(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造
(51)【国際特許分類】
F16L 5/00 20060101AFI20250225BHJP
F16L 5/04 20060101ALI20250225BHJP
A62C 3/16 20060101ALI20250225BHJP
E03C 1/122 20060101ALI20250225BHJP
E03C 1/12 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
F16L5/00 N
F16L5/04
F16L5/00 J
A62C3/16 B
E03C1/122 Z
E03C1/12 E
(21)【出願番号】P 2021147865
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中西 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】今久保 謙一郎
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149445(JP,A)
【文献】特開2012-149444(JP,A)
【文献】特開2012-149707(JP,A)
【文献】特開2016-040446(JP,A)
【文献】特開2008-285854(JP,A)
【文献】特許第6122195(JP,B1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0469369(KR,Y1)
【文献】韓国登録特許第10-2074891(KR,B1)
【文献】実開平06-028462(JP,U)
【文献】特開2019-100503(JP,A)
【文献】特開2014-202330(JP,A)
【文献】特開2017-180827(JP,A)
【文献】特開2012-067596(JP,A)
【文献】特開2008-069957(JP,A)
【文献】特開2013-096116(JP,A)
【文献】特開2007-056536(JP,A)
【文献】特開2014-214854(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0033328(KR,A)
【文献】米国特許第05887396(US,A)
【文献】韓国登録特許第10-1637197(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1737582(KR,B1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0489856(KR,Y1)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0007478(KR,A)
【文献】独国特許出願公開第102021204139(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L
A62C 3/00
E03C 1/12
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置であって、
前記床スラブよりも下方において、前記合成樹脂管の外周に接するように設けられる熱膨張性耐火材と、
前記熱膨張性耐火材の外周を拘束する不燃性の保持部材とを含み、
前記保持部材は
、前記貫通孔に固設された筒体
に揺動自在に接続される接続部を含
み、
前記筒体は前記貫通孔に充填材により固設されたスリーブであって、前記スリーブの下端は前記床スラブ下面よりも下方に位置し、前記スリーブは前記下端に鍔を備え、
前記接続部は、前記鍔に係止する係止爪を備えることを特徴する、延焼防止装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記熱膨張性耐火材の外周を覆う略半円筒形状の2つで一対で略半円の一方の端部どうしが蝶番で接続されたバンド部と、前記一方とは逆側の略半円の他方の端部において2つのバンド部を接合する接合部とを含み、
前記係止爪を、前記略半円筒形状の上端に備えることを特徴する、請求項
1に記載の延焼防止装置。
【請求項3】
前記保持部材は、前記熱膨張性耐火材の外周を周方向にN分割して覆うN個のバンド片を含み、前記N個で一対で略円筒形状に組み上がるバンド部と、前記N個のバンド片を接合する接合部とを含み、
前記係止爪を、前記バンド片の上端に備えることを特徴する、請求項
1に記載の延焼防止装置。
【請求項4】
前記保持部材は、複数の短冊形状で形成され、短冊形状の内周側により前記熱膨張性耐火材の外周を覆うバンド部と、前記バンド部の両端を接合する接合部とを含み、
前記係止爪を、前記短冊形状の上端に備えることを特徴する、請求項
1に記載の延焼防止装置。
【請求項5】
前記保持部材は、前記延焼防止装置よりも下方に設けられた管継手に揺動自在に接続される下方接続部をさらに含むことを特徴する、請求項1~請求項
4のいずれかに記載の延焼防止装置。
【請求項6】
請求項1~請求項
5のいずれかに記載の延焼防止装置を用いた、配管構造。
【請求項7】
前記筒体は、前記貫通孔に充填材により固設されたスリーブであって、前記スリーブの外周面に凸部を備え、前記貫通孔において前記スリーブがずれることを防止することを特徴する、請求項
6に記載の配管構造。
【請求項8】
前記凸部は、前記スリーブの上下方向の略中央部における外周面に備えることを特徴する、請求項
