(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】帽子
(51)【国際特許分類】
A42B 1/22 20060101AFI20250225BHJP
A42B 1/019 20210101ALI20250225BHJP
【FI】
A42B1/22 A
A42B1/019 D
(21)【出願番号】P 2021179091
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2024-04-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.令和3年5月18日、頒布 2.令和3年8月10日、株式会社454(東京都墨田区東駒形1‐5‐2)、公開
(73)【特許権者】
【識別番号】521339795
【氏名又は名称】後谷 今日子
(74)【代理人】
【識別番号】100127225
【氏名又は名称】江波戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】後谷 今日子
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0191938(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 1/00-1/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帽子等の内周のスベリ相当位置に、所定の厚さの弾性体部材を付着させた帽子等におい
て、前記弾性体部材を逢着糸で押さえつけて凹部を形成することによって、着帽者の頭部
に当接する面に凹凸形状を設けたことを特徴とする帽子等。
【請求項2】
帽子等の内周のスベリ相当位置に、所定の厚さの弾性体部材を付着させた帽子等におい
て、前記弾性体部材に横方向の切れ目を入れ、その切れ目の片側を逢着糸で押さえつける
ことによって、着帽者の頭部に当接する面に凹凸形状を設けたことを特徴とする帽子等。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着帽者の頭部にフィットし、つばやブリムに風を受けても脱げにくい帽子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
帽子にはつばのないものもあるが、例えば、全周につばないしブリムを有する帽子(「ハット」)、つば付き帽子ないし野球帽(キャップ)、クラウンのないキャップに相当するサンバイザー等、強風時や運動時につばに風を受けて脱げやすいもの(以下「帽子等」という。)が主流である。
【0003】
屋外での作業やスポーツを行う際に、着帽した帽子のつばやブリムに風を受けることで、帽子が脱げてしまうことを防ぐために様々な方法や手段が用いられている。
顎紐を用いる、髪にクリップ止めする等の手段も考案されているが、このうち、紐やピンを用いずに帽子等を脱げにくくする手段として、帽子等のスベリ部分と頭部表面との摩擦力を大きくする方法が多く考案されている。
【0004】
頭囲部分の周囲長を調節するための面ファスナーやアジャスター等を備え、着帽者の頭囲部分を締め付けて摩擦力を大きくすることによって脱げにくくする帽子が広く流通している。そうしたアジャスター等は、前頭部にツバ部を有するキャップタイプの帽子に用いられることが多い。しかし、生地に伸縮性がない場合には、着用時間が長くなるにしたがって緩みを生じ、脱げやすくなる。また、きつく締め付ければ脱げにくくなるが、締め付け過ぎは着用者に苦痛や違和感を生じる。
【0005】
小学校体育授業で児童が着用する帽子では、ゴム紐や、ゴムを織り込んだ伸縮性のある帯状ないしベルト状の弾性部材を頭部周囲に内挿したものが用いられているが、クラウン部に皺が寄る等の理由から大人が着用する帽子では採用例は多くない。
スベリ部分を伸縮性のある生地で構成し、頭囲部分の周囲長より少々小さめに成型することで、頭部にフィットしかつ脱げにくくした帽子(特許文献2)が考案されており、また、キャップのクラウン及びスベリ部分を伸縮性のある生地で構成し、頭囲部分の周囲長より少々小さめに成型することで、頭部にフィットしかつ脱げにくくした帽子は広く流通している。
これら、スベリ部分を伸縮性のある生地で構成した場合等には、帽子を被った際にスベリ部分が引き延ばされ、頭囲全周に渡って、スベリの面内にほぼ均等な引張力を生じさせている点で共通する。
【0006】
