(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】船舶の制御方法、船舶制御プログラム、船舶制御システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 21/20 20060101AFI20250225BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20250225BHJP
B63H 23/30 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
B63H21/20
B63H21/21
B63H23/30
(21)【出願番号】P 2021114816
(22)【出願日】2021-07-12
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】澤野 倫宏
(72)【発明者】
【氏名】本城 徹
(72)【発明者】
【氏名】田村 学司
(72)【発明者】
【氏名】清水 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】梶川 雄輝
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-063256(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149589(WO,A1)
【文献】米国特許第08357019(US,B2)
【文献】独国特許出願公開第102019214572(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/20
B63H 21/21
B63H 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられ、
前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含み、
前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させることと、
前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御することと、を有
し、
前記トルク制御期間において、少なくとも前記クラッチが前記伝達状態に移行するまでの間は前記モータのトルクを所定範囲に維持する、
船舶の制御方法。
【請求項2】
エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられ、
前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含み、
前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させることと、
前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御することと、を有し、
前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、
前記モータの回転数が規定値以上であれば、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させる処理を有効にし、
前記モータの回転数が前記規定値未満であれば、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させる処理を無効にする、
船舶の制御方法。
【請求項3】
エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられ、
前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含み、
前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させることと、
前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御することと、を有し、
前記ハイブリッド推進モードから前記モータ推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを前記伝達状態から前記遮断状態に切り替える前に、前記モータをトルク制御すること、を更に有する、
船舶の制御方法。
【請求項4】
前記クラッチの前記伝達状態から前記遮断状態への切替時に、前記モータの制御をトルク制御から回転数制御に切り替える、
請求項3に記載の船舶の制御方法。
【請求項5】
前記トルク制御期間において、前記クラッチが前記伝達状態に移行後、前記モータのトルクを遷移時間にかけて変化させる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の船舶の制御方法。
【請求項6】
前記遷移時間には、前記モータのトルクを連続的に変化させる、
請求項5に記載の船舶の制御方法。
【請求項7】
エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられ、
前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含み、
前記ハイブリッド推進モードから前記モータ推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを伝達状態から遮断状態に切り替える前に、前記モータをトルク制御すること、を
有する、
船舶の制御方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶の制御方法を、
1以上のプロセッサに実行させるための船舶制御プログラム。
【請求項9】
エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられ、
前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含み、
前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させるエンジン回転数処理部と、
前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御するモータトルク処理部と、を備
え、
前記トルク制御期間において、少なくとも前記クラッチが前記伝達状態に移行するまでの間は前記モータのトルクを所定範囲に維持する、
船舶制御システム。
【請求項10】
請求項9に記載の船舶制御システムと、
前記船体と、を備える、
船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン及びモータを含む複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有する船舶の制御方法、船舶制御プログラム、船舶制御システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術として、エンジン及びモータ(電動機器)を備え、エンジンによる航走、エンジン及びモータによる航走、並びにモータによる航走を含む複数の推進モード(駆動形態)を有するハイブリッドシステムを搭載した船舶が知られている(例えば、特許文献1参照)。関連技術に係る船舶は、エンジン及びモータを含む複数の動力源と、プロペラとの間に介装される動力伝達部を更に備え、プロペラの駆動をエンジンとモータとの両方により可能する。ここで、ハイブリッドシステムは、動力伝達部に含まれるクラッチを切り替えることにより、上記推進モードを切替可能に構成されている。
【0003】
関連技術に係る船舶では、操作レバーを操作して、その操作位置を調節することにより、船体の前進、中立、後進を切り替えるとともに、エンジンの駆動力(回転数)又はモータの駆動力(回転数)の調節を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記関連技術のように、船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有する船舶では、モータ推進モード(モータによる航走)からハイブリッド推進モード(エンジン及びモータによる航走)への切り替え時、クラッチに過負荷が掛かる場合がある。つまり、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際し、エンジン側のクラッチに急激なトルク変化が生じ、当該トルク変化によりクラッチに過大な負荷が掛かる可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、推進モードの切り替えに際してクラッチに掛かる負荷を低減可能な船舶の制御方法、船舶制御プログラム、船舶制御システム及び船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る船舶の制御方法は、エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられる。前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含む。前記船舶の制御方法は、前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させることと、前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御することと、を有する。
【0008】
本開示の他の一態様に係る船舶の制御方法は、エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられた船舶に用いられる。前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含む。前記船舶の制御方法は、前記ハイブリッド推進モードから前記モータ推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを伝達状態から遮断状態に切り替える前に、前記モータをトルク制御すること、を有する。
【0009】