7に記載の配管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火区画領域にある防火区画体(たとえば、建築物における耐火構造の床スラブ等の躯体)に形成された貫通孔に熱可塑性の合成樹脂製の配管を挿通させて配設する際に用いられる延焼防止技術に関し、より詳しくは、合成樹脂製の配管の更新を容易に行うことができるとともに、床スラブよりも下方に設けられた熱膨張性耐火材が火災発生時の熱により熱膨張することにより貫通孔を通して火炎や有害ガス等が上階側に流入することを防止する延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造に関する。
【0002】
なお、本発明が適用される配管は、その内部に水が流れる給水配管、その内部に排水が流れる排水配管、その内部に1本以上の電気ケーブルまたは通信ケーブルが設置されるケーブル保護管等であって、建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂製の配管であれば特に限定されるものではない。さらに、本発明が適用される配管の素材である合成樹脂の種類も特に限定されるものではなく、熱可塑性を備えた、たとえば、ポリエチレン、ポリブデン、ポリプロピレン(ここまでポリオレフィン系)、(硬質)ポリ塩化ビニル等が挙げられる。さらに、本発明が適用される配管構造においてこれらの合成樹脂管が互いに接続される接合部を備える場合における接合方法も特に限定されるものではなく、たとえば、袋ナットねじ込み接合、フランジ接合、ワンプッシュ差し込み接合、ユニオンアダプタ接合、接着接合、ゴム輪差込接合、ハウジング接合、電気融着接合、熱融着接合等が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
本発明が適用される配管が排水配管である場合を一例として背景技術について説明する。
たとえば、集合住宅の代表例であるマンションでは、床スラブが、下階で発生した火災がその上階に延焼しないように防火区画としての役割を担っている。上階から下階に向けて排水を流下させる排水配管は、各階において床スラブを貫通して配された排水管継手を立管により上下に連結して形成されている。このような排水配管においては、下階で生じた火災が床スラブを貫通する排水配管用の孔または排水配管内を経由して上階に延焼するのを防止する延焼防止装置が備えられる。
【0004】
たとえば、本願出願人により出願された特開2014-005689号公報(特許文献1)は、このような延焼防止装置を備えた排水配管構造を開示する。この特許文献1に開示された排水配管構造は、建築物に施工され高所から下に排水を流下させる排水配管構造であって、床スラブに貫通して設けられ下端接続部が挿し口形状の不燃性配管部材と、上端接続部が受け口形状であり前記不燃性配管部材の下端接続部に連結される可燃性配管部材と、不燃性材料で形成されて前記不燃性配管部材および前記可燃性配管部材の連結部分、ならびに前記連結部分の下方における前記可燃性配管部材の外周を覆う本体部を備え前記本体部と前記可燃性配管部材の外周との間に熱膨張性耐火材が配置された延焼防止装置と、を有し、前記不燃性配管部材の下部接続部の外周には凹部または凸部が形成され、前記延焼防止装置は前記凹部または前記凸部に係合することにより下方への移動が規制されることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に開示された排水配管構造においては、下端接続部が挿し口形状の不燃性配管部材が充填材(モルタル等)により床スラブに設けられた貫通孔に固着されている。このため、配管を更新することを考慮しない場合には大きな問題にはならないのであるが、配管の損傷または経年劣化による配管の老朽化に伴い配管を更新する場合に、貫通孔と不燃性配管部材との間に充填された充填材であるモルタルを破壊して配管を更新する必要がある点が好ましくない場合が想定される。また、この特許文献1に開示された排水配管構造においては、床スラブに設けられた貫通孔に固着される不燃性配管部材は、鋳鉄等の金属または樹脂層の外側をモルタル等の耐火層で覆った耐火二層管で形成されて耐火性を有する必要がある。このため、床スラブに設けられた貫通孔に挿通される配管が不燃性を備えなければならない点が好ましくない場合(たとえば、軽量安価な(耐火性を備えない)合成樹脂管を床スラブに設けられた貫通孔に挿通する場合)が想定される。このような場合に、床スラブに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管の外周に熱膨張性耐火材を設けて、熱膨張性耐火材とともに合成樹脂管を充填材(モルタル等)により床スラブに設けられた貫通孔に固着させる公知技術もあるが、これでは上述したように、配管の更新時にモルタルを破壊して配管を更新する必要がある点が好ましくない場合が想定される。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、配管の更新を容易に行うことができる、建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造は、以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係る延焼防止装置は、建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置であって、前記床スラブよりも下方において、前記合成樹脂管の外周に接するように設けられる熱膨張性耐火材と、前記熱膨張性耐火材の外周を拘束する不燃性の保持部材とを含み、前記保持部材は、前記貫通孔に固設された筒体に揺動自在に接続される接続部を含むことを特徴する。
