g未満であると、添加物(A)の添加による効果が得られないおそれがある。他方、添加量が10,000gを超えても、添加物(A)の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0103】
(添加物(B))
添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方からなる。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素等を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0104】
添加物(B)は、加熱されると、下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、下記の反応式(2)に示すようにセルロースの水酸基にカルバメート基を形成する。
【0105】
NH-CO-NH → HN=C=O+NH …(1)
【0106】
Cell-OH+H-N=C=O → Cell-CO-NH …(2)
【0107】
添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01~100mol、より好ましくは0.2~20mol、特に好ましくは0.5 ~10 molである。添加量が0.01mol未満であると、セルロース繊維にカルバメートが十分に導入されないおそれがある。他方、添加量が100molを超えても、尿素の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0108】
(加熱)
添加物(A)及び添加物(B)を添加したセルロース繊維を加熱する際の加熱温度は、好ましくは100~210℃、より好ましくは100~200℃、特に好ましくは100~180℃である。加熱温度が100℃以上であれば、亜リン酸のエステルを導入することができる。ただし、加熱温度が210℃を超えると、セルロースの劣化が急速に進み、着色や粘度低下の要因となるおそれがある。
【0109】
添加物(A)及び添加物(B)を添加したセルロース繊維を加熱する際のpHは、好ましくは3~12、より好ましくは4~11、特に好ましくは6~9である。pHが低い方が亜リン酸のエステル及びカルバメートが導入され易くなる。ただし、pHが3未満であると、セルロースの劣化が急速に進行してしまうおそれがある。
【0110】
添加物(A)及び添加物(B)を添加したセルロース繊維の加熱は、当該セルロース繊維が乾燥するまで行うのが好ましい。具体的には、セルロース繊維の水分率が、好ましくは10%以下となるまで、より好ましくは0.1%以下となるまで、特に好ましくは0.001%以下となるまで乾燥する。もちろん、セルロース繊維は、水分の無い絶乾状態になっても良い。
【0111】
添加物(A)及び添加物(B)を添加したセルロース繊維の加熱時間は、例えば1~1,440分、好ましくは10~180分、より好ましくは30~120分である。加熱時間が長過ぎると、亜リン酸のエステルやカルバメートの導入が進み過ぎるおそれがある。また、加熱時間が長過ぎると、セルロース繊維が黄変化するおそれがある。
【0112】
添加物(A)及び添加物(B)を添加したセルロース繊維を加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0113】
(前処理)
セルロース繊維に亜リン酸のエステル等を導入するに先立って、及び/又は亜リン酸のエステル等を導入した後において、セルロース繊維には、必要により、叩解等の解繊前処理を施すことができる。セルロース繊維の解繊に先立って当該パルプ繊維に前処理を施しておくことで、解繊の回数を大幅に減らすことができ、解繊のエネルギーを削減することができる。
【0114】
セルロース繊維の前処理は、物理的手法又は化学的手法、好ましくは物理的手法及び化学的手法によることができる。物理的手法による前処理及び化学的手法による前処理は、同時に行うことも、別々に行うこともできる。
【0115】
物理的手法による前処理としては、叩解を採用するのが好ましい。セルロース繊維を叩解すると、セルロース繊維が切り揃えられる。したがって、セルロース繊維同士の絡み合いが防止される(凝集防止)。この観点から、叩解は、セルロース繊維のフリーネスが700ml以下となるまで行うのが好ましく、500ml以下となるまで行うのがより好ましく、300ml以下となるまで行うのが特に好ましい。
【0116】
セルロース繊維のフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。また、叩解は、例えば、リファイナーやビーター等を使用して行うことができる。
【0117】
化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。ただし、化学的手法による前処理としては、酵素処理を施すのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すのがより好ましい。以下、酵素処理及びアルカリ処理について、順に説明する。
【0118】
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース繊維の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
【0119】
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
【0120】
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)のいずれかもを使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
【0121】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
【0122】
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)からセルロース微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)からセルロース微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
【0123】
セルロース繊維に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース繊維に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量%と、より好ましくは0.3~2.5質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。酵素の添加量が0.1質量%未満であると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を超えると、セルロースが糖化され、セルロース微細繊維の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
