(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】不純物除去方法及び鋳塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/06 20060101AFI20250225BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20250225BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
C22B21/06
C22B9/02
C22B7/00 A
(21)【出願番号】P 2021016506
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】小森 康平
(72)【発明者】
【氏名】山口 勝弘
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183265(JP,A)
【文献】特開2019-077896(JP,A)
【文献】特開2012-201931(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035909(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、
上記混合工程後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程と、
上記保持工程で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で
偏在させ、又は上記溶湯から
除去する
分離工程と
を備え、
上記分離工程で、上記溶湯を攪拌
及び静置し、又は
上記溶湯を圧搾する不純物除去方法。
【請求項2】
上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量が5質量%以上である請求項1に記載の不純物除去方法。
【請求項3】
上記固相アルミニウムがα-アルミニウムデンドライトを含んでおり、
上記分離工程で、上記α-アルミニウムデンドライトを破壊する請求項1
又は請求項
2に記載の不純物除去方法。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、
上記混合工程後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程と、
上記保持工程で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で
偏在させ、又は上記溶湯から
除去する
分離工程と、
上記分離工程後に、上記溶湯を凝固させる工程と
を備え、
上記分離工程で、上記溶湯を攪拌
及び静置し、又は
上記溶湯を圧搾する鋳塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物除去方法及び鋳塊の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出抑制の社会的要求から、自動車等の軽量化が世界中で進められており、今後アルミニウムの需要は増加すると見込まれる。そのため、将来的には需要増に併せてアルミニウムスクラップの排出量が増加すると予想される。一般に、アルミニウムはリサイクル性に優れた金属材料とされている。アルミ缶を始めとするアルミニウム展伸材からなる多くのアルミニウム製品は、廃却後再溶融されて新しい製品へリサイクルされる。しかしながら、廃却後のアルミニウム製品には不純物が付着しており、リサイクルを繰り返すことで不純物元素の濃度が次第に増加する。そのため、廃却後のアルミニウム製品は、より成分規格の緩い製品へカスケードリサイクルされることが一般的である。
【0003】
アルミニウムへの不純物の混入を抑制する技術として、シュレッディング後の分別技術の高度化が図られている。しかし、付着物の完全除去は困難であることから、最終的にはアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯からの不純物除去技術が必要となる。
【0004】
アルミニウム又はアルミニウム合金溶湯から不純物を除去する技術については多く報告されており、特に除去困難なFeを除去する技術として、不純物となるMnを敢えて添加してAl-Fe-Mn系金属間化合物を晶出させた後に、遠心分離、吸引等により上記金属間化合物を除去する技術が提案されている(特開平8-35021号公報、特開平7-70666号公報参照)。
【0005】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金溶湯における不純物濃度を低減する技術として、アルミ地金を製造する工程で三層式電解精製法や偏析法を用いる技術が開示されている(まてりあ、Vol.33(1994)、No.1参照)。
【0006】
さらに、不純物を含むアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯中にMg又はMg合金を添加したうえで、この溶湯を金属間化合物のみが晶出する温度まで冷却し、溶湯中に不純物を含む金属間化合物を晶出させてこの金属間化合物を溶湯から分離する方法も提案されている(特開2019-183265号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-35021号公報