【0009】
好ましくは、前記筒体は前記貫通孔に充填材により固設されたスリーブであって、前記スリーブの下端は前記床スラブ下面よりも下方に位置し、前記スリーブは前記下端に鍔を備え、前記接続部は、前記鍔に係止する係止爪を備えるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記保持部材は、前記熱膨張性耐火材の外周を覆う略半円筒形状の2つで一対で略半円の一方の端部どうしが蝶番で接続されたバンド部と、前記一方とは逆側の略半円の他方の端部において2つのバンド部を接合する接合部とを含み、前記係止爪を、前記略半円筒形状の上端に備えるように構成することができる。
【0010】
さらに好ましくは、前記保持部材は、前記熱膨張性耐火材の外周を周方向にN分割して覆うN個のバンド片を含み、前記N個で一対で略円筒形状に組み上がるバンド部と、前記N個のバンド片を接合する接合部とを含み、前記係止爪を、前記バンド片の上端に備えるように構成することができる。ここで、Nは2以上の整数である。
さらに好ましくは、前記保持部材は、複数の短冊形状で形成され、短冊形状の内周側により前記熱膨張性耐火材の外周を覆うバンド部と、前記バンド部の両端を接合する接合部とを含み、前記係止爪を、前記短冊形状の上端に備えるように構成することができる。
【0011】
さらに好ましくは、前記保持部材は、前記延焼防止装置よりも下方に設けられた管継手に揺動自在に接続される下方接続部をさらに含むように構成することができる。
また、本発明のさらに別の局面に係る配管構造は、上述したいずれかの延焼防止装置を用いた配管構造であることを特徴とする。
好ましくは、前記筒体は、前記貫通孔に充填材により固設されたスリーブであって、前記スリーブの外周面に凸部を備え、前記貫通孔において前記スリーブがずれることを防止するように構成することができる。
さらに好ましくは、前記凸部は、前記スリーブの上下方向の略中央部における外周面に備えるように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、配管の更新を容易に行うことができる、建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る延焼防止装置1100を用いた配管構造100についての(A)全体側面図(下方は断面図)、(B)
図1(A)における領域1Bの拡大図である。
【
図2】
図1に示した延焼防止装置1100を構成する保持部材1120についての(A)組み立て(合成樹脂管にセット)前の三面図、(B)組み立て手順を説明するための図、(C)組み立てられた状態の二面図である。
【
図3】
図2に示した保持部材1120とは異なる保持部材2120についての(A)組み立て(合成樹脂管にセット)前の三面図、(B)組み立て手順を説明するための図、(C)組み立てられた状態の二面図である。
【
図4】
図2に示した保持部材1120および
図3に示した保持部材2120とは異なる保持部材3120についての(A)組み立て(合成樹脂管にセット)前の側面図、(B)組み立て手順を説明するための図、(C)組み立てられた状態の上面図、(D)
図4(A)における矢示4D-4D断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係る延焼防止装置5100を用いた配管構造200についての(A)全体側面図(下方は断面図)、(B)
図5(A)における領域5Bの拡大図である。
【
図6】
図1および
図5に示した床スラブSの貫通孔に固設されるスリーブ1200の変形例であるスリーブ6200を用いた配管構造についての(A)全体側面図(下方は断面図)、(B)スリーブ6200の側面図(断面図)、(C)スリーブ6200の側面図(外形図)である。
【
図7】本発明の実施の形態に共通する配管構造における配管の施工手順(施工方法)および更新手順(更新方法)を説明するための図(その1:配管が撓む場合)である。
【
図8】本発明の実施の形態に共通する配管構造における配管の施工手順(施工方法)および更新手順(更新方法)を説明するための図(その2:配管が撓まない場合)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造として、第1の実施の形態について
図1~
図4を参照して、第2の実施の形態について
図5を参照して、これら2つの実施の形態に共通して適用される変形例(スリーブ6200)について
図6を参照して、本発明の実施の形態に共通する配管構造を実現する施工手順(施工方法)およびその配管構造における(床スラブの貫通孔に挿通された合成樹脂製の)配管を更新する更新手順(更新方法)を
図7~
図8を参照して、それぞれ順に説明する。これらの
図1~
図8において、同じ構成については同じ符号を付しておりその機能も同じであるために、繰り返して説明しない場合がある。
【0015】
なお、
図7~
図8に示す施工手順(施工方法)により、本発明に係る延焼防止装置を用いて床スラブの貫通孔に合成樹脂管を施工した構造が本発明に係る配管構造である。ここで、技術分野で上述したように、本発明が好適に適用される合成樹脂管は特に限定されるものではないが、
図7については撓む配管(たとえばポリオレフィン系の合成樹脂製)、
図8については撓まない配管(たとえば硬質塩化ビニル製)であって、これら以外の図における合成樹脂管は特に限定されるものではないが、撓む配管(たとえばポリオレフィン系の合成樹脂製配管)であるとして説明している。
【0016】
<第1の実施の形態>
図1~
