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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】ポリアミド水性分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20250225BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20250225BHJP
   C09D 177/00 20060101ALI20250225BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250225BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250225BHJP
   C09J 177/00 20060101ALI20250225BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250225BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L71/02
C09D177/00
C09D7/63
C09D5/02
C09J177/00
C09J11/08
C09J5/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021565568
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2020046467
(87)【国際公開番号】W WO2021125122
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019228628
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水橋 俊成
(72)【発明者】
【氏名】水川 純一
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-144141(JP,A)
【文献】特開2012-233082(JP,A)
【文献】特開2017-114942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体中に分散したポリアミドと、融点が25℃以上であるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物とを含む、ポリアミド水性分散液。
【請求項2】
ポリアミドが、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、6/66/610/11/12共重合ナイロン、ダイマー酸系ポリアミド、ナイロン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリアミド水性分散液。
【請求項3】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が、数平均分子量が5000~25000で、25℃における水への溶解性が25質量%以上のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である、請求項1又は2に記載のポリアミド水性分散液。
【請求項4】
ポリアミド100質量部に対して、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が1~20質量部含まれる、請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
【請求項5】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が、ポリエチレンイミンにアルキレンオキシドを付加重合した構造を有するポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である、請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
【請求項6】
ポリアミドの平均粒子径が、1.0μm以下である、請求項1~5のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
【請求項7】
pHを6.5まで低下させたときに、粒子径が2μm以上のポリアミド量が全ポリアミド量の15体積%以下である、請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリアミド水性分散液を含む塗工剤。
【請求項9】
請求項8に記載の塗工剤を用いて加工された成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリアミド水性分散液等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドの水性分散液は、基材に対してポリアミドのコーティング塗膜を形成することにより、耐溶剤性、耐薬品性、耐磨耗性、気体遮断性、接着性等を付与することができることから、水性インキ、紙処理剤、バインダー、潤滑剤、鋼板表面処理剤、表面改質剤、芯地接着剤等のホットメルト接着剤等に広く用いられている。
【0003】
とりわけ、ポリアミドの水性分散液は、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした複合材料において、マトリックス樹脂との密着性を高める目的で用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-105402号公報
【文献】特開2017-114942号公報
【文献】国際公開第2014/136888号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリアミド水性分散液は、アニオン性(例えばpH9~10程度)の水性分散液であり、例えば酸性物質を添加するなどして、水性分散液のpHが低くなると、ポリアミドの凝集物が生成するため、使用できるpH範囲が限定されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリアミドに加え、特定のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物をも含有するポリアミド水性分散液であれば、pHが中性の領域であってもポリアミド凝集物生成が抑制される可能性を見出し、さらに改良を重ねた。得られた知見を本明細書に開示する。
【0007】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミドと、融点が25℃以上であるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物とを含む、ポリアミド水性分散液。
項2.
ポリアミドが、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、6/66/610/11/12共重合ナイロン、ダイマー酸系ポリアミド、ナイロン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載のポリアミド水性分散液。
項3.
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が、数平均分子量が5000~25000で、25℃における水への溶解性が25質量%以上のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である、項1又は2に記載のポリアミド水性分散液。
項4.
ポリアミド100質量部に対して、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が1~20質量部含まれる、項1~3のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
項5.
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が、ポリエチレンイミンにアルキレンオキシドを付加重合した構造を有するポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である、項1~4のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
項6.
ポリアミドの体積平均粒子径が、1μm以下である、項1~5のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
項7.
pHを6.5まで低下させたときに、粒子径が2μm以上のポリアミド量が全ポリアミド量の15体積%以下である、項1~6のいずれかに記載のポリアミド水性分散液。
項8.
項1~7のいずれかに記載のポリアミド水性分散液を含む塗工剤。
項9.