本開示の一態様に係る船舶制御プログラムは、前記船舶の制御方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0010】
本開示の一態様に係る船舶制御システムは、船舶に用いられ、エンジン回転数処理部と、モータトルク処理部と、を備える。前記船舶は、エンジン及びモータを含む複数の動力源を備え、前記複数の動力源のうち船体の推進に用いられる動力源が異なる複数の推進モードを有し、少なくとも前記エンジンと前記船体の推進力を出力する出力部との間にクラッチが設けられる。前記複数の推進モードは、前記エンジン及び前記モータの両方を前記船体の推進に用いるハイブリッド推進モードと、前記モータを前記船体の推進に用いるモータ推進モードと、を含む。前記エンジン回転数処理部は、前記モータ推進モードから前記ハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、前記クラッチを遮断状態から伝達状態に切り替える前に、前記エンジンの回転数を前記モータの回転数に同期させる。前記モータトルク処理部は、前記回転数を同期させた後のトルク制御期間に、前記モータをトルク制御する。
【0011】
本開示の一態様に係る船舶は、前記船舶制御システムと、前記船体と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、推進モードの切り替えに際してクラッチに掛かる負荷を低減可能な船舶の制御方法、船舶制御プログラム、船舶制御システム及び船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る船舶の概略構成を示す外観図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る船舶の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る船舶の駆動ユニットの概略図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る船舶のモータ推進モード及びエンジン推進モードにおける駆動ユニットの状態を示す概略図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る船舶のハイブリッド推進モードにおける駆動ユニットの状態を示す概略図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの接続時の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの接続時の処理の一例を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの切断時の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態1に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの切断時の処理の一例を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る船舶制御システムの要部の制御系の一例を示すブロック線図である。
【
図11】
図11は、実施形態1に係る船舶制御システムの要部の制御系の一例を示すブロック線図である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係る船舶制御システムの要部の制御系の一例を示すブロック線図である。
【
図13】
図13は、実施形態2に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの接続時の処理の一例を示すタイミングチャートである。
【
図14】
図14は、実施形態2に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの接続時の処理の一例を示すタイミングチャートである。
【
図15】
図15は、実施形態2に係る船舶制御システムにおける第1クラッチの接続時の処理の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本開示を具体化した一例であって、本開示の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0015】
(実施形態1)
[1]全体構成
まず、本実施形態に係る船舶10の全体構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0016】
船舶10は、海、湖又は河川等の水上を航行(航走)する移動体である。本実施形態では一例として、船舶10は、主としてスポーツ又はレクリエーション等に用いられる小型船舶である「プレジャーボート」である。また、本実施形態では、船舶10は、人(操縦者)の操作(遠隔操作を含む)に応じて動作する構成であって、特に、操縦者である人が搭乗可能な有人タイプであることとする。
【0017】
船舶10は、
図1に示すように、船体1と、船舶制御システム2と、を備えている。船体1は、動力を発生する駆動ユニット3と、船体1を推進させるための推進力を出力する出力部4と、人(操縦者)の操作を受け付ける操作装置5と、を備えている。これに加えて、船体1は、舵機構、表示装置、通信装置、及び照明設備等を含む種々の船内設備等を更に備えている。
【0018】
駆動ユニット3は、
図2に示すように、複数の動力源31,32と、動力伝達部33と、を有している。出力部4は、本実施形態ではプロペラを含み、駆動ユニット3で発生する動力を受けて、回転軸(プロペラシャフト)を中心にプロペラを回転させることにより、船体1を前進又は後進させるための推進力を出力する。
【0019】
複数の動力源31,32は、少なくとも第1動力源31及び第2動力源32を含み、それぞれ船体1の推進に用いられる動力(機械的エネルギー)を発生する。これら複数の動力源31,32は互いに出力特性が異なっており、第1動力源31と第2動力源32とでも、少なくとも最大出力(最高回転数及び最大トルク)が異なる。本実施形態では、第1動力源31と第2動力源32とは、その方式及び種類等が完全に異なる異種の動力源である。要するに、本実施形態に係る船舶10は、複数種類の動力源31,32を有するハイブリッド式の駆動ユニット3を備えている。
【0020】
本実施形態では一例として、第1動力源31は燃料の燃焼により動力を発生するエンジン(内燃機関)であって、第2動力源32は電力(電気エネルギー)の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)である。より詳細には、第1動力源31は、軽油を燃料として駆動されるディーゼルエンジンであって、第2動力源32は、交流電力により駆動される交流モータである。
【0021】
第1動力源31と第2動力源32とは、個別に駆動され、それぞれ動力を発生する。そのため、複数の動力源31,32は、例えば、第1動力源31及び第2動力源32のうちの第1動力源31のみが駆動される状態、第2動力源32のみが駆動される状態、及び第1動力源31及び第2動力源32の両方が駆動される状態等を切替可能である。ここで、第1動力源31で発生する動力と第2動力源32で発生する動力とは、動力伝達部33にて合成され、合成された動力が出力部4に供給される。そのため、例えば、エンジンからなる第1動力源31の動力にモータからなる第2動力源32の動力が合成されることにより、第2動力源32が第1動力源31をアシストして、より大きな動力で出力部4を駆動することが可能である。
【0022】
動力伝達部33は、複数の動力源31,32と出力部4との間に設けられている。動力伝達部33は、複数の動力源31,32で発生する動力が入力され、この動力を出力部4に伝達する機能を有している。ここで、動力伝達部33は、複数の動力源31,32からの動力を合成し、合成された動力を出力部4へと出力する。
【0023】
さらに、動力伝達部33は、複数の動力源31,32の各々から出力部4に動力を伝達するか否かを、つまり「伝達状態」と「遮断状態」とを切り替える機能を有している。本開示でいう「伝達状態」は、各動力源31,32と出力部4との間を機械的に接続し、各動力源31,32から出力部4に動力を伝達する状態である。動力伝達部33が伝達状態にあるときに各動力源31,32が駆動することにより、各動力源31,32で発生する動力によって出力部4が駆動される。本開示でいう「遮断状態」は、各動力源31,32と出力部4との間を機械的に遮断し、各動力源31,32から出力部4に動力を伝達しない状態である。動力伝達部33が遮断状態にあるときに各動力源31,32が駆動しても、各動力源31,32で発生する動力は出力部4に伝達されないため出力部4は駆動されない。
【0024】
駆動ユニット3について詳しくは「[2]駆動ユニットの構成」の欄で説明する。
【0025】
出力部4で発生する船体1の推進力に関する出力値は、駆動ユニット3から出力部4に伝達される動力に応じて変化する。本開示でいう「出力値」は、船体1の推進力に関する値であればよく、例えば、出力部4におけるプロペラの回転数(回転速度)、又は船体1の速度(船速)等である。本実施形態では一例として、出力部4のプロペラの回転数が「出力値」であることとする。つまり、基本的には、駆動ユニット3から出力される動力が大きくなるほど、出力値(プロペラの回転数)は大きく(高速回転に)なる。
【0026】
船舶制御システム2は、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の1以上のメモリとを有するコンピュータシステムを主構成とし、種々の処理(情報処理)を実行する。船舶制御システム2における1以上のメモリには、1以上のプロセッサに船舶10の制御方法を実行させるためのプログラム(船舶制御プログラム)が記録されている。
【0027】
船舶制御システム2は、少なくとも駆動ユニット3の制御を行う。つまり、船舶制御システム2は、例えば、第1動力源31及び第2動力源32の各々の駆動状況、並びに動力伝達部33の状態(伝達状態/遮断状態等)を制御する。
【0028】