一般に、スベリ部分は汗とりを目的として通常の布地や天然若しくは合成の皮革で構成されることが多いが、通気性を持たせるようにしたもの(特許文献1、4)や滑り止め効果を高める工夫(特許文献3)がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-137315号公報
【文献】特開2003-129322号公報
【文献】特開2013-7144号公報
【文献】実用新案登録第3183608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、帽子が頭部にフィットし、脱げにくくするためには、頭囲部分全周を強く締め付けなければならない点である。
また、つばに風を受けて脱げやすい帽子について、現在流通している帽子の多くは着帽者の額に当接する前頭部と、髪の毛に当接する側頭部・後頭部では脱げ易さ・脱げにくさが異なるにもかかわらず、頭囲部分全周が同様に構成されているため、頭囲部分全周を同様に強く締め付けなければならない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、帽子のスベリ部分に、所定の厚みを持たせた弾性体部材を付着することを最も主要な特徴とする。
【0010】
帽子等の内周のスベリを配した部分の面積全部に弾性体部材を付着させる。あるいは、その面積のうち、部分的な一個所または複数個所に、所定の厚さの弾性体部材を付着させて、帽子等を構成するものである。
【0011】
弾性体部材は、帽子等を人体頭部に装着した際に、弾性体部材が厚さ方向に圧縮されるように構成する。
「厚さ方向」とは、人体表面に垂直な方向、あるいは、人体とキャップ等との接触面に垂直な方向、又はスベリ相当位置を帯状曲面と見た場合に、その曲面と垂直な方向という意味である。
【0012】
厚さ方向に圧縮された弾性体部材はフックの法則に従って復元力を生じ、人体表面に垂直な押圧力を発生させる。弾性体部材と人体表面の接触面の各箇所の摩擦係数に応じ、その箇所に生じた押圧力に比例する大きさの摩擦力が生じる。この摩擦力が大きければ大きいほど、帽子等は脱げにくくなる。
【0013】
従来技術に見られるように、スベリ部分を伸縮性のある生地・バンド等で構成した場合には、その生地・バンド等に生じる応力は引張力であり、また、その引張力・復元力の方向は生地・バンド等の面内方向かつ頭部周囲方向である。つまり、本願発明は、弾性体を利用する点においては従来技術と同じであるが、弾性体に生じる応力の正負・方向は異なったものである。
【0014】
また、帽子等のスベリ相当位置部分と頭部表面との摩擦力を大きくし帽子等を脱げにくくするものである点は従来技術同様である。
しかし、本願発明は、スベリそのものを特定の材質・形状にしようとするものではなく、スベリとは別個・別体の弾性体部材をスベリに付着するものであるから、弾性体部材を付着する範囲はスベリのある範囲に限定されるものではない。
【0015】
スベリよりも多少広い範囲を覆うような大きさの弾性体部材を付着させることも考えられる。逆に、スベリよりも狭い必要範囲を覆うものでも良いし、複数の弾性体部材をスベリが設けられていてしかるべき部位に配しても良い。
そこで、通常の帽子ならばスベリがあるであろう部分・範囲を想定し、帽子内部の頭周囲帯状部分を「スベリ相当位置」と表した。
【0016】
弾性体部材としては、摩擦係数の大きなクロロプレンゴム素材を採用する。ゴム系素材は、通常の布生地よりも縦弾性係数が小さく、摩擦係数が大きいため、布生地よりも伸縮性に富み、額や髪の毛との接触面に、より大きな摩擦力を生じる。
例えば、ウェットスーツ生地に用いられる、内部に気泡を含むクロロプレンゴムを弾性体部材は、入手性も良く、弾性体部材の素材として適している。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の弾性体部材においては、主に弾性体生地の厚さ方向の圧縮によって復元力を生じるものであるため、弾性体生地の厚さを異なったものとしたり、変化させたりすることにより、スベリ部分及び弾性体生地と、着帽者の額や頭皮または髪の毛との接触部における面押圧をスベリ部分の各箇所で異なるものとすることができるため、帽子の種類やスベリ部分の箇所に応じて適当な大きさの面押圧及び摩擦力を発生させることができるという利点がある。
【0018】
弾性体部材としてウェットスーツ生地等のゴム系素材を用いると肌の馴染みもよく、従来の帽子スベリの布生地よりも摩擦係数を大きくできる。弾性材部材の大きさ、形状、配置をデザインすることによって、適度な大きさの摩擦力分布とすることが容易であるという利点がある。
【0019】