項8に記載の塗工剤を用いて加工された成型体。
【発明の効果】
【0008】
pHが中性(例えば約7)の領域であってもポリアミド凝集物生成が抑制されるポリアミド水性分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、特定のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を含むポリアミド水性分散液や、当該ポリアミド水性分散液を含む塗工剤等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本開示に包含されるポリアミド水性分散液は、水性媒体と、前記水性媒体中に分散されたポリアミドと、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物とを含む。なお、当該ポリアミド水性分散液を「本開示のポリアミド水性分散液」ということがある。
【0011】
水性媒体としては、水が好ましく、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水および純水が好ましい。また、水性媒体としては、必要に応じて、水にpH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等が適宜添加されたものであってもよい。
【0012】
ポリアミドとしては、公知のもの、又は公知の方法で製造されたものを用いることができる。市販されているものを用いてもよい。
【0013】
より具体的には、例えば、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω-アミノ-ω’カルボン酸の重縮合、又は環状ラクタムの開環重合、等の方法で製造されたポリアミドが挙げられる。つまり、ジアミンとジカルボン酸とが重縮合したポリアミド、ω-アミノ-ω’カルボン酸が重縮合したポリアミド、環状ラクタムが開環重合したポリアミド、等が挙げられる。ここでの重縮合または開環重合の際に、重合調節剤として、ジカルボン酸またはモノカルボン酸を用いることができる。
【0014】
なお、ジアミンとジカルボン酸とが重縮合したポリアミドは、換言すればジアミンとジカルボン酸をモノマー構造単位とするポリアミドであり、ω-アミノ-ω’カルボン酸が重縮合したポリアミドは、換言すればω-アミノ-ω’カルボン酸をモノマー構造単位とするポリアミドであり、環状ラクタムが開環重合したポリアミドは、換言すれば環状ラクタムをモノマー構造単位とするポリアミドである。
【0015】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0016】
ジカルボン酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸(リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪酸より合成される炭素数36の不飽和ジカルボン酸)等が挙げられる。
【0017】
ω-アミノ-ω’カルボン酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0018】
環状ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタムおよびω-ラウリルラクタム等が挙げられる。
【0019】
前記重合調節剤として用いられるジカルボン酸としては、前記のポリアミドの製造に用いられるジカルボン酸と同様であり、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、フマル酸、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられる。また、モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸等が挙げられる。
【0020】
本発明においては、ポリアミドの中でも、特に、-[NH(CHCO]-、-[NH(CHNHCO(CHCO]-、-[NH(CHNHCO(CHCO]-、-[NH(CH10CO]-、-[NH(CH11CO]-、および-[NH(CHNHCO-D-CO]-(式中Dは炭素数34の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選択される少なくとも1種又は2種以上を構造単位とするポリアミドが、好ましく用いられる。
【0021】
かかるポリアミドの例としては、ナイロンが挙げられ、具体的には、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、又は6/66/610/11/12共重合ナイロン等が例示される。なお、ここでの「/」は各ナイロンの共重合体であることを示すため用いた記号である。例えば、6/66共重合ナイロンは、6-ナイロンと66-ナイロンの共重合ナイロンを表す。
【0022】
またさらに、用い得るポリアミドの例として、ダイマー酸系ポリアミドや、ポリアミドエラストマーも例示される。ポリアミドエラストマーとしては、具体的には、ナイロンとポリエステルとの共重合体、又はナイロンとポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体である、ポリアミドエラストマーが例示される。当該ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等が例示される。また、当該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示される。
【0023】