本実施形態では、船舶制御システム2は、操作装置5と電気的に接続されており、操作装置5からの操作信号に応じて、駆動ユニット3等の制御を行う。例えば、船舶制御システム2は、操作装置5からの操作信号に応じて駆動ユニット3を制御して、出力部4のプロペラを回転させることにより、船体1を前進又は後進させることが可能である。さらに、船舶制御システム2は、第1動力源31又は第2動力源32の出力(回転数又はトルク)を制御することにより、出力部4のプロペラの回転数を調節し、船体1の移動速度(船速)を調節することが可能である。
【0029】
また、船舶制御システム2は、複数の推進モードを切替可能である。本開示でいう「推進モード」は、複数の動力源31,32のうち、船体1の推進に用いられる動力源31,32が異なるモードである。つまり、船舶制御システム2は、複数の動力源31,32のいずれを船体1の推進に用いるかを切り替えることにより、複数の推進モードを切替可能である。
【0030】
本実施形態では一例として、複数の推進モードは、ハイブリッド推進モード、モータ推進モード及びエンジン推進モードの3つの推進モードを含んでいる。ハイブリッド推進モードは、第1動力源31(エンジン)及び第2動力源32(モータ)の両方を船体1の推進に用いる推進モードである。モータ推進モードは、第1動力源31及び第2動力源32のうちの第2動力源32(モータ)のみを船体1の推進に用いる推進モードである。エンジン推進モードは、第1動力源31及び第2動力源32のうちの第1動力源31(エンジン)のみを船体1の推進に用いる推進モードである。
【0031】
本実施形態では、船舶制御システム2は、船体1全体の制御を行う統合コントローラであって、例えば、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)からなる。ただし、船舶制御システム2は、統合コントローラと別に設けられていてもよい。船舶制御システム2について詳しくは「[3]船舶制御システムの構成」の欄で説明する。
【0032】
操作装置5は、人(操縦者)の操作を受け付けるユーザインタフェースであって、一例として、船体1のうちの操縦者が搭乗する操縦室に配置されている。操作装置5は、例えば、操縦者による各種の操作を受け付けて、当該操作に応じた電気信号(操作信号)を船舶制御システム2に出力する。本実施形態では一例として、操作装置5は、回転操作可能な操作レバーからなる操作部51(
図2参照)を含んでいる。操作装置5は、操作部51の位置(回転角度)を検知するエンコーダ等の検知部を含んでおり、操作部51の位置にから操作部51の操作量を検知し、操作量を表す操作信号を出力する。また、操作装置5は、複数の機械式スイッチ、タッチパネル及び操作ダイヤル等を更に含んでいてもよい。
【0033】
操縦室には、表示装置及び通信装置等も配置されている。表示装置は、人(操縦者)に種々の情報を出力するためのユーザインタフェースである。表示装置は、例えば、船舶制御システム2と電気的に接続されており、船舶制御システム2からの表示制御信号に従って、種々の画面を表示する。通信装置は、船体1の外部の別システム(サーバ等を含む)と通信可能に構成されており、別システムとの間でデータの授受が可能である。
【0034】
[2]駆動ユニットの構成
次に、駆動ユニット3の構成について、
図3~
図5を参照してより詳細に説明する。
【0035】
駆動ユニット3は、上述したように複数の動力源31,32(第1動力源31及び第2動力源32)と、動力伝達部33と、を有している。また、駆動ユニット3は、
図3に示すように、アクチュエータ34、駆動回路351、主バッテリ352及び充電回路353等を更に有している。
図3等において、駆動回路351と主バッテリ352との間のように電気的な接続関係については、破線にて示している。
【0036】
本実施形態では、第1動力源31は、ディーゼルエンジンであって、シリンダ等によって区画された燃焼室を有し、当該燃焼室内で燃料(軽油)が燃焼することによって、ピストンを往復運動する。第1動力源31には、ピストンの往復運動を受けて回転運動するクランクシャフトが出力軸として設けられており、クランクシャフトが動力伝達部33に接続されている。これにより、動力伝達部33には、クランクシャフトを通して第1動力源31からの動力が入力される。
【0037】
本実施形態では、第2動力源32は、交流モータであって、インバータ回路からなる駆動回路351から供給される交流電力(交流電圧)によって駆動される。駆動回路351は、主バッテリ352に電気的に接続されており、主バッテリ352から出力される直流電圧を交流電圧に変換して第2動力源32に供給することで、第2動力源32を駆動する。第2動力源32の出力軸は動力伝達部33に接続されており、動力伝達部33には、出力軸を通して第2動力源32からの動力が入力される。主バッテリ352は、補機バッテリとは別に設けられており、一例として、リチウムイオンバッテリ等の大容量の二次電池(蓄電池)からなる。充電回路353は、主バッテリ352に電気的に接続されており、例えば、陸上電源(電力系統)又はオルタネータ等の出力電力を用いて、主バッテリ352を充電する。
【0038】
さらに、本実施形態では、駆動回路351は、双方向インバータ回路であって、直流電圧を交流電圧に変換するだけでなく、交流電圧を直流電圧に変換する機能も有する。そのため、駆動回路351は、主バッテリ352から出力される直流電圧を交流電圧に変換して第2動力源32に出力するだけでなく、第2動力源32から出力される交流電圧を直流電圧に変換して主バッテリ352に出力することも可能である。つまり、本実施形態に係る駆動ユニット3では、第2動力源32を発電機として用いることで、第2動力源32が外力によって回転する際に発生する電気エネルギー(交流電力)を利用して、駆動回路351にて主バッテリ352を充電することが可能である。
【0039】
本実施形態では、動力伝達部33は、
図3に示すように、第1クラッチ331、第2クラッチ332、第1ギア333、第2ギア334、第3ギア335及び第4ギア336を含んでいる。
図3等では、動力伝達部33の構成を簡略化して示しているが、第1ギア333、第2ギア334、第3ギア335及び第4ギア336等は、マリンギアとしての減速装置に含まれる。
【0040】
第1クラッチ331は、第1動力源31の出力軸(クランクシャフト)と、出力部4との間に挿入されている。つまり、第1クラッチ331は、第1動力源31から出力部4への動力伝達経路の途中に位置している。第1クラッチ331は、入力側回転体331A及び出力側回転体331Bを有し、入力側回転体331A及び出力側回転体331Bがつながった状態(伝達状態)と、切り離された状態(遮断状態)とを切替可能に構成されている。
【0041】
入力側回転体331Aは、第1動力源31の出力軸(クランクシャフト)に接続されており、出力側回転体331Bは、出力部4に接続されている。これにより、入力側回転体331Aは、第1動力源31で発生する動力を受けて回転する。そして、第1クラッチ331が伝達状態にあれば、第1動力源31の動力は第1クラッチ331を介して出力部4に伝達され、第1クラッチ331が遮断状態にあれば、第1動力源31の動力は第1クラッチ331で遮断され出力部4には伝達されない。
【0042】
第1クラッチ331は、一例として、湿式多板クラッチ等の油圧クラッチからなり、油圧ポンプを含む油圧回路から作動油が供給されることにより、伝達状態と遮断状態との切り替えが行われる。第1クラッチ331の伝達状態と遮断状態との切り替えは、例えば、油圧回路の電磁バルブを、船舶制御システム2にて制御することにより行われる。つまり、船舶制御システム2は、直接的又は間接的に、第1クラッチ331を制御して、第1クラッチ331を伝達状態と遮断状態とで切り替える。
【0043】
第1ギア333は、第1クラッチ331の入力側回転体331Aに接続されており、入力側回転体331Aの回転に伴って回転する。第2ギア334は、第1ギア333と噛み合うように設けられており、第1ギア333と共に回転する。第3ギア335は、第1クラッチ331の出力側回転体331Bに接続されており、出力側回転体331Bの回転に伴って回転する。第4ギア336は、第3ギア335と噛み合うように設けられており、第3ギア335と共に回転する。
【0044】
第2クラッチ332は、第2動力源32の出力軸と、第2ギア334及び第4ギア336との間に挿入されている。つまり、第2クラッチ332は、第2動力源32から出力部4への動力伝達経路の途中に位置している。第2クラッチ332は、モータ側回転体332C及び相手側回転体332A,332Bを有し、モータ側回転体332C及び相手側回転体332A,332Bがつながった状態(伝達状態)と、切り離された状態(遮断状態)とを切替可能に構成されている。
【0045】
本実施形態では、相手側回転体332A,332Bとして、第1相手側回転体332Aと第2相手側回転体332Bとが設けられている。第2クラッチ332は、モータ側回転体332Cが第1相手側回転体332Aにつながった第1伝達状態と、モータ側回転体332Cが第2相手側回転体332Bにつながった第2伝達状態と、モータ側回転体332Cが第1相手側回転体332A及び第2相手側回転体332Bのいずれからも切り離された遮断状態と、を切替可能である。
【0046】
モータ側回転体332Cは、第2動力源32の出力軸に接続されている。第1相手側回転体332Aは、第2ギア334に接続されており、第2相手側回転体332Bは、第4ギア336に接続されている。これにより、モータ側回転体332Cは、第2動力源32で発生する動力を受けて回転する。そして、第2クラッチ332が第1伝達状態にあれば、第2動力源32の動力は第2クラッチ332、第2ギア334及び第1ギア333を介して第1クラッチ331の入力側回転体331Aに伝達される。このとき、第1クラッチ331が伝達状態にあれば、第2動力源32の動力は、第1動力源31の動力と合成され、第1クラッチ331を介して出力部4に伝達される。また、第2クラッチ332が第2伝達状態にあれば、第2動力源32の動力は第2クラッチ332、第4ギア336及び第3ギア335を介して出力部4に伝達される。一方、第2クラッチ332が遮断状態にあれば、第2動力源32の動力は第2クラッチ332で遮断され出力部4には伝達されない。
【0047】