【文献】特開平7-70666号公報
【文献】特開2019-183265号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】近藤ら、まてりあ、1994、Vol.33、No.1、62-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された技術では、添加したMnが不純物として増加するおそれがある。また、非特許文献1に記載された技術は、原理的にFeを除去することは可能であるが、不純物元素を多く含むスクラップを精錬する方法としては歩留まりが低くなるおそれがある。また、三層式電解精製法は電力コストの高い地域では採算性が悪く、偏析法は原料の不純物濃度が高いほど収率が低下するおそれがある。このように、上記従来技術は、市中から回収した不純物を多く含むアルミニウムスクラップをリサイクルする方法としては十分ではない。
【0010】
なお、特許文献3に記載された技術によると、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルを一定程度実現可能である。但し、本発明者等が鋭意検討したところ、特許文献3に記載されている技術については、不純物の除去効率等についてさらなる改善の余地があることが分かった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難とされている不純物を効率よく除去できる不純物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、不純物を含むアルミニウム又はアルミニウム合金溶湯に、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須元素であるMgを混合したうえで、固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で又は上記溶湯から分離することによって不純物を効率的に除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、上記混合工程後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程と、上記保持工程で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する工程とを備え、上記分離工程で、上記溶湯を攪拌又は圧搾する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく溶湯から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る不純物除去方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の不純物除去方法の分離工程における攪拌手順の一例を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の不純物除去方法の分離工程における圧搾手順の一例を示す模式的断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る鋳塊の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0017】
本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、上記混合工程後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程と、上記保持工程で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する工程とを備え、上記分離工程で、上記溶湯を攪拌又は圧搾する。
【0018】
当該不純物除去方法は、上記分離工程で、上記溶湯を固液共存温度域内で攪拌又は圧搾することによって、固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で又は上記溶湯から効率的に分離することができる。従って、当該不純物除去方法によると、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく除去することができる。
【0019】
上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量としては、5質量%以上が好ましい。このように、上記混合工程後の上記溶湯におけるMgの含有量が上記下限以上であることによって、上記溶湯中に上記金属間化合物を容易かつ効率的に生成することができる。
【0020】
上記分離工程で、上記固相アルミニウム及び上記金属間化合物を上記溶湯中に偏在させるとよい。このように、上記分離工程で、上記固相アルミニウム及び上記金属間化合物を上記溶湯中に偏在させることによって、上記不純物を容易に除去することができる。
【0021】
上記固相アルミニウムがα-アルミニウムデンドライトを含んでおり、上記分離工程で、上記α-アルミニウムデンドライトを破壊するとよい。このように、上記固相アルミニウムがα-アルミニウムデンドライトを含んでおり、上記分離工程で、上記α-アルミニウムデンドライトを破壊することによって、上記金属間化合物を上記溶湯中で容易に分離することができる。
