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特許7639026フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-21
(45)【発行日】2025-03-04
(54)【発明の名称】フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/23 20060101AFI20250225BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20250225BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20250225BHJP
   C07D 311/94 20060101ALI20250225BHJP
【FI】
G02B5/23
G02C7/10
C09K9/02 B
C07D311/94 101
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022571718
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2021048398
(87)【国際公開番号】W WO2022138965
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2020215158
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020215159
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021018610
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】松江 葵
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0279886(US,A1)
【文献】特表2014-506245(JP,A)
【文献】国際公開第2009/136668(WO,A1)
【文献】特表2014-507385(JP,A)
【文献】特表2014-510718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
G02C 7/10
C09K 9/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Aで表される化合物の1種以上と、下記一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含むフォトクロミック組成物
【化1】
般式A中、
、R、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
は電子吸引性基を表し、R、R及びRは水素原子を表す
【化2】
般式B中、
~R12、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与性基を表し、ただしR13及びR14の1つ以上は電子供与性基を表す
ただし、一般式A中のR 、R 、B 、B 、一般式B中のR ~R 12 、B 及びB からなる群から選ばれる1つ以上は置換基を表し、該置換基は、
ヒドロキシ基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、アリール基、アリールオキシ基、アリールスルフィド基、ヘテロアリール基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R
に更に1つ以上の同一若しくは異なるR が置換した置換基;又は
可溶化基
である。
【請求項2】
下記一般式Aで表される化合物の1種以上と、下記一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含むフォトクロミック組成物
【化3】
般式A中、
、R、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
~Rは、それぞれ独立に水素原子又は電子吸引性基を表し、ただしR~Rの1つ以上は電子吸引性基を表す
【化4】
般式B中、
、R、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
10は、水素原子又は置換若しくは無置換フェニル基を表し、
、R11及びR12は、水素原子を表し、
13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与性基を表し、ただしR13及びR14の1つ以上は電子供与性基を表す
ただし、一般式A中のR 、R 、B 、B 、一般式B中のR 、R 、B 及びB からなる群から選ばれる1つ以上は置換基を表し、該置換基は、
ヒドロキシ基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、アリール基、アリールオキシ基、アリールスルフィド基、ヘテロアリール基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R
に更に1つ以上の同一若しくは異なるR が置換した置換基;又は
可溶化基
である。
【請求項3】
一般式A中のB及びBならびに一般式B中のB及びBは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニル基を表し、フェニル基が置換基を複数有する場合、当該置換基が結合して環を形成してもよい、請求項1又は2に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項4】
前記電子吸引性基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基である、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項5】
前記ハロゲン原子はフッ素原子である、請求項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項6】
前記パーフルオロアルキル基はトリフルオロメチル基である、請求項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項7】
一般式B中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の置換又は無置換のアルキル基を表す、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項8】
一般式B中、R及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基を表す、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項9】
一般式B中、R13及びR14は、それぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、ジメチルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基及びチオモルホリノ基からなる群から選択される電子供与性基を表す、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項10】
質量基準で、一般式Bで表される化合物を一般式Aで表される化合物より多く含有する、請求項1~のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項11】
重合性化合物を更に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項12】
請求項11に記載のフォトクロミック組成物を硬化した硬化物を含むフォトクロミック物品。
【請求項13】
基材と、前記硬化物であるフォトクロミック層とを有する、請求項1に記載のフォトクロミック物品。
【請求項14】
眼鏡レンズである、請求項12又は13に記載のフォトクロミック物品。
【請求項15】
ゴーグル用レンズである、請求項12又は13に記載のフォトクロミック物品。
【請求項16】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項12又は13に記載のフォトクロミック物品。
【請求項17】
ヘルメットのシールド部材である、請求項12又は13に記載のフォトクロミック物品。
【請求項18】