第2クラッチ332は、一例として、ドグクラッチ等のかみ合い式のクラッチからなる。第2クラッチ332の、第1伝達状態、第2伝達状態及び遮断状態の切り替えは、モータ側回転体332Cを、シフターからなるアクチュエータ34によって移動させることにより行われる。アクチュエータ34は、モータ側回転体332Cを第1相手側回転体332Aに嵌入する位置に移動させることで、第2クラッチ332を、モータ側回転体332Cと第1相手側回転体332Aとが噛み合う第1伝達状態にする。また、アクチュエータ34は、モータ側回転体332Cを第2相手側回転体332Bに嵌入する位置に移動させることで、第2クラッチ332を、モータ側回転体332Cと第2相手側回転体332Bとが噛み合う第2伝達状態にする。アクチュエータ34は、モータ側回転体332Cを第1相手側回転体332A及び第2相手側回転体332Bのいずれにも嵌入しない位置に移動させることで、第2クラッチ332を、遮断状態にする。
【0048】
第2クラッチ332の第1伝達状態、第2伝達状態及び遮断状態の切り替えは、例えば、電動式のアクチュエータ34を、船舶制御システム2にて制御することにより行われる。つまり、船舶制御システム2は、直接的又は間接的に、第2クラッチ332を制御して、第2クラッチ332を伝達状態(第1伝達状態又は第2伝達状態)と遮断状態とで切り替える。
【0049】
上述したような構成の駆動ユニット3によれば、船舶制御システム2が、第1クラッチ331及び第2クラッチ332を制御することで、
図4及び
図5に例示するように複数の推進モードを切替可能である。
図4及び
図5では、各推進モードにおける駆動ユニット3の状態を模式的に表しており、駆動回路351、主バッテリ352及び充電回路353の図示を省略する。また、
図4及び
図5では、動力源31,32から出力部4に伝達される動力を(太線の)破線矢印で示している。
【0050】
図4の上段は、第1動力源31及び第2動力源32のうちの第2動力源32(モータ)のみを船体1の推進に用いるモータ推進モードを示している。モータ推進モードでは、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を遮断状態に制御し、第2クラッチ332を第2伝達状態に制御する。さらに、モータ推進モードでは、船舶制御システム2は、第1動力源31を停止させ、主バッテリ352からの電力で第2動力源32を駆動させるように駆動回路351を制御する。これにより、
図4に示すように、第2動力源32で発生する動力は、第2クラッチ332、第4ギア336及び第3ギア335を介して出力部4に伝達され、出力部4のプロペラを回転させて、船体1の推進力を発生することができる。
【0051】
図4の下段は、第1動力源31及び第2動力源32のうちの第1動力源31(エンジン)のみを船体1の推進に用いるエンジン推進モードを示している。エンジン推進モードでは、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を伝達状態に制御し、第2クラッチ332を遮断状態に制御する。さらに、エンジン推進モードでは、船舶制御システム2は、第1動力源31を駆動させ、第2動力源32を停止させるように駆動回路351を制御する。これにより、
図4に示すように、第1動力源31で発生する動力は、第1クラッチ331を介して出力部4に伝達され、出力部4のプロペラを回転させて、船体1の推進力を発生することができる。
【0052】
図5の上段は、第1動力源31(エンジン)及び第2動力源32(モータ)の両方を船体1の推進に用いるハイブリッド推進モードのうち、「低速」での航行に好適な「ハイブリッド推進モード(低速)」を示している。このハイブリッド推進モード(低速)では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を伝達状態に制御し、第2クラッチ332を第2伝達状態に制御する。さらに、ハイブリッド推進モード(低速)では、船舶制御システム2は、第1動力源31を駆動させ、主バッテリ352からの電力で第2動力源32を駆動させるように駆動回路351を制御する。これにより、
図5に示すように、第1動力源31で発生する動力は、第1クラッチ331を介して出力部4に伝達され、第2動力源32で発生する動力は、第2クラッチ332、第4ギア336及び第3ギア335を介して出力部4に伝達される。結果的に、第1動力源31からの動力と第2動力源32からの動力とが合成され、出力部4のプロペラを回転させて、船体1の推進力を発生する。
【0053】
図5の下段は、第1動力源31(エンジン)及び第2動力源32(モータ)の両方を船体1の推進に用いるハイブリッド推進モードのうち、「高速」での航行に好適な「ハイブリッド推進モード(高速)」を示している。このハイブリッド推進モード(高速)では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を伝達状態に制御し、第2クラッチ332を第1伝達状態に制御する。さらに、ハイブリッド推進モード(高速)では、船舶制御システム2は、第1動力源31を駆動させ、主バッテリ352からの電力で第2動力源32を駆動させるように駆動回路351を制御する。これにより、
図5に示すように、第1動力源31で発生する動力は、第1クラッチ331を介して出力部4に伝達され、第2動力源32で発生する動力は、第2クラッチ332、第2ギア334、第1ギア333及び第1クラッチ331を介して出力部4に伝達される。結果的に、第1動力源31からの動力と第2動力源32からの動力とが合成され、出力部4のプロペラを回転させて、船体1の推進力を発生する。
【0054】
また、
図4の上段に示すモータ推進モードにおいて、船体1のセーリング時に、出力部4のプロペラの回転力を回生エネルギーとして主バッテリ352に供給することにより、主バッテリ352の充電を行うことも可能である(充電モード)。この場合、出力部4の回転力は、第3ギア335、第4ギア336及び第2クラッチ332を介して第2動力源32に伝達され、第2動力源32の出力軸を回転させることによって、第2動力源32にて交流電力を発生させる。第2動力源32で発生する交流電力は、双方向インバータ回路からなる駆動回路351により、主バッテリ352の充電に用いられる。
【0055】
同様に、
図5の下段に示すハイブリッド推進モード(高速)において、船体1のセーリング時又は停船(停泊)時には、第1動力源31で発生する動力を利用して、主バッテリ352の充電を行うことも可能である(充電モード)。この場合、船舶制御システム2が第1クラッチ331を遮断状態に制御することで、第1動力源31で発生する動力は、第1ギア333、第2ギア334及び第2クラッチ332を介して第2動力源32に伝達され、第2動力源32の出力軸を回転させることによって、第2動力源32にて交流電力を発生させる。第2動力源32で発生する交流電力は、双方向インバータ回路からなる駆動回路351により、主バッテリ352の充電に用いられる。
【0056】
さらに、
図3等では図示を省略しているが、駆動ユニット3は、第1クラッチ331を駆動するための油圧回路、及び各種のセンサ等を更に有している。
【0057】
[3]船舶制御システムの構成
次に、本実施形態に係る船舶制御システム2の構成について、
図2を参照して説明する。船舶制御システム2は、船舶10の構成要素であって、船体1と共に船舶10を構成する。言い換えれば、本実施形態に係る船舶10は、船舶制御システム2と、船体1と、を備えている。本実施形態では一例として、船舶制御システム2は、船体1に搭載されたコンピュータシステムである。
【0058】
船舶制御システム2は、
図2に示すように、モード切替処理部21と、エンジン制御部22と、モータ制御部23と、エンジン回転数処理部24と、モータトルク処理部25と、記憶部26と、を備えている。本実施形態では一例として、船舶制御システム2は1以上のプロセッサを有するコンピュータシステムを主構成とするので、1以上のプロセッサが船舶制御プログラムを実行することにより、これら複数の機能部(モード切替処理部21等)が実現される。船舶制御システム2に含まれる、これら複数の機能部は、複数の筐体に分散して設けられていてもよいし、1つの筐体に設けられていてもよい。
【0059】
船舶制御システム2は、船体1の各部に設けられたデバイスと通信可能に構成されている。つまり、船舶制御システム2には、少なくとも操作装置5、第1動力源31、第2動力源32を駆動する駆動回路351、第1クラッチ331を制御するための電磁バルブ、及び第2クラッチ332を制御するためのアクチュエータ34等が、通信可能に接続されている。これにより、船舶制御システム2は、例えば、操作装置5からの操作信号に応じて、駆動ユニット3を制御すること等が可能である。ここで、船舶制御システム2は、各種の情報(電気信号)の授受を、各デバイスと直接的に行ってもよいし、中継器等を介して間接的に行ってもよい。
【0060】
モード切替処理部21は、船舶10の推進モードを切り替える処理を実行する。本実施形態では、船舶10は、上述したようにハイブリッド推進モード、モータ推進モード及びエンジン推進モードを含む複数の推進モードを有している。本実施形態では、モード切替処理部21は、操作装置5に対する人(操縦者)の操作に従って、ハイブリッド推進モード、モータ推進モード又はエンジン推進モードのいずれかを選択する。一例として、操作装置5はモード選択スイッチを有しており、モード選択スイッチにてハイブリッド推進モード、モータ推進モード又はエンジン推進モードのいずれかの推進モードが選択されると、当該推進モードに切り替えられる。要するに、本実施形態では、推進モードの切り替えをユーザによる切替操作に応じて行う。
【0061】
具体的に、モード切替処理部21は、選択された推進モードでの動作となるように駆動ユニット3を制御する。例えば、モード切替処理部21は、第1クラッチ331を遮断状態に制御し、第2クラッチ332を第2伝達状態に制御することで、船舶10の推進モードをモータ推進モードに切り替える(
図4の上段参照)。また、モード切替処理部21は、第1クラッチ331を伝達状態に制御し、第2クラッチ332を遮断状態に制御することで、船舶10の推進モードをエンジン推進モードに切り替える(
図4の下段参照)。モード切替処理部21で切り替えられた推進モード、つまり選択中の推進モードは、例えば、表示装置等で人(操縦者)に提示されることが好ましい。