【0124】
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素反応の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。一方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
【0125】
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が低下し難くなり、処理時間の長期化を防止することができる。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
【0126】
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
【0127】
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
【0128】
次に、アルカリ処理の方法について、説明する。
【0129】
アルカリ処理の方法としては、例えば、アルカリ溶液中に、亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維を浸漬する方法が存在する。
【0130】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であっても、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩等を例示することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属のリン酸塩としては、例えば、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属のリン酸塩としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等を例示することができる。
【0131】
有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を例示することができる。具体的には、例えば、例えば、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等を例示することができる。
【0132】
アルカリ溶液の溶媒は、水及び有機溶媒のいずれであってもよいが、極性溶媒(水、アルコール等の極性有機溶媒)であるのが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であるのがより好ましい。
【0133】
アルカリ溶液の25℃におけるpHは、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは11~14である。pHが9以上であると、セルロース微細繊維の収率が高くなる。ただし、pHが14を超えると、アルカリ溶液の取り扱い性が低下する。
【0134】
(洗浄)
亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄するのが好ましい。セルロース繊維を清浄することで、副生成物や未反応物を洗い流すことができる。また、この清浄が前処理におけるアルカリ処理に先立つものであれば、当該アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量を減らすことができる。
【0135】
セルロース繊維の洗浄は、例えば、水や有機溶媒等を使用して行うことができる。
【0136】
(解繊)
亜リン酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、洗浄後に解繊(微細化処理)する。この解繊によって、パルプ繊維はミクロフィブリル化し、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバーやマイクロ繊維セルロース)となる。なお、この解繊の方法は、未変性の微細繊維及びリンオキソ酸変性微細繊維の場合も同様である。
【0137】
セルロース繊維を解繊するにあたっては、当該セルロース繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。
【0138】
セルロース繊維の解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、高速回転式ホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、一軸混練機、多軸混練機、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。ただし、セルロース繊維の解繊は、水流、特に高圧水流で微細化する装置・方法を使用して行うのが好ましい。この装置・方法によると、得られるセルロース微細繊維の寸法均一性、分散均一性が非常に高いものとなる。これに対し、例えば、回転する砥石間で磨砕するグラインダーを使用すると、セルロース繊維を均一に微細化するのが難しく、場合によっては、一部に解れない繊維塊が残ってしまうおそれがある。
【0139】
セルロース繊維の解繊に使用するグラインダーとしては、例えば、増幸産業株式会社のマスコロイダー等が存在する。また、高圧水流で微細化する装置としては、例えば、株式会社スギノマシンのスターバースト(登録商標)や、吉田機械興業株式会社のナノヴェイタ\Nanovater(登録商標)等が存在する。また、セルロース繊維の解繊に使用する高速回転式ホモジナイザーとしては、エムテクニック社製のクレアミックス-11S等が存在する。
【0140】
なお、回転する砥石間で磨砕する方法と、高圧水流で微細化する方法とで、それぞれセルロース繊維を解繊し、得られた各繊維を顕微鏡観察した場合に、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維の方が、繊維幅が均一であることが知見されている。
【0141】