図4を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る延焼防止装置1100およびその延焼防止装置1100を用いた配管構造100について説明する。
この配管構造100は、建築物の床スラブSに形成された貫通孔(モルタルMで充填される前の径を備えた孔)に合成樹脂管1500が挿通された構造を備える。そして、このような配管構造100において、この床スラブSに形成された貫通孔に挿通された合成樹脂管1500の延焼を防止するための延焼防止装置1100を備える。スラブSに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管1500と上階側の合成樹脂管1500および下階側
の合成樹脂管1500とは、ハウジング接合部1600により接続されている。ここでも、技術分野で上述したように、本発明が好適に適用される合成樹脂管の接合方法は特に限定されるものではないが、一例として本実施の形態においては、ハウジング接合(方法)により合成樹脂管1500どうしが接続されている。
【0017】
このハウジング接合のために合成樹脂管1500の両端にグルーブ溝1510(この部分については
図1と
図5とは同じ構造を備えるために
図5に詳細に示す)が設けられ、そのグルーブ溝1510に略中空半円筒形状の2個で一対の金属製または樹脂製のカップリング1610を係止させて、2個で一対のカップリング1610を締結部材1620により締結(ここではナット1624とカップリング1610の穴部1612に挿通されるボルト1622との組合せによる螺合を用いて締結)されている。なお、カップリング1610と合成樹脂管1500との間にはガスケット1630が設けられる。なお、ここではグルーブ溝1510を合成樹脂管1500の外周面を加工して設けているが、たとえば金属製の溝を備えた部品等で形成しても構わない。
【0018】
上述したように、合成樹脂管1500に撓む配管(たとえばポリオレフィン系の合成樹脂製の配管)を採用しているために、(後述する
図7に示すように)各階において1ヶ所のみの接合部で配管構造を実現することが可能である。これに対して、合成樹脂管1500に撓まない配管(たとえば硬質塩化ビニル製の配管)を採用すると、(後述する
図8に示すように)各階において少なくとも2ヶ所の接合部が必要な配管構造となる。
【0019】
スラブSに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管1500は、後述するスリーブ1200から空間SSを介して(離隔して)設けられる。すなわち、合成樹脂管1500の外周にモルタルMが当接していないために、(詳しくは後述するが)スラブSに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管の更新時にモルタルMを破壊する必要がない。また、このようにスラブSに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管1500がモルタルMで貫通孔に固着されておらず空間SSが存在するために、上階側に、合成樹脂管1500とスリーブ1200の内筒面との間に止水パッキン1800が設けられる。この止水パッキン1800は、たとえばゴム製で、上階からの水漏れ等がスリーブ1200の内筒面を通って下階に伝搬する、または、スリーブ1200の内筒面に水が溜まるのを防ぐ。なお、この止水パッキン1800は、下階の火災時において溶融等によって煙や有害なガスが発生しない素材が選定される。さらに、上階側の床面に床バンド1700で合成樹脂管1500が固定される。
【0020】
この延焼防止装置1100は、床スラブSよりも下方において、合成樹脂管1500の外周に接するように設けられる熱膨張性耐火材1110と、熱膨張性耐火材1110の外周を拘束する不燃性(たとえば金属製)の保持部材1120とを含み、保持部材1120は、貫通孔に固設された筒体(たとえば金属薄板を略中空円筒形状に加工)に揺動自在に接続される接続部を含むことを特徴とする。
【0021】
ここで、熱膨張性耐火材1110は、熱可塑性樹脂、膨張黒鉛、リン酸亜鉛含有の樹脂組成物、黒鉛含有のブチルゴム等であって、600℃、10分間加熱で膨張率8倍以上であることが好ましい。延焼防止装置1100が延焼防止機能を十分に発現させることができるように(合成樹脂管1500の口径等をも考慮して)熱膨張性耐火材1110の素材および量(形状、大きさ)等が決定される。
【0022】
ここで、好ましくは、この筒体は、貫通孔に充填材(モルタルM)により固設されたスリーブ1200であって、スリーブ1200の略中空円筒部分1210の下端は床スラブS下面よりも下方に位置し、このスリーブ1200はその下端に鍔1220を備える。そして、上述した接続部として、鍔1220に係止する係止爪1140を備えることを特徴する。ここで、鍔1220および係止爪1140は、(揺動自在に安定して接続され続けることが可能な範囲において)それぞれ円環として全円状に存在する必要はなく、円周の一部に部分的に存在しても構わない。
【0023】
なお、このスリーブ1200の外周面(モルタルMと当接する面)はモルタルMとの摩擦が高いように表面加工(梨地加工等の表面処理加工)されて、貫通孔においてスリーブ1200が上下方向(下方向だけではなく上方向も)に移動する(ずれる)ことを防止す
ることが好ましい。これは、