【0062】
エンジン制御部22は、エンジンからなる第1動力源31を制御する。具体的に、エンジン制御部22は、第1動力源31を駆動するための燃料噴射、及び排気弁開閉等の制御を行う。これにより、エンジン制御部22では、第1動力源31の出力(主として回転数)を、任意の値に調節するように第1動力源31を制御することが可能である。
【0063】
モータ制御部23は、モータからなる第2動力源32を制御する。具体的に、モータ制御部23は、第2動力源32を駆動するための駆動回路351等の制御を行う。これにより、モータ制御部23では、第2動力源32の出力(主として回転数及びトルク)を、任意の値に調節するように第2動力源32を制御することが可能である。本実施形態では特に、モータ制御部23は、第2動力源32(モータ)の制御として、回転数制御(回転速度制御)とトルク制御との2種類の制御が可能である。回転数制御では、モータ制御部23は、第2動力源32(モータ)の目標回転数を設定し、当該目標回転数に近づけるように第2動力源32(モータ)の回転数を制御する。トルク制御では、モータ制御部23は、第2動力源32(モータ)の目標トルクを設定し、当該目標トルクに近づけるように第2動力源32(モータ)のトルクを制御する。
【0064】
ただし、回転数制御(回転速度制御)とトルク制御との2種類の制御が可能なのは、第1動力源31(エンジン)と第2動力源32(モータ)とのうち、第2動力源32(モータ)についてのみである。つまり、エンジン制御部22は、モータ制御部23のように、回転数制御(回転速度制御)とトルク制御との2種類の制御に対応してはいない。
【0065】
エンジン回転数処理部24は、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、クラッチ(第1クラッチ331)を遮断状態から伝達状態に切り替える前に、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させる。ここで、第1クラッチ331は、油圧クラッチ等の摩擦クラッチであって、エンジン(第1動力源31)と船体1の推進力を出力する出力部4との間に設けられている。ここでいう「相手装置」は、船体1の推進力を発生する出力部4、及びエンジン(第1動力源31)の少なくとも一方からなる。つまり、エンジン回転数処理部24は、モータ(第2動力源32)のみを船体1の推進に用いるモータ推進モードから、エンジン(第1動力源31)及びモータ(第2動力源32)の両方を船体1の推進に用いるハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させるように、エンジン制御部22にて第1動力源31(エンジン)を回転数制御する。本実施形態では一例として、第1クラッチ331における入力側回転体331Aの回転数と出力側回転体331Bの回転数とが略一致することをもって、エンジン(第1動力源31)の回転数がモータ(第2動力源32)の回転数に同期する。
【0066】
要するに、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際しては、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させた状態で、第1クラッチ331が遮断状態から伝達状態に切り替えられる。このとき、第1クラッチ331においては、エンジン(第1動力源31)に接続された入力側回転体331Aの回転数が、第3ギア335、第4ギア336及び第2クラッチ332を介してモータ(第2動力源32)に接続された出力側回転体331Bの回転数と略一致する。
【0067】
モータトルク処理部25は、回転数を同期させた後のトルク制御期間に、モータ(第2動力源32)をトルク制御する。すなわち、エンジン回転数処理部24によりエンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させた後、モータトルク処理部25は、回転数を同期させた後のトルク制御期間に、第2動力源32(モータ)の制御を回転数制御からトルク制御に切り替える。モータ制御部23が第2動力源32(モータ)をトルク制御する期間を「トルク制御期間」とすれば、エンジン(第1動力源31)の回転数がモータ(第2動力源32)の回転数に同期した後、トルク制御期間が開始することになる。
【0068】
記憶部26は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の不揮発性のストレージデバイスを含む。記憶部26には、船舶制御システム2に船舶の制御方法を実行させるための船舶制御プログラム等の制御プログラムが格納(記憶)されている。
【0069】
[4]船舶の制御方法
以下、
図6~
図12を参照しつつ、主として船舶制御システム2によって実行される船舶10の制御方法(以下、単に「制御方法」ともいう)の一例について説明する。
【0070】
本実施形態に係る制御方法は、コンピュータシステムを主構成とする船舶制御システム2にて実行されるので、言い換えれば、船舶制御プログラムにて具現化される。つまり、本実施形態に係る船舶制御プログラムは、船舶10の制御方法に係る各処理を1以上のプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。このような船舶制御プログラムは、例えば、船舶制御システム2及び端末装置等によって協働して実行されてもよい。
【0071】
ここで、船舶制御システム2は、船舶制御プログラムを実行させるための予め設定された特定の開始操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を実行する。開始操作は、例えば、船舶10の電源オン操作等である。一方、船舶制御システム2は、予め設定された特定の終了操作が行われた場合に、制御方法に係る下記の各種処理を終了する。終了操作は、例えば、船舶10の電源オフ操作等である。
【0072】
[4.1]全体処理
【0073】
本実施形態に係る制御方法は、エンジン(第1動力源31)及びモータ(第2動力源32)を含む複数の動力源31,32を備える船舶10に用いられる。この船舶10は、複数の動力源31,32のうち船体1の推進に用いられる動力源31,32が異なる複数の推進モードを有する。さらに、船舶10は、少なくともエンジン(第1動力源31)と船体1の推進力を発生する出力部4との間にクラッチ(第1クラッチ331)が設けられている。ここで、複数の推進モードは、エンジン(第1動力源31)及びモータ(第2動力源32)の両方を船体1の推進に用いるハイブリッド推進モードと、モータ(第2動力源32)を船体1の推進に用いるモータ推進モードと、を含む。
【0074】
本実施形態に係る制御方法は、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、クラッチ(第1クラッチ331)を遮断状態から伝達状態に切り替える前に、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させることと、回転数を同期させた後のトルク制御期間に、モータ(第2動力源32)をトルク制御することと、を有する。
【0075】
すなわち、船舶10の推進モードがモータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替わる際、船舶制御システム2のエンジン回転数処理部24は、第1クラッチ331の切り替え前に、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させる。このとき、エンジン回転数処理部24は、第1動力源31(エンジン)を回転数制御することによって、エンジン(第1動力源31)の回転数とモータ(第2動力源32)の回転数とを同期させる。そして、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させた後、船舶制御システム2のモータトルク処理部25は、モータ(第2動力源32)の制御をトルク制御に切り替える。これにより、第1クラッチ331が伝達状態に切り替わった後も、モータ(第2動力源32)のトルクを維持することができ、第1クラッチ331に急激なトルク変化が生じることを抑制しやすくなる。
【0076】
このように、本実施形態に係る制御方法では、船舶10の推進モードの切り替えに伴う、クラッチ(第1クラッチ331)の遮断状態から伝達状態への切り替えに際して、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させることができる。これにより、モータ(第2動力源32)に接続された出力側回転体331Bに対して、エンジン(第1動力源31)に接続された入力側回転体331Aをスムーズにつなぐことができる。しかも、第1クラッチ331が伝達状態に切り替わった後は、モータ(第2動力源32)のトルクを維持することで、第1クラッチ331に急激なトルク変化が生じることを抑制しやすくなるので、当該トルク変化によるクラッチに掛かる負荷を低減可能となる。結果的に、推進モードの切り替えに際してクラッチ(第1クラッチ331)に掛かる負荷を低減可能である、という利点がある。
【0077】
要するに、船舶10の推進モードがモータ推進モードであって、モータ(第2動力源32)の動力によって出力部4のプロペラが駆動されている(回転している)状態から、ハイブリッド推進モードへの切り替えに際しては、駆動中の出力部4(プロペラ)に対し、第1クラッチ331を介してエンジン(第1動力源31)を接続する必要がある。このとき、第1クラッチ331の入力側回転体331Aと出力側回転体331Bとの間に急激なトルク変化が生じると、第1クラッチ331に過大な負荷がかかり、そのときの環境によっては、最悪の場合、第1クラッチ331が焼き付く可能性がある。本実施形態に係る制御方法によれば、このようなモータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、クラッチ(第1クラッチ331)に掛かる負荷を低減可能であるので、第1クラッチ331の焼き付き等も生じにくくなる。
【0078】
[4.2]クラッチ接続時の処理
次に、
図6及び