【0022】
本発明の他の一実施形態に係る鋳塊の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程と、上記混合工程後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程と、上記保持工程で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する工程と、上記分離工程後に、上記溶湯を凝固させる工程とを備え、上記分離工程で、上記溶湯を攪拌又は圧搾する。
【0023】
当該鋳塊の製造方法は、上記分離工程で固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で効率的に分離することで、得られる鋳塊から不純物を容易に除去することができる。また、当該鋳塊の製造方法は、上記分離工程で固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中から効率的に分離することで、不純物の含有量が低減された鋳塊を製造することができる。
【0024】
なお、本発明において、「固液共存温度」とは、液相線温度未満で、かつ固相線温度以上の温度を意味する。つまり、本発明において、「固液共存温度」とは、固相アルミニウム(α-アルミニウム)と液相アルミニウムとが共存している温度である。
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0026】
[不純物除去方法]
当該不純物除去方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金に混入し、除去が困難な不純物を、JIS-A5000系の必須元素であるMg(マグネシウム)を用いて除去することができる。当該不純物除去方法は、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難な金属元素等の不純物を除去することができる。当該不純物除去方法は、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須元素であるMgを溶湯中に含有させることで不純物の金属間化合物化を促し、生成された金属間化合物を分離することにより、不純物の除去を行うことができる。当該不純物除去方法は、上記金属間化合物を生成させるために、さらなる不純物を添加することを要しない。また、当該不純物除去方法は、後述する分離工程S3を備えるので、Mgの添加量を比較的低く抑えることができる。
【0027】
当該不純物除去方法は、
図1に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程(混合工程S1)と、混合工程S1後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程(保持工程S2)と、保持工程S2で生成された固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する工程(分離工程S3)とを備える。当該不純物除去方法は、分離工程S3で、上記溶湯を攪拌又は圧搾する。
【0028】
〔不純物〕
上記不純物としては、(1)Fe(鉄)、及び(2)Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)、Cr(クロム)のいずれか一方又は両方が挙げられる。上記不純物としては、上記(1)及び上記(2)に含まれる1種又は2種以上の任意の元素を含んでいてよい。上記不純物としてFeを含む場合、分離工程S3で分離される上記金属間化合物はアルミニウム及びFeを含有する。上記不純物としてMn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせを含む場合、分離工程S3で分離される上記金属間化合物はアルミニウムと、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせとを含有すると考えられる。
【0029】
〔Fe〕
Feは、アルミニウム又はアルミニウム合金を含む溶湯中の不純物元素として最も混入しやすく、かつ除去が困難な元素である。Feは、締結部品、シュレッダー機等から容易に混入する。一方、アルミニウムは酸化しやすい元素であり、鉄鋼業における転炉のような酸化精錬ができないため、Feの除去は困難とされている。当該不純物除去方法は、アルミニウム及びMgを含む溶湯(Al-Mg系溶湯)からFeを効率よく除去することができるので、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルを容易に実現できる。
【0030】
〔Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせ〕
