(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】ロイコメチルチオニニウムの治療上の相互作用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5415 20060101AFI20250225BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
A61K31/5415
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2021577641
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2020068422
(87)【国際公開番号】W WO2021001380
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-30
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507092676
【氏名又は名称】ウィスタ ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ハリントン,チャールズ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】リーデル,ゲルノット
(72)【発明者】
【氏名】メリス,ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ヨヘン
(72)【発明者】
【氏名】ニエヴィアドムスカ,グラジーナ
(72)【発明者】
【氏名】ステチュコフスカ,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】シュワブ,カリマ
(72)【発明者】
【氏名】ウィスチク,クロード ミシェル
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/019823(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/041739(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/020751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害の治療的処置の方法のためのメチルチオニニウム(MT)含有化合物を含む治療用組成物であって、
この方法は、前記対象にMT含有化合物を投与することを含み、
前記MT含有化合物は、下記の式のLMTX化合物
【化1】
(式中、H
nA及びH
nBのそれぞれ(存在する場合)は、同一又は異なっていてもよいプロトン酸であり、
p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;及び(p+q)×n=2である)
又はその水和物若しくは溶媒和物であり、
前記対象は、下記の群
(i)アセチルコリン
活性若しくはグルタメート神経伝達物
質の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けていない対象;又は
(ii)アセチルコリン
活性若しくはグルタメート神経伝達物
質の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けているが、その処置を前記LMTX化合物による処置の前に少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、若しくは8週間中止している対象
から選択され;
前記LMTX化合物による前記治療的処置は、アセチルコリン
活性若しくはグルタメート神経伝達物
質の修飾因子である神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴わずに処置時間枠の間維持され、
それに続く;
アセチルコリン
活性若しくはグルタメート神経伝達物
質の修飾因子である神経伝達修飾化合物の同時の投与を伴う前記LMTX化合物による処置がされ、
前記アセチルコリン活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、
前記グルタメート神経伝達物質の修飾因子である神経伝達修飾化合物が、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体の受容体アンタゴニストであり、
前記神経伝達修飾化合物との前記LMTX化合物の同時の投与の前の処置時間枠は、少なくとも2カ月である、治療用組成物。
【請求項2】
対象におけるアルツハイマー病(AD)又は軽度認知障害の治療的処置の方法のための、メチルチオニニウム(MT)含有化合物を含む治療用組成物であって、
対象は、アセチルコリン
活性若しくはグルタメート神経伝達物
質の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置に対して非応答性であるとして選択されており、
方法は前記対象に前記MT含有化合物を投与することを含み、
前記MT含有化合物は、下記の式のLMTX化合物
【化2】
(式中、H
nA及びH
nBのそれぞれ(存在する場合)は、同一又は異なっていてもよいプロトン酸であり、
p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;及び(p+q)×n=2である)
又はその水和物若しくは溶媒和物であり、
それに続く前記神経伝達修飾化合物による処置がされ、
前記アセチルコリン活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、
前記グルタメート神経伝達物質の修飾因子である神経伝達修飾化合物が、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体の受容体アンタゴニストである、治療用組成物。
【請求項3】
LMTXによる前記治療的処置が、前記神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴う処置時間枠の間維持され、
それに続く;
前記LMTXを伴わない神経伝達修飾化合物による処置がされ
る、請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項4】
同時の投与による前記処置時間枠は、少なくとも2カ月である、請求項3に記載の治療用組成物。
【請求項5】
LMTXによる前記治療的処置が、前記対象への1日当たり2~100mgのMTの総1日用量を含
む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記治療的処置が、2つ若しくはそれより多い用量へと分割される、請求項5に記載の治療用組成物。
【請求項7】
MTの前記総1日用量が、10~60mgである、請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項8】
前記LMTX化合物が、下記の式
【化3】
を有し、式中、HA及びHBは、異なるモノプロトン酸である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記LMTX化合物が、下記の式
【化4】
(式中、H
nXのそれぞれは、プロトン酸である)を有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記LMTX化合物が、下記の式
【化5】
を有し、H
2Aが、ジプロトン酸である、請求項
9に記載の治療用組成物。
【請求項11】
前記LMTX化合物が、下記の式
【化6】
を有し、ビス-モノプロトン酸塩である、請求項
9に記載の治療用組成物。
【請求項12】
前記又は各プロトン酸が、無機酸であ
る、請求項1~
11のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記又は各プロトン酸が、ハロゲン化水素酸又はHCl;HBr;HNO
3
;H
2
SO
4
から選択される、請求項12に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記又は各プロトン酸が、有機酸であ
る、請求項1~
11のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記又は各プロトン酸が、H
2
CO
3
;CH
3
COOH;メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸から選択される、請求項14に記載の治療用組成物。
【請求項16】
前記LMTX化合物が、LMTM:
【化7】
である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項17】
前記LMTX化合物が、
【化8】
【化9】
からなる群から選択される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項18】
前記神経伝達修飾化合物が、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であり、ドネペジル;リバスチグミン;及びガランタミンから選択される、請求項1~
17のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【請求項19】
前記神経伝達修飾化合物が、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体の受容体アンタゴニストであり、メマンチンである、請求項1~
17のいずれか一項に記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、治療剤の組合せの間のマイナスの相互作用を回避するか、又は治療剤の効果を増進させるように適合された、アルツハイマー病又は軽度認知障害の処置の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)の処置のために現在利用可能である唯一の処置は、対症的である。これらのうち最も広範に使用されているのは、シナプス間隙におけるアセチルコリン(ACh)のレベルを慢性的に増加させることによって作用するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)である。実験モデルにおいて、コリン作動性機能は選択的注意と主に関連しており(Botly and De Rosa, 2007;2008;Sarter et al., 2016)、機能障害/改善のより広範囲にわたる措置に対して特に敏感ではない((Klinkenberg and Blokland, 2010;Robinson et al., 2011)において概説されている)。同様の考察は、非特異的な様式で脳機能をまたモジュレートするメマンチンに適用される(Gastambide et al., 2012;Ding et al., 2018)。これらの処置の治療上の利点は相対的に短期間であり(Courtney et al., 2004)、開始の12カ月後にAChEIを継続しているのは患者の30%未満である(Mauskopf et al., 2005;Singh et al., 2005;Raina et al., 2008)。AD患者のかなりの割合は、いずれにせよ処置されておらず、米国において約44%(Koller et al., 2016)及び英国において約77%(Martinez et al., 2013)である。フランスにおいて、これらの薬物についての償還は、「不十分な医学的な利点、及び副作用による危険性」のために取り下げられてきた(Krolak-Salmon et al., 2018)。低い医学的使用及び患者アドヒアランスは、低い認知される有効性及び副作用によるものであり、一時的な症状改善の後の低下の速度は、処置の非存在下で起こるものと異ならない(Courtney et al., 2004)。したがって、ADの進行を遅延させることができる処置を開発するという未だ対処されていない主要な医学的必要性が存在することが一般に同意される。Lancet Neurology Commission report(Winblad et al., 2016)は、「確立されたADの根底にある病態を停止又は反転させるのに利用可能である処置はまだ存在しない。実際に、ADについての有効な治療は、現代医学が直面する恐らく未だ対処されていない最も大きな必要とされるものである」と記述した。ADのために承認された最後の新規な処置は、2003年におけるメマンチンであった(Lanctot et al., 2009)。2002年から2012年において、第2相又は第3相における289の臨床治験が行われてきたが、99.6%の全体的な失敗率であった(Cummings et al., 2014)。2012年以降でβ-アミロイドの病的なプロセシングの様々な態様を標的とする19のさらなる治験の失敗が存在した(Panza et al., 2019)。
【0003】
利用可能な対症処置の制限にも関わらず、新規な治療的なアプローチを試験することを目的として現在進行中又は最近完了した殆ど全ての後期臨床治験は、対象の大部分が対症処置を受け続けている患者集団において行われてきた(Panza et al., 2019)。これは、場合によっては長期に亘る臨床治験に参加する患者が、プラセボアーム(arm, 治療群)へと無作為化された場合、任意の処置へのアクセスを拒否されるという倫理的な問題によって部分的に決定される。さらなる考察は、対症処置が、それらの作用様式が異なるため根底にある病態を標的とする処置と干渉しないという証明されていない仮説であった。