図7を参照して、本実施形態に係る制御方法における第1クラッチ331の接続時、つまり遮断状態から伝達状態への切り替え時の処理について詳しく説明する。
図7は、エンジンの回転数、エンジンのトルク、モータの回転数、モータのトルク、及び第1クラッチ331の状態を示す、第1クラッチ331の接続時のタイミングチャートの一例である。ここで、第1クラッチ331の状態として、入力側回転体331Aと出力側回転体331Bとが接続されている伝達状態を「ON」、遮断されている遮断状態を「OFF」とする。
【0079】
すなわち、本実施形態に係る制御方法では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331の遮断状態から伝達状態への切り替えを指示するクラッチ接続要求の有無を判断する(S1)。一例として、船舶10の推進モードがモータ推進モードからハイブリッド推進モード(低速)へ切り替わる場合等、推進モードの切り替えに伴って、第1クラッチ331の伝達状態への切り替えが必要となり、クラッチ接続要求が発生する。そのため、モータ推進モードからハイブリッド推進モード(低速)への切り替えがなされた場合、船舶制御システム2は、クラッチ接続要求が有ると判断し(S1:Yes)、処理をステップS2に移行させる。一方、第1クラッチ331の伝達状態への切り替えを伴う推進モードの切り替えがなされていなければ、船舶制御システム2は、クラッチ接続要求が無いと判断し(S1:No)、ステップS1を繰り返し実行する。
【0080】
ステップS2では、船舶制御システム2は、モータ(第2動力源32)の回転数が規定値以上であるか否かを判断する。ここで、規定値は、例えば、エンジン(第1動力源31)のアイドリング時における入力側回転体331Aの回転数等、第1動力源31の制御によって調節可能な範囲における入力側回転体331Aの回転数の最小値(最低回転数)と、出力側回転体331Bの回転数が同一になるときのモータ(第2動力源32)の回転数である。そして、船舶制御システム2は、モータ(第2動力源32)の回転数が規定値以上であると判断した場合(S2:Yes)、処理をステップS3に移行させる。一方、船舶制御システム2は、モータ(第2動力源32)の回転数が規定値未満であると判断した場合(S2:No)、ステップS3をスキップして処理をステップS4に移行させる。
【0081】
ステップS3では、船舶制御システム2のエンジン回転数処理部24は、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータ(第2動力源32)の回転数に同期させる。このとき、船舶制御システム2は、入力側回転体331Aの回転数を出力側回転体331Bの回転数と略一致させるように、エンジン制御部22でエンジン(第1動力源31)の回転数を制御する。具体的には、
図7の例において、時点t0からエンジン(第1動力源31)の回転数を上昇させ、時点t1において、エンジン(第1動力源31)の回転数がモータ(第2動力源32)の回転数に同期する。
【0082】
このように、本実施形態に係る制御方法では、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、モータの回転数(第2動力源32)によって、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータの回転数に同期させる処理の有効/無効を切り替える。モータ(第2動力源32)の回転数が規定値以上であれば、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータの回転数に同期させる処理を有効にし、モータの回転数が規定値未満であれば、エンジンの回転数をモータの回転数に同期させる処理を無効にする。すなわち、モータ(第2動力源32)の回転数が規定値未満であれば、第1動力源31をどのように制御しても、出力側回転体331Bの回転数に入力側回転体331Aの回転数を同期(一致)させることはできない。また、そもそもこのような低回転時においては、第1クラッチ331の接続時に第1クラッチ331に掛かるトルクも比較的小さいため、エンジンの回転数を同期させなくても、第1クラッチ331に掛かる負荷は小さく抑えられる。そして、このような場合に、エンジンの回転数を同期させる処理(S3)をスキップすることで、第1クラッチ331の接続までに要する時間を短縮することが可能である。
【0083】
ステップS4では、船舶制御システム2のモータトルク処理部25は、モータ制御部23での第2動力源32(モータ)の制御を回転数制御からトルク制御に変更する。つまり、
図7の例では、エンジン(第1動力源31)の回転数がモータ(第2動力源32)の回転数に同期した時点t1以降に、船舶制御システム2は、トルク制御期間としてモータ(第2動力源32)をトルク制御する。厳密には、船舶制御システム2は、時点t1から時点t2にかけて、エンジンの回転数がモータの回転数に同期したか否かの判定を行い、同期を確認できた時点t2で、第2動力源32(モータ)の制御を回転数制御からトルク制御に変更する。
【0084】
ステップS5では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を接続する。つまり、
図7の時点t2において、第1クラッチ331の状態が遮断状態(OFF)から伝達状態(ON)へと切り替えられる。このとき、船舶制御システム2は、トルク制御期間において、少なくともクラッチ(第1クラッチ331)が伝達状態に移行するまでの間はモータ(第2動力源32)のトルクを所定範囲に維持する。つまり、トルク制御期間においては、第1クラッチ331の接続が開始した時点t2後においても、第1クラッチ331が伝達状態に移行するまで、つまり完全に接続されるまでの間は、第2動力源32のトルクは所定範囲に維持される。ここで、「所定範囲」は、その下限値及び上限値によって任意に設定可能である。例えば、所定範囲の下限値と上限値とを同値にすることで、所定範囲の幅を0(ゼロ)とし、所定範囲をピンポイントで設定することも可能である。この場合、所定範囲は所定値と同義であるので、トルク制御期間においてモータ(第2動力源32)のトルクは所定値(一定)に維持されることになる。
【0085】
本実施形態では、所定範囲の幅を0(ゼロ)とし、かつ第1クラッチ331の接続が開始した時点t2のモータ(第2動力源32)のトルクとする。これにより、第1クラッチ331が接続される前後において、第2動力源32(モータ)のトルクが一定値に維持されることになる。その結果、第1クラッチ331が接続される前後において、出力部4の駆動に必要なトルクを第2動力源32(モータ)で賄うことができ、第1動力源31(エンジン)側のトルクが不要であるため、第1クラッチ331に掛かる負荷を小さく抑えることができる。
【0086】
この状態で、第1クラッチ331の状態が遮断状態(OFF)から伝達状態(ON)へと切り替わり、第1クラッチ331が接続される(S5)。その後、ステップS6において、船舶制御システム2は、第2動力源32(モータ)のトルクを緩やかに減少させる。
図7の例では、モータ制御部23は、時点t3から時点t4の遷移時間にかけて、第2動力源32(モータ)のトルクを徐々に減少させる。これをもって、船舶制御システム2は、第1クラッチ331の接続に係る一連の処理を終了する。
【0087】
このように、本実施形態では、トルク制御期間において、クラッチ(第1クラッチ331)が伝達状態に移行後、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて変化させる。このとき、出力部4の駆動に必要なトルクのうち、第2動力源32(モータ)のトルクの減少分は、第1動力源31(エンジン)にて賄われるため、エンジン(第1動力源31)のトルクは時点t3から時点t4の遷移時間にかけて徐々に増加する。つまり、エンジン(第1動力源31)のトルクは受動的に増加する。その結果、出力部4の駆動に必要なトルクのうち、モータ(第2動力源32)とエンジン(第1動力源31)との配分が遷移時間において徐々に変化する。結果的に、第1クラッチ331に急激なトルク変化による負荷が掛かることが抑制される。
【0088】
特に、本実施形態では、ステップS6において、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて変化(ここでは減少)させるに際して、滑らかにトルクが変化するようにモータ制御部23で第2動力源32をトルク制御する。つまり、遷移時間には、モータ(第2動力源32)のトルクを連続的に変化させる。その結果、モータのトルクが段階的に減少するような不連続な変化を生じる場合に比較して、第1クラッチ331に急激なトルク変化による負荷が掛かることが抑制される。
【0089】
船舶制御システム2は、上記ステップS1~S6の処理を繰り返し実行する。ただし、
図6に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0090】
[4.3]クラッチ切断時の処理
次に、
図8及び
図9を参照して、本実施形態に係る制御方法における第1クラッチ331の切断時、つまり伝達状態から遮断状態への切り替え時の処理について詳しく説明する。
図9は、エンジンの回転数、エンジンのトルク、モータの回転数、モータのトルク、及び第1クラッチ331の状態を示す、第1クラッチ331の切断時のタイミングチャートの一例である。
【0091】
すなわち、本実施形態に係る制御方法では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331の伝達状態から遮断状態への切り替えを指示するクラッチ切断要求の有無を判断する(S11)。一例として、船舶10の推進モードがハイブリッド推進モード(低速)からモータ推進モードへ切り替わる場合等、推進モードの切り替えに伴って、第1クラッチ331の遮断状態への切り替えが必要となり、クラッチ切断要求が発生する。そのため、ハイブリッド推進モード(低速)からモータ推進モードへの切り替えがなされた場合、船舶制御システム2は、クラッチ切断要求が有ると判断し(S11:Yes)、処理をステップS12に移行させる。一方、第1クラッチ331の遮断状態への切り替えを伴う推進モードの切り替えがなされていなければ、船舶制御システム2は、クラッチ切断要求が無いと判断し(S11:No)、ステップS11を繰り返し実行する。