Mn、Ti、V、Zr及びCrは、アルミニウム合金の添加元素や、結晶粒微細化材、地金等に含まれる元素として混入する。また、Coは、電池に含まれる元素であり、スクラップから混入され得る。当該不純物除去方法によると、上記不純物としてMn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせが含まれる場合、保持工程S2によって、アルミニウムと、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせとを含有する金属間化合物を容易に生成することができると考えられる。さらに、当該不純物除去方法によると、分離工程S3で、Mn、Co、Ti、V、Zr、Cr又はこれらの組み合わせを含む不純物をAl-Mg系溶湯から効率よく除去することができると考えられる。
【0031】
(混合工程)
混合工程S1では、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金と上記不純物とを含む溶湯にMg又はMg合金を添加する。より詳しくは、混合工程S1では、アルミニウムスクラップを溶解した溶湯にMg又はMg合金を添加する。
【0032】
Mgは、JIS-A5000系のアルミニウム合金等における必須元素である。アルミニウム又はアルミニウム合金を含む溶湯がMgを適度に含有することで、Al-Mg系溶湯中での上記不純物を含む金属間化合物の生成が促進される。当該不純物除去方法によると、従来行われていたような、金属間化合物を生成させるために敢えて不要な不純物を混入することを要しない。すなわち、混合工程S1では、上記溶湯にMg又はMg合金以外の成分は混合しなくてよい。また、Mgは不純物ではないため、当該不純物除去方法では、Mgを除去するための工程を必要としない。そのため、当該不純物除去方法では、例えば上記不純物が除去された後の溶湯を必要に応じて希釈してアルミニウムリサイクルに供することができる。なお、上記不純物が除去された後の溶湯の希釈手順(希釈工程)については後述する。混合工程S1で混合するMg合金としては、例えばJIS-MC5、JIS-MDC2A等が挙げられる。
【0033】
混合工程S1でMg又はMg合金を混合する効果としては、例えば以下の(a)~(c)が挙げられる。
(a)液相線温度が下がることで上記溶湯を低温で保持でき、金属間化合物の生成が促進される。
(b)Mgが不純物元素の活量を増加させることで、金属間化合物の生成が促進される。
(c)Mgが直接不純物元素と反応して金属間化合物を生成する。
【0034】
例えば上記不純物としてFeを含む場合、Feの除去は上記(a)及び(b)の効果によって促進されると推測される。Fe以外の不純物については、上記(a)から(c)のいずれかの効果又は(a)から(c)の効果の組み合わせによって、金属間化合物の生成を促進させ、この金属間化合物を上記溶湯から効率的に除去することができると推測される。
【0035】
混合工程S1後の上記溶湯におけるMgの含有量の下限としては、5質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。Mgの含有量が上記下限に満たないと、液相線温度を十分に下げることができないおそれがある。一方、混合工程S1後の上記溶湯におけるMgの含有量の上限としては、特に限定されないが、後述の希釈工程における希釈量が増え、アルミニウムのリサイクルに要するコストが増加することを抑える観点から、例えば30質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、15質量%がさらに好ましい。
【0036】
(保持工程)
保持工程S2では、混合工程S1後の溶湯を固液共存状態で保持する。当該不純物除去方法は、保持工程S2で、上記溶湯を固液共存状態で保持することで、後述の分離工程S3で上記不純物を含む金属間化合物を十分に分離することができる。当該不純物除去方法は、上記溶湯を固液共存状態で保持すればよいので、上記溶湯中におけるMgの含有量を比較的小さくすることができ、上記不純物が除去された後の溶湯を希釈する際のアルミニウム地金(工業用純アルミニウム、Mg濃度の低いアルミスクラップ等)の添加量を低減することができる。
【0037】
保持工程S2では、混合工程S1後の溶湯の温度を固液共存温度域内で保持することで、この溶湯中に含まれる不純物を金属間化合物として生成させる。一方で、混合工程S1後の溶湯の温度を固液共存温度域内で保持すると、上記金属間化合物と共に固相アルミニウムが生成する。この固相アルミニウムの初晶はデンドライト形態を呈する。上記固相アルミニウムの凝固は、α-アルミニウムデンドライトの生成として進行する。このα-アルミニウムデンドライトは高純度である。このα-アルミニウムデンドライトは粒状に成長する。すなわち、上記固相アルミニウムは、α-アルミニウムデンドライト及びα-アルミニウムデンドライトが成長した粒状体を含んでいる。上記固相アルミニウムに占めるα-アルミニウムデンドライト及び上記粒状体の合計含有割合は非常に大きい。上記金属間化合物は、固液界面近傍で生成し、α-アルミニウムデンドライト間の隙間(α-アルミニウムデンドライトの樹間)に捕捉される。また、上記金属間化合物は、α-アルミニウムデンドライトが成長する過程で上記粒状体の内部に取り込まれる。
【0038】
保持工程S2では、混合工程S1後の溶湯を、液相線温度未満でかつ固相線温度以上の温度域に冷却する。上記溶湯におけるMgの含有量[質量%]をCとした場合、保持工程S2における上記溶湯の保持温度T[℃]の下限としては、例えばC≦19の場合であれば、T≧-10.8C+660とすることができ、C>19の場合であれば、T≧450とすることができる。一方、保持工程S2における上記溶湯の保持温度T[℃]の上限としては、T<-5.9C+660(但し、C≦35の場合)とすることができる。