弾性材部材の大きさ、形状、配置をデザインすることによって、適度な通気性を確保することが可能となるという利点がある。複数の弾性体部材の間の空隙や、弾性体部材の厚さの薄い個所を通気性の高い個所としてデザインすることができるという利点がある。
【0020】
従来技術に見られるような引張力を利用する薄手の伸縮性生地の場合、弾性体としてのゴムバンド等は長時間使用するうちに伸びてしまって最終的には弾性を失ってしまう。これに対し、厚さ方向に圧縮させる本願発明の弾性体部材も長時間の使用によって変形し、弾性を失ってゆくものと考えられるが、比較的厚さのある部材を利用するため、長時間経過後であっても、引張力を利用する部材に比べると脱げにくさの低下率は小さいという利点がある。
【0021】
本願発明は、キャップ、ハット、サンバイザー、ヘルメット、ヘッドランプなど、頭部に装着する様々な帽子や器具にも応用することが可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の帽子の説明図であり、底面を含む斜視図である。
【
図2】本発明の帽子の一実施例を示した底面図である。(実施例1)
【
図3】
図2に示した実施例の右側面断面図である。(実施例1)
【
図4】本発明の帽子の一実施例を示した底面図である。(実施例2)
【
図5】本発明の帽子の一実施例を示した底面を含む斜視図である。(実施例3)
【
図6】本発明の帽子の一実施例を示した断面斜視図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を
図1に基づいて説明する。
【0024】
図1は厚みのある生地状の弾性体部材5を、スベリ3が着帽者の額部分に当接する位置に付着した帽子を斜視図として図示したものである。弾性体部材5は、主にスベリ3に付着させたものとして示してある。
弾性体部材5はスベリ3より広い幅で、厚みのある長方形生地状のものとして図示しており、帽子に対して左右対称に配置されている。弾性体部材5を付着させていないスベリ3部分は、通常の帽子と同様に内面に現れている。
【0025】
弾性体部材5としては、通常の布生地よりも縦弾性係数が小さく、摩擦係数が大きい素材、すなわち、布生地よりも伸縮性に富み、額や髪の毛との接触面に、より大きな摩擦力を生じる弾性体素材を用いる。
具体的には、例えば、内部に気泡を含むクロロプレンゴム製の生地であるウェットスーツ生地を弾性体部材として採用することも可能である。そこで、
図1においては、着帽者の額部分を覆うに十分な程度の大きさに裁断したウェットスーツ生地を弾性体5としてスベリ3に付着させたものを図示した。
【0026】
弾性体部材5は、厚さ方向の圧縮変形によって生じる復元力を利用する物であるから、十分な復元力を発揮できるよう、十分な厚さが必要であるが、その形状は問題ではない。他方、生地状素材であれば容易に裁断して成形することができるが、通常の帽子素材の布生地よりも厚いものである必要がある。
厚すぎると着帽・脱帽が行いづらくなるため、着脱に支障なくかつ十分な圧縮復元力を発生できるように、弾性体部材5の厚さとして3mm~8mmの厚さが想定される。そのため、
図1においては、厚さ5mmのウェットスーツ生地を裁断したものを示した。
【0027】
ただし、弾性体部材の厚さは一定である必要はなく、特定箇所で摩擦力を大きくしたければその箇所だけ厚くするなど、部分的に厚さを変えることが可能である。
また、頭部形状や髪の毛の有無に応じて、断面形状すなわち厚さの分布を、縦方向にも横方向にも、連続的に変化するものとしてもよい。弾性体部材の各箇所で厚さの異なるような、2次元的な厚さ分布を有した弾性体部材とすることも考えられる。
【0028】
弾性体部材5は、帽子等の内周のスベリ相当位置の全部を被覆するように配置しても良いが、必ずしもそうする必要はない。すなわち、通常の帽子のスベリを帯状の曲面と見た場合に、その帯状の曲面と全く同じ寸法とする必要はない。
また、そのスベリ相当位置のすべてを覆うような大きさとする必要はなく、帽子等が脱げないように摩擦力を発生させることができる位置に配置すればよく、
図1に示すように、弾性体部材5を付着させていないスベリ3がそのまま表面に現れる部分が生じてもよい。
【0029】
また、弾性体部材を一つの部材とする必要もなく、複数の弾性体部材を組み合わせてスベリ相当位置の必要部分に配置することができるものである。また、複数の弾性体部材を用いる場合には、それぞれの弾性体部材の大きさや形状を同一とする必要もない。
【0030】
弾性体部材をスベリないし帽子等内周に付着する方法としては、接着剤による接着や、糸で縫いつける逢着、さらにはそれら複数手段の組み合わせによる方法が可能である。