【0092】
ステップS12では、船舶制御システム2のモータトルク処理部25は、クラッチ(第1クラッチ331)を伝達状態から遮断状態に切り替える前に、モータ制御部23での第2動力源32(モータ)の制御をトルク制御に変更する。つまり、
図9の例では、クラッチ(第1クラッチ331)を伝達状態から遮断状態に切り替える時点t3よりも前に、モータ制御部23での第2動力源32(モータ)をトルク制御する。要するに、本実施形態に係る制御方法では、ハイブリッド推進モードからモータ推進モードへの切り替えに際して、クラッチ(第1クラッチ331)を伝達状態から遮断状態に切り替える前に、モータ(第2動力源32)をトルク制御する。
【0093】
次のステップS13では、船舶制御システム2は、第2動力源32(モータ)のトルクを緩やかに増加させる。
図9の例では、モータ制御部23は、時点t1から時点t2の遷移時間にかけて、第2動力源32(モータ)のトルクを徐々に増加させる。このとき、出力部4の駆動に必要なトルクのうち、第2動力源32(モータ)のトルクの増加分だけ、第1動力源31(エンジン)の配分が減少するため、エンジン(第1動力源31)のトルクは時点t1から時点t2の遷移時間にかけて徐々に減少する。つまり、エンジン(第1動力源31)のトルクは受動的に減少する。その結果、クラッチ(第1クラッチ331)の切断時においては、既にエンジン(第1動力源31)のトルクは減少した状態となり、第1クラッチ331の切断時に、エンジン(第1動力源31)の回転数が過大となる過回転が抑制される。
【0094】
特に、本実施形態では、ステップS13において、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて変化(ここでは増加)させるに際して、滑らかにトルクが変化するようにモータ制御部23で第2動力源32をトルク制御する。つまり、遷移時間には、モータ(第2動力源32)のトルクを連続的に変化させる。その結果、モータのトルクが段階的に減少するような不連続な変化を生じる場合に比較して、第1クラッチ331に急激なトルク変化による負荷が掛かることが抑制される。
【0095】
ステップS14では、船舶制御システム2は、第1クラッチ331を切断する。つまり、
図9の時点t3において、第1クラッチ331の状態が伝達状態(ON)から遮断状態(OFF)へと切り替えられる。このとき、船舶制御システム2は、モータ制御部23での第2動力源32(モータ)の制御をトルク制御から回転数制御に変更する(S15)。つまり、
図9の例では、第1クラッチ331を切断する時点t3以降、船舶制御システム2は、モータ(第2動力源32)を回転数制御する。これをもって、船舶制御システム2は、第1クラッチ331の接続に係る一連の処理を終了する。
【0096】
このように、本実施形態に係る制御方法では、クラッチ(第1クラッチ331)の伝達状態から遮断状態への切替時に、モータ(第2動力源32)の制御をトルク制御から回転数制御に切り替える。これにより、第1クラッチ331切断されてモータ推進モードに移行した後は、速やかに、モータ(第2動力源32)の回転数制御により出力部4を制御することが可能である。
【0097】
船舶制御システム2は、上記ステップS11~S15の処理を繰り返し実行する。ただし、
図8に示すフローチャートは一例に過ぎず、処理が適宜追加又は省略されてもよいし、処理の順番が適宜入れ替わってもよい。
【0098】
[4.4]制御系の一例
次に、船舶制御システム2のうち特にエンジン回転数処理部24及びモータトルク処理部25で行われる処理を具現化するための、制御系の一例について説明する。
図10は、エンジン(第1動力源31)の回転数制御において、第1動力源31の目標回転数を生成する制御系を示す。
図11は、モータ(第2動力源32)のトルク制御において、第2動力源32の目標トルクを生成する制御系を示す。
図12は、
図10及び
図11の切替処理ブロックの一例を示す。
【0099】
図10のブロック線図において、エンジン回転数換算のブロックB3では、モータ回転数をエンジン回転数に換算する。
図11のブロック線図において、トルク保持のブロックB11では、エンジントルクを保持し、トルク保持のブロックB12では、モータトルクを保持する。
図11のブロック線図において、回転数制御のブロックB16では、モータ(第2動力源32)の回転数制御演算を行い、目標トルクを生成する。
図10の第1切替処理のブロックB1及び第2切替処理のブロックB2、並びに
図11の第3切替処理のブロックB13、第4切替処理のブロックB14及び第5切替処理のブロックB15は、
図12に示すような制御系にて実現される。これらの切替処理ブロックは、外部からの切替指示に従って、合成割合αを用いて入力値A(Aに入力される値)と入力値B(Bに入力される値)とを合成し、出力値として出力する。ここでは一例として、合成割合αは、出力値の全体に占める入力値Bの割合を示し、「0」から「1」までの間で変化する。
【0100】
図12に示す制御系によれば、加減算値決定のブロックB21では、切替指示に従って、加算値又は減算値を決定する。カウンタのブロックB22からは、加算値(又は減算値)刻みで増加(又は減少)するカウンタ値が出力される。切替特性マップのブロックB23では、切替特性マップに照らして、カウンタ値に対応する合成割合αを算出する。合成割合算出のブロックB24では、合成割合αを用いて、下記式1に従って、出力値を算出する。
出力値=入力値A×(1-α)+入力値B×α (式1)
【0101】
これにより、切替処理ブロックでは、入力値Aから入力値Bへの切替指示を受けると、出力値を入力値Aから入力値Bに向けて徐々に変化させる。そのため、
図10のブロック線図においては、
図7に例示したように、エンジン回転数を連続的に変化させることができ、
図11のブロック線図においては、
図7に例示したように、モータトルクを連続的に変化させることができる。
【0102】
このような構成において、モータ推進モードで船体1が航走中に、エンジン(第1動力源31)が接続されてハイブリッド推進モードに切り替わる場合、つまり第1クラッチ331を接続する際の動作を説明する。まず、モータ推進モードにおいては、
図10の第1切替処理のブロックB1及び第2切替処理のブロックB2、並びに
図11の第5切替処理のブロックB15は、入力値Bを出力値として出力する。それ以外の第3切替処理のブロックB13及び第4切替処理のブロックB14は、入力値Aを出力値として出力する。
【0103】
この状態から、第1切替処理のブロックB1の出力値が、入力値Bから入力値Aに切り替えられることで、エンジン回転数がモータ回転数に同期するように、エンジン(第1動力源31)の目標回転数が決定される。このとき、第1切替処理のブロックB1では、入力値B(アイドリング回転数)から入力値A(モータ実回転数相当のエンジン回転数)に徐々に切り替えられることで、徐々にエンジン回転数がモータ回転数に同期する。ここで、同期判定が行われ、エンジン回転数がモータ回転数に同期したとの判定後に、第1クラッチ331の接続、つまり遮断状態から伝達状態への切り替えが行われる。
【0104】
このとき、第1クラッチ331の接続と同時に、第4切替処理のブロックB14の出力値が入力値Aから入力値Bに切り替えられ、第5切替処理のブロックB15の出力値が入力値Bから入力値Aに切り替えられる。このとき、第4切替処理のブロックB14では、入力値Aから入力値Bに瞬時に切り替えられる。ここで、第4切替処理のブロックB14の入力値Bは、トルク保持のブロックB12で保持されているモータトルクであるので、結果的に、第1クラッチ331の接続直前のモータトルクが保持される。ここで、第5切替処理のブロックB15では、入力値B(モータ回転数指示相当のモータトルク)から入力値A(第4切替処理の出力値)に瞬時に切り替えられる。そして、第4切替処理のブロックB14では、クラッチ331の特性を考慮して、入力値B(第1クラッチ331の接続直前のモータトルク)から入力値A(第3切替処理の出力値)に徐々に切り替えられる。これにより、第1クラッチ331への過負荷が防止される。
【0105】
反対に、ハイブリッド推進モードで船体1が航走中に、エンジン(第1動力源31)が切り離されてモータ推進モードに切り替わる場合、つまり第1クラッチ331を切断する際の動作を説明する。まず、ハイブリッド推進モードにおいては、
図10の第2切替処理のブロックB2、並びに
図11の第3切替処理のブロックB13、第4切替処理のブロックB14及び第5切替処理のブロックB15は、入力値Aを出力値として出力する。それ以外の第1切替処理のブロックB1は、入力値Bを出力値として出力する。
【0106】
この状態から、第3切替処理のブロックB13の出力値が、入力値Aから入力値Bに徐々に切り替えられることで、エンジン(第1動力源31)のトルクを徐々にモータ(第2動力源32)でアシストすることにより、エンジンの負荷を徐々に軽くする。このとき、第3切替処理のブロックB13では、入力値A(ハイブリッド用トルク指示)から入力値B(第1クラッチ331の切断直前のエンジントルク)に徐々に切り替えられることで、モータ(第2動力源32)側で賄うトルクが徐々に大きくなる。モータでのアシストが完了すると、第1クラッチ331の切断、つまり伝達状態から遮断状態への切り替えが行われる。このとき、第5切替処理のブロックB15の出力値が入力値Aから入力値Bに切り替えられる。ここで、回転数制御は、PID(Proportional-Integral-Differential)制御であるため、第5切替処理のブロックB15の切替時にI制御部は直前の出力トルクから積分の初期値を決定する。
【0107】
ただし、
図10、
図11及び
図12に示す制御系は一例に過ぎず、例えば、合成割合αは他の方法によって決定されてもよい。
【0108】
[5]変形例
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0109】
本開示における船舶制御システム2は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしての1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における船舶制御システム2としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、船舶制御システム2に含まれる一部又は全部の機能部は電子回路で構成されていてもよい。