ポリアミドは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ポリアミドエラストマーは、特に限定されるものではないが、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを含んでなるブロック共重合体が好ましい。特に、ポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造を有するブロック共重合体が好ましく、なかでもポリアミド及びポリエーテルが共重合した構造からなるブロック共重合体が好ましい。ポリエーテルブロックの構成成分としては、例えば、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物並びにポリエーテルジアミン等のジアミン化合物等を挙げることができる。これらの構成成分は、2種以上のものが用いられてもよい。このようなポリアミドエラストマーとしては、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとの結合部の分子構造、すなわち結合形態が異なる数種類のもの、例えば、「(ポリアミドブロック)-CO-NH-(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルブロックアミド共重合体、「(ポリアミドブロック)-CO-O-(ポリエーテルブロック)」の結合形態を有するポリエーテルエステルブロックアミド共重合体等を挙げることができる。
【0024】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物としては、例えばアミノ化合物中の1~3個の活性水素に酸化アルキレンを付加させた構造を有するものが好ましい。 具体的には、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミンなどのアミンに、アルキレンオキシドを付加重合した構造を有するものが好ましく、特に酸化エチレン/酸化プロピレンをブロック又はランダムで付加重合させたものがより好ましい。なお、ポリエチレンイミンは、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0025】
かかるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物としては、特に限定はされないが、特にポリエチレンイミンにアルキレンオキシド成分として、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドをブロックで付加した構造を有するポリエチレンイミンアルキレンオキシド付加物が好適に用いられる。
【0026】
また、ポリエチレンイミンアルキレンオキシド付加物としては、下記式(1):
【0027】
【化1】
【0028】
(式中、AOはアルキレンオキシドを示し、nは整数を示す。)で表される繰り返し単位を含むものも好ましく挙げられる。ここでのAO(アルキレンオキシド)は、例えば-CHCHO-、-CHCH(CH)O-、あるいはこれらのブロック又はランダム共重合体が好ましく挙げられる。
【0029】
本開示のポリアミド水性分散液に用いるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物は、融点が25℃以上であり、好ましくは25~100℃である。当該範囲の上限又は下限は例えば26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99℃であってもよい。当該範囲は、例えば、より好ましくは30~80℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0030】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の数平均分子量は、好ましくは 5000~25000である。当該範囲の上限又は下限は、例えば6000、7000、8000、9000、10000、11000、12000、13000、14000、15000、16000、17000、18000、19000、20000、21000、22000、23000、又は24000であってもよい。当該範囲は、例えば、より好ましくは10000~20000である。数平均分子量が5000以上であることにより、高分子型非イオン性界面活性剤として粒子の周囲で保護コロイド的により好ましく働き、水性分散体の安定化に好ましく寄与し得る。また、数平均分子量が25000以下であることにより、粒子の安定化に寄与するだけでなく、水性分散体の粘度が高くなりすぎることがなく、より実用的な好ましい粘度となり得る。
【0031】
なお、ここでの数平均分子量の値は、次の記載の測定方法により求められる値である。数平均分子量測定方法:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を濃度0.2質量%で含むテトラヒドロフラン液を調整し、高速液体クロマトグラフを用いて測定する。そして、分子量が既知の分子量マーカー(ポリスチレン)を同一条件で測定し、較正曲線を作成して、数平均分子量(Mn)を算出する。なお測定条件は以下の通りとする。
【0032】
測定機 :GPC-101(Shodex)
カラム :東ソー株式会社製 TSK GEL Multipore HZ-N
カラム温度:40℃
流出液 :テトラヒドロフラン
流速 :0.25ml/min
【0033】
また、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の水への溶解性は、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは26、27、28、又は29質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。なお、ここでの水への溶解性は、25℃の水を用いて検討した場合に次のようにして求められる値である。
【0034】
溶解性(質量%)=A/(A+B)×100
但し、A:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の質量
B:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を溶解した水の質量
【0035】
このようなポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物は、高分子型非イオン性界面活性剤として市販されており、例えば、第一工業製薬株式会社製のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である「ディスコールN-518」を使用することができる。