【0004】
メチルチオニニウム(MT)は、トランスジェニックマウスタウモデルにおいてヒト経口投薬と一致する脳濃度にて、タウ凝集阻害剤としてin vitroで作用し(Wischik et al., 1996;Harrington et al., 2015)、アルツハイマー病脳組織からのPHFを溶解し(Wischik et al., 1996)、タウ病態及び関連する行動障害を低減させる(Melis et al., 2015a;Baddeley et al., 2015)。
【0005】
ロイコメチルチオニニウムビス(ヒドロメタンスルホネート)(LMTM;USAN名、ヒドロメチルチオニンメシレート)は、ADにおけるタウタンパク質の病的凝集を標的とする処置として開発されている(Wischik et al., 2018)。メチルチオニニウム(MT)部分は、酸化型(MT+)及び還元型(LMT)形態で存在することができる。LMTMは、酸化型MT+形態より非常により良好な医薬特性を有するLMTの安定化した塩である(Baddeley et al., 2015;Harrington et al., 2015)。MT+よりむしろLMTがin vitroでタウ凝集を遮断する活性種であることを本発明者らは最近報告した(Al-Hilaly et al., 2018)。LMTは、無細胞アッセイ及び細胞ベースアッセイにおいてタウ凝集をin vitroで遮断し(Harrington et al., 2015;Al-Hilaly et al., 2018)、タウトランスジェニックマウスモデルにおいてin vivoで臨床的に関連性のある用量でタウ凝集病態及び関連する行動障害を低減させる(Melis et al., 2015a)。LMTはまた、AD脳組織から単離した対らせん状細線維(PHF)のタウタンパク質を脱凝集させ、タウをプロテアーゼに対して影響されやすい形態へと変換する(Wischik et al., 1996;Harrington et al., 2015)。
【0006】
MT部分はまた、一連の他の潜在的に有益な特性を有する。低濃度(10~100nM)で、これは電子移動鎖における補助的な電子担体として作用することによってミトコンドリアの活性を増進することが以前から公知であった。MT部分は、補助因子としてNADHを使用して複合体Iによって触媒される酸化還元サイクリングを受け、それによって、MT部分は電子を受け入れ、電子はそれに続いて複合体IVへと移動する(Atamna et al., 2008;Atamna et al., 2012)。MT部分はまた、ミトコンドリアの生合成を誘発し、Nrf2が媒介する酸化ストレス応答エレメントをin vivoで活性化することができる(Stack et al., 2014)。他の活性は、ミクログリア活性化を阻害し、オートファジーを増加させることによる、脳における神経保護効果を含む(Zhao et al., 2016)。MT部分は、10~20nMの濃度範囲でオートファジーの増進によって病的なタウの排除をin vivoで増加させることが示されてきた(Congdon et al., 2012)。したがって、ADタウ凝集物の溶解に加えて、LMTMはADの処置の可能性を有すると現在提唱されている経路の多くに対応する多数の補完的作用を有する(Oz et al., 2009;Schirmer et al., 2011)。
【0007】
経口的に与えられたLMTMは、in vitro及びin vivoでの活性のために十分である脳レベルを生じさせるが(Baddeley et al., 2015)、これは2つの大きな第3相臨床治験において対症処置へのアドオン(add-on)として摂取された場合、最小の明らかな有効性を有した(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018)。しかし、単独療法としてLMTMを受けている対象において、処置は、認知低下及び機能的低下の著しい緩徐化、MRIによって測定した脳萎縮の進行の速度の低減、並びにFDG-PETによって測定したグルコース取込みの減少における低減を生じさせた(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018)。治験に参加した対象から入手可能である集団薬物動態学的データと組み合わせてこれらの結果を分析したとき、LMTMは、単独で摂取しようと、又は対症処置と組み合わせて摂取しようと、濃度依存的効果を生じさせたことが見出された。しかし、単独療法の対象における処置効果は、対症処置と組み合わせてLMTMを摂取しているものにおけるより実質的により大きかった。
【0008】
国際公開第2008/155533号は、MCIを処置するためのMT含有化合物に関する。
【0009】
国際公開第2009/060191号は、神経変性障害のための推定上の治療剤のための臨床治験の設計に関する。対症処置を受けている対象を治験に含めることができることが特に予想される。
【0010】
国際公開第2018/019823号は、メチルチオニニウム(MT)含有化合物を利用した、神経変性障害の処置のための新規なレジメンについて記載している。その公開資料は、AD及び軽度認知障害(MCI)を含めたこのような障害を処置するためのMT含有化合物、特に、「LMTX」化合物の以前の開示を要約している。国際公開第2018/019823号は、2つの重要な要因を同定した。第1は、MT化合物の投与量に関し、第2は、対症処置とのそれらの相互作用であった。
【0011】
国際公開第2020/020751号は、in vivoでのMT濃度が治療有効性を示すのに必要とされるものを超える対象の割合を最大化する、LMT化合物についての新規な投薬レジメンについて記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の開示
本研究は、上記で考察した対症処置へのアドオンとしてのLMTMの低減した有効性に関与する機序を理解する目的を伴って行った。これらの研究において、良好に特性決定されたタウトランスジェニックマウスモデル(ライン1、「L1」;(Melis et al., 2015b))を、野生型マウスと比較した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ADのもつれたフィラメント(tangle filaments of AD)を構成する短いタウフラグメントを発現しているタウトランスジェニックマウスにおいて、単独で与えられるLMTMは、海馬アセチルコリン(ACh)レベル、シナプトソーム調製物からのグルタメート放出、複数の脳領域におけるシナプトフィジンレベル、及びミトコンドリア複合体IV活性を増加させ、タウ病態を低減させ、前脳基底におけるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)免疫反応性を回復させ、空間学習における障害を反転させたことを本発明者らは示した。
【0014】
リバスチグミンによる慢性事前処置は、タウ凝集病態における低減、及び前脳基底におけるChAT免疫反応性の回復は別として、殆ど全てのこれらの効果を低減又は除去することが見出された。海馬ACh及びシナプトフィジンレベルに対するLMTM効果はまた、野生型マウスにおいて低減した。
【0015】
このように、臨床的に観察されるコリンエステラーゼ阻害剤によるLMTM有効性との干渉はまた、タウトランスジェニックマウスモデルにおいて、及びより少ない程度で、野生型マウスにおいて再現することができる。
【0016】
対症療法薬による事前処置は、脳機能の複数のレベルで異なる伝達物質系及び細胞コンパートメントに亘って、LMTMに対する広範囲の脳応答を変化させたことを本発明者らは観察した。マイナスの相互作用について単一遺伝子座は存在しなかった。むしろ、コリンエステラーゼ機能を低減させることによって誘発された慢性のニューロン活性化は、複数の神経系における代償的な恒常性下方制御を生じさせた。これは、タウ凝集病態における低減と関連するLMTMに対する広範囲の処置応答を低減させる効果を有する。
【0017】
重要なことに、干渉は従前の対症処置に対する恒常性応答によって決定されるため、意図する治療標的又は作用様式に関わらず、現存する対症処置への「アドオン」として試験した他の薬物との同様の干渉が存在することは必然的である。本概要は、対症処置による干渉を説明するワーキングモデルをこれから提供する重要な結果の概略を述べる。言い換えれば、任意の活性化事前処置が、代償的な(compensatory)恒常性下方制御応答を生じさせることを予想し得、これによって、もし第2の処置もまた活性化である場合、第2の処置の有効度を減弱させる。
【0018】
本発明者らが行った実験は、対症処置を既に受けている患者においてLMTMを加える臨床的症状を模倣するように設計した。しかし、モデルのさらなる意味あいは、LMTM(又は他の治療剤)が上記の対症処置の前に開始される処置に関する。「アドオン」治療として後で導入された場合、アドオン対症処置に対する応答をある程度低減させることができるにも関わらず、恒常性下方制御が最初に来る処置によって決定される場合、LMTMの処置効果が優勢であることは必然的である。
【0019】
さらなる実験を行って、18カ月の処置の後でLMTMの退薬の効果を確立した。これらの実験において、患者群を、現存する対症療法(AChEI、メマンチン「Achmem」)へのアドオンとして、又は単独療法として、LMTMを受けてきたどうかによって分割した。患者群を、国際公開第2020/020751号に記載されている薬物動態学的モデリングに従って、対象がMTへのより高いCmax曝露又はより低い曝露を受けてきたかどうかによってさらに分割した。
【0020】
予想外に、高Cmaxアドオン群は、LMTMの退薬に続いてADAS-cogにおける予想外の改善を実際に示したが、これは、対症処置単独に対する改善された応答をもたらすLMTM処置の間の疾患修飾効果と一致する。この知見は、LMTM及びAchmem併用療法の使用について潜在的な意味あいを有し、例えば、Achmemに対して非応答性であると証明された患者群において、LMTXの疾患修飾効果は、特に、LMTXが中断すると、及び特に、軽度AD対象におけるADAS-cogに関して、Achmemに対する応答を実際に増進し得る。多くの患者がAch阻害剤処置に対して応答しない(例えば、30~40%かそれ以上、例えば、McGleenon BM, Dynan KB, Passmore AP. Acetylcholinesterase inhibitors in Alzheimer’s disease. Br J Clin Pharmacol. 1999;48(4):471-480. doi:10.1046/j.1365-2125.1999.00026.xを参照されたい)ため、これは有用性を有する。
【0021】
したがって、本開示は、アルツハイマー病又は軽度認知障害の処置の方法に関し、ここでは、治療剤の順序は能動的に制御され、MT含有化合物及び非MT含有化合物の両方に関して、例えば、活性治療剤の投与の前に恒常性下方制御を防止する。ある特定の実施形態では、上記で考察した神経伝達修飾化合物(例えば、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子)による治療は、続けてMT含有化合物若しくは非MT含有化合物による処置と合わせてもよく、又はMT含有化合物若しくは非MT含有化合物による処置の後に続いてもよい。
【0022】
本開示はまた、臨床治験設計に関して本知見を利用する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図面
【
図1】8mg/日の用量でLMTMを摂取している軽度から中等度のADを有し、且つAD標識された処置を伴う同時の医薬品の状態によって分類された患者における、65週間に亘るADAS-cogスケール上での薬物動態学的-薬力学的応答。
【
図2】野生型マウスにおける、アセチルコリンの海馬レベル(A)又は海馬、大脳皮質視覚野、対角帯及び中隔野についての平均値として免疫組織化学的に測定したシナプトフィジンレベル(B)に対する、LMTM単独又はリバスチグミンによる慢性的な事前処置に続くLMTMの処置効果。(
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図3】タウトランスジェニックL1マウスにおける、(A)SNARE複合タンパク質(SNAP25、シンタキシン及びVAMP2)並びに(B)海馬、大脳皮質視覚野、対角帯及び中隔野についての平均値として免疫組織化学的に測定したα-シヌクレインのレベルに対する、LMTM単独又はリバスチグミンによる慢性事前処置に続くLMTMの処置効果。(
*、p<0.05;
***、p<0.001;
****、p<0.0001)。
【
図4】タウトランスジェニックL1マウスにおける、脳ミトコンドリアにおけるシトレートシンテターゼ活性に対して測定した複合体IV活性に対する、LMTM単独又はリバスチグミンによる慢性事前処置に続くLMTMの処置効果。(
*、p<0.05)。
【
図5】ビヒクル処置された野生型マウスと比較したタウトランスジェニックL1マウスにおける、垂直対角帯における、タウ免疫反応性のレベル(相対的光学密度)(A)及びコリンアセチルトランスフェラーゼについて免疫反応性であるニューロン(B)に対する、LMTM単独又はリバスチグミンによる慢性事前処置に続くLMTMの処置効果。(