請求項14に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック組成物、フォトクロミック物品及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で着色し(coloring)、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。例えば特許文献1には、フォトクロミック性を有するナフトピラン系化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2000/15631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物を基材に含有させる方法及びフォトクロミック化合物を含む層を形成する方法が挙げられる。このようにフォトクロミック性が付与された光学物品に望まれる性能としては、可視域(波長380~780nm)における着色時の着色濃度が高いこと、及び、光照射により着色した後に速い退色速度を示すことが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、可視域における着色時の着色濃度が高く且つ退色速度が速いフォトクロミック物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、下記一般式Aで表される化合物の1種以上と、下記一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含むフォトクロミック物品に関する。
【0007】
また、本発明の一態様は、下記一般式Aで表される化合物の1種以上と、下記一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含むフォトクロミック組成物に関する。
【0008】
【化1】
【0009】
一般式A中、R、R、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は電子吸引性基を表し、ただしR~Rの1つ以上は電子吸引性基を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
一般式B中、R~R12、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与性基を表し、ただしR13及びR14の1つ以上は電子供与性基を表す。
【0012】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物とを組み合わせることによって、可視域において高濃度で着色し得るフォトクロミック物品の提供が可能になることを新たに見出した。これは、一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物は、可視域における吸収ピーク位置が異なるため、これら化合物を組み合わせることによって広範な波長域において高濃度での着色が可能になるためと推察される。ただし、本発明は、本明細書に記載の推察によって限定されるものではない。更に、一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物とを組み合わせることによって、速い退色速度を示し得るフォトクロミック物品を提供することが可能になることも新たに見出された。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、可視域における着色時の着色濃度が高く且つ退色速度が速いフォトクロミック物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フォトクロミック化合物は、一例として、太陽光等の光の照射を受けて励起状態を経て、着色体に構造変換する。光照射を経て構造変換した後の構造を「着色体」と呼ぶことができる。これに対し、光照射前の構造を「無色体」と呼ぶことができる。ただし、無色体について「無色」とは、完全な無色に限定されるものではなく、着色体に対して色が薄い場合も包含される。一般式Aの構造及び一般式Bの構造は、それぞれ無色体の構造である。
【0015】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック物品」とは、フォトクロミック化合物を含む物品をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品は、フォトクロミック化合物として、一般式Aで表される化合物の1種以上と一般式Bで表される化合物の1種以上とを含む。フォトクロミック化合物は、フォトクロミック物品の基材に含まれることができ、及び/又は、基材とフォトクロミック層とを有するフォトクロミック物品においてフォトクロミック層に含まれることができる。「フォトクロミック層」とは、フォトクロミック化合物を含む層である。
【0016】
本発明及び本明細書において、「フォトクロミック組成物」とは、フォトクロミック化合物を含む組成物をいうものとする。本発明の一態様にかかるフォトクロミック組成物は、フォトクロミック化合物として、一般式Aで表される化合物の1種以上と一般式Bで表される化合物の1種以上とを含み、本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品の製造のために使用することができる。
【0017】
本発明及び本明細書において、各種置換基、即ち、一般式A中のR、R、B、B、一般式B中のR~R12、B及びBのいずれかで表され得る置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、
ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、トリフルオロメチル基等の炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、トリフルオロメトキシ基等の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、ブチルスルフィド基等の構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、フェナントリル基、ピラニル基、ペリレニル基、スチリル基、フルオレニル基等のアリール基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、フェニルスルフィド基等のアリールスルフィド基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ピロリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ジアゾリル基、トリアゾリル基、キノリニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、チアンスリル基、アクリジニル基等のヘテロアリール基、アミノ基(-NH)、モノメチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、モノフェニルアミノ基等のモノアリールアミノ基、ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R;又は、
に更に1つ以上の同一若しくは異なるRが置換した置換基;
であることができる。
【0018】
上記のRに更に1つ以上の同一又は異なるRが置換した置換基の一例としては、アルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換し、このアルコキシ基の末端の炭素原子に更にアルコキシ基が置換した構造を挙げることができる。また、上記のRに更に1つ以上の同一又は異なるRが置換した置換基の他の一例としては、フェニル基の5つの置換可能位置の中の2つ以上の位置に、同一又は異なるRが置換した構造を挙げることができる。ただし、かかる例に限定されるものではない。
【0019】
本発明及び本明細書において、「炭素数」及び「構成原子数」とは、置換基を有する基については、置換基の炭素数又は原子数も含む数をいうものとする。
【0020】