図5を参照して後述する変形例においても同じ理由であるが、スラブSに設けた貫通孔からスリーブ1200が下方へ落下する可能性、延焼防止装置1100が上方へせり上がってスリーブ1200を押し上げる可能性、この配管構造100の施工時および更新時に合成樹脂管1500をスリーブ1200に下階から上階へ挿通させるときにスリーブ1200の下側の端面(スリーブ1200の下端が備える鍔1220の端面)を合成樹脂管1500が突き上げてスリーブ1200を押し上げる可能性、があるため、これらの可能性を考慮して、スリーブ1200の上下方向の移動を拘束する必要があることが理由である。
【0024】
さらに好ましくは、(限定されるものではないが金属製であることにより)不燃性を備える保持部材1120は、
図2に示すように、熱膨張性耐火材1110の外周を覆う略半円筒形状の2つで一対で略半円の一方の端部どうしが蝶番1124で接続されたバンド部1122と、一方とは逆側の略半円の他方の端部において2つのバンド部1122を接合する接合部とを含み、上述した係止爪1140を、略半円筒形状の上端に備える。
【0025】
より具体的には、この接合部は、貫通穴1129を備えた下側接合部1128Dと、貫通穴1129およびねじ穴1130を備えた上側接合部1128Uとを含む。
図2(B)に示す白抜き矢示の方向に、蝶番1124側とは逆側(接合部側)のバンド部1122どうしを(所定の位置に熱膨張性耐火材1110が設けられた)合成樹脂管1500を覆うように互いに接近させて、下側接合部1128Dの貫通穴1129の位置と上側接合部1128Uの貫通穴1129の位置とを一致させて、下側から蝶ボルト1126を差し込んでねじ穴1130に螺合させることにより、
図2(C)に示すように組み立てられて一体化される。蝶ボルト1126を採用することにより、工具を必要としない点が好ましい。
【0026】
なお、本発明に係る延焼防止装置は熱膨張性耐火材と保持部材とを含む構成を備えるために、本実施の形態に係る延焼防止装置1100は、熱膨張性耐火材1110をセットした状態の保持部材1120を上述したように組み立てて合成樹脂管1500を覆うものである。しかしながら、保持部材1120とは別体の熱膨張性耐火材1110を合成樹脂管1500に設けておいて、熱膨張性耐火材1110が設けられた合成樹脂管1500を保持部材1120により覆うようにして延焼防止装置1100を設けることもできる。
【0027】
さらに好ましくは、保持部材1120に替えて、
図3に示す保持部材2120であっても構わない。この保持部材2120も(限定されるものではないが金属製であることにより)不燃性を備える。ここで、
図3にその一例を示す保持部材は、熱膨張性耐火材1110の外周を周方向にN分割(Nは2以上の整数)して覆うN個のバンド片を含み、N個で一対で略円筒形状に組み上がるバンド部と、N個のバンド片を接合する接合部とを含み、係止爪を、バンド片の上端に備えるものであって、
図3に示す場合にはN=2である。この保持部材2120は、
図3に示すように、熱膨張性耐火材1110の外周を覆う略半円筒形状の2つ(それぞれがバンド片)で一対のバンド部2122と、これら2つのバンド部2122を接合する接合部とを含み、上述した係止爪1140を、略半円筒形状(バンド片)の上端に備える。
【0028】
より具体的には、この保持部材2120は保持部材1120との対比において、保持部材1120が備える蝶番1124を、保持部材2120は備えない。このため、
図3(B)に示す白抜き矢示の方向に、対向させたバンド部2122どうしを(所定の位置に熱膨張性耐火材1110が設けられた)合成樹脂管1500を覆うように互いに接近させて、下側接合部1128Dの貫通穴1129の位置と上側接合部1128Uの貫通穴1129の位置とを一致させて、下側から蝶ボルト1126を差し込んでねじ穴1130に螺合させることにより、
図3(C)に示すように組み立てられて一体化される。
【0029】
さらに好ましくは、保持部材1120および保持部材2120に替えて、
図4に示す保持部材3120であっても構わない。この保持部材3120も(限定されるものではないが金属製であることにより)不燃性を備える。この保持部材3120は、
図4(A)~
図4(C)に示す短冊形状であって断面形状が
図4(D)に示す複数の金属板3124が互いの長辺を接続角度自在に連結されることにより形成されたバンド部とバンド部の両端を接合する接合部3124とを含み、上述した係止爪として、複数の金属板3124それぞ
れの上端に折り返し部3140を備える。なお、上述したように係止爪は円環として全円状に存在する必要はなく円周の一部に部分的に存在しても構わないために、この折り返し部3140は、複数の金属板3124の全部ではなく一部の上端に備えるものであっても構わない。
【0030】
より具体的には、この複数の金属板3124により形成されたバンド部の両端を
図4(B)に示す白抜き矢示の方向に、(所定の位置に熱膨張性耐火材1110が設けられた)合成樹脂管1500を覆うように互いに接近させて、バンド部の両端を接合する接合部3124により一体化させる。接合部3124としては、(限定されるものではないが金属製であって不燃性を備える)いわゆるパッチン錠(パチン錠)が挙げられる。
このように、本発明の第1の実施の形態に係る延焼防止装置1100およびその延焼防止装置1100を用いた配管構造100は、上述した構成を備える。このような構成による作用効果については、後述する。
【0031】
<第2の実施の形態>
次に、