*、p<0.05;
**、p<0.01;
***、p<0.001)。
【
図6】アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)であるリバスチグミンによる慢性事前処置(ミトコンドリア代謝及びプレシナプスタンパク質における変化に対して特に焦点を合わせた)並びにタウ凝集阻害剤活性による動的モジュレーションに供されるLMTの処置効果の概略模式図。AChEIによる合わせた処置は、タウ凝集病態に対するLMTの効果を損なわない。対照的に、組合せは、LMTM単独による処置に続いて見られる、シナプスタンパク質の増加、ACh放出及び増加した複合体IV活性を防止する。
【
図7】研究の開始において5.5カ月齢の雌性ライン1マウスにおける問題解決障害に対するメマンチン及びLMTMの合わせた投与の効果。20mg/kgでメマンチン及び15mg/kgでLMTMを投与した。マウスを、6週間のメマンチンプラスLMTM処置の前に、ビヒクル又はメマンチンで5週間処置し、マウスを水迷路タスクにおいて第10週及び第11週に亘り試験した。
【
図8】18カ月のLMTM(8mg/日)単独療法に続く退薬(ADAS-cog)。高曝露(Cmax)群における対象において見ることができるように、LMTMの退薬に続いて同じ速度で低下し続ける(変化=0.73;p値=0.1651)。これは、LMTX処置期間に続く認知低下の速度における持続的な疾患修飾変化を支持する。より低い曝露に曝露された対象は、大きな低下(変化=2.29;p値=0.0011)を被ったが、その群におけるLMTXの利点は、少なくとも部分的に対症的であり得、したがって、持続的ではないことを意味する。
【
図9】現存する対症療法(AChEI、メマンチン)への「アドオン」として18カ月のLMTM(8mg/日)に続く退薬(ADAS-cog)。高曝露(Cmax)群における対象において見ることができるように、LMTMの退薬に続いて改善を示す(変化=-0.98、p値=0.0021)。これは、対症処置単独に対する改善された応答をもたらすLMTM処置の間の疾患修飾効果、又はLMTX処置期間の間のLMTMによって示される対症処置に対するマイナスの効果と一致する。より低い曝露へと曝露された対象は、退薬に続いて同じ速度で低下し続ける(変化=0.51、p値=0.0855)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
このように、一態様において、対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害の治療的処置の方法を提供し、
この方法は、前記対象に治療剤であるメチルチオニニウム(MT)含有化合物を投与することを含み、
MT含有化合物は、下記の式のLMTX化合物:
【化1】
(式中、H
nA及びH
nBのそれぞれ(存在する場合)は、同一又は異なっていてもよいプロトン酸であり、
p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;(p+q)×n=2である)
又はその水和物若しくは溶媒和物であり、
前記対象は、下記の群
(i)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けていない対象;又は
(ii)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けているが、その処置をLMTX化合物による処置の前に少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、若しくは8週間中止している対象
から選択され;
LMTXによる前記治療的処置は、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴わずに処置時間枠の間維持され、
それに続き;
アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物の同時の投与を伴うLMTXによる処置がされ、
神経伝達修飾化合物との治療用化合物の同時の投与の前の処置時間枠は、少なくとも2カ月である。
【0025】
別の態様において、対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害の治療的処置の方法を提供し、
この方法は、前記対象にMTを含有しない治療用化合物を投与することを含み、
前記対象は、下記の群
(i)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けていない対象;又は
(ii)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けているが、その処置をLMTX化合物による処置の前に少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、若しくは8週間中止している対象
から選択され;
前記治療用化合物による前記治療的処置は、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴わずに処置時間枠の間維持され、
任意選択でそれに続いて;
アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴う前記治療用化合物による処置がされ、
神経伝達修飾化合物との治療用化合物の同時の投与の前の処置時間枠は、少なくとも2カ月である。
【0026】
別の態様において、対象においてアルツハイマー病又は軽度認知障害のための推定上の治療剤であるMTを含有しない化合物の有効性をアセスメントするための方法を提供し、この方法は、
(a)(i)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けていない対象;及び
(ii)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けているが、その処置を前記アセスメントの前に少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、若しくは8週間中止している対象
のみからなる対象群を選択するステップと;
(b)可能性がある疾患の進行のベースライン指標によって対象群を少なくとも2つの部分群へと階層化するステップと、
(c)処置時間枠の間、各対象群のメンバーを非MT含有化合物で処置するステップと、
(d)それぞれの処置された患者群について、心理測定的及び任意選択で生理学的結果尺度(physiological outcome measures)を導き出すステップと、
(e)(d)における結果と、任意選択で、プラセボ又は最小有効性比較アームである前記部分群の比較アームとを比較するステップと、
(f)(e)における比較を使用して、非MT含有化合物についての有効性尺度(efficacy measure)を導き出すステップと
を含む。
【0027】
これらの態様において、これまでの処置が存在してきた場合、それは、処置又はアセスメントの前の3週間、4週間、5週間、若しくは6週間かそれ以上、最も好ましくは、6週間前に中止されている。
【0028】
これらの態様において、同時の投与がある場合、神経伝達修飾化合物との治療用化合物の同時の投与の前の処置時間枠は、好ましくは、少なくとも2カ月、3カ月、4カ月、5カ月若しくは6カ月、最も好ましくは、少なくとも6カ月である。
【0029】
別の態様において、対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害の治療的処置の方法を提供し、
この方法は、前記対象に治療用化合物を投与することを含み、
前記対象は、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置を受けており;
前記治療用化合物による前記治療的処置は、神経伝達修飾化合物の同時の投与を伴う第1の処置時間枠の間維持され、その処置時間枠の間、前記神経伝達修飾化合物の投与量は、ゼロへと低減し、それに続く
第2の処置時間枠の間の神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴わない前記治療用化合物による処置がされ、
第1の処置時間枠は、2週間~8週間であり、
第2の処置時間枠は、少なくとも3カ月、より好ましくは、少なくとも6カ月又は少なくとも12カ月である。
【0030】
第1の処置時間枠は、より好ましくは、3~8週間、例えば、3~6週間、又は約1カ月若しくは2カ月であり得る。好ましくは、投与量における低減は、期間に亘り着実な、例えば、直線的であり、その結果、対象は突然の退薬に曝露されない。
【0031】
対象から神経伝達修飾化合物(例えば、AChEI又はN-メチル-D-アスパルテート受容体アンタゴニスト)を「漸減」させる(titrate off)ことによって、本明細書における開示に基づいて、症状による恒常性応答は、治療用化合物(MT含有、又はその他であり得る)に対する応答によって最終的に置き換え得ることが予想され得る。
【0032】
別の態様において、対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害の治療的処置の方法を提供し、
この対象は、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置に対して非応答性であるとして選択されており、
この方法は、前記対象に治療剤であるメチルチオニニウム(MT)含有化合物を投与することを含み、
MT含有化合物は、下記の式のLMTX化合物:
【化2】
(式中、H
nA及びH
nBのそれぞれ(存在する場合)は、同一又は異なっていてもよいプロトン酸であり、
p=1又は2であり;q=0又は1であり;n=1又は2であり;(p+q)×n=2である)
又はその水和物若しくは溶媒和物であり、
それに続く前記神経伝達修飾化合物による処置がされる。
【0033】
アルツハイマー病は、軽度アルツハイマー病であり得る。LTMXは、神経伝達修飾化合物との同時の投与を伴う処置時間枠について使用しされてもよく、それに続くLMTXを伴わない神経伝達修飾化合物による処置がされ、ここで、任意選択で、同時の投与による処置時間枠は、少なくとも2カ月であるが、少なくとも6カ月、12カ月又は18カ月、例えば、24カ月まででよい。
【0034】
このように、対象、特に、このような神経伝達修飾化合物に対して非応答性であると別に考えられてきた対象の神経伝達修飾化合物に対する応答性を増進させるLMTX化合物(又はLMTX化合物及び神経伝達修飾化合物の組合せ)の使用を提供する。
【0035】
本発明のいくつかの態様及び実施形態を、より詳細にこれから考察する。
【0036】
患者の選択
上記で説明したように、文脈によると、本発明に関して選択は、対象、及びアセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物への従前の曝露に関するそれらの状況に関する。このような化合物は、AChEI又はN-メチル-D-アスパルテート受容体アンタゴニストであるメマンチンである。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の例は、ドネペジル(Aricept(商標))、リバスチグミン(Exelon(商標))又はガランタミン(Reminyl(商標))を含む。NMDA受容体アンタゴニストの一例は、メマンチン(Exibe(商標)、Namenda(商標))である。
【0037】
いくつかの態様において、対象群はこれらの他の処置に対して完全に未処置であってもよく、これらの1つ又は両方をこれまで受けてこなかった。
【0038】
他の態様において、対象群は、これらの処置の1つ又は両方をこれまで受けてきていてもよいが、本発明によるMT化合物による処置の前に少なくとも2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、12週間、若しくは16週間、又は任意選択で、少なくとも1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月若しくは6カ月などの間、その医薬品を中止している。「中止している」とは、その時点で停止しているか、又はゼロへと着実に漸減されることを意味する。
【0039】
他の態様において、治療剤及び神経伝達修飾化合物の同時の投与の最初の期間が存在し得、その間に、神経伝達修飾化合物の投与量が、上記で説明したようにゼロへと「漸減」される。
【0040】
他の態様において、対象群は、アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置に対して非応答性である、すなわち、これらの対症処置の1つ又は両方に対するかなりの臨床的有用性を示してこなかったとして選択されてもよく、典型的には、このような場合、薬物は患者群には適さないと見なされるが、本明細書において説明したように、LMTXによる従前の処置又は併用処置は、これらの対症処置のその後の使用のための有用性を生じさせ得る。
【0041】
本発明の態様は、これらの判定基準に従って対象群を選択する能動的ステップを含む。このような能動的選択は典型的には、対象又は介護者への特定の照会、及び神経伝達修飾化合物の投与量が、上記で説明したようにゼロへと「漸減」されるとき、治療剤の投与の前、若しくは同時の投与の期間の間に、(1)治療剤による第1の時間枠の前若しくは間に、対象が中止することなく神経伝達修飾化合物による処置を継続している場合は、除外、又は(2)対象がその処置に対して未処置であるか、若しくは十分な時間処置を中止することができる場合は、受け入れ、を含めた適当な措置が関与する。