また、本発明及び本明細書において、各種置換基、即ち、一般式A中のR、R、B、B、一般式B中のR~R12、B及びBのいずれかで表され得る置換基、更に、後述する各基が置換基を有する場合の置換基は、それぞれ独立に、可溶化基であることもできる。本発明及び本明細書において、「可溶化基」とは、任意の液体又は特定の液体との相溶性を高めることに寄与し得る置換基を指す。可溶化基としては、炭素数4~50の直鎖、分岐又は環状構造を含むアルキル基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基、構成原子数4~50の直鎖、分岐又は環状のシリル基、上記の基の一部をケイ素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等に置き換えたもの、上記の基の2つ以上を組み合わせたもの等の、この置換基を有することが化合物の分子の熱運動を促進することに寄与し得る置換基が好適である。置換基として可溶化基を有する化合物は、溶質分子間の距離が近づくことを阻害することで溶質の固体化を防いだり、溶質の融点及び/又はガラス転移温度を下げることで液体に近い分子集合状態を作ることができる。こうして、可溶性基は、溶質を液体化したり、この置換基を有する化合物の液体への溶解性を高めることができる。一形態では、可溶化基としては、直鎖アルキル基であるn-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、分岐アルキル基であるtert-ブチル基並びに環状アルキル基であるシクロペンチル基及びシクロヘキシル基が好ましい。
【0021】
上記置換基は、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、エチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、フェナジニル基、アクリジニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができ、より好ましくは、メトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、トリフルオロメチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリルノ基、チオモルホリノ基シアノ基及び可溶化基からなる群から選ばれる置換基であることができる。
【0022】
本発明及び本明細書において、「電子吸引性基」とは、水素原子と比較して、結合している原子側から電子を引きつけやすい置換基をいう。電子吸引性基は、誘起効果、メソメリー効果(又は共鳴効果)等の置換基効果の結果、電子を引きつけることができる。電子吸引性基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子:-F、塩素原子:-Cl、臭素原子:-Br、ヨウ素原子:-I)、トリフルオロメチル基:-CF、ニトロ基:-NO、シアノ基:-CN、ホルミル基:-CHO、アシル基:-COR(Rは置換基)、アルコキシカルボニル基:-COOR、カルボキシ基:-COOH、置換スルホニル基:-SOR(Rは置換基)、スルホ基:-SOH等を挙げることができる。好適な電子吸引性基としては、電気陰性度の高い電子吸引性基であるフッ素原子、ハメット則に基づくパラ位の置換基定数σが正の値である電子吸引性基等を挙げることができる。
【0023】
本発明及び本明細書において、「電子供与性基」とは、水素原子と比較して、結合している原子側に電子を与えやすい置換基をいう。電子供与性基は、誘起効果、メソメリー効果(又は共鳴効果)等の総和として、電子を与えやすい置換基であることができる。電子供与性基の具体例としては、ヒドロキシ基:-OH、チオール基:-SH、アルコキシ基:-OR(Rはアルキル基)、アルキルスルフィド基:-SR(Rはアルキル基)、アリールスルフィド基、アセチル基:-OCOCH、アミノ基:-NH、アルキルアミド基:-NHCOCH、ジアルキルアミノ基:-N(R)(2つのRは同一又は異なるアルキル基、アリール基、Rは互いに結合して環構造を形成してもよい)、メチル基等を挙げることができる。好適な電子供与性基としては、ハメット則に基づくパラ位の置換基定数σが負の値である電子供与性基等を挙げることができる。
【0024】
ハメット則に基づくパラ位の置換基定数σ(出典:岩村秀、野依良治、中井武、北川勲 編、大学院有機化学(上)(1988))の具体例を以下に示す。
-N(CH:-0.83
-OCH3:-0.27
-t-C:-0.20
-CH:-0.17
-C:-0.15
-C:-0.01
(-H:0)
-F:+0.06
-Cl:+0.27
-Br:+0.23
-CO:+0.45
-CF:+0.54
-CN:+0.66
-SOCH:+0.72
-NO:+0.78
【0025】
以下に、一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物について、更に詳細に説明する。
【0026】
<一般式Aで表される化合物>
【化3】
【0027】
一般式A中、R、R、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
【0028】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の置換又は無置換のアルキル基を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基を表すことがより好ましい。R及びRが、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を表すことが更に好ましく、R及びRがいずれもメチル基を表すこと又はいずれもエチル基を表すことが一層好ましい。
【0029】
及びBは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニル基を表すことが好ましい。フェニル基が置換基を複数有する場合、これら置換基の2つ以上が結合して環を形成してもよい。形成される環の具体例としては、後掲の例示化合物に含まれる環を挙げることができる。置換フェニル基における置換基の置換位置は、BとBとが結合する炭素原子に対してパラ位となる位置であることが好ましい。置換フェニル基の置換基の具体例としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、以下の置換基等の後掲の例示化合物に含まれる置換基を挙げることができる。本発明及び本明細書において、化合物の部分構造に関する「*」は、かかる部分構造が結合する原子との結合位置を示す。
【0030】
【化4】
【0031】
一般式A中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は電子吸引性基を表す。ただし、R~Rの1つ以上は電子吸引性基を表す。電子吸引性基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。炭素数1~6のパーフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0032】
一形態では、一般式Aで表される化合物は、以下の化合物であることができる。
~Rの中で、Rのみが電子吸引性基であって、R、R及びRは水素原子である化合物。
~Rの中で、R及びRは同一又は異なる電子吸引性基であって、R及びRは水素原子である化合物。
~Rの中で、R及びRは同一又は異なる電子吸引性基であって、R及びRは水素原子である化合物。
【0033】
一般式Aで表される化合物としては、以下の化合物を例示できる。ただし、本発明は以下に例示された化合物に限定されるものではない。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
【化15】
【0045】
【化16】
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
【化19】
【0049】
【化20】
【0050】
【化21】
【0051】
【化22】
【0052】
【化23】
【0053】
【化24】
【0054】
【化25】
【0055】
【化26】
【0056】
【化27】
【0057】
【化28】
【0058】
<一般式Bで表される化合物>
【化29】
【0059】
一般式B中、R~R12、B及びBは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
【0060】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の置換又は無置換のアルキル基を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基を表すことがより好ましい。R及びRが、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を表すことが更に好ましく、R及びRがいずれもメチル基を表すこと又はいずれもエチル基を表すことが一層好ましい。
【0061】