図5を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る延焼防止装置5100およびその延焼防止装置5100を用いた配管構造200について説明する。上述した第1の実施の形態における延焼防止装置1100を構成する保持部材1120、保持部材2120および保持部材3120は、貫通孔に固設された筒体(スリーブ1200の鍔1220)に揺動自在に接続される接続部(係止爪1140または係止爪としての折り返し部3140)を延焼防止装置1100の上方にのみ備えていた。以下において説明する第2の実施の形態に係る延焼防止装置5100においては、その上方が筒体(スリーブ1200の鍔1220)に揺動自在に接続される接続部(係止爪1140)を備えることに加えて、下方に設けられた管継手(ここでは突起2510)に揺動自在に接続される下方接続部(ここでは下方係止爪5140)を備える点のみが異なる。それ以外は、第1の実施の形態と同じであって、同じ符号を付しておりその機能も同じであるために、繰り返して説明しない。
【0032】
本実施の形態に係る延焼防止装置5100を構成する保持部材5120は、延焼防止装置5100よりも下方に設けられた管継手(ここでは突起2510)に揺動自在に接続される下方接続部(ここでは下方係止爪5140)をさらに含むことを特徴する。
より具体的には、保持部材5120は、その上端に備える係止爪1140と上下対称にその下端に下方係止爪5140をさらに備える。この下方係止爪5140は、延焼防止装置5100よりも下方に設けられた突起2510に係止されることにより揺動自在に接続される。この突起2510は、延焼防止装置5100を構成する保持部材5120を揺動自在に係止するという機能としては、上述した鍔1220に対応する。
【0033】
ここで、本発明においては、合成樹脂管の接合方法は、特に限定されるものではないが、一例としてハウジング接合により合成樹脂管どうしが接続されるものとして説明している。このため、この突起2510は、限定されるものではないが、グルーブ溝1510の形成時に合成樹脂管2500に形成されることが好ましいために(管継手であるハウジング接合部1600の一部を構成することが好ましいために)、下方接続部である下方係止爪5140は管継手(であるハウジング接合部1600)に係止されるとして説明している。すなわち、本発明における延焼防止装置を構成する保持部材が備える下方接続部が揺動自在に接続される相手方は管継手(ハウジング接合による管継手に限定されない)であることになる。特に、管継手としてハウジング接合部1600を採用する場合であって、かつ、グルーブ溝1510を合成樹脂管1500の外周面を加工して設けるのではなく金属製の部品等で形成する場合には、その部品にグルーブ溝1510と突起2510とを合わせて形成することができる点が好ましい。
【0034】
このように、本発明の第2の実施の形態に係る延焼防止装置5100およびその延焼防止装置5100を用いた配管構造200は、上述した構成を備える。このような構成による作用効果については、後述する。なお、本実施の形態に係る延焼防止装置5100の保持部材5120は、第1の実施の形態において説明した延焼防止装置1100を構成する保持部材1120に下方係止爪5140をさらに含むように構成したものであるが、第1
の実施の形態において説明した保持部材2120または保持部材3120に、下方係止爪5140をさらに含むように構成したものであっても構わない。
【0035】
<2つの実施の形態に共通する変形例>
次に、
図6を参照して、本発明の第1の実施の形態および第2の実施の形態に共通して適用される変形例について説明する。本変形例は、上述した2つの実施の形態において説明したスリーブ1200とは形状が異なるスリーブ6200を用いる点のみが異なる。それ以外は、第1の実施の形態と同じであって、同じ符号を付しておりその機能も同じであるために、繰り返して説明しない。
【0036】
本変形例においては、上述したスリーブ1200に替えてスリーブ6200が採用される。このスリーブ6200である筒体は、貫通孔に充填材であるモルタルMより固設され、スリーブ6200における(略中空円筒部分6210の)外周面に凸部6212を備える。この凸部は、上述した理由で、貫通孔においてスリーブ6200が上下方向にずれることを好適に防止する。さらに好ましくは、この凸部6212は、スリーブ6200における(略中空円筒部分6210の)上下方向の略中央部における外周面に備えることを特徴する。
【0037】
この凸部6212により、スラブSに設けた貫通孔からスリーブ6200が下方へ落下する可能性、延焼防止装置が上方へせり上がってスリーブ6200を押し上げる可能性、この配管構造の施工時および更新時に合成樹脂管1500をスリーブ6200に下階から上階へ挿通させるときにスリーブ6200の下側の端面(スリーブ6200の下端が備える鍔1220の端面)を合成樹脂管1500が突き上げてスリーブ6200を押し上げる可能性、を好適に抑制することができる。
【0038】
<全ての実施の形態に共通する施工方法および更新方法>
次に、上述した構成を備える延焼防止装置を用いた配管構造を実現するための施工方法(施工手順)、および、その施工方法により実現された配管構造における配管の更新方法(更新状態)、について説明する。
以下においては、先に
図7を参照して配管が撓む場合(たとえばポリオレフィン系の合成樹脂製の合成樹脂管1500Aが採用された場合)の施工方法および更新方法を説明して、その後に、
図8を参照して配管が撓まない場合(たとえば硬質塩化ビニル製の合成樹脂管1500Bが採用された場合)の施工方法および更新方法を説明する。ここで、これらの(撓む)合成樹脂管1500Aおよび(撓まない)合成樹脂管1500B以外の
図7および
図8における符号は、
図1と同じである。このように
図1と同じ符号であるため、以下の説明においては、保持部材1120を用いていることになる。
【0039】
また、
図7(A)および