【0042】
併用療法
本発明において、対症処置(神経伝達修飾化合物)による処置を伴わずに、その間に治療用化合物(MT含有であり得るか、あり得ない)による処置が行われる少なくとも1つの時間枠が存在する。
【0043】
この処置は、すなわち、他の能動的処置を伴わない単独療法であってもよく、又はこれは、(また別の能動的処置、例えば、非対症処置との)併用療法であってもよい。
【0044】
最初の処置の後、治療用化合物は、対症処置(神経伝達修飾化合物)と合わせ(又は再び合わせ)られてもよい。
【0045】
このように、用語「処置」は、「組合せ」処置を含み、ここでは、関連性のある疾患を処置する2つ若しくはそれより多い処置が、例えば、逐次的に又は同時に合わされる。
【0046】
併用処置において、薬剤(すなわち、例えば、本明細書に記載のようなMT含有化合物、又は非含有化合物、プラス1種若しくは複数種の他の薬剤)は、同時又は逐次的に投与し得、個々に変化する用量スケジュールで及び異なる経路によって投与されてもよい。例えば、逐次的に投与されるとき、薬剤は、密接した間隔(例えば、5~10分の期間に亘り)で、或いはより長い間隔で(例えば、状況によっては、1時間、2時間、3時間、4時間かそれ以上の時間離して、又はそれどころかより長い期間離して)投与することができ、正確な投与量レジメンは、治療剤の特性と釣り合っている。
【0047】
このように、一実施形態では、MT化合物の投与は、AChEI又はメマンチンを(一定期間)受けてこなかった対象において開始又は継続されるが、次いで、このようなAChEI又はメマンチン処置による処置は、MT化合物による処置の期間の後、例えば、概ね2カ月、又はより好ましくは、6カ月のMT化合物による処置の後開始するか、又は再開する。
【0048】
典型的には、このような対症的な同時の処置は、このようなことが対象を利すると医師が判断したとき、開始(又は再開)される。
【0049】
疾患修飾及び対症処置
本発明の方法において、治療剤であるMT含有又は非含有化合物は、好ましくは、作用が対症的であるとは異なって、「疾患修飾」(又は推定上の「疾患修飾」)である。
【0050】
この特性は、例えば、当該の障害の病因に対する公知又は予想される効果に基づいて最初から推察し得る。
【0051】
対症療法剤は、基本的な疾患過程に影響を与えることなく疾患の症状を遅らせるか、若しくは緩和し、処置の最初の期間の後で長期的な低下の速度を変化させない。退薬の後で、患者が処置を伴わなければ陥るであろう状況に戻る場合、処置は対症的であると見なされる(Cummings, J.L. (2006) Challenges to demonstrating disease-modifying effects in Alzheimer’s disease clinical trials. Alzheimer’s and Dementia, 2:263-271)。
【0052】
AChEI及びN-メチル-D-アスパルテート受容体アンタゴニストであるメマンチンは、対症処置の例である。タウ凝集阻害剤は、疾患修飾処置の例である。
【0053】
疾患修飾はまた、臨床上の証拠から推察し得、例えば、処置からの退薬の後で、患者が処置を伴わなければ陥るであろう状況に戻る場合、処置は、疾患修飾であるよりむしろ対症的であると見なされ得る。代わりに(治験に関して)、能動的処置に後期に無作為化された患者が能動的処置に早期に無作為化された患者に追いつくことができない場合、処置は疾患を修飾すると見なされる。
【0054】
LMTX化合物
本発明のいくつかの態様は、例えば、国際公開第2007/110627号又は国際公開第2012/107706号に記載されているタイプの「LMTX」化合物に関する。
【0055】
このように、化合物は、下記の式の化合物、又はその水和物若しくは溶媒和物から選択し得る。
【0056】
【0057】
HnA及びHnBのそれぞれ(存在する場合)は、同一又は異なっていてもよいプロトン酸である。
【0058】
「プロトン酸」とは、水溶液中のプロトン(H+)供与体を意味する。プロトン酸内で、A-又はB-は、したがって、共役塩基である。したがって、プロトン酸は、水中で7未満のpHを有する(すなわち、ヒドロニウムイオンの濃度は、1リットル当たり10-7モル超である)。
【0059】
一実施形態では、塩は、下記の式
【0060】
【表2】
を有する混合塩であり、式中、HA及びHBは、異なるモノプロトン酸である。
【0061】
しかし好ましくは、塩は、混合塩ではなく、下記の式
【0062】
【表3】
を有し、式中、H
nXのそれぞれは、プロトン酸、例えば、ジプロトン酸又はモノプロトン酸である。
【0063】
一実施形態では、塩は、下記の式
【0064】
【表4】
を有し、式中、H
2Aは、ジプロトン酸である。
【0065】
好ましくは、塩は、ビスモノプロトン酸である下記の式
【0066】
【0067】
本明細書において使用されるLMTX化合物中に存在し得るプロトン酸の例は、
無機酸:ハロゲン化水素酸(例えば、HCl、HBr)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)、
有機酸:炭酸(H2CO3)、酢酸(CH3COOH)、メタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸
を含む。
【0068】
好ましい酸は、モノプロトン酸であり、塩は、ビス(モノプロトン酸)塩である。
【0069】
好ましいMT化合物は、LMTMである。
【0070】
【0071】
無水塩は、概ね477.6の分子量を有する。LMTコアについての285.1の分子量に基づいて、本発明におけるこのMT化合物を使用するための重量係数は、1.67である。「重量係数」とは、純粋なMT含有化合物が含有するMTの重量に対する、純粋なMT含有化合物の相対的重量を意味する。
【0072】
他の重量係数は、本明細書における例のMT化合物について計算することができ、対応する投与量範囲はそこから計算することができる。
【0073】
したがって、本発明は、概ね0.8~33mg/日のLMTMの総1日用量を包含する。
【0074】
より好ましくは、概ね6~12mg/日のLMTMの総用量を利用し、これは、約3.5~7mgのMTに対応する。
【0075】
他の例のLMTX化合物は、下記の通りである。それらの分子量(無水)及び重量係数をまた示す。
【0076】
【0077】
【0078】
本明細書に記載されている本発明の様々な態様(これらがMT含有化合物に関連するように)において、これは任意選択で、上記のそれらの化合物のいずれかであり得る。
【0079】
一実施形態では、それは、化合物1である。
【0080】
一実施形態では、それは、化合物2である。
【0081】
一実施形態では、それは、化合物3である。
【0082】
一実施形態では、それは、化合物4である。
【0083】
一実施形態では、それは、化合物5である。
【0084】
一実施形態では、それは、化合物6である。
【0085】
一実施形態では、それは、化合物7である。
【0086】
一実施形態では、それは、化合物8である。
【0087】
又は、化合物は、水和物、溶媒和物、又はこれらのいずれかの混合塩であり得る。
【0088】
LMTX投与量
疾患の処置におけるLMTMを使用した従前及び同時発生の結果に基づいて、2~80又は100mg/日の範囲のMT投与量は、本明細書に記載されている疾患のために有益であり得ると結論付けることができる。
【0089】
さらに具体的には、疾患の処置に関してLMTMについての濃度応答のさらなる分析は、好ましい用量が少なくとも2mg/日であり、20~40mg/日、又は20~60mg/日の範囲の用量は、認知上の利点を最大化することが予想され、一方でそれにも関わらず、最小の副作用を伴って耐容性良好であることに関して望ましいプロファイルを維持するという主張を支持する。
【0090】
このように、一実施形態では、総MT用量は、概ね2、2.5、3、3.5、4mgのいずれかから概ね5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59又は60mgのいずれかであり得る。
【0091】
例の投与量は、2~60mgである。
【0092】
例の投与量は、20~40mgである。
【0093】
さらなる例の投与量は、8又は16又は24mg/日である。
【0094】
本発明の対象は、成人のヒトであり得、本明細書に記載されている投与量は、そのベースを前提とする(典型的な体重50~70kg)。必要に応じて、対応する投与量は、対象の重量係数を使用することによって、この範囲外の対象について利用し得、それによって、対象の体重を60kgで割り、その個々の対象についての倍数因子を提供する。
【0095】
当業者が認識するように、所与の1日投与量について、より頻繁の投薬は、薬物のより大きな蓄積をもたらす。
【0096】
本発明者らは、下記のようにMTについての推定上の蓄積係数を導き出した。
【0097】
【0098】
例えば、3.5~7mgのMTの総1日用量を考慮して:
単一の1日用量として与えられるとき、これは、4.5~8の血漿中のMTの蓄積と等しくてもよく、
b.i.d.で分割するとき、これは、5.1~10.3の血漿中のMTの蓄積と等しくてもよく、
t.i.d.で分割するとき、これは、5.8~11.6の血漿中のMTの蓄積と等しくてもよい。
【0099】
したがって、本発明のある特定の実施形態では、より頻繁に(例えば、1日2回[b.i.d.]又は1日3回[t.i.d.])投薬するとき、MT化合物の総1日投薬量はより低くあり得る。
【0100】
一実施形態では、LMTMは、概ね9mg/1日1回;4mg、b.i.d.;2.3mg、t.i.dで投与される(LMTMの重量に基づいて)。
【0101】
一実施形態では、LMTMは、概ね34mg/1日1回;15mg、b.i.d.;8.7mg、t.i.dで投与される(LMTMの重量に基づいて)。
【0102】
本発明のMT化合物、又はそれを含む組成物は、対象に経口的に投与される。
【0103】
一部の実施形態では、MT化合物は、本明細書に記載のようなLMTX化合物、及び薬学的に許容される担体、賦形剤、又は添加剤を含む組成物として投与される。
【0104】
用語「薬学的に許容される」は、本明細書において使用する場合、合理的な利益/リスク比と釣り合った、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー応答、又は他の問題若しくは合併症を伴わない、当該の対象の組織と接触する使用に適した化合物、成分、材料、組成物、剤形などに関する。それぞれの担体、賦形剤、添加剤などはまた、製剤の他の成分と適合性であるという意味で「許容され」なくてはならない。
【0105】
LMTX塩を含む組成物は、いくつかの公開資料、例えば、国際公開第2007/110627号、国際公開第2009/044127号、国際公開第2012/107706号、国際公開第2018019823号及び国際公開第2018041739号に記載されている。
【0106】
一部の実施形態では、組成物は、これらに限定されないが、薬学的に許容される担体、賦形剤、添加剤、アジュバント、充填剤、緩衝液、保存剤、抗酸化剤、滑沢剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば、湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、香味剤、及び甘味剤を含めた当業者には周知の1種若しくは複数種の他の薬学的に許容される成分と一緒に、本明細書に記載のような少なくとも1種のLMTX化合物を含む組成物である。
【0107】
一部の実施形態では、組成物は、他の活性剤をさらに含む。
【0108】
適切な担体、賦形剤、添加剤などは、標準的な医薬のテキストにおいて見出すことができる。例えば、Handbook of Pharmaceutical Additives, 2nd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2001 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA), Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, pub. Lippincott, Williams & Wilkins, 2000;及びHandbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd edition, 1994を参照されたい。
【0109】
一部の実施形態では、組成物は、錠剤である。
【0110】
一部の実施形態では、組成物は、カプセル剤である。
【0111】
一部の実施形態では、前記カプセル剤は、ゼラチンカプセル剤である。
【0112】
一部の実施形態では、前記カプセル剤は、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセル剤である。
【0113】
一部の実施形態では、単位中のMTの量は、2~60mgである。
【0114】
一部の実施形態では、単位中のMTの量は、10~40、又は10~60mgである。
【0115】