及びBは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニル基を表すことが好ましい。フェニル基が置換基を複数有する場合、これら置換基の2つ以上が結合して環を形成してもよい。形成される環の具体例としては、後掲の例示化合物に含まれる環を挙げることができる。置換フェニル基における置換基の置換位置は、BとBとが結合する炭素原子に対してパラ位となる位置であることが好ましい。置換フェニル基の置換基の具体例としては、モルホリノ基、ピペリジノ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、以下の置換基等の後掲の例示化合物に含まれる置換基を挙げることができる。
【0062】
【化30】
【0063】
~R12は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。一形態では、R~R12は、すべて水素原子であることができる。他の一形態では、R10が電子吸引性基であって、R、R11及びR12がいずれも水素原子であることができる。また、他の一形態では、R及びR11がそれぞれ独立に電子吸引性基であって、R10及びR12が水素原子であることができる。電子吸引性基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。炭素数1~6のパーフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0064】
一形態では、R10が置換又は無置換フェニル基であることができ、好ましくはR10が置換又は無置換フェニル基であって、かつR、R11及びR12が水素原子であることができる。かかる置換フェニル基の具体例としては、1つ以上のハロゲン原子及び/又は1つ以上のシアノ基が置換したフェニル基、例えば、フェニル基の5つの置換位置すべてにハロゲン原子(好ましくはフッ素原子)が置換したフェニル基、及びR10が結合する炭素原子に対してパラ位となる位置にシアノ基が置換した一置換フェニル基を挙げることができる。
【0065】
13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は電子供与性基を表す。ただし、R13及びR14の1つ以上は電子供与性基を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、ジメチルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基及びチオモルホリノ基からなる群から選択される電子供与性基を表すことが好ましい。
【0066】
13及びR14は、一形態では一方が水素原子であって他方が電子供与性基であることができ、他の一形態では両方がそれぞれ独立に電子供与性基であることができる。R13及びR14がいずれも電子供与性基であることが好ましい。この場合、R13及びR14は同一又は異なる電子供与性基であることができる。中でも、R13及びR14について、R13がモルホリノ基であってR14がアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であること、R13がモルホリノ基であってR14がメチルスルフィド基(-S-CH)であること、R13及びR14がいずれもアルコキシ基(好ましくはメトキシ基)であること、並びに、R13及びR14がいずれもメチルスルフィド基(-S-CH)であることが好ましい。
【0067】
一般式Bで表される化合物としては、以下の化合物を例示できる。ただし、本発明は以下に例示された化合物に限定されるものではない。
【0068】
【化31】
【0069】
【化32】
【0070】
【化33】
【0071】
【化34】
【0072】
【化35】
【0073】
【化36】
【0074】
【化37】
【0075】
【化38】
【0076】
【化39】
【0077】
【化40】
【0078】
【化41】
【0079】
【化42】
【0080】
【化43】
【0081】
【化44】
【0082】
【化45】
【0083】
【化46】
【0084】
【化47】
【0085】
【化48】
【0086】
一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物は、公知の方法で合成することができる。合成方法については、例えば以下の文献を参照できる。特許第4884578号明細書、US2006/0226402A1、US2006/0228557A1、US2008/0103301A1、US2011/0108781A1、US2011/0108781A1、米国特許第7527754号明細書、米国特許第7556751号明細書、WO2001/60811A1、WO2013/086248A1、WO1996/014596A1及びWO2001/019813A1。
【0087】
本発明の一態様にかかるフォトクロミック物品及び本発明の一態様に係るフォトクロミック組成物は、一般式Aで表される化合物の1種以上と、一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含む。
上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物に含まれる一般式Aで表される化合物は、1種のみであることができ、2種以上(例えば2種以上4種以下)であることもできる。
上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物に含まれる一般式Bで表される化合物は、1種のみであることができ、2種以上であることもでき、2種以上であることが好ましく、また、例えば4種以下若しくは3種以下であることができる。
上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、質量基準で、一般式Bで表される化合物を、一般式Aで表される化合物より多く含有することが好ましい。一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物の合計を100質量%として、一般式Bで表される化合物の含有率は、50質量%超であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが一層好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましい。一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物の合計(100質量%)に対して、一般式Bで表される化合物の含有率は、100質量%未満であることができ、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下又は95質量%以下であることができる。上記の一般式Bで表される化合物の含有率は、上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物に一般式Bで表される化合物が2種以上含まれる場合には、それらの合計含有率である。この点は、本発明及び本明細書における各種成分の含有率についても同様である。
上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、それらの全量を100質量%として、一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物を合計で、例えば0.1~15.0質量%程度含むことができる。ただし、この範囲に限定されるものではない。
【0088】
[フォトクロミック物品、フォトクロミック組成物]
上記フォトクロミック物品は、少なくとも基材を有することができる。一形態では、一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物は、上記フォトクロミック物品の基材に含まれることができる。上記フォトクロミック物品は、基材とフォトクロミック層とを有することができ、基材及び/又はフォトクロミック層に、一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物を含むことができる。一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物は、基材及びフォトクロミック層において、一形態では基材のみに含まれることができ、他の一形態ではフォトクロミック層のみに含まれることができ、また他の一形態では基材とフォトクロミック層とに含まれることができる。また、基材及びフォトクロミック層は、フォトクロミック化合物として、一般式Aで表される化合物及び一般式Bで表される化合物のみを含むことができ、又は1種以上の他のフォトクロミック化合物を含むこともできる。他のフォトクロミック化合物としては、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、ナフトピラン類、インデノナフトピラン類、フェナントロピラン類、ヘキサアリルビスイミダゾール類、ドナー-アクセプターステンハウス付加物(DASA)類、サリシリデンアニリン類、ジヒドロピレン類、アントラセンダイマー類、フルギド類、ジアリールエテン類、フェノキシナフタセンキノン類、スチルベン類等を挙げることができる。