図8(A)に、それぞれ施工完了後の立面図を示すとともに、1ユニットの定義ならびに施工対象1ユニットおよび更新対象1ユニットについて示す。ここでは、各階において上下方向に配設された合成樹脂管に横枝管(合成樹脂管に横枝管接続部のみが設けられている場合を含む)が接続されているが、この横枝管の有無に関わらず、
図7においては各階において1ヶ所のみの接合部(継手による接合)で配管構造が実現され、
図8においては各階において2ヶ所の接合部(継手による接合)で配管構造が実現されている。施工面および更新面で重要であるのは、この横枝管を接続した状態では、スラブSに設けられた貫通孔を挿通させるように合成樹脂管を施工することができない点であって、この点を考慮して、横枝管の上下方向の位置を含めた1ユニット(下側の床スラブSと上側の床スラブSとの間は下から管継手、横枝管、延焼防止装置1100の順に備えた合成樹脂管で1ユニットが形成され、下から横枝管、管継手、延焼防止装置1100の順ではない)が設定されることが好ましい。
【0040】
・合成樹脂管1500A(撓む配管)を用いた施工方法
まず、
図7(B)に示すように、スラブSに設けられた貫通孔にスリーブ1200をモルタルMで固着させる。このとき、スラブSに設けられた貫通孔にスリーブ1200をセットして、上階からモルタルMをスリーブ1200と貫通孔との間に充填する。このように施工された後においては、スリーブ1200の略中空円筒部分1210の下端は床スラブS下面よりも下方に位置し、このスリーブ1200はその下端に鍔1220を備えるために、鍔1220が床スラブS下面よりも下方に位置している。
【0041】
次に、
図7(C)に示すように、施工対象の(横枝管が接続された)1ユニット分について、合成樹脂管1500Aの上端に接合部の損傷防止用部材1502(キャップ、緩衝材等)を設ける。この1ユニット分を合成樹脂管1500Aを撓ませて合成樹脂管1500Aを反らせて(斜めに傾けて)床スラブSに設けられた貫通孔(より正確には貫通孔にモルタルMで固着されたスリーブ1200)を通過させる。
次に、
図7(D)に示すように、下階の合成樹脂管1500Aと施工対象の合成樹脂管1500Aとを接続(継手接合)するとともに、施工対象の合成樹脂管1500Aの横枝管と施工対象階の既設の横枝管とを接続(継手接合)する。ここでの接合方法は、上述した通り、ハウジング接合に限定されるものではない。
【0042】
さらに、熱膨張性耐火材1110と保持部材1120とを含んで構成された延焼防止装置1100を、合成樹脂管1500Aを覆うように、所定の部位に設ける。このとき、床スラブS下面よりも下方に位置する(貫通孔に充填材Mにより固着された)スリーブ1200の下端に設けられた鍔1220に保持部材1120の上端に設けられた係止爪1140を係止させて、保持部材1120がスリーブ1200に揺動自在に接続する。さらに、
図2(B)に示す白抜き矢示の方向に、蝶番1124側とは逆側(接合部側)のバンド部1122どうしを(所定の位置に熱膨張性耐火材1110が設けられた)合成樹脂管1500を覆うように互いに接近させて、下側接合部1128Dの貫通穴1129の位置と上側接合部1128Uの貫通穴1129の位置とを一致させて、下側から蝶ボルト1126を差し込んでねじ穴1130に螺合させることにより、
図2(C)に示すように組み立てられて延焼防止装置1100を一体化されて、合成樹脂管1500Aに延焼防止装置1100がセットされる。
【0043】
次に、
図7(E)に示すように、上階において、合成樹脂管1500Aの上端の損傷防止用部材1502を取り外すとともに、合成樹脂管1500とスリーブ1200の内筒面との間に図示しない止水パッキン1800を取り付けて、床バンド1700で合成樹脂管1500Aを固定する。
以上の施工方法により、
図7(A)に示す配管構造が実現される。
【0044】
・合成樹脂管1500A(撓む配管)を用いた更新方法
次に、このようにして実現された配管構造における合成樹脂管1500Aの更新方法について説明する。
まず、
図7(F)に示すように、更新対象の合成樹脂管1500Aを更新対象階の上階の床で固定している床バンド1700を取り外すとともに、合成樹脂管1500Aとスリーブ1200の内筒面との間に取り付けられている止水パッキン1800を取り外す。このとき、合成樹脂管1500AがモルタルMで貫通孔に固着されておらず、かつ、合成樹脂管1500Aは空間SSを介してスリーブ1200とも離隔して存在することになる。このため、合成樹脂管1500Aの外周にモルタルMが当接していないために、この更新方法においては、スラブSに設けられた貫通孔に挿通された合成樹脂管1500Aの更新時にモルタルMを破壊する必要がない。
【0045】
次に、
図7(G)に示すように、上階の合成樹脂管1500Aおよび下階の合成樹脂管1500Aと更新対象の合成樹脂管1500Aとの接続を解除(継手により接合された状態を解除)するとともに、施工対象の合成樹脂管1500Aの横枝管と更新対象階の既設の横枝管とを接続を解除(継手により接合された状態を解除)する。さらに、施工対象の合成樹脂管1500Aから延焼防止装置1100を取り外す。上述した通り接合方法は限定されるものではないために接合解除方法も限定されるものではなく、取り外し不可能に(たとえば接着剤等により)接合されている場合においては合成樹脂管1500Aを切断することになる。一方、ハウジング接合を含めて取り外し可能に接合されている場合においては合成樹脂管1500Aを切断することなく、たとえばハウジング接合部1600の締結部材1620の締結を解除することにより、継手により接合された状態を容易に解除することができる点が好ましい。
【0046】
次に、