一部の実施形態では、単位中のMTの量は、20~40、又は20~60mgである。
【0116】
例の投与量単位(dosage unit)は、2~10mgのMTを含有し得る。
【0117】
さらなる例の投与量単位は、2~9mgのMTを含有し得る。
【0118】
さらなる例の投与量単位は、3~8mgのMTを含有し得る。
【0119】
さらなる好ましい投与量単位は、3.5~7mgのMTを含有し得る。
【0120】
さらなる好ましい投与量単位は、4~6mgのMTを含有し得る。
【0121】
一部の実施形態では、量は、約2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20mgのMTである。
【0122】
本明細書において記載又は説明した重量係数を使用して、当業者は、経口製剤中で使用するMT含有化合物の適当な量を選択することができる。
【0123】
上記で説明したように、LMTMについてのMT重量係数は、1.67である。活性成分の統一された又は単純な端数を使用することは好都合であるため、非限定的例であるLMTM投与量単位は、約3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、15、16、17、34、50、63mgなどを含み得る。
【0124】
非MT含有化合物
本発明のいくつかの態様は、アルツハイマー病又は軽度認知障害の処置のために使用又は意図される、メチルチオニニウム(MT)を含有しない治療用化合物に関する。
【0125】
このような化合物は、疾患修飾又は対症的であることを意図し得る。ADにおける疾患修飾のために標的とされてきた主要な病理は、タウ及びアミロイドである。このような薬物は、アミロイド-β(Aβ)産生を低減させ、Aβ排除を促進することを意図するもの、並びにタウ修飾を増加させ、凝集を阻害する薬物を含む。
【0126】
このような処置に適していると報告されている化合物の非限定的な例は、下記の通りである。
【0127】
アミロイド-β(Aβ)のプロセシングを標的とする薬物
Aβに影響を与える薬物は、BACE阻害剤、免疫療法アプローチ(受動的及び能動的免疫療法の両方)、α-セクレターゼ阻害剤又はモジュレーター、γ-セクレターゼアクチベーター、並びに金属キレート剤(例えば、PBT2)を含めたAβ凝集阻害剤を含む(Panza et al., 2019)。
【0128】
タウタンパク質を標的とする薬物
タウタンパク質を標的とする薬物は、タウ凝集阻害剤(例えば、ダウノルビシン、コンゴーレッド、アントラキノン、ベンゾチアゾール、シアニン色素、フェニルチアゾリル-ヒドラジド、N-フェニルアミン、ローダニン、ポリフェノール、ポルフィリン、キノキサリン、アミノチエノピリダジン、オレオカンタール、クルクミンなど);微小管安定剤(例えば、エピチロンD、ジクチオスタチン;TPI-287);タウのリン酸化を防止するキナーゼ阻害剤(例えば、チデグルシブ、セレン酸ナトリウム、LiCl);アセチル化阻害剤(サルサラート);脱グリコシル化阻害剤(MK8719);及びホスホジエステラーゼ4阻害剤(BPN14770)を含む(Congdon and Sigurdsson, 2015;特に、
図4を参照されたい)。加えて、タウ免疫療法アプローチは、臨床治験中である(例えば、AADvac1、ACI-35、RG7345)。
【0129】
神経再生をベースとする戦略を標的とする薬物は、例えば、繊毛様神経栄養因子をベースとするペプチドを含む(Kazim and Iqbal, 2017)。
【0130】
複数の推定上のADが関連する標的を有する薬物、例えば、ディメボン(又はラトレピルジン)(Ustyugov et al., 2018)。
【0131】
ADについての別の提案された治療的なアプローチは、シナプス連絡、アセンブリーの欠陥、及びAβ又はタウの増進された排除、神経栄養性支持における障害、神経炎症性シグナル伝達の拡散、及び先天性免疫応答の変化を標的とするmiRNA阻害剤を介したものである(Jaber et al., 2019)。miRNA阻害剤は、細胞における内在性miRNA機能を特異的に阻害する一本鎖修飾RNAである。神経miRNAは、樹状突起形成(miR-132、miR-134及びmiR-124が関与する)、シナプス形成及びシナプス成熟(miR-134及びmiR-138が関与していると考えられる)を含めたシナプス発生の様々な段階において関与している。
【0132】
ADに対して症状改善効果を有する薬物
より好ましくないが、本発明はまた、原則として、疾患修飾ではない治療に適用し得る。例えば、本明細書に記載されている恒常性応答によって他の方法で影響を受け得る異なる対症処置、例えば、覚醒剤、例えば、アンフェタミン(例えば、Dolder, Christian R., Lauren Nicole Davis, and Jonathan McKinsey.“Use of psychostimulants in patients with dementia.” Annals of Pharmacotherapy 44.10 (2010): 1624-1632.を参照されたい)。
【0133】
MCI
軽度認知障害は、FDAによって有効な疾患標的として認識されている。これは、認知症の診断のための臨床的判定基準にまだ合致しない僅かな程度の認知障害を有することによって定義される。
【0134】
症候群性MCIについての代表的な判定基準は、下記に列挙した特徴を含む:
A.患者は、正常でも痴呆になってもいない。
B.客観的認識力テスト(例えば、記憶二次試験)と併せた、長期に亘る客観的に測定された低下及び/又は本人及び/又は情報提供者による低下の主観的な報告によって示される認知衰退の証拠が存在する。
C.日常生活の活動が持続されており、複雑な道具的機能が損なわれていないか、又は最低限に障害されている。
(Winblad, B. et al. (2004)“Mild cognitive impairment - beyond controversies, towards a consensus: report of the International Working Group on Mild Cognitive Impairment.”J. Intern. Med. 256: 240-246をまた参照されたい)。
【0135】
上記で使用するように、用語「認知症」は、American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Washington, D.C., 1994(「DSM-IV」)において定義されているようなその最も広範な意味での精神状態を指す。DSM-IVは、記憶における障害を含む複数の認知欠損によって特性決定されるような「認知症」を定義し、推定される病因による様々な認知症を列挙している。DSM-IVは、認知症及び関連する精神障害のこのような診断、分類及び治療のための一般に受け入れられる標準を示している。
【0136】
本発明を好ましくは使用し得るMCI対象は、MMSE 24、25、26、27、28又は29以下より好ましくは、MMSE 24、25、26以下、最も好ましくは、MMSE 24又は25以下を有する者である。MMSE試験は、本明細書の下記でより詳細に考察する。
【0137】
本発明の別の態様は、上記のような方法、例えば、対象におけるアルツハイマー病若しくは軽度認知障害の治療的処置の方法、又は化合物の有効性をアセスメントするための方法における使用のための本明細書に記載のような治療用化合物に関し、ここで、それらは対象におけるアルツハイマー病又は軽度認知障害のための推定上の治療剤である。
【0138】
本発明の別の態様は、このような方法において使用するための医薬の製造における本明細書に記載されている治療用化合物の使用に関する。
【0139】
本発明のある特定の態様は、対象におけるAD又はMCIのための推定上の治療剤であるメチルチオニニウム(MT)を含有しない化合物の有効性をアセスメントするための方法に関する。
【0140】
国際公開第2009/060191号は、神経変性障害のための推定上の治療剤についての臨床治験の設計に関し、このような治験の分析の一般的遂行及び手段に関して相互参照によって本明細書において特に組み込まれている。
【0141】
本発明の方法は一般に、医薬品(又は推定上の医薬品、例えば、試験中の医薬品(IMP))を試験するための臨床治験に関係しているが、それらはまた、治療を管理するために用いてもよく、それによって、医薬品を用いた新規な処置レジメンはそれらの有効性について試験又は比較される。
【0142】
このように、本明細書における方法は、臨床治験を行うために、又は前記治験を行うための系を提供するために使用し得る。
【0143】
このような系は、対象においてアルツハイマー病又は軽度認知障害のための推定上の治療剤であるメチルチオニニウム(MT)を含有しない化合物の有効性をアセスメントするためであり得、この系は、
(a)(i)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けていない対象;及び
(ii)アセチルコリン若しくはグルタメート神経伝達物質の活性の修飾因子である神経伝達修飾化合物による処置をこれまで受けているが、その処置を前記アセスメントの前に少なくとも3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、若しくは8週間中止している対象
のみからなる対象群を選択するステップと;
(b)可能性がある疾患の進行のベースライン指標によって対象群を少なくとも2つの部分群へと階層化するステップと、
(c)各対象群のメンバーが非MT含有化合物で処置される処置時間枠を選択するステップと、
(d)それぞれの処置された患者群、及び任意選択でプラセボ又は最小有効性比較アームである前記部分群の比較アームについて導き出される、心理測定的及び任意選択で生理学的結果尺度を選択し、
それによって、医薬品についての有効性尺度を、処置された患者群及び比較アームの比較から導き出し得るステップと
を含む。
【0144】
この方法は、例えば、US Food and Drug Administration(FDA)又はEuropean Agency for the Evaluation of Medicinal Products(EMEA)によって必要とされるようなマーケティングのための適当な規制基準に合致するのに適した臨床的有効性の証拠を提供するのに特に適している。
【0145】
対象群、及び可能性がある疾患の進行の予測的指標
対象群は典型的には、通常の判定基準(例えば、National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke - Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association[NINCDS-ADRDA];DSM-IVなど)を使用して当該の障害であると診断された患者である。
【0146】
DSM-IVは、認知症及び関連する精神障害をこのように診断、分類及び処置のための一般に受け入れられる標準について記載する。
【0147】
本発明の方法において、対象群は、可能性がある疾患の進行のベースライン指標によってそれ自体層別化される。これは、疾患の重症度に関してアセスメントすることができる。
【0148】
好ましくは、ADにおいて、疾患の重症度は、いわゆる、臨床的認知症尺度(CDR)スケールを使用してアセスメントする(Hughes, C.P., Berg, L., Danziger, W.L., Coben, L.A., Martin, R.L. (1982) A new clinical scale for the staging of dementia. British Journal of Psychiatry, 140:566-572;Morris, J.C. (1993) The Clinical Dementia Rating (CDR): Current version and scoring rules. Neurology, 43:2412-2414)。
【0149】
CDRは任意選択で、臨床能力試験、例えば、CAMDEXの短いバージョンによって通知されてもよく(Roth, M., Tym, E., Mountjoy, C.Q., Huppert, F.A., Hendrie, H., Verma, S. & Goddard, R. (1986) CAMDEX. A standardised instrument for the diagnosis of mental disorder in the elderly with special reference to the early detection of dementia. British Journal of Psychiatry, 149:698-709)。代わりに、CDRは、Hughes et al. (1982)又はMorris (1993)によって定義されたような精神科構造化面接によって通知されてもよい。
【0150】
例えば、部分群は、1(軽度部分群)又は2(中等度部分群)のCDR尺度を有する対象から形成されてもよい。
【0151】
疾患の重症度はまた、例えば、国際公開第02/075318号に記載されている「Braakステージ分類」方法を使用してアセスメントし得る。次いで、部分群は、1、2、3及び4などまでのBraakステージを有する対象から形成しされてもよい。
【0152】
上で述べたように、対象群は、ある特定の対症処置へのそれらの従前の曝露に関してさらに能動的に選択される。