逢着による場合には、逢着糸で押さえつけることによって弾性体部材を圧縮された状態
とすることが可能であり、その結果、着帽者の頭部に当接する弾性体部材の内側表面形状に凹凸変化を与えることもできる。
【実施例1】
【0031】
図2は本発明の1実施例の底面図であって、
図3はその右側面の断面図である。他の図では省略したが、
図2においては頭囲長を調節するためのアジャスターを6として図示してある。
【0032】
本実施例は、帽子内面の頭囲内周の前半分に、弾性体部材51として縦約50mm、横約300mm、厚さ5mmのウェットスーツ生地を接着・逢着したものである。弾性体部材51の縦方向長さは、スベリ3より少々長く(高く)なっている。
【0033】
帽子内面の頭囲内周の半分に弾性体部材を設けたのは、弾性体部材を頭囲内周の全部に弾性体部材を設けると、帽子を被りづらくなるからである。
頭囲内周の前半分としたのは、弾性体部材51が着帽者の額部分に当接するようにしたものである。つば2に風を受けて帽子が脱げるのを防ぐには、帽子が着帽者の額に接する部分の摩擦力を大きくするのが効果的である。
【実施例2】
【0034】
図4は本発明の1実施例の底面側斜視図である。着帽者の額部分に当接する弾性体部材521と、やや側頭部当接する弾性体部材522、523とを別体としたものである。弾性体部材522、523は帽子の左右対称位置に設けてあり、
図4においては、弾性体部材521より厚さの薄い弾性体部材として示してある。
【0035】
帽子を脱げにくくするのに特に効果的と思われる額部分の弾性体部材521を多少厚めの部材としたものである。
また、弾性体部材523と、やや側頭部当接する弾性体部材523、524との間には弾性体部材を付着させていない部分があるため、この空隙部分の存在によって通気性が向上する。
【0036】
本実施例のように、弾性体部材を複数用いてしてスベリ相当位置に配置することが可能
であり、それらの厚さを同じものとする必要もない。
複数の弾性体部材の間の空間は、通気性を確保したり、帽子の折り畳みの便を図る意図でデザインしたりすることが可能である。
【実施例3】
【0037】
図5は実施例2と実質同様であるが、実施例2で別体とした弾性体部材521~523を、一体としたものである。
実施例2の521及び522は、本実施例3の弾性体部材部分531、533に相当するが、より厚さの薄い弾性体部材部分532でつながって一体となっている。弾性体部材の全部が帽子の左右対称位置に設けてあるのは同様である。
【0038】
本実施例は、弾性体部材を、各部分で厚さが異なるものとすることが可能であることを示すものでる。さらに、厚さの変化は段階的である必要もなく、連続的に変化するものであってもよい。
【実施例4】
【0039】
図6は
図1の弾性体部材5を、縦方向の厚さが変化する弾性体部材541として、断面図で示したものである。
【0040】
弾性体部材541が着帽者の額に当接する面に山形の凹凸形状を設けたものである。弾性体部材541の縦断面に表れるように、着帽し易さのため、帽子下端の弾性体部材の厚さが小さくなる形状としてみたものである。この山型の凹凸形状は、着帽者額に当接する部分の通気や汗の処理にも資するようデザインすることができる。
弾性体部材が着帽者頭部に接する面の形状は、図示した形状に限定されるものではなく、任意の立体的な形状をデザインすることが可能である。
【0041】
弾性体部材の厚さの大きな個所では弾性体が圧縮される割合も大きく、より大きな摩擦力を生じるが、弾性体部材の断面形状は本実施例に制限されるものではない。
本実施例のように、弾性体部材の縦方向に厚さを変化させるだけではなく、横方向に厚さを変化させたりスリットや溝を設けるデザインの弾性体部材を用いることにより、摩擦力を部分ごとに調節したり、通気性や汗の排出性を調整したりすることも考えられる。
【0042】
なお、弾性体部材541として図示したような立体的な形状は、そうした形状の部材を誂えるのが簡便であるが、例えばウェットスーツ生地を用いる場合には、元の生地は厚みのある平板に近いものであっても、逢着糸で押さえつければその部分に凹部を形成することができる。
ウェットスーツ生地に横方向の切れ目を入れ、その切れ目の片側を逢着糸で押さえつければ、図示した凹凸の波型断面に近い形状を容易に形成できるものである。また、ウェットスーツ生地を逢着糸で押さえつける場合に、連続的に逢着するのではなく、断続的な逢着を行えば、横方向の凹凸形状を生じさせることもできる。
【符号の説明】
【0043】
1 クラウン
2 つば(ブリム又はバイザー)
3 スベリ
4 天ボタン
5 弾性体部材
6 アジャスター