図7(H)に示すように、更新対象の(接合が解除された)1ユニット分を合成
樹脂管1500Aを撓ませて合成樹脂管1500Aを反らせて(斜めに傾けて)床スラブSに設けられた貫通孔(より正確には貫通孔にモルタルMで固着されたスリーブ1200)から抜き取る。このとき、スリーブ1200は、スラブSに設けられた貫通孔にモルタルMで固着させた状態を維持している。そして、更新のための新しい1ユニット分の合成樹脂管1500Aを準備して、
図7(C)~
図7(E)を参照して説明した施工方法を用いて、新しい1ユニット分の合成樹脂管1500Aを施工することにより、床スラブSのモルタルMを破壊することなく、更新対象階の合成樹脂管1500Aを更新することができる。
【0047】
・合成樹脂管1500B(撓まない配管)を用いた施工方法
次に、ポリオレフィン系の合成樹脂製の合成樹脂管1500Aではなく硬質塩化ビニル製の合成樹脂管1500Bが採用された場合の、施工方法および更新方法を
図8を参照して説明する。なお、以下において説明する合成樹脂管1500Bが採用された場合の施工方法および更新方法については、合成樹脂管1500Aが採用された場合の上述した施工方法および更新方法と異なる部分のみについて説明する。具体的には、
図8(C)および
図8(H)を参照して説明する。なお、1ユニットの定義自体ならびに施工対象および更新対象の1ユニットについて、
図8に示す1ユニットは
図7に示す1ユニットよりも短く、
図7に示す1ユニットが1階層を超えるのに対して
図8に示す1ユニットは1階層内に限定される。
【0048】
図8(C)に示すように、下階の合成樹脂管1500Bと施工対象の合成樹脂管1500Bとを接続(継手接合)可能なように設置した後に、上階の合成樹脂管1500Bを床スラブSに設けられた貫通孔(より正確には貫通孔にモルタルMで固着されたスリーブ1200)に挿通させて、上階の合成樹脂管1500Bと施工対象の合成樹脂管1500Bとを接続(継手接合)可能なように設置する(下から上へ順番に
図8(D)で接続(継手接合)可能なように設置する)。
【0049】
・合成樹脂管1500B(撓まない配管)を用いた更新方法
図8(H)に示すように、更新対象の(接合が解除されるとともに延焼防止装置1100が取り外された)1ユニット分を合成樹脂管1500Bを側方へ移動させる。そして、その後に、上階の合成樹脂管1500Bを床スラブSに設けられた貫通孔(より正確には貫通孔にモルタルMで固着されたスリーブ1200)から抜き取る。このとき、スリーブ1200は、スラブSに設けられた貫通孔にモルタルMで固着させた状態を維持している。そして、更新のための新しい1ユニット分の合成樹脂管1500Bを準備して、
図8(C)および
図7(D)~
図7(E)を参照して説明した施工方法を用いて、新しい1ユニット分の合成樹脂管1500Bを施工することにより、床スラブSのモルタルMを破壊することなく、更新対象階の合成樹脂管1500Bを更新することができる。
【0050】
<上述した実施の形態に係る延焼防止装置および配管構造の作用効果>
上述した構成を備えた延焼防止装置および配管構造によると、以下の作用効果を奏する。
(1)合成樹脂管に異常が発生して更新が必要になったり異常がなくとも経年劣化に伴う更新が必要になったりした場合であっても、床スラブSに設けられた貫通孔を埋設したモルタルMを破壊することなく、床スラブSに設けられた貫通孔を挿通する合成樹脂管を繰り返し交換(更新)可能である。
(2)延焼防止装置は、保持部材と熱膨張性耐火材とが一体的に構成されて、スリーブの鍔部に揺動自在にその上方部(係止爪1140)が係止されたり、管継手に揺動自在にその下方部(下方係止爪5140)が係止されるために、取り付け高さの寸法測定等の事前の確認が不要となり、個人差なく確実に所定の位置に取り付けすることが可能である。
(3)延焼防止装置は、その上方がスリーブと揺動自在に、これに加えてその下方が管継手と揺動可能に支持されているために、延焼防止装置は、熱伸縮に追随するとともに、地震等の揺れ等に追随することができて、合成樹脂管への応力集中を防ぐとともに、防火区画領域を形成することができる。
(4)延焼防止装置は、その上方がスリーブと揺動自在に、これに加えてその下方が管継
手と揺動可能に支持されているために(揺動自在に軸方向の位置が保持されるために)、合成樹脂管の熱伸縮による落ち込み、または、合成樹脂管の自重による落ち込み、を確実に防止することができる。
【0051】
以上のようにして、本実施の形態に係る延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造によると、配管の更新を容易に行うことができる、建築物の床スラブに形成された貫通孔に挿通される合成樹脂管の延焼防止装置およびその延焼防止装置を用いた配管構造を提供することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、防火区画領域にある床スラブに形成された貫通孔に可燃性の合成樹脂製の配管を挿通させて配設する際に用いられる延焼防止技術に好ましく、合成樹脂製の配管の更新を容易に行うことができるとともに、床スラブよりも下方に設けられた熱膨張性耐火材が火災発生時の熱により熱膨張することにより貫通孔を通して火炎や有害ガス等が上階側に流入することを防止することのできる点で特に好ましい。
【符号の説明】
【0053】
100、200 配管構造
1100、5100 延焼防止装置
1110 熱膨張性耐火材
1120、2120、3120、5120 保持部材
1500 合成樹脂管
1600 ハウジング接合部
1700 床バンド
1800 止水パッキン