【0153】
部分群は一般に、平行して試験を受ける。
【0154】
処置時間枠
AD又はMCIに関する処置時間枠は、部分群の疾患の重症度に基づいて選択し得る。本発明による臨床治験についての典型的な時間枠は、12週間以上、16週間以上、24週間以上、25週間以上、36週間以上、50週間以上、100週間以上(又は3カ月以上、4カ月以上、6カ月以上、9カ月以上、12カ月以上、24カ月以上など)であり得る。このように選択した時間枠によって、本発明は、医薬品の有効性のより正確な尺度を導き出す新規な尺度又は分析の使用を提供する。
【0155】
好ましい治験は、上記の期間未満、例えば、9カ月未満、6カ月未満、5カ月未満、4カ月未満、又は3カ月未満であり得る。
【0156】
例えば、より短い時間スケールについて、及び例えば、ベースラインにおいて相対的に低い疾患の重症度を有する患者(ここでは、心理測定的結果尺度によって測定されるような認知低下は、認知的予備力によって覆い隠されてもよい)において、さらなる生理学的結果尺度及び/又はより感受性の心理測定的結果尺度を使用することは好ましくあり得る。
【0157】
他の治験は、6カ月超又は12カ月超であり得る。
【0158】
例えば、より長い時間スケールについて(及び例えば、「元気な生存者」の人為的結果が起こる可能性がより高い、ベースラインにおいて相対的に高い疾患の重症度を有する患者において)、中断の効果についての分析を補正するために、処置を中断したそれぞれの個人について直線的インピュテーション方法を使用することが好ましくあり得る。
【0159】
時間枠は、部分群について同一又は異なっていてもよい。
【0160】
心理測定的結果尺度
方法において使用するための心理測定的結果尺度は、適当な規制機関によって受け入れられるような通常のものであり得る。
【0161】
ADについて、アルツハイマー病アセスメントスケール-認知サブスケール[ADAS-cog]が好ましい(Rosen WG, Mohs RC, Davis KL. A new rating scale for Alzheimer’s disease. Am J Psychiatry. 1984 Nov;141(11):1356-64)。
【0162】
別の規準化された試験は、認知機能を類別するために単純で迅速に施される方法として提案された簡易精神状態検査[MMSE]である(Folstein MF, Folstein SE & McHugh PR.‘Mini-mental state’. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. Journal of Psychiatric Research 1975 12 189-198)。MMSEは、高齢患者及び精神病患者における認知症による認知機能障害の検出についての最も広範に使用される認知スクリーニング手段である(Tombaugh TN & McIntyre NJ. The mini-mental state examination: a comprehensive review. Journal of the American Geriatric Society 1992 40 922-935)。MMSEは、見当識、記憶、注意及び言語機能を評価する。
【0163】
心理測定的結果尺度のアセスメント又は分析は、処置を中断した個々の対象の利用可能な心理測定的スコアに対する直線的インピュテーション分析を行うステップを含んでもよい。これは、前記スコア(例えば、ADAS-cog変化スコア)のグラフにフィットさせた直線の対象毎の外挿が関与してもよい。
【0164】
生理学的結果尺度
本明細書に記載のように、心理測定的試験に加えて、本発明者らは、例えば、機能的脳スキャンにおける変化の分析を介して神経生理学的結果尺度の使用を提供する。これは、相対的に短い期間、例えば、3カ月又は4カ月の間試験するとき、疾患修飾処置の分析の感受性を増加させる。
【0165】
スキャンは、リガンド99mTc-HMPAOを伴うSPECT(単一光子放出型断層撮影)、又はADにおける側頭頭頂連合新皮質における18フルオロ-デオキシグルコース(FDG)を使用したPET(ポジトロン放出断層撮影)によって測定するような脳グルコース取込みにおける低減を用いてもよい。
【0166】
診断のために(例えば、Talbot, P.R., Lloyd, J.J., Snowden, J.S., Neary, D., Testa, H.J. (1998) A clinical role for 99mTc-HMPAO SPECT in the investigation of dementia? Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry, 64:306-313.;Masdeu, J.C., Zubieta, J.L., Arbizu, J. (2005) Neuroimaging as a marker of the onset and progression of Alzheimer’s disease. Journal of the Neurological Sciences, 236:55-64を参照されたい)及び治療に対する応答を調査することにおいて(Venneri, A., Shanks, M.F., Staff, R.T., Pestell, S.J., Forbes, K.E., Gemmell, H.G., Murray, A.D. (2002) Cerebral blood flow and cognitive responses to rivastigmine treatment in Alzheimer’s disease. NeuroReport; 13:83-87)、このようなスキャンの使用は一般に当技術分野で周知である。
【0167】
磁気共鳴に基づいた構造イメージングは、アルツハイマー認知症が疑われる患者の臨床的アセスメントの不可欠な部分である。内側側頭構造の萎縮は、軽度認知障害段階における有効な診断マーカーであると考えられる。さらに、全脳及び海馬萎縮の速度は、神経変性の感受性マーカーである(Frisoni et al., 2010, Nature Reviews Neurology 6:67-77)。逆に、アルツハイマー病進行の尺度として磁気共鳴イメージングを使用して検出される脳室拡大をまた使用することができる(Nestor et al., 2008, Brain 131: 2443-2454)。
【0168】
これらの技術に加えて、脳における病的な負荷の直接の尺度を可能とする任意の他の適用可能な方法論を用い得ることを認識されたい。
【0169】
比較アーム
部分群の無作為化に続いて、各部分群におけるいくつかの対象は、比較処置のために選択される。好ましくは、これは、治験のプラセボ(非処置)又は最小有効性比較アームである。しかし、代替の設計(既存の処置を差し控えることは非倫理的である)は、単独での又はいくつかの事前に特定した組合せでの代替の能動的処置アームへの無作為化が関与する。
【0170】
最終的な有効性尺度
典型的には、これは、関連性のある処置及びプラセボアームを比較するための適当な統計学的方法に基づいて、最終的に心理測定的結果をベースとする。これは、任意選択で、下記の実施例において示すような、ANCOVA、又は必要に応じて線形混合効果アプローチであり得る(Petkova, E. and Teresi, J. (2002) Some statistical issues in the analysis of data from longitudinal studies of elderly chronic care populations. Psychosomatic Medicine, 64:531-547)。生理学的結果尺度はまた、最終の分析において用い得る。この点において、有効性を示す適切な臨床エンドポイントは、本開示を考慮して当業者が選択することができる。
【0171】
具体的には、いくつかの指定の用量での能動的処置に無作為化された対象、及び比較処置、用量又はプラセボを受けている対象の間に統計的有意差が存在する場合、有効性を示すことができる。
【0172】
本明細書に記載されている治療用化合物(例えば、規定の用量のMT含有化合物、プラス任意選択で、他の成分)は、それらの治療上の使用又は予防的使用、例えば、上記で考察したような単独療法又は併用療法におけるそれらの使用のための説明書と共にラベルされたパケット中で提供し得る。
【0173】
一実施形態では、パックは、製薬技術において周知のようなボトルである。典型的なボトルは、子どもが開けることのできないHDPEプッシュロッククロージャを有する薬局方グレードのHDPE(高密度ポリエチレン)から作製し得、サシェ又はキャニスター中に存在するシリカゲル乾燥剤を含有し得る。ボトル自体は、ラベルを含み、方法が記載する通りの使用のための説明書、及び任意選択で、ラベルのさらなるコピーと共に段ボール容器中にパッケージ化し得る。
【0174】
一実施形態では、パック又はパケットは、このように実質的に水分不浸透性であるブリスターパック(好ましくは、アルミニウムキャビティ及びアルミ箔を有するもの)である。この場合、パックは、使用のための説明書及び容器上のラベルと共に段ボール容器中にパッケージ化し得る。
【0175】
前記ラベル又は説明書は、例えば、1日1回、b.i.d.、又はt.i.dに基づいて、本明細書に記載のような組成物の最大の許される1日投与量に関する情報を提供し得る。
【0176】
前記ラベル又は説明書は、処置の推奨される期間に関する情報を提供し得る。
【0177】
塩及び溶媒和物
本明細書に記載されているLMTX含有化合物は、塩であるが、これらはまた、混合塩の形態(すなわち、別の塩と組み合わせた本発明の化合物)で提供し得る。このような混合塩は、用語「及び薬学的に許容されるその塩」によって包含されることを意図する。他に特定しない限り、特定の化合物への言及はまた、その塩を含む。
【0178】
本発明の化合物はまた、溶媒和物又は水和物の形態で提供し得る。用語「溶媒和物」は、本明細書において通常の意味で使用されて、溶質(例えば、化合物、化合物の塩)及び溶媒の複合体を指す。溶媒が水である場合、溶媒和物は、水和物、例えば、一水和物、二水和物、三水和物、五水和物などと好都合に言及し得る。他に特定しない限り、化合物への言及はまた、溶媒和物及びその任意の水和物形態を含む。
【0179】
当然、化合物の塩の溶媒和物又は水和物はまた、本発明に包含される。
【0180】
処置及び予防法
用語「処置」は一般に、状態を処置する状況において本明細書において使用されるように、ヒト又は動物(例えば、獣医学用途における)の処置及び治療に関し、ここでは、いくつかの望ましい治療効果、例えば、状態の進行の阻害が達成され、進行の速度の低減、進行の速度の停止、状態の退行、状態の寛解、及び状態の治癒を含む。
【0181】
本発明はまた、予防的尺度としての処置を包含する。
【0182】
用語「治療有効量」は、本明細書において使用する場合、望ましい処置レジメンによって投与したとき、合理的な利益/リスク比と釣り合った、いくつかの望ましい治療効果を生じさせるのに有効である、本発明の化合物、又は前記化合物を含む材料、組成物若しくは剤形のその量に関する。治療用化合物は典型的には、「治療有効量」又は「予防的有効量」で投与される。
【0183】
用語「予防的有効量」は、本明細書において使用する場合、望ましい処置レジメンによって投与したとき、合理的な利益/リスク比と釣り合った、いくつかの望ましい予防効果を生じさせるのに有効である、本発明の化合物、又は前記化合物を含む材料、組成物若しくは剤形のその量に関する。
【0184】
「予防法」は、本明細書の文脈において、完全な成功、すなわち、完全な保護又は完全な予防に取り組むことであると理解すべきではない。むしろ、本文脈において、予防法は、健康を保つことを目的として、その特定の状態を遅延、緩和又は回避することを助けることによって、症状による状態の検出の前に施される手段を指す。
【0185】
いくつかの特許及び公開資料は、本発明、及び本発明が関連する現況技術をより完全に説明及び開示するために本明細書において引用される。これらの参照文献のそれぞれは、それぞれの個々の参照文献があたかも参照により組み込まれていることが特に及び個々に示されているのと同じ程度まで、参照によりその全体が本開示に組み込まれている。
【0186】
下記の請求項を含めた本明細書を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単語「含む(comprise)」及びバリエーション、例えば、「含む(comprises)」及び「含むこと(comprising)」は、記述した整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群の除外を意味しないと理解される。
【0187】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用するように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈によって明らかにそれ以外のことの指示がない限り、複数の参照対象を含むことに留意しなければならない。このように、例えば、「医薬担体」への言及は、2種若しくはそれより多いこのような担体などの混合物を含む。
【0188】