【0036】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本開示のポリアミド水性分散液におけるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の使用量は、ポリアミド100質量部に対して、好ましくは1~20質量部である。当該範囲の上限又は下限は例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19質量部であってもよい。当該範囲は、例えばより好ましくは3~17質量部であり、さらに好ましくは5~15質量部である。
【0038】
ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を含まないポリアミド水性分散液は、通常、アニオン性(例えばpH9~10程度)である。当該ポリアミド水性分散液に酸性物質を添加するとポリアミド凝集物が生成しやすいのに対して、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物をも含むポリアミド水性分散液は、中性領域(例えばpH7程度又はさらに酸性よりのpH)まで安定な状態を維持できる。このためポリアミド水性分散液の使用範囲が広がるだけでなく、酸性添加剤等との混合も可能になり、各種の性能改良等を容易に行うことができる。
【0039】
理論的な制限を望むものではないが、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物をポリアミド水性分散液に添加することで、中性領域まで安定な状態を維持できる理由として、一般的な高分子型非イオン性界面活性剤を使用する場合、これらの高分子鎖は粒子周辺に自由に存在するだけで、化学的な安定化効果は弱いのに対し、窒素原子を持つポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を使用する場合、ポリアミド粒子の表面にあるカルボニル基に、窒素原子が引き寄せられ、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物が、比較的粒子表面に近くに存在することで、より大きな安定化効果に寄与するものと推測される。
【0040】
本開示のポリアミド水性分散液を製造する方法としては、特に限定されない。例えば、ポリアミドが分散されている水性分散液(以下、ポリアミド水性分散液前駆体ともいう)とポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物とを混合する工程を含む方法により製造することができる。また、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の水溶液を用いてポリアミドを分散して水性分散液を得る工程を含む方法により製造することもできる。
【0041】
ポリアミド水性分散液前駆体を製造する方法については、特に限定はなく、水性媒体中にポリアミドを均一に分散できる方法であればよい。
【0042】
例えば、ポリアミドを、機械粉砕法、冷凍粉砕法、湿式粉砕法等の粉砕法により粉砕して得られるポリアミド粉体を水性媒体中に分散させる方法、ポリアミドと塩基性物質を用いて乳化させて、水性分散液を製造する方法、界面活性剤を用いてポリアミドを乳化し水性分散液を製造する方法、等が挙げられる。
【0043】
以下に、代表的な製造例として、ポリアミドと塩基性物質を用いて乳化し、水性分散液を製造する方法について示す。
【0044】
この製造方法では、例えば、容器内にポリアミド、塩基性物質および水性媒体を投入し、これらの混合液を調製する。
【0045】
混合液の調製に用いる容器としては、ポリアミドが水性媒体中で軟化する温度以上の温度に加熱するための加熱手段と、内容物にせん断力を与えることのできる攪拌手段とを備えた、耐圧容器が好ましい。例えば、攪拌機付きの耐圧オートクレーブ等が好ましい。
【0046】
次に、この容器内でポリアミド、塩基性物質および水性媒体を混合して混合液を得る。そして、当該混合液をポリアミドの軟化温度以上に加熱し攪拌して、乳化させ、乳濁液を得る。当該乳濁液を室温まで冷却すると、ポリアミド水性分散液前駆体が得られる。
【0047】
塩基性物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニア、アミン化合物等が挙げられる。塩基性物質は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、これらの中でも、分散液の静置安定性が優れる観点から特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムが好適に用いられる。
【0048】
塩基性物質の使用量は、得られる水性分散液の粘度の経時変化が少ない等、静置安定性に優れるという観点から、ポリアミドの末端カルボキシル基1モルあたり0.1~2モルであることが好ましく、0.4~1モルであることがより好ましい。
【0049】
ポリアミドの使用量は、特に限定されるものではないが、得られるポリアミド水性分散液前駆体100質量部に対して0.1~80質量部に設定するのが好ましく、20~60質量部に設定するのがより好ましい。
【0050】
また、本願発明の効果を損なわない限り、塩基性物質と界面活性剤(分散安定剤)を併用してポリアミド水性分散液前駆体を得ることもできる。
【0051】
ポリアミド水性分散液前駆体を得るために(つまり、ポリアミドを水性媒体へ分散させるために)使用用される界面活性剤(分散安定剤)としては、得られる本開示のポリアミド水性分散液の効果を損なわない範囲において、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、高分子系分散剤等の添加剤を用いることもできる。
【0052】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩および脂肪酸塩等が挙げられる。
【0053】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリグリセリンエステル等を挙げることができる。
【0054】