【0039】
保持工程S2では、混合工程S1後の溶湯を、液相率が60%以上となる固液共存温度域に保持することが好ましい。具体的には、保持工程S2における上記溶湯の保持温度T[℃]としては、T≧-7.3C+660(但し、C≦35の場合)が好ましい。上記液相率が上記下限に満たないと、固相率が大きくなり過ぎて分離工程S3において上記溶湯を攪拌又は圧搾し難くなるおそれがある。
【0040】
(分離工程)
分離工程S3では、上記金属間化合物を上記固相アルミニウムと共に(上記固相アルミニウムとまとめて)、上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する。
【0041】
分離工程S3では、保持工程S2で固液共存温度域に保持されている溶湯を攪拌又は圧搾する。分離工程S3では、上記溶湯が固液共存温度域に保持された後にこの溶湯を攪拌又は圧搾してもよく、上記溶湯が固液共存温度に到達する前からこの溶湯の攪拌又は圧搾操作を開始してもよい。
【0042】
分離工程S3では、保持工程S2で生成された上記固相アルミニウム及び上記不純物を含む金属間化合物を上記溶湯中に偏在させることが好ましい。当該不純物除去方法は、例えば炉内に貯留されている上記溶湯を攪拌又は圧搾することで、上記固相アルミニウム及び上記金属間化合物を上記溶湯中に偏在させることができる。この構成によると、上記不純物を容易に除去することができる。
【0043】
分離工程S3では、上記固相アルミニウムに含まれるα-アルミニウムデンドライトを破壊することが好ましい。上述のように、上記不純物を含む金属間化合物は、固液共存温度域においてα-アルミニウムデンドライト間の隙間に捕捉されている。そのため、分離工程S3で、α-アルミニウムデンドライトを破壊することで、上記金属間化合物をα-アルミニウムデンドライト間から解放することができる。通常この金属間化合物は、アルミニウム溶湯(液相アルミニウム)よりも比重が大きいため、α-アルミニウムデンドライトを破壊することで、上記金属間化合物を上記溶湯の底部側に容易に分離することができる。
【0044】
また、分離工程S3では、α-アルミニウムデンドライトと共に、上記固相アルミニウムに含まれる上述の粒状体を破壊することが好ましい。上述のように、上記金属間化合物は、α-アルミニウムデンドライトが成長する過程で上記粒状体の内部に取り込まれる。そのため、分離工程S3で、上記粒状体を破壊することで、上記粒状体の内部に取り込まれた上記金属間化合物を上記粒状体から容易かつ確実に解放することができる。
【0045】
以下、分離工程S3で上記溶湯を攪拌する手順と圧搾する手順とのそれぞれについて説明する。なお、分離工程S3では、上記攪拌及び上記圧搾のいずれか一方のみを行えばよいが、上記攪拌と上記圧搾との両方を行うことを排除するものではない。
【0046】
〔攪拌手順〕
分離工程S3で上記溶湯を攪拌する場合、例えば
図2に示すように、固液共存温度域で炉Y内に保持された溶湯Xを撹拌機10によって攪拌する。攪拌手段としては、α-アルミニウムデンドライトDを破壊できる程度の攪拌力が得られる限り特に限定されるものではなく、例えば棒や攪拌翼を用いた機械的攪拌、スターラを用いた電磁攪拌、不活性ガスを吹き込むことによる攪拌等が挙げられる(
図2では、攪拌翼を用いた機械的攪拌を図示している)。
【0047】
分離工程S3で溶湯Xを攪拌することで、α-アルミニウムデンドライトDや上述の粒状体を破壊し、α-アルミニウムデンドライトDの隙間に捕捉され、又は上記粒状体の内部に取り込まれている不純物を含む金属間化合物Iを解放することができる。金属間化合物Iとしては、例えば上記不純物がFeである場合にはAl3Fe、上記不純物がMnである場合にはAl6Mn、上記不純物がCoである場合にはAl3Co、上記不純物がTiである場合にはAl3Ti、上記不純物がVである場合にはAl3V、上記不純物がZrである場合にはAl3Zr、上記不純物がCrである場合にはAl7Crが挙げられる。これらの金属間化合物は、液相アルミニウムよりも比重が大きいため、攪拌後に溶湯Xを静置することで、α-アルミニウムデンドライトDや上記粒状体と共に溶湯Xの底部に沈降する。これにより、金属間化合物Iをα-アルミニウムデンドライトD及び上記粒状体と共に溶湯Xの底部に偏在させることができる。なお、上記攪拌後の静置は、溶湯Xの温度を固液共存温度域内に保持した状態で行うことが好ましい。また、上記攪拌後の静置は、溶湯Xの温度を固液共存温度域内で、かつ上記攪拌時の温度以下に保持するように行うことがより好ましい。
【0048】
〔圧搾手順〕
分離工程S3で上記溶湯を圧搾する場合、例えば
図3に示すように、固液共存温度域で炉Y内に保持された溶湯Xを液面側から圧搾板20で押圧する。圧搾板20としては、例えば板厚方向に溶湯Xを通過可能な複数の孔(不図示)を有するものを用いることができる。
【0049】
分離工程S3で溶湯Xを圧搾することで、α-アルミニウムデンドライトDや上述の粒状体を破壊し、α-アルミニウムデンドライトDの隙間に捕捉され、又は上記粒状体の内部に取り込まれている不純物を含む金属間化合物Iを解放しつつ、金属間化合物Iをα-アルミニウムデンドライトDや上記粒状体と共に溶湯Xの底部に偏在させることができる。その結果、金属間化合物Iをα-アルミニウムデンドライトD及び上記粒状体と共に炉Yの底部側で押し固めることができる。