高圧水流による解繊は、セルロース繊維の分散液を増圧機で、例えば30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し(高圧条件)、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が、例えば30MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する(減圧条件)方式で行うと好適である。この圧力差で生じるへき開現象によって、パルプ繊維が解繊される。高圧条件の圧力が低い場合や、高圧条件から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維径とするために繰り返し解繊(ノズルから噴出)する必要が生じる。
【0142】
高圧水流によって解繊する装置としては、高圧ホモジナイザーを使用するのが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でセルロース繊維のスラリーを噴出する能力を有するホモジナイザーをいう。セルロース繊維を高圧ホモジナイザーで処理すると、セルロース繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、セルロース繊維の解繊が効果的に生じる。したがって、解繊の処理回数を減らすことができ、セルロース微細繊維の製造効率を高めることができる。
【0143】
高圧ホモジナイザーとしては、セルロース繊維のスラリーを一直線上で対向衝突させるものを使用するのが好ましい。具体的には、例えば、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー/MICROFLUIDIZER(登録商標)、湿式ジェットミル)である。この装置においては、加圧されたセルロース繊維のスラリーが合流部で対向衝突するように2本の上流側流路が形成されている。また、セルロース繊維のスラリーは合流部で衝突し、衝突したセルロース繊維のスラリーは下流側流路から流出する。上流側流路に対して下流側流路は垂直に設けられており、上流側流路と下流側流路とでT字型の流路が形成されている。このような対向衝突型の高圧ホモジナイザーを用いると高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーが衝突エネルギーに最大限に変換されるため、より効率的にセルロース繊維を解繊することができる。
【0144】
セルロース繊維の解繊は、得られるセルロース微細繊維(亜リン酸変性微細繊維等)の平均繊維幅、平均繊維長、保水度、結晶化度、擬似粒度分布のピーク値、パルプ粘度等が、前述した所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【実施例
【0145】
次に、本発明の実施例について説明する。
微細繊維の有無、界面活性剤の影響を明らかにするために、表1に示す配合割合でシェービングフォームを作成し、泡立ち試験を行った。亜リン酸変性微細繊維、未変性微細繊維、及び他の成分の詳細、並びに評価項目の詳細は、以下のとおりである。なお、表中に示す配合割合は、有効成分割合ではなく水等を含む全成分に対する割合である。
【0146】
(亜リン酸変性CNF(セルロースナノファイバー))
亜リン酸水素ナトリウム・5水和物13g、尿素10.8g、水76.2gを混合した混合液100gと、原料パルプ(NBKP:水分98.0質量%)10g(乾燥重量)とを混合し、105℃で乾燥した。乾燥したパルプを130℃で2時間反応させた。次に、水洗及びろ過を2回繰返し、無機物からなる陽イオンを含む亜リン酸のエステルが導入されたセルロース繊維(亜リン酸変性パルプ)を得た。この亜リン酸変性パルプを高圧ホモジナイザーで微細化処理(解繊)し、亜リン酸変性CNF(平均繊維径:3nm)を得た。亜リン酸変性CNFは、1.0質量%スラリーとして他の成分と配合した。
【0147】
(未変性CNF)
広葉樹漂白パルプをシングルディスクリファイナーで粗解繊した後、高圧ホモジナイザーで微細化処理(解繊)して得た(平均繊維径:50nm)。未変性CNFも、0.2質量%スラリーとして他の成分と配合した。
【0148】
(CMC)
ダイセルファインケム(株)品番1330を使用した。
【0149】
(ラウリン酸ナトリウム)
富士フイルム和光純薬社製のラウリン酸ナトリウムを使用し、5%溶液になるよう調整した。
【0150】
(ステアリン酸ナトリウム)
富士フイルム和光純薬製のステアリン酸ナトリウムを使用した。
【0151】
(パルミチン酸ナトリウム)
富士フイルム和光純薬製のパルミチン酸ナトリウムを使用した。
【0152】
以上のラウリン酸ナトリウム(Na)、ステアリン酸ナトリウム(Na)、及びパルミチン酸ナトリウム(Na)は、固形分質量比で90:5:5の比率で混合し、濃度が5%になるよう調整して使用した。
【0153】
(α-オレフィンスルホン酸塩)
ライオン・スペシャリティー・ケミカルズ社のリポランLB-440を使用し、有効成分が5%になるように調整した。
【0154】
(グリセリン)
阪本薬品工業株式会社の精製グリセリンを使用した。
【0155】
(フェノキシエタノール)
四日市合成株式会社のフェノキシエタノール-Sを使用した。
【0156】
(水)
精製水を使用した。なお、表中において、水は精製水の量(g)を示す。
【0157】
(泡立ち高さ)
試験液(シェービングフォーム)約50mLを泡立てスプレーボトルに入れてから100mLビーカーに5プッシュ注ぎ、ビーカーに注いだ直後の泡の高さ(mm)を計測した。
【0158】
(泡の粘性評価)
試験液(シェービングフォーム)約50mLを泡立てスプレーボトルに入れてから、図1に示すように角度約35度に傾けた透明なガラス板に定規を固定、20cmの箇所に泡を吐出し、泡の滑り落ち性を目視観察した。60秒経過後に、泡の滑り落ちが10cm以下の場合を〇、滑り落ちが10cmを超えたが、5cmラインには到達しなかった場合を△、5cmラインに到達した場合を×とした。なお、図1において泡(〇)は泡の滑り落ちが10cm以下であった場合を、泡(△)は滑り落ちが10cmを超えたが、5cmラインには到達しなかった場合を、泡(×)は5cmラインに到達した場合を示している。
【0159】
結果を表1に示した。
【0160】
【表1】
【0161】
(考察)
未変性CNFは、いずれの界面活性剤と組み合わせても、初期起泡性(発泡性)が高い傾向を示した。一方、亜リン酸変性CNFは、特に脂肪酸塩系の界面活性剤を使用した場合は、泡に粘性があり、泡の維持性が高い傾向を示した。未変性CNFと亜リン酸変性CNFを組み合わせると発泡性と保持性を両立する傾向が見られ、CMCは、発泡性は発現したが、泡の粘性が少ない結果となり、本件のシェービング組成物では未変性CNFと亜リン酸変性CNFをどちらか一方、あるいは同時に使用することでフォームの粘性や発泡性などを調整することが可能と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、例えば、シェービングフォーム、シェービングジェルフォーム等の発泡性のシェービング剤として利用可能である。
図1