【0110】
また、船舶制御システム2の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることは船舶制御システム2に必須の構成ではなく、船舶制御システム2の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。反対に、実施形態1において、複数の装置(例えば船舶制御システム2及び操作装置5)に分散されている機能が、1つの筐体内に集約されていてもよい。
【0111】
さらに、船舶制御システム2の少なくとも一部は、船体1に搭載されることに限らず、船体1とは別に設けられてもよい。一例として、船舶制御システム2が、船体1とは別に設けられたサーバ装置によって具現化される場合、サーバ装置と船体1(の通信装置)との間の通信により、船舶制御システム2による船舶10(船体1)の制御が可能となる。船舶制御システム2の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0112】
また、船舶10は、プレジャーボートに限らず、貨物船及び貨客船等を含む商船、タグボート及びサルベージ船等を含む作業船、気象観測船及び練習船等を含む特殊船、漁船、並びに艦艇等であってもよい。さらに、船舶10は、操縦者が搭乗する有人タイプに限らず、人(操縦者)が遠隔操作可能であるか、又は自律運航可能な無人タイプの船舶であってもよい。
【0113】
また、第1動力源31は、ディーゼルエンジンに限らず、例えば、ディーゼルエンジン以外のエンジンであってもよいし、エンジン以外の動力源(モータ等)であってもよい。第2動力源32についても、交流モータに限らず、例えば、直流モータであってもよいし、モータ以外の動力源(エンジン等)であってもよい。一例として、第1動力源31がモータ、第2動力源32がエンジンであってもよい。さらに、第1動力源31及び第2動力源32は、いずれもエンジン(又はモータ)のように、同種の動力源であってもよく、この場合でも、例えば排気量の違い等により、第1動力源31と第2動力源32とでは出力特性が異なることが好ましい。
【0114】
また、船舶10は、船体1に複数の動力源31,32を備えていればよく、例えば、第1動力源31及び第2動力源32に加えて、第3動力源を有するなど、3つ以上の動力源を備えていてもよい。
【0115】
また、操作部51は、操作レバーに限らず、例えば、足踏み式の操作ペダル、タッチパネル、キーボード又はポインティングデバイス等であってもよい。操作ペダルからなる操作部51であれば、踏み込み量が操作部51の操作量となる。さらに、操作部51は、音声入力、ジェスチャ入力又は他の端末からの操作信号の入力等の態様を採用してもよい。
【0116】
また、推進モードの切り替えをユーザ(操縦者)による切替操作に応じて行うことは必須ではない。例えば、船舶制御システム2のモード切替処理部21は、船体1の現在位置又は船速等の船体1の航行状況、又は主バッテリ352の残容量等に応じて、自動的に推進モードの切り替えを行ってもよい。
【0117】
また、トルク制御期間において、第1クラッチ331が伝達状態に移行するまでの間モータ(第2動力源32)のトルクを所定範囲に維持することは必須ではない。また、トルク制御期間において、第1クラッチ331が伝達状態に移行後、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて変化させることは必須ではない。また、遷移時間に、モータ(第2動力源32)のトルクを連続的に変化させることも必須ではなく、不連続(離散的)に変化させてもよい。また、ハイブリッド推進モードからモータ推進モードへの切り替えに際して、第1クラッチ331を伝達状態から遮断状態に切り替える前に、モータ(第2動力源32)をトルク制御することも必須ではない。さらに、第1クラッチ331の伝達状態から遮断状態への切替時に、モータ(第2動力源32)の制御をトルク制御から回転数制御に切り替えることも必須ではない。
【0118】
また、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへの切り替えに際して、モータの回転数(第2動力源32)によって、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータの回転数に同期させる処理の有効/無効を切り替えることも必須ではない。つまり、モータ(第2動力源32)の回転数によらずに、エンジン(第1動力源31)の回転数をモータの回転数に同期させてもよい。
【0119】
(実施形態2)
本実施形態に係る船舶10の制御方法は、第1クラッチ331の接続に係る処理が、ハイブリッド推進モードのサブモードに応じて変化する点で、実施形態1に係る制御方法と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
図13~
図15は、いずれもエンジンの回転数、エンジンのトルク、モータの回転数、モータのトルク、及び第1クラッチ331の状態を示す、第1クラッチ331の接続時のタイミングチャートの一例である。
【0120】
本実施形態では一例として、ハイブリッド推進モードの中に、「ゼロトルクモード」、「アシストモード」、「発電モード」の3つのサブモードが設定されている。ゼロトルクモードは、モータ(第2動力源32)のトルクの全てをエンジン(第1動力源31)で代替することで、モータトルクを略0(ゼロ)とするモードである。アシストモードは、エンジン(第1動力源31)の出力をモータ(第2動力源32)のアシストに利用するモードである。発電モードは、エンジン(第1動力源31)の出力を主バッテリ352の充電に利用するモードである。そして、モータ推進モードからハイブリッド推進モードへ切替時にける第1クラッチ331の接続に係る処理が、ハイブリッド推進モードのサブモードごとに異なる。
【0121】
まず、モータ推進モードからゼロトルクモードのハイブリッド推進モードへ切り替わる際の第1クラッチ331の接続に係る処理について説明する。この場合、実施形態1において
図7を参照して説明した処理と略同じ処理となる。具体的には、時点t3から時点t4の遷移時間にかけて、第2動力源32(モータ)のトルクを徐々に減少させ、
図7の時点t4において、モータトルクが0(ゼロ)トルクになるまで減少するように制御される。
【0122】
次に、モータ推進モードからアシストモードのハイブリッド推進モードへ切り替わる際の第1クラッチ331の接続に係る処理について、
図13を参照して説明する。この場合、
図13に示すように、時点t2において、第1クラッチ331の状態が遮断状態(OFF)から伝達状態(ON)へと切り替えられた後も、モータトルクとして、第1クラッチ331の接続が開始した時点t2のモータ(第2動力源32)のトルクを維持する。さらに、第1クラッチ331が接続された時点t3以降も、そのときのモータ(第2動力源32)の目標トルクが変化しない限り、時点t2のモータのトルクを維持する。
【0123】
あるいは、同じアシストモードでも、ハイブリッド推進モードにおいて船体1を更に加速させる場合など、モータ(第2動力源32)の目標トルクが増加する場合には、
図14に示すようになる。
図14でも、時点t2において、第1クラッチ331の状態が遮断状態(OFF)から伝達状態(ON)へと切り替えられた後も、モータトルクとして、第1クラッチ331の接続が開始した時点t2のモータ(第2動力源32)のトルクを維持する点は同じである。ただし、第1クラッチ331が接続された時点t3以降、目標トルクに近づけるように、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて変化させる。
図14の例では、時点t3から時点t4の遷移時間にかけてモータトルクは徐々に(かつ連続的に)増加する。この場合、エンジントルク、エンジン回転数及びモータ回転数は、時点t3以降、持続的に増加し、船体1を加速させる。
【0124】
次に、モータ推進モードから発電モードのハイブリッド推進モードへ切り替わる際の第1クラッチ331の接続に係る処理について、
図15を参照して説明する。この場合、
図15に示すように、時点t2において、第1クラッチ331の状態が遮断状態(OFF)から伝達状態(ON)へと切り替えられた後も、モータトルクとして、第1クラッチ331の接続が開始した時点t2のモータ(第2動力源32)のトルクを維持する。そして、第1クラッチ331が接続された時点t3以降、第2動力源32(モータ)のトルクを緩やかに減少させる。つまり、モータ制御部23は、時点t3から時点t4の遷移時間にかけて、第2動力源32(モータ)のトルクを徐々に減少させる。このとき、モータトルクは「正」から「負」に至るまで減少する。ここで、第2動力源32(モータ)が負荷としての出力部4を駆動している状態でのモータトルクを「正」、反対に出力部4が負荷としての第2動力源32(モータ)を駆動している状態でのモータトルクを「負」とする。
【0125】
つまり、
図15の例では、モータトルクが0(ゼロ)を下回り「負」となった以降、第2動力源32を発電機として用いることで、第2動力源32が外力によって回転する際に発生する電気エネルギー(交流電力)を利用して、駆動回路351にて主バッテリ352を充電することが可能である。
【0126】
以上説明したように、ハイブリッド推進モードが種々のサブモードを有する場合には、第1クラッチ331の接続に係る処理はサブモードに応じて変化する。そして、サブモードによっては、上記アシストモード(加速中)のように、クラッチ(第1クラッチ331)が伝達状態に移行後、モータ(第2動力源32)のトルクを遷移時間にかけて増加させるケースもある。
【0127】
実施形態2の構成は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 船体
2 船舶制御システム
4 出力部
10 船舶
24 エンジン回転数処理部
25 モータトルク処理部
31 第1動力源(エンジン)
32 第2動力源(モータ)
331 (第1)クラッチ