【0089】
<基材>
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の種類に応じて選択された基材を含むことができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材としては、プラスチックレンズ基材又はガラスレンズ基材が挙げられる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコール等のヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。ここで屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0090】
例えば、上記フォトクロミック組成物は、重合性組成物であることができる。本発明及び本明細書において、「重合性組成物」とは、1種以上の重合性化合物を含む組成物である。一般式Aで表される化合物の1種以上と、一般式Bで表される化合物の1種以上と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を公知の成形方法によって成形することにより、かかる重合性組成物の硬化物を作製することができる。かかる硬化物は、上記フォトクロミック物品に基材として含まれることができ、及び/又は、フォトクロミック層として含まれることができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物であり、重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化物が形成され得る。重合性組成物は、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。
【0091】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0092】
<フォトクロミック層>
フォトクロミック層は、基材の表面上に直接又は一層以上の他の層を介して間接的に設けられた層であることができる。フォトクロミック層は、例えば、重合性組成物を硬化した硬化層であることができる。一般式Aで表される化合物の1種以上と、一般式Bで表される化合物の1種以上と、重合性化合物の1種以上と、を少なくとも含む重合性組成物を硬化した硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。例えば、かかる重合性組成物を基材の表面上に直接塗布するか、又は基材上に設けられた層の表面に塗布し、塗布された重合性組成物に硬化処理を施すことによって、一般式Aで表される化合物の1種以上と一般式Bで表される化合物の1種以上とを含む硬化層として、フォトクロミック層を形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルコート法、スリットコート法等の公知の塗布方法を採用することができる。硬化処理は、光照射及び/又は加熱処理であることができる。重合性組成物は、1種以上の重合性化合物に加えて、1種以上の添加剤(例えば重合開始剤等)を更に含むことができる。重合性化合物の重合反応が進行することによって重合性組成物が硬化し硬化層が形成され得る。
【0093】
フォトクロミック層の厚さは、例えば5μm以上、10μm以上若しくは20μm以上であることができ、また、例えば80μm以下、70μm以下若しくは50μm以下であることができる。
【0094】
<重合性化合物>
本発明及び本明細書において、重合性化合物とは、1分子中に1つ以上の重合性基を有する化合物をいい、「重合性基」とは、重合反応し得る反応性基をいうものとする。重合性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、エポキシ基、チオール基、オキセタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イソシアネート基等を挙げることができる。
【0095】
上記基材及び上記フォトクロミック層の形成のために使用可能な重合性化合物としては、以下の化合物を例示できる。
【0096】
(エピスルフィド系化合物)
エピスルフィド系化合物は、1分子内に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物である。エピスルフィド基は、開環重合し得る重合性基である。エピスルフィド系化合物の具体例としては、ビス(1,2-エピチオエチル)スルフィド、ビス(1,2-エピチオエチル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)スルフィド、ビス(6,7-エピチオ-3,4-ジチアヘプチル)ジスルフィド、1,4-ジチアン-2,5-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)-2-(2,3-エピチオプロピルジチオエチルチオ)-4-チアヘキサン、1,2,3-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,1,1-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチル)メタン、1,3-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2-チアプロパン、1,4-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)エタン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオ)プロパン、1,1,3,3-テトラキス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)プロパン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオ)メチル]-1,3-ジチエタン、2-[1,1-ビス(2,3-エピチオプロピルジチオメチルチオ)メチル]-1,3-ジチエタン等を挙げることができる。
【0097】
(チエタニル系化合物)
チエタニル系化合物は、1分子内に2個以上のチエタニル基を有するチエタン化合物である。チエタニル基は、開環重合し得る重合性基である。チエタニル系化合物の中には、複数のチエタニル基と共にエピスルフィド基を有するものがある。かかる化合物は、上記のエピスルフィド系化合物の例に挙げられている。その他のチエタニル系化合物には、分子内に金属原子を有している含金属チエタン化合物と、金属を含んでいない非金属系チエタン化合物とがある。
【0098】
非金属系チエタン化合物の具体例としては、ビス(3-チエタニル)ジスルフィド、ビス(3-チエタニル)スルフィド、ビス(3-チエタニル)トリスルフィド、ビス(3-チエタニル)テトラスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニル)-1,3,4-トリチアブタン、1,5-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5-テトラチアペンタン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,4,6-テトラチアヘキサン、1,6-ビス(3-チエタニル)-1,3,5,6-テトラチアヘキサン、1,7-ビス(3-チエタニル)-1,2,4,5,7-ペンタチアヘプタン、1,7-ビス(3-チエタニルチオ)-1,2,4,6,7-ペンタチアヘプタン、1,1-ビス(3-チエタニルチオ)メタン、1,2-ビス(3-チエタニルチオ)エタン、1,2,3-トリス(3-チエタニルチオ)プロパン、1,8-ビス(3-チエタニルチオ)-4-(3-チエタニルチオメチル)-3,6-ジチアオクタン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,8-