【0050】
なお、分離工程S3で溶湯を圧搾する方法としては、
図3に記載した以外の方法を用いることも可能である。例えば分離工程S3では、上記溶湯を液面側から圧搾することで、上記金属間化合物及びα-アルミニウムデンドライトを炉内に残しつつ、液相アルミニウムを炉外に排出する構成を採用することも可能である。
【0051】
(希釈工程)
分離工程S3によって不純物が分離され、さらにこの不純物が除去された後の溶湯は、希釈してアルミニウムのリサイクルに供することができる。より詳しくは、分離工程S3で不純物を分離した後に回収された液相アルミニウムは、希釈することでアルミニウムのリサイクルに供することができる。上述の混合工程S1、保持工程S2及び分離工程S3に、希釈工程を加えたアルミニウムのリサイクル方法は、本発明の一実施形態である。上記希釈工程では、分離工程S3を経て上記不純物が除去された溶湯を、工業用純アルミニウム又はMg濃度の低いアルミスクラップ(例えばJIS-A1000系)と混合して、JISで規定されるA5000系(Al-Mg系合金)のMg基準濃度まで希釈する。
【0052】
上記希釈工程では、混合工程S1で添加されたMgを含有する溶湯のMg濃度をJIS-A5000系の基準濃度以下に希釈する。Mgは不純物ではないため、溶湯から除去することを要しない。当該アルミニウムのリサイクル方法は、上記希釈工程によってMgの濃度を低くすることで、希釈後の溶湯をアルミニウム製品に用いることができる。また、上記希釈工程では、比較的高濃度のMgを含有する溶湯を真空下で保持することで蒸気圧の大きいMgを蒸発させ、溶湯におけるMgの濃度を低くすることも可能である。さらに、上記希釈工程では、溶湯に塩素を吹き込む方法や、フラックスを用いることでMgを除去することも可能である。
【0053】
なお、分離工程S3後における溶湯は、上記希釈工程を経ずに再利用に供することも可能である。例えば上記溶湯は、不純物の除去後に凝固させ、再生地金として活用してもよく、金属間化合物Iを偏在させた状態で凝固させ、不純物の濃度が高い部分を選択的に切り落として再生地金として活用してもよい。また、上記再生地金を活用する過程で必要に応じて溶湯を希釈してもよい。さらに、分離工程S3後における溶湯は、吸引等で分離回収することや、鋳型等で固めることでMg中間合金として使用することも可能である。
【0054】
加えて、分離工程S3後に得られた鋳塊等から不純物濃度の高い部分を分離した後に、この不純物濃度の高い部分に対して、再度当該不純物除去方法を実施してもよい。この構成によると、この不純物濃度の高い部分を当該不純物除去方法によって精錬することができる。この際、当該不純物除去方法を行うに当たっては、新たにアルミニウムスクラップ等を追加してもよい。これらの構成によっても、歩留まりを向上することができる。
【0055】
<利点>
当該不純物除去方法は、分離工程S3で溶湯Xを固液共存温度域内において攪拌又は圧搾することによって、α-アルミニウムデンドライトD等の固相アルミニウムと金属間化合物Iとを溶湯X中で又は溶湯Xから効率的に分離することができる。より詳しく説明すると、固液共存温度域内において、溶湯Xには固相アルミニウム(α-アルミニウム)、液相アルミニウム及び金属間化合物Iが略均一に分散している。この状態において、金属間化合物Iは、α-アルミニウムデンドライト間の隙間に捕捉され、又は上述の粒状体の内部に取り込まれており、除去が困難である。これに対し、当該不純物除去方法は、分離工程S3でα-アルミニウムデンドライトD及び上記粒状体を破壊することで、金属間化合物Iをα-アルミニウムデンドライトD及び上記粒状体と共に溶湯X中で又は溶湯Xから効率的に分離することができる。従って、当該不純物除去方法によると、アルミニウム又はアルミニウム合金中に混入し、除去が困難な不純物を効率よく除去することができる。
【0056】
当該不純物除去方法は、JIS-A5000系のアルミニウム合金等で必須の元素であるMgを溶湯Xに含有させて上記不純物の金属間化合物化を促し、生成された金属間化合物Iを分離することにより、上記不純物を除去する。当該不純物除去方法は、従来行われていたような、金属間化合物Iを生成させるために敢えて不要な不純物を混入する必要がなく、かつ歩留まりも向上できる。
【0057】
当該不純物除去方法によると、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難とされている金属元素を効率よく除去することができるので、アルミニウム展伸材からアルミニウム展伸材への水平リサイクルを実現することができる。
【0058】
当該不純物除去方法は、混合工程S1で、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合するものである。一方で、混合工程S1では、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、JIS-A2000系合金の必須元素であるCu又はJIS-A7000系合金の必須元素であるZnを混合することでも、上記と同様にして分離工程S3で固相アルミニウムと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で又は上記溶湯から分離できると考えられる。また、混合工程S1では、Mg又はMg合金、Cu又はCu合金、若しくはZn又はZn合金を単独で混合してもよく、任意の組み合わせで混合してもよいと考えられる。