高分子系分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンや、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステル塩、アルギン酸塩、エチレン/アクリル酸共重合体の塩(特にアンモニウム塩)、スチレン/無水マレイン酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸モノエステル共重合体の塩、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体の塩、カルボキシメチルセルロースの塩 等が挙げられる。
【0055】
これらの添加剤の中で、得られる本開示の水性分散液の安定性を高めるという観点から、ノニオン系界面活性剤や高分子系分散安定剤が好適に用いられる。中でも、得られる本開示の水性分散液が耐熱性に優れ、高温で長時間加工しても分解しにくく、当該水性分散液で処理した積層体とマトリックス樹脂との接着性が良好という点において、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリステルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、等)、エチレン/アクリル酸共重合体アンモニウム塩、スチレン/無水マレイン酸共重合体アンモニウム塩、スチレン-マレイン酸モノエステル共重合体アンモニウム塩、イソブチレン/マレイン酸エステル共重合体のアンモニウム塩が好適に用いられる。
【0056】
これらの添加剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
添加剤の使用量は、ポリアミド100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは0.1~8質量部が例示される。但し、これらの添加剤の使用は、得られる分散液で処理した積層体とマトリックス樹脂との接着性に悪影響を及ぼすおそれもあるため、前記量を参考として、比較的多く使用することを避けつつ適宜設定することが望ましい。
【0058】
なお、これらの添加剤は、製造過程において、ポリアミド水性分散液前駆体が得られた後に、さらに添加してもよい。
【0059】
上記のようにして調製されたポリアミド水性分散液前駆体に、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を混合することにより、本開示のポリアミド水性分散液が得られる。ポリアミド水性分散液前駆体とポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を混合する方法として特に限定されず、例えば、ポリアミド水性分散液前駆体とポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を同一容器内に投入して、撹拌し、混合する方法などが挙げられる。
【0060】
本開示のポリアミド水性分散液中のポリアミドの濃度(w/w%)は、0.1~80質量%であることが好ましく、より好ましくは1~60質量%であり、さらに好ましくは5~50質量%である。ポリアミドの濃度が80質量%以下であれば、ポリアミド水性分散液の安定性がより向上し得る。また、当該濃度が0.1質量%以上であれば、積層体の被着体へポリアミドをより付着させやすくなる。
【0061】
本開示のポリアミド水性分散液において、分散されたポリアミド(粒子)の平均粒子径は、例えば好ましくは2μm未満である。また、当該平均粒子径の下限は、特に制限はされないが、例えば0.05μm以上である。例えば2μm未満0.05μm以上であることがさらに好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、又は0.1μmであってもよい。また、上記の通り、下限は設定されなくてもよい。例えば、さらに好ましくは、1.5μm以下、1.0μm以下、又は0.8μm以下であり得る。なお、本明細書において、ポリアミドの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法による体積平均粒子径である。すなわち、ポリアミド水性分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した際に得られる体積平均粒子径値である。
【0062】
また、本開示のポリアミド水性分散液は、酸性物質を用いてpHを低下させた際に、ポリアミドの凝集物が生成し難いものが好ましい。ポリアミドの凝集程度は、例えば、粒子径が2μm以上のポリアミド量(体積)が全ポリアミド量(体積)のどの程度の割合(体積%)であるかで示すことができる。当該値は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定で求められる。例えば、pHを6.5まで低下させたときに、粒子径が2μm以上のポリアミド量が全ポリアミド量の15体積%以下であることが好ましく、14、13、12、11、又は10体積%以下であることがより好ましく、9、8、7、6、5、4、又は3体積%以下であることがさらに好ましい。また例えば、pHを6.4まで低下させたときに、粒子径が2μm以上のポリアミド量が全ポリアミド量の15体積%以下であることが好ましく、14、13、12、11、又は10体積%以下であることがより好ましく、9、8、7、6、5、4、又は3体積%以下であることがさらに好ましい。また例えば、pHを6.2まで低下させたときに、粒子径が2μm以上のポリアミド量が全ポリアミド量の15体積%以下であることが好ましく、14、13、12、11、又は10体積%以下であることがより好ましく、9、8、7、6、5、4、又は3体積%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
なお、ポリアミド水性分散液のpHを低下させるために用いる酸性物質としては、ポリアミドの凝集に影響を与えない酸性物質が好ましく、より具体的には例えば硫酸アンモニウム等が好ましく挙げられる。
【0064】