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-4,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、1,11-ビス(3-チエタニルチオ)-5,7-ビス(3-チエタニルチオメチル)-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[[2-(3-チエタニルチオ)エチル]チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(3-チエタニルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン、ビスチエタニルスルフィド、ビス(チエタニルチオ)メタン、3-[<(チエタニルチオ)メチルチオ>メチルチオ]チエタン、ビスチエタニルジスルフィド、ビスチエタニルトリスルフィド、ビスチエタニルテトラスルフィド、ビスチエタニルペンタスルフィド、1,4-ビス(3-チエタニルジチオ)-2,3-ジチアブタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオ)メタン、1,1,1-トリス(3-チエタニルジチオメチルチオ)メタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオ)エタン、1,1,2,2-テトラキス(3-チエタニルジチオメチルチオ)エタン等を挙げることができる。
【0099】
含金属チエタン化合物としては、分子内に、金属原子として、Sn原子、Si原子、Ge原子、Pb原子等の14族の原子、Zr原子、Ti原子等の4族の元素、Al原子等の13族の原子、Zn原子等の12族の原子等を含むものが挙げられる。具体例としては、アルキルチオ(チエタニルチオ)スズ、ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物、アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物等が挙げられる。
【0100】
アルキルチオ(チエタニルチオ)スズの具体例としては、メチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、プロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオトリス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0101】
ビス(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、ビス(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(エチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、ビス(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0102】
アルキルチオ(アルキルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズの具体例としては、エチルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、メチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(メチルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、エチルチオ(イソプロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ、イソプロピルチオ(プロピルチオ)ビス(チエタニルチオ)スズ等を例示できる。
【0103】
ビス(チエタニルチオ)環状ジチオスズ化合物の具体例としては、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンネタン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンノラン、ビス(チエタニルチオ)ジチアスタンニナン、ビス(チエタニルチオ)トリチアスタンノカン等を例示できる。
【0104】
アルキル(チエタニルチオ)スズ化合物の具体例としては、メチルトリス(チエタニルチオ)スズ、ジメチルビス(チエタニルチオ)スズ、ブチルトリス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)スズ、テトラキス(チエタニルチオ)ゲルマニウム、トリス(チエタニルチオ)ビスマス等を例示できる。
【0105】
(ポリアミン化合物)
ポリアミン化合物は、一分子中にNH基を2つ以上有する化合物であり、ポリイソシアネートとの反応でウレア結合を形成することができ、ポリイソチオシアネートとの反応でチオウレア結合を形成することができる。ポリアミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、プトレシン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノ-ル、ジエチレントリアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、メラミン、1,3,5-ベンゼントリアミン等が挙げられる。
【0106】
(エポキシ系化合物)
エポキシ系化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。エポキシ基は、開環重合し得る重合性基である。エポキシ系化合物は、一般に、脂肪族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物に分類される。
【0107】
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、エチレンオキシド、2-エチルオキシラン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、2,2’-メチレンビスオキシラン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0108】
脂環族エポキシ化合物の具体例としては、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス-2,2-ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0109】
芳香族エポキシ化合物の具体例としては、レゾールシンジグリシジルエーテル、ビスフェノ-ルAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0110】
また、上記以外にも、エポキシ基と共に、分子内に硫黄原子を有するエポキシ系化合物も使用することができる。このような含硫黄原子エポキシ系化合物には、鎖状脂肪族系のものと環状脂肪族系のものとがある。
【0111】
鎖状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、ビス(2,3-エポキシプロピル)スルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピル)ジスルフィド、ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)メタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)エタン、1,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルプロパン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルブタン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルペンタン、1,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3-チアペンタン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)ヘキサン、1,6-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-2-メチルヘキサン、3,8-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-3,6-ジチアオクタン、1,2,3-トリス(2,3-エポキシプロピルチオ)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)-1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)プロパン、2,2-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1-(2,3-エポキシプロピルチオ)ブタン等が挙げられる。