範囲は、本明細書において、「約」の1つの特定の値から、及び/又は「約」の別の特定の値までと表されることが多い。このような範囲が表されるとき、別の実施形態は、1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」の使用によって近似値として表されるとき、特定の値は別の実施形態を形成することが理解される。
【0189】
本明細書において任意の副題は、便宜のためにのみ含まれ、本開示を決して限定するものと解釈されない。
【0190】
本発明を下記の非限定的な図面及び実施例を参照してこれからさらに説明する。本発明の他の実施形態は、これらを考慮して、当業者には思い当たる。
【0191】
本明細書において引用したすべての参照の開示は、それが当業者によって本発明を行うために使用し得る限り、本明細書において相互参照によってここに特に組み込まれる。
【実施例】
【0192】
実施例
実施例1-MT含有化合物の提供
本明細書に記載されているMT含有化合物の化学合成のための方法は、当技術分野において公知である。例えば:
化合物1~7の合成は、国際公開第2012/107706号に記載されている方法、又はそれらに類似した方法によって行うことができる。
化合物8の合成は、国際公開第2007/110627号に記載されている方法、又はそれらに類似した方法によって行うことができる。
【0193】
実施例2-タウトランスジェニックマウスモデルにおけるLMTM及び対症処置の間の干渉の調査
図1は、確立された干渉を例示し、次いで、LMTMを対症処置と組合せて摂取した。
【0194】
本発明者らは、対症処置へのアドオンとしてのLMTMの低減した有効性に関与している機序を理解する目的を伴って良好に特性決定されたタウトランスジェニックマウスモデル(ライン1、「L1」;(Melis et al., 2015b))において研究を行った。
【0195】
要約すれば、本発明者らの知見は、恒常性機序が脳機能の異なるレベルにおいて複数の神経系を下方制御し、対症処置によって誘発される慢性の薬理学的活性化を補うことを示唆する。
【0196】
LMTMがアセチルコリンエステラーゼ阻害剤への従前の慢性曝露のバックグラウンドに対して与えられた場合、単独で与えられたLMTMと比較して、この下方制御の効果は、神経伝達物質放出、シナプスタンパク質のレベル、ミトコンドリア機能及び行動上の利点を低減させることである。したがって、臨床的に最初に見られる処置有効性における干渉は、タウトランスジェニックマウスモデルにおいて再現することができる明らかな神経薬理学的ベースを有する。
【0197】
重要なことに、本発明者らが同定した恒常性効果は、タウ凝集阻害剤に限定する必要がある、AD又はMCIにおける疾患修飾治験、又は実際に他の種類の治療用化合物治験を行うためにより一般の関連性を有する可能性がある。
【0198】
本研究のいくつかにおいて使用されたL1マウスモデルにおいて、NMRIマウス系統におけるThy1プロモーターの制御下で、2N4Rタウアイソフォームの残基296~390を包含する3リピートタウフラグメントの過剰発現が存在する(国際公開第2002/059150号)。このフラグメントは、PHFのタンパク分解的に安定なコア内で最初に同定されたタウのセグメントに対応し(Wischik et al., 1988a;Wischik et al., 1988b)、ピック病におけるAD及びタウフィラメントにおけるPHFの低温電子顕微鏡観察によって最近確認されたフラグメント306~378を包含する(Fitzpatrick et al., 2017;Falcon et al., 2018)。
【0199】
L1マウスモデルのさらなる特徴は、前脳基底部におけるコリンアセチルトランスフェラーゼについてのニューロン免疫反応性の顕著な喪失、並びに新皮質及び海馬におけるアセチルコリンエステラーゼの対応する低減を含み、アセチルコリンの低減を示す。野生型マウスからのものと比較して、L1マウスからの脳シナプトソーム調製物についてのグルタメート放出の概ね50%の低減がまた存在する。上記の点に関して、したがって、L1マウスはまた、ADの特徴を示しているコリン作動性(Mesulam, 2013;Pepeu and Grazia Giovannini, 2017)及びグルタミン酸作動性(Revett et al., 2013)機能における神経化学的障害を模倣する。
【0200】
神経伝達物質機能におけるこれらの障害が基底をなし、L1マウスモデルは、シナプスタンパク質の統合において障害を示す。前脳基底(垂直対角帯)における複数のシナプスタンパク質についての定量的免疫組織化学は、野生型マウスにおけるSNARE複合体(例えば、SNAP-25、シンタキシン、VAMP2;Li and Kavalali, 2017において概説されている)を含むタンパク質、並びに小胞糖タンパク質であるシナプトフィジン及びα-シヌクレインのレベルにおいて通常は高度の相関性が存在することを示す。これらの相関性は、L1マウスにおいて大きく失われている(表1)。残る唯一の相関性は、シナプトフィジン、シンタキシン及びVAMP2の間である。したがって、シナプス小胞タンパク質レベルは、SNARE複合体又はα-シヌクレインのタンパク質にもはや定量的にリンクしていない。これは、L1マウスのタウオリゴマー病態がシナプスにおける小胞及び膜ドッキングタンパク質の間の機能的統合と干渉することを示唆する。
【0201】
【0202】
実施例3-実験のパラダイム、結果及び考察
実験のパラダイム
対症処置及びLMTMの間のマイナスの相互作用を研究するのに使用した処置スケジュールは、臨床的症状を模倣するように設計し、ここでは、対象を最初に慢性的にコリンエステラーゼ阻害剤又はメマンチンで処置し、その後、LMTMを与える。下記において、本発明者らは、AChEI、リバスチグミンについて得られた重要な結果のいくつかについて要約する。
【0203】
野生型及びL1マウス(各群についてn=7~16)を、リバスチグミン(0.1又は0.5mg/kg/日)又はメマンチン(2又は20mg/kg/日)又はビヒクルで5週間強制飼養によって事前処置した。それに続く6週間について、LMTM(5及び15mg/kg)又はビヒクルを、また胃管栄養法によってこの毎日の処置レジメンに加えた。動物を第10週及び第11週の間にオープンフィールド水迷路における問題解決タスクを使用して行動を試験し、次いで、免疫組織化学及び他の組織分析のために屠殺した。
【0204】
マウスからヒトへの用量を変換することは、いくつかの要因を考慮することが必要である。マウスにおける5mg/kg/日は、血漿中の親MTのCmaxレベルに関してヒトにおける概ね8mg/日に対応するが、この用量は、病態及び行動に対する効果についての閾値にある。15mg/kg/日のより高い用量は一般に、LMTMがL1マウスモデルにおいて十分に有効であるために必要である(Melis et al., 2015a)。これは、ヒト(高齢のヒトにおいて37時間)と比較した、マウスにおけるMTの非常により短い半減期(4時間)と関連し得る。免疫組織化学のために切開した組織を抗体で標識し、Image Jを使用して加工し、タンパク質発現を濃度測定によって決定した。データは、単位のないZ-スコア変換として提示する。
【0205】
海馬におけるアセチルコリン(ACh)レベルの測定のために、動物(野生型又はL1)を、リバスチグミン(0.5mg/kg/日)を伴う若しくは伴わない2週間の従前の処置の後で、LMTM(5mg/kg/日、2週間)で処置した。リバスチグミンをAlzetミニポンプで皮下に投与し、一方、LMTMを経口胃管栄養法によって投与した。埋め込んだ微小透析プローブ及び細胞外液のHPLC分析を使用して、AChのレベルを海馬において測定した。
【0206】
データは群平均及び平均の標準誤差として提示し、アルファを0.05に設定してパラメトリック統計学を使用して分析した。
【0207】
動物に対する実験は、地方の倫理的承認、UK Scientific Procedures Act (1986)によるプロジェクトライセンスを伴うEuropean Communities Council Directive (63/2010/EU)に従って、並びにGerman Law for Animal Protection (Tierschutzgesetz)及びPolish Law on the Protection of Animalsに従って行った。
【0208】
結果
野生型マウスにおけるLMTM及びリバスチグミンによる処置の効果
単独での、又は慢性リバスチグミンのバックグラウンド上のLMTMによる処置の効果を、表2において要約する。
【0209】
野生型マウスにおいて、LMTM処置に続いて海馬におけるベースのAChレベルにおいて有意な2倍の増加、及びマウスがリバスチグミンによる従前の処置の後でLMTMを受けたとき30%の低減が存在した(
図2A)。
【0210】
LMTM処置単独に続いて海馬、大脳皮質視覚野、対角帯及び中隔野において測定したシナプトフィジンレベルにおける3倍の増加、並びにLMTMがリバスチグミンによる従前の処置のバックグラウンドに対して与えられたとき、同じ規模の統計的に有意な低減がまた存在した(
図2B)。
【0211】
【0212】
タウトランスジェニックL1マウスにおけるLMTM及びリバスチグミンによる処置の効果
LMTM単独の活性化効果及びリバスチグミンとの組合せの阻害効果は、野生型マウスにおけるよりもタウトランスジェニックL1マウスにおいてより大きく、より全般的である(表3を参照されたい)。LMTM単独は、海馬におけるACh放出、脳シナプトソーム調製物からのグルタメート放出、シナプトフィジンレベル、ミトコンドリア複合体IV活性、及び行動の変化におけるかなりの増加を生じさせる。LMTMが慢性のリバスチグミンによって先行されたとき、これらの効果のどれもが見られなかった。実際に、SNARE複合タンパク質(
図3A)及びシヌクレイン(
図3B)の場合、組合せによって生じた低減は、LMTM処置の非存在下で見られるもの未満のレベルであった。
【0213】
【0214】
単独で与えられるLMTMは、タウトランスジェニックL1マウスからの脳ミトコンドリアにおける複合体IV活性のかなりの増進を生じさせた。リバスチグミンによる慢性事前処置はまた、この効果を除去した(
図4)。
【0215】
神経伝達物質放出、シナプスタンパク質レベル及びミトコンドリア複合体IV活性に対する効果とは対照的に、リバスチグミンによる慢性事前処置は、タウ凝集阻害剤としてのLMTMの一次作用に対する効果を有さない。予想どおりに、光学密度によって測定したPHFのコアタウユニットに対する免疫反応性は、タウトランスジェニックL1マウスにおいて上昇し、これは、LMTMによる処置に続いて低減した(
図5A)。逆に、ChAT陽性ニューロンの数は、L1マウスにおいて低減し、LMTMによる処置によって回復する(
図5B)。両方の効果は、リバスチグミンによる従前の慢性処置の後でLMTMが与えられる場合、L1マウスにおいて持続する。
【0216】
実施例3の考察
ここで提示する結果は、LMTMの有効性における低減が、ヒトにおける対症処置へのアドオンとして与えられるとき、野生型マウス及びタウトランスジェニックマウスモデルの両方において再現することができることを示す。したがって、これは、疾患修飾処置、例えば、LMTMに対してどのように脳が応答するかを変化させる効果を有する神経薬理学的機序に基づく。単独療法又はアドオン療法としてのLMTMに対する臨床応答における差異は、これらの2つの状況におけるLMTMの根底にある神経薬理学における差異によって説明される可能性があることを結果は意味する(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018)。代わりに、対症処置を処方された患者が未処置の患者とともかく異なるという推定に基づいた説明は、いくつかの理由のために失敗する。これらの2つの患者群の間のベースラインの重症度における軽微で変動する差異は、処置応答における差異を説明しないことが示されてきた(Gauthier et al., 2016;Wilcock et al., 2018)。ADNIプログラム(Schneider et al., 2011)における処置された及び未処置のMCI患者における低下の速度における明白な差異は、ベースラインにおける重症度が分析において説明されるとき消滅する(Wilcock et al., 2018)。未処置の患者がADを現実に有さないか、又は異なる形態のADを有するという推定はまた、第3相治験に参加している対象からのベースラインの神経イメージングデータと一致しない(Wilcock et al., 2018)。最終的に、
図1において認知低下データについて要約されるように、単独療法及びアドオン療法対象において同様の濃度応答関係が存在するが、処置効果が全ての臨床結果及び神経イメージング結果に対して単独療法について一貫してより大きいことを本発明者らは最近示してきた。
【0217】
本発明者らがこれから報告する結果は、野生型マウス及びタウトランスジェニックマウスにおいてLMTM処置によって生じた2つのクラスの効果が存在することを示す:コリンエステラーゼ阻害剤への従前の曝露による動的モジュレーションに供されるもの、及び供されないもの。タウトランスジェニックマウスにおいて、モジュレートすることができる処置効果は、海馬におけるACh放出の増加、シナプスタンパク質における変化、ミトコンドリア複合体IV活性における増加、及び行動機能低下の反転を含む。薬理学的モジュレーションに供されない唯一の処置効果は、例えば、前脳基底におけるコリンアセチルトランスフェラーゼ発現の回復によって測定されるような、タウ凝集病態に対する一次効果、及び神経機能に対するその即時の効果である。