本開示のポリアミド水性分散液は、例えば、pHが6.7未満であって、且つポリアミドの平均粒子径が上記好ましい範囲を満たすものも、好ましく包含する。当該pH範囲は、6.65以下、6.6以下、6.55以下、6.5以下、6.45以下、6.4以下、6.35以下、6.3以下、6.25以下、6.2以下、6.15以下、又は6.1以下であってもよい。また、ポリアミドの平均粒子径が上記好ましい範囲を満たす限り、当該pH下限は特に制限されない。例えば、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、又は6が挙げられる。
【0065】
また、本開示のポリアミド水性分散液は、例えば、pHが6.7未満であって、且つ平均粒子径2μm以上のポリアミド粒子を含まないものも、好ましく包含する。当該pH範囲は、6.65以下、6.6以下、6.55以下、6.5以下、6.45以下、6.4以下、6.35以下、6.3以下、6.25以下、6.2以下、6.15以下、又は6.1以下であってもよい。また、平均粒子径2μm以上のポリアミド粒子を含まない限り、当該pH下限は特に制限されない。例えば、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、又は6が挙げられる。
【0066】
なお、本明細書において、ポリアミド水性分散液のpHは、25℃においてpHメータを用いて測定した値である。
【0067】
本開示のポリアミド水性分散液を含む塗工剤を用いて、各種の成形体を加工することができる。当該塗工剤は、各種の成形体を製造するための材料として有用である。
【0068】
成形体の製造方法は、特に限定されないが、基材に本開示のポリアミド水性分散液を塗布又は、型枠内へ流し込む工程、及び塗布した又は流し込んだポリアミド水性分散液の水性分散体を乾燥させる(すなわち、水分を除去する)工程を含む。このような工程を含む成形体の製造方法により、ポリアミド水性分散液を含む皮膜、フィルム若しくはシート状等の各種の形態の成形体を得ることができる。
【0069】
本開示のポリアミド水性分散液を基材に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、はけ、ヘラ、ローラー、コーキングガン、シルクスクリーン、エア・スプレー、ノズルスプレー、ロールコーター等を用いる塗布方法が挙げられる。
【0070】
基材へのポリアミド水性分散液の塗布量は、目的に応じて適宜設定され、例えば、本開示のポリアミド水性分散液から得られる膜の厚みが0.001mm~5mmとなるように塗布される。
【0071】
型枠内へポリアミド水性分散液を流し込む方法は、特に限定されない。
【0072】
例えば、ポリアミド水性分散液を基材へ塗布するか、型枠内へ流し込んだ後、水分を除去する方法が挙げられる。水分を除去する工程における乾燥温度は、特に限定されないが、通常、40~300℃に設定される。
【0073】
乾燥時間は特に限定されず、例えば、100℃にて乾燥を行う場合、0.2~2時間である。
【0074】
成形体の製造に用いる基材は、特に限定されないが、例えば、アルミや銅などの金属、ガラス、木質、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、さらにそれらを強化繊維やフィラーなどで強化した樹脂などから製造される。基材の厚みおよび形状などは特に限定されない。
【0075】
このようにして得られた成形体(例えば、基材に塗布し、乾燥させて得られた積層体)におけるポリアミド水性分散液の塗布側と、更なる基材とを合わせて、例えば、ホットプレスを用いて120~300℃にて、必要により0.1~100MPaに加圧し、1~500秒間加熱することにより、基材を層状に接合させた複合材料を製造できる。接合させる基材は異なる種類の基材であっても、同種の基材であってもよい。
【0076】
本開示のポリアミド水性分散液は、自動車部品、スポーツ関連製品及び医療器具等を製造するための材料、紙及びフィルム等のコーティング剤、接着剤、表面改質剤、フォームラバー用原料、コーティング剤、あるいはホース、チューブ、ベルト、ガスケット及びパッキング等の製造用材料、コネクター、センサー類のシール剤、熱接着剤、コード被覆、アンテナカバー等の電気・電子部品を製造するための材料等の広い用途において活用することができる。
【0077】
本開示のポリアミド水性分散液は、マトリックス樹脂との接着性に優れる皮膜を基材上に形成させることができる。マトリックス樹脂の中でも好ましい物はポリアミド樹脂であり、良好な複合材料が得られる。
【0078】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【0079】
また、上述した各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。
【実施例
【0080】
以下、本開示に包含される主題をより具体的に説明するが、当該主題は下記の例に限定されるものではない。
【0081】
水性ポリアミド水性分散液の製造
実施例1
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリアミドとして6/66/12共重合ナイロン(融点120℃)240g、脱イオン水150gおよび10%水酸化ナトリウム水溶液10gを仕込み密閉した。次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を160℃まで昇温した。内温を160℃に保ちながらさらに30分間撹拌した後、冷却し、エチレン-アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液(固形分濃度29重量%)24.5gおよび脱イオン水198gを加えた。さらに、室温まで冷却後、第一工業製薬株式会社製のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の水溶液である「ディスコールN-518」120g(数平均分子量:16000、融点64.5℃、水への溶解性は30質量%以上35質量%未満、固形分濃度:20質量%)および脱イオン水33.5gを加えて、よく混合してポリアミド水性分散液を得た。
【0082】
なお、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物(ディスコールN-518)の水への溶解性は、ディスコールN-518を乾固後、水に所定量添加し、25℃下、5時間撹拌後、溶解するかを検討して、以下の式で算出した。
【0083】