【0059】
[鋳塊の製造方法]
次に、当該不純物除去方法を用いた鋳塊の製造方法について説明する。当該鋳塊の製造方法は、
図4に示すように、アルミニウム又はアルミニウム合金と不純物とを含む溶湯に、Mg又はMg合金を混合する工程(混合工程S1)と、混合工程S1後の溶湯の温度を固液共存温度域内に保持する工程(保持工程S2)と、保持工程S2で生成された固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記固液共存温度域において上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する工程(分離工程S3)と、分離工程S3後に、上記溶湯を凝固させる工程(凝固工程S4)とを備える。当該鋳塊の製造方法は、分離工程S3で、上記溶湯を攪拌又は圧搾する。当該鋳塊の製造方法における混合工程S1、保持工程S2及び分離工程S3は、
図1の不純物除去方法における混合工程S1、保持工程S2及び分離工程S3と同様の手順で行うことができる。そのため、混合工程S1、保持工程S2及び分離工程S3についての説明は省略する。
【0060】
(凝固工程)
凝固工程S4は、分離工程S3を経て不純物が除去された後の溶湯を凝固させてもよく、分離工程S3によって不純物が偏在している溶湯を凝固させてもよい。また、凝固工程S4では、分離工程S3後に希釈された溶湯を凝固させてもよい。凝固工程S4で、希釈された溶湯を凝固させる場合、当該鋳塊の製造方法は、分離工程S3と凝固工程S4との間に上述の希釈工程を備えていてもよい。
【0061】
<利点>
当該鋳塊の製造方法は、分離工程S3で上記固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で効率的に分離することで、得られる鋳塊から不純物を容易に除去することができる。また、当該鋳塊の製造方法は、分離工程S3で上記固相アルミニウムと上記不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中から効率的に分離することで、不純物の含有量が低減された鋳塊を製造することができる。
【0062】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0063】
上記実施形態では、上記分離工程で、α-アルミニウムデンドライトと不純物を含む金属間化合物とを上記溶湯中で又は上記溶湯から分離する構成について説明した。但し、上記分離工程では、固相アルミニウムと上記金属間化合物とを分離する限り、上記固相アルミニウムがα-アルミニウムデンドライトを含むことを要しない。また、上記固相アルミニウムがα-アルミニウムデンドライトを含む場合でも、上記分離工程ではα-アルミニウムデンドライトを破壊しなくてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0065】
[実施例]
[No.1]
不純物を含むアルミニウム合金と純Mgとを黒鉛坩堝に溶解し、不純物としてFeを含み、その他の元素としてSiを含む溶湯を調製した(混合工程)。この溶湯における各種元素の含有量を表1に示す。その後、この溶湯を641℃まで炉冷し、この溶湯に窒化ケイ素製の攪拌棒を挿入して溶湯の攪拌を開始した。この攪拌を行いつつ、溶湯を602℃以下まで炉冷した後、固液共存温度域内に保持した(保持工程)。この溶湯を固液共存温度域内に保持した状態で、上記攪拌を継続し、上記溶湯が591℃に達した時点で攪拌棒を引き抜き、上記溶湯を590℃の固液共存温度で15分間静置した(分離工程)。この分離工程によって、α-アルミニウムデンドライトとFeを含む金属間化合物とが、上記溶湯の底部側に分離された。この分離工程後に、炉の電源を切って上記溶湯を凝固させることで鋳塊を得た。この鋳塊の上部から一部を採取し、ICP発光分光分析法にてFeの濃度を分析した。この分析結果を表1に示す。
【0066】
[No.2]
不純物を含むアルミニウム合金と純Mgとを黒鉛坩堝に溶解し、不純物としてFeを含み、その他の元素としてSiを含む溶湯を調製した(混合工程)。この溶湯における各種元素の含有量を表1に示す。その後、この溶湯を固液共存温度である594℃まで炉冷し(保持工程)、坩堝を炉から出したうえ、鉄製の治具を用いて上記溶湯を液面側から速やかに圧搾した(分離工程)。この分離工程によって、α-アルミニウムデンドライトとFeを含む金属間化合物とが、上記溶湯の底部側に分離された。この分離工程後に、上記溶湯を空冷凝固させることで鋳塊を得た。なお、上記分離工程で用いた治具は、上記溶湯に挿入された状態で鋳包んだ。この鋳塊の治具の上部側の一部を採取し、ICP発光分光分析法にてFeの濃度を分析した。この分析結果を表1に示す。
【0067】
[No.3]
不純物を含むアルミニウム合金と純Mgとを黒鉛坩堝に溶解し、不純物としてMnを含み、その他の元素としてSi、Cu及びZnを含む溶湯を調製した(混合工程)。この溶湯における各種元素の含有量を表1に示す。その後、この溶湯を固液共存温度である593℃まで炉冷し(保持工程)、坩堝を炉から出したうえ、鉄製の治具を用いて上記溶湯を液面側から速やかに圧搾した(分離工程)。この分離工程によって、α-アルミニウムデンドライトとMnを含む金属間化合物とが、上記溶湯の底部側に分離された。この分離工程後に、上記溶湯を空冷凝固させることで鋳塊を得た。なお、上記分離工程で用いた治具は、上記溶湯に挿入された状態で鋳包んだ。この鋳塊の治具の上部側の一部を採取し、ICP発光分光分析法にてMnの濃度を分析した。この分析結果を表1に示す。