【0112】
環状脂肪族系含硫黄原子エポキシ系化合物の具体例としては、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-1,4-ジチアン、2,5-ビス[<2-(2,3-エポキシプロピルチオ)エチル>チオメチル]-1,4-ジチアン、2,5-ビス(2,3-エポキシプロピルチオメチル)-2,5-ジメチル-1,4-ジチアン等が挙げられる。
【0113】
(ラジカル重合性基を有する化合物)
ラジカル重合性基を有する化合物は、ラジカル重合し得る重合性基である。ラジカル重合性基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基等が挙げられる。
【0114】
以下において、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれる重合性基を有する化合物を、「(メタ)アクリレート化合物」と呼ぶ。(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、テトラエチレングリコ-ルジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールビスグリシジル(メタ)アクリレ-ト、ビスフェノ-ルAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、ビスフェノ-ルFジ(メタ)アクリレート、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシエトキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-(メタ)アクロキシジエトキシフェニル)メタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト-ルテトラ(メタ)アクリレート、メチルチオ(メタ)アクリレート、フェニルチオ(メタ)アクリレート、ベンジルチオ(メタ)アクリレート、キシリレンジチオールジ(メタ)アクリレート、メルカプトエチルスルフィドジ(メタ)アクリレート、2官能ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0115】
アリル基を有する化合物(アリル化合物)の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレ-ト、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカ-ボネート、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールアリルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールアリルエーテル、メタクリロイルオキシポリエチレングリコールアリルエーテル等が挙げられる。
【0116】
ビニル基を有する化合物(ビニル化合物)としては、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、3,9-ジビニルスピロビ(m-ジオキサン)等が挙げられる。
【0117】
上記フォトクロミック物品は、フォトクロミック物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性又は親水性の防汚層、防曇層、層間の密着性向上のためのプライマー層等のフォトクロミック物品の機能性層として公知の層の1層以上を任意の位置に含むことができる。
【0118】
上記フォトクロミック物品は、光学物品であることができる。光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。かかる眼鏡レンズは、フォトクロミックレンズ又はフォトクロミック眼鏡レンズとも呼ぶことができる。また、光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に重合性組成物である上記フォトクロミック組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることができる。
【0119】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記フォトクロミック物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて着色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例
【0120】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「%」は、質量%を示す。
【0121】
[化合物の合成]
化合物の合成方法に関して先に示した参照文献を参考に、以下に示す化合物1~15を合成した。参照公報に記載の方法と同様に化合物の同定を行い、以下に示す化合物が合成されたことを確認した。化合物1~7は一般式Aで表される化合物であり、化合物8~15は一般式Bで表される化合物である。
【0122】
【化49】
【0123】
【化50】
【0124】
[実施例1~28、比較例1~3]
<フォトクロミック組成物(重合性組成物)の調製>
プラスチック製容器内で、(メタ)アクリレートの合計100質量部に対して、68質量部のポリエチレングリコールジアクリレート、12質量部のトリメチロールプロパントリメタクリレート、20質量部のネオペンチルグリコールジメタクリレートを混合し、(メタ)アクリレート混合物を調製した。この(メタ)アクリレート混合物100質量部に対して、2.5質量部となるようにフォトクロミック化合物を混合した。複数のフォトクロミック化合物を含む組成物については、フォトクロミック化合物の全量を10とした場合のそれぞれのフォトクロミック化合物の質量比を表2に示した。更に、光重合開始剤(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)、酸化防止剤[ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸)][エチレンビス(オキシエチレン)及び光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し、十分に攪拌した後、シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を攪拌しながら滴下した。その後、自動公転方式攪拌脱泡装置で脱泡した。
以上の方法により、フォトクロミック組成物を調製した。
【0125】
比較例3において使用した比較化合物は、以下の化合物である。
【化51】
【0126】
<プライマー層の成膜>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS:中心厚2.5mm、直径75mm、球面レンズ度数-4.00)を濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理することでアルカリ洗浄し、更に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面に対して、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100cPs、固形分濃度38質量%)を室温且つ相対湿度40~60%の環境において、ミカサ社製スピンコーターMS-B150を用い、回転数1500rpmで1分間スピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることにより、厚さ5.5μmのプライマー層を形成した。
【0127】
<フォトクロミック層の成膜>
上記で調製したフォトクロミック組成物を、上記プライマー層の上に滴下し、ミカサ社製MS-B150を用い、回転数500rpmから1500rpmまで1分間かけてスロープモードで回転数を変化させ、更に1500rpmで5秒間回転させるプログラムを用いたスピンコート法により塗布した。その後、プラスチックレンズ基材上に形成されたプライマー層上に塗布された上記フォトクロミック組成物に対し、窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(主波長405nm)を40秒間照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