【0218】
LMTM処置効果の2つのクラスを、
図6において要約する。
【0219】
薬理学的モジュレーションに供される効果は、それら自体が2つのタイプのものである:タウ凝集病態に対する効果によって増大するもの、及び野生型マウスにおいてまた見られるもの。本発明者らが測定した結果のうち、野生型マウスにおいて単独で与えられたLMTMのプラスの処置効果は、海馬におけるAChレベルの増加、及び複数の脳領域におけるシナプトフィジンレベルの増加を含んだ。したがって、LMTM処置は、タウ凝集病態を欠いている野生型マウスにおいて治療的に関連性のある用量で神経機能を活性化することができる。
【0220】
シナプトフィジンの増加は、活動電位を介した活性化に続くプレシナプスからの神経伝達物質の放出のために必要とされるシナプス小胞の数又はサイズの増加を示す。したがって、シナプトフィジンレベルの増加は、認知機能及び他の精神機能を支援するのに必要とされるいくつかの神経伝達物質の増加と関連するように思われる。
【0221】
MT部分は弱いコリンエステラーゼ阻害剤であることが報告されてきた(Pfaffendorf et al., 1997;Deiana et al., 2009)が、これがAChレベルの増加に関与する機序であることはありそうにない。
【0222】
具体的には、(M2/M4負のフィードバック受容体を遮断することによって)AChレベルを増加させるスコポラミンを使用したさらなる実験は、LMTMによって生じた増加が、リバスチグミン単独で見られるものより少なく、その組合せが再び野生型マウスにおいて阻害性であったことを示した。これらの実験において使用されるコリンエステラーゼ阻害の条件(灌流液に加えられた非常に少量のコリンエステラーゼ阻害剤、100ナノモルのリバスチグミン)下で、海馬におけるAChレベルは上昇し、それらが十分に強く上昇したとき、それらはM2/M4サブタイプのプレシナプスのムスカリン受容体(いわゆる、負のフィードバック受容体)を活性化することによってさらなるACh放出を制限する。
【0223】
この状況において、灌流液へとスコポラミン(1μM)を加えることは、これらのプレシナプス受容体を遮断し、結果として、AChレベルが3~5倍に上昇する。これらの実験においてLMTMがリバスチグミンと相加的ではないという事実は、LMTMがリバスチグミンと異なる作用機序を有するという結論を指示する。言い換えると、LMTMは高濃度でコリンエステラーゼの弱い阻害剤であると記載されてきたが、少量のリバスチグミンとの相加効果は存在しないため、本効果はコリンエステラーゼ阻害と無関係であるように思われる。
【0224】
MT部分はミトコンドリア複合体IV活性を増進することが知られており(Atamna et al., 2012)、ミトコンドリアは、プレシナプス機能の恒常性調節において重要な役割を有する(Devine and Kittler, 2018)ため、ACh及びシナプトフィジンレベルにおける増加は、プレシナプスミトコンドリア活性における増加によって理論的に説明し得る。特に、MT部分は、複合体I及び複合体IVの間の電子シャトルとして作用することによって、酸化的リン酸化を増進すると考えられる(Atamna et al., 2012)。MT部分は、複合体I(-0.4mV)及び複合体IV(+0.4mV)の酸化還元電位の間の中間である概ね0mVの酸化還元電位を有する。
【0225】
しかし、野生型マウスにおける複合体IV活性の直接の測定は、LMTM処置に続いて増加を示さなかった。LMTMの活性化効果はまた、野生型マウスにおける空間認識記憶における改善と関連しなかった。
【0226】
リバスチグミンによる慢性事前処置は、野生型マウスにおける脳において、海馬におけるコリン作動性活性化を抑制し、シナプトフィジンレベルをより一般に低減させた。野生型マウスにおいて病態は存在しないため、この効果は、タウ凝集病態に対するLMTMの効果に明らかに依存しない。むしろ、これらは、それぞれが神経機能に対して活性化効果を有する2つの薬物を合わせることの効果を相殺する全般的な恒常性下方制御を指し示す。恐らく、シナプス間隙における過剰なレベルのAChから通常は保護する一次的機序は、AChE活性の増加である。リバスチグミンはこの制御系の慢性機能低下を生じさせるため、LMTMによって別に活性化される経路は、コリン作動性及び他の神経系における恒常性を保存するために抑制される。このように、脳がコリンエステラーゼ阻害剤による慢性刺激に既に供されている場合、LMTMによって誘発される効果は動的な下方制御に供される。
【0227】
定性的に同様であるが、単独で与えられるLMTMの効果は、タウトランスジェニックL1マウスにおいて非常により顕著であり、より幅広い。これについての最も可能性がある説明は、LMTMが、タウオリゴマーに対する阻害効果とタウ依存性ではない固有の活性化効果とを一緒に合わせるというものである。LMTM処置に続くタウオリゴマーレベルにおける低減は、シナプス機能のより明白な活性化、並びに神経伝達物質、例えば、ACh及びグルタメートの放出を促進する。同様に、LMTMは、タウトランスジェニックL1マウスにおいて見られる空間記憶欠損を反転させる(Melis et al., 2015a)。LMTMが慢性リバスチグミンのバックグラウンドに対して導入されたときに見られるマイナスの効果は、LMTM単独で見られる活性化の反転を単純に反映するように思われる。
【0228】
シナプスタンパク質が機能することに対するタウオリゴマーの有害効果は、シナプス小胞のドッキング、膜融合及び神経伝達物質の放出への直接の干渉の結果であるとして容易に理解可能である。タウトランスジェニックL1マウスにおいて、シナプス小胞タンパク質レベルは、SNARE複合体又はα-シヌクレインのタンパク質にもはや定量的にリンクしておらず、シナプスにおける小胞及び膜ドッキングタンパク質の間の機能的統合の喪失を意味する。これの結果は、タウトランスジェニックマウスからのシナプトソーム調製物からのグルタメート放出における障害、及びLMTMによる処置に続く正常なグルタメート放出の回復として直接的に見ることができる。
【0229】
LMTMのミトコンドリア効果に関与する機序は、より複雑である。MT部分は、複合体I及び複合体IVの間の電子シャトルとして作用することによって、酸化的リン酸化を増進させると考えられる(Atamna et al., 2012)。MT部分は、複合体I(-0.4mV)と複合体IV(+0.4mV)の酸化還元電位の間の中間である概ね0mVの酸化還元電位を有する。しかし、LMTMは、野生型マウスから単離した脳ミトコンドリアにおける複合体IV活性に対して効果を有さない。対照的に、強い効果がタウトランスジェニックL1マウスにおいて見られた。これは、タウオリゴマーがミトコンドリア代謝を妨げることを示唆する。C末端切断型タウタンパク質は、ミトコンドリア外膜に両方結合し、またミトコンドリアの膜間腔に進入することが最近示されてきた(Cieri et al., 2018)。AD患者の脳組織から単離した切断型PHF-タウタンパク質は、ミトコンドリア外膜における電圧依存性アニオン選択的チャネルタンパク質(VDAC;以前は、ポリン)と、並びにまた膜間腔における複合体IIIのATPシンターゼサブユニット9及びコアタンパク質2とSDS抵抗性複合体を形成する(Wischik et al., 1997)。これらの結合相互作用は、ミトコンドリアにおける電子輸送鎖が機能することに対して有害である可能性が高く、ミトコンドリア中及び周囲のタウオリゴマー蓄積の低減におけるLMTMの効果は、L1マウスにおいて見られる複合体IVの活性化の一因となり得る。
【0230】
リバスチグミン処置からもたらされる恒常性下方制御がどのようにミトコンドリア機能に影響を与え得るかは公知でない。ミトコンドリアは、Ca2+レベルの緩衝作用及びATP産生を介したシナプス機能の重要な恒常性調節剤であることは公知である(Devine and Kittler, 2018)。
【0231】
LMTMのプラスの効果、及び抗コリンエステラーゼによる事前処置によるそれらの反転又は抑制を、脳機能の複数のレベルにおける異なる伝達物質系及び細胞コンパートメントに亘って見ることができることは特筆すべきである。これは、LMTM処置応答における干渉に関与する単一遺伝子座が存在しないことを意味する。むしろ、マイナスの相互作用は、アセチルコリンエステラーゼの遮断からもたらされる慢性の薬理学的活性化を代償する複数の神経系における全般的な恒常性下方制御の一部であるようである。
【0232】
メマンチンによる結果を
図7に示し、抗コリンエステラーゼによる事前処置と同様の描写を示す。臨床的に見られるLMTM有効性における干渉は2つの薬物クラスについて非常に同様であることを考えればこれは予想どおりである。
【0233】
より一般に、LMTM処置に影響を与える干渉は、LMTMに特異的であることはありそうにない。シナプス機能に対して活性化効果を有する任意の処置は、一次病態を低減させることによってであれ、又は別の機序によってであれ、任意の処置が既存の対症処置によって主に促進されるため、同様の干渉に供される可能性が高い。
【0234】
このように、アミロイド凝集物の排除がシナプスの活性化をもたらす場合、Marsh, J, Alifragis, P (2018)によって提案されてきたように、これは、対症処置がまたこの効果を臨床的に示す能力を妨げることを推察することができる。
【0235】
さらなる考慮は、本発明者らが示した恒常性下方制御が、LMTM処置が一次であり、対症処置が後日加えられた場合、同様に作動するかどうかである。本発明者らが今日までに行ってきた実験は、臨床的症状を模倣するように本来設計したが、ここでは、LMTMを、対症処置を既に受けている患者に加える。恒常性下方制御が最初に来る処置によって決定される場合、アドオン対症処置に対する応答がある程度低減し得るにも関わらず、LMTMの処置効果が優勢であることは必然的である。
【0236】
要約すれば、本発明者らの知見は、脳における恒常性制御系の強力な役割を指し示す。このような系は、多くの神経生理学的文脈においてよく理解され、詳細に記録されている。したがって、神経機能を後押しするように設計された処置介入がニューロンの過活性化の程度を制限する恒常性制御を誘発することは完全にもっともらしく思われる。コリン作動性機能の場合、過剰な活性は高度に有害であり、臨床的に痙攣、昏睡及び死亡をもたらす。これは、脳が他の治療的介入に対して応答する方法を変化させる対症処置による脳の慢性刺激と完全に一致する。
【0237】
実施例4-単独療法又はアドオン療法としての8mg/日のLMTMについての退薬分析
8mg/日のLMTMによる18カ月の処置に続いて、対象は1カ月の「休薬」、それに続く変化の認知アセスメントを行うことが必要であった。それらが現存する対症療法(AChEI、メマンチン、「Achmem」と集団的に略される)へのアドオンとして、又は単独療法としてLMTMを受けてきたかどうかによって群を分割した。
【0238】
群を、高いCmax曝露又は低い曝露を受けてきた対象に関してさらに分析した。国際公開第2020/020751号において説明したように、薬物動態学的モデリングを使用して、8mg/日で処置された集団を、「より高い」推定上のCmaxを有する個人の群及び「より低い」推定上のCmaxを有する個人の群に分割することができる。国際公開第2020/020751号は、0.37ng/mlの閾値(最も低い値を有する患者の35%を包含する)による患者の分割を説明する。8mg/日の用量を受けている「高」及び「低」Cmax患者における処置の差異は、-3.4ADAS-cog単位である。
【0239】
本分析における数字は、下記の通りであった。
【0240】
【0241】
図8に示すように(単独療法)、高Cmax群は、LMTMの退薬に続いて同じ速度で低下し続けたが、LMTX処置期間に続く認知低下の速度における持続的な疾患修飾変化を支持する。
【0242】
より低いCmaxへと曝露された対象は、大きな低下を被ったが、これは、その群におけるLMTXの利点が少なくとも部分的に対症的であり得、したがって、持続的でないことを意味する。
【0243】
図9に示すように(アドオン)、高Cmax群は、LMTMの退薬に続いて予想外の改善を実際に示した。これは、対症処置単独への改善された応答をもたらすLMTM処置の間の疾患修飾効果、又はLMTX処置期間の間のLMTMによって示される対症処置に対するマイナスの効果と一致する。
【0244】
この知見は、LMTM及びAchmem併用療法の使用について潜在的な意味あいを有する。例えば、Achmemに対して非応答性であると証明された患者群において、LMTXの疾患修飾効果は、特に、一旦LMTXが中断されると、特に、軽度AD対象におけるADAS-cogに関連して、Achmemに対する応答を実際に増進し得る。
【0245】
対照的に、より低い曝露へと曝露された対象は、退薬に続いて同じ速度で低下し続ける。
【0246】
これらの結果は、国際公開第2020/020751号における濃度応答分析を支持する。単独療法としてのLMTMは、高レベル及び低レベルの曝露の両方においてかなりの薬理活性を有するが、概ね0.38ng/ml未満で、効果は、疾患修飾より対症的であり得る。アドオン療法として、LMTMは、低レベルの曝露においてでさえかなりの薬理活性を有するが、アドオンとして約0.378ng/ml未満への曝露は、認識できる処置効果を与えない。
【0247】
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