【0068】
[比較例]
[No.4]
不純物を含むアルミニウム合金と純Mgとを黒鉛坩堝に溶解し、不純物としてFeを含み、その他の元素としてSiを含む溶湯を調製した(混合工程)。この溶湯における各種元素の含有量を表1に示す。その後、この溶湯を固液共存温度である600℃まで空冷したうえで15分間静置した。その後、炉の電源を切って上記溶湯を凝固させることで鋳塊を得た。この鋳塊の上部から一部を採取し、ICP発光分光分析法にてFeの濃度を分析した。この分析結果を表1に示す。
【0069】
[No.5]
不純物を含むアルミニウム合金と純Mgとを黒鉛坩堝に溶解し、不純物としてFeを含み、その他の元素としてSiを含む溶湯を調製した(混合工程)。この溶湯における各種元素の含有量を表1に示す。その後、この溶湯を固液共存温度よりも高い651℃まで炉冷し、この温度を保持しつつ上記溶湯に窒化ケイ素製の攪拌棒を挿入して溶湯を攪拌した。この攪拌後、上記溶湯を651℃で15分間保持した。その後、炉の電源を切って上記溶湯を凝固させることで鋳塊を得た。この鋳塊の上部から一部を採取し、ICP発光分光分析法にてFeの濃度を分析した。この分析結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
表1に示すように、No.1からNo.3は、上記保持工程で溶湯の温度を固液共存温度域内に保持しつつ、上記分離工程で上記溶湯を攪拌又は圧搾していることで、不純物を十分に除去することができている。これに対し、No.4は、上記分離工程で上記溶湯を攪拌又は圧搾していないため、不純物の除去率が不十分となっている。また、No.5は、上記溶湯を攪拌する際に、この溶湯を固液共存温度域で保持していないので、不純物の除去率が不十分となっている。
【0072】
[No.6]
Al-X二元系平衡状態図(但し、X=Mn)から、700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取った。次に、計算ソフト「FactSage8.0」を用い、Al-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0073】
[No.7]
X=Coとした以外はNo.6と同様にして、Al-X二元系平衡状態図から700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取り、さらにAl-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0074】
[No.8]
X=Tiとした以外はNo.6と同様にして、Al-X二元系平衡状態図から700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取り、さらにAl-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0075】
[No.9]
X=Vとした以外はNo.6と同様にして、Al-X二元系平衡状態図から700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取り、さらにAl-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0076】
[No.10]
X=Zrとした以外はNo.6と同様にして、Al-X二元系平衡状態図から700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取り、さらにAl-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0077】
[No.11]
X=Crとした以外はNo.6と同様にして、Al-X二元系平衡状態図から700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度[質量%]を読み取り、さらにAl-10質量%Mg-1質量%Xについて、固液共存温度である590℃での平衡状態における液相アルミニウム中のXの濃度[質量%]を計算した。この結果を表2に示す。
【0078】
【0079】
表2に示すように、Xが、Mn、Co、Ti、V、Zr、Crのいずれかである場合でも、590℃での液相アルミニウム中におけるXの濃度は、700℃での液相アルミニウム中におけるXの溶解度よりも十分に小さくなっており、具体的には1質量%よりも十分に小さくなっている。このことから、当該不純物除去方法によると、X(不純物)が、Mn、Co、Ti、V、Zr、Crのいずれかである場合でも、不純物を効率よく除去可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、本発明の一態様に係る不純物除去方法は、アルミニウムのリサイクル過程で除去が困難な金属元素等を効率よく除去することができるので、アルミニウムの展伸材から展伸材への水平リサイクルの実現に適している。
【符号の説明】
【0081】
10 撹拌機
20 圧搾板
D α-アルミニウムデンドライト
I 金属間化合物
X 溶湯
Y 炉