こうして、フォトクロミック物品(眼鏡レンズ)を作製した。
【0128】
[評価方法]
<着色濃度の評価>
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって視感反射率を求めた。
実施例及び比較例の各眼鏡レンズの凸面に向けて、キセノンランプを光源に用いてエアロマスフィルターを介した光を15分間照射し、フォトクロミック層を着色させた。この照射光はJIS T7333:2005に規定されているように放射照度及び放射照度の許容差が表1に示す値となるように行った。この着色時の透過率を大塚電子製分光光度計により測定した。波長範囲380nmから780nmの範囲での測定結果から求めた視感透過率T(%)を表2に示す。T(%)の値が小さいほど、フォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0129】
【表1】
【0130】
<退色速度の評価>
退色速度は以下の方法により評価した。
実施例及び比較例の各眼鏡レンズの光照射前(未着色状態)の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子製分光光度計により測定した。ここで測定された透過率を「初期透過率」と呼ぶ。
各眼鏡レンズに対し、キセノンランプを光源に用いてエアロマスフィルターを介した光を15分間照射し、フォトクロミック層を着色させた。この照射光はJIS T7333:2005に規定されているように放射照度及び放射照度の許容差が表1に示す値となるように行った。この着色時の透過率を初期透過率と同様に測定した。ここで測定された透過率を「着色時透過率」と呼ぶ。
その後、光照射を止めた時間から透過率が、[(初期透過率-着色時透過率)/2]となるまでに要する時間を測定した。この時間を「半減時間」とする。半減時間が短いほど退色速度が速いということができる。求められた半減時間を表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
表2に示す結果から、一般式Aで表される化合物と一般式Bで表される化合物とを組み合わせることによって、可視域で高濃度に着色し且つ速い退色速度を示すフォトクロミック物品の提供が可能になることが確認できる。
【0133】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0134】
一態様によれば、一般式Aで表される化合物の1種以上と、一般式Bで表される化合物の1種以上と、を含むフォトクロミック物品及びフォトクロミック組成物が提供される。
【0135】
一形態では、一般式A中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の置換又は無置換のアルキル基を表すことができる。
【0136】
一形態では、一般式A中、R及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基を表すことができる。
【0137】
一形態では、一般式A中のB及びBならびに一般式B中のB及びBは、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニル基を表すことができる。ここで、フェニル基が置換基を複数有する場合、これら置換基が結合して環を形成してもよい。
【0138】
一形態では、一般式Aにおける電子吸引性基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、パーフルオロフェニル基、パーフルオロアルキルフェニル基又はシアノ基であることができる。
【0139】
一形態では、上記ハロゲン原子は、フッ素原子であることができる。
【0140】
一形態では、上記パーフルオロアルキル基は、トリフルオロメチル基であることができる。
【0141】
一形態では、一般式A中のR、R、B、B、一般式B中のR~R12、B及びBからなる群から選ばれる1つ以上は置換基を表し、かかる置換基は、
ヒドロキシ基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数5~18の単環若しくはビシクロ環等の複環の環状脂肪族アルキル基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、構成原子数1~24の非芳香族環状置換基、炭素数1~18の直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキル基、直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルコキシ基、構成原子数1~24の直鎖若しくは分岐のアルキルスルフィド基、アリール基、アリールオキシ基、アリールスルフィド基、ヘテロアリール基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、テトラヒドロキノリノ基、テトラヒドロイソキノリノ基等の環状アミノ基、エチニル基、メルカプト基、シリル基、スルホン酸基、アルキルスルホニル基、ホルミル基、カルボキシ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基R
に更に1つ以上の同一若しくは異なるRが置換した置換基;又は
可溶化基
であることができる。
【0142】
一形態では、一般式B中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~20の置換又は無置換のアルキル基を表すことができる。
【0143】
一形態では、一般式B中、R及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基を表すことができる。
【0144】
一形態では、一般式B中、R13及びR14は、それぞれ独立に、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルスルフィド基、フェニルスルフィド基、ジメチルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基及びチオモルホリノ基からなる群から選択される電子供与性基を表すことができる。
【0145】
一形態では、上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、質量基準で、一般式Bで表される化合物を一般式Aで表される化合物より多く含有することができる。
【0146】
一形態では、上記フォトクロミック物品及び上記フォトクロミック組成物は、一般式Aで表される化合物を1種含み、かつ一般式Bで表される化合物を2種含むことができる。
【0147】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、基材とフォトクロミック層とを有し、このフォトクロミック層に一般式Aで表される化合物の1種以上と一般式Bで表される化合物の1種以上とを含むフォトクロミック物品であることができる。
【0148】
一形態では、上記フォトクロミック層は、重合性組成物を硬化した硬化層であることができる。
【0149】
一形態では、上記フォトクロミック組成物は、重合性化合物を含むことができる。
【0150】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0151】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0152】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0153】
一形態では、上記フォトクロミック物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0154】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0155】
本明細書に記載の各種態様及び各種形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0156】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の一態様は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。