溶解性(質量%)=A/(A+B)×100
但し、A:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物の質量
B:ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を溶解した水の質量
【0084】
30質量%では、流動性ある溶液である一方で、35質量%ではゲル状物生成、また溶け残りがある状態であったため、水への溶解性は30質量%以上35質量%未満と判断した。
【0085】
また、このポリアミド水性分散液中のポリアミドの体積平均粒子径を回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD-2300”)を用いて測定したところ、0.53μmであった。
【0086】
実施例2
「ディスコールN-518」の使用量を90gとし、脱イオン水使用量を47.8gとした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド水性分散液を得た。
【0087】
この水性分散液中のポリアミドの体積平均粒子径を回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD-2300”)を用いて測定したところ、0.53μmであった。
【0088】
比較例1
「ディスコールN-518」120g(固形分濃度:20質量%)の代わりに、脱イオン水53gを添加した以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド分散液を得た。
【0089】
比較例2
「ディスコールN-518」120g(固形分濃度:20質量%)の代わりに、第一工業製薬株式会社製のポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物である「ディスコールN-206」24g(数平均分子量33,000、融点25℃未満、水への溶解性20質量%以上25質量%未満)を用い、また脱イオン水使用量を96gとした以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド分散液を得た。
【0090】
なお、ディスコールN-206の水への溶解性は、上記ディスコールN-518の水への溶解性の検討方法と同様にして検討した値である。
【0091】
比較例3
実施例1において、「ディスコールN-518」120g(固形分濃度:20質量%)の代わりに、ノニオン系界面活性剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(プルロニックF108 株式会社ADEKA)24gを用い、また脱イオン水使用量を96gにした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド分散液を得た。
【0092】
なお、上記の例でポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物として用いた「ディスコールN-518」及び「「ディスコールN-206」は、第一工業製薬株式会社カタログによれば、いずれも下記式(1):
【0093】
【化2】
【0094】
(式中、AOはアルキレンオキシドを示し、nは整数を示す。)で表される繰り返し単位からなるポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物と説明されている。
【0095】
ポリアミド水性分散液の安定性評価
上記のようにして得られた各ポリアミド水性分散液(実施例1~2及び比較例1~3)を、脱イオン水でポリアミド濃度が1(w/w)%となるように希釈し、希釈したポリアミド水性分散液を50ml量りとり、酸成分として、1mol/L硫酸アンモニウム水溶液を徐々に添加し、粒子の凝集が開始する添加量を検討した。粒子の凝集については、回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所、商品名“SALD-2300”)を用いて粒度分布測定より凝集状態を確認した。
【0096】
ポリアミド分散液のpHが6.4まで低下しても、凝集物(2μm以上の粒子)の生成がないものを○、6.4までに凝集物が生成するものを×と評価した。
【0097】
【表1】
【0098】
ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを添加してpHを小さくしていくと、比較例1ではpHが7.2で凝集物が生成し、比較例2ではpHが7.2で凝集物が生成し、比較例3ではpHが6.7で凝集物が生成するのに対し、実施例1ではpH6.2まで分散状態を維持でき、すなわち、pHが6.4においても、分散状態を維持でき、2μm以上の粒子の含有率が0体積%であり、実施例2ではpH6.4まで分散状態を維持でき、2μm以上の粒子の含有率が0体積%となることが分かった。
【0099】
また、比較例1では、ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを3mmol添加すると凝集物が生成し、比較例2では、ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを3mmol添加すると凝集物が生成し、比較例3では、ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを9mmol添加するとpHが6.7で凝集物が生成するのに対し、実施例1では、ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを50mmolまで添加しても分散状態を維持でき、実施例2では、ポリアミド分散液に酸性成分である硫酸アンモニウムを30mmolまで添加しても分散状態を維持できることが分かる。
【0100】
なお、表1の「2μm以上の粒子の含有量(%)」は、分散液に含まれる全ポリアミド量に対する体積%を表している。
【0101】
以上の結果から、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド付加物を含むポリアミド水性分散体は、pHが低い領域(pH7程度又はそれよりも低い領域)でも分散状態を維